説明

半導体集積回路および無線通信用半導体集積回路

【課題】クロック信号を必要とする回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とする回路ブロックが同一チップ内に配置しても、所望の受信特性を確保することができる半導体集積回路の技術を提供する。
【解決手段】クロック信号を必要とするPLL130、低雑音受信特性を必要とするLNA20などを有する無線通信用半導体集積回路を適用したダイレクトコンバージョン方式の受信回路において、PLL130の入力段のクロック信号バッファ110と120の間に可変結合線路180が設けられ、クロック信号の高調波の周波数における可変結合線路180とLNA20の入力端子、GND端子の結合を等しくする。LNA20の入力端子、GND端子が同位相で励起されるのであれば、LNA20の出力には何も出力されないので、LNA20の出力はクロック信号高調波は存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路の技術に関し、特に、クロック信号を必要とする回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とする回路ブロックが同一チップ内に配置された無線通信用半導体集積回路に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信用半導体集積回路において、無線信号処理回路は、各機能ブロック(信号を増幅する増幅器、信号の周波数を変換するミキサ、信号の所望の帯域のみ通過させるフィルタなど)ごとに個別部品を用いて構成していた。これが近年の半導体技術の向上により、無線信号処理回路を構成する機能ブロックを複数、1つの半導体チップへ内蔵することが可能となってきた。1つあるいは数個の半導体チップへ内蔵された無線信号処理回路は、アンテナから受信した高周波信号を高い品質(低雑音、所望以外の帯域の信号を抑圧など)でより低い周波数帯の信号に変換する。
【0003】
無線信号処理回路を低コストで実現するためには、より多くの無線信号処理回路を構成する機能ブロックを1つの半導体チップへ内蔵する必要がある。この無線信号処理回路の一例として、図4に本発明者が本発明の前提として検討したダイレクトコンバージョン方式の受信回路のブロック図を示す。
【0004】
図4において、10はLNA(Low Noise Amplifire、以下LNAと記す)入力端子、20はLNA、30はフィルタ、40は直交ミキサ、41,42はミキサ、50は低周波信号処理部、51,52は可変利得増幅器、53,54はフィルタ、60,61は出力端子、100はクロック信号発振器、110,120はクロック信号バッファ、130はPLL(Phase Locked Loop、以下PLLと記す)、140はVCO(Voltage Controled Oscillator、以下VCOと記す)、150は90度移相回路、160は制御信号入力端子、170は制御回路、1000は半導体チップ、VCCは電源、GNDはGND、CE1〜2は容量、LE1〜4は伝送線路である。
【0005】
LNA入力端子10には、図示しないアンテナから入力された無線信号が入力する。LNA20は、この無線信号をより低雑音、低歪特性で増幅し、出力する。LNA20は、受信回路の系全体の歪特性が満たされる限り、できるだけ高利得であるようにすると、受信回路の系での低雑音特性に有利となる。LNA20の出力信号は、フィルタ30へ入力する。フィルタ30の出力は、再び半導体チップ1000へ入力する。
【0006】
無線信号処理回路を低コストで実現するためには、より多くの無線信号処理回路を構成する機能ブロックを1つの半導体チップへ内蔵する必要があるが、一般に、フィルタ30は、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルタ、誘電体フィルタなどが用いられる。フィルタ30により所望以外の帯域に存在する信号を抑圧するのであるが、SAWフィルタや誘電体フィルタの半導体チップ内蔵化はできない。従って、フィルタ30は半導体チップ1000の外部に存在する。
【0007】
クロック信号発振器100より発生したクロック信号は、半導体チップ1000へ入力し、クロック信号バッファ110,120で増幅され、PLL130、制御回路170へ供給される。制御回路170は、制御信号入力端子160から入力された制御信号により、LNA20、可変利得増幅器51,52の利得切り替え、PLL130の分周比の設定などを行う。
【0008】
LNA20の利得切り替えは、図示しないアンテナからLNA入力端子10に入力された無線信号の信号レベルがフィルタ30以降の受信回路の系の歪特性が悪くなる程高いとき、低い利得へ切り替わる。逆に、図示しないアンテナからLNA入力端子10に入力された無線信号の信号レベルがフィルタ30以降の受信回路の系の歪特性に影響を及ぼすほど高くないとき、高い利得へ切り替わる。このようにすることで、この受信回路の系の雑音特性、歪特性は最適となる。
