説明

半減期が延長されたCRF複合体

本発明は、分解からCRFを保護し、かつCRFの半減期を延長する部位を含むように修飾されているCRFの複合体に関する。本発明のCRF複合体は、半減期が増大され、投与量節約効果及び低頻度の投与をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1. 発明の分野)
本発明は、未修飾のCRFと比較して、半減期及び安定性が増大したコルチコトロピン放出因子(CRF)の複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
(2. 発明の背景)
コルチコトロピン放出因子(CRF)は、下垂体-副腎皮質系の刺激に関与する主要な視床下部ホルモンとして1981年に初めて同定された内在性の41アミノ酸ペプチドである(Vale, W., らの論文、Science 213:1394-1397 (1981))。CRFは天然供給源、組換え発現、又は合成的な生産から得ることができる。
【0003】
CRFは、浮腫及び炎症の強力な抑制物質として生物活性を媒介する、末梢性、非内分泌性の機能を有することが示されている(Wei, E. T.らの文献、Ciba Foundation Symposium 172:258-276 (1993))。CRFの全身投与は、外傷又は炎症性メディエーターに応答して、血漿成分の血管漏出及び関連組織の腫脹の抑制を示すことが一連の実験で確認されている(Wei, E. T.らの論文、European J. of Pharm. 140:63-67 (1987)、Serda, S. M.らの論文、Pharm. Res. 26:85-91 (1992)及びWei, E. T.らの論文、Regulatory Peptides 33:93-104 (1991))。またCRFは、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)、コルチコリベリン(corticoliberin)、コルチコレリン、及びCRF-41として当該分野で公知である。
【0004】
該CRF神経ペプチドは、ヒツジの視床下部の抽出物から初めて単離され(OCRF;Vale, W.,らの論文、Science 213:1394-1397 (1981))、続いて、ラット(rCRF;Rivier, J.,らの論文、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:4851-4855 (1983))、ブタ(PCRF;Schally, A.,らの論文、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:5197-5201 (1981))及びヒト(hCRF;Shibahara, S.,らの論文、EMBO J. 2:775-779 (1983))を含む、多数の他の哺乳類の視床下部から同定、単離されている。ヒツジ、ラット及びヒト由来のCRFペプチドのアミノ酸配列の比較から、ラットとヒトのペプチドは同一であり、両方とも7つのアミノ酸位置がヒツジのペプチドと異なっており、主にその違いはペプチドのC-末端領域に現れていることが示されている(Hermus, A.,らの論文、J. Clin. Endocrin. and Metabolism 58:187-191 (1984)及びSaphier, P.,らの論文、J. Endocrin. 133:487-495 (1993))。
【0005】
CRFは、ヒトにおける種々の異なった用途に対して、安全で有用な医薬品であることが示されている。具体的には、インビボでのCRFの投与は、ヒトにおける高及び低コルチゾールの状態の原因を解明するのに広く用いられており、内因性うつ病及びクッシング病(Chrousos, G.,らの論文、Eng. J. Med. 310:622 (1984)、及びLytras, N.,らの論文、Clin. Endocrinol. 20:71 (1984))を含む、視床下部-下垂体-副腎皮質系に影響を与える様々な他の障害に対する非常に有用な診断及び研究上の手段である。実際、インビボでのCRFの投与は、下垂体前葉の機能障害が疑わしい全ての症例で、下垂体前葉の副腎皮質刺激性の機能を試験するのに有用である。これは、下垂体腫瘍又は頭蓋咽頭腫の患者、下垂体機能不全、汎下垂体機能低下症又はトルコ鞍空洞症候群の疑いのある患者、並びに下垂体領域の外傷性障害又は術後の損傷を伴う患者、及び下垂体領域の放射線療法を行っている患者に適用される。このように、CRFは視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の診断解析において明確な有用性を有する。
【0006】
重要な末梢での適用について、該CRFはまた、インビボで抗炎症活性を有する。CRFペプチドの抗炎症活性に関して、CRFは、皮膚の後毛細管の細静脈で選択的に作用するような、様々な炎症性メディエーターによって誘発される血管漏出を防ぐ。またCRFは、外傷性及び炎症性メディエーターに誘発される、筋肉の毛細血管、大脳の微小血管、及び肺の肺胞の毛細血管からの漏出も抑制する。こうした知見は、CRFが微小循環の至るところで作用し、内皮細胞の統合性を保護又は回復させ、これによって血管内腔からの体液の放出及び白血球細胞の輸送、並びに損傷部位での蓄積を抑制することを示唆している。
【0007】
該CRFペプチドの新規の抗炎症活性を考慮して、数多くの臨床上の適応症が明らかになっている。例えば、CRFペプチドの使用を見出すことができる臨床上の適応症に含まれるのは、関節リウマチ、脳腫瘍又は癌への照射に続発する浮腫、脳卒中、頭部外傷又は脊髄損傷に起因する浮腫、外科手術後の浮腫、喘息及び呼吸器疾患、並びに眼の嚢胞様黄斑浮腫である。
【0008】
疾患の治療に用いられる多くのポリペプチドの問題の1つは、これらは、投与後の半減期が比較的短いということである。血液中に導入されたタンパク質は、腎臓によって哺乳類の対象から迅速に排除される。これは、CRFなどの低分子量のポリペプチドにおいて特に問題である。従って、多くのポリペプチドを用いる治療では所望の効果を得るために、大量の投与量を必要とするか、又は投与間の時間周期を短くすることが要求される。治療用化合物の循環半減期を延ばす一般的な方法は、リポソームでそれらを包む、タンパク質をヒト又はウシの血清アルブミンと連結する、又は活性タンパク質のポリマー複合体を合成することである。本願の第2節中の文献の引用は、該文献が本願の先行技術であることを認めるものではない。
【発明の概要】
【0009】
(3. 発明の概要)
本発明は、分解からCRFを保護し、かつCRFの半減期を延長する部位を含むように修飾されたCRFの複合体に関連する。本発明のCRF複合体は、半減期が増大され、投与量節約効果及び低頻度の投与をもたらす。CRF複合体の例には、CRFに共有結合したポリエチレングリコールなどの部位を含むように改良されたCRFがある。
【0010】
一実施態様において、本発明はCRF を含むCRF複合体を提供し、前記CRFはポリエチレングリコールで化学的に修飾されている。別の実施態様において、CRF複合体のCRF成分は、図1に特定されるヒトCRFと同一の配列を有する。あるいは、CRFの配列を改変又は誘導体化して、アミノ酸配列において1つ以上の変化を含むことができ、限定はされないが、挿入、欠失又は置換が含まれる。更に別の実施態様において、CRFの配列は、1つ以上のシステイン残基を含むように改変されている。CRFの配列は、CRFの1つ以上の既存する残基の置換としてシステインを含むことができ、あるいは、システイン残基をCRFの既存の配列に付加して組込むことができる。システイン残基はCRFの配列中に挿入するか、又は該システイン残基を、該配列のアミノ又はカルボキシ末端に付加することができる。別の実施態様において、システイン残基は該配列のアミノ及びカルボキシ末端に付加される。2つ以上のシステイン残基が存在する場合、システイン残基間で、1つ以上のジスルフィド結合を形成することができる。
【0011】
本発明の一実施態様において、1つ以上のシステイン残基がCRFの配列中に組込まれている場合、ポリエチレングリコール部位は、1つ以上の該システイン残基を介してCRFに共有結合することができる。あるいは、ポリエチレングリコール部位は、CRFの1つ以上の既存する41アミノ酸を介して共有結合することができ、該アミノ酸は、限定はされないが、リジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、並びにCRFポリペプチドのN-末端又はC-末端を含む。本発明の特定の実地態様において、CRF複合体は、1つ以上のリジン残基を介して結合したポリエチレングリコール部位を有することができる。本発明のCRF複合体は、CRF配列の多数の異なる部位を介して1つ以上のポリエチレングリコールポリマーを含むように修飾されたCRFを含む。一実施態様において、CRF複合体は、2つのシステイン残基に結合した2つのPEG部位を含む。一実施態様において、CRF複合体は、2つのシステイン残基に同時に結合した1つ以上のPEG基を含み、該システイン残基は、システイン付加CRF変異体においてジスルフィド結合を形成する。このような複合体は、ジスルフィド結合を還元的に開裂し、続いて、PEG部位が両方のチオ基と結合を形成する反応を行うことによって生成することができる。得られるCRF複合体は、ジスルフィド結合を形成していた2つのイオウを架橋するPEG部位を含む。特定の実施態様において、CRF複合体は、システイン付加CRF変異体のC-末端及びN-末端のシステイン残基の両方に結合したPEGを含む。
【0012】
特定の実施態様において、ポリエチレングリコールポリマーが一般式Iのシステイン付加CRF変異体に結合している。
【化1】

【0013】
式中、両方の-S-は、システイン付加CRF変異体でジスルフィド結合を形成するシステイン残基由来であり、Qは、直接結合することができる連結基、アルキレン基(好ましくは、C1-10アルキレン基)、又は任意に置換されたアリール若しくはヘテロアリール基を表し;
ここで、アリール基に含まれるのは、フェニル、ベンジル及びナフチル基であり;
ここで、適当なヘテロアリール基に含まれるのは、ピリジン、ピロール、フラン、ピラン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、ピリダジン、プリミジン(primidine)、及びプリンであり;
ここで、ポリマーへは加水分解に活性ある結合、又は不活性な結合によって結合できる。
【0014】
任意に置換されたアリール又はヘテロアリール基上に存在し得る置換基は、例えば、-CN、-NO2、-CO2R、-COH、-CH2OH、-COR、-OR、-OCOR、-OCO2R、-SR、-SOR、-SO2R、 -NHCOR、-NRCOR、-NHCO2R、-NR'CO2R、-NO、-NHOH、-NR'OH、-C=N-NHCOR、-C=N--NR'COR、-N+R3、-N+H3、-N+HR2、-N+H2R、ハロゲン、例えば 、フッ素又は塩素、-C≡CR、-C=CR2、及び13C=CHR(式中、R又はR'のそれぞれは、独立に水素原子又はアルキル(好ましくはC1-6)若しくはアリール(好ましくはフェニル)基を表す。)から選択される1つ以上の同じであるか又は異なる置換基を含む。電子吸引性の置換基の存在が特に好ましい。
