説明

印刷方法とそれに用いる溶剤吸収体

【課題】溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持できる印刷方法と、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体とを提供する。
【解決手段】印刷方法は、前記溶剤吸収体として、シリコーンブランケットの表面に接触させる面を、シリコーンゴムと、前記シリコーンゴム100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物によって形成したものを用いて溶剤を吸収する工程を含む。溶剤吸収体は、基材の少なくとも片面に、前記組成物からなる吸収層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンブランケットの表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて前記表面に前記インキからなる所定のパターンを印刷するための印刷方法と、前記印刷方法において、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を吸収して除去するために用いる溶剤吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷方法は、インキパターンを簡易に、かつ少ない工程数で効率よく多量に、しかも安価に形成できる利点を有しており、また近年に至って印刷精度の向上が図られていることから、特にエレクトロニクス分野において利用が広まりつつある。
例えば電気配線のパターンや蛍光体のパターン、あるいはプラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイパネル(LCD)の構成部品等における各種のパターンといった、微細でかつ高精度のパターンの形成が求められる分野において、従来のフォトリソグラフ法によるパターン形成に代えて、前記オフセット印刷方法が普及してきている。
【0003】
オフセット印刷方法では、版の表面にパターン形成したインキをブランケットの表面に転写させたのち、被印刷体としての基板の表面に再転写させることで、前記基板の表面に所定のパターンが印刷される。
ブランケットとしては、少なくともその表面を、インキに対する離型性に優れたシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットが広く用いられる。
【0004】
シリコーンブランケットはインキと繰り返し接触することから、特に被印刷体がガラス基板等の溶剤を吸収しない材料からなるとき、印刷を繰り返すうちに前記インキ中に含まれる溶剤が含浸されて前記シリコーンブランケットが徐々に膨潤し、それに伴ってインキに対するシリコーンブランケットの表面の濡れ性が徐々に上昇する。そのため、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることは困難である。
【0005】
シリコーンゴムやシリコーン樹脂を殆ど膨潤しない濡れ性の低い溶剤を含むインキを使用すれば、印刷を繰り返しても前記濡れ性は殆ど変化しないため、安定した印刷を行うことができるように思われる。しかし濡れ性の低い溶剤を含むインキは、版の表面からシリコーンブランケットの表面への転写性が低いことから、特に細線のパターンにおいて断線を生じやすい。
【0006】
断線は最も回避すべき不良であり、それを防止するためにはシリコーンブランケットをある程度は膨潤しうる溶剤を使用しなければならない。ところが前記溶剤を含むインキを使用して印刷を繰り返すとシリコーンブランケットが徐々に膨潤して、インキに対する濡れ性が徐々に上昇し、離型性が徐々に低下する。そして濡れ性の上昇に伴ってインキが滲みやすくなって、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったりし、また離型性の低下に伴ってシリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって印刷の精度が低下する。
【0007】
シリコーンブランケットを加熱して膨潤した溶剤を除去することが考えられている。しかしそのためにはシリコーンブランケットをおよそ40〜200℃程度に加熱する必要があり、加熱直後の表面温度の高いシリコーンブランケットを版に接触させると、前記版が熱膨張して印刷の精度が低下するという問題がある。
シリコーンブランケットの表面に、溶剤を吸収する機能を有する溶剤吸収体を接触させて、前記シリコーンブランケット中に含浸された溶剤を溶剤吸収体へ移動させて除去することが提案されている(特許文献1〜4等参照)。この方法によればシリコーンブランケットを加熱せずに溶剤を除去できるため、印刷の精度を高いレベルに維持することができる。溶剤吸収体による溶剤の除去は、1回ないし数回の印刷ごとに実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−158620号公報
【特許文献2】特開2000−158633号公報
【特許文献3】特開2006−35769号公報
【特許文献4】特開2006−188015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シリコーンブランケットには、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂を架橋させる際に生じる低分子量のシリコーンオイルが含まれており、通常のシリコーンブランケットでは、前記シリコーンオイルが表面に徐々に染み出すいわゆるブリージングを生じることで、前記表面にインキに対する良好な離型性が付与され、またブリージングが継続的に発生することで、印刷初期から長期間に亘って前記良好な離型性が維持される。
