説明

印刷物製造方法及び印刷物

【課題】表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する方法であって、CG画像に定義された立体形状の再現性が良い印刷物を製造する印刷物製造方法、及びその印刷物を提供する。
【解決手段】印刷物に表現する所望の画像のモデリングを行い、画像の立体的形状情報等を継承するように、画素ごとに溝の方向を決定する。次に、決定した溝の方向を有する複数の溝を、画素ごとに互いに平行な直線として配置した二値データを作成する。そして、作成した二値データを基に、紙基材に溝を形成するとともに、紙基材に画像の絵柄を印刷することで、表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する印刷物製造方法、及びその印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の印刷物は、4色のインキを用いてカラーの印刷像を形成する。そして、被写体を撮影した画像を印刷する場合、被写体の立体感を効果的に再現するため、撮影時にライティングや被写体の向きを考慮し、画像に含まれる陰影やハイライトが適切な状態になるように細心の注意を払う。これは、平面に印刷された画像を観察する場合、人間の視覚が、画像に含まれる陰影やハイライトから被写体の立体感を認識するようになっているからである。しかしながら、ある部分の立体感を効果的に再現するためのライティングは別の部分の立体感を犠牲にするものであり、通常の印刷物では、ライティングと観察方向が固定された状況下の被写体の立体感しか再現することができない。
【0003】
一方、印刷物上に、異方性反射特性を有する画像を実体化し、画像の立体感を表現する技術が開発されている(特許文献1)。特許文献1では、CG(Computer Graphics)画像をレンダリングする際に得られる法線ベクトル場に基づいて、曲線群または格子群の画像を生成し、その曲線群または格子群をエンボス加工や印刷の手法を用いて凹凸として印刷物上に実体化する。そして、この結果得られる異方性反射特性により、元のCG画像に対してライティングを変化させたときのハイライトの変化を、印刷物に再現することができる。特許文献1に開示されている手法では、元のCG画像から得られる画素単位の法線ベクトルの情報が、印刷物の表面に形成される微小な溝の方向ベクトルに継承されているため、元のCG画像に定義された立体形状に対して、様々な方向で観察したときのハイライトの変化を再現することが可能となる。
【特許文献1】特開2001−138700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の溝の形状(例えば、ヘアライン条溝等)では、CG画像に定義された立体形状の再現性が悪く、意匠性の高い印刷物を製造することができないという問題があった。
また、従来の溝の方向の制御方法では、立体形状のみしか再現できなかった為、例えば、立体物の奥行き感、色彩で表現される模様、立体表面の鏡面反射等を再現することができなかった。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する方法であって、CG画像に定義された立体形状の再現性が良い印刷物を製造する印刷物製造方法、及びその印刷物を提供することである。更に、微小な溝の方向を制御することによって、奥行き、模様、鏡面反射等を再現することも可能な印刷物製造方法、及びその印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために第1の発明は、表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する方法であって、前記印刷物に表現する所望の画像のモデリングを行い、前記画像の立体的形状情報を継承するように、画素ごとに前記溝の方向を決定する溝方向決定工程と、決定した前記溝の方向を有する複数の前記溝を、画素ごとに互いに平行な直線として配置した二値データを作成する二値データ作成工程と、作成した前記二値データを基に、紙基材に前記溝を形成するとともに、前記紙基材に前記画像の絵柄を印刷する印刷工程と、を含むことを特徴とする印刷物製造方法である。
【0007】
前記溝方向決定工程は、前記画像の立体的形状情報を継承することに加えて、前記画像の奥行き情報、色彩情報、鏡面反射情報の少なくとも1つを継承するように、画素ごとに前記溝の方向を決定するものであっても良い。
【0008】
前記印刷工程は、例えば、作成した前記二値データを基に成型した金型を用いて、エンボス箔押し加工を行い、紙基材に前記溝を形成するエンボス箔押し加工工程と、前記エンボス箔押し加工工程の後、前記紙基材に前記画像の絵柄のオフセット印刷を行うオフセット印刷工程と、を含むものである。
また、前記印刷工程は、例えば、紙基材に前記画像の絵柄のオフセット印刷を行うオフセット印刷工程と、前記オフセット印刷工程の後、作成した前記二値データを基に成型した金型を用いて、エンボス箔押し加工を行い、前記紙基材に前記溝を形成するエンボス箔押し加工工程と、を含むものである。
また、前記印刷工程は、例えば、紙基材に前記画像の絵柄のオフセット印刷を行うオフセット印刷工程と、前記オフセット印刷工程の後、作成した前記二値データを基に作製した版を用いて、スクリーン印刷を行い、前記紙基材に前記溝を形成するスクリーン印刷工程と、を含むものである。
