説明

単純ヘルペスウイルス感染治療のためのS−アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害

本発明は、単純ヘルペスウイルス感染の予防および/または治療のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼの阻害に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単純ヘルペスウイルス感染の予防および/または治療用の薬物製造のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的は、宿主細胞における単純ヘルペスウイルス、例えば1型(HSV-1)または2型(HSV-2)の複製を阻害するための新しい経路を提供することである。これらのウイルスは世界中に分布しており、密接な接触中に感染者から感受性の高い個人に伝染する。ヘルペス感染は非常に高頻度で起こり、一般にHSV-1の場合には顔および体幹に局在し、HSV-2の場合には生殖器領域に局在する。現在、単純ヘルペス感染の有病率は世界の成人人口の70〜90%の間である。無症候性のこともある初感染の後、これらのウイルスは見かけ上不活性な状態である潜伏状態で存続する。世界の人口の3分の1以上が一年に3〜5回HSV感染を再発し、したがって増殖性感染の発症中にHSVを伝播する可能性を有すると推定されている。ウイルス再活性化は一般に、発熱、ストレス、紫外線への曝露、月経周期、妊娠などの後に起こる。再活性化のリズムおよび強度は人それぞれである。感染および再活性化の臨床症状は多数ある。そのうちのいくつかは非常に重症で、患者の死を招くこともある。試験により、1歳未満の小児の61%が出産時に汚染され、拡散性HSV感染を示す患者はこの感染症が原因で死亡することが明らかにされている。加えて、免疫抑制療法(薬物療法、骨髄または臓器移植)により易感染性の患者、またはHIV感染後の患者は、重度のHSV感染を発症し、患者の広範な悪化を伴う。さらに、ヘルペス感染は先進国における生殖器潰瘍の最も一般的原因である。生殖器ヘルペスの有病率は、社会文化的状況によれば世界の成人人口の20%〜90%の間である。その大部分はHSV-2によるものである。しかし、今日、HSV-1による比率が増大しつつあることに気づくことができる(この比率は30%以上)。最も重度の影響を受けた集団は、出生時に感染し、抗ウイルス療法にもかかわらず不可逆的神経損傷を示す新生児である。この集団は、過去10年間に生殖器ヘルペス感染が一貫して増加しているために、増加しつつある。
【0003】
15年以上の間、アシクロビルがHSV感染管理のための最良の治療薬として認められてきた。アシクロビルは2つのウイルス酵素、DNAポリメラーゼおよびチミジンキナーゼの活性を特異的に阻害するヌクレオシド類縁体である。しかし、他のウイルスと同様、HSV-1の変異体の分布は薬物療法に反応してシフトすることもある。事実、アシクロビルの臨床使用は、ウイルスDNAポリメラーゼおよびチミジンキナーゼをコードするDNA配列における突然変異の結果、アシクロビル治療を受けた患者から単離された薬剤耐性ウイルスの出現に関与している。免疫無防備状態の患者の有病率は6%である。現在のところ、利用可能な抗ヘルペス薬はすべて、これらのウイルス酵素に作用し、したがって耐性ウイルス株発生のリスクを高めている。これは、もう1つのウイルス酵素、ヘリカーゼプライマーゼを阻害する、開発中と言われている新しい薬物の場合にも同様である。
【0004】
特に、HSVを含むヘルペスウイルス感染治療のための、他の抗ウイルス剤、または抗ウイルス剤であるとされる薬剤は、当技術分野において開示されている(EP 358 536; US 4 027 039; US 4 032 659; Mannini Palenzona & al., Microbiologica, 3, 363-368, 1980; Cavrini & al., II Farmaco - Ed. Sc., vol 32, fasc. 8, 570-578)。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、薬剤耐性ウイルスの出現を避けるための革新的アプローチを提唱する。この代替法は、ウイルスタンパク質の代わりにウイルスの生活周期に介入する細胞タンパク質に対する抗ウイルス効果を有する分子の開発にある。
【0006】
HSV-1タンパク質合成が選択的かつ進行性の宿主タンパク質合成の抑制を伴い、感染後の非常に早い時期に起こることはよく知られている。しかし、ほとんどの宿主タンパク質の合成は遮断されるが、少数の細胞タンパク質は感染後も効率よく合成され続ける。これはすべてのリボソームタンパク質およびいくつかの非リボソームタンパク質にあてはまる(Greco et al., 2000; Greco et al., 1997)。
【0007】
特に、これらのタンパク質の1つは発明者らにより、ポリアミン生合成経路に関与していると同定されている。この経路の最終生成物はスペルミンおよびスペルミジンである。これら2つの生成物は成熟ウイルス粒子の異なる下部構造で見られる:スペルミンはヌクレオカプシドに限定されており、スペルミジンはウイルスのエンベロープに限定されている(Gibson and Roizman, 1971)。したがって、発明者らは、ポリアミンの代謝経路に関与している酵素が、細胞タンパク質合成のウイルス誘導性遮断を免れるかどうかを調べた。
【0008】
事実、オルニチンからカルボキシル基を除去してプトレスシンとするオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)の合成は、感染により刺激されることが判明した。したがって、ウイルス複製の防止のために、ODCならびにポリアミン合成の他の主要な酵素の阻害を試験した。
【0009】
様々なグループがODC活性とHSV-1複製との関係について、矛盾する結果を報告している。何人かの著者はODCを不活化するジフルオロメチルオルニチン(DFMO)またはSアデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(SAMDC)の活性を特異的に阻害するメチルグリオキサールビス(グアニルヒドラゾン)(MGBG)が、HSV複製に対して何の効果も持たないことを示した(McCormick and Newton, 1975; Tyms et al., 1979)。これに対して、別の著者はDFMOをミリモル用量で用いた場合、HSV-1感染に対する阻害効果を有することを示した(Pohjanpelto et al., 1988)。ODCはオルニチンからカルボキシル基を除去してプトレスシンとするが、SAMDCはS-アデノシルメチオニン(SAM)からカルボキシル基を除去して脱カルボキシルSAM(dcSAM)とし、これはプトレスシンからスペルミジンおよびスペルミジンからスペルミンの両方の合成において基質として用いられる。
【0010】
それ以来、このことについてのそれ以上の研究は報告されていない。今回、発明者らは、SAMDC活性を遮断すると、HSV複製の有効な阻害が可能になることを始めて明らかにする。特に、本明細書において提示する結果は、SAMDC阻害剤が細胞に対して毒性がない濃度でインビトロでのHSV-1複製を阻害することを示している。
【0011】
加えて、SAMDC阻害剤は、通常の抗ウイルス剤、例えば、アシクロビルおよびフォスカルネットに耐性のウイルス突然変異HSV-1株の複製をインビトロで阻害することを示している。事実、他のウイルスと同様、HSV-1の変異株の分布は薬物療法に反応してシフトすることがある。HSV-1ウイルス複製は、ウイルスDNAポリメラーゼまたはチミジンキナーゼを阻害するヌクレオチド類縁体を用いて制御可能であることが多いが、これらの酵素をコードするDNA配列における突然変異の結果、長期治療後に薬物耐性変異株が出現することが多い。HSVによる感染は大発生するため、また、現在利用可能な薬剤はウイルスタンパク質を対象としているため、アシクロビルおよびその副生成物に対して耐性となるウイルス突然変異体の出現は大きな問題となっている。
【0012】
したがって、ウイルス成分ではなく、Sアデノシルメチオニンデカルボキシラーゼなどのウイルス複製に必須の細胞成分を標的とする抗ウイルス戦略の開発により、薬物耐性ウイルスの出現を回避することが可能になる。
【0013】
定義
「Sアデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ」または「SAMDC」とは、S-アデノシルメチオニン(SAM)のカルボキシル基を除去して脱カルボキシルSAM(dcSAM)とする酵素を意味する。特に、ヒトSAMDCをコードする配列(SEQ ID NO:1)はGenbankにアクセッション番号M21154で寄託されている(Thomas & al., Breast Cancer Res. Treta., 1996, 39(3): 293-306; Ekstrom & al., Structure, 1999, 7: 583-595; Tolbert & al., Biochemistry 2001, 40:9484-949)。
【0014】
「S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤」または「SAMDC阻害剤」は、本明細書において下記の化合物と定義する:(i)インビトロおよび/もしくはインビボでSAMDCの活性および/または発現を阻害し;かつ/または(ii)S-アデノシルメチオニン(SAM)の脱カルボキシルSAM(dcSAM)への脱カルボキシル化を阻止し;かつ/またはプトレスシンからスペルミジンおよびスペルミジンからスペルミンの細胞内合成を阻止する化合物。阻害および阻止は完全でも部分的でもよい。
【0015】
本明細書において用いられる「単純ヘルペスウイルス」(HSV)という用語は、シンプレックスウイルス属に属するヘルペスウイルスのアルファヘルペスウイルス亜科由来ウイルスを意図している。HSVの例には、ヒト単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または2型(HSV-2)、ウシヘルペスウイルス2(BoHV-2)、またはヘルペスウイルスシミエとも呼ばれるヘルペスウイルスB(HBV)が含まれる。好ましい単純ヘルペスウイルスはHSV-1またはHSV-2で、特に単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な薬剤に耐性のHSV-1またはHSV-2株である。
【0016】
本発明の文脈において、「単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な薬剤」という用語は、細胞性標的ではなく、ウイルスタンパク質を対象とする通常の抗ウイルス剤を意味する。そのような基準治療の例には、例えば、ウイルスDNAポリメラーゼまたはチミジンキナーゼを阻害するヌクレオシド類縁体が含まれる。通常の抗ウイルス剤の典型例はアシクロビル、フォスカルネット、バラシクロビル、ガンシクロビル、ファムシクロビル、ペンシクロビル、シドフォビル、イドキシウリジン、トリフルリジン、ビダラビン、およびその誘導体である。そのような通常の抗ウイルス化学療法剤はHarrison (2000)に総説が記載されている。単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な薬剤には、HSVヘリカーゼ-プライマーゼ酵素を標的とする、チアゾリル-フェニル-含有阻害剤などの非ヌクレオシド類縁体化合物も含まれる。
