説明

半導体レーザー装置及び光ピンセット

【課題】小型で安価なモード選択型の半導体レーザー装置及びそれを用いた光ピンセットを提供すること。
【解決手段】本発明の半導体レーザー装置は、半導体レーザーと、半導体レーザーからの出射光を入射する外部共振器と、外部共振器を出射光の光軸と直交する方向に移動させる移動手段と、外部共振器からの出射光を入射するモード変換器と、を有している。本発明の半導体レーザー装置によれば、小型でかつ簡易な構造で、TEM00モードからTEM015モードまでのHGビームと、高質TEM*01からTEM*015までのLGビームとを容易に出力することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体レーザー装置に関し、また、半導体レーザー装置を用いた光ピンセットに関する。
【背景技術】
【0002】
原子のレーザー冷却、半導体レーザー層の新規なポンピングスキーム、偏光選択的プロービング及び光ピンセットを含む多くの分野で、ラゲールガウシアン(LG)モードに基づくテイラーメードの円環ビームを生成したいという要望が高まってきている。
【0003】
光ピンセットには、光軸近傍で非常に高い電界グラジエントを発生させる精密合焦レーザービームを用いる必要がある。光ピンセットについては、下記の非特許文献1を参照されたい。このようなレーザービームを水またはアルコール中に懸濁した直径数ミクロンの小さい粒子に照射した場合、粒子は合焦レーザービーム方向に向かう力を受ける。合焦光学部品(概して油浸顕微鏡対物レンズ)の開口数(Numeral Aperture)が十分高いと、電界グラジエントによって発生する力は重力、ブラウン運動及び後方散乱光による力より大きくなり、その結果、3次元光トラップが形成される。
【0004】
このような光ピンセットは現在多くの研究分野ならびに様々な生物学および医学用途で幅広く用いられている。これらの用途には、微生物後端部のコンプライアンスの測定、単一の筋肉ファイバによる力の測定、単一DNA鎖の延伸等が含まれる。
【0005】
【非特許文献1】N. B. Simpson, L. Allen and M. J. Padgett, J. Mod. Opt. 43 (1996) 2485-2491
【非特許文献2】D. A. King and R. J. Pittaro, Opt. Lett. 23 (1998) 774-776
【非特許文献3】S. Ohara, S. Yamaguchi, M. Endo, K. Nanri and T. Fujioka, Opt. Rev. 10 (2003) 342-345
【非特許文献4】D. A. King and R. J. Pittaro, Opt. Lett. 23 (1998) 774-776
【非特許文献5】S. Ohara, J. Sato, M. Endo, K. Nanri, T. Fujioka, Rev. Laser Eng. 32 (2004) 208-210
【非特許文献6】S. Ohara, S. Yamaguchi, M. Endo, K. Nanri and T. Fujioka, Opt. Rev. 10 (2003) 342-345
【非特許文献7】M. D. Wang, H. Yin, R. Landick, J. Gelles and S. M. Block, Biophys. J. 72 (1997) 1335-1346.
【非特許文献8】N. B. Simpson, L. Allen and M. J. Padgett, J. Mod. Opt. 43 (1996) 2485-2491
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような用途に関して、小さい粒子や他の材料を光ピンセットによって捕獲する場合の、軸方向および横方向の捕獲効率及び粒子サイズとLGビームの最適なオーダーとの関係が研究されてきた。これらの研究によると、光ピンセットには、数mWのオーダーのレーザーパワーと、LGモードのオーダーを容易に変更することができる方法とが必要である。しかし、LGビームを生成する従来の方法は、概して出力パワーの低いビームを生成する大型で複雑かつ高価な実験系を必要とする。
【0007】
近年、LGビームを生成する様々な方法が報告されている。ラゲールガウシアンビームは、レーザー共振器から直接生成してもよいし、エルミートガウシアン(HG)モードからモード変換により生成してもよい。モード変換は、コンピュータ生成ホログラム、液晶螺旋位相板、マルチモードファイバー、または1対のシリンドリカルレンズに基づくモード変換器を用いて行うことができる。1対のシリンドリカルレンズに基づくモード変換器を用いた方法では、モード変換器のグイ位相シフトを用いて、指数mおよびnの高次HGモードを
