説明

単分散液滴の生成

実質的に単分散の液滴を生成する方法であって、1組のチャネル内に第1流体(1)及び非混和性である第2流体(2)を供給する工程であって、前記第2流体は前記第1流体の周りを取り囲み、かつ前記チャネルを満たすことで、複合噴流を構成する、工程を有する方法。前記複合噴流は入口チャネル(4)を通過して広い空洞へ入り込む。該広い空洞へ入り込むと、前記第1流体は液滴(5)に分裂する。該分裂の結果生成された、前記第2流体内に存在する前記第1流体の液滴の複合体は出口チャネル(6)を通過する。前記複合体の流れに対して垂直な前記出口チャネルの断面積は前記空洞の断面積よりも小さく、かつ前記第1流体の液滴が前記出口を介して前記空洞の外へ流れることで、前記空洞内での前記複合体の流れ場が外乱を受ける。それにより、入り込む前記第1流体の噴流が外乱を受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して多層噴流流及びマイクロフルイディクスに関し、より詳細には、非混和性である一の相内での他の相の液滴の生成及びその液滴のサイズ分布を制御するように備えられているマイクロフルイディクスに関する。特に本発明は、多相系においてミクロスケールでの流体液滴の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の供給、解析、及び製品-感光性ハロゲン化銀感光エマルション及び分散体-の製造を目的として、所望の構成の流体流、不連続流体流、粒子、分散体、エマルション等を生成する流体の操作は比較的よく研究されている分野である。エマルション及び分散体を生成するこれまでの仕事の大半では、サイズ分布は比較的多分散となっている。最近の高度の単分散気泡は、毛細管流動収束法(capillary flow focussing)と呼ばれる方法を用いて製造された。この方法では、気体は毛細管の外へ押し出されて液槽へ入り込み、その毛細管は小さなオリフィスの上に設けられ、かつこのオリフィスを介する外部の液体の縮流は、その気体を細い噴流にする。続いてその細い噴流は、毛細管の不安定によって、大きさの等しい気泡に分裂する。近年特許文献1及び特許文献2が、液体中に単分散液滴を生成することを可能にする流動収束素子を開示している。
【0003】
マイクロフルイディクスは、非常に小さなスケールでの流体制御を含む技術分野である。マイクロ流体素子は典型的には、流体が流れる非常に小さなチャネルを有する。チャネルは、分岐しているか、さもなければ、複数の種類の流体が互いに結合することを可能にし、複数の種類の流体をそれぞれ異なる場所へ流し、複数の種類の流体間で層流を生じさせ、複数の種類の流体を希釈する等のように備えられて良い。小さなチャネルを実装すると一般的に、レイノルズ数Reが、
【0004】
【数1】

となる。ここでρは液体の密度(kg/m3)、Uは固有速度(m/s)、Lは固有長(m)、及び液体の粘度μ(Pa.s)は慣性効果が小さくなるのに十分な程度の小ささで、かつ流れは自然の状態では層流が支配的である。Reが約2000を超えたところで、まっすぐなパイプでの乱流への遷移が起こる。「ラボチップ」マイクロ流体技術へ相当な労力が向けられてきた。研究者たちは、「チップ」すなわちマイクロ流体素子上において非常に小さなスケールで既知の化学反応又は生物反応を起こそうとしてきた。それに加えて、マクロスケールでは必ずしも知られていない新たな手法が、マイクロフルイディクスを用いて開発されてきた。マイクロ流体のスケールで開発されてきた手法の例には、高スループットスクリーニング、ドラッグデリバリー、化学反応の測定、コンビナトリアルケミストリー、並びに、物理、化学、及び工学の分野における基礎研究が含まれる。
【0005】
分散体の分野は十分に研究されている。分散体(エマルション)とは2種類の材料-典型的には流体-の混合物で、少なくとも2種類の相性の良くない(非混和性)材料の混合によって定義され、一の材料が他の材料内部に分散している。つまり一の材料が他の相に担持された状態において、その一の材料は、その他の相(分散剤)によって取り囲まれた状態で、小さくて孤立した領域すなわち液滴に分裂する。典型的には分散材料は表面活性材料に対して安定する。その表面活性材料とは、2種類の非混和性材料間の界面で層を選択的に形成する小さな分子材料、高分子材料、又は粒子状物質である。
【0006】
第2の非混和性流体中の第1流体液滴は、広範囲の用途において、特に液滴のサイズ及びサイズ分布がミクロン又はナノスケールで規定されるときに、有用である。例として、多くのパーソナルケア製品、食品、及び局所的なドラッグデリバリー用製品の多くはエマルションで、かつ、何らかの形-たとえばバクテリア、細菌兵器等-で感染した表面の感染除去のためにナノエマルションが提案されてきた。電子写真印刷では、単分散トナー液滴が用いられている。ハロゲン化銀写真システムは分散相に顔料を供する。液晶液滴を光学デバイスへ組み込むための同様のエマルション構造も考えられる。近年、単分散粒子から作られたコロイド結晶をフォトニックシステム用の基本構成要素に用いることについて、重要な研究開発が行われてきた。