【0017】
「単純ヘルペスウイルス感染」という用語は、初感染または潜伏感染いずれかの状態、ならびに再活性化期の、HSV感染した被検者の状態を意味する。初感染は一般に、口もしくは喉の粘膜における損傷を通じて、眼もしくは生殖器を介して、または皮膚の小さい擦過傷を介して直接起こる。初期感染は通常は無症候性であるが、小さい局所的水疱性傷害があることもある。その後、局所的増殖が起こり、ウイルス血症および全身感染が続く。次いで、終生の潜伏感染となり、定期的に再活性化が起こる。潜伏の微妙なバランスが、物理的(外傷、U.V.、ホルモンなど)または心理的(ストレス、感情の動揺)な様々の妨害によってくずされることもある。潜伏ウイルスの再活性化は疾患の再発につながり、ウイルスは体表面に移動して複製し、組織の損傷を引き起こす。HSV-1は主に口および眼の損傷を伴う一方、HSV-2は主に生殖器および肛門の損傷を伴う。
【0018】
したがって、「単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療」とは、初感染の開始の予防および/または潜伏感染被検者におけるウイルス再活性化期の出現の予防、ならびにウイルス再活性化によって生じた傷害の治療を意味する。
【0019】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される担体」には、動物またはヒトに適宜投与した場合に、有害、アレルギー性または他の不都合な反応を起こさない、いかなる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤なども含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒質および薬剤は当技術分野において公知である。いかなる通常の媒質または薬剤も活性成分と不適合である範囲を除いて、治療用組成物におけるその使用が企図される。
【0020】
発明の説明
したがって、本発明は、単純ヘルペスウイルス感染の予防もしくは治療またはその予防もしくは治療用の薬剤製造のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(SAMDC)阻害剤の使用に関する。
【0021】
本発明の1つの態様は、単純ヘルペスウイルスの複製を予防するための、被検者の治療またはその治療用の薬剤製造のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤の使用である。
【0022】
本発明は、単純ヘルペスウイルス感染の治療法であって、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤のそれを必要とする被検者への投与を含む方法をさらに提供する。
【0023】
SAMDC活性の阻害
1つの態様に従い、SAMDC阻害剤はSAMDC活性の直接阻害剤である。
【0024】
そのような阻害剤は、SAMDCの酵素活性を、例えば、S-アデノシルメチオニン(SAM)の脱カルボキシルSAM(dcSAM)への脱カルボキシル化を阻止すること;ならびに/またはプトレスシンからスペルミジンおよびスペルミジンからスペルミンの細胞内合成を阻止することを通じて妨害することができる、小有機分子などの、いかなるペプチド、ペプチド様物質または非ペプチド様物質であってもよい(Rubin-Carrez, 2000)。
【0025】
阻害剤は、生化学および細胞インビトロアッセイを含むスクリーニング法により容易に同定することができる。特に興味深いのは、物質のSAMDC活性を阻害する能力についてスクリーニングする方法であって、SAMDCを発現する細胞を提供する段階と、候補物質のプトレスシンからスペルミジンおよび/またはスペルミジンからスペルミンの細胞内合成を阻害する、すなわち阻止または低減する能力を試験する段階とを含む方法である。この候補物質に曝されていないSAMDC発現細胞に比べてのスペルミジンおよび/またはスペルミン合成のレベル低下は、これがSAMDCに対して阻害活性を示す物質であることを示している。
【0026】
または、物質のSAMDC活性を阻害する能力についてスクリーニングする方法は、SAMDCを提供する段階と、候補物質のSAMからdcSAMへの脱カルボキシル化を阻害する、すなわち阻止または低減する能力を試験する段階とを含んでいてもよい。この候補物質に曝されていないSAMDCに比べての、dcSAM合成のレベル低下、またはSAM処理の低下は、これがSAMDCに対して阻害活性を示す物質であることを示している。
【0027】
好ましい態様において、SAMDC阻害剤は、Pegg AE, Poso H, S-adenosylmethionine decarboxylase (rat liver), Methods Enzymol. 1983;94: 234-239に記載の方法に従い、インビトロでSAMDCを阻害する。
【0028】
好ましくは、本発明のSAMDC阻害剤の0.1μM濃度での阻害のパーセンテージは20%よりも高く、より好ましくは40%よりも高く、さらにより好ましくは約50%よりも高い。いくつかの好ましい態様において、阻害のパーセンテージは80%よりも高く、より好ましくは90%よりも高い。
【0029】
もう1つの好ましい態様において、本発明のSAMDC阻害剤は、下記の実施例に開示した方法に従い、HSV複製をインセルロ(in cellulo)で阻害する。
【0030】
好ましくは、SAMDC阻害剤のIC50値は80μM未満、より好ましくは約70μM未満、さらにより好ましくは60μM未満である。いくつかの好ましい態様において、IC50値は50μM未満である。
【0031】
最も好ましい態様において、インビトロでの阻害のパーセンテージは80%よりも高く、好ましくは90%よりも高く、インセルロでのIC50値は50μM未満である。
【0032】
メチルグリオキサールビス(アミジノヒドラゾン)(MGBG)またはその誘導体は、SAMDC活性を阻害する有機分子の例である。したがって、好ましくはSAMDC阻害剤は、(i)インビトロおよび/もしくはインビボでSAMDCの活性および/もしくは発現を阻害し;かつ/または(ii)S-アデノシルメチオニン(SAM)の脱カルボキシルSAM(dcSAM)への脱カルボキシル化を阻害し;かつ/または(iii)プトレスシンからスペルミジンおよびスペルミジンからスペルミンの細胞内合成を阻害する能力を保持しているとの条件で、メチルグリオキサールビス(アミジノヒドラゾン)またはその誘導体である。
【0033】
他のSAMDC阻害剤は、EP 456 133、WO 96/22979、US 4 971 986および科学文献(Thomas & al, Breast Cancer Res Treat, 1996, 39(3):293-306; Siu & al., Clin Cancer Res, 2002, 8:2157-2166)に開示されており、下記の分子を含む:
・化合物(I): Berenil(Karvonen & al., Biochem J., 1985, 231:165-169)、
・化合物(II)SAM486A(Stanek & al, J. Med. Chem., 1993, 36:2168-2171):

または
・下記の式の化合物(III)

(Regenass & al., Cancer Research, 1992, 52:4712-4718)、
(上で引用した全ての文書は参照として本明細書に組み込まれる)およびその生理学的に許容される塩。
【0034】
本発明の好ましい態様に従い、SAMDC阻害剤はN-フェニル-2-クロロ-3,7-ジホルミルインドール2塩酸塩のビス-グアニルヒドラゾンおよび下記の式の化合物:

(式中、
XはCH2、O、COまたはC=Zを表し、
RはH、CH3、n-C4H9、C(CH3)=Z、OCH2CH2N(CH3)2.HClを表し、
R'はC(CH3)=ZまたはOCH2CH2N(CH3)2.HClを表し、かつ
ZはNNHC(NH)NH2.HClを表す)
からは選択されない。
【0035】
本発明のもう1つの好ましい態様に従い、SAMDC阻害剤はチオセミカルバジド、セミカルバジド、ヒドラジン、イソニアジド、2-ブタノンチオセミカルバジド、2-ペンタノンチオセミカルバジド、3-ペンタノンチオセミカルバジド、アミノグアニジン、アダマンチルチオセミカルバジド、2,6-ジクロロベンジリデンアミノグアニジン、メチサゾン、およびその生理学的に許容される塩にある群から選択されない。
【0036】
SAMDC阻害剤はモノクローナルもしくはポリクローナル抗体、またはその断片、あるいはキメラまたは免疫複合抗体であってもよく、これはSAMDCと特異的に相互作用し、その活性を阻害することができる。または、阻害剤はSAMDC基質、すなわちS-アデノシルメチオニン(SAM)と相互作用し、それによりSAMの脱カルボキシルSAM(dcSAM)への処理を阻止することができてもよい。本発明の抗体は一本鎖でも二本鎖でもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、または抗原結合フラグメントFab、Fab'、F(ab')2およびF(v)として当技術分野において公知の部分を含む免疫グロブリン分子の部分であってもよい。また、例えば、毒素、または標識抗体との免疫複合体であってもよい。
【0037】
ポリクローナル抗体を用いてもよいが、モノクローナル抗体が、長い目で見ればより再現性が高いため、好ましい。
【0038】
ポリクローナル抗体を産生させる方法も公知である。ポリクローナル抗体は、例えば、当業者には公知の標準法に従って遺伝子操作により産生することができる、SAMDCまたはSAMタンパク質に対して免疫された動物の血清から得ることができる。典型的に、そのような抗体は、まず採血して免疫前血清を得ているニュージーランドシロウサギにタンパク質を皮下投与することによって産生させることができる。抗原を6つの異なる部位に各部位全量100μlで注射することができる。それぞれの注射材料は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のタンパク質またはポリペプチドを含む微粉アクリルアミドゲルと共に、またはゲルなしでアジュバントを含むことになる。次いで、ウサギから最初の注射の2週間後に採血し、6週間毎に3回、同じ抗原で定期的に追加免疫する。次いで、各追加免疫の10日後に血清試料を採取する。次いで、ポリクローナル抗体を、抗体を捕捉するために対応する抗原を用いたアフィニティクロマトグラフィにより血清から回収する。ポリクローナル抗体を産生させるためのこの方法および他の方法は、Harlow et al. (1988)に開示されており、これは参照として本明細書に組み込まれる。