l = │m − n│
p = min(m, n)
の関係を有する純粋LGモードに変換することができる。
【0008】
モード変換器は透過強度が高く光学部品が安価である点で、他のLGビーム生成法に比べて利点が大きい。しかし、このLGビーム生成法は、高次HGモードを生成する能力に依存している。対照的に、コンピュータ生成ホログラムを用いる方法および液晶螺旋位相板を用いる方法には、TEM00モード動作を有する市販のレーザーを用いることができる。高次HGモードビームの生成には、約数ミクロンという比較的高い整合誤差が必要である。
【0009】
本発明は上述の課題を鑑みてなされたものであり、小型で安価なモード選択型の半導体レーザー装置及びそれを用いた光ピンセットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によると、
半導体レーザーと、
前記半導体レーザーからの出射光を入射する外部共振器と、
前記外部共振器を前記出射光の光軸と直交する方向に移動させる移動手段と、
前記外部共振器からの出射光を入射するモード変換器と、
を有することを特徴とする半導体レーザー装置が提供される。
【0011】
本発明の一実施形態によると、前記半導体レーザーは、発光面に光の反射率を低減したコーティングがされている。
【0012】
本発明の一実施形態によると、前記外部共振器は、前記半導体レーザーからの出射光を共振させる。
【0013】
本発明の一実施形態によると、前記外部共振器は、互いに対向する第1の反射面と第2の反射面とを有している。
【0014】
本発明の一実施形態によると、前記第1の反射面及び前記第2の反射面のうち少なくとも一方は、反射率が99.9%以上である。
【0015】
本発明の一実施形態によると、前記モード変換器は、一対のシリンドリカルレンズを有している。
【0016】
本発明の一実施形態によると、前記半導体レーザーと前記外部共振器との間に第1のレンズを有している。
【0017】
前記外部共振器と前記モード変換装置との間に第2のレンズを有するようにしてもよい。
【0018】
前記第1のレンズ又は前記第2のレンズは、非球面レンズであるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半導体レーザー装置によれば、小型でかつ簡易な構造で、高出力パワーの半導体レーザービームを生成することができる。また、本発明の半導体レーザー装置によれば、小型でかつ簡易な構造で、TEM00モードからTEM015モードまでのHGビームと、高質TEM*01からTEM*015までのLGビームとを容易に出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る半導体レーザー装置及び光ピンセットについて説明する。以下の実施形態は本発明の半導体レーザー装置及び光ピンセットの例であり、本発明は以下の実施形態に限定されるわけではない。また、各実施形態において、同様の構成については同じ符号を付し、改めて説明しない場合がある。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置は、ポンプ外部共振器(Pumped Build−up Cavity、以下「PBC」という。)型半導体レーザーを用いてモード選択が可能な円環ビームを生成することができる半導体レーザー装置である。本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置は、モード選択スキームが容易で構成が安価であるため、光ピンセットに非常に適した光源である。
【0022】
本発明者らは、半導体レーザー(Laser Diode、以下「LD」という。)の活性層とポンプ外部共振器(PBC)との相対位置をモデル予想を用いて最適化することにより、単一の高次HGモードを励起させることができることを見出した。単一の高次HGモードは、このモードのための外部共振器の往復移動損失を最小限に抑える。また、本発明者らは、本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置においては、HGビームの選択的生成は、半導体レーザー(LD)の発光面上でPBCの軸方向位置をオフセットすることにより実現することができることを見出した。
【0023】