【0007】
エマルションを生成する従来の方法は典型的には基本的に機械的である。つまりエマルションを生成する従来の方法は、可動部分を用いた剪断力を利用して液滴を生成する。これらの手法は一般的に、非常に小さな液滴の生成には適さない。しかし膜の乳化は、ミクロンスケールの孔を用いてエマルションを生成する一の小さなスケールの手法である。これらの方法は一般的には安価だが、サイズ又はサイズ分布の点で、多くの用途にとって適さない多分散液滴を生成してしまう。さらにたとえ多くの場合で洗練されてきたとしても、これらの方法では、生成される液滴内に丁度良い任意の混合物を含ませることが不可能である。
【0008】
近年、マイクロ流体流動収束による液滴生成システムが広まってきた。しかし製造方法としては、現在用いられているデバイスの流速は、キャピラリー数及びレイノルズ数はそれぞれ約1未満及び約10未満に制限されているので、液滴生成速度は約20kHz未満に制限される。
【0009】
液滴の生成に関しては多数の既知方法及びデバイスが存在する。
【0010】
特許文献3はフィラメント又は気泡の生成方法について記載している。
【0011】
特許文献4はマイクロ流体システム内での流体液滴を制御する多数の方法について記載している。
【0012】
特許文献5はマイクロ流体装置内で液滴から粒子を生成する方法について記載している。
【0013】
特許文献6は液体又は液滴内部に単分散の気泡を生成する方法について記載している。
【0014】
特許文献7は寸法が20μm未満の液滴を生成する流動収束システムついて記載している。
【0015】
特許文献8は100個の粒子を生成するマイクロ流体方法について記載している。
【0016】
特許文献9は多重エマルション-つまり複数の液滴内の複数の液滴-を生成するデバイス及び方法について記載している。
【0017】
特許文献10は粒子の分散を封止する様々な方法について記載している。
【0018】
特許文献11はバイオ用途向けにエマルション液滴を作製するクロスフローデバイスについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0172476号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0163385号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0234051号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0003442号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0054119号明細書
【特許文献6】国際公開第1999/031019号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2004/002627号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2005/103106号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2006/096571号パンフレット
【特許文献10】米国特許第6377387号明細書
【特許文献11】国際公開第2002/23163号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】アンナ(S.L.Anna)、メイヤー(H.C.Mayor)、流体物理(Physics of Fluids)誌、第18巻、pp.121512、2006年
【非特許文献2】平崎、接合科学技術(Journal of Adhesion Science and Technology)誌、第7巻、pp.285、1993年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
