説明

半導電性ベルトの抵抗検査方法及び抵抗検査装置

【課題】高抵抗の半導電性ベルトについても、正確に体積抵抗を測定でき、抵抗検査結果の信頼性を向上させることが可能な、半導電性ベルトの抵抗検査方法及び抵抗検査装置を提供する。
【解決手段】本発明の抵抗検査方法は、被測定物である半導電性ベルトの表面及び裏面にそれぞれ電極を接触させて、当該半導電性ベルトの厚さ方向に定電流を流して、当該半導電性ベルトの体積抵抗を測定する工程と、前記体積抵抗の測定結果に基づいて、前記半導電性ベルトの良否を判定する工程と、を含む。本発明の抵抗検査装置1は、定電流源11と、被測定物に接触させる一対の電極121,122を有し、かつ定電流源11に接続された第1回路12と、固定抵抗131と固定抵抗131に直列接続された電流計132とを有し、かつ第1回路12と並列接続となるように定電流源11に接続された第2回路13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導電性ベルトの抵抗検査方法及び抵抗検査装置に関し、特に、高抵抗の半導電性ベルトの良否判定に適した抵抗検査方法及び抵抗検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の中間転写ベルトとして、半導電性ベルトが使用されている。半導電性ベルトには、通常、ポリイミド等の樹脂にカーボンブラック等の導電フィラーを分散させた材料が用いられる。半導電性ベルトの特性は、樹脂の重合度や導電フィラーの分散性に応じて大きく変化する。顧客に納入する製品の特性にばらつきが出ないように、出荷前検査の一項目として、半導電性ベルトの電気抵抗を測定する。半導電性ベルトの電気抵抗は、体積抵抗率及び表面抵抗率で評価するのが一般的である(特許文献1〜4参照)。抵抗率の測定には、「ハイレスタ(登録商標)」と呼ばれる市販の測定装置が使用されている。
【0003】
近年、単層構造の半導電性ベルトに替えて、低抵抗層と高抵抗層とが積層された2層構造を有する半導電性ベルトを、画像形成装置の中間転写ベルトとして使用することが提案されている。2層構造の半導電性ベルトの体積抵抗率は、単層構造の半導電性ベルトの体積抵抗率よりも非常に(例えば3桁程度)高い。このような2層構造を有する高抵抗の半導電性ベルトについても、従来と同様に、検査の目的で電気抵抗を測定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−324880号公報
【特許文献2】特開2001−324882号公報
【特許文献3】特開2007−146042号公報
【特許文献4】特開2006−103140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ハイレスタを用いて、2層構造の半導電性ベルトのような高抵抗ベルトの体積抵抗率を測定した場合、測定結果が安定しないため良品と不良品との判別が困難となり、正確な抵抗検査ができないという問題があった。具体的には、同じベルトの同じ位置について体積抵抗率を複数回測定しても、測定結果のばらつきが大きく、測定結果間に1桁以上の差が生じる場合もある等、体積抵抗率の測定結果が再現できないという問題があった。
【0006】
本発明は、従来品よりも高抵抗の半導電性ベルトについても、正確に体積抵抗を測定でき、抵抗検査結果の信頼性を向上させることが可能な、半導電性ベルトの抵抗検査方法及び抵抗検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、従来の検査方法では高抵抗の半導電性ベルトの体積抵抗を正確に測定できなかった原因をつきとめ、前記目的を達成できる本発明の抵抗検査方法及び抵抗検査装置を完成するに至った。
【0008】
まず、従来の抵抗検査方法では高抵抗の半導電性ベルトの体積抵抗を正確に測定できなかった原因について説明する。
【0009】