【0010】
しかし溶剤吸収体を用いて溶剤を除去する工程を実施すると、シリコーンブランケットの表面に染み出したシリコーンオイルも、溶剤とともに前記溶剤吸収体によって吸収されてシリコーンブランケットの表面から除去される場合がある。
そのため溶剤吸収体を用いて前記のように溶剤吸収の工程を繰り返した際には、たとえ溶剤によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制できたとしても、シリコーンオイルの不足によって、前記シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が低下して、却って転写不良等を生じやすくなるおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができる印刷方法と、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットの前記表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含み、かつ前記溶剤吸収体として、少なくとも前記シリコーンブランケットの表面に接触させる面(表面)を、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂と、前記シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物によって形成したものを用いることを特徴とする印刷方法である。
【0013】
本発明によれば、溶剤吸収体の少なくとも表面に含有させたジメチルシリコーンオイルが、前記溶剤吸収体による、シリコーンブランケットの表面にブリージングしたシリコーンオイルの吸収を抑制する働きをする。また前記ジメチルシリコーンオイルは、逆に溶剤吸収体からシリコーンブランケットの表面に移動して、前記表面におけるシリコーンオイルの不足を補う働きもする。そのため溶剤吸収体による溶剤吸収の工程を繰り返しても、ジメチルシリコーンオイルによるこれらの働きによって、シリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止することができる。
【0014】
また本発明によれば、前記溶剤吸収体の少なくとも表面を、組み合わせるシリコーンブランケットの表面と同種のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂(以下「シリコーンゴム等」と総称する場合がある)によって形成しているため、かかる溶剤吸収体の表面のシリコーンブランケットの表面への密着性を向上して、溶剤吸収の工程において前記両表面をできるだけ隙間なく密着させることができる。そのためシリコーンブランケットから溶剤吸収体への溶剤の吸収と、逆に溶剤吸収体からシリコーンブランケットへのジメチルシリコーンオイルの補給とを、ともによりスムースに行なわせることができる。
【0015】
したがって本発明の印刷方法によれば、溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
【0016】
なお本発明において、ジメチルシリコーンオイルの動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下に限定されるのは下記の理由による。
すなわち、動粘度が前記範囲未満である粘度の低いジメチルシリコーンオイルは揮発性が高いため、溶剤吸収体やシリコーンブランケットの表面から揮発して失われやすい。そのためシリコーンオイルの不足を生じて、シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が徐々に低下する結果、転写不良等を生じやすくなって印刷の精度が低下する。
【0017】
また、動粘度が前記範囲を超える粘度の高いジメチルシリコーンオイルは溶剤吸収体の表面を構成するシリコーンゴム等との相溶性が低いため、前記シリコーンゴム等の中に均一に分散されず、その分布に偏りやばらつきを生じやすい。そのため少なくとも表面にジメチルシリコーンオイルを含有させた溶剤吸収体による、溶剤を吸収する効果、シリコーンブランケットの表面からシリコーンオイルを吸収するのを抑制する効果、および前記シリコーンブランケットの表面にジメチルシリコーンオイルを補給する効果にも偏りやばらつきを生じやすく、かかるばらつきが生じることによってシリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が低下したり、前記シリコーンブランケットが膨潤したりしやすい。
【0018】
そして濡れ性の上昇に伴ってインキが滲みやすくなって、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったりし、また離型性の低下に伴ってシリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって印刷の精度が低下する。
したがって前記いずれの場合にも、シリコーンブランケットの表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続ける効果が得られない。
【0019】
また本発明において、ジメチルシリコーンオイルの含有割合が溶剤吸収体の表面を構成するシリコーンゴム等100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち含有割合が前記範囲未満では、溶剤吸収体の表面にジメチルシリコーンオイルを含有させることによる先に説明した効果が得られず、溶剤吸収の工程を繰り返すうちにシリコーンオイルの不足を生じて、シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が徐々に低下する結果、転写不良等を生じやすくなって印刷の精度が低下する。