【0015】
式Iの一実施態様において、PEGが式IIのCRFに結合している。
【0016】
【化2】

【0017】
2つのシステインが付加したCRF変異体は、ジスルフィド結合を介して互いに結合することができ、CRF二量体を形成する。該CRF二量体は、ポリエチレングリコール含有部位に結合することができる。一実施態様において、該CRF二量体複合体は、2つのCRFポリペプチドが互いに結合しているジスルフィド結合を介してPEGに結合している。
【0018】
特定の実施態様において、ポリエチレングリコールポリマーが、一般式IIIの2つのシステインが付加したCRF変異体に結合している。
【化3】

【0019】
式中、両方の-S-は、システイン付加CRF変異体でジスルフィド結合を形成するシステイン残基由来であり、Qは、直接結合することができる連結基、アルキレン基(好ましくは、C1-10アルキレン基)、又は任意に置換されたアリール若しくはヘテロアリール基を表し;
ここで、アリール基に含まれるのは、フェニル、ベンジル及びナフチル基であり;
ここで、適当なヘテロアリール基に含まれるのは、ピリジン、ピロール、フラン、ピラン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、ピリダジン、プリミジン(primidine)及びプリンであり;
ここで、ポリマーへは加水分解に活性ある結合、又は不活性な結合によって結合できる。
【0020】
任意に置換されたアリール又はヘテロアリール基上に存在し得る置換基は、例えば、-CN、-NO2、-CO2R、-COH、-CH2OH、-COR、-OR、-OCOR、-OCO2R、-SR、-SOR、-SO2R、 -NHCOR、-NRCOR、-NHCO2R、-NR'CO2R、-NO、-NHOH、-NR'OH、-C=N-NHCOR、-C=N--NR'COR、-N+R3、-N+H3、-N+HR2、-N+H2R、ハロゲン、例えば 、フッ素又は塩素、-C≡CR、-C=CR2、及び13C=CHR(式中、R又はR'のそれぞれは、独立に水素原子又はアルキル(好ましくはC1-6)若しくはアリール(好ましくはフェニル)基を表す。)から選択される1つ以上の同じであるか又は異なる置換基を含む。電子吸引性の置換基の存在が特に好ましい。
【0021】
式IIIの一実施態様において、PEGが式IVのCRFに結合している。
【0022】
【化4】

【0023】
本発明のCRF複合体は、1つ以上の未修飾のCRFの生物活性を有する。このような生物活性に含まれるのは、例えば、ACTH放出を刺激する能力、インビボで浮腫を抑制する能力、及びCRF受容体に結合する能力である。CRF複合体の生物活性は、本明細書中に記載した測定法を用いて測定することができる。
【0024】
未修飾のCRF(すなわち、PEG付加のないCRF)と比較すると、本発明の複合体は、循環半減期及び血漿滞留時間が増大され、及び/又は低減されたクリアランスが低減されている。本発明の一実施態様において、CRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、インビボでの臨床活性が増大されている。本発明の複合体は、効力、安定性、曲線下の面積及び循環半減期が改善されている。本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、薬物動態プロファイルが改善されている。本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、AUC、Cmax、クリアランス(CL)、半減期、及び生物学的利用率を含む薬物動態プロファイルの1つ以上のパラメータにおける改善を示すことができる。
【0025】
本発明によれば、該CRF複合体は、この治療を必要とする患者の脳浮腫を治療するのに有用である。本発明によれば、このような脳浮腫は、脳の損傷又は疾患の結果起こり得る。特に、本発明は、原発性又は転移性の脳腫瘍に起因する脳浮腫の治療方法に関連し、該方法は、CRF複合体を、この治療を必要とする患者に投与することを含む。
【0026】
本発明のCRF複合体は、患者の炎症及び浮腫を低減させることによって、こうした患者を治療するのに有用であり、治療上有効な量の新規CRF複合体及び本発明の製剤を投与することを含む。本発明のCRF複合体は、これを必要とする患者に投与する場合、浮腫の低減の証明となり得る血管保護効果を提供するのに有用である。特に、本発明のCRF複合体の投与方法は、腫瘍周囲の脳浮腫を低減させるのに役立つことができる。脳浮腫の治療のための患者へのCRF複合体の投与は、浮腫の治療のための他の薬剤と組合せることができる。具体的には、本発明のCRF複合体は、脳浮腫の治療のためのステロイド性の薬剤と組合せて使用することができ、該薬剤には、限定はされないが、グルココルチコイドが含まれる。グルココルチコイドのステロイドに含まれるのは、ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、アルダーストン(alderstone)、及び酢酸デオキシコルチコステロンである。本発明によると、脳浮腫の治療のためにCRF複合体を他の薬剤と組合せて投与する場合、他の薬剤をCRF複合体の投与と同時に、先に、又は後に投与することができる。
【0027】
本発明の別の態様において、脳浮腫の治療のためにCRF複合体を患者に投与することができ、治療計画により、ステロイドテーパー(steroid taper)を促進するステロイド減量剤として投与される。また本発明は、脳浮腫の管理を必要とする患者において、治療上有効な量のCRF複合体及びステロイドを該患者に投与することを含む、脳浮腫を管理する方法を含み、該方法は、ステロイド減量効果を提供する。更に、本発明は、ステロイド療法を受けている対象に、ステロイド療法の代替療法を与える方法を提供し、該方法は、ステロイド減量分のCRF複合体を投与することを含む。また、本発明は、ステロイドとCRF複合体とを組合せた治療計画を含む脳浮腫の治療方法を提供し、これにより、CRF複合体の投与によってステロイドへの総曝露が低減される。
【0028】
本発明は、活性成分としてCRF複合体を含有する医薬組成物に関する。該CRF複合体は、医薬として許容し得る担体とともに処方することができる。CRF複合体の半減期は増大されているので、該医薬組成物は、有効に浮腫を治療するための通常の投与量より低用量のCRFを含有することができる。本発明の医薬製剤は、非経口投与用に処方することができ、限定はされないが、内皮、皮下、及び筋肉注射、並びに静脈内又は骨内注入が含まれる。本発明の医薬製剤は、投与経路に応じて、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRFなどのCRF複合体、及び医薬として許容し得る希釈剤、免疫賦活剤又は担体を含む、溶液、懸濁液、乳濁液の形態をとることができる。
【0029】
本発明の医薬組成物は、治療量の本発明のCRF複合体が到達するように処方される。医薬製剤中に含有されるCRF複合体の用量は、1μg〜10mgの範囲とすることができる。特定の実施態様において、該CRF複合体の用量は、0.1mg〜5mg、又は0.3mg〜2mgの範囲とすることができる。特定の実施態様において、CRF複合体の用量は、約0.3mg、約0.5mg、約1mg、約2mg、約4mg、又は約5mgとし得る。
【0030】
本発明の複合体は、未修飾のCRFと同じ方法で使用することができる。しかし、該CRF複合体の特性は改善されているので、本発明の医薬製剤は、未修飾のCRFより低頻度で投与することができる。例えば、未修飾のCRFは、1日1回の投与であるのが、代わりに、該CRF複合体は、週1回の投与とすることができる。また、本発明は投与計画も包含し、該CRF誘導体を、1日1回、2、3若しくは4日に1回、又は週1回投与して、浮腫を有効に治療することができる。投与の頻度を低減させることで、患者コンプライアンスが改善され、患者の生活の質が改善されると同時に、治療成績の改善につながることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
(4. 図面の簡単な説明)
【図1】図1は、ヒト及びラットのCRFペプチドのアミノ酸配列とヒツジのCRFペプチドのアミノ酸配列との比較を示す。アミノ酸は、これらの標準の一文字表記で表されている。太字フォントで表しかつ下線が引かれたヒツジの配列中のアミノ酸は、ヒト/ラットのCRF配列のアミノ酸と異なっている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(5. 発明の詳細な説明)
本発明は、未修飾のCRFと比較して、循環半減期又は血漿滞留時間が増大されたCRFの形態となるための部位を含むように修飾されたCRFの複合体に基づいている。また、本発明は、このような複合体の製造方法にも関連する。更に、本発明は、患者の炎症及び浮腫を低減させるためのこのような複合体の使用方法に関する。
【0033】
本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、薬物動態プロファイルが改善されている。本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、AUC、Cmax、クリアランス(CL)、半減期、及び生物学的利用率を含む薬物動態プロファイルの1つ以上のパラメータにおける改善を示すことができる。
【0034】
本発明のCRF複合体は、図1に示したような、未修飾のアミノ酸配列を有するCRFを含み、1つ以上の残基がポリエチレングリコールに共有結合している。また、本発明のCRF複合体は、1つ以上のシステイン残基が、図1に示すCRFアミノ酸配列中に挿入されているか、又は図1に示す1つのCRF配列の1つ以上の残基が置換されている、システイン付加CRF変異体を含む。結合したシステイン付加CRF変異体は、図1に示す1つのアミノ酸配列のN-末端、C-末端、又はN-末端とC-末端の両方に付加したシステイン残基を有するCRF配列を含む。2つ以上のシステイン残基が該配列に付加する場合、2つのシステイン残基は互いにジスルフィド結合を形成することができる。特定の実施態様において、CRF配列のC-末端のシステイン残基は、N-末端のシステイン残基とジスルフィド結合を形成する。
【0035】
本発明のCRF複合体を使用して、治療上許容し得る量のCRF複合体を、この治療を必要とする患者に投与することによって浮腫を治療することができる。
【0036】
