説明

印刷システムおよび印刷システムの印刷方法

【課題】印刷品質を確保しつつ、印刷コストの低減を図ることが可能な印刷システムおよび印刷システムの印刷方法を提供する。
【解決手段】印刷対象となる画像の印刷データを1以上のバンドに分割し、複数の吐出ノズルを有する印刷ヘッドを走査してバンド単位で印刷を行なう印刷システムSYであって、複数の吐出ノズルから液滴を吸引して印刷ヘッドのクリーニングを行なうクリーニング部42と、クリーニング部42によるクリーニングの実行履歴を取得するクリーニング実行履歴取得部(印刷I/F部55)と、少なくとも取得したクリーニングの実行履歴に基づいて、各バンドを印刷するための印刷ヘッドの走査回数であるパス数を決定するパス数決定部54と、各バンドを、決定したパス数で印刷する印刷処理部(制御部40および印刷部41)と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吐出ノズルを有する印刷ヘッドを走査してバンド単位で印刷を行なう印刷システムおよび印刷システムの印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット方式の印刷装置(インクジェットプリンター)では、印刷品質を良好に保つために、印刷ヘッド(インクジェットヘッド)のクリーニング処理が行なわれている。例えば、特許文献1には、インク経路内(ノズル内)の気泡を除去するために、吸引機構により印刷ヘッドのノズルから気泡を含むインクを吸引するクリーニング処理(パージング)を、各色の印刷ヘッド(ブラック用ヘッド、イエロー用ヘッド、マゼンダ用ヘッド、シアン用ヘッド)毎に、所定の時間間隔(周期)で実行することが記載されている。これにより、印刷画像に印刷されない部分(ドット抜け)が発生して印刷品質が劣化することを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−201984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなクリーニング処理を行なう場合、印刷ヘッドから大量のインクを吸引し、外部に排出する必要がある。インクジェットプリンターの印刷品質(性能)を良好に保つためには、クリーニング処理は必要不可欠であるが、この処理によって消費されるインクは印刷動作以外(画像印刷以外)で消費されるものであり、ユーザーから見れば無駄にインクを消費することになる。特に、印刷量の少ないユーザーの場合、上記特許文献1の如く定期的(所定の周期)にクリーニング処理を実行すると、印刷で消費するインク量よりもクリーニング処理で消費するインク量の方が多くなり(即ち、ユーザーから見れば無駄なインク消費量が多くなり)、これが印刷コストの増加につながるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑み、印刷品質を確保しつつ、印刷コストの低減を図ることが可能な印刷システムおよび印刷システムの印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷システムは、印刷対象となる画像の印刷データを1以上のバンドに分割し、複数の吐出ノズルを有する印刷ヘッドを走査してバンド単位で印刷を行なう印刷システムであって、複数の吐出ノズルから液滴を吸引して印刷ヘッドのクリーニングを行なうクリーニング部と、クリーニング部によるクリーニングの実行履歴を取得するクリーニング実行履歴取得部と、少なくとも取得したクリーニングの実行履歴に基づいて、各バンドを印刷するための印刷ヘッドの走査回数であるパス数を決定するパス数決定部と、各バンドを、決定したパス数で印刷する印刷処理部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の印刷システムの印刷方法は、印刷対象となる画像の印刷データを1以上のバンドに分割し、複数の吐出ノズルを有する印刷ヘッドを走査してバンド単位で印刷を行なうと供に、複数の吐出ノズルから液滴を吸引して印刷ヘッドのクリーニングを行なう印刷システムの印刷方法であって、印刷ヘッドのクリーニングの実行履歴を取得するステップと、少なくとも取得したクリーニングの実行履歴に基づいて、各バンドを印刷するための印刷ヘッドの走査回数であるパス数を決定するステップと、各バンドを、決定したパス数で印刷するステップと、を実行することを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、印刷ヘッドのクリーニングの実行履歴に基づいて、各バンドを印刷するためのパス数(印刷ヘッドの走査回数)を決定し、各バンドを決定したパス数で印刷する。