説明

半導体装置の製造方法

【課題】半導体素子が形成された半導体基板から切り出される半導体チップの抗折強度を高めることができる半導体装置の製造方法の提供。
【解決手段】一面に半導体素子が形成された半導体基板に対し、前記一面側から格子状に溝を形成する工程と、前記半導体基板の前記一面側に粘着テープを貼る工程と、前記半導体基板の他面を前記溝が表出するまで研削し、前記半導体基板を複数の半導体チップに分離する工程と、前記半導体基板の他面側から前記半導体チップにレーザー光線を、前記半導体基板に形成された前記溝の延伸方向に沿った垂直断面に向けて、前記他面に対して斜め方向から照射しつつ、前記レーザー光線及び/又は前記半導体基板を相対的に移動させる工程と、を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。より詳しくは、半導体装置の製造方法における半導体基板の個片化工程で、半導体チップに生じた加工痕を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体基板(ウエハ)の主面にダイシングラインで格子状に区画された複数の領域にIC等の回路が形成され、このダイシングラインに沿って該半導体基板を切削して回路毎に分割することで、個々の半導体チップを製造する。このような半導体チップを多数使用する携帯電話、スマートフォン、モバイルPC等は小型・薄型化が進んでおり、半導体チップの厚さをできるだけ薄く形成することが望まれている。そのため、半導体基板を個々の半導体チップに分割する前に、該半導体基板の裏面を研削することによって薄型化の実現が図られている。
【0003】
しかしながら、上述の半導体装置の製造方法では、切削や研削によって半導体チップの側面や裏面に微細なマイクロクラックやチッピング等の加工痕が生じるため、半導体チップの抗折強度が低下する問題がある。すなわち、半導体チップをピックアップする際や、プリント基板にフリップチップ実装する際などに、該半導体チップと周辺部材の熱膨張係数の差異によって生じる応力や機械的な圧力が該半導体チップに加わると、該半導体チップの周縁辺に生じた該加工痕を起点に該半導体チップに亀裂が入って割れてしまうことがある。
【0004】
今日では、先ダイシングと呼ばれる方法によって半導体チップを半導体基板から切り出す方法(特許文献1参照)がよく用いられている。この方法によれば、ダイシングブレードを用いて半導体基板の表面からダイシングラインに沿って所定の深さの切り込みを形成した後、該半導体基板の裏面を研削して、先に形成した切り込みを表出させることにより、各半導体チップを個片化するとともに薄厚化することができる。さらに、この研削によって、半導体チップの裏面と側面で構成される周縁辺に生じていたチッピングを一部除去することができる。しかしながら、切削や研削による加工痕が該周縁辺に生じるため、該半導体チップの抗折強度の低下を解消するには至らない。
【0005】
このような半導体チップの表面に生じる加工痕を除去するために、半導体チップの表面をエッチングする方法が提案されているが(特許文献2参照)、半導体素子がエッチング液によって損なわれる恐れがあり、該エッチング液の廃液処理の問題も生じる。また、半導体チップの表面に生じた加工痕にレーザー光線を照射して、該加工痕を溶融又は気化させることによって該半導体チップの表面を滑らかにする方法が提案されている(特許文献3及び4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−112345号公報
【特許文献2】特開2002−016021号公報
【特許文献3】特開2004−228218号公報
【特許文献4】特開2004−282037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、半導体素子が形成された半導体基板から切り出される半導体チップを、従来のレーザー照射によって処理した後においても、該半導体チップの抗折強度は満足できるものではないという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、半導体素子が形成された半導体基板から切り出される半導体チップの抗折強度を高めることができる半導体装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが上記問題を鋭意検討したところ、半導体素子が形成された半導体基板から切り出される半導体チップの側面に生じた加工痕が該半導体チップの抗折強度を低下させる原因であることを見出し、以下の手段によって上記問題を解決した。
