説明

半導体磁器組成物、その製造方法、PTC素子及び発熱モジュール

【課題】 室温抵抗率が小さく且つ経時変化率が小さい半導体磁器組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 半導体磁器組成物の製造方法であって、前記半導体磁器組成物の組成は、組成式(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3
で表され、かつ前記半導体磁器組成物の全体を100mol%としてCaを5mol%超30mol%以下含むものであり、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含む仮焼粉を製造する工程と、前記仮焼粉を成形して焼結する工程を有することを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる、正の抵抗温度係数を有する半導体磁器組成物、その製造方法、PTC素子及び発熱モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTCR特性(正の抵抗温度係数:Positive Temperature Coefficient of Resistivity)を示す材料として特許文献1に示すようなBaTiOに様々な半導体化元素を加えた半導体磁器組成物(PTC材料)が提案されている。これらの半導体磁器組成物は、キュリー点以上の高温になると急激に抵抗値が増大する特性を有するので、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる。これらのキュリー温度は120℃前後であるが、用途に応じてキュリー温度をシフトさせることが必要になる。
【0003】
例えば、特許文献1では、BaTiOにSrTiOを添加することによってキュリー温度をシフトさせることが提案されているが、この場合、キュリー温度は負の方向にのみシフトし、正の方向にはシフトしない。現在、キュリー温度を正の方向にシフトさせる添加元素として知られているのはPbTiOである。しかし、PbTiOは環境汚染を引き起こす元素を含有するため、近年、PbTiOを使用しない材料が要望されている。
【0004】
特許文献2ではBaTiOのBaの一部をBi−Naで置換したBa1−2x(BiNa)TiOなる構造において、xを0<x≦0.15の範囲とした組成物にNb、Taまたは希土類元素のいずれか一種または一種以上を加えて窒素中で焼結した後、酸化性雰囲気中で熱処理するBaTiO系半導体磁器組成物の製造方法が提案されている。
【0005】
PTC材料における大きな特徴は、PTC材料の抵抗率がキュリー点で急激に高くなること(ジャンプ特性)にあるが、これは、結晶粒界に形成された抵抗(ショットキー障壁による抵抗)が増大するために起こると考えられている。PTC材料の特性としては、この抵抗率のジャンプ特性が高く(=抵抗温度係数が高く)、かつ室温での抵抗率は低い値で安定したものが要求されている。しかし、特許文献2のようにPbを含有しないPTC材料は、ジャンプ特性に優れているものは室温抵抗率(25℃における電気抵抗率)が高く、ジャンプ特性に劣るものは室温抵抗率が低くなり過ぎるという傾向があり、安定した室温抵抗率と優れたジャンプ特性を両立することができないという問題があった。また、特許文献2では耐電圧を維持しつつ室温抵抗率の低減を図っているもののPTCR効果が発現する温度領域は狭いものであった。即ち、サーミスタ、スイッチ、温度検知器等のセンサ用途の場合は、優れたジャンプ特性とする以外に、高いキュリー温度を備え、かつ、広い範囲にわたってPTCR特性を示す素子であることが設計上有利になる。
【0006】
一方、本願発明者らは、高いジャンプ特性の維持と室温抵抗率の上昇を抑制するために、BaTiOのBaの一部をBi−Naで置換したPTC材料として、[(A10.5A20.5(Ba1−y1−x]TiO(A1はNa、Ka、Liの一種又は二種以上、A2はBi、QはLa、Dy、Eu、Gdの一種又は二種以上)、0<x≦0.2、0.002<y≦0.01を満足する半導体磁器組成物、及び[(A10.5A20.5Ba1−x][Ti1−z]O(A1はNa、Ka、Liの一種又は二種以上、A2はBi、MはNb、Ta、Sbの一種又は二種以上)0<x≦0.2、0<z≦0.01を満足する半導体磁器組成物を特許文献3において提案した。
【0007】
また、特許文献4では、特許文献3の半導体磁器組成物を製造するに際して、(Ba,Q)TiO組成物と(Bi,Na)TiO組成物を別々に用意し、(Ba,Q)TiO組成物は比較的高温で、(Bi,Na)TiO組成物は比較的低温で、それぞれに応じた最適温度で仮焼することにより、(Bi,Na)TiO組成物のBiの揮散が抑制され、Bi−Naの組成ずれを防止して異相の生成を抑制することができ、それら仮焼粉を混合して、成形、焼結した半導体磁器組成物の製造方法(分割仮焼法)を提案した。
【0008】
さらに、上記特許文献4における仮焼粉の(Ba,Q)TiO組成物を製造するにあたり、原料であるTiOとBaCO3相を僅かに残存するよう仮焼する製造方法(残存法)を特許文献5で、また仮焼粉である(Ba,Q)TiO組成物に原料であるTiOとBaCO3を僅かに添加する製造方法(添加法)を特許文献6で提案している。これらにより、室温抵抗率が低く、キュリー温度のばらつきが抑制された半導体磁器組成物が得られる。
また、同様の技術について開示した特許文献7なども有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−144201号公報
【特許文献2】特開昭56−169301号公報
【特許文献3】特開2005−255493公報
【特許文献4】WO2006/118274A1公報
【特許文献5】WO2008/050876A1公報
【特許文献6】WO2008/050877A1公報
【特許文献7】特開2009−256179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した半導体磁器組成物は、室温抵抗率を低減しながらも優れたジャンプ特性を示すが、例えば、ヒーター材料として使用していると材料の電気抵抗率が変化していく経時変化の問題がある。従来技術では、この経時変化がまだ大きいため低減する必要があった。
また、PTCサーミスタ、PTCスイッチ、温度検知器などのセンサ材料の用途では、より高いキュリー温度を有しながら、広い温度範囲でPTCR特性を発現する素子であることが望まれる。
広い温度範囲でPTCR特性を有し、室温抵抗率を低減しながらも経時変化をさらに低減することで、電力消費による熱エネルギー生成の安定を図ることができる。
【0011】
本発明は室温抵抗率が小さく且つ経時変化率が小さい半導体磁器組成物の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、その製造方法を用いて製造した半導体磁器組成物、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチなどのセンサ用途とヒータ用途の何れにも適したPTC素子及びそれを用いた発熱モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の製造方法は、半導体磁器組成物の製造方法であって、前記半導体磁器組成物の組成は、組成式(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3
(但し、AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素、RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素、MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素で、前記W,X,Yが、0<W≦0.3、0≦X≦0.02、0≦Y≦0.01)で表され、かつCaを5.5mol%以上30mol%以下含むものであり、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含む仮焼粉を製造する工程と、前記仮焼粉を成形して焼結する工程を有することを特徴とするものである。
【0013】