本発明の別の態様は、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRF、及び医薬として許容し得る希釈剤、免疫賦活剤又は担体を含む医薬組成物を、この治療を必要とする患者に投与することを含む、浮腫の治療方法である
【0037】
本発明の別の態様は、CRF複合体を投与することを含む脳浮腫の治療方法であり、治療計画により、該複合体は、ステロイドテーパーを促進するステロイド減量剤として投与される。
【0038】
本発明の別の態様は、脳浮腫の管理を必要とする患者において、治療上有効な量のCRF複合体及びステロイドを該患者に投与することを含む、脳浮腫を管理する方法であり、該方法は、ステロイド減量効果を提供する。
【0039】
本発明の別の態様は、ステロイド療法を受けている対象に、ステロイド療法の代替療法を提供する方法であり、該方法は、ステロイド減量分のCRF複合体を投与することを含む。
【0040】
本発明の別の態様は、ステロイドとCRF複合体とを組合せた治療計画を含む脳浮腫の治療方法であり、これにより、CRF複合体の投与によってステロイドへの総曝露が低減される。
【0041】
本明細書中の用語「曲線下面積」又は「AUC」は、ペプチド薬剤を患者に投与している状況において、患者の体循環における薬剤の濃度を0〜無限大時間の関数として描く、曲線下の総面積と規定される。
【0042】
本明細書中の用語「クリアランス」又は「腎クリアランス」とは、1分あたりに排出される薬剤の量を含有する血漿の量と規定される。
【0043】
本明細書中の用語「コルチコトロピン放出因子」、「CRF」、「コルチコトロピン放出ホルモン」、「CRH」、「コルチコリベリン」、「コルチコレリン」、「CRF-41」又はこれらの文法的等価物は、機能上の定義を有し、天然の未処置のCRFペプチドの1つ以上の生物活性を共有するペプチドを意味する。このような生物活性に含まれるのは、例えば、ACTH放出を刺激する能力、インビボで浮腫を抑制する能力、及びCRF受容体に結合する能力である。上述の用語のそれぞれは、天然供給源の抽出物及び精製物から単離されたものであろうと、組換え細胞培養系又はペプチド合成技術を用いる合成から単離されたものであろうと、41アミノ酸のヒト、ラット、ヒツジ(ovine)、ヒツジ(sheep)、ヤギ、ブタ、及び魚のコルチコトロピン放出因子ペプチド及び他の哺乳類由来のCRFペプチドを表すことを意図している。これら用語はまた、ウロコルチン(Vaughan, J.らの論文、Nature 378:287-292 (1995)、Donaldson, C. J.らの論文、Endocrinology 137(5):2167-2170 (1996)及びTurnbull, A. V.らの論文、Eur. J. Pharm. 303:213-216 (1996))、ウロテンシンI(Lederis, K.らの論文、Science 218:162-164 (1982))及びソーバジン(Montecucchi, P. C.らの論文、Int. J. Pep. Prot. Res. 16:191-199 (1980))などの天然のCRFペプチドの1つ以上の生物活性を共有する、他のCRF関連ペプチドを表すことを意図している。
【0044】
好ましくは、本発明の製剤に用いられるCRFペプチドは、固相又は液相のペプチド合成技術を使用して合成されるが、通常当業者には他のCRFペプチド源が容易に入手できる。ヒト、ラット及びヒツジのCRFペプチドのアミノ酸配列を図1に示す。用語「コルチコトロピン放出因子」及び「CRF」は、生物学的に活性なCRF等価物;例えば、全体のアミノ酸配列中1つ以上のアミノ酸が異なっているペプチド、並びに未処置のCRFペプチドと通常関連した生物活性を実質的に保持する、アミノ酸が置換、欠損、挿入及び修飾されたCRF変異体を同様に包含する。
【0045】
本明細書中の用語「CRF複合体」は、未修飾のCRFと比較して、薬物動態プロファイルを改善する部位を含むように修飾されたCRFペプチドを意味する。薬物動態プロファイルの改良は、1つ以上の次のパラメータ:効力、安定性、曲線下面積、及び循環半減期における改善として認めることができる。
【0046】
本明細書中の用語「システイン付加CRF変異体」は、図1に示した未修飾のCRF配列に1つ以上のシステイン残基が挿入される、又は図1に示したCRFポリペプチド配列中の1つ以上のアミノ酸残基がシステイン残基に置換されることによって修飾されたCRFを意味する。
【0047】
本明細書中の用語「半減期」又は「t1/2」は、ペプチド薬剤を患者に投与している状況において、患者の血漿中薬剤濃度が1/2まで減少するのに必要な時間と規定される。多数のクリアランス機構、再分布、及び当該分野で周知の他の機構に応じて、ペプチド薬剤に関する複数の半減期が存在し得る。一般に、アルファ及びベータ半減期は、アルファ相が再分布に関連し、ベータ相がクリアランスに関連するように規定される。しかし、多くの場合、タンパク質製剤を用いて血流が制限されるため、少なくとも2つのクリアランス半減期が存在し得る。アルファ相及びベータ相の半減期に対するペグ化の明確な効果は、当該分野で周知であるように、サイズ及び他のパラメータに極めて左右されるだろう。「半減期」の更なる説明は「医薬バイオテクノロジー(Pharmaceutical Biotechnology)(1997, DFA Crommelin及びRD Sindelar, 編集., Harwood Publishers, Amsterdam, pp 101 120)」に見出すことができる。
【0048】
本明細書中、本発明のCRF複合体の投与を意味している場合の用語「これらを必要とする患者」は、CRFによって治療できる症状、例えば、脳浮腫と診断された患者を意味する。
【0049】
本明細書中の用語「医薬として許容し得る」は、本発明の製剤に言及して使用される場合、該製剤が既知の投与計画によって投与された対象において、許容し得ないレベルの刺激とならないような製剤を意味する。許容し得ないレベルの刺激を構成するものは、当業者には容易に測定可能であり、製剤の投与に関連する浮腫の程度同様、紅斑及び焼痂の形成に配慮するであろう。
【0050】
本明細書中の用語「滞留時間」は、ペプチド薬剤を患者に投与している状況において、投薬後、薬剤が患者の体内に滞在する平均時間と規定される。
【0051】
本明細書中の用語「治療」、「治療する」又は「〜の治療」は、対象の症状の深刻さが低減する、又は少なくとも一部改善する若しくは回復すること、及び/又は幾分の軽減、緩和、若しくは少なくとも1つの臨床症状の減少が達成されること、及び/又は症状の進行における抑制若しくは遅延があること、及び/又は疾患若しくは疾病の発症の進行の遅延を意味する。また、用語「治療」、「治療する」又は「〜の治療」は、例えば脳浮腫などの病状を管理することも意味する。
【0052】
本明細書中の「十分な量」又は特定の結果を達成する「〜に十分な量」とは、任意の治療上の効果(例えば、治療上有効な量の投与による)である所望の効果を生ずるのに有効なCRF複合体の量を意味する。例えば、「十分な量」又は「〜に十分な量」とは、浮腫を管理するのに必要なステロイドの量を低減させるのに有効な量とし得る。
【0053】
本明細書中の「治療上有効な」量は、幾分の改善又は利益を対象に与える量である。別の定義で「治療上有効な」量とは、幾分の軽減、緩和、及び/又は少なくとも1つの臨床症状の低減を与える量である。本発明の方法によって治療できる障害に関する臨床症状は、当業者には周知である。更に、幾分の利益が対象に提供されない限り、治療効果が完全又は治癒的である必要はないことは、当業者には理解されるであろう。
【0054】
(5.1 CRF複合体)
本発明のCRF複合体は、1つ以上の未修飾のCRFの生物活性を有する。このような生物活性に含まれるのは、例えば、ACTH放出を刺激する能力、インビボで浮腫を抑制する能力、及びCRF受容体に結合する能力である。CRF複合体の生物活性は、本明細書中に記載した測定法を用いて測定することができる。
【0055】
未修飾のCRF(すなわち、PEG付加のないCRF)と比較すると、本発明の複合体は、循環半減期及び血漿滞留時間が増大され、及び/又はクリアランスが低減されている。本発明の一実施態様において、CRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、インビボでの臨床活性が増大されている。本発明の複合体は、効力、安定性、曲線下の面積及び循環半減期が改善されている。本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、薬物動態プロファイルが改善されている。本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、AUC、Cmax、クリアランス(CL)、半減期、及び生物学的利用率を含む薬物動態プロファイルの1つ以上のパラメータにおける改善を示すことができる。
【0056】
本発明によって修飾されるCRFは、天然供給源から得られ、単離することができる。本発明によって修飾されるCRFは、組換えで発現することができる。本発明によって修飾されるCRFは、合成的に生成することができる。
【0057】
一実施態様において、CRF複合体のCRF成分は、図1に示したヒトCRFと同一の配列を有する。一実施態様において、CRF複合体のCRF成分は、図1に示したラット又はヒツジのCRFと同一の配列を有する。あるいは、CRFの配列は改変、又は誘導体化されて、アミノ酸配列における1つ以上の変化を含むことができ、限定はされないが、挿入、欠失又は置換が含まれる。更に別の実施態様において、CRFの配列は1つ以上のシステイン残基を含むように改変されている。CRFの配列は、CRFの1つ以上の既存の残基の置換としてシステインを含むことができ、あるいは、システイン残基をCRFの既存の配列に付加して組込むことができる。システイン残基をCRFの配列内に挿入することができ、システイン残基を該配列のアミノ又はカルボキシ末端に付加することができ、又はシステイン残基をアミノ又はカルボキシ末端の両方に付加することができる。
【0058】
天然に存在するCRFポリペプチドの1つ以上の官能基に結合するPEGを含むCRF-PEG複合体は、循環半減期及び血漿滞留時間を増大させ、クリアランスを低減させ、かつインビボでの臨床活性を増大させる。CRFは、限定はされないが、リジン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、並びにタンパク質のN-末端のα-アミノ基及びC-末端のカルボキシル基を含む、1つ以上の41アミノ酸を介してポリエチレングリコールポリマーと共有結合することによって修飾することができる。ポリエチレングリコールポリマー部分は、直鎖又は分枝とし得る。該CRF-PEG複合体を注射によって静脈内又は皮下に送達することができる。
【0059】
