説明

単離肝幹細胞

本発明は、特に、ヒトの成人肝に由来する単離した肝前駆肝幹細胞、およびこれらの細胞の細胞集団に関する。本発明は、また、医療、肝臓病、肝臓代謝の先天異常、移植、感染性疾患、肝不全における単離した前記の前駆肝幹細胞の使用に関する。本発明は、これら細胞の単離方法、これら細胞の培養、分化前後での特性付け、ならびに移植、ヒト疾患の動物モデル、毒物学、および薬理学におけるこれらの細胞の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成人肝に由来する単離した肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、そして医療、肝臓病、肝臓代謝の先天異常、移植、感染性疾患、肝不全におけるこれらの使用に関する。本発明は、また、これらの細胞の単離方法、これらの細胞の培養、分化前後での特性付け、移植、ヒト疾患の動物モデル、人工臓器デバイス、毒物学、および薬理学におけるこれらの細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、グルコース恒常性、生体異物解毒、または高分子合成などの多くの生体機能を担う主要臓器である。このため、複数の肝機能のうちの1つが損傷を受けると健康に劇的な影響を与えうる。世界保健機構によると、急性・慢性肝疾患の世界中での発生率では、これらの病態は5番目から第9番目の死因に位置づけられる。これまでのところ、末期肝疾患での唯一の根治治療は依然として肝移植である。外科手術による肝置換術を受けた患者の転帰はかなり良好であり、回復率は95%以上であった。しかし、ドミノ移植や生体肝移植などの新規の外科技術にもかかわらず、臓器不足の深刻化は順番待ちリストでの死亡率を上昇させている。従って、移植医学研究における重要な目標は、肝再生および肝疾患の治療で肝細胞の利用の可能性を実証することである。
【0003】
肝細胞移植(LCT)は先端の治療法であり、臓器被提供者の門脈系内への肝細胞浮遊液の注入が含まれる。ここでは、移植と罹患肝実質の再生の結果として、臓器被提供者の肝機能回復を目標としている。同系肝細胞が無制限に生存し、様々な酵素欠損を治療可能であることが示された動物モデルにおいて、初めてLCTの有効性が実証された(Najimi and Sokal.2005.Minerva Pediatr 57(5): 243-57の総説を参照)。
【0004】
ヒトでは、急性肝不全の治療に関する初期試験が計画された。これらの試験から、臨床医はLCTの適応症の拡大を促進させ、今までに様々な欠損症について少なくとも30症例が世界中で報告されている(Stromら、1997.Transplant Proc 29(4): 2103-6)。代謝疾患の特定分野では、特に、クリグラー・ナジャー症候群I型、尿素回路異常症、または例えば、小児レフサム病のなどの稀少疾患の治療における肝細胞の使用報告が13例ある。これらの試験では、実質内への肝細胞移植、そして結果的に、移植後18カ月目までの患者状態の改善が実証された。
【0005】
しかし、移植用の成熟ヒト肝細胞の供給は依然として限られており、実際に、程度の差はあるが全肝臓の可用性と同程度に限られているので、研究においては、前駆細胞や幹細胞など、他の供給源から移植可能な細胞(例、胚または成体由来であり、例えばインビトロで増殖可能であり、特にインビボ移植後、機能的成熟肝細胞に分化できる)を入手することも目標としている。従って、特に、これらの疾患の大半に現在利用できる治療が不適切であることを考えると、肝臓に関連する様々な疾患または症状の治療に有用な新規方法の開発が急務である。
【0006】
過去には、胚性幹(ES)細胞は、ES細胞で観察される、組織全体の娘細胞への無制限のクローン分裂および分化多能性に起因する器官発生にのみ関与すると考えられた。他方で、成人器官の再生過程は、通例、成人の前駆細胞に起因する。それにもかかわらず、成人器官における既知の胚マーカーを発現する幹細胞の発見を考慮して、この理論は再検討されてきた。このため、現在、幹細胞および前駆細胞の特性付けは、発生過程(胚対成人)だけではなく、発生過程における特異的細胞マーカーの存在にも基づいている。実際に、膜タンパクや転写因子などの細胞マーカーの発現は、分化経路に沿って変化し、様々な刺激(例、環境刺激)や細胞の要求を反映している可能性がある。多くの場合、分化過程で、幹細胞においてその多分化能を示すマーカー(例、Oct‐4)が徐々に認められなくなり、後の工程に起因するマーカー(例、特異的系統マーカー)の発現が認められる。非限定的な一例として、Oct‐4は成熟を通して徐々に消失し、他方、内胚葉系統に入る細胞においてα−フェトプロテインが発現し始めることがある。
【0007】
細胞移植による肝再生に関して、供給源となりうるいくつかの細胞種が考えられる。例えば、ES細胞は、その多分化能のため、全ての器官を再生できることが期待される。実際に、当該技術分野において、この経路は広範囲に探索されている。しかし、子宮内以外の他の組織に導入した場合、ES細胞は腫瘍を増殖させる傾向がある。従って、癌を誘発するという逸脱リスクのために、それらのインビボでの使用は依然として限定されている。成功しても、ES細胞の事前のインビトロ分化は、ヒトへの接種を検討できるほど安全ではない可能性がある。
【0008】
安全性のより高い代替法は、成人の前駆細胞の使用であり、ES細胞とは異なり、この細胞のクローン分裂能は限られる傾向があり、これらの細胞の分化によって運命のより限られた娘細胞が発生する。肝臓については、卵形細胞(胆管細胞および肝細胞の前駆細胞)または小型の肝細胞様細胞などの成人の前駆細胞が記載されている。しかし、これらの細胞は、正常な成人臓器ではわずかしか存在しないため、その医学的利用は困難とされている。
【0009】
従って、癌を誘発するという逸脱リスクが減少した、またはない、クローン分裂能を示す成人幹細胞は、細胞移植の供給源が大幅に改善するだろう。現在、肝細胞移植試験において数種の成人幹細胞が評価されている。例えば、別の系統からより熟成した細胞への分化形質転換能のため、末梢血または臍帯血由来の間葉系幹細胞(MSC)が研究中である。更に、骨髄由来の造血幹細胞の肝再生能についても研究中である。
【0010】
成人幹細胞のインビトロでの特性付けは依然として困難であるが、該特性付けにより、(i)胚起源または系統(特に、中胚葉、内胚葉、外胚葉、造血)マーカー、(ii)分化レベルを反映するマーカーで、起りうる様々な子孫細胞をある程度予測するマーカーの発現、および(iii)分化後のインビトロまたはインビボでの運命、を検出することも有利にも含まれる可能性があると、現在、当該分野において認識されている。従って、正常肝臓から入手可能な成人幹細胞の特性付けおよび識別によって、(i)この器官の複雑な胚起源を反映するマーカー、(ii)分化マーカー(例、アルブミンの存在)、および(iii)幹細胞の運命を示す少なくとも1つのマーカー、の有無の評価も有利にも含まれる可能性がある。
【0011】
現在の知見によると、肝臓は主に内胚葉に由来しており、肝細胞は内胚葉系統の一部である。しかしながら、肝細胞の形成には内胚葉上皮と心原性中胚葉と間の相互作用も関与している。更に、胎児発生では、肝臓において造血も起る。発生中でのこの相互作用を考えると、内胚葉、中胚葉、および/または造血系統のマーカーが予想されうるため、成人肝幹細胞に存在するマーカーを検討する際には柔軟に考える必要がある。
【0012】
分化レベルおよび細胞種へのコミットメントを評価する場合、本明細書の開示において更に実施される通り、様々な細胞マーカーを評価できる。例えば、細胞分化した過程において、低下・消失するマーカーもあれば、上昇・誘導されるマーカーもあるが、他のマーカーは特定の機能細胞にまで維持されうる。限定はされないが、一例として、器官発生(つまり、胎児期)において、肝芽細胞が実質(特に、肝細胞および胆管細胞)を形成する共通の前駆細胞であり、CK−19、アルブミン、α−フェトプロテインの他、特にサイトケラチン−7(CK−7)を発現すると考えられる。成人肝において、肝細胞および胆管細胞の既知の共通する前駆細胞は、CK−19、アルブミン、α−フェトプロテインを発現する卵形細胞である。胆管細胞への分化後、CK−19およびα−フェトプロテインの発現は維持されるが、CK−7発現(より未熟な細胞の特徴)は停止する傾向がある。他方、肝細胞ではα−フェトプロテインとアルブミンの発現が維持されるが、前述のCK発現は認められない。この例からも、幹細胞の特性付けは複雑であるが、細胞の種類または特性を示す際にマーカーの評価を利用すると有益となりうることが分かる。
【0013】
本発明者らの知る限り、過去の試験において、正常な成人肝由来の前駆細胞の単離が記載されており、細胞は1つ以上の細胞運命を示している。肝細胞へのインビトロ増殖能およびインビボ分化能を有し、好ましくは細胞運命が肝細胞のみである成人肝幹細胞株については記載されていない。更に、過去の試験では、FACS、カルシウム添加培地、比重勾配などの複雑な技術を利用して、肝幹細胞が単離されている。
【非特許文献1】Najimi and Sokal.2005.Minerva Pediatr 57(5): 243-57
【非特許文献2】Stromら、1997.Transplant Proc 29(4): 2103-6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、特性が改善されており、例えば肝細胞移植などに特に有用な、成人肝に由来する新規の前駆細胞もしくは幹細胞を提供することが、本発明の目的である。本発明では、前記細胞の簡単な単離方法を提供することも目指している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、正常肝組織から入手される、成人肝由来の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞を含む細胞集団を提供する。これらの細胞の単離方法、これらの細胞の培養、分化前後での特性付け、これらの細胞の移植における使用方法、ヒト疾患動物モデル、毒物学、および薬理学も本発明の範囲内である。
【0016】
一態様では、成人肝に由来しており、少なくとも1つの間葉系マーカー、例えば、マーカーCD90、CD44、CD73、ビメンチン、α−平滑筋アクチン(ASMA)のうちの特に1、1以上、2、3、4、または全て、および肝細胞マーカー・アルブミン(ALB)、および恐らくは1以上の他の肝臓マーカーまたは肝細胞マーカー、またはCD29、α‐フェトプロテイン(AFP)、α−1アンチトリプシン、および/またはMRP2トランスポーターの好ましくは1、1以上、全てを同時発現することを特徴とする、新規の単離前駆細胞もしくは幹細胞(脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、更に好ましくはヒト細胞)に本発明は想達した。前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、更に、肝細胞の特性または機能を示す以下の分子の1、1以上、または全てを発現しうる:G6P、CYP1B1、CYP3A4、HNF−4、TDO、TAT、GS、GGT、CK8、EAAT2。前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、以下の1、1以上、または全てによって更に特徴付けられる:少なくとも造血マーカーCD45およびCD34、そして例えばCD105、HLA−DRなどの1以上の他の造血マーカーに陰性、そして恐らくは胆管細胞上皮マーカー・サイトケラチン−19(CK−19)、および、恐らくはより多くの上皮マーカーに陰性、そして少なくとも未分化幹細胞マーカーCD117およびOct‐4、および、恐らくは1以上の胚性幹細胞マーカーにも陰性、AFP発現レベルが低い。好ましくは、前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞が、単層増殖、扁平状、広い細胞質、および/または1または2個の核小体を伴う卵円核のうちの1、2以上、または全てを含む間葉様形態を伴う。
【0017】
一実施態様では、特に、本発明は、成人肝に由来する単離幹細胞を提供し、これはCD90、CD29、そしてCD44に陽性であり、アルブミン陽性、ビメンチン陽性、α平滑筋アクチン陽性である。一実施態様では、単離幹細胞は、CK−19陰性、CD45陰性、CD34陰性、CD117陰性でもある。本発明は、以下の特徴の少なくとも3つを有する原始間葉系幹細胞を含む細胞集団も提供する:抗体検出可能なアルブミン発現、抗体検出可能なビメンチン発現、抗体検出可能なα平滑筋アクチン発現、CK−19の非存在、CD45、CD45マーカーの非存在、CD34マーカーの非存在、CD117マーカーの非存在、CD90マーカーの証拠、CD29マーカーの証拠、またはCD44マーカーの証拠。好ましくは、細胞は前述の全ての特徴を有する。好ましい一実施態様では、幹細胞はヒト肝幹細胞である。
【0018】
一実施態様では、成人肝に由来する単離した幹細胞は、CD90、CD73、CD29、およびCD44に陽性であり、アルブミン陽性、ビメンチン陽性、α平滑筋アクチン陽性である。
【0019】
本発明は、単離した前駆細胞もしくは幹細胞、または前記の前駆細胞もしくは幹細胞を含む細胞集団の入手方法も提供するもので、該方法は以下の工程を含む:(a)成人肝またはその一部を分離して、前記成人肝またはその一部から一次細胞集団を形成する工程、(b)細胞を付着させる基質上に一次細胞を播種する工程、(c)少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、少なくとも13日間、または少なくとも15日間、前記基質に付着した一次細胞集団から細胞を培養する工程。
【0020】
本発明は、成人肝由来細胞を培養し、培養物から肝細胞を単離する工程、肝細胞を播種する工程、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、少なくとも13日間、少なくとも15日間、前記肝細胞を培養する工程を含む、本発明に従った、単離肝幹細胞またはこの細胞集団の入手方法も提供する。
【0021】
更なる別の一態様では、本発明の方法を利用して入手可能な、または直接入手される、単離した成人肝の前駆細胞もしくは幹細胞、その細胞株および/またはこれらの細胞を含む細胞集団を提供する。
【0022】
別の一態様では、本発明者らは、本発明に従って、成人ヒト肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の特定細胞集団(細胞株)を構築しており、2006年2月20日にブダペスト条約に基づき、Belgian Coordinated Collections of Microorganisms(BCCM/LMBP)により、受入番号LMBP 6452CB(International Depositary Authority;寄託者が与える識別票(identification reference):ADHLSC)で前記単離細胞株を寄託した。従って、本発明は、BCCMにより、受入番号LMBP 6452CB(本明細書において「LMBP 6452CB」細胞株)で寄託される単離細胞、細胞株、細胞集団、クローナル亜株を含むこれらの細胞の亜株、およびこれらの細胞の分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞(特に、これらの細胞から調製される肝細胞もしくは肝細胞様細胞)、遺伝的操作または別の方法で改変されたこれらの細胞の誘導体に関する。
【0023】
本発明は、本発明の単離肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、またはこれらの細胞の集団を含む組成物も提供する。好ましくは、肝細胞はヒト肝細胞であり、または哺乳動物の肝細胞である。
【0024】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)には、いくつかの重要な利点がある。例えば、胚由来の細胞とは異なり、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は成人に由来し、治療に使用した場合、無秩序な(腫瘍)増殖や悪性形質転換のリスクは低くなりうる。
【0025】
更に、本発明者らは、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は中胚葉系細胞(例、骨細胞、軟骨細胞、結合組織細胞)への分化能が実質的に示さず、細胞を肝組織に投与・移植する場合、これらの組織の異所性形成を軽減することに気づいた。
【0026】
本発明者らは、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、肝臓での肝細胞機能の再構成に特に適した肝細胞もしくは肝細胞様細胞への独特な分化傾向を有することにも気づいた。
【0027】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、以前記載されている卵形細胞などの肝臓由来細胞とは、例えば形態学的特徴やマーカー発現において明確に異なる。
【0028】
本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、医療、肝臓病、肝臓代謝の先天異常、移植、感染性疾患、肝不全に特に有用である。本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、(ヒト)肝細胞移植、ヒト肝細胞移植のモデル動物、バイオ人工肝臓、インビトロ肝細胞株および後天性ヒト肝疾患の動物モデルの作製、肝臓代謝スクリーニングテスト(薬物動態、細胞毒性、遺伝毒性)、肝細胞標的遺伝子治療に特に有用である。本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、更に肝細胞に分化できる。
【0029】
本発明は、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化した子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞、および医薬的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、肝細胞は、ヒト肝細胞または哺乳動物の肝細胞である。
【0030】
本発明は、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞の有効量を投与することを含む、肝疾患を治療する方法も提供する。一実施態様では、肝疾患として、以下が挙げられるが、これらに限定されない:フェニルケトン尿症および他のアミノ酸血症、血友病および他の凝固因子欠損症、家族性高コレステロール血症および他の脂質代謝障害、尿素回路障害、糖原病、ガラクトーゼ血症、果糖血症、チロシン血症、タンパク質・糖質代謝欠損症、有機酸尿、ミトコンドリア病、ペルオキシソーム・リソソーム異常、タンパク質合成異常、肝細胞トランスポーター欠損、グリコシル化異常、肝炎、肝硬変、先天性代謝異常、急性肝不全、急性肝感染症、急性化学毒性、慢性肝不全、胆管炎、胆汁性肝硬変症、アラギル症候群、α−1−アンチトリプシン欠損症、自己免疫性肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、肝嚢胞性疾患、脂肪肝、ガラクトーゼ血症、胆石、ジルベール症候群、血色素症、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、および他の肝炎ウイルス感染症、ポルフィリン症、原発性硬化性胆管炎、ライ症侯群、類肉腫症、チロシン血症、1型糖原病、あるいはウィルソン病。
【0031】
本発明は、以下の工程を含む、遺伝子発現異常を治療する方法も提供する:(i)本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞に機能的遺伝子コピーを導入し、そして形質転換集団を提供する工程;(ii)機能的遺伝子コピーを必要とする患者の肝臓に形質転換集団の少なくとも一部を導入する工程。または、形質転換集団は、肝臓病理学の新規動物モデルを作製するために、ヒト以外の哺乳動物の肝臓内に導入できる。
【0032】
本発明は、機能的遺伝子コピーを導入した、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含む、遺伝子発現異常を治療するための組成物も提供する。
【0033】
本発明は、機能的遺伝子コピーを導入した、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含む、遺伝子発現異常を治療するための医薬組成物、および医薬的に許容可能な担体も提供する。
【0034】
本発明は、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞の有効量を肝臓に投与することを含む、損傷または罹患した肝臓の再生を促進する方法も提供する。
【0035】
本発明は、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を入れるハウジングを含む、肝臓補助デバイスも提供する。
【0036】
本発明は、以下の工程を含む、インビトロ毒性試験を行う方法も提供する:本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を試験薬に触れさせる工程、およびもしあるならば、試験薬が肝細胞集団に及ぼす少なくとも1つの効果を観察する工程。好ましくは、少なくとも1つの効果として、細胞の生存、細胞の機能、またはこれらの両方に及ぼす効果が挙げられる。
【0037】
本発明は、以下の工程を含む、インビトロ薬物代謝試験を行う方法も提供する:(i)本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を試験薬に触れさせる工程、(ii)もしあるならば、所定の試験期間後で試験薬が関与する少なくとも1つの変化を観察する工程。好ましくは、少なくとも1つの変化として、試験薬の構造、濃度、またはこの両方における変化が挙げられる。
【0038】
本発明は、以下の工程を含む、肝感染症を治療するのに有効な薬剤の試験を行う方法も提供する:(i)本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を対象の感染物質に感染させ、感染集団を提供する工程、(ii)該感染集団を所定量の試験薬に触れさせる工程と、(iii)もしあるならば、該触れさせたことが該感染集団に及ぼす効果を観察する工程。一実施態様では、感染物質として微生物が挙げられる。別の実施態様では、感染物質として1種以上のウイルス、細菌、菌類、またはこれらの組み合わせが挙げられる。特定の実施態様では、認められる効果としては、ウイルス感染物質がウイルス複製に及ぼす効果が挙げられる。好ましくは、ウイルス感染物質として肝炎ウイルスが挙げられる。
【0039】
本発明は、以下の工程含む、対象のタンパク質を生産する方法も提供する:(i)本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞に対象のタンパク質をコードする機能的遺伝子を導入する工程、(ii)転写、翻訳、任意に翻訳後修飾が起るのに効果的な条件下で前記細胞集団を培養する工程、(iii)対象のタンパク質を回収する工程。好ましくは、肝細胞はヒト肝細胞である。一実施態様では、対象のタンパク質はワクチン抗原を含む。
【0040】
本発明は、以下の工程を含む、肝臓発生および肝細胞分化に関するインビトロ・インビボ試験を行う方法も提供する:本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞の細胞集団、または分化子孫細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞を分化条件に影響を及ぼす条件にインビトロないしインビボで触れさせる工程、および細胞集団に及ぼす少なくとも1つの効果を観察する工程。
