説明

半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置

【課題】 ウィスカの発生や不純物付着に起因した電気的短絡の発生を抑止して、さらに高い信頼性を備えた半導体装置用テープキャリアを製造することができる半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置を提供する。
【解決手段】 ロールツーロール法により半導体装置用テープキャリアをインラインで製造する、半導体装置用テープキャリアの製造方法であって、テープキャリア1に、Snめっき層14を無電解Snめっきにより形成した後、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの所定の温度に制御したインライン熱処理炉11内にて、10秒〜5分間の範囲内のうちの所定の時間に亘って、熱処理を行う工程を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔のような導体金属をパターニングしてなる配線パターン上に無電解錫めっきにより錫めっき層を形成する工程を含んだ半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の半導体装置用テープキャリアの製造方法および製造装置では、錫めっき工程に特有の、いわゆるウィスカと呼ばれる現象が生じる虞がある。図7は、従来の製造工程で発生するウィスカの一例を示す図であるが、この図7に示したように、銅のような導体金属からなる配線パターン101上(表面)に錫めっきを施した後、経時で錫が髭状にウィスカ102が成長する。甚だしくは、隣り合った配線パターン101同士の間に跨ったような状態に成長するウィスカ103等もあり、配線パターン間の電気的短絡不良の要因となる虞がある。このため、製品として完成した半導体装置用テープキャリアの耐マイグレーション性をはじめとした信頼性を確保するためには、ウィスカ102、103の発生を抑止することが必要となる(特許文献1参照)。
【0003】
特に錫めっき処理の直後には、結晶間に掛かる内部応力が大きくなっており、その内部応力に降伏した部分からウィスカ102、103が発生するとも云われている。そこで、従来では、錫めっき工程を行った後、熱処理を施すことで、ウィスカ102、103の発生を抑止するという方策が提案されている。その抑止のメカニズム(作用)については幾つかの解釈が提唱されているが、錫の結晶が焼きなまされることでその結晶間の力学的ストレスが緩和するためであるとする説が有力とされている。
【0004】
このような無電解錫めっきを行う工程を含んだ、従来の半導体装置用テープキャリアの製造ラインでは、製品である半導体装置用テープキャリア(以下、テープキャリアと略称する場合もある)の全長が極めて長尺なものとなるため、図8に一例を示すようなロールツーロール(Roll to roll)のインライン設備で無電解錫めっき工程を行うことが多い。
具体的には、ローダ部113の巻出軸114にセットしたリール107aから製造途中のテープキャリア106を繰り出し、このインライン設備を搬送させて行き、前処理槽115、無電解錫めっき槽116、後洗浄槽117の順に配置された各装置での処理を行い、乾燥槽118で水分を除去する。そして、裏打ち材112を除去した後、アンローダ部120の巻取軸121にセットしたリール107bに、耐熱性のエンボススペーサ105をテープキャリア106の層間に挟むようにして巻き取らせる。これら一連の工程を終えて、1ロット分のテープキャリア106を完全に巻き取り終えたリール107bを、アンローダ部120から取り外し、バッチ式の熱処理炉122にセットして、所定の熱処理を行う。
【0005】
【特許文献1】特開2002−161396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の技術による半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置では、上記のようにして無電解錫めっき後に熱処理を行ってもなお、ウィスカが発生する場合があるという問題があった。
これは、本発明者らが種々の実験および検討を行った結果、熱処理工程ではテープキャリアはリールに巻回された状態であるため、その一巻のテープキャリアにおける内側寄りと外側寄りとで、与えられる熱量にばらつきが生じることに起因して生じるものであることを確認したが、このような熱量のばらつきを解消するためには、120℃程度の比較的低い温度で長時間に亘る加熱を行わなければならず、生産性が著しく低下するという、別の問題が生じることとなる。
【0007】
