説明

半導体型味センサ装置

【課題】従来よりも小型化が図れ、利用用途を広げることが可能な半導体型味センサ装置を提供する。
【解決手段】塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味にそれぞれ反応して電位を発生させる2以上のセンサ部11〜13と、この出力を切換えて一つの信号を選択するマルチプレクサー回路14と、これを通過した信号を変換するA/D変換回路15と、マルチプレクサー回路14とA/D変換回路15の間に設けられノイズ信号を除去するフィルタ回路16と、A/D変換回路15で変換されたデジタル信号を変調して無線信号とする無線送信回路17と、外来電波を受けるアンテナ回路18を備え、これからの電流を整流して半導体型味センサ装置10に必要な電力を供給する電源回路19とが、一つの基板20に組込まれ、センサ部11〜13は基板20に露出配置されていると共に、センサ部11〜13を除く各回路14〜19は外気に対して密封されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味をそれぞれ検出可能な半導体型味センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人間の五感の一つである味覚を代行する人工センサに関しては、例えば、特許文献1〜4に示す味覚センサ等が知られている。また、これらの味覚センサ等を用いた味センサ装置(システム)や味の測定方法についても、例えば、特許文献5〜8等が、公知技術として知られている。
これら特許文献1〜8に記載の味覚センサは、イオン選択性電極の技術を応用して開発された膜電位計測型のセンサである。これにより、取得した膜電位に適当な処理を行うことで、味のデジタル化、視覚化、及び再生を行うことができる。
【0003】
しかし、従来技術の膜電位計測型の味センサ装置は、いずれも大型でデスクトップサイズであった。このため、センサ部分と測定装置自体の小型化が図られたが、それでも、弁当箱程度の大きさがあり、持ち運びできるものではなかった。
そこで、例えば、特許文献9の図5で示すように、ペン型まで小型化した味センサ装置が開発された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−54446号公報
【特許文献2】特開平4−324351号公報
【特許文献3】特開平6−18479号公報
【特許文献4】特開平7−5147号公報
【特許文献5】特開平3−163351号公報
【特許文献6】特開平4−64053号公報
【特許文献7】特開平4−297863号公報
【特許文献8】特開平5−99896号公報
【特許文献9】特開2007−57459号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した味センサ装置は、十分に小型化されたものではなかった。
このため、味センサ装置の利用用途拡大(例えば、容器等への組込み使用)には、更なる小型化が要求されていた。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来よりも小型化が図れ、利用用途を広げることが可能な半導体型味センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る半導体型味センサ装置は、塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味にそれぞれ反応して電位を発生させる2以上のセンサ部と、
前記2以上のセンサ部の出力を切換えて一つの信号を選択するマルチプレクサー回路と、
前記マルチプレクサー回路を通過した信号をアナログ/デジタル変換するA/D変換回路と、
前記マルチプレクサー回路と前記A/D変換回路の間に設けられ、1)前記マルチプレクサー回路の出力を増幅して5Hz以上の信号を除去するフィルタ回路、又は2)前記A/D変換回路の変換周波数の半分以下の信号を除去するローパスフィルタ回路、及びノッチ周波数が50Hz又は60Hzであるノッチフィルタ回路を有するフィルタ回路と、
前記A/D変換回路で変換されたデジタル信号を変調して無線信号とする無線送信回路と、
外来電波を受けるアンテナ回路を備え、前記アンテナ回路からの電流を整流して半導体型味センサ装置に必要な電力を供給する電源回路とが、一つの基板に組込まれて、しかも、前記センサ部は前記基板に露出配置されていると共に、前記センサ部を除く前記各回路は外気に対して密封されている。
【0008】
