説明

印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法

【課題】 印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧シートの製造において、薬剤として従来用いられてきたジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)に代えて、カプセル型薬剤を使用することで従来の問題点を解決し、しかも、優れた意匠性を有する化粧シートを製造することができる可撓性化粧材の製造方法を提供する。
【解決手段】 加熱により分解ガスを発生する薬剤にカプセル型薬剤を用い、このカプセル型薬剤を混入したインクを用いてシート状物の表面に印刷模様を施した後、同印刷模様の上に塗料を塗布し、前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行い、この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部を研削してインキ面を露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法、更に詳しくは、カプセル型薬剤を使用することで、取扱い及び生産工程の危険性と熱分解発生ガスを低減し、かつ、低熱量で生産が可能となり、生産性の向上を図ることができる可撓性化粧シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱により分解ガスを発生する薬剤を混入したインクを用いてシート状物の表面に印刷模様を施した後、同印刷模様の上に飽和ポリエステル樹脂に不飽和ポリエステル樹脂とイソシアネートを添加混合した塗料を塗布し、前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行い、この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部をバフロール等で研削してインキ面を露出させるようにする印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法はすでに提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平3−67750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記の可撓性化粧材の製造方法において、インキ中に混入する薬剤としては、ベンゼルスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、アゾビスイソブチルニトリル、ジアゾアミノベンゼン、アセトン−P−トルエンスルホニルヒドラジド、2,4−トルエンジスルホニルヒドラジド、P−メチルウレタンベンゼンスルホニルヒドラジド、N,N´−ジメチル−N,N−ジニトロソテレフタルアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)等がある。
【0004】
上記の薬剤の中でも急激に塗膜を隆起させる薬剤として、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が最適である。
【0005】
しかしながら、この薬剤の分解ガスは、窒素ガス(N)、ホルムアルデヒド(CHO)、亜酸化窒素(NO)、メチルアミン(CHNH)、蒸気(HO)等のガスを発生する。特にホルムアルデヒドに関しては、シックハウス症候群の原因になっており、社会的な環境問題となっている。
【0006】
また、危険性においては、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)は、易燃性の物質であり、火気や高温物体との接触を避けることはもちろんのこと、酸との接触にも不安定で、塩酸、硫酸などの鉱酸と接触すると常温でも分解し、発火する危険な性質があり、有機酸などと混在させると分解温度を低下させると共に、蓄熱して発火に至る場合もあり、このような材料では生産安全性に問題があった。
【0007】
上記ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)の熱分解温度は、200〜205℃に加熱しないと十分に効果が得られないため、熱カロリーの消費が多く、製造コストがかかり、更に、溶剤の蒸発速度、蒸発量が著しく、爆発の危険が高いという問題がある。
【0008】
また、印刷模様の上に塗布して分解ガスを捕捉する塗料として、飽和ポリエステル樹脂に不飽和ポリエステル樹脂とイソシアネートを添加混合した塗料以外の場合は、発泡部分の樹脂が研削工程において、バフロールなど研削部分に絡み付きやすく、不具合の原因にもなりうるので、分解ガスを捕捉する塗料の選択範囲が狭いという点で問題がある。
【0009】
また、ポリエステル系樹脂は乾燥が遅く、その場合に用いるイソシアネートは速乾タイプの黄変型硬化剤を使用しなければならないため、塗膜の黄変に問題があり、比較的日当たりがよく、継続的に設置されている場所では、塗膜内に紫外線吸収剤を添加しなければ使用しにくかった。
【0010】
上記ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)は、熱分解温度が200℃以上なので、その加熱温度で無黄変型塗料を使用すると、無黄変型塗料は比較的塗膜が硬いために、分解ガスの隆起が抑えられてしまい、十分な凹部が再現できないだけでなく、凸部分も硬く、研削が困難であった。