高抵抗の半導電性材料(例えば体積抵抗率が概ね1×109[Ω・cm]を超えるような半導電性材料)は、印加電圧と流れる電流との関係が非線形(非オーミック性)となるものが多く、その場合、流す電流によって抵抗値が変わる。そこで、複写機等の画像形成装置の中間転写ベルトとして一般に用いられている2層構造の半導電性ベルトについて、電流と体積抵抗との関係を調べたところ、図8に示すような、電流が低いほど体積抵抗率が大きくなるという結果が得られた。特に、半導電性ベルトに流れる電流が数nA〜数十nA程度の非常に小さい電流の場合は、電流の変化による体積抵抗の変化が大きい、という結果が得られた。
【0010】
また、半導電性ベルトが画像形成装置の中間転写ベルトに用いられる場合、半導電性ベルトの実際の使用環境と体積抵抗測定時の環境とが異なることも、問題の一つであることがわかった。現在一般に使用されている種々の画像形成装置について、中間転写ベルトの使用環境を調べたところ、転写時の制御は、感光ドラムに担持されたトナー像を中間転写ベルトに転写(一次転写)する際に中間転写ベルトと感光ドラムとの間に流れる電流を一定に保つ、定電流制御が一般的であることが確認された。定電流制御は、中間転写ベルトに転写されたトナー像を記録紙に転写(二次転写)する工程にも適用されている。定電流制御によれば、トナー量や中間転写ベルトの抵抗値に応じて転写電圧が最適に調整されるので、転写不良や放電の発生を回避して安定した転写を実現しやすい。
【0011】
ハイレスタで設定できるのは印加電圧のみであり、電流値を設定できない。さらに、ハイレスタで印加できる電圧は限られており、被測定物に流される電流値も表示されない。定電圧を印加した場合、半導電性ベルトを構成している樹脂の重合度や導電フィラーの分散性のわずかなばらつきによって当該ベルトに流れる電流値が変化することも考えられ、その結果、測定結果にばらつきが生じると考えられる。従来、ハイレスタでの体積抵抗の測定に用いられている電圧は、100V程度である。高抵抗の半導電性ベルトに100V程度の電圧を印加した場合、当該ベルトに流れる電流はわずか数nA〜数十nAであり、上記のとおり、半導電性ベルトの体積抵抗の電流依存性が非常に強い電流範囲内となる。したがって、従来のハイレスタによる測定では、電流の変化に起因する抵抗の変化が大きく現れてしまう。
【0012】
以上のように、本発明者らは、
(1)高抵抗の半導電性ベルトの体積抵抗が当該ベルトを流れる電流によって変化すること、特に、従来のハイレスタによる測定では、電流の変化に起因する体積抵抗の変化が大きくなる電流範囲で測定していたこと、
(2)実際に使用される際には定電流が流されるのに対し、ハイレスタによる測定では定電圧が印加されてベルトに流れる電流値が変化すること、
が高抵抗の半導電性ベルトの体積抵抗を正確に測定できなかった原因であることをつきとめた。
【0013】
そこで、本発明は、被測定物である半導電性ベルトの表面及び裏面にそれぞれ電極を接触させて、当該半導電性ベルトの厚さ方向に定電流を流して、当該半導電性ベルトの体積抵抗を測定する工程と、前記体積抵抗の測定結果に基づいて、前記半導電性ベルトの良否を判定する工程と、を含む、半導電性ベルトの抵抗検査方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、定電流源と、被測定物に接触させる一対の電極を有し、かつ前記定電流源に接続された第1回路と、固定抵抗と前記固定抵抗に直列接続された電流計とを有し、かつ前記第1回路と並列接続となるように前記定電流源に接続された第2回路と、
を備えた、半導電性ベルトの抵抗検査装置も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の半導電性ベルトの抵抗検査方法及び抵抗検査装置では、実際に半導電性ベルトを使用する条件と同じ条件、すなわち半導電性ベルトに定電流を流した状態で、当該ベルトの体積抵抗を測定する。したがって、電流の変化に起因した抵抗の変化が生じないので、測定結果のばらつきの発生を抑えて、半導電性ベルトの体積抵抗を正確に測定できる。これにより、半導電性ベルトの良否判定を正確に行うことができ、抵抗検査の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る抵抗検査装置の回路図である。
