説明

単環芳香族炭化水素の製造方法

【課題】FCC装置で生成する分解軽油(LCO)を含む留分から、高圧の分子状水素を共存させることなく、BTX留分を従来の方法に比べ効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aと前記炭化水素油Aより1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとを混合することによって調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単環芳香族炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、これまでは主に軽油・重油留分として用いられていた、流動接触分解(以下、「FCC」と称する。)装置で生成する分解軽油であるライトサイクル油(以下、「LCO」と称する。)等の多環芳香族分を含む原料から、高オクタン価ガソリン基材や石油化学原料として利用できる、付加価値が高い炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン。以下、これらをまとめて「BTX留分」、または「BTX」と称する。)を効率よく製造する技術が求められている。
【0003】
多環芳香族分からBTX留分を製造する方法としては、例えば、下記の方法等が知られている。
(1)多環芳香族分を含む炭化水素を1段で水素化分解する方法(特許文献1、2)。
(2)多環芳香族分を含む炭化水素を前段で水素化した後、後段で水素化分解する方法(特許文献3〜5)。
(3)多環芳香族分を含む炭化水素を、ゼオライト触媒を用いて直接BTX留分に転換する方法(特許文献6)。
(4)多環芳香族分を含む炭化水素と、炭素数2〜8の軽質炭化水素との混合物を、ゼオライト触媒を用いてBTX留分に転換する方法(特許文献7、8)。
【0004】
しかしながら、(1)、(2)の方法では、高圧の分子状水素の添加が必須であり、水素消費も多いという問題点がある。また、水素化条件下においては、BTX留分の目的製造時には必要とされないLPG留分等が多く副生され、その分離等にエネルギーを必要とするだけでなく、原料効率も低下する。
(3)の方法では、必ずしも多環芳香族分の転換が十分であるとはいえない。
(4)の方法は、軽質炭化水素を原料とするBTXの製造技術と、多環芳香族分を含む炭化水素を原料とするBTXの製造技術とを組み合わせて熱バランスを向上したもので、多環芳香族分からのBTX収率を向上せしめるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−283687号公報
【特許文献2】特開昭56−157488号公報
【特許文献3】特開昭61−148295号公報
【特許文献4】英国特許第1287722号明細書
【特許文献5】特開2007−154151号公報
【特許文献6】特開平3−2128号公報
【特許文献7】特開平3−52993号公報
【特許文献8】特開平3−26791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、FCC装置で生成する分解軽油(LCO)を含む留分から、BTX留分を従来の方法に比べ効率よく製造できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、
前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aと前記炭化水素油Aより1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとを混合することによって調整されていることを特徴とする単環芳香族炭化水素の製造方法。
[2]10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、
前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aを水素化するか、あるいは、前記炭化水素油Aと前記炭化水素油Aを水素化したものとを混合することによって調整されていることを特徴とする単環芳香族炭化水素の製造方法。
[3]前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が、12質量%以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の単環芳香族炭化水素の製造方法。
[4]前記炭化水素油Aが流動接触分解装置で生成する分解軽油を含むことを特徴とする請求項[1]〜[3]のいずれか一項に記載の単環芳香族炭化水素の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の単環芳香族炭化水素の製造方法によれば、多環芳香族炭化水素を含む原料油から高い収率で炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造することができる
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の単環芳香族炭化水素を製造する方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aと炭化水素油Aより1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとを混合することによって調整されている方法である。
