説明

印刷インキ

【課題】オフセット輪転印刷インキにおいて、該インキ溶剤である石油系溶剤の一部または全部を特定の組成構造を有する脂肪酸エステルに置き換えることにより、印刷適性を阻害せずにインキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスに優れた環境に優しいインキの提供。
【解決手段】ワニス用樹脂と溶剤とを含有し、該溶剤中に下記一般式(1)で表わされる脂肪酸エステルが30〜100質量%含有されることを特徴とするオフセット輪転印刷インキ。
R1COOR2 (1)
(上記一般式(1)において、R1が炭素数3〜11のアルキル基またはアルケルニル基を表わし、R2が炭素数5〜14のアルキル基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット輪転印刷インキに関し、詳しくは、該インキの溶剤として使用されている石油留分から得られる石油系溶剤の一部または全部を特定の油脂由来の溶剤に置き換えることにより、蒸発乾燥性と機上安定性のバランスが優れたオフセット輪転印刷インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オフセット輪転印刷インキに使用されている溶剤としては、石油留分から得られる石油系溶剤が用いられている。その中でもヒートセット乾燥型インキに使用される溶剤には、紙に印刷される前は、すなわち、印刷機上では蒸発しにくく安定した状態でインキ中に存在し、紙に印刷された後は適度な加熱条件によってインキ塗膜から速やかに蒸発離脱するという、溶剤の沸点に関わった性能が求められる。
【0003】
上記の石油系溶剤は、石油留分のために様々な沸点を有するものが存在する。オフセット輪転印刷におけるインキの蒸発乾燥性と機上安定性の調整においては、これらの石油系溶剤から適度の沸点を有するものを選択使用するか、あるいは、数種類の沸点が異なる溶剤を適度に混合調製して使用していた。例えば、インキに使用される溶剤に、高沸点の石油系溶剤を使用した場合にはインキの機上安定性が向上し、低沸点の石油系溶剤を使用した場合には蒸発乾燥性が向上する。
【0004】
しかしながら、石油系溶剤は、幅の広い沸点範囲を有しているために、インキ性能には妨げとなる余分な沸点部が存在する。例えば、高沸点の溶剤を使用して機上安定性の向上を図った場合に、不必要な高沸点部の成分がインキ中に混入するため、蒸発乾燥性が阻害されることがあった。また、逆に低沸点の溶剤を使用して蒸発乾燥性の向上を図った場合、不必要な低沸点部の成分がインキ中に混入するため、機上安定性が阻害されることがあった。このことから、インキの機上安定性と蒸発乾燥性との双方のバランスに優れたインキの設計が困難であった。石油系溶剤の中には、沸点範囲の狭い溶剤も存在するが、インキに使用されるワニス用樹脂に対する溶解性が低いために安定したインキを製造することが困難である。また、石油系溶剤に比べて、沸点が狭く、かつ溶解性の高い溶剤として脂肪酸エステルが挙げられるが、一般的にこれらの溶剤の多くは、インキ中に多量に使用した場合、印刷機上のゴム材質を膨潤させる傾向が有り、安定した印刷物が得にくい。
【0005】
脂肪酸エステルに関しては、石油資源の枯渇保護や環境負荷の低減など環境対応を目的に石油系溶剤を脂肪酸エステルに置き換えた環境対応型の印刷インキ組成物(特許文献1)および印刷インキ組成物(特許文献2)が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示のインキ組成物において、その使用される脂肪酸エステル(R1COOR2)は、R1の炭素数が10〜18のアルキル基又はアルケニル基であり、また、R2の炭素数が1〜4のアルキル基である。このような炭素数が1〜4の低級アルコールの脂肪酸エステルは、インキ中に多量に使用すると、一般に、印刷機のゴム材質からなるインキローラーやブランケットを膨潤させやすい。特に炭素数が12以下の脂肪酸と炭素数が1〜4の低級アルコールとの脂肪酸エステルをインキ中に多量に使用すると、ゴム材質の膨潤のため、安定した印刷物を得ることが困難である。
【0007】
上述のことから、印刷適性を損なうことなくインキの機上安定性や蒸発乾燥性を大幅に向上させた印刷品質や作業性に優れた環境に優しいオフセット輪転印刷インキの開発が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−204202号公報