例えば、画像印刷を行なう場合、最後にクリーニングを実行してから10日未満であれば各バンドを1パスで印刷するようにし、最後にクリーニングを実行してから10日以上経過していれば、各バンドを2パス(あるいは3パスや4パス)で印刷するように制御する。即ち、クリーニング実行後からの経過期間(時間経過)に伴って、ノズル経路内の気泡が大きくなることを想定し、各バンドを印刷するパス数を増やして印刷を行なう。
このように、印刷するパス数を増やすことで、1回のヘッド走査当たりのインク吐出速度を下げる(インクの流量を少なくする)ことができ、これにより気泡によりインク経路が狭くなったとしても正常にインクを吐出することが可能となる。言い換えれば、気泡により経路が狭くなったとしても、良好な印刷品質で印刷を行なうことができる。即ち、クリーニング実行後から長期間経過しても良好な印刷品質を維持できるため、クリーニングを実行する間隔を延ばすことができ、結果として、印刷コストの低減を図ることができる。
【0009】
本発明の印刷システムにおいて、バンド毎に、印刷データのデータ密度を算出するデータ密度算出部と、クリーニングの最終実行日からの経過期間と、データ密度に対する所定の閾値とを関連付けたテーブルと、をさらに備え、パス数決定部は、算出したバンドのデータ密度が、取得したクリーニングの実行履歴から算出される経過期間に対応する所定の閾値以上の場合、当該データ密度が所定の閾値未満の場合よりも当該バンドに対するパス数を多くすることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、クリーニング実行後からの経過期間と、各バンドに印刷する印刷データの密度(データ密度,各バンドに占めるドットの割合)とにより、各バンドに対するパス数を決定する。これにより、例えば、クリーニング実行後からある程度の期間が経過していたとしても、印刷対象となるバンドに印刷するデータ密度が小さければ(閾値未満であれば)1パスで印刷し、データ密度が大きければ(閾値以上であれば)2パス(閾値未満の場合よりも多いパス数)で印刷を行なうように制御できる。即ち、クリーニング実行からある程度の期間が経過し、気泡によりインク経路が狭くなっていたとしても、データ密度が小さければインク吐出速度(インク流量)は低くてすむため1パスで印刷をし、データ密度が大きい場合はインクがインク経路を正常に通過できるように(インクが詰まらないように)、インク吐出速度(インク流量)を下げるために2パスで印刷をするといった、きめ細かい制御ができる。
【0011】
本発明の印刷システムにおいて、データ密度算出部は、バンド毎の印刷データについて、色単位でデータ密度を算出し、パス数決定部は、算出した色単位のデータ密度の内の、最大のデータ密度が所定の閾値以上の場合、当該最大のデータ密度が所定の閾値未満の場合よりも当該バンドに対するパス数を多くすることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、バンド毎の印刷データについて色単位(インク色単位)でデータ密度を算出し、この内の最大のデータ密度に着目してパス数を決定する。即ち、バンド内で一番多く使用される色のデータ密度に着目してパス数を決定する。例えば、色の違いを考慮せずに算出したデータ密度が閾値以上の場合であっても、色毎に見ると、各色のデータ密度が閾値未満の場合がある。即ち、各色のデータ量が少ない場合がある。この場合、印刷時における各色のノズル経路内のそれぞれのインク吐出速度(インク流量)は低くてすむため、あえてパス数を多くする必要がない。即ち、色単位のデータ密度に着目することで、色の違いを考慮しない場合に比べ、各色のインク吐出速度に見合ったより適切な制御ができる。
【0013】