また、本発明の単環芳香族炭化水素を製造する方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aを水素化するか、あるいは、炭化水素油Aと炭化水素油Aを水素化したものとを混合することによって調整されている方法である。
【0010】
本発明の単環芳香族炭化水素の製造方法においては、原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させることで、原料油に含まれる飽和炭化水素を水素供与源とし、飽和炭化水素からの水素移行反応によって多環芳香族炭化水素を部分的に水素化し、開環させて単環芳香族炭化水素に転換するほか、原料油中もしくは分解過程で得られる飽和炭化水素を環化、脱水素することによっても単環芳香族炭化水素に転換できる。さらには、炭素数9以上の単環芳香族炭化水素を分解することによって、炭素数6から8の単環芳香族炭化水素を得ることもできる。これらの反応が複合的に進行することにより、単環芳香族炭化水素を含む生成物を得る。これにより、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素、及び炭素数9以上の重質留分を含む生成物を得る。
【0011】
なお、この生成物には、単環芳香族炭化水素や重質留分以外にも、水素、メタン、エタン、エチレン、LPG(プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等)などが含まれる。また、重質留分中には、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン等の2環芳香族炭化水素が多く含まれ、さらに、アントラセン等の3環以上の芳香族炭化水素も原料油によっては含まれている。本願においては、これら2環芳香族炭化水素と3環以上の芳香族炭化水素とを合わせて、多環芳香族炭化水素と記している。
【0012】
(原料油)
本発明で使用される原料油は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の油である。10容量%留出温度が140℃未満の油では、軽質のものから単環芳香族炭化水素を製造することになり、本発明の主旨にそぐわなくなる。また、90容量%留出温度が380℃を超える油を用いた場合には、単環芳香族炭化水素の収率が低くなる上に、単環芳香族炭化水素製造用触媒上へのコーク堆積量が増大して、触媒活性の急激な低下を引き起こす傾向にある。
原料油の10容量%留出温度は150℃以上であることが好ましく、原料油の90容量%留出温度は360℃以下であることが好ましい。
なお、ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0013】
本発明で使用される原料油中の1環ナフテノベンゼン以外の成分(単環芳香族分、多環芳香族分、パラフィン分、ナフテン分、オレフィン分)の含有比率は、特に制限はされず、目的とする反応を著しく阻害しない範囲で、2環以上の多環芳香族炭化水素、パラフィン、ナフテン等の飽和炭化水素、アルキルベンゼン等の単環芳香族炭化水素等を含んでも構わないし、硫黄、酸素、窒素等のヘテロ原子を含んでいてもよい。原料油中に多環芳香族炭化水素が多く含まれると単環芳香族炭化水素の収率が低下するため、原料油中の多環芳香族炭化水素の含有量(多環芳香族分)は50容量%以下が好ましく、40容量%以下であることがより好ましい。
なお、ここでいう多環芳香族分とは、JPI−5S−49「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠して測定、あるいは、FIDガスクロマトグラフ法または2次元ガスクロマトグラフ法にて分析される2環芳香族炭化水素含有量(2環芳香族分)および、3環以上の芳香族炭化水素含有量(3環以上の芳香族分)の合計値を意味する。以降、多環芳香族炭化水素、2環芳香族炭化水素、3環以上の芳香族炭化水素の含有量が容量%で示されている場合は、JPI−5S−49に準拠して測定されたものであり、質量%で示されている場合は、FIDガスクロマトグラフ法または2次元ガスクロマトグラフ法に基づいて測定されたものである。
【0014】
また、本発明に係る原料油は、1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上となるように調整されている。ここでいう1環ナフテノベンゼンとは、例えばテトラリン骨格のように1つの分子内に単環芳香環とナフテン環が共存している化合物を示す。具体的には、テトラリン類、インダン類、オクタヒドロアントラセン類、オクタヒドロフェナントレン類などが挙げられる。
なお、1環ナフテノベンゼン含有比率(質量%)は、2次元ガスクロマトグラフ法に基づいて測定されたものである。
【0015】
本発明において、原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率を10質量%以上となるように調整している理由は、1環ナフテノベンゼンは、本願で使用する単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させた場合に、より効率的に炭素数6〜8の単環芳香族化合物に転換しうるためである。