【0009】
可変利得増幅器51,52の利得切り替えは、出力端子60,61以降に存在する図示しない復調回路で定められた信号レベル範囲に出力端子60,61から出力される信号レベルが存在するように利得切り替えされる。
【0010】
PLL130は、VCO140の発振周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比だけ分周した信号と、クロック信号バッファ120からのクロック信号周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比だけ分周した信号との周波数を比較し、その誤差が所望のレベル以下になるように制御することで、VCO140の発振周波数を決定する出力電圧をVCO140へ出力する。
【0011】
例えば、クロック信号バッファ120からのクロック信号周波数がfR、クロック信号バッファ120からのクロック信号周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比をR、VCO140の発振周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比をNとすると、VCO170の発振周波数fVCOは、
fVCO=fR×N/R
となる。これにより、VCO140は、受信チャネルにより異なる周波数で発振するように制御される。図4は、ダイレクトコンバージョン方式の受信回路であるので、受信チャネルの中心周波数とミキサ41,42へ供給される発振信号の周波数は等しくなるように制御する。
【0012】
VOC140からの発振信号は、その同一位相でミキサ41へ、90度移相回路150で90度異なる位相に変換され、ミキサ42へ入力される。ミキサ41の出力信号は、可変利得増幅器51で所望のレベルに増幅され、フィルタ53により所望チャネル帯域以外の信号を抑圧し、出力端子60より出力される。ミキサ42の出力信号は、可変利得増幅器52で所望のレベルに増幅され、フィルタ54により所望チャネル帯域以外の信号を抑圧し、出力端子61より出力される。
【0013】
ミキサ41,42は、直交ミキサと呼ばれ、図4では直交ミキサ40と記している。可変利得増幅器51,52、フィルタ53,54は、直交ミキサ40により所望チャネル帯域の低周波信号に周波数変換された低周波信号の処理を行い、図4では、低周波信号処理部50と記している。
【0014】
電源VCCは、半導体チップ1000の電源を供給する電源である。この電源は、伝送線路LE1〜4を経て半導体チップ1000へ入力する。LNA20の電源には容量CE2が、クロック信号バッファ110,120の電源には容量CE1が挿入され、伝送線路LE1〜4の影響により高くなってしまう電源VCCのインピーダンスを交流的に短絡することにより、雑音などによる特性劣化や誤動作を抑える。
【非特許文献1】3GPP TS 25.101
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、上記図4のダイレクトコンバージョン方式の受信回路は、1つの小さな半導体チップ上に、低雑音動作を要求されるLNA20と、クロック信号を必要とするPLL130が混在している。
【0016】
クロック信号が周波数f[Hz]、最高振幅A[V]、最高振幅期間1/(2f)[sec]、最低振幅0[V]、最低振幅期間1/(2f)[sec]の矩形波であるとする。この矩形波は、時間tの関数f(t)として、
【0017】
【数1】

という無限級数で表すことができる。
【0018】
この式は、クロック信号は、クロック信号の周波数fの奇数倍の周波数成分を有する信号の和信号で表現できることを表す。即ち、クロック信号の奇数倍の周波数帯に無線信号処理回路で処理する受信信号の周波数帯が存在すると、この奇数倍の高調波がLNAの入力ラインへ飛び込み、受信特性を劣化させる。実際は、クロック信号の波形は、上記理想矩形波ではないため、奇数倍だけでなく偶数倍の高調波も存在し、この高調波がLNAの入力ラインへ飛び込み、受信特性を劣化させることになる。
【0019】
例えば、クロック信号を26MHz、0dBmの矩形波で供給したものとする。また、半導体チップ1000へのクロック信号入力端子とLNA20への入力端子のアイソレーションが50dBとする。LNAの受信帯域がWCDMAのBand1(2110〜2170MHz)とすると、26MHzの83倍高調波、即ち26×83=2158MHzが受信帯域に入ることになる。
【0020】
上式から、83倍高調波は基本波レベルの1/83になるので、[半導体チップ1000へのクロック信号入力端子へのクロックレベル]−20×log(83)−[半導体チップ1000へのクロック信号入力端子とLNA20への入力端子のアイソレーション]=0−20×log(83)−50=−88.4dBmとなる。WCDMAの規格(非特許文献1)では、−100dBmよりも小さな信号を受信しなければならないと定められているため、−88.4dBmものクロック信号高調波が存在する限り、実用化できない。
