説明

単球選択捕捉材料

【課題】 原料細胞液中から単球の選択分離を行い、リンパ球の夾雑をより一層抑制させた単球選択分離材、および該単球選択分離材を用いたデバイス、装置、並びにその処理方法、さらには得られた単球を用いる樹状細胞の製造方法を提供する。
【解決手段】 単球を含有する原料細胞液を、平均孔径が60μmを超える多孔質体からなる単球選択分離材、および該単球選択分離材を用いたデバイスにて処理することにより、原料細胞液中から選択的に単球を分離することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単球を含む原料細胞液から、単球を簡便かつ高純度に分離する単球採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の血液中から選択的に細胞を分離する技術は、癌治療や細胞の成分輸血を始め、特に近年、細胞医療、再生医療の発展に伴いそのニーズはさらに増大している。特に樹状細胞は、強力な抗原提示能を有しているため、細胞治療の一つとして研究が進められており、その選択分離が待望されている。樹状細胞を用いた治療は、樹状細胞に患者の癌細胞あるいは癌特異的抗原を提示させるための処理を行い、処理された樹状細胞を患者に投与することで、患者自身の免疫力を増強させるものであり、癌ワクチンとしての利用が期待されている。
【0003】
樹状細胞の採取方法として、骨髄、臍帯血、末梢血に含まれるCD34陽性細胞から培養によって分化誘導させる方法や、末梢血単球から培養によって分化誘導させる方法が挙げられるが、特に後者方法が臨床応用に広く用いられている。末梢血単球を利用する方法では、細胞の比重差を利用して分離する比重密度勾配遠心法や、アフェレーシスなどによって末梢血から単球を含んだ血液成分を分離し、さらに非付着性細胞の除去を行うことによって単球を分離している。このように得られた単球は、IL−4、GM−CSFなどのサイトカインを加えて培養され、樹状細胞に分化誘導される。しかしながら、比重密度勾配遠心法の場合、密度勾配に使用する液の細胞毒性などの安全性の問題、また遠心洗浄操作などに時間を要し、開放系での操作であるためにコンタミネーションを起こしやすいなど操作性の問題、分離効率の点において非付着性細胞の除去が十分でなくリンパ球の混入が生じるなど、多くの課題を残している。また、単球を含む白血球画分を捕捉するフィルター等については数多く報告されている(特許文献1他)が、単球のみを選択的に捕捉することを目的としないため、リンパ球なども同じく捕捉されてしまう。
【0004】
単球を選択的に捕捉する方法として、平均孔径6〜8μmのスポンジ状多孔質体からなる単球捕捉フィルターにヒト末梢血液を通液することで、単球を捕捉する例(特許文献2)や、不織布からなる単球捕捉フィルターにヒト末梢血液を通液することで、単球を捕捉する例(特許文献3)が開示されている。以上2方法では、完全閉鎖系で処理を行うことによってコンタミネーションを防ぎ、さらに煩雑な遠心操作を省くことで簡便性も改良されている。
【特許文献1】特開平3−47131
【特許文献2】特開2003−274923
【特許文献3】特開2004−129545
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような従来のフィルターを用いた単球捕捉方法では、フィルターの目が細かいため、選択性が十分でなく、単球以外の血液成分、特にリンパ球も捕捉されてしまい、混入する。本発明では、単球を樹状細胞へ分化させ、癌ワクチンとして利用する際に、単球純度を高めることが重要であると考え、選択性の高い単球分離方法を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、吸着体として、平均孔径が60μmを超える多孔質体を用いることで、リンパ球の通過率を増加させ、捕捉細胞中の単球の純度を上げる方法を見出した。
よって、本発明が提供するのは以下の通りである:
[1] 単球を含有する原料細胞液から単球を選択的に捕捉する多孔質体であって、平均孔径が60μmを超えることを特徴とする多孔質体。
【0007】
[2] さらに、 平均孔径が100μm以下であることを特徴とする[1]記載の多孔質体。
【0008】
[3] 多孔質体が単球接着性素材で構成されることを特徴とする[1]または[2]記載の多孔質体。
【0009】
[4] 単球接着性素材がポリウレタンであることを特徴とする [3]記載の多孔質体。
【0010】
[5] [1]〜[4] いずれかに記載の多孔質体が、液体入口と液体出口を有する容器に充填された、単球を選択的に捕捉する細胞分離デバイス。
【0011】
[6] [5] に記載の細胞分離デバイスに、単球を含む原料細胞液を通液させて単球を捕捉させる工程、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、捕捉された単球を回収する工程を、この順に実施することを特徴とする単球採取方法。
【0012】