【0041】
本発明には、細胞、細胞の調製、細胞の特性付け、細胞の培養方法、および細胞の産生が包含される。
【0042】
本発明には、冷凍保存によるこれらの細胞の保存および該細胞の培養も包含される。
【0043】
本発明には、動物およびヒトにおける細胞移植技術も包含される。
【0044】
本発明には、前述の疾患の治療用薬剤の調製用の、本発明の肝幹細胞の使用も含まれる。本発明は、キットまたはキットの一部における本発明の肝幹細胞の使用も包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本明細書において、別段特記しない限り、単数形の"a"、"an"、"the"は、単数形、複数形のいずれの指示対象も含む。一例として、「細胞(a cell)」は1種以上の細胞を指す。
【0046】
本明細書の「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」、「含まれる(comprised of)」とは、「含んでいる(including)」、「含む(includes)」または「含んでいる(containing)」、「含む(contains)」と類語であり、包括的である、または制限がなく、追加・列挙していない部材、要素、方法段階を除外しない。
【0047】
本明細書で引用した参考文献全ては、参照により本願明細書に援用される。特に、本明細書で具体的に参照した参考文献全ての教示は、参照により本願明細書に援用される。
【0048】
本発明の細胞の入手
一態様では、本発明は、単離した前駆細胞もしくは幹細胞、または前記の前駆細胞もしくは幹細胞を含む細胞集団を入手する方法を提供し、該方法には、以下の工程が含まれる:(a)成人肝またはその一部を分離して、前記成人肝またはその一部から一次細胞集団を形成する工程、(b)細胞を付着させる基質に一次細胞を播種する工程、(c)少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、少なくとも13日間、または少なくとも15日間、前記基質に付着した一次細胞集団から細胞を培養する工程。
【0049】
本明細書の使用の「単離した細胞」とは、1つ以上の細胞、または該細胞がインビボで結合した1つ以上の細胞成分と結合していない細胞を一般的に指す。例えば、単離細胞は、その本来の環境から取り出されたか、またはその本来の環境から取り出された細胞の増殖、例えば、生体外増殖に起因しうる。
【0050】
本明細書の「インビトロ」とは、ヒトまたは動物の体の外部または外側を示す。本明細書の「インビトロ」には、「エクスビボ」が含まれると理解されたい。通常、「エクスビボ」とは、動物またはヒトの体から取り出され、体外(例、培養器)で維持・増殖させた組織または細胞を指す。
【0051】
「細胞集団」とは、一般、細胞の分類を指す。別段指示のない限り、細胞集団とは、本明細書で定義する単離細胞のみから成る、または含む細胞の分類を指す。
【0052】
細胞集団は、共通の表現型を有する細胞のみから成る、または共通の表現型を有する少なくとも一部の細胞を含んでもよい。限定されないが、形態学的外観、特定の細胞成分または産物、例えば、RNA、タンパク質、他の物質)の発現の有無またはレベル、特定の生化学的経路の活性、増殖能および/または動態、分化能および/または分化シグナルへの応答性、またはインビトロ培養中での挙動、(例、付着性、非付着性、単層増殖、増殖動態など)のうちの1つ以上の実証可能な特性において、実質的に類似している、または同じである場合、細胞は共通の表現型を有すると言える。従って、該実証可能な特徴によって、細胞集団または細胞集団の一部を定義しうる。
【0053】
本明細書において細胞集団が「異種の」と呼ばれる場合、これは、共通の表現型を持たない2種以上の細胞または細胞の一部を含む細胞集団、例、2種以上の異なる細胞種の細胞を含む細胞集団を一般に指す。限定されないが、一例として、異種細胞集団は肝臓から単離可能であり、肝細胞(例、大型・小型肝細胞)、胆管細胞、クッパー細胞、肝星状細胞(Ito細胞)、肝臓内皮細胞などの多様な細胞種が含んでもよいが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書で細胞集団が「同種の」と呼ばれる場合、細胞集団は共通の表現型を持つ細胞のみから成る。本明細書において「実質的に同種の」と呼ばれる細胞集団は、共通の表現型を持つ実質的に大多数の細胞から成る。「実質的に同種の」な細胞集団は、具体的に指す表現型(例、前駆細胞もしくは幹細胞の表現型)など、共通の表現型を有する細胞を少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、あるいはさらに少なくとも99%含んでもよい。従って、本明細書で用いる「実質的に同種の」とは、同種の集団を包含してもよい。
【0055】
「前駆細胞もしくは幹細胞を含む細胞集団」とは、少なくとも1つの前駆細胞もしくは幹細胞、そして通常、本明細書で定義する、前駆細胞もしくは幹細胞の一部を含む、本明細書で定義する細胞集団を指す。一般に、前記一部の前駆細胞もしくは幹細胞は、共通の表現型を持ちうる。
【0056】
「前駆細胞」とは、概して、未分化で、または比較的、低分化で増殖能を有する細胞を指し、前駆細胞または前駆細胞の子孫細胞は少なくとも1つの分化した細胞種を生じることができる。限定されないが、一例として、前駆細胞は1つ以上の系統に沿って分化可能な子孫細胞を生じて、次第に、比較的分化した進んだ細胞を産生し、該子孫細胞および/または徐々に比較的分化した進んだ細胞自体は前駆細胞になるか、または最終分化細胞、つまり、完全分化細胞を生じて、これは分裂終了後でありうる。「前駆細胞」には、本明細書で定義する幹細胞も包含される。
【0057】
限定されないが、一例として、前駆細胞が最初に細胞分裂を受けることなく分化して他の細胞になる場合、または前駆細胞または前駆細胞の子孫細胞の1回の以上の細胞分裂および/または細胞分化後に他の細胞が産生される場合、前駆細胞は別の比較的分化した進んだ細胞を「生じる」と言う。
【0058】
「幹細胞」とは、自己再生能を有する、つまり、分化することなく増殖可能である前駆細胞を指し、幹細胞または幹細胞の少なくとも一部は、母幹細胞の実質的に未分化または比較的分化度の低い表現型、分化能、増殖能を維持している。この用語には、自己再生能が実質的に限られた幹細胞が包含され、幹細胞の子孫細胞またはその一部の更なる増殖能は、自己再生能の限られた幹細胞は無論、母細胞と比較しても、実質的には低下していない、つまり、母細胞と比較して、幹細胞の子孫細胞またはその一部の更なる増殖能の低下は実証されない。
【0059】
前述の特性は、一般に、前駆細胞および幹細胞のインビボでの挙動を指しており、適切な条件下では、インビトロおよび/またはエクスビボで完全に、または少なくとも部分的に再現されうることを当業者は承知している。
【0060】
様々な細胞種の産生能に基づいて、前駆細胞もしくは幹細胞は、通常、全能性、多能性、多分化性、または単能性を有すると記載できる。1個の「全能性」細胞は成長可能、つまり、生物全体に発生できると定義する。「多能性」細胞は生物全体には成長できないが、全3胚葉(中胚葉、内胚葉、外胚葉)に由来する細胞種を産生可能であり、生物の全ての細胞種を産生可能でありうる。「多分化性」細胞は、生物の2以上の異なる器官または組織から少なくとも1細胞種を産生可能であり、前記細胞種は同じ、または異なる胚葉に由来しうるが、生物の全ての細胞種を産生できるわけではない。「単能性」細胞は1細胞系統にのみ分化可能である。
【0061】
本明細書の「分化」、「分化している」、またはこれらの派生語は、未分化または比較的分化度の低い細胞の分化度が比較的高くなる過程を示す。細胞の個体発生において、「分化した」という形容詞は相対的な用語である。このため、「分化細胞」は、比較されている細胞よりも特定の発生経路の更に下流に進んだ細胞である。分化細胞は、例えば、最終分化細胞、つまり、生物の様々な組織および器官において特定機能を取り込む完全に分化した細胞で、細胞は分裂終了後でありうるが、必ずしも分裂終了後とは限らない。別の例では、分化細胞は、更に増殖および/または分化可能な分化系統内の前駆細胞でもありうる。同様に、細胞が、比較している細胞よりも特定の発生経路の更に下流に進んだ細胞である場合、その細胞は「比較的分化度が高く」、したがって後者は「未分化の」または「比較的分化度が低い」と見なされる。特定の細胞成分または産物(例、RNA、タンパク質、他の物質)の発現の有無またはレベル、特定の生化学的経路の活性、増殖能および/または動態、分化能および/または分化シグナルへの応答性、またはインビトロ培養中での挙動(例、付着性、非付着性、単層増殖、増殖動態など)のうちの特定の1以上の実証可能な表現型特性において、比較的分化度の高い細胞は、未分化または比較的分化度の低い細胞とは異なっており、該特性は、前記発生経路に更に沿った比較的分化度の高い細胞への進行を示す。
【0062】
非限定的な分化の例としては、例えば、多能性幹細胞の特定種の多分化性前駆細胞もしくは幹細胞への変化、多分化性前駆細胞もしくは幹細胞の特定種の単能性前駆細胞もしくは幹細胞への変化、単能性前駆細胞もしくは幹細胞の分化度のより高い細胞種または特定細胞系党内の最終分化細胞への変化が挙げられうる。未分化または分化度の低い細胞が、より分化度の高い細胞に分化すると、中程度に分化した細胞の出現という過程をたどる。
【0063】
肝組織の分離
記載の通り、本発明の方法には、成人肝または成人肝の一部から一次細胞集団を得るため前記成人肝または成人肝の一部を分離する工程が含まれる。
【0064】
「肝臓」は、肝臓器官を指す。「肝臓の一部」とは、概して、肝臓器官の一部を指し、由来する肝臓器官の前記部分または部位の量によって限定されない。好ましくは、肝臓器官に存在する全ての細胞種が、前記肝臓部分においても認められる。肝臓部分の量は、少なくとも部分的に実際的な考察から、例えば、本発明の方法を合理的に実施すために十分な量の一次肝細胞の入手する必要性から得られる。該配慮点は、本明細書の教示の観点から、当業者には明らかであろう。このため、限定はされないが、一例として、肝臓部分は、肝臓の少なくとも0.1%、または肝臓器官の少なくとも1%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%以上を占めうる(通例、w/w)。限定はされないが、他の例として、肝臓部分は、少なくとも1g、少なくとも10g、少なくとも100g、少なくとも200g、少なくとも300g、少なくとも400g、少なくとも500g、少なくとも600g、少なくとも700g、少なくとも800g、少なくとも900g、少なくとも1,000g、少なくとも1,100g、少なくとも1,200g、少なくとも1,300g、または少なくとも1,400g以上でありうる。例えば、肝臓の一部は、肝葉(例、右葉、左葉)、またはドミノ移植中に切除された部分IVでありうる。
【0065】
本発明の「成人肝」とは、組織形成および細胞組成において、発生上、実質的に成熟した肝臓を指す。
【0066】
特に、肝臓は出生直後の期間に発生時変化を受けて、実質的な成熟組織になりうることを、当業者は承知している。例えば、ヒト被験体では、出生時の肝臓にはかなり多くの造血細胞集団が含まれ、これらは生後約1〜2週間以内に肝臓から実質的に認められなくなる。更に、出生時のヒト被験体の肝臓には肝前駆細胞集団が含まれ、これらは生後数カ月以内に成熟肝細胞や胆管細胞によって実質的に置換される。
【0067】
従って、ヒト被験体では、「成人肝」とは、出生後の任意の時期、好ましくは満期産、および、例えば生後少なくとも1ヶ月(例、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、例えば、1年以上、5年以上、少なくとも10年以上、15年以上、20年以上、25年以上)の被験体の肝臓を指す。このため、「成人肝」または成熟肝臓は、従来、「幼児」、「小児」、「年少者」、「青少年」、「成人」とも呼ばれるヒト被験体において認められる。
【0068】
当業者であれば、肝臓は様々な動物種において、出生後間隔の異なる時期に、実質的に発生・成熟しうることを理解するであろうし、当業者は各々の種に関して「成人肝」という用語を適切に解釈できる。
【0069】
肝臓または肝臓の一部は、「被験体」、「ドナー被験体」、「ドナー」から入手し、これらは、互換性を持って、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。
【0070】
「哺乳動物」としては、限定されないが、ヒト、家畜、動物園の動物、競技用動物、ペット、愛玩動物、そして例えばマウス、ラット、うさぎ、犬、猫、牛、馬、豚、霊長類、例えば、猿や類人猿などの実験動物に分類される任意の動物が挙げられる。
【0071】
特に好ましい実施態様では、成人肝またはその一部はヒト被験体由来である。本明細書の別の箇所で詳述するとおり、本発明のヒト被験体の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞または細胞株、またはこれらの子孫細胞は、例えば、研究や患者、特に、肝疾患を患うヒト被験体の治療に有利に使用できる。
【0072】
別の実施態様では、成人肝またはその一部は、ヒト以外の動物の被験体、好ましくはヒト以外の哺乳動物の被験体由来でありうる。ヒト以外の動物の肝臓またはヒト以外の哺乳動物の被験体の肝臓由来である、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞または細胞株、またはこれらの子孫細胞は、例えば、関連する同に属する動物、他のヒト以外の動物やヒト以外の種における肝疾患の研究や治療、または肝疾患を伴うヒト患者の治療(例、ヒト以外の動物またはヒト以外の動物の細胞を含む、異種移植、バイオ人工肝臓デバイス)における使用に利点がありうる。限定されないが、一例として、ヒトの治療での使用に特に適したヒト以外の哺乳動物細胞は、ブタに由来しうる。
【0073】
当該分野で認められた判断基準、例えば、「心肺」基準(通例、循環・呼吸機能の不可逆的停止を含む)、または「脳死」基準(通例、脳幹を含む脳全体の全ての機能の不可逆的停止を含む)によってドナー被験体の生死を判定する。採取には、例えば、生検、摘除、切除など、当該技術分野において周知の手技が含まれうる。
【0074】
ドナー被験体から肝臓または肝臓の一部を採取する少なくとも一部の態様には、それぞれの法的・倫理的基準の影響下におかれ得ることを当業者であれば理解するであろう。限定はされないが、一例として、生きたヒト被験体からの肝組織の採取は、ドナーのさらなる生命維持と両立させる必要がありうる。従って、通例、ドナーの生理学的肝臓機能を適切なレベルに保つように、肝臓の一部を生きたヒトのドナーから摘出(例、生検、摘除)してもよい。他方、ヒト以外の動物からの肝臓または肝臓の一部の採取は、ヒト以外の動物のさらなる生存と両立させる必要はない。例えば、組織採取後、ヒト以外の動物は人道的に屠殺してもよい。これらの、そして同様の配慮は当業者には明らかであり、法的・倫理的基準を反映しているであろうし、本発明の本質とは実質的に無関係である。
【0075】
一実施態様では、肝臓または肝臓の一部は、循環、例えば、心拍や呼吸機能、例えば、肺呼吸、人工呼吸)を維持していたドナー、特に、ヒトのドナーから入手してもよい。倫理的・法的基準の対象となるため、ドナーは脳死である必要がある場合と、必要がない場合がある(例、脳死のヒトにおいて、ヒトのドナーのさらなる生存とは両立しない、肝臓全体または肝臓の一部の除去が可能である)。通例、組織は虚血(循環停止)に起因する実質的な酸素欠乏(酸素供給の欠如)に陥らないため、該ドナーからの肝臓または肝臓の一部の採取は有利である。
【0076】
別の実施態様では、本発明者らが驚くことに実現したことには、肝臓または肝臓の一部は、組織採取時に循環が停止しており、例えば、心拍停止であり、および/または呼吸機能停止状態であり、肺呼吸停止であり、人工呼吸を受けていないドナー、特に、ヒトのドナーから入手できる。これらのドナー由来の肝臓または肝臓の一部は、ある程度の無酸素状態に陥った可能性があり、本発明の生存前駆細胞もしくは幹細胞は、該組織からも採取できることを本発明者らは気づいた。ドナーの循環(例、心拍)停止から約24時間以内、例えば、約20時間以内(例、約16時間以内)、より好ましくは約12時間以内(例、約8時間以内)、更に好ましくは約6時間以内(例、約5時間以内、約4時間以内、または約3時間以内)、更に好ましくは約2時間以内、そして最も好ましくは約1時間以内(例、約45、30、15分以内)に肝臓または肝臓の一部を採取できる。
【0077】
上で採取した組織を室温近く、または室温以下の温度まで冷却してもよいが、組織や組織の一部の凍結は通常(特に、該凍結が核生成や氷晶の増大を招きうる場合には)さける。例えば、約1℃から室温、約2℃から室温、約3℃から室温、または約4℃から室温までの任意の温度で組織を保存してもよく、約4℃で保存すると好都合となりうる。該技術分野で公知の「氷上」に組織を保存してもよい。虚血時間(つまり、ドナーにおける循環停止後の時間)の全てまたは一部にわたり組織を冷却してもよい。つまり、温虚血、冷虚血、または温虚血と冷虚血の併用に組織を曝すことができる。例えば、処理前48時間まで、好ましくは24時間未満(例、16時間未満)、より好ましくは12時間未満(例、10時間未満、6時間未満、3時間未満、2時間未満、1時間未満)にわたり採取した組織を保存してもよい。
【0078】
採取した組織は、組織を更に処理する前に、例えば、必要ではないが、適切な培地中に完全に、または部分的に沈めて保存すると都合が良くなり、および/または、必要ではないが、適切な培地で灌流させてもよい。処理期間中に組織の細胞の生存を支持できる適切な培地を当業者は選択できる。
【0079】
本発明の方法には、前述の成人肝組織を分離して、一次細胞集団を形成することが含まれる。
【0080】
本明細書で使用の「分離」とは、概して、組織または器官の細胞構成の部分的または完全な破壊、つまり、組織または器官の細胞および細胞成分の間の結合の部分的または完全な破壊を指す。当業者が理解するように、組織または器官の分離の対象のは、前記組織または器官からの細胞浮遊液(細胞集団)の入手である。浮遊液は、物理的に付着して、2つ以上の細胞の集団または塊を形成する細胞の他、単独の、または個々の細胞を含んでもよい。分離によって、好ましくは、細胞の生存率が低下しない、または低下が最小限になるようにする。
【0081】
肝臓または肝臓の一部を分離して、一次細胞集団(浮遊液)を得る適切な方法は、限定はされないが、酵素消化、機械的分離、ろ過、遠心分離、これらの併用など、当該技術分野において周知の任意の方法でよい。一実施態様では、肝臓または肝臓の一部を分離する方法には、肝細胞を遊離させるため肝組織の酵素消化を含んでもよい。一実施態様では、肝臓または肝臓の一部を分離する方法には、肝細胞を遊離させるため肝組織の機械的破壊または分離を含んでもよい。一実施態様では、肝臓または肝臓の一部を分離する方法には、肝細胞を遊離させるため肝組織の酵素消化および機械的破壊または分離を含んでもよい。
【0082】
前述の肝臓または肝臓の一部の分離方法は、当該技術分野において文書化されている。例えば、肝組織からの肝細胞の単離は、1960年代半ばから公知である(Howardら、1967. J Cell Biol 35: 675-84)。後にBerryとFriendによって改変される、機械的方法と酵素消化の組み合わせ法を利用して、ラット肝細胞を単離した(J Cell Biol 43: 506-20, 1969)。この方法は、Seglenによって更に開発され、汎用されている2工程コラゲナーゼ灌流法になった(Methods Cell Biol 13: 29-83, 1976)。
【0083】
一実施態様では、一次細胞集団(浮遊液)を得るため肝臓または肝臓の一部を分離する方法は、2工程コラゲナーゼ灌流法である、または2工程コラゲナーゼ灌流法を含む。前記方法の前述の発表以来、方法の様々な改変が記載されており、および/または考えられており、本発明に含まれることを当業者は承知している。
【0084】
限定はされないが、具体例として、一般的な2工程コラゲナーゼ技術に関する簡単な説明が続く。肝臓全体に対して、カニューレを肝臓に存在する大血管内に留置して、縫合によって固定できる。肝臓の部分または区域に対して、カニューレを患者の血管の開口部内に留置して、縫合によって固定できる。この場合、通常、小血管の開口部を閉鎖して、切り口からの灌流液の漏出を防ぐ必要がある。例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やエチレングリコール四酢酸(EGTA)などの陽イオン−キレート化剤を含む、37℃に予熱した二価陽イオン不含緩衝液で肝組織を灌流させる。緩衝液には塩溶液(例、N−2−hydroxyethylpiperazine−N’−ethanesulfonic acid (HEPES)、ウィリアムスE培地、ハンクス平衡塩類溶液、アール平衡塩類溶液)を含むことができ、特にNaClやKClなどの塩を含むこともできる。これによって、細胞をまとめるデスモソーム構造が破壊される。次に、Ca2+やMg2+などの二価陽イオン、および組織の消化作用を有するマトリクス分解酵素を含む緩衝液で組織を灌流させる。一次肝細胞、特に肝細胞は、通常、例えば、コームでのかき集め、攪拌、フィルター(例、ステンレス・スチール・フィルター、チーズクロス、ナイロン生地)への圧入などの穏やかな機械的破壊によって遊離させて、細胞分離過程を機械的に完了させる。該フィルターは、肝細胞の通過を可能にするふるい目(限定はされないが、例として、約0.1mm以上、約0.25mm以上、約0.50mm以上、約1mm以上、約2mm、3mm、4mm、5mm)を有することができる。ふるい目が次第に小さくなる連続フィルターを使用して、組織を徐々に分離させ、細胞を遊離させることができる。プロテアーゼ阻害剤、血清、および/または血漿を含む緩衝液で分離させた細胞を洗い、低速(例、10 x g〜500 x g)遠心分離によって分離させて(実質的に全ての生細胞を沈殿させて、死細胞や細胞残屑を実質的に除去すると都合が良い)、灌流工程で使用したコラゲナーゼなどの酵素を不活性化させ、氷冷緩衝液で得られた沈殿物を洗って、細胞浮遊液を精製させる。
【0085】
単離肝細胞の数と質は、例えば、使用した組織の質、灌流緩衝液の組成物、酵素の種類と濃度に応じて変化しうる。頻繁に使用する酵素として、限定はされないが、コラゲナーゼ、プロナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ、ヒアルロニダーゼ、サーモリシン、パンクレアチン、そしてこれらの組み合わせが挙げられる。細菌(例、ヒストリチクス菌から)から調製されることの多い、コラゲナーゼが最も一般的に使用されるが、精製度の低い酵素混合物からなる場合が多く、このため酵素作用にばらつきが生じうる。一部の酵素は、不要な反応を生じるプロテアーゼ活性を示し、生細胞/正常細胞の質と量に影響を及ぼす。生きた肝細胞集団を得るため十分な純度と質の酵素を使用することを当業者は承知している。
【0086】
他の一次肝細胞を採取方法では、酵素消化法が除外されうる。機械的破壊が汎用されているが、この方法により産生される肝細胞の収穫量にはばらつきがある他、コラゲナーゼ消化よりも少なくなる傾向がある。しかし、最近では、低温環境での制御振動と併用したショ糖‐EDTA灌流を含む方法が開発されており、十分な成功をもたらしている(Kravchenkoら、2002. Cell Biol Int 26: 1003-1006)。肝臓灌流は、EDTA(pH7.4)を含むショ糖溶液を使用してインシツで実施される。灌流後、体から肝臓を取り出して、皿の上に置き、少量の氷冷培地中で細かく分割する。肝臓断片の細胞は、ホモジェナイザー・モーターを使用して、制御した機械振動分離法(MVD)によって遊離させる。次に、この方法で産生された、結果として得られるスラリーを粗いメッシュに通してろ過することで、肝細胞の最初の浮遊液が得られる。細胞を培地中に懸濁させて、遠心分離によって回収できる。従って、一実施態様では、肝臓または肝臓の一部の分離は機械的破壊による。
