説明

印刷インキ組成物

【課題】ラミネート加工を伴わない印刷物において、特に印刷物の耐熱性、耐油性、耐水性に優れる印刷インキ組成物を提供すること。
【課題手段】ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)および分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体(C)を含有することを特徴とする水性印刷インキ組成物。
ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)が、ケト基又はアルド基を有するガラス転移温度0℃〜50℃のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(A2)であることを特徴とする水性印刷インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は, プラスチックフィルム,金属,紙,ガラス等の基材への印刷に用いられる,印刷適性,耐熱性,耐油性、耐水性、貯蔵安定性,耐薬品性に優れた水性印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,印刷分野では,大気汚染の防止,カーボンフットプリント,作業環境の改善および防災上の意識の高まりから,溶剤型印刷インキから水性印刷インキへの移行が進められてきている。従来より水性印刷インキは,その樹脂成分としてシェラック,ロジンマレイン酸系の水溶性樹脂,アクリル樹脂,スチレンアクリル樹脂,スチレンマレイン酸樹脂等の各種共重合体樹脂を単独もしくは必要に応じて適宜配合した組成物を用いている。
【0003】
しかしながら,これらの樹脂は水に溶解もしくは分散させるためカルボキシル基やアミノ基を樹脂骨格中に有しており,これらの樹脂を含むインキから得られる印刷物はアルカリやアルコール性等の耐薬品性や耐水性と印刷適性との両立は極めて困難である。従って印刷物に耐薬品性や耐水性が必要とされる分野では,印刷後プラスチックフィルムでラミネート加工し印刷物表面を保護するか,もしくは印刷インキが表面に露出する場合は溶剤型インキが使用されているのが現状である。
【0004】
また,耐薬品性や耐水性を付与する場合,架橋剤としてアジリジン化合物,カルボジイミド化合物を水性印刷インキに配合し,耐性を付与する方法も提案されている。(ICI社「CX−100」及び「XL−29SE」カタログ参照)しかしながら,これらの水性印刷インキを用いれば,ある程度の耐薬品性をもつ印刷物が得られるものの,印刷直前に架橋剤を配合する2液型であること,架橋剤が比較的短時間で加水分解しポットライフが短いことなど作業性,経済性に問題があった。
【0005】
さらに,硬化性を有する被覆用水性樹脂組成物として,アルド基やケト基などのカルボニル基含有共重合物とヒドラジン誘導体を含有する水性分散液が知られている。例えば,特開昭54−110248号公報にはヒドラジン誘導体を含有するカルボニル基含有共重合物の水性分散液が開示され,カルボニル基含有共重合物と有機ヒドラジン誘導体,重金属イオンを用いた組成物について述べられている。
【0006】
しかし,これらの樹脂の水性分散体は界面活性剤存在下で得られるエマルジョンである。このような型の水性分散体は造膜後,物性の良い皮膜が得られやすい反面,安定性,顔料分散性,印刷適性に劣るという問題があった。また,スチレンマレイン酸などの一般的な水溶性樹脂を上記エマルジョンと配合した場合は,印刷適性の向上は図れるが,印刷物の耐アルカリ性,耐アルコール性,耐油性などの耐薬品性や耐水性との両立は困難であった。
【0007】
また、フィルムへの印刷においては、基材への密着性を高め、かつその変形に追従するため、水性印刷インキ組成物中に含まれる樹脂のガラス転移温度を低くすることが、有効とされている。例えば、特開平6−155694および特願平5−102934においては-20〜40℃がより好ましいとされている。しかしながら、ラミネート加工を行わない印刷物の加工に必要な耐熱性を十分満足することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−110248号公報
【特許文献2】特開平6−155694号公報
【特許文献3】特願平5−102934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、ラミネート加工を伴わない印刷物において、特に印刷物の耐熱性、耐油性、耐水性に優れる水性印刷インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは,上記従来の種々の欠点を改良すべく鋭意検討した結果,ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン、水溶性樹脂および分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体含有する水性印刷インキ組成物は硬化性と印刷適性に優れ,かつ耐熱性、耐油性、耐水性に優れた印刷物を提供し得ることを見出し,本発明に至った。