本発明に係る半導体型味センサ装置において、前記基板はシリコンチップであるのがよい。
本発明に係る半導体型味センサ装置において、前記無線送信回路の出力は前記アンテナ回路を介して外部に出力されていることが好ましい。
本発明に係る半導体型味センサ装置において、前記マルチプレクサー回路の切換えにはタイマ回路が使用され、該タイマ回路の切換え信号も前記無線送信回路を通じ外部に無線出力するのがよい。
【0009】
本発明に係る半導体型味センサ装置において、前記各センサ部は前記基板の一面側に、該各センサ部を除く前記各回路は前記基板の他面側に形成されていることが好ましい。
本発明に係る半導体型味センサ装置において、前記基板には、前記各センサ部の出力が一定以上となった場合に表示する視覚確認手段が設けられているのがよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る半導体型味センサ装置は、センサ部と、マルチプレクサー回路と、フィルタ回路と、A/D変換回路と、無線送信回路と、アンテナ回路を備え、このアンテナ回路からの電流を整流して半導体型味センサ装置に必要な電力を供給する電源回路とを、一つの基板に組込んでいるので、半導体型味センサ装置の小型化が図れる。特に、基板に電源回路を組込んでいるので、従来のように、動作用電池を内蔵する必要がなく、半導体型味センサ装置の小型化が図れる。
これにより、従来よりも利用用途を広げることが可能になる。なお、小型化により、耐ノイズ性も強化できる。
【0011】
また、無線送信回路の出力がアンテナ回路を介して外部に出力される場合、アンテナ回路を併用でき、半導体型味センサ装置の更なる小型化が図れる。
そして、マルチプレクサー回路の切換えにタイマ回路を使用し、このタイマ回路の切換え信号を無線送信回路を通じ外部に無線出力する場合、無線送信回路を併用でき、半導体型味センサ装置の更なる小型化が図れる。
【0012】
また、各センサ部を基板の一面側に、この各センサ部を除く各回路を基板の他面側に形成する場合、各センサ部と各回路を基板の片面側に形成したときと比較して、基板の面積を更に小さくできる。これにより、半導体型味センサ装置の更なる小型化が図れる。
更に、基板に、各センサ部の出力を表示する視覚確認手段を設ける場合、対象物の塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味が瞬時に判る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る半導体型味センサ装置の説明図である。
【図2】(A)、(B)はそれぞれ本発明の第2の実施の形態に係る半導体型味センサ装置の表面側の説明図、裏面側の説明図である。
【図3】半導体基板上に形成したセンサ電極の写真である。
【図4】チョッパスタビライズドアンプのレイアウト結果の説明図である。
【図5】雑音特性のシミュレーション結果の説明図である。
【図6】ノッチフィルタのレイアウト結果の説明図である。
【図7】ノッチフィルタのシミュレーション結果の説明図である。
【図8】ローパスフィルタのレイアウト結果の説明図である。
【図9】ローパスフィルタのシミュレーション結果の説明図である。
【図10】アナログ/デジタル変換器のシミュレーション結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る半導体型味センサ装置(以下、単に味センサ)10は、2以上(ここでは、3つ)のセンサ部11〜13と、マルチプレクサー回路(MUX)14と、A/D変換回路15と、マルチプレクサー回路14とA/D変換回路15の間に設けられたフィルタ回路16と、無線送信回路(RF)17と、アンテナ回路18を備え、アンテナ回路18からの電流を整流して半導体型味センサ装置10に必要な電力を供給する電源回路(PS)19とを、一つの基板20に組込み、従来よりも小型化を図った装置である。なお、図1の点線で囲まれた部分は、信号処理部である。以下、詳しく説明する。
【0015】
各センサ部11〜13は、塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味にそれぞれ反応して電位を発生させるものである。
このセンサ部11〜13は、例えば、特開2007−57459号公報に開示されたものを使用できる。なお、センサ部11は、従来の液膜型参照電極の内部液を固相化した参照電極(基準電極)であり、他のセンサ部12、13は、生物の生体膜を模した多種類の脂質高分子膜を使用した作用電極である。
これにより、参照電極と作用電極の一体化、更には、これらの電極の集積化が可能となる。