【0009】
本発明の請求項1に記載の半導体装置の製造方法は、一面に半導体素子が形成された半導体基板に対し、前記一面側から格子状に溝を形成する工程と、前記半導体基板の前記一面側に粘着テープを貼る工程と、前記半導体基板の他面を前記溝が表出するまで研削し、前記半導体基板を複数の半導体チップに分離する工程と、前記半導体基板の他面側から前記半導体チップにレーザー光線を、前記半導体基板に形成された前記溝の延伸方向に沿った垂直断面に向けて、前記他面に対して斜め方向から照射しつつ、前記レーザー光線及び/又は前記半導体基板を相対的に移動させる工程とを備えることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の半導体装置の製造方法は、請求項1において、前記レーザー光線を照射する際、前記レーザー光線の光軸と前記他面とのなす角度を一定とすることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の半導体装置の製造方法は、請求項1又は2において、前記レーザー光線を、前記垂直断面に加えて、前記他面にも照射することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の半導体装置の製造方法は、請求項1〜3のいずれか一項において、前記レーザー光線を、前記垂直断面の端部及び前記他面の端部で構成される周縁辺にも照射することを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の半導体装置の製造方法は、請求項1〜4のいずれか一項において、前記レーザー光線を、一方の半導体チップに照射すると同時に、隣接する他方の半導体チップにも照射することを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の半導体装置の製造方法は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記レーザー光線を、前記一面側に貼った前記粘着テープ以外の領域に照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体装置の製造方法によれば、半導体チップの側面である前記垂直断面をレーザー照射することによって、半導体基板に溝を形成する工程(溝形成工程)および半導体基板を研削して半導体チップを分離する工程(研削工程)において半導体チップの側面に生じてしまう加工痕を除去することができる。該加工痕を除去することにより、該半導体チップの抗折強度を高めることができる。
【0011】
また、前記レーザー光線を前記他面に対して斜め方向から照射しつつ、前記レーザー光線の光軸と前記他面とのなす角度を一定として、前記レーザー光線及び/又は前記半導体基板を相対的に移動させることにより、レーザー照射されるエリアごとの照射エネルギーを一定にすることができ、エリアごとの加工痕除去の程度のばらつきを少なくすることができる。
【0012】
また、前記垂直断面に加えて、前記他面にもレーザー照射した場合には、前記研削工程において前記他面に生じてしまう加工痕を除去して、該半導体チップの抗折強度を一層高めることができる。
さらに、前記垂直断面および前記他面に加えて、前記垂直断面の端部及び前記他面の端部で構成される前記半導体チップの周縁辺(エッジ)にもレーザー照射した場合には、前記溝形成工程又は前記研削工程で該周縁辺に生じてしまう加工痕を除去して、該半導体チップの抗折強度をさらに一層高めることができる。
【0013】
また、前記レーザー光線を、互いに隣接する一方の半導体チップと他方の半導体チップの両方に同時に照射した場合には、レーザー照射の工程を短縮して当該半導体装置の製造効率を高めることができる。
また、前記レーザー光線を前記粘着テープ以外の領域に照射して、該粘着テープに照射しない場合には、該粘着テープがレーザー照射によって溶解されて、その溶解された粘着テープが半導体チップに付着して汚染することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の溝形成工程を示す概略図、(b)は本発明の固定工程を示す概略図、(c)は本発明の研削工程を示す概略図、(d)は本発明のレーザー照射工程を示す概略図である。