【0021】
半導体チップ1000へのクロック信号入力端子とLNA20への入力端子のアイソレーションを大きくする手段は、半導体チップやパッケージサイズを大きくすることと等価であるため、実装面積だけでなくコストが増大するので好ましくない。
【0022】
LNA20を半導体チップ1000とは別チップとする案も、実装面積だけでなくコストが増大する。LNA20を差動型にし、クロック信号高調波をキャンセルする案は、ピン数増大、消費電流増大となり、これも好ましくない。
【0023】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、クロック信号を必要とする回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とする回路ブロックが同一チップ内に配置しても、所望の受信特性を確保することができる半導体集積回路の技術を提供することにある。
【0024】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0026】
本発明は、半導体集積回路に適用され、電源電圧ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第1の回路と、信号ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第2の回路と、第1の回路のN個のスイッチと第2の回路のN個のスイッチとを任意にオンオフする2Nビットのレジスタとを有することを特徴とする。これにより、任意の半導体集積回路間の結合度を可変にすることができる。
【0027】
また、本発明は、無線通信用半導体集積回路に応用することも可能であり、入力端子からの信号を増幅して出力するLNAと、入力電圧の電圧値により発振周波数を可変するVCOと、制御信号入力端子からの制御信号をVCOとLNAへ送出する制御回路と、制御回路からの制御信号を受け、クロック信号発振器の出力とVCOの発振周波数を比較し、VCO発振周波数を制御信号とクロック信号周波数の関数になるように制御するPLLと、VCOの発振信号を90度異なる位相にシフトする90度移相回路と、90度移相回路の出力信号またはVCOの発振信号とフィルタの出力信号を乗算し、90度移相回路の出力信号周波数またはVCOの発振信号周波数とフィルタの出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力するミキサ回路とを有し、PLLの入力段に、LNAの入力端子とLNAのグランド端子への結合度を可変する可変結合線路が設けられていることを特徴とする。これにより、クロック信号を必要とする回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とする回路ブロックが同一チップ内に配置しても、所望の受信特性を確保することができる。
【0028】
具体的に、本発明の無線通信用半導体集積回路は、入力端子からの信号を低雑音、低歪特性で、かつ所望の利得で増幅して出力するLNAと、入力電圧の電圧値により発振周波数を可変するVCOと、入力信号をより所望の利得で増幅して出力する第1の可変利得増幅器と、第1の可変利得増幅器と等しい第2の可変利得増幅器と、VCOの発振周波数を設定する第1の制御信号とLNAの利得値を設定する第2の制御信号と第1および第2の可変利得増幅器の利得値を設定する第3の制御信号とを入力する制御信号入力端子と、制御信号入力端子からの第1、第2、第3の制御信号をそれぞれVCO、LNA、第1および第2の可変利得増幅器へ送出する制御回路と、クロック信号発振器の出力を増幅する第1のクロック信号バッファと、第1のクロック信号バッファの出力を増幅する第2のクロック信号バッファと、制御回路からの第1の制御信号を受け、第2のクロック信号バッファの出力とVCOの発振周波数を比較し、VCO発振周波数を第1の制御信号とクロック信号周波数の関数になるように制御するPLLと、VCOの発振信号とフィルタの出力信号を乗算し、VCOの発振信号周波数とフィルタの出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力する第1のミキサと、VCOの発振信号を90度異なる位相にシフトする90度移相回路と、90度移相回路の出力信号とフィルタの出力信号を乗算し、90度移相回路の出力信号周波数とフィルタの出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力する第2のミキサと、第1のミキサの出力を第1の可変利得増幅器で所望の利得に増幅したのち出力した信号から所望以外の帯域に存在する信号を抑圧する第1のフィルタと、第2のミキサの出力を第2の可変利得増幅器で所望の利得に増幅したのち出力した信号から所望以外の帯域に存在する信号を抑圧する第2のフィルタとを有し、第1のクロック信号バッファと第2のクロック信号バッファの間に、LNAの入力端子とLNAのグランド端子への結合度を可変する