【図2】JIS K 6911で規定された、体積抵抗測定に用いる電極の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例で被測定物として準備した2本の半導電性ベルト(ベルトA及びベルトB)について、体積抵抗の電流依存性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例で被測定物として準備した半導電性ベルトについて、測定サンプルのサンプリングを説明するための図である。
【図5A】被測定物として準備したベルトAについて、本発明の抵抗検査方法を用いて、各測定位置で3回ずつ行った抵抗測定の結果を示すグラフである。
【図5B】被測定物として準備したベルトBについて、本発明の抵抗検査方法を用いて、各測定位置で3回ずつ行った抵抗測定の結果を示すグラフである。
【図6A】被測定物として準備したベルトAについて、ハイレスタを用いて、各測定位置で3回ずつ行った抵抗測定の結果を示すグラフである。
【図6B】被測定物として準備したベルトBについて、ハイレスタを用いて、各測定位置で3回ずつ行った抵抗測定の結果を示すグラフである。
【図7】2層構造の半導電性ベルトを構成する低抵抗層と高抵抗層との厚さ比と、体積抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】画像形成装置の中間転写ベルトとして一般に用いられている2層構造の半導電性ベルトについて、電流と体積抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の半導電性ベルトの抵抗検査方法は、被測定物である半導電性ベルトの表面及び裏面にそれぞれ電極を接触させて、当該半導電性ベルトの厚さ方向に定電流を流して、当該半導電性ベルトの体積抵抗を測定する工程(測定工程)と、前記体積抵抗の測定結果に基づいて、前記半導電性ベルトの良否を判定する工程(判定工程)と、を含む。
【0018】
測定工程は、例えば図1に示す回路を備えた抵抗検査装置1を用いて、実施することができる。半導電性ベルトの体積抵抗は、抵抗値及び抵抗率で評価できるが、本実施の形態では抵抗値で評価する例について説明する。
【0019】
抵抗検査装置1は、定電流源11と、定電流源11に接続された第1回路12と、第1回路12と並列接続となるように定電流源11に接続された第2回路13と、を備えている。第1回路12は、被測定物である半導電性ベルト14の表面及び裏面にそれぞれ接触させる電極121,122を有する。第2回路13は、固定抵抗131と、固定抵抗131に直列接続された電流計132と、を有する。測定時は、電極121,122を半導電性ベルト14の表面及び裏面にそれぞれ接触させ、定電流源11によって第1回路12及び第2回路13にそれぞれ給電する。電流計132によって測定される第2回路13の電流値と固定抵抗131とを用いて、半導電性ベルト14の体積抵抗を算出する。具体的には、以下の式(1)及び式(2)を用いて、半導電性ベルト14の体積抵抗を求める。以下の式において、R1は半導電性ベルト14の体積抵抗、I1は第1回路12に流れる電流、R2は固定抵抗131の抵抗、I2は第2回路13に流れる電流、Iは測定に使用される定電流を、それぞれ表している。
【0020】
1=I2×R2/I1 ・・・(1)
1=I−I2 ・・・(2)
【0021】
ここで、固定抵抗131は、半導電性ベルト14の体積抵抗よりも2桁から3桁程度高い抵抗とすればよい。第2回路13がこのような高い抵抗を有することで、第2回路13を第1回路12に並列接続しても、第2回路13にはごくわずかな電流しか流れ込まない。したがって、この抵抗検査装置1によれば、一般的な電圧計を用いて半導電性ベルト14にかかる電圧を測定し、その電圧値を用いて半導電性ベルト14の体積抵抗を求める測定方法と比較すると、回路を乱すことなく(半導電性ベルト14に流れる電流を大幅に低減させることなく)半導電性ベルト14の体積抵抗を求めることが可能となる。
【0022】
図示していないが、抵抗検査装置1に、少なくとも電流計132の測定結果を取得し、式(1)及び式(2)に基づいて体積抵抗R1を算出する演算器を設けてもよい。演算器による算出結果をモニタ(またはプリンタ)に出力できると便利である。なお、第2回路13に流れる電流I2はごくわずかであるため、式(1)において、電流I1に代えて定電流源11の定電流Iを使用することも可能である。