【図2】照射工程における半導体基板に形成された半導体チップの配列を示す、半導体基板の上面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面の一部とレーザー照射を示す概略図である。
【図4】図2のA−A線に沿う断面の一部で半導体チップが位置ずれした場合のレーザー照射を示す概略図である。
【図5】図2のA−A線に沿う断面の一部とレーザー照射を示す斜視図である。
【図6】図2のA−A線に沿う断面の一部とレーザー照射を示す別の概略図である。
【図7】図2のA−A線に沿う断面の一部とレーザー照射のスキャンを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
<第一実施形態>
本発明に係る半導体装置の製造方法の第一実施形態は、図1に示すように、溝形成工程(a)、固定工程(b)、研削工程(c)、及びレーザー照射工程(d)の少なくとも4工程を有する。
【0016】
前記溝形成工程(a)は、半導体素子が形成された半導体基板W(半導体ウエハ)の一面2において、格子状の溝5(ダイシングライン)を形成する工程である。
前記半導体基板Wは、半導体素子を形成するために用いられる公知の半導体基板が用いられ、例えば、シリコン(Si)半導体基板が挙げられる。
前記半導体基板Wの一面2には、格子状に区切られた区画の所定位置において半導体素子が予め形成されている(図示略)。該半導体素子には、絶縁樹脂や再配線層、封止樹脂層、はんだバンプ等のウエハレベルのパッケージ加工が施されていてもよい。
【0017】
前記溝形成工程(a)では、前記区画に沿った溝5(切り込み)を所定の深さで形成する、いわゆるハーフカットダイシングを行う。溝5の深さとしては、半導体チップ1の仕上げ厚よりも10〜60μm程度深くすることが好ましい。このことにより、形成された溝5の底部近傍に生じやすい大きな加工痕を、後工程の研削工程(c)で除去することができる。
【0018】
この溝5を形成する切削方法としては、先ダイシング法で用いられる公知の切削方法が用いられる。一般には、ダイヤモンドブレードあるいはレジンブレード等の切削刃を備えた回転ブレード(ダイシングブレード)を高速で回転させながら半導体基板Wの一面2に押し付けて徐々に溝を深くしていき、該切削刃の先端が該半導体基板Wを貫通しないように制御して行う。この段階では、該半導体基板Wから個々の半導体チップ1はまだ切り出されていない。また、切削で形成される溝5の垂直断面9(半導体チップの側面)には、切削刃による加工痕が生じる。
【0019】
前記固定工程(b)では、溝5を形成した前記半導体基板Wの一面2側に粘着テープ3(保護テープ)を貼り付ける工程である。該粘着テープ3を貼り付けることにより、半導体基板Wの一面2に形成されている半導体素子を保護することができ、後工程において半導体基板Wから個々の半導体チップ1を切り出す際に、個々の半導体チップ1が散らばることを防ぐことができ、個々の半導体チップ1の取り扱いを容易にすることができる。このとき、前記粘着テープ3はシート状のものであって、半導体基板Wの一面2を単一の粘着シートの粘着面に固定できる形態であることが望ましい。このような用途で用いられる前記粘着テープ3(粘着シート)は市販の入手可能な公知のものを用いることができる。
【0020】
前記研削工程(c)では、前記半導体基板Wの他面4を、該半導体基板Wの一面2側から形成した前記溝5が他面4側に表出するまで研削(研磨)して、その結果、前記半導体基板Wを複数の半導体チップ1に分離(個片化)する工程である。この研削方法としては、公知のバックグラインド法で用いられる研削方法を用いることができる。例えば、細かい粒径の研磨剤を含む研磨液を用いて、砥石を備えた回転ホイールを3000〜7000rpmで回転させながら、200〜500rpmで逆方向に回転している前記半導体基板Wの他面4に押し付けて徐々に該半導体基板Wの他面4を研削して、所定の厚さになるまで薄くする機械的研磨法が挙げられる。このとき、研削された該他面4には、砥石及び研磨剤による加工痕が生じる。
【0021】
前記レーザー照射工程(d)は、前記半導体基板Wの他面4側から前記半導体チップ1にレーザー光線7を照射する工程である。前記半導体チップ1の側面9や他面4に該レーザー光線7を照射することにより、側面9や他面4に生じた前記加工痕を除去することができる。
