説明

印刷シリンダの熱変位抑制装置

【課題】 印刷機械において、連続印刷を実施した場合でも、プレートシリンダと当該プレートシリンダに接触するローラとの接触が適正状態を維持し続けることが可能となる印刷シリンダの熱変位抑制装置を提供する。
【解決手段】 温度調節可能な軸芯を有する印刷シリンダと、印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上配設され、軸芯の表面状態を検出する検出装置と、印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上配設され、軸芯に指向し温度調節媒体を投射する温度調節媒体投射装置と、検出装置からの検出信号に基づいて、印刷シリンダの適正温度を演算する演算制御装置と、演算制御装置からの制御信号により温度調節媒体投射装置を作動して、印刷シリンダの温度を調節するとともに適正温度に保持する温度調節装置とを備える印刷シリンダの熱変位抑制装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷シリンダにおいて発生する熱変位を抑制する装置に関し、特に印刷シリンダの軸芯へ温度調節媒体を投射する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に印刷機械における印刷シリンダの構成としては、図7に示すように、インキを版面に供給するインキローラ群(11)、湿し水を版面に供給する湿し装置(12)、版面を装着したプレートシリンダ(13)、インキローラ群(11)の中に存し温度調節可能な揺動ローラ(17、17’、17’’)、インキを貯留するインキツボ(14)及びインキツボ(14)からのインキを転移するインキ元ローラ(15)等から構成される。
【0003】
そして、印刷を開始すると、インキがインキツボ(14)からインキ元ローラ(15)、インキローラ群(11)を介してプレートシリンダ(13)に装着された版面(図示せず)へ順次供給される。一方、湿し水についても、湿し装置(12)からローラ群を介してプレートシリンダ(13)に装着された版面に供給される。やがて、インキと湿し水が混合され、インキの乳化が発生して、この乳化インキが版面の絵柄部に転移して、画像が形成される。
【0004】
ところで、印刷機械を連続運転すると、駆動部、軸受部、ローラ等が摩擦により発熱して、インキや湿し水装置の各ローラの温度が上昇する。このローラ温度の上昇を抑制するため、揺動ローラ(17、17’、17’’)をローラ内部に通水可能な構成にして、冷却ユニット(22)からの冷却水を通水して、揺動ローラ(17、17’、17’’)を冷却するようにしている。
【0005】
しかしながら、上述したような従来の印刷機械の温度制御装置においては、揺動ローラ(17、17’、17’’)の冷却ユニット(14)は、インキローラ群(11)の異常な温度上昇を抑制することを主たる目的としており、プレートシリンダ(13)に向かって転移するインキと湿し水との温度のバランスを積極的に制御することは考慮していない。この結果、温度特性の不安定なインキを使用すると、乳化状態が悪化したり、インキ粘液が低過ぎる等の現象が生じたりして、ローラ目、ゴースト、濃度変動等の印刷障害が多発するという問題があった。
【0006】
この問題点を解消する方策として、ローラ温度の調節可能なインキ元ローラ及び揺動ローラと、ローラ近傍の環境温度を検出する環境温度検出手段と、インキ元ローラの温度をインキ粘度に応じた適正温度に設定するとともに、環境温度検出手段からの温度検出信号に基づいて、インキ乳化率とインキ粘度との関係に応じた揺動ローラの適正温度を演算する演算制御手段と、インキ元ローラ及び揺動ローラのそれぞれに設けられた温度調節手段の温度調節ユニットと、演算制御手段からの制御信号により各温度調節ユニットを作動してインキ元ローラ及び揺動ローラの各々の温度を調節しかつ適正温度に保持する温度調節手段を具えていることを特徴とした印刷機の温度制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3212480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した先行技術である特許文献1の技術を用いた場合、印刷開始に当たり、演算制御手段にインキ元ローラの温度をインキ粘度に応じた適正温度例えば25〜30℃の範囲で設定し、この設定した適正温度信号を同演算制御手段から温度調節手段へ送り、これを作動して、インキ元ローラを適正温度に保持すると同時に環境温度検出手段からの温度検出信号を演算制御手段へ送り、同演算制御手段では、この温度検出信号に基づいて揺動ローラの適正温度を演算し、この結果得られた制御信号を温度調節手段へ送り、これを作動して、揺動ローラを適正温度に保持する。上記環境温度検出手段は、常時、環境温度を検出して、その結果得られた温度検出信号を演算制御手段へ送っており、温度変化がある範囲を超えると、演算制御手段では、このとき得られる温度検出信号により揺動ローラの適正温度を再度演算し、温度調節手段への制御信号を補正して、揺動ローラを適正温度に保持するので、乳化状態が悪化することや、インキ粘液が低過ぎる等の現象が生じなくて、ローラ目、ゴースト、濃度変動等の印刷障害を防止できる。