【0023】
電流計132は、第2回路13に流れるごくわずかな電流を測定する必要がある。したがって、電流計132には、1nA〜1A程度の電流の測定が可能な電流計を用いるとよい。
【0024】
測定に用いられる定電流は、半導電性ベルトの実際の使用条件を考慮して決定される。半導電性ベルトが画像形成装置の中間転写ベルトである場合を例にして、定電流の値について説明する。中間転写方式の画像形成装置では、感光ドラム表面に現像されたトナー像が中間転写ベルトに一括転写され(一次転写)、続いて記録紙に再転写される(二次転写)。画像不良の原因のほとんどが一次転写の段階で発生することから、良質な画像を得るためには一次転写が正確に行われる必要がある。そこで、中間転写ベルトの抵抗検査は、そのベルトが使用される画像形成装置の一次転写の条件で実施することが望ましい。現在一般に使用されている種々の画像形成装置について、一次転写時に中間転写ベルトと感光ドラムとの間に流れる電流を調べたところ、5〜40μAの範囲内であることが確認された。したがって、本発明の検査方法の測定工程において用いられる定電流は、5〜40μAの範囲内であることが望ましく、10〜30μAの範囲内とすることがより望ましい。
【0025】
電極121,122には、例えばJIS K 6911で規定された、体積抵抗測定に用いる電極構成(図2参照)を用いることができる。図2に示す表面電極21及び裏面電極22が、本発明の抵抗検査方法及び抵抗検査装置における一対の電極(電極121,122)に対応する。なお、表面電極21のうち、外側電極23はガード電極であり、内側電極24よりも外側を通過した電流をグランドに流す。被測定物25(ここでは半導電性ベルト)の表面及び裏面に、表面電極21及び裏面電極22がそれぞれ配置される。本発明の検査方法では、被測定物となる半導電性ベルト14の形状も、JIS K 6911に準拠すればよい。
【0026】
体積抵抗の測定は、1つの半導電性ベルトに対し、周方向に複数箇所行うことが望ましい。同じ半導電性ベルト内でも、当該ベルトを構成している樹脂の重合度や導電フィラーの分散性のばらつき等によって、体積抵抗が異なる場合があるからである。
【0027】
本発明の抵抗検査方法では、半導電性ベルトの実際の使用条件に合わせて定電流で体積抵抗を測定するので、電流の変化に起因した抵抗の変化が生じず、安定的に正確な体積抵抗を測定できる。これにより、信頼性の高い抵抗検査が可能となる。さらに、抵抗測定に用いる定電流の値を半導電性ベルトの実際の使用環境に合わせることにより、体積抵抗をさらに正確に測定できるので、測定結果のばらつきもさらに抑制できる。本発明の抵抗検査方法及び抵抗検査装置は、従来の単層構造の半導電性ベルトの抵抗検査にも当然に適用できるが、その効果は、特に、複数の層がベルトの厚さ方向に積層された構造を有する(例えば2層構造の)半導電性ベルトのような、従来よりも高抵抗の半導電性ベルトの抵抗検査を行う場合に、より顕著に見られる。
【0028】
次に、本発明の抵抗検査方法における判定工程について、説明する。判定工程では、体積抵抗の測定結果に基づいて、半導電性ベルトの良否を判定する。具体的には、製品の検査規格範囲(製品によって異なる)内に体積抵抗の測定結果が収まるどうかで、良否が判断される。
【0029】
本発明の抵抗検査方法では、体積抵抗の測定結果の信頼性が高く、測定結果のばらつきもほとんどないため、半導電性ベルトの良否を正確に判定できる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の抵抗検査方法及び抵抗検査装置について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0031】
[被測定物の準備]