上記の第1の製造方法は、仮焼粉におけるBaCO3相とTiO2相の含有量が、仮焼粉の合計を100mol%としたとき、総和で10mol%以上80mol%未満で含まれていることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の製造方法は、第1の製造方法のさらに具体的な製造方法を述べたものであり、前記仮焼粉は、(BaR)TiO3相(RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素)又はBa(TiM)O3相(MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を主相とし、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含むBT仮焼粉、(BiA)TiO3相(AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素)を主相とするBAT仮焼粉、及びCa化合物を混合したものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法である。
【0015】
第2の製造方法として、前記BT仮焼粉は、950℃以下で仮焼されたものが好ましい。なお、750℃以上で仮焼したものが好ましい。
【0016】
第2の製造方法として、前記BAT仮焼粉は、700℃〜950℃で仮焼されたものが好ましい。
【0017】
本発明の第3の製造方法は、第1の製造方法のさらに具体的な製造方法を述べたものであり、前記仮焼粉は、前記半導体磁器組成物とするための素原料を仮焼し、仮焼した素原料にCa化合物、及び、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方からなる添加化合物を混ぜたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法である。
【0018】
第3の製造方法として、前記仮焼粉は、(BaR)TiO3相(RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素)又はBa(TiM)O3相(MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を主相とするBT仮焼粉、(BiA)TiO3相(AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素)を主相とする組成のBAT仮焼粉、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方と、さらにCa化合物からなる添加化合物を混ぜたものであることが好ましい。
【0019】
第3の製造方法として、前記BT仮焼粉は、1000℃以上で仮焼されたものが好ましい。
【0020】
第3の製造方法として、前記BAT仮焼粉は、700℃〜950℃で仮焼されたものが好ましい。
【0021】
上記の半導体磁器組成物の製造方法によって、優れたジャンプ特性を持つ半導体磁器組成物が得られる。
【0022】
この半導体磁器組成物に電流を流すための電極を設けることで、優れたPTC素子を得ることができる。
【0023】
本発明の半導体磁器組成物は、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cmであり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、室温抵抗率が小さく、優れたジャンプ特性を有し、且つ室温抵抗率の経時変化を低減した半導体磁器組成物を提供できる。
また、この半導体磁器組成物はセンサ用途、ヒータ用途の発熱体素子として共に用いることができる。センサに用いると広い温度範囲に亘って高感度のPTCサーミスタとなる。また、ヒータとして用いると電力消費による熱エネルギーを安定して得ることができるPTCヒータ素子および発熱モジュールとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】焼結温度とX線回折パターンの関係を示す図である。
【図2】本発明のPTC素子の一態様である。
【図3】本発明の別のPTC素子の一態様である。
【図4】本発明の発熱モジュールの一態様である。
【図5】本発明の別の発熱モジュールの一態様である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
特許文献3,4に記載されるような、仮焼粉にBaCO3相とTiO2相が残らないよう比較的高温で熱処理する従来の製造方法、もしくはBT粉、BAT粉をそれぞれ別に仮焼してから混合する製造方法では、Ca元素が大量に含まれるとジャンプ特性が低下してしまい実用に供しえない。そのため、Ca量を全体の4mol%以下が好ましいと考えていた。
しかし本発明者が検討を進めた結果、仮焼粉にBaCO3相とTiO2相を意図的に残す製造方法では、仮焼粉にCa量を所定量以上含ませることで、ジャンプ特性が低下しないまま経時変化をさらに低減できることを見出した。
本発明は、半導体磁器組成物の製造方法として、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方が一部含まれる仮焼粉を製造する工程を持つものでは、Ca量を意図的に多くする必要があることを知見したものである。
【0027】
本発明による半導体磁器組成物は、仮焼粉として、BaTiOのBaの一部をBi−A(AはNa,K.Li)で置換した組成を含むものであり、組成式が(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3
(但し、AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素、RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素、MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素で、前記W,X,Yが、原子%で、0<W≦0.3、0≦X≦0.02、0≦Y≦0.01)で表され、かつCaを5.5mol%以上30mol%以下含むものであり、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含む仮焼粉を製造して、前記仮焼粉を成形して焼結することが本発明の第1の製造方法である。仮焼粉にCa化合物を添加し、その仮焼粉とCa化合物からなる原料を用いて成形・焼結することが好ましい。
Pbを含有せず、キュリー温度を正の方向へシフトした半導体磁器組成物が得られる。仮焼粉を製造する具体的な工程は第2の製造方法、第3の製造方法として後述する。
【0028】
上記(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3組成物において、Wは(Bi−A)の成分範囲を示すものである。Wの値が0.3を超えると室温抵抗率が高くなり、低電圧源のPTCヒータ等に適用することが困難となるため好ましくない。Wの値が小さいとキュリー温度を高温側へシフトすることができない。好ましくは0.01以上とする。さらに好ましくは0.06≦W≦0.25である。Wの値が0.15以上になると室温抵抗率が大きくなる傾向になるので、より好ましくは0.065≦W<0.15である。
【0029】
半導体磁器組成物は、前記のBaTiOのBaの一部を(Bi−A)で置換した組成物において、さらに半導体化元素Rによる置換が加えられる。この半導体化元素Rは希土類元素を用いることができ、La,Ndが好ましく、中でもLaが最も好ましい。Xの値はRの成分範囲を示し、このXの値を変化させて、原子価制御を行う。Xの値は0でも良いが、Xの値が小さいと組成物中の電流のキャリアである電子が不足し室温抵抗率が高くなる。またXの値が大きいと室温抵抗率が大きくなってしまう。Baの一部をBi−Aで置換した系において、組成物の原子価制御を行う場合、3価の陽イオンを半導体化元素として添加すると半導体化の効果が1価のNaイオンの存在とBiの揮散のために低下し、室温抵抗率が高くなる場合がある。従って、より好ましい範囲は0.001≦X≦0.015であり、さらに好ましくは0.004≦X≦0.010である。尚、0.004≦X≦0.010はmol%表記では0.4mol%〜1.0mol%となる。
【0030】
また、M元素は半導体化元素のNb、Taのうち少なくとも一種の元素であり、中でもNbが好ましい。YはM元素の成分範囲を示している。Yの値が小さいと原子価制御ができず、組成物が半導体化せず、Yの値が大きいと室温抵抗率が大きくなり好ましくない。この組成物の場合、原子価制御を行うために、TiをM元素で置換するが、この場合、M元素の添加は4価の元素であるTiサイトの原子価制御を目的としているため、Rを半導体化元素として用いた上記組成物の好ましいR添加量よりも少量で原子価制御を行うことができ、半導体磁器組成物の内部歪を軽減できるなどの利点を有する。より好ましい範囲は0.001≦Y≦0.008である。
【0031】
R元素を添加する場合はM元素を入れなくとも良く、逆にM元素を入れる場合はR元素を入れなくとも良い。つまり上記組成式でX=0であれば、0<Yとすることが好ましく、Y=0であれば、0<Xとすることが好ましい。また、X<0、Y<0としてもよい。X、Yの好ましい範囲は上記に記載したとおりである。