可変結合線路が設けられていることを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明の無線通信用半導体集積回路において、可変結合線路は、電源電圧ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第1の回路と、信号ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第2の回路と、第1の回路のN個のスイッチと第2の回路のN個のスイッチとを任意にオンオフする2Nビットのレジスタとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0031】
本発明によれば、クロック信号を必要とする回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とする回路ブロックが同一チップ内に配置しても、所望の受信特性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
図1に、本発明の無線通信用半導体集積回路を適用した一実施の形態であるダイレクトコンバージョン方式の受信回路のブロック図を示す。
【0034】
図1において、10はLNA入力端子、20はLNA、30はフィルタ、40は直交ミキサ、41,42はミキサ、50は低周波信号処理部、51,52は可変利得増幅器、53,54はフィルタ、60,61は出力端子、100はクロック信号発振器、110,120はクロック信号バッファ、130はPLL、140はVCO、150は90度移相回路、160は制御信号入力端子、170は制御回路、180は可変結合線路、1000は半導体チップ、VCCは電源、GNDはGND、CE1〜2は容量、LE1〜4は伝送線路である。
【0035】
本実施の形態のダイレクトコンバージョン方式の受信回路は、LNA20、VCO140、第1の可変利得増幅器51、第2の可変利得増幅器52、制御信号入力端子160、制御回路170、第1のクロック信号バッファ110、第2のクロック信号バッファ120、PLL130、第1のミキサ41、90度移相回路150、第2のミキサ42、第1のフィルタ53、第2のフィルタ54、可変結合線路180などを有し、これらの機能ブロックが同一の半導体チップ1000内に配置して構成されている。これらの各機能ブロックは、主に以下のような機能を備えている。
【0036】
LNA20は、LNA入力端子10からの信号を低雑音、低歪特性で、かつ所望の利得で増幅して出力する。VCO140は、PLL130からの入力電圧の電圧値により発振周波数を可変する。
【0037】
可変利得増幅器51は、ミキサ41からの入力信号をより所望の利得で増幅して出力する。可変利得増幅器52は、可変利得増幅器51と等しく、ミキサ42からの入力信号をより所望の利得で増幅して出力する。
【0038】
制御信号入力端子160は、VCO140の発振周波数を設定する第1の制御信号とLNA20の利得値を設定する第2の制御信号と可変利得増幅器51,52の利得値を設定する第3の制御信号とを入力する。
【0039】
制御回路170は、制御信号入力端子160からの第1、第2、第3の制御信号をそれぞれVCO140、LNA20、可変利得増幅器51,52へ送出する。
【0040】
クロック信号バッファ110は、クロック信号発振器100の出力を増幅する。クロック信号バッファ120は、クロック信号バッファ110の出力を増幅する。
【0041】
PLL130は、制御回路170からの第1の制御信号を受け、クロック信号バッファ120の出力とVCO140の発振周波数を比較し、VCO発振周波数を第1の制御信号とクロック信号周波数の関数になるように制御する。90度移相回路150は、VCO140の発振信号を90度異なる位相にシフトする。
【0042】
ミキサ41は、VCO140の発振信号とフィルタ30の出力信号を乗算し、VCO140の発振信号周波数とフィルタ30の出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力する。ミキサ42は、90度移相回路150の出力信号とフィルタ30の出力信号を乗算し、90度移相回路150の出力信号周波数とフィルタ30の出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力する。
【0043】
フィルタ53は、ミキサ41の出力を可変利得増幅器51で所望の利得に増幅したのち出力した信号から所望以外の帯域に存在する信号を抑圧する。フィルタ54は、ミキサ42の出力を可変利得増幅器52で所望の利得に増幅したのち出力した信号から所望以外の帯域に存在する信号を抑圧する。
【0044】
可変結合線路180は、クロック信号バッファ110とクロック信号バッファ120の間に、LNA20の入力端子とLNA20のグランド端子への結合度を可変する。
【0045】
次に、本実施の形態のダイレクトコンバージョン方式の受信回路の動作を、図1を用いて説明する。
