説明

半溶融金属成形用金型

【課題】簡便な構造を用いて環状部における湯流れを制御することにより、半溶融金属の湯境や残留ガスによる製品欠陥を防止するようにした半溶融金属成形用金型を提供する。
【解決手段】肉厚変化を有する環状部に半溶融金属を充填し、該充填した際に生じる前記半溶融金属の合流部にオーバーフローを形成した半溶融金属成形用金型であって、前記オーバーフローを前記環状部の軸線方向に複数分割して設けることによって、湯流れ方向を変更して製品欠陥を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半溶融金属成形用金型に係り、特に、成形品に軸受部となる環状部を有して、該環状部で半溶融金属が合流した際に発生する湯境を防止して良好な成形品を得るようにした半溶融金属成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
チクソキャスト法とも呼ばれる半溶融金属の成形方法は、アルミニウム、マグネシウム又はアルミニウム合金等の軽金属を半溶融状態で金型キャビティ内に加圧充填することによって成形品を得る方法である。
【0003】
しかし、半溶融金属の成形方法では、成形する際の溶融金属の温度が従来のダイカスト法に比べて低いことから、半溶融金属の合流部等にガス欠陥等を含む湯境が発生し易いといった問題を有している。この湯境は、複雑な形状の成形品、例えばキャビティ内で半溶融金属が合流して一体となるような部分を有する場合において特に発生し易く、湯境の発生によりその部分の成形品強度が著しく低下することから、品質の低下が避けられない、という問題があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、湯境の生じる合流部を外部から挟んだ対向位置に連絡通路を介し、金型の開閉方向に広く、開閉方向と交差する方向に浅く、環状部の長さに略一致するようにオーバーフロー部を配設して、湯境をオーバーフロー部に流れ込ませて成形品の欠陥を防止する半溶融金属成形用金型が提案されている。しかしながら、環状部の中心穴をコアピンで形成するとともに、環状部の肉厚が一様ではなく肉厚が変化している成形品で環状部の軸心を金型の開閉方向と交差する方向に構成した場合、前記オーバーフロー部の充填が先に完了して湯境をオーバーフロー部に排出することができず、品質の低下を避けることができない。
【0005】
図6は、環状部の軸心方向にオーバーフローを設けた構成の従来の半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図である。図6に示すように、環状部102の軸心は金型の開閉方向と交差する方向とし、環状部の中心穴はコアピン126により形成される。コアピン126は抜け勾配を有するので、環状部102のコアピン挿入方向の断面積と肉厚は軸心方向で変化する。そして、オーバーフローゲート103及びオーバーフロー105により構成されるオーバーフロー部108は、環状部102の長さに略一致して設けられた構成となっている。
【0006】
図7は、図6に示すキャビティ部100に半溶融金属を加圧充填した場合の挙動を示す概念図である。図7を用いて半溶融金属の挙動を説明する。金型キャビティの環状部102に流入した半溶融金属は、図7(1)に示したように徐々に環状部102と厚肉側からオーバーフロー105に流入しながら前進する。前述したように環状部102はコアピン126の挿入方向に対して断面積が変化している。このため、図7(2)に示すように金型キャビティ内に充填された半溶融金属は厚肉側を優先して流れオーバーフロー105が先に完全充填される。次いで、図7(3)に示すように、薄肉側の湯先である半溶融金属の合流部Jがオーバーフロー105に排出されることなく充填が完了する。
このように、従来型の半溶融金属成形用の金型を用いて成形した場合には、成形品の薄肉部に湯境Yが取り残されることで、品質が低下する。図7に記載の矢印は半溶融金属を加圧充填した際の挙動を示す。また、湯境Yは最終充填位置の合流部に発生している。
【0007】
【特許文献1】特開2004−74270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、簡便な構造により半溶融金属の湯境や残留ガスによる成形品の欠陥を防止するようにした半溶融金属成形用金型を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような問題を解決するために、本発明に係る第1の発明では、肉厚変化を有する環状部に半溶融金属を充填し、該充填した際に生じる前記半溶融金属の合流部にオーバーフローを形成した半溶融金属成形用金型であって、前記オーバーフローは、前記環状部の軸線方向に複数分割して設けられたことを特徴とする。