【0039】
様々な文法上の形の「モノクローナル抗体」は、特定のエピトープと免疫反応することができる抗体結合部位を一種しか含んでいない、抗体分子群を意味する。したがって、モノクローナル抗体は典型的に、それが免疫反応するいかなるエピトープに対しても、単一の結合親和性を示す。したがって、モノクローナル抗体は、それぞれ異なるエピトープに対して免疫特異的な複数の抗体結合部位を有する抗体分子、例えば、特異的モノクローナル抗体を含んでいてもよい。歴史的にはモノクローナル抗体はクローンとして純粋な免疫グロブリン分泌細胞株の不死化によって産生したが、単クローンとして純粋な抗体分子群も本発明の方法によって調製することができる。
【0040】
モノクローナル抗体を調製するための実験法は当技術分野において公知である(例えば、Harlow et al., 1988参照)。モノクローナル抗体(mAb)は、様々なほ乳動物種のいずれかから単離した精製NPタンパク質を哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ラクダ、ヒトなどに免疫することにより調製することができる。免疫哺乳動物の抗体産生細胞を単離し、骨髄腫または異種骨髄腫細胞と融合して、ハイブリッド細胞(ハイブリドーマ)を産生する。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、所望のモノクローナル抗体の供給源として用いる。このハイブリドーマ培養の標準法はKohler and Milstein (1975)に記載されている。
【0041】
mAbはハイブリドーマ培養によって産生することができるが、本発明はそれに限定されることはない。本発明のハイブリドーマからクローニングした発現核酸によって産生されたmAbの使用も企図される。すなわち、本発明のハイブリドーマによって分泌される分子を発現する核酸を別の細胞株に移して、形質転換体を産生することができる。形質転換体は遺伝子型が元のハイブリドーマとは異なるが、同様に、ハイブリドーマによって分泌されるものに対応する、全抗体分子の免疫学的に活性な断片を含む、本発明の抗体分子を産生することができる。例えば、Readingの米国特許 US 4,642,334;Robinson et al.のPCT公報 WO 890099;Winter et al.の欧州特許公開公報 No.0239400およびCabilly et al.のNo.0125023参照。
【0042】
例えば、未処置のライブラリ(非免疫動物由来)を調べるためのファージディスプレイ法を用いるなどの、免疫化を含まない抗体生成法も企図される;Barbas et al. (1992)、およびWaterhouse et al. (1993)参照。
【0043】
アプタマーも興味深いと思われる。アプタマーは分子認識に関して抗体に代わる類の分子である。アプタマーは事実上いかなる類の標的分子も高い親和性および特異性で認識する能力を備えたオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。オリゴヌクレオチドアプタマーは、Tuerk C. and Gold L. (1990)に記載されている、ランダム配列ライブラリのSystematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX)により単離してもよい。ランダム配列ライブラリはDNAのコンビナトリアルケミカル合成により得ることができる。このライブラリにおいて、各メンバーはユニーク配列の、最終的に化学修飾された直鎖オリゴマーである。この類の分子の可能な修飾、使用および利点は、Jayasena S.D. (1999)に総説が記載されている。ペプチドアプタマーは、2つのハイブリッド法によりコンビナトリアルライブラリから選択した大腸菌チオレドキシンAなどの、プラットホームタンパク質により示される、立体配座的に制限された抗体可変領域からなる(Colas et al., 1996)。
【0044】
SAMDC発現の阻害
もう1つの態様に従い、SAMDC阻害剤は、遺伝子発現の阻害を通じてSAMDCの合成を低減する、SAMDC活性の間接的阻害剤である。SAMDC発現の阻害は、SAMDC遺伝子の転写および/またはSAMDC mRNAの翻訳を阻止することにより達成することができる。
【0045】
したがって、本発明は単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の薬剤製造のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(SAMDC)阻害剤の使用に関し、ただし阻害剤はSAMDCの発現を阻止するアンチセンス核酸配列などの、SAMDC発現の阻害剤である。
【0046】
アンチセンス戦略を用いて、SAMDC発現を妨害することもできる。このアプローチは、例えば、特定のmRNAをアンチセンス核酸でマスクするか、またはこれをリボザイムで切断することにより、そのmRNAの翻訳を阻止するアンチセンス核酸またはリボザイムを用いることもできる。アンチセンス法の一般的考察については、例えば、Antisense DNA and RNA, (Cold Spring Harbor Laboratory, D. Melton, ed., 1988)を参照されたい。
【0047】
SAMDC転写の可逆的短期阻害も有用でありうる。そのような阻害はsiRNAの使用により達成することができる。RNA干渉(RNAi)法は、「低分子干渉RNA」(siRNA)などの小さいRNA分子を用いることにより、遺伝子の発現を防止する。この技術はまた、RNAiが植物や昆虫から哺乳動物までの多くの生物のほとんどの細胞において遺伝子をサイレンシングする天然の生物学的メカニズムであるという事実を利用している(Sharp, 2001)。RNAiは、分子中間体である遺伝子のメッセンジャーRNAコピーが確実に破壊されるようにすることで、遺伝子が機能タンパク質を産生するのを防止することになる。siRNAは裸の形で用い、下記のとおり、ベクター内に取り込むことができる。SAMDC転写を特異的に阻害するために、アプタマーをさらに利用することもできる。
【0048】
「アンチセンス核酸」または「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は一本鎖核酸分子で、細胞質条件下でRNAまたはDNA分子の相補的塩基とハイブリダイズすると、後者の役割を阻害する。RNAがメッセンジャーRNA転写物である場合、アンチセンス核酸は逆転写物またはmRNAを妨害する相補的核酸である。現在用いられている「アンチセンス」はRNA-RNA相互作用、RNA-DNA相互作用、リボザイム、RNAi、アプタマーおよびRnアーゼH仲介性の停止を広く含む。
【0049】
リボザイムは他の一本鎖RNA分子をDNA制限エンドヌクレアーゼに幾分類似した様式で特異的に切断する能力を有するRNA分子である。リボザイムは、特定のmRNAがそれ自身のイントロンを切除する能力を有するとの所見から発見された。これらのリボザイムのヌクレオチド配列を修飾することにより、研究者らはRNA分子における特異的ヌクレオチド配列を認識し、これを切断する分子を操作することができた(Cech, 1989)。リボザイムは配列特異的であるため、特定の配列を有するmRNAだけが不活化される。
【0050】
アンチセンス核酸分子は、細胞内での発現のために、組換え遺伝子によってコードすることができ(例えば、米国特許 US 5,814,500;US 5,811,234)、または合成的に調製することもできる(例えば、US 5,780,607)。
【0051】
本明細書において用いられる「オリゴヌクレオチド」という用語は、ゲノムDNA(gDNA)分子、相補的DNA(cDNA)分子、または遺伝子、mRNA、cDNA、もしくは他の目的の核酸をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)分子にハイブリダイズ可能な、一般には少なくとも10、好ましくは少なくとも13、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチドで、好ましくは100ヌクレオチド以下の核酸を意味する。
【0052】
オリゴヌクレオチドは、例えば、32P-ヌクレオチドまたはビオチンなどの標識が共有結合しているヌクレオチドで標識することができる。一般に、オリゴヌクレオチドは合成的に、好ましくは核酸合成機上で調製する。したがって、オリゴヌクレオチドは、チオエステルなどの非天然ホスホエステル類似結合により調製することができる。
【0053】
「SAMDCアンチセンス」核酸は、SAMDCをコードする配列、例えば、SEQ ID NO:1に示す配列をコードするヒトSAMDCを生成する配列と特異的にハイブリダイズするよう設計してもよい。
【0054】
「核酸配列に特異的にハイブリダイズすることができる配列」は、高ストリンジェンシー条件下でそれが関連する核酸配列とハイブリダイズする配列を意味すると考えられる。(Sambrook et al, 1989)。これらの条件は融点Tmおよび高いイオン強度から決定される。好ましくは、最も有利な配列は、温度範囲(Tm、5℃)〜(Tm、30℃)、より好ましくは(Tm、5℃)〜(Tm、10℃)でハイブリダイズする配列である。6×SSCのイオン強度がより好ましい。例えば、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は最も高いTm、例えば、50%ホルムアミド、5×または6×SCCに対応する。SCCは0.15M NaCl、0.015M クエン酸Naである。ハイブリダイゼーションは2つの核酸が相補的配列を含むことを必要とするが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに依存して塩基間のミスマッチが生じることもある。核酸をハイブリダイズするための適当なストリンジェンシーは、当技術分野において公知の変数である、核酸の長さや相補性の程度に依存する。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が高いほど、それらの配列を有する核酸のハイブリッドのTm値は高くなる。核酸ハイブリダイゼーションの相対的安定性(高いTmに対応する)は次の順に低くなる:RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。長さが100ヌクレオチドよりも長いハイブリッドに関して、Tmを計算する式が誘導されている(Sambrook et al., 1989参照)。これよりも短い核酸、すなわちオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションについては、ミスマッチの位置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(Sambrooket al., 1989参照)。
【0055】