現在、単分散液滴又は粒子を生成するマイクロ流体方法は、液滴生成プロセスの物理的な効果によって、20000個/秒に制限されている。非常に少量しか必要とされない現在の用途にとっては、この制限値は妥当であるが、多くの量を必要とする用途向けの材料-つまり単分散エマルション又は粒子分散体-の生成方法として用いるには、遅すぎるので、費用対効果が悪い。本発明は、単分散液滴を非常に高速で生成することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によると、実質的に単分散の液滴を生成する方法が供される。当該方法は、1組のチャネル内に第1流体及び非混和性である第2流体を供給する工程であって、前記第2流体は前記第1流体の周りを取り囲み、かつ前記チャネルを満たすことで、複合噴流を構成する、工程を有する方法を有する。前記複合噴流は入口チャネルを通過して広い空洞へ入り込む。該広い空洞へ入り込むと、前記第1流体は液滴に分裂する。該分裂の結果生成された、前記第2流体内に存在する前記第1流体の液滴の複合体は出口チャネルを通過する。前記複合体の流れに対して垂直な前記出口チャネルの断面積は前記空洞の断面積よりも小さく、かつ前記第1流体の液滴が前記出口を介して前記空洞の外へ流れることで、前記空洞内での前記複合体の流れ場が外乱を受ける。それにより、入り込む前記第1流体の噴流が外乱を受ける。
【0023】
本発明はさらに、1組のチャネル並びに入口チャネル及び出口チャネルを有する伸張した空洞を有する実質的に単分散の液滴を生成するデバイスをさらに供する。当該デバイスの1組のチャネル内では、第1流体及び該第1流体を取り囲む非混和性の第2流体が複合噴流を生成し、前記空洞の断面積は前記入口チャネル及び出口チャネルの断面積よりも大きく、前記複合流は前記空洞内部で分裂して、前記第2流体内に前記第1流体の液滴を生成し、前記出口を介した前記空洞の外側への前記第1流体の流路は前記空洞内での前記複合流場に外乱を与え、それにより入ってくる前記第1流体の噴流が外乱を受ける。
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法は、ランダムなレイリー噴流の分裂を受動的に均一化することを可能にする。
【0025】
さらに当該方法は、噴流分裂の均一化により、マイクロ流体単分散液滴を、従来技術よりもはるかに速い速度で生成することを可能にする。
【0026】
さらに当該方法は、単分散液滴又は粒子を、従来技術よりもはるかに速い速度で生成することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1a】マイクロ流体デバイス内での流体噴流の生成に適した従来技術に係るデバイスを図示している。
【図1b】マイクロ流体デバイス内での流体噴流の生成に適した従来技術に係るデバイスを図示している。
【図2a】本発明の方法を実行するのに適した一般的なデバイスの概略的側面図を表している。
【図2b】図2aのデバイスの断面図である。
【図2c】図2aのデバイスの断面図である。
【図2d】図2aのデバイスの断面図である。
【図3a】本発明を実行するためのデバイスの概略図を表している。
【図3b】本発明を実行するためのデバイスの概略図を表している。
【図4】A及びBは、本発明を実行する図3に図示されたデバイスの写真のコピーである。
【図5】図3のデバイスへ供給されるヘキサデカンと水の制御ダイアグラムである。
【図6】図3のデバイスを用いて生成されたデカン液滴の写真のコピーである。
【図7】図3のデバイスを用いたときに測定された液滴のサイズヒストグラムを表す。
【図8】特定の位相関係を供するヒーターを備えた典型的デバイスの概略図である。
【図9a】ヒーターによる外乱が起こっている状態での液滴の生成の様子を表す写真のコピーである。
【図9b】図9aのような写真の組をまとめることで得られた像である。
【図10】外側での分裂長を測定する様子を図示している。
【図11】外側での分裂長のデータを内側での液滴サイズの関数として表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ここで添付図面を参照しながら本発明について説明する。
【0029】
マイクロ流体デバイス内において非混和性の第2流体中に第1流体の噴流を生成することができるということは、当技術分野においては既知である。この操作を行うことのできるデバイスが図1a及び図1bに図示されている。しかしこれらのデバイスにとっての通常の動作モードは、「幾何学的制御」又は「滴下(dripping)」モードのいずれかである。これらのモードでは、第1流体の単分散液滴が直接的に生成される。これらのモードは非特許文献1で説明されている。しかし、流体流の速度が増大するにつれて、第1流体は、「幾何学的制御」又は「滴下(dripping)」モードに影響するオリフィスを通過して、そのオリフィスを超えた領域で噴流を生成する。続いてこの噴流は液滴に分裂する。その液滴は界面又は表面張力によって支配的に制御される。この噴流分裂モードは、レイリー-プラトー不安定性と呼ばれ、かつ第1流体の多分散液滴を生成する。
【0030】
