説明

印刷用凹版、印刷用凹版の製造方法、電子基板の製造方法、および表示装置の製造方法

【課題】より簡便な手順で、精度良好に高解像度の転写パターンが印刷形成された印刷用凹版およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板1と、基板1上に設けられた感光性樹脂膜3とを備えた印刷用凹版10であり、感光性樹脂膜3は、開口幅W1,W2に対応して順次大きくなる深さd1,d2に形成された複数の凹パターン7-1,7-2を有している。凹パターン7のうち最大開口幅W1の凹パターンの深さd1は、凹パターン7が形成された面に押し圧されるインク層付きブランケットに対する印加圧力ρ、当該ブランケットのヤング率E、当該ブランケットの厚さt、当該ブランケットが有する定数Aから、下記式(1)に基づいて設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用凹版、印刷用凹版の製造方法、電子基板の製造方法、および表示装置の製造方法に関し、特には反転印刷法に用いる印刷用凹版、この印刷用凹版の製造方法、およびこの方法を適用して得られた印刷用凹版を用いた電子基板の製造方法、および表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の駆動基板(いわゆる背面板でありバックプレーン)などの電子基板の製造においては、導電性パターンの形成に反転印刷法を適用することにより、低コスト化および微細化を図ることが検討されている。
【0003】
反転印刷法による導電性パターンの形成は、次のように行う。先ず、図10(1)に示すように、印刷用凹版201を作製する。この印刷用凹版201は、形成する導電性パターンに対応する凹部201aを備えて形成される。また、ブランケット203の剥離性表面上に導電性インク205を塗布成膜する。次に、図10(2)に示すように、印刷用凹版201における凹部201aの形成面側に、ブランケット203の導電性インク205の形成面を密着させて押し圧する。その後、図10(3)に示すように、ブランケット203を印刷用凹版201側から引き剥がすことにより、導電性インク205を印刷用凹版201との接触面に転写する。これにより、ブランケット203の剥離性表面上に、導電性インク205の一部がインクパターン205aとして残された印刷版203aを得る。
【0004】
次いで、図10(4)に示すように、印刷版203aにおけるインクパターン205aの形成面を、表示装置用の基板207に密着させる。その後、図10(5)に示すように、印刷版203a(ブランケット203)を基板207側から引き剥がすことにより、インクパターン205aを基板207にパターン転写し、基板207上に導電性パターン205aを形成する。
【0005】
このような反転印刷法においては、図10(2)に示したように、印刷用凹版201における凹部201aの開口が大きいと、印刷用凹版201に密着させたブランケット203が撓んで凹部201aの底部にブランケット203が接触する。これにより、図10(3)に示すようにブランケット203を印刷用凹版201側から引き剥がす際、凹部201aの底部にも導電性インク205が転写され、ブランケット203に残されるインクパターン205aに欠損部Aが発生し、印刷不良を引き起こす問題が発生する。これを防止するために、凹部201aを深くすると、凹部201aが微細に形成されている部分では、パターン倒れが発生する。
【0006】
そこで、開口寸法の大きな凹部内に複数の凸部を設ける構成が提案されている。この場合、凸部の面積率を凹部に対して十分に小さくすることで、導電性パターン(インクパターン)のパターン抜けを問題ない程度にできるとしている(以上、下記特許文献1参照)。
【0007】
また別の手法として、マスクを用いたウェットエッチングと共に、サンドブラスト処理を行うことにより、印刷用凹版の溝深さを数段に変更して作製する方法が提案されている。これにより、ウェットエッチング回数を制限してオーバーハング形状の発生を防止しつつ、開口寸法の大きい凹部を選択的により深く形成することができ、上述した印刷不良が防止されるとしている(以上、下記特許文献2参照)。
【0008】
高解像度部分と低解像度部分とで異なる印刷用凹版を形成し、それぞれ異なるブランケット上にインクパターンをパターン形成し、1つの基板上に複数回のパターン転写を行う方法が提案されている(以上、下記特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2007−160769号公報
【特許文献2】特開2006−231827号公報
【特許文献3】特開2007−5445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の方法では、面積の大きな印刷パターン内に、極微細とは言えパターン抜けが発生する。このため、例えば薄膜トランジスタのゲート電極のような電界を制御する電極部分の印刷形成には適用できない。
