説明

半導体装置用基板

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は、半導体装置の高集積化および大電力化に十分対応することができる半導体装置用基板に関するものである。
〔従来の技術〕
従来、一般に、半導体装置用基板としては、例えば第2図2図に概略説明図で示されるように、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体からなる絶縁板材C′の上下両面に、Cu薄板材B′を液相接合し、この液相接合は、例えば前記Cu薄板材の接合面に酸化銅(Cu2O)を形成しておき、前記Al2O3製絶縁板材と重ね合わせた状態で、1065〜1085℃に加熱して接合面に前記Cu2OとCuとの間で液相を発生させて結合する方法であり、また前記Cu薄板材のうち、Al2O3製絶縁板材C′の上面側が回路形成用導体となり、同下面側がはんだ付け用となるものであり、この状態で、通常Pb-Sn合金からなるはんだ材(融点:450℃以下をはんだという)D′を用いて、Cuからなるヒートシンク板材A′に接合してなる構造をもつことが知られている。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかし、近年の半導体装置の高集積化および大電力化に伴って半導体装置に発生する熱量が増大するようになり、これに伴って半導体装置が受ける発熱・冷却の繰り返しからなる温度サイクルもその振幅が大きく、苛酷になる傾向にあるが、上記した構造の従来半導体装置用基板では、このような苛酷な温度サイクルにさらされると、例えば純度:96%のAl2O3焼結体の熱膨張係数が6×10-6/℃、Cuのそれが17.2×10-6/℃であるように、Al2O3製絶縁板材C′とCu薄板材B′との間に存在する大きな熱膨張差によって、延性のないAl2O3製絶縁板材には割れが発生し易くなるばかりでなく、はんだ材D′には、融点が450℃以下と低いことと合まって、熱疲労が発生し易く、このはんだ材層に剥離現象が生じるようになり、この状態になると半導体装置内に発生した熱のヒートシンク板材A′からの放熱を満足に行なうことができなくなるという問題が発生し、かかる点で半導体装置の高集積化および大電力化に十分対応することができないのが現状である。
〔課題を解決するための手段〕
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、半導体装置の高集積化および大電力化に対応することができる半導体装置用基板を開発すべく研究を行なった結果、第1図に概略説明図で示されるように、絶縁板材C′を同じく酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体で構成し、これの両面に回路形成用導体薄板材Bとヒートシンク板材Aとを接合した構造とすると共に、前記導体薄板材BをW,Mo,W合金、およびMo合金のうちのいずれかで、また前記ヒートシンク板材Aを炭化けい素(SiC)または黒鉛でそれぞれ構成し、かつこれらの前記絶縁板材C′への接合を、重量%で(以下%は重量%を示す)、例えばAg-29%Cu-4%Ti合金やCu-3%Ti合金、あるいはCu-3%Zr合金などからなる高融点ろう材(この発明では、750℃以上の融点を有するろう材をいう)Dを用いて行なうと、前記高融点ろう材Dは、前記導体薄板材材B、絶縁板材C′、およびヒートシンク板材Aとを著しく強固に結合させ、かつ750℃以上の融点をもつので、苛酷な温度サイクルによっても熱疲労することがないことから、これら部材間に剥離現象の発生はなく、さらにAl2O3焼結体の熱膨張係数が、6×10-6/℃、回路形成用導体薄板材Bを構成するMo,W,および例えばW-10%Cu合金の熱膨張係数が、それぞれMo:5.3×10-6/℃、W:4.7×10-6/℃、W-10%Cu合金:5.5×10-6/℃、さらにヒートシンク板材を構成するSiCおよび黒鉛のそれは、SiC:3.7×10-6/℃、黒鉛:選択的に約3×10-6/℃であるように、これら部材相互の熱膨張係数はきわめて近似するものであり、したがって上記構造の半導体装置用基板においては、Al2O3製絶縁板材C′と導体薄板材Bおよびヒートシンク板材Aとの間に、ろう材の熱疲労が原因の剥離や、絶縁板材C′およびヒートシンク板材Aに大きな熱膨張差が原因の割れの発生がなく、すぐれた熱伝導性と放熱性を発揮するようになるという知見を得たのである。
この発明は、上記知見にもとづいてなされたものであって、Al2O3焼結体からなる絶縁板材の一方面に、W,Mo,W合金、およびMo合金のうちのいずれかからなる回路形成用導体薄板材を、前記絶縁板材の他方面に、SiCまたは黒鉛からなるヒートシンク板材をそれぞれ高融点ろう材を用いて接合してなる半導体装置用基板に特徴を有するものである。
〔実施例〕
つぎに、この発明の半導体装置用基板を実施例により具体的に説明する。
第1図に示されるように、絶縁板材C′として、幅:50mm×厚さ:0.63mm×長さ:75mmの寸法をもった純度:96%のAl2O3焼結体を用意し、また第1表に示される材質からなり、かつ幅:45mm×厚さ:0.3mm×長さ:70mmの寸法をもった回路形成用導体薄板材B、並びに幅:50mm×厚さ:3mm×長さ:75mmの寸法をもったヒートシンク板材Aをそれぞれ用意し、これらをそれぞれ第1表に示される高融点ろう材Dを間にはさんで重ね合わせた状態で、真空中、温度:880℃に10分間保持の