【0032】
上記の組成物において、さらにCaを添加することによりPTCR発現領域を拡大するとともに、経時変化を低減することができる。Caが半導体磁器組成物中に5.5mol%以上含まれると、室温抵抗率の経時変化を低減することができない。また、30mol%を超えると経時変化は低減できるが、電気抵抗が高くなるため、高温で使用するPTCヒータ等に適用することが困難となる。
電気抵抗を高くせずに経時変化を低減するために、より好ましい範囲は6.0mol%以上25mol%以下であり、さらに好ましい範囲は6.3mol%以上20mol%以下である。
【0033】
仮焼粉中のBaCO3相とTiO2相は、仮焼粉全体(BT粉とBAT粉の総和、若しくは、BT粉、BAT粉と別途加えるBaCO3、TiO2原料の総和)を100mol%としたとき、総和で10mol%以上〜80mol%以下で存在することが好ましい。この量を変化させることにより、室温抵抗率とジャンプ特性を調整することができる。
【0034】
BaCO3相とTiO2相の含有量の総和を仮焼粉全体に対して80mol%以下としたのは、80mol%以上である場合、焼結工程においてCO2ガスが発生し、焼結体にクラックが生じる可能性が高くなるためである。また、焼結収縮が焼結体中で部分的に起こりやすくなって多孔質な組織となり、最終製品に加工した時に十分な機械的強度を得ることが難しくなるためである。
【0035】
仮焼粉でのBaCO3相とTiO2相の含有量の上限はBaCO3相40mol%以下、TiO2相40mol%以下の合計80mol%未満とすることが好ましい。下限はそれぞれ5mol%以上とすることが好ましい。具体的には、BaCO3相とTiO2相の含有量はそれぞれ10〜35mol%、総和で20〜70mol%とすることが好ましい。
また、BaCO3相が20mol%を超える場合、TiO2相が10mol%未満になるとBaCO3相以外のBa2TiO4に類似した異相が多量に生じ室温抵抗率が上昇しやすくなる。また、TiO2相が20mol%を超え、BaCO3相が10mol%未満になる場合もBa6Ti17O40に類似した異相が多量に生じてしまう。よって、BaCO3相またはTiO2相の一方が20mol%を超える場合は、他方を10mol%以上にするよう、仮焼温度や仮焼時間、配合組成などを調整することが好ましい。
【0036】
以下に、本発明の第1の製造方法を更に具体的に規定する第2の製造方法と、第3の製造方法について述べる。
【0037】
[第2の製造方法(残存法)の説明]
本発明の第2の製造方法は、意図的にBaCO3相とTiO2相を残した仮焼粉を製造し、そのBT仮焼粉と、BAT仮焼粉と、Ca化合物を混合することが特徴である。つまり、仮焼粉が、(BaR)TiO3相(RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素)又はBa(TiM)O3相(MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方と、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含むBT仮焼粉を製造する工程と、前記BT仮焼粉に、(BiA)TiO3相(AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素)を含むBAT仮焼粉と、さらにCa化合物を混合する工程を有する製法が採用できる。
【0038】
第2の製造方法においては、上記BT仮焼粉を用意するに際して、仮焼粉中にBaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を一部残存させることが重要であり、最終的に得られるBaTiO3のBaの一部をBi-Aで置換した半導体磁器組成物のショットキー障壁の形成量が増加する。これにより、室温抵抗率の上昇を最小限に抑制しながらジャンプ特性を向上させることができる。仮焼粉中に残存させるBaCO3相とTiO2相の量は、第1の製造方法で記載した範囲と同じである。
【0039】
第2の製造方法は、BT仮焼粉と、BAT仮焼粉を別々に用意し、BT仮焼粉とBAT仮焼粉をそれぞれに応じた適正温度で仮焼することが好ましい。これにより、BAT仮焼粉のBiの揮散が抑制され、Bi-A元素の組成ずれを防止して異相の生成を抑制することができ、それら仮焼粉を混合して、成形、焼結することにより、室温における抵抗率が低く、キュリー温度のバラツキが抑制された半導体磁器組成物が得られる。
【0040】
第2の製造方法において、BT仮焼粉を用意するに際し、仮焼温度が950℃以下であることが好ましい。950℃超であると(BaR)TiO3又はBa(TiM)O3を完全に形成しやすく、仮焼粉中にBaCO3相とTiO2相を一部残存させることが難しくなる。好ましくは900℃以下とする。また、750℃未満であると、BaCO3相とTiO2相が90%以上で残留し、焼結工程においてCO2ガスが発生し、焼結体にクラックが生じる可能性が高くなったり、焼結収縮が焼結体中で部分的に起こりやすくなったりするので750℃以上とすることが好ましい。
仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0041】
第2の製造方法において、BT仮焼粉へ残留させるBaCO3相とTiO2相の残存量は、本発明の第1の製造方法で記載したように、仮焼粉全体を100mol%としたとき、BaCO3相とTiO2相の総和が10mol%以上80mol%以下である。その効果や好ましい範囲も本発明の第1の製造方法で記載した理由と同様である。
【0042】
第2の製造方法において、BT仮焼粉を用意する工程又はBAT仮焼粉を用意する工程或いはその両工程において、仮焼前に、SiOを最終的に製造される半導体磁器組成物に対して3.0mol%以下であれば含有しても良い。また、BT仮焼粉とBAT仮焼粉を混合してからSiOを3.0mol%以下含有しても良い。
【0043】
(BiNa)TiO3、(BiK)TiO3、(BiLi)TiO3などからなるBAT仮焼粉を用意する工程を説明する。以下はA元素としてNaを用いた例を示すが、他のBAT仮焼粉を用いる場合は、Na2CO3の代わりにK2CO3,Li2CO3系の材料を用いれば良く、Na系のBAT仮焼粉を用いた時と同様の効果が得られる。
原料粉末となるNa2CO3、Bi2O3、TiO2を混合して混合原料粉末を作製する。この時、Bi2O3を5mol%以下にすれば、仮焼時に異相を生成して室温低効率が高くなることがなく、好ましい。
【0044】
第2の製造方法において、BAT仮焼粉を製造するに際し、仮焼温度が700℃〜950℃であることが好ましい。仮焼温度が700℃未満では未反応のNa2CO3や分解して生成したNaOが雰囲気の水分あるいは湿式混合の場合はその溶媒と反応し、組成ずれや特性のバラツキを生じる可能性がある。また、仮焼温度が950℃を超えると、Biの揮散が進み、組成ずれを起こして異相の生成が促進される可能性がある。仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2時間〜6時間がさらに好ましい。
【0045】
第2の製造方法において、BT仮焼粉中におけるBaCO3相とTiO2相の含有量を変化させるには、BT仮焼粉を用意する工程において、仮焼温度を750℃以上950℃以下で変化させたり、仮焼時間を変化させたり、あるいはBT仮焼粉の配合組成を変化させればよい。また、上記BT仮焼粉又はBAT
仮焼粉或いはそれらの混合仮焼粉に、例えば1000℃以上の温度で仮焼し、完全な単一相を形成させたBT仮焼粉を添加することでもBT仮焼粉中におけるBaCO3相とTiO2相の含有量を変化させることができる。
【0046】
BT仮焼粉としてR元素が必須の(BaR)TiO3仮焼粉を用いた場合、半導体磁器組成物は、組成式が[(BiA)W(Ba1-XRX)1-W]TiO3と表し、W、Xが、0<W≦0.3、0<X≦0.02である構成とすることが好ましい。Wが0ではキュリー温度を高温側へシフトすることができず、0.3を超えると室温の抵抗率が高くなり、PTCヒータなどに適用することが困難となるため好ましくない。W、Xの上限と下限の限定理由は、前記の半導体磁器組成物のW,Xの限定理由と同様である。
【0047】
またBT仮焼粉としてM元素が必須のBa(TiM)O3仮焼粉を用いた場合、半導体磁器組成物は、組成式が[(BiA)WBa1-W][Ti1-YMY]O3と表し(MがNb、Taの少なくとも一種)、W、Yが、0<W≦0.3、0<Y≦0.01である構成とすることが好ましい。
【0048】