【0011】
すなわち、第一の発明は、ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)および分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体(C)を含有することを特徴とする水性印刷インキ組成物に関するものである。
【0012】
第二の発明は、ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)が、ケト基又はアルド基を有するガラス転移温度0℃〜50℃スチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(A2)であることを特徴とする第一の発明記載の水性印刷インキ組成物に関するものである。
【0013】
第三の発明は、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)が、ケト基又はアルド基を有さないことを特徴とする第一発明または第二の発明記載の水性印刷インキ組成物に関するものである。
【0014】
第四の発明は、前記水性印刷インキ組成物が、更に、ケト基又はアルド基を有さない酸価150〜240、ガラス転移温度60℃〜180℃のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)を含有することを特徴とする第一の発明〜第三の発明いずれかに記載の水性印刷インキ組成物に関するものである。
【0015】
第五の発明は、第一の発明〜第四の発明いずれかに記載の水性印刷インキ組成物を基材に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水性印刷インキ組成物により、ラミネート加工を伴わない印刷物において、特に印刷物の耐熱性、耐油性、耐水性に優れる印刷物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、本発明のケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1) について説明する。ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)とは、ケト基又はアルド基含有エチレン性不飽和単量体を含むエチレン性不飽和単量体を主体とした共重合エマルジョンである。
【0018】
1)ケト基又はアルド基含有エチレン性不飽和単量体としてはアクロレイン,ジアセトン(メタ)アクリルアミド,ホルミルスチロール,ビニルメチルケトン,ビニルエチルケトン,ビニルイソブチルケトン,(メタ)アクリルオキシメチルプロパナール,ジアセトン(メタ)アクリレート,アセトニル(メタ)アクリレート,およびN−メチロール(メタ)アクリルアミド,N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。
【0019】
また、その他、 2)ケト基又はアルド基含有エチレン性不飽和単量体以外のエチレン性不飽和単量体としては、 2−1)(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸ステアリル,(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸プロポキシエチル,(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエトキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエトキシエチル等の炭素数 1〜18の脂肪族1価アルコール,炭素数3〜30のエチレングリコールモノアルキルエーテルもしくは炭素数3〜30のジエチレングリコールモノアルキルエーテルと(メタ)アクリル酸とのエステル類、 2−2)(メタ)アクリル酸,イタコン酸,マレイン酸,フマル酸,クロトン酸などのカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体またはそれらの無水物、及び 2−3)酢酸ビニル,マレイン酸エステル,アクリロニトリル等の単量体が挙げられる。
【0020】
ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)は、公知の方法、例えば、界面活性剤を使用した乳化重合、あるいは予め調整した高分子乳化剤の存在下での乳化重合により得られる。高分子乳化剤を使用すると当該高分子乳化剤がエマルジョンの外層であるシェル部を構成し、また、後工程で共重合した共重合体がエマルジョンの内層であるコア部を形成し、コア/シェル型のエマルジョンが製造される。本発明で云うエマルジョンとは、樹脂エマルジョンであり、微粒子の樹脂が、それを溶かさない溶媒中に界面活性剤により分散安定化されたものであり、外観的には、白濁し、水性印刷インキ組成物中でも溶媒に溶けず存在している。
【0021】
ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)の市販品としてはBASF社製のアクロナールYJ-2720D,アクロナールYJ-2741D,アクロナールYJ-2743D,アクロナールYJ-2770D,アクロナールYJ-2772D,アクロナールYJ-2773D,DMSネオレジン社のネオクリル R−1127,ネオクリル R−1131等が挙げられる。
【0022】
ケト基又はアルド基を有するスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(A2)としては、前記のケト基又はアルド基含有エチレン性不飽和単量体、(メタ)アクリル酸エステル類、カルボキシ基含有不飽和単量体、スチレン,メチルスチレン等のスチレン類とを共重合することにより得られる。Tgとしては、0−50℃が望ましい。市販品としては、例えばBASF社製ジョンクリルSCLシリーズが挙げられる。
【0023】
酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B) は,酸価160〜270 のスチレン−アクリル系共重合体をアンモニア、アミン類で中和して得られる。該スチレンーアクリル系共重合体は前記の(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル類等のエチレン性不飽和単量体と前記スチレン類を共重合することにより得られる。
【0024】
水溶性樹脂(B)の酸価は160〜270であることが必要である。酸価が160未満の場合,得られる水性印刷インキ組成物の印刷物の光沢や鮮明性に劣り、また、インキの再溶解性が低下する。酸価が270より大きくなると、印刷物の耐水性が低下するため、好ましくない。本発明で云う水溶性樹脂とは、外観的には透明〜ほぼ透明なものを示し、樹脂が分子状態で溶液中に拡がったもの(溶解している状態)を意味する。一般には酸価を高くしたり、カルボキシル基の中和度を上げることによって得られる。
【0025】
本発明に用いる酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)は、ケト基又はアルド基を有していない方が好ましい。これは水溶性樹脂(B)に含まれるケト基又はアルド基が架橋に関与することにより、塗膜の架橋密度が高くなった結果、塗膜の柔軟性を低下させること、および再溶解性の低下を引き起こすことによる。
【0026】
酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)において、ケト基又はアルド基含有エチレン性不飽和単量体は全単量体の 0〜10重量%,好ましくは 0〜3重量%である。ケト基又はアルド基含有エチレン性不飽和単量体が全単量体に対して10重量%を超えると得られる水性印刷インキ組成物の再溶解性が低くなる傾向にある。なお,得られる水溶性樹脂(B)の分子量は,3000〜40000 が好ましい。
【0027】
本発明に使用されるケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)もしくはケト基又はアルド基を有するスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(A2)、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)において水性化は主として共重合体のカルボキシル基の中和によりなされる。
【0028】
中和剤としてはアンモニアもしくはトリエチルアミン,トリメチルアミン,ジメチルアミノエタノール,モノエタノールアミン等の有機アミン類が挙げられる。例えば、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)の場合、アンモニア等の添加量は,樹脂中のカルボキシル基の中和率が約70〜120 %となる範囲が好適である。中和率が低すぎる場合,得られる水性印刷インキ組成物の流動性が低下するため好ましくない。
【0029】
ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B) の比率は固型分重量比で、ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)/酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)=
20/80〜80/20,好ましくは30/70〜70/30の時、優れた再溶解性と耐熱性が得られる。水溶性樹脂(B) の含有量が20%より少ないと印刷適性,特に再溶解性および版から基材への転移性が劣り,アクリル系共重合体エマルジョン(A) の含有量が20%より少ないと,得られる印刷物の耐水性,耐薬品性が劣る。
【0030】
本発明に使用する、分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体(C) としては,シュウ酸ジヒドラジド,マロン酸ジヒドラジド,コハク酸ジヒドラジド,グルタル酸ジヒドラジド,アジピン酸ジヒドラジド,セバシン酸ジヒドラジド等の脂肪酸ジヒドラジドの他,炭酸ポリヒドラジド,脂肪族,脂環族,芳香族ビスセミカルバジド,芳香族ジカルボン酸ジヒドラジド,ポリアクリル酸のポリヒドラジド,トリヒドラジド,芳香族炭化水素のジヒドラジド,ヒドラジン−ピリジン誘導体およびマレイン酸ジヒドラジド,フマル酸ジヒドラジド等の不飽和ジカルボン酸のジヒドラジド等が挙げられる。