本発明の印刷システムにおいて、パス数決定部は、バンド毎に算出した全てのデータ密度の内の、最大のデータ密度が所定の閾値以上の場合、当該最大のデータ密度が所定の閾値未満の場合よりもパス数を多くし、印刷処理部は、全てのバンドに対して、決定したパス数で印刷を行なうことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、全てのバンドに対して同じパス数で印刷することができる。例えば、バンド毎にパス数を決定して印刷を実行する場合、バンド単位でパス数が異なる場合がある。この場合、印刷画像に色むら等が発生し、印刷品質が落ちる虞がある。本発明では、これを防ぐために全てのバンドを同じパス数で印刷することで、印刷品質を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る印刷システムの外観斜視図である。
【図2】吐出ヘッドの外観側面図である。
【図3】吐出ヘッドのインク導入部側からの平面図(a)、およびノズル面側からの平面図(b)である。
【図4】ノズル面における吐出ノズルの配置を示した模式図(a)、および各ノズル列が吐出するインクの種類を示した図(b)である。
【図5】印刷システムの機能構成を示したブロック図である。
【図6】データ密度の閾値テーブルを示した図である。
【図7】印刷データの一例である。
【図8】図7における印刷データのデータ密度を示した図である。
【図9】印刷処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照し、本発明の一実施形態にかかる印刷システムについて説明する。本実施形態の印刷システムは、印刷処理を実行する印刷装置と、当該印刷装置に接続され、印刷対象となる画像の印刷データの生成および印刷装置への送信を行う制御装置と、で構成されている。制御装置は、印刷データを、印刷装置に備えられた吐出ヘッドの1走査(パス)に対応する走査領域(バンド)に分割する。印刷装置は、生成された印刷データに基づいて吐出ヘッドを走査すると共に、印刷媒体を搬送して、印刷処理を実行する。なお、本実施形態の印刷装置は、印刷媒体であるロール紙に対し、吐出ヘッドからカラーインク(液滴)を吐出してカラー印刷を行う。以下、印刷装置にセットされたロール紙の幅方向を主走査方向とし、ロール紙の長手方向を副走査方向として、説明を進める。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の印刷システムSYは、印刷装置1および制御装置50を備えている。印刷装置1は、ロール紙2を収容するロール紙収容部3と、複数種類のカラーインクをロール紙2に吐出する吐出ヘッド4を搭載したキャリッジ5と、キャリッジ5を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構6と、ロール紙2の端を副走査方向に引き出すロール紙搬送機構7と、吐出ヘッド4に対してカラーインクを供給するインク供給機構8と、吐出ヘッド4のメンテナンスを行うメンテナンス機構9と、これらの各構成部を統括的に制御する制御部40(図5参照)を備え、全体が不図示のケースに覆われている。また、印刷装置1は、ロール紙2をロール紙収容部3から着脱するためのロール紙カバー(図示省略)や、インク供給機構8のインクカートリッジ10を着脱するためのカートリッジカバー11を備えている。一方、制御装置50は、いわゆるパーソナルコンピュータであり、印刷装置1に対して印刷データおよび吐出検査の検出感度を含んだコマンドを送信する。
【0018】
キャリッジ移動機構6は、キャリッジ5を主走査方向に移動可能に支持するガイド軸12と、ガイド軸12に併設された環状ベルト13と、環状ベルト13を回転させるキャリッジモーター14と、を有している。キャリッジ移動機構6は、キャリッジモーター14の駆動によって環状ベルト13を回転させ、ガイド軸12にしたがってキャリッジ5を主走査方向に移動させる。
【0019】
ロール紙搬送機構7は、ロール紙2上でキャリッジ5と対面するプラテン15と、上方を通過するロール紙2の端を副走査方向に繰り出す搬送ローラー16と、を有している。プラテン15は、キャリッジ5に搭載された吐出ヘッド4にロール紙2を押し当て、搬送ローラー16は、印刷済みのロール紙2をキャリッジ側に押し当てた状態で繰り出して排出する。
【0020】