【特許文献2】特開2004−204203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、オフセット輪転印刷インキ(以下単にインキという)において、該インキの溶剤である石油系溶剤の一部または全部を特定の組成構造を有する脂肪酸エステルに置き換えることにより、印刷適性を阻害せずにインキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスに優れた環境に優しいインキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、ワニス用樹脂と溶剤とを含有し、該溶剤中に下記一般式(1)で表わされる脂肪酸エステルが30〜100質量%含有されることを特徴とするオフセット輪転印刷インキによって達成される。
R1COOR2 (1)
(上記一般式(1)において、R1が炭素数3〜11のアルキル基またはアルケニル基を表わし、R2が炭素数5〜14アルキル基を表わす。)
【0011】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記の脂肪酸エステルを使用したインキは、従来の石油系溶剤を使用したインキに比べて、印刷適性を損なわずにインキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスが向上することを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インキ中の石油系溶剤を、上記の組成構造を有する脂肪酸エステルに置き換えることにより、インキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスが優れたインキを得ることができる。インキに付与させる性能目的によって、上記の脂肪酸エステルから適度な沸点を有した溶剤を選定使用することで、他の性能を損なわずに大幅にインキの蒸発乾燥性を速めたり、または機上安定性を向上させることが可能である。またさらに、該脂肪酸エステルの使用によりインキ中から石油系溶剤を除外あるいは低減することができるために、従来のインキに比べて環境負荷が少ないインキが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明を主として特徴づける溶剤は、前記の一般式(1)で表わされる脂肪酸エステルを主体としている。該脂肪酸エステルは一般式(1)においてR1が炭素数3〜11のアルキル基またはアルケニル基を表し、また、R2が炭素数5〜14アルキル基を表す脂肪酸エステルである。該脂肪酸エステルは、植物油脂から誘導された脂肪酸エステルの単体あるいは混合物が好ましく使用されるが、その他の合成法によるものも使用することができる。
【0014】
上記の脂肪酸エステルは、例えば、脂肪酸とアルコールとのエステル化によって生成したものを使用することができる。該脂肪酸エステルの生成に使用される脂肪酸は、ヤシ油、パーム油、パーム核油、クヘア油、あおもじ種子油、いぬがし種子油、かごのき種子油、グアバ種子油、グレープフルーツ種子油、しろだも種子油、しろもじ種子油、なつめやし種子油、にっけい種子油、はまびわ種子油などの植物由来の脂肪酸であり、これらの脂肪酸は、一般に、複数の脂肪酸から構成されているので、それらを公知の方法で分離精製し、単体あるいはこれらを混合して使用することができる。
【0015】
上記の脂肪酸としては、前記の一般式(1)で表わされるR1の炭素数が3〜11のアルキル基またはアルケニル基を表す脂肪酸が使用される。該脂肪酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。
【0016】
また、上記の脂肪酸と反応して前記の一般式(1)で表わされる脂肪酸エステルを生成するアルコールは、炭素数が5〜14のアルキル基を有するアルコールが挙げられる。該アルコールとしては、例えば、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコールなど、好ましくは分岐鎖を有する3−メチル−1−ブチルアルコール、2−エチル−1−ブチルアルコール、2,4−ジメチル−3−ペンチルアルコール、2−エチル−1−ヘキシルアルコール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシルアルコール、4−デシルアルコール、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシルアルコール、2−ブチル−1−オクチルアルコールなどが挙げられる。
【0017】
前記脂肪酸エステルの製造方法としては、例えば、前記の脂肪酸とアルコールとの反応による直接エステル化反応による方法、エステルとアルコールまたはエステルと脂肪酸、あるいはエステルとエステルとから合成するエステル交換反応による方法、塩化アシルとアルコールとの反応による方法、およびエポキシドと脂肪酸との反応による方法など、好ましくは直接エステル化反応による方法が挙げられる。上記の直接エステル化反応による方法は、前記の脂肪酸とアルコールとを混合し、適宜適当なトルエンやキシレンなどの共沸脱水剤を加えて熱することにより、水を留出させながら反応を進める。触媒としては、硫酸やp−トルエンスルホン酸などのブレンステッド酸、酸化亜鉛や活性アルミナ、酸化チタン、テトライソプロピルチタナートなどのルイス酸を使用する。