本発明の一態様は、PEGがCRFの1つ以上のアミノ基に結合しているCRF-PEG複合体である。本発明の別の態様は、ポリエチレングリコールポリマーがCRFの1つ以上のカルボキシル基に結合しているCRF-PEG複合体である。本発明の別の態様は、ポリエチレングリコールポリマーがCRFの1つ以上のアルコール基に結合しているCRF-PEG複合体である。
【0060】
本発明の別の態様は、ポリエチレングリコールポリマーがリジン残基に結合しているCRF-PEG複合体である。CRFのリジンのε-アミノ基は、限定はされないが、アルキル化及びアシル化を含む、種々の技術によって容易にペグ化できる。
【0061】
本発明の別の態様は、ポリエチレングリコールポリマーがN-末端のα-アミノ基に結合しているCRF複合体である。CRFのN-末端のα-アミノ残基は、限定はされないが、N-末端のα-アミノ基のアルキル化及びアシル化を含む、種々の技術によってPEG複合体を形成できる。
【0062】
本発明の別の態様は、システイン付加CRF変異体であり、CRFポリペプチド配列中に天然に存在する残基と置換されている、1つ以上のPEG結合システイン残基を含む。システイン置換CRFは、点突然変異を伴うDNA発現によって組換えにより産生することができ、天然に存在するCRFの残基がシステインに置換される。例えば、セリンをコードするコドンTCTは、システインをコードするTGCに変異することができ、従って、セリン残基の代わりに、システインが発現される。CRFが合成の手法によって生成される場合、合成経路において、CRFに天然に存在する1つ以上の残基の代わりに、システイン残基を置換することが可能である。次いで、該システインをポリエチレングリコールポリマーに選択的に結合させることができる。
【0063】
本発明の別の態様は、システイン付加CRF変異体であり、図1に示す天然に存在するCRF配列に挿入されている1つ以上のPEG結合システイン残基を含む。CRFが組換えにより産生される場合、1つ以上のシステインコドンを、CRFをコードするDNA配列に挿入することによって、これを行うことができる。固相タンパク質合成において、所望の場所に付加的システインを導入することによって、タンパク質合成の任意の位置にシステインが付加される。次いで、該システインをポリエチレングリコールポリマーに選択的に結合させることができる。
【0064】
本発明の別の態様は、システイン付加CRF変異体であり、N-末端に挿入されたPEG結合システイン残基を含む。本発明の別の態様は、CRF複合体であり、C-末端に挿入されたシステイン残基に結合したPEGを含む。本発明の別の態様は、CRF複合体であり、N-末端とC-末端の両方に挿入されたシステイン残基に結合したPEGを含む。特定の実施態様において、CRF配列のC-末端のシステイン残基は、N-末端のシステイン残基とジスルフィド結合を形成する。一実施態様において、CRF-PEG複合体は、2つのシステイン残基に同時に結合した1つ以上のPEG基を含み、該システイン残基は、システイン付加CRF変異体でジスルフィド結合を形成する。こうした複合体は、ジスルフィド結合を還元的に開裂し、続いて、PEG部位が両方のチオ基と結合を形成する反応を行うことによって生成することができる。得られるCRF複合体は、ジスルフィド結合を形成していた2つのイオウを架橋するPEG部位を含む。特定の実施態様において、CRF複合体は、システイン付加CRF変異体のC-末端及びN-末端のシステイン残基の両方に結合したPEGを含む。
【0065】
特定の実施態様において、ポリエチレングリコールポリマーが一般式Iのシステイン付加CRF変異体に結合する。
【化5】

【0066】
式中、両方の-S-は、システイン付加CRF変異体でジスルフィド結合を形成するシステイン残基由来であり、Qは、直接結合することができる連結基、アルキレン基(好ましくは、C1-10アルキレン基)、又は任意に置換されたアリール若しくはヘテロアリール基を表し;
ここで、アリール基に含まれるのは、フェニル、ベンジル及びナフチル基であり;
ここで、適当なヘテロアリール基に含まれるのは、ピリジン、ピロール、フラン、ピラン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、ピリダジン、プリミジン(primidine)、及びプリンであり;
ここで、該ポリマーへは加水分解に活性ある結合、又は不活性な結合によって結合できる。
【0067】
任意に置換されたアリール又はヘテロアリール基上に存在し得る置換基は、例えば、-CN、-NO2、-CO2R、-COH、-CH2OH、-COR、-OR、-OCOR、-OCO2R、-SR、-SOR、-SO2R、 -NHCOR、-NRCOR、-NHCO2R、-NR'CO2R、-NO、-NHOH、-NR'OH、-C=N-NHCOR、-C=N--NR'COR、-N+R3、-N+H3、-N+HR2、-N+H2R、ハロゲン、例えば 、フッ素又は塩素、-C≡CR、-C=CR2、及び13C=CHR(式中、R又はR'のそれぞれは、独立に水素原子又はアルキル(好ましくはC1-6)若しくはアリール(好ましくはフェニル)基を表す。)から選択される1つ以上の同じであるか又は異なる置換基を含む。電子吸引性の置換基の存在が特に好ましい。
【0068】
式Iの一実施態様において、PEGが式IIのCRFに結合している。
【0069】
【化6】

【0070】
CRFポリペプチドと複合体を形成するであろう、いくつかの異なる種のポリエチレングリコールポリマーが存在する。単一のポリエチレングリコール鎖を含む直鎖のPEGポリマーがあり、かつ分枝又はマルチアーム(multi-arm)のPEGポリマーがある。分枝のポリエチレングリコールは、一体化している基を介して互いに結合している、2つ以上に分離した直鎖のPEGを含む。例えば、2つのPEGポリマーはリジン残基によって互いに結合することができる。1つの直鎖のPEGがα-アミノ基に結合し、一方他のPEG鎖がε-アミノ基に結合している。タンパク質に共有結合するのに使用可能な、リジン母核に残存するカルボキシル基が残されている。直鎖及び分枝のどちらのポリエチレングリコールポリマーも様々な分子量で市販されている。
【0071】
本発明の一態様によると、CRF-PEG複合体は、CRF に結合した1つ以上の直鎖のポリエチレングリコールポリマーを含み、それぞれのPEGは約2kDa〜約10OkDaの分子量を有する。本発明の一態様によると、CRF-PEG複合体は、CRF に結合した1つ以上の直鎖のポリエチレングリコールポリマーを含み、それぞれの分枝したPEGは約5kDa〜約4OkDaの分子量を有する。
【0072】
本発明のCRF-PEG複合体は、CRF に結合した1つ以上の分枝したポリエチレングリコールポリマーを含むことができ、それぞれの分枝したPEGは約2kDa〜約10OkDaの分子量を有する。本発明の一態様によると、CRF-PEG複合体は、CRF に結合した1つ以上の分枝したポリエチレングリコールポリマーを含み、それぞれの分枝したPEGは約5kDa〜約4OkDaの分子量を有する。
【0073】
(5.2 CRF誘導体の製造方法)
(5.2.1. アミノ基のペグ化)
CRFは、本来の41残基のペプチド鎖を修飾せずにポリエチレングリコールと結合することができる。リジンのε-アミノ基とN-末端のα-アミノ基のどちらも、下記のように、アルキル化及びアシル化によってペグ化することができる。
【0074】
リジンのε-アミノ基は、タンパク質のPEG結合に一般に使用される基であり、CRFは1つのリジン残基を有している。ε-アミノ基を介したリジンのPEGの結合は、限定はされないが、アシル化及びアルキル化を含む方法によって達成することができる。PEG-アルデヒドとアミノ基とが反応する場合、シッフ塩基が形成される。Harris及びHeratiの文献(米国特許第5,252,714号)(その全体を引用により本明細書に組み込んでいる。)では、PEGアルデヒドとしてポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドを使用する。次いで、シッフ塩基をシアノ水素化ホウ素ナトリウムによって還元してCRF-PEG複合体を生成する。 この方法の欠点はシッフ塩基の形成が遅く、多くの場合、形成が生じるのに1日以上を要することである。別のアルキル化の方針は、PEGアルキル化剤としてPEG-塩化トレシルを使用することである。PEG-塩化トレシルの利点は、Delgadoの文献(米国特許第5,349,052号)(その全体を引用により本明細書に組み込んでいる。)で示されるように、アミノ基に対して高い活性を示すことにある。更に、CRFのPEG複合体を、当該分野で公知の技術によって精製し、単離することができる。
【0075】
アシル化を介したリジンのε-アミノ基のPEG結合は、PEGポリマーを、CRF中のリジン残基などのリジン残基のε-アミノ基に結合するための当該分野で公知の技術である。一般に使用されるPEG試薬は、Veronese, F.M.の論文(Biomaterials. 22(2001): 405-417)によって示されるPEGのN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステルである。他のPEGアシル化剤は、Veronese F.M.らの論文(Appl. Biochem. Biotechnol 11(1985): 141-152)のPEG-p-ニトロフェニルカルボナート及びPEG-トリクロロフェニルカルボナート、Beauchamp, C.O.らの論文(Anal. Biochem. 131(1983): 25-33)のPEGオキシカルボニルイミジゾール(oxycarbonylimidizole)、及びDolence らの文献(米国特許第5,650,234号)のPEG-ベンゾトリアゾールカルボナート(その全体を引用により本明細書に組み込んでいる。)である。アシル化によって合成されるCRF-PEG複合体は、ゲル濾過又はサイズ排除クロマトグラフィーを含む当該分野で公知の方法によって精製し、単離することができる。
【0076】
Kinstlerの文献(米国特許第6,586,398号)(その全体を引用により本明細書に組み込んでいる。)に教示されるように、N-末端のα-アミノ基は、ポリエチレングリコールポリマーに選択的に結合することができる。
【0077】
N-末端のPEG化の一方法は、前述と同様の手順でPEGアルデヒドを用いる還元的アルキル化である。例えば、大過剰のメトキシPEGアルデヒドをCRFタンパク質とpH4〜6の緩衝液中で混合できる。該混合物にシアノ水素化ホウ素ナトリウムを添加し、当該分野に公知の方法によって所望のCRF-PEG複合体を単離し、精製することができる。また、活性化されたPEGのNHSエステルを用いるアシル化によって、N-末端のアミノ基を修飾することができる。わずかに塩基性のCRFの緩衝溶液に大過剰のNHSのPEGエステルを添加することができる。反応完了後、当該分野で公知の方法によってCRF-PEG複合体を単離し、精製することができる。
【0078】
(5.2.2. システイン残基の挿入及び置換)