【0010】
第1の発明を主体とする第2の発明では、前記複数に分割して設けたオーバーフローは、それぞれ独立してエアベントを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る半溶融金属成形用金型によれば、オーバーフローを成形品の肉厚が変化する方向且つ、半溶融金属の合流部に複数に分割して形成したので、環状部に発生する湯境をオーバーフローに排出することが可能となり、環状部の肉厚の変化にかかわらず湯境やガスの残留に伴う成形品の欠陥を防止するようにしたことにより、機械強度の高い成形品を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付した図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図、図2は半溶融金属の挙動を説明するための説明図、図3はオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した金型の要部断面図である。図4は、オーバーフロー部の寸法構成を説明する説明図である。図5は、本発明に係る他の実施形態のオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図である。
【0013】
図1と図3を用いて半溶融金属成形用金型の構造を説明する。符号1は成形品のキャビティ部、8はオーバーフロー部を示す。オーバーフロー部8は第1オーバーフローゲート3、第1オーバーフロー5、第2オーバーフローゲート13及び第2オーバーフロー15により構成される。
キャビティ部1は、成形品本体部の末端部に環状部2が形成され、半溶融金属を加圧充填した際に最終充填位置となる環状部2の軸線方向にオーバーフロー部8が設けられた構成となっている。符号26は環状部2の中心穴を形成するコアピンであり、駆動手段25により軸線方向に進退自在に移動する構成となっている。
【0014】
図1に示すように、キャビティ部1の環状部2と第1オーバーフロー5、第2オーバーフロー15との間は、第1オーバーフローゲート3と第2オーバーフローゲート13とでそれぞれ接続されている。第1オーバーフローゲート3と第2オーバーフローゲート13のゲート断面積は、オーバーフローゲートにオーバーフローを一部重ねて形成したので、成形品キャビティ側の開口面積に比してオーバーフロー側の開口面積を大きく設定した構成となっている。
そして、環状部2の軸線方向、即ちコアピンの抜け勾配によって形成される肉厚の変化する方向にオーバーフロー5、15が分割して設けられている。
【0015】
図3に示すように、半溶融金属成形用金型10は、固定金型20と可動金型30とを備えており、両金型20、30の内部には、成形品の形状に対応するキャビティ部1が形成されている。
固定金型20と可動金型30の下端部には、半溶融金属Mをキャビティ部1に加圧充填するための傾転自在な射出装置34が設けられている。この射出装置34とキャビティ部1との間には、保持容器から半溶融金属Mの装填された射出スリーブ36を固定金型20と可動金型30の下端部に当接させてキャビティ部1に加圧充填するための注入口32が設けられている。
【0016】
符号25は、コアピン26の駆動手段であり、駆動に流体圧シリンダを用いる構成とした。そして、符号38は半溶融金属Mを金型に形成したキャビティ部1に加圧充填する為の射出プランジャロッドである。
符号6、16は第1オーバーフロー5、第2オーバーフロー15にそれぞれ設けられたガス抜きのためのエアベントである。金型キャビティ内の残留ガスは、半溶融金属の充填に伴い前記ガスベントから金型外へ排出される。
【0017】
次に、図2を用いて半溶融金属成形用金型10を用いた半溶融金属成形方法について説明する。
先ず、半溶融金属の製造方法について述べる。給湯手段のラドルから図示しない熱伝導率が少なくとも1kcal/m・hr・℃以上の材質を有する保持保持容器に、液相線に対して過熱度を50℃未満に保持した結晶核促進元素を含むものであって、結晶核を含む成形温度以上の固液共存状態のアルミニウム合金溶湯を、冶具を使用せずに直接注湯した後、保持容器の外部より冷却用エアーを吹き付けて保持容器内のアルミニウム合金溶湯の温度が均一となるように冷却する。
【0018】
成形に適した液相率として成形温度まで冷却し、30秒から30分間保持することにより、微細な初晶を溶湯金属中に晶出させる過程で誘導装置(加熱用コイル)により保持容器内のアルミニウム合金溶湯各部の温度を、遅くとも成形するまでに所定の液相率を示す目標成形温度範囲内(本実施の形態では、600℃)に収まるように温度調整したものである。