[7] [6]に記載の方法で得られた単球を、分化誘導することを特徴とする樹状細胞の製造方法。
【0013】
[8] [5] に記載の細胞分離デバイスに単球を含む原料細胞液を通液させて単球を捕捉させる工程、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、デバイス内に分化誘導培養液を流入して単球の分化誘導を行う工程、分化誘導された樹状細胞を回収する工程を、この順に実施することを特徴とする樹状細胞の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明について、以下具体的に説明する。
【0015】
単球とは、造血幹細胞由来の単球系細胞である。本発明でいう単球を含む原料細胞液とは、少なくとも単球およびリンパ球を含有する細胞浮遊液をいい、末梢血液、骨髄液、臍帯血液、またはこれらに遠心分離処理、または所望によりフィコール、パーコール、バクティナーチューブ、リフォプレップ、HES(ヒドロキシエチルスターチ)などを使用し、比重密度遠心分離処理を施した細胞懸濁液を指す。
【0016】
本発明でいう多孔質体とは、連通孔を持つ構造体を指す。その素材としては、特に限定されず、具体例としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂等に代表される合成高分子、キチン、キトサン、酢酸セルロース、セルロース、アガロース、アルギン酸等に代表される天然高分子、ハイドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ等に代表される無機材料、ステンレス、チタン等に代表される金属等が挙げられる。この中でも単球を接着させる能力を有する素材(単球接着性素材)、例えばポリウレタン、ポリスチレン、ナイロン等が好ましく、その中でもポリウレタンがより好ましい。
【0017】
本発明中において、多孔質体の平均孔径とは、以下の方法で測定、算出する。
【0018】
材料の表面、または断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、観察された孔に関して、円周方向で最も離れた2点間の距離を計測する。これを1つの孔につき最大、最小となる2距離を測定し、平均してその孔の孔径とする。孔径計測を無作為に20個の孔において行い、平均したものを平均孔径とする。本発明において、多孔質体の平均孔径は少なくとも60μmを超える必要があり、好ましくは60μmより大きく100μm以下の範囲、より好ましくは60μmより大きく80μm以下の範囲である。
【0019】
これらの多孔質体は、スポンジ状、フエルト状、綿状、繊維状、粒子状、パイプ状、円盤状、円筒状などのいずれの形態であっても良い。本発明において、これら多孔質体を用いて単球を含有する原料細胞液から単球を選択的に捕捉する方法は特に限定されず、多孔質体と原料細胞液を適宜接触させることで行う。該接触方法としては、例えば、液体入口と液体出口を有する容器に該多孔質体を充填した細胞分離デバイスに、該原料細胞液を通過させる方法、該多孔質体が収容されたバックに該原料細胞液を添加して一定時間接触させた後に濾別する方法。その他、該原料細胞液に該多孔質体を添加攪拌後に濾別する方法などいずれでもかまわないが、上記デバイスを利用する方法が好ましい。
【0020】
本発明の細胞分離デバイスに用いる容器の形態、材質、大きさにはとくに限定はない。形態は、球、コンテナ、バッグ、チューブ、カラムなど任意の形態であってよい。好ましい具体例としては、たとえば容量約0.1〜500ml程度、直径約0.1〜10cm程度の透明または半透明の筒状容器などがあげられる。容器は、任意の構造材料を使用して作成することができる。構造材料は、非反応性ポリマーまたは生物親和性金属あるいはその合金などで構成される。または、これら非反応性ポリマーや生物親和性金属でコートあるいはメッキされた材料でも良い。具体的には、該ポリマーとして、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリロニトリルポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、コポリマーテトラフルオロエチレンまたはヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化ポリマー、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン等が挙げられる。金属材料としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、および窒化チタン被覆ステンレス鋼などが挙げられる。また、シリコンコートされたガラスであっても良い。とくに好ましくは耐滅菌性を有する素材であるが、具体的にはシリコンコートされたガラス、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリサルフォン、ポリメチルペンテンなどがあげられる。