本発明のアンチセンス核酸配列は、防御を誘導する、またはHSV感染を治療するために、それ自体で、例えば、ヒトまたは動物への注射後に用いることができる。特に、これらは特許出願 WO 90/11092に記載の技術に従い、裸のDNAの形で注射することができる。これらは複合型、例えば、DEAE-デキストランと共に(Pagano et al., 1967)、核タンパク質と共に(Kaneda et al., 1989)、脂質と共に(Felgner et al., 1987)、リポソームの形(Fraley et al., 1980)などで投与することもできる。
【0056】
好ましくは、核酸配列はベクターの一部を形成する。そのようなベクターの使用は事実、治療すべき細胞への核酸の投与を改善し、また細胞内でのその安定性を高めることを可能にし、それにより永続性のある治療効果を得ることが可能になる。さらに、いくつかの核酸配列を同じベクターに導入することが可能で、これも治療の効果を高める。
【0057】
「ベクター」という用語は、宿主を形質転換し、導入した配列の発現を促進する(例えば、転写および翻訳)ために、DNAまたはRNA配列(例えば、外来遺伝子)を宿主細胞に導入することができる媒体を意味する。ベクターにはプラスミド、ファージ、ウイルスなどが含まれる。
【0058】
アンチセンス戦略において用いるベクターは、動物細胞、特にヒト細胞を導入することができさえすれば、様々な起源のものであってもよい。本発明の好ましい態様において、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、レンチウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ワクチニアウイルスなどから選択することができる、ウイルスベクターを用いる。異種核酸配列を組み込んでいる、アデノウイルス、レトロウイルスまたはAAV由来のベクター、HIV由来レトロウイルスベクターが文献に記載されている

【0059】
そのようなベクターは一般に、転写の開始および停止のシグナルであるプロモーター配列を含む。これらの宿主細胞への挿入は一過性でも安定であってもよい。これらの様々な制御シグナルは宿主細胞に従って選択し、選択した宿主細胞内で自己複製するベクター、または宿主のゲノムを組み込むベクター中に挿入してもよい。
【0060】
したがって、本発明は、そのゲノム中に挿入されたSAMDCアンチセンス配列を含む、いかなる組換えウイルスにも関する。
【0061】
本発明の組換えウイルスは欠損ウイルスであることが好都合である。「欠損ウイルス」という用語は、標的細胞内で複製することができないウイルスを意味する。一般に、本発明の枠組み内で用いる欠損ウイルスのゲノムは、したがって、少なくとも感染細胞内でのウイルス複製に必要な配列を欠いている。これらの領域は除去(完全または部分的に)するか、または非機能的にするか、または他の配列、特に本発明のSAMDCアンチセンス核酸で置き換えることもできる。それにもかかわらず、欠損ウイルスは好ましくはウイルス粒子の封入に必要なゲノムの配列を保存している。
【0062】
本発明の核酸アンチセンス配列を、アデノウイルス、AVVまたは欠損組換えレトロウイルス内に組み込まれた形で用いることが特に好都合である。
【0063】
アデノウイルスに関して、構造および性質がいくらか異なる様々な血清型が存在するが、これらはヒト、特に免疫抑制されていない個人に対して病原性ではない。さらに、これらのウイルスは、それらが感染する細胞のゲノムと一体化することはなく、外来DNAの大きい断片を組み込むことができる。様々な血清型の中で、AD5/F35キメラアデノウイルスベクター(Yotnda et al., 2001)が本発明の枠組み内で好ましい。Ad5アデノウイルスの場合、複製に必要な配列はE1AおよびE1B領域である。
【0064】
本発明の欠損組換えウイルスは、欠損ウイルスと、特にSAMDCアンチセンス核酸配列を有するプラスミドとの間の相同組換えにより調製することができる(Levrero et al., 1991;Graham, 1984)。相同組換えはウイルスおよびプラスミドの適当な細胞株中への同時トランスフェクション後に生じる。用いる細胞株は好ましくは(i)前述の成分により形質転換可能であり、かつ(ii)組換えのリスクを避けるために、好ましくは組み込まれた形の欠損ウイルスのゲノムの一部に相補することができる配列を含むべきである。欠損組換えアデノウイルスの調製に用いることができる細胞株の例として、ヒト胎児腎株293(Graham et al., 1977)を挙げることができ、これはAd5アデノウイルスのゲノムの左部分(12%)を、特にそのゲノムに組み込んで含む。欠損組換えアデノウイルスの調製に用いることができる細胞株の例として、CRIP株(Danos et al., 1988)を挙げることができる。ベクター骨格中での所望の遺伝子のクローニングを可能にする、シャトルベクターなどの別のベクターも用いることができる。
【0065】
次いで、増殖したウイルスを回収し、通常の分子生物学的方法に従って精製する。
【0066】
宿主細胞中へのベクター挿入はトランスフェクションまたは感染により達成することができる。
【0067】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一過性のSAMDC阻害を提供するためにも用いることができる。そのために、ウイルスベクターの一部ではないアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞に、下記のいかなる手段によっても投与することができる。
【0068】
「トランスフェクション」という用語は、外来核酸の細胞中への導入を意味する。「形質転換」という用語は、宿主細胞が導入された遺伝子または配列を発現して、所望の物質、典型的にはアンチセンス配列を産生するような、「外来」(すなわち、外因性または細胞外)遺伝子、DNAまたはRNA配列の宿主細胞への導入を意味する。
【0069】
「宿主細胞」という用語は、細胞による物質の産生、例えば、細胞による遺伝子、DNAもしくはRNA配列、タンパク質または酵素の発現のために、選択、修飾、形質転換、増殖、もしくは使用またはいかなる様式でも操作された、いかなる生物のいかなる細胞も意味する。
【0070】
標的指向遺伝子送達は、1995年10月公開の国際特許公開公報 WO 95/28494に記載されている。
【0071】
または、ベクターの一部であってもなくてもよい、アンチセンス核酸配列を、リポフェクションによりインビボで導入することもできる。過去10年間、インビトロでの核酸の封入およびトランスフェクションのためにリポソームがますます用いられている。リポソームに関する情報は、本明細書において用いられる出願の「薬学的組成物」の項にも記載している。リポソーム仲介性トランスフェクションが遭遇する困難および危険を制限するために設計された合成カチオン脂質を用いて、核酸配列のインビボでのトランスフェクションのためのリポソームを調製することができる(Felgner et al., 1987)。カチオン脂質を用いることで、負に荷電した核酸の封入を促進し、また、負に荷電した細胞膜との融合を促進することができる(Felgner et al., 1989)。インビボで外来遺伝子を特定の臓器に導入するためのリポフェクションの使用には、特定の実用的利点がある。リポソームの特定の細胞への分子標的指向は利益の一面を示している。特定の細胞型にトランスフェクションを指向させることは、膵臓、肝臓、腎臓、および脳などの細胞の異種性を有する組織において特に有利であると思われる。標的指向のために、脂質を他の分子に化学的に結合させてもよい。標的となるペプチド、例えば、ホルモンまたは神経伝達物質、および抗体などのタンパク質、または非ペプチド分子をリポソームに化学的に結合することができる。
【0072】
ベクターの一部であってもなくてもよい、アンチセンス核酸配列を、インビボで裸のDNAプラスミドとして導入することも可能である。裸のDNAベクターは、当技術分野において公知の方法、例えば、トランスフェクション、電気穿孔法、顕微注射、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿法、遺伝子銃の使用、またはDNAベクター輸送体の使用により、所望の宿主細胞に導入することができる(例えば、Wilson et al., 1992;Wu et al., 1988参照)。
【0073】
治療法
本発明の文脈において、HSVに感染した被検者は、ヒトを含む哺乳動物である。ヒト以外の哺乳動物の例には、雌ウシなどのウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌもしくはネコなどのペット、または齧歯類が含まれる。ヒト被検者に関して、本発明は免疫抑制された患者におけるヘルペス感染の予防に特に有用であることが判明すると思われる。免疫無防備状態は、化学療法、移植とその後の免疫抑制治療、またはHIV感染後に獲得されることがある。そのような患者は、制御が難しい広範な傷害を伴い、時に脳炎に進展する、重度のHSV感染を発生することが多い。さらに、伝統的な抗HSV剤に耐性の突然変異ウイルス株の出現が、これらの患者では増加している。
【0074】
したがって、本発明は、単純ヘルペスウイルス感染の予防もしくは治療またはその予防もしくは治療用の薬剤製造のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤の使用に関し、ただし薬剤は哺乳動物への投与用である。特に、哺乳動物はヒト、好ましくは免疫抑制された被検者である。
【0075】
本発明のもう1つの局面は、単純ヘルペスウイルス感染の予防もしくは治療またはその予防もしくは治療用の薬剤製造のための、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤の、単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な別の薬剤、例えば、アシクロビルおよび/またはフォスカルネットとの組み合わせでの使用に関する。
【0076】
したがって、本発明は、単純ヘルペスウイルス感染の治療法であって、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤および単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な別の薬剤の、それを必要とする被検者への投与を含む方法をさらに提供する。
【0077】
S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤および単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な薬剤は、同時または別の時点で、同じ薬学的組成物中または異なる組成物中で製剤して投与することができる。
【0078】
薬学的組成物