また、上記のように製造の途中でリール107bを一旦、製造ラインの外に取り出してから熱処理炉122内へと装着することは、熱処理炉122内の雰囲気に外気中の導電性異物等の汚染物質を混入させる要因となる虞がある。すなわち、汚染物質粒子が熱処理炉122内に混入すると、炉内の温度分布を均一化させるためにファンによって炉内の空気を掻き回す際に、その気流に乗って汚染物質粒子が舞い上がり、拡散されるなどして、製造途中の製品であるテープキャリアの表面に付着し、電気的短絡不良を発生させる要因となるという問題がある。特に、隣り合う配線パターン間に跨った状態で金属異物が付着すると、例えばCOFテープの場合などには錫めっきの後にソルダーレジストを塗付するが、そうすると金属異物がソルダーレジストによって上から被覆されてその位置に定着されてしまうので、その金属異物を除去して短絡不良を修復することは不可能となる。
【0008】
また、例えばCOFテープキャリアの場合には、テープキャリア自体の厚さが極めて薄く、搬送時等における取り扱いに苦慮するため、そのテープキャリアの裏面に裏打ち材112を貼り付けて材料力学的に補強した状態で製造を行うことが多い。一般に裏打ち材112としては安価で加工性も比較的良好なPETフィルムなどが用いられるが、耐熱性が極めて低いことから、熱処理の前に剥離しなければならない。この剥離の際に静電気が発生しやすいので、テープキャリアの表面に異物の付着を招きやすく、これも短絡不良の発生要因となる虞がある。
【0009】
このように、従来の半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置では、無電解錫めっき工程の後に、電気的短絡不良等の要因となるウィスカが発生し、製品として完成した半導体装置用テープキャリアの信頼性を著しく損う場合があるという問題があり、また従来の技術の単なる延長上にあるような方策では、ウィスカの発生を抑止することが実際上できなかった。また、不純物付着に起因した電気的短絡の発生を抑止することができなかった。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、製品として完成した半導体装置用テープキャリアの信頼性を著しく損う電気的短絡不良等の要因となる虞のあるウィスカの発生や導電性異物のような不純物の付着を抑止して、さらに高い信頼性を備えた半導体装置用テープキャリアを製造することができる半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の半導体装置用テープキャリアの製造方法は、導体金属からなる配線パターン上に無電解錫めっきにより錫めっき層を形成する工程を有し、ロールツーロール法により半導体装置用テープキャリアをインラインで製造する、半導体装置用テープキャリアの製造方法であって、当該半導体装置用テープキャリアに、前記錫めっき層を前記無電解錫めっきにより形成した後、当該無電解錫めっきの工程に引き続き、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの所定の温度に制御した熱処理炉内にて、10秒〜5分間の範囲内のうちの所定の時間に亘って、熱処理を行う工程を含むことを特徴としている。
ここで、炉内は空気が循環された状態に制御されており、その温度は均一化されている。
【0012】
本発明の第2の半導体装置用テープキャリアの製造方法は、上記第1の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、前記錫めっき層を形成する工程以前に前記半導体装置用テープキャリアに裏打ち材が貼付されており、前記無電解錫めっきを行う工程以後であってかつ前記熱処理を行う工程以前に、前記裏打ち材を剥離する工程を含むと共に、前記裏打ち材を剥離する工程以後であってかつ前記熱処理を行う工程以前に、前記半導体装置用テープキャリアをインラインで連続的に洗浄する工程を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明の第3の半導体装置用テープキャリアの製造方法は、上記第1の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、上記第1または第2の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、前記熱処理に、更に赤外線加熱手段からの赤外線を前記熱処理炉内に照射して加熱する赤外線加熱を併用して行うことを特徴としている。
【0014】
本発明の第1の半導体装置用テープキャリアの製造装置は、導体金属からなる配線パターン上に無電解錫めっきにより錫めっき層を形成する無電解錫めっき装置を有し、ロールツーロール法により半導体装置用テープキャリアをインラインで製造する、半導体装置用テープキャリアの製造装置であって、前記無電解錫めっき装置による前記錫めっき層の形成後、当該無電解錫めっきの工程に引き続き、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの所定の温度に制御しつつ、10秒〜5分間の範囲内のうちの所定の時間に亘って、前記半導体装置用テープキャリアに対してインラインで熱処理を連続的に行う熱処理炉を備えたことを特徴としている。