【0019】
なお、微細球状結晶を得るために添加する微細化剤の量は、Ti単独添加の場合、その量が0.03%未満では微細化効果は小さく、0.3%を超えれば粗大なTi化合物が発生し延性が低下するので、Tiは0.03%〜0.3%とする。
Ti、B複合添加では、Tiが0.005%未満であれば微細化効果は小さく、0.3%を超えれば粗大なTi化合物が発生し延性が低下するので、Tiは0.005%〜0.3%とする。BはTiと相俟って微細化を促進するが、0.001%未満であれば微細化効果は小さく、0.01%を超えて添加してもそれ以上の効果を期待できないので、Bは0.001%〜0.01%とする。
【0020】
図3に示すように、前記保持容器内で溶湯金属が目標の均一温度になった時点で、出来上がった半溶融金属Mを射出装置34の射出スリーブ36内に充填する。半溶融金属Mを射出装置34の射出スリーブ36内に充填する際に、すでに金型10は閉じられており。固定金型20と可動金型30との間にキャビティ部1が形成されている。
そして、射出充填の操作を行うと、射出装置34の射出プランジャロッド38が前進し、キャビティ部1に半溶融金属Mの充填を開始する。射出プランジャロッド38の前進に伴い、半溶融金属Mはキャビティ部1を流動しながら充填し、流動している先端部の半溶融金属Mは、やがて環状部2の入口に到達する。
【0021】
図2(1)に示すように、環状部2の入口に到達した半溶融金属Mは、環状部2の形状に合わせて左右に分岐した後、除々に環状部2を時計回り方向と反時計回り方向とに流動する。環状部2は軸線方向でその肉厚を異にしており、半溶融金属Mの先端部は環状部2を充填するとともに、厚肉側に設けられた第1のオーバーフローゲート3から第1のオーバーフロー5に流入し第1のオーバーフロー5が充填完了する。
環状部2を流動する反溶融金属Mの先端部は、薄肉側で先端部が合流する。先端を流動する半溶融金属Mは、キャビティ部1を流動する際に温度が低下し、温度低下した半溶融金属Mの先端部が互いに合流しても、完全に一体化しない。そのため、図2(2)に示すように、合流部Jには、合流する直前の半溶融金属Mの流動方向に対して直交する方向に延在するように湯境Yが発生する。
【0022】
合流部Jで湯境Yが発生した後、半溶融金属Mは引き続き第2オーバーフローゲート13を介して第2オーバーフロー15に流入する。この時湯境Yの殆どは第2オーバーフローゲート13を介して第2オーバーフロー15の内部へ流動する半溶融金属Mによって押し流され、第2オーバーフロー15の内へ流れ込む。そして、第2オーバーフロー15が充満されることによってキャビティ部1の充填も完了する図2(3)。
環状部の中心穴側に湯境Yが残留するが、残留する湯境Yは極僅かであり環状部の強度に影響を及ぼすことはない。また、例えば、切削加工等により容易に切除することができる。
【0023】
充填が完了すると、所定の時間成形品を冷却し、冷却が完了後に成形品を可動金型30に残した状態で可動金型30を型開させる。次いで押出しピンを移動させて成形品を可動金型30から離型させる。金型10から取り出された成形品は、次工程で第1オーバーフロー5及び第2オーバーフロー15がゲート部より切断分離されることで、最終成形品となる。
【0024】
次に、図4を用いてオーバーフロー部8の寸法構成について説明する。前述したようにオーバーフロー部8は、成形品の環状部2で半溶融金属Mが合流する合流部Jに環状部2の軸線方向に分割して第1オーバーフロー5と第2オーバーフロー15が設けられた構成となっている。このため、環状部2の合流部Jで発生する湯境Yをオーバーフロー部8へ排出し成形品に湯境Yが残らないよう除去することが可能である。図4に示すように、環状部2の成形品の肉厚はコアピンの抜き出し方向へT1からT2へ薄くなるよう変化している。
【0025】
第1オーバーフローゲート3と第2オーバーフローゲート13の断面は矩形形状を有しており、それぞれの厚みと幅はG1xt1及びG2xt2で表わされる。オーバーフローゲートの断面積は、成形品の合流部Jで発生する湯境Yをオーバーフロー側にスムースに排出するために、成形品の断面積に比して小さく設定されオーバーフローゲート内の半溶融金属の流動速度を速くするようになっている。成形品流動部の断面積とオーバーフローゲートの断面積の比率は、30%〜70%の範囲に設定することが好ましい。
また、オーバーフローをオーバーフローゲートにラップさせて設けることで、オーバーフローに流れ込む側の断面積を成形品から流出する側の断面積に比べて大きくすることとした。
【0026】