【0031】
分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体(C) は,アルド基又はケト基1個に対して,ヒドラジン残基 0.1〜5個,好ましくは 0.2〜3 個の割合で用いられる。ヒドラジン残基が 0.1個未満では得られる水性印刷インキ組成物よりなる印刷皮膜の架橋密度が小さくなり, 乾燥後の印刷物の耐溶剤性や耐水性が若干劣り, 5個を超えると得られる水性印刷インキ組成物の貯蔵安定性が若干低くなる。
【0032】
さらに、本発明における水性印刷インキ組成物において、印刷物としての耐性,特に耐熱性や耐油性を付与するため、更にケト基又はアルド基を有さない酸価150〜240のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)を添加することができる。ケト基又はアルド基を有さないスチレン−アクリル系エマルジョン(D)の酸価は150〜240が好ましく、160〜220がより好ましい。酸価が150より小さいと再溶解性が低下し、240より大きいと水性印刷インキ組成物の経時安定性が低下する。また、ガラス転移温度は60〜180℃が好ましく、80〜160℃がより好ましい。ガラス転移温度が60℃よりも低いと、耐熱性が低下し、これよりも高いと、基材への密着性が低下する。当該スチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)は、ケト基又はアルド基を有さないことが好ましい。これは、当該スチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)がヒドラジン誘導体(C)と反応した場合、当該樹脂が比較的高いTgを有していることから塗膜が剛直になり、基材への密着性が低下するためである。
【0033】
本発明の水性印刷インキ組成物は、1)ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)、2)ケト基又はアルド基を有さない酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)、3)ケト基又はアルド基を有さない酸価150〜240であり、Tgが110〜160℃のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)、及び分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体(C)、を含有する場合に耐熱性、耐油性、耐水性が特に優れる。これは、ヒドラジン誘導体(C)と架橋し、基材への密着性と塗膜物性を付与するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)と、架橋には関与せず、再溶解性と耐熱性を付与するスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)および耐熱性を向上させるスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)とのバランスがもっとも良いためであると考えられる。
【0034】
本発明の水性印刷インキ組成物には,フタロシアニン顔料,溶性アゾ顔料,不溶性アゾ顔料,ナフトール系顔料,酸化チタン,カーボンブラック,炭酸カルシウム,沈降性硫酸バリウム,クレー等の有機,無機及び体質顔料を着色剤として使用することができる。
【0035】
また,本発明の水性印刷インキ組成物には,水あるいは水可溶の有機溶剤を使用することができる。有機溶剤としては,メチルアルコール,エチルアルコール,イソプロピルアルコール,N-プロピルアルコール等のアルコール類,エチレングリコール,プロピレングリコール等のグリコール類,メチルセロソルブ,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブ,プロピレングリコール,プロピレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類,グリセリン等が挙げられる。水と有機溶剤の重量比率は 100/0 〜40/60が好ましい。
【0036】
本発明の水性印刷インキ組成物には,必要に応じて,微粉末シリカ等のチキソトロピー剤,コロイダルシリカ,アルミナゾル等のゾル類,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,シェラック,水溶性ポリエステル樹脂,水溶性または水分散性のポリウレタン樹脂あるいはポリアミド樹脂等の水溶性または水分散性樹脂,ポリエチレンワックス,顔料分散剤,消泡剤,レベリング剤,粘着性付与樹脂,防腐剤,防黴剤などが配合され,公知の分散機,混合機.混練機などにより,分散,混合または混練される。