【0018】
前記の脂肪酸エステルとしては、例えば、酪酸のヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシルなどの脂肪酸エステル;吉草酸のヘキシル、ヘプチル、オクチルなどの脂肪酸エステル;カプロン酸のアミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシルなどの脂肪酸エステル;エナント酸のアミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどの脂肪酸エステル;カプリル酸のアミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどの脂肪酸エステル;ベラルゴン酸のアミル、ヘプチルなどの脂肪酸エステル;カプリン酸のヘプチルなどの脂肪酸エステルが挙げられる。
【0019】
インキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスの点から、前記脂肪酸エステルの内で、総炭素数が17以下、好ましくは10〜17である脂肪酸エステルを溶剤として使用することがより好ましい。
【0020】
また、前記の脂肪酸エステルの内で、一般式(1)におけるR1の炭素数XとR2の炭素数Yとの合計に対するR2の炭素数の割合が0.3≦Y/(X+Y)≦0.7である脂肪酸エステルは、印刷機上のインキローラーやブランケットのゴム材質に対して影響が少ない。特に、R2が分岐鎖を有するアルキル基である脂肪酸エステルが好ましい。該脂肪酸エステルとしては、例えば、カプロン酸ヘプチルエステル、カプロン酸オクチルエステル、カプロン酸ノニルエステル、カプロン酸デシルエステル、カプリル酸ヘキシルエステル、カプリル酸ヘプチルエステル、カプリル酸オクチルエステル、カプリル酸ノニルエステル、カプリン酸アミルエステル、カプリン酸ヘキシルエステルなど、好ましくはこれらの脂肪酸エステルの中で前記のR2が分岐鎖を有するアルキル基であるカプロン酸2−エチルヘキシルエステル、カプロン酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、カプロン酸4−デシルエステル、カプリル酸2,4−ジメチル3−ペンチルエステル、カプリル酸2−エチルヘキシルエステル、カプリル酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、カプリン酸2−エチルブチルエステルなどが挙げられる。また、必要に応じてこれらの混合物を使用することもできる。
【0021】
また、前記脂肪酸エステルの内で、インキの蒸発乾燥性向上に、より有効な脂肪酸エステルは、脂肪酸エステルの総炭素数が16以下、特に10〜15のものである。かかる脂肪酸エステルとして、例えば、カプロン酸ヘプチルエステル、カプロン酸オクチルエステル、カプロン酸ノニルエステル、カプリル酸ヘキシルエステル、カプリル酸ヘプチルエステルなどであって、好ましくはR2が分岐鎖を有するアルキル基であるカプロン酸2−エチルヘキシルエステル、カプロン酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、カプリル酸2,4−ジメチル3−ペンチルエステルなどが挙げられる。
【0022】
また、前記の脂肪酸エステルで、インキの機上安定性向上に、より有効な脂肪酸エステルは、脂肪酸エステルの総炭素数が17以下、特に15〜17のものである。かかる脂肪酸エステルとして、例えば、カプロン酸デシルエステル、カプリル酸オクチルエステル、カプリル酸ノニルエステル、カプリン酸アミルエステル、カプリン酸ヘキシルエステルなど、好ましくはこれら脂肪酸エステルの中で前記のR2が分岐鎖を有するアルキル基であるカプロン酸4−デシルエステル、カプロン酸2−イソプロピル−5−メチルヘキシルエステル、カプリル酸2−エチルヘキシルエステル、カプリル酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、カプリン酸2−エチルブチルエステルなどが挙げられる。
【0023】
本発明に使用する溶剤は、前記の脂肪酸エステル単体あるいは数種の脂肪酸エステルの混合物としても使用することができるが、該脂肪酸エステルの含有量はインキ中の全溶剤に対して30質量%〜100質量%であり、より好ましくは40質量%〜100質量%である。上記の脂肪酸エステルの含有量が多いほど、環境負荷のより小さいオフセット輪転印刷インキを得ることができる。
【0024】