インク供給機構8は、インクカートリッジ装着部17に装着されたインクカートリッジ10と、インクカートリッジ10に収容された各カラーインクに対応したインクパックから吐出ヘッド4にカラーインクを供給するためのインク供給路18およびインク供給チューブ19と、を有している。本実施形態では、シアン(C)、マゼンダ(M)、およびイエロー(Y)の3色のカラーインクに対応したインクパックおよびインク供給チューブ19を備えている。
【0021】
メンテナンス機構9は、ロール紙2上から主走査方向に外れた位置でキャリッジ5と対面し、吐出ヘッド4のノズル面20を封止するヘッドキャップ、インク吸引機構、およびワイピング機構(いずれも不図示)を有している。ヘッドキャップには、インク吸引機構のチューブの一端が接続され、インク吸引機構のポンプモーターが駆動されることによってヘッドキャップ内が減圧され、ノズル面20に形成された吐出ノズルNからカラーインクを吸引する。ワイピング機構は、ノズル面20の汚れをゴム製のワイパによって払拭する。メンテナンス機構9は、このようなインク吸引機構によるインク吸引処理およびワイピング機構によるワイピング処理を行うことによって吐出ヘッド4のクリーニング処理を実施する。なお、本実施形態では、制御部40の制御により、メンテナンス機構9は、20日間隔で上記のクリーニング処理を実施する。
【0022】
なお、キャリッジ5がロール紙2に対面する位置を印刷位置P1とし、キャリッジ5がメンテナンス機構9に対面する位置をメンテナンス位置P2とする。印刷装置1は、キャリッジ5を印刷位置P1に移動させて印刷を行い、キャリッジ5をメンテナンス位置P2に移動させて吐出ヘッド4のメンテナンスを行う。
【0023】
図2および図3に示すように、吐出ヘッド4は、いわゆる6連のインクジェットヘッドであり、6連の接続針22を有するインク導入部23と、インク導入部23に連なるヘッド基板24と、ヘッド基板24に連なりインクを吐出するヘッド本体25と、を備えている。インク導入部23は、6列のノズル列NLA,NLB,・・・,NLFに対応した6連の接続針22A,22B,・・・,22Fを有しており、インク供給機構8からインクが供給されるようになっている。なお、各接続針22とノズル列NLとの対応は、図3に示すとおりである。また、ヘッド本体25は、ピエゾ素子等で構成される6連のポンプ部26と、複数の吐出ノズルNが形成されたノズル面20を有するノズルプレート27と、を有している。印刷装置1は、制御部40から出力した駆動波形が各ポンプ部26に印加することで、各吐出ノズルNからカラーインクを吐出する。
【0024】
図4(a)は、ノズルプレート27のノズル面20に形成された吐出ノズルNの配置を示した模式図である。なお、本図は、図3におけるノズルプレート27を上下に回転させた状態を示している。図示のように、ノズルプレート27のノズル面20に形成された多数の吐出ノズルNは、6列のノズル列NLA,NLB,・・・,NLFを有しており、各ノズル列NLは、副走査方向に等ピッチ(ノズルピッチ)で並べられた90個の吐出ノズルN1,・・・,N90で構成されている。各ノズル列NLは、ノズル列NLA,NLC,NLEの3列が基準位置1に配置され、ノズル列NLB,NLD,NLFの3列が基準位置1に対して半ノズルピッチ副走査方向に位置ズレした基準位置2に配置されて構成されている。すなわち、各ノズル列NLは、相互に平行且つ半ノズルピッチ位置ズレして列設されている。
【0025】
図4(b)は、各ノズル列NLが吐出するカラーインクの種類を示している。図示のように、ノズル列NLA,NLFはシアン(C)、ノズル列NLB,NLEはマゼンダ(M)、ノズル列NLC,NLDはイエロー(Y)、を吐出する。すなわち、基準位置の異なる2列のノズル列NLによって、各種カラーインクが吐出される。
【0026】
吐出ヘッド4は、主走査方向に移動しながら、例えば、基準位置1に配置されたノズル列NLA,NLC,NLEの各1番目の吐出ノズルN1A,N1C,N1Eが、同位置にシアン(C)マゼンダ(M)およびイエロー(Y)の各インクを吐出して印刷を行っている。すなわち、基準位置が同位置である各ノズル列NLにおいて、ロール紙搬送方向下流側から数えて同番目の吐出ノズルNが、同じ位置に異なるカラーインクを吐出してカラーインクを混色させることでカラー印刷を実現している。
【0027】
次に、図5を参照し、印刷システムSYの機能構成について説明する。上記したとおり、印刷システムSYは、印刷装置1および制御装置50を備えている。
【0028】
