説明

半導体ナノ粒子およびその製造方法

【課題】本発明は、水分散性を示すカドミウムフリーの半導体ナノ粒子を提供することを目的の一つとする。また、そのような半導体ナノ粒子を比較的容易に製造する製造方法を提供することを目的の一つとする。
【解決手段】亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子であり、その表面が
一般式(1)
1−X−Y−R2
(式中、R1は含窒素または含硫黄官能基、R2はイオン性官能基、Xは炭化水素基、Yは連結基である)
により表される少なくとも一つ以上の化合物で修飾されていることを特徴とする半導体ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーの関連分野においては、DNAやRNAといった核酸分子、タンパク質、糖鎖などに代表される、生体関連物質間相互作用解析(以下「バイオセンシング」と呼ぶ)の重要性が高まっている。バイオセンシングにより、人の健康状態の診断・予測、創薬ターゲット物質の迅速なスクリーニング等が可能となるため、その応用に期待が集まっている。
【0003】
バイオセンシングにおいては、各相互作用を感度よく検出するための手法として、有機色素を用いた蛍光標識法が広く用いられている。これは、相互作用を検出したい物質の一方に蛍光を発する物質(以下「標識体」と呼ぶ)をあらかじめ結合させておき、対となる物質と反応させることで、標識体由来の蛍光を検出するという原理に基づく。
【0004】
例えば核酸分子の相互作用を検出する手段として、DNAチップが知られている。この手法では、測定対象となるサンプル中に含まれる核酸分子を有機色素で標識し、次いでこのサンプルをチップ上に固定化された配列既知の核酸分子と相互作用させる。その後に基板上に存在する有機色素由来の蛍光を検出することで、サンプル中にどのような核酸分子が含まれていたかを判定することができる。
【0005】
現在、標識体としては専ら前述の有機色素が用いられている。有機色素の問題点として安定性が悪いことが挙げられ、特に光安定性が低いことが知られている。そのため、有機色素及び有機色素で標識された物質の取り扱いには多大の注意を払う必要がある。特に、微量サンプルの検出においては、標識される物質の量が少ないことから必然的に有機色素の量も減少し、有機色素の状態のわずかな変化により、測定の結果が大きく影響を受けてしまうことが問題として認識されている。
【0006】
このような問題を解決するための手段として、半導体ナノ粒子を標識体として用いることが提案されている(例えば非特許文献1)。半導体ナノ粒子とは、半導体を電子の波長以下である数ナノ〜数十ナノメートルオーダーのサイズにしたナノ粒子であり、強い発光を示すことが知られている。また、無機元素の結晶からなるため、有機色素と比較して光照射に対する安定性が優れており、前述の有機色素における種々の問題を解決するための新たな標識体として注目されている。
【0007】
半導体ナノ粒子としての例としては、非常に高輝度な特性を有するCd系ナノ粒子(CdSe、CdTeなど)が挙げられ、最も一般的に用いられている。しかし、調製条件が過酷であり、また半導体ナノ粒子自身の毒性及び環境負荷が高いことが実用化に向けての大きな障害になっている。そこで近年、温和な条件で調製可能なカドミウムフリーの半導体ナノ粒子の開発に注目が集まっている。このような半導体ナノ粒子の例として、亜鉛、周期表第11属元素および周期表第13族元素を含む硫化物若しくは酸化物からなり、常温で発光を生じるナノ粒子(以下「11−13族半導体ナノ粒子」と呼ぶ)が知られており、バイオセンシングに用いる標識体として有望と考えられている。(特許文献1)
【0008】
【非特許文献1】Warren C.W.Chan,et al.Science 281,2016(1998)
【特許文献1】国際公開第2007/026746号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の11−13族半導体ナノ粒子は、有機相中でのコロイド合成法により調製されているため、疎水性の有機物で安定化されており、水に対する分散性を示さない。バイオセンシングにおいては、水中での反応が多く用いられることから、バイオセンシング用の標識体として用いるためには、半導体ナノ粒子を水溶化することが必要となる。
【0010】
本発明は、このような技術的課題を解決するためになされたものであり、水分散性を示すカドミウムフリーの半導体ナノ粒子を提供することを目的の一つとする。また、そのような半導体ナノ粒子を比較的容易に製造する製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成すべく、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、ある種の有機物質を11−13族半導体ナノ粒子に作用させることで、11−13族半導体ナノ粒子に水分散性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明を提供するものである。
〔1〕 亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子であり、その表面が
一般式(1)
1−X−Y−R2