【0087】
肝組織から少なくとも肝細胞を遊離させるためには、2工程コラゲナーゼ法が特に適していることを当業者は承知している。当該技術を利用して得られた細胞浮遊液は、相当な割合で肝細胞を含み、また他の肝細胞種も含みうる。記載の通り、該細胞浮遊液は、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞を入手するための出発材料として特に適していることを本発明者らは気づいた。
【0088】
一実施態様では、肝臓または肝臓の一部を分離する方法によって、個々の細胞(つまり、1個の細胞)を少なくとも10%(例、少なくとも20%)、少なくとも30%(例、少なくとも40%)、少なくとも50%(例、少なくとも60%)、少なくとも70%(例、少なくとも80%)、または少なくとも90%、または約100%までを含む細胞浮遊液を形成できる(当業者が容易に最適化できる)。
【0089】
記載の通り、肝組織を分離することによって、前記成人肝またはその一部に由来する一次細胞集団がこのように提供される。
【0090】
本明細書で用いる「一次細胞」として、被験体の組織または器官から得られた細胞浮遊液に存在する細胞(例、分離された細胞(つまり、播種前の細胞集団)、外植組織に存在する細胞、初回播種時の細胞種、およびこれらの初回播種細胞由来の細胞浮遊液の細胞の両方)が挙げられる。「二次細胞」とは、培養におけるその後の全工程の細胞を指す。このため、最初に播種した一次細胞を継代する(例、基質表面から浮かして、再び播種する)場合、後の継代での全細胞と同様に、これらの細胞は二次細胞と呼ばれる。
【0091】
肝臓または肝臓の一部を分離することによって、本明細書で定義され、入手された一次細胞集団は、通常、異種であってもよく、つまり、肝臓に含まれる2つ以上の細胞種に属する細胞も含んでよい。肝臓を構成する代表的な細胞種として、限定はされないが、肝細胞、胆管細胞(胆管細胞)、クッパー細胞、肝星状細胞、Ito細胞、卵形細胞、肝内皮細胞が挙げられる。前述の用語は、当該技術分野において確立した意味を持ち、このように分類される任意の細胞種を含むと本明細書において広義で解釈される。肝臓を構成する細胞種は、更に肝実質細胞と非実質細胞のいずれも含む。
【0092】
限定はされないが、さらなる具体例として、「肝細胞」には、異なる大きさ(例、「小型」、「中型」、「大型」肝細胞)、倍数性(例、二倍体、四倍体、八倍体)、または他の特徴を有する肝細胞など、上皮性の肝実質細胞が含まれる。例えば、本明細書で定義する「大型の」肝細胞は、肝臓の生理機能に関与する実質細胞であり、「小型の」肝細胞は、肝細胞へ発生する前駆細胞の供給源を提供することを示す者もいる(例、Mitakaら、Biochem Biophys Res Commun 214: 310-7, 1995参照)。限定はされないが、別の実例として、「胆管細胞」には胆管の上皮細胞が含まれる。限定はされないが、実例として、「卵形細胞」には、当該技術分野において周知の異なる形態(例、核の形状)および細胞マーカーの発現を包含し、これらは特定の条件下で、肝細胞や胆管細胞を生じる能力を有する前駆細胞であることが示されている(Lowesら、KN.2003. J Gastroenterol Hepatol 18: 4-12; Yiら、1999. J of Hepatology 31: 497-507)。
【0093】
このため、一実施態様では、一次肝細胞の異種集団には、少なくとも2、例えば、少なくとも3または少なくとも4以上の肝臓を構成する細胞種、例えば、限定はされないが、前述の細胞種を含む、肝臓を構成する全てまたは実質的に全ての細胞種に属する細胞が含まれうる。異種集団には、過去に当該技術分野において記載、分類、単離、および/または特性付けされていない肝細胞種の他、インビボ、インビトロを問わず、過去に異種集団と記載されている肝細胞種が含まれうることを当業者は理解する。
【0094】
異種細胞集団には、必要はないが、分離された肝臓または肝臓の一部に存在する同じ、または実質的に同じ相対的比率で、様々な肝細胞種を含んでもよいことも当業者は理解する。例えば、肝組織の特定の分離方法によって、他の1以上の細胞種と比較して、1以上の細胞種がより効率的に単離されうるが、得られた細胞浮遊液は、前者の1以上の細胞種について無意識または意識的に濃縮されうることを当業者は知っている。更に、一部の分離方法が、異なる肝細胞種の生存および/または生存率に及ぼす影響は異なりうる。また、肝臓または肝臓の一部の分離によって得られた細胞集団における、所望の1以上の肝細胞の濃縮方法を当業者は熟知している。該方法として、限定はされないが、ディファレンシャル遠心分離、浮遊密度匂配遠心、ろ過、細胞溶出法、親和性精製、プロテアーゼ消化などが挙げられる。
【0095】
一実施態様では、一次肝細胞の異種集団には、肝臓を構成する全て、または実質的に全ての細胞種に属する細胞を含みうる。本発明者らは、過去に未開示の種類の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞の入手方法を実現した。それにもかかわらず、本発明者らは、前記の新規の前駆細胞もしくは幹細胞の起源として任意の仮説に拘束されないことを望む。
【0096】
限定はされないが、一例として、前記の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの起源細胞は、肝臓(例、肝実質または肝非実質)に存在していた可能性がある。例えば、これらの起源細胞は、単離した前駆細胞や幹細胞と同じ、類似の、または異なる表現型を有しうる(例、本発明の培養によって、起源細胞の表現型が変化した可能性がある)。または、もしくは、更に、単離した前駆細胞もしくは幹細胞は、例えば、1以上の肝細胞種の分化または脱分化(例、過去に既知または未知の肝細胞種)などの変化に起因して生じた可能性がある。この観点から、本発明の方法は、好ましくは、全て、または実質的に全ての肝細胞種を代表する細胞集団から始まりうる。
【0097】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が、肝臓または肝臓の一部の分離によって形成される肝細胞を含む細胞集団から入手可能であれば好都合であることを本発明者らは理解している。このため、本発明の肝臓または肝臓の一部の適切な分離方法によって、肝細胞を含む細胞集団が形成される。理論に拘束されないが、本発明者らは、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの起源細胞は、少なくとも肝臓から肝細胞を遊離させる方法で、肝臓の分離によって肝組織から同時に遊離される。
【0098】
一実施態様では、肝臓または肝臓の一部の分離方法によって、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%(例、少なくとも60%)、より好ましくは少なくとも70%(例、少なくとも80%)、更に好ましくは少なくとも90%(例、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)の割合で肝細胞を含む細胞集団を形成しうる。かなりの割合の肝細胞(例、少なくとも約50%以上)を含む細胞集団を形成する、肝臓または肝臓の一部を分離する方法によって、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞を入手するための適切な出発細胞集団が提供されることを本発明者らは気づいた。
【0099】
好ましい一実施態様では、前述の割合の肝細胞を含む細胞集団は、細胞集団における肝細胞および/または他の細胞種のさらなる濃縮の工程を含まない、肝臓または肝臓の一部の分離によって入手してもよい。
【0100】
好ましい別の実施態様では、前述の割合の肝細胞を含む細胞集団は、肝臓または肝臓の一部の分離、および細胞集団における肝細胞および/または他の細胞種(特に、肝細胞)の1以上のさらなる濃縮の工程によって入手してもよい。しかし、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの起源細胞は、細胞集団における肝細胞、肝細胞のサブグループ、または他の細胞種の濃縮方法において、肝細胞の遊離に適した分離条件下で肝臓から遊離させることが可能であり、常に必要ではないが、肝細胞、または肝細胞の1以上のサブグループ(例、「大型」または「小型」肝細胞)、または他の細胞種と同時に精製してもよいことを当業者は理解する。結果として得られる細胞集団において本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの起源細胞を保持する、肝細胞または他の細胞種(特に、肝細胞)の濃縮方法の選択は、当業者の能力の範囲内である。
【0101】
更に、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの起源細胞は、適切な分離方法を利用して、肝臓から得られた細胞集団においてこれらの細胞を濃縮可能にする特定の特性(例、物理的特性または表面マーカーの発現)を有しうることを当業者は理解する。1以上の基準に基づいて分離した細胞集団のいずれの画分に本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの起源細胞が含まれるか、またはいずれの画分が濃縮されるかを判断することは、当業者の可能な範囲内でありうる。例えば、本発明の方法による様々な試験画分からの細胞の培養、いずれの画分が前駆細胞もしくは幹細胞を産生するかの確認によって、これは実施できる。
【0102】
細胞の「濃縮集団」とは、インビボまたは濃縮する細胞集団で認められうるよりも高い相対比率で1以上の細胞種が存在する細胞集団を指す。
【0103】
肝組織由来の一次細胞の播種
説明の通り、本発明の方法には、肝組織の分離によって得られる一次細胞集団の培養が含まれる。この目的のために、細胞の付着を可能にする基質上に肝細胞の一次集団を播種する。
【0104】
通例、前記環境は、前記環境と周囲との好ましくない物質交換を予防でき(これによって、例えば、環境汚染を避ける、または環境から培地や培地中の細胞を避ける)、前記環境と周囲との他の有用な物質成分の連続的かつ断続的な交換を可能にする(例、全て、または一部の培地の不定期な交換、断続的なガス交換、培養後の細胞の回収など)、周囲から適当に範囲を定めたシステム内に提供されうる。通常、細胞の培養に適した環境は、当該技術分野において周知の培養器、例えば、様々な形の細胞培養フラスコ、ウェルプレート、ディッシュ内に作ることができる。
【0105】
本発明において、細胞(例、一次肝細胞)は、細胞の付着を可能にする基質、つまり、一般に、細胞の付着や接着に対して反発しない表面に播種する。例えば、細胞付着が可能な1つ以上の基質表面を呈する、培養系内(例、培養器)に細胞を播種することで、これは実施できる。前記の1つ以上の基質表面が浮遊細胞(例、培地中の浮遊細胞)と接触した場合、細胞と基質表面との細胞接着が結果として起りうる。従って、「細胞の付着を可能にする基質への播種」とは、播種した細胞が前記基質表面に接触できるような、一般に細胞の付着が可能な、少なくとも1つの基質表面を特徴とする、培養系への細胞の導入を指す。付着している細胞培養物の維持に関する一般的原理は当該技術分野で周知である。
【0106】
一般に、細胞の付着を可能にする基質は、実質的に親水性の任意の基質でよい。当該技術分野において公知の通り、培養器(例、培養フラスコ、ウェル・プレートなど)は、通常、限定はされないが、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリヒドロキシ酸、多無水物、ポリオルソエステル、ポリホスファゼン、ポリリン酸塩、ポリエステル、ナイロン、またはこれらの混合物などを含む、様々なポリマー材質から作ることができる。一般に、これらの材質でできた培養器には、表面を親水性にすることで効率的な細胞接着の可能性を高めるために、成形前に表面処理が施される。表面処理は表面コーティングの形をとることができ、ポリマー表面上に化学基を形成させるための指向性エネルギーの利用を含むことができる。概して、これらの化学基は水に対して親和性であるが、親和性でない場合には十分な極性を示し、別の極性基への安定な吸着を可能にする。これらの官能基は親水性および/または表面酸素の増大を招き、このように改変された基質表面においてはこれらの特性による細胞増殖の促進が認められる。該化学基として、アミン、アミド、カルボニル、カルボキシル化、エステル、ヒドロキシル、スルフヒドリルなどの基を挙げることができる。指向性エネルギーの例として、大気コロナ放電、高周波(RF)真空血漿処理、DCグロー放電、または血漿処理(例、米国特許出願第6,617,152号明細書)が挙げられる。付着細胞を増殖させるための現行の標準的技法には、ウシ、ヒト、他の動物の血清を添加した合成化学培地の使用を含むことができる。血清添加によって、栄養分および/または増殖促進因子の提供の他、細胞がより良く付着できるマトリクス層での処理済みプラスチック表面のコーティングによって、細胞の付着を促進させることもできる。
【0107】
細胞の付着に適した代替基質表面はガラスでよく、任意に、官能基を導入するために、例えば、前述の通り、表面の親水性を高めるために表面を処理できる。
【0108】
他の付着性の基質表面は、表面コーティング、例えば、前述のポリマー表面または処理済みポリマー表面のコーティングによって作製できる。限定はされないが、一例として、コーティングにはポリオルニチンやポリリジンなどの適切なポリカチオンが挙げられる。
【0109】
別の例では、好ましいコーティング、およびそれに従う基質には、1種以上の細胞外成分が含まれる:例、ECMタンパク質、フィブリン、ラミニン、コラーゲン、好ましくはコラーゲン1型、グリコサミノグリカン、例、ヘパリンまたはヘパラン硫酸塩、フィブロネクチン、ゼラチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、アグリカン、アグリン、骨シアロタンパク質、軟骨基質タンパク質、フィブリノゲン、フィブリン、ムチン、エンタクチン、オステオポンチン、プラスミノーゲン、レストリクチン、セルグリシン、SPARC/オステオネクチン、バーシカン、トロンボスポンジン1、またはカドヘリン、コネキシン、セレクチンなどの細胞接着分子で、これら単独または様々な併用。
【0110】
好ましい例としては、フィブリン、ラミニン、コラーゲンを挙げることができる 更に好ましい例として、例えば、ECMタンパク質に富む腫瘍であるEHSマウス肉腫から抽出された基底膜の可溶化調製物であるMatrigel (登録商標) Basement Membrane Matrix(BD Biosciences)、(ラミニンを主成分にしており、続いてコラーゲン4型、へパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチンが豊富)などのECM成分を含む組成物が含まれうる。
【0111】
特に好ましい実施態様として、コラーゲンのみからなる、または含むコーティング(特に、コラーゲン1型)が挙げられる。
【0112】
当業者が理解する通り、その後の所望の密度での細胞の播種を容易にするために、細胞をカウントできる。本発明の通り、播種後の細胞は主に培養系(例、培養器)に存在する基質表面に付着できる場所では、播種密度は、前記基質表面1mm2または1cm2当たりに播種した細胞数で表すことができる。本発明では、分離肝臓または分離肝臓の一部から得られた一次細胞の播種密度は、1個/mm2〜1x10個/mm2(例、1x10個〜1x10細胞/mm2)、または1x10個〜1x10個/mm2、例えば、1x10個〜1x10個/mm2、5x10個〜5x10個/mm2、1x10個〜1x10個/mm2、1x10個〜1x10個/mm2(例、約1x10、5x10、1x10、5x10、1x10、5x10、6x10、7x10、8x10、9x10、1x10、2x10、3x10、4x10、5x10、または1x10個/mm2)でありうる。
【0113】
通例、一次肝細胞の播種後、細胞浮遊液を付着表面に接触したままにしておき、細胞集団から前記表面への細胞の付着を可能にする。一次肝細胞と付着基質との接触時、少なくとも培地(本発明の方法においては、通例、細胞の生存および/または増殖を支持する液体培地)を含む環境に細胞を浮遊させると都合が良い。細胞の導入前、導入と一緒に、または導入後に培地を系に添加できる。培地は新鮮培地(つまり、過去に細胞培養において未使用)、または過去の細胞培養(例、播種中の細胞またはその前駆細胞である細胞の培養、または播種中の細胞とは関連が乏しい細胞、または関連しない細胞の培養)によって馴化された培地を少なくとも部分的に含んでよい。
【0114】
前記付着を促進させるために、一実施態様では、少なくとも約0.5時間(例、少なくとも1時間)、好ましくは少なくとも2時間(例、少なくとも4時間)、より好ましくは少なくとも8時間(例、少なくとも12時間)、更に好ましくは少なくとも16時間(例、少なくとも20時間)、そして最も好ましくは少なくとも24時間以上(例、少なくとも約28、32、36、40、44、48時間)にわたり一次細胞の浮遊液を付着表面に接触させてもよい。
【0115】
他の好ましい実施態様では、約2時間〜約48時間(例、約12時間〜約48時間)、好ましくは約12時間〜約36時間(例、約16時間〜約32時間)、更に好ましくは約20時間〜約28時間、そして最も好ましくは約24時間にわたり一次細胞浮遊液を付着表面に接触させることができる。
【0116】
前述の時間が好ましいが、短縮や延長によって本発明に適する細胞付着をもたらすこともでき、当業者はこの時間を最適化できる。
【0117】
前述の通り、一次肝細胞集団からの細胞を付着基質に付着させた後、培養系から非付着物を除去する。限定されないが、非付着物質としては、付着基質に付着しなかった細胞(例、付着傾向のない細胞、または付着のために与えられた時間内に付着しないと思われる細胞)、非生存細胞または死細胞、細胞残屑などが含まれうる。通常、培養系から培地を捨てることで非付着物質を除去するが、この時に付着細胞は基質に付着したままであり、任意に、適切な培地または等張性緩衝液(例、PBS)で付着細胞および培養系を1回または繰り返し洗う。ここに、更に培養するために、基質表面に付着した一次肝細胞集団からの細胞を選択する。
【0118】
細胞を播種して、付着させた環境には、少なくとも培地(本発明の方法においては、通例、細胞の生存および/または増殖を支持する液体培地)を含むことができる。細胞の導入前、導入と一緒に、または導入後に培地を系に添加できる。培地は新鮮培地(つまり、過去に細胞培養において未使用)、または過去の細胞培養(例、播種中の細胞またはその前駆細胞である細胞の培養、または播種中の細胞との関連が乏しい細胞、または関連しない細胞の培養)によって馴化された培地を少なくとも部分的に含んでもよい。
【0119】
培地は、本明細書の別の箇所に記載している適切な培地でよい。好ましくは、培地の組成は、付着細胞の次の培養工程において使用する培地の組成と同じ特徴を有してもよく、同じ、または実質的に同じでよい。他の点については、培地は異なってもよい。培地に細胞の付着性を促進させうる血清や血漿を含むことができれば都合が良い。
【0120】
肝組織からの一次細胞の培養
好ましくは前記環境において、前記基質に付着した一次細胞集団由来の細胞を、続いて、少なくとも7日間、例えば、少なくとも8日間または少なくとも9日間、好ましくは少なくとも10日間、例えば、11日間または少なくとも12日間、少なくとも13日間または少なくとも14日間、より好ましくは少なくとも15日間、例えば、少なくとも16日間または少なくとも17日間、または更に少なくとも18日間、例えば、少なくとも19日間または少なくとも20日間以上にわたり培養する。「培養」は当該技術分野において一般的であり、広義では、細胞および/またはその子孫細胞の維持および/または増殖を指す。
【0121】
実施態様では、約10日間〜40日間、好ましくは少なくとも約15日間〜約35日間、例えば、少なくとも約15日間〜20日間(例、少なくとも約15、16、17、18、19、20日間)にわたり一次細胞を培養できる。好ましくは、一次細胞は、60日間未満、または50日間未満、または45日間未満にわたりこのように培養できる。
【0122】
当業者が理解する通り、培養系における長期間の細胞培養では、培地を新鮮培地と定期的に交換する必要がありうる。例えば、培地のpH、細胞密度、または細胞の外観などの細胞培養のパラメータを調べることで、当業者は培地交換の必要を評価できる。通例、播種後、定期的に、例えば、1〜10日毎、好ましくは16〜32時間毎(例、約24時間)、そしてその後、好ましくは2〜6日毎、またはより好ましくは2〜4日毎(例、約2、3、4日毎)に培地を交換できる。培地の全量を交換でき、または、前記の細胞培養によって馴化させた培地の一部がそのまま残るように、培地の一部だけを交換できる。一実施態様では、実質的に全量の培地を新鮮培地と交換する。好ましい別の実施態様では、長期間の細胞培養中には培地を交換しない。
【0123】
液体培地の存在下において、一次細胞の浮遊液および更なる付着細胞を培養させる。通例、培地には当該技術分野で周知の基礎培地製剤が含まれる。限定はされないが、イーグル最小必須培地(MEM)、ダルベッコ変法イーグル最小必須培地(DMEM)、α変法最小必須培地(αMEM)、基礎必須培地(BME:Basal Medium Essential)、イスコフ改変DME培地(IMDM)、BGJb培地、F−12 Nutrient Mixture (Ham)、Liebovitz L−15、DMEM/F−12、Essential Modified Eagle’s Medium(EMEM)、RPMI−1640、Medium 199、Waymouth’s MB 752/1またはウィリアムスE培地、そしてこれらの改変培地および/併用培地など、多くの基礎培地製剤(例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC: American Type Culture Collection)、またはInvitrogen(米国カールズバッド)から入手可能)は、本明細書の一次細胞の培養に使用できる。前述の基礎培地は、一般に、当該技術分野において公知であり、当業者は、培養中の細胞に必要な培地および/または培地添加物の濃度を改変または調節できる。一実施態様では、好ましい基礎培地製剤はウィリアムスE培地であり、成人肝細胞のインビトロでの培養を維持するための栄養豊富な製剤である。他の実施態様では、前述の製剤から選択される、他の基礎培地製剤を利用できる。
【0124】
該基礎培地製剤には、それ自体が公知である、哺乳動物細胞の発生に必要な成分が含まれる。限定はされないが、具体例として、これらの成分には無機塩(Na、K、Mg、Ca、Cl、P、そして恐らくはCu、Fe、Se、Znを含む特定の塩)、生理的緩衝液(例、HEPES、重炭酸塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシド、および/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、酸化防止剤(例、グルタチオン)、炭素源(例、グルコース、ピルビン酸(例、ナトリウムピルビン酸)、酢酸塩(例、酢酸ナトリウム)などが含まれてもよい。多くの培地が、ピルビン酸ナトリウム含有/不含低グルコース製剤として利用可能であることも明らかであろう。
【0125】