被測定物として、低抵抗層と高抵抗層とが積層された2層構造の半導電性ベルトを2本(ベルトA及びベルトB)準備した。これら2本の半導電性ベルトは、共に、ポリイミドワニスに導電性フィラーとしてカーボンブラックが分散された同じ材料を用い、同じ方法で形成されたものであり、低抵抗層及び高抵抗層の厚さもそれぞれ同じであった。また、低抵抗層と高抵抗層とでは、ポリイミドワニスに添加されるカーボンブラックの量が異なる。ここで用意した半導電性ベルトにおいて、低抵抗層は、ポリイミドワニス100質量部に対してカーボンブラックを23質量部添加した材料を用いて形成されており、高抵抗層は、ポリイミドワニス100質量部に対してカーボンブラックを19質量部添加した材料によって形成されている。
【0032】
[体積抵抗の電流依存性の確認]
被測定物として準備した2本の半導電性ベルト(ベルトA及びベルトB)について、それぞれ、体積抵抗の電流依存性を調べた。図3に示すように、準備したベルトA及びベルトBは、電流が低いほど体積抵抗が大きくなるという結果が得られた。特に、ベルトA及びベルトBに流れる電流が非常に小さい範囲(数nA〜数十nA程度)では、電流の変化による体積抵抗の変化が大きかった。
【0033】
(実施例1)
図1に示した抵抗検査装置1を用いて、上記のベルトA及びベルトBの抵抗検査を行った。測定サンプルは、各ベルトについて、図4に示すように周方向に3箇所(図中、a、b、cで示す領域)ずつ、幅150mmでサンプリングして用意した。測定サンプルのサイズは、150mm×300mm×80μm(厚さ)であった。
【0034】
抵抗検査装置1では、一方の電極(表面電極)にはハイレスタ用URプローブ(株式会社三菱化学アナリテック製)を用い、他方の電極(裏面電極)にはハイレスタ用レジテーブルUFL(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いた。定電流値は30μAとした。30μmの定電流を測定サンプルに流したのち、10秒後に体積抵抗を測定した。測定は、各測定サンプルについて3回ずつ行った。その結果を、図5A及び図5Bに示す。図5A及び図5Bに示すように、定電流を流した本実施例の方法では、各ベルトの同じ位置での測定結果は3回ともほぼ同じであった。また、同一ベルト間での体積抵抗の大きな差も見られなかった。
【0035】
ここで、測定結果のばらつきの尺度を、SN比(望目特性のSN比)を用いて示す。SN比は、以下の式(3)〜式(7)を用いて算出される。式中、nは測定結果数を示し、y1、y2…ynは各測定値を示している。なお、SN比が大きい程、測定結果のばらつきが小さいということになる。
【0036】
全平方和(ST)=y12+y22+・・・+yn2 ・・・(3)
平均値効果(Sm)=(y1+y2+・・・+yn2/n ・・・(4)
誤差変動(Se)=ST−Sm ・・・(5)
誤差分散(Ve)=Se/(n−1) ・・・(6)
SN比(η)=10×log{(1/n)(Sm−Ve)/Ve} ・・・(7)
【0037】
本実施例では、同じ位置での測定を3回行った。そこで、同じ位置の測定結果について、SN比を求めた。ベルトA及びベルトBについて、同じ位置の測定結果のSN比をそれぞれ算出したところ、最低でも29dB、最高で57dBと、大きい値が得られた。
【0038】
また、同一ベルト内での周方向の体積抵抗ばらつきについても、SN比を算出した。その場合、ベルトAのSN比は30dB、ベルトBのSN比は34dBであった。
【0039】
さらに、同じ材料で作製された2本のベルト(ベルトAとベルトB)間での測定結果についても、検討を行った。2本のベルトの全ての測定結果(9×2個のデータ)を用いてSN比を算出したところ、18.7dBであった。また、以下の式(8)を用いて2本のベルト間の抵抗差を求めたところ、23%であった。
【0040】
抵抗差=((ベルトAの全平均値)−(ベルトBの全平均値))×100
/(ベルトAの全平均値) ・・・(8)
【0041】
(比較例1)
ハイレスタ(「MCP−HT450」、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて、上記のベルトA及びベルトBの抵抗検査を行った。測定サンプルは、実施例1と同様の方法で準備した。ハイレスタの一方の電極(表面電極)にはハイレスタ用URプローブ(株式会社三菱化学アナリテック製)を用い、他方の電極(裏面電極)にはハイレスタ用レジテーブルUFL(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いた。電圧100Vを測定サンプルに印加したのち、10秒後に体積抵抗を測定した。なお、ハイレスタは体積抵抗を抵抗率(ρ[Ω・cm])で表示するが、以下の式(9)を用いて抵抗値(R[Ω])に変換し、実施例1の測定結果と比較した。
