説明

半導電性シームレスベルトおよびその製法

【課題】両端縁部の亀裂耐久性を充分に有することで、補強テープ等を貼着しなくても、機器の小型化、印刷速度の高速化および機器の長寿命化に対応することができる半導電性シームレスベルトおよびその製法を提供する。
【解決手段】半導電性シームレスベルトの両端縁部の導電剤含有率を、端縁に向かって減少させている。この半導電性シームレスベルトの製法は、円筒状の基体1を回転させながら、その外周面に向かってノズル2から液体材料Cを塗布し、螺旋状塗膜4の連続による略円筒状塗膜を形成する際に、始端部分では液体材料Cの導電剤含有率を徐々に増加し、中間部分では増加させた最終値を保ち、終端部分では最終値から徐々に減少して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルカラー複写機,フルカラープリンター等の電子写真技術を採用した機器において、感光体上のトナー像を写し取る中間転写ベルト等に用いられる半導電性シームレスベルトおよびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記半導電性シームレスベルトは、略円筒状に形成されており、フルカラー複写機等に組込まれた状態では、左右2つまたはそれ以上のローラに張架されている。そして、上記ローラが回転駆動することにより、半導電性シームレスベルトが走行するようになっている。
【0003】
そして、上記半導電性シームレスベルトの配置上ないしは機器の小型化の要請上、上記ローラに掛けられている部分では、半導電性シームレスベルトの曲率半径が小さくなっている箇所があり、しかも、最近の印刷速度の高速化に対応して、半導電性シームレスベルトの走行速度が上昇してきている。このため、半導電性シームレスベルトにかかる機械的な負荷が大きくなってきており、半導電性シームレスベルトの両端縁部で割れが発生し易くなっている。また、機器の長寿命化設計に伴い、半導電性シームレスベルトの割れ(亀裂)に対する高耐久性が求められている。
【0004】
そこで、半導電性シームレスベルトの亀裂耐久性向上を目的として、半導電性シームレスベルトの両端縁部に、補強テープを全周にわたって貼着することにより、両端縁部での割れを防止することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−289535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の半導電性シームレスベルトでは、補強テープの剥がれの問題や、部品コストアップおよび加工コストアップの問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、両端縁部の亀裂耐久性を充分に有することで、補強テープ等を貼着しなくても、機器の小型化、印刷速度の高速化および機器の長寿命化に対応することができる半導電性シームレスベルトおよびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、導電剤を含有する略円筒状の半導電性シームレスベルトであって、幅方向の両端縁部に挟まれた中間部の導電剤含有率が所定範囲内に設定され、その両端縁部の導電剤含有率が、上記中間部の導電剤含有率を基準にし、それぞれ端縁に向かって減少している構造を有している半導電性シームレスベルトを第1の要旨とする。
【0008】
また、本発明は、周方向に回転駆動される円筒状ないし円柱状の基体と、半導電性シームレスベルト形成用の液体材料を吐出するノズルとを準備し、上記液体材料をノズルから吐出させながら、そのノズルと上記基体とを基体の軸方向に沿って相対的に移動させることにより、回転駆動状態の上記基体の外周面に液体材料を螺旋状に塗布してその螺旋状塗膜の連続による略円筒状塗膜を形成し、ついで、それを硬化させた後、上記基体から脱型することにより、上記半導電性シームレスベルトを得る半導電性シームレスベルトの製法であって、上記液体材料のノズルからの吐出が、始端部分と中間部分と終端部分とで異なり、始端部分では、上記螺旋状塗膜の形成開始から上記基体の所定周回まで上記液体材料の導電剤含有率を徐々に増加して行われ、中間部分では、上記増加させた導電剤含有率の最終値を保って行われ、終端部分では、上記最終値から導電剤含有率を徐々に減少して行われる半導電性シームレスベルトの製法を第2の要旨とする。
【0009】