【0011】
また特許文献2の方法では、ウェットエッチングとサンドブラスト処理とを行う必要があるため、工程が煩雑になる。またサンドブラスト処理でのパターン形成では高い解像度でのパターン形成を行うことができない。
【0012】
そして特許文献3の方法では、複数の異なる印刷用凹版を作製し、さらに複数の印刷用凹版を用いたそれぞれのパターン転写を行うととともに、さらにこれらのパターン転写において位置合わせが必要になる。このため、工程が煩雑であると共にパターンの位置精度を確保することが困難である。
【0013】
そこで本発明は、より簡便な手順で、精度良好に高解像度の転写パターンが印刷形成された印刷用凹版およびその製造方法を提供すること、さらにはこれを適用して導電性パターンを反転印刷によって形成することで、低コスト化を図ることが可能な電子基板および電子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するための本発明の印刷用凹版は、基板と、基板上に設けられた感光性樹脂膜とを備えている。この感光性樹脂膜は、開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンを有している。
【0015】
以上のような印刷用凹版では、感光性樹脂膜に凹パターンを形成した構成である。このため、開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンは、リソグラフィー処理においての現像を、全ての凹パターン部分で感光性樹脂膜を貫通することのない条件で行うことで形成されたパターンとなり、1回のリソグラフィーによって得ることができる。そして、開口幅が大きい凹パターンほど大きい深さを有している。このため、微細なパターン部分の深さを浅く保ってパターン倒れを防止しつつも、広い開口幅の凹パターンを深く保って凹パターンの形成面に押し圧されるフランケットが凹パターンの底部に接触することを防止できる。
【0016】
また本発明の印刷用凹版は、開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンを有している。そしてこれらの凹パターンのうち最大開口幅W1の凹パターンの深さd1は、下記式(1)に基づいて設定されていることを特徴とする。
【0017】
【数4】

尚、式(1)中、ρは、凹パターンが形成された面に押し圧されるインク層付きブランケットに対する印加圧力である。Eは、ブランケットのヤング率である。tは、ブランケットの厚さである。Aは、ブランケットが有する定数である。
【0018】
このような印刷用凹版では、最大開口幅W1の凹パターンの深さd1が、凹パターンの形成面に押し圧されるフランケットの撓み量と歪み量との合計よりも大きい値となっている。このため、凹パターンの形成面に押し圧されるブランケットが、各開口幅で形成された凹パターンの底部に接触することが防止される。また、微細な凹パターン部分では、その深さが浅く保たれてパターン倒れが防止される。
【0019】
また本発明はこのような印刷用凹版の製造方法でもあり、次の工程を行う。先ず、基板上に感光性樹脂膜を塗布成膜する。次に、感光性樹脂膜に対して複数の凹パターンを形成するためのパターン露光を行う。その後、各凹パターンの開口幅に対応して順次大きくなる深さに当該凹パターンが形成される条件で、感光性樹脂膜を現像処理する。
【0020】
このような製造方法においては、現像条件の設定によって、1回のリソグラフィーにより、開口幅が大きい凹パターンほど大きい深さを有する凹パターンを形成することができる。
【0021】
さらに本発明の電子基板の製造方法は、以上のような製造方法を適用して得られた印刷用凹版を用いた反転印刷法によって、装置基板上に導電性パターンを印刷形成する方法である。またさらに本発明の表示装置の製造方法は、以上のような製造方法を適用して得られた印刷用凹版を用いた反転印刷法によって、装置基板上に画素電極を含む導電性パターンを印刷形成する方法である。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、1回のリソグラフィー処理によって、パターン倒れを防止できかつ凹パターン底面へのブランケットの接触を防止できる印刷用凹版を作製することが可能である。この結果、より簡便な手順で、精度良好に高解像度の転写パターンを印刷形成することが可能であり、この印刷方法を適用してパターン精度良好な電子基板や表示装置を低コストで作製することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の各実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0024】