【0015】
本発明の第2の半導体装置用テープキャリアの製造装置は、上記第1の半導体装置用テープキャリアの製造装置において、前記錫めっき層を形成する工程以前に前記半導体装置用テープキャリアに裏打ち材が貼付されており、前記無電解錫めっきを行う以後であってかつ前記熱処理を行う以前に前記裏打ち材を剥離する裏打材剥離装置と、前記裏打ち材を剥離する以後であってかつ前記熱処理を行う以前に、前記半導体装置用テープキャリアをインラインで連続的に洗浄する洗浄装置とを備えたことを特徴としている。
【0016】
本発明の第3の半導体装置用テープキャリアの製造装置は、上記第1または第2の半導体装置用テープキャリアの製造装置において、前記熱処理炉が、赤外線を炉内に照射する赤外線加熱手段を更に備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体装置用テープキャリアに、錫めっき層を形成した後、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの所定の温度に制御した熱処理炉内にて、10秒〜5分間の範囲内のうちの所定の時間に亘って、熱処理をインラインで連続的に行うので、熱処理中にテープキャリアに与える熱量が均一化すると共に、外部から不純物等が熱処理炉へと混入することを回避して、ウィスカの発生や導電性異物等の付着に起因した電気的短絡の発生を抑止することができ、その結果、さらに高い信頼性を備えた半導体装置用テープキャリアを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアの製造方法および半導体装置用テープキャリアの製造装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアの製造ラインにおける、特に無電解Sn(錫)めっきラインの部分を特に抜き出して示す図であり、図2は、図1に示したラインにおけるアンローダ部にてテープキャリアをエンボススペーサの間に挟んで巻き取る状態を模式的に示す図、図3は、リールに巻き取られて行くテープキャリアおよびエンボススペーサの状態を示す図、図4は、裏打ち材をテープキャリア自体から剥離するプロセスを示す図であり、図5は、熱処理条件とウィスカ発生数との相関関係を確認するための実験結果を表に纏めて示す図、図6は、本発明の実施例に係る半導体装置用テープキャリアの製造方法および装置によって製造された複数のテープキャリアならびに比較例(および従来例)のテープキャリアの、それぞれにおけるウィスカの発生および異物付着の有無を表に纏めて示す図である。
【0019】
この半導体装置用テープキャリアの製造装置は、COFテープのようなテープキャリア1に無電解Sn(錫)めっき処理および熱処理をインラインで行うもので、巻出軸2を備えてリール3aが装着されるローダ4と、前処理槽5と、無電解Snめっき槽6と、第1の洗浄槽7と、裏打剥離装置8と、第2の洗浄槽9と、乾燥槽10と、インライン式熱処理炉11と、アンローダ12とから、その主要部が構成されている。
【0020】
この半導体装置用テープキャリアの製造装置およびそれによって行われる製造方法の全体では、ポリイミドからなるフィルム基材17上に配線パターン18が形成された段階の、製造途中のテープキャリア1が、巻出軸2に装着されるリール3aに巻き取られた状態で投入され、そのリール3aがセットされたローダ4からテープキャリア1が繰り出されて、前処理槽5、無電解Snめっき槽6、第1の洗浄槽7、裏打剥離装置8、第2の洗浄槽9、乾燥槽10、インライン式熱処理炉11の順で、途切れることのない完全なインライン状態で搬送されて行くことで、そのそれぞれの工程がその装置の配置順にインラインで行われ、Snめっき層14の形成および熱処理が済むと、アンローダ12の巻取軸2bに装着されたリール3bに巻き取られるように設定されている。
【0021】
ローダ4は、リール3aがセットされ、テープキャリア1をこのラインに繰り出して行く。
前処理槽5は、テープキャリア1の脱脂クリーニング、酸洗、および適宜に水洗を行うものである。
無電解Snめっき槽6は、テープキャリア1上に形成された配線パターン18の表面に、無電解SnめっきプロセスによってSnめっき層14を形成する。
第1の洗浄槽7は、無電解Snめっきを施した後のテープキャリア1の水洗を行う。
裏打剥離装置8は、テープキャリア1が例えばCOFテープのように裏打ち材13を貼り付けられているものである場合に、その裏打ち材13を、無電解Snめっきを施した後であってかつ熱処理を行う前に、剥離する。
第2の洗浄槽9は、裏打ち材13を剥離した後に、テープキャリア1の水洗を行うものである。