また、本発明に使用する溶剤は、上記の脂肪酸エステルの配合割合において、その他の溶剤、好ましくは下記一般式(2)で表わされるエーテルおよび/または石油系溶剤を混合してもよい。
R3−O−R4 (2)
(上記の一般式(2)においてR3が炭素数4〜14のアルキル基またはアルケニル基を表わし、R4が炭素数4〜14のアルキル基を表わす。)
なお、本発明のインキ中の溶剤の含有量は、好ましくは30〜60質量%、より好ましくは35〜55質量%、最も好ましくは40〜50質量%である。
【0025】
上記のエーテルは、単独でもあるいは2種以上を混合しても使用することができ、特に、その沸点が220℃〜310℃のものを使用すると、印刷機における機上安定性と蒸発乾燥性のバランスにより優れたインキを得ることができる。
【0026】
上記のエーテルとしては、公知の方法で合成された対称型エーテルあるいは非対称型エーテルなど、例えば、n−ブチルtert−ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテル、ジドデシルエーテル、ノニルヘキシルエーテル、ノニルヘプチルエーテル、ノニルオクチルエーテルなどであり、好ましくはジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテルなどであり、さらに好ましくはジオクチルエーテルが挙げられる。
【0027】
上記のエーテルと前記の脂肪酸エステルとを混合して使用する場合の該エーテルの混合量は、前記の脂肪酸エステルがインキ中の全溶剤の前記範囲内であれば、特に規制はない。上記のエーテルの配合は、インキの蒸発乾燥性や機上安定性の調整剤として効果がある。
【0028】
また、前記の脂肪酸エステルと併用することができる石油系溶剤は、芳香族成分が1質量%以下の石油留分から得られ、パラフィン類、イソパラフィン類、ナフテン類などからなる溶剤である。該溶剤としては、例えば、新日本石油(株)から「O号ソルベント(H)」、「AFソルベント4号」、「AFソルベント5号」、「AFソルベント6号」、「AFソルベント7号」などの商品名で入手して、単独であるいは混合して本発明で使用することができる。
【0029】
上記の石油系溶剤を前記の脂肪酸エステルとの混合溶剤として使用する場合、該石油系溶剤の混合量は、前記の脂肪酸エステルがインキ中の全溶剤の前記範囲内であれば、特に規制はない。上記の石油系溶剤の配合割合が少なくなるほど、環境負荷の低減効果が発揮される方向となる。
【0030】
本発明に使用するワニス用樹脂としては、ロジンエステル樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸変性ロジンエステル樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性アルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂、石油樹脂、炭化水素樹脂、酸変性炭化水素樹脂など、好ましくはロジンエステル樹脂および/またはロジン変性フェノール樹脂が挙げられる。なお、本発明のインキ中の上記のワニス用樹脂の含有量は、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%、最も好ましくは25〜35質量%である。
【0031】
上記のロジンエステル樹脂は、樹脂の軟化点H(℃)が120℃≦H≦210℃、重量平均分子量Mwが20,000≦Mw≦300,000、好ましくは軟化点が140℃≦H≦200℃、重量平均分子量Mwが50,000≦Mw≦200,000のものが挙げられる。上記のロジンエステル樹脂は、重合ロジンの導入や無水マレイン酸、フマル酸などの多塩基酸にて変成した変性ロジンエステル樹脂が好ましく使用される。
【0032】
上記のロジンエステル樹脂の軟化点Hが上記の範囲であると、インキ塗膜の硬化性およびインキワニスを調製する際の作業性がより向上する。また、上記のロジンエステル樹脂の重量平均分子量Mwが、上記範囲内であるとインキの流動性および粘弾性がより優れたものとなる。
【0033】
また、上記のロジン変性フェノール樹脂は、重量平均分子量Mwが10,000≦Mw≦300,000、好ましくは重量平均分子量Mwが30,000≦Mw≦200,000のものが使用される。上記のロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量Mwが上記範囲であると、インキの流動性および粘弾性がより優れたものとなる。
【0034】
本発明のインキに使用するインキワニスは、前記のワニス用樹脂と前記の脂肪酸エステルまたは該脂肪酸エステルとエーテルおよび/または石油系溶剤との混合物からなる溶剤を配合して、必要に応じて、植物油、ゲル化剤を配合して調製する。その調製方法としては、例えば、上記のワニス用樹脂と、溶剤と、植物油とを窒素気流雰囲気下で200℃にて30分間加熱撹拌して、その後150℃に冷却後、ゲル化剤を配合して、さらに200℃にて60分間加熱撹拌して調製する。