したがって、本発明は、薬学的に許容される担体中にS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤および単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な別の薬剤を含む薬学的組成物をさらに提供する。好ましくは、単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な薬剤は、アシクロビル、フォスカルネット、バラシクロビル、ガンシクロビル、ファムシクロビル、ペンシクロビル、シドフォビル、イドキシウリジン、トリフルリジン、ビダラビン、およびその誘導体からなる群より選択される。
【0079】
同様に好ましくは、SAMDC阻害剤はSAM486Aまたはその誘導体である。
【0080】
活性物質都合のよい媒体をさらに含む、本発明の薬学的組成物は、そのような治療を必要とする哺乳動物、好ましくはヒトに、患者の年齢、体重および健康状態、病気の性質および重症度、ならびに投与経路に関連して大きく変動しうる用量に従い、投与することができる。適当な単位投与剤形には、錠剤、ゼラチンカプセル、散剤、顆粒剤および経口懸濁剤または液剤などの経口剤形、舌下および口腔内投与剤形、局所、非経口、皮下、経皮、transungal、筋肉内(例えば、注射または電気穿孔法による)、静脈内、鼻腔内、または眼内投与剤形、ならびに直腸内投与剤形が含まれる。
【0081】
好ましくは、薬学的組成物は、皮下投与が可能な製剤のための薬学的に許容される媒体を含む。
【0082】
適当な薬学的組成物は、特に、等張で無菌の食塩溶液(リン酸1ナトリウムもしくは2ナトリウム、塩化ナトリウム、カリウム、カルシウムもしくはマグネシウムなど、またはそのような塩の混合物)であってもよく、または場合に応じて滅菌水もしくは生理食塩水を加えて注射用液剤を構成することができる、乾燥、特に凍結乾燥した組成物であってもよい。
【0083】
ペプチドまたは抗体療法のための薬学的組成物を調製するために、有効量のタンパク質を薬学的に許容される担体または水性媒質中に溶解または分散させてもよい。
【0084】
薬学的製剤の例を以下に示す。
【0085】
薬学的組成物は有効量のSAMDC阻害剤を薬学的に許容される担体または水性媒質中に含む。
【0086】
「薬学的」または「薬学的に許容される」とは、動物またはヒトに適宜投与した場合に、有害、アレルギー性または他の不都合な反応を起こさない、分子実体および組成物を意味する。
【0087】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される担体」には、すべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒質および薬剤は当技術分野において公知である。いかなる通常の媒質または薬剤も活性成分と不適合である場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助的活性成分も組成物中に組み込むことができる。
【0088】
注射用に適した薬学的剤形には、無菌水性液剤または分散剤;ゴマ油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および滅菌注射用液剤または分散剤の即時調製用の滅菌散剤が含まれる。全ての場合に、剤形は無菌でなければならず、容易に注射器操作可能な程度に流動性でなければならない。製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。
【0089】
活性化合物の遊離塩基または薬学的に許容される塩としての溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適当に混合した水中で調製することができる。分散剤もグリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物ならびに油中で調製することができる。通常の保存および使用条件下で、これらの製剤は微生物の増殖を防止するための保存剤を含む。
【0090】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適当な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒であってもよい。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散剤の場合は要求される粒径の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどにより行うことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖および塩化ナトリウムを含むことが好ましいと思われる。注射用組成物の持続吸収は、組成物中の吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によって引き起こすことができる。
【0091】
滅菌注射用液剤は、要求量の活性化合物を、適宜、上で列挙した様々な他の成分を含む適当な溶媒中に組み込み、続いてろ過滅菌することにより調製する。一般に、分散剤は様々な滅菌活性成分を、基本の分散媒および上で列挙したものから要求される他の成分を含む滅菌媒体中に組み込むことにより調製する。滅菌注射用液剤を調製するための滅菌散剤の場合、好ましい調製法は、活性成分プラスあらかじめ滅菌ろ過した溶液から得た任意の他の所望の成分の散剤を生じる、減圧乾燥および凍結乾燥法である。
【0092】
活性成分としてペプチド治療薬を用いることに関して、米国特許 US 4,608,251;4,601,903;4,599,231;4,599,230;4,596,792および4,572,770が有用な情報を提供している。
【0093】
直接注射用の、より、または高度に濃縮された溶液の調製も企図され、溶媒としてのDMSOの使用により非常に急速な浸透と、それにより高濃度の送達が得られると考えられる。
【0094】
製剤後、液剤は剤形に適合する様式および治療上有効な量で投与することになる。製剤は前述の注射用液剤の方などの、様々な剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども用いることができる。
【0095】
水性液剤での非経口投与のために、例えば、液剤は必要があれば適当に緩衝化し、液体希釈剤をまず十分な食塩水またはグルコースで等張とすべきである。これらの特定の水性液剤は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与のために特に適している。これに関して、用いることができる滅菌水性媒質は、本発明の開示に照らして、当業者には公知となると思われる。例えば、1回用量を等張NaCl溶液1mlに溶解し、皮下注入液1000mlに加えるか、または注入推奨部位に注射することができる(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、1035〜1038ページおよび1570〜1580ページ参照)。用量のいくらかの変動が、治療中の被検者の状態に応じて必然的に起こることになる。投与責任者は、いかなる事象においても、個々の被検者のために適当な用量を決定することになる。
【0096】
SAMDC阻害剤は、1用量につき約0.0001〜1.0ミリグラム、または約0.001〜0.1ミリグラム、または約0.1〜1.0または約10ミリグラムほどを含むよう、治療混合物中で製剤してもよい。複数用量も投与することができる。
【0097】
静脈内または筋肉内注射などの非経口投与用に製剤した化合物に加えて、他の薬学的に許容される剤形には、例えば、経口投与用に錠剤または他の固体;リポソーム製剤;持効性カプセル;およびクリームを含む現在用いられているいかなる他の剤形も含まれる。
【0098】
鼻用液剤もしくは噴霧剤、エアロゾルもしくは吸入剤、または膣もしくは直腸坐剤およびペッサリーを含む、他の投与経路も企図される。
【0099】
特定の態様において、阻害抗体または他の薬剤、特にタンパク質またはペプチド薬剤、ならびに核酸ベクターを宿主細胞中に導入するための、リポソームおよび/またはナノ粒子の使用が企図される。リポソームの生成および使用は、当業者には一般に公知であり、以下にも記載している。
【0100】
ナノカプセルは一般に安定かつ再現性のある様式で化合物を取り込むことができる。細胞内ポリマー過負荷による副作用を避けるために、インビボで分解可能なポリマーを用いてそのような超微粒子(粒径約0.1μm)を設計すべきである。これらの条件を満たす生体分解性ポリアルキル-シアノアクリレートナノ粒子が本発明における使用のために企図され、そのような粒子は容易に作ることができる。
【0101】
リポソームは、水性媒質中に分散し、自然にマルチラメラ同心二重層小胞(マルチラメラ小胞(MLV)とも呼ぶ)を形成する、リン脂質から形成する。MLVは一般に25nm〜4μmの直径を有する。MLVを超音波処理することにより、核内に水性溶液を含む、直径200〜500Åの範囲の小さいユニラメラ小胞(small unilamellar vesicle)(SUV)が形成される。
【0102】
リポソーム製剤を生成する際に、下記の情報を用いてもよい。リン脂質は水中に分散すると、脂質の水に対するモル比に応じて、リポソーム以外の様々な構造を形成することがある。リポソームの物理的特徴は、pH、イオン強度、および二価カチオンの有無に依存する。リポソームはイオン性および極性物質に対する透過性が低いことがあるが、高温で相転移が起こり、その透過性を顕著に変化させる。相転移は、ゲル状態として知られる緻密に詰まった規則正しい構造から、液体状態として知られる詰まりの緩い、秩序のない構造への変化を伴う。これは特徴的な相転移温度に伴って起こり、イオン、糖および薬物に対する透過性が高まる。
【0103】
リポソームは細胞と、4つの異なるメカニズムを介して相互作用する:マクロファージおよび好中球などの、網膜内皮系の食細胞によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水性もしくは静電力によるか、または細胞表面成分との特異的相互作用による、細胞表面への吸着;リポソームの脂質二重層を形質膜に挿入し、同時にリポソーム内容物を細胞質に放出することによる、形質細胞膜との融合;およびリポソーム内容物は関与しない、リポソームの脂質の細胞膜もしくは細胞下膜への移動、またはその逆。リポソーム製剤を変えることにより、どのメカニズムが作用するかを変えることができるが、複数が同時に作用することもある。
【0104】
本発明の薬学的組成物は、HSV感染の予防または治療のために有用である。
【0105】
本発明は下記の実施例および添付の図面を見ればさらに理解されると思われる。
【0106】
実施例
実施例1:材料と方法
細胞株およびウイルス株
HEp2細胞を、5%熱不活化ウシ胎仔血清(FCS)を補足したか、または補足しておらず、100U/mlペニシリンおよび100U/mlストレプトマイシンを補足した、イーグル最小必須培地(E-MEM)中で単層培養した。細胞を5%CO2下、37℃で維持した。B. Jacquemont(フランス、リヨン)から入手したHSV-1マクロプラーク株(MP)はB. Roizman(米国、イリノイ州、シカゴ)から供与いただき、本試験を通して使用した。ウイルスはHEp2細胞中で増殖させた。