乾燥槽10は、脱湿した空気を吹き付けるなどして、第2の洗浄槽9による水洗後のテープキャリア1の乾燥を行う。
【0022】
インライン式熱処理炉11は、Snめっき層14が形成され裏打ち材13が剥離された後のテープキャリア1に、その延長上のインラインで引き続いて(但し本実施の形態では第2の洗浄槽9・乾燥槽10を通した後)、Snを主体としたウィスカの発生を抑止するための熱処理を行うものである。その熱処理は、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの、例えば200℃±許容誤差温度のような、所定の温度範囲内に加熱温度を制御しつつ、10秒〜5分間の範囲内のうちの適宜に定めた所定の時間に亘って、インラインで連続的に行われる。このとき、テープキャリア1は常にほぼ直線状に伸ばされた状態のまま、このインライン式熱処理炉11の炉内を一定速度で通過して行くので、そのテープキャリア1に対する熱処理は、その1本のテープキャリア1の最初から最後まで全尺に亘って、与えられる熱量およびその加熱時間等の諸条件がイコールコンディションで行われることとなる。なお、炉内は空気が循環された状態で制御されており、炉内全体で±2℃程度の誤差でその温度が均一化されている。
【0023】
アンローダ12は、Snめっき層14の形成および熱処理が済んだテープキャリア1を巻取軸2bに装着されたリール3bに巻き取って収容する。このとき、例えば図2に示したようなエンボススペーサ15を介挿して若干の隙間16を設けながらテープキャリア1を巻き取るようにしてもよい。
【0024】
この半導体装置用テープキャリアの製造装置および製造方法によれば、インライン式熱処理炉11にて、投入された1本の連続したテープキャリア1の最初から最後まで全尺に亘って、与えられる熱量およびその加熱時間等の諸条件をほぼイコールコンディションにした熱処理を行うことができるので、例えば図2、図3に示したようなリール3bにテープキャリア1が巻き取られた状態で行っていた従来の一般的な熱処理では極めて困難ないしは不可能であった、均一な熱処理を達成することができ、ウィスカの発生を1本のテープキャリア1の全尺に亘って恒常的に(ばらつきなく効果的に)抑止し、さらに高い信頼性を備えた半導体装置用テープキャリアを製造することが可能となる。
【0025】
しかも、そのようにイコールコンディションでの均一な熱処理を連続的に行うことができるので、従来の熱処理の場合のような低温で長時間に亘って熱処理を行わなければならないといった制約から解放されて、短時間で済む能率的な高温熱処理を行うことが可能となる。また、そのように短時間の熱処理で済むので、従来の長時間に亘る熱処理の場合のようなSnめっき層14の純Snの部分の厚さが大幅に損失するといった不都合を回避することも可能となる。
【0026】
また、裏打ち材13を剥離する工程の前後で、それぞれ第1の洗浄槽7、第2の洗浄槽9によってテープキャリア1を水洗するようにしたので、テープキャリア1に付着した導電性異物等が効果的に除去され、インライン式熱処理炉11内への導電性異物等の混入を防止して、インライン式熱処理炉11内の雰囲気を常に正常な状態に保つことが可能となる。また、このときの水洗によって、裏打ち材13を剥離する際に発生した静電気を除電することができる。その結果、さらに高い信頼性を備えた半導体装置用テープキャリアを製造することが可能となる。
【0027】
ここで、熱処理における温度および時間の設定について説明する。温度はテープキャリア1に対する熱的損傷等の問題のない範囲内で、できるだけ高いほうが、より能率的にウィスカを抑止することが可能となり、またテープキャリア1を流す熱処理ラインの全長をより短く(従ってインライン式熱処理炉11全体をより小型化)することができる。時間についても、加熱温度を高くすればするほど、より短時間で所定の熱量をテープキャリア1に与えることが可能となる。これらの条件を勘案すると、この熱処理工程におけるプロセス条件は、上記のような150℃以上〜200℃以下の範囲内の炉内温度、および5秒〜5分間の時間に設定することが望ましいということになる。
【0028】
なお、インライン式熱処理炉11は、熱処理炉として一般的に用いられる電気炉のように、白熱線等のヒータを用いて炉内に高温雰囲気を作り、主に高温雰囲気からの熱伝達によって加熱すると共に、さらに赤外線ランプのような赤外線加熱手段(図示せず)を設けて、この赤外線加熱手段からの赤外線を熱処理炉11内に照射して加熱する赤外線加熱とを併用することが望ましい。このようにすることにより、さらに短時間で均一な熱処理を実現することが可能となる。
また、裏打ち材13を有さないテープキャリアを処理対象とする場合には、裏打剥離装置8、第2の洗浄槽9は省略してもよいことは云うまでもない。
【実施例】
【0029】
上記の実施の形態で説明したような製造装置および製造方法によって実際的なCOFテープのサンプル仕様に設定してなる半導体装置用テープキャリアを製造し、その信頼性について実験を行って確認した。