オーバーフローゲート3、13の幅方向の寸法W1及びW2は、ゲートの分割壁Sにより分割され、その合計寸法は成形品の環状部2の軸線方向長さに略同一として設定される。そして、オーバーフローゲート3、13の各寸法W1とW2及びG1とG2、t1とt2は成形品の形状を勘案して所定の寸法に設定されることが好ましい。
本実施の形態では、オーバーフローゲートを分割壁Sで分割する構成としたが、分割壁が湯境Yのオーバーフローへの排出を妨げる場合においては、分割壁を設けることなくオーバーフローゲートを一体化し、オーバーフローは分割して設ける構成であっても良い。
また、本実施例では、分割壁を1箇所設けてオーバーフローを2箇所設けた構成としたが本実施の形態限らず、分割壁を2箇所以上、オーバーフローを3箇所以上設けた構成であっても良い。さらに、オーバーフローゲート3、13の幅方向の寸法W1及びW2は環状部2の軸線方向で略同一寸法としたが、これに限定されることなく寸法W1及びW2それぞれが異なる寸法で設定されても良い。
【0027】
図5は、本発明の他の実施形態を説明するオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図であって、図3の横型締め竪射出方式と射出の方向が90度異なるが、基本構造は同一である。本発明は、型締め方向及び射出方向の組合せに限定されるものではなく、環状部にオーバーフローを分割して設けることにで、環状部の最終充填部に形成される湯境を防止することができる。
【0028】
以上説明したように、本発明では肉厚変化を有する環状部を有した半溶融金属の成形品を成形する金型において、肉厚が変化する環状部の軸線方向にオーバーフロー部を形成すると共に、オーバーフロー部を同一平面上に直列、且つ複数に分割して設けたので、半溶融金属の成形時に発生する湯境やガスの残留に伴う欠陥を防止することができ、機械強度の高い成形品を安定して得ることができる。また、それぞれのオーバーフローにエアベントを設けてキャビティ内のガスを容易に排出する構成としたので、キャビティ内のガスが湯流れを制約して成形品にガスを巻き込むことがない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の半溶融金属の挙動を説明するための説明図である。
【図3】本発明のオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した金型の要部断面図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図4】本発明のオーバーフロー部の寸法構成を説明する説明図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態であるオーバーフローを環状部の軸線方向と一致する位置に配設した半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図6】従来の環状部の軸心方向にオーバーフローを設けた構成の半溶融金属成形用金型のキャビティ部概要図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図7】従来のキャビティ部に半溶融金属を加圧充填した場合の挙動を示す概念図である。
【符号の説明】
【0030】
1 キャビティ部
2 環状部
3 第1オーバーフローゲート
5 第1オーバーフロー
6 エアベント
8 オーバーフロー部
10 半溶融金属成形用金型
13 第2オーバーフローゲート
15 第2オーバーフロー
16 エアベント
20 固定金型
25 コアピン駆動手段
26 コアピン
30 可動金型
32 注入口
34 射出装置
36 射出スリーブ
38 射出プランジャロッド
J 半溶融金属合流部
M 半溶融金属
S 分割壁
Y 湯境

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉厚変化を有する環状部に半溶融金属を充填し、該充填した際に生じる前記半溶融金属の合流部にオーバーフローを形成した半溶融金属成形用金型であって、
前記オーバーフローは、前記環状部の軸線方向に複数分割して設けられたことを特徴とする半溶融金属成形用金型。
【請求項2】
前記複数に分割して設けたオーバーフローは、それぞれ独立してエアベントを備えたことを特徴とする請求項1に記載の半溶融金属成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−248119(P2009−248119A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98117(P2008−98117)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】