ここで、図1に本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100の概略構成図を示す。本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100は、半導体レーザー2、半導体レーザー2から出射する光を集光するレンズ4、外部共振器6、外部共振器6を移動させる移動手段8、レンズ10、一対のシリンドリカルレンズ12及び14を有するモード変換器15を有している。なお、本実施形態に係る半導体レーザー装置100においては、半導体レーザー2、集光レンズ4、外部共振器6及び移動手段10を纏めて「レーザー光源光学部」ということがあり、また、レンズ10並びに一対のシリンドリカルレンズ12及び14を「モード変換部」ということがある。なお、半導体レーザー2に電源を供給する電源は省略している。また、必要に応じて、ハーフミラー20及びパワーメータ22を設けて、外部共振器6に入射するレーザー光をモニタリングするようにしてもよい。また、本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100から出射される光(一対のシリンドリカルレンズ12及び14から出射される光)を検出するパワーメータ又はビームプロファイラーを設けるようにしてもよい。
【0024】
電源(図示せず)は、半導体レーザー2に電源を供給する。この電源は、半導体レーザーに対する電力供給を連続的に行うことができる。また、この電源は、矩形波等で変調された電力を供給することもできる。
【0025】
本実施形態における半導体レーザー2の概略構成を図2に示す。本実施形態における半導体レーザー2は、n型GaAa基板2a上に形成されたn型AlGaInP層2b、活性層2c、p型AlGaInP層2d、p型GaAs層2e、酸化珪素膜2f、並びに、n電極(負電極)2g、p電極(正電極)2h、ヘキ開面2i及び2j、活性層のヘキ界面2iの一部に形成された減反射膜2kを有している。なお、半導体レーザー2は、レーザー光を発光する。本実施形態においては、図2に示すとおり、半導体レーザー2の一方のヘキ開面には、減反射膜2k(減反射コート(Antireflection(AR)コート)ともいう。)が形成されている。減反射膜は、発光面の一部に形成してもよい。また、減反射膜は、ヘキ開面全体に形成してもよい。減反射膜2kは、活性層において光が閉じ込められる部分のヘキ開面部分に形成されるようにしてもよい。ARコートされた端面の反射率は、ほぼ0.01%である。これによりほぼ無反射となる。これは、半導体レーザー2の内部で、レーザー発振を起こさないためである。また、他方のヘキ開面2jには高反射膜を形成してもよい。半導体レーザー2は、水平方向及び垂直方向の制御が可能かつ、半導体レーザー2の出射側の端面の方向の制御が可能なマウントに設置するようにしてもよい。当該マウントに設置することにより、レーザー光の出射方向を調整することができる。なお、本実施形態においては、図2に示す半導体レーザー2を用いたが、本発明の半導体レーザー装置に用いる半導体レーザーはこれに限定されるわけではない。また、本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置の半導体レーザーには、光が半導体基板と垂直に出射する構造のレーザー(面発光レーザー、中でも共振器を半導体基板と垂直に作り込んだ面発光レーザー(垂直共振器面発光レーザー))を用いてもよい。垂直共振器面発光レーザーを用いた場合、発光面またはその一部に減反射膜を形成すればよい。
【0026】
レンズ4は、半導体レーザー2から出射される光を集光するレンズであり、例えば、非球面レンズが用いられる。レンズ4は、半導体レーザー2の発光面すなわち一方の端面にARコートが施される場合は、ARコートされたヘキ開面の側に配置される。
【0027】
外部共振器6は、第1の反射面6A及び第2の反射面6Bを備えている。第1の反射面6A及び第2の反射面6Bは互いに対向して配置されている。レンズ4からの光は、第2の反射面6B側から外部共振器6に入射される。
【0028】
本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置においては、外部共振器6の2つの反射面の反射率を非常に高くする必要がある。これは、外部共振器6に入射するレーザー光を一定時間外部共振器6の内部に閉じ込めるためである。本実施形態においては、第1の反射面6Aの反射率は、好ましくは99.9%以上である。また、本実施形態においては、第2の反射面6Bの反射率は、好ましくは99.9%以上である。本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置においては、第1の反射面6Aの反射率と第2の反射面6Bの反射率とを等しくしてもよい。外部共振器6の共振器長は、入射するレーザー光の波長(1μm以下)に比べ、非常に大きい。
