説明

印刷インキ組成物

【課題】
本発明は、オフセット印刷インキの表面張力に影響しない分散剤を提供し、印刷インキに高流動性と優れた分散安定性を付与する技術である。
【解決手段】
顔料5〜30重量%、バインダー樹脂20〜50重量%、ロジン変性アルキッド樹脂0.05〜10重量%、植物油類1〜40重量%、溶剤1〜45重量%、からなるオフセット印刷インキ組成物。
ロジン変性アルキッド樹脂が、該樹脂全量に対してロジン2〜30重量%で変性された樹脂である上記オフセット印刷インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書籍、チラシ、カタログ等の用紙の印刷物に使用されるオフセット印刷インキ(以下、「インキ」と略す。)に優れた流動性を付与するものであり、特に、印刷インキの優れた分散安定性に関するものである。
【0002】
本発明におけるロジン変性アルキッド樹脂は通常使用されてきた無変性アルキッド樹脂に比べ極性が低く、添加によってインキの表面張力に対する影響が顕著に少なく、オフセット印刷インキの分散安定性を向上させるためのものである。
【背景技術】
【0003】
オフセット印刷インキは30〜100Pa・sec程度の比較的粘度の高いインキである。オフセット印刷機の機構はインキが印刷機のインキ壺から複数のローラーを経由して版面の画線部に供給され、水有り印刷では非画線部に湿し水が供給され、一方、水無し印刷では非画線部がシリコン層から成り、それぞれインキを反発し紙上に画像が形成される。
オフセットインキは高粘度であり、更にチキソトロピー性を有しているので、静置されたインキがチキソトロピック構造を形成する。この構造形成の速度が速く、あるいは強固である場合、印刷機のローラー間での転移性が低下し、用紙への着肉不良を誘発する虞があり、または、水有り印刷においては印刷機上でのインキと湿し水の需給バランスが崩れ、乳化に関するトラブルが発生する虞があるので、インキを安定した分散状態に保持し、構造形成を低く抑制する必要がある。
【0004】
従来から使用されているアルキッド樹脂においても、OH / COOH比が請求項3の範囲から大きく乖離し極性に偏りがあるものは、インキの表面張力が低下し乳化に関するトラブルが発生し易く、または、分散状態不良によるローラー間の転移性低下に繋がる。
【特許文献1】特開2002-322407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来の技術における問題点を解決する為になされたものであり、その課題とするところは、インキの表面張力に影響を与えず、更に分散安定性を保った流動性の良好なインキを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、顔料5〜30重量%、バインダー樹脂20〜50重量%、ロジン変性アルキッド樹脂0.05〜10重量%、植物油類1〜40重量%、溶剤1〜45重量%、からなるオフセット印刷インキ組成物に関する。
また本発明は、アルキッド樹脂をロジンで変性している事を特徴とする上記オフセット印刷インキ組成物に関する。
さらに本発明は、ロジン変性アルキッド樹脂の油長が65%〜80%、樹脂合成におけるOH / COOH比の計算値が0.995〜1.035である事を特徴とする上記オフセット印刷インキ組成物及びそれを紙上に印刷した印刷物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、インキと湿し水との間の界面張力への影響が抑制され、経時での分散安定性が良好で流動性に優れたオフセット印刷インキ組成物の提供が可能となる。
【0008】
従来よりアルキッド樹脂は印刷インキ用樹脂として使用されているが(特許公開2002-322407)、本発明によって油長並びにOH / COOH比が制御されたロジン変性アルキッド樹脂は、従来のアルキッド樹脂または変性されたアルキッド樹脂と比較して、優れた分散性を有し、更に乳化に関するトラブルを低減出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
油性物質であるインキと湿し水の反発によって画像を形成するオフセット水有り印刷において、従来使用されている顔料分散剤は、少量の添加によっても表面張力が低下し易く、湿し水に関するトラブルに至り、最適な紙面上の画像形成を困難にする。
本発明のロジン変性アルキッド樹脂のOH/COOH比は、好ましくは0.995から1.035であり、更に好ましくは、0.998から1.020が望ましい。
【0010】
本発明のロジン変性アルキッド樹脂は、樹脂全量に対して、ロジン2〜30重量%で変性されていることが望ましい。変性量が2重量%を下回ると、ロジンの効果が十分に発揮されず、逆に30重量%を上回ると、他の成分(油、二塩基酸、多価アルコール)が相対的に不足し、十分な分散性が得られなくなる。
【0011】
ロジン変性アルキッド樹脂の油長は、短油長ではアルキッド樹脂がゲル化し易くインキへの混練が困難となり、また、過度な長油長ではインキの紙上での乾燥性が遅延化するので、ロジン変性アルキッド樹脂の油長は65〜80%である事が望ましい。
【0012】
本発明のロジン変性アルキッド樹脂の添加量は印刷インキ組成物の全量に対して0.05重量%から10重量%が有効であり、好ましくは1〜7重量%であり、更に好ましくは3〜5%である。0.05重量%未満の添加量では、充分な顔料分散効果を発揮せず、10重量%を超過する添加量では、印刷インキの感脂性が高くなり、また、インキ凝集力の低下により地汚れを誘発する。
【0013】
本発明におけるインキは、顔料5〜30重量%、バインダー樹脂20〜50重量%、ロジン変性アルキッド樹脂0.05〜10重量%、植物油類1〜40重量%、溶剤1〜45重量%からなっている。インキの種類としては、オフセット輪転印刷機用インキ、枚葉印刷機用インキが主であるが、これに限定されるものではない。
【0014】