【0022】
このとき、後で詳細に説明するように、レーザー光線7を、半導体基板Wに形成された溝5の延伸方向(図1の点Sで表す紙面垂直方向)に沿った垂直断面9に向けて、他面4に対して斜め方向から照射しつつ、レーザー光線7及び/又は半導体基板Wを相対的に移動させて、レーザー光線7を前記延伸方向へスキャンする。
【0023】
前記レーザー照射工程(d)に用いうるレーザー照射装置としては、YAGレーザーやYVOレーザー等の固体レーザー、あるいはCOレーザーやエキシマレーザー等のガスレーザーが挙げられる。前記加工痕に照射されるレーザーの照射エネルギーが大きい場合には該加工痕は気化されて除去され、該照射エネルギーが小さい場合には該加工痕は溶融及び再結晶化されて除去される。
【0024】
前記照射エネルギーは、レーザー光線7の波長、強度、及びレーザー光線7と半導体基板との相対的な移動速度によって適宜調整する必要がある。レーザー光線7の強度が大き過ぎると、半導体チップ1の表面に形成されている半導体素子にダメージを与える危険性がある。また、レーザー光線7の強度が大き過ぎる場合には、半導体チップ1の側面9で反射されたレーザー光線7が、半導体チップ1の一面2を固定している前記粘着テープ3に到達して該粘着テープ3を溶融・飛散させて半導体チップ1を汚損することもある。
【0025】
このようなリスクを回避するため、半導体チップ1の厚さによって使用するレーザー光線の種類を変え、レーザー光線7の強度を調整する方法が挙げられる。例えば、半導体チップ1の厚さが50μmの場合は、比較的低エネルギーのYVOレーザーの第二高調波を使用し、半導体チップ1の厚さが200μmの場合は、エキシマレーザーを使用する方法が挙げられる。
【0026】
図2に示すように、このレーザー照射工程の段階においては、個々の半導体チップ1はそれぞれ半導体基板Wから切り離されてはいるが、前記粘着テープ3に固定されているため、切り離される前の位置をほぼ維持している。すなわち、図3の断面図(図2におけるA−A間の断面)に示すように、個々の半導体チップ1a(1)〜1c(1)は整列した状態にあって、隣接する半導体チップ同士の離間距離hは、前記切削工程で前記半導体基板Wの一面2に形成した溝5の幅程度となっている。
【0027】
この半導体基板Wにおいて、レーザー光線7を、前記半導体基板Wに形成された前記溝5の延伸方向D1およびD2に沿った垂直断面9に向けて、他面4に対して斜め方向から照射することによって、前記粘着テープ3上に整列して固定された状態の個々の半導体チップ1の側面(垂直断面9)にレーザー光線7を照射することができる(図3参照)。レーザー光線7が照射された領域ではその表面の一部が溶融又は気化することにより、該領域に生じていた加工痕が除去される。
【0028】
また、レーザー光線7の径、レーザー光線7と他面4とのなす角度θ、半導体チップ1の厚さt、及び半導体チップ1同士の離間距離h等にもよるが、図3のようにレーザー光線7を他面4に対して斜め方向から照射すると、半導体チップ1b(1)の側面9(垂直断面9)と同時に、半導体チップ1b(1)の側面9と他面4とで構成される周縁辺(エッジ)11、および半導体チップ1a(1)の周縁辺13の他面4側にもレーザー光線7を照射することができる。この場合、一度の照射によって隣接する2個の半導体チップ1a(1)及び1b(1)を同時に処理して製造効率を高めることができる。
【0029】
このとき、周縁辺11を構成する側面9及び他面4に同時にレーザー照射することを利用して、該周縁辺11の角を丸くしたR(アール)を形成してもよい。該Rを形成することにより、半導体チップの抗折強度をより高めることができる。
【0030】
また、レーザー光線7を他面4に対して斜め方向から照射することによって、レーザー光線7を粘着テープ3に照射してしまうことを防ぐことができる。すなわち、前記研削工程において、粘着テープ3上の半導体チップ1b(1)の位置が動いてしまうことが起きうるが、この場合であっても図4に示すように、レーザー光線7が粘着テープ3に照射されることを防ぐことができる。
【0031】