【0029】
外部共振器6を移動する移動手段8は、第1の移動手段8a及び第2の移動手段8bを有している。第1の移動手段は、外部共振器6の軸方向の位置を光軸と直交する方向に移動させる手段であり、外部共振器6の軸方向の位置をオフセットすることができる。第2の移動手段は、外部共振器6の位置を光軸と平行な方向に移動する手段である。
【0030】
レンズ10は、外部共振器6から出射される光を集光するレンズであり、例えば、非球面レンズが用いられる。なお、必要に応じて、レンズ10を光軸方向に移動する移動手段16を設けるようにしてもよい。この移動手段16によって、外部共振器6とレンズ10との距離を調整可能にして、モードマッチング効率を変更することができるようになる。
【0031】
一対のシリンドリカルレンズ12及び14は、モード変換器を構成する。
【0032】
ここで、本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100の動作について説明する。ここではまずポンプ外部共振器(PBC)に関する原理を説明し、その後、外部共振器6の共振からの光帰還により起こるレーザー周波数ロックと線狭幅化とについて説明する。
【0033】
半導体レーザー(LD)から出射された、振幅は安定しているが周波数分散度が高いレーザービームがPBCに入射した場合、透過光の周波数分散度は非常に低いが振幅変動レベルは高い。このレーザービームの一部が半導体レーザーに帰還すると、飽和利得力学により振幅変動が静まる。さらに光帰還は、共振器の共振周波数での入射シーディングとして作用する。半導体レーザーは共振器の共振周波数スケールでは良好な低コヒーレンス広帯域増幅器であるため、入射シーディングはレーザー界を駆動して高度な単色照射光を生成するには非常に有効である。最終的に半導体レーザーから発光する光は安定した振幅と長いコヒーレンス長を有する。その後共振器長が延びて、高フィネス(finesse)部を含む。高フィネス部は数キロメートルまでの有効長を有し、この中でレーザー光の一部が循環する。
【0034】
本実施形態におけるレーザー光源光学部の構造を図3に模式的に示す。本実施形態におけるレーザー光源光学部の共振は、外部共振器6からの強度光帰還によって大きくなる。この単純な構造は、外部共振器6の共振器長に対する積極的な制御を必要としない。なぜなら、外部共振器6からの帰還ビームが、無反射(AR)コートされた半導体レーザー(LD)2の発光波長を決定するからである。LD2の活性領域に結合した帰還ビーム強度の割合を最適化することが本実施形態に係る本発明のレーザー装置の動作において最も重要な点である。レーザー光の受動ロックの光学特性については、上述の非特許文献2及び3を参考にされたい。
【0035】
入射ビームの空間モードとファブリペロー共振器のモードとが完全にマッチングすると、外部共振器6内を循環するビーム(すなわち帰還ビーム)の電界コンポーネントが入力ミラーからの反射ビームに干渉し、その結果、共振の増大は非常に低くなる。このような2つの空間モードが僅かにミスマッチングすると、直接反射ビームの電界と、循環ビームのうち外部共振器内で帰還するコンポーネントとが空間的に区別可能となる。その結果、LDの光軸上で帰還ビームの強度が最大となり、反射コンポーネントのほとんどは前面側の厚み約1μmのLD活性領域により空間的にフィルタリングされる。外部共振器6の共振増大は、空間モードをこのようにミスマッチングさせることにより最大化することができる。なぜなら帰還ビームはARコート付LDの活性領域にしか結合できないからである。
【0036】
このように空間モードをミスマッチングさせるためには2つの異なるアプローチがある。一方のアプローチは、外部共振器を光軸に沿って平行移動させることである。他方のアプローチは、外部共振器を光軸に対して傾けることである。前者のアプローチでは、長手方向の共振器整合誤差(すなわち非球面レンズ10と外部共振器6との間の距離)はサブミリメートルのオーダーであり、後者のアプローチでは、数マイクロラジアンである。本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100においては、外部共振器を光軸に沿って平行移動させるようにした。なぜなら、外部共振器を光軸に沿って平行移動させる方が光学部品の整合に対する感度が低いからである。
【0037】
上述したように、モードのミスマッチングは本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置の動作にとって非常に重要である。モードのミスマッチング効率ηmnは、以下の式を用いて計算することができる。
【数1】