培養での使用において、基礎培地には1以上の他の成分を供給できる。例えば、追加の補助剤を使用して、最適な生育と増殖に必要な微量元素および物質を細胞に供給できる。該補助剤として、インシュリン、トランスフェリン、セレン塩、そしてこれらの併用が挙げられる。これらの成分には、限定はされないが、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、アール塩溶液などの塩溶液を含むことができる。他の酸化防止剤(例、β−メルカプトエタノール)を添加してもよい。多くの基礎培地にはアミノ酸が既に含まれるが、一部のアミノ酸(例、溶液中で安定性が低下することが判明しているL−グルタミン酸)は後で添加してもよい。通例、ペニシリンとストレプトマイシンの混合物、および/または他の化合物(例、限定はされないが、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタミシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ニスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、プロマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、タイロシン、zeocin)などの抗生物質および/または抗真菌化合物を培地に更に添加してもよい。
【0126】
細胞培養においてホルモンを使用しても都合が良く、ホルモンとしては、限定はされないが、以下が挙げられる:D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インシュリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)、チロトロピン、チロキシン、L−サイロニン、上皮性成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)。肝細胞は、トリヨードチロニン、α−酢酸トコフェロール、およびグルカゴンで培養することでも恩恵を得ることができる。
【0127】
細胞培養の培地へ添加するために、脂質や脂質担体を使用することもできる。該脂質や担体としては、限定されないが、特に、シクロデキストリン、コレステロール、アルブミン抱合リノール酸、アルブミン抱合リノール酸およびオレイン酸、非抱合型リノール酸、アルブミン抱合型リノール・オレイン・アラキドン酸、アルブミン抱合・非抱合型オレイン酸を挙げることができる。アルブミンは、脂肪酸不含製剤においても同様に使用できる。
【0128】
細胞培養の培地に哺乳動物の血漿または血清を添加することも検討する。血漿や血清には、生存と増殖に必要な細胞因子・成分が含まれることが多い。適切な交換血清の使用も検討する。
【0129】
「血漿」は、従来の定義どおりである。通例、全血サンプルから血漿を採取して、凝固防止用に血液サンプルの採取時または採取直後にヘパリン、クエン酸塩(例、クエン酸ナトリウムやクエン酸デキストロース)、シュウ酸塩、またはEDTAなどの抗凝固剤と一緒に提供する、または接触させる。続いて、適切な方法、通例、遠心分離によって液体成分(血漿)から血液サンプルの細胞成分を分離させる。従って、「血漿」は、ヒトまたは動物の体の一部を形成しない組成物を指す。
【0130】
「血清」は、従来の定義どおりである。通常、まずサンプル中で凝固を起こさせて、続いて、適切な方法(通例、遠心分離)によって液体成分(血清)から血液サンプル中に形成した凝血塊および細胞成分を分離することで、全血サンプルから血清を入手できる。不活性触媒、例えば、ガラスビーズや粉によって凝固を促進できる。当該技術分野において周知の血清分離器(SST)を使用して血清を調製可能であると都合が良く、ここには凝固を促進させる不活性触媒が含まれ、遠心分離後に液体成分、凝血塊、細胞成分が分かれることを意図した密度のゲルを含むことで、分離が容易になる。または、抗凝固薬とフィブリンを除去することで、血漿から血清を入手可能である。このように、「血清」とは、ヒトまたは動物の体の一部を形成しない組成物を指す。
【0131】
単離した血漿や血清は、本発明の方法において直接使用できる。それらは、本発明の方法において、その後の用途のために適切に保存できる。通例、血漿または血清は、それらの各凝固点以上、室温未満の温度でより短期間(例、約1〜2週間まで)にわたり保存できる。通常、この温度は、約15℃以下、好ましくは約10℃以下、より好ましくは約5℃以下(例、約5℃、4℃、3℃、2℃、約1℃)、最も好ましくは約5℃または約4℃である。

または、血漿や血清は、それらの各凝固点未満(つまり、凍結保存)で保存できる。当該技術分野において公知の通り、血漿または血清の凍結保存に都合の良い温度は約−70℃以下(例、約−75℃以下または80℃以下)でありうる。これらの温度は、保存した血漿または血清の融解を防止して、これらの品質を保つのに都合が良い。血漿または血清の保存期間を問わず、凍結保存を利用できるが、長期保存(例、数日間または1〜2週間以上)が必要な場合に特に適しうる。
【0132】
保存または使用の前に、単離する血漿または血清を熱不活化できる。当該技術分野において、熱不活化は主に補体を除去するために利用される。熱不活化として、通例、定常攪拌を伴う、56℃、30〜60分間(例、30分間)の血漿または血清のインキュベーションが挙げられ、インキュベーション後、血漿または血清を室温まで徐冷させる。前述手順に関する一般的な改変や必要条件は、当業者には公知である。
【0133】
任意に、血漿または血清は、保存または使用前に消毒してもよい。一般的な滅菌方法として、例えば、孔径1μm未満、好ましくは0.5μm未満、例えば、0.45μm、0.40μm、0.35μm、0.30μm、0.25μm未満、より好ましくは0.2μm以下、例えば、0.15μm以下、0.10μm以下を有する1種以上のフィルターを通過させるろ過が挙げられる。
【0134】
本発明の培地での使用に適した血清または血漿として、ヒトの血清または血漿、ヒト以外の動物、好ましくはヒト以外の哺乳動物、例えば、ヒト以外の霊長類(例、キツネザル、猿、類人猿)、胎児または成体のウシ、豚、羊、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウス、ラット由来の血清または血漿などを挙げることができる。別の実施態様では、本発明においては、前述の血漿および/または血清の任意の併用が予測される。
【0135】
従って、一実施態様では、血清または血漿は、一次肝細胞を入手するための種と同じ種の生物から入手できる。限定はされないが、一例として、ヒトの一次肝細胞を培養するためにヒトの血清または血漿を使用できる。
【0136】
好ましい別の実施態様では、培地には、ウシの血清または血漿、好ましくはウシ胎児の血清または血漿、より好ましくはウシ胎児の血清(FCSまたはFBS)が含まれる。
【0137】
別の実施態様では、ヒトの一次肝細胞の培養に使用する培地には、ウシの血清または血漿、好ましくはウシ胎児の血清または血漿、より好ましくはウシ胎児の血清(FCSまたはFBS)が含まれる。
【0138】
実施態様では、培地には、約0.5%〜約40%(v/v)、好ましくは約5%〜約20%(v/v)、例えば、約5%〜約15%(v/v)の血清または血漿、または血清交換液、より好ましくは約8%(v/v)〜約12%(v/v)、例えば、約10%(v/v)の血清または血漿、または血清交換液、特に、先に定義した好ましい血清または血漿が含まれる。
【0139】
更に好ましい実施態様では、ヒトの一次肝細胞の培養に使用する培地には、約0.5%〜約40%(v/v)、好ましくは約5%〜約20%(v/v)、例えが、約5%〜約15%(v/v)、より好ましくは約8%(v/v)〜約12%(v/v)、例えば、約10%(v/v)の量で、ウシの血清または血漿、好ましくはウシ胎児の血清または血漿、より好ましくはウシ胎児の血清(FCSまたはFBS)が含まれる。
【0140】
更に他の実施態様では、培地には2以上の種由来の血漿または血清が含まれてもよい。例えば、培養している一次肝細胞に対応する種、および別の種に由来する血清または血漿の混合物が培地に含まれてもよい。例えば、ヒト肝細胞を培養するための培地には、ヒトの血漿または血清、好ましくはヒトの血清と、ウシの血漿または血清、好ましくはウシの血清の混合物が含まれてもよい。
【0141】
更に、好ましくは少なくとも1つの外因性の(つまり、血漿または血清に加えて)成長因子を培地に添加してもよい。基礎培地の正常成分(血清または血漿の添加前)、例えば、特に、等張食塩水、緩衝剤、無機塩、アミノ酸、炭素源、ビタミン剤、酸化防止剤、pH指示薬、抗生物質が、当該技術分野において成長因子または分化因子とは見なされないことを当業者は理解するであろう。他方、血清または血漿は、場合により、1以上のこれらの成長因子または分化因子を含む複雑な組成物である。
【0142】
本明細書の「成長因子」とは、様々な細胞種の増殖、成長、分化、生存および/または移動に影響を及ぼし、単独で、または他の物質による調節を受けて、生物の発生、形態、機能上の変化を引き起こす可能性のある生物活性を有する物質を指す。成長因子は、通常、成長因子に応答する細胞に存在する受容体(例、表面または細胞内の受容体)にリガンドとして結合することにより作用しうる。本明細書の成長因子は、特に1つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク性成分でありうる。
【0143】
限定はされないが、例として、「成長因子」には、以下が含まれる:繊維芽細胞成長因子(FGF)ファミリー、骨形成タンパク質(BMP)ファミリー、血小板由来成長因子(PDGF)ファミリー、形質転換成長因子ベータ(TGF−ベータ)、神経成長因子(NGF)ファミリー、表皮成長因子(EGF)ファミリー、インシュリン関連成長因子(IGF)ファミリー、肝細胞成長因子(HGF)ファミリー、造血成長因子(HeGFs)、血小板抽出内皮細胞成長因子(PD−ECGF)、アンジオポイエチン、血管内皮成長因子(VEGF)ファミリーのメンバー、およびグルココルチコイドなど。
【0144】
好ましい実施態様では、培地には、表皮成長因子(EGF)ファミリーのメンバーである成長因子が含まれる。他の実施態様では、前記のEGFファミリーのメンバーは、アンフィレギュリン、ベータセルリン、EGF、エピレギュリン、HB−EGF(ヘパリン結合EGF様成長因子)、NRG1(ニューレグリン−1)アイソフォームGGF2、NRG1アイソフォームSMDF、NRG1−α、NRG1−β、TGFα、トモレギュリン−1、TMEFF2から成るグループから選択される。特に好ましい実施態様では、培地にはEGFが含まれる。
【0145】
別の実施態様では、培地には、インシュリン関連成長因子(IGF)ファミリーのメンバーである成長因子が含まれる。別の実施態様では、前記のIGFファミリーのメンバーは、インシュリン、IGF1A(インシュリン様成長因子1A)、IGF1B、IGF2、INSL3(インシュリン様3)、INSL5、INSL6、レラクシンから成るグループから選択される。特に好ましい実施態様では、培地にはインシュリンが含まれる。
【0146】
別の実施態様では、前記グルココルチコイドは、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニソン、トリアムシノロン、コルチコステロン、フルオシノロン、コルチゾン、ベタメタゾンから成るグループから選択される。特に好ましい実施態様では、培地にはデキサメタゾンが含まれる。
【0147】
好ましい他の実施態様では、培地には、外から添加した2以上の成長因子または先に定義した好ましい成長因子の組み合わせを含んでもよい。限定はされないが、例として、EGFおよびインシュリン、またはEGFおよびデキサメタゾン、またはインシュリンおよびデキサメタゾン、または各EGF、インシュリンおよびデキサメタゾンが培地に含まれてもよく、これらの外から添加した成長因子を含む培地は、好ましくは前述の実施態様において定義した血清または血漿を含んでもよい。
【0148】
当業者は、特定の成長因子が、特にインビトロ培養細胞に対して効果を誘発できる濃度について一般的に知識を有しており、先に列挙した成長因子の該濃度を利用できる。限定はされないが、例として、EGFは、通例、約0.1ng/mL〜1μg/mL、好ましくは1ng/mL〜100ng/mL、例えば、約25ng/mLの濃度で使用可能であり、インシュリンは、通例、約0.1μg/mL〜1mg/mL、好ましくは1μg/mL〜100μg/mL、例えば、約10μg/mLの濃度で使用可能であり、デキサメタゾンは、通例、約0.1nM〜1μM、好ましくは1nM〜100nM(例、約10nM)の濃度で使用できる。
【0149】
好ましい実施態様では、特に、ヒト肝細胞に方法を用いる場合、現行の方法で使用する成長因子はヒト成長因子でよい。本明細書の「ヒト成長因子」とは、天然型ヒト成長因子と実質的に同じ成長因子を指す。例えば、成長因子がタンパク性成分である場合、その成分のペプチドまたはポリペプチドは天然型ヒト成長因子と同じ一次アミノ酸配列を有しうる。該成長因子は細胞機能に望ましい効果を及ぼすことが期待されるため、今回の方法におけるヒト成長因子の使用は好ましい。
【0150】
記載の通り、先に定義した時間にわたり一次肝細胞を培養して、そして好ましくは前述の培地成分を使用することで、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が出現・増殖し、一次肝細胞の培養が長期にわたると分化した肝細胞種の割合が低下することを本発明者らは実現した。任意の仮説に限定されないが、分化した肝細胞種は、例えば、長期間の培養中に増殖、死滅、および/または脱分化することはない。実験の項に詳する通り、前駆細胞もしくは幹細胞は、特にその形態によって、一次細胞培養に存在する他の細胞種から区別でき、本発明者らの知識により、間葉または間葉様形態と示され、通例、扁平状、広い細胞質、1または2個の核小体を伴う卵円核を含みうる。
【0151】
前記の前駆細胞もしくは幹細胞の一次培養の出現、増殖、濃縮は、1以上の分化肝細胞種、特に、単離した一次肝細胞培養において優勢な肝細胞のさらなる排除の好ましいように培地を改変させることで更に促進できることも本発明者らは実現した。該条件において、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、増殖して、一次肝細胞培養において優勢な細胞種になることができれば好都合である。例えば、1以上の分化細胞種が物理的に減少するか、培養中に排除されるため、分化肝細胞種を喪失する可能性がある。または、1以上の細胞種が培養中に脱分化するために、分化表現型が減少する可能性がある。
【0152】
1以上の分化肝細胞種、特に肝細胞の排除に好ましく、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の増殖を維持する(例えば、細胞培養における分化細胞種の優勢の目視検査によって容易に判定できる)培地を使用できる。具体例として、本発明者らが例示する通り、1つの改変は、高濃度グルコース、例えば、3,000mg/L〜6,000mg/L、好ましくは4,000mg/L〜5,000mg/L、通例、4,500mg/Lを含む基礎培地の使用でありうる。別の改変は、(血清または血漿に存在する成長因子に加えて)外から成長因子を添加しなくてもよい。一例として、少なくとも外から添加したインシュリン、デキサメタゾン、および/またはEGFは、培地に存在しない。しかし、他の変更は、ウィリアムスE培地以外の基礎培地の使用でもよい(一次肝細胞種、特に肝細胞の長期培養に適しうる)。限定はされないが、例として、MEM、DMEM、α−MEM、EMEMなどの基礎培地を使用すると好都合でありうる。前述の1以上または全てについて培地を変更できることを理解されたい。先に詳述した実施態様を含む、前述の血清、血漿、血清交換液が培地に含まれることを理解されたい。
【0153】
一実施態様では、一次肝細胞の培養開始時に、1以上の分化肝細胞種の排除に好ましく、前述の本発明の前駆細胞もしくは幹細胞を促進させる培地を添加できる。別の実施態様では、一次肝細胞の長期培養中に培地をこのように交換できる。例として、一次肝細胞の播種後、1日目前後、2日目前後、3日目(例、4または5日目前後)に開始して、または6日目前後(例、7または8日目前後)に開始して、9日目前後(10または11日目前後)に開始して、12日目(例、13または14日目前後)に開始して、より好ましくは15日目前後(16、17、18、19、20日目前後)に開始して、培地をこのように交換できる。例示的な実施態様では、播種後16時間〜32時間目(例、24時間目前後)に培地をこのように交換できる。実施態様では、培地をこのように交換した後、例えば2〜6日毎、好ましくは2〜4日毎(例、3〜4日毎)に培地を交換/新しくできる。
【0154】
このため、例示的な好ましい実施態様では、培地への播種後、分化肝細胞種(肝細胞など)を含む一次肝細胞種の生存に好ましい培地中で一次肝細胞を培養でき、肝細胞を含む、1以上の分化肝細胞種の排除に好ましく、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞を促進させる培地と交換できる。例えば、最初に、以下の特徴の1以上または全てを有する培地中で一次肝細胞を培養させる:例えばウィリアムスE培地などの栄養素が豊富な基礎培地を含有、低濃度グルコース(例、500mg/L〜2,999mg/L、好ましくは1,000mg/L〜2,000mg/L)含有、少なくとも1つの外から添加した成長因子および好ましくはインシュリン、デキサメタゾン、EGFの1以上または全てを含有。その後、前述の時間に、以下の特徴の1以上または全てを含むように培地を交換できる:ウィリアムスE培地以外の基礎培地(例、MEM、DMEM、α−MEM、EMEMなどの基礎培地)含有、高濃度グルコース含有、外から添加した成長因子を不含、少なくともデキサメタゾン、インシュリン、および/またはEGFを不含。先に詳述した好ましい実施態様を含む、前述の血清、血漿、血清交換液が前述の培地に含まれうることが理解されるはずである。
【0155】
記載の通り、一次肝細胞の前述の培養によって、培養物において本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が出現・増殖する。本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が十分に増殖するまで、前記培養を継続すると都合が良い。例えば、細胞集団が一定の密集度、例えば、少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、更に好ましくは少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、少なくとも90%以上の密集度に達するまで前記培養を継続できる。本明細書の「密集度」とは、細胞が互いに接触して、増殖に利用可能な全表面を実質的に覆う(つまり、密集度100%)、培養細胞の密度を指す。
【0156】
細胞の継代
前記の一次肝細胞の培養、そして本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の出現・増殖後、このようにして得た細胞集団を少なくとも1回継代できる。
【0157】
驚くべきことに、一次細胞培養において出現した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、継代後に増殖能を実質的に保持しているため、都合良く、これらの細胞を更に濃縮できることに本発明者らは気づいた。簡素化のために、本明細書において、本方法のこの工程で実施する継代を本発明の方法における「第1継代」(または継代1)と呼ぶ。少なくとも1回、好ましくは2回以上、細胞を継代できる。本明細書において、第1継代に続く各継代は、数字を1ずつ増やして、例えば、継代2、3、4、5などと呼ぶ。
【0158】
継代時、培養細胞を培養基質から剥離させて、互いを分離させる。細胞の剥離・分離は、当該技術分野において公知の通り、例えば、タンパク質分解酵素(例、トリプシン、コラゲナーゼ(例、I、II、III、IV型)、ディスパーゼ、プロナーゼ、パパインから選択する)による酵素処理、二価イオンキレーター(例、EDTAまたはEGTA)による処理、機械的処理(例、小孔またはピペット先端を通す反復ピペッティング)、またはこれらの処理の任意の併用によって実施できる。好ましくは、培養細胞の剥離および分離は、相当な割合の細胞を単一細胞として産生しうる。例えば、細胞の40%以上、例えば、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、例えば、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、例えば、細胞の少なくとも90%または少なくとも95%の細胞を単一細胞として回収できる。更に、細胞の塊または集団内に残りの細胞が存在し、その大部分に、比較的少数の細胞、例えば、平均して細胞1〜10個、例えば、細胞8個未満、好ましくは細胞6個未満、より好ましくは細胞4個未満、例えば、3個未満または2個未満が含まれうる。
【0159】
通例、細胞の剥離・分散の適切な方法によって、細胞の生存を維持させる必要がある。好ましくは、剥離・分散後に得られた細胞浮遊液には、生細胞が少なくとも60%、例えば、少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%、最高100%まで生細胞が含まれうる。一般に、所望の程度の細胞剥離・分散を保証し、細胞の生存を保つための条件の選択について当業者であれば承知している。
【0160】
次に、このようにして剥離・分離させた細胞(通例、等張緩衝液または培地中の細胞浮遊液として)、細胞付着を可能にする基質上に再播種させて、続いて、前述の培地中で培養させ、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の増殖を更に維持させる。通例、1x10〜1x10個/cm2、例えば、1x10〜1x10個/cm2、好ましくは1x10〜1x10個/cm2、例えば、約1x10個/cm2、約5x10個/cm2、約1x10個/cm2、約5x10個/cm2、または約1x10個/cm2、好ましくは約1x10〜1x10個/mm2の播種密度で細胞を再播種できる。
【0161】
または、例えば、分割比、約1/8〜約1/2、好ましくは約1/4〜約1/2、より好ましくは約1/2〜約1/3で細胞を再播種できる。分割比とは、細胞を得た容器と同じ表面積を有する空の(通例、未使用の)培養器内に播種した継代細胞の割合を示す。
【0162】
細胞を再播種させる付着性基質については、本明細書の別の箇所で詳述している。基質は、好ましくは、前述の基質の好ましい実施態様を含む、一次肝細胞を播種したものと同種、または異種であってよい。好ましくは、この基質はコラーゲン、特に前述のコラーゲンI型である。
【0163】
このように継代させた細胞を、細胞が少なくとも50%、例えば、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、例えば、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、例えば、少なくとも95%または100%の密集度になるまで更に培養させると好都合である。
【0164】
本発明者らは、本方法のこの工程で得られた細胞集団には、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞がかなりの割合で含まれており、前述の1回目と同様に、少なくとももう1回(つまり、少なくとも2回目の継代)継代すると好都合であることに気づいた。これによって、形態および/またはマーカー解析によって判定される、細胞集団における本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の割合が更に上昇して、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の実質的に同質な集団さえ得ることができる。
【0165】