上述した[(BiA)W(Ba1-XRX)1-W]TiO3と、[(BiA)WBa1-W][Ti1-YMY]O3の両組成物において、BiとA元素の比は1:1を基本とする。組成式では、[(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W]TiO3、[(Bi0.5Na0.5)WBa1-W][Ti1-YMY]O3と表記することができる。(但し、小数点第2位を四捨五入して0.5:0.5になる範囲であれば許容される)
BiとNaの比は1:1を基本とするが、ずれてもよい。例えば、仮焼工程などにおいて、Biが揮散してBiとNaの比にずれが生じたものでもよい。すなわち、配合時は1:1であるが、焼結体では1:1になっていない場合なども、この発明に含まれるものとする。
【0049】
BT仮焼粉とBAT仮焼粉を別々に用意する分割仮焼法を用いることにより、BAT仮焼粉を比較的低温で仮焼することができ、Biの揮散が抑制され、Bi-Naの組成ずれを防止し、室温における抵抗率をさらに低下させるとともに、キュリー温度のばらつきを抑制した半導体磁器組成物を提供することができる。
【0050】
上述した各々の仮焼粉を用意する工程においては、原料粉末の混合の際に、原料粉末の粒度に応じて粉砕を施してもよい。また、混合、粉砕は純水やエタノールを用いた湿式混合・粉砕または乾式混合・粉砕のいずれでもよいが、乾式混合・粉砕を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。なお、上記においては、原料粉末として、BaCO3、Na2CO3、TiO2などを例としてあげたが、その他のBa化合物、A元素化合物(KCO、LiCO)などを用いてもよい。
【0051】
上記の通り、BaCO3相とTiO2相が一部残存するBT仮焼粉とBAT仮焼粉を別々に用意し、各仮焼粉を所定量に配合した後、混合する。混合は、純水やエタノールを用いた湿式混合または乾式混合のいずれでもよいが、乾式混合を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。また、仮焼粉の粒度に応じて、混合の後粉砕、あるいは混合と粉砕を同時に行ってもよい。混合、粉砕後の混合仮焼粉の平均粒度は、0.5μm〜2.5μmが好ましい。
【0052】
上述した、BT仮焼粉を用意する工程及び/又はBAT仮焼粉を用意する工程、或いは各仮焼粉を混合する工程において、Ca酸化物またはCa炭酸塩を半導体磁器組成物全体の5.5〜30mol%の範囲で添加する。この効果は第1の製造方法で述べたとおりである。
【0053】
また上述したように、BT仮焼粉を用意する工程及び/又はBAT仮焼粉を用意する工程、或いは各仮焼粉を混合する工程において、仮焼粉全体に対してSi酸化物(SiO)を3.0mol%以下で含まれていても良い。Si酸化物は結晶粒の異常成長を抑制するとともに抵抗率のコントロールを容易にする効果を持つ。またBaがTiに対して多い組成系の時、Si酸化物は異相であるBa2TiO4の生成を抑制する効果を持つ。この特徴はBa2TiO4が水に溶解しやすい性質を持つため、それに伴う機械加工時の研磨液選択の制約を除去できる。
上記限定量を超えて添加すると、組成物がPTCR効果を示さなくなる。添加は、各工程における混合前に行うことが好ましい。
【0054】
BT仮焼粉とBAT仮焼粉を混合する工程により得られた混合仮焼粉は、所望の成形手段によって成形する。成形前に必要に応じて粉砕粉を造粒装置によって造粒してもよい。成形後の成形体密度は2.5〜3.5g/cm3が好ましい。
【0055】
焼結は、大気中または還元雰囲気中、あるいは低酸素濃度の不活性ガス雰囲気で行うことができるが、特に、酸素濃度1%未満の窒素またはアルゴン雰囲気中で焼結することが好ましい。焼結温度は1250℃〜1350℃が好ましい。焼結時間は1時間〜10時間が好ましく、2時間〜6時間がより好ましい。いずれも好ましい条件からはずれるに従って、室温抵抗率が上昇または、ジャンプ特性が低下するため好ましくない。
【0056】
この第2の製造方法では、前記の効果に加え、仮焼工程におけるBiの揮散を抑制し、Bi-A元素の組成ずれを防止してA元素を含有する異相の生成を抑制し、室温における抵抗率をさらに低下させるとともに、キュリー温度のばらつきを抑制した半導体磁器組成物を提供することができる。
【0057】
[第3の製造方法(添加法)の説明]
本発明の第3の製造方法は、仮焼粉として半導体磁器組成物とするための素原料を仮焼し、素原料を仮焼した後で、Ca化合物、及び、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方からなる添加化合物を混ぜたことが特徴である。これによって、最終的に得られるBaTiO3のBaの一部をBi-Naで置換した半導体磁器組成物のショットキー障壁の形成量が増加し、室温抵抗率の上昇を最小限に抑制し、かつジャンプ特性が向上した半導体磁器組成物が得られる。
また、BaCO3相とTiO2相の添加量が正確に調整できるため、極めて再現性のよい半導体磁器組成物を得ることができるという効果も有する。
【0058】
第3の製造方法において、仮焼粉へのBaCO3及び/又はTiO2原料の添加量は、本発明の第1の製造方法で記載したのと同じ範囲とすることが好ましい。添加の効果や好ましい範囲も本発明の第1の製造方法で記載した理由と同様である。
【0059】
仮焼粉は、組成式(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3
で表される原料となるように組成調整した原料を用いればよく、Bi、A元素、Ba、R元素、Ti、M元素からなる全ての材料を最初から混合したものを用いても良い。また、(BaR)TiO3相又はBa(TiM)O3相の少なくとも一方を主相とするBT仮焼粉と、(BiA)TiO3相を主相とするBAT仮焼粉を別に仮焼し、それを混合したものを用いてもよい。ここで主相とは、得られた粉体中に最も多く含まれる結晶相のことを示す。これはXRD等の結晶含有量を定量的に測定できる分析法にて確認ができる。
BT仮焼粉と、BAT仮焼粉を別々に用意し、BT仮焼粉とBAT仮焼粉をそれぞれに応じた適正温度で仮焼することで、BAT仮焼粉のBiの揮散が抑制され、Bi-A元素の組成ずれを防止して異相の生成を抑制することができ、それら仮焼粉を混合して、成形、焼結することにより、室温における抵抗率が低く、キュリー温度のバラツキが抑制された半導体磁器組成物が得られる。
【0060】
第3の製造方法において、BT仮焼粉を用意するには、BaCO3相、TiO2相、および半導体化元素の原料粉末、例えば、La2O3やNb2O5を混合して混合原料粉末を作製し、仮焼する。仮焼温度は1000℃以上が好ましい。仮焼温度が1000℃未満では、(BaR)TiO3又はBa(TiM)O3の完全な単一相が形成されず、未反応のBaCO3相とTiO2相が残存することになる。そうなると、第3の製造方法はBaCO3粉及び/又はTiO2粉を添加するため、BaCO3相とTiO2相が残存すると、BaCO3粉及び/又はTiO2粉の添加量も変わってしまうため、制御が難しくなってしまう。BaCO3相やTiO2相が若干残存する程度なら製造は可能である。好ましい仮焼温度は1000℃〜1300℃である。仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2〜6時間がより好ましい。
【0061】
第3の製造方法において、BAT仮焼粉の仮焼温度は700℃〜950℃の範囲が好ましい。仮焼温度が700℃未満では未反応のNa2CO3や分解して生成したNaOが雰囲気の水分あるいは湿式混合の場合はその溶媒と反応し、組成ずれや特性のバラツキを生じるため好ましくない。また、仮焼温度が950℃を超えると、Biの揮散が進み、組成ずれを起こし、異相の生成が促進されるため好ましくない。仮焼時間は0.5時間〜10時間が好ましく、2時間〜6時間がさらに好ましい。
【0062】
BT仮焼粉の好ましい組成は、本発明の第2の製造方法で記載した、[(BiA)W(Ba1-XRX)1-W]TiO3組成物や、[(BiA)WBa1-W][Ti1-YY]O3組成物であり、各W、X、Yの範囲も本発明の第2の製造方法で記載したものと同様である。
【0063】
(BiA)TiO3仮焼粉からなるBAT仮焼粉を用意する工程は、本発明の第2の製造方法で記載した工程と同様である。
【0064】
第3の製造方法において、上述した各々の仮焼粉を用意する工程においては、原料粉末の混合の際に、原料粉末の粒度に応じて粉砕を施してもよい。また、混合、粉砕は純水やエタノールを用いた湿式混合・粉砕または乾式混合・粉砕のいずれでもよいが、乾式混合・粉砕を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。なお、上記においては、原料粉末として、BaCO3、Na2CO3、TiO2などを例としてあげたが、その他のBa化合物、Na化合物などを用いてもよい。