レーザー光線7と他面4のなす角度θとしては、15〜75度が好ましく、25〜65度がより好ましく、40〜50度が最も好ましい。上記範囲であると溝5の垂直断面9(半導体チップ1の側面9)に対してレーザー光線7を十分に照射することができる。なす角度θが90度に近い角度であると垂直断面9に対するレーザー光線7の照射量が小さくなり、さらにレーザー光線7が粘着テープ3に照射されてしまう恐れがある。一方、なす角度θが0度に近い角度であると他面4に対するレーザー光線7の照射量が小さくなり、さらにレーザー光線7を所定の半導体チップの垂直断面及び周縁辺に位置合わせすることが難しくなり、高度な制御技術が要求される。
【0032】
ここで、なす角度θが15〜75度であるときの他面4の垂直断面9に対する照射量の比は0.25〜4.0であり、なす角度θが25〜65度であるときの該照射量の比は0.5〜2.0であり、なす角度θが40〜50度であるときの該照射量の比は0.8〜1.2である。粘着テープ3にレーザー光線7を照射しないための適切ななす角度θは、関係式θ<tan-1(t/h)で表される。
【0033】
図5は、図2のA−A間における断面の一部を示す斜視図である。斜視図とともに示したxyz軸座標において、x軸は図2で半導体チップ1が整列するD1方向に相当し、y軸は図2で半導体チップ1が整列するD2方向に相当し、z軸は半導体チップ1の他面4に対する垂直方向に相当する。この図5において、レーザー光線7の照射角度をベクトルPと平行に設定して、半導体チップ1a(1)の半導体チップ1b(1)に隣接する垂直断面9α(9)へ照射しながら、該レーザー光線7をx軸の負方向(D1方向)にスキャン(移動)する場合、該レーザー光線7の照射角度を規定する角度θおよび角度φは次の範囲が好適である。
【0034】
角度θは前述のとおりであり、15〜75度が好ましく、25〜65度がより好ましく、40〜50度が最も好ましい。
角度φは、図5に示したように、ベクトルPをxy平面に投影したベクトルHとx軸の単位ベクトルとがなす角度である。この角度φは、半導体チップ1の厚さや溝5の幅にもよるが、25〜65度が好ましく、35〜55度がより好ましく、40〜50度が最も好ましい。
【0035】
角度θ及びφが上記範囲であると、前述のようにD1方向へレーザー光線7をスキャンしながら半導体チップ1a(1)の側面9α(9)から、D2方向へ延伸する溝5を跨いで、半導体チップ1d(1)の側面9β(9)へレーザー光線7が移動する際に、該レーザー光線7が溝5の底部の粘着テープ3に照射されてしまうことを防ぐことができる。
一方、角度φが0度又は90度であると、レーザー光線7を、D1又はD2方向へスキャンしながら、隣接する半導体チップを跨がせる際に、粘着テープ3にレーザー光線7が照射されてしまう。
【0036】
また、図6に示すように、角度θが90度又は角度φが0度であると、溝5の垂直断面9(半導体チップ1の側面9)にレーザー光線7p(7)を照射することができないだけでなく、周縁辺11の近くを照射することも困難である。少しでもレーザー光線の位置が溝5側へずれたり、半導体チップ1b(1)が溝5の幅を広くするように位置ずれしていた場合には、点線で示したように、レーザー光線7q(7)が粘着テープ3に照射されてしまうからである。よって、角度θが90度又は角度φが0度である場合、このような位置ずれを想定して、レーザー光線7の光軸の中心を、レーザー光線7の直径に相当する距離だけ周縁辺11から離す必要が一般にある。この場合、最も加工痕の集中する周縁辺11には、レーザー光線7が照射されないか、照射されたとしても加工痕を除去するには不十分な量である。
【0037】
本発明におけるレーザー光線7の照射方法を、図5でまとめると、以下のように説明できる。半導体基板Wに形成された溝5の延伸方向(x軸方向又はD1方向)に沿った垂直断面9に向けて、半導体基板W(半導体チップ1)の他面4に対して斜め方向から照射するとき、レーザー光線7は他面4(xy平面)に対して角度θを成して傾いていると同時に、レーザー光線7は溝5の延伸方向(x軸方向)に対して角度φで傾いている。
【0038】
このようにレーザー光線7を照射することによって、レーザー光線7を垂直断面9に照射しながら、該レーザー光線7を溝5の延伸方向(x軸方向又はD1方向)へ移動(スキャン)する。このとき角度θ及びφは、必ずしも一定に固定する必要はなく、レーザー照射口を首振り運動させることにより、例えば前述した好適な角度θ及びφの範囲の中で、連続的に変化させてもよい。
【0039】