【0042】
ρ[Ω・cm]=R[Ω]×RCF(V)×1/t ・・・(9)
ρ:体積抵抗率[Ω・cm]
R:体積抵抗値[Ω]
RCF:体積抵抗率計算係数(本比較例で用いたURプローブの場合は2.011)
t:測定サンプルの厚さ[cm]
【0043】
各測定サンプルについて、3回ずつ測定した。その結果を、図6A及び図6Bに示す。図6A及び図6Bに示すように、定電圧を印加するハイレスタによる測定では、各ベルトの同じ位置での測定結果が安定せず、ばらつきが見られた。また、同一ベルト間での体積抵抗にも差が見られた。
【0044】
測定結果のばらつきの尺度を、実施例1と同様に、SN比を用いて示す。SN比の求め方は、実施例1で説明したとおりである。
【0045】
本比較例において、同じ位置の測定結果についてのSN比を求めたベルトA及びベルトBについて、同じ位置の測定結果のSN比を算出したところ、最低で16dB、最高でも26dBと、実施例1よりも小さい値しか得られなかった。
【0046】
また、同じベルト内での周方向の体積抵抗ばらつきについても、SN比を算出した。ベルトAのSN比は8dB、ベルトBのSN比は4dBであり、実施例1よりも小さい値であった。
【0047】
さらに、同じ材料で作製された2本のベルト(ベルトAとベルトB)間での測定結果についても検討を行った。2本のベルトの全ての測定結果(9×2個のデータ)を用いてSN比を算出したところ、3.0dBであった。また、上記の式(8)を用いて2本のベルト間の抵抗差を求めたところ、73%と非常に大きかった。
【0048】
同じ位置の測定結果のばらつきについて、実施例1の結果と比較例1の結果とを比較すると、定電流を用いた実施例1の抵抗検査方法では、定電圧を用いた比較例1の方法と比較してSN比が向上する、すなわち充分な測定の再現性が得られるという結果となった。この理由は、実施例1の抵抗検査方法では、半導電性ベルトの実際の使用環境に応じた条件(定電流)で測定を行い、さらに測定電流も使用環境を考慮して30μAとしたため、電流の変化に起因する抵抗の変化が生じず、正確な抵抗測定を安定して行うことができたと考えられる。
【0049】
ベルトA及びベルトBは2層構造の半導電性ベルトであるため、一般的な単層構造の半導電性ベルトと比較して抵抗が高い。比較例1では100Vの定電圧を印加しているが、ベルトA及びベルトBに流れる電流は数10nA程度である。図3に示すように、ベルトA及びベルトBにおける体積抵抗の電流依存特性は、μAスケールの電流範囲よりもnAスケールの電流範囲の方が強く現れる。このことから、比較例1の抵抗測定では、わずかな電流の変化でも大きな体積抵抗の違いとなる傾向が強い。また、比較例1では、ベルトに一定の電位差を与えた際に流れる電流を測定し、オームの法則から抵抗値を算出する、定電圧方式による抵抗測定を行っている。ベルトの体積抵抗は流れる電流に強く依存するが、同一ベルト内にわずかな抵抗差があった場合に、この抵抗差によって流れる電流が変化して、この電流の変化によってベルトの体積抵抗が変わってしまう。すなわち、定電圧方式の場合、ベルト本来の抵抗差に加え、測定電流が変化することにより生じる抵抗差も加算されることになり、わずかな抵抗差であるにも関わらず実際よりも大きな抵抗差として測定されてしまう。これに対し、実施例1の定電流による体積抵抗測定では、ベルトに抵抗差があってもベルトに流れる電流は変化しないため、電流の変化に起因した抵抗差は発生せず、ベルト本来の抵抗差を測定できる。
【0050】
以上の理由により、本発明の方法では、体積抵抗の測定結果に反映されるのはベルト本来の抵抗差のみとなるため、同じ位置を測定しているにもかかわらず測定結果が大きく異なるという問題も生じない。したがって、本発明の方法によれば、正確に体積抵抗を測定でき、抵抗検査結果の信頼性を向上させることが可能となる。