チャネル内における非混和性である第2流体内の第1流体の噴流の分裂が、その噴流の生成後に、チャネル、空洞、及び出口オリフィスの拡張し、それによりその噴流から生成される第1流体の液滴が前記出口オリフィスを通過する際に、前記液滴が前記空洞内での流れに外乱を与えることによって、均一化できることは、驚くべきであってこれまで知られていなかった事実である。相当な流れの外乱を実現させるため、液滴の断面積は、流れの方向に対して垂直な出口オリフィスの断面積のかなりの割合に相当しなければならない。好適には、液滴の断面積は、流れの方向に対して垂直な出口オリフィスの断面積の約1/3よりも大きくなければならない。流れの外乱は、後方の入口オリフィスにまで伝わる。つまりチャネルがまず初めに広がっているので、噴流が空洞に入る際には、その噴流に外乱を与える。噴流は本質的に不安定であるので、この結果として、その噴流によって循環する外乱と同一の外乱に相当する位置で、その噴流の分裂が起こる。よって、そのようにして生成された噴流は、出口オリフィスで空洞を飛び出す際に、流れの外乱を与える。よって噴流の本質的な分裂が増強される。この増強が起こる周波数は、空洞内部での噴流の速度を介することで、特定の波長に相当する。フローフィードバックプロセスとは、最初の外乱は第1流体の液滴の出口に対して一定の位相関係を有していなければならないので、空洞は、所与の組のフロー条件について一定の周波数が選ばれることを保証することを意味する。Hz単位で表される、選ばれた周波数fは近似的に次式で表される。
【0031】
【数2】

ここでUjは第1流体噴流の速度(m/s)、Lは空洞の長さ(m)、nは整数で、βは終端効果を考慮した0〜1の数である。これはレーザー共振器内の周波数選択と極めて類似している。
【0032】
波長は第1流体の噴流の直径に依存することに留意して欲しい。さらに、分裂が観測される前に求められる噴流の長さは、第1流体と第2流体との間の界面張力、第1流体と第2流体の粘性、及び流速に依存することに留意して欲しい。よって分裂長ひいては空洞の長さは、より大きな界面張力、より小さな流体1の粘性、又はより遅い流速を用いることによって短くなる。さらに、流れに対して垂直な空洞の寸法を増大させることにより、出口の速度を変化させることなく、空洞内部での流速を調節することが可能である。
【0033】
図2は本発明の方法を可能にする一般化された装置を表す。図2aでは、第2流体によって取り囲まれている第1流体1の噴流が、入口のくびれ4を介して広いチャネルすなわち空洞3へ入り込み、第2流体はその噴流を取り囲む空洞3の容積を満たす。空洞3は出口オリフィス6を有する。次式で表される噴流の1次式を検討することが有用である。
【0034】
【数3】

ここでLBは、入口から空洞までの測定された第1流体の噴流の分裂長(m)、Uは流速(m/s)、Rは噴流の半径(m)、αは関心周波数(たとえばレイリー周波数fR〜U/(9.02R)(fRの単位はHz))での成長速度(s-1)で、ξiは初期外乱のサイズ(m)である。成長速度は以下の式から得ることができる。
【0035】
【数4】

ここでηは第1流体の粘度(Pa.s)、σは界面張力(N/m)で、kは波数ベクトル(m-1)である(k=2πf/U)。よって分裂長LBを推定することが可能で、かつ空洞の長さLと対比することができる。空洞の流速、表面張力、及び長さは、第1流体1の噴流がその空洞内で分裂するように設定されなければならない。好適実施例では、L/3<LB<Lである。
【0036】
図2b、図2c、及び図2dはそれぞれ、入口領域A-A、空洞B-B、及び出口領域C-Cの断面積のバリエーションを表している。これらは本発明の実施において有用になりうる。図2cでは、平板化した断面積が図示されている。液滴がチャネルの前方表面及び後方表面によって平板化される程度に十分大きい場合、その平板化した断面積は、所与の液滴体積及び出口断面積について大きな流れの外乱を生じさせることによって、その効果を増強する。図2b、図2c、及び図2dに図示されたバリエーションは全てを網羅したものと解されてはならない。一般的な要求に適合する任意の構成が可能である。
【0037】
一部の用途-特に第1流体の液滴が後続のプロセスに用いられるようなもの-については、液滴生成が、後続プロセス又は外部信号に対して特定の位相関係を有していることを保証することが有利となりうる。係る状況では、小さな外乱が、入口領域、空洞領域、又は出口領域の内部での流体流に印加されて良い。係る外乱は、ヒーター、圧電デバイス、若しくは静電デバイス、又は関心周波数で流体流に外乱を与えることのできる他の任意のデバイスを用いることによって簡便に印加されて良い。
【0038】
図3a及び図3bは、本発明の方法を実行するデバイスの概略を表している。これらのデバイスを製造するのに選ばれた材料はガラスであった。チャネルの内側表面は第2流体に対して親和性を有していなければならないことに留意して欲しい。ガラスは親水性である。本発明がチャネルにガラスを用いたものに限定されないということは当業者には明らかである。任意の適当な材料-たとえばセラミックス、シリコン、酸化物、窒化物、カーバイド、又は合金(混晶)を含むがこれらに限定されるわけではない-が当該デバイスの製造に用いられて良いことは、当業者には明らかである。