ナフテノベンゼンは、分解・開環反応により、単環芳香族炭化水素を製造せしめる可能性がある一方で、脱水素反応により多環芳香族炭化水素が製造され、さらには、それらの多環芳香族炭化水素がコーク化し触媒上に蓄積することで触媒活性を低下させるおそれがあった。そのため、これまではナフテノベンゼンの比率を高めることは、必ずしも単環芳香族炭化水素の収量増加につながるものではなかった。また、単に脱水素能のみを抑制する条件とすると、同時に進行する飽和炭化水素の環化・脱水素が抑制され、単環芳香族炭化水素の収量をあげることができなかった。
【0016】
そこで本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、ナフテノベンゼンの中でも1環ナフテノベンゼンを多く含む原料油を用い、かつ適切な触媒・反応条件を選定することで、単環芳香族炭化水素を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
なお、原料油中に1環ナフテノベンゼン以外のナフテノベンゼンを含有しても構わないが、ジヒドロフェナントレン、テトラヒドロアントラセン等で代表される2環ナフテノベンゼンは、芳香環部分の分解が困難で単環芳香族炭化水素の収量を向上させないことから、多く含むことは必ずしも好ましくない。ただし、飽和炭化水素との水素移行反応により、単環芳香族炭化水素に移行することも可能であることから、他の多環芳香族炭化水素と同じように含有することができる。
【0017】
原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率を10質量%以上に調整する方法としては、下記の方法が挙げられる。
(i)炭化水素油Aと、1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとを混合する方法
(ii)炭化水素油Aを水素化する方法
(iii)炭化水素油Aと、炭化水素油Aを水素化したものとを混合する方法
炭化水素油Aとは、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の油である他は特に制限はないが、例えば、流動接触分解(FCC)装置で生成する分解軽油(LCO)、石炭液化油、直留灯油、直留軽油、コーカー灯油、コーカー軽油などが挙げられる。
炭化水素油Bとは、1環ナフテノベンゼン含有量が10質量%よりも多く、さらに少なくとも炭化水素油Aよりは1環ナフテノベンゼン含有量が多い炭化水素油であれば、特に制限はないが、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の炭化水素油であることが好ましい。例えば、重質油水素化分解精製油、オイルサンド水素化分解精製油、オイルシェール水素化分解精製油などが挙げられる。
【0018】
(i)の方法においては、反応器内に投入する前に、炭化水素油Aと1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとをあらかじめ混合してもよく、反応器内で炭化水素油Aと1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとを直接混合してもよい。
反応器内で直接混合する場合は、反応器内に投入する直前の炭化水素油Aの1環ナフテノベンゼンの量と、1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bの1環ナフテノベンゼンの量との合計が、混合後の原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上となる量であることが好ましい。
【0019】
(ii)の方法としては、炭化水素油Aを水素化する方法等が挙げられる。炭化水素油Aを水素化することは、1環ナフテノベンゼンの含有量を増加させるために行う。すなわち、炭化水素油Aを水素化することにより、炭化水素油Aに含有される多環芳香族炭化水素が部分的に水素化され、1環ナフテノベンゼンが生成させる。そのため、炭化水素油A中の多環芳香族炭化水素含有量は10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、多環芳香族炭化水素は部分的に水素化することでナフテノベンゼンとなるが、さらに水素化が進行すると、ナフテノベンゼンはナフテンに転換される。ナフテンの含有量に特に制限はないが、過度のナフテンの生成は、1環ナフテノベンゼンの含有割合を減少させ、さらに水素化に必要な水素消費量も増加することから好ましくないため、ナフテンの含有量は40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0020】
炭化水素油Aを水素化させる方法としては、炭化水素油Aを以下の条件で水素化処理する方法を好ましく挙げることができる。
反応形式としては、固定床を好ましく挙げることができる。
水素化触媒としては、公知の水素化触媒(例えば、ニッケル触媒、パラジウム触媒、ニッケル−モリブデン系触媒、コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−タングステン系触媒等)を用いることができる。
【0021】
水素化反応温度は、使用する水素化触媒によっても異なるが、通常は100〜450℃、より好ましくは200〜400℃、さらに好ましくは250〜380℃の範囲とされる。