上記式(1)において、Einは複素振幅を有する入射ビームの電界分布であり、Emnは共振器の単一横モードの電界分布である。正の整数mおよびnはエルミートガウシアン共振モードの横モード指数である。
【0038】
TEM00モード動作用の最適なモードマッチング効率を上述の非特許文献4〜6を用いて調べたところ、モードマッチング効率が約50%のときにTEM00モード発振の出力パワーが最大となることが分かった。したがって、線狭幅化は固定された効果を有する。なぜなら単色界によって生成されるものと同等の効率的入射が、線狭幅化によって常に保証されるからである。
【0039】
外部共振器6の位置を移動手段8によって光軸に直交する方向に平行移動させることにより、共振器固有モードのモードマッチング効率が変化し、その結果、単一の高次モードが励起する。LDビーム軸x', y'から外部共振器軸への変換は、x' = x - x0, y' = y - y0と表現することができる。次に、楕円ガウシアン関数を2つのファクターの積Ein = Ex(x)Ey(y)として記載する。xコンポーネントは、
【数2】

によって与えられる。上記式(2)においてx0はLDの光軸に対する外部共振器6の変位である。
【0040】
次に、本実施形態に係る本発明の半導体レーザー相対100におけるレーザー光のHGモードからLGモードへの変換またはその逆についての理論を説明する。z軸に沿って伝搬するエルミートガウシアンモードは以下の式(3)及び(4)のように表現することができる。
【数3】

【数4】

【0041】
上記式(3)及び(4)において、Hn(x)はnオーダーのエルミート多項式関数(非特許文献7を参照)であり、Lpl(x)は一般化したラゲール多項式関数である。kは波数であり、zRはモードのレイリー領域であり、

はグイ位相である。
【0042】
便宜上、非特許文献8に従って従来用いられているラジアル指数pおよびlを指数mおよびnに置き換えると、以下の式(5)が成立する。
【数5】

【0043】
エルミート多項式関数とラゲール多項式関数との関係を用いて、LGモードをHGモードの集合に分解することができる。
【数6】

【数7】

【0044】
式(6)のファクターikは連続するコンポーネント間のπ/2の相対位相差を示す。(x, y)軸に対して45°傾斜する軸を有するHGモードもまた、以下の式によって分解することができる。
【数8】

【0045】
式(6)及び式(8)は、HGモードからLGモードへの変換が分解後のコンポーネント間に位相シフトを導入した結果であることを示している。これは、式(3)及び式(4)に見られるガウシアンモードのグイ位相

を利用することによって得ることができる。
【0046】
このようなグイ位相シフトは、一対のシリンドリカルレンズ12及び14を含むモード変換器を用いることにより容易に発生させることができる。
【0047】
モード変換器によって得られた位相差は、以下の式(9)で表される。
【数9】

【0048】
上記式において、dはシリンドリカルレンズ12及び14とモード変換器の中心との間の距離であり(言い換えると、2つのシリンドリカルレンズ12及び14の間の距離が2dである。図4を参照。)、zRxおよびzRyはそれぞれx座標およびy座標のレイリー領域である。
【0049】
この位相差がπ/2であれば、系は式(8)のファクターikを導入し、その結果HGモードが、同じ指数n、m(式(6))を有するLGモードに変換される。条件θ=π/2は、以下の式(10)によって満たされる。
【数10】