【0046】
LNA入力端子10には、図示しないアンテナから入力された無線信号が入力する。LNA20は、この無線信号をより低雑音、低歪特性で増幅し、出力する。LNA20は、受信回路の系全体の歪特性が満たされる限り、できるだけ高利得であるようにすると、受信回路の系での低雑音特性に有利となる。LNA20の出力信号は、フィルタ30へ入力する。フィルタ30の出力は、再び半導体チップ1000へ入力する。
【0047】
無線信号処理回路を低コストで実現するためには、より多くの無線信号処理回路を構成する機能ブロックを1つの半導体チップへ内蔵する必要があるが、一般に、フィルタ30は、SAWフィルタ、誘電体フィルタなどが用いられる。フィルタ30により所望以外の帯域に存在する信号を抑圧するのであるが、SAWフィルタや誘電体フィルタの半導体チップ内蔵化はできない。従って、フィルタ30は半導体チップ1000の外部に存在する。
【0048】
クロック信号発振器100より発生したクロック信号は、半導体チップ1000へ入力し、クロック信号バッファ110,120で増幅され、PLL130、制御回路170へ供給される。
【0049】
図1には図4と異なり、クロック信号バッファ110とクロック信号バッファ120の間に可変結合線路180がある。可変結合線路180は、クロック信号とLNA20の入力端子、GND端子の結合を等しくする目的で挿入される。LNA20の入力端子、GND端子が同位相で励起されるのであれば、LNA20の出力には何も出力されない。つまり、結合度を可変にし、クロックの高調波がLNA20の入力端子、GND端子を同位相で励起するようにすれば、クロックの高調波に関するLNA20の出力信号はキャンセルされることになる。
【0050】
可変結合線路180の一例を図2に示す。図2において、C11,C12,C21,C22,・・・,CN1,CN2は容量、SW11,SW12,SW21,SW22,・・・,SWN1,SWN2はスイッチ、LVCC1,LVCC2,・・・,LVCCNは伝送線路、LGND1,LGND2,・・・,LGNDNは伝送線路、LCLK1,LCLK2,・・・,LCLKNは伝送線路、500は2Nビットレジスタである。
【0051】
可変結合線路180には、3本の線路が存在する。電源電圧ラインであるVCCライン(VCCin〜VCCout)、クロック信号が通過する信号ラインであるCLKライン(CLKin〜CLKout)、グランドラインであるGNDライン(GNDin〜GNDout)である。
【0052】
VCC−GNDライン間には、直列接続したスイッチSWn1と容量Cn1(n=1,2,・・・,N)が挿入される。CLK−GNDライン間には、直列接続したスイッチSWn2と容量Cn2(n=1,2,・・・,N)が挿入される。
【0053】
VCCラインには、伝送線路LVCC1の他、スイッチSWa1(a=1,2,・・・,N−1)とスイッチSWb1(b=a+1)の間に伝送線路LVCCbが挿入される。GNDラインには、伝送線路LGND1の他、容量Ca1(a=1,2,・・・,N−1)と容量Cb1(b=a+1)の間に伝送線路LGNDbが挿入される。CLKラインには、伝送線路LCLK1の他、スイッチSWa2(a=1,2,・・・,N−1)とスイッチSWb2(b=a+1)の間に伝送線路LCLKbが挿入される。
【0054】
VCC−GNDライン間のN個のスイッチSWn1と、CLK−GNDライン間のN個のスイッチSWn2は、2Nビットレジスタ500で任意にオンオフされる。スイッチSWn1がオンされるとVCCラインは容量Cn1と短絡され、オフされると開放される。スイッチSWn2がオンされるとCLKラインは容量Cn2と短絡され、オフされると開放される。
【0055】
一般に、ラインのインダクタンスはラインの長さの関数である。従って、スイッチSWn1、スイッチSWn2をオンオフすることでラインのインダクタンスを可変することができる。ラインのインダクタンスが可変すると、ラインからLNA20の入力端子への結合度とラインからLNA20のGND端子への結合度を可変させ、等しくすることができる。
【0056】
しかし、クロック信号バッファ110,120やそのVCC、GND、CLKラインとLNA20のチップ上の相対的な位置関係に関係し、シミュレーションなどで事前に高調波の発生を想定した設計をするのは困難である。従って、完成したボード上に半導体チップ1000を実装し、2Nビットレジスタ500のレジスタ値をスイープし、各高調波毎に最適レジスタ値を実験的に決める。
【0057】
複数の金属が存在すると、それらは相互に相互インダクタンスを有する。ここで問題となるのは、可変結合線路180にある3本の線路とLNA20の入力端子のライン、LNA20のGND端子のラインである。可変結合線路180の3本の線路中、VCCラインとGNDラインはその間に必ず容量を意図的に挿入するので、クロック信号の高調波のような高周波信号ではほぼ短絡状態とみなされるため、回路的には同一金属とみなされる。
【0058】