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術は、ローラ群の熱膨張をすることは可能であるが、プレートシリンダ自体に発生する熱膨張を抑制することはできず、連続印刷を実施した場合、プレートシリンダと当該プレートシリンダに接触するローラとの接触圧(ニップ圧)が適正でなくなり、このことが原因となり、やがて印刷製品に滲みや汚れ等といった印刷障害が発生することになる。これらを勘案すると、必ずしも先行技術だけでは満足できず、現時点において少なからず開発の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するため、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、温度調節可能な軸芯を有する印刷シリンダと、印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上配設され、軸芯の表面状態を検出する検出装置と、印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上配設され、軸芯に指向し温度調節媒体を投射する温度調節媒体投射装置と、検出装置からの検出信号に基づいて、印刷シリンダの適正温度を演算する演算制御装置と、演算制御装置からの制御信号により温度調節媒体投射装置を作動して、印刷シリンダの温度を調節するとともに適正温度に保持する温度調節装置とを備えた印刷シリンダの熱変位抑制装置としている。
【0011】
また、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、さらに、印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上の局所用吸気器を配設した印刷シリンダの熱変位抑制装置である。
【0012】
また、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、温度調節媒体投射装置における温度調節媒体をドライアイスのような昇華性微粒子としている印刷シリンダの熱変位抑制装置である。
【0013】
また、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、温度調節媒体投射装置における温度調節媒体を軸芯に対して傾斜角度が鉛直方向から軸端へ向って20°乃至60°傾斜して投射することができる印刷シリンダの熱変位抑制装置である。
【0014】
また、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、温度調節媒体投射装置における温度調節媒体の投射量を1時間あたり10kg乃至50kg投射することができる印刷シリンダの熱変位抑制装置である。
【0015】
また、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、検出装置における検出器が、温度センサ、変位センサ又はCCDカメラのいずれか又はその組み合わせとした印刷シリンダの熱変位抑制装置である。
【0016】
さらに、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、印刷シリンダをオフセット印刷におけるプレートシリンダとしている印刷シリンダの熱変位抑制装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、印刷シリンダの軸芯に直接、温度制御媒体を投射できることから、従前まで連続印刷を実施した場合に発生が顕著であった印刷シリンダの熱膨張を効果的に抑制することができ、その結果、長期間において印刷シリンダと当該印刷シリンダに対向して接触するローラとの接触状態を適正に保持できる。また、温度制御媒体を昇華性微粒子とすることで、軸芯近傍に湿潤空気が残留することなく版面に付着したインキへの影響がほぼ無いことから、均質な製品を長期間において連続的かつ安定的に得ることが可能となるといった充実した製品品質が保全できるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置を用いることで、印刷シリンダと当該印刷シリンダに対向して接触するローラとの接触状態を適正に保持できることから、従前頻繁に実施していた印刷機械の停止を伴う印刷シリンダの冷却調整が不要となる。さらに、印刷製品の滲みや汚れ等といった印刷障害の発生頻度が大幅に低減できることから、従前に比して大幅なコスト低減が図れるという効果を奏する。
【0019】
さらに、本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置を用いることで、印刷シリンダと当該印刷シリンダに対向して接触するローラとの接触圧調整に付随する作業手間が少なくて済み、従前までオペレータにより行われていた各種調整作業が減少することによる作業性の大幅な改善及び印刷機械の不稼働時間が低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置を示す概略図である。
【図2】本発明の別形態の印刷シリンダの熱変位抑制装置を示す概略図である。
【図3】本発明の温度調節媒体投射装置を示す概略図である。