【0016】
マルチプレクサー回路14は、各センサ部11〜13の出力を切換えて、一つの信号を選択する回路である。
このマルチプレクサー回路14の切換えには、タイマ回路(図示しない)を使用するのがよいが、例えば、外部信号や基板20に搭載したCPU(中央処理装置)を用いて、又は人為的に、切換えを行ってもよい。
このように、マルチプレクサー回路14を使用することで、各センサ部11〜13からの出力時期をずらすことができるので、各センサ部11〜13からの出力を同時に行う場合と比較して、出力の際に必要な電力量を小さくできる。
【0017】
A/D変換回路15は、マルチプレクサー回路14を通過した信号をアナログ/デジタル変換する回路である。
上記したマルチプレクサー回路14とA/D変換回路15の間には、フィルタ回路16が設けられている。このフィルタ回路16は、アンプ(AMP)21とローパスフィルタ(LPF)22を有しており、マルチプレクサー回路14の出力をアンプ21で増幅し、5Hz以上(好ましくは、10Hz以上)のノイズ信号を除去している。
なお、フィルタ回路は、A/D変換回路15の変換周波数の半分以下のノイズ信号を除去するローパスフィルタ回路と、ノッチ周波数が50Hz又は60Hzであるノッチフィルタ回路を有する回路で構成することもできる。
【0018】
無線送信回路17は、A/D変換回路15で変換されたデジタル信号を変調して、無線信号(無線周波数)とする回路である。
なお、前記したマルチプレクサー回路14の切換えにタイマ回路を使用した場合、このタイマ回路の切換え信号を、この無線送信回路17を通じ外部に無線出力することが好ましいが、基板20に設けた他の無線送信回路を使用して、外部に無線出力することもできる。
アンテナ回路18は、外来電波を受ける回路である。
なお、上記した無線送信回路17の出力は、このアンテナ回路18を介して外部に出力されているが、基板20に設けた他のアンテナ回路に出力することもできる。
【0019】
電源回路19は、アンテナ回路18からの電流(電磁波)を整流して、半導体型味センサ装置10(即ち、マルチプレクサー回路14、フィルタ回路16、A/D変換回路15、無線送信回路17、及びアンテナ回路18)に必要な電力を供給する回路である。
なお、前記したように、マルチプレクサー回路14の使用により、各センサ部11〜13からの出力の際に必要な電力量を小さくできるため、従来のように、基板に動作用電池を内蔵することなく、必要な電力量を電源回路19で賄うことができる。
【0020】
基板20はシリコンチップである。
なお、基板は、絶縁性であれば、従来公知のものでもよい。
基板20の形状は、正方形であるが、その他の形状、例えば、長方形、円形、楕円形等でもよい。
また、基板20の面積は、例えば、50mm以下に小さくできるが、好ましくは30mm以下、更に好ましくは20mm以下にする。なお、下限は、現実的には5mm程度である。
【0021】
この基板20には、各センサ部11〜13の出力が一定以上となった場合に表示する視覚確認手段を設けてもよい。
ここで、出力が一定以上とは、塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味の感度を意味しており、目的に見合った(必要な)感度に応じて、検出可能な出力レベルの調整ができる。
また、視覚確認手段には、例えば、発行ダイオード(LED)等を用いることができる。
以上に示したように、マルチプレクサー回路14、フィルタ回路16、A/D変換回路15、無線送信回路17、アンテナ回路18、及び電源回路19は、一つの基板20に組込まれている。
【0022】
なお、各センサ部11〜13を除く各回路、即ちマルチプレクサー回路14、フィルタ回路16、A/D変換回路15、無線送信回路17、アンテナ回路18、及び電源回路19は、シリコン(SiO)樹脂で覆われ、外気に対して密封されている。
一方、各センサ部11〜13は、隣り合うセンサ部11とセンサ部12の間、隣り合うセンサ部12とセンサ部13との間が、シリコン樹脂で仕切られ、各センサ部11〜13の表面を露出させて基板20に配置されている。
【0023】
以上のように構成することで、半導体型味センサ装置10を測定対象である水溶液中に浸漬させても、各センサ部11〜13の表面のみが水溶液に接触し、基本味である塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味に対して、様々な膜電位を発生させることができる。
【0024】