【0011】
上記発泡薬剤のジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が水やアルコールに溶ける傾向にあるので、水性系樹脂では、発泡倍率が落ちてしまい、凹部が減少して十分なエンボス効果が得られない。
【0012】
更に、分解ガスを捕捉する塗料の塗布量として、10DG/m以下であると、十分な凹凸感が得られないなどの制限があった。
【0013】
そこで、この発明の課題は、かかる化粧シートの製造に際して、上記薬剤として従来用いられてきたジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)に代えて、カプセル型薬剤を使用することにより、上記問題点を解決し、しかも優れた意匠性を有する化粧シートを製造することができる印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような課題を解決するため、この発明は、加熱により分解ガスを発生する薬剤を混入したインクを用いてシート状物の表面に印刷模様を施した後、同印刷模様の上に塗料を塗布し、前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行い、この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部を研削してインキ面を露出させる印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法において、前記インキに混入する薬剤にカプセル型薬剤を用いる構成を採用したものである。
【0015】
上記カプセル型薬剤が、アクリルニトリルや塩化ビニリデン等の殻壁にイソブタン等の低沸点炭化水素を内包して形成されているようにしたり、このカプセル型薬剤の粒径を10〜50μであるようにすることができる。
【0016】
ここで、インク中に添加するカプセル型薬剤の配合量としては、インク100重量部に対して10〜50重量部の範囲に設定し、このカプセル型薬剤のガス化膨張範囲温度は、100℃〜200℃であり、その温度に達すると、カプセルの皮が軟化し、内包しているイソブタン等がガス化膨張して発泡することになる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、インキに混入する薬剤にカプセル型薬剤を用いたので、例えば、木目の導管部分や溝状部分等の模様で凹部を表現したい分部のインキにだけ、熱でガスを発生するカプセル型薬剤を添加し、印刷後に前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行い、この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部を研削してインキ面を露出させることにより、優れた意匠性を有する化粧シートを製造することができる。
【0018】
また、ガスを捕捉する塗料についても、従来では飽和ポリエステル樹脂に不飽和ポリエステル樹脂とイソシアネートを添加混合した塗料でないと、十分なエンボス効果が得られなかったが、インク中に添加する薬剤をカプセル型薬剤にすることで、ガスを捕捉する塗料に関しても選択範囲が広がり、発泡した凸部分の研削工程でも不具合なく生産できる効果がある。
【0019】
上記塗料として具体的には、従来の飽和ポリエステル樹脂に不飽和ポリエステル樹脂とイソシアネートは勿論のこと、アクリル系樹脂と無黄変イソシアネート、各水性樹脂等も使用可能となった。
【0020】
また、このカプセル型薬剤自体は指定可燃物であるが、常温で安定であり、酸との接触をしても発火する危険性は極めて少なくなる。
【0021】
さらに、カプセルが内包しているガスもイソブタンであり、家庭用ガスコンロの液化プカンガスと同種であり、危険性、安全性において問題がない。
【0022】
発泡温度に関しても、従来用いられていた約220℃からこの発明では約180℃に約40℃も温度を下げての化粧シートの生産が可能になった。
【0023】
また、研削性に関しても、発泡温度が約40℃程度下がることで、塗膜に柔軟性があり、その表面を研削するバフロールの摩耗による劣化が軽減され、バフロールの交換回数が減ることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
【0025】
この発明は、加熱により分解ガスを発生する薬剤を混入したインクを用いてシート状物の表面に印刷模様を施した後、同印刷模様の上に塗料を塗布し、前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行い、この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部を研削してインキ面を露出させる印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法において、前記インキに混入する薬剤にカプセル型薬剤を用いるようにしたものである。
【0026】
上記シート状物は、重さが20〜80g/m程度の紙や合成紙、或いは厚さが0.05〜0.5mm程度の合成樹脂フィルム等であり、特に価格が安価であるだけでなく、表面が平滑で印刷適性に優れている、重さが23g〜65g/mの薄用紙が最適である。
【0027】
従来の製造方法では、耐熱性に乏しく印刷が困難であったシート状物もこの発明では印刷可能であり、特に、柔軟性があり、加工適正に優れているラテックス含浸紙等にも印刷でき、また、硬く機械的強度の特性をもつ二軸延伸ポリエステルフィルム等にも印刷可能である。