【図4】本発明の検出装置を示す概略図である。
【図5】一般的な印刷シリンダを示す概略図である。
【図6】一般的な印刷機械の温度制御装置の一例を示す概略図である。
【図7】一般的な印刷機械の温度制御装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1乃至図7に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1は本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置を示す概略図であり、図2は別形態の印刷シリンダの熱変位抑制装置を示す概略図である。また、図3は温度調節媒体投射装置を示す概略図であり、図4は検出装置を示す概略図である。さらに、図5は一般的な印刷シリンダを示す概略図であり、図6及び図7は一般的な印刷機械の温度制御装置の一例を示す概略図である。
【0022】
まず、一般的な印刷機械の温度制御装置について簡単に説明する。図7に示す一般的な印刷機械の温度制御装置は、インキを供給するインキローラ群(11)、湿し水を供給する湿し装置(12)、版面を装着したプレートシリンダ(13)、インキローラ群(11)の中に存する揺動ローラ(16)及び温度調節可能な揺動ローラ(17、17’、17’’)、インキを貯留するインキツボ(14)及びインキツボ(14)に存するインキを転移させるインキ元ローラ(15)などから構成されており、揺動ローラ(17、17’、17’’)には、当該揺動ローラに連設された熱膨張を抑制するための冷却水を供給する冷却ユニット(22)が配された態様である。ここで、冷却水は、揺動ローラの内側に軸方向に延びる複数の通路を通流するようになっている。
【0023】
また、図6に示す一般的な印刷機械の温度制御装置は、上述した図7に示した印刷機械の温度制御装置と比して、揺動ローラへの媒体の供給を揺動ローラの温度に見合うように温度調節装置(21)において調整された温度調節媒体としていることと、インキ元ローラ(15)に対しても温度調節媒体を供給する態様としているところに特徴を有する。その他の構成については、図7と同様であるのでその説明を省略する。ここで、図6及び図7に示した一般的な印刷機械の温度制御装置は、いずれも揺動ローラであったり、インキ元ローラであったりはするものの、ローラ内部に温度調節媒体を供給して、ローラの熱膨張を抑制するものである。
【0024】
また、図5に示す一般的な印刷シリンダは、シリンダ表面に版面(4)を装着しているとともに軸芯(2)が配されており、その軸芯(2)のいずれか一方には、駆動ギア(23)と嵌合した印刷シリンダを回転駆動させるためのギア(3)が嵌着されている態様である。なお、ギア接触箇所には摩擦による発熱を抑制するための耐熱グリス(10)が塗布されている。また、一般に印刷シリンダの内部を中空とし、そこに媒体通路を設けた態様に設計することは、印刷シリンダを高速回転した場合に回転位相が乱れて、製品品質を著しく阻害することから実施されていない。
【0025】
一方、図1に示すように本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、印刷シリンダ(1)の軸芯(2)の表面から10cm乃至50cmの位置に軸芯(2)の温度を調節するための各種の装置が配されている態様である。その装置は、軸芯(2)の表面状態を検出する検出装置(5)、軸芯(2)に指向し温度調節媒体(7)である昇華性微粒子やエア等を投射する温度調節媒体投射装置(6)、検出装置(5)にて検出した信号を演算するとともに温度調節媒体投射装置(6)からの1時間あたりの温度調節媒体(7)の投射量を適正に演算する演算制御装置(8)、演算制御装置(8)に連設して軸芯(2)の表面温度から印刷シリンダ(1)の表面温度を間接的に演算し、印刷シリンダ(1)の温度を適正に調節する温度調節装置(9)である。なお、温度調節媒体投射装置(6)から投射される温度調節媒体(7)の1時間あたりの投射量は、10kg乃至50kgの範疇から任意に選択される。
【0026】
また、図2に示すように本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置は、軸芯(2)の近傍位置であれば、ギア側に配されても反ギア側に配されてもかまわない。また、上述した図1の態様に加えて、印刷シリンダ(1)の雰囲気における熱成分を取り去るための局所用吸気器(27)を更に配した態様とする場合もある。なお、局所用吸気器(27)にて吸気した熱成分は印刷機(図示せず)の機外へ放出される。
【0027】
また、図3に示すように本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置における温度調節媒体投射装置(6)は、印刷シリンダ(1)に装着された版面(4)が存する方向とは異なる方向であり、軸芯(2)に対して傾斜角度が鉛直方向から軸端へ向って20°乃至60°の範疇から任意に選択される角度(α、β)傾斜して投射することができる。
【0028】