【0107】
細胞の感染およびMGBG処理
いくつかの実験を除き、HEp2細胞を6穴プレート(〜106細胞/ウェル)のFCS無添加E-MEM中で培養し、コンフルエンスの直前に細胞1個あたり0.5プラーク形成単位(PFU)の感染多重度(m.o.i.)で感染させた。5%CO2下、33℃で1時間ウイルスを吸着させた後、ウイルス懸濁液を含む培地を除去し、細胞をE-MEMで洗浄し、次いでFCS無添加E-MEM中、37℃で異なる時間インキュベートした後、回収した。感染後(p.i.)の時間をウイルス懸濁液添加時間から計算した。HEp2細胞をMGBG処理に異なる時間曝露した。細胞を感染前にMGBGで前処理する場合、MGBGを感染の6時間または24時間前に細胞培地に添加した後、回収した。前処理しない細胞では、MGBGをウイルス懸濁液と同時、または2時間、4時間もしくは6時間後に加えた。細胞を24時間よりも長く処理する場合、培地を24時間ごとに同じ濃度のMGBGを含む新鮮培地で交換した。
【0108】
HEp2細胞の生存度の推定
未感染HEp2細胞をMGBG非存在下(対照)および10〜500μMのMGBG存在下で24時間、30時間および48時間培養した。24時間ごとに培地を同じ濃度のMGBGを含む新鮮培地で交換した。回収時、培地を未処理対照細胞および処理細胞のウェルから集めた。次いで、単層からの細胞をゆっくりトリプシン処理し、対応する前の細胞培地に加えた。全細胞を500×gのゆるやかな遠心分離により回収し、0.2%トリパンブルーを含むPBS中に再度懸濁した。各実験について、全細胞、生存細胞、および死滅細胞を計数した。
【0109】
スペルミンの定量
HEp2細胞を6穴プレート(〜106細胞/ウェル)で培養した。細胞を感染させるか、または100μMのMGBGで12時間もしくは24時間処理した。HSV-1感染細胞に対し、MGBGをウイルス懸濁液と同時に加えた。細胞抽出物および標準物質(スペルミンおよび内部標準としてのジアミノヘプタン(DAH))をSeiler(Seiler, 1970)によって記載された方法に従ってダンシル化し、次いでBesson(Besson et al., 1986)から改変したプロトコルを用いて処理した。ダンシル化は、ガラスバイアル中、40μlのHClO4抽出物、10μlのDAH、および100μlの0.3M Na2CO3(Merck)を撹拌して進行させた。反応は、新しく調製したアセトン(SDS、スペクトロソル(spectrosol)等級)中の塩化ダンシル溶液(5mg/ml)200μlを加えて開始し、暗所、室温で終夜進行させた。ダンシル化後、各試料を700μlのH2Oで希釈し、ボルテックスにかけ、Waters Sep-Pak C18カートリッジ(Birnbaum et al., 1988)に添加した。20%メタノール4mlで洗浄後、ポリアミン含有画分を100%メタノール2mlで溶出した。ポリアミンの分離およびスペルミンの定量は、2モデル510ポンプ、Wisp 700オートサンプラーおよびNEC APC4データモジュール記録計積分器で構成されるWatersシステムを用いた逆相高性能クロマトグラフィ(RP-HPLC)で実施した。Merck F 1050蛍光分光光度計が蛍光を検出した(励起350nmおよび発光495nm)。分離はRP18 Merck Lichrocart(25×4mm、5μm)プレカラムおよびRP18、100CH Merckカラム(125×4mm;球形充填5μm)で実施した。溶媒系はアセトニトリル/水のグラジエントで、流速1ml/分のアセトニトリル60%/水を7分間、次いでアセトニトリル90%を10分間および98%アセトニトリルパージを5分間であった。2回の連続注入の間の10分間に、カラムを最初の60%アセトニトリル状態に再度平衡化した。各定量のために、50または100μlのダンシル化試料を60%アセトニトリルで平衡化したカラムに注入した。スペルミンを標準スペルミンと比較しての保持時間により同定した。ピーク面積を積分器により自動的に測定し、較正法(Birnbaum et al., 1988)に従って評価した。10〜70pmolのスペルミン標品を反応させ、クロマトグラフィにかけて、直線の標準曲線を作成し、これを用いてスペルミンの絶対量を推定した。ダンシル化スペルミンの注入ごとの検出の絶対限界は1pmolであった。較正と試料分析との間に、2回のブランク注入を常に行った。MGBG非存在下で増殖させた偽感染細胞を、細胞内スペルミン含量の対照として用い、したがって100%値として用いた。
【0110】
mRNAおよびDNAの量の測定
対照偽感染および感染HEp2細胞からの全RNAおよびDNAを、Qiagen RNA/DNAキットを用いて精製した。RNAをDNアーゼ/RNアーゼフリー消化(1.5ユニット/μg RNA)にかけ、DNAをRNアーゼA消化(10ユニット/μg)にかけた。各試料中に存在するウイルスmRNAおよびウイルスDNAのSAMDC mRNAの定量を、pSAMr1プラスミド(Pajunen et al., 1988)の1250bp PstI/PvuII断片を用いたスロットブロット分析により行った。pSG28の746bp SalI-EcoNI断片およびpSG124プラスミド(Goldin et al., 1981)の1308bp MluI断片を[32P]で標識し、それぞれ前初期ICP27および初期UL42 mRNAを検出するためのプローブとして用いた。Us11後期mRNAを、pHSV-Us11プラスミド(Diaz et al., 1996)の230bp XhoI断片で構成される[32P]標識プローブで検出した。ウイルスDNAをICP27特異的DNAプローブを用いて検出した。ハイブリダイズしたウイルスmRNAおよびDNAが明らかにされ、PhosphorImager SI(APB)を用いた膜の走査濃度測定により定量した。
【0111】
ウイルスタンパク質の検出
偽感染およびHSV-1感染HEp2細胞を氷冷リン酸緩衝化食塩水(PBS)(130mM NaCl、4mM Na2HP04.2H20、1.5mM KH2PO4)で3回洗浄し、PBS中に掻爬し、500×gの遠心分離により回収した。細胞をLaemmli緩衝液(Laemmli, 1970)に再懸濁した。タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、エレクトロブロッティングによりポリ2フッ化ビニリデン膜(Immobilon-P;Millipore)上に転写した。ウイルスタンパク質を、ウサギポリクローナル抗ICP27抗体、もしくはウサギポリクローナル抗Us11抗体(Diaz et al., 1993)のいずれかの50倍希釈液、または50倍に希釈したマウスモノクローナル抗UL42抗体を用いたウェスタンブロット(10μgの一定量)により分析した。抗ICP27および抗UL42抗体はMarsden博士から好意により提供いただいた(それぞれ抗体42および抗体Z1F11)(Schenk et al., 1988;Sinclair et al., 1994)。次いで、対応するタンパク質を、1:10000希釈した抗ウサギまたは抗マウスペルオキシダーゼ複合体(Sigma)を用いたECLウェスタンブロッティング分析システム(Amersham Pharmacia Biotech)により明らかにした。
【0112】
ポリリボソーム画分間のmRNAの分布
ポリリボソームを約8×106の偽感染および感染細胞から調製した。Greco et al. (1997)に記載のとおり、ショ糖勾配でのポリリボソームの画分をポストミトコンドリア上清から実施した。同じ量の20画分を勾配の先端部から回収した。各画分を100μg/mlのプロテイナーゼK、および1%SDSで15分間処理した後、RNAのフェノール-クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を行った。各画分からのRNAを10mM TRIS-HCl、pH7.4、1mM EDTA、1UのRNアーゼ阻害剤(Pharmacia Biotec)中に再懸濁した。次いで、異なる画分間の様々なmRNAの定量的分布を、前述のとおりドットブロットにより分析した。
【0113】
抗ウイルス感受性試験
3つのHSV 1基準株を試験した:SC16(アシクロビル感受性基準株;(Hill et al., 1975))、DM21(SC16由来のアシクロビル耐性基準株;(Efstathiou et al., 1989))、およびTP 2.5(SC16由来のフォスカルネット耐性基準株;(Larder and Darby, 1985))。抗ウイルスアッセイを96穴マイクロプレートに播種したHEp-2細胞で重複して行った。ウイルスおよび薬物の希釈液をFCS無添加E-MEM中で調製した。細胞をまず、12.5〜400μMの6つの2倍連続希釈液を用いて、MGBGで24時間処理した。次いで、感染を細胞内ウイルス(10-1〜10-5)の5つの10倍希釈液で行った。各希釈液を一連の6つの濃度の各抗ウイルス剤(MGBGについては2倍希釈液の12.5〜400μM、アシクロビルについては5倍希釈液の0.16〜500μM、およびフォスカルネットについては2倍希釈液の31〜1000μM)と共にインキュベートした。シクロヘキシミドを1.5μg/mlで用いて、ウイルス複製を完全に阻害し、抗ウイルス剤なしのウイルス力価の対照も含めた。感染後、5%CO2、36℃で24時間のインキュベーション後、培地を新しく調製したMGBGで交換した。ウイルス増殖を24時間後にELISA(Morfin et al., 1999)により、ウサギモノクローナル抗HSV抗体(BO 114, Dako)およびプロテインAペルオキシダーゼ複合体(BioRad)を用いてチェックした。ABTS緩衝液(Boehringer, Mannheim)中で希釈した基質、2,2'-アジノ-ジ(3-エチル-ベンズチアゾリン)スルホン酸(ABTS)を各ウェルに加えた。室温で30分後、プレートを短時間撹拌し、光学密度を405nmで多チャンネル分光光度計(Titertek-Multiskan)により読み取った。光学密度値をBioliseプログラム(Life Sciences International)と共に用いて、ウイルス複製の50%阻害を引き起こす薬物濃度(IC50)を、ロジスティック回帰分析により計算した。
【0114】
実施例2:S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼの不活化はHSV感染を阻害するが、オルニチンデカルボキシラーゼの不活化は阻害作用を持たない
予想外に高い比率の細胞タンパク質の合成が、HSV-1感染経過中に持続するか、または刺激されることが以前に明らかにされている。これらにはリボソームタンパク質および4〜7の範囲のpIを有する28のタンパク質が含まれる(Greco et al., 2000;Greco et al., 1997;Simonin et al., 1997)。それらのHSV-1感染における関与を調べるために、後者の28のタンパク質のいくつかの同定を行った。
【0115】