従って、可変結合線路180は、可変結合線路180のVCCラインとGNDラインペアとLNA20の入力端子のライン間の相互インダクタンス、可変結合線路180のVCCラインとGNDラインペアとLNA20のGND端子のライン間の相互インダクタンス、可変結合線路180のCLKラインとLNA20の入力端子のライン間の相互インダクタンス、可変結合線路180のCLKラインとLNA20のGND端子のライン間の相互インダクタンスを、2Nビットレジスタ500のレジスタ値をスイープすることで変化させ、各高調波毎にクロックの高調波がLNA20の入力端子、GND端子を同位相で励起するように最適レジスタ値を実験的に求め、所望帯域内のクロック信号高調波を抑圧する機能を有するものである。
【0059】
図1に戻り、ダイレクトコンバージョン方式の受信回路の動作の続きを説明する。
【0060】
制御回路170は、制御信号入力端子160から入力された制御信号により、LNA20、可変利得増幅器51,52の利得切り替え、PLL130の分周比の設定などを行う。
【0061】
LNA20の利得切り替えは、図示しないアンテナからLNA入力端子10に入力された無線信号の信号レベルがフィルタ30以降の受信回路の系の歪特性が悪くなる程高いとき、低い利得へ切り替わる。逆に、図示しないアンテナからLNA入力端子10に入力された無線信号の信号レベルがフィルタ30以降の受信回路の系の歪特性に影響を及ぼすほど高くないとき、高い利得へ切り替わる。このようにすることで、この受信回路の系の雑音特性、歪特性は最適となる。
【0062】
可変利得増幅器51,52の利得切り替えは、出力端子60,61以降に存在する図示しない復調回路で定められた信号レベル範囲に出力端子60,61から出力される信号レベルが存在するように利得切り替えされる。
【0063】
PLL130は、VCO140の発振周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比だけ分周した信号と、クロック信号バッファ120からのクロック信号周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比だけ分周した信号との周波数を比較し、その誤差が所望のレベル以下になるように制御することで、VCO140の発振周波数を決定する出力電圧をVCO140へ出力する。
【0064】
例えば、クロック信号バッファ120からのクロック信号周波数がfR、クロック信号バッファ120からのクロック信号周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比をR、VCO140の発振周波数を制御回路170からの制御信号により定められた分周比をNとすると、VCO170の発振周波数fVCOは、
fVCO=fR×N/R
となる。これにより、VCO140は受信チャネルにより異なる周波数で発振するように制御される。図1は図4と同様、ダイレクトコンバージョン方式の受信回路であるので、受信チャネルの中心周波数とミキサ41,42へ供給される発振信号の周波数は等しくなるように制御する。
【0065】
VOC140からの発振信号は、その同一位相でミキサ41へ、90度移相回路150で90度異なる位相に変換され、ミキサ42へ入力される。ミキサ41の出力信号は、可変利得増幅器51で所望のレベルに増幅され、フィルタ53により所望チャネル帯域以外の信号を抑圧し、出力端子60より出力される。ミキサ42の出力信号は、可変利得増幅器52で所望のレベルに増幅され、フィルタ54により所望チャネル帯域以外の信号を抑圧し、出力端子61より出力される。
【0066】
ミキサ41,42は、直交ミキサと呼ばれ、図1では直交ミキサ40と記している。可変利得増幅器51,52、フィルタ53,54は、直交ミキサ40により所望チャネル帯域の低周波信号に周波数変換された低周波信号の処理を行い、図1では、低周波信号処理部50と記している。
【0067】
電源VCCは、半導体チップ1000の電源を供給する電源である。この電源は、伝送線路LE1〜4を経て半導体チップ1000へ入力する。LNA20の電源には容量CE2が、クロック信号バッファ110,120の電源には容量CE1が挿入され、伝送線路LE1〜4の影響により高くなってしまう電源VCCのインピーダンスを交流的に短絡することにより、雑音などによる特性劣化や誤動作を抑える。
【0068】
図3は、本実施の形態のダイレクトコンバージョン方式の受信回路において、クロック高調波による受信妨害調整手順を示すフローチャートである。
【0069】
まず、クロック高調波による受信妨害調整が開始されると(ステップ1100)、ステップ1110でLNA入力端子10は所望のインピーダンスで終端し、ステップ1120でクロック高調波による受信妨害が予想されるチャネル(クロック周波数の整数倍が受信チャネル内に存在するチャネル)の受信状態になるように制御信号入力端子160より制御信号を入力する。
【0070】