さらに、図4に示すように本発明の印刷シリンダの熱変位抑制装置における検出装置(5)は、軸芯(2)の表面温度を検出する温度センサ(24)、軸芯(2)の熱膨張による変位を検出する変位センサ(25)及び軸芯(2)の表面状態を検出するCCDカメラ(26)から構成されており、必要に応じてそれぞれのセンサ又はカメラを任意に選択して起動させることができる。なお、検出装置(5)にて検出された検出値は電波により図示しない表示装置に出力することも可能である。
【実施例】
【0029】
本発明における実施の例示について詳細に説明する。図1に示すように印刷シリンダの熱変位抑制装置をオフセット印刷機のプレートシリンダのギア側であり、かつ、軸芯(2)の表面20cmの位置に配し、温度調節媒体にドライアイス(7;二酸化炭素)を用いて枚葉紙連続20万枚の印刷を実施し、印刷製品の品質確認を行うとともに印刷機械停止後のプレートシリンダに装着された版面(4)と当該版面(4)に対向して接触するローラとの接触状態を確認した。なお、印刷シリンダ及び版面の材質については金属製である。
【0030】
実施結果については、印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用しないで枚葉紙連続20万枚の印刷を実施した結果と比した形で説明する。まず、印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用しないで印刷を実施した結果は、軸芯(2)の表面における温度が使用前の約10℃から約60℃に変化し、その時の軸芯(2)は、印刷前の軸芯と比して最大0.055mm膨張していたことが確認できた。これらは、印刷シリンダの熱変位抑制装置に存する検出装置(5)に配された温度センサ(24;キーエンス社製FT−H40K)、変位センサ(25;キーエンス社製FW−H02)により検出した。また、プレートシリンダ(13)に存する版面(4)と当該版面(4)と対向して接触するローラとの接触圧(ニップ圧)については、印刷前に約2.5mmであったが、印刷直後のニップ圧は約5.2mmへと変化していたことを確認した。
【0031】
一方、印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用して印刷を実施した場合については、軸芯(2)の表面における温度が使用前の約10℃から、温度調節装置(9)に予め設定した温度である28℃あたりを保持していた。その時の軸芯(2)は、印刷前の軸芯と比して最大0.005mmであり、膨張が抑制できていたことを確認した。また、プレートシリンダ(13)に存する版面(4)と当該版面(4)と対向して接触しているローラとのニップ圧については、印刷前に約2.5mmであったが、印刷直後のニップ圧は約3.2mmであり、極端な変化は発生していなかった。なお、ニップ圧の測定については、印刷終了直後に版面(4)を清掃し、対向するローラにインキを塗布して当該版面(4)とローラを着動作させることで確認した。ここで、若干ニップ圧が増加した理由については、ローラ自体の膨張によるものであると推量できる。
【0032】
また、印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用した場合と、印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用しなかった場合における印刷製品の品質を観察することで比したところ、一方の印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用した場合の印刷製品の品質が刷り始めから遜色なく良好な状態を維持していたのに対して、他方の印刷シリンダの熱変位抑制装置を使用しなかった場合の印刷製品の品質は、印刷経過とともに印刷製品にダブり(滲み)や汚れ等といった印刷障害が発生する傾向にあった。
【0033】
更に、図2に示すように印刷シリンダの熱変位抑制装置をオフセット印刷機のプレートシリンダの反ギア側に配設し、その他の条件は上述した条件と同様として、印刷を実施した。その結果については、軸芯(2)の表面における温度が使用前の約10℃から、温度調節装置(9)に予め設定した温度である28℃あたりを保持していた。その時の軸芯(2)は、印刷前の軸芯と比して最大0.004mmであり、膨張が抑制できていたことを確認した。しかしながら、プレートシリンダ(13)に装着された版面(4)と当該版面(4)と対向して接触しているローラとのニップ圧については、印刷前に約2.5mmであったが、印刷直後のニップ圧は約3.7mmであり、極端な変化は発生していなかったものの、印刷シリンダの熱変位抑制装置をギア側に配した場合と比して効果が劣っていたことを確認した。これは、プレートシリンダ近傍に存する熱はギア側から伝播しているものであると推量でき、印刷シリンダの熱変位抑制装置を効果的に使用するには、熱源の近くに配する方が有用であることを確認した。
【0034】
また、印刷シリンダの熱変位抑制装置に局所用吸気器(27)を併用配設し、同様の確認を実施した結果、局所用吸気器(27)の稼働は軸芯(2)の冷却において効果があったことを確認した。
【0035】