また、前記印刷工程は、例えば、紙基材に前記画像の絵柄のインクジェット印刷を行う第1のインクジェット印刷工程と、前記第1のインクジェット印刷工程の後、作成した前記二値データを基に、透明インキによるインクジェット印刷を行い、前記紙基材に前記溝を形成する第2のインクジェット印刷工程と、を含むものである。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の印刷物製造方法によって製造された印刷物である。特に、前記溝の横幅と前記溝同士の間隔との比率が1対1であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する方法であって、CG画像に定義された立体形状の再現性が良い印刷物を製造する印刷物製造方法、及びその印刷物を提供することができる。更に、微小な溝の方向を制御することによって、奥行き、模様、鏡面反射等を再現することも可能な印刷物製造方法、及びその印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る印刷物製造方法の流れを示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施の形態に係る印刷物製造方法は、溝方向決定工程(S101)、二値データ作成工程(S102)、印刷工程(S103)等が含まれる。S101の溝方向決定工程、S102の二値データ作成工程は、本実施の形態に係るアプリケーションソフトウェアをインストールしたコンピュータによって行われる。S103の印刷工程は、S102で作成された二値データ等を基に、各種の印刷機等によって行われる。
【0013】
S101の溝方向決定工程では、コンピュータが、ユーザとの対話的処理によって印刷物に表現する所望の画像のモデリングを行い、画像の立体的形状情報等を継承するように画素ごとに溝の方向を決定する。ここで、印刷物は、表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有するものである。画像のモデリングは、一般に市販されているCGソフトウェア等が有する機能によって行うことができる。
【0014】
図2は、溝の方向3に継承する情報を示す図である。
図2に示すように、S101の溝方向決定工程では、CGソフトウェア等でモデリングされた画像の情報5を継承するように、画素ごとに、印刷物1の表面上に形成する溝の方向3を決定する。画像の情報5は、立体的形状情報7、奥行き情報9、色彩情報11、鏡面反射情報13等である。本実施の形態では、立体的形状情報7を継承することは必須である。また、奥行き情報9、色彩情報11、鏡面反射情報13等を継承することは任意である。
【0015】
まず、立体的形状情報7を継承するように、画素ごとに溝の方向3を決定する方法について説明する。立体的形状情報7は、例えば、形状データをCGの投影面の各画素に投影し、投影面に定義した座標系で表現した形状データの法線ベクトルである。
【0016】
図3は、投影面上の法線ベクトルの1例を示す図である。
法線ベクトルN1は、投影面S1上の点Pを始点とし、投影面S1に定義した座標系に対する方位角φと仰角kとで表現できる。一方、法線ベクトルN1の情報を継承する印刷物1上(2次元平面上)の溝の方向ベクトルは、印刷物1の表面における方位角のみで表現できることから、法線ベクトルN1の情報を全て継承することはできない。従って、コンピュータは、法線ベクトルN1を所定の方位角に投影して次元を減ずることにより、印刷物1上の溝の方向ベクトルに画像の立体的形状情報7を継承させる。
【0017】
図4は、法線ベクトルの法線投影面への投影を示す図である。
法線投影面S2は、投影面S1に対して垂直であり、方位角α方向に設けられた新たな投影面である。コンピュータは、法線ベクトルN1を法線投影面S2に投影した法線ベクトルN2の仰角tを算出し、仰角tの値を印刷物1上の溝の方向ベクトルに継承する。尚、仰角tは、図4に示すように、S2内で点Pを通過し、S1に垂直な線を基準(t=0度)とし、基準線と法線ベクトルN2とのなす角度によって定義する。
ここで、立体形状の隠面は投影されないから、法線ベクトルN1の向きは、必ず点Pから見て投影面S1の表の方向になる。従って、仰角tは180度(−90度≦t≦90度)の範囲を取り得る。
【0018】
次に、印刷物1上の溝の方向ベクトルを示す角度をθとする。θとtは何らかの相関関係を有することで、仰角tの値を印刷物1上の溝の方向ベクトルに継承することができる。本実施の形態では、画像の立体的形状を印刷物1上に出来る限り正確に表現するために、θとtは線形関係を維持するように設定する。また、画像の立体的形状に含まれる最も形状の異なる部分が最も異なる角度を継承するために、θ=t/2としてθの取り得る範囲を90度(−45度≦θ≦45度)とする。これは、θ=tとしてθの取り得る範囲を180度(−90度≦θ≦90度)とすると、最も形状の異なる部分、例えば、t=90度の部分とt=−90度の部分が、印刷物1上の溝の方向3に継承したときに同じ方向を持つことになる。そうすると、画像の立体的形状に含まれる最も形状の異なる部分が、類似した異方性反射特性を有することになり、好ましくないからである。但し、θの取り得る範囲は90度に限定されるものではなく、印刷物1の使用目的や画像の特性等に応じて任意に設定することが可能である。
【0019】
このように、コンピュータは、各画素における画像の立体的形状に係る法線ベクトルの情報を継承するように、印刷物1上の溝の方向ベクトルを算出する。そして、このように決定した溝の方向ベクトルに基づいて、印刷物1上に微小な溝を形成することで、異方性反射によって、見る角度、光線方向に依存した反射の変化が生じ、立体曲面が照明方向や見る方向に依存して光の反射が変化する様相を表現することができる。特に、立体的形状を持つ元のCG画像に対してライティングを変化させたときのハイライトの変化を、平面である印刷物1に再現することができる。
【0020】
次に、画像の立体的形状情報7を継承することに加えて、画像の奥行き情報9を継承するように、画素ごとに溝の方向3を決定する方法について説明する。
コンピュータは、法線ベクトルを算出したときと同じカメラ条件で形状データをレンダリングし、各画素における画像の奥行き値であるZ値を算出する。そして、コンピュータは、立体的形状情報7を継承するように決定した方向ベクトル群に対し、奥行き値に応じたぼかしを施す。本実施の形態では、奥行き値に応じたランダムな変位量を加減するロジックと、奥行き値に応じた強度でローパスフィルタリングを行うロジックの二通りによって、方向ベクトル群に対してぼかしを施す。