【0039】
各デバイスは中央アーム7,8並びに上部及び下部アーム9,10を有する。当該装置のこの部分は標準的なクロスフローデバイスである。長く延びた空洞13,14が接合部11,12のすぐ下流に設けられている。空洞13,14は、入口ノズル15,16及び出口ノズル17,18を有する。よってクロスフローデバイスは、空洞13,14を介して出口ノズル17,18と結合する。その空洞は、入口又は出口ノズルよりも大きな断面積を有する。
【0040】
中央アームを介して供給される液体は、上部及び下部アームを介して供給される液体とは実質的に非混和である。
【0041】
図示されたデバイスには、上部アームと下部アーム9,10の両方に同じ圧力で蒸留水が供給された。その蒸留水はサーファクタントを含んで良い。デカン(ρ=0.73g/cc、η=0.92mPas)、ヘキサデカン(ρ=0.773g/cc、η=3.34mPas、σOW=53.3)、及び1-オクタノール(ρ=0.824g/cc、η=9.5mPas)(界面張力は非特許文献2に記載)での実験が、各々を中央アーム7,8へ交互に供給することによって行われた。各々の場合において、油は顔料を含んで良い。
【0042】
第1流体(デカン、ヘキサデカン、又は1-オクタノール)の液体噴流は、接合部11,12にて第2流体-蒸留水-内で生成された。その噴流は細い筋を形成し、その細い筋は、その空洞13,14の広い領域内の蒸留水内部で、第1流体の液滴に分裂する。特定の圧力比にわたって、空洞13,14内部に生成される噴流が均一に液滴に分裂するのが観測された。そのようにして生成された流体1の液滴は、蒸留水と共に出口オリフィス17,18を介して押し出され、かつガラススライド上で回収された。それにより、ある体積を有する第1流体の単分散液滴を含む蒸留水が生成された。
【0043】
図4aは、図3aに図示されたデバイスの空洞内で均一な液滴が生成される様子を表している。図4bは、図3bに図示されたデバイスの空洞内で均一な液滴が生成される様子を表している。各場合において、流動条件は、噴流速度が1m/sを超えるという条件とみなす。
【0044】
図5はヘキサデカン/水系についての特定制御ダイアグラムを表す。示された圧力はpsiであり、かつ液体供給容器で測定されているので、接合部11,12ではわずかに変化するかもしれない。ヘキサデカンの圧力が水圧に対して高いとき、噴流の分裂は観測されず、かつヘキサデカンの噴流はデバイスを貫流する。逆にヘキサデカン圧力が水圧に対して低すぎるときには、ヘキサデカンは接合部11,12で噴流を生成しない(領域20)。両圧力が実質的に等しいときには、均一に分裂するヘキサデカンの噴流が生成される(領域21)。ヘキサデカンの圧力がわずかに低い領域、又は水圧がわずかに高い領域では、ヘキサデカンの噴流は、生成される液滴が出口オリフィスでの圧力に顕著な外乱を与えるほど大きくなく、かつ不均一な分裂が観測される(領域22)。
【0045】
図6は水中で回収された液滴-この場合においては蒸留水中のデカンである-の顕微鏡写真のコピーである。液滴は直径約19μmである。この液滴生成は最大約120kHzで行われた。液体は約9m/sの速度で飛び出した。
【0046】
図7は、液滴が空洞内に生成される際のその液滴の多分散度の測定結果を図示している。デカンは約27psiの圧力でアーム7へ供給され、かつ蒸留水は約37psiの圧力でアーム9へ供給された。ビデオ顕微鏡が空洞領域13に焦点合わせされ、かつ液滴の像はストロボを用いて取り込まれ、かつLabVIEWソフトウエアを用いた円を、中断点から〜2.5波長程度下流の位置で各液滴にフィッティングさせることによって、液滴の半径について解析した。
得られた半径のヒストグラムはガス関数によく一致して、それによって分散度(標準偏差を平均半径で割った値)は0.9%であることが分かった。
【0047】
図8はデバイスの概略図を表している。そのデバイスは、流動収束デバイスを上述した図2の空洞デバイスと接続し、かつ液体流に外乱を与える手段を有する。20nmのプラチナ膜と10nmのチタン膜がガラス毛細管の一面に蒸着されることで、各入口のくびれ及び出口のくびれ全体にわたってジグザグ抵抗ヒーターのパターンが形成される。ここでチタン膜はガラス面に隣接している。そのジグザグパターンは全長にわたって2μmの幅を有するトラックで、ヒーター用に約350Ωの抵抗を与える。流れと相互作用できる周波数を可能な限り高くできるように、全幅は最小に保たれた。この幅は約18μmであった。各ヒーター30は独立に起動されて良い。各ヒーターが所望の効果を有しているので、空洞の入口のくびれ4全体にわたるヒーターは最も効率的であり、そのため図9及び図10に図示されたデータを収集するのに用いられた。
【0048】