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る半導体型味センサ装置10を用い、測定対象である水溶液の味を測定する方法について説明する。
まず、半導体型味センサ装置10を水溶液中に浸漬させる。なお、半導体型味センサ装置10を水溶液中に浸漬させる方法としては、持運び可能なポータブルタイプの測定装置の先部に半導体型味センサ装置10を取付け、これを水溶液中に浸漬させる方法、また容器の底部に半導体型味センサ装置10を取付け、この容器内に水溶液を供給する方法がある。
【0025】
このように、半導体型味センサ装置10を、水溶液中に浸漬させることで、参照電極であるセンサ部11と、作用電極であるセンサ部12、13から、膜電位がそれぞれ発生する。なお、各センサ部11〜13の膜電位は、マルチプレクサー回路14を切換えることで、その一つが選択され、マルチプレクサー回路14を通過してアンプ21で増幅される。そして、5Hz以上のノイズ信号をローパスフィルタ22で除去した後、A/D変換回路15で変換されたデジタル信号を無線送信回路17で変調して無線信号とし、アンテナ回路18により、例えば、コンピュータやメモリー等に送信し、記憶させる。
【0026】
なお、半導体型味センサ装置10のマルチプレクサー回路14、フィルタ回路16、A/D変換回路15、無線送信回路17、及びアンテナ回路18には、電源回路19により、アンテナ回路18からの電流を整流して、電力が供給される。
これにより、各センサ部11〜13の膜電位の相互関係に基づき(従来の方法)、水溶液の塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味の検出ができる。
また、基板20に、発行ダイオード等の視覚確認手段を取付ける場合は、上記した味の種類に応じて、例えば、色や点滅の状態を変化させることで、味の違いを視覚的に確認できる。
【0027】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る半導体型味センサ装置30について説明するが、前記した半導体型味センサ装置10と同一部材には、同一の番号を付し、詳しい説明を省略する。
図2(A)、(B)に示すように、半導体型味センサ装置30は、各センサ部11〜13を基板31の一面側に、この各センサ部11〜13を除く各回路、即ちマルチプレクサー回路14、フィルタ回路16、A/D変換回路15、無線送信回路17、アンテナ回路18、及び電源回路19を、基板31の他面側に形成している。なお、基板31は、シリコンチップであることが好ましいが、絶縁性の基板であれば、従来公知のものでもよい。
【0028】
各センサ部11〜13は、図2(A)に示すように、基板31の一側(図2(A)においては左側)に寄せた状態で配置しているが、他の位置、例えば、基板の各角部に配置してもよく、また基板の中央部に集めて配置してもよい。
また、マルチプレクサー回路14、フィルタ回路16、及びA/D変換回路15と、無線送信回路17、アンテナ回路18、及び電源回路19との位置関係も、図2(B)に限らず、任意の位置に配置できる。
このように、各センサ部11〜13を基板31の一面側に、また各回路を基板31の他面側に、それぞれ形成することで、これらを形成するための基板31の面積を更に小さくでき、半導体型味センサ装置30の更なる小型化が図れる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、味を検出するセンサ部(以下、味センサ部ともいう)と信号処理回路(信号処理部)を、1つの半導体基板上に形成できるか否かを検討するため、5mm×5mmの半導体基板(シリコン基板)上に、大きさが1.4mm×1.4mmの正方形の電極(味センサ部)を2つと、信号処理回路を形成した。この写真を図3に示す。
図3から、非常に小さな1つの半導体基板上に、2つの電極と信号処理回路を形成できることを確認できた。
【0030】
続いて、低雑音増幅器としてのチョッパスタビライズドアンプの設計、並びにその性能評価を行った結果について説明する。
味センサ部からの電気信号は、低周波数成分が主で、周波数帯域も数百Hz以下といった信号である。このような低周波電気信号を、CMOS集積回路により信号処理する場合、MOSトランジスタのフリッカ雑音(1/f雑音)が、特に味センサ部からの信号を増幅するフロントエンドアンプで問題となる。このフリッカ雑音を低減するアンプとして、チョッパスタビライズドアンプ(以下、チョッパスタビライズドオペアンプともいう)がある。