(式中、R1は含窒素または含硫黄官能基、R2はイオン性官能基、Xは炭化水素基、Yは連結基である)
により表される少なくとも一つ以上の化合物で修飾されていることを特徴とする半導体ナノ粒子。
〔2〕 一般式(1)におけるR1が、メルカプト基、ピリジルチオ基、ジチオカルボキシル基、アミノ基およびピリジル基からなる群の少なくとも一つであることを特徴とする〔1〕に記載の半導体ナノ粒子。
〔3〕 一般式(1)におけるR2が、
一般式(2)
−SO3・R3
(R3はカチオン性基である)
である〔1〕または〔2〕に記載の半導体ナノ粒子。
〔4〕 一般式(1)におけるR2が、
一般式(3)
−N+(Cn2n+13・R4
(R4はアニオン性基であり、nは1〜3の整数である)
である〔1〕または〔2〕に記載の半導体ナノ粒子。
〔5〕 一般式(1)におけるR1がメルカプト基であり、Xが炭素数1〜10であるアルキレン鎖であり、Yがメチレン基であること、を特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子。
〔6〕 前記周期表第13族元素がインジウムである〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子。
〔7〕 前記周期表第11族元素が銀である〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子。
〔8〕 一般式(1)
1−X−Y−R2
(式中、R1は含窒素または含硫黄官能基、R2はイオン性官能基、Xは炭化水素基、Yは任意の連結基である)
により表される少なくとも一つ以上の化合物を、亜鉛、周期表第11族元素及び周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子に作用させることを特徴とする半導体ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造過程で従来のようにCd等の毒性の高い元素を用いることなく、水中で良好に発光する半導体ナノ粒子を得ることができる。また、本発明で得られる半導体ナノ粒子は、亜鉛、周期表第11族元素、周期表第13族元素の原子数比率を変えるだけで種々の波長の光を発するように制御することが可能であるため、本発明で開示した手法を用いることにより、様々な発光特性を有し水分散性に優れる半導体ナノ粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の半導体ナノ粒子は、亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子であり、その表面が
一般式(1)
1−X−Y−R2
により表される少なくとも一つ以上の化合物で修飾されていることを特徴とする。
【0015】
一般式(1)において、Rは含窒素または含硫黄官能基を示す。含窒素または含硫黄官能基としては、上記半導体ナノ粒子の表面に結合可能なものであれば良い。R1の含窒素官能基としては例えば窒素原子を含む官能基であればよく、例えばアミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ピリジル基等が挙げられる。含硫黄官能基としては硫黄を含む官能基であればよく、例えばメルカプト基、アルキルジチオ基等のジスルフィド結合を有する基、アルキルチオ基等のスルフィド結合を有する基、ピリジルチオ基、ジチオカルボキシル基、などが挙げられる。この中で粒子への安定性を考慮すると含硫黄官能基が好ましく用いられる。R1の好ましい例としては、メルカプト基、ピリジルチオ基、ジチオカルボキシル基、アミノ基およびピリジル基を挙げることができる。
【0016】
一般式(1)においてR2はイオン性官能基を示す。イオン性官能基とは、イオン対を構造中に有する官能基であり、水中にて電離するものであれば良い。親水性の高い官能基が望ましく、スルホン酸およびスルホン酸塩、カルボキシル基やカルボン酸塩、四級アミン、四級アミン塩などが挙げられる。これらの中でスルホン酸塩、四級アミン、四級アミン塩が好ましく、スルホン酸塩、四級アミン塩が特に好ましい。
【0017】
具体的な例としては、以下の一般式(2)で表されるものを挙げることができる。
一般式(2)
−SO3・R3
一般式(2)中R3は任意のカチオン性基であり、特に限定されるものではないが周期表第1族に含まれる元素がイオン化したものが好適であり、特にナトリウムイオンが好適である。
【0018】
具体的な別の一例としては、一般式(1)のうちR2が以下の一般式(3)で表されるものを挙げることができる。
一般式(3)
−N+(Cn2n+13・R4
一般式(3)中、nは1〜3の任意の整数である。また一般式(3)中R4はアニオン性基であり、限定されるものではないが周期表第17族に含まれる元素がイオン化したものが好適であり、特に塩化物イオンが好適である。
【0019】
一般式(1)においてXは炭化水素基を示す。炭化水素基としては脂肪族飽和炭化水素基、脂肪族不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれでも良い。また、その構造中に分岐が存在していてもよい。炭化水素基としては、アルキレン基であることが好ましい。炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、1〜15であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、中でも1〜5であることが特に好ましい。