【0035】
上記のインキワニス中におけるワニス用樹脂、溶剤、植物油およびゲル化剤の各々の含有量としては、ワニス用樹脂は、好ましくは30〜60質量%、より好ましくは35〜55質量%、最も好ましくは40〜50質量%であり、溶剤は、好ましくは30〜60質量%、より好ましくは35〜55質量%、最も好ましくは40〜50質量%であり、植物油は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%、最も好ましくは5〜15質量%であり、またゲル化剤は、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
【0036】
上記の植物油としては、例えば、ヒマシ油、落花生油、オリーブ油などの不乾性油、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油などの半乾性油、およびアマニ油、エノ油、キリ油などの乾性油など、好ましくは半乾性油および/または乾性油が挙げられる。これらの中でも大豆油、アマニ油が特に好ましい。
【0037】
また、上記のゲル化剤としては、公知の物を使用することができ、例えば、アルミニウムエチルアセテートジイソプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、ステアリン酸アルミニウム、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキサイト、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシドなど、およびそれらの混合物が挙げられ、好ましくはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシドが好ましく使用され、川研ファインケミカル(株)からALCHの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0038】
本発明のインキは、前記のインキワニスに着色剤を含有しないオーバープリントワニスタイプのものでも良いが、着色剤を含有するタイプのものでも良い。本発明に使用する上記の着色剤としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、磁性酸化鉄などの無機顔料、レーキ顔料、アゾ系顔料、イソインドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料などの有機顔料、カーボンブラックおよび染料が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。上記の着色剤のインキ中の含有量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%、最も好ましくは15〜25質量%である。
【0039】
本発明のインキの製造としては、例えば、前記のインキワニスと、着色剤をミキサーでプレミキシングし、次に、3本ロールミルで均一に混練して、前記のインキワニスの調製に使用した溶剤および/または該ワニスを追加配合するなどして、インキのタックを調製する。必要に応じてパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックスなどの耐摩擦剤および可塑剤などの添加剤を本発明の目的を妨げない範囲で均一に混練配合して調製する。なお、本発明のインキ中のインキワニス含有量は、好ましくは50〜90質量%、より好ましくは55〜85質量%、最も好ましくは60〜80質量%である。
【実施例】
【0040】
次に、本発明で使用する脂肪酸エステルF1〜F5および比較例で使用する脂肪酸エステルF6〜F7の製造例と、それらを使用したワニスU1〜U9の調製例および比較例で使用するワニスV1〜V5の調製例と、これらのワニスを使用したインキの実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は、下記の実施例に限定するものではない。
【0041】
(脂肪酸エステルF1の製造)
カプロン酸1molと3,5,5−トリメチルヘキシルアルコール1.1molに、触媒として硫酸を0.1質量%加え、140℃まで加熱して、水の生成が止まるまで脱水エステル化反応を行った。得られた脂肪酸エステルは、脱触媒、脱色精製を行い、脂肪酸エステルF1であるカプロン酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステルを得た。
【0042】
(脂肪酸エステルF2の製造)