水素化反応圧力は、使用する水素化触媒や原料によっても異なるが、0.7MPaから10MPaの範囲とすることが好ましく、1MPaから8MPaとすることがより好ましく、1MPaから6MPaとすることが特に好ましい。水素化反応圧力を10MPa以下にすれば、ナフテンの生成を抑え効率的に1環ナフテノベンゼンに転換することができ、あわせて耐用圧力の低い水素化反応器が使用可能となり、設備費を低減できる。一方、水素化反応圧力は、1環ナフテノベンゼンの含有量を増加させる観点から、0.7MPa以上であることが好ましい。
【0022】
水素消費量は、ナフテンの生成を抑え効率的に1環ナフテノベンゼンの含有量を増加させる観点から、2500scfb(422Nm/m)以下であることが好ましく、1500scfb(253Nm/m)以下であることがより好ましく、1000scfb(169Nm/m)以下であることがさらに好ましい。一方、水素消費量は、1環ナフテノベンゼンの含有量を増加させる観点から、300scfb(50Nm/m)以上であることが好ましい。
液空間速度(LHSV)は0.1h−1以上20h−1以下にすることが好ましく、0.2h−1以上10h−1以下がより好ましい。LHSVを20h−1以下とすれば、より低い水素化反応圧力にて多環芳香族炭化水素を十分に水素化することができる。一方、0.1h−1以上とすることで、水素化反応器の大型化を避けることができる。
【0023】
(iii)の方法としては、(i)の方法と同じく、反応器内に投入する前に、炭化水素油Aと炭化水素油Aを水素化したものとをあらかじめ混合してもよく、反応器内で炭化水素油Aと炭化水素油Aを水素化したものとを直接混合してもよい。なお、炭化水素油Aの水素化は、(ii)の方法と同様に行うことができる。
【0024】
原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率は、10質量%以上であり、12質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。
1環ナフテノベンゼンが多い分には制限はないものの、原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率を70質量%超に調製することは、前記(i)、(ii)、(iii)の方法では困難である。
【0025】
1環ナフテノベンゼンとしては、例えば、テトラリン、アルキルテトラリン、インダン、アルキルインダン、オクタヒドロフェナントレン、アルキルオクタヒドロフェナントレン、オクタヒドロアントラセン、アルキルオクタヒドロアントラセンなどが挙げられるが、テトラリン、アルキルテトラリン、インダン、アルキルインダンが特に好ましい。
なお、実際の原料油には、これらの成分が混合されており、それぞれを分離して用いることは実用的ではなく、これらの成分の総量が、10質量%以上含まれていればよい。1環ナフテノベンゼンの含有量を分析する手法としては、例えば、2次元ガスクロマトグラフ法に基づいて測定する方法などが挙げられる。
【0026】
(反応形式)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応形式としては、固定床、移動床、流動床等が挙げられる。本発明においては、重質分を原料とするため、触媒に付着したコーク分を連続的に除去可能で、かつ安定的に反応を行うことができる流動床が好ましく、反応器と再生器との間を触媒が循環し、連続的に反応−再生を繰り返すことができる、連続再生式流動床が特に好ましい。触媒と接触する際の原料油は、気相状態であることが好ましい。また、原料は、必要に応じてガスによって希釈してもよい。
【0027】
(単環芳香族炭化水素製造用触媒)
本発明に係る触媒は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
【0028】
[結晶性アルミノシリケート]
結晶アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL型、EUO型、FER型、HEU型、MEL型、MFI型、NES型、TON型、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI型、ATO型、BEA型、CON型、FAU型、GME型、LTL型、MOR型、MTW型、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、工業的に使用できる点では、BEA型、FAU型、MOR型が好ましく、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、BEA型がより好ましい。
【0029】
結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA型、CHA型、ERI型、GIS型、KFI型、LTA型、NAT型、PAU型、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO型、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0030】
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応形式を固定床の反応とする場合、触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、触媒全体を100質量%とした際の60〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。
【0031】