【0050】
モードマッチングは入力ビームが以下の式(11)で示されるレイリー領域を有することを必要とする。
【数11】

【0051】
本実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100の半導体レーザー2に電源を供給する。半導体レーザー2の内部で発生する数百GHz(波長にして数nm)にわたるブロードかつ離散的な周波数のレーザー光が半導体レーザー2の無反射コートされた端面の側から出射される。該レーザー光は、レンズ4によって集光される。集光されたレーザー光は外部共振器6に入射する。該レーザー光が外部共振器6に入射すると、外部共振器6の共振器長に合う周波数(共振波長)でレーザー発振する。レーザー発振したレーザー光の一部は、入射した際と逆の経路をたどり半導体レーザー2に帰還する。この帰還したレーザー光が半導体レーザー2の発振周波数をロックする。これにより、外部共振器6の共振波長に追随して半導体レーザー2の共振波長が決定される。
【0052】
そして、外部共振器6を移動手段8によって光軸(水平軸)に直交する方向に平行移動させることにより、外部共振器6の相対位置に応じ、出力すべき所望のHGモードを選択することが可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、上述の実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100の実施例についてする。なお、以下の実施例は、本発明の半導体レーザー装置の一例に過ぎず、各構成要素のパラメータは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
【0054】
(実施例1)
本実施例1においては、半導体レーザー2として、ARコート付LD(Sacher Lasertechnik、SAL−658、残留反射率<10−4、波長638nm又は673nmを用いた。また、レンズ4として、非球面レンズ(f=1.45mm)を用い
た。また、外部共振器6の第1の反射面6A及び第2の反射面6Bとして、それぞれ、高反射平凹ミラー(Research Electro−Optics、S7B−10CC、曲率半径=0.1m)を用いた。これら2つの高反射平凹ミラーを0.08m離して配置し光軸に沿わせた。まず、フィネス3000、5200および10000の共振器と反射率99.9%、99.94%および99.97%のミラーとをそれぞれ対応させて動作をテストした。すべての実験はフィネス3000の共振器を用いて行った。また、移動手段8として、線形直動ステージを用いた。
【0055】
また、本実施例においては、レンズ10(非球面レンズ)と外部共振器6との間の距離を移動手段16によって調整可能にして、モードマッチング効率が変更できるようにした。本実施例においては、LDビームを非球面レンズ10から150mmの位置に合焦させた。モード変換器光学部は、レンズ10(モードマッチングレンズ(f=100mm))と一対のシリンドリカルレンズ12及び14(f=50mm)とからなるようにした。本実施例においては、2つのシリンドリカルレンズ12及び14とレイリー領域との間の距離の計算値をそれぞれ70.7mmと85.3mmとした。非球面レンズ10(モードマッチングレンズ)を、外部共振器6の中心から17.5mmの距離に設けて、シリンドリカルレンズに所望のレイリー領域を形成するようにした。
【0056】
パワーメーター(Ophir、PD−300)とビームプロファイラー(BeamStar、FX)とを用いて、出力パワーとビームプロファイルとをそれぞれ測定した。
【0057】
まず出力パワーを最適化するために、相対変位がゼロである(すなわち、LD2のビームの光軸が外部共振器6のそれに一致する)ときのPBCのモードマッチング効率をTEM00モードにおいて47%に設定した。LD2の活性層を垂直軸に平行に揃えた。入力ミラー4での水平軸および垂直軸方向の入射ビームの直径をそれぞれ420μmと120μmとした。外部共振器6を移動手段8の第2の移動手段8bによって水平軸に沿って平行移動させた。入力ミラー4における共振器固有モードの直径を128μmとした。3つの共振器各々における本実施例に係る本発明の半導体レーザー装置100の出力パワーを表1に示す。
【表1】