そこで、このチョッパスタビライズドオペアンプを、0.35μmCMOS技術により設計し、その性能評価を行った。
【0031】
(設計方法)
チョッピング周波数は、MOSトランジスタの雑音コーナ周波数により決定されるが、チョッパのクロック周波数として、20kHz、50kHz、及び100kHzとした。また、偶数高調波歪を低減するため、完全差動型チョッパスタビライズドオペアンプとした。アンプ本体は、抵抗フィードバックによるクローズドループゲインを40dBとし、チョッパ用のスイッチは、単純なNMOSスイッチネットワークで構成した。オペアンプの内部回路構成としては、テレスコピック型、フォールデットカスコード型、ゲインブースト型等があるが、ここではゲインが高く、出力振幅が大きく、低雑音であり、動作電圧を3Vとして長時間動作を実現するための低消費電力特性などを考慮し、2段アンプトポロジーを選択した。
【0032】
(シミュレーション結果)
図4に、チョッパスタビライズドアンプのレイアウト結果を示す。
レイアウトには、ケイデンス社のVirtuosoレイアウトエディタを使用し、回路検証と回路抽出には、同社のAssura3.15を使用した。レイアウトの大きさは、280μm×210μmである。シミュレーションには、ケイデンス社のSPECTRE回路シミュレータを用いた。
雑音特性のシミュレーション結果を図5に示す。この図5の縦軸は、雑音電圧であり、横軸は、周波数である。
図5から、チョッピングしない場合のアンプ単体のノイズ特性と比較して、チョッピングを行った場合には、チョッパのクロック周波数が20kHzのとき約1桁、50kHzのとき約1.5桁、更に100kHzのときには約2桁の低雑音化を実現できることを確認できた。なお、3V動作時の消費電力は約700μWであった。
【0033】
次に、商用電力線の地域による周波数の違いにより、50Hzあるいは60Hzをノッチ周波数とするノッチフィルタの設計、並びにその性能評価を行った結果について説明する。
味センサ部は、通常、生体信号のモニタに用いられるセンサと同様に、高出力インピーダンスであるため、アナログフロントエンドLSIの入力アンプにも、通常高入力インピーダンスが用いられる。この場合、特に問題となるのが、電灯線から漏洩してくる60Hz(東日本では50Hz)の雑音成分である。この雑音成分は、場合によっては数百マイクロボルトにもなることがあり、アナログフロントエンドを飽和させる原因ともなる。フィルタにより、この雑音成分を取り除けばよいが、周波数が60Hzと低く、振動系の共振の鋭さを表す量であるQ値を高くした通常のアクティブフィルタでは、回路定数の大きな抵抗やコンデンサが必要となり、チップ面積が増大する。この問題を解決するために、スイッチトキャパシタ回路を用いれば、アクティブフィルタと比較して小さな面積でフィルタを実現できる。
そこで、動作電圧3Vのハム雑音除去用スイッチトキャパシタ型ノッチフィルタを、0.35μmCMOS技術により設計し、その性能評価を行った。
【0034】
(フィルタの設計)
ハム雑音除去用スイッチトキャパシタ50/60Hzノッチフィルタは、完全差動回路構成とし、クロック周波数を20kHz、カットオフ周波数を60Hz、Q=2として設計した。なお、クロック周波数を16.67kHzにすることにより、カットオフ周波数を50Hzにすることができる。スイッチトキャパシタノッチフィルタは、式(1)で示される伝達関数を、一般的なバイカットフィルタの回路構成で実現した。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、Hは伝達関数、sは複素周波数、ωはゼロ点周波数、ωは極点周波数である。
オペアンプの内部回路構成としては、テレスコピック型、フォールデットカスコード型、ゲインブースト型等があるが、ここではゲインが高く、出力振幅が大きく、低雑音であり、動作電圧を3Vとして長時間動作を実現するための低消費電力化などを考慮し、2段トポロジーを選択した。なお、TSMCの0.35μmCMOSプロセスをターゲットテクノロジとした。
【0037】
(シミュレーション結果)
図6に、ノッチフィルタのレイアウト結果を示す。
レイアウトには、ケイデンス社のVirtuosoレイアウトエディタを使用し、回路検証と回路抽出には、同社のAssura3.15を使用した。レイアウトの大きさは、バイアス回路を含めて650μm×500μmである。
レイアウトから回路抽出後のSPECTRE回路シミュレーションの結果を図7に示す。なお、周波数特性は、回路シミュレータSPECTREにより求めた。