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応形式を流動床の反応とする場合、触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、触媒全体を100質量%とした際の20〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、35〜60質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用として適さないものになることがある。
【0032】
[リン、ホウ素]
単環芳香族炭化水素製造用触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。単環芳香族炭化水素製造用触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0033】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液としては、特に限定されないものの、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、およびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
【0034】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0035】
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるリンおよび/またはホウ素の含有量は、触媒全重量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、さらには、下限は0.5質量%以上がより好ましく、上限は9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下が特に好ましい。触媒全重量に対するリンの含有量が0.1質量%以上であることで、経時的な単環芳香族炭化水素の収率低下を防止でき、10質量%以下であることで、単環芳香族炭化水素の収率を高くできる。
【0036】
[ガリウム、亜鉛]
単環芳香族炭化水素製造用触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0037】
単環芳香族炭化水素製造用触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO、AlOおよびGaO/ZnO構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法、または結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0038】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないものの、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0039】
単環芳香族炭化水素製造用触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウムおよび/または亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01〜3.0質量%であることが好ましく、0.05〜1.5質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび/または亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、3.0質量%以下であれば、ナフテノベンゼンの脱水素を抑え、より効率的に、当該原料油から単環芳香族炭化水素を製造することができる。
【0040】
[形状]
単環芳香族炭化水素製造用触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、流動床の場合には粉末状にされ、固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30〜180μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4〜1.8g/ccが好ましく、0.5〜1.0g/ccがより好ましい。
【0041】
なお、平均粒子径は、ふるいによる分級で得られた粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301−2−3の方法で測定された値である。
粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
単環芳香族炭化水素製造用触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0042】
(反応温度)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応温度については、特に制限されないものの、400〜650℃とすることが好ましい。反応温度の下限は400℃以上であれば原料油を容易に反応させることができ、より好ましくは450℃以上である。また、反応温度の上限は650℃以下であれば単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、より好ましくは600℃以下である。