<印刷用凹版の製造方法−1>
図1は、本発明の印刷用凹版の作製方法の第1例を示す断面工程図であり、以下この図に基づいて反転印刷法に用いる印刷用凹版の製造方法の実施形態を説明する。
【0025】
先ず図1(1)に示すように、ガラス等ならなる基板1上に、ネガ型の感光性樹脂膜3を塗布成膜する。この場合、感光性樹脂膜3の膜厚Tが、この感光性樹脂膜3に形成される凹パターンのうち最大開口幅W1の凹パターンの深さd1以上となるように、感光性樹脂膜3を塗布性膜することが重要である。尚、最大開口幅W1の凹パターンの深さd1については、以降に説明する。
【0026】
次に図1(2)に示すように、感光性樹脂膜3に対してパターン露光を行う。この際、感光性樹脂膜3に対する凹パターンの形成部には露光光hを照射せず、凹パターンの形成部以外の部分に選択的に露光光hを照射する。そして、露光光hの照射部においては、感光性樹脂膜3の深さ方向の全域において、感光性樹脂の光重合が十分に進んで硬化するように露光条件を設定する。またこのようなパターン露光は、例えば露光光hが透過する開口窓5aが設けられた露光マスク5を用いて行われるか、または露光マスク5を用いない直接描画によって行っても良い。
【0027】
次に、図1(3)に示すように、パターン露光後の感光性樹脂膜3に対して現像処理を行うことにより、感光性樹脂膜3の未露光部を現像液に溶解させて凹パターン7を形成する。この際、凹パターン7のうち、最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1が所定の設計値Dを超える値となり、かつ複数の各凹パターン7がその開口幅に対応して順次深さが大きくなるように、感光性樹脂膜3の現像処理を行うことが重要である。このような現像処理を行うためには、未露光部のネガ型フォトレジストの現像液に対する溶解性の違いを利用する。そして最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1>設計値Dとなる以上で、かつ微細な凹パターン7-2内においては現像処理が完了せずに底部に感光性樹脂膜が残される範囲で現像を行う。
【0028】
ここで最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1を規定する上記設定値Dは、作製した印刷用凹版を用いた反転印刷法において使用するブランケットの特性によって、次のように決められる。
【0029】
すなわち、図2に示すように、反転印刷法においては、インク層を備えたブランケット11が印刷用凹版における凹パターン形成面に押し圧される。このため先ず、構造体Rにおける所定幅Wの開口を塞ぐように設けられたブランケット11を、構造体Rに対して印刷時と同程度の印加圧力ρで押し圧した時の、ブランケット11の歪による[圧縮量ΔL]とブランケット11の[撓み変形量V]とを合計した値を、[設定値D]と定義する。つまり[設定値D]=[撓み変形量V]+[圧縮量ΔL]である。
【0030】
ここで、[撓み変形量V]=[ブランケットが有する定数A]×[印加圧力ρ]×[開口幅W4]である。ただし、定数A[100Pa-1×m-4]は、ブランケット毎に異なる値になるため、予め開口幅Wを変えた構造体Rへの押し圧する予備試験を行うことにより、求めておくことが好ましい。
【0031】
また、[圧縮量ΔL]は、フックの法則より[圧縮量ΔL]=[ブランケットの厚みt]×[印加応力ρ]/[ブランケットのヤング率E]となる。
【0032】
したがって、[設定値D]=[A×ρ×W4]+[t×ρ/E]となる。
【0033】
以上より、図1(3)に戻り、最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1が、下記式(1)を満たすように感光性樹脂膜3の現像処理を行う。
【0034】
【数5】

【0035】
またここでの現像処理のもう1つの条件として、上述したように複数の凹パターン7がその開口幅に対応して順次深さが大きくなるように、つまり未露光部の全てが現像除去されることのない範囲で現像処理を停止することが重要である。このような現像処理を行うためには、ネガ型フォトレジストの現像液に対する溶解性の違いを利用する。そして、最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1>設計値Dとなる以上で、かつ未露光部における微細な凹パターン7-2内においては現像処理が完了せずに底部に感光性樹脂膜が残される範囲で現像を行う。これにより、複数の凹パターン7がその開口幅に対応して順次深さが大きくなるように形成されるのである。またこの際、各開口幅W1,W2の凹パターン7が、アスペクト比1:1程度かこれよりも浅くなる範囲で現像処理を行うことが好ましい。
【0036】
