説明

印刷方法

【課題】成形時に延伸される部分において見た目が変化せず、高品質な外観を有する成形体とすることが可能な印刷物の印刷方法を提供する。
【解決手段】型押しによって凸状の凸部が形成されるシート状のワークに塗料を付着させることによって印刷を行う印刷方法であって、前記シート状のワークにおいて、平面視で、前記凸部の輪郭6に対応する重畳格子7と、重畳格子7から輪郭6の外側に向かって、前記凸部の高さ寸法に相当する距離だけ離れた離間位置8との間の補正許可領域9に対する印刷データのうち、印刷の解像度に前記凸部の高さ寸法を乗じて得られる画素数Aだけ、印刷に用いる前記塗料の量を増やす方向にデータを補正した状態で前記ワークに印刷を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法に関するものであり、詳しくは、型押しすることで表面が加飾された成形体を形成するために用いる、加飾された成形体に対応する図柄が印刷された印刷物の印刷方法である。
【背景技術】
【0002】
従来、図柄が印刷されたシート状の印刷物を変形させることで、表面が加飾された成形体を形成する技術が知られている。例えば、樹脂製の基体に図柄が印刷された印刷物を加熱して軟化させ、一対の金型で挟むプレス加工を行うことにより、金型の形状に沿った成形物を形成することができる。このような成形物の表面には、元の印刷物の図柄に基づいた加飾が成されている。他にも、特許文献1に示すように、射出成形時に金型の内部に印刷物を封入し、射出成形による立体物の成形と同時に立体物の表面に印刷物を貼り付け、成形物の表面を加飾する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−122976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、平面的に図柄が印刷された印刷物を変形させるという形成方法では、印刷物の基体や、基体表面に塗布されたインクの塗膜が変形し延伸される。具体的には、印刷物から印刷物の法線方向に盛り上がって形成される成形物では、成形物の側壁は印刷物を該印刷物の法線方向に引き延ばして形成するため、塗膜が薄厚化される。
【0005】
成形物において塗膜が薄厚化された部分では、引き延ばす前と後で塗膜の見た目が変化してしまい、側壁において設計した色を再現しない場合がある。例えば、成形物の側壁と該側壁と連続する成形物の頂面とが同じ色となるように設計したとしても、塗膜が引き延ばされることによって見た目が変化すると、側壁と頂面との見た目が異なってしまい、所望の加飾を行うことができない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、型押しすることで表面が加飾された成形体を形成するために用いる印刷物について、例えば、成形体の側壁部分のような、成形時に延伸される部分において見た目が変化せず、高品質な外観を有する成形体とすることが可能な印刷物の印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の印刷方法は、型押しによって凸状の凸部が形成されるシート状のワークに塗料を付着させることによって印刷を行う印刷方法であって、前記シート状のワークにおいて、平面視で、前記凸部の輪郭に対応する輪郭位置と、前記輪郭位置から前記輪郭の外側に向かって、前記凸部の高さ寸法に相当する距離だけ離れた離間位置との間の領域に対する印刷データのうち、印刷の解像度に前記凸部の高さ寸法を乗じて得られる画素数だけ、印刷に用いる前記塗料の量を増やす方向にデータを補正した状態で前記ワークに印刷を行う、ことを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、輪郭位置と離間位置との間の領域に対して、印刷の解像度に凸部の高さ寸法を乗じて得られる画素数だけ塗料の量を増やすことができる。このため、凸部を形成する際の変形により延伸される部分に選択的に多くの塗料を塗布して塗膜を厚膜化しておくことができる。そのため、シート状のワークに凸部を形成した場合にも見た目が変化せず、高品質な外観を有する凸部とすることが可能な印刷物を印刷することができる。
【0009】
上記の印刷方法では、液滴吐出法で前記塗料を前記ワークに塗布することによって前記印刷を行い、前記印刷データは、印刷に用いる前記塗料の吐出位置である画素および前記塗料の吐出量を定めるビットマップデータである、ことが好ましい。
【0010】
この方法によれば、液滴吐出法による印刷において、シート状のワークに凸部を形成した場合にも見た目が変化せず、高品質な外観を有する凸部とすることが可能な印刷物を印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態における印刷物を用いて成形体を成形する工程を説明する図。