本発明者らは、半導電性シームレスベルトの両端縁部の亀裂耐久性を強化することができ、しかも、機器の小型化、印刷速度の高速化および機器の長寿命化にも対応可能にすることを目的とし、半導電性シームレスベルトの形成材料を中心に研究を重ねた。その過程で、半導電性シームレスベルトに含有されている導電剤がベルト自体の強度を弱めているという知見を得た。この知見に基づいて、半導電性シームレスベルトの両端縁部だけを、導電剤を含有しない状態にして研究を行った。しかし、そのようにすると、その両端縁部と、それらの間の中間部との機械的性質(強度等)の差が大きくなり、半導電性シームレスベルトにかけられた引っ張り荷重や走行中の駆動荷重等により、両端縁部とそれらの間の中間部との境界面(接触面)に応力が集中する。その結果、半導電性シームレスベルトの使用期間が長くなるにつれて、上記両端縁部とそれらの間の中間部との境界面(接触面)に割れが発生することが判明した。この研究結果に基づき、さらに研究を重ねた結果、両端縁部の導電剤含有率を、端縁に向かって低下させると、応力が分散され、割れが防止されるとともに、補強テープを貼着しなくても、両端縁部の亀裂耐久性が充分に得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導電性シームレスベルトは、両端縁部の導電剤含有率が、それぞれの端縁に向かって低下しているため、上記両端縁部の間の中間部よりも屈曲性が向上している。これにより、両端縁部に補強テープを貼着しなくても、両端縁部の強度を充分に得られるようになり、両端縁部での割れを防止することができる。そして、補強テープを貼着しなくてすむため、補強テープの剥がれの問題や、部品コストアップおよび加工コストアップの問題が解消され、機器の小型化、印刷速度の高速化および機器の長寿命化に対応することができる。
【0011】
また、本発明の半導電性シームレスベルトの製法は、円筒状ないし円柱状の基体の外周面に、半導電性シームレスベルト形成用の液体材料をノズルから吐出させることにより、螺旋状塗膜の連続による略円筒状塗膜を形成し、この略円筒状塗膜を乾燥させて半導電性シームレスベルトを得ているため、上記液体材料の吐出を、始端部分では、上記液体材料の導電剤含有率を徐々に増加して行い、中間部分では、上記増加させた最終値を保って行い、終端部分では、上記最終値から徐々に減少して行うことにより、本発明の半導電性シームレスベルトを容易に作製することができる。
【0012】
特に、上記半導電性シームレスベルト形成用の液体材料として、導電剤を含有する液体材料Aと導電剤を含有しない液体材料Bとを準備し、上記螺旋状塗膜を形成する際に、上記液体材料Aと液体材料Bとの相互の割合を調節することにより、ノズルから吐出する液体材料の導電剤含有率を調節するようにした場合には、両端縁部での導電剤含有率の調節を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0014】
図1は本発明の半導電性シームレスベルト一実施の形態を示している。この半導電性シームレスベルト10は、略円筒状のものであり、その一部の幅方向断面図(II−II断面図)である図2に示すように、画像転写領域である中間部12の導電剤含有率が均一になっており、その中間部12の幅方向外側の左右両端縁部11,13の導電剤含有率が、上記中間部12の導電剤含有率よりも端縁に向かって段階的に低くなっている。より詳しく説明すると、図2は、上記半導電性シームレスベルト10を幅方向(軸方向)で切断した場合の切断面Sにおける導電剤含有率の状態を模式的にグラフで示している。図2において、Wは、導電剤含有率が段階的に変化している端縁部11,13の幅であり、Vは、導電剤含有率が変化する段階の幅であり、Xm (m=1,2,…n)は、各段階の導電剤含有率である。
【0015】
このような半導電性シームレスベルト10は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、図3に示すように、まず、円筒状ないし円柱状(図3では円筒状)の基体1と、半導電性シームレスベルト形成用の液体材料を吐出するノズル2とを準備する。上記半導電性シームレスベルト形成用の液体材料は、導電剤を含有する液体材料Aと導電剤を含有しない液体材料Bの2種類を準備し、各液体材料A,Bをそれぞれ別のエアー加圧タンクTA ,TB に収容する。そして、各エアー加圧タンクTA ,TB と上記ノズル2とをチューブ3で接続し、上記各液体材料A,Bが所定の割合で混合されてノズル2から吐出されるようにする。
【0016】