【0043】
(反応圧力)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応圧力については、1.5MPaG以下とすることが好ましく、1.0MPaG以下とすることがより好ましい。反応圧力が1.5MPaG以下であれば、軽質ガスの副生を抑制できる上に、反応装置の耐圧性を低くできる。
【0044】
(接触時間)
原料油と単環芳香族炭化水素製造用触媒との接触時間については、所望する反応が実質的に進行すれば特に制限はされないものの、例えば、触媒上のガス通過時間で1〜300秒が好ましく、さらに下限を5秒以上、上限を150秒以下とすることがより好ましい。接触時間が1秒以上であれば、確実に反応させることができ、接触時間が300秒以下であれば、コーキング等による触媒への炭素質の蓄積を抑制できる。または分解による軽質ガスの発生量を抑制できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔触媒調製例〕
結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒の調製:
硅酸ナトリウム(Jケイ酸ソーダ3号、SiO:28〜30質量%、Na:9〜10質量%、残部水、日本化学工業(株)製)の1706.1gおよび水の2227.5gからなる溶液(A)と、Al(SO・14〜18HO(試薬特級、和光純薬工業(株)製)の64.2g、テトラプロピルアンモニウムブロマイドの369.2g、HSO(97質量%)の152.1g、NaClの326.6gおよび水の2975.7gからなる溶液(B−1)をそれぞれ調製した。
【0047】
次いで、溶液(A)を室温で撹拌しながら、溶液(A)に溶液(B−1)を徐々に加えた。得られた混合物をミキサーで15分間激しく撹拌し、ゲルを解砕して乳状の均質微細な状態にした。
次いで、この混合物をステンレス製のオートクレーブに入れ、温度:165℃、時間:72hr、撹拌速度:100rpmの条件で、自己圧力下に結晶化操作を行った。結晶化操作の終了後、生成物を濾過して固体生成物を回収し、約5リットルの脱イオン水を用いて洗浄と濾過を5回繰り返した。濾別して得られた固形物を120℃で乾燥し、さらに空気流通下、550℃で3時間焼成した。
【0048】
得られた焼成物は、X線回析分析の結果、MFI構造を有するものであることが確認された。また、MASNMR分析による、SiO/Al比(モル比)は、64.8であった。また、この結果から計算された格子骨格中に含まれるアルミニウム元素は1.32質量%であった。
【0049】
得られた焼成物の1g当り5mLの割合で30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱、撹拌した後、濾過、水洗した。この操作を4回繰り返した後、120℃で3時間乾燥して、アンモニウム型結晶性アルミノシリケートを得た。その後、780℃で3時間焼成を行い、プロトン型結晶性アルミノシリケートを得た。
【0050】
次いで、得られたプロトン型結晶性アルミノシリケート120gに、0.4質量%(結晶性アルミノシリケート総質量を100質量%とした値)のガリウムが担持されるように硝酸ガリウム水溶液120gを含浸させ、120℃で乾燥させた。その後、空気流通下、780℃で3時間焼成して、ガリウム担持結晶性アルミノシリケートを得た。
次いで、得られたガリウム担持結晶性アルミノシリケート30gに、0.7質量%のリン(結晶性アルミノシリケート総質量を100質量%とした値)が担持されるようにリン酸水素二アンモニウム水溶液30gを含浸させ、120℃で乾燥させた。その後、空気流通下、780℃で3時間焼成して、結晶性アルミノシリケートとガリウムとリンとを含有する触媒を得た。
【0051】
(固定床用触媒)
得られたガリウム、リン含有結晶性アルミノシリケートに39.2MPa(400kgf)の圧力をかけて打錠成型し、粗粉砕して20〜28メッシュのサイズに揃えて、粒状体の触媒(以下、「粒状化触媒」という。)を得た。
【0052】
(流動床用触媒)
希硫酸に硅酸ナトリウム(Jケイ酸ソーダ3号、SiO:28〜30質量%、Na:9〜10質量%、残部水、日本化学工業(株)製)106gと純水の混合溶液を滴下し、シリカゾル水溶液(SiO濃度10.2%)を調製した。一方、得られたガリウム、リン含有結晶性アルミノシリケート20.4gに蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記のゼオライトスラリーとシリカゾル水溶液300gを混合し、調製したスラリーを250℃で噴霧乾燥し、球形触媒を得た。その後、600℃で3時間焼成し、平均粒子径が84μm、かさ密度が0.74g/ccである粉末状の触媒(以下、「粉末状触媒」という。)を得た。
【0053】
〔実施例1〕
炭化水素油Aと炭化水素油Bとを混合したものを用いた例1:
(原料油)
炭化水素油Aとして、1環ナフテノベンゼン含有比率を調整していない流動接触分解装置で生成する分解軽油(LCO1)を用意した。LCO1の組成は、飽和分(パラフィン分とナフテン分の合計量)と不飽和分(オレフィン分)の合計量(飽和分+オレフィン分):23質量、2環ナフテン分:1質量%、1環ナフテノベンゼン分:9質量%、1環アルキルベンゼン分:21質量%、2環芳香族分:39質量%、3環以上の芳香族分:9質量%であった。LCO1の性状を表1に示す。