【図2】本実施形態における印刷方法における各処理を示すフローチャート。
【図3】本実施形態における平面画像を説明する図。
【図4】本実施形態における重畳格子を説明する図。
【図5】本実施形態における成形体の高さ寸法を説明する図。
【図6】本実施形態における補正許可領域を説明する図。
【図7】本実施形態における印刷データを説明する図。
【図8】本実施形態における印刷データの補正を説明する図。
【図9】本実施形態における印刷を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図9を参照しながら、本発明の実施形態に係る印刷方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0013】
本発明の印刷方法で印刷する印刷物は、具体的には、樹脂製の基体に塗料を塗布して図柄を印刷したものであり、代表的にはプレス成形により変形され、表面が加飾された成形体を形成するために用いる。以下の説明においては、まず図1において、本発明の印刷方法で印刷された印刷物を用いて成形体を得る成形加工について説明した後に、図2〜図9を用いて本発明の印刷方法について説明する。
【0014】
図1は、成形体を成形する工程について説明する図である。図に示すように、本発明の印刷方法により得られる印刷物1は、加熱により軟化され(図1(a))、凸型2と不図示の凹型とを有する一対の金型で、軟化された印刷物1を挟むプレス加工により変形され(図1(b))、不要な部分が除去(トリミング)されることにより、金型の形状が転写された成形体3となる(図1(c))。ここでは成形体3が、直方体の基台10の上面に、円柱状の凸部11が設けられた形状であることとする。
【0015】
このような成形を行う場合、図に示す成形体3における凸部11の側壁11aは、元の印刷物1を印刷物1の法線方向に引き延ばして成形することとなる。そのため、印刷物1の表面の塗膜も引き延ばされ薄厚化される。その場合、側壁11aの色が、印刷物1における対応箇所の色を再現せず、所望の加飾ができないおそれがある。
【0016】
そのため、以下に説明する本発明の印刷方法では、得られる印刷物において側壁に対応する部分の塗膜を厚くし、変形によって塗膜が薄厚化しても、見た目の変化が抑制されることとしている。
【0017】
図2は、本発明の印刷方法における各処理を示すフローチャートであり、図3〜図9は印刷方法の各処理の説明図である。以下の説明においては、図2のフローチャートの流れに従い、図3〜9を用いて本発明の印刷方法について説明する。
【0018】
まず、図1に示す成形体3の立体形状を示す3次元データ(3Dデータともいう)を測定する(ステップS1)。
成形体3の3次元データについては、成形体3のクレイモデルを非接触カメラ撮影式の3次元計測器や接触式3次元計測器などを用いて作成することができる。または、図1に示す凸型2を作成する際の元データを、成形体3の3次元データとして用いることとしても良い。
【0019】
次いで、ステップS2において、成形体3の平面画像5を規定サイズのグリッドで分割する。このとき、図3(a)に示すように、成形体3の立体形状を示す3次元データを上面から観察した平面画像5に投影する。そして、図3(b)に示すように、規定の格子サイズを持ったグリッドで平面画像5を分割する。なお、本実施形態では、格子のサイズを便宜的に吐出解像度と同じにする。
ここで、水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向としたXYZ直交座標系を設定する。
【0020】
次いで、図4に示すように、グリッドで分割した平面画像5において、成形体3の輪郭6が重なる格子を重畳格子7として抽出する(ステップS3)。なお、本実施形態では、複数の重畳格子7が抽出される。
【0021】
次いで、ステップS4において、成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)を算出する。成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)は、成形体3の高さ寸法に、印刷の解像度を乗じることによって算出され得る。解像度の単位としては、例えば、dpi(dot per inch)などが挙げられる。