【0020】
また、含有割合が前記範囲を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、溶剤吸収体が軟らかくなりすぎるとともにシリコーンブランケットの表面に対する密着性、粘着性が強くなりすぎて、溶剤吸収の工程後にシリコーンブランケットの表面から引き離す際に前記溶剤吸収体が破損する、例えば後述する基材と吸収層とからなる溶剤吸収体では前記吸収層の基材からの剥離を引き起こすことが懸念される。
【0021】
また溶剤吸収体からシリコーンブランケットの表面に過剰のジメチルシリコーンオイルが供給されてインキが滲みやすくなり、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったり、シリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって印刷の精度が低下する。
本発明は、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した、シリコーンゴム等と、前記シリコーンゴム等100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物からなる吸収層とを備えることを特徴とする溶剤吸収体である。
【0022】
本発明によれば、前記フィルム状またはシート状の基材によって溶剤吸収体全体の強度を維持し、かつ良好な取扱性を確保しながら、前記基材の少なくとも片面に形成した、前記ジメチルシリコーンオイルを含む吸収層をシリコーンブランケットの表面に接触させることによって、前記シリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止しながら、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤をできるだけスムースに吸収して除去することができる。
【0023】
前記溶剤吸収体はベルト状(無端ベルト状を含む)に形成することにより、従来の、前記ベルト状等の溶剤吸収体を用いるオフセット印刷機にそのまま適用することができる。そのため前記従来のオフセット印刷機を用いて本発明の印刷方法を実施することができ、シリコーンブランケットの表面の、インキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面の、インキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができる印刷方法と、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、少なくとも表面をシリコーンゴム等によって形成したシリコーンブランケットの前記表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含み、かつ前記溶剤吸収体として、少なくとも前記シリコーンブランケットの表面に接触させる面を、シリコーンゴム等と、前記シリコーンゴム等100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物によって形成したものを用いることを特徴とする。
【0026】
また前記本発明の印刷方法に用いる本発明の溶剤吸収体は、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した、シリコーンゴム等と、前記シリコーンゴム等100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物からなる吸収層とを備えることを特徴とする。
【0027】
前記吸収層を形成するシリコーンゴム等としては、例えば未硬化時に液状ないしペースト状を呈するものが好ましい。
前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等は、例えばドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように基材上に塗布したのち硬化させて吸収層を形成することができ、その際に、いわゆるセルフレベリング効果によって、前記吸収層のもとになる塗膜の表面、つまり硬化後の吸収層の表面を平滑化するとともに、前記吸収層の厚みを均一化できる。
【0028】
そのためシリコーンブランケットの表面に隙間なく密着させて溶剤を吸収できる、表面の平滑性に優れた溶剤吸収体を研磨等の工程を経ることなく生産性よく製造できる。なお必要に応じて吸収層の表面を研磨してもよいことはいうまでもない。
また溶剤吸収体は、前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等を、吸収層の表面形状に対応する賦形面を有し、基材をセットした金型内に注入して硬化させることで製造してもよい。
【0029】
例えば、後述するように主剤と硬化剤とからなる二液付加反応型の液状シリコーンゴム等からなり、ジメチルシリコーンオイルを含む吸収層は、まず前記主剤と硬化剤のうちの一方、例えば主剤に所定量のジメチルシリコーンオイルを加えて混合し、次いで硬化剤を加えてさらに混合して吸収層用の液状の組成物(塗布液、注入液等)を調製したのち、前記組成物を用いて前記いずれかの方法によって形成することができる。
【0030】
なお本発明において吸収層を、組み合わせるシリコーンブランケットの表面と同種のシリコーンゴム等によって形成しているのは、前記吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を向上するためである。これにより、溶剤吸収の工程において前記両表面をできるだけ隙間なく密着させることができ、シリコーンブランケットから溶剤吸収体への溶剤の吸収と、逆に溶剤吸収体からシリコーンブランケットへのジメチルシリコーンオイルの補給とを、ともによりスムースに行なわせることができる。