この結果、Zドメインモデルによる線形モデルと非常に一致した結果が得られた。なお、3V動作時の消費電力は約150μWであった。
【0038】
続いて、ローパスフィルタ(以下、LPFともいう)の設計、並びにその性能評価を行った結果について説明する。
半導体型味センサ装置は、味センサ部からの電気信号を増幅し、波形整形といった信号のコンディショニングのためのフィルタと、アナログ信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換器(以下、ADCともいう)を有している。このADCのアンチエイリアスフィルタとして、カットオフ周波数がADCのサンプリング周波数の1/2以下であるローパスフィルタが、折り返し雑音防止のために必須である。
そこで、ここでは、アンチエイリアスフィルタとして、全差動型5次バタワーススイッチトキャパシタLPF(以下、Switched Capacitor LPF、又はSC LPFともいう)を、0.35μmCMOSプロセスにより試作し、その評価を行った。
【0039】
(フィルタの設計)
ADCのアンチエイリアスのために必要なLPFの仕様は、センサ信号の周波数帯域を1kHz、ADCの変換速度を10ksps、そして最終的なデジタル領域での精度を10ビットとすると、S/Nとして、少なくとも帯域外減衰量としてTSB<−61dBが必要であり、フィルタの次数Nは5以上となる。また、フィルタのタイプとして、バタワース型を選択した。なお、システム構成より、クロック周波数は100kHzとした。
5次バタワースのSC LPFは、式(2)で表される伝達関数を、1次SC1段と2次Low−QバイカッドSC2段の5段カスケード構成で実現した。なお、雑音特性の観点から、全差動回路構成とした。
【0040】
【数2】

【0041】
ここで、TLPFはフィルタの伝達関数、Snは複素周波数である。
SC段に使用するオペアンプの内部回路構成としては、テレスコピック型、フォールデットカスコード型、ゲインブースト型等があるが、ゲイン等の仕様や、長時間動作を実現するための低消費電力化等を考慮し、全差動タイプの2段トポロジーを選択した。なお、TSMCの0.35μmCMOSプロセスをターゲットテクノロジとした。
【0042】
(シミュレーション結果)
図8に、ローパスフィルタのレイアウト結果を示す。
レイアウトには、ケイデンス社のVirtuosoレイアウトエディタを使用し、回路検証と回路抽出には、同社のAssura3.15を使用した。レイアウトの大きさは、550μm×900μmである。
周波数特性のZドメインモデルの線形化モデルによるシミュレーションとレイアウトから、回路抽出後の回路シミュレーションとの比較結果を、図9に示す。なお、回路シミュレータとしてSPECTREを用いた。
このシミュレーション結果により、カットオフ周波数は1.2kHzであり、Zドメインモデルによる線形モデルと非常に一致した結果が得られた。なお、3V動作時の消費電力は約2.2mWであった。
【0043】
最後に、アナログ/デジタル変換器(ADC)の設計、並びにその性能評価を行った結果について説明する。
変換精度が8ビットであるパイプライン型ADCを設計し、その評価を行った。
設計したADコンバータプロトタイプLSIは、8ビット分解能、10MHz動作とし、TSMC0.35μmCMOSプロセスをターゲットとした。トランジスタレベルでの動作検証を回路シミュレーションにより行った。なお、ケイデンス社のSPECTRE回路シミュレータを用いた。
【0044】
図10に、回路シミュレーションによるトランジスタレベルでの動作結果を示す。なお、図10の各グラフは、上から、アナログ入力、デジタル信号出力のMSB7、LSB7、MSB6、及びLSB6の時間経過と電圧変化との関係を、それぞれ示している。なお、MSB7、LSB7、MSB6、及びLSB6は、それぞれパイプラインステージのうち初段と2段目の上位ビットと下位ビットを意味する。
回路シミュレーションにより、各パイプラインステージの動作、及び全体回路が正常に動作することを確認した。このときの消費電力は、約35mWであった。ここでは、上位のパイプラインステージ2段目からのデジタル信号出力、MSB7、LSB7、MSB6、及びLSB6のみを示している。これらは、設計時の予測された期待値と略一致した。
【0045】
以上のことから、本発明の半導体型味センサ装置は、小型化できることを確認できた。特に、各回路の消費電力は、非常に微小であるため、従来のように、動作用電池を内蔵する必要がなく、半導体型味センサ装置の小型化が図れることを確認できた。