ここで、図5に示すように、成形体3の高さ寸法をhとする。そして、ステップS4では、成形体3の高さ寸法hに解像度を乗じることによって、成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)が算出される。このとき、成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)をA個とする。
【0022】
次いで、ステップS5において、図6に示すように、任意の重畳格子7から輪郭6の外側に向かって、グリッド数でA個だけ離間した位置を離間位置8として定める。そして、重畳格子7から離間位置8までの領域を、補正許可領域9として定める。この補正許可領域9は、後述する印刷データの補正が許可される領域である。
【0023】
次いで、ステップS6において、印刷データの補正を行う。
本実施形態では、印刷データとして、ビットマップデータBDが採用されている。ビットマップデータBDでは、図7に示すように、印刷すべきグリッドに、印刷すべきドットの大きさがビットマップ状に記述されている。本実施形態では、S、M、及びLの3種類のドットの大きさを示すデータが採用されている。また、本実施形態では、印刷しないグリッドは、空白とされている。3種類のドットの大きさを示すデータでは、Lドットが最も大きく、MドットがLドットよりも小さく、SドットがMドットよりも小さい。
なお、以下において、印刷しないグリッドを指示する空白は、空白データと呼ばれる。また、Lドットを指示するデータは、Lドットデータと呼ばれ、Mドットを指示するデータは、Mドットデータと呼ばれ、Sドットを指示するデータは、Sドットデータと呼ばれる。
【0024】
ステップS6では、補正許可領域9に存在するビットマップデータを補正する。
印刷データを補正する手順及び処理を以下に記す。
(1)X方向に沿って重畳格子7から離間する向きに補正を行っていく。まず、図8(a)に示すように、空白のグリッドに対して、空白データをSドットデータに置き換える。以下において、空白データからSドットデータへの置き換え処理を、Sドット置換処理と呼ぶ。図8(a)では、Sドット置換処理が実施されたデータに○印が付されている。
なお、Sドット置換処理では、Sドット置換処理を実施したグリッド数をカウントしながら、処理が実施されていく。そして、このカウント値が、成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)の値であるAに達すると、印刷データの補正を終了する。他方で、カウント値がAに満たないときには、次の処理に移行する。
【0025】
(2)補正許可領域9に対するSドット置換処理が終わったら、重畳格子7に戻る。
(3)次いで、図8(b)に示すように、補正許可領域9のうちでSドットが指示されているグリッドに対して、SドットデータをMドットデータに置き換える。以下において、SドットデータからMドットデータへの置き換え処理を、Mドット置換処理と呼ぶ。図8(b)では、Mドット置換処理が実施されたデータに◇印が付されている。Mドット置換処理も、X方向に沿って重畳格子7から離間する向きに行われる。
なお、Mドット置換処理においても、Mドット置換処理を実施したグリッド数をカウントしながら、処理が実施されていく。Mドット置換処理におけるカウントでは、Sドット置換処理におけるカウント値が引き継がれる。つまり、Mドット置換処理におけるカウント値は、Sドット置換処理におけるカウント値に、Mドット置換処理におけるカウント値が加算されていく。
そして、このカウント値が、成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)の値であるAに達すると、印刷データの補正を終了する。他方で、カウント値がAに満たないときには、次の処理に移行する。
【0026】
(4)補正許可領域9に対するMドット置換処理が終わったら、重畳格子7に戻る。
(5)次いで、図8(c)に示すように、補正許可領域9のうちでMドットが指示されているグリッドに対して、MドットデータをLドットデータに置き換える。以下において、MドットデータからLドットデータへの置き換え処理を、Lドット置換処理と呼ぶ。図8(c)では、Lドット置換処理が実施されたデータに△印が付されている。Lドット置換処理も、X方向に沿って重畳格子7から離間する向きに行われる。
なお、Lドット置換処理においても、Lドット置換処理を実施したグリッド数をカウントしながら、処理が実施されていく。Lドット置換処理におけるカウントでは、Mドット置換処理におけるカウント値が引き継がれる。つまり、Lドット置換処理におけるカウント値は、Mドット置換処理におけるカウント値に、Lドット置換処理におけるカウント値が加算されていく。
そして、このカウント値が、成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)の値であるAに達すると、印刷データの補正を終了する。他方で、カウント値がAに満たないときには、上記(1)の処理に移行する。