しかし、レーザー照射されるエリアごとの照射エネルギーを一定にし、エリアごとの加工痕除去のばらつきを少なくして均一な表面処理を行えることから、前記レーザー光線の光軸と前記他面とのなす角度θを一定として、前記レーザー光線及び/又は前記半導体基板を相対的に移動させることが好ましい。
【0040】
次に、レーザー光線7を溝5の延伸方向(D1方向)へスキャンするときの、レーザー照射方法の一例を示す。図7では、半導体チップ1a(1)及び1b(1)に照射されたレーザー光線7の光軸の中心位置の軌跡Tを点線で示す。また、他面4におけるレーザー光線7の照射エリアの形状を楕円で示す。この軌跡Tのようにレーザー光線7を照射しながら、D1方向へスキャンすると、半導体チップ1a(1)の側面9、他面4、及び該側面9と他面4とで構成される周縁辺13、並びに半導体チップ1b(1)の他面4及とその端部に生じていた前記加工痕を除去することができる。また、このスキャンの過程において、半導体チップ1a(1)及び1b(1)の他面4に、レーザー照射による捺印を行ってもよい。
【0041】
以上では、粘着テープ3上に整列して固定された状態の各半導体チップ1に対してレーザー光線7を照射する場合を説明した。これ以外の方法によって、個片化された半導体チップ1の側面9にレーザー照射し、該側面9における加工痕を除去する方法として、個片化された半導体チップ1の各々をコレットで吸着して持ち上げて、レーザー光線を照射する方法が挙げられる。この場合、当該半導体チップには粘着テープが張り付いていないので、レーザー照射における前記角度θ及びφを自在に選択することができる。また、半導体チップを吸引するコレットの位置を変えて、半導体チップ表裏を反転させることにより、半導体チップの全ての面に対してレーザー照射することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、半導体基板から個片化された半導体チップの側面部に形成された加工痕をレーザーによって除去して、該半導体チップの抗折強度を高めるために広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…半導体チップ、W…半導体基板(ウエハ)、B…支持台、2…一面、3…粘着テープ、4…他面、5…溝(ダイシングライン)、7,7p,7q…レーザー光線、9…垂直断面(半導体チップの側面)、S…溝の延伸方向、D1…溝の延伸方向、D2…溝の延伸方向、11…周縁辺、13…周縁辺、h…溝の幅、T…軌跡、t…半導体チップの厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に半導体素子が形成された半導体基板に対し、前記一面側から格子状に溝を形成する工程と、
前記半導体基板の前記一面側に粘着テープを貼る工程と、
前記半導体基板の他面を前記溝が表出するまで研削し、前記半導体基板を複数の半導体チップに分離する工程と、
前記半導体基板の他面側から前記半導体チップにレーザー光線を、前記半導体基板に形成された前記溝の延伸方向に沿った垂直断面に向けて、前記他面に対して斜め方向から照射しつつ、前記レーザー光線及び/又は前記半導体基板を相対的に移動させる工程と、
を備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光線を照射する際、前記レーザー光線の光軸と前記他面とのなす角度を一定とすることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光線を、前記垂直断面に加えて、前記他面にも照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光線を、前記垂直断面の端部及び前記他面の端部で構成される周縁辺にも照射することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記レーザー光線を、一方の半導体チップに照射すると同時に、隣接する他方の半導体チップにも照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー光線を、前記一面側に貼った前記粘着テープ以外の領域に照射することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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