本発明において使用される顔料としては、一般的な無機顔料及び有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉、などを示すことができる。有機顔料としては、アゾ系として、C系(βナフトール系)、2B系および6B系(βオキシナフトエ系)などの溶性アゾ顔料、βナフトール系、βオキシナフトエ酸アニリド系、モノアゾイエロー系、ジスアゾイエロー系、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、アセト酢酸アリリド系などの縮合アゾ顔料、フタロシアニン系として、銅フタロシアニン(αブルー、βブルー、εブルー)、塩素、臭素などのハロゲン化銅フタロシアン、金属フリーのフタロシアニン顔料、多環顔料としてペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系顔料を挙げることができる。顔料の添加量は、印刷インキ組成物の全量に対して5〜30重量%である。
【0015】
本発明で使用されるバインダー樹脂とはロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂及び石油樹脂等を示し、それらは任意に単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0016】
本発明で使用されるバインダー樹脂は、植物油類及び/または溶剤とアルミニウムキレート化合物のようなゲル化剤を添加して、190℃以上で溶解してワニス化したものを使用することができる。バインダー樹脂の添加量は印刷インキ組成物の全量に対して20〜50重量%である。
【0017】
本発明における植物油類とは植物油並びに植物油由来の化合物であり、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセリドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセリドと、それらのトリグリセリドから飽和または不飽和アルコールとをエステル反応させてなる脂肪酸モノエステル、あるいは植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類が挙げられる。
【0018】
植物油として代表的ものは、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油などが挙げられる。
【0019】
脂肪酸モノエステルは上記植物油とモノアルコールとをエステル交換したものや植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステルである。モノアルコールの代表的なものは、メタノール、エタノール、n−又はiso−プロパノール、n,sec又はtert−ブタノール、ヘプチノール、2−エチルヘキサノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール等の飽和アルコール、オレイルアルコール、ドデセノール、フイセテリアルコール、ゾンマリルアルコール、ガドレイルアルコール、11−イコセノール、11−ドコセノール、15−テトラコセノール等の不飽和脂肪族系アルコールが挙げられる。
【0020】
エーテル類として代表的なものは、ジ−n−オクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジへプチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジデシルエーテル、ノニルへキシルエーテル、ノニルヘプチルエーテル、ノニルオクチルエーテル等が挙げられる。
【0021】
本発明で使用される溶剤は芳香族炭化水素の含有量が1重量%以下の原油由来の溶剤(石油系溶剤)である。この石油系溶剤はアニリン点が70〜110℃、沸点が230℃以上の石油溶剤が適当である。アニリン点が70℃未満の場合には樹脂を溶解させる能力が高すぎる為インキの粘度が低くなりすぎ地汚れ耐性が充分でなくなる。またアニリン点が110℃を超える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、インキの流動性が劣り、その結果光沢、着肉性が悪い印刷物しか得ることができず好ましくない。沸点が230℃未満の場合には印刷機上でのインキ中溶剤の放出量が多くなり、インキの流動性の劣化により、ローラー、版、ブランケットへのインキの堆積が起こり易くなる為、好ましくない。
【0022】
[実施例]次に、本発明を実施例に基づいて説明する。例中、「部」は「重量部」を「%」は「重量%」を示す。尚、本発明の主旨と適用範囲を逸脱しない限り、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0023】
(オフセット印刷インキ用のワニス製造例)撹拌機、水分離器付還流冷却器、温度計付き4つ口フラスコに、ロジン変性フェノール樹脂43部(荒川化学工業(株)製タマノル420)、大豆油12部、石油系溶剤(新日本石油(株)製AFソルベント7)44部、ゲル化剤(川研ファインケミカル(株)製ALCH)1部を190℃で1時間加熱撹拌してオフセット印刷インキ用ワニスを得た。
【0024】
(オフセット印刷インキ組成物の製造例)オフセット印刷インキ用のワニス60部に、カーボンブラック(三菱化学(株)製 MA77)19部、マイクロクリスタリン系ワックスコンパウンド(森村ケミカル(株)製品)3部、石油系溶剤(新日本石油(株)製AFソルベント7)13部を加え、常法に従い三本ロールを用いてオフセット印刷インキ組成物を得た。
【0025】
前記オフセット印刷インキ組成物に、表1の配合割合になるよう、本発明のロジン変性アルキッド樹脂を添加して混合し、実施例1〜4のオフセット印刷インキ組成物を得た。
【0026】
前記オフセット印刷インキ組成物を、そのまま比較例1とした。
【0027】
前記オフセット印刷インキ組成物に、多塩基酸と多価アルコールおよび植物油からなる無変性アルキッド樹脂3部を含む印刷インキを、比較例2とした。
【0028】
【表1】