図5に示すように、制御装置50は、印刷データ生成部51、データ密度算出部52、閾値テーブル53、パス数決定部54、および印刷I/F部55を有している。
【0029】
印刷データ生成部51は、制御装置50に搭載された画像作成アプリケーションや印刷ドライバにより構成され、ロール紙2に対して印刷を行う画像の画像データ(印刷データ)を生成する。また、印刷データ生成部51は、生成した印刷データを、吐出ヘッド4の1走査(パス)に対応する走査領域(以下、「バンド」という)に分割する。例えば、図7に示す印刷データは、3つのバンドに分割されている。すなわち、バンドとは、印刷データにおいて、吐出ヘッド4が少なくとも1回の走査で印刷することのできる印刷領域をさす。
【0030】
データ密度算出部52は、バンドごとに、印刷データのデータ密度を算出する。すなわち、各バンドに分割された印刷データのデータ密度をそれぞれ算出する。なお、データ密度とは、印刷領域に対して印刷ドットが占める面積の割合を示す。また、本実施形態では、データ密度算出部52は、各バンドに分割された印刷データのデータ密度を、カラーインクごとに算出する。すなわち、各バンドに分割された印刷データに対して、シアン(C)・マゼンダ(M)・イエロー(Y)の各カラーインクが吐出される印刷ドットのデータ密度をそれぞれ算出する。例えば、図7に示すように、印刷データが3つのバンドに分割されている場合、データ密度算出部52は、9個のデータ密度を算出する(図8参照)。
【0031】
閾値テーブル53は、不図示の不揮発性のメモリに格納されており、データ密度の閾値を、印刷装置1におけるクリーニング実施日からの経過日数に関連付けたものである。データ密度の閾値とは、上記した印刷データの1バンドに対応する印刷領域を、吐出ヘッド4を何回走査して印刷するかを決定するための閾値である。本実施形態では、算出したデータ密度が閾値以上であった場合、当該バンドに対応する印刷領域を、吐出ヘッド4を2回走査して印刷し、一方、算出したデータ密度が閾値未満であった場合、当該バンドに対応する印刷領域を、吐出ヘッド4を1回走査して印刷するものとする。
【0032】
図6に示すように、クリーニング実施日からの経過日数が「0〜4日」である場合、データ密度の閾値は「70%」、クリーニング実施日からの経過日数が「5〜9日」である場合、データ密度の閾値は「50%」、クリーニング実施日からの経過日数が「10〜14日」である場合、データ密度の閾値は「30%」、クリーニング実施日からの経過日数が「15〜19日」である場合、データ密度の閾値は「10%」、と設定されている。すなわち、クリーニング実施日から経過期間が短い場合は、1バンドに対する走査回数を2回にするデータ密度の閾値を低くし、クリーニング実施日から経過期間が長い場合は、1バンドに対する走査回数を2回にするデータ密度の閾値を高く設定している。ちなみに、本実施形態の印刷装置1では、クリーニングの最終実施日から20日目に次回のクリーニングが実施される。
【0033】
パス数決定部54は、上記したように、バンドごと、且つカラーインクごとに算出した複数のデータ密度のうち、最も値の高いデータ密度について、閾値テーブル53を参照し、印刷データの1バンドに対応する印刷領域を、吐出ヘッド4を何回走査して印刷するかを決定する。なお、このとき、パス数決定部54は、印刷装置1のメンテナンス機構9が行ったクリーニングの最終実施日に基づいて経過日数を算出し、算出した経過日数に対応するデータ密度の閾値を基準として、吐出ヘッド4のパス回数を決定する。なお、メンテナンス機構9が行ったクリーニングの最終実施日は、印刷装置1から後述の印刷I/F部55を介して取得する。
【0034】
印刷I/F部55は、印刷装置1と接続および通信を行うためのインターフェイスであり、例えば、USB(Universal Serial Bus)インターフェイス等で構成されている。本実施形態では、印刷データ生成部51により生成された印刷データ、およびパス数決定部54により決定された1バンドあたりの吐出ヘッド4のパス回数を示すコマンドを印刷装置1に対して送信する。また、印刷装置1に対して、メンテナンス機構9(クリーニング部42)が実施したクリーニングの実施日(実行履歴)を問い合わせ、印刷装置1から当該実施日を取得する。なお、請求項における「クリーニング実行履歴取得部」とは、印刷I/F部55をさす。