実際のシーンを肉眼で観察またはカメラで撮影した場合、一般的に、観察者または撮影者の位置から一定の距離の面において焦点が合い、その手前、またはその奥の位置では次第に像がぼけること(=被写界深度の効果)が経験的に分かっている。これらの経験により、奥行きの認知においては像のぼけが重要な役割を持っていると考えられるため、擬似的に焦点面前後でのぼけを表現する。これによって、最終的に印刷物1上に表現された立体像は、観察者から一定の距離の面にある形状だけに焦点が合っており、その距離(焦点面)から手前もしくは奥に存在する形状には、焦点面からの距離に応じてぼけて観察される。
【0021】
ぼかし処理の1つ目のロジックである、奥行き値に応じたランダムな変位量を加減するロジックについて説明する。
ある画素(x、y)に対し、溝の方向ベクトルを示す角度をG(x、y)とする。また、ある画素(x、y)に対し、奥行き値をZ(x、y)とする。そして、奥行き値Z(x、y)に応じた最大変位量をM(x、y)とする。このとき、ぼかし後の方向ベクトルを示す角度G´(x、y)は、G´(x、y)=G(x、y)+RND×M(x、y)と表すことができる。ここで、RNDは、例えば、−1≦RND≦1の範囲の一様分布に従う乱数である。このように、溝の方向ベクトルを示す角度にランダムな変位量を加減することで、印刷物1上の溝による反射に鋭さがなくなり、印刷物1上に表現された立体像のぼけが観察される。
また、M(x、y)は奥行き値Z(x、y)で一意に定まる関数であるから、M(Z)と表すこともできる。
【0022】
関数M(Z)は、Z(x、y)に応じてG(x、y)を変位させる度合いを制御するものである。本実施の形態では、被写界深度の効果をシミュレートするため、特定の奥行き値Zf(=レンズ系の焦点が合っている焦点面までの距離)では0となり、Zfよりも奥行き値が大きい範囲では単純増加し、Zfよりも奥行き値が小さい範囲では単純減少する関数とする。
【0023】
図5は、関数M(Z)の一例を示す図である。
図5に示すように、関数M(Z)は、Zfを境界点として線形に増減する。直線の勾配をaとすると、(1)Z<Zfの場合、M(Z)=−a×(Z−Zf)、(2)Z=Zfの場合、M(Z)=0、(3)Z>Zfの場合、M(Z)=a×(Z−Zf)である。従って、関数M(Z)は、レンズ系の焦点が合っている焦点面までの距離Zfと、関数M(Z)の直線の勾配aとの二つのパラメータによって決定される。本実施の形態では、これらのパラメータは処理を開始する前に入力し、様々な値でぼかし処理を行うことができる。
【0024】
尚、乱数RNDは、一様分布以外の他の分布、例えば正規分布に従うものとしても良い。どのような分布を用いるかは、印刷物1上に表現する立体像の特性等を考慮して判断する。
また、関数M(Z)はZfを境界点として線形に増減するものとしたが、Z<Zfの場合に単調減少、かつ、Z>Zfの場合に単調増加することが満たされれば、曲線的に増減するものであっても良い。
【0025】
ぼかし処理の2つ目のロジックである、奥行き値に応じた強度でローパスフィルタリングを行うロジックについて説明する。
ローパスフィルタリングとは、周辺の画素に対称的な係数をかけ、その平均を取って画素の出力値を求める手法である。ローパスフィルタリングによって、画像を滑らかにする効果やぼやけさせる効果が得られる。画像処理の世界では、色が徐々に変化している部分やほとんど変化していない部分を画像の低周波領域と呼び、色が細かく変化する部分や大きく変化している部分を高周波領域と呼ぶ。ローパスフィルタリングでは、画像の低周波領域についてはほとんど変化を与えずそのまま通過させて、高周波領域を平滑化する。
【0026】
図6は、ローパスフィルタリングの一例を示す図である。
図6に示すように、左図は3×3の単純平均フィルタであり、ある画素におけるフィルタの出力値は、自身とその周辺の画素を合計した9画素の平均値となる。また、右図は5×5の単純平均フィルタであり、ある画素におけるフィルタの出力値は、自身とその周辺の画素を合計した25画素の平均値となる。このように、単純平均フィルタにおいては、3×3、5×5といったフィルタサイズが大きいほどフィルタリングの効果が大きくなる。逆に、フィルタリングの効果を制御する唯一のパラメータはフィルタサイズである。
【0027】
ある画素(x、y)に対し、溝の方向ベクトルを示す角度をG(x、y)とし、G(x、y)の集合を単にGとする。また、ある画素(x、y)に対し、奥行き値をZ(x、y)とする。このとき、本ロジックによるぼかし後の溝の方向ベクトルを示す角度G´(x、y)は、G´(x、y)=Fn(G、x、y)と表すことができる。ここで、Fn(G、x、y)は、溝の方向ベクトルを示す角度の集合Gに対し、画素(x、y)を中心にフィルタサイズnの単純平均フィルタを作用させた出力値である。
また、フィルタサイズnは定数ではなく奥行き値Z(x、y)で一意に定まる関数であり、n(Z)と表すこともできる。
【0028】
関数n(Z)は、Z(x、y)に応じてG(x、y)を変位させる度合いを制御するものである。本実施の形態では、被写界深度の効果をシミュレートするため、特定の奥行き値Zf(=レンズ系の焦点が合っている焦点面までの距離)では1となり、Zfよりも奥行き値が大きい範囲では単純増加し、Zfよりも奥行き値が小さい範囲では単純減少する関数とする。ただし、n(Z)の取り得る値は、奇数の自然数である。
【0029】
図7は、関数n(Z)の一例を示す図である。
図7に示すように、関数n(Z)は、Zfを中心にして階段状に増減する。図7の破線で示す直線の勾配をaとすると、(1)Z<Zfの場合、n(Z)=2×[−a×(Z−Zf)]+1、(2)Z=Zfの場合、n(Z)=1、(3)Z>Zfの場合、n(Z)=2×[a×(Z−Zf)]+1である。ここで、[X]は床関数を表し、Xを超えない最大の整数である。
このように、関数n(Z)は、レンズ系の焦点が合っている焦点面までの距離Zfと、関数n(Z)の直線の勾配aとの二つのパラメータによって決定される。本実施の形態では、これらのパラメータは処理を開始する前に入力し、様々な値でぼかし処理を行うことができる。
【0030】
尚、ローパスフィルタリングの例として単純平均フィルタを用いたが、他のフィルタ、例えば、ガウシアンフィルタのような加重平均フィルタを用いるものであっても良い。どのようなフィルタを用いるかは、印刷物1上に表現する立体像の特性等を考慮して判断する。