炭化水素油Bとして、1環ナフテノベンゼンを多く含む、マイルドハイドロクラッキング装置から得られる軽油留分(MHC−GO)を用意した。MHC−GOの組成は、飽和分(パラフィン分とナフテン分の合計量)と不飽和分(オレフィン分)の合計量(飽和分+オレフィン分):45質量、2環ナフテン分:14質量%、1環ナフテノベンゼン分:25質量%、1環アルキルベンゼン分:17質量%、2環芳香族分:13質量%、3環以上の芳香族分:0質量%であった。MHC−GOの性状を表1に示す。
LCO1とMHC−GOとを等質量混合し、1環ナフテノベンゼン含有比率が17質量%に調整された原料油1を得た。原料油1の性状を表2に示す。
なお、表1、表2に示す組成分析は2次元ガスクロマトグラフ装置(ZOEX社製 KT2006 GC×GCシステム)の方法で分析したもので、以後の炭化水素油および原料油の組成分析も同様に行った。
【0054】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
5.5gの単環芳香族炭化水素製造用触媒を反応器に充填した固定床反応器を用い、反応温度:540℃、反応圧力:0.3MPaGの条件で、原料油1を粒状化触媒と接触、反応させた。原料油1と粒状化触媒に含まれるゼオライト成分との接触時間が12秒となるようにした。
30分反応させた後、装置に直結されたガスクロマトグラフにより生成物の組成分析を行ったところ、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は37質量%、分解ガス(水素、メタン、エタン、エチレン、LPG)の収率は21質量%であった。結果を表3に示す。
【0055】
〔実施例2〕
炭化水素油Aと炭化水素油Bとを混合したものを用いた例2:
(原料)
原料油として実施例1の原料油1を使用した。
【0056】
(単環芳香族炭化水素の製造−流動床反応試験)
粉末状触媒(400g)を反応器に充填した流動床反応装置を用い、反応温度:540℃、反応圧力:0.3MPaG、原料油1と粉末状触媒に含まれるゼオライト成分との接触時間が12秒となる条件で反応させて単環芳香族炭化水素の製造を行った。その結果、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の生成量が34質量%、分解ガスの生成量が20質量%であった。結果を表3に示す。
【0057】
〔実施例3〕
炭化水素油Aと炭化水素油Bとを混合したものを用いた例3:
(原料)
炭化水素油Aとして、1環ナフテノベンゼン含有比率を調整していない流動接触分解装置で生成する分解軽油(LCO2)を用意した。LCO2の組成は、飽和分(パラフィン分とナフテン分の合計量)と不飽和分(オレフィン分)の合計量(飽和分+オレフィン分):28質量、2環ナフテン分:0質量%、1環ナフテノベンゼン分:3質量%、1環アルキルベンゼン分:4質量%、2環芳香族分:52質量%、3環以上の芳香族分:14質量%であった。LCO2の性状を表1に示す。
表1に示すLCO2とMHC−GOとを等質量混合し、1環ナフテノベンゼン含有比率が14質量%に調整された原料油2を得た。原料油2の性状を表2に示す。
【0058】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
原料油として、表2に示す原料油2を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は34質量%、分解ガスの収率は19質量%であった。結果を表3に示す。
【0059】
〔実施例4〕
炭化水素油Aを水素化したものを原料油として用いた例1:
(原料)
表1に示すLCO1を市販のニッケル−モリブデン触媒を用い、反応温度350℃、反応圧力3MPa、LHSV=0.5h−1、水素消費量92Nm/mの条件で水素化処理し、水素化LCO1を得た。水素化LCO1の組成は、飽和分(パラフィン分とナフテン分の合計量)と不飽和分(オレフィン分)の合計量(飽和分+オレフィン分):28質量、2環ナフテン分:6質量%、1環ナフテノベンゼン分:33質量%、1環アルキルベンゼン分:21質量%、2環芳香族分:12質量%、3環以上の芳香族分:6質量%であった。水素化LCO1の性状を表1に示す。
【0060】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
原料油として、表2に示す原料油3(水素化LCO1を100質量%)を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は42質量%、分解ガスの収率は11質量%であった。結果を表3に示す。
【0061】
〔実施例5〕
炭化水素油Aを水素化したものを原料油として用いた例2:
(原料)
表1に示すLCO1を市販のニッケル−モリブデン触媒を用い、反応温度350℃、反応圧力5MPa、LHSV=0.5h−1、水素消費量194Nm/mの条件で水素化処理し、水素化LCO2を得た。水素化LCO2の組成は、飽和分(パラフィン分とナフテン分の合計量)と不飽和分(オレフィン分)の合計量(飽和分+オレフィン分):46質量、2環ナフテン分:24質量%、1環ナフテノベンゼン分:26質量%、1環アルキルベンゼン分:21質量%、2環芳香族分:5質量%、3環以上の芳香族分:2質量%であった。水素化LCO2の性状を表1に示す。
【0062】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