このため、本発明により、前記培養物中に前駆細胞もしくは幹細胞の出現・増殖をもたらす一次肝細胞の播種および培養後、培養した細胞を少なくとも1回(つまり、1回目の継代)、好ましくは少なくとも2回(つまり、1、2回目の継代)、任意により多くの回数(つまり、1回目、2回目、および続く各継代)にわたり継代させる。例えば、一次肝細胞の播種後、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、または少なくとも5回、細胞を継代できる。別の実施態様では、一次肝細胞の播種後、2〜10回(例、2〜8回)、または2〜5回、細胞を継代できる。前述の通り、好ましい実施態様を含み、当業者には公知の改変を含みうる、1回目の継代と実質的に同じ、または同様の条件で、追加の継代(例、細胞の剥離・分散、播週、基質など)および培養(例、培地、培地交換、結果として得られる密集度など)を実施できる。
【0166】
このように、本発明の方法によって、本開示で定義する、前駆細胞もしくは幹細胞を相当な割合で含む細胞集団が提供され、一次肝細胞の1回以上の継代という長期培養によって前記の前駆細胞もしくは幹細胞の割合を上昇させることができる。通例、該集団は前記の前駆細胞もしくは幹細胞の少なくとも約10%、例えば、少なくとも約20%を含むが、通常、より高い割合、例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%以上の前記の前駆細胞もしくは幹細胞が得られることを本発明者らは発見した。更に、該方法によって、前記の前駆細胞もしくは幹細胞と実質的に同種、または同種の集団が生じることもできる。前駆細胞もしくは幹細胞の割合は、適切な標準方法、例えば、フローサイトメトリーによって評価できる。
【0167】
得られた細胞の維持
本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞を含む集団は、本発明の方法によって得られ、恐らくは前記の前駆細胞もしくは幹細胞を更に濃縮させる場合、次に、分化させることなく、前記の前駆細胞もしくは幹細胞を増殖・倍化させることのできる条件において細胞集団を維持および/または増殖させることができる。該条件は、例えば、前駆細胞もしくは幹細胞を得るために利用した条件でよい。細胞分化した有無を評価できる当業者は、他の条件を容易に確立しうる。これによって、他の用途に利用可能な前駆細胞もしくは幹細胞の数を増やすことができれば都合が良い。
【0168】
本発明者らは、哺乳動物細胞について当該技術分野において公知の通り、他の用途のために、一次細胞または続く他の継代細胞を凍結保存できることに気づいた。
【0169】
一次細胞培養物に出現する本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が、凍結融解後に増殖能を実質的に保持していることに本発明者らは気づいた。当該技術分野において一般に実施される通りに、前記細胞を保存して、融解させ、本明細書の別の箇所に記載の同じ条件で再播種できる。
【0170】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞
前述の一次肝細胞の培養時、また好ましくは継代時に得られた細胞集団が、少なくとも1つの間葉系マーカー、特に1つ以上、例えば2、3、4つの間葉系マーカー、あるいはマーカーCD90、CD73、CD44、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチン(ASMA)の全てを、肝細胞マーカー・アルブミン(ALB)で、および恐らくは1つ以上の他の肝臓マーカーまたは肝細胞マーカー、好ましくはCD29、α‐フェトプロテイン(AFP)、α−1アンチトリプシン、および/またはMRP2トランスポーターの好ましくは1つ以上、または全てで、同時発現する(つまり、陽性である)、本発明の肝臓由来前駆細胞もしくは幹細胞を含むことを本発明者らは気づいた。
【0171】
より特定の一実施態様では、本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞が、少なくとも1つの間葉系マーカー、特に1つ以上、例えば2、3、4つの間葉系マーカー、あるいはマーカーCD90、CD73、CD44、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチン(ASMA)の全てを、肝細胞マーカー・アルブミン(ALB)で、および恐らくは1つ以上の他の肝細胞マーカー、好ましくはα−1アンチトリプシン、およびMRP2トランスポーターの好ましくは1つまたは2つで、および少なくとも1つの肝臓マーカーCD29、あるいはα‐フェトプロテイン(AFP)で、同時発現しうる(つまり、陽性である)。
【0172】
前記のいずれの成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞も、肝細胞様の特性または機能を示す以下の分子のうちの1つ以上、または全てを更に発現しうる:G6P、CYP1B1、CYP3A4、HNF−4、TDO、TAT、GS、GGT、CK8、EAAT2。前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、以下の1つ以上、または全てによって更に特徴付けられる:少なくとも造血マーカーCD45およびCD34、そして例えば、CD105、HLA−DRなどの1つ以上の他の造血マーカーに陰性;そして胆管細胞上皮マーカー・サイトケラチン−19(CK−19)、そして恐らくはより多くの上皮マーカーに陰性;そして少なくとも未分化幹細胞マーカーCD117およびOct‐4、そして恐らくは1つ以上の胚性幹細胞マーカーにも陰性;AFP発現レベルが低い。好ましくは、前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、単層増殖、扁平状、広い細胞質、1または2個の核小体を伴う卵円核の1つ以上、またはすべてを特に含む間葉様形態を伴う。
【0173】
CD(「共通の決定基」)記号による特定の細胞表面分子の同定は、当該技術分野において周知である。本願における分子の他の名称または記号は、当該技術分野において確立されたものとしても使用できる。特定の分子に関する他の明細書も実施例において見ることができる。
【0174】
細胞が特定マーカーに陽性であると考えられている場合、このことは、例えば、適切な対照と比較して、適切な測定を実施した際、そのマーカーを抗体で検出可能な、または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法によって検出可能な明確なシグナルの存在または証拠を当業者が結論付けたことを意味する。該方法によってマーカーの定量的評価が可能な場合、陽性細胞は、平均して、対照とは有意に異なるシグナルを生じる(例、限定はされないが、対照細胞の生じるシグナルよりも少なくとも1.5倍、例えば、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍以上)。
【0175】
フローサイトメトリー、免疫細胞化学または親和性吸着、ウェスタンブロット解析、ELISAなどの当該技術分野において周知の任意の適切な免疫学的方法、またはマーカーmRNAの定量の適切な方法(例、ノーザンブロット、半定量的または定量的RT−PCRなど)を利用して、細胞特異的マーカーを検出できる。
【0176】
前記の前駆細胞もしくは幹細胞を含む、本発明の方法によって得られた細胞集団を回収して(例、適切な剥離方法により)、当該技術分野において公知の方法によって特定の特性を示す細胞を任意に、更に濃縮できる(それゆえに、これらの細胞を前記集団から単離できる)ことを当業者であれば認識するであろう。限定はされないが、具体例として、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞に特有の1つ以上の表面分子を示す細胞は、特異的(標識済み)抗体またはマーカーなどの他の認識剤によって識別でき、これらの表面分子を示さない細胞から分別できる(例、蛍光活性化細胞選別装置を利用、または例えば、カラム、ビーズ、表面(パニング)への親和性結合、を利用)。どのような他の細胞の濃縮方法も本発明に含まれる。
【0177】
別の一態様では、本発明者らは、新規の単離前駆細胞もしくは幹細胞(脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、更に好ましくはヒト細胞)が、少なくとも1つの間葉系マーカー、特に1つ以上、例えば2、3、4つの間葉系マーカー、あるいはマーカーCD90、CD29、CD44、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチン(ASMA)の全てを、肝細胞マーカー・アルブミン(ALB)、および恐らくは1つ以上の他の肝細胞マーカーで、同時発現する(つまり、陽性である)ことを特徴とする、成人肝に由来した新規の単離前駆細胞もしくは幹細胞(脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、更に好ましくはヒト細胞)をかくして実現した。前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞は、以下の1つ以上、または全てによって更に特徴付けられ得る:少なくとも造血マーカーCD45、CD34およびCD117陰性、そしておそらく1つ以上の他の造血マーカーにも陰性;そしてサイトケラチン−19(CK−19)に陰性;そして単層増殖、扁平状、広い細胞質、および/または1または2個の核小体を伴う卵円核のいずれか、または全てを含む間葉様形態。
【0178】
従って、特定の実施態様(1)では、単離した肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、ALBとともにCD90、CD73、CD44、ビメンチン、α−平滑筋アクチン(ASMA)を同時発現する。別の実施態様(2)では、肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、ALBおよびα−1アンチトリプシンとともに、CD90、CD44、ビメンチン、α−平滑筋アクチン(ASMA)を同時発現する。別の実施態様(3)では、肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、ALBおよびMRP2とともに、CD90、CD73、CD44、ビメンチン、α−平滑筋アクチン(ASMA)を同時発現している。別の実施態様(4)では、肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、ALB1α−1アンチトリプシンおよびMRP2とともに、CD90、CD44、ビメンチン、α−平滑筋アクチン(ASMA)を同時発現する。他の実施態様(5)では、前記の実施態様(1)〜(4)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CD29を更に発現する。他の実施態様(6)では、前記の実施態様(1)〜(4)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、α‐フェトプロテインを更に発現する。他の実施態様(7)では、前記の実施態様(1)〜(4)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CD29およびα‐フェトプロテインを更に発現する。
【0179】
他の実施態様(8)では、前記の実施態様(1)〜(7)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CD45およびCD34陰性である。他の実施態様(9)では、前記の実施態様(1)〜(7)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CD117およびOct‐4陰性である。他の実施態様(10)では、前記の実施態様(1)〜(7)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CD45、CD34、CD117、Oct‐4陰性である。
【0180】
他の実施態様(11)では、前記の実施態様(1)〜(10)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CK19陰性である。他の実施態様(12)では、前記の実施態様(1)〜(10)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CK7陰性である。他の実施態様(13)では、前記の実施態様(1)〜(10)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、CK19およびCK7陰性である。
【0181】
他の実施態様(14)では、前記の実施態様(1)〜(13)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、単層増殖、扁平状、広い細胞質、および/または1または2個の核小体を伴う卵円核のいずれか、または全てを好ましくは含む間葉様形態を示す。
【0182】
他の実施態様(15)では、前記の実施態様(1)〜(14)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、肝細胞様の特性または機能を示す以下の分子の1つ以上、または全てを更に発現している:G6P、CYP1B1、CYP3A4、HNF −4、TDO、TAT、GS、GGT、CK8、EAAT2。
【0183】
他の実施態様(16)では、前記の実施態様(1)〜(15)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、肝細胞様の特性または機能を示す以下の分子の1つ以上、または全てを更に発現している:CD49e、CD13、CD54、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI(HLA −ABC)。
【0184】
他の実施態様(17)では、前記の実施態様(1)〜(16)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、以下の分子の1つ以上、または全てに対して陰性である:CD105、HLA−DR、CD133、CD49b、CD49f&CD140。
【0185】
他の実施態様(18)では、前記の実施態様(6)〜(17)のいずれかの肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、α−フェトプロテイン(AFP)を低レベルで発現している。好ましくは、前記低濃度は、正常な肝細胞において測定される発現レベルと実質的に一致する。好ましくは、これは、改変させた腫瘍化ヒト肝細胞株(例、HepG2)において測定される発現レベル未満である。
【0186】
単離した、本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞は、好ましくは、幹細胞の特性を示し、特に、通例、少なくとも限られた(および、恐らくは実質的に無限の)自己複製(つまり、分化したない増殖能)を示す。限定はされないが、例として、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、少なくとも4継代(例、少なくとも6継代、少なくとも10継代、または少なくとも20継代、少なくとも50継代以上)にわたりこのように増殖できる。
【0187】
別の態様では、本発明は、以下の工程を含む方法を利用して入手可能な、または直接入手される、単離した成人肝前駆細胞、その細胞株、および/またはこれらの細胞を含む細胞集団を提供する:(a)被験体、好ましくは脊椎動物、哺乳動物、およびより好ましくはヒト被験体から、好ましくは2段階コラゲナーゼ法により、成人肝またはその一部を分離して、前記の成人肝またはその一部由来の一次細胞集団を形成する工程;(b)ウシ胎児血清、好ましくは10%(v/v)、EGF、好ましくは25ng/mL、インシュリン、好ましくは10μg/mL、デキサメタゾン、好ましくは1μMを含むウィリアムスE培地中のI型コラーゲン被覆基質に該一次細胞集団を播種する工程;(c)24時間、該一次細胞集団由来の細胞を前記基質に付着させ、その後該培地を(b)と同じ組成物を有する新鮮培地と交換する工程;(d)2週間(好ましくは15日間)の間に、(c)の前記培地中で該細胞を培養する工程;(e)該培地を高グルコースおよびFCS、好ましくは10%含有DMEMと交換し、該細胞をさらに培養する工程で、それにより本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が出現し、増殖し;(f)任意に、そして好ましくは、該細胞を(b)と同じ基質へ播種して、(e)と同じ培地中で培養させ、細胞密集度を70%にして、該細胞を少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回継代させる工程。
【0188】
工程(a)には、好ましくは、細胞を少なくとも孔径0.25mmのふるい、好ましくは孔径が0.25mmまで徐々に小さくなる連続するふるい(例、実施例1)を通過させることによる一次細胞の剥離が含まれてもよい。
【0189】
工程(e)の培地には、好ましくは、実施態様のデキサメタゾン、インシュリン、EGFが含まれなくてよい。別の実施態様では、培地には外から添加する成長因子が含まれなくてよい。
【0190】
一態様では、本発明は前記の方法にも関する。
【0191】
他の態様では、本発明は、実施例1に記載のプロトコルに従って入手可能な、または直接入手される、単離した肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、および/またはこれらの細胞を含む細胞集団を提供する。
【0192】
別の一態様では、本発明者らは、特に実施例1に記載した本発明の方法を利用して、成人ヒト肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の特定細胞集団(細胞株)を構築しており、2006年2月20日にブダペスト条約に基づき、Belgian Coordinated Collections of Microorganisms(BCCM / LMBP)により、受入番号LMBP 6452CB(International Depositary Authority;寄託者が与える識別票(identification reference):ADHLSC)で、前記単離細胞株を寄託した。従って、一態様では、本発明は、受入番号LMBP 6452CB(本明細書では、「LMBP 6452CB」細胞株)でBCCMに寄託した単離細胞、細胞株、細胞集団、クローン性の亜株を含むこれらの亜株、およびこれらの分化子孫細胞を含むこれらの子孫細胞(特に、これらから調製される肝細胞もしくは肝細胞様細胞)、および遺伝的または他の方法で改変させたこれら細胞の誘導体に関する。
【0193】
本発明の方法に従って成人肝から入手可能な前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、これらの細胞を含む細胞集団は、遺伝的に異なる可能性があるにもかかわらず(通常の遺伝的な個人差に起因する)、前記の寄託細胞株と同じ、または類似の生物学的特性、特に、増殖能・分化能、細胞形態および/またはマーカー発現を有する可能性があることを当業者であれば理解するであろう。従って、寄託細胞集団と同じ、または類似の生物学的特性を有する、ヒトの前駆細胞もしくは幹細胞または細胞集団(特に、肝臓由来)も本発明に包含される。
【0194】
他の一態様では、本発明は、前述の特徴を有し、任意に更に改変、例えば遺伝子操作した、単離した成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞を含む細胞集団を提供する。一実施態様では、前記細胞集団は、前記の前駆細胞もしくは幹細胞の約5%以上、例えば、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、または約90%以上を含んでもよいし、または前記前駆細胞もしくは幹細胞と実質的に同種、または同種の集団である。
【0195】
他の一態様では、本発明は、肝臓に由来する本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の増殖、そして任意に改変(例、遺伝子操作)させることで構築された細胞株を提供する。該増殖は、1つの前駆細胞もしくは幹細胞(クローン性細胞株)または2つ以上の細胞からそれる可能性がある。
【0196】
さらに他の一態様では、本発明は、好ましい実施態様を含む、本発明の上記の方法を利用して入手可能な、または直接入手した、単離した成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株、および/またはこれらの細胞を含む細胞集団を提供する。
【0197】
特定の一実施態様では、本発明は、このように成人の正常(ヒト)肝臓から生存した前駆間葉様幹細胞の集団を単離するための方法を提供する(図1)。幹細胞は培地中で増殖可能であり、例えば、アルブミン(肝細胞)、ビメンチン(星状細胞)、α平滑筋アクチン(ASMA)など、いくつかの肝細胞種のマーカーを発現した(図2A)。サイトケラチン19のネガティブ免疫染色およびRT−PCRアッセイで示されるように、これらは胆管の表現型を持たない(図2B)。フローサイトメトリーを利用して試験する場合、ADHLSCは、CD45、CD34、CD117に陰性であり、リンパ造血系統の混入がないことが示された。対照的に、ADHLSCは、間葉系統のマーカーであるCD90、CD29、CD44に陽性であった。
【0198】
一実施態様では、トリプシン/EDTA処理後、細胞は増殖能を保持できる。合成培地での培養によって、これらの細胞は肝細胞に特異的に分化できる(図3)。他の特異性基準として、多能性ヒト間葉骨髄細胞を使用して観察されうるように、骨細胞または脂肪細胞に分化できなかった。これらの細胞の増殖能および肝臓特異性によって、肝細胞移植における有効性および安全性が向上することになる。更に、これらの成体での供給源のため、これらの幹細胞によって、胚性細胞に関連する、免疫的、倫理上の、そして発がん性の問題は未然に防止される。
【0199】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の分化
細胞マーカーの検出に加えて、インビトロおよび/またはインビボでの細胞分化に関する研究は有益になりうる。
【0200】
前述の方法を利用して得られる、肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞が、特異的な分化能を有する可能性があることを本発明者らは更に実現した。特に、細胞は肝細胞や肝細胞様細胞に分化させることができる。さらに他の実施態様では、細胞は、例えば、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、結合組織細胞、腱細胞、脂肪細胞、ストローマ細胞などの中胚葉性(間葉)細胞種には分化しない。
【0201】
単離した本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、もしくはこれらの細胞を含む細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、もしくはこれらの子孫細胞は好都合なことに肝細胞系統、特に肝細胞もしくは肝細胞様細胞に分化誘導できる。該分化は、インビボ、インビトロ、エクスビボで起こり得る。従って、本発明は、単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞からの肝細胞もしくは肝細胞様細胞を発生する方法、および結果として得られる肝細胞もしくは肝細胞様細胞を発生する方法を更に提供する。
【0202】
特定の一実施態様では、肝臓に由来する本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、その肝細胞もしくは肝細胞様細胞への分化能、および中胚葉系細胞、例えば骨細胞や脂肪細胞への分化がないことよってこのように特性付けられる。