脂肪酸エステルF1の製造において使用する脂肪酸およびアルコールをカプリル酸および2,4−ジメチル−3−ペンチルアルコールに置き換え、加熱温度を160℃にする以外は脂肪酸エステルF1の製造と同様にして脂肪酸エステルF2であるカプリル酸2,4−ジメチル−3−ペンチルエステルを得た。
【0043】
(脂肪酸エステルF3の製造)
脂肪酸エステルF1の製造において使用するアルコールを4−デシルアルコールに置き換え、加熱温度を150℃にする以外は脂肪酸エステルF1の製造と同様にして脂肪酸エステルF3であるカプロン酸4−デシルエステルを得た。
【0044】
(脂肪酸エステルF4の製造)
脂肪酸エステルF1の製造において使用する脂肪酸およびアルコールをカプリン酸および2−エチルブチルアルコールに置き換える以外は脂肪酸エステルF1の製造と同様にして脂肪酸エステルF4であるカプリン酸2−エチルブチルエステルを得た。
【0045】
(脂肪酸エステルF5の製造)
脂肪酸エステルF1の製造において使用する脂肪酸およびアルコールをカプリン酸およびn−ヘキシルアルコールに置き換える以外は脂肪酸エステルF1の製造と同様にして脂肪酸エステルF5であるカプリン酸n−ヘキシルエステルを得た。
【0046】
(脂肪酸エステルF6の製造)
脂肪酸エステルF1の製造において使用する脂肪酸およびアルコールをラウリン酸およびメチルアルコールに置き換え、加熱温度を70℃にする以外は脂肪酸エステルF1の製造と同様にして脂肪酸エステルF6であるラウリン酸メチルエステルを得た。
【0047】
(脂肪酸エステルF7の製造)
脂肪酸エステルF1の製造において使用する脂肪酸およびアルコールをラウリン酸およびイソプロピルアルコールに置き換え、加熱温度を85℃にする以外は脂肪酸エステルF1の製造と同様にして脂肪酸エステルF7であるラウリン酸イソプロピルエステルを得た。
【0048】
(ワニスU1の調製)
ワニス用樹脂として、重量平均分子量が60,000のロジン変性フェノール樹脂を使用し、表1に示すように大豆油と、溶剤として脂肪酸エステルF1を配合して、窒素気流雰囲気下で200℃にて30分間加熱撹拌し、その後150℃に冷却し、その後、ゲル化剤(ALCH)を配合して、さらに200℃にて60分間均一に加熱撹拌してワニスU1を調製した。
【0049】
(ワニスU2の調製)
ワニスU1の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1の一部をジオクチルエーテルに置き換える以外はワニスU1の調製と同様にしてワニスU2を調製した。
【0050】
(ワニスU3の調製)
ワニスU1の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1の一部を石油系溶剤(AFソルベント7号)に置き換える以外はワニスU1の調製と同様にしてワニスU3を調製した。
【0051】
(ワニスU4の調製)
ワニスU1の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1の一部を石油系溶剤(AFソルベント7号)に置き換える以外はワニスU1の調製と同様にしてワニスU4を調製した。
【0052】
(ワニスU5の調製)
ワニスU1の調製において、表1に示すようにワニス用樹脂のロジン変性フェノール樹脂を、軟化点が175℃で、重量平均分子量が100,000であるロジンエステル樹脂に置き換える以外はワニスU1の調製と同様にしてワニスU5を調製した。
【0053】
(ワニスU6の調製)
ワニスU5の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1を脂肪酸エステルF2に置き換える以外はワニスU5の調製と同様にしてワニスU6を調製した。
【0054】
(ワニスU7の調製)
ワニスU5の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1を脂肪酸エステルF3に置き換える以外はワニスU5の調製と同様にしてワニスU7を調製した。
【0055】
(ワニスU8の調製)
ワニスU5の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1を脂肪酸エステルF4に置き換える以外はワニスU5の調製と同様にしてワニスU8を調製した。
【0056】
(ワニスU9の調製)
ワニスU5の調製において、表1に示すように脂肪酸エステルF1を脂肪酸エステルF5に置き換える以外はワニスU5の調製と同様にしてワニスU9を調製した。
【0057】
(ワニスV1〜V5の調製)
比較例に使用するワニスは、下記の方法で調製した。
(ワニスV1の調製)
ワニス用樹脂として、重量平均分子量が60,000のロジン変性フェノール樹脂を使用し、表1に示すように大豆油と、石油系溶剤(AFソルベント7号)とを配合し、窒素気流雰囲気下で200℃にて30分間加熱撹拌し、その後150℃に冷却し、その後、ゲル化剤を配合して、さらに200℃にて60分間均一に加熱撹拌してワニスV1を調製した。