また、関数n(Z)はZfを境界点として直線的に増減するものとしたが、Z<Zfの場合に単調減少、かつZ>Zfの場合に単調増加することが満たされれば、曲線的に増減するものであっても良い。
【0031】
このように、コンピュータは、各画素における画像の立体的形状に係る法線ベクトルの情報を継承するように算出した印刷物1上の溝の方向ベクトルに対し、画像の奥行き値に基づいてぼかし処理を施す。そして、このように決定した溝の方向ベクトルに基づいて、印刷物1上に微小な溝を形成することで、異方性反射によって見る角度、光線方向に依存した反射の変化が生じ、立体曲面が照明方向や見る方向に依存して光の反射が変化する様相を表現することができる。さらに、奥行き値に応じたぼかしを施しているため、立体的形状を持つ元のCG画像の奥行き感も表現することができる。
【0032】
次に、立体的形状情報7を継承することに加えて、色彩情報11を継承するように、画素ごとに溝の方向3を決定する方法について説明する。
コンピュータは、法線ベクトルを算出したときと同じカメラ条件で形状データをレンダリングし、各画素における画像の色彩情報11を算出する。そして、コンピュータは、立体的形状情報7を継承するように決定した方向ベクトルに対し、色彩情報11に応じた変換を施す。方向ベクトルの変換は、異なる色彩情報11を持つ画素に対し、それぞれ異なる角度を変位させるものである。
色彩情報11は、各画素において投影される形状上の位置に設定されている色彩に関するパラメータ値、例えば、輝度、色相、またはRGBの1成分等のいずれかを所定の範囲に正規化したものである。範囲は、例えば、0〜1の実数、または0〜255の整数等である。
また、色彩情報11は、各画素における色彩に関するパラメータ値のいずれかをインデックス化したものであってもよい。日本国旗を印刷物1上の像として表現する場合、例えば、赤の領域となる画素に対しては1、白の領域となる画素に対しては2としてインデックス化する。
【0033】
ある画素(x、y)に対し、溝の方向ベクトルを示す角度をG(x、y)とする。また、ある画素(x、y)に対し、色彩情報11(正規化した値、またはインデックス値)をC(x、y)とする。そして、C(x、y)に応じた変位量をL(x、y)とする。このとき、変換後の方向ベクトルを示す角度G´(x、y)は、G´(x、y)=G(x、y)+L(x、y)と表すことができる。ここで、L(x、y)は、C(x、y)で一意に定まり、L(C)と表すこともできる。C(x、y)と変位量L(x、y)の対応は任意であり、この対応は変換テーブルによって指定する。日本国旗を印刷物1上の像として表現する場合、例えば、赤の領域となる画素に対しては1、白の領域となる画素に対しては2としてインデックス化したとすると、それぞれ異なる角度を変位させるように、各インデックス値に対応する変位量L(x、y)を指定する。
【0034】
このように、コンピュータは、各画素における画像の立体的形状に係る法線ベクトルの情報を継承するように算出した印刷物1上の溝の方向ベクトルに対し、色彩情報11に基づく変換を施す。そして、このように決定した溝の方向ベクトルに基づいて、印刷物1上に微小な溝を形成することで、異方性反射によって見る角度、光線方向に依存した反射の変化が生じ、立体曲面が照明方向や見る方向に依存して光の反射が変化する様相を表現することができる。さらに、色彩情報11に応じた方向ベクトルの変換によって、印刷物1上に表現された立体像は、模様も再現されたものとなる。
【0035】
次に、画像の立体的形状情報7を継承することに加えて、画像の鏡面反射情報13を継承するように、画素ごとに溝の方向3を決定する方法について説明する。
コンピュータは、法線ベクトルを算出したときと同じカメラ条件で形状データをレンダリングし、各画素における画像の鏡面反射情報13を算出する。そして、コンピュータは、立体的形状情報7を継承するように決定した方向ベクトルに対し、鏡面反射情報13に応じた変換を施す。方向ベクトルの変換は、鏡面反射情報13に応じたランダムな変位量を加減するものである。
【0036】
図8は、物体表面の反射光強度を示す図である。
Lは、光源15からの光の入射方向である。Nは、物体の表面19の法線方向である。Rは、光源15からの光の正反射方向である。Vは、視点17の方向、すなわち光の射出方向である。そして、光の入射方向Lと法線方向Nとのなす角度がβ、光の正反射方向Rと光の射出方向Vとのなす角度がγである。このとき、物体表面の反射光強度Iは、
【数1】

と表すことができる。ここで、kdは拡散反射率(拡散反射の強さ)、Iiは入射光強度、ksは鏡面反射率(鏡面反射の強さ)、nは鏡面反射の鋭さを表す。
コンピュータは、形状データをレンダリングする際、例えば、鏡面反射の鋭さn、鏡面反射率ks、鏡面反射率と拡散反射率の比率ks/kd等を鏡面反射情報13として算出する。本実施の形態では、鏡面反射の鋭さnを鏡面反射情報13とする。
【0037】
ある画素(x、y)に対し、溝の方向ベクトルを示す角度をG(x、y)とする。また、ある画素(x、y)に対し、鏡面反射の鋭さをn(x、y)とする。そして、鏡面反射の鋭さn(x、y)に応じた最大変位量をM(x、y)とする。このとき、変換後の方向ベクトルを示す角度G´(x、y)は、G´(x、y)=G(x、y)+RND×M(x、y)と表すことができる。ここで、RNDは、例えば、−1≦RND≦1の範囲の一様分布に従う乱数である。
また、M(x、y)は鏡面反射の鋭さn(x、y)で一意に定まる関数であるから、M(n)と表すこともできる。
【0038】
関数M(n)は、n(x、y)に応じてG(x、y)を変位させる度合いを制御するものである。本実施の形態では、M(n)は、完全鏡面(nが無限大)では0となり、nの減少とともに単調増加する関数とする。
【0039】
図9は、関数M(n)の一例を示す図である。
図9に示すように、関数M(n)は、M(n)=a/n(aは定数)である。従って、関数M(n)は、定数aのパラメータによって決定される。本実施の形態では、パラメータは処理を開始する前に入力し、様々な値で変換処理を行うことができる。