【0031】
前記シリコーンゴム等としては、室温硬化型(RTV)であるものが好ましい。前記室温硬化型のシリコーンゴム等は、その名のとおり加熱しなくても室温(5〜35℃)で硬化させることが可能であるため、溶剤吸収体の製造工程および製造のための設備を簡略化できる上、加熱による膨張と冷却時の収縮を経ないため、吸収層の厚みの精度を向上できる。
【0032】
また前記シリコーンゴム等としては、先に説明したように主剤と硬化剤の2成分からなり、前記両者を付加反応によって硬化させることができる二液付加反応型のものが好ましい。
前記二液付加反応型のシリコーンゴム等は、硬化反応に際して副生成物(脱水縮合反応による水等)を生じないため、吸収層の寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な吸収層を形成できる。
【0033】
前記室温硬化型でかつ二液付加型の液状シリコーンゴム等としては、例えば信越化学工業(株)製の品番KE1600、KE1603、KE1606、KE1310ST、KE1300T、KE1314、KE1241、KE106、KE103、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の品番TSE3402、TSE3453、TSE3455T、TSE3457、TSE3466等が挙げられる。
【0034】
吸収層に含有させるジメチルシリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン構造を有する種々のジメチルシリコーンオイルの中から、測定温度23±3℃での動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるものが選択して用いられる。
ジメチルシリコーンオイルの動粘度が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち、動粘度が1mm/s未満である粘度の低いジメチルシリコーンオイルは揮発性が高いため、吸収層中やシリコーンブランケットの表面から揮発して失われやすい。そのためシリコーンオイルの不足を生じて、シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が徐々に低下する結果、転写不良等を生じやすくなって印刷の精度が低下する。
【0035】
また、動粘度が5000mm/sを超える粘度の高いジメチルシリコーンオイルは吸収層を構成するシリコーンゴム等との相溶性が低いため、前記シリコーンゴム等からなる吸収層中に均一に分散されず、その分布に偏りやばらつきを生じやすい。そのためジメチルシリコーンオイルを含有させた吸収層による、溶剤を吸収する効果、シリコーンブランケットの表面からシリコーンオイルを吸収するのを抑制する効果、および前記シリコーンブランケットの表面にジメチルシリコーンオイルを補給する効果にも偏りやばらつきを生じやすく、かかるばらつきが生じることによってシリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が低下したり、前記シリコーンブランケットが膨潤したりしやすい。
【0036】
そして濡れ性の上昇に伴ってインキが滲みやすくなって、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったりし、また離型性の低下に伴ってシリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって印刷の精度が低下する。
したがって前記いずれの場合にも、シリコーンブランケットの表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続ける効果が得られない。
【0037】
なおジメチルシリコーンオイルの動粘度は、前記各種の問題が生じるのを防止しながら、先に説明した本発明の効果をより一層良好に発揮させて良好な印刷をすることを考慮すると、前記範囲内でも2mm/s以上であるのが好ましく、3000mm/s以下であるのが好ましい。
ジメチルシリコーンオイルの動粘度を、前記範囲内の任意の値に設定するためには、例えば種々のグレードのジメチルシリコーンオイルの中から所定の動粘度を有するものを選択して使用したり、2種以上のジメチルシリコーンオイルを配合して動粘度を調整したりすればよい。
【0038】
ジメチルシリコーンオイルの含有割合は、先に説明したようにシリコーンゴム等100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下である必要がある。
含有割合が前記範囲に限定されるのは、下記の理由による。
すなわち含有割合が3質量部未満では、吸収層にジメチルシリコーンオイルを含有させることによる先に説明した効果が得られず、溶剤吸収の工程を繰り返すうちにシリコーンオイルの不足を生じて、シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が徐々に低下する結果、転写不良等を生じやすくなって印刷の精度が低下する。
【0039】
また、含有割合が50質量部を超えてもそれ以上の効果が得られないだけでなく、吸収層が軟らかくなりすぎるとともにシリコーンブランケットの表面に対する密着性、粘着性が強くなりすぎて、前記吸収層の基材からの剥離を引き起こすことが懸念される。