システインが挿入又は置換されているCRF誘導体は、当該分野で公知の技術を用いる組換え方法によって産生することができる。所望のシステインが置換又は挿入された誘導体の発現は、真核又はバクテリア細胞中のいずれかで、IL-3システイン付加変異体に関するShawの文献(米国特許第5,166,322号)(その全体を引用により本明細書に組み込んでいる。)で使用される方法によって行われる。天然に存在するCRFタンパク質の改変は、部位特異的PCR変異誘発により達成することができる。Cox IIIの文献(米国特許第7,214,779号)(その全体を引用により本明細書に組み込んでいる。)は、組換え方法によって産生される、システイン付加した顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GCSF)変異体を開示している。また、システイン付加CRF変異体は、合成的方法によって製造することができる。システイン残基は、合成経路の中で別のアミノ酸残基と置換することができる。CRFの固相合成に付加工程を追加することによって、システイン残基をポリペプチド配列の所望の場所に挿入することもできる。固相合成において、合成の第1工程でCRF配列のC-末端にシステインを付加することができる。あるいは、固相合成の最終工程でCRF配列のN-末端にシステインを付加することができる。固相合成の第1及び最終工程でシステイン残基を付加することによって、得られるシステイン付加CRF変異体のC-末端及びN-末端にシステイン残基が与えられる。更に、2つのシステイン間でジスルフィド結合が起こり得る。
【0079】
(5.2.3. システイン残基のペグ化技術)
当該分野において、ポリエチレングリコール複合体又はペグ化されたシステイン残基を形成する多数の方法が存在する。こうした技術の利点は、システインに選択的であることで、これは他のアミノ酸残基の側鎖がこれら方法によって触れられていないことを意味する。スキーム1aにおいて、活性化されたジスルフィドである、PEGオルト-ピリジル-ジスルフィドは、チオールと反応してより安定な対称ジスルフィドを形成する。スキーム1bにおいて、システイン残基は、チオールが活性化した二重結合に付加するマイケル付加反応を介して、PEG-マレアミド(maleamide)と反応する。スキーム1cにおいて、PEG-ビニルスルホンの活性化された末端のビニル基においてチオールが結合を攻撃してペグ化されたシステイン残基が得られる。スキーム1dにおいて、システインのチオールは求核攻撃を介してヨウ化物と置換わり、ペグ結合システイン残基が得られる。
【化7】

【0080】
また、互いにジスルフィド結合を形成する2つのシステイン基は、スキーム2に示した技術を使用することによって、選択的にペグ化される。まず、天然のジスルフィド結合が還元される。この結合から得られるチオールの1つは、エノンへの1,4-付加などの、求電子基を求核攻撃できる。これに続いて、例えば、スルホンなどの脱離基が離れる。続く脱離で第2のエノンとなり、続いて、残留するチオールの1,4-付加によりPEG基との架橋ジスルフィドとなる。
【化8】

【0081】
システイン付加CRF変異体の二量体について、ペグ化反応はスキーム2を介して進行する。
【化9】

【0082】
(5.3 生物活性の測定法方法)
本発明のCRF複合体は、1つ以上の未修飾のCRFの生物活性を有する。このような生物活性に含まれるのは、例えば、ACTH放出を刺激する能力、インビボで浮腫を抑制する能力、及びCRF受容体に結合する能力である。CRF複合体の生物活性は、当該分野で公知の生物測定法、又は6.3節に記載の測定法を用いて測定することができる。
【0083】
(5.4 浮腫の治療方法)
本発明はまた、浮腫の治療方法にも向けられる。本明細書に記載の方法に含まれるのは、CRF複合体を含む医薬組成物を、この治療を必要とする患者に投与することを含む浮腫の治療方法である。特定の実施態様において、CRF複合体はCRFがポリエチレングリコールで化学的に修飾されている。
【0084】
また、本発明は、CRF複合体を投与することを含む脳浮腫の治療方法にも向けられ、該複合体は、治療計画により、ステロイドテーパーを促進するステロイド減量剤として投与される。
【0085】
特定の実施態様において、本明細書中に記載した方法は、脳浮腫の管理を必要とする患者において、治療上有効な量のCRF複合体及びステロイドを該患者に投与することを含む、脳浮腫を管理する方法を包含し、ここで前記方法は、ステロイド減量効果を提供する。本明細書に記載のCRF複合体は、コルチゾール受容体と結合する能力を特徴とするステロイドホルモン類であるグルココルチコイドを含む任意のステロイドと同時投与することができる。グルココルチコイドステロイドに含まれるのは、ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、アルドステロン、及び酢酸デオキシコルチコステロンである。
【0086】
他の実施態様において、本明細書中に記載した方法は、脳浮腫の治療方法を含み、該方法は、ステロイドとCRF複合体との組合せを、この治療を必要とする患者に投与することを含む治療計画を含み、これにより、CRF複合体の投与によってステロイドへの総曝露が低減される。
【0087】
また、本発明は、ステロイド療法を受けている対象に、ステロイド療法の代替療法を提供する方法を含み、該方法は、ステロイド減量分のCRF複合体を投与することを含む。
【0088】
本明細書中に記載される、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRFなどのCRF複合体の1日の総用量は、1μg〜10mgの範囲とすることができる。特定の実施態様において、CRF複合体の1日の総用量は、0.1mg〜5mg又は0.3mg〜2mgの範囲とすることができる。例えば、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRFの1日の総用量は、約0.3mg、約0.5mg、約1mg、約2mg、約4mg又は約5mgとし得る。該CRF複合体は、所望のCRF複合体の1日量に達するまで、1日1回又は1日複数回投与することができる。例えば、0.5mg又は1.0mgのCRF複合体を1日に4回投与して、CRF複合体の1日の総用量2mg又は4mgを達成することができる。
【0089】
該CRF複合体の投与経路の例には、限定はされないが、内皮、皮下、及び筋肉注射、並びに静脈内又は骨内注入などの非経口経路が含まれる。本発明の組成物は、投与経路に応じて、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRFなどのCRF複合体、及び医薬として許容し得る希釈剤、免疫賦活剤又は担体を含む、溶液、懸濁液、乳濁液の形態をとることができる。
【0090】
特定の実施態様において、本明細書に記載のCRF複合体を0.1μg/kg〜1000μg/kgの量で皮下注射によって投与することができる。CRF複合体を1μg/kg〜500μg/kg、又は2μg/kg〜100μg/kg、又は2μg/kg〜80μg/kg、又は4μg/kg〜40μg/kg、又は5μg/kg〜20μg/kgの量で皮下に投与することができる。例えば、CRF複合体を10μg/kg、30μg/kg、60μg/kg、100μg/kg及び300μg/kgの用量で投与することができる。
【0091】
他の実地態様において、本明細書に記載のCRF複合体を1μg〜100mgの量で皮下に投与することができる。CRF複合体を1μg〜80mg、10μg〜50mg、100μg〜40mg、300μg〜10mg、600μg〜1mg及び800μg〜1mgの量で皮下に投与することができる。例えば、CRF複合体を100μg、300μg、600μg、1mg、2mg、4mg及び5mgの用量で皮下に投与することができる。
【0092】
皮下に投与されるCRF複合体を1日1回又は1日複数回投与することができる。例えば、皮下に投与されるCRF複合体の薬用量は、1時間毎、2時間毎、3時間毎、4時間毎、6時間毎、8時間毎又は12時間毎に投与することができる。あるいは、CRF複合体を、2、3、4、5又は6日に1回投与することができる。特定の実施態様において、CRF複合体を、1週間に1回、2、3又は4週間に1回又は1ヵ月に1回投与することができる。1週間以上で1回投与されるCRF複合体の薬用量は、デポ剤の形態で投与することができる。
【0093】
更に他の実施態様において、CRF複合体を0.1μg/kg/h〜100μg/kg/hの量で静脈内注入によって投与することができる。例えば、CRF複合体を1μg/kg/h〜100μg/kg/h、又は2μg/kg/h〜80μg/kg/h、又は2μg/kg/h〜50μg/kg/h、又は4μg/kg/h〜40μg/kg/h、又は5μg/kg/h〜20μg/kg/hの量で静脈内に投与することができる。
【0094】
他の実施態様において、CRF複合体を1μg/kg〜1000μg/kgの量で静脈内に投与することができる。例えば、CRF複合体を1μg/kg〜100μg/kg、又は2μg/kg〜80μg/kg、又は2μg/kg〜50μg/kg、又は4μg/kg〜40μg/kg、又は5μg/kg〜20μg/kgの量で静脈内に投与することができる。例えば、CRF複合体を0.5μg/kg〜1μg/kg、又は2μg/kg〜8μg/kg、又は4μg/kg〜8μg/kg、又は5μg/kgの薬用量で投与することができる。
【0095】
本明細書に記載のCRF複合体を、1時間又は1時間未満の時間をかけて静脈内に投与することができる。特定の実施態様において、CRF複合体を、1時間以上の時間をかけて静脈内に投与することができる。例えば、上記の静脈内に投与されるポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRFの薬用量を、10分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間、48時間又は72時間の時間にわたって投与することができる。
【0096】
(5.4.1. 投与計画)
投与計画には、疾患、又は脳又は神経系の損傷に起因する浮腫に罹患している特許(patent)に、1日置きに又は週1回、本発明のCRF複合体を投与することが含まれる。
【0097】
(5.4.2. 医薬組成物)
本発明は、活性成分としてCRF複合体を含有する医薬組成物に関する。該CRF複合体は、医薬として許容し得る担体とともに処方することができる。CRF複合体の半減期は増大されているので、該医薬組成物は、有効に浮腫を治療するための通常の投与量より低用量のCRFを含有することができる。本発明の医薬製剤は、非経口投与用に処方することができ、限定はされないが、内皮、皮下、及び筋肉注射、並びに静脈内又は骨内注入が含まれる。本発明の医薬製剤は、投与経路に応じて、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRFなどのCRF複合体、及び医薬として許容し得る希釈剤、免疫賦活剤又は担体を含む、溶液、懸濁液、乳濁液の形態をとることができる。