【0040】
尚、乱数RNDは、一様分布以外の他の分布、例えば正規分布に従うものとしても良い。どのような分布を用いるかは、印刷物1上に表現する立体像の特性等を考慮して判断する。
また、関数M(n)は、図9に示すものに限定されるものではなく、nが無限大で0に収束し、nの減少とともに単調増加するようなものであれば良い。
【0041】
このように、コンピュータは、各画素における画像の立体的形状に係る法線ベクトルの情報を継承するように算出した印刷物1上の溝の方向ベクトルに対し、鏡面反射情報13に基づく変換を施す。そして、このように決定した溝の方向ベクトルに基づいて、印刷物1上に微小な溝を形成することで、異方性反射によって見る角度、光線方向に依存した反射の変化が生じ、立体曲面が照明方向や見る方向に依存して光の反射が変化する様相を表現することができる。さらに、鏡面反射情報13に応じた方向ベクトルの変換によって、印刷物1上に表現された立体像は、鏡面反射が再現されたもの、すなわち、グロス感やマット感といった材質的な表現を認識できるものとなる。
【0042】
図1の説明に戻ると、S102の二値データ作成工程では、S101の溝方向決定工程で決定した溝の方向3を有する複数の溝を、画素ごとに互いに平行な直線として配置した二値データを作成する。
【0043】
図10は、二値データ21の一例を示す図である。
図10に示すように、二値データ21は、異方性反射部23と背景部25とを有する。異方性反射部23は、最終的に製造された印刷物1において、表面が微小な溝の集合によって形成され、異方性反射特性を有する部分である。図10の例では、はためく国旗を異方性反射部23に表現する。尚、背景部25を設けず、全てを異方性反射部23としても良い。
27は、異方性反射部23の拡大図である。27に示すように、異方性反射部23では、S101の溝方向決定工程で決定した溝の方向3を持つ複数の溝が、画素ごとに互いに平行な直線として配置されている。一方、背景部25では、溝が配置されない。尚、27では、溝を示す直線を黒として表現している。
従来の溝の形状(例えば、ヘアライン条溝等)では、CG画像に定義された立体形状の再現性が悪かった。本実施の形態では、溝の形状を画素ごとに互いに平行な直線とすることによって、複雑な立体形状も美麗に再現することができ、意匠性の高い印刷物を製造することができる。
【0044】
図11は、二値データ21における異方性反射部23の一例を示す図である。
図11に示すように、二値データ21における異方性反射部23では、画素に相当するブロック31ごとに、複数の溝が配置されている。溝の方向3は、S101の溝方向決定工程で決定したものであり、同一のブロック31内では同じ方向となる。また、ブロック31の周りには、ブロック外周マージン33が設けられている。そして、ピッチ35は、ある溝を示す直線の左端から隣の溝を示す直線の左端までの距離である。尚、ブロック外周マージン33を設けなくても、立体形状の再現性にはあまり影響がない。
【0045】
ここで、ブロック31の一辺の長さ、ブロック外周マージン33の幅、ピッチ35の大きさ、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率は、所望の異方性反射特性を有する印刷物1を製造する為に重要なパラメータとなる。本実施の形態では、例えば、ブロック31の一辺の長さが1mm、ブロック外周マージン33の幅が10μm、ピッチ35の大きさが200μmである。また、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率が、1対3(溝の横幅37が50μm、溝同士の間隔39が150μm)である。これらのパラメータ値であれば、1つのブロック31内には、5〜7本程度の溝が配置される。但し、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率は、後述する第1の印刷工程、第2の印刷工程の場合である。
CG画像を最も良く再現するためには、最終的に製造された印刷物1において溝の横幅と溝同士の間隔との比率は1対1になることが望ましいことが、発明者らが行った試験等によって分かった。しかしながら、後述する印刷工程では、二値データ21の通り溝を形成することは困難である。従って、二値データ作成工程の段階では、印刷工程を考慮して、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率を決定する必要がある。
【0046】
尚、図11では、隣接するブロック31同士の溝が接続しないように配置されている。しかしながら、これは便宜上の表現に過ぎず、溝が接続するように配置しても良い。図11に示すように、隣接するブロック31同士で接続しないように溝を形成した印刷物1の場合、肉眼で観察すると、ブロック外周マージン33を設けなくても、ブロック31の境界線がうっすらと格子状に見えることがある。一方、隣接するブロック31同士で接続するように溝を形成した印刷物1の場合、ブロック31の境界線が見えることはなく、流線的な画像を表現することができる。
【0047】
図1の説明に戻ると、S103の印刷工程では、S102の二値データ作成工程で作成した二値データ21を基に、紙基材に微小な溝を形成するとともに、紙基材に画像の絵柄を印刷する。
【0048】
図12は、第1の印刷工程を示すフローチャートである。
図12に示すように、第1の印刷工程は、エンボス箔押し加工工程(S201)、オフセット印刷工程(S202)の順に行われる。
S201のエンボス箔押し加工工程では、まず、図1のS102の二値データ作成工程で作成した二値データ21に基づいて、微小な溝を凸部とした金型を、機械彫刻やエッチング等によって成型する。そして、成型した金型を用いて、熱プレスによって紙基材に箔を転写するとともに、エンボシングし、紙基材に微小な溝を形成する。
紙基材は、白色の紙等である。箔材は、後工程のオフセット印刷工程においてインキが乗り易いように、離型材が薄膜のものを使用する。尚、箔が転写され、微小な溝が形成される部分は、前述した図10における異方性反射部23であり、背景部25は箔の転写や微小な溝の形成がなされない。