本発明の細胞分離デバイスにおいては、該容器は液体入口と液体出口を有するが、その位置としては、例えば、カラムの場合、液体入口は多孔質体の最上層に液体を導入できる位置であれば良く、また液体出口は多孔質体の最下層から液体を導出できる位置であれば良いが、これに限定されない。液体入口は流入ラインと連結されていても良く、流入ラインは単球接着性素材以外の素材で構成されているのが好ましい。具体的には、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等が挙げられるが、この限りではない。液体出口には流出ラインに連結されていても良く、流出ラインは単球接着性素材以外の素材で構成されているのが好ましい。具体的には、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン等が挙げられるが、この限りではない。
【0021】
本発明の細胞分離デバイスにおいて、容器に多孔質体を充填する方法は特に限定されず、多孔質体がスポンジ状やフエルト状の場合、単層、もしくは複数枚積層して使用することができる。
【0022】
本発明の細胞分離デバイスを使用する場合、抗凝固剤を用いてもよく、その時の抗凝固剤としては、ヘパリン、低分子量ヘパリン、メシル酸ナファモスタット、メシル酸ガベキサート、アルガトロバン、アシッド・シトレート・デキストロース液(ACD液)やシトレート・フォスフェート・デキストロース液(CPD液)などのクエン酸含有抗凝固剤などいずれを用いてもよい。なかでもヘパリンは一般的に最も好ましく用いられる抗凝固剤としてあげることができる。
【0023】
本発明においては、特定孔径を有する多孔質体を利用することで、単球を含有する原料細胞液から、選択的に単球を捕捉することが出来る。本発明における多孔質体、あるいはデバイスの単球捕捉率は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。また、リンパ球通過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。ここでいう単球捕捉率およびリンパ球通過率は、多孔質体またはデバイスに原料細胞液を接触後濾過あるいは通液した際、次式によって算出する。
【0024】
単球捕捉率(%)=100×[(原料細胞液中単球数−濾液中単球数)
/(原料細胞液中単球数)]
リンパ球通過率(%)=100×(濾液中リンパ球数/原料細胞液中リンパ球数)
本発明はまた、上記細胞分離デバイスに、単球を含む原料細胞液を通液させて単球を捕捉させる工程、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、捕捉された単球を回収する工程、をこの順に実施する、単球採取方法も提供する。
【0025】
本発明における原料細胞液の通液方法は、細胞分離デバイスの液体入口から原料細胞液を導入し、一定方向に通液させることをいう。原料細胞液を導入する手段は、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等の機械を用いる方法や、シリンジを用いた手動通液、高低差を利用した自然落下処理等が挙げられるが、この限りではない。
【0026】
本発明における非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する方法は、細胞分離デバイスに洗浄液を、液体入口から(つまり原料細胞液と同一方向)、あるいは液体出口から(つまり原料細胞液と逆方向に)通液させることをいう。単球流出防止の点で、原料細胞液と同一方向に洗浄液を流すほうが好ましい。洗浄液は、捕捉された細胞や多孔質体に損傷を与えず、少なくとも赤血球やリンパ球などの非捕捉細胞を洗い流すものであれば特に限定しない。具体例としては、生理食塩水、リン酸緩衝液等の緩衝液、RPMI1640等の細胞培養用培地が挙げられるが、この限りではない。洗浄液を導入する手段は、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等の機械を用いる方法や、シリンジを用いた手動通液、高低差を利用した自然落下処理等が挙げられるが、この限りではない。
【0027】
本発明における単球回収方法は、原料細胞液を通液し、洗浄液で洗浄した後の細胞分離デバイスに、回収液を原料細胞液と同一方向、あるいは逆方向に通液させることをいう。回収率向上の点で、原料細胞液や洗浄液と逆方向に通液させるほうが好ましい。回収液は、捕捉された細胞や多孔質体に損傷を与えないものであれば良い。具体例として、デキストラン、コラーゲン、アルブミン、フィブロネクチン等の天然高分子溶液、グルコース、スクロース、マルトース等の有機物溶液、ポリエチレングリコール等の合成高分子溶液、およびこれらの混合物が挙げられるが、この限りではない。また、原料細胞液および洗浄液と逆方向に通液させる場合には、洗浄液と同じ、生理食塩水、リン酸緩衝液等の緩衝液、RPMI1640等の細胞培養用培地なども利用できる。回収液を導入する手段は、シリンジポンプ、ペリスタポンプ等の機械を用いる方法や、シリンジを用いた手動通液、高低差を利用した自然落下処理等が挙げられるが、この限りではない。