【0035】
図5に示すように、印刷装置1は、印刷部41、クリーニング部42、実行履歴記憶部43、I/F部44、およびこれらを統括制御する制御部40を有している。
【0036】
印刷部41は、上記の吐出ヘッド4、キャリッジ5、キャリッジ移動機構6、ロール紙搬送機構7、およびインク供給機構8で構成されており、制御装置50から受信した印刷データに基づいてロール紙2に対し印刷処理を行う。クリーニング部42は、インク吸引機構およびワイピング機構(メンテナンス機構9)で構成されており、20日間隔で吐出ヘッド4に対してクリーニング処理を行う。実行履歴記憶部43は、クリーニング部42のクリーニング実施日(実行履歴)を不揮発に記憶する。
【0037】
I/F部44は、制御装置50と接続および通信を行うためのインターフェイスであり、例えば、USBインターフェイス等で構成されている。本実施形態では、印刷データおよび1バンドあたりの吐出ヘッド4のパス回数を示すコマンドを受信する。また、制御装置50から、クリーニングの実施日の問い合わせを受信すると、制御装置に対して当該実施日を送信する。制御部40は、制御装置50から受信した印刷データおよびコマンドに基づいて、印刷部41、およびクリーニング部42を統括的に制御する。請求項における「印刷処理部」とは、制御部40および印刷部41により実現される。
【0038】
次に、図7および図8を参照し、印刷データの分割およびデータ密度について説明する。図7は、印刷データ生成部51により生成された印刷データの一例を示している。なお、以下、説明を容易にするため、印刷データの全領域をマトリクス状に分割し、このマトリクスのうち斜線で表示された領域を上記の印刷ドット「有」の領域とする。すなわち、マトリクスの1マスを印刷ドット1つ分と考える。また、図示において「C」と表示された斜線部分は、シアン(C)のインクが単独吐出される領域を示し、「M」と表示された斜線部分は、マゼンダ(M)のインクが単独吐出される領域を示し、「Y」と表示された斜線部分は、イエロー(Y)のインクが単独吐出される領域を示し、「R(赤)」と表示された斜線部分は、マゼンダ(M)およびイエロー(Y)のインクが吐出される領域を示している。
【0039】
図7に示すように、印刷データは、3つのバンドに(吐出ヘッド4の1走査(パス)に対応する走査領域)分割されている。図中において、上部に位置するバンドを第1バンドとし、中部に位置するバンドを第2バンドとし、下部に位置するバンドを第3バンドとする。
【0040】
図7および図8に示すように、第1バンドにおいて、何らかのインクが吐出される領域が占める割合、すなわち、全印刷ドットのデータ密度は32%である。そして、シアン(C)のインクが吐出される領域が占める割合、すなわち、シアン(C)の印刷ドットのデータ密度は20%である。また、マゼンダ(M)の印刷ドットのトッド密度は0%、イエロー(Y)の印刷ドットのデータ密度は12%である。同様に、第2バンドにおいて、全印刷ドットのデータ密度は80%であり、シアン(C)の印刷ドットのデータ密度は4%、マゼンダ(M)の印刷ドットのトッド密度は44%、イエロー(Y)の印刷ドットのデータ密度は40%である。また、同様に、第3バンドにおいて、全印刷ドットのデータ密度は48%であり、シアン(C)の印刷ドットのデータ密度は24%、マゼンダ(M)の印刷ドットのトッド密度は4%、イエロー(Y)の印刷ドットのデータ密度は20%である。
【0041】
この場合、パス数決定部54は、上記の各カラーインクごとに算出した9個のデータ密度のうち、最も数値の高い第2バンドにおけるマゼンダ(M)のデータ密度(44%)に基づいて、1バンドにおける吐出ヘッド4のパス回数を決定する。この場合、例えば、クリーニングの最終実施日から5日が経過していた場合、パス数決定部54は、データ密度が閾値(50%)未満であるため、1バンドにおける吐出ヘッド4のパス回数を1回に決定し、例えば、クリーニングの最終実施日から10日が経過していた場合、パス数決定部54は、データ密度が閾値(30%)未満であるため、1バンドにおける吐出ヘッド4のパス回数を2回に決定する。
【0042】