S202のオフセット印刷工程では、前工程のエンボス箔押し加工工程後の紙基材に、前述した図10における異方性反射部23、背景部25の両方を含む絵柄を4色刷り等で印刷する。また、箔上ではインキが浸透しにくいので、紫外線硬化型インキ(UVインキ)、または合成紙用インキ等を使用する。
【0049】
図13は、第1の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図である。
図13に示すように、第1の印刷工程では、紙基材41の上層に箔転写層43が形成され、箔転写層43の上層に絵柄印刷層45が形成される。また、複数の溝部51が形成される。ここで、エンボシングによって形成される溝の横幅37aは、金型の凸部の幅よりも大きくなる。これは、金型の凸部を紙基材41に押し込むことによって、溝の横幅37aがふくらむ為である。従って、S102の二値データ作成工程の段階では、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率は、溝の横幅37が溝同士の間隔39を超えない値とする必要がある。更に言うと、最終的に製造される印刷物1において溝の横幅37aと溝同士の間隔39aとの比率が1対1となるように、二値データ21で表現する溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率を決定することが望ましい。
尚、図13では、前述した図10における異方性反射部23のみを示しており、背景部25については示していない。背景部25については、箔転写層43が形成されず、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成される。
第1の印刷工程によって製造された印刷物1は、所望の異方性反射特性を有することに加えて、最上層が絵柄印刷層45によって形成されている為、画像の色彩も再現され、リアリティがあり、極めて表現性の高い印刷物1となる。
【0050】
図14は、第2の印刷工程を示すフローチャートである。
図14に示すように、第2の印刷工程は、オフセット印刷工程(S301)、エンボス箔押し加工工程(S302)の順に行われる。
S301のオフセット印刷工程では、紙基材に、前述した図10における異方性反射部23、背景部25の両方を含む絵柄を4色刷り等で印刷する。
S302のエンボス箔押し加工工程では、まず、図1のS102の二値データ作成工程で作成した二値データ21に基づいて、微小な溝を凸部とした金型を、機械彫刻やエッチング等によって成型する。そして、前工程のオフセット印刷工程後の紙基材に、成型した金型を用いて、熱プレスによって紙基材に箔を転写するとともに、エンボシングし、紙基材に微小な溝を形成する。
尚、箔が転写され、微小な溝が形成される部分は、前述した図10における異方性反射部23であり、背景部25は箔の転写や微小な溝の形成がなされない。
【0051】
図15は、第2の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図である。
図15に示すように、第2の印刷工程では、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成され、絵柄印刷層45の上層に箔転写層43が形成される。また、複数の溝部51が形成される。ここで、第1の印刷工程と同様に、エンボシングによって形成される溝の横幅37aは、金型の凸部の幅よりも大きくなるため、二値データ作成工程の段階では、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率は、溝の横幅37が溝同士の間隔39を超えない値とする必要がある。更に言うと、最終的に製造される印刷物1において溝の横幅37aと溝同士の間隔39aとの比率が1対1となるように、二値データ21で表現する溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率を決定することが望ましい。
尚、図15では、前述した図10における異方性反射部23のみを示しており、背景部25については示していない。背景部25については、箔転写層43が形成されず、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成される。
第2の印刷工程によって製造された印刷物1は、最上層が箔転写層43によって形成されている為、画像の色彩が再現されるわけではない。しかしながら、第1の印刷工程と比較すると、箔上にオフセット印刷を行うという難易度の高い工程を行わない。従って、第2の印刷工程であれば、印刷上のトラブルが発生する可能性は低く、容易に、所望の異方性反射特性を有する印刷物1を製造することができる。
【0052】
図16は、第3の印刷工程を示すフローチャートである。
図16に示すように、第3の印刷工程は、オフセット印刷工程(S401)、スクリーン印刷工程(S402)の順に行われる。
S401のオフセット印刷工程では、紙基材に、前述した図10における異方性反射部23、背景部25の両方を含む絵柄を4色刷り等で印刷する。
S402のスクリーン印刷工程では、まず、図1のS102の二値データ作成工程で作成した二値データ21に基づいて、微小な溝以外の部分が開口部となる版を作製する。そして、前工程のオフセット印刷工程後の紙基材に、作製した版の開口部から透明インキを押し出して印刷することで、紙基材に微小な溝を形成する。尚、透明インキによって印刷され、微小な溝が形成される部分は、前述した図10における異方性反射部23であり、背景部25は微小な溝が形成されない。
紙基材は、例えば、蒸着紙である。この場合、オフセット印刷は、速乾性のある紫外線硬化型インキ(UVインキ)を用いて行うと良い。また、白色の紙を用いる場合、S401のオフセット印刷工程の後、メタルインキを用いて画像の絵柄の印刷を行ってからS402のスクリーン印刷工程を行うようにしても良い。
【0053】
図17は、第3の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図である。