また吸収層からシリコーンブランケットの表面に過剰のジメチルシリコーンオイルが供給されてインキが滲みやすくなり、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったり、シリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって印刷の精度が低下する。
【0040】
なおジメチルシリコーンオイルの含有割合は、前記各種の問題が生じるのを防止しながら、先に説明した本発明の効果をより一層良好に発揮させて良好な印刷をすることを考慮すると、前記範囲内でも、シリコーンゴム等100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下であるのが好ましい。
前記吸収層には、前記シリコーンゴム等およびジメチルシリコーンオイルに加えて、さらにシリカ、炭酸カルシウム等の充填剤や、硬化促進剤、硬化遅延剤等の種々の添加剤を含有させてもよい。
【0041】
前記吸収層の厚みは0.05mm以上、特に0.4mm以上であるのが好ましく、2mm以下、特に1mm以下であるのが好ましい。
厚みが前記範囲未満である薄い吸収層には十分な量の溶剤を吸収させることができないため、溶剤吸収体を交換したり、加熱等によって溶剤を除去したりする操作をする頻度が多くなり、その分だけ印刷のタクトタイムが長くなって製品の生産性が低下するおそれがある。
【0042】
また厚みが前記範囲を超える場合には、吸収層の柔軟性と、それに伴うシリコーンブランケットの表面への追従性が低下して、例えばブランケット胴の外周に捲回する等した状態で使用されるシリコーンブランケットの表面に、前記吸収層をできるだけ隙間なく密着させた状態で溶剤を吸収させることができないおそれがある。
また吸収層の重量が増加して、前記のようにシリコーンブランケットの表面に接触させる際の取扱性が低下したり、前記取り扱い時に基材が折れたりシワになったりしやすくなるおそれもある。
【0043】
吸収層の硬さは、シリコーンブランケットの表面に良好に追従させて隙間なく接触させることを考慮すると、前記シリコーンブランケットの表面の硬さと同等かまたはそれ以下であるのが好ましい。
吸収層の硬さを、シリコーンブランケットの表面の硬さ以下にするためには、例えば吸収層を構成するシリコーンゴム等として、硬化後の硬さがシリコーンブランケットの表面の硬さと同等またはそれ以下であるものを選択して用いるとともに、液状で、吸収層を軟らかくする働きをするジメチルシリコーンオイルの含有割合を前記範囲内で調整すればよい。これにより吸収層の硬さを、シリコーンブランケットの表面よりも柔らかくすることができる。
【0044】
吸収層の硬さの具体的な範囲は、前記のようにシリコーンブランケットの表面の硬さ以下であればよく、特に限定されないが、例えば日本工業規格JIS K6253:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」において規定されたタイプAデュロメータ硬さで表してA5/S以上、A50/S以下、特にA10/S以上、A30/S以下程度であるのが好ましい。
【0045】
また吸収層の表面は、シリコーンブランケットの表面に隙間なく密着させるためにできるだけ平滑であるのが好ましい。ただし吸収層は上記のように柔軟であるため、シリコーンブランケットの表面ほど平坦でなくても、前記表面に十分に隙間なく密着させることは可能である。
前記吸収層の表面粗さの具体的な範囲は、特に限定されないが、日本工業規格JIS B0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」の付属書1で規定された十点平均粗さRzJIS94で表して0.01μm以上、5μm以下、特に0.05μm以上、1μm以下程度であるのが好ましい。
【0046】
基材としては、種々の樹脂のフィルムまたはシートや、金属の薄板等が挙げられる。このうち樹脂のフィルムまたはシートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびその共重合物、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリイミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、TPXポリマ、およびポリパラキシレン等の樹脂からなるフィルムまたはシートが挙げられる。
【0047】
また金属の薄板としては銅またはその合金、アルミニウムまたはその合金、ステンレス鋼、ニッケル等の金属からなる薄板が好ましい。
特に任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすい上、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートを基材として用いるのが好ましい。
基材の厚みは0.05mm以上、特に0.1mm以上であるのが好ましく、0.35mm以下、特に0.25mm以下であるのが好ましい。
【0048】
厚みが前記範囲未満では、前記基材による、吸収層の支持体として溶剤吸収体全体の強度を維持し、かつ良好な取扱性を確保する効果が十分に得られず、取り扱い時に基材が折れたりシワになったりしやすくなるおそれもある。
また厚みが前記範囲を超える場合には、溶剤吸収体全体としての柔軟性と、それに伴うシリコーンブランケットの表面への追従性が低下して、例えばブランケット胴の外周に捲回される等した状態で使用されるシリコーンブランケットの表面に、前記吸収層をできるだけ隙間なく接触させた状態で溶剤を吸収させることができないおそれがある。
【0049】
吸収層を形成する前の基材の表面には、前記吸収層の密着性を高めるために、例えばプラズマ処理、フレーム処理等の前処理を施したり、任意の下地層を形成したりしてもよい。