【0058】
共振器間の出力パワーの差は6%未満とした。本実施例に係る本発明の半導体レーザー装置100を用いて高フィネス(30000〜100000)共振器における微量気体検出を調べた結果、光子寿命は共振器内分光学では1〜10μsであった。これらの光子寿命は、外部共振器6からLDへの光帰還の往復移動時間(約1ns)よりもはるかに長い。したがって、外部共振器6の共振波長が多少変化しても、LD2の発光波長を確実に外部共振器6の共振波長にロックすることができる。本実施例では、光子寿命は250〜900nsの範囲(外部共振器のフィネスは3000〜10000)であり、これも往復移動時間よりも長い。これにより、圧電トランスデューサなどの帰還系を用いることなく本発明の半導体レーザー装置100の安定した動作が可能となる。この結果により、本発明の半導体レーザー装置100の外部共振器6に量産型のミラーを用いることが可能であることが示された。
【0059】
図5は、外部共振器6の相対位置に応じたTEM00モードからTEM02モードまでのモードマッチング効率(式(1)および(2)を用いて計算した)の分析結果を示す。TEM01モードの最高モードマッチング効率が、外部共振器6の光軸から光軸に直交する方向へのずれDl(図1参照、移動手段8の第1の移動手段8aによるずれ)=150μmの共振器相対位置で得られたことが示されている。同様に、TEM02モードの最高モードマッチング効率は約Dl=260μmであった。これらの計算結果は、外部共振器6の往復移動損失がHGモードの場合に最小になる場合に、外部共振器6を光軸に直交する方向に平行移動させることによって高次HGモードを得ることができることを示している。
【0060】
図6(a)〜(d)は、本実施例に係る本発明の半導体レーザー装置100における4つのHGモード(0,0)、(0,1)、(0,2)、(0,6)のモード分布を示す。LD2の活性層の位置を外部共振器6の軸に対して直交方向に平行移動させることにより、出力すべき所望のHGモードを選択することが可能となる。
【0061】
表2は、測定した出力パワー、測定および計算した効率、ならびに外部共振器6のTEM00モード発振時の位置に対する外部共振器6の光軸方向に直交する方向の相対位置を示す。
【表2】

【0062】
2つのモード間における外部共振器6の距離は約100μmである。このような共振は、市販の線形直動ステージを移動手段8として用いて容易に得ることができる。
【0063】
図7(a)〜(d)は図4の設定を用いて生成したLGビームを示す。高質LGビームが見られた。変換後のLGビームは、LDと同一の直線偏光を有していた。円偏光ビームは、外部共振器6とモード変換部との間(即ち、外部共振器6とレンズ10との間)に1/4波長板を挿入することにより容易に生成することができる。TEM01からTEM015までのエルミートガウシアンモードは、移動手段8である直動ステージを平行移動させることにより生成可能である。各モードの出力パワーはモードマッチング効率に比例しており、モードのオーダーが増加するにつれて出力パワーが減少した。出力パワーは、LD2に流れる電流を変化させることにより制御可能である。整合誤差はシミュレーションの結果とうまく一致していた。LD2の出力パワーの19.8%がTEM01モードのHGビームに変換された。モード変換器部の反射損失は0.5%未満であった。出力パワーはTEM00モード発振のシミュレーションにより予測したものと僅かに異なった。これはポンプ共振の不整合による可能性もある。特に、外部共振器6に対するLD2の活性層の整合が不完全だった可能性がある。整合誤差を計算したのは数十ミクロンまでである。それでも本実施例によって、外部共振器6の軸方向位置をLD2の発光面に対してオフセットすることによりモード選択が容易に実現できることが実証された。
【0064】