図17に示すように、第3の印刷工程では、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成され、絵柄印刷層45の上層に透明インキ層47が形成される。また、複数の溝部51が形成される。ここで、スクリーン印刷工程によって形成される溝同士の間隔39aは、透明インキが横にふくらむことにより、版の開口部の幅(=二値データ21の溝同士の間隔39)よりも大きくなる。従って、二値データ作成工程の段階では、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率は、溝の横幅37が溝同士の間隔39を超える値とする必要がある。更に言うと、最終的に製造される印刷物1において溝の横幅37aと溝同士の間隔39aとの比率が1対1となるように、二値データ21で表現する溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率を決定することが望ましい。
尚、図17では、前述した図10における異方性反射部23のみを示しており、背景部25については示していない。背景部25については、透明インキ層47が形成されず、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成される。
第3の印刷工程は、第1、第2の印刷工程と比較すると、スクリーン印刷の特性から、より大きなサイズの印刷物1に適用することができる。従って、第3の印刷工程であれば、所望の異方性反射特性を有する、サイズの大きい印刷物1を製造することができる。
【0054】
図18は、第4の印刷工程を示すフローチャートである。
図18に示すように、第4の印刷工程は、第1のインクジェット印刷工程(S501)、第2のインクジェット印刷工程(S502)の順に行われる。
S501の第1のインクジェット印刷工程では、紙基材に、前述した図10における異方性反射部23、背景部25の両方を含む絵柄を印刷する。
S502の第2のインクジェット印刷工程では、前工程の第1のインクジェット印刷工程後の紙基材に、図1のS102の二値データ作成工程で作成した二値データ21に基づいて、微小な溝以外の部分を画線部として透明インキで印刷することで、紙基材に微小な溝を形成する。尚、透明インキによって印刷され、微小な溝が形成される部分は、前述した図10における異方性反射部23であり、背景部25は微小な溝が形成されない。
紙基材は、例えば、蒸着紙である。この場合、速乾性のある紫外線硬化型インキ(UVインキ)を用いて行うと良い。
【0055】
図19は、第4の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図である。
図19に示すように、第4の印刷工程では、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成され、絵柄印刷層45の上層に透明インキ層47が形成される。また、複数の溝部51が形成される。ここで、第2のインクジェット印刷工程によって形成される溝同士の間隔39aは、透明インキが横にふくらむことにより、二値データ21の溝同士の間隔39よりも大きくなる。従って、二値データ作成工程の段階では、溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率は、溝の横幅37が溝同士の間隔39を超える値とする必要がある。更に言うと、最終的に製造される印刷物1において溝の横幅37aと溝同士の間隔39aとの比率が1対1となるように、二値データ21で表現する溝の横幅37と溝同士の間隔39との比率を決定することが望ましい。
尚、図19では、前述した図10における異方性反射部23のみを示しており、背景部25については示していない。背景部25については、透明インキ層47が形成されず、紙基材41の上層に絵柄印刷層45が形成される。
第4の印刷工程は、第1、第2、第3の印刷工程と比較すると、小ロットの印刷物1を製造することに適している。
【0056】
尚、本発明の実施の形態では、オフセット印刷やインクジェット印刷によって印刷される絵柄のデータについては特に言及していないが、公知の手法によって、オフセット印刷における版下データ等を作成すれば良い。但し、絵柄に陰影を付ける場合、陰影を付けすぎると異方性反射による効果が低減する場合がある為、注意が必要である。
【0057】
また、ラミネート加工を施しても異方性反射による効果はほとんど低減しないことから、印刷物1の表面強度が求められる場合、製造された印刷物1に対してラミネート加工を施すようにしても良い。
【0058】
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、印刷物1に表現する所望の画像のモデリングを行い、画像の立体的形状情報7等を継承するように、画素ごとに溝の方向3を決定する。次に、決定した溝の方向3を有する複数の溝を、画素ごとに互いに平行な直線として配置した二値データ21を作成する。そして、作成した二値データ21を基に、紙基材41に溝を形成するとともに、紙基材41に画像の絵柄を印刷することで、表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物1を製造する。
【0059】
本発明の実施の形態によって、CG画像に定義された立体形状等が美麗に再現された異方性反射特性を有する印刷物1を製造することができる。これは、特に、二値データ21で表現する溝の形状を画素ごとに互いに平行な直線としたことによるものである。更に、溝の横幅37aと溝同士の間隔39aとの比率が1対1となるように印刷物1を製造することで、CG画像の立体形状等を最も良く印刷物1に再現することができる。また、本発明の実施の形態で示したように溝の方向3を制御することによって、CG画像の立体形状に加えて、奥行き、模様、鏡面反射等を印刷物1に再現することもできる。
【0060】