【0203】
当業者が理解するように、インビトロ、エクスビボ、インビボでの特定細胞種への分化能、または該能力がないことが観察できる。例として、当該技術分野において公知の通り、細胞を特定の分化誘導培地に触れさせることで、インビトロまたはエクスビボの分化を評価できる。別の方法では、導入した(例、移植、注入、または投与した)細胞の運命を追跡することで、細胞をインビボで評価できる。限定はされないが、細胞の形態、マーカータンパク質の発現、および/または特定の代謝経路または他の生理学的経路の活性を含む、表現型基準を評価することで当業者は特定細胞種への分化を認識できる。
【0204】
肝臓特異的であり得る、サイトカインおよび成長因子の存在下で肝細胞系統の細胞への分化は好都合なことに起こる可能性がある。具体例として、肝細胞成長因子(HGF)、または散乱因子は、肝細胞の表現型への分化を促進させる周知のサイトカインである。同様に、非限定的な、他のサイトカインとして、表皮成長因子(EGF)、塩基性FGF、インシュリン、ニコチンアミド、オンコスタチンM、デキサメタゾン、HDAC阻害剤(例、酪酸ナトリウム)、DMSO、ビタミンA、硫酸ヘパリンなどのマトリックス成分が挙げられ、これらは肝細胞への分化にも関与している。肝細胞分化を誘発するためのプロトコルは、当該技術分野において公知であり、当業者が更に最適化できる。
【0205】
これらの未分化細胞からの分化細胞の同定および単離は、当該技術分野において公知の方法によって実施できる。例えば、分化細胞の数が未分化細胞の数を上回る条件下で選択的に細胞を培養することで分化誘導させた細胞を同定できる。同様に、分化細胞は、細胞の大きさ、形、オルガネラ分布の複雑度など、未分化細胞では認められない形態学的変化および特徴によって同定できる。細胞表面マーカーなどの特異的マーカータンパク質の発現による分化細胞の同定方法についても検討した。これらの細胞は、例えばフローサイトメトリー、ELISA、および/または磁気ビーズによって検出・単離できる。分化に反応した遺伝子発現の変化をモニターするために、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)も利用できる。また、マイクロアレイ技術を利用した全ゲノム解析を用いて、分化細胞を同定できる。
【0206】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の遺伝子修飾
前記の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞を更に改変、例えば、前述の遺伝子組み換えをできる。本発明は、成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の分化した子孫細胞を含む、その子孫細胞に関する。
【0207】
一実施態様では、得られた本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の複製能を高めるために、当該技術分野において公知の通りに細胞をテロメラーゼ活性化できる。細胞内においてTERTが転写・翻訳されるように任意の種のテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)をコードする核酸で遺伝的に改変させている場合、細胞は「テロメラーゼ活性化されている」と記載される。この用語は、TERTコード化領域の高レベルな発現能を遺伝で受け継いだ元の改変細胞の子孫細胞に適用する。TERTコード化配列は、通例、以下で示す通り、ヒトとマウスのTERTによって例示される、哺乳動物のTERT遺伝子から採取・適用される。テロメラーゼ触媒成分(TERT)を高レベルで発現するように、適切なベクターで遺伝子操作することで細胞をテロメラーゼ活性化できる。国際公開広報第1998/14592号で提供する、ヒトのテロメラーゼ(hTERT)の触媒成分が特に適している。一部の用途では、他のTERT配列を使用できる。SV40 large T antigen(米国特許出願第5,869,243号、国際公開広報第1997/32972号)をコードするDNAによる細胞の遺伝的改変、EBウイルス感染、mycおよび/またはrasなどの癌遺伝子の導入、アデノウイルスE1aなどのウイルス複製遺伝子の導入、所望の表現型を有する細胞と不死化細胞株との融合など、細胞を不死化させる他の方法も検討した。細胞を治療目的で使用する場合、通例、癌遺伝子または癌ウイルス産物のトランスフェクションの適性は低い。
【0208】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、またはこれらの分化した子孫細胞を含む、これらの子孫細胞を使用することを、治療において意図する場合、例えば、これらの細胞をヒトまたは動物、特に人体へ導入する場合、前記細胞をテロメラーゼ活性化などの不死化方法によって改変しないことが一般に好ましい。
【0209】
本発明では、例えば、当該技術分野において本質的に周知の、例えば治療または研究において更に使用する前に、得られた肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの子孫細胞を対象の核酸で安定的または一過性にトランスフェクトまたは形質転換することができる。対象の核酸配列として、限定はされないが、例えば、治療に有用な細胞種、例えば本発明の前駆細胞もしくは幹細胞由来の細胞種、および特に肝細胞もしくは肝細胞様細胞の増殖、分化、および/または機能を促進させる遺伝子産物をコードする核酸配列が挙げられ、前記細胞の投与・移植部位に治療用遺伝子を送達する。
【0210】
限定はされないが、例として、得られた前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの子孫細胞を改変させて、肝臓の細胞(特に肝細胞)が通常発現するが、患者において欠損または存在せず、この欠損が患者の病状の根本原因となるポリペプチドを構成的または誘導的に過剰発現させることができる。このように改変させた細胞の投与の結果として、タンパク質産生が回復して、患者の治療に役立つ。例えば、前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの子孫細胞は、オルニチントランスカルバミラーゼ、アルギニノコハク酸合成酵素、アルギニノコハク酸付加酵素、アルギナーゼ、カルバミル燐酸合成酵素、N−アセチルグルタミン酸合成酵素、グルタミンシンセターゼ、グリコゲンシンセターゼ、グルコース−6−脱リン酸酵素、コハク酸塩脱水素酵素、グルコキナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼ、脂肪酸シンセターゼ、アラニンアミノ転移酵素、グルタミン酸塩脱水素酵素、フェリチン、低密度リポタンパク質(LDL)受容体、P450酵素、および/またはアルコール脱水素酵素などの代謝タンパク質をコードする異種DNAを含むことができる。または、アルブミン、トランスフェリン、補体、C3成分、α2−マクログロブリン、フィブリノゲン、第XIII因子、第IX因子、α1−アンチトリプシンなどの分泌型血漿タンパク質をコードするDNAを細胞に含ませることができる。
【0211】
肝臓は多くの分泌タンパク質の生産において中心となる。解剖学的には、様々なタンパク質が血流中に効率的に放出されるように循環系に連結されている。従って、全身性の作用を有するタンパク質をコードする遺伝子は、特に遺伝子を本発明の肝細胞に組み込むことが困難な場合、これらのタンパク質を通常産生している特定の細胞種とは対照的に、本発明の肝細胞に挿入できる。例えば、遺伝子産物を循環中に分泌させるために、様々なホルモン遺伝子や特定の抗体遺伝子を本発明の肝細胞に挿入できる。
【0212】
従来の遺伝子移入方法を利用して、細胞内に核酸を導入する。遺伝子を導入するために利用する正確な方法は、本発明において重要ではない。例えば、細胞内へのDNAの導入のための物理的方法として、マイクロインジェクションやエレクトロポレーションが挙げられる。リン酸カルシウムとの共沈殿やリポソーム内へのDNA取り込みなどの化学的方法も哺乳動物細胞内への標準的なDNA導入方法である。ウイルス・トランスフェクションも検討する。マウスおよびトリのレトロウイルス由来のベクターなどの標準的なベクターを使用してDNAを導入する(例、Gluzmanら、Viral Vectors, Cold Spring Harbour Laboratory, Cold Spring Harbour, N.Y., 1988参照)。標準的な組み換えDNA方法は、当該技術分野において周知であり(例、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, 1989参照)、遺伝子治療用のウイルスベクターが開発されており、臨床用途において成功を収めている(例、Rosenbergら、N. Engl. J. Med, 323:370 1990参照)。
【0213】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の使用
単離した肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞を含む細胞集団は、様々な対象ので利用できる(LMBP 6452CB細胞株の他、先に定義した成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、特に、先に定義した方法を利用して入手可能、または直接入手した細胞、先に定義した特性を示す細胞、特定の実施態様において、単離した成人由来の肝幹細胞株、好ましくは成人由来のヒト肝幹細胞株(ADHLSC)、これらの子孫細胞、または遺伝子組み換えしたこれらの細胞の誘導体について、以下の用途および応用が広く考察していることを理解する必要がある:限定はされないが、
‐単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞集団を使用した肝臓代謝欠損、肝臓変性疾患、劇症肝不全を治療するための肝細胞移植、
‐単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞集団を使用したバイオ人工肝臓デバイスの作製、
‐動物における単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞集団の移植によるヒト肝臓疾患のモデル動物の作出、
‐単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞集団を使用した毒物学、薬理学に関するインビトロ・動物モデルの作出、
‐単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞集団における抗ウイルス剤を含むヒト肝炎ウイルスに対する新規薬剤の試験)。
【0214】
例えば、ADHLSC(LMBP 6452CB株)を脾臓内に移植したuPA+/+−SCIDおよびSCIDマウスの肝臓の解析によって、これらの細胞を移植して、成熟肝細胞に分化させることが可能であることが実証された(図4、5)。更に、ヒトアルブミンが移植後10週目に移植されたこれらのマウスの血清において検出されたが、α−フェトプロテイン濃度は検出されなかった。
【0215】
本発明に従って、肝臓前駆細胞もしくは幹細胞(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)を先天代謝異常における移植、肝不全の動物モデルにおける移植、またはヒトのウイルス肝炎の動物モデルにおける移植に使用できる。従って、本発明の細胞は、限定はされないが、肝不全、肝炎、先天性代謝異常などの肝臓に関連する疾患の治療に使用できる。
【0216】
例示的な実施態様では、実施例1に示す通り、本発明者らは、本発明のヒト肝前駆細胞もしくは肝幹細胞が、免疫不全哺乳動物、好ましくは齧歯動物(特に、マウスまたはラット)へ脾臓内注射によって投与された場合、これらの細胞は増殖能を保持しており、宿主の肝臓内に移植した。従って、一実施態様では、好ましくはヒト由来である本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)を含む細胞集団を導入する(例、遺伝的または化学的に免疫不全にした哺乳動物内に注入・移植して、動物モデルを得る)。好ましくは、該集団は少なくとも2 x 10個の本発明の細胞を含む。前記の成人由来の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の肝移植を促すため、本発明の細胞集団を投与する他の方法を当業者であれば認識するであろう。
【0217】
実施例1に詳述される通り、移植細胞は過剰増殖することなく、ヒトまたは他の動物、好ましくは哺乳動物における細胞移植における利点を強調している。
【0218】
本発明には、以下の目的のために単離した本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)の使用も含まれる:
‐先天性の肝臓代謝欠損症を治療するための肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の移植:該疾患の例として、限定はされないが、フェニルケトン尿症および他のアミノ酸血症、血友病および他の凝固因子欠損症、家族性高コレステロール血症および他の脂質代謝異常、尿素回路異常、糖原病、ガラクトーゼ血症、果糖血症、チロシン血症、タンパク質・糖質代謝欠損症、有機酸尿、ミトコンドリア病、ペルオキシソーム・リソソーム異常、タンパク質合成異常、肝細胞トランスポーター欠損、グリコシル化欠損症などが挙げられ、
‐後天性の肝臓変性疾患を治療するための本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の移植、
‐劇症肝不全、急性・慢性肝不全を治療するための本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の使用、
‐バイオ人工肝臓デバイスおよび肝臓補助デバイスにおける本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の使用、
‐小型・大型動物における本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の移植によるヒトの肝疾患の動物モデル、
‐自然経過、伝播、耐性、治療効果を研究するためのヒトの肝親和性ウイルス感染症(HBV、HAV、HCV、HEV、HDV...)の動物モデルの作製、抗ウイルス薬の使用、本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の移植を利用した研究、
‐本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞を使用した毒物学、薬理学、薬理遺伝学のインビトロ・動物モデルの作製、‐本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞における新薬試験、
‐その後にインビトロで増殖可能な本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞におけるウイルス配列の挿入による遺伝子治療、‐ヒトの肝細胞での代謝を研究するための動物モデル、
‐本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の使用による同種異系細胞の寛容、および/または
‐肝臓または肝細胞の同種移植片拒絶を回避、予防、治療するための本発明の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞の使用。
【0219】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、または分化した子孫細胞を含むこれらの子孫細胞は、発明の一態様において治療への応用、例えば、組織工学および細胞療法を意図している。
【0220】
本明細書の詳細な使用には、分化した子孫細胞、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞、またはこれらの細胞を遺伝子組み換えした誘導体を含む子孫細胞の使用のほか、前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、これらの含む細胞集団の使用が含まれることを当業者であれば理解するであろう。
【0221】
前述の通り、本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞を含む細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または任意に遺伝子組み換えしたこれらの子孫細胞を細胞置換療法に使用できる。該細胞を被験体の対象組織に投与して、機能している細胞を補うか、または機能を喪失した細胞を置換できる。または、単離して、被験体に投与した分化因子の存在下で前駆細胞もしくは幹細胞を分化させる、分化細胞、特に肝細胞もしくは肝細胞様細胞の提供方法も検討している。
【0222】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞から恩恵を得ることができ、肝臓の重量および/または機能の損失を特徴とする、病状または欠損症として、前述の疾患、更に、限定はされないが、以下が挙げられる:アラギル症候群、アルコール肝疾患(アルコール誘発性の肝硬変)、a1−アンチトリプシン欠損症(全ての表現型)、高脂血症と他の脂質代謝異常、自己免疫性肝炎、バッド症候群、胆道閉鎖症、進行性の家族性胆汁鬱帯I、II、III型、肝臓癌、カロリー病、クリグラー・ナジャー症候群、果糖血症、ガラクトーゼ血症、炭水化物欠乏グリコシル化欠損症および他の糖質代謝異常、レフサム病および他のペルオキシソーム疾患、ニーマンピック病、ウォルマン病および他のリソソーム異常、チロシン血症、トリプルHおよび他のアミノ酸代謝異常、デュビン・ジョンソン症候群、脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝炎)、ジルベール症候群、糖原病I、III型、血色素症、肝炎A‐G、ポルフィリン症、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、チロシン血症、凝固因子欠損症、血友病B、フェニルケトン尿症、ウィルソン病、劇症肝不全、肝切除後肝不全、ミトコンドリア呼吸鎖病。また、ウイルス感染症に起因する後天性肝疾患の治療にも細胞を使用できる。
【0223】
従って、一態様では、肝疾患の治療のための治療上の使用および/または薬剤の製造における使用のため、本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞を含む細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または分化した子孫細胞、特に、前述の通りに、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含むこれらの子孫細胞を提供している。該疾患として、肝組織に影響を及ぼす疾患が挙げられ、肝細胞の生存および/または機能に影響を及ぼす疾患を具体的には検討しており、例えば、先天異常、疾患状態の影響、外傷の影響、毒作用、ウイルス感染などに代表されることもある。本明細書に記載した肝疾患について具体的に検討している。本発明の細胞の投与によって、被験体における組織再構築または再生を引き起こすことができる。対象の組織に移植して、移動して、機能欠損部位を再構築あるいは再生できるように細胞を投与する。
【0224】
本発明の別の態様は、被験体、特に治療を必要とするヒトに対する、本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または分化した子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含む、これらの子孫細胞の投与を含む肝疾患を予防および/または治療する方法である。該投与は、通常、治療的有効量、つまり、一般に、所望の局所または全身作用および性能を与える量で行う。
【0225】
他の態様では、本発明は、本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または分化した子孫細胞、特に、前述の通りに、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含有する子孫細胞を含む医薬組成物に関する。
【0226】
限定はされないが、例として、単離した本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または分化した子孫細胞は、注入(カテーテル投与も含む)または移植、例えば、局所注入、全身注入、脾臓内注入(Guptaら、Seminars in Liver Disease 12: 321, 1992参照)、門脈注入、肝髄質注入、例えば、肝臓被膜下、非経口投与、もしくは胚または胎児内への子宮内注入によって好都合に投与できる。
【0227】
好ましい一実施態様では、組織工学および肝細胞移植(LCT)による細胞療法において、本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または任意に遺伝子組み換えした子孫細胞を使用できる。肝細胞移植および肝幹細胞移植(LSCT)は、好ましくは門脈を介した肝臓へのアクセスおよび細胞の移植、肝臓への直接注入または脾臓内注入による、本発明の細胞を含む、成熟肝細胞または肝前駆細胞の注入技術を指す。
【0228】
例えば、単離処置後、または冷凍保存に続く融解後、好ましくはヒトアルブミンを含む保存培地中の浮遊細胞として細胞を提供できる。
【0229】
一実施態様では、本発明では、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞を単離するための患者自身の肝臓組織の使用を検討している。該細胞は患者にとって自己細胞であり、患者に容易に投与できる。更に、特定の病態の根本原因となる遺伝子欠陥を患者が有する場合、該欠陥は得られた細胞を遺伝子操作することにより回避できた。
【0230】
別の実施態様では、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞は、患者自身のものではない組織から単離できる。これらの細胞の患者への投与を検討する場合、前駆細胞もしくは幹細胞を得るために本発明の方法を適用する肝組織は、少なくとも可能な範囲内で、患者と投与される細胞の組織適合性が最大になり、これによって患者の免疫系による投与される細胞の拒絶(例、移植片対宿主の拒絶反応)が起こる可能性が低下するように選択することが好ましい。
【0231】
免疫系による非自己から自己の識別能力は、かなりの程度、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の産物によって決定され、この遺伝子は第6染色体に存在し、免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーに属する。クラスI MHC産物は、HLA−A、HLA−B、HLA−Cから成り、これらは広範に分布し、実質的に全ての有核細胞および血小板の表面上で認められる。クラスII MHC産物は、HLA−D、HLA−DR、HLA−DP、HLA−DQから成り、これらの分布は、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、活性化T細胞(休止期では認められない)などに限られる。
【0232】
HLA遺伝子座は一般に多対立遺伝子であり、例えば、特異的抗体を使用して、少なくとも26のHLA−A対立遺伝子、59のHLA−B対立遺伝子、10のHLA−C対立遺伝子、26のHLA−D対立遺伝子、22のHLA−DR対立遺伝子、9つのHLA−DQ (HLA zxqHYPHEN DQ) 対立遺伝子、6つのHLA−DP対立遺伝子が認められる。HLA遺伝子座は密接に連鎖しているため、HLA抗原は保存ハプロタイプとしても存在しうる。