【0065】
第3の製造方法において、上記の通り、BT仮焼粉とBAT仮焼粉を別々に用意し、また、BaCO3、TiO2の少なくとも一方の添加化合物を用意する。BT仮焼粉、BAT仮焼粉、Ca化合物、添加化合物を所定量に配合した後、混合することが好ましい。
Ca化合物はBT仮焼粉に入っていても良いが、BaCO3、TiO2の原料の少なくとも一方の添加化合物を混合する際にも混ぜることができる。焼結前のBaCO3相とTiO2相が残っている状態でCa化合物を添加すると、後述するようにジャンプ特性を悪化させずに経時変化を低減できる。
【0066】
混合は、純水やエタノールを用いた湿式混合または乾式混合のいずれでもよいが、乾式混合を行うと、組成ずれをより防止することができ好ましい。また、仮焼粉の粒度に応じて、混合の後粉砕、あるいは混合と粉砕を同時に行ってもよい。混合、粉砕後の混合仮焼粉の平均粒度は、0.5μm〜2.5μmが好ましい。
【0067】
以降の仮焼粉を成形、焼結する工程は、本発明の第2の製造方法で記載した条件と同様である。
【0068】
なお、実施例で測定している、室温抵抗率Rt、抵抗温度係数α、抵抗率比ρは次に示す測定条件で測定を行なっている。
【0069】
(室温抵抗率Rt)
室温抵抗率は25℃で4端子法で測定した抵抗値から算出した。
測定対象とする素子形状は10mm×10mm×1mmの板状とし、2つある10mm×10mmの面の全面に電極を対向電極対として形成したものとする。
【0070】
(抵抗温度係数α)
恒温槽で260℃まで昇温しながら抵抗−温度特性を測定して算出した。
尚、抵抗温度係数αは次式で定義される。
α=(lnR1−lnRc)×100/(260−Tc)
尚、R1は260℃における抵抗率、RcはTcにおける抵抗率、Tcはキュリー温度である。本測定では室温抵抗率は25℃における抵抗率と定義し、Tcを抵抗率が室温抵抗率の2倍となる温度と定義した。
【0071】
(室温抵抗の経時変化率)
試験片をアルミフィン付きのヒーターに組み込み、風速4m/sで冷却しながら13Vを印加して300時間の通電試験を行った。この時のフィンの温度は70℃であった。通電試験後の25℃での測定時のみ装置から外し室温抵抗率を測定し、通電試験前と比較して抵抗変化率を求め、経時変化とした。
経時変化率は次式で定義される。尚、tは通電状態で放置した合計時間である。
{(t時間放置した時の室温抵抗値)−(初期室温抵抗値)}/(初期室温抵抗値)×100(%)
【0072】
本発明において、BT仮焼粉中のBaCO3相とTiO2相の残存量は、一般的なXRD(X線回折測定)を利用したSiを標準試料とする内部標準法を適用することで測定可能である。
【0073】
(実施例1)
本発明の第2の製造方法について実施例を述べる。第2の製造方法は950℃以下で仮焼したBT仮焼粉と、BAT仮焼粉を用い、BT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合材料に、Ca化合物を添加するものである。
まず、仮焼粉の仮焼温度と、仮焼粉中のBaCO3相とTiO相の残存量を調べた。
BaCO3相、TiO相、希土類酸化物(La、Nd23)、M元素酸化物(Nb25、Ta25)の各原料粉末を準備し、(Ba0.9940.006)TiOとなるように、またはBaTi0.9980.002となるように夫々秤量配合し、粉末を純水で混合した。尚、実施例ではR元素としてLa、Ndを、M元素としてNb、Taを用いた。得られた原料粉末を500℃〜1200℃で4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
X線回折パターンを図1に示す。なお、図中の最下段のX線回折パターンには温度表記はないが、500℃の場合を示している。図中、図の上側に記載の組成はBaTiOであり、下側に記載の組成はBaCOおよびTiOである。BaTiOの表記は、BaTiO相以外に(Ba0.9940.006)TiO相も含む。
【0074】
図1から明らかなように、500,600,700,800,900℃で仮焼されたBT仮焼粉(BaTiO3仮焼粉)は、BaTiO3のみが完全に形成されずにBaCO3相とTiO2相が残存していることが分かる。なお表1から、500,600度で仮焼されたBT粉は、BaCO3相とTiO2相が50%となっているが、実際には微量のR元素、M元素との総和が100%であり、この50%との表記はBaCO3相とTiO2相の残存量の小数点第2桁を四捨五入した値である。一方、1000,1100,1200℃で仮焼された(BaLa)TiO3仮焼粉にはBaCO3相とTiO2相の残存がなく、(BaLa)TiO3の完全な単一相になっている。
【0075】
【表1】

【0076】
他方、NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、(Bi0.5Na0.5)TiOとなるように秤量配合し、乾式混合した。得られた混合原料粉末を、800℃で2時間、大気中で仮焼きし、BAT仮焼粉を用意した。
【0077】
用意した表1のBT仮焼粉とBAT仮焼粉をWが0.09となるように配合した。また、CaCO3を原料として準備し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合粉にCa量が10mol%となるようにCa原料(CaCO3)を混合し、本発明の製造方法で用いる仮焼粉を得た。
この仮焼粉に純水を媒体として混ぜ、ポットミルにより混合仮焼粉の中心粒径が1.0μm〜2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。この混合仮焼粉の粉砕粉にバインダーとしてPVAを10wt%添加し、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し成形体となした。この成形体を700℃で脱バインダー後、酸素濃度0.01%(100ppm)の窒素雰囲気中にて1340℃で4時間保持し、その後徐冷して40×25×4mmの焼結体を得た。
【0078】
次に、得られた焼結体を10mm×10mm×1mmの板状に加工して試験片を作製し、オーミック電極(ナミックス社製、型番:SR5051)を塗布、さらに表面電極(ナミックス社製、型番:SR5080)を塗布して180℃で乾燥後600℃、10分間保持で焼き付けて電極を形成した。これらの各試験片を抵抗測定器で室温から260℃までの範囲で抵抗率の温度変化を測定し、下記により室温抵抗率Rt、キュリー温度Tc、抵抗温度係数αを求めた。また、試験片に電圧を印加し、電流を流したままで維持することができる装置を使用して経時変化を求めた。表2に測定結果を示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表1、表2から、BT粉の仮焼温度が950℃では、BT粉の状態でBaCO3相とTiO2相の量がそれぞれ6mol%残留している。また、750℃では、BT粉の状態でBaCO3相とTiO2相の総量が88mol%となっており、本焼成の際に内部欠陥の発生や、室温における抵抗率上昇を抑え、かつキュリー温度のばらつきを抑制する効果が期待できる。BT粉の仮焼温度が950℃以上の場合、この仮焼粉にBAT粉とCa原料を混合して本焼成しても、室温抵抗率Rtは10Ω・cmと小さくなるものの、キュリー点が高く、かつジャンプ特性αが3未満の半導体磁器組成物しか得られない。一方で、仮焼温度を750℃以上950℃以下とした製造方法で得られる半導体磁器組成物は、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たす。
【0081】
(実施例2)
Ca添加量が半導体磁器組成物の各特性へどのような影響を与えるかを確認した。
表1に記載のBT仮焼粉の中から、試料No.BT5,15,25,35のBT仮焼粉を用いて評価を行なった。これらのBT仮焼粉と実施例1で作成したBAT仮焼粉をWが0.10となるように配合した。また、CaCO3を原料として準備し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合したものに焼結後の半導体磁器組成物の全体を100mol%としてCaが0〜35mol%となる量を混合し、仮焼粉を得た。
この仮焼粉を実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。表3に結果を示す。尚、比較例には*印を付している。
半導体磁器組成物のCa量が5.5mol%より小さいものは経時変化率が大きくなっており、また、Ca量が35mol%では室温抵抗Rtが増加している。Ca量が本願発明で規定する範囲であれば、室温抵抗率Rtは低い値で安定している。