尚、本発明の実施の形態による印刷物製造方法は、CG技術による異方性反射を有するコンピュータ画面上の画像生成方法とは大きく異なる。CG技術による画像生成方法は、元となる自然界の異方性反射現象、例えば、人間の髪やCDの裏面等で起こる異方性反射を、コンピュータ画面上で忠実に表現するものである。しかしながら、本発明の実施の形態による印刷物製造方法は、元のCG画像は異方性反射を有するものではなく、元のCG画像に対してライティングを変化させたときのハイライトの変化等を、異方性反射を利用して印刷物1上に表現するものである。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る印刷物製造方法等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】印刷物製造方法の流れを示すフローチャート
【図2】溝の方向3に継承する情報を示す図
【図3】投影面上の法線ベクトルの1例を示す図
【図4】法線ベクトルの法線投影面への投影を示す図
【図5】関数M(Z)の一例を示す図
【図6】ローパスフィルタリングの一例を示す図
【図7】関数n(Z)の一例を示す図
【図8】物体表面の反射光強度を示す図
【図9】関数M(n)の一例を示す図
【図10】二値データ21の一例を示す図
【図11】二値データ21における異方性反射部23の一例を示す図
【図12】第1の印刷工程を示すフローチャート
【図13】第1の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図
【図14】第2の印刷工程を示すフローチャート
【図15】第2の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図
【図16】第3の印刷工程を示すフローチャート
【図17】第3の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図
【図18】第4の印刷工程を示すフローチャート
【図19】第4の印刷工程によって製造された印刷物1の模式図
【符号の説明】
【0063】
1………印刷物
3………溝の方向
5………画像の情報
7………立体的形状情報
9………奥行き情報
11………色彩情報
13………鏡面反射情報
15………光源
17………視点
19………物体の表面
21………二値データ
23………異方性反射部
25………背景部
27………異方性反射部23の拡大図
31………ブロック
33………ブロック外周マージン
35………ピッチ
37、37a………溝の横幅
39、39a………溝同士の間隔
41………紙基材
43………箔転写層
45………絵柄印刷層
47………透明インキ層
51………溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が微小な溝の集合から形成された異方性反射特性を有する印刷物を製造する方法であって、
前記印刷物に表現する所望の画像のモデリングを行い、前記画像の立体的形状情報を継承するように、画素ごとに前記溝の方向を決定する溝方向決定工程と、
決定した前記溝の方向を有する複数の前記溝を、画素ごとに互いに平行な直線として配置した二値データを作成する二値データ作成工程と、
作成した前記二値データを基に、紙基材に前記溝を形成するとともに、前記紙基材に前記画像の絵柄を印刷する印刷工程と、
を含むことを特徴とする印刷物製造方法。
【請求項2】
前記溝方向決定工程は、前記画像の立体的形状情報を継承することに加えて、前記画像の奥行き情報、色彩情報、鏡面反射情報の少なくとも1つを継承するように、画素ごとに前記溝の方向を決定するものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷物製造方法。
【請求項3】
前記印刷工程は、
作成した前記二値データを基に成型した金型を用いて、エンボス箔押し加工を行い、紙基材に前記溝を形成するエンボス箔押し加工工程と、
前記エンボス箔押し加工工程の後、前記紙基材に前記画像の絵柄のオフセット印刷を行うオフセット印刷工程と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷物製造方法。
【請求項4】
前記印刷工程は、
紙基材に前記画像の絵柄のオフセット印刷を行うオフセット印刷工程と、
前記オフセット印刷工程の後、作成した前記二値データを基に成型した金型を用いて、エンボス箔押し加工を行い、前記紙基材に前記溝を形成するエンボス箔押し加工工程と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷物製造方法。
【請求項5】
前記印刷工程は、
紙基材に前記画像の絵柄のオフセット印刷を行うオフセット印刷工程と、
前記オフセット印刷工程の後、作成した前記二値データを基に作製した版を用いて、スクリーン印刷を行い、前記紙基材に前記溝を形成するスクリーン印刷工程と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷物製造方法。
【請求項6】
前記印刷工程は、
紙基材に前記画像の絵柄のインクジェット印刷を行う第1のインクジェット印刷工程と、
前記第1のインクジェット印刷工程の後、作成した前記二値データを基に、透明インキによるインクジェット印刷を行い、前記紙基材に前記溝を形成する第2のインクジェット印刷工程と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷物製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載された印刷物製造方法によって製造された印刷物。
【請求項8】
前記溝の横幅と前記溝同士の間隔との比率が1対1であることを特徴とする請求項7に記載の印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−12411(P2009−12411A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179301(P2007−179301)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】