【0046】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の半導体型味センサ装置を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味にそれぞれ反応して電位を発生させる3つのセンサ部を使用した場合について説明したが、2つ以上であればいくつでもよい。なお、センサ部の個数は、その数の増加に伴いこれを取付ける基板も大きくなるため、例えば、7つ以下、更には5つ以下であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明の半導体型味センサ装置は、例えば、持運び可能なポータブルタイプの測定装置の先部に取付けて使用したり、また測定対象である水溶液を入れる容器に取付けて使用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10:半導体型味センサ装置、11〜13:センサ部、14:マルチプレクサー回路、15:A/D変換回路、16:フィルタ回路、17:無線送信回路、18:アンテナ回路、19:電源回路、20:基板、21:アンプ、22:ローパスフィルタ、30:半導体型味センサ装置、31:基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩味、甘味、苦み、酸味、及び旨味にそれぞれ反応して電位を発生させる2以上のセンサ部と、
前記2以上のセンサ部の出力を切換えて一つの信号を選択するマルチプレクサー回路と、
前記マルチプレクサー回路を通過した信号をアナログ/デジタル変換するA/D変換回路と、
前記マルチプレクサー回路と前記A/D変換回路の間に設けられ、1)前記マルチプレクサー回路の出力を増幅して5Hz以上の信号を除去するフィルタ回路、又は2)前記A/D変換回路の変換周波数の半分以下の信号を除去するローパスフィルタ回路、及びノッチ周波数が50Hz又は60Hzであるノッチフィルタ回路を有するフィルタ回路と、
前記A/D変換回路で変換されたデジタル信号を変調して無線信号とする無線送信回路と、
外来電波を受けるアンテナ回路を備え、前記アンテナ回路からの電流を整流して半導体型味センサ装置に必要な電力を供給する電源回路とが、一つの基板に組込まれて、しかも、前記センサ部は前記基板に露出配置されていると共に、前記センサ部を除く前記各回路は外気に対して密封されていることを特徴とする半導体型味センサ装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体型味センサ装置において、前記基板はシリコンチップであることを特徴とする半導体型味センサ装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の半導体型味センサ装置において、前記無線送信回路の出力は前記アンテナ回路を介して外部に出力されていることを特徴とする半導体型味センサ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体型味センサ装置において、前記マルチプレクサー回路の切換えにはタイマ回路が使用され、該タイマ回路の切換え信号も前記無線送信回路を通じ外部に無線出力されていることを特徴とする半導体型味センサ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体型味センサ装置において、前記各センサ部は前記基板の一面側に、該各センサ部を除く前記各回路は前記基板の他面側に形成されていることを特徴とする半導体型味センサ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体型味センサ装置において、前記基板には、前記各センサ部の出力が一定以上となった場合に表示する視覚確認手段が設けられていることを特徴とする半導体型味センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−53015(P2011−53015A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200396(P2009−200396)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度地域科学技術振興事業委託事業「安全・安心のためのバイオエレクトロニクス技術の研究開発とセンシングLSI化」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】