次に、図9のフローチャートを参照して、本実施形態の印刷処理について説明する。先ず、制御装置50は、印刷データを生成し(S01)、生成した印刷データをバンドごとに分割する(S02)。そして、分割したバンドごとに、各カラーインクのデータ密度を算出する(S03)。そして、印刷装置1に対して、クリーニングの実行履歴を問い合わせる(S04)。一方、印刷装置1は、制御装置50から問い合わせを受信すると(S05)、クリーニングの実行履歴を制御装置50に送信する(S06)。そして、制御装置50は、印刷装置1から実行履歴を取得すると(S07)、クリーニングの最終実施日からの経過日数を算出する(S08)。
【0043】
そして、算出したデータ密度が、算出した経過日数に対応する閾値未満であった場合(S09:No)、印刷データにおける1バンドあたりの吐出ヘッド4のパス回数を1回に決定する(S10)。一方、算出したデータ密度が、算出した経過日数に対応する閾値以上であった場合(S09:Yes)、印刷データにおける1バンドあたりの吐出ヘッド4のパス回数を2回に決定する(S11)。そして、生成した印刷データおよび決定したパス回数を示すコマンドを印刷装置1に送信する(S12)。一方、印刷装置1は、受信した印刷データおよびコマンドに基づいて、印刷処理を実行する(S13)。
【0044】
なお、印刷処理を実行する印刷装置1は、1バンドごとのパス回数が2回と決定された場合、吐出を実行させる吐出ノズルNをノズル列NLごとに切り替えることが好ましい。例えば、図4に示すように、1回目のパスにおいて、基準位置1に位置するノズル列NLA,NLC,NLEに吐出を実行させ、2回目のパスにおいて、基準位置2に位置するノズル列NLB,NLD,NLFに吐出を実行させるよう、吐出を制御する。これによれば、各回のパスにおいて、ムラなく印刷することができると共に、ノズル列NLごとに吐出を切り替えるため、制御が容易である。
【0045】
これまで説明した印刷システムSYによれば、算出されたデータ密度が閾値以上であるか否かによって、本来1回の走査で印刷する1バンドの領域を、2回の走査に分けて印刷する。つまり、印刷データのデータ密度が高い場合、すなわち、インクの吐出量が多い場合、1バンドに対して本来1回の走査で吐出するカラーインクの量を複数回に分け、1回の走査で吐出するカラーインクの量を少なくすることができる。よって、吐出不良(印字抜け)の原因となる気泡がインク流路内に発生していたとしても、インク流路内のインクの流量を少なくすることにより、インクの流速を低減することができるため、吐出不良を発生させにくくすることができる。
【0046】
また、上記の印刷システムSYによれば、カラーインクごとにデータ密度を算出するため、全体として印刷データのデータ密度が高い場合であっても、実際には、それぞれのカラーインクの吐出量が少ない場合、不要に、1バンドあたりのパス回数を増やして、印刷の処理時間を長引かせることがない。
【0047】
なお、上記の実施形態では、印刷装置1が定期的(20日間隔で)に自動で吐出ヘッド4のクリーニングを実施する構成としたが、ユーザーの操作によってクリーニングを実施する構成としてもよい。なお、ユーザーが、制御装置50(印刷ドライバ)を介してクリーニングを実施させる場合、制御装置50がクリーニングの実施履歴を記憶する構成としてもよい。これによれば、制御装置50が、クリーニングの実行履歴を印刷装置1に問い合わせる必要がない。なお、ユーザーが印刷装置1を直接操作してクリーニングを実施させる場合は、上記の実施形態の構成が適用可能である。
【0048】
また、上記の実施形態では、クリーニングの最終実施日からの経過時間を基準として、データ密度の閾値テーブル53を参照する構成としたが、制御装置50が前回印刷装置1に印刷指示を行った時点からの経過時間をカウントし、当該経過時間を基準として、データ密度の閾値テーブル53を参照する構成としてもよい。
【0049】
また、上記の実施形態では、印刷データにおいて全バンドに対して同様のパス回数を決定したが、各バンドのデータ密度に応じて、異なるパス回数を決定する構成としてもよい。また、1バンドに対して吐出ヘッド4のパス回数を3回以上に設定しても良い。
【0050】
また、上記し制御装置50における印刷データ生成部51、データ密度算出部52、閾値テーブル53、およびパス数決定部54を、印刷装置1に備えた構成としてもよい。
【0051】