次に、ステップ1130で2Nビットレジスタ500のレジスタ値を0に設定する。そして、ステップ1140に示すように、図1のダイレクトコンバージョン方式の受信回路により、クロック高調波が直交ミキサ40にダウンコンバートされた信号を出力端子60,61より測定する。この測定結果をステップ1150で判定し、所望レベル未満であれば(YES)、問題ないので別の未測定な未調整のクロック高調波による受信妨害が予想されるチャネルの調整に移り(ステップ1160,1170)、所望レベル以上であれば(NO)、2Nビットレジスタ500のレジスタ値を1増やす(ステップ1200)。
【0071】
さらに、2Nビットレジスタ500のレジスタ値を増やした後、ステップ1180で2Nビットレジスタ500の値が(2の2N乗)−1を越えるか否かを判定し、越えないようであれば(NO)、出力端子60,61のレベル測定を繰り返す(ステップ1140)。
【0072】
もし、ステップ1180で2Nビットレジスタ500の値が(2の2N乗)−1を超えるようであれば(YES)、半導体チップ1000内に作り込んだ可変結合線路180では対策できないことになるので、該当チャネルは、半導体チップ1000の実装ボードで対策するか、半導体チップ1000の改修が必要となる(ステップ1190)。
【0073】
そして、ステップ1170でクロック高調波による受信妨害が予想される未調整チャネルの受信状態になるように制御信号入力端子160より制御信号を入力し、ステップ1160で全てのクロック高調波による受信妨害が予想される未調整チャネルの調整が終わり(NO)、各チャネルに最適な2Nビットレジスタ500の値が決定すれば、図1のダイレクトコンバージョン方式の受信回路のクロック高調波による受信妨害対策は終了したことになる(ステップ1210)。
【0074】
以上説明した本実施の形態によれば、クロック信号バッファ110とクロック信号バッファ120の間に可変結合線路180を設け、クロック信号の高調波の周波数における可変結合線路180とLNA20の入力端子、GND端子の結合を等しくすることにより、クロック信号を必要とするPLL130などの回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とするLNA20などの回路ブロックが同一の半導体チップ1000内に配置しても、所望の受信特性を確保することができる。
【0075】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0076】
例えば、前記実施の形態においては、ダイレクトコンバージョン方式の受信回路に適用した場合を説明したが、本発明は、クロック信号がLNAへ及ぼす影響を改善するものであるから、ダイレクトコンバージョン方式の受信回路であるかないかは問題ではなく、他の受信方式へ応用することができる。
【0077】
さらに、本発明は、無線通信用半導体集積回路に限らず、他の任意の半導体集積回路に適用することも可能である。この場合には、任意の半導体集積回路間の結合度を可変にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、半導体集積回路の技術に関し、特に、クロック信号を必要とする回路ブロックと、低雑音受信特性を必要とする回路ブロックが同一チップ内に配置された無線通信用半導体集積回路に適用して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の無線通信用半導体集積回路を適用した一実施の形態であるダイレクトコンバージョン方式の受信回路を示すブロック図である。
【図2】本発明の無線通信用半導体集積回路を適用した一実施の形態であるダイレクトコンバージョン方式の受信回路において、可変結合線路の一例を示す図である。
【図3】本発明の無線通信用半導体集積回路を適用した一実施の形態であるダイレクトコンバージョン方式の受信回路において、クロック高調波による受信妨害調整手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の前提として検討したダイレクトコンバージョン方式の受信回路を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0080】
10…LNA入力端子、20…LNA、30…フィルタ、40…直交ミキサ、41,42…ミキサ、50…低周波信号処理部、51,52…可変利得増幅器、53,54…フィルタ、60,61…出力端子、100…クロック信号発振器、110,120…クロック信号バッファ、130…PLL、140…VCO、150…90度移相回路、160…制御信号入力端子、170…制御回路、180…可変結合線路、500…2Nビットレジスタ、1000…半導体チップ、VCC…電源、GND…GND、CE1〜2…容量、LE1〜4…伝送線路、C11,C12,C21,C22,・・・,CN1,CN2…容量、SW11,SW12,SW21,SW22,・・・,SWN1,SWN2…スイッチ、LVCC1,LVCC2,・・・,LVCCN…伝送線路、LGND1,LGND2,・・・,LGNDN…伝送線路、LCLK1,LCLK2,・・・,LCLKN…伝送線路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第1の回路と、