また、Ca添加量が本願発明で規定する範囲の組成について通電試験を100時間まで延長したところ、Ca量が少ないと時間経過と共に経時変化率が大きくなるが、5.5〜30mol%であれば経時変化率は数%程度であり変化がないことが確認された。
以上のことより、Ca量は半導体磁器組成物中の量として5.5〜30mol%の範囲から選択することが適していることがわかる。好ましくは8〜25mol%である。
これにより、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たすものが得られる。
【0082】
【表3】

【0083】
(実施例3)
BT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合割合Wを変えることで、半導体磁器組成物の各特性がどのような影響を受けるかを確認した。
BT仮焼粉として、表1の試料No.BT5,15,25,35のBT仮焼粉を用いて評価を行なった。これらのBT仮焼粉と実施例1で作成したBAT仮焼粉をWが0、0.02、0.05、0.10、0.20、0.25、0.33となるように配合した。また、CaCO3を原料として準備し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合したものにCaが10mol%となる量を混合し、仮焼粉を得た。
この仮焼粉を実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。表4に結果を纏める。
【0084】
【表4】

【0085】
表4によれば、Ca量と半導体化元素RまたはM元素を固定し、BAT仮焼粉の量Wを種々変えたとき、Wが0ではPTCR効果が得られず、Wが0.3超では室温抵抗率Rtが極端に大きくなり、PTC素子として用いることができない。これらの結果よりBAT仮焼粉量Wは0<W≦0.3の範囲から選択することが適していることが分かる。
この実施例においても、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たすものが得られている。
【0086】
(実施例4)
R元素量、M元素量を変えることで、半導体磁器組成物の各特性へどのような影響があるか確認した。R元素量Xを0、0.002、0.004、0.006、0.010、0.015、0.020、0.025とし、実施例1と同様にBT仮焼粉を得た。また、M元素量Yを0、0.001、0.003、0.005、0.010とし、実施例1の900℃仮焼きと同様にBT仮焼粉を得た。
これらのBT仮焼粉と実施例1で作成したBAT仮焼粉をWが0.10となるように配合した。また、CaCO3を原料として準備し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合したものにCaが10mol%となる量を混合し、仮焼粉を得た。
この仮焼粉を実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。表5に結果を纏める。
【0087】
【表5】

【0088】
表5によれば、添加するCa量とBAT仮焼粉量Wを固定し、半導体化元素Rの量XまたはM元素の量Yを種々変えたとき、X、Yが共に0では室温抵抗率Rtが大きくなるため実用に供しない。Xが0.025以上では室温抵抗率Rtが大きくなるため実用に供しない。また、Yが0.01を超えても同様であった。これらの結果より、半導体化元素Rのみを用いる場合には、Xは0<X≦0.02とすることが好ましく、M元素のみを用いる場合には、Yは0<Y≦0.01の範囲から選択することが適している。0.002≦X≦0.015、0.001≦Y≦0.004が好ましい範囲である。尚、半導体化元素RはLa、Nd以外の希土類元素(Dy、Eu、Gd、Y)でも同様の結果が得られると考えられる。
本実施例においても、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たすものが得られている。
【0089】
(実施例5)
本発明の第3の製造方法について実施例を述べる。第3の製造方法はBaCO3相とTiO2相を実質的に含まないBT仮焼粉と、BAT仮焼粉を用い、BT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合材料に、BaCO3、TiO2原料を添加して仮焼粉とするものである。Ca化合物も同時に添加することができる。
BaCO3相とTiO相、R元素として希土類酸化物(La、Nd23)、M元素として酸化物(Nb25、Ta25)の各原料粉末を準備し、(Ba0.9940.006)TiOとなるように、またはBaTi0.9970.003となるように夫々秤量配合し、粉末を純水で混合した。得られた原料粉末を1000℃で4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
他方、NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、(Bi0.5Na0.5)TiOとなるように秤量配合し、乾式混合した。得られた混合原料粉末を、950℃で2時間、大気中で仮焼きし、BAT仮焼粉を用意した。これらのBT仮焼粉とBAT仮焼粉を、組成式(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3で、Wが0.10となるように配合した。また、BaCO3原料、TiO2原料、CaCO3原料を用意し、半導体磁器組成物の全体を100mol%として、Caが10mol%、BaCO3相、TiO2相が1〜40mol%になるように混合し、表6に示す仮焼粉を得た。
これらの仮焼粉を使用し、実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。表6に結果を纏める。
【0090】
【表6】

【0091】
第3の製造方法において、仮焼粉中のBaCO3相とTiO2相の量がそれぞれ5mol%以上であると高いジャンプ特性が得られている。また、それぞれ40mol%以下であると、半導体磁器組成物の室温における抵抗率が抑えられている。よって、第3の製造方法においては、仮焼粉中のBaCO3相とTiO2相の量が、それぞれ5mol%以上40mol%以下、BaCO3相とTiO2相の総和だと10mol%以上〜80mol%以下とすることが好ましい。
本実施例においても、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たすものが得られている。
【0092】
(実施例6)
本発明の第3の製造方法において、Ca量の影響を調べた。
実施例5で作成したBaCO3相とTiO2相の残存がなくBaTiO3の完全な単一相であるBT仮焼粉と、BAT仮焼粉を、Wが0.10となるように配合した。
また、仮焼粉の全体を100mol%としてBaCO3原料、TiO2原料をそれぞれ20mol%となるように用意し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉と混合した。また、焼結後の半導体磁器組成物のCa量が0〜35mol%となるようにCaCO3を用意し、この仮焼粉と混合した。
これらの混合粉を仮焼粉として使用し、実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。表7に結果を纏める。
【0093】
【表7】

【0094】
第3の製造方法において、焼結後の半導体磁器組成物のCa量が5.5mol%未満であると、経時変化率が大きくなってしまい、実用に耐えない。また、焼結後のCa量が35mol%であると抵抗が急激に増加しており、実用に供しないレベルのものしか得られていない。5.5〜30mol%の範囲であれば、室温抵抗率Rtは低い値で安定する。
また、Ca添加量が5.5〜30mol%とした試料に通電試験を延長して行なったところ、経時変化率はほとんど変化がないことが確認された。
本実施例においても、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たすものが得られている。
【0095】
(実施例7)
BT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合割合Wを変えることで、半導体磁器組成物の各特性へどのような影響を与えるかを確認した。
BT仮焼粉として、試料No.BT7,15,22,30のBT仮焼粉を用いて評価を行なった。これらのBT仮焼粉と実施例1で作成したBAT仮焼粉をWが0、0.02、0.05、0.10、0.20、0.25、0.33となるように配合した。また、BaCO3、TiO2原料を、BT仮焼粉、BAT仮焼粉、BaCO3、TiO2原料の総和を100mol%として、それぞれ10mol%となるように用意し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉と混合した。また、CaCO3を原料として準備し、このBT仮焼粉とBAT仮焼粉の混合したものに焼結後の半導体磁器組成物としてCaが10mol%となる量を混合し、仮焼粉を得た。