【0030】
Snめっき層14は膜厚0.4μmとし、図5に示したように、その無電解Snめっき後のウィスカの発生数を計数して評価を行った。
熱処理条件は、温度を135℃、150℃、165℃、180℃、200℃、220℃の6種類とし、時間を0秒、10秒、30秒、60秒、180秒、300秒、600秒の7種類とした。このような設定で、第1の実験として、合計37通りの半導体装置用テープキャリアを製造した。
【0031】
図5の表では、上段に168時間経過後のウィスカの発生数を、また下段に熱処理後のSnめっき層14の厚さの減少量を、それぞれ示してある。ウィスカの発生数としては、倍率400倍の金属顕微鏡で観察し、この倍率で確認可能な約1.5μm以上の長さのウィスカの、約1cmの面積内における個数を計数した。Snめっき層14の厚さとしては、純Snめっきの部分の厚さを測定した。その測定には、電解式膜厚計(コクール社製)を用いた。
【0032】
銅のような導体金属からなる配線パターン18上に形成されたSnめっき層14は一般に、加熱されると、配線パターン18との接触界面で、そのCu(銅)のような導体金属とSnとが拡散し合って、部分的に合金化する。従って、加熱量が増加するにつれて、Snめっき層14における純粋なSnの厚さは減少して行く傾向にある。このため、余りに長時間に亘って熱処理を継続して加熱量が過多になると、甚だしくは純粋なSnがほとんどなくなってしまうなどの不都合が生じる虞がある。
【0033】
この実施例1の第1の実験の結果、図5に示したように、熱処理時間0(すなわち熱処理を行わなかった場合)には、30000個ものウィスカが発生した。また、135℃と低い温度に設定して熱処理を行った場合には、処理時間0〜180秒では30000〜3000ものウィスカが発生した。300秒でようやく150程度にまで低減し、600秒でほぼ0となった。これは、換言すれば、135℃以下の温度では、600秒程度以上の時間に亘って熱処理を行わなければウィスカを抑止する十分な効果が得られないということである。
【0034】
これと対照的に、熱処理時間10秒以上かつ温度150℃以上の場合には、概ね純Snの厚さが0.05μm以上減少した場合に、ウィスカを効果的に抑止することが可能であることが確認された。
【0035】
但し、COFテープの場合、一般に熱硬化型のソルダーレジストがSnめっき層14上に塗布されるので、その際の120℃・90分程度の熱処理によって、その純Snの厚さはさらに減少する。また、確実な半導体チップとの接続(Au−Sn共晶結合)を実現するためには、純Snの厚さを0.1〜0.3μm程度は確保する必要がある。
このような諸々の条件を勘案すると、熱処理の条件設定としては、炉内加熱温度150〜200℃、処理継続時間10秒〜5分間の範囲内で、適宜にその温度と時間とを組み合わせるようにすることが望ましいことが確認された。
【0036】
第2の実験として、上記の実施の形態で説明したような製造装置を用いた製造方法によって、熱処理の継続時間は3分間に固定し、加熱温度を150℃、165℃、180℃、200℃の4種類に異ならせた、4つのサンプルを製造した。またそれとの比較のため、加熱温度を135℃に設定した比較例のサンプルと、図2に示したようなリール3bにテープキャリア1を巻き取った状態でバッチ式に120℃・60分の条件で熱処理する従来の方法によるサンプルとを製造した。
【0037】
より具体的な材料構成としては、COFテープのフィルム基材17には、テープ幅105mm、テープ厚約38μm、銅厚約8μmの住友金属鉱山(社名)製のエスパーフレックス材(製品名)を用いた。裏打ち材13には、厚さ約50μmのポリエチレンテレフタレート製のものを用いた。そして配線パターン18のパターニングプロセスとしては、一般的なフォトファブリケーション技術によるウェットエッチングプロセスを用いた。
【0038】
ウィスカの発生の観察・評価方法については、上記の第1の実験と同様とした。また、純Snの厚さのばらつきσの計測方法としては、テープキャリア1の幅方向に50点の各位置ごとの厚さを電解式膜厚計により測定し、その標準偏差σμmを算出するものとした。また、付着異物の有無の評価については、各サンプルからその1mを採取し、純水中に浸漬させた後、その純水中に抽出されて残っている異物の有無を確認するという方法を採用した。
【0039】
図2に示したように、比較例および従来の技術によるサンプルの場合には、ウィスカの発生や異物の付着が見受けられた。また従来の技術によるサンプルの場合には純Snの厚さに0.03μmのばらつきが生じたが、これとは対照的に、本実施例に係る製造装置および製造方法によれば、純Snの厚さのばらつきは概ね0.01μm以下と大幅に低減され、またウィスカの発生もなく、導電性異物のような不純物等の付着も解消されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアの製造ラインにおける、特に無電解錫めっきラインの部分を特に抜き出して示す図である。