ついで、上記基体1を従来公知の回転装置(図示せず)に取り付け、また、上記ノズル2を従来公知のスライド装置(図示せず)に取り付ける。そして、上記ノズル2を上記基体1の外周面に近接する位置に位置決めするとともに、そのノズル2が基体1の軸方向に沿ってスライドするよう上記スライド装置を位置決め設置する。この実施の形態では、基体1の軸方向は鉛直方向になっている。ここで、上記回転装置は、基体1をその頂面または底面で着脱自在に固定し、電動モータ等の駆動源および減速機等により、周方向に回転させることができるようになっている。また、上記スライド装置は、ノズル2を着脱自在に固定し、電動モータ等の駆動源およびボールねじ等により、図示の上下方向に往復スライドさせることができるようになっている。
【0017】
つぎに、上記回転装置を作動させて基体1を周方向に回転させる。そして、その状態で、上記ノズル2から液体材料C(この液体材料Cは、各液体材料A,Bを所定割合で混合したもの)を吐出させながら、上記スライド装置を作動させてノズル2を基体1の軸方向(図示の矢印方向)に沿って移動させる。これにより、上記基体1の外周面に、液体材料Cがノズル2の口径幅で螺旋状に塗布され、その螺旋状塗膜4の連続による略円筒状塗膜が形成される。すなわち、上記螺旋状塗膜4における1周の帯状塗膜4aとそのつぎの1周の帯状塗膜4aとが、螺旋状塗膜4の全ての部分で隙間なく繋がるようにする。このように、螺旋状塗膜4における帯状塗膜4aが繋がって略円筒状塗膜が形成されるよう、上記ノズル2の移動速度が設定される。なお、このノズル2の移動速度は、基体1の回転速度,液体材料Cの吐出量や粘度および帯状塗膜4aの幅等によって決定される。また、上記帯状塗膜4aの幅は、基本的にはノズル2の口径幅で決まるが、液体材料Cの吐出量,粘度等により若干変化する。
【0018】
ここで、上記液体材料Cの吐出は、上記螺旋状塗膜4における帯状塗膜4aの形成位置によって導電剤含有率を変化させるために、つぎのようにして行われる。すなわち、上記螺旋状塗膜4の始端側(図3の基体1の上側)では、導電剤を含有する液体材料Aが収容されたエアー加圧タンクTA 内にかけるエアー圧をPA とし、導電剤を含有しない液体材料Bが収容されたエアー加圧タンクTB 内にかけるエアー圧をPB とすると、上記螺旋状塗膜4の形成開始から基体1の所定周回まで(始端部分)は、PA +PB の値を一定にした状態で、徐々にPA を増加させPB を減少させることにより、液体材料Aと液体材料Bとの相互の割合を変え、ノズル2から吐出する液体材料Cの吐出量を一定に保持してその導電剤含有率を徐々に増加させ螺旋状塗膜4を形成する。この場合、螺旋状塗膜4の螺旋方向(図3の基体1の円周方向)には、導電剤含有率は徐々に増加しているが、その螺旋状塗膜4を図3のII−II断面で切断した切断面では、導電剤含有率は段階的に増加している(図2の始端縁部11参照)。上記螺旋状塗膜4の中間部分(図3の基体1の中間部分)では、上記PA ,PB の各値を上記工程の最終値で一定に保持することにより、液体材料Aと液体材料Bとの相互の割合を一定にし、ノズル2から吐出する液体材料Cの導電剤含有率を上記増加の最終値で一定にして螺旋状塗膜4を形成する。この場合、螺旋状塗膜4の導電剤含有率は一定になっている(図2の中間部12参照)。上記螺旋状塗膜4の終端側(図3の基体1の下側)では、PA +PB の値を一定にした状態で、徐々にPA を減少させPB を増加させることにより、液体材料Aと液体材料Bとの相互の割合を変え、ノズル2から吐出する液体材料Cの吐出量を一定に保持してその導電剤含有率を徐々に減少させ螺旋状塗膜4を形成する。この場合、螺旋状塗膜4の螺旋方向(図3の基体1の円周方向)には、導電剤含有率は徐々に減少しているが、その螺旋状塗膜4を図3のII−II断面で切断した切断面では、導電剤含有率は段階的に減少している(図2の終端縁部13参照)。このようにして、上記液体材料Cの吐出が行われ、基体1の外周面に、螺旋状塗膜4の連続による略円筒状塗膜が形成される。
【0019】
そして、上記略円筒状塗膜が形成された基体1を上記回転装置から取り外した後、乾燥ないし加熱を行うことにより、上記略円筒状塗膜を硬化させる。その後、その硬化した略円筒状塗膜を、その略円筒状塗膜と基体1との間に空気を圧入等しながら、基体1から抜き取り脱型することにより、図1および図2に示す半導電性シームレスベルト10が得られる。
【0020】
このようにして作製された本発明の半導電性シームレスベルト10は、画像転写領域である中間部12の導電剤含有率が均一になっており、その中間部12の幅方向外側の両端縁部11,13の導電剤含有率が、端縁に向かって、中間部12の導電剤含有率よりも段階的に低くなっている。そして、導電剤含有率が小さい部分は、導電剤含有率が大きい部分よりも強度が高いため、上記半導電性シームレスベルト10は、全体が中間部12の導電剤含有率と同じ導電剤含有率で形成されたものよりも、両端縁部11,13の強度が高くなっている。