ストロボ光と位相を合わせるようにヒーターにパルスを与えることによって、内部での液滴分裂のフェーズロックを行うことが可能である。像は、25Hzで動作する標準的なフレーム転送ビデオカメラを用いることによって取得される。その一方で液滴は25kHz周辺で生成される。高輝度LEDが光源として用いられ、かつその高輝度LEDが各液滴について一度フラッシュを与える。従って各ビデオフレームは約1000の像の多重露光である。液滴が光フラッシュに同期する場合、単一の明確な像が得られる。同期しない場合には多重露光によって、明確な液滴の見えない不鮮明な像が生成される。分裂現象は、ヒーターのパルス周波数の関数として検討することができる。図9aは、ヒーターのパルスによってフェーズロックされたストロボ光による内部液滴分裂の像を図示している。その周波数は24.715kHzであった。油(滴)はデカンで、かつ外側の液体は水であった。デカンは41.1psiで供給され、かつ水は65.3psiで供給された。ここで周波数を、24.2kHzから25.2kHzまで5Hz刻みで変化させた。取得された各像について、液滴を貫通する画素の中心線が抽出され、かつ新たな像中の画素列を生成するのに用いられる。その新たな像は図9Bに図示されている。図9Bでは、y軸はチャネル中心に沿った距離で、かつx軸は周波数に対応する。図9Bの像の中心領域は、ストロボLEDと位相が一致する液滴の存在を示している。他方左の領域も右の領域も液滴を示していない。つまり不鮮明な多重露光である。従って狭い周波数帯の外側では、ヒーターのパルスは液滴生成のフェーズロックを行うことができない。これは、共鳴による液滴生成が起こっていることを直接的に示唆している。
【0049】
他の例示となるデータの組は、共鳴挙動が内側の液滴サイズに依存していることを示している。各内側液滴が出口オリフィスを通過するとき、各内側液滴は圧力パルスを発生させる。その圧力パルスは流れに外乱を与えて、かつ共鳴を生じさせる。出口オリフィスもまた噴流を生成する場合、圧力パルスはその噴流にも外乱を与え、それによりその噴流は時期尚早に分裂する。従って外側噴流分裂長は、圧力の外乱強度の良い指標である。外側分裂長の測定の様子が図10に図示されている。油の供給圧力と水の供給圧力の比が変化することで、全流速はほぼ一定に保たれる。内側液滴の直径はそれにより変化した。内側液滴の直径は、分裂長と共に光学的に測定された。図11において、外側分裂長が、内側液滴の直径の関数としてプロットされている。液滴の直径はチャネル高さよりも大きいため、液滴は平坦化するので、測定された内側液滴の直径は内側液滴の断面積にほぼ比例することに留意して欲しい。図11は、出口オリフィスの断面積の約1/3よりも大きな内側液滴断面積では共鳴挙動が生じることを明確に示唆している。
【0050】
本発明は油と水の組成物の複合流を参照しながら説明されてきた。本発明が係る流体に限定されないことは、当業者にはすぐ分かることである。さらに本発明は、表面活性材料-サーファクタント、分散体等、ポリマー、モノマー、反応種、ラテックス、粒子状物質-を含む液体にも同様に適用されうる。これは完全な列挙と解されてはならない。
【0051】
好適実施例を参照しながら本発明を詳述した。変化型及び修正型も本発明の技術的範囲に含まれるということは、当業者には明らかである。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図4A】

【図4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に単分散の液滴を生成する方法であって、
当該方法は、1組のチャネル内に第1流体及び非混和性である第2流体を供給する工程であって、前記第2流体は前記第1流体の周りを取り囲み、かつ前記チャネルを満たすことで、複合噴流を構成する、工程を有し、
前記複合噴流は入口チャネルを通過して広い空洞へ入り込み、
該広い空洞へ入り込むと、前記第1流体は液滴に分裂し、
該分裂の結果生成された、前記第2流体内に存在する前記第1流体の液滴の複合体は出口チャネルを通過し、
前記複合体の流れに対して垂直な前記出口チャネルの断面積は前記空洞の断面積よりも小さく、かつ前記第1流体の液滴が前記出口を介して前記空洞の外へ流れることで、前記空洞内での前記複合体の流れ場が外乱を受け、
該外乱により、入り込む前記第1流体の噴流が外乱を受ける、
方法。
【請求項2】
前記の出口チャネルの断面は前記流れの方向に垂直で、かつ
前記の出口チャネルの断面積は前記液滴の断面積の3倍未満である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1流体は、前記空洞の入口から距離LBで液滴に分裂し、
前記空洞の長さをLとすると、