吸収層は、基材の片面に形成してもよいし、両面に形成してもよい。両面に吸収層を形成した溶剤吸収体は、片面の吸収層を溶剤の吸収に使用した後、裏返して反対面の吸収層を溶剤の吸収に使用できる。
【0050】
前記溶剤吸収体は、印刷方法を実施する印刷機の構造等に応じて任意の形状に形成でき、特にベルト状(無端ベルト状を含む)に形成するのが好ましい。これにより、従来の、前記ベルト状等の溶剤吸収体を用いるオフセット印刷機にそのまま適用することができる。
例えば溶剤吸収体を長尺のベルト状に形成してロール状に捲回しておき、前記ロールから繰り出した溶剤吸収体の所定長の領域をシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を、同じ領域を用いて1回ないし数回行うとともに、前記所定回の操作を行なうごとに、前記ロールから溶剤吸収体の新たな領域を繰り出して、同様に溶剤吸収に使用することができる。
【0051】
また溶剤吸収体を無端ベルト状に形成し、前記溶剤吸収体を回転させながらシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を1回ないし数回行なうごとに、溶剤吸収体を加熱する等して吸収した溶剤を除去しながら、前記溶剤吸収体を溶剤吸収に繰り返し使用することができる。
しかもこのいずれの場合においても、溶剤吸収体の吸収層が、前記のように所定量のジメチルシリコーンオイルを含有しているため、前記溶剤吸収体を用いて溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
【0052】
本発明の印刷方法は、例えば
(1) 凹版、平版等の版の表面にパターン形成したインキをシリコーンブランケットの表面に転写したのち、被印刷体としての基板の表面に再転写させるオフセット印刷方法、
(2) シリコーンブランケットの表面の全面にインキを塗布したのち凹版と接触させることで、前記凹版の凹部以外の領域と接触したインキを選択的にシリコーンブランケットの表面から除去して前記表面のインキ層をパターン形成したのち、前記基板の表面に転写する反転印刷方法、
(3) シリコーンブランケットの表面に直接にインキパターンを描画したのち、前記基板の表面に転写する印刷方法、
等の、シリコーンブランケットを用いる種々の印刷方法に適用できる。
【0053】
前記各種の印刷方法において、印刷の合間に、シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることで、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を、前記溶剤吸収体を用いて実施できる。これにより、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
シリコーンブランケットとしては、少なくともその表面がシリコーンゴム等によって形成された種々のシリコーンブランケットが使用可能である。具体的には、例えばフィルム状またはシート状の基材と、前記基材の片面に形成した、少なくともシリコーンゴム等を含む組成物からなる表面ゴム層とを備えたシリコーンブランケットが好ましい。
【0054】
前記表面ゴム層を構成するシリコーンゴム等としては、未硬化時に液状ないしペースト状を呈する液状のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂が好ましい。前記液状のシリコーンゴム等は、例えばドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように基材上に塗布し、硬化させて表面ゴム層を形成する際に、前記セルフレベリング効果によって、前記表面ゴム層の表面を平滑化するとともに厚みを均一化できる。そのため被印刷体としての基板の表面に微細でかつ高精度のパターンを形成するのに適した表面平滑性に優れた表面ゴム層を有するシリコーンブランケットを、研磨等の工程を経ることなく生産性よく製造できる。なお必要に応じて表面ゴム層の表面を研磨してもよいことはいうまでもない。
【0055】
またシリコーンブランケットは、前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴム等を、表面ゴム層の表面形状に対応する賦形面を有し、基材をセットした金型内に注入して硬化させることによって製造してもよい。
前記シリコーンゴム等としては、やはり室温硬化型(RTV)であるものが好ましい。前記室温硬化型のシリコーンゴム等は加熱しなくても室温で硬化させることが可能であるため、シリコーンブランケットの製造工程および製造のための設備を簡略化できる上、加熱による膨張と冷却時の収縮を経ないため、表面ゴム層の厚みの精度を向上できる。
【0056】
また前記シリコーンゴム等としては、主剤と硬化剤の2成分からなり、前記両者を付加反応によって硬化させることができる二液付加反応型のものが好ましい。
前記二液付加反応型のシリコーンゴム等は、硬化反応に際して副生成物(脱水縮合反応による水等)を生じないため、表面ゴム層の寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な表面ゴム層を形成できる。
【0057】
前記室温硬化型でかつ二液付加型の液状シリコーンゴム等としては、例えば前出の、信越化学工業(株)製の品番KE1600、KE1603、KE1606、KE1310ST、KE1300T、KE1314、KE1241、KE106、KE103、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の品番TSE3402、TSE3453、TSE3455T、TSE3457、TSE3466等が挙げられる。
【0058】