【0058】
(ワニスV2の調製)
ワニスV1の調製において、表1に示すように石油系溶剤(AFソルベント7号)の一部を低沸点の石油系溶剤(AFソルベント4号)に置き換える以外は、ワニスV1の調製と同様にしてワニスV2を調製した。
【0059】
(ワニスV3の調製)
ワニスV1の調製において、表1に示すように石油系溶剤(AFソルベント7号)の一部を高沸点の石油系溶剤(AFソルベント5号)に置き換える以外は、ワニスV1の調製と同様にしてワニスV3を調製した。
【0060】
(ワニスV4の調製)
ワニスV1の調製において、表1に示すように石油系溶剤(AFソルベント7号)を脂肪酸エステルF6に置き換える以外は、ワニスV1の調製と同様にしてワニスV4を調製した。
【0061】
(ワニスV5の調製)
ワニスV1の調製において、表1に示すように石油系溶剤(AFソルベント7号)を脂肪酸エステルF7に置き換える以外は、ワニスV1の調製と同様にしてワニスV5を調製した。
【0062】
なお、表1および2における溶剤は下記の通りである。
・脂肪酸エステル(F)
F1:カプロン酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル
F2:カプリル酸2,4−ジメチル3−ペンチルエステル
F3:カプロン酸4−デシルエステル
F4:カプリン酸2−エチルブチルエステル
F5:カプリン酸n−ヘキシルエステル
F6:ラウリン酸メチルエステル
F7:ラウリン酸イソプロピルエステル
・エーテル(G)
G1:ジオクチルエーテル
・石油系溶剤(H)
H1:AFソルベント7号
H2:AFソルベント4号
H3:AFソルベント5号
【0063】

【0064】
[実施例1〜9]
上記のワニスU1〜U9の各々を使用し、表2のように各該ワニスにフタロシアニンブルーを配合し、公知の方法で均一に混練して、次に、インキのタックがインコメーター測定値で10〜11になるように、各々の上記のワニスの調製に使用した溶剤および該ワニスを追加配合して、公知の方法で均一に混練して本発明のインキW1〜W9を調製した。なお、上記のタックの値は、得られたインキ1.31mlを東洋精機(株)製インコメーターのロールに塗布し、ロール温度32℃、回転スピード1,200rpmで回転させ、1分後の測定値である。
【0065】
[比較例1〜5]
前記のワニスV1〜V5の各々を使用し、表2のように各該ワニスにフタロシアニンブルーを配合し、公知の方法で均一に混練して、次に、インキのタックがインコメーター測定値で10〜11になるように、各々の上記のワニスの調製に使用した溶剤および該ワニスを追加配合して、公知の方法で均一に混練して比較例のインキX1〜X5を調製した。なお、比較例1は、従来から用いられている標準的な組成のオフセット輪転印刷インキである。
【0066】

上記表2の*は、脂肪酸エステルF1〜F7を構成する脂肪酸部のアルキル基の炭素数Xとアルコール部のアルキル基の炭素数Yとの合計に対する炭素数Yの割合を示す。その他、上記表2の数値は、脂肪酸エステル含有率以外は部数を表わす。
【0067】
上記で得られた各々のインキについて、印刷機上でのインキの蒸発乾燥性と、機上安定性および膨潤性に関して下記の測定方法により評価した。
(蒸発乾燥性)
各々のインキ0.125mlを、石川島産業(株)製のRIテスター2分割ロールを用いてトップコート紙に展色して、印刷試料片を作製する。次に、温度調整可能なオーブンを使用して、上記の印刷試料片を加熱し、紙面温度を操作してインキ塗膜を乾燥固化させる。加熱後、印刷試料片を1分間放冷し、放冷した印刷試料片のインキ面を学振型耐摩擦性試験機にて表面を白紙で擦り、印刷試料片のインキが擦れ落ちしない時の紙面乾燥温度を測定した。上記の蒸発乾燥性は、紙面乾燥温度が低いほど、インキの乾燥性が良好であると判断した。評価結果を表3に示す。
【0068】
(機上安定性)
上記の各々のインキ0.5mlを東洋精機(株)製インコメーターに塗布し、ロール温度32℃、回転スピード2,000rpmに設定してロールを回転させ、タック値の経時的な変動を測定する。計測開始からロール上のインキが粘着性を失いタック値が低下し始めるまでの経時時間(安定時間)を読み取り、インキの安定性を評価する。その時間が長いほど安定性が良好と判断する。評価結果を表3に示す。
【0069】
(膨潤性)
上記の各々のインキをゴムブランケット片(ディインターナショナル製、ディブラン3000−4)の表面にヘラで適量塗布し、常温にて24時間放置後、インキを拭き取りブランケット全表面の膨潤状況を下記の基準により評価した。評価結果を表3に示す。
◎:ブランケット表面に膨れや軟化現象が、認められない。
○:ブランケット表面に膨れや軟化現象が、実用上問題ない範囲でわずかに認められる。