【0028】
本発明はさらに、上記方法で得られた単球を、分化誘導することを特徴とする樹状細胞の製造方法を提供する。単球を樹状細胞に分化誘導する方法は特に限定されず、既知の方法が用いられる。例えば、得られた単球に、IL−4、GM−CSF等のサイトカインを添加し、培養することによって樹状細胞を得ることが出来る。その際の培養時間・培養温度等は特に限定されないが、例えば培養期間は6〜7日間、培養温度は37℃である。
【0029】
本発明においては、単球を回収せず、単球の分化誘導を細胞分離デバイス内で行うことも可能である。すなわち、細胞分離デバイスに単球を含む原料細胞液を通液させて単球を捕捉させる工程、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、デバイス内に分化誘導培養液を流入して単球の分化誘導を行う工程、分化誘導された樹状細胞を回収する工程を、この順に実施する樹状細胞の製造方法である。本方法は、単球より樹状細胞の方が接着性が非常に低いため、回収工程が容易であるという点で優れている。具体的には、まず単球を含む細胞原料液を細胞分離デバイスの液体入口から流入し、単球を捕捉させる。続いて、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する。上記捕捉工程及び洗浄工程の詳細については、上述したとおりである。さらに、細胞分離デバイスの液体出口を封止し、分化誘導培養液を流入させ、液体入口を封止し、培養することによって樹状細胞を得ることができる。ここでいう分化誘導培養液の例としては、αMEM、AIM等の培養培地や、PBS、生理食塩水などの緩衝液にIL−4、GM−CSF等のサイトカインを添加したものが挙げられるが、これに限定するものではない。その際の培養時間・培養温度等は特に限定されないが、例えば培養期間は6〜7日間、培養温度は37℃である。分化した樹状細胞は接着性が極端に低下することが知られているので、培養後、培養液をデバイスから押し出すように回収することで、樹状細胞も回収される。このときの押し出し方向は原料細胞液と同一方向、あるいは逆方向どちらでも構わない。
【0030】
本発明は、上述の如く、単球を選択的捕捉する材料、デバイス、処理方法、さらには捕捉された単球を用いる樹状細胞の製造方法を提供するものである。
【実施例】
【0031】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
以下、ブタ末梢全血から単球を分離する場合の細胞分離回収デバイスおよび細胞分離方法を示す。
【0033】
1.細胞分離回収デバイスの調製
高さ62mm×内径9.5mmφの外筒を有する2.5mlシリンジ(TERUMO製「テルモシリンジ」)の内筒を抜き、中空状の外筒に、高さ7mm×外径10mm(内径7mm)の中空状シリコンチューブをシリンジ内にぴったりはまるように入れ、さらに厚さ1.5mm×直径9mm、平均孔径74μmの円筒状のポリウレタン多孔質体を12枚積層し、その後、高さ7mm×外径10mm(内径7mm)の中空状シリコンチューブをシリンジ内にぴったりはまるように入れた。要するに、シリンジ外筒内に積層した多孔質体の上下をシリコンチューブで押さえ、動かないように固定した(以下、回収用シリンジという)。この場合、シリコンチューブの内径部分が、デバイスの液体入口および出口となる。また、原料細胞液の通過性を高める目的で2mlの生理食塩水にてプライミングを行った。回収用シリンジの先端に長さ15mm、外径5mm(内径3mm)のポリプロピレン製チューブを連結し、チューブのもう一端に、ヘパリン加ブタ末梢血2.5mlを充填した2.5mlシリンジ(以下、血液充填シリンジという)を連結した。連結の際、一定流速を保つ目的で、多孔質体と血液充填シリンジの間に空気層が入らないようにその間のチューブにもブタ末梢血を充填した。
【0034】
2.単球分離方法
シリンジポンプを用いて血液充填シリンジから回収用シリンジへ通液(流速0.5ml/分)して単球を捕捉し、濾液は回収用シリンジのもう一端から排出した。血液充填シリンジを外し、生理食塩水1.0mlが充填された2.5mlシリンジ(洗浄用シリンジ)を回収用シリンジに連結し、血液と同方向に通液(流速0.5ml/分)して、残存する赤血球、血小板を洗い流した。さらに洗浄用シリンジを外した後、回収用シリンジの針先部分を下にしてから、市販の10%デキストラン生理食塩水溶液(ミドリ十字社製「デキストラン40注」)20等量に対してヒト血清アルブミン(ICN Biomedicals製 「Human Albumin Fraction V」)3等量の割合で混合して調製した溶液(回収液)2.5mlを回収用シリンジ内に上部から充填し、その後、ピストンを用いて手動で回収液を押し出し、すなわち、血液や洗浄液とは逆方向に洗浄(逆洗浄)して、回収用シリンジの先端から細胞を回収し、これを回収細胞液とした。