また、上記した、印刷システムSYの各構成要素をプログラムとして提供することも可能である。また、そのプログラムを記憶媒体(図示省略)に格納して提供することも可能である。記録媒体としては、CD−ROM、フラッシュROM、メモリカード(コンパクトフラッシュ(登録商標)、スマートメディア、メモリースティック等)、コンパクトディスク、光磁気ディスク、デジタルバーサタイルディスクおよびフレキシブルディスク等を利用することができる。
【0052】
また、上述した実施例によらず、印刷システムSYの装置構成や処理工程等について、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更も可能である。
【符号の説明】
【0053】
1:印刷装置 4:吐出ヘッド 6:キャリッジ移動機構 9:メンテナンス機構 41:印刷部 42:クリーニング部 43:実行履歴記憶部 44:I/F部 50:制御装置 52:データ密度算出部 53:閾値テーブル 54:パス数決定部 55:印刷I/F部 N:吐出ノズル SY:印刷システム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷対象となる画像の印刷データを1以上のバンドに分割し、複数の吐出ノズルを有する印刷ヘッドを走査して前記バンド単位で印刷を行なう印刷システムであって、
前記複数の吐出ノズルから液滴を吸引して前記印刷ヘッドのクリーニングを行なうクリーニング部と、
前記クリーニング部によるクリーニングの実行履歴を取得するクリーニング実行履歴取得部と、
少なくとも取得した前記クリーニングの実行履歴に基づいて、前記各バンドを印刷するための前記印刷ヘッドの走査回数であるパス数を決定するパス数決定部と、
前記各バンドを、決定した前記パス数で印刷する印刷処理部と、を備えたことを特徴とする印刷システム。
【請求項2】
前記バンド毎に、前記印刷データのデータ密度を算出するデータ密度算出部と、
前記クリーニングの最終実行日からの経過期間と、前記データ密度に対する所定の閾値とを関連付けたテーブルと、をさらに備え、
前記パス数決定部は、
算出した前記バンドの前記データ密度が、取得した前記クリーニングの実行履歴から算出される前記経過期間に対応する前記所定の閾値以上の場合、当該データ密度が前記所定の閾値未満の場合よりも当該バンドに対する前記パス数を多くすることを特徴とする請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
前記データ密度算出部は、
前記バンド毎の前記印刷データについて、色単位で前記データ密度を算出し、
前記パス数決定部は、
算出した前記色単位の前記データ密度の内の、最大のデータ密度が前記所定の閾値以上の場合、当該最大のデータ密度が前記所定の閾値未満の場合よりも当該バンドに対する前記パス数を多くすることを特徴とする請求項2に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記パス数決定部は、
前記バンド毎に算出した全ての前記データ密度の内の、最大のデータ密度が前記所定の閾値以上の場合、当該最大のデータ密度が前記所定の閾値未満の場合よりも前記パス数を多くし、
前記印刷処理部は、
全ての前記バンドに対して、決定した前記パス数で印刷を行なうことを特徴とする請求項2または3に記載の印刷システム。
【請求項5】
印刷対象となる画像の印刷データを1以上のバンドに分割し、複数の吐出ノズルを有する印刷ヘッドを走査して前記バンド単位で印刷を行なうと供に、前記複数の吐出ノズルから液滴を吸引して前記印刷ヘッドのクリーニングを行なう印刷システムの印刷方法であって、
前記印刷ヘッドのクリーニングの実行履歴を取得するステップと、
少なくとも取得した前記クリーニングの実行履歴に基づいて、前記各バンドを印刷するための前記印刷ヘッドの走査回数であるパス数を決定するステップと、
前記各バンドを、決定した前記パス数で印刷するステップと、を実行することを特徴とする印刷システムの印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−232541(P2012−232541A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104099(P2011−104099)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】