×:ブランケット表面に膨れや軟化現象が、認められる。
【0070】

【0071】
上記の評価結果から、本発明のインキは、蒸発乾燥性を向上させても機上安定性が維持でき、また、機上安定性を向上させても蒸発乾燥性が維持できる優れた特性を有している。比較例1の従来型オフセット輪転印刷インキに比べて、実施例1、3〜6は機上安定性を損なわずに蒸発乾燥性が向上しており、実施例2、7〜9は蒸発乾燥性を大きく損なうことなく機上安定性が向上している。これに対して、比較例1〜3で示すとおり、従来からの処方として比較例1の従来型オフセット輪転印刷インキに沸点の異なる石油系溶剤を混合使用して蒸発乾燥性、あるいは機上安定性の向上を図っても、相反するどちらかの性能が阻害され、バランスがとれたインキは提供できない。また、本発明で用いる脂肪酸エステルを使用したインキは、比較例4、5のような低級アルコールの脂肪酸エステルを多量に使用したインキに比べて、ブランケットなどゴム材質の膨潤が少ないインキであることが実証されている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、本発明のインキは、高速オフセット輪転印刷において、インキの蒸発乾燥性と機上安定性のバランスが良好なことから、印刷作業性に優れ、かつ安定した品質の印刷物を得ることができる。また、石油系溶剤の使用量を抑えることにより環境負荷の少ないオフセット輪転印刷用インキとして有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワニス用樹脂と溶剤とを含有し、該溶剤中に下記一般式(1)で表わされる脂肪酸エステルが30〜100質量%含有されることを特徴とするオフセット輪転印刷インキ。
R1COOR2 (1)
(上記一般式(1)において、R1が炭素数3〜11のアルキル基またはアルケニル基を表わし、R2が炭素数5〜14アルキル基を表わす。)
【請求項2】
前記の脂肪酸エステルの総炭素数が17以下である請求項1に記載のインキ。
【請求項3】
前記の脂肪酸エステルのR1の炭素数XとR2の炭素数Yとの合計に対するR2の炭素数の割合が0.3≦Y/(X+Y)≦0.7である請求項1または2に記載のインキ。
【請求項4】
前記の脂肪酸エステルのR2が分岐鎖を有するアルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載のインキ。
【請求項5】
前記の脂肪酸エステル以外に溶剤として、下記一般式(2)で表わされるエーテルおよび/または石油系溶剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のインキ。
R3−O−R4(2)
(上記の一般式(2)においてR3が炭素数4〜14のアルキル基またはアルケニル基を表わし、R4が炭素数4〜14のアルキル基を表わす。)
【請求項6】
前記のエーテルがジオクチルエーテルである請求項5に記載のインキ。
【請求項7】
前記のワニス用樹脂がロジン変性フェノール樹脂および/またはロジンエステル樹脂である請求項1に記載のインキ。
【請求項8】
前記のロジンエステル樹脂が軟化点H(℃)が120℃≦H≦210℃、重量平均分子量Mwが20,000≦Mw≦300,000である請求項7に記載のインキ。
【請求項9】
さらに着色剤を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のインキ。
【請求項10】
下記一般式(1)で表わされるオフセット輪転印刷インキ用脂肪酸エステル。
R1COOR2 (1)
(上記一般式(1)において、R1が炭素数3〜11のアルキル基またはアルケニル基を表わし、R2が炭素数5〜14アルキル基を表わす。)
【請求項11】
総炭素数が17以下であることを特徴とする請求項10に記載のオフセット輪転印刷インキ用脂肪酸エステル。
【請求項12】
R1の炭素数XとR2の炭素数Yとの合計に対するR2の炭素数の割合が0.3≦Y/(X+Y)≦0.7である請求項10または11に記載のオフセット輪転印刷インキ用脂肪酸エステル。
【請求項13】
前記オフセット輪転印刷インキ用脂肪酸エステルのR2が分岐鎖を有するアルキル基である請求項10〜12のいずれか1項に記載のオフセット輪転印刷インキ用脂肪酸エステル。

【公開番号】特開2006−176754(P2006−176754A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258008(P2005−258008)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000183923)ザ・インクテック株式会社 (268)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】