この仮焼粉を実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。その結果、第3の製造方法におけるWの数値による影響は、第2の製造方法におけるWの数値による影響とほぼ同様の傾向を示した。
【0096】
(実施例8)
第3の製造方法において、R元素量、M元素量を変えることで、半導体磁器組成物の各特性へどのような影響があるか確認した。(Ba1−X)TiOの組成式でR元素量Xが0.002、0.004、0.006、0.01、0.015、0.020、0.025となるように、また、(Ba1−Y)TiOの組成式でM元素量Yが0.003、0.005、0.010となるように、BaCO3、TiO、La、Nd23、Nb25、Ta25の各原料粉末を準備した。この原料に純水を足して混合した。尚、R元素としてLa、Ndを用い、M元素としてNb、Taを用いた。得られた原料粉末を1100℃で4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
これらのBT仮焼粉と実施例1で作成したBAT仮焼粉をWが0.10となるように配合した。また、BaCO3、TiO2原料を、BT仮焼粉、BAT仮焼粉、BaCO3、TiO2原料の総和を100mol%としてそれぞれ10mol%となるように用意し、混合した。また、CaCO3を原料として準備し、この仮焼粉に焼結後の半導体磁器組成物としてCaが10mol%となる量を混合した。
この仮焼粉を実施例1と同様にして粉砕、造粒、成形、脱バインダー処理、焼結を行い、40×25×4mmの焼結体(半導体磁器組成物)を得た。
この半導体磁器組成物を同様に板状に加工し電極を形成し、各特性の評価を行なった。表8に結果を纏める。
【0097】
【表8】

【0098】
表8によれば、第3の製造方法におけるR元素量、M元素量による影響は、第2の製造方法におけるR元素量、M元素量による影響とほぼ同様の傾向を示している。
添加するCa量とBAT仮焼粉量Wを固定し、半導体化元素Rの量XまたはM元素の量Yを種々変えたとき、X、Yが共に0では室温抵抗率Rtが大きくなるため実用に供しない。一方、Xが0.025以上でも室温抵抗率Rtが大きくなるため実用に供しない。また、Yが0.01を超えても室温抵抗率Rtが大きくなるので好ましくない。
これらの結果より半導体化元素Rのみを用いる場合には、Xは0<X<0.02とすることが好ましく、M元素のみを用いる場合には、Yは0<Y<0.01の範囲から選択することが適している。0.002≦X≦0.015、0.001≦Y≦0.004が好ましい範囲である。尚、半導体化元素RはLa、Nd以外の希土類元素(Dy、Eu、Gd、Y)でも同様の結果が得られた。
本実施例においても、本発明で規定する、経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃という特性を満たすものが得られている。
【0099】
以上の半導体磁器組成物を用いたPTC素子の構造と製造方法の一例について説明する。
焼結後の半導体磁器組成物の表面は粗いので平面研削盤や、スライサーを用いて加工を行う。適宜バレル研磨などでバリや面取り加工を行うことも有効である。この加工は半導体磁器組成物を小型の素子として回路基板に取り付けたり、加熱装置に組み込んだりするときに寸法精度を所定の値に保つ寸法調整の目的を兼ねて行っている。
【0100】
次に、加工した半導体磁器組成物による素子(以下、単に素子と言う。)をトレーに搭載し、スクリーン印刷法で素子に電極を形成する。トレーに搭載した素子が所定の位置に正しく整列し固定されるよう、トレーには素子を一方向に整列させるばね機構等を設けるとよい。
まず銀微粒子と亜鉛微粒子を混合し有機バインダ、分散剤と有機溶剤で調整したペーストを素子表面に印刷して乾燥させ、オーミック電極を所望の位置に印刷形成する。この素子と電極との密着性や電極の緻密性を高めるためにガラスや酸化物等を少量混合することも有効である。なお、亜鉛は化学的性質の似ているカドミウムを微量不純物として含有することがあるので、環境汚染の観点から有害物質であるカドミウムの含有量は少ないことが望ましい。
オーミック電極の表面には、さらに銀微粒子を主成分として有機バインダ、分散剤と有機溶剤で調整したペーストを印刷して乾燥させて表面電極を形成する。表面電極にもガラスや酸化物等を少量混合し、密着性や緻密性を向上する効果を得ることができる。
【0101】
こうして2層構造の電極を形成したのち、焼結炉にて600℃で10分保持し電極を焼結した。なお、素子の材質、オーミック電極の材質、表面電極の材質の組み合わせによっては電極焼結を2回に分ける方が望ましい場合もある。すなわちオーミック電極をいったん焼結した後に、表面電極を印刷形成し2回目の焼結を行う方法である。これにより、オーミック電極と表面電極の相互拡散を抑制することができる。
【0102】
さらに素子の材質、オーミック電極の材質、表面電極の材質によっては、焼結時の雰囲気を調整する場合もある。特に酸素濃度を調整することで電極密着強度と電気特性を向上できる場合がある。酸素濃度を調整するためには空気と窒素ガスを混合して、その比率を変更することが最も容易である。
【0103】
印刷、焼結の工法によって形成したオーミック電極、表面電極それぞれの焼結後の厚みは5〜20μm程度とした。これらの電極は印刷、焼結による形成方法だけではなく、真空蒸着やイオンプレーティング、スパッタ、めっきなどの薄膜法で形成することも可能である。薄膜法で形成するときには望まない部分にも電極が付着することがあるので、平面研削盤や、スライサーを用いた加工を電極形成の後で行い、望まない部分に付着した電極を除去すると合理的である。
この素子を発熱体として用いるとき、基本的には、2つの電極を素子を挟んで向かい合うように配置する。しかし時には電極を3箇所以上に分離して設けてもよい。
図2は、以上のように作成した素子1に、各々幅w(2mm)の帯状電極1a〜1cをそれぞれ間隔d(10mm)をおいて3箇所に設けたPTC素子10を示す。
【0104】
次に、半導体磁器組成物からなる素子2を用いて上記の例とは異なるPTC素子11を製作した。図3のPTC素子11においては、電極2a〜2cが素子2の3カ所に分離して設けられている。焼成と加工を行なった後の素子2の大きさは10mm×23mmの平板状で厚みは0.7mmである。電極2aと電極2cはそれぞれ一辺(W)が10mmの正方形であり間隙D(3mm)をあけて素子2の同一面に並ぶように形成した。電極2bは、電極2aや電極2cとは平板状の素子2をはさんで反対側の面のほぼ全面にわたって形成した。
【0105】
このPTC素子11を、図4に示すように金属製の放熱フィン20a1、20b1、20c1に挟み込んで固定し、発熱モジュール20を得た。PTC素子11の一方の面に形成した電極2a、2cはそれぞれ電力供給電極20a、20cに熱的および電気的に密着され、他方の面に形成した電極2bは電力供給電極20bに熱的および電気的に密着される。
また、電力供給電極20a、20b、20cはそれぞれ放熱フィン20a1、20b1、20c1と熱的に接続している。なお、絶縁層20dは電力供給電極20aと電力供給電極20cの間に設けられ、両者を電気的に絶縁している。PTC素子11で生じた熱は電極2a、2b、2c、電力供給電極20a、20b、20c、放熱フィン20a1、20b1、20c1の順に伝わり主に放熱フィン20a1、20b1、20c1から雰囲気中に放出される。
電源30cを、電力供給電極20aと電力供給電極20bの間、または電力供給電極20cと電力供給電極20bの間に接続すれば消費電力は小さくなり、電力供給電極20aおよび電力供給電極20cの両方と電力供給電極20bの間に接続すれば消費電力は大きくなる。つまり、消費電力を2段階に変更することが可能である。こうして発熱モジュール20は、電源30cの負荷状況や、希望する加熱の緩急の必要度合いに応じて加熱能力を切り替え可能である。
【0106】
上記の加熱能力切り替え可能な発熱モジュール20を電源30cに接続することで加熱装置30を構成することができる。なお、電源30cは直流/交流どちらでも良い。発熱モジュール20の電力供給電極20aと電力供給電極20cはそれぞれ別のスイッチ30a、30bを介して電源30cの一方の電極に並列接続され、電力供給電極20bは共通端子として電源30cの他方の電極に接続される。
【0107】
スイッチ30a、30bの何れか一方のみを導通させれば加熱能力を小さくして電源30cの負荷を軽くすることができ、両方を導通すれば加熱能力を大きくすることができる。