表面ゴム層の厚みは、特に先に説明したPDPやLCDのパターン等の高い印刷精度が要求される精密印刷用のシリコーンブランケットの場合は0.1mm以上、1mm以下程度であるのが好ましい。
基材としては、先に説明した溶剤吸収体において使用したのと同様の種々の樹脂のフィルムまたはシートまた、金属の薄板等が挙げられ、特に任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすい上、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートが好ましい。
【0059】
基材の厚みは、前記精密印刷用のシリコーンブランケットの場合は0.01mm以上、0.4mm以下程度であるのが好ましい。
表面ゴム層を形成する前の基材の表面には、前記表面ゴム層の密着性を高めるために、例えばプラズマ処理、フレーム処理等の前処理を施したり、任意の下地層を形成したりしてもよい。
【0060】
表面ゴム層の硬さは、前記JIS K6253:2006において規定されたタイプAデュロメータ硬さで表してA10/S以上、A70/S以下、特にA20/S以上、A60/S以下程度であるのが好ましい。
またシリコーンブランケットの表面状態は、インキパターンが微細になるほどその精度に影響を及ぼすため、できるだけ平坦であることが好ましい。例えば前記精密印刷用のシリコーンブランケットの表面粗さは、前記JIS B0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」の付属書1で規定された十点平均粗さRzJIS94で表して0.01μm以上、1μm以下程度であるのが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下の実施例、比較例の溶剤吸収体の製造、特性の測定、および試験を、特記した以外は温度23±3℃、相対湿度55±5%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状ジメチルシリコーンゴム〔硬化後のタイプAデュロメータ硬さ(JIS K6253:2006準拠)がA30/Sであるもの〕の主剤91質量部と、動粘度が3000mm/sであるジメチルシリコーンオイル20質量部とを混合した。
【0062】
次いで前記混合物に、前記液状ジメチルシリコーンゴムの硬化剤9質量部を加えて混合したのち脱泡して吸収層用の塗布液を調製し、前記塗布液を、基材としての厚み0.25mmのPETフィルムの片面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化させて、厚み0.70mm、PETフィルムの面方向の寸法が縦50cm×横50cmである吸収層を形成して溶剤吸収体を製造した。
【0063】
前記溶剤吸収体の吸収層における、ジメチルシリコーンゴムの主剤と硬化剤計100質量部あたりのジメチルシリコーンオイルの含有割合は、前記配合割合から明らかなように20質量部であった。
〈実施例2、3、比較例1〜4〉
塗布液に配合するジメチルシリコーンオイルの量を0質量部(比較例1)、1質量部(比較例2)、5質量部(実施例2)、40質量部(実施例3)、60質量部(比較例3)、および100質量部(比較例4)としたこと以外は実施例1と同様にして溶剤吸収体を製造した。
【0064】
前記各溶剤吸収体の吸収層における、ジメチルシリコーンゴムの主剤と硬化剤計100質量部あたりのジメチルシリコーンオイルの含有割合は、それぞれ前記配合割合から明らかなように0質量部(比較例1)、1質量部(比較例2)、5質量部(実施例2)、40質量部(実施例3)、60質量部(比較例3)、および100質量部(比較例4)であった。
【0065】
〈印刷特性試験〉
(シリコーンブラケットの作製)
室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状シリコーンゴム〔硬化後のタイプAデュロメータ硬さ(JIS K6253:2006準拠)がA30/Sであるもの〕の主剤91質量部と硬化剤9質量部とを混合したのち脱泡して表面ゴム層用の塗布液を調製し、前記塗布液を、基材としての厚み0.25mmのPETフィルムの片面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化させて、厚み0.70mm、PETフィルムの面方向の寸法が縦50cm×横50cmである表面ゴム層を形成してシリコーンブランケットを作製した。
【0066】
(印刷工程)
前記シリコーンブランケットを、凹版オフセット印刷機〔ナカン(株)製、300mm×400mm対応の平板型精密印刷機〕のブランケット胴の外周に捲回して固定した。また凹版としては、ガラス板の表面に線幅20μm、ピッチ300μm、深さ8μmの凹部を格子状にパターン形成したものを用いた。
【0067】
インキとしては、ポリエステル樹脂と、溶剤としてのブチルカルビトールアセテートと、銀粉末とを3本ロールを用いて混練して調製したものを用いた。
また前記各実施例、比較例で製造したいずれかの溶剤吸収体を、両端をつなぎ合わせて無端ベルト状として、前記ブランケット胴の外周に巻きつけたシリコーンブランケットと同期回転させながら互いに接触させて溶剤吸収の工程を実施できるようにセットした。同期回転時の無端ベルトの送り速度は40mm/sに設定した。溶剤吸収の工程は、印刷を1回行うごとに実施した。
【0068】
印刷の条件は、凹版からシリコーンブランケットへのインキの転写速度を100mm/s、シリコーンブランケットから、被印刷体としてのガラス基板の表面へのインキの転写速度を100mm/sに設定して、前記ガラス基板を交換しながら50回の連続印刷をした。
そして印刷50回目のガラス基板の表面に印刷されたパターンを観察して、下記の基準で印刷適正を評価した。
【0069】
◎:パターンの状態は印刷1回目と殆ど変わらず良好であった。