【0021】
このため、本発明の半導電性シームレスベルト10は、両端縁部11,13に補強テープを貼着しなくても、両端縁部11,13の亀裂耐久性を充分に得られるようになり、両端縁部11,13での割れを防止することができる。そして、補強テープを貼着しなくてすむため、補強テープの剥がれの問題や、部品コストアップおよび加工コストアップの問題が解消され、機器の小型化、印刷速度の高速化および機器の長寿命化に対応することができる。
【0022】
しかも、本発明の半導電性シームレスベルト10は、両端縁部11,13の導電剤含有率が端縁に向かって段階的に低くなっているため、両端縁部11,13を単に導電剤が含有されていないものないし殆ど含有されていないものにした半導電性シームレスベルトと比較すると、両端縁部11,13とそれらの間の中間部12との機械的性質(強度等)の差が小さくなっており、しかも、両端縁部11,13では、機械的性質(強度等)が端縁に向かって段階的に変化している。このため、半導電性シームレスベルト10に引っ張り荷重や走行中の駆動荷重等がかかっても、両端縁部11,13とそれらの間の中間部12との境界面(接触面)に応力が集中することなく、半導電性シームレスベルト10の耐久性が向上する。
【0023】
さらに、本発明の半導電性シームレスベルトの製法(図3参照)において、螺旋状塗膜4(略円筒状塗膜)を形成する際には、基体1が周方向に回転しているため、基体1の外周面上の液体材料Cにかかる遠心力と、その液体材料Cの重力方向への垂れとの関係が、螺旋状塗膜4の表面の平滑化および螺旋状塗膜4の厚みの均一化の観点から好適となる。このため、作製される半導電性シームレスベルト10(図1参照)の中間部12(画像転写領域)の電気特性(電気抵抗)を全体的に均一にすることが容易にできるようになる。
【0024】
なお、半導電性シームレスベルトを複数層からなるものとする場合は、1層目の略円筒状塗膜を形成し終えた後、ノズル2を元の位置に戻して重ね塗りをする、または、1層目を一度、乾燥、硬化させた後、重ね塗りをする。この重ね塗りは、上記と同様にして行うことができる。また、上記導電剤含有率の段階的減少は、半導電性シームレスベルトの複数層のうちの任意の層、例えば中間層であってもよいし、表面層であってもよい。導電剤含有率を段階的に減少させている層以外の層は、全体の導電剤含有率を同一にしてもよい。そして、半導電性シームレスベルト10の厚みは、単層からなるものでも複数層からなるものでも、通常、50〜500μmの範囲内に形成される。ただし、半導電性シームレスベルト10を複数層からなるものとする場合、導電剤含有率を段階的に減少させている層の厚みは、亀裂耐久性を得る観点から、半導電性シームレスベルト10の全体の厚みの60%以上であることが好ましい。
【0025】
つぎに、本発明の半導電性シームレスベルトの製法に用いる基体1,ノズル2,半導電性シームレスベルト形成用の液体材料C等について説明する。
【0026】
基体1は、円筒状でも円柱状でもよいが、回転装置の負担を軽くできる観点から、円筒状であることが好ましい。また、基体1の材質は、特に限定されないが、通常、金属(鉄,アルミニウム,ステンレス等)製のものが用いられる。また、基体1の大きさは、作製される無端ベルトの大きさによって決定され、通常、外径30〜350mmの範囲、軸方向の長さ300〜600mmの範囲のものが用いられる。また、基体1の回転速度は、基体1の直径、ノズル2の移動速度および液体材料Cの吐出量,粘度等によって決定され、特に限定されないが、通常、50〜2000rpmの範囲内に設定される。回転速度が2000rpmを上回ると、遠心力が強すぎて液体材料Cが飛び散り易くなり、50rpmを下回ると、重力で液体材料Cが床等に落下しやすくなるからである。
【0027】
ノズル2は、特に限定されないが、ニードルノズル等が用いられる。また、上記ノズル2の吐出口形状としては、丸形状,平形状,矩形状等があげられる。そして、ノズル2からの液体材料Cの吐出量は、作製する半導電性シームレスベルト10の厚み、基体1の回転速度および液体材料Cの粘度等によって決定され、特に限定されないが、通常、0.15〜1.50g/秒の範囲内に設定される。さらに、その流量変動は、小さい方が好ましく、2%以内にすることが好ましい。また、液体材料Cを吐出する際の、基体1の外周面とノズル2との間の距離は、液体材料Cの吐出量,粘度等によって決定され、特に限定されないが、通常、1〜3mmの範囲内に設定される。また、液体材料Cの吐出幅も、液体材料Cの吐出量,粘度等によって決定され、特に限定されないが、通常、0.1〜3mmの範囲内に設定される。