【0020】
一般式(1)においてYは連結基を示す。連結基とは、一般式(1)の化合物においてXとR2を共有結合させるものであれば良く、限定するものではないが、炭素数1〜2のアルキレン基、エーテル基、エステル基、アミド基、などを含む構造を挙げる事ができる。このうち、炭素数1〜2のアルキレン基が好ましく、中でもメチレン基が最も好ましい。また、ここには挙げていなくとも、一般式(1)の化合物を得る際の合成経路の違いにより得られる他の連結基を排除するものではない。
【0021】
一般式(1)で表される化合物の例としては、R1がメルカプト基、Xが炭素数1〜10であるアルキレン鎖、Yがメチレン基であることが好ましい。そしてさらにR2が一般式(2)または(3)で表されるものであることがより好ましい。具体的には、2−メルカプトエタンスルホン酸(HS−(CH22−SO3H)、2−メルカプトプロパンスルホン酸(HS−(CH23−SO3H)、および塩化チオコリン(HS−(CH22−N+(CH33)が最も好ましい。
【0022】
本発明の半導体ナノ粒子の核となる粒子は、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物若しくは酸化物、または、亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物若しくは酸化物を成分とする。
【0023】
周期表第11属元素としては特に限定されるものではないが、銅(Cu),銀(Ag),金(Au)が挙げられ、このうちCu,Agが好ましくAgが特に好ましい。周期表第13族元素としては、特に限定されるものではないが、ガリウム(Ga),インジウム(In),タリウム(Tl)が挙げられ、このうちGa,Inが好ましくInが特に好ましい。
【0024】
このような半導体ナノ粒子としては、亜鉛をその成分に含むか含まないかにかかわらず、周期表第11族元素が銀、第13族元素がインジウムである半導体ナノ粒子が好ましい。すなわち、周期表第11属元素及び周期表第13族元素を含む硫化物若しくは酸化物を成分とするナノ粒子としては、インジウム、銀の硫化物を成分とするナノ粒子(InAgSナノ粒子)が好ましい。亜鉛、周期表第11属元素及び周期表第13族元素を含む硫化物を成分とする半導体ナノ粒子としては、亜鉛、インジウム、銀の硫化物を成分とする半導体ナノ粒子(ZnInAgSナノ粒子)が好ましい。尚、硫化物を成分とする半導体ナノ粒子の場合も、本発明の効果を損なわない程度において、同元素の酸化物が微量または少量含まれていてもよい。また、本発明の半導体ナノ粒子には、本発明の効果を損なわない程度において、核となるナノ粒子の原料及び製造段階で混入する可能性がある微量または少量の不純物、例えば金属元素に対する配位子の分解生成物等の成分が含まれていてもよい。
ここで、本発明でいう半導体とは、例えば光エネルギー、電気エネルギー、化学エネルギー、熱エネルギーなどのエネルギーを吸収して電子が励起した後、励起した電子が失活するときに光エネルギーを放出する性質を有するものである。ここで放出される光は、蛍光、リン光のいずれであってもよい。
【0025】
上記の周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物若しくは酸化物を成分とするナノ粒子、および該ナノ粒子においてさらに亜鉛を成分とするナノ粒子の作製は、それぞれの族に属する複数の種類の元素の原料塩と、硫黄を配位元素とする配位子もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合する方法によることができる。または亜鉛およびそれぞれの族に属する複数の種類の元素の原料塩と、硫黄を配位元素とする配位子もしくは酸素を配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とし、該錯体を加熱することにより熱分解生成物とし、該熱分解生成物を脂溶性化合物と共に加熱することによっても製造が可能であり、これにより脂溶性化合物で被覆されたナノ粒子として得ることができる。
【0026】
錯体を熱分解する条件としては、使用する元素により異なるが、通常100〜300℃の範囲で行い、150〜200℃の範囲で行なうことが好ましい。また、反応時間は反応温度により異なるが、1〜60分の範囲で設定することが好ましい。
【0027】
さらに、熱分解生成物を脂溶性化合物と共に加熱する際の条件としては、使用する元素により異なるが、150〜200℃の範囲で行うことが好ましい。また、反応時間は反応温度により異なるが、1〜60分の範囲で設定することが好ましい。
【0028】
本半導体ナノ粒子のサイズについては、量子サイズ効果が現れることを考慮し、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、生体分子との反応を考慮すると20nm以下が更に好ましい。
【0029】