外部共振器6からの出力が4.5mWのとき、TEM01モードのHGビームの出力パワーは0.893mWであった。この出力パワーは光ピンセットとして用いるには十分である。さらに、サブミリワットのレベルの円環ビームは、数十ミリワットのパワーを有する市販の半導体レーザーを半導体レーザー2として用いて容易に生成することができる。
【0065】
本実施例に係る本発明の半導体レーザー装置100によって、超小型でかつ強健なポンプPBCを用いて、約1mWの出力パワーを有するテイラーメードの半導体レーザービームが生成できることが示された。ポンプPBCを用いて高次ガウシアンビームを生成することを目的として、簡素な受動ロックPBCの光軸に直交する方向に外部共振器6を平行移動させるための実行可能な手段を理論と実験の両面から検討した。実験では、TEM00モードからTEM015モードまでのHGビームと、これらが高質TEM*01からTEM*015までのLGビームに変換されることとを、系の光学整合を変化させることによって示した。隣接する各モードを生成するためにはLDポンプに対する外部共振器6の光軸の位置を変化させることが必要であるが、この変化量は約100μmと測定された。これはモード結合効率の単純なモデル計算に良好に合致する。さらに単一の高次LGモードを生成する際の数十ミクロンの整合誤差は強健な構造を実現し、市販の直動ステージを用いて容易に達成可能である。ミリワットのオーダーのパワーを有する円環ビームは、小さい粒子の光ピンセットには十分である。パワー消費は非常に低く、乾電池でも供給可能である。円環ビームのパワーはLD2の出力パワーに依存するため、高パワーのLD2を用いることによりLGビームのパワーをより高くすることができる。また、PBCを作動させるには大量生産したミラーで十分であることが証明された。PBCに基づく系は簡素で小型の光源ユニットであり、光ピンセットに適している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の半導体レーザー装置は、簡素で且つ小型の光源ユニットでありながらもミリワットのオーダーのパワーを有する円環ビームを生成することができ、光ピンセットに適している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】一実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100の概略構成図である。
【図2】一実施形態における半導体レーザー2の概略構成である。
【図3】一実施形態に係る本発明の半導体レーザー装置100におけるレーザー光源光学部の構造を示す図である。
【図4】シリンドリカルレンズとモード変換器の中心との間の距離を示す図である。
【図5】外部共振器6の相対位置に応じたTEM00モードからTEM02モードまでのモードマッチング効率(式(1)および(2)を用いて計算した)の分析結果である。
【図6】一実施例に係る本発明の半導体レーザー装置100における4つのHGモード(0,0)、(0,1)、(0,2)、(0,6)のモード分布を示す。
【図7】一実施例に係る本発明の半導体レーザー装置100において、図4の設定を用いて生成した4つのLGモード(0,0)、(0,1)、(0,2)、(0,6)のモード分布を示す。
【符号の説明】
【0068】
2 半導体レーザー
4 レンズ
6 外部共振器
8 移動手段
10 レンズ
12、14 シリンドリカルレンズ
16 移動手段
20 ハーフミラー
22 パワーメータ
100 半導体レーザー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザーと、
前記半導体レーザーからの出射光を入射する外部共振器と、
前記外部共振器を前記出射光の光軸と直交する方向に移動させる第1の移動手段と、
前記外部共振器からの出射光を入射するモード変換器と、
を有することを特徴とする半導体レーザー装置。
【請求項2】
前記半導体レーザーは、発光面に光の反射率を低減するコーティングがされていることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザー装置。
【請求項3】
前記外部共振器は、前記半導体レーザーからの出射光を共振させることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体レーザー装置。
【請求項4】
前記外部共振器は、互いに対向する第1の反射面と第2の反射面とを有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の半導体レーザー装置。
【請求項5】
前記第1の反射面の反射率及び前記第2の反射面の反射率のうち少なくとも一方は、99.9%以上であることを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザー装置。
【請求項6】
前記第1の反射面の反射率と前記第2の反射面の反射率とは等しいことを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザー装置。
【請求項7】
前記モード変換器は、一対のシリンドリカルレンズを有することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一に記載の半導体レーザー装置。
【請求項8】
前記外部共振器を前記出射光の光軸と平行な方向に移動させる第2の移動手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか一に記載の半導体レーザー装置。
【請求項9】
前記半導体レーザーと前記外部共振器との間に第1のレンズを有することを特徴とする請求項1乃至8の何れか一に記載の半導体レーザー装置。
【請求項10】
前記外部共振器と前記モード変換装置との間に第2のレンズを有することを特徴とする請求項1乃至9の何れか一に記載の半導体レーザー装置。
【請求項11】
前記第1のレンズ又は前記第2のレンズは、非球面レンズであることを特徴とする請求項10に記載の半導体レーザー装置。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか一に記載の半導体レーザー装置を有する光ピンセット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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