【0028】
半導電性シームレスベルト形成用の液体材料Cのうち、導電剤を含有する液体材料Aとしては、下記の樹脂を主成分とし、これに導電剤および溶剤を配合したものが用いられ、導電剤を含有しない液体材料Bとしては、上記液体材料Aにおいて導電剤を配合しないものが用いられる。すなわち、樹脂としては、例えば、フッ素樹脂系,塩化ビニル系,ABS樹脂系,ポリメチルメタクリレート(PMMA)系,ポリカーボネート(PC)系,ポリエチレンテレフタレート(PET)系,アクリルゴム系,ポリウレタン系,ポリイミド(PI),ポリアミドイミド(PAI),ポリアリレート(PAR),ポリエーテルスルホン(PES),ポリサルホン(PSU),ポリエーテルイミド(PEI),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、導電剤としては、特に限定されないが、例えば、導電性金属酸化物,金属粉末,カーボンブラック,イオン性導電剤等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、溶剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、酢酸エチル、トルエン、メタノール、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0029】
上記樹脂のなかでも、半導電性シームレスベルトの強度を向上させる観点から、ポリアミドイミド(PAI)やポリイミド(PI)を使用することが好適である。
【0030】
なお、上記半導電性シームレスベルトの製法では、両端縁部11,13における導電剤含有率の段階的な変化を、導電剤を含有する液体材料Aと導電剤を含有しない液体材料Bとの混合割合を変化させることにより行ったが、これに限定されるものではない。例えば、導電剤含有率を変化させる各段階に対応する導電剤含有率の液体材料をそれぞれ準備し、螺旋状塗膜4を形成する際に、所定の周回で、その周回に対応する導電剤含有率の液体材料をその都度ノズル2から吐出するようにしてもよい。また、導電剤含有率が変化する割合は、特に限定されるものではなく、一定の割合で(リニアに)変化するようにしてもよいし、二次曲線的に変化するようにしてもよい。
【0031】
また、上記半導電性シームレスベルトの製法では、螺旋状塗膜4を形成する際に、ノズル2の方をスライドさせたが、逆に、ノズル2を固定し、基体1の方をスライドさせてもよい。また、基体1もノズル2もそれぞれ反対の方向にスライドさせてもよい。さらに、上記半導電性シームレスベルトの製法では、基体1の軸方向を鉛直方向にしたが、水平方向にしても傾斜方向にしてもよい。
【0032】
そして、上記説明では、両端縁部11,13の導電剤含有率が端縁に向かって段階的に減少しているが、ノズル2の口径を小さくし、かつ導電剤含有率の減少割合を小さくすることにより、段階的減少をより直線的に減少させるようにしてもよい。
【0033】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
半導電性シームレスベルトの作製に際し、円筒状の基体1(外径300mm)、ノズル2としてディスペンサー(内径1mmのニードルノズル)を準備するとともに、半導電性シームレスベルト形成用の液体材料を下記のようにして調製した。
【0035】
〔PAI(ポリアミドイミド)−NMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液の調製〕
DMI(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT)22重量部、TODI(日本曹達社製、TODI/R203)29重量部、無水トリメリット酸36重量部、カルボン酸両端ポリブタジエン(日本曹達社製、C−1000)20重量部、NMP溶剤250重量部を混合し、窒素気流下で攪拌しながら、1時間かけて130℃まで昇温させた。そして、そのまま130℃で5時間反応させ、PAI−NMP溶液を調製した。
【0036】
〔導電剤分散液の調製〕
ボールミル内にNMP溶剤100重量部を入れ、その中にカーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)を少量ずつ攪拌しながら添加した。そのカーボンブラックを10重量部添加した後、10時間分散を行い、導電剤分散液を調製した。