【0051】
(実施例2)
実施例2では、半導電性ベルトの構造ばらつきと体積抵抗との関係について確認した。本実施例では、低抵抗層と高抵抗層との厚み比を異ならせた5種類の半導電性ベルトを測定サンプルとして用意した。なお、低抵抗層及び高抵抗層の作製に用いた材料は、ベルトA及びベルトBと同じであった。
【0052】
厚さ比(低抵抗層/高抵抗層)が、9/1.8、8.5/2.4、7.5/3.3、6.5/4.3、5.5/5.3、となる5種類を用意した。これらのサンプルについて、実施例1と同様の方法で体積抵抗を測定した。その結果は、図7に示すとおりである。
【0053】
用意した5種類のサンプルは、厚さ比(低抵抗層/高抵抗層)が約1〜5までの範囲となっている。通常、同一ベルト内で厚さ比がこれほど大きくばらつくことはないが、同一ベルト内でこれほどの構造ばらつきが生じていたとしても、図7に示すように、体積抵抗の変動は10MΩよりも小さい範囲であった。これは、比較例1での測定結果のような大きな変動ではなく、現在、高抵抗の半導電性ベルトの抵抗検査において問題になっている体積抵抗のばらつきとは関係ないと判断できる。
【0054】
以上、実施例1及び2の結果と、比較例1の結果とから、本発明の抵抗検査方法によれば、2層構造の半導電性ベルトのような高抵抗のベルトについても、体積抵抗測定の充分な再現性が得られ、信頼性の高い抵抗検査を実現できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の半導電性ベルトの抵抗検査方法及び抵抗検査装置は、複写機等の画像形成装置に使用される中間転写ベルトの抵抗検査に好適に利用でき、特に、2層構造を有する中間転写ベルトのような高抵抗ベルトの抵抗検査に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 抵抗検査装置
11 定電流源
12 第1回路
13 第2回路
14 半導電性ベルト
121,122 電極
131 固定抵抗
132 電流計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物である半導電性ベルトの表面及び裏面にそれぞれ電極を接触させて、当該半導電性ベルトの厚さ方向に定電流を流して、当該半導電性ベルトの体積抵抗を測定する工程と、
前記体積抵抗の測定結果に基づいて、前記半導電性ベルトの良否を判定する工程と、
を含む、半導電性ベルトの抵抗検査方法。
【請求項2】
前記定電流の値が、5〜40μAの範囲内である、請求項1に記載の半導電性ベルトの抵抗検査方法。
【請求項3】
前記測定工程において、前記定電流を供給するための定電流源にそれぞれ接続された、被測定物である前記半導電性ベルトの表面及び裏面に接触させる一対の電極を有する第1回路と、固定抵抗を有する第2回路とを設けると共に、前記第2回路の電流値と前記固定抵抗とを用いて前記半導電性ベルトの体積抵抗を算出する、請求項1又は2に記載の半導電性ベルトの抵抗検査方法。
【請求項4】
前記半導電性ベルトが、画像形成装置の中間転写ベルトである、請求項1〜3の何れか1項に記載の半導電性ベルトの抵抗検査方法。
【請求項5】
前記半導電性ベルトは、複数の層が当該半導電性ベルトの厚さ方向に積層された構造を有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の半導電性ベルトの抵抗検査方法。
【請求項6】
定電流源と、
被測定物に接触させる一対の電極を有し、かつ前記定電流源に接続された第1回路と、
固定抵抗と前記固定抵抗に直列接続された電流計とを有し、かつ前記第1回路と並列接続となるように前記定電流源に接続された第2回路と、
を備えた、半導電性ベルトの抵抗検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83697(P2013−83697A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221804(P2011−221804)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】