また、この加熱装置30によれば電源30cに特別な機構を持たせなくても、素子2を一定温度に維持することができる。つまり、PTCR特性を有する素子2がキュリー温度付近まで加熱されると、素子2の抵抗値が急激に上昇し素子2に流れる電流が小さくなり、自動的にそれ以上加熱されなくなる。また、素子2の温度がキュリー温度付近から低下すると再び素子に電流2が流れ、素子2が加熱される。このようなサイクルを繰り返して素子2の温度、ひいては発熱モジュール20全体を一定にすることができるので、電源30cの位相や振幅を調整する回路、さらには温度検出機構や目標温度との比較機構、加熱電力調整回路なども不要である。
この加熱装置30は、放熱フィン20a1〜20c1の間に空気を流して空気を暖めたり、放熱フィン20a1〜20c1の間に水などの液体を通す金属管を接続して液体を温めたりすることができる。このときも素子2が一定温度に保たれるので、安全な加熱装置30とすることができる。
【0108】
更に、本発明の変形例に係る発熱モジュール12を、図5を参照して説明する。なお、図5では説明のために発熱モジュール12の一部を切り欠いて示している。
この発熱モジュール12は略扁平直方体状のモジュールであり、半導体磁器組成物が略直方体状に加工された素子3と、素子3の上下面に設けられた電極3a,3bと、素子3及び電極3a,3bとを覆う絶縁コーティング層5と、それぞれ電極3a,3bに接続し絶縁コーティング層5から外部に露出された引き出し電極4a,4bとを有する。この発熱モジュール12には、発熱モジュール12の上下面を貫通し、その内周面が絶縁コーティング層5で覆われる複数の貫通孔6が設けられている。
この発熱モジュール12は、以下のように作製することが出来る。まず、半導体磁器組成物を加工した素子3に、素子3の厚み方向に貫通する複数の孔を形成する。次に、この孔が素子3の上下面に開口する開口周縁を除く素子3の両面に電極3a、3bを形成する。なお、この電極3a,3bは上記と同様にオーミック電極と表面電極を重ねて印刷形成したものである。さらに外部引出し用電極4a、4bを設けた後、この引出し用電極4a,4bが外部に露出するように素子3と電極3a、3bの全体を絶縁性コーティング剤で覆って絶縁コーティング層5を形成し、発熱モジュール12が得られる。なお、絶縁コーティング層5を形成する際に、素子3の孔の内周面を絶縁コーティング層5で覆って貫通孔6を形成する。
【0109】
この発熱モジュール12は、貫通孔6に流体を流すことで流体を加熱することができる。このとき、電流の流れる素子3及び電極3a,4aは絶縁コーティング層5で覆われているので、流体と直接接触することがないので導電性の液体を加熱することができる。したがって発熱モジュール12は電気導電性を有する塩水等の流体を瞬間的に加熱する用途に適している。
【産業上の利用可能性】
【0110】
上記の半導体磁器組成物を用いて、電極をこの半導体磁器組成物に形成したPTC素子、及び発熱モジュールを製造することができる。
本発明により得られる半導体磁器組成物、PTC素子、発熱モジュールは、自動車用エアコン補助ヒータや数アンペアレベルの電流のリミット素子、瞬間水蒸気発生装置等のPTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器、過電流保護素子などPTCR特性を必要とする用途に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記半導体磁器組成物の組成は、組成式(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3
(但し、AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素、RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素、MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素で、前記W,X,Yが、0<W≦0.3、0≦X≦0.02、0≦Y≦0.01)で表され、かつCaを5.5mol%30mol%以下含むものであり、
BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含む仮焼粉を製造する工程と、
前記仮焼粉を成形して焼結する工程を有することを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
仮焼粉におけるBaCO3相とTiO2相の含有量が、仮焼粉の合計を100mol%としたとき、総和で10mol%以上80mol%未満であることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記仮焼粉は、
(BaR)TiO3相(RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素)又はBa(TiM)O3相(MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を主相とし、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方を含むBT仮焼粉と、
(Bi-A)TiO3相(AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素)を主相とするBAT仮焼粉と、
及びCa化合物を混合したものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記BT仮焼粉は、750℃〜950℃以下で仮焼されたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記BAT仮焼粉は、700℃〜950℃で仮焼されたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記仮焼粉は、
前記半導体磁器組成物とするための素原料を仮焼し、仮焼した素原料にBaCO3相とTiO2相の少なくとも一方、及びCa化合物からなる添加化合物を混ぜたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記仮焼粉は、(BaR)TiO3相(RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素)又はBa(TiM)O3相(MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を主相とするBT仮焼粉、(Bi-A)TiO3相(AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素)を主相とする組成のBAT仮焼粉と、BaCO3相とTiO2相の少なくとも一方と、さらにCa化合物からなる添加化合物を混ぜたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記BT仮焼粉は、1000℃以上で仮焼されたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の半導体磁器組成物の製造方法であって、
前記BAT仮焼粉は、700℃〜950℃で仮焼されたものであることを特徴とする半導体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
半導体磁器組成物であって、
前記半導体磁器組成物の組成は、組成式(Bi0.5A0.5)W(Ba1-XRX)1-W](Ti1-YY)O3
(但し、AはNa、K、Liから選択される少なくとも1種の元素、RはLa,Ndから選択される少なくとも1種の元素、MはNb、Taから選択される少なくとも1種の元素で、前記W,X,Yが、0<W≦0.3、0≦X≦0.02、0≦Y≦0.01)で表され、かつCaを5mol%超30mol%以下含むものであり、
経時変化率が10%以下であり、室温抵抗率Rtが7〜90Ω・cm以下であり、抵抗温度係数αが3〜10以下であり、キュリー点が150〜200℃であることを特徴とする半導体磁器組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体磁器組成物に電流を流すための電極を設けたことを特徴とするPTC素子。
【請求項12】
請求項11に記載のPTC素子を設けたことを特徴とする発熱モジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36032(P2012−36032A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176092(P2010−176092)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】