【0029】
(針入度の測定)前記実施例及び比較例のオフセット印刷インキ組成物の性能評価結果を表2に示す。オフセット印刷インキ組成物の針入度は表1で製造したオフセット印刷インキ組成物を100mlの金属缶に入れ、常温(25℃)、70℃のオーブン中でそれぞれ24時間放置し、常温に戻し直径3mmの金属棒が3cmインキ中に進入する時間(sec)を測定した。
【0030】
(スロープの測定:JIS K−5701−1平版インキ第1部試験方法 流動性)オフセット印刷インキ組成物のスロープは常温(25℃)で、スプレッドメーターを用い、100秒値と10秒値の差をスロープ値とした。
【0031】
(粘度の測定)ハーケー社製ROTO VISCO1コーンプレート型粘度計(25℃)を用いた。
【0032】
(表面張力測定)容器にそれぞれの濃度(重量%)のイソプロピルアルコール水溶液を作成しインキが散らなくなるイソプロピルアルコール濃度からウイルヘルミー法の表面張力に換算した。
【0033】
【表2】

表2の本発明による実施例1〜4で示されるオフセット印刷インキ組成物は、針入度(常温、70℃)が良好でインキの締りが抑制され、更にスロープ値が大きく、粘度が抑えられ流動性の良好なものが得られている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料5〜30重量%、バインダー樹脂20〜50重量%、ロジン変性アルキッド樹脂0.05〜10重量%、植物油類1〜40重量%、溶剤1〜45重量%、からなるオフセット印刷インキ組成物。
【請求項2】
ロジン変性アルキッド樹脂が、該樹脂全量に対してロジン2〜30重量%で変性された樹脂である請求項1記載の印刷インキ組成物。
【請求項3】
該ロジン変性アルキッド樹脂の油長が65%〜80%、樹脂合成におけるOH / COOH比の計算値が0.995〜1.035である請求項1または2記載の印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のオフセット印刷インキを紙上に印刷してなる印刷物。




【公開番号】特開2007−63497(P2007−63497A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254464(P2005−254464)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】