【0098】
本発明の医薬組成物は、治療量の本発明のCRF複合体が到達するように処方される。医薬製剤中に含有されるCRF複合体の用量は、1μg〜10mgの範囲とすることができる。特定の実施態様において、CRF複合体の用量は、0.1mg〜5mg、又は0.3mg〜2mgの範囲とすることができる。特定の実施態様において、CRF複合体の用量は、約0.3mg、約0.5mg、約1mg、約2mg、約4mg、又は約5mgとし得る。
【0099】
また、本発明は、CRF複合体及び更なる治療薬を、これらを必要とする患者に投与することによって、浮腫の治療方法にも向けられる。更なる治療薬は、浮腫を軽減できる任意の試薬とし得る、又はCRF複合体と組合せる場合に、該複合体の浮腫に対する効果を改善する、若しくは該CRF複合体が該更なる治療薬の浮腫に対する効果を改善する。
【0100】
適当な更なる治療薬に含まれるのは、限定はされないが、コルチコステロイドなどの抗炎症薬である。コルチコステロイドに含まれるのは、グルココルチコイド及びミネラルコルチコイド、例えば、アルクロメタゾン、アルドステロン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デオキシコルチコステロン、デソニド、デスオキシメタゾン、デスオキシコルトン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、フルクロロロン、フルドロコルチゾン、フルドロキシコルチド、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチン、フルオコルトロン、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニデン、フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、ハロメタゾン、ヒドロコルチゾン/コルチゾール、ヒドロコルチゾンアセポネート、ヒドロコルチゾンブテプレート、酪酸ヒドロコルチゾン、ロテプレドノール、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、アセポン酸メチルプレドニゾロン、フロ酸モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、レドニゾン、プレドニゾロン、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、ウロベタゾール又はこれらの組合せである。
【0101】
また、適当な更なる試薬に含まれるのは、ループ利尿薬、浸透圧利尿薬、近位利尿薬(proximal diuretic)、遠位尿細管利尿薬(distal convoluted tubule diuretic)及び皮質集合管利尿薬(cortical collecting tubule diuretic)などの利尿薬である。例えば、適当な利尿薬に含まれるのは、限定はされないが、グルコース、マンニトール、ブメタニド、エタクリン酸、フロセミド、トルセミド、アミロライド、スピロノラクトン、トリアムテレン、ベンドロフルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、アセタゾラミド、ドルゾラミド、ホスフォジエステラーゼ、クロルタリドン、カフェイン、メトラゾン又はこれらの組合せである。
【0102】
CRF複合体と同時投与できる更なる試薬に含まれるのは、抗癌薬、抗増殖薬、抗縮瞳薬(anti-miotic agent)、例えば、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、メトトレキサート、アザチオプリン、アドリアマイシン及びマイトマイシンなど;エンドスタチン、アンジオスタチン及びチミジンキナーゼ阻害剤、クラドリビン、タキソール及びその類似体又は誘導体、パクリタキセル、並びにその誘導体、類似体又はパクリタキセル結合タンパク質である。
【0103】
加えて、本明細書に記載のCRF複合体は、抗癌治療法、例えば、放射線療法、化学療法、光線力学療法、外科手術又は他の免疫療法などと同時投与することができる。
【0104】
CRF複合体及び更なる治療薬は、順次に又は同時に投与することができる。順次に投与する場合、投与の順序は任意である。例えば、CRF複合体を更なる治療薬の投与の前に投与することができる。あるいは、更なる治療薬の投与をCRF複合体の投与に先行することができる。
【0105】
これらが別々の組成物として投与されようと、1つの組成物として投与されようと、各組成物は医薬として投与に適当であることが好ましい。さらに、別々に投与する場合、CRF複合体及び治療薬は、同じであるか又は異なった投与方式で投与できる。
【実施例】
【0106】
(6. 実施例)
(6.1 CRF複合体の合成)
本発明のCRF複合体は、当該分野で公知の合成方法を用いて容易に合成することができる。下記の合成例は、システイン付加CRF変異体のCRF-PEG複合体を含む、CRF-PEG複合体の合成を示す。
【0107】
(6.1.1. 実施例1:CRFリジン残基のペグ化)
hCRFのリジン残基のε-アミノ基のアルキル化を、ペグ化剤としてPEG-プロピオンアルデヒドを用いる還元的アルキル化を介して達成することができる。ヒト-CRF(lmg)を過剰なPEG-プロピオンアルデヒド(3mg)及びわずかに過剰な物質量のシアノ水素化ホウ素ナトリウムとともに、pH9のホウ酸塩緩衝液中室温で撹拌する。高pHを用いて、シッフ塩基形成前のアルデヒドの還元を避ける。所望のCRF-PEG複合体を単離するために、該混合物をリン酸緩衝食塩水で透析する。8%のデキストランT-40、6%のPEG8000、0.15MのNaCl及び0.010Mのリン酸ナトリウムpH7.2からなる系で、CRF-PEG複合体は上相に移り、一方、未修飾のCRFは下相に移る。更に、所望のCRF-PEG複合体をゲル濾過クロマトグラフィーで単離することができる。
【0108】
ポリエチレングリコール基を有するヒト-CRFのアシル化は、PEG NHS活性エステルを用いて行うことができる。ヒト-CRFは5OmMのビシン緩衝液中で可溶化する(2〜4mg/ml)。hCRF緩衝溶液に10〜20等量のPEG NHS活性エステルを添加する。室温で1時間撹拌して反応する。反応が完了次第、所望のCRF-PEG複合体をゲル濾過クロマトグラフィーで単離することができる。
【0109】
(6.1.2. 実施例2:システイン付加CRF変異体のペグ化)
5.2.3で論じたように、システイン残基をポリエチレングリコールに共有結合するのに用いることができる多数の試薬が存在する。本実施例では、ペグ化剤としてPEG-マレイミド又はマレイミド-PEGを用いる。システイン付加CRF変異体を、2OmMのピペラジン-l,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)pH6.75緩衝液、0.6MのNaCl及び1%のグリセロールに200μg/ml溶解させる。マレイミド-PEG(lμl)を2OmMのトリス pH7.4、0.1MのNaCl及び0.01%のTweenからなる10μlの緩衝液に溶解させる。該マレイミド-PEGは、反応に関して所望の濃度に達するまで希釈することができ、次いで、CRFの溶液に添加される。最大20倍過剰のマレイミド-PEGを使用することができる。室温にて1時間で反応を行うことができるが、該反応はまた、4℃にてより長い反応時間で行うこともできる。完了次第、得られたシステイン付加CRF-PEG複合体変異体をゲル濾過クロマトグラフィーで単離することができる。
【0110】
(6.1.3. 実施例3:ジスルフィド結合を介したcys-hCRF-cysのペグ化)
2つのシステイン残基間のジスルフィド結合の形成を介して環化しているcys-hCRF-cysに2-メルカプトエタノール尿素水溶液を添加する。得られる溶液のpHを10%のメチルアミン水溶液を用いてpH8.5に調節する。次いで、得られる溶液を窒素でおよそ30分間泡立てる。窒素で浄化し、さらに管を37℃で加熱する。次いで、反応混合物を氷-塩水浴で冷却し、10mLのアルゴンで浄化し冷やした1NのHCl;無水エタノールを該反応溶液に添加する。沈殿が生じ、該沈殿物を遠心分離で単離し、次いで、更に別のHCl:無水エタノール混合物及び窒素で2回浄化し冷やしたジエチルエーテルで3回洗浄する。それぞれの洗浄後、沈殿物を遠心分離で単離する。次いで、洗浄した沈殿物を、窒素で浄化した脱イオン水に溶解し、凍結乾燥して乾燥した固形物を得る。タンパク質分子あたりの遊離チオールの数を与えるエルマン試験を用いて、cys-hCRF-cysの部分的還元を確認、定量することができる。
【0111】
エッペンドルフ中、部分的に還元されたcys-hCRF-cysをアルゴンで浄化したpH8のアンモニア溶液に溶解する。また、別のエッペンドルフに、ポリマー結合試薬(polymer conjugating reagent)、ポリ(エチレン)グリコール由来のα-メトキシ-ω-4-[2,2-ビス[(p-トリルスルホニル)-メチル]アセチル]ベンズアミドをアンモニア溶液に溶解し、得られた溶液をファクターIX(Factor IX)溶液に添加する。エッペンドルフのPEGを新鮮なアンモニア溶液で洗浄し、これも主要な反応用エッペンドルフに添加する。次いで、反応用エッペンドルフをアルゴン下で閉じ、37℃でおよそ24時間加熱し、次いで、室温まで冷却する。次いで、冷却した反応溶液をドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析する。
【0112】
(6.1.4. 実施例4:N-末端システイン付加CRF変異体の固相合成)
【0113】
システイン付加CRF変異体の合成は、固相ペプチド合成技術を介して行うことができる。スキーム3に示すように、合成の最終工程でCRFのN-末端にシステイン残基を挿入することができる。
【化10】

【0114】
未修飾のhCRFのN-末端はセリン残基であるので、セリンのα-アミノ基にシステイン残基が結合する。S-2,4,6-トリメトキシベンジル(Tmob)によって保護されたシステイン残基を、ジクロロメタン/DMF 3:1の溶液中のN-末端が脱保護されたCRF溶液に添加する。該カップリング反応の完了は、ニンヒドリン試験で監視することができる。反応が完了したら、固相をジクロロメタン及びメタノールで洗浄し、このカップリング工程後、DMFでの更なる洗浄を行い、上述の中間体が結合した固相を得ることができる。
本実施例において、システインは最後のアミノ酸に付加される。結合した場合、固相からの切出しは、無水トリフルオロ酢酸で行われ、続いて、側鎖の保護基全体の脱保護が行われ、N-末端システイン付加CRF変異体が得られる。最終的なペプチドはゲル濾過クロマトグラフィーで単離することができる。付加的システイン残基の挿入及び置換は、CRFペプチドの所望の位置で同様の手法を用いることによって行われる。