○:パターンの状態は印刷1回目と比べて僅かに劣化したが許容できる範囲内であった。
×:パターンの状態が悪すぎて、製品として使用できるレベルではなかった。
以上の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より、溶剤吸収体の吸収層に含有させるジメチルシリコーンオイルの量がシリコーンゴム100質量部あたり3質量部未満では、溶剤吸収体にジメチルシリコーンオイルを含有させることによる先に説明した効果が得られず、溶剤吸収の工程を繰り返すうちにシリコーンオイルの不足を生じて、シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が徐々に低下する結果、転写不良等を生じやすくなって、ガラス基板の表面に印刷されるパターンの状態が悪化することが判った。
【0072】
また前記ジメチルシリコーンオイルの量が50質量部を超える場合には、溶剤吸収体からシリコーンブランケットの表面に過剰のジメチルシリコーンオイルが供給されてインキが滲みやすくなり、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったり、シリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって、ガラス基板の表面に印刷されるパターンの状態が悪化することが判った。
【0073】
これに対し、前記吸収層に含有させるジメチルシリコーンオイルの量を、シリコーンゴム100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下とすることで、溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って、ガラス基板の表面に良好なパターンを形成できることが確認された。
【0074】
〈実施例4〜6、比較例5、6〉
塗布液に配合するジメチルシリコーンオイルとして、動粘度が0.05mm/s(比較例5)、1mm/s(実施例4)、20mm/s(実施例5)、5000mm/s(実施例6)、および10000mm/s(比較例6)であるものを用いたこと以外は実施例1と同様にして溶剤吸収体を製造した。
【0075】
前記各溶剤吸収体の吸収層における、ジメチルシリコーンゴムの主剤と硬化剤計100質量部あたりのジメチルシリコーンオイルの含有割合は、いずれも20質量部であった。
前記各実施例、比較例で製造した溶剤吸収体を用いて、前記印刷特性試験を行った。結果を、実施例1の結果と合わせて表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2より、溶剤吸収体の吸収層に含有させるジメチルシリコーンオイルの動粘度が1mm/s未満では、前記ジメチルシリコーンオイルが溶剤吸収体中やシリコーンブランケットの表面から揮発して失われやすいため、溶剤吸収の工程を繰り返すうちにシリコーンオイルの不足を生じて、シリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が徐々に低下する結果、転写不良等を生じやすくなって、ガラス基板の表面に印刷されるパターンの状態が悪化することが判った。
【0078】
また前記ジメチルシリコーンオイルの動粘度が5000mm/sを超える場合には、前記ジメチルシリコーンオイルが溶剤吸収体中に均一に分散されず、その分布に偏りやばらつきを生じやすいため、かかるばらつきが生じることによってシリコーンブランケットの表面のインキに対する離型性が低下したり、前記シリコーンブランケットが膨潤したりしやすくなって、ガラス基板の表面に印刷されるパターンの状態が悪化することが判った。
【0079】
これに対し、前記吸収層に含有させるジメチルシリコーンオイルの動粘度を1mm/s以上、5000mm/s以下とすることで、溶剤吸収の工程を繰り返してもシリコーンブランケットの表面のシリコーンオイルが不足するのを防止して、前記溶剤吸収によるシリコーンブランケットの膨潤を抑制する効果と相まって、前記表面のインキに対する良好な離型性を維持して転写不良等が生じるのを防止しつつ、印刷初期から長期間に亘って、ガラス基板の表面に良好なパターンを形成できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットの前記表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含み、かつ前記溶剤吸収体として、少なくとも前記シリコーンブランケットの表面に接触させる面を、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂と、前記シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物によって形成したものを用いることを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂と、前記シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂100質量部あたり3質量部以上、50質量部以下の、動粘度が1mm/s以上、5000mm/s以下であるジメチルシリコーンオイルとを含む組成物からなる吸収層とを備えることを特徴とする溶剤吸収体。
【請求項3】
ベルト状に形成されている請求項2に記載の溶剤吸収体。

【公開番号】特開2011−42114(P2011−42114A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192148(P2009−192148)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】