以上の後には、図1(4)に示すように、複数の凹パターン7が形成された感光性樹脂膜3を乾燥処理し、再び全面露光を行うことによって未露光部を硬化させる。その後さらにベイク処理を行うことにより感光性樹脂膜3を密着硬化させる。
【0037】
以上のようにして得られた印刷用凹版10は、開口幅W1,W2に対応して順次大きくなる深さd1,d2に形成された複数の凹パターン7が感光性樹脂膜3に設けられたものとなる。
【0038】
以上説明した第1例の印刷用凹版の製造方法では、現像条件の設定によって1回のリソグラフィーで、開口幅が大きい凹パターンほど大きい深さを有する凹パターンを形成することが可能になる。これにより、1回のリソグラフィー処理によって、パターン倒れを防止できかつ凹パターン7底面へのブランケットの接触を防止できる印刷用凹版10を作製することが可能であり、より簡便な工程手順によって、大面積パターンと微細パターンとを両立させた印刷用凹版10を得ることができる。しかも、リソグラフィーによる凹パターン7の形成であるため、形状精度良好に凹パターンを得ることができる。
【0039】
<印刷用凹版の製造方法−2>
図3は、本発明の印刷用凹版の作製方法の第2例を示す断面工程図であり、以下この図に基づいて反転印刷法に用いる印刷用凹版の製造方法の実施形態を説明する。この図に示す印刷用凹版の製造方法は、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた例である。
【0040】
先ず図3(1)に示すように、ガラス等ならなる基板1上に、ポジ型の感光性樹脂膜3’を塗布成膜する。この場合、第1例と同様に、感光性樹脂膜3’は、この感光性樹脂膜3’に形成される凹パターンのうち、最大開口幅W1の凹パターンの深さd1以上の膜厚Tで塗布性膜されることが重要である。
【0041】
次に図3(2)に示すように、感光性樹脂膜3’に対してパターン露光を行う。この際、第1例とは異なり、感光性樹脂膜3’に対する凹パターンの形成部に対して選択的に露光光hを照射し、凹パターンの形成部以外の部分には露光光hを照射しない。そして、感光性樹脂膜3’の深さ方向の全域において、露光光hの照射部において感光性樹脂の光分解が十分に進むように露光条件を設定する。またこのようなパターン露光は、例えば露光光hが透過する開口窓5aが設けられた露光マスク5を用いて行われるか、または露光マスク5を用いない直接描画によって行うことは第1例と同様である。
【0042】
次に、図3(3)に示すように、パターン露光後の感光性樹脂膜3’に対して現像処理を行うことにより、感光性樹脂膜3’の未露光部を現像液に溶解させて凹パターン7を形成する。この際、第1例と同様に、凹パターン7のうち、最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1が所定の設計値Dを超える値となり、かつ複数の凹パターン7がその開口幅に対応して順次深さが大きくなるように、感光性樹脂膜3’の現像処理を行うことが重要である。このような現像処理を行うためには、パターン露光後のポジ型フォトレジストの現像液に対する溶解性の違いを利用する。そして最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1>設計値Dとなる以上で、かつ微細な凹パターン7-2内においては現像処理が完了せずに底部に感光性樹脂膜が残される範囲で現像を行う。
【0043】
ここで最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1を規定する上記設定値Dは、第1例で図2を用いて説明したと同様決められる。そして、第1例と同様に、最大開口幅W1の凹パターン7-1の深さd1が、下記式(1)を満たすように感光性樹脂膜3’の現像処理を行う。
【0044】
【数6】

【0045】
また第1例と同様に、ここでの現像処理のもう1つの条件として、上述したように複数の凹パターン7がその開口幅に対応して順次深さが大きくなるように、つまり露光部の全てが現像除去されることのない範囲で現像処理を停止することが重要である。露光部の全てが現像除去されることのない範囲での現像処理であれば、凹パターン7の開口幅に応じて、開口幅が大きいほどより深く現像が進む。このため、複数の凹パターン7がその開口幅に対応して順次深さが大きくなるように形成されるのである。
【0046】
以上の後には、図3(4)に示すように、複数の凹パターン7が形成された感光性樹脂膜3’を乾燥処理し、ベイク処理を行うことにより感光性樹脂膜3’を密着硬化させる。
【0047】
以上のようにして得られた印刷用凹版10は、開口幅W1,W2に対応して順次大きくなる深さd1,d2に形成された複数の凹パターン7が感光性樹脂膜3’に設けられたものとなる。
【0048】