LBはL/3よりも大きくて、かつLよりも小さい、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記複合噴流が前記流れの方向に対して垂直な断面を有する空洞を流れ、かつ
前記断面は円形ではない、
上記請求項のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記複合噴流が前記流れの方向に対して垂直な断面を有する空洞を流れ、かつ
前記断面は実質的に長方形又は楕円である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記チャネルには前記第2流体に対して親液性を示す内側表面が供される、上記請求項のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記チャネルが、ガラス、セラミックス、シリコン、酸化物、窒化物、カーバイド、又は合金から選ばれる硬い材料で作られる、上記請求項のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
一の流体が非水性組成物で、かつ
他の流体が水性組成物である、
上記請求項のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第2流体が水性組成物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
外乱が、前記の空洞へ入り込む流れに印加されるか、又は、前記入口流、空洞流、若しくは出口流へ直接印加され、
前記外乱の印加は、前記第1流体の液滴の生成に係る位相が前記外乱に対して一定である、
上記請求項のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
1組のチャネル並びに入口チャネル及び出口チャネルを有する伸張した空洞を有する実質的に単分散の液滴を生成するデバイスであって、
当該デバイスの1組のチャネル内では、第1流体及び該第1流体を取り囲む非混和性の第2流体が複合噴流を生成し、
前記空洞の断面積は前記入口チャネル及び出口チャネルの断面積よりも大きく、
前記複合流は前記空洞内部で分裂して、前記第2流体内に前記第1流体の液滴を生成し、
前記出口を介した前記空洞の外側への前記第1流体の流路は前記空洞内での前記複合流場に外乱を与え、それにより入ってくる前記第1流体の噴流が外乱を受ける、
デバイス。
【請求項12】
前記の出口チャネルの断面は前記流れの方向に垂直で、かつ
前記の出口チャネルの断面積は前記液滴の断面積の3倍未満である、
請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記第1流体は、前記空洞の入口から距離LBで液滴に分裂し、
前記空洞の長さをLとすると、
LBはL/3よりも大きくて、かつLよりも小さい、
請求項11又は12に記載のデバイス。
【請求項14】
さらなる処理工程を可能にするため、前記の生成された組成物である第2流体内の第1流体の液滴を収集する手段をさらに有する、請求項11、12、又は13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記入口、空洞、又は出口領域内部で前記流体流に外乱を与え、かつ該外乱に対して前記第1流体液滴の生成に係る位相を設定する手段をさらに有する、請求項11乃至14のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記外乱を与える手段が圧電デバイスである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記外乱を与える手段が静電デバイスである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項18】
前記外乱を与える手段がヒーターである、請求項15に記載のデバイス。
【請求項19】
前記チャネルが硬い材料で作られる、請求項11乃至18のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記チャネルが、ガラス、セラミックス、シリコン、酸化物、窒化物、カーバイド、又は合金から選ばれる硬い材料で作られる、請求項19に記載の方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−531730(P2010−531730A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514110(P2010−514110)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002217
【国際公開番号】WO2009/004314
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】