【0233】
本発明の細胞による治療を必要とする被験体について、抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体、およびHLAの遺伝子型および/または表現型をスクリーニングできる(例、リンパ球;例えば、血清学的方法または遺伝的DNA解析の利用)。本発明により入手可能な前駆細胞もしくは幹細胞、または供給源となる肝組織またはそのドナーについて、通例、HLA表現型および/または遺伝子型、および投与するために選択した適切な組織または細胞(これらの組織または細胞が、患者と同じHLAハプロタイプを有する、または患者に最も多く見られるHLA抗原対立遺伝子を有し、患者に既に存在する抗HLA抗体に対するHLA抗原が認められない、または最小限である)について試験を実施できる。同じHLA抗原の数によって、移植細胞の受容が成功する可能性が高まる。これらの考察の他のばらつきを当業者は理解する。
【0234】
患者のMHCプロファイルと似たMHCプロファイルを入手する他の方法も検討しており、例えば、得られた本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの子孫細胞の遺伝子操作である。
【0235】
細胞が非相同(つまり、非自己)供給源に由来する場合、例えば、シクロスポリンまたはタクロリムス(FK506)などの免疫抑制剤を使用した併用免疫抑制治療を通常、施すことができる。または、液体を交換できるが、細胞/細胞間の接触を妨げる膜内に細胞をカプセル封入できる。マイクロカプセル化細胞の移植は当該技術分野において公知である(例、Balladurら、1995, Surgery 117:189-194; Dixitら、1992, Cell Transplantation 1 :275-279)。好ましくは、説明の通り、細胞は自己細胞であり、または密接なHLA適合を示しうる。
【0236】
好ましい別の実施態様では、成人肝またはその一部は、ヒト以外の動物の被験体、好ましくはヒト以外の哺乳動物の被験体に由来する。ヒト以外の動物またはヒト以外の哺乳動物の被験体の肝臓に由来する本発明の前駆細胞もしくは幹細胞または細胞株、またはこれらの子孫細胞を、例えば、同の動物、関連する、またはヒト以外の他の動物またはヒト以外の哺乳動物種における肝疾患の研究および治療、または肝疾患に苦しむヒトの被験体の治療(例、ヒト以外の動物またはヒト以外の哺乳動物の細胞を含む、異種移植術、バイオ人工肝臓デバイス)に利用すると都合が良い。限定はされないが、例として、ヒトの治療における用途に特に適したヒト以外の哺乳動物の細胞は、ブタに由来しうる。
【0237】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の治療上の使用に関する問題は、最適な効果を得るために必要な細胞の量である。投与量にはばらつきがあり、初回投与に続く後続投与を含んでもよく、本発明の開示を用意している当業者が確認できる。通例、投与量または用量は、治療効果のある細胞量、つまり、所望の局所・全身作用および性能を得るための量を規定するであろう。
【0238】
自己単核骨髄細胞に関する現在のヒトでの試験において、細胞1x10〜4x10個という経験的な量が利用されており、結果は有望である。しかし、別のシナリオでは、投与する細胞の量の最適化が必要になりうる。このように、投与する細胞の量は、治療を受ける被験体に応じて変化しうる。好ましい実施態様では、10〜10個、または10〜10個、または10〜10個(例えば10〜10個)、または10〜10個(例、約1x10個、約5x10個、約1x10個、約5x10個、約1x10個、または約2x10個、約3x10個、約4x10個、約5x10個、約6x10個、約7x10個、約8x10個、約9x10個、約1x10個)の細胞をヒト被験体に投与できる。しかし、治療効果のある用量の正確な決定は、患者の体格、年齢、組織損傷、損傷発生からの経過時間などの各患者に固有の因子に基づいており、当業者は容易に確認できる。
【0239】
好ましくは、投与するための本発明の前駆細胞もしくは幹細胞を含む細胞集団の純度は、約50〜55%、約55〜60%、約65〜70%でよい。より好ましくは、純度は約70〜75%、約75〜80%、約80〜85%、最も好ましくは、純度は約85〜90%、約90〜95%、約95〜100%でよい。幹細胞の純度は、例えば、細胞集団中の細胞表面マーカープロファイルによって決定できる。当業者は投与量を容易に調整できる(例、低純度では、増量が必要となりうる)。
【0240】
当業者は、本発明の方法で投与する組成物中の細胞および任意の添加物、媒体、および/または担体の量を容易に決定できる。通常、任意の添加物(活性型の前駆細胞もしくは幹細胞および/またはサイトカインに加えて)は、リン酸緩衝生理食塩水中に0.001〜50%(w/wまたはw/v)存在しており、活性成分は、通例、μg〜mgオーダー、例えば、約0.0001〜約5%(w/wまたはw/v)、好ましくは約0.0001〜約1%、最も好ましくは約0.0001〜約0.05%または約0.001〜約20%、好ましくは約0.01〜約10%、最も好ましくは約0.05〜5%存在し得る。
【0241】
本発明の治療用組成物を投与する際、通常、単位用量の注射剤型(例、液剤、懸濁剤、分散剤、乳剤)で製剤化してもよい。注射に適した医薬的製剤として、滅菌した液剤や分散剤が挙げられる。本明細書で使用するように、液剤または分散剤として、本発明の細胞の生存を維持する、医薬的に許容される担体または希釈剤が挙げられる。担体は、医薬的に許容される溶剤、または、例えば、水、生理的食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例、グリセリン、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)およびこれらの適切な混合物を含む分散媒質であり得る。
【0242】
更に、抗菌防腐剤、酸化防止剤、キレート化剤、および緩衝剤など、組成物の安定性、無菌性、等張性を高める様々な添加物を添加できる。様々な抗菌薬および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって、微生物の活動を確実に妨げることができる。
【0243】
多くの場合、細胞の生存を確保するための等張剤、例えば、砂糖、食塩などの含有が望ましい。本発明の組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウム、またはデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、または他の無機・有機的な溶質などの他の医薬的に許容される薬剤を用いて達成してもよい。特にナトリウムイオンを含む緩衝剤には塩化ナトリウムが好ましい。
【0244】
前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの対象の分化した子孫細胞を、これらを必要とする被験体に導入する際に、細胞の生存を潜在的に高めるために、前記細胞をバイオポリマーまたは合成ポリマー内に取り込ませてもよい。適切なバイオポリマーの例として、限定はされないが、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、プロテオグリカンが挙げられる。サイトカイン、成長因子、分化因子、または核酸発現コンストラクトの含有を問わず、これを構築できる。これらのバイオポリマーは、例えば、懸濁液でよく、または細胞を包埋させた三次元ゲルでよい。これらの重合体は好ましくは生物分解性があり得る。
【0245】
注射製剤型の持続的吸収は、例えば、アルミニウムモノステアレートやゼラチンなどの吸収遅延剤の使用によって引き起こすことができる。しかしながら、本発明では、使用する任意の媒体、希釈剤、添加剤は、前駆細胞もしくは幹細胞と適合しなければならない。
【0246】
本発明を実施する際に使用する細胞を、必要に応じて、様々な量の含有物とともに必要量の適切な溶剤中に組み込むことにより、滅菌注射剤を調製できる。
【0247】
該組成物は、更に、適切な担体、希釈剤、または滅菌水、生理的食塩水、グルコース、デキストロースなどの賦形剤との混合物状態であってよい。組成物は、投与経路や所望の製剤に応じて、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤、ゲル化剤、増粘剤、保存剤、香料、着色料などの補助剤を含むことができる。
【0248】
「Remington's Pharmaceutical Science」第17版(1985年)は参照によって本明細書に援用され、不必要な実験を行うことなく、適切な製剤を調製するために参照できる。
【0249】
必要に応じて、医薬的に許容される濃化剤を使用して、選択した濃度で組成物の粘性を維持できる。入手が容易で、経済的であり、取り扱いやすいことから、メチルセルロースが好ましい。他の適切な濃化剤として、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどが挙げられる。濃縮剤の好ましい濃度は、選択した薬剤によって決まる。重要な点は、選択した粘度を達成する量を使用することである。粘性組成物は、通常、該濃化剤の添加により液剤から調製する。
【0250】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞の他の用途
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株またはこれらの細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または分化した子孫細胞、特に、任意に遺伝子組み換えした肝細胞もしくは肝細胞様細胞の他の用途について以下で検討している。
【0251】
従って、前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの分化誘導体、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞を用いて、以下の工程を含む生物活性(生物学的または薬理学的)物質に対する細胞応答(例、毒性)を検出することができる:1つ以上の細胞の培養物、またはこれらの細胞の分化誘導体を1つ以上の生物学的・薬理学的物質と接触させる工程、1つ以上の生物学的・薬理学的物質に対する1つ以上の細胞応答を同定する工程、および細胞培養物の細胞応答と対照培養物での細胞応答とを比較する工程。限定されないが、特に、アルカリフォスファターゼ、シトクロムP450、尿素回路の酵素群などの分子の活性をモニターすることで該応答を測定できる。
【0252】
更に、該細胞の分化および機能に及ぼす作用をより明確に解明するために、本発明の前駆細胞もしくは幹細胞またはこれらの細胞の分化誘導体、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞を使用して、例えば、サイトカイン、ケモカイン、医薬組成物、成長因子をスクリーニングできる。
【0253】
本発明は、培養器官、またはこの器官の一部、または特定部位、対象の組織および任意にサイトカインを含む再生デバイス、成長因子、分化因子も想定しており、本発明の細胞を使用して組織、特に肝組織、特に肝細胞を含む組織を作製する。生体適合性のある足場とともに組織工学によって作製した器官を使用して、生物分解可能な三次元型の細胞増殖を支持する。本発明の幹細胞から培養器官を、器官、器官の一部または特定部位の置換が必要な被験体に移植できる。本発明では、バイオリアクターの一部として(肝臓補助デバイス)、幹細胞または幹細胞の分化細胞の使用も想定している。
【0254】
本発明の幹細胞に由来する器官、部分、部位を宿主に移植できる。臓器または臓器単位が由来する幹細胞のドナーが、組織工学によって作製した組織の臓器被提供者であるように、移植は自己移植であり得る。臓器または臓器単位が由来する幹細胞のドナーが、培養組織の臓器被提供者であるように、移植は異種移植であり得る。宿主内に移植されれば、培養器官は、野生型の宿主組織の機能と構造を再現できる。組織工学によって作製した器官は、本明細書に開示する癌および他の疾患の治療、先天性欠損症、外科的切除を原因とする損傷など、様々な用途において被験体のためになるであろう。
【0255】
薬物の試験および開発過程のためのツールとして、肝細胞および肝細胞の子孫細胞を利用して、開発を検討している薬物が引き起こす遺伝子発現パターンの変化を評価できる。可能性のある薬剤による遺伝子発現パターンの変化は、肝臓に作用することが判明している薬剤が引き起こす変化と比較できる。これによって、化合物が開発過程の初期に肝臓に及ぼす作用を製薬会社がスクリーニング可能になり、時間と経費を節減できる。前駆細胞から幹細胞までの肝細胞の全系統を使用して、薬物の肝臓毒性を試験し、薬物代謝を検証できる。現在、製薬会社では、毒性試験のための肝細胞の一貫した供給を受けることが困難になっている。本発明の方法および細胞はこのニーズに応える。
【0256】
更に、本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、または分化した子孫細胞、特に、肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含むこれらの細胞の子孫細胞は、肝灌流などの解毒デバイスまたは肝臓補助デバイスの生物学的部品として有用である。
【0257】
従来の肝臓補助デバイスには、硬質プラスチック被膜および空洞の半透過性膜ファイバーが含まれ、これらを幹細胞または分化肝細胞または幹細胞由来の肝細胞とともに播く。細胞付着のために、ファイバーをコラーゲン、レクチン、ラミニン、フィブロネクチンで処理してもよいし、または未処理のままでもよい。周知の方法に従って、解毒用デバイスを介して体液を灌流させ、患者に戻す。本発明の細胞に適したLADの例は、国際出願PCT/US00/15524号明細書に記載している。
【0258】
本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、またはこれらの細胞の子孫細胞をインビトロで分化させることができ、更に、「ADMET」投与、分布、代謝、排泄、毒物学または毒性試験において成熟肝細胞の代わりに使用できる。
【0259】
本発明の成人肝前駆細胞もしくは肝幹細胞またはこれらの細胞の子孫細胞を分化させることで得られる肝細胞もしくは肝細胞様細胞は、肝発生研究、肝細胞代謝または肝細胞生物学用のインビトロモデル、および分化分子、増殖分子、毒性分子のスクリーニング用のインビトロモデルを提供できる。更にこれらの細胞の遺伝子操作を検討する場合、肝発生、肝細胞の代謝または生物学に関与する遺伝子を調べるためにこれらの細胞を使用できる。
【実施例】
【0260】
今回、以下の実施例によって発明を説明するが、これらによって発明の範囲は限定されない。
【0261】
実施例1
肝細胞の単離手順
健常な屍体または心拍の認められるドナーに由来する全肝臓または肝臓部分からヒト肝細胞を得た。総クランプ時間(例、総クランプ時間後6〜12時間)後に細胞を単離して、ウィスコンシン大学において、灌流まで肝臓を氷上の培地中に保存した。古典的な2工程灌流方法を利用して肝細胞を単離した{Seglen、1976}{Stephenne, 2005}。EGTA溶液(Ca2+/Mg2+不含アール平衡塩類溶液、0.5mM EGTA、5mM Hepes、2mg/Lゲンタマイシン、100,000IU/1 ペニシリンG)および消化酵素溶液で37℃、9〜12分間、しっかりと認識できる血管から肝臓を連続灌流させた。消化溶液(Ca2+/Mg2+含有EBSS、5mM Hepes、2mg/Lゲンタマイシン、100,000IU/1 ペニシリンG)には、0.9mg/mLのコラゲナーゼPおよび0.03mg/mLの大豆トリプシン阻害剤が含まれた。肝臓被膜を切開して、穏やかに撹拌させて肝細胞を放出させた。0.03mg/mLの大豆トリプシン阻害剤および100mL/Lのヒト血漿を含む氷冷洗浄培地(培地M199、5mM Hepes、2mg/Lゲンタマイシン、100,000IU/1 ペニシリンG)で消化を停止させた。4個の金属製ふるい(孔径4.5mm、1mm、0.5mm、0.25mm)を通して細胞をろ過、リンスした。1,200rpm、3分間、冷M 199洗浄培地中での遠心分離によって細胞を3回洗った。
【0262】
一次細胞培養10%ウシ胎児血清(FCS)(Perbio, Hyclone)、25ng/mL EGF(Peprotech)、10μg/mLインシュリン、1μM デキサメタゾン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)(Invitrogen)を添加したウィリアムスE培地(Invitrogen)中に1つの細胞浮遊液を再浮遊させた。ラットテールコラーゲンI(BD Biosciences)コード済みフラスコまたはプレート(例、6ウェルプレート)(Greiner Bio-one)上に細胞を播種して、5%COを含む37℃の完全加湿空気中で培養した。24時間後、非付着性細胞を除去するために培地を交換して、その後3日ごとに新鮮培地と交換した。2週間にわたり、培養物を顕微鏡で毎日追跡調査し、3日ごとに培地を解析した。次に、成人肝細胞の除去を促進させるために、10% FCS(Perbio, Hyclone)および1% P/S(Invitrogen)を添加した高濃度グルコース(Invitrogen)含有DMEMと培地を交換した。その後、間葉様の形態を伴う細胞種が自然発生的に出現して、位相差顕微鏡法で認められるように、ウェルプレート内で増殖して、空きスペースを満たした。これらの細胞は、培養15〜20日目に現れ、扁平状、広い細胞質、1または2個の核小体を伴う卵円核を呈する(図1)。密集度が70%に達した時に、0.25%トリプシンおよび1mM EDTAで細胞を剥がして、所望の密度で再播種した。フローサイトメトリーを使用した細胞浮遊液の分析では、2回目の継代で集団が均質になることが示された。各継代において、RT−PCRおよび免疫蛍光法を利用した細胞浮遊液の解析も実施した。
【0263】
細胞の特性付け:
他の細胞種が混入する可能性を避けるために、免疫細胞化学を実施して、これらの細胞の表現型を検証した。これらは肝臓に由来するため、パラホルムアルデヒド固定細胞においてアルブミンなどの特異的マーカーの発現を解析した。図2に示す通り、肝細胞でのみ発現するアルブミンをモノクローナル抗体(Sigma clone HAS‐111)またはポリクローナル(Chemicon)抗体を使用して検出した。同時に、間葉細胞マーカーの発現も評価しており、これらの細胞がビメンチンおよびα平滑筋アクチンに免疫陽性であることが示されている(図2)。これまでに、7継代にわたって表現型の特徴を検証しており、高い安定性が認められている。
【0264】
細胞分化:
FCSおよびP/S添加DMEM中においてラットテールコラーゲンI型でコーティングした6枚のウェルプレートに0.5〜1x10/cm2の密度で細胞を播種した。24時間後に培地をIscove改変ダルベッコ培地(IMDM)(Invitrogen)と交換した。誘導では、20ng/mL HGF(Biosource)、10ng/mL bFGF(Peprotech)、0.61g/L ニコチンアミド(Sigma)を添加したIMDMを含む誘導培地とともに細胞を2週間培養させた。その後、20ng/mL オンコスタチンM(Sigma)、1μM デキサメタゾン(Sigma)、50mg/mL ITS (インシュリン、トランスフェリン、セレニウム)(Invitrogen)を添加したIMDMを含む成熟培地とともに細胞を2週間培養させた。誘導・成熟工程では、3日ごとに培地を交換して、解析を行った。これらの混合物への暴露後、細胞の鋭い縁が認められなくなり、徐々に縮小し始め、最初の形態を失って、多角形の形状になった。
【0265】
フローサイトメトリー:
1200rpm、5分間の遠心分離後に細胞を回収して、500〜1000/μL PBSの濃度で再懸濁させた。次に、40℃、30分間にわたり細胞を培養させた。モノクローナル抗体の非特異的結合を評価するために、対応する対照アイソタイプを使用した。次に、Beckham Coulter Flow Cytometerでの読み取りのために、細胞を洗って、Isoton(登録商標)(Beckham Coulter)に再懸濁させた。
【0266】
RT−PCR
6枚のウェルプレート内で増殖する細胞からTriPure単離試薬(Roche)を使用して全RNAを抽出して、逆転写キットを使用して、使用説明書に従いcDNAを作製した。最終容量25μL中で、ポリメラーゼ・エロンガーゼおよび適切なプライマーを使用してPCR増幅を実施した。その後、1%アガロースゲルでサンプルを電気泳動させて、エチジウムブロマイド染色によって核酸を可視化させた。
【0267】
免疫蛍光法
免疫染色では、ラットテールコラーゲンIコーティング済み12mm丸ガラスカバースリップ上で増殖させた細胞を、室温で、15分間、4%パラホルムアルデヒド固定させて、その後、15分間、TBS(Tris−HCl 50mM、NaCl 150mM、pH 7.4)中1% Triton X100(v/v)を浸透させた。3%脱脂粉乳を含むTBS溶液中での37℃、1時間のインキュベーションによって非特異的な免疫染色が起らないようにした。次に、同じ溶液中で、室温で1時間、一次抗体とともに細胞を培養させ、TBSで5回リンスして、引き続き二次抗体(1/500)とともに培養した。核染料DAPI(1/5,000)で30分間に核を染色させた。3回のリンス後、Fluoprep培地(BioMerieux、ベルギーブリュッセル)中に調製物を封入して、CCDカメラ(T.I.L.L. photonics、ドイツマーティンスリート)付きオリンパス1X70倒立顕微鏡を使用して観察した。モノクロメータ(T.I.L.L. photonics、ドイツマーティンスリート)に連結させたキセノンランプから、励起光(Cy−3、FITC、DAPIについて、それぞれ552、488、372nm)を得た。適切なフィルターを使用してデジタルイメージを取得して、TILLvisionソフトウェアを使用して組み合わせた。
【0268】
本発明の前駆細胞もしくは幹細胞において検出された分子
前述の方法を利用して、本実施例において樹立した細胞(ADHLSC)に関する実験において以下の多数の細胞マーカーの発現プロファイルを構築した:
【0269】
CD90陽性 CD90またはThy−1は細胞表面タンパク質であり、間葉系統を示すと考えられる。
【0270】
CD44陽性 CD44は細胞接着分子であり、少なくとも一部の種類の間葉系幹細胞(MSC)の同定に使用される。
【0271】
ビメンチン陽性 ビメンチンはIII型中間径フィラメントであり、一般に間葉細胞および線維芽細胞において検出される。
【0272】
アルブミン陽性 アルブミンは、肝臓で産生・分泌される血漿タンパク質である。肝細胞内において、通常、アルブミンは細胞質タンパク質として見出される。
【0273】
CD29陽性 CD29(別名、インテグリンベータ1)は膜貫通糖タンパクであり、肝組織にも存在しており、インテグリンαとともに細胞外マトリックスとの相互作用に関与する機能的受容体複合体を形成すると考えられる。
【0274】
CD73陽性 CD73は、間葉系マーカーと考えられるecto5’−ヌクレオチダーゼである。
【0275】
CD49b陽性 CD49bは、インテグリンα−2またはコラーゲン受容体とも呼ばれ、細胞外マトリックスとの細胞相互作用に関与している。
【0276】
HLA−ABC陽性 HLA−ABC(ヒト白血球抗原A、B&C)は、主要組織適合遺伝子複合体クラスI抗原であり、膜ヘテロダイマーを形成する。
【0277】
α−フェトプロテイン−低発現レベル α−フェトプロテインは、原始内胚葉の発生中および成熟を通じて発現されるタンパク質であり、内胚葉系統を反映する。α−フェトプロテインの高レベル発現によって腫瘍化の分岐点が明らかになる。
【0278】