【0037】
〔導電剤を含有する液体材料Aの調製〕
上記PAI−NMP溶液385重量部(固形分量:100重量部)とNMP溶剤27重量部とを混合し、5時間攪拌した後、その中に上記導電剤分散液を少量ずつ攪拌しながら添加した。その導電剤分散液を75重量部(固形分量:7.5重量部)添加した後、5時間攪拌した。その後、ボールミルで分散させ、導電剤を含有する液体材料Aを調製した。
【0038】
〔導電剤を含有しない液体材料Bの調製〕
上記PAI−NMP溶液385重量部(固形分量:100重量部)とNMP溶剤27重量部とを混合し、5時間攪拌し、導電剤を含有しない液体材料Bを調製した。
【0039】
〔半導電性シームレスベルトの作製〕
上記実施の形態と同様にして、上記各液体材料A,Bをそれぞれ別のエアー加圧タンクに収容し、それぞれを上記ノズル2に接続した。また、基体1の外周面とノズル2との間の距離を1mmに設定した。そして、基体1を回転速度500rpmで回転させた状態で、ノズル2から液体材料A,Bを吐出させながら(吐出量0.5g/秒、流量変動2%以内)、ノズル2を1mm/秒の移動速度でスライドさせた。液体材料A,Bの吐出開始時は、導電剤を含有する液体材料Aが収容されたエアー加圧タンク内にかけるエアー圧PA を0.05MPa(ゲージ圧)、導電剤を含有しない液体材料Bが収容されたエアー加圧タンク内にかけるエアー圧PB を0.35MPa(ゲージ圧)に設定した〔PA +PB =0.4MPa(ゲージ圧)〕。この状態から、PA +PB の値を一定にした状態で、エアー圧PA を一定の割合で増加させ、それに対応してエアー圧PB を一定の割合で減少させ、ノズル2が10mm移動した時点で、エアー圧PA が0.4MPa(ゲージ圧)、エアー圧PB が0MPa(ゲージ圧)になるようにした。その後、ノズル2がさらに300mm移動する時点までは、エアー圧PA は0.4MPa(ゲージ圧)、エアー圧PB は0MPa(ゲージ圧)を保持した。その後、PA +PB の値を一定にした状態で、エアー圧PA を一定の割合で減少させ、それに対応してエアー圧PB を一定の割合で増加させ、ノズル2がさらに10mm移動した時点で、エアー圧PA が0.05MPa(ゲージ圧)、エアー圧PB が0.35MPa(ゲージ圧)になるようにした。このようにして、基体1の外周面に、螺旋状塗膜4の連続による略円筒状塗膜を形成した。ついで、乾燥して溶剤を除去した後、加熱炉に入れ加熱処理(250℃×2時間)した。そして、加熱炉から取り出して冷却した後、硬化した略円筒状塗膜の一端縁と基体1の外周面との間から高圧エアを吹き込み、硬化した略円筒状塗膜を基体1から脱型し、半導電性シームレスベルト(厚み80μm)を得た。
【0040】
〔実施例2〕
上記実施例1において、導電剤を含有する液体材料Aを調製する際に、導電剤分散液の添加量を150重量部(固形分量:15重量部)とした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0041】
〔実施例3〕
上記実施例1において、導電剤を含有する液体材料Aを調製する際に、導電剤分散液の添加量を300重量部(固形分量:30重量部)とした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0042】
〔実施例4〕
上記実施例1において、ノズル2から液体材料A,Bを吐出開始する際のエアー圧PA を0.005MPa(ゲージ圧)、エアー圧PB を0.395MPa(ゲージ圧)に設定した〔PA +PB =0.4MPa(ゲージ圧)〕。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0043】
〔実施例5〕
上記実施例4において、導電剤を含有する液体材料Aを調製する際に、導電剤分散液の添加量を300重量部(固形分量:30重量部)とした。それ以外は、上記実施例4と同様にした。
【0044】
〔実施例6〕
上記実施例1において、ノズル2から液体材料A,Bを吐出開始する際のエアー圧PA を0.0005MPa(ゲージ圧)、エアー圧PB を0.3995MPa(ゲージ圧)に設定した〔PA +PB =0.4MPa(ゲージ圧)〕。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0045】
〔実施例7〕
上記実施例6において、導電剤を含有する液体材料Aを調製する際に、導電剤分散液の添加量を300重量部(固形分量:30重量部)とした。それ以外は、上記実施例6と同様にした。