HEp2細胞のタンパク質由来2-Dゲルのウェスタンブロッティングにより、細胞タンパク質合成のウイルス誘導性遮断を免れた28の細胞タンパク質の1つが、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)であると同定された。この酵素は(Greco et al., 2000)に記載のタンパク質第198番に相当する。HSV-1で3時間および6時間感染させた細胞において、ODC合成速度はそれぞれ偽感染細胞の4倍および1.2倍であった(Greco et al., 2000)。ODCはポリアミンの代謝経路の第一段階の1つ、すなわちオルニチンのプトレスシンへの脱カルボキシル化に関与している(図1)。スペルミンおよびスペルミジンはHSV-1ウイルス粒子の成分で、それぞれヌクレオカプシドおよびエンベロープに局在している(Gibson and Roizman, 1971)。
【0116】
したがって、ポリアミン生合成に関与する酵素の不活化の、HSV-1感染阻害に対する影響を評価した。HSV-1 MP株は感染細胞から大きい合胞体の形成を誘導する能力があるため、この株を本試験を通じて用いた。したがって、合胞体形成のレベルでウイルス複製の阻害を容易かつ迅速に調べることができた。
【0117】
ODCを不活化し、その結果感染経過中のプトレスシンの合成を不活化するために、ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)を用いた。HEp2細胞を感染前に1〜10mMのDFMOで24時間処理し、次いで同じ濃度のDFMO存在下でHSV-1感染に供した。DFMO存在下で感染させた細胞において、合胞体の数はDFMO非存在下で感染させた細胞に比べて著しく減少することはなかった。
【0118】
次いで、 ポリアミン経路のもう1つの主要な酵素の、HSV-1複製における役割を調べた。S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(SAMDC)はODCの下流で作用する。これはS-アデノシルメチオニン(SAM)を脱カルボキシル化して、スペルミジンおよびスペルミン生合成両方の基質である脱カルボキシルSAM(dcSAM)とする。HEp2細胞を、SAMDCを特異的に不活化するメチルグリオキサールビス(グアニルヒドラゾン)(MGBG)存在下で感染させると、MGBGをマイクロモル濃度で用いた場合でも、HSV-1感染は阻害される。したがって、合胞体形成、ウイルスタンパク質およびRNA蓄積、ならびにウイルスDNA複製のレベルで、ウイルス感染に対するMGBGの効果を測定することにより、MGBGの抗ウイルス特性をさらに調査した。
【0119】
実施例3:HSV感染経過中のSAMDC発現の定量
HSV-1感染経過中のSAMDC mRNAレベル
SAMDCが感染経過中に細胞タンパク質合成のHSV-1誘導性遮断を受けているかどうかを調べるために、細胞中に存在するSAMDC mRNAの量を、細胞タンパク質合成のウイルス誘導性遮断の対照としてのβアクチンmRNAの量と共に、感染後の異なる時点で測定した。全細胞質RNAを、偽感染または6時間、9時間、12時間および24時間感染させた細胞から精製し、特異的32P-標識DNAプローブを用いたドットブロット分析により定量した。結果より、SAMDC mRNAの量はウイルス感染の後期段階(9hpi)まで徐々に増加することが示された。
【0120】
感染経過中のSAMDC mRNAの翻訳の効率
SAMDC mRNAが感染経過中に効率的に翻訳されたかどうかを調べるために、感染期間を通してリボソームおよびポリリボソームの間の挙動を分析した。このために、偽感染または6時間、9時間、および12時間の間感染させた細胞のポストミトコンドリア上清を、ショ糖勾配遠心分離後の20画分中で分離した。次いで、異なる画分の間のSAMDC mRNAの分布を、特異的32P-標識DNAプローブを用いたドットブロットにより評価し、定量した。結果より、SAMDC mRNAの分布は感染の時間に応じて変動することが示された。遊離mRNAおよび40Sリボソームサブユニット上にあるmRNAは感染経過中に徐々に減少したが、mRNA分子1個あたり2〜5個のリボソームを含むポリリボソーム上にあるmRNAは徐々に増加した。これらの結果は、SAMDC mRNAは、より効率的になる開始段階によって、感染前よりも感染後により効率的に翻訳されることを示唆するものである。
【0121】
すべてを合わせると、これらの実験は、偽感染細胞よりもHSV感染細胞の方により多くのSAMDC mRNAがあり、SAMDC mRNAは感染前よりも後により効率的に翻訳されることを示している。このことは、HSV-1感染の間、SAMDC合成が持続することを示唆する。
【0122】
実施例4:MGBGに曝露した偽感染およびHSV感染細胞における細胞内スペルミンのレベルの変化
MGBGはSAMDCを不活化する際にポリアミン合成を変化させることが知られている。したがって、細胞内スペルミンの量をMGBG曝露後の偽感染および感染細胞で評価した。HSV-1感染細胞についてはウイルス粒子と同時に細胞培地に加えた100μM MGBG存在下で、細胞を12時間および24時間培養した。細胞内スペルミン含量を標準的方法で測定した(Besson et al., 1986;Birnbaum et al., 1988;Seiler, 1970)。
【0123】
【表1】

3実験からのデータの平均±SE。
【0124】
表1の結果は、12時間および24時間処理に対応するデータに有意差はなかったことを示している。MGBG存在下で、偽感染およびHSV-1感染細胞の両方でスペルミンの量に35〜40%の減少が見られた。事実、細胞内スペルミンの量は、MGBG非存在下で培養した対照偽感染細胞中の量の約60〜65%に対応していた。
【0125】
実施例5:HSV感染のMGBG誘導性阻害
HSV-1感染のMGBGによる用量依存的阻害
ウイルス感染に対するMGBGの濃度の影響を調べるために、10μM〜300μMのMGBGを加えたFCS無添加培地中、HEp2細胞を細胞1個あたり0.5PFUのHSV-1でウイルスの吸着段階から実験終了まで感染させた。感染24時間後、合胞体の形成を観察し、合胞体の数を光学顕微鏡で数えて測定した。結果より、10μMのMGBGを細胞培地にウイルス懸濁液と同時に加えた場合、合胞体の数ではなくサイズの縮小が示された。これは、ウイルスの増殖は培地培養細胞において、MGBG非存在下よりも存在下で効率が低かったことを示している。MGBGの高濃度では、合胞体のサイズと数の両方が劇的に低下した。MGBG非存在下で感染させた対照細胞(図2の左)に比べて、50μM、100μMおよび200μMのMGBG存在下では50%、95%および99%の合胞体形成の低下が認められた。したがって、MGBGはウイルス感染を用量依存的に防止する。細胞培地にウイルス懸濁液と共にMGBGを加えることによる細胞ポリアミンの欠乏は、ウイルス感染を防止した。
【0126】
同じ実験を、5%FCSおよび異なる濃度のMGBG存在下で培養した細胞により実施した。これらの条件下でも、MGBGはウイルス感染を阻害し、やはり効果は濃度依存的であった。しかし、阻害の効率は細胞をFCS無添加培地で培養した場合よりも著しく低かった。
【0127】
細胞を感染前にMGBGに予備的曝露すると、より劇的なMGBGの抗ウイルス効果が観察された
MGBGによるウイルス感染の阻害はFCS存在下よりも非存在下でより効率的であったため、発明者らは感染前にMGBGに予備曝露した細胞から、MGBGのHSV感染を予防する能力を調べた。HEp2細胞を、10〜300μM MGBGを含むFCS無添加培地中で感染前に6時間〜24時間インキュベートすることにより、MGBGで前処理した。次いで、細胞を前述のとおりに感染させ、MGBGを実験終了まで培地中で維持した。
【0128】
合胞体の形成は、前処理をしない細胞よりも、感染前にMGBGに予備曝露した細胞で、効率が低いことが示された。加えて、ウイルス阻害の効率は前処理の時間に依存していた。図2に示す柱状グラフから、細胞をMGBGで前処理すると、ウイルス感染の阻害がMGBGの濃度が低い場合でも非常に効率的であることが明らかにされた。事実、MGBG非存在下で感染させた細胞に比べて、10μMのMGBGで6時間および24時間前処理した細胞では、それぞれ70%および36%の合胞体しか形成されなかった。少なくとも25μMのMGBGで6および24時間前処理した細胞において、ウイルス感染の80%を越える阻害が見られた。したがって、HSV-1感染の阻害の効率はMGBGの濃度および細胞のMGBGへの曝露時間の両方に依存していた。
【0129】
ウイルスの侵入段階後にMGBGを細胞に加えた場合でも、HSV複製は阻害される
HSVの宿主細胞への侵入は、吸着および侵入を含む多段階過程を含む。MGBGによるウイルス複製周期阻止の正確なメカニズムを調べるため、ウイルスのHEp2細胞への吸着前または吸着後に加えた場合のウイルス複製の阻害をさらに調べた。
【0130】
100μMのMGBGを細胞培地に、ウイルス粒子と同時、または感染開始後2時間、4時間および6時間の時点(ウイルス周期の前初期、初期および初期段階の終わりに対応する)で加えた。MGBGを感染開始の2時間後に加えた場合、ウイルス複製は完全に阻害された。MGBGをウイルスの吸着段階の4時間または6時間後に加えると、ウイルス複製は部分的に阻害された。事実、いくつかの合胞体が検出され、ウイルス複製が起こったことを示している。しかし、感染後4〜6時間のMGBG処理に曝露した細胞に存在する合胞体の数は、MGBG非存在下で感染させた対照細胞中の数に比べて非常に低いままであった。したがって、MGBGはウイルスの侵入後およびウイルス複製周期がすでに開始している段階で加えた場合でも、ウイルス複製を阻害した。
【0131】
これらの結果は、MGBGはウイルスの細胞への吸着および侵入を防止しないことを示唆している。
【0132】
実施例6:低濃度でMGBGは細胞増殖および生存度を阻害しない
MGBGの細胞増殖および生存度に対する効果を調べた。HEp2細胞をFCS無添加培地中、10μM〜500μMのMGBG存在下で24時間、30時間および48時間インキュベートした。回収後、全細胞、生存細胞、および死滅細胞を計数した。
【0133】
MGBG非存在下で培養した対照細胞に比べて、200μM未満のMGBG存在下で24時間および30時間インキュベートした細胞の増殖速度に劇的な差はなかった。しかし、500μM MGBG存在下でインキュベートした細胞はそれ以上増殖しなかった。加えて、細胞生存度は、500μM未満のMGBGで24時間および30時間、ならびに25μM未満のMGBGで48時間処理した細胞では、著しく低下しなかった。事実、これらの条件下で、死滅細胞のパーセンテージは全細胞の5%を越えることはなかったが、細胞を500μMのMGBGで24時間および30時間処理した場合は、それぞれ9%および24%に達し、細胞を25μMのMGBGで48時間処理した場合は10%であった。
【0134】