(6)以後、(1)〜(5)の処理を、上記カウント値が成形体3の高さ寸法に相当するグリッド数(画素数)の値であるAに達するまで繰り返す。
【0027】
ステップS6における印刷データの補正は、上記(1)〜(6)の処理を、すべての重畳格子7に対して行われる。これにより、すべての重畳格子7に対して、Sドット置換処理、Mドット置換処理、及びLドット置換処理が、それぞれ、X方向に沿った処理として実施されることになる。
さらに、すべての重畳格子7に対して、上記(1)〜(6)の処理において、Sドット置換処理、Mドット置換処理、及びLドット置換処理を、それぞれ、Y方向に沿った処理としても実施する。これにより、1つの重畳格子7に対して、Sドット置換処理、Mドット置換処理、及びLドット置換処理が、それぞれ、X方向とY方向とに沿った処理として実施されることになる。なお、Y方向に沿った処理では、補正許可領域9をY方向に沿って定めればよい。
【0028】
ステップS6に次いで、ステップS7において、補正した印刷データに基づいて、樹脂製の基体に図柄を印刷する。
図9は、印刷の様子を示す模式図である。図9に示すように、液滴吐出ヘッドIJから印刷データ(ビットマップデータBD)に基づいて基体4にインクを吐出し、目的の印刷物1(図1)を印刷する。
なお、液滴吐出ヘッドIJからインクなどの液状体を液滴として吐出する技術は、インクジェット技術と呼ばれる。そして、インクジェット技術を活用してインクなどの液状体を所定の位置に配置する方法は、液滴吐出法やインクジェット法などと呼ばれる。これらの液滴吐出法やインクジェット法は、塗布法の1つである。
以上のようにして、本実施形態の印刷方法により目的とする印刷物1を得ることができる。
なお、本実施形態において、インクが塗料に対応し、基体4がワークに対応し、重畳格子7が輪郭位置に対応している。
【0029】
以上のような構成の印刷方法によれば、印刷物1において、成形体3を形成する際の変形により延伸される部分に選択的に多くのインクを塗布して、塗膜を厚膜化しておくことができる。そのため、成形体3を形成した場合にも見た目が変化せず、高品質な外観を有する成形体3とすることが可能な印刷物1を印刷することができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、一対の金型でプレスすることにより中空の成形体3を形成することとしたが、これに限らず、凸型の代わりに凸形状を有する樹脂を用いることで、樹脂表面に成形体3を付着させ、表面が加飾された成形体とすることもできる。
また、本実施形態では、印刷方法として液滴吐出法が採用されているが、印刷方法は、これに限定されない。印刷方法としては、例えば、電子写真方式や他の印刷方式も採用され得る。電子写真方式においては、トナーが塗料に対応する。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…印刷物、3…成形体、4…基体、5…平面画像、6…輪郭、7…重畳格子、8…離間位置、9…補正許可領域、10…基台、11…凸部、11a…側壁、BD…ビットマップデータ(印刷データ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型押しによって凸状の凸部が形成されるシート状のワークに塗料を付着させることによって印刷を行う印刷方法であって、前記シート状のワークにおいて、平面視で、前記凸部の輪郭に対応する輪郭位置と、前記輪郭位置から前記輪郭の外側に向かって、前記凸部の高さ寸法に相当する距離だけ離れた離間位置との間の領域に対する印刷データのうち、印刷の解像度に前記凸部の高さ寸法を乗じて得られる画素数だけ、印刷に用いる前記塗料の量を増やす方向にデータを補正した状態で前記ワークに印刷を行う、ことを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
液滴吐出法で前記塗料を前記ワークに塗布することによって前記印刷を行い、
前記印刷データは、印刷に用いる前記塗料の吐出位置である画素および前記塗料の吐出量を定めるビットマップデータである、
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106369(P2012−106369A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255599(P2010−255599)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】