【0115】
(6.1.5. 実施例5:C-末端システイン付加CRF変異体の固相合成)
システイン付加CRF変異体の合成は、固相ペプチド合成技術を介して行うことができる。スキーム4に示すように、合成の第1工程でCRFのC-末端にシステイン残基を挿入することができる。
【化11】

【0116】
未修飾のhCRFのC-末端はイソロイシン残基であるので、C-末端のシステインのα-アミノ基にイソロイシン残基が結合する。S-2,4,6-トリメトキシベンジル(Tmob)によって保護されたシステイン残基を、樹脂ポリマーに固定する。イソロイシンを、ジクロロメタン/DMF 3:1中のDCC及び1H-ベンゾ[d][l,2,3]トリアゾール-1-オールとともに該溶液に添加する。該カップリング反応の完了は、ニンヒドリン試験で監視することができる。反応が完了したら、固相をジクロロメタン及びメタノールで洗浄し、このカップリング工程後、DMFでの更なる洗浄を行い、上述の中間体が結合した固相を得ることができる。
【0117】
アミノ酸残基の逐次付加を、所望のCRF変異体の合成が完了するまで続ける。
【0118】
(6.2 ヒトCRF測定)
本発明のCRF複合体は、1つ以上の未修飾のCRFの生物活性を有する。該CRF複合体の生物活性は、本明細書中に記載の生物検定法を用いて測定することができる。該CRF複合体は、未修飾のCRFと比較して同じレベルの生物活性を有することができる。あるいは、未修飾のCRFと比較する場合、該CRF複合体はより低レベルの生物活性を有することができる。
【0119】
下記はCRFの生物検定法である。該生物検定法は、放射標識したヒトCRFがAtT-20細胞、マウスの下垂体の株化細胞、又はAtT-20親株細胞由来の細胞の細胞膜上のその受容体へ結合することに基づいている。該測定法は、ヒトCRFと密接に関わる分子間の競合的結合放射受容体測定法(RRA)である。全細胞又はホモジナイズした細胞膜の標品を本測定法に使用することができる。100μlの膜標品、トレーサーとして100μlの放射標識したヒトCRF、及び100μlの緩衝液又は競合物のいずれかを用いて、競合的結合RRAを展開した。得られたデータは、B/Boのパーセンテージとして表し、ここで、Bはサンプルに対して補正されたCMPであり、Boは全結合管(すなわち、競合物がない)に対して補正されたCMPである。
【0120】
CRFに対する生物検定法は、l25I-Tyr0-hCRFと結合するCRFに対する既知の膜受容体の能力に基づいており、非標識の競合物によって代わられる。一般に、この種の測定法は、競合的結合放射受容体測定法(RRA)と呼ばれる。重要な非標識の競合物は、異なるバッチのhCRF(活性原薬)、hCRFを含有する異なるロットの処方製剤、並びに活性原薬として可能性のある不純物及び既知の分解生成物などのCRF関連分子である。既刊文献に基づいて、種々の株化細胞が1つ以上のCRF受容体亜型を発現することが見出され、かつCRF、CRF関連ペプチド、並びに種々のアゴニスト及びアンタゴニストの効果を測定するのに使用されている。例えば、AtT-20細胞、マウス下垂体前葉株化細胞は、CRF Rlだけが発現されることが報告されており、CRFが結合する場合、細胞内cAMPの蓄積及びACTH分泌物の増加が観察される。
【0121】
CRFの生理学的効果は、2つの異なる遺伝子の産物である受容体、CRF受容体1型(CRF R1)及びCRF受容体2型(CRF R2)に結合する2つのG-タンパク質によって媒介される。該2種の受容体は、〜70%の配列相同性を共有し、どちらもアデニル酸シクラーゼに結合する。しかし、該2種の受容体は、異なる組織分布を有し、かつ異なる親和性をもつリガンドに結合する。CRFに加えて、3つのCRF関連ペプチド:ウロコルチン(Ucn)、Ucn II、及びストレスコピンとしても公知のUcn IIIが哺乳類で発見されており、これら受容体と結合する。CRFはストレス下で視床下部-下垂体-副腎皮質系の中心的役割を果たす。UcnはCRFに対して45%の配列相同性を有する、40-アミノ酸残基のペプチドで、エディンガー-ウェストファル核からクローンされ、Ucn II(CRFに対して26%の配列相同性を有する)及びIIIは、ヒト及びマウスの遺伝子データバンクにおいて同定されており、全て、食欲及び心血管系に対して強力な作用を有する。3つのUcnの全ては、CRF R2に対する親和性はCRFに対する親和性より、およそ10倍の親和性を有し、Ucn II及びIIIは、CRF Rlの亜型に対してはほとんど親和性を有していないので、これらはCRF R2に高選択的である。該CRF R2は、少なくとも2つ及び場合によって3つの異なるスプライスバリアント(CRF R2α及びCRF R2β及び場合によってCRF R2γ)を有し、これらは異なる組織及び器官で発現される。ラットのCRF R2αは、主に、視床下部、外側中隔核、中脳の縫線核、嗅球、及び下垂体を含む脳で見られる。対照的に、CRF R2βは、主に、心臓、血管、胃腸管、並びに心筋及び骨格筋で見られる。該受容体に加えて、CRF結合タンパク質は、どの細胞の受容体と結合するよりも、高い親和性で天然のCRFと結合することが記載されている。該CRF結合タンパク質は、脳で発現され、CRF媒介神経伝達の制御因子として機能するだろう。
【0122】
CRF及びCRF関連ペプチドは、下垂体前葉及びAtT-20細胞内においてcAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)経路を通して、それらの効果を発揮する。細胞内cAMP濃度の変化とACTH分泌の刺激との関係は、サイトゾルにおけるcAMPと遊離したカルシウムイオンの濃度との間の相互作用に起因する。こうした分泌性の細胞において、cAMPは、(1)分泌を刺激するカルシウムイオンの細胞内への流入を増加させること、及び(2)増加した細胞内カルシウムレベルの分泌装置に対する効果を増強することという2つの主要な役割を果たす。CRFは、CRF Rl型の受容体との相互作用を介した活性化に特異的であることが報告されており:文献で報告されるように、CRF R2α又はCRF R2β受容体の亜型のいずれを介しても細胞は活性化されない。
【0123】
(6.2.1. 使用する材料及び方法)
1. 使用した細胞−AtT-20及びAtt-20/D16v-F2細胞をATCCから購入した(総費用=$493.00)。培養の間、AtT-20細胞は、浮遊又は付着した単一細胞としてではなく、浮遊した「細胞の凝集塊」として成長することが明らかとなった。また、これら凝集塊を測定法用管に均等に分注することが非常に困難であることが明らかとなった。従って、AtT-20細胞を限界希釈法によってクローンし、浮遊中か又は軽く付着した細胞のいずれかの単一細胞として(凝集塊としてではなく)成長したクローンを選択した。AtT-20細胞のクローンに成功し、軽く付着した又は浮遊した細胞のいずれかの単一細胞として成長した4つの異なるクローンが単離された(クローン1AlO、1G4、2B8、及び2H1)。
【0124】
2. 培養条件−当初、全ての株化細胞及びクローンを、ペニシリン及びストレプトマイシンを含有し、高グルコース、10%のFCIII(HiClone Labs)を有する90%のDMEMで育て、加湿した5%CO2の雰囲気下、4MのNaOHでpHをpH7.2に調節した。結合実験の最初のシリーズが失敗した後、別の培養条件を検討した。高グルコースを有する45%のDMEM、45%のHam F-12、10%のFCIII、ペニシリン及びストレプトマイシンを含有し、加湿した10%CO2の雰囲気下、4MのNaOHでpHをpH7.2に調節した。こうして修正された条件下で成長した細胞上で、l25I-Tyr0-hCRFの結合を評価したところ、結合が達成され、かつ非標識の競合物との置換もトレーサーである125I-Tyr0-ヒトCRF及び125I-Tyr0-ヒツジCRFの両方で達成された。その後の実験の全てを、これら条件下で成長した細胞を用いて行った。
【0125】
3. 125I-Tyr0-CRFの調製−新しいロットのヒトTyr0-CRF(Tyr0-hCRF)及びヒツジTyr0-CRF(Tyr0-oCRF)をBachem Bioscience社から購入した(総費用=$842.82)。凍結乾燥した粉末を500μlのアセトニトリル:水(l:l/v:v=50%のAcCN)に溶解し、5μl、10μl、50μl及び100μlの0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.2をそれぞれ含有し、2μg、10μg、50μg及び100μgのタンパク質を入れた管に分注した。該試料をドライアイス上で凍らせて、再び凍結乾燥した。放射標識する前に、ポリプロピレン微量遠心管を20μlのジクロロメタン中の20μgのヨードゲン(Pierce Chem社)で被覆し、真空下で乾燥した。活性炭ろ過システムを備えた化学ドラフト内で放射-ヨウ素化反応を行った。反応を開始する前に、2μgのTyr0-CRFを40μlのアセトニトリル:水(1:3/v:v=25%のAcCN)に溶解し、20μlの0.1Mのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.2及び500μCiの無担体のNa125Iを含有するヨードゲン管に0.2nmolのTyr0-CRFを移す。反応は室温にて15分間、時々混合しながらインキュベートし、その後、該反応混合物を、酢酸:水(1:l/v:v=50%のAcOH)で洗浄し平衡化させた5mlのBioGel P-2脱塩カラムの上部に移す。50%のAcOHを用いて125I-Tyr0-CRFをカラムから溶出し、0.5mlずつの画分を採取する。放射標識したペプチドは、画分#4及び5の空隙容量後、すぐに溶出する。この2つの画分を貯めて、放射標識したペプチドを更に精製することなく使用し、またモノヨード-ペプチドを所望する場合は、逆相HPLCで精製する。
【0126】
4. 125I-Tyr0-hCRFのRP-HPLC精製−C8又はC18のRP-HPLCカラムを、水中0.1%のTFAで入念に平衡化し;脱塩カラムから得られた100μlの一定分量の貯めた放射標識ペプチドをD.H2Oで1.0mlまで希釈し、すぐに手動のRheodyne社製HPLCインジェクターの2.0mlの注入ループに移し;希釈したl25I-Tyr0-hCRFをカラムに注入するように、インジェクターを通る流れを変える。カラムに導入した後、40分にわたる水中0%〜80%のアセトニトリルの直線勾配プログラムを開始して結合したペプチドを溶出し;放射活性の流れ計数器を開始し;画分を0.5分間採取する。
【0127】
5. 細胞膜標品を用いるCRFの競合的結合放射受容体測定法−CRF Rl受容体はセルラーカン(cellularcan)と関係しているので、単離した膜標品を測定法に使用することができる。遠心分離による収集後、それらを1%のBSAを有するPBSに再懸濁させた以外は、上記のように、細胞を育て、T-75フラスコから単離した。細胞がホモジナイズされる場合、多数の細胞内プロテアーゼが放出されるので、該1%のBSAを有するPBSは、一般的なプロテアーゼ阻害剤として20μg/mlのアプロチニン(Serologics社)を含有する。