【0037】
本発明の水性印刷インキ組成物は,クラフト紙,コート紙,段ボール等の吸収性基材,アルミ箔,コロナ処理ポリエチレン,コロナ処理2軸延伸ポリプロピレン,コロナ処理無延伸ポリプロピレン,コロナ処理ポリエステル,コロナ処理ナイロン等のフィルム基材,コロナ処理エクストルージョンラミネートを施したカルトン紙等の非吸収性基材等の被印刷体に,グラビア印刷機,フレキソ印刷機等で印刷される。特に本発明の水性印刷インキ組成物は、コロナ処理エクストルージョンラミネートを施したカルトン紙、コロナ処理2軸延伸ポリプロピレンおよびコート紙に対して好適に用いられ、接着性に優れた印刷物が得られる。また、印刷方式は、フレキソ印刷方式が好ましい。
【0038】
本発明の水性印刷インキ組成物は、印刷後にOPワニスを使用しなくても優れた耐熱性、耐油性を発現するが、必要に応じて更にOPワニスを重ねて印刷することで耐熱性、耐油性、耐摩擦性および耐水性などの塗膜物性をさらに向上することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を説明する。本発明において、特に断らない限り、「部」は、「重量部」であり、「%」は、「重量%」である。先ず、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)の製造例を挙げ、次いで本発明の水性印刷インキ組成物の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(樹脂の製造例1)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた反応容器にキシレン1594部を仕込み、内温が125〜130℃になるまで昇温した。次いでスチレン680部、アクリル酸220部、α−メチルスチレン100部及びジ−tert−ブチルパーオキサイド63部からなる混合液を滴下漏斗より4時間を要して滴下した後、同温度で3時間保ち重合反応を完結させた。更に180℃に昇温し、減圧下でキシレンを完全に除去し、重量平均分子量が12000、酸価170、Tg95℃の共重合体を得た。得られた共重合体にアンモニア水及び脱イオン水を加えてpH8.6、固形分30%の酸樹脂水溶液を得た。これをスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B1)とする。
【0041】
(樹脂の製造例2〜5)
以下、表1の配合に従い、製造例1と同様の工程により、酸価160−270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂B2、B3、および酸価が160〜270の範囲外の水溶性樹脂b1、b2を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
(樹脂の製造例6)
製造例1と同様の反応容器にキシレン1594部を仕込み、内温が125〜130℃になるまで昇温した。次いでスチレン225部、α−メチルスチレン50部、アクリル酸125部、メタクリル酸100部、及びジ−tert−ブチルパーオキサイド63部からなる混合液を滴下漏斗より4時間を要して滴下した後、同温度で3時間保ち重合反応を完結させた。更に180℃に昇温し、減圧下でキシレンを完全に除去し、重量平均分子量が12000、数平均分子量が8000の共重合体を得た。得られた共重合体にアンモニア水及び脱イオン水を加えてpH8.3、固形分30%の樹脂水溶液を得た。この樹脂水溶液にスチレン500部、メタクリル酸メチル500部および過硫酸アンモニウム10部を攪拌しながら1時間かけて滴下し、固形分35%の樹脂エマルジョンを得た。これをケト基またはアルド基を有さないスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D1)とする。
【0044】
(樹脂の製造例7)
表2の配合に従い、製造例5と同様の工程により、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D2)を得た。
【0045】
その他、実施例に用いた市販の樹脂は、
1)ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)として、
A1−1 :BASF社製アクロナールYJ2720D(Tg 9℃、固形分48%)
2)ケト基又はアルド基を有するスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(A2)と して
A2−1:BASF社製ジョンクリルPDX−7164(Tg 5℃、
固形分47%)
A2−1:BASF社製ジョンクリルPDX−7430(Tg 34℃、
固形分38%)
である。
【0046】
【表2】

【0047】
また、実施例の顔料には、東洋ケム株式会社製藍顔料 LIONOL BLUE FG7330を用いた。
【0048】
(実施例1)
以下、本発明における水性印刷インキ組成物の製造法を説明する。
LIONOL BLUE FG7330 20.0 部