α−1アンチトリプシン陽性 α−1抗トリプシンは、肝臓で合成される血漿タンパク質である。
【0279】
グルコース6−脱リン酸酵素(G6P)陽性 G6Pは、グルコース6−リン酸をグルコースと無機リン酸に加水分解する肝臓酵素であり、肝臓内グルコースの血中への進入を可能にする。
【0280】
シトクロムP450 1B1(CYP1 B1)陽性 CYP1B1は、広範な構造上多様な基質の第一相代謝に関与するダイオキシン誘発性チトクロムである。
【0281】
シトクロムP450 3A4(CYP3A4)陽性 CYP3A4は、生体異物の代謝に関与する極めて重要な酵素である。
【0282】
肝細胞核因子4(HNF−4)陽性 核受容体であるHNF4は、エネルギー代謝の調節に関与する転写因子である。
【0283】
トリプトファン2,3−ジオキシゲナーゼ(TDO)陽性 TDOは、肝臓におけるトリプトファン酸化に関与する最初の酵素である。
【0284】
チロシンアミノ基転移酵素(TAT)陽性 TATは、アミノ酸代謝および糖新生に関与する肝臓特異的なミトコンドリア酵素である。
【0285】
グルタミン合成酵素(GS)陽性 GSは、アンモニウム同化における重要酵素である。
【0286】
ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)陽性 GGTは、グルタチオン代謝に関与する酵素である。
【0287】
サイトケラチン8(CK8)陽性 CK8は、上皮性細胞に特異的な中間径フィラメントである。
【0288】
多薬剤抵抗性タンパク質2(MRP2)陽性 MRP2は、肝細胞から胆道系への細胞内有機的アニオンの輸送に関与する臓器の陰イオントランスポーターである。
【0289】
グルタミン酸トランスポーター2(EAAT2)陽性。
【0290】
肝臓の機能および代謝に関与しうる前述の多くの分子の存在は、ADHLSC細胞株と肝臓の表現型との密接な関連を示している。
【0291】
CD117陰性 CD117(別名、c−kit)は、HSCおよびMSCが同定されるため、全く未分化な幹細胞を特徴とする骨髄細胞種上の細胞表面受容体である。
【0292】
CD34陰性 CD34は、HSCおよび内皮前駆細胞を示す骨髄細胞上の細胞表面タンパク質である。
【0293】
CD45陰性 CD45(別名、白血球抗原)は、チロシン脱リン酸酵素を発現する、造血幹細胞などの造血系統の細胞である。
【0294】
CD105陰性 CD105(別名、SH2またはendoglin)は接着分子である。間葉系幹細胞のマーカーとも見なされる。
【0295】
CD133陰性 CD133は造血幹細胞マーカーである。
【0296】
HLA−DR陰性 これらの主要組織適合遺伝子複合体クラスII抗原は、抗原提示細胞にのみ発現している膜へテロダイマーである。
【0297】
Oct‐4陰性 Oct‐4は多能性幹細胞のみが発現する転写因子であり、未分化状態の維持に必須である。
【0298】
サイトケラチン19(CK19)陰性 CK19は、胆管の細胞、つまり、胆管細胞(cholangiocytes)のマーカーとして広く使用される。
【0299】
チトクロムP2B6(CYP2B6)陰性 CYP2B6は内因性物質および生体異物の代謝に関与している。
【0300】
CD54:細胞接着分子‐1(ICAM−1)、膜糖タンパク
限定することを意図せずに、本発明者らは、細胞マーカーに関する自分達の知識に基づいて、前述のデータに関して以下の可能な解釈を提示する:マーカーのこの組み合わせによって、肝臓分化経路に特異的なマーカー(CD29およびアルブミン、alpha−1アンチトリプシン、HNF4、MRP2トランスポーター)の他、間葉系統(CD90、CD73、ビメンチン、CD44)からのマーカーを発現する元の細胞株が定義される。免疫蛍光法およびRT−PCRのいずれでも強く検出されるアルブミンの存在は、星状細胞が混入した可能性に反論している。ADHLSCは、多能性の未分化間葉系幹細胞(CD45陰性、CD34陰性、CD117陰性、Oct‐4陰性)でも、肝臓星状細胞(アルブミン陽性)でもないように思われる。ADHLSC株は、肝臓系統(アルブミンおよびα−1アンチトリプシンを発現するCD29陽性)にコミットメントしていると考えられるが、通常の胆管マーカーを発現していない(CK19、7陰性)。このため、本発明の細胞および細胞株は、限定はされないが、1つとしては、肝細胞前駆体の特徴を有する間葉系幹細胞株と示すことができる。
【0301】
uPA−SCIDマウス移植、組織学&免疫組織化学
100万個のADHLSC(生存能力90%以上)を6〜14日齢のuPA+/+−SCIDマウスの脾臓に注入した。移植前、マウスにおいて血清アルブミンは検出されなかった。全体的な組織病理学的評価のためにヘマトキシリン・エオジン(HE)染色した4μm厚の肝臓切片においてマウス肝臓サンプルの免疫組織化学を実施した。免疫染色において、肝臓スライドを室温で一次抗体とオーバーナイトでインキュベートさせた。スライドをペルオキシダーゼ標識ポリマーおよび基質色素原(Envision−DABシステム、Dako、カリフォルニア州カーピンテリア)とインキュベートさせた後、検出した。ヘマトキシリンを使用して対比染色を実施した。
【0302】
この目的で利用したトランスジェニックマウスモデルにおいては、肝臓病理学(uPA)と免疫不全(SCID)と組み合わせている。ADHLSC浮遊液の脾臓内移植後、uPA+/+−SCIDマウスは10週間放置して回復させた。ADHLSCを移植したuPA/SCIDマウスの肝臓を分析することで、これらの細胞を移植して、成熟肝細胞に分化可能であることが実証された。更に、10週移植後のこれらの移植マウスの血清中にヒトのアルブミンが検出されたが、腫瘍発生のマーカーであるα‐フェトプロテインの発現レベルは追跡できないままであった。
【0303】
顕微鏡観察によって示される通り、移植細胞は過剰増殖することなく、腫瘍化コロニーおよび腫瘍マーカーであるα−フェトプロテインおよびKi67の通常レベルの発現は認められない。通常レベルの発現は、正常な肝細胞において測定される発現レベルと実質的に対応しており、腫瘍化ヒト肝細胞株(例、HepG2)において測定される発現レベル未満である。
【0304】
実施例2
本発明の肝臓由来の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、またはこれらの細胞を含む細胞集団(無論、限定はしないが、具体的にはLMBP 6452CB株を指す)、または任意に遺伝子組み換えしたこれらの子孫細胞での例示的な処理は以下でよい。
【0305】
好ましくは25〜50x10個の細胞/kg未満、好ましくは4時間間隔、または8時間間隔、または8時間以上、または1週まで、または1週以上で、細胞を連続注射で注入する。数日間、好ましくは1週間または2週間にわたり総細胞量250x10細胞/kg、または500x10細胞/kgを注入した。必要に応じて、月に1回、半年に1回、1年または1年以上に1回、連続注入を繰り返すことができる。
【0306】
門脈へのアクセスは、X線および/または超音波誘導下での直接穿刺、穿刺針、若しくは門脈に排出する血管、好ましくは下腸間膜静脈または結腸静脈に外科的に挿入させた経皮的カテーテル、またはPort−a−cath Rデバイス、Broviac Rデバイスによる。必要に応じて、注入を繰り返すために、数時間、好ましくは数日間、好ましくは数週間、好ましくは数ヶ月間、2年まで、またはより長い期間にわたり、カテーテルを放置できる。
【0307】
注入日、好ましくは1日前、好ましくはタクロリムス(FK506)およびステロイドとの併用で、免疫抑制が始まる。タクロリムスの血液濃度は、好ましくは、最初は8ng/mL、3ヵ月後は6ng/mL、6ヵ月後は4ng/mL、その後は4ng/mL前後で維持される。ステロイドは好ましくはプレドニゾンまたはプレドニゾロンとして、最初1日目は5ng/mL、2日目は5ng/mL、3日目は3ng/mL、4日目は2ng/mL、5日目は1ng/mL、その後、3ヶ月目に0.25ng/mLになるように漸減させて、6ヶ月目に終了する。代替免疫抑制として、シクロスポリンA、抗IL2受容体抗体、抗胸腺細胞グロブリンまたは任意のヒトリンパ球モノクローナルまたはポリクローナル抗体、ミコフェノール酸モフェチルまたはアザチオプリンまたは任意の代謝拮抗薬、シクロスポリン、ラパミューン、または他の任意のカルシニューリン阻害剤の単剤または併用が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0308】
【図1】光学顕微鏡(位相差)を使用した、実施例1において調製した、1ヶ月間培養後の本発明のヒト成人肝に由来する前駆細胞もしくは幹細胞(ADHLSC)の形態的外観の図である。A:低集密度;B:高集密度 倍率:100倍
【図2A】A.実施例1において調製した、1ヶ月間培養後の、本発明のヒト成人肝由来の前駆細胞もしくは幹細胞(ADHLSC)におけるα平滑筋アクチン(A1)、ビメンチン(A2)、アルブミン(A3、ポリクローナル、A4、モノクローナル)の免疫蛍光染色の有無、
【図2B】B.ヒト肝細胞(hHep、レーン2)、ヒト星状細胞(hSC、レーン3)、ヒト肝芽細胞腫(HepG2、レーン4)と比較した、前記細胞株(ADHLSC、レーン1)におけるRT−PCR遺伝子発現プロファイルの図である。
【図3】本発明のヒト成人肝由来の前駆細胞もしくは幹細胞(ADHLSC)の肝細胞様系統へのインビトロ分化した図である。細胞は実施例1のように分化させて、工程の2日目(J2)(順応)、14日目(J14)(誘導)、30日目(J30)(成熟)に写真撮影した。
【図4】実施例1で詳述した、未分化ADHLSCを移植したuPA/SCIDマウスのキメラ肝臓におけるヘマトキシリン・エオジン染色像を示す図であり、これらの細胞が分化した肝細胞になっていることを示している。
【図5】ヒトアルブミン染色像を示す図であり、実施例1と同様に、未分化ADHLSCの移植後10週目に観察された集団と同様のヒト由来肝細胞が明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞マーカーであるアルブミン(ALB)とともに、少なくとも1種の間葉系マーカー、つまりマーカーCD90、CD73、CD44、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチン(ASMA)の好ましくは1つ、1つ以上、または全てを同時発現することを特徴とする、成人肝に由来する単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項2】
CD29、α−フェトプロテイン(AFP)、α−1アンチトリプシン、HNF−4、およびMRP2トランスポーターから選択される他の肝マーカーまたは肝細胞マーカーの1つ以上を更に発現する、請求項1に記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項3】
該肝細胞マーカーであるアルブミン(ALB)、および少なくとも1つの肝マーカーCD29またはα−フェトプロテイン(AFP)とともに、少なくとも1種の間葉系マーカー、好ましくは1つ、1つ以上、または全てのマーカーCD90、CD73、CD44、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチン(ASMA)を同時発現することを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項4】
1つ以上の肝細胞マーカーα−1アンチトリプシンまたはMRP2トランスポーターを更に発現する、請求項3に記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項5】
CD90、CD29、およびCD44陽性、また任意にCD73陽性、およびアルブミン陽性、ビメンチン陽性、α平滑筋アクチン陽性である、請求項1〜4のいずれかに記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項6】
前記細胞が少なくともCD45、CD34、CD117、および好ましくはまたOct‐4陰性、およびCK−19陰性である、請求項1または2のいずれかに記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項7】
前記細胞が好ましくは単層増殖、扁平状、広い細胞質、1または2個の核小体を有する卵円核のいずれか、または全てを含む間葉様形態を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項8】
前記細胞が肝細胞もしくは肝細胞様細胞に分化可能であり、好ましくは中胚葉系細胞には分化しない、請求項1〜7のいずれかに記載の単離した前駆細胞もしくは幹細胞。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の単離した肝前駆細胞もしくは肝幹細胞を含む、細胞株または細胞集団、およびこれらの子孫細胞。
【請求項10】
該前駆細胞もしくは幹細胞がヒト由来である、請求項1〜8のいずれかに記載の単離した肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9に記載の前駆細胞株、幹細胞株、または細胞集団。
【請求項11】
2006年2月20日にBudapest Treaty with the Belgian Coordinated Collections of Microorganisms(BCCM)の下で受入番号LMBP6452CBで寄託された、単離したヒト成人肝の前駆細胞もしくは幹細胞、および細胞株、そしてクローン性の亜株を含むその亜株、およびその子孫細胞。
【請求項12】
単離した前駆細胞もしくは幹細胞、または前記の前駆細胞もしくは幹細胞を含む細胞集団の入手方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)成人肝またはその一部から一次細胞集団を形成するための前記成人肝またはその一部を分離する工程、
(b)細胞付着を可能にする基質上に該一次細胞を播種する工程と、
(c)少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、少なくとも13日間、または少なくとも15日間、前記基質に付着した該一次細胞集団からの細胞を培養する工程。
【請求項13】
ステップ(c)後に、少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、細胞を継代させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12または13のいずれかの方法を用いて入手可能な、または直接入手される、単離した成人肝の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、および/またはこれらの細胞を含む細胞集団。
【請求項15】
請求項14に記載の単離した成人肝の前駆細胞もしくは幹細胞、これらの細胞の細胞株、および/またはこれらの細胞を含む細胞集団であって、該方法が以下の工程を含む:
(a)被験体、好ましくは脊椎動物、哺乳動物、およびより好ましくはヒト被験体から、好ましくは2段階コラゲナーゼ法により、成人肝またはその一部を分離して、前記の成人肝またはその一部由来の一次細胞集団を形成する工程;
(b)ウシ胎児血清、好ましくは10%(v/v)、EGF、好ましくは25ng/mL、インシュリン、好ましくは10μg/mL、デキサメタゾン、好ましくは1μMを含むウィリアムスE培地中のI型コラーゲン被覆基質に該一次細胞集団を播種する工程;
(c)24時間、該一次細胞集団由来の細胞を前記基質に付着させ、その後該培地を(b)と同じ組成物を有する新鮮培地と交換する工程;
(d)2週間(好ましくは15日間)の間に、(c)の前記培地中で該細胞を培養する工程;
(e)該培地を高グルコースおよびFCS、好ましくは10%含有DMEMと交換し、該細胞をさらに培養する工程で、それにより本発明の前駆細胞もしくは幹細胞が出現し、増殖し;
(f)任意に、そして好ましくは、該細胞を(b)と同じ基質へ播種して、(e)と同じ培地中で培養させ、細胞密集度を70%にして、該細胞を少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回継代させる工程。
【請求項16】
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の該肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、または請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団、を含む組成物。
【請求項17】
該肝細胞がヒト肝細胞または哺乳動物の肝細胞である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団の有効量を投与することを含む、肝疾患を治療する方法。
【請求項19】
治療に使用するための、請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団、もしくは分化子孫細胞、好ましくは肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含むこれらの子孫細胞。
【請求項20】
肝疾患治療用の薬剤の製造における、請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団、もしくは分化子孫細胞、好ましくは肝細胞もしくは肝細胞様細胞を含むこれらの子孫細胞の使用法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法、または請求項20に記載の使用であって、該肝疾患として、以下が挙げられる:フェニルケトン尿症および他のアミノ酸血症、血友病および他の凝固因子欠損症、家族性高コレステロール血症および他の脂質代謝障害、尿素回路障害、糖原病、ガラクトーゼ血症、果糖血症、チロシン血症、タンパク質・糖質代謝欠損症、有機酸尿、ミトコンドリア病、ペルオキシソーム・リソソーム異常、タンパク質合成異常、肝細胞トランスポーター欠損、グリコシル化異常、肝炎、肝硬変、先天性代謝異常、急性肝不全、急性肝感染症、急性化学毒性、慢性肝不全、胆管炎、胆汁性肝硬変症、アラギル症候群、α−1−アンチトリプシン欠損症、自己免疫性肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、肝嚢胞性疾患、脂肪肝、ガラクトーゼ血症、胆石、ジルベール症候群、血色素症、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、および他の肝炎ウイルス感染症、ポルフィリン症、原発性硬化性胆管炎、ライ症侯群、類肉腫症、チロシン血症、1型糖原病、またはウィルソン病。
【請求項22】
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団を含む、医薬組成物、および医薬的に許容される担体。
【請求項23】
以下の工程を含む、インビトロ毒性試験を行う方法:
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団を試験薬に触れさせる工程と、もしあるならば、該試験薬が肝細胞集団に及ぼす少なくとも1つの効果を観察する工程。
【請求項24】
該少なくとも1つの効果に、細胞の生存、細胞の機能、またはこれらの両方に及ぼす効果が含まれる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
以下の工程を含むインビトロ薬物代謝試験を行う方法:
(i)請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団を試験薬に触れさせる工程と、
(ii)所定の試験期間後に、もしあるならば、該試験薬が関与する少なくとも1つの変化を観察する工程。
【請求項26】
該少なくとも1つの変化に、該試験薬の構造、濃度、またはこの両方の変化が含まれる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団を入れるハウジングを含む肝臓補助デバイス。
【請求項28】
以下の工程を含む遺伝子発現異常を治療する方法:
(i)請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団に機能的遺伝子コピーを導入して、形質転換集団を提供する工程と、
(ii)機能的遺伝子コピーを必要とする患者の肝臓に該形質転換集団の少なくとも一部を導入する工程。
【請求項29】
機能的遺伝子コピーを導入した、請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の形質転換させた肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の形質転換させた細胞株または細胞集団を含む、遺伝子発現異常を処理するための組成物。
【請求項30】
機能的遺伝子コピーを導入した、請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団を含む、遺伝子発現異常を治療するための医薬組成物、および医薬的に許容可能な担体。
【請求項31】
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団、の有効量を該肝臓に投与することを含む、損傷または罹患した肝臓の再生を促進する方法。
【請求項32】
以下の工程を含む肝感染症を治療するのに有効な薬剤の試験方法:
(i)請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団を対象の感染物質に感染させ、感染集団を提供する工程、
(ii)該感染集団を所定量の試験薬に触れさせる工程と、
(iii)もしあるならば、該触れさせたことが該感染集団に及ぼす効果を観察する工程。
【請求項33】
該感染物質に微生物が含まれる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
該感染物質に1種以上のウイルス、細菌、菌類、またはこれらの組み合わせが含まれる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
認められる効果にウイルス感染物質がウイルス複製に及ぼす効果が含まれる、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
該ウイルス感染物質に肝炎ウイルスが含まれる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
請求項1〜8、10、11、14、15のいずれかに記載の肝前駆細胞もしくは肝幹細胞、もしくは請求項9〜11、14、15のいずれかに記載の細胞株または細胞集団に、対象のタンパク質をコードする機能的遺伝子を導入する工程、転写、翻訳、および任意に翻訳後修飾が起るのに効果的な条件下で肝細胞集団を培養する工程、ならびに対象のタンパク質を回収する工程を含む、対象のタンパク質の生産方法。
【請求項38】
該肝細胞がヒト肝細胞である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
該対象のタンパク質がワクチン抗原を含む、請求項38に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2009−520474(P2009−520474A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546208(P2008−546208)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012046
【国際公開番号】WO2007/071339
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(507338149)
【Fターム(参考)】