脂溶性化合物としては、前記硫化物もしくは酸化物を成分とする粒子表面に結合可能であればよい。そのときの結合様式は特に限定されるものではないが、例えば共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合、ファンデルワールス結合などが挙げられる。脂溶性化合物の具体例としては、例えば炭素数4〜20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4〜20の炭化水素基を有する含酸素化合物などが挙げられる。炭化水素基としては、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基などの芳香族炭化水素基などが挙げられる。これらのうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはメルカプト基、アルキルジチオ基等のジスルフィド結合を有する基、アルキルチオ基等のスルフィド結合を有する基、ピリジルチオ基、ジチオカルボキシル基などが挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。例えばブチルアミンやヘキシルアミンなどのアルキルアミンや、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが好ましい。
【0030】
硫黄を配位元素とする配位子としては特に限定されるものではないが、例えば、2,4−ペンタンジチオンなどのβ−ジチオン類;1,2−ビス(トリフルオロメチル)エチレン−1,2−ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩などが挙げられる。酸素を配位元素とする配位子としては特に限定されるものではないが、例えば、アセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトンなどのβ−ジケトン類;トロポロンなどが挙げられる。
【0031】
本発明の半導体ナノ粒子の製造方法は、上記一般式(1)で表される化合物を亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子に作用させることを特徴とする。
【0032】
式(1)で表される化合物の半導体ナノ粒子への導入方法に特に限定はなく、半導体ナノ粒子作製時に化合物を添加してもよいし、前記した錯体の熱分解精製物や他の脂溶性化合物と共に加熱してもよい。また、半導体ナノ粒子作製後に化合物と混合し、表面に結合している脂溶性化合物と表面置換により導入してもよい。例えば一般式(1)で表される化合物と半導体ナノ粒子を混合・攪拌することにより、ナノ粒子表面へ置換反応により該化合物を導入することが可能となる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施するための好適な形態について説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得る事はいうまでもない。
【0034】
実施例1
[オレイルアミン修飾半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液の調製]
Zn(NO32,In(NO33,AgNO3を(1−2x):x:xの割合(実施例1ではx=0.2)で含む水溶液(金属イオン濃度0.1mol・dm-3)に、0.1mol・dm-3のN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム水溶液を添加することにより、ジエチルジチオカルバミド酸塩(Zn(1-2x)InxAgx(S2CN(C2522、以下「原料錯体」とする)の沈殿を得た。得られた錯体は、水で洗浄し、更にメタノールで洗浄した後に減圧乾燥し、粉末とした。この粉末50mgとマグネチックスターラーバーを試験管に入れてセプタムキャップで封をし、内部をアルゴンガス置換した。続いて、オイルバスを用い、攪拌しながら180℃で3分間加熱することにより、錯体を熱分解させた。室温まで冷却し、アルキルアミンとしてアルゴン雰囲気下にてオレイルアミン3mLを添加した後、再びオイルバスを用い、攪拌しながら180℃で3分間加熱した。室温まで冷却した後、遠心分離により上澄みを回収した。この上澄みは、オレイルアミンで修飾された半導体ナノ粒子がオレイルアミン自身を溶媒として分散している状態と考えられる。ここに等量のメタノールを加えて半導体ナノ粒子を沈殿させ、遠心分離により余剰のオレイルアミンを除去する操作を三回繰り返した。得られた固形物をクロロホルムに分散させ、オレイルアミン修飾半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液を調製した。
【0035】
[2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウムによるオレイルアミン修飾半導体ナノ粒子の水溶化反応]
オレイルアミン修飾半導体ナノ粒子のクロロホルム溶液1当量に対し、10当量の2−プロパノールを加えた溶液を作成し、この溶液を1mol・dm-3の2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム水溶液10等量に対して、攪拌を行いながら滴下した。滴下終了の時点で、溶液には濁りが確認された。この状態で12時間攪拌を継続した。反応終了後、遠心分離により沈殿を回収し、水を加えて溶解させることにより、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム修飾半導体ナノ粒子の水溶液を調製した。