【0128】
細胞ペレットを少量の(1.5〜2.0ml)氷冷した1%のBSA及び20μg/mlのアプロチニンを含有するPBS中で再懸濁し、これを内筒と適合した15mlのガラス製Dounce型ホモジナイザーに氷上で移し、15ストロークで粉砕しながらホモジナイズする。溶解した細胞をマイクロチューブに移し、4℃にて16,000 x gで15分間、顆粒の膜画分が採取されるまで遠心分離する。上澄みを捨て、顆粒画分を同じ氷冷した緩衝液に再懸濁することによって洗浄し、遠心分離によって洗浄された顆粒の膜画分を採取する。当初に単離し、ホモジナイズされた細胞の数に基づいて、該膜画分を1mlあたり5x106細胞と等しい容量に再懸濁させる。
【0129】
アッセイ反応は、全細胞の代わりに100μlの懸濁した顆粒画分を用い、かつ緩衝液を1%のBSA及び20μg/mlのアプロチニンを含有するPBSとしたこと以外は、上記のように(5.b参照)定める。一晩のインキュベーションの間、標識したトレーサー及び競合物を分解から保護するために、プロテアーゼ阻害剤を含有する。顆粒画分の使用は、単離された4つの異なるクローンから得られる顆粒画分で非標識のCRFによるトレースの置換を測定する測定法の再現性を改善させている。
【0130】
当初予想されたように該RRAが行われていれば、本研究の先の実験で使用した、同じ3つの競合物を使用して試験した。クローン1Al0の細胞膜標品を上記のように作製し、その放射標識したトレーサーの置換によって異なる分子間を識別する能力を試験した。その結合する膜結合性から125I-Tyr0-ヒトCRFを置換する能力に関して、10ng/管〜3160ng/管の濃度範囲のヒトCRF、ヒツジCRF及び無関係のペプチドVIPを試験した。
【0131】
本発明によると、本発明のCRF複合体は、1つ以上の未修飾のCRFの生物活性、例えば、CRF受容体に競合的に結合する能力を有する。しかし、CRF複合体は、未修飾のCRFに異なるレベルの活性を示すことができる。
【0132】
(6.3 CRF複合体の薬物動態プロファイルの測定)
本発明のCRF複合体は未修飾のCRFと比較して、薬物動態プロファイルが改善されている。本発明のCRF複合体は、未修飾のCRFと比較して、AUC、Cmax、クリアランス(CL)、半減期、及び生物学的利用率を含む薬物動態プロファイルの1つ以上のパラメータにおける改善を示すことができる。下記は、皮下及び静脈内に投与した場合の、未修飾CRFの薬物動態プロファイルの定量の実施例である。
【0133】
本研究の目的は、3群のスプラーグ-ドーリー系のCrl:CD(登録商標)BRラットにおいて、1回の静脈内及び1回の皮下注射に続いて、hCRFの血漿濃度の動態を定量することである。媒体(5%のマンニトール/20mM pH4.0の酢酸緩衝液)中のhCRFの濃度は10、100及び1,000 μg/mlであった。1ml/kgの薬用量を全ての群に対して投与して、全ての3投与群に対して10、100及び1,000μg/kgの薬用量のhCRFを投与した。本研究の静脈内投与群(intravenous portion)について、3つの投与群はそれぞれ72匹の雄からなる。これらの群はそれぞれ3組のレプリカ(replicate)に分けられる。7日後、本研究の静脈内投与群において、3つの投与群のそれぞれから72匹の動物のうちの61匹を本研究の皮下投与群に任意に選んだ。これらの群はそれぞれ3組のレプリカに分けられる。眼窩洞の出血から血液サンプルを複数時点で採取した。静脈内投与に続いて、投与後24時間過ぎた時点で血液サンプルを採取した。皮下投与に続いて、投与後48時間過ぎた時点で血液サンプルを採取した。各時点で各投与群の3匹のラットから血液サンプルを採取した。hCRFの静脈内投与に続く血液採取中に、10μg/kgの群の1匹の動物が死亡した。全ての生存する動物は皮下投与の後、3日目に安楽死させた。
【0134】
血漿サンプルを調製し、該血漿サンプル中のhCRF濃度をELISA法によって定量した。ラットに静脈内投与されたhCRFのクリアランスは、単一の指数関数様式に従い、半減期は10、100及び1,000μg/kgの投与量に対して、それぞれ9.2、20.7及び26.7分と測定された。静脈内又は皮下のいずれかに投与されたhCRFの薬物動態は用量依存的である。10μg/kgの静脈内投与量レベルでは、測定された血漿中のhCRF濃度は、ELISA測定法の検出限界に達した。得られた制限あるデータを用いて、この投与群に関する薬物動態解析を実施した。10μg/kgの静脈内投与を行った群についての薬物動態的値は、100及び1,000μg/kgの投与を行った群のそれとは異なる。これは、こうした低レベルでのELISA測定法の限界に応じたものか、及び/又はより高い投与量のhCRFに対して潜在的な結合部位が飽和したことによる。
【0135】
100及び1,000μg/kgの投与レベルで静脈内投与されたhCRFの生物学的利用率はそれぞれ、41%及び37%と計算された。10μg/kgの皮下投与群においては、測定された血漿濃度は比較的低く、測定法の検出限界に達した。様々な薬物動態的パラメータを表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRFがポリエチレングリコールで化学的に修飾されている、CRF複合体。
【請求項2】
前記CRFがヒトCRFと同一の配列を有する、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記CRFの配列がシステイン残基を含むように改変されている、請求項2記載の複合体。
【請求項4】
前記CRFの1つのアミノ酸がシステイン残基で置換されている、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
前記システイン残基がCRFのアミノ末端に付加されている、請求項3記載の複合体。
【請求項6】
前記システイン残基がCRFのカルボキシ末端に付加されている、請求項3記載の複合体。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコールがシステイン残基を介して共有結合している、請求項4、5、又は6記載の複合体。
【請求項8】
第2のシステイン残基が前記CRFに付加されている、請求項5記載の複合体。
【請求項9】
前記システイン残基がCRFのカルボキシ末端に付加されている、請求項8記載の複合体。
【請求項10】
ポリエチレングリコールが両方のシステイン残基に共有結合している、請求項8及び9記載の複合体。
【請求項11】
前記ポリエチレングリコールがリジン残基に共有結合している、請求項2記載のCRF複合体。
【請求項12】
前記複合体が未修飾のCRFと比較して長い半減期を有する、請求項1記載のCRF複合体。
【請求項13】
前記複合体が未修飾のCRFと比較して高いAUCである、請求項1記載のCRF複合体。
【請求項14】
前記複合体が未修飾のCRFと比較して高い生物学的利用率を有する、請求項1記載のCRF複合体。
【請求項15】
ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRF、及び医薬として許容し得る希釈剤、免疫賦活剤又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項16】
浮腫の治療方法であって、この治療を必要とする患者に、ポリエチレングリコールで化学的に修飾されたCRF、及び医薬として許容し得る希釈剤、免疫賦活剤又は担体を含む医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項17】
前記組成物が皮下に投与される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が静脈内に投与される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が1日1回投与される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が0.1〜5mgの用量で投与される、請求項16記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が1〜2mgの用量で投与される、請求項16記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が1mgの用量で投与される、請求項16記載の方法。
【請求項23】
CRF複合体の投与を含む脳浮腫の治療方法であって、該複合体が、投与計画によりステロイドテーパーを促進するステロイド減量剤として投与される、前記方法。
【請求項24】
脳浮腫の管理を必要とする患者における、脳浮腫の管理方法であって、治療上有効な量のCRF複合体及びステロイドを該患者に投与することを含み、ステロイド減量効果を提供する、前記方法。
【請求項25】
ステロイド療法を受けている対象に、ステロイド療法の代替療法を提供する方法であって、ステロイド減量分のCRF複合体を投与することを含む、前記方法。
【請求項26】
ステロイドとCRF複合体とを組合せた治療計画を含む、脳浮腫の治療方法であって、これにより、CRF複合体の投与によってステロイドへの総曝露が低減される、前記方法。
【請求項27】
前記CRF複合体が皮下に投与される、請求項23、24、25又は26記載の方法。
【請求項28】
前記CRF複合体が静脈内に投与される、請求項23、24、25又は26記載の方法。
【請求項29】
前記CRF複合体が1日1回投与される、請求項23、24、25又は26記載の方法。
【請求項30】
前記CRF複合体が0.1〜5mgの用量で投与される、請求項23、24、25又は26記載の方法。
【請求項31】
前記CRF複合体が1〜2mgの用量で投与される、請求項23、24、25又は26記載の方法。
【請求項32】
前記CRF複合体が1mgの用量で投与される、請求項23、24、25又は26記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−527989(P2010−527989A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508933(P2010−508933)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003167
【国際公開番号】WO2009/027844
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(310009764)ネウトロン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】