アクロナール YJ2720D(A1−1) 15.0 部
スチレン-アクリル系水溶性樹脂(B1) 30.0部
ポリエチレン ワックス 3.0 部
水 31.6部
アジピン酸ジヒドラジド 0.4部───────────── 100.0 部

上記組成物を混合後,サンドミルにて分散し,グラインドゲージ30μの印刷用インキを得た。これを水で希釈し,粘度を離合社製ザーンカップNo.3で25秒に調整した。本インキをコロナ処理ポリエチレンをラミネートしたクラフト紙に,フレキソ印刷方式で印刷し、印刷物を得た。
【0049】
(実施例2〜7)
表3の配合に従い、実施例1と同様の方法で、水性印刷インキ組成物および印刷物(2)〜(7)を得た。
【0050】
【表3】

【0051】
(比較例1)
LIONOL BLUE FG7330 20.0 部
アクロナール YJ2720D 45.0部
ポリエチレン ワックス 3.0 部
水 31.6部
アジピン酸ジヒドラジド 0.4部──────────── 100.0 部

【0052】
上記組成物を混合後,サンドミルにて分散し,グラインドゲージ30μの印刷用インキを得た。これを水で希釈し,粘度を離合社製ザーンカップNo.3で25秒に調整した。本インキをコロナ処理ポリエチレンをラミネートしたクラフト紙に,フレキソ印刷方式で印刷し、印刷物(8)を得た。
【0053】
(比較例2〜6)
表4の配合に従い、比較例1と同様の方法で、水性印刷インキ組成物および印刷物(9)〜(13)を得た。
【0054】
【表4】

【0055】
実施例1〜6、比較例1〜6で得られた水性印刷インキ組成物の印刷物について、再溶解性、耐水性、耐熱性、耐油性の評価を行った結果を表5に示す。評価方法、評価基準を、以下に、示す。
【0056】
再溶解性
水性印刷インキ組成物を硝子板にバーコーター#4で塗工し、ドライヤーにて3秒間風乾させる。塗膜にインキをたらし、塗膜に穴があくまでの時間を測定。
◎ :1秒以下
○ :5秒以下
△ :5秒以上10秒以下
× :10秒以上
実用レベルは、○以上である。
【0057】
耐水性
水性印刷インキ組成物を硝子板にバーコーター#4で塗工し、ドライヤーにて3秒間風乾させる。塗膜に水をたらし、塗膜に穴があくまでの時間を測定。
◎ :20秒以上
○ :10秒以上20秒以下
△ :10秒以下
× :1秒以下
実用レベルは、○以上
【0058】
耐熱性
印刷面とアルミホイルのツヤ面を合わせ、センチネルヒートシーラーにて加熱圧着後、アルミホイルを剥がし、インキのとられ度合いを評価。
圧力:2kg/cm2 圧着時間:0.5秒
◎ :インキとられなし
○ :アルミホイルにインキがうっすらとられる(5%以下)
△ :アルミホイルにインキがとられる
× :インキとアルミホイルが接着する
実用レベルは○以上
【0059】
耐油性
印刷物を学振型耐摩擦試験機を用いて含サラダ油綿布にて摩擦し、インキのとられ度合いを評価
対含サラダ油綿布 荷重:200g 回数 20回
◎ :インキとられなし
○ :綿布にうっすら色がつく
△ :インキ塗膜にキズがつく
× :インキがとられる
実用レベルは○以上
【0060】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)、酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)および分子中に2個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン誘導体(C)を含有することを特徴とする水性印刷インキ組成物。
【請求項2】
ケト基又はアルド基を有するアクリル系共重合体エマルジョン(A1)が、ケト基又はアルド基を有するガラス転移温度0℃〜50℃のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(A2)であることを特徴とする請求項1記載の水性印刷インキ組成物。
【請求項3】
酸価160〜270のスチレン−アクリル系共重合体を中和してなる水溶性樹脂(B)が、ケト基又はアルド基を有さないことを特徴とする請求項1または2記載の水性印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記水性印刷インキ組成物が、更に、ケト基又はアルド基を有さない酸価150〜240、ガラス転移温度60℃〜180℃のスチレン−アクリル系共重合体エマルジョン(D)を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の水性印刷インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の水性印刷インキ組成物を基材に印刷してなる印刷物。



【公開番号】特開2013−14712(P2013−14712A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149517(P2011−149517)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】