【図2】図1に示したラインにおけるアンローダ部にてテープキャリアをエンボススペーサの間に挟んで巻き取る状態を模式的に示す図である。
【図3】リールに巻き取られて行くテープキャリアおよびエンボススペーサの状態を示す図である。
【図4】裏打ち材をテープキャリア自体から剥離するプロセスを示す図である。
【図5】熱処理条件とウィスカ発生数との相関についての実験結果を表に纏めて示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る半導体装置用テープキャリアの製造方法および装置によって製造された複数のテープキャリアのそれぞれにおけるウィスカの発生および異物付着の有無を表に纏めて示す図である。
【図7】従来の半導体装置用テープキャリアの製造工程で発生するウィスカの一例を示す図である。
【図8】従来の無電解錫めっきを行うロールツーロールのインライン設備の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 テープキャリア
2a 巻出軸
2b 巻取軸
3 リール
4 ローダ
5 前処理槽
6 無電解Snめっき槽
7 第1の洗浄槽
8 裏打剥離装置
9 第2の洗浄槽
10 乾燥槽
11 インライン式熱処理炉
12 アンローダ
13 フィルム基材
14 Snめっき層
18 配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体金属からなる配線パターン上に無電解錫めっきにより錫めっき層を形成する工程を有し、ロールツーロール法により半導体装置用テープキャリアをインラインで製造する、半導体装置用テープキャリアの製造方法であって、
当該半導体装置用テープキャリアに、前記錫めっき層を前記無電解錫めっきにより形成した後、当該無電解錫めっきの工程に引き続き、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの所定の温度に制御した熱処理炉内にて、10秒〜5分間の範囲内のうちの所定の時間に亘る熱処理を行う工程を含む
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
前記錫めっき層を形成する工程以前に前記半導体装置用テープキャリアに裏打ち材が貼付されており、
前記無電解錫めっきを行う工程以後であってかつ前記熱処理を行う工程以前に、前記裏打ち材を剥離する工程を含むと共に、前記裏打ち材を剥離する工程以後であってかつ前記熱処理を行う工程以前に、前記半導体装置用テープキャリアをインラインで連続的に洗浄する工程を含む
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
前記熱処理に、更に赤外線加熱手段からの赤外線を前記熱処理炉内に照射して加熱する赤外線加熱を併用して行う
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項4】
導体金属からなる配線パターン上に無電解錫めっきにより錫めっき層を形成する無電解錫めっき装置を有し、ロールツーロール法により半導体装置用テープキャリアをインラインで製造する、半導体装置用テープキャリアの製造装置であって、
前記無電解錫めっき装置による前記錫めっき層の形成後、当該無電解錫めっきの工程に引き続き、炉内温度を150℃以上〜200℃以下の範囲内のうちの所定の温度に制御しつつ、10秒〜5分間の範囲内のうちの所定の時間に亘って、前記半導体装置用テープキャリアに対してインラインで熱処理を連続的に行う熱処理炉を備えた
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造装置。
【請求項5】
請求項4記載の半導体装置用テープキャリアの製造装置において、
前記錫めっき層を形成する工程以前に前記半導体装置用テープキャリアに裏打ち材が貼付されており、
前記無電解錫めっきを行った以後であってかつ前記熱処理を行う以前に前記裏打ち材を剥離する裏打材剥離装置と、
前記裏打ち材を剥離する以後であってかつ前記熱処理を行う以前に、前記半導体装置用テープキャリアをインラインで連続的に洗浄する洗浄装置と
を備えたことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の半導体装置用テープキャリアの製造装置において、
前記熱処理炉が、赤外線を炉内に照射する赤外線加熱手段を更に備えた
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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