【0028】
まず、上記シート状物の上面に通常のグラビア印刷装置等により、インキを2〜3層に重ね印刷して模様を形成する。その際、例えば、木目の導管部分や溝状部分等の模様で凹部を表現したい分部のインキにだけ、熱でガスを発生するカプセル型薬剤を添加する。
【0029】
インク中に添加するカプセル型薬剤の配合量としては、インク100重量部に対して10〜50重量部の範囲で設定し、また、このカプセル型薬剤の粒径としては10〜50μになっている。
【0030】
上記した熱でガスを発生するカプセル型薬剤としては、アクリルニトリルや塩化ビニリデン等の殻壁にイソブタン等の低沸点炭化水素を内包したものを用いる。
【0031】
このカプセル型薬剤は、加熱されることによって内包剤がガス化膨張し、このガスを利用して塗膜を隆起させるものであり、カプセル型薬剤のガス化膨張範囲温度は、100℃〜200℃であり、従来の方法に比べて低温発泡が可能になり、インキ上面に塗工する樹脂、塗料、コート剤の選択枝が広がることになる。
【0032】
次に、熱でガスを発生するカプセル型薬剤が添加されたインキによる印刷模様の上に、分解ガスを捕捉する塗料を塗布するが、この塗料の種類については、従来の飽和ポリエステル樹脂に不飽和ポリエステル樹脂とイソシアネートは勿論のこと、アクリル系樹脂と無黄変イソシアネート、NCニトロセルロース系樹脂、各水性樹脂等の種々の種類の塗料を用いることができる。
【0033】
上記塗料の塗布量としては、印刷模様、印刷シートの違いによるが、5DG/m〜50DG/mの範囲で設定が可能である。
【0034】
更に、前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行うが、前記カプセル型薬剤のガス化膨張範囲温度は100℃〜200℃であるが主な実施形態としては180℃で加熱され、その温度に達すると、カプセルの皮が軟化し、内包しているイソブタン等がガス化膨張して発泡する。なお、発泡させる温度が高すぎると、膨張する前にカプセルの殼壁が溶けてガスが漏れてしまう。
【0035】
この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部を研削してインキ面を露出させる印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材を得ることができる。
【0036】
このように、インク中に添加する薬剤をカプセル型薬剤にすることで、取扱い及び生産工程の危険性や発生ガスの低減ができると共に、使用するシートや塗料の選択の余地も広がり、低熱量でかつ多様な化粧シートの生産が可能となる。
【実施例】
【0037】
重さ30g/mの薄葉紙にグラビア印刷機により木目印刷をした。なお、印刷インキとしては、常用のグラビア用インキを用いたが、木目模様の導管部のみは、下記配合の印刷インキを用いた。
【0038】
印刷インキの配合
セルローズ系樹脂 20部
顔料 25部
溶剤 20部
カプセル型薬剤 40部
アクリル系樹脂 15部
【0039】
次いで、上記印刷表面に下記配合のクリヤー塗料を全面に塗布し、180℃で10秒間乾燥して塗料の発泡と硬化を行った。なお、塗布量は、10g/mとした。その後、バフで上記塗膜の発泡凸部分を研削して導管溝模様に同調した凹部を有する化粧シートを製造した。
【0040】
クリヤー塗料の配合
(1)黄変塗料の場合
ポリエステル系樹脂 100部
黄変イソシアネート 75部
(2)無黄変塗料の場合
アクリル系樹脂 100部
無黄変イソシアネート 30部
溶剤 20部
(3)水性系樹脂の場合
水性アクリル系樹脂 100部
水分散型無黄変イソシアネート 15部
水 10部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により分解ガスを発生する薬剤を混入したインクを用いてシート状物の表面に印刷模様を施した後、同印刷模様の上に塗料を塗布し、前記薬剤が急激に分解する温度で加熱して薬剤の分解と塗料の乾燥硬化を行い、この過程で発生した分解ガスによって印刷模様上に塗布した塗料を隆起させて凸部を形成し、ついで同凸部を研削してインキ面を露出させる印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法において、前記インキに混入する薬剤にカプセル型薬剤を用いることを特徴とする印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法。
【請求項2】
上記カプセル型薬剤が、アクリルニトリルや塩化ビニリデン等の殻壁にイソブタン等の低沸点炭化水素を内包して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法。
【請求項3】
上記カプセル型薬剤の粒径が10〜50μであることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷模様に同調した凹部を有する可撓性化粧材の製造方法。

【公開番号】特開2006−75665(P2006−75665A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259379(P2004−259379)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(597105555)東京カラーグラビヤ工業株式会社 (1)
【出願人】(396010993)サカエグラビヤ印刷株式会社 (4)
【Fターム(参考)】