【0046】
〔実施例8〕
上記実施例1において、ノズル2から液体材料A,Bを吐出開始する際のエアー圧PA を0MPa(ゲージ圧)、エアー圧PB を0.4MPa(ゲージ圧)に設定した〔PA +PB =0.4MPa(ゲージ圧)〕。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0047】
〔実施例9〕
上記実施例8において、導電剤を含有する液体材料Aを調製する際に、導電剤分散液の添加量を300重量部(固形分量:30重量部)とした。それ以外は、上記実施例8と同様にした。
【0048】
〔実施例10〕
上記実施例1において、螺旋状塗膜4を形成する際に、エアー圧PA ,PB を変化させる範囲となるノズル2の移動距離を各端部につき50mm、エアー圧PA ,PB を変化させない範囲となるノズル2の移動距離を220mmとした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0049】
〔実施例11〕
上記実施例1において、螺旋状塗膜4を形成する際に、エアー圧PA ,PB を変化させる範囲となるノズル2の移動距離を各端部につき3mm、エアー圧PA ,PB を変化させない範囲となるノズル2の移動距離を314mmとした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0050】
〔実施例12〕
上記実施例1において、使用するノズル2を、内径0.1mmのものとした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0051】
〔実施例13〕
上記実施例1において、使用するノズル2を、内径3mmのものとした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0052】
〔実施例14〕
上記実施例1において、ノズル2から吐出させる液体材料A,Bの吐出量を0.3g/秒(流量変動2%以内)にすることにより、厚み50μmの、導電剤含有率を段階的に減少させた第1の層を形成した。その後、ノズル2から吐出する液体材料を、導電剤を含有する液体材料Aのみとし、その吐出量を0.2g/秒(流量変動2%以内)にするとともに、吐出開始から吐出終了まで、エアー圧PA を0.4MPa(ゲージ圧)で一定とすることにより、上記第1の層の表面に、厚み30μmの、全体の導電剤含有率が同一の第2の層を形成した。このようにして、上記第1の層と第2の層とが積層した半導電性シームレスベルト(全体厚み80μm)を得た。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0053】
〔比較例1〕
上記実施例1において、ノズル2から吐出する液体材料を、導電剤を含有する液体材料Aのみとし、吐出開始から吐出終了まで、エアー圧PA を0.4MPa(ゲージ圧)で一定とした。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0054】
〔ベンチ耐久評価〕
このようにして得られた実施例1〜14および比較例1の半導電性シームレスベルト10をそれぞれ、2本の金属製ローラー(外径13mm)間に張架した状態で、一方の金属製ローラーをテーブル上に固定した。ついで、テーブルに固定していない他方の金属製ローラーがテーブルの端部になるように配置し、この金属製ローラーの両端にオモリを2kgずつ吊り下げ(総荷重4kg)、ラボ環境(25℃×40%RH)下で、無端ベルトを回転駆動させた。そして、無端ベルトに亀裂が確認できるまでの累積回転数を測定し、その累積回転数が200×1000回以上のものを○、それ未満のものを×として評価した。これら結果を下記の表1に表記した。
【0055】
〔導電剤含有率の評価〕