条件でろう付けすることにより本発明基板1〜8をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、第2図に示されるように、絶縁板材C′として幅:50mm×厚さ:0.63mm×長さ:75mmの寸法をもった純度:96%のAl2O3焼結体を、また回路形成用およびはんだ付け用として、幅:45mm×厚さ:0.3mm×長さ:70mmの寸法をもった無酸素銅薄板材B′(2枚)をそれぞれ用意し、これら両者を重ね合わせた状態で、酸素:1容量%含有のAr雰囲気中、温度:1075℃に50分間保持の条件で加熱し、前記酸化性雰囲気によって形成したCu2OとCuとの共晶による液相を接合面に発生させて接合し、ついでこの接合体を厚さ:300μmのPb-60%Sn合金からなるはんだ材D′を用いて、幅:50mm×厚さ:3mm×長さ:75mmの寸法をもった無酸素銅からなるヒートシンク板材A′の片面にはんだ付けすることにより従来基板を製造した。
つぎに、この結果得られた本発明基板1〜8および従来基板に対して、温度:150℃に加熱後、−55℃に冷却を1サイクルとする繰り返し加熱冷却試験を行ない、本発明基板については、絶縁板材C′と導体薄板材Bおよびヒートシンク板材A間の剥離、並びにヒートシンク板材Aと絶縁板材C′の割れが、それぞれ発生するに至るまでのサイクル数を20サイクル毎に観察し、また従来基板については、Cu薄板材B′とヒートシンク板材A′間の剥離、および絶縁板材C′の割れが発生するに至るまでのサイクル数を同じく20サイクル毎に観察し、測定した。これらの結果を第1表に示した。
〔発明の効果〕
第1表に示される結果から、本発明基板1〜8は、苛酷な条件下での加熱・冷却の繰り返しによっても、剥離や割れの発生がないので、すぐれた熱伝導性および放熱性を示すのに対して、従来基板においては比較的早期に剥離や割れが発生することが明らかである。
上述のように、この発明の半導体装置用基板は、苛酷な温度サイクルによっても剥離や割れの発生がなく、すぐれた熱伝導性および放熱性を示すので、半導体装置の高集積化および大電力化に十分に対応することができるきわめて信頼性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明半導体装置用基板の概略説明図、第2図は従来半導体装置用基板の概略説明図である。
A,A′……ヒートシンク板材、B,B′……薄板材、C′……絶縁板材、D……高融点ろう材、D′……はんだ材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】酸化アルミニウム焼結体からなる絶縁板材の一方面に、W,Mo,W合金、およびMo合金のうちのいずれかからなる回路形成用導体薄板材を、前記絶縁板材の他方面に、炭化けい素または黒鉛からなるヒートシンク板材をそれぞれ高融点ろう材を用いて接合してなる半導体装置用基板。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2503777号
【登録日】平成8年(1996)4月2日
【発行日】平成8年(1996)6月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−247099
【出願日】昭和63年(1988)9月30日
【公開番号】特開平2−94651
【公開日】平成2年(1990)4月5日
【出願人】(999999999)三菱マテリアル株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭63−289950(JP,A)
【文献】特開昭63−65653(JP,A)
【文献】特開昭62−226645(JP,A)
【文献】特開昭61−30042(JP,A)