信号ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第2の回路と、
前記第1の回路のN個のスイッチと前記第2の回路のN個のスイッチとを任意にオンオフする2Nビットのレジスタとを有することを特徴とする半導体集積回路。
【請求項2】
入力端子からの信号を増幅して出力するLNAと、
入力電圧の電圧値により発振周波数を可変するVCOと、
制御信号入力端子からの制御信号を前記VCOと前記LNAへ送出する制御回路と、
前記制御回路からの制御信号を受け、クロック信号発振器の出力と前記VCOの発振周波数を比較し、VCO発振周波数を制御信号とクロック信号周波数の関数になるように制御するPLLと、
前記VCOの発振信号を90度異なる位相にシフトする90度移相回路と、
前記90度移相回路の出力信号または前記VCOの発振信号とフィルタの出力信号を乗算し、前記90度移相回路の出力信号周波数または前記VCOの発振信号周波数と前記フィルタの出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力するミキサ回路とを有し、
前記PLLの入力段に、前記LNAの入力端子と前記LNAのグランド端子への結合度を可変する可変結合線路が設けられていることを特徴とする無線通信用半導体集積回路。
【請求項3】
請求項2記載の無線通信用半導体集積回路において、
前記可変結合線路は、
電源電圧ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第1の回路と、
信号ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第2の回路と、
前記第1の回路のN個のスイッチと前記第2の回路のN個のスイッチとを任意にオンオフする2Nビットのレジスタとを有することを特徴とする無線通信用半導体集積回路。
【請求項4】
入力端子からの信号を低雑音、低歪特性で、かつ所望の利得で増幅して出力するLNAと、
入力電圧の電圧値により発振周波数を可変するVCOと、
入力信号をより所望の利得で増幅して出力する第1の可変利得増幅器と、
前記第1の可変利得増幅器と等しい第2の可変利得増幅器と、
前記VCOの発振周波数を設定する第1の制御信号と前記LNAの利得値を設定する第2の制御信号と前記第1および第2の可変利得増幅器の利得値を設定する第3の制御信号とを入力する制御信号入力端子と、
前記制御信号入力端子からの第1、第2、第3の制御信号をそれぞれ前記VCO、前記LNA、前記第1および第2の可変利得増幅器へ送出する制御回路と、
クロック信号発振器の出力を増幅する第1のクロック信号バッファと、
前記第1のクロック信号バッファの出力を増幅する第2のクロック信号バッファと、
前記制御回路からの第1の制御信号を受け、前記第2のクロック信号バッファの出力と前記VCOの発振周波数を比較し、VCO発振周波数を第1の制御信号とクロック信号周波数の関数になるように制御するPLLと、
前記VCOの発振信号とフィルタの出力信号を乗算し、前記VCOの発振信号周波数と前記フィルタの出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力する第1のミキサと、
前記VCOの発振信号を90度異なる位相にシフトする90度移相回路と、
前記90度移相回路の出力信号と前記フィルタの出力信号を乗算し、前記90度移相回路の出力信号周波数と前記フィルタの出力信号周波数の和周波数成分あるいは差周波数成分を出力する第2のミキサと、
前記第1のミキサの出力を前記第1の可変利得増幅器で所望の利得に増幅したのち出力した信号から所望以外の帯域に存在する信号を抑圧する第1のフィルタと、
前記第2のミキサの出力を前記第2の可変利得増幅器で所望の利得に増幅したのち出力した信号から所望以外の帯域に存在する信号を抑圧する第2のフィルタとを有し、
前記第1のクロック信号バッファと前記第2のクロック信号バッファの間に、前記LNAの入力端子と前記LNAのグランド端子への結合度を可変する可変結合線路が設けられていることを特徴とする無線通信用半導体集積回路。
【請求項5】
請求項4記載の無線通信用半導体集積回路において、
前記可変結合線路は、
電源電圧ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第1の回路と、
信号ラインとグランドライン間に、直列接続したスイッチと容量をN個並列に挿入した第2の回路と、
前記第1の回路のN個のスイッチと前記第2の回路のN個のスイッチとを任意にオンオフする2Nビットのレジスタとを有することを特徴とする無線通信用半導体集積回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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