これらの結果は、細胞を10μM〜200μMのMGBG存在下で24時間および30時間のインキュベーションにかけた場合、細胞増殖および細胞生存度は影響を受けないことを示唆するものであった。より長い曝露時間では、増殖および生存度はいずれも25μM〜200μMのMGBG存在下でわずかに低下した。細胞を500μMのMGBG存在下でインキュベートした場合、細胞増殖はMGBGへの24時間曝露後にも変化したが、細胞生存度は48時間の曝露時間後にのみ低下した。
【0135】
実施例7:スペルミンの添加はHSV複製のMGBG阻害を逆転する
外因性スペルミンの添加はウイルス複製のMGBG阻害を防止する
HSV-1感染のMGBGによる阻害はMGBG処理細胞におけるポリアミン細胞内含量の欠乏、または/および新規ポリアミン合成の欠損によるかどうかという疑問が持ち上がっている。HEp2細胞をMGBG単独またはスペルミンとの組み合わせでの存在下で感染させた。これらの実験において、100μMのMGBGをウイルス懸濁液と同時に加えた。MGBG単独の存在下で、ウイルス感染はMGBGなしで感染させた細胞に比べて大きく低下した。これに対して、50μMのスペルミンを細胞培地にMGBGおよびウイルス懸濁液と同時に加えるか、またはスペルミンを2時間後に加えると、ウイルス感染の阻害は完全に防止された。したがって、MGBGと共に、または2時間後に加えたスペルミンは、MGBGの効果を防止した。
【0136】
HSV-1タンパク質、mRNAおよびDNAのレベルはMGBG存在下で感染させた細胞で低下する
ポリアミン欠損HEp2細胞におけるウイルス複製阻害の原因となるメカニズムを解明するために、この過程のMGBGの効果を分子レベルで調べた。発明者らは、MGBG非存在下および存在下で感染させた細胞におけるウイルスタンパク質、mRNAおよびDNAの量を定量した。
【0137】
細胞を10〜200μMのMGBGで前処理し、次いで同じ濃度のMGBG存在下、HSV-1で感染させた。タンパク質、RNAおよびDNAを24時間感染させた細胞から抽出した。ウイルスタンパク質は特異抗体を用いたウェスタンブロットにより検出し、一方、ウイルスmRNAおよびDNAレベルはスロットブロット分析により解析した。
【0138】
結果より、細胞のMGBG処理による細胞ポリアミンの欠乏は、ウイルスDNAレベルを著しく低下させるだけでなく、ウイルスmRNAおよびタンパク質のレベルも引き下げることが示された。さらに、ウイルス産物のレベルの低下はMGBG用量依存的である。
【0139】
スペルミンはMGBG存在下で感染させた細胞におけるウイルスタンパク質、mRNAおよびDNAレベルを回復する
同じ実験をMGBG単独およびMGBG+スペルミン存在下で実施した。細胞を100μMのMGBGを含む培地中で6時間培養し、次いで細胞をMGBG単独またはMGBGおよび50μMのスペルミン存在下、HSV-1で感染させた。ウイルス複製を感染後24時間の時点で評価した。
【0140】
結果より、ウイルス複製はMGBG単独の存在下で完全に阻害されることが示された。これに対して、外因性スペルミンはMGBG誘導性ウイルス阻害を消失させた。ウイルスタンパク質、mRNAおよびDNAのレベルはMGBG処理細胞で低下し、感染の非常に初期に外因性スペルミンを加えると回復した。したがって、MGBGによるウイルス感染の阻害は外因性スペルミンの添加により逆転される。
【0141】
実施例8:MGBGはアシクロビルおよびフォスカルネット耐性HSV-1株の複製を阻害する
アシクロビルおよび/またはフォスカルネット耐性の3つのHSV-1株の感染を防止するMGBGの能力を試験した。本試験で用いた基準株はSC16アシクロビル感受性基準株、SC16由来DM21アシクロビル耐性基準株、およびSC16由来TP2.5フォスカルネット耐性基準株であった(Efstathiou et al., 1989;Hill et al., 1975;Larder and Darby, 1985)。各実験において、用量反応曲線を、転写を阻害するアクチノマイシンD、アシクロビル、およびMGBGについて作成した。ED値を求めた。HSV基準株のMGBG、アシクロビル、およびフォスカルネットに対する感受性を表2に示す。
【0142】
【表2】

データは少なくとも3つの独立したアッセイから得たメジアンおよび極値に対応している。
【0143】
これらの株は、DM21のようにアシクロビルに耐性であるか、またはTP2.5のようにアシクロビルとフォスカルネットの両方に耐性であるにもかかわらず、MGBGに対して同じ感受性を示した。1つまたは複数の抗ウイルス剤に耐性の株は他の抗ウイルス剤に対して幾分感受性が高くなった。アシクロビル耐性株はアシクロビル感受性株よりも高いフォスカルネット感受性を示した(34%低いIC50)。加えて、MGBGはアシクロビルおよび/またはフォスカルネットに耐性の2つの株に対してより活性であることが判明し、感受性株SC16で観察されたIC50値に比べて20〜27%の低下が見られた。
【0144】
加えて、MGBGはアシクロビルまたはフォスカルネット耐性のHSV-1臨床単離株の複製を阻害した。
【0145】
MGBGはHSV-1感染のアシクロビル誘導性阻害を増強する
アシクロビル(ACV)は最もよく使われる通常の抗HSV-1薬の1つである。これは2つのウイルス酵素、DNAポリメラーゼおよびチミジンキナーゼを特異的に阻害するヌクレオシド類縁体である。MGBGはインビトロでアシクロビル耐性HSV-1株の複製を阻害することが明らかにされた。MGBGおよびACVの抗HSV-1活性をさらに比較した。HEp2細胞を、ACVおよびMGBG単独または組み合わせ存在下、細胞1個あたり0.5PFUのHSV-1で感染させ、抗ウイルス効果を合胞体形成のレベルで評価した。ウイルス感染の阻害は、薬物を単独ではなく組み合わせて用いた方がより劇的であった。したがって、MGBGはACVの抗ウイルス効果を増強する。
【0146】
結論として、前述の結果は、MGBGがウイルス感染を、細胞をMGBGで前処理した場合、すなわち細胞をポリアミン欠乏させた場合に、より効率的に阻害することを示している。それにもかかわらず、MGBGはウイルス粒子が細胞内に侵入した後に加えた場合でも、ウイルス複製を阻害する。しかし、阻害は初期のウイルス事象がまだ開始していない時点で加えた方がより効率的である。スペルミンはウイルス感染を、MGBG添加後に加えた場合でも防止する。すべてを合わせると、これらの結果は、MGBGはHEp2細胞へのウイルス侵入を阻害しないが、ウイルス複製の阻害は少なくとも部分的にはポリアミン経路の最終産物によって仲介されることを示唆している。
【0147】
加えて、MGBGから誘導された分子は、特にアシクロビルとの組み合わせで、HSV感染の抗ウイルス療法にとって有用な追加の薬剤になると考えられる。
【0148】
実施例9:SAMDC阻害剤はインビトロでのSAMDCおよびインセルロでのHSV複製を阻害する
MGBGおよび上で開示した化合物(I)〜(III)についてのインビトロでのSAMDC阻害およびインセルロでのHSV複製の結果を下記の表に報告している。

【0149】
参考文献





【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】ポリアミンの代謝経路の概略図である。
【図2】細胞1個あたり0.5PFUのHSV-1で感染させ、10〜300μMのMGBGで処理したHEp2細胞に存在する合胞体のパーセントを、未処理感染細胞と比べて示す図である。HEp2細胞は感染の6もしくは24時間前にMGBGで前処理したか、または前処理しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルス感染の予防または治療用の薬剤製造のためのS-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼ(SAMDC)阻害剤の使用。
【請求項2】
単純ヘルペスウイルスがHSV-1またはHSV-2である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
阻害剤を、単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な別の薬剤と共に投与する、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
薬剤がアシクロビルである、請求項3記載の使用。
【請求項5】
単純ヘルペスウイルスが、アシクロビルおよび/またはフォスカルネットおよび/またはそれらの誘導体に対して耐性のHSV-1株である、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
薬剤がヒト以外の哺乳動物への投与用である、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
薬剤がヒトへの投与用である、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
薬剤が免疫抑制された被検者への投与用である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
阻害剤がSAMDC活性の阻害剤である、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
阻害剤がHSVの複製をインセルロ(in cellulo)で阻害する、請求項1〜9のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
阻害剤がSAM486Aである、請求項9または10記載の使用。
【請求項12】
阻害剤がSAMDC発現の阻害剤である、請求項1〜10のいずれか一項記載の使用。
【請求項13】
阻害剤が、SAMDCの発現を阻止するアンチセンス核酸配列である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
薬学的に許容される担体中に、S-アデノシルメチオニンデカルボキシラーゼと単純ヘルペスウイルス感染に対して有効な別の薬剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
薬剤がアシクロビルである、請求項14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
阻害剤がSAM486Aである、請求項14または15記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−502212(P2006−502212A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542752(P2004−542752)
【出願日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004636
【国際公開番号】WO2004/033417
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(504006489)インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム) (5)
【Fターム(参考)】