原料油として、表2に示す原料油4(水素化LCO2を100質量%)を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は39質量%、分解ガスの収率は20質量%であった。結果を表3に示す。
【0063】
〔実施例6〕
炭化水素油と水素化した炭化水素油を混合したものを原料油として用いた例1:
(原料)
表1に示すLCO1と水素化LCO2とを等質量混合し、1環ナフテノベンゼン含有比率が18質量%に調整された原料油5を得た。原料油5の性状を表2に示す。
【0064】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
原料油として、表2に示す原料油5を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は35質量%、分解ガスの収率は15質量%であった。結果を表3に示す。
【0065】
〔実施例7〕
炭化水素油と水素化した炭化水素油を混合したものを原料油として用いた例2:
(原料)
表1に示すLCO1と水素化LCO2とを質量比70:30で混合し、1環ナフテノベンゼン含有比率が14質量%に調整された原料油6を得た。原料油6の性状を表2に示す。
【0066】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
原料油として、表2に示す原料油6を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は34質量%、分解ガスの収率は13質量%であった。結果を表3に示す。
【0067】
〔比較例1〕
1環ナフテノベンゼン含有比率を調整していない原料油を用いた例:
(原料)
1環ナフテノベンゼン含有比率を調整していないLCO1を原料油7とした。原料油7の性状を表2に示す。
【0068】
(単環芳香族炭化水素の製造−固定床反応試験)
原料油として、表2に示す原料油7を用いた以外は実施例1と同様の反応を行った。炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率は32質量%、分解ガスの収率は10質量%であった。結果を表3に示す。
【0069】
表3の結果から、炭化水素油Aと炭化水素油Bにより原料の1環ナフテノベンゼンの含有比率を調整した実施例1〜実施例3は、1環ナフテノベンゼンの含有比率を調整しない比較例1よりも、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を効率的に製造できることが確認された。
また、炭化水素油を水素化することにより原料の1環ナフテノベンゼンの含有比率を調整した実施例4〜実施例7は、水素化した炭化水素油により1環ナフテノベンゼンの含有比率を調整しない比較例1よりも、いずれも炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を効率的に製造できることが確認された。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の単環芳香族炭化水素の製造方法は、高オクタン価ガソリン基材や石油化学原料として利用できる、付加価値が高い単環芳香族炭化水素の製造に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、
前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aと前記炭化水素油Aより1環ナフテノベンゼンを多く含む炭化水素油Bとを混合することによって調整されていることを特徴とする単環芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油を、結晶性アルミノシリケートを含む単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触させて単環芳香族炭化水素を製造する方法であって、
前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が10質量%以上となるように、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である炭化水素油Aを水素化するか、あるいは、前記炭化水素油Aと前記炭化水素油Aを水素化したものとを混合することによって調整されていることを特徴とする単環芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記原料油の1環ナフテノベンゼン含有比率が、12質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の単環芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記炭化水素油Aが流動接触分解装置で生成する分解軽油を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の単環芳香族炭化水素の製造方法。


【公開番号】特開2012−201633(P2012−201633A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67877(P2011−67877)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】