また、実施例においては、図3に示すように温度調節媒体投射装置(6)から軸芯(2)に指向し投射する温度調節媒体であるドライアイス(7)の投射角度を40°に設定した。このドライアイス(7)の投射角度については、20°より小さく設定すると、昇華したドライアイスはプレートシリンダ(13)に装着された版面(4)の模様箇所に付着して、印刷製品を滲ませたりすることから有用ではなく、また、ドライアイス(7)の投射角度を60°より大きく設定すると、軸芯(2)への投射が困難となることから有用ではないことを確認している。更に、温度調節媒体であるドライアイス(7)の投射量については、1時間あたり28kgの投射量に設定した。この投射量については、1時間あたり10kg未満の投射量では、軸芯(2)を適正に温度調節することが困難であり、また、1時間あたり50kgを超えて投射すると極端にプレートシリンダ(13)が収縮又は膨張することから有用ではないことを確認している。いずれも、軸芯に温度調節媒体を投射することで実現しており、印刷シリンダにおける全体の収縮又は膨張には軸芯の温度を制御することが極めて有用であることを確認している。
【0036】
ここまで、プレートシリンダ(13)に装着された版面(4)と当該版面と対向して接触するローラとの状態について述べてきたが、当然、プレートシリンダ(13)に装着された版面(4)と他方で対向して接触するブランケットシリンダに装着されたブランケット(図示せず)との接触についても確認しているが、印刷シリンダの熱変位抑制装置を配し稼働させることで同様の効果が生じており、有効に作用していたことを確認している。その詳細については上述した例示と類似しているので、ここではその説明を省略する。
【0037】
上述した実施例はあくまで例示の一例に過ぎず、特許請求の範囲に記載されている範囲において、あらゆる実施の形態が存在することは言うまでもない。実施例では、オフセット印刷を主体として説明してきたが、凹版印刷等、シリンダを用いるあらゆる印刷機械において効果を発揮するものである。また、温度調節媒体を用いて印刷シリンダにおける軸芯の冷却効果について説明したが、恣意的に加熱効果を行う場合や冷却効果及び加熱効果の両方を行うものであってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 印刷シリンダ
2 軸芯
3 ギア
4 版面
5 検出装置
6 温度調節媒体投射装置
7 温度調節媒体
8 演算制御装置
9 温度調節装置
10 耐熱グリス
11 ローラ群
12 湿し装置
13 プレートシリンダ
14 インキツボ
15 インキ元ローラ
16 揺動ローラ
17、17’、17’’ 温度調節可能な揺動ローラ
18 呼出しローラ
19 環境温度検出器
20 演算制御器
21 温度調節装置
22 冷水ユニット
23 駆動ギア
24 温度センサ
25 変位センサ
26 CCDカメラ
27 局所用吸気器
α 温度調節媒体の投射角度
β 温度調節媒体の投射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度調節可能な軸芯を有する印刷シリンダと、前記印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上配設され、軸芯の表面状態を検出する検出装置と、前記印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上配設され、軸芯に指向し温度調節媒体を投射する温度調節媒体投射装置と、前記検出装置からの検出信号に基づいて、前記印刷シリンダの適正温度を演算する演算制御装置と、前記演算制御装置からの制御信号により前記温度調節媒体投射装置を作動して、前記印刷シリンダの温度を調節するとともに適正温度に保持する温度調節装置とを備えていることを特徴とする印刷シリンダの熱変位抑制装置。
【請求項2】
さらに、前記印刷シリンダにおける軸芯の近傍に少なくとも1つ以上の局所用吸気器を配設したことを特徴とする請求項1記載の印刷シリンダの熱変位抑制装置。
【請求項3】
前記温度調節媒体投射装置における温度調節媒体は、ドライアイスのような昇華性微粒子であることを特徴とする請求項1記載の印刷シリンダの熱変位抑制装置。
【請求項4】
前記温度調節媒体投射装置における温度調節媒体は、前記軸芯に対して傾斜角度が鉛直方向から軸端へ向って20°乃至60°傾斜して投射できることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の印刷シリンダの熱変位抑制装置。
【請求項5】
前記温度調節媒体投射装置における温度調節媒体の投射量は、1時間あたり10kg乃至50kg投射できることを特徴とする請求項1、請求項3又は請求項4のいずれかに記載の印刷シリンダの熱変位抑制装置。
【請求項6】
前記検出装置における検出器は、温度センサ、変位センサ又はCCDカメラのいずれか又はその組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の印刷シリンダの熱変位抑制装置。
【請求項7】
前記印刷シリンダは、オフセット印刷におけるプレートシリンダであることを特徴とする請求項1に記載の印刷シリンダの熱変位抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131183(P2012−131183A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286845(P2010−286845)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】