【0035】
3.結果
単球捕捉率、単球回収率、リンパ球通過率、単球選択捕捉率は以下の式により算出した。
【0036】
単球捕捉率(%)=
100×[(原料細胞液中単球数−濾液中単球数)/(原料細胞液中単球数)]
単球回収率(%)=100×(回収細胞液中単球数/原料細胞液中単球数)
リンパ球通過率(%)=100×(濾液中リンパ球数/原料細胞液中リンパ球数)
単球選択捕捉率(%)=100×[(原料細胞液中単球数−濾液中単球数)/
[(原料細胞液中単球数−濾液中単球数)
+(原料細胞液中リンパ球数−濾液中リンパ球数)] ]
またこのとき、単球またはリンパ球の数は以下の式により算出した。
【0037】
単球数=細胞浮遊液中白血球数×単球画分比率(%)/100
リンパ球数=細胞浮遊液中白血球数×リンパ球画分比率(%)/100
ここでいう細胞浮遊液とは、原料細胞液、濾液、回収細胞液を指し、これらにおける白血球数は自動血液細胞数カウンター(シスメックスK4500)にて測定した。また、単球またはリンパ球の画分比率は、フローサイトメーター(FACSCanto ベクトンディッキンソン)にて測定した。
【0038】
上記の結果は、単球回収率13.0%、単球捕捉率32.8%、リンパ球通過率100%、単球選択捕捉率100%であった。
【0039】
(実施例2)
1.細胞分離回収デバイスの調製
原料細胞液をブタ骨髄液に変えたほかは、実施例1と同様に行った。
【0040】
2.単球分離方法
実施例1と同様に実施した。
【0041】
3.結果
単球回収率3.4%であり、単球捕捉率32.5%、リンパ球通過率100%、単球選択捕捉率100%であった。
【0042】
(比較例1)
1.細胞分離回収デバイスの調製
平均孔径が15μmのポリウレタン多孔質体を使用し、積層枚数を6枚に、原料細胞液をブタ骨髄液に変えたほかは、実施例1と同様に行った。
【0043】
2.単球分離方法
実施例1と同様に実施した。
【0044】
3.結果
白血球数測定はビュルケルチュルク血球計算盤、単球またはリンパ球の画分比率は、フローサイトメーター(FACSCaliber ベクトンディッキンソン)にて測定した。
【0045】
その結果、単球回収率4%であり、単球捕捉率100%、リンパ球通過率0%、単球選択捕捉率0%であった。
【0046】
実施例1〜2、および比較例1の結果を表1にまとめた。
【0047】
【表1】

表1に示す結果より、実施例1および2では、単球捕捉率が30%程度と余り高くないものの、リンパ球通過率が100%、単球選択捕捉率が100%と、捕捉細胞中の単球の純度が非常に高い。目の細かい従来のフィルターと類似条件である比較例1では、単球捕捉率が100%と回収率は高いものの、リンパ球の通過率が0%であり(つまり大部分のリンパ球も同じく捕捉されている)、捕捉細胞中の単球の選択捕捉率が低く、単球の選択的分離とはいえないことがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単球を含有する原料細胞液から単球を選択的に捕捉する多孔質体であって、平均孔径が60μmを超えることを特徴とする多孔質体。
【請求項2】
さらに、平均孔径が100μm以下であることを特徴とする請求項1記載の多孔質体。
【請求項3】
多孔質体が単球接着性素材で構成されることを特徴とする請求項1または2記載の多孔質体。
【請求項4】
単球接着性素材がポリウレタンであることを特徴とする請求項3記載の多孔質体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質体が、液体入口と液体出口を有する容器に充填された、単球を選択的に捕捉する細胞分離デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の細胞分離デバイスに単球を含む原料細胞液を通液させて単球を捕捉させる工程、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、捕捉された単球を回収する工程を、この順に実施することを特徴とする単球採取方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で得られた単球を、分化誘導することを特徴とする樹状細胞の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の細胞分離デバイスに単球を含む原料細胞液を通液させて単球を捕捉させる工程、非捕捉細胞を洗浄液で洗浄する工程、デバイス内に分化誘導培養液を流入して単球の分化誘導を行う工程、分化誘導された樹状細胞を回収する工程を、この順に実施することを特徴とする樹状細胞の製造方法。

【公開番号】特開2007−117705(P2007−117705A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24322(P2006−24322)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】