【0036】
実施例2
[塩化チオコリンによるオレイルアミン修飾半導体ナノ粒子の水溶化反応]
2−メルカプトエタンスルホン酸の代わりに塩化チオコリンを用いた以外は、実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の調製及び水溶化反応を行い、塩化チオコリン修飾半導体ナノ粒子の水溶液を調製した。
【0037】
実施例3
[実施例1で得られた半導体ナノ粒子の性質]
1.発光特性
実施例1で得られた半導体ナノ粒子について、発光スペクトルを測定した。常温下、波長488nmの光を照射することにより測定を行ったところ、図1に示したように水溶化反応後においても発光が確認された。このことから、本手法により半導体ナノ粒子表層部の修飾剤を置換し、粒子に水溶性を付与できることが示された。
【0038】
2.TEM観察
実施例1で得られた半導体ナノ粒子について、水溶化反応の前後において透過型電子顕微鏡による観察を行い、粒子形状の変化の有無について確認を行った。図2−1にはオレイルアミン修飾半導体ナノ粒子、図2−2には2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム修飾半導体ナノ粒子の観察結果を示す。両者を比較したところ、平均粒径はオレイルアミン修飾半導体ナノ粒子で4.4±0.9nm、2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム修飾半導体ナノ粒子で4.8±1.0nmとなり、両者の間には殆ど差がないことが示された。このことから、本手法では半導体ナノ粒子表層部の修飾剤のみが置換され、粒子に水溶性を付与できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】クロロホルム中におけるオレイルアミン修飾半導体ナノ粒子及び水中における2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム修飾半導体ナノ粒子の発光スペクトルを表すグラフである。
【図2−1】オレイルアミン修飾半導体ナノ粒子のTEM像である。
【図2−2】2−メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム修飾半導体ナノ粒子のTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、周期表第11族元素および周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子であり、その表面が
一般式(1)
1−X−Y−R2
(式中、R1は含窒素または含硫黄官能基、R2はイオン性官能基、Xは炭化水素基、Yは連結基である)
により表される少なくとも一つ以上の化合物で修飾されていることを特徴とする半導体ナノ粒子。
【請求項2】
一般式(1)におけるR1が、メルカプト基、ピリジルチオ基、ジチオカルボキシル基、アミノ基およびピリジル基からなる群の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項3】
一般式(1)におけるR2が、
一般式(2)
−SO3・R3
(R3はカチオン性基である)
である請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項4】
一般式(1)におけるR2が、
一般式(3)
−N+(Cn2n+13・R4
(R4はアニオン性基であり、nは1〜3の整数である)
である請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項5】
一般式(1)におけるR1がメルカプト基であり、Xが炭素数1〜10であるアルキレン鎖であり、Yがメチレン基であること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項6】
前記周期表第13族元素がインジウムである請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項7】
前記周期表第11族元素が銀である請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項8】
一般式(1)
1−X−Y−R2
(式中、R1は含窒素または含硫黄官能基、R2はイオン性官能基、Xは炭化水素基、Yは任意の連結基である)
により表される少なくとも一つ以上の化合物を、亜鉛、周期表第11族元素及び周期表第13族元素を含む硫化物もしくは酸化物を成分とするか、又は周期表第11族元素及び周期表第13族を含む硫化物もしくは酸化物を成分とする半導体ナノ粒子に作用させることを特徴とする半導体ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【公開番号】特開2009−215465(P2009−215465A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61724(P2008−61724)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】