上記得られた実施例1〜14および比較例1の半導電性シームレスベルトについて、図4に示すようにして、導電剤の含有率について評価した。すなわち、まず、得られた半導電性シームレスベルトを幅方向(軸方向)に切断し、平面状に切り開いた。そして、その切り開いた半導電性シームレスベルト10aを対向平面電極24に載置した。そして、電気特性測定器(ケースレー237)25のマイナス側端子25aを上記対向平面電極24に接続し、プラス側の針状プローブ(先端R0.1)25bの先端を、上記切り開いた半導電性シームレスベルト10aの幅方向(軸方向)に一端から他端まで接触させて走行させた。その結果、実施例1〜14の半導電性シームレスベルトは、両端縁部で、端縁に向かって、電気抵抗値が一定の幅毎に段階的に大きくなり、比較例1の半導電性シームレスベルトは、電気抵抗値が一定であった。このことから、実施例1〜14の半導電性シームレスベルトでは、両端縁部の導電剤含有率が、端縁に向かって段階的に低くなっていることがわかる。なお、導電剤含有率は、図5に示す、導電剤含有率と電気抵抗値との相関関係に基づき、上記電気抵抗値から評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果より、実施例1〜14の半導電性シームレスベルトは、比較例1の半導電性シームレスベルトと比較して、両端縁部が割れに対して強化され、耐久性を有することがわかる。
【0058】
また、重ね塗りすることにより、3層構造の半導電性シームレスベルトを3個作製した。そのうちの1個は、両端縁部において導電剤含有率を段階的に減少させている層を、内側表面層にし、別の1個は、その導電剤含有率を段階的に減少させている層を、中間層にし、もう1個は、その導電剤含有率を段階的に減少させている層を、外側表面層にした。各半導電性シームレスベルトにおいて、上記導電剤含有率を段階的に減少させている層以外の層は、全体の導電剤含有率を同一にした。そして、上記と同様にして、ベンチ耐久評価および導電剤含有率の評価を行うと、上記各実施例と同様の傾向を示す結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の半導電性シームレスベルトの一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II断面における導電剤含有率の状態を模式的に示す説明図である。
【図3】上記半導電性シームレスベルトの製法を模式的に示す説明図である。
【図4】半導電性シームレスベルトの導電剤含有率の評価方法を模式的に示す説明図である。
【図5】半導電性シームレスベルトの導電剤含有率と電気抵抗値との相関関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 基体
2 ノズル
4 螺旋状塗膜
C 液体材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電剤を含有する略円筒状の半導電性シームレスベルトであって、幅方向の両端縁部に挟まれた中間部の導電剤含有率が所定範囲内に設定され、その両端縁部の導電剤含有率が、上記中間部の導電剤含有率を基準にし、それぞれ端縁に向かって減少している構造を有していることを特徴とする半導電性シームレスベルト。
【請求項2】
端縁に向かって減少することが、端縁に向かって段階的に減少することである請求項1記載の半導電性シームレスベルト。
【請求項3】
周方向に回転駆動される円筒状ないし円柱状の基体と、半導電性シームレスベルト形成用の液体材料を吐出するノズルとを準備し、上記液体材料をノズルから吐出させながら、そのノズルと上記基体とを基体の軸方向に沿って相対的に移動させることにより、回転駆動状態の上記基体の外周面に液体材料を螺旋状に塗布してその螺旋状塗膜の連続による略円筒状塗膜を形成し、ついで、それを硬化させた後、上記基体から脱型することにより、上記請求項1記載の半導電性シームレスベルトを得る半導電性シームレスベルトの製法であって、上記液体材料のノズルからの吐出が、始端部分と中間部分と終端部分とで異なり、始端部分では、上記螺旋状塗膜の形成開始から上記基体の所定周回まで上記液体材料の導電剤含有率を徐々に増加して行われ、中間部分では、上記増加させた導電剤含有率の最終値を保って行われ、終端部分では、上記最終値から導電剤含有率を徐々に減少して行われることを特徴とする半導電性シームレスベルトの製法。
【請求項4】
上記半導電性シームレスベルト形成用の液体材料として、導電剤を含有する液体材料Aと導電剤を含有しない液体材料Bとを準備し、上記螺旋状塗膜を形成する際に、上記液体材料Aと液体材料Bとの相互の割合を調節することにより、ノズルから吐出する液体材料の導電剤含有率を調節するようにした請求項3記載の半導電性シームレスベルトの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−139123(P2006−139123A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329410(P2004−329410)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】