以上説明した第2例の印刷用凹版の製造方法であっても、現像条件の設定によって1回のリソグラフィーで、開口幅が大きい凹パターンほど大きい深さを有する凹パターンを形成することが可能になる。これにより、1回のリソグラフィー処理によって、パターン倒れを防止できかつ凹パターン7底面へのブランケットの接触を防止できる印刷用凹版10を作製することが可能であり、より簡便な工程手順によって、大面積パターンと微細パターンとを両立させた印刷用凹版10を得ることができる。しかも、リソグラフィーによる凹パターン7の形成であるため、形状精度良好に凹パターンを得ることができる。
【0049】
尚、以上の第1例および第2例においては、平板状の印刷用凹版10の作製を例示したが、円筒形(ロール状)の印刷用凹板についても同様に作製可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0050】
<電子基板の製造方法>
次に、上述した製造方法によって得られた印刷用凹版10を用いて電子基板を製造する方法を説明する。ここでは電子基板の一例として、図4(a)の回路図および図4(b)の画素部平面図に示すような液晶表示装置の駆動基板(いわゆるバックプレーン)の製造方法を説明する。
【0051】
先ず、電子基板20の構成を説明する。ここで作製する電子基板20の基材と基板(以下、装置基板と記す)21には、表示領域21Aとその周辺領域21Bとが設定されている。表示領域21Aには、複数の走査線23と複数の信号線24とが縦横に配線されており、それぞれの交差部に対応して1つの画素aが設けられた画素アレイ部として構成されている。また、表示領域21Aには、複数の共通配線25が走査線23と平行に配線されている。一方、周辺領域21Bには、走査線23を走査駆動する走査線駆動回路26と、輝度情報に応じた映像信号(すなわち入力信号)を信号線24に供給する信号線駆動回路27とが配置されている。
【0052】
各画素aには、例えばスイッチング素子としての薄膜トランジスタTrおよび保持容量Csからなる画素回路が設けられ、さらにこの画素回路に接続された画素電極29が設けられている。また保持容量Csは、共通配線25から延設された下部電極25c−画素電極29間で構成される。薄膜トランジスタTrは、走査線23から延設されたゲート電極23gと、信号線24から延設されたソース24sと、画素電極29から延設されたドレイン29dとを備えており、さらにソース24s−ドレイン29d間にわたる半導体層33を備えている。
【0053】
そして、薄膜トランジスタTrを介して信号線24から書き込まれた映像信号が保持容量Csに保持され、保持された信号量に応じた電圧が画素電極29に供給される構成となっている。
【0054】
また以上のような回路が形成された装置基板21上には、ここでの図示を省略した分離絶縁膜および配向膜が設けられている。
【0055】
以上のような構成の電子基板20を作製する手順は、次のようである。
【0056】
先ず、図5(1)に示すように、上述した第1例または第2例の手順によって、印刷用凹版10を作製する。この印刷用凹版10は、大面積の画素電極と、この画素電極と同一層で構成される微細な配線および電極部分とを形成するためのものである。したがって、大面積の画素電極に対応する部分に、最大開口幅W1で最大深さd1の凹パターン7-1が形成されている。また、他の微細な配線および電極に対応する部分に、小さい開口幅W2<W1で、浅い深さd2<d1の凹パターン7-2が形成されたものとする。
【0057】
そして、作製した印刷用凹版10における凹パターン7の形成面側に、ブランケット11を対向配置する。このブランケット11は、深さ剥離性表面を有する平版材であり、剥離性表面側に導電性インク層13が塗布性膜されている。そしてこの導電性インク層13と凹パターン7とが対向するように、印刷用凹版10とブランケット11とを対向配置させる。尚、このブランケット11は、最大開口幅W1の凹パターン7-1における深さd1を決めるための設定値Dを算出するための予備実験で用いたと同様のものであることとする。
【0058】
次に、図5(2)に示すように、印刷用凹版10における凹パターン7の形成面側に、ブランケット11を印加圧力ρで押し圧する。この際のこれにより、印刷用凹版10に接触する導電性インク層13部分を印刷用凹版10側に転写させる。この際、ブランケット11上のインク層13が、凹パターン7の底面に接触することはない。
【0059】
その後、図5(3)に示すように、印刷用凹版10からブランケット11を引き剥がす。これにより、印刷用凹版10側への転写によってブランケット11側から一部が除去された導電性インク層13部分を、インクパターン13aとしてブランケット11上に形成し、印刷版を得る。このインクパターン13aは、大面積パターン部分がゲート電極形成部となり、微細パターン部分がソース/ドレインおよび信号線の形成部となる。
【0060】
一方、以上のような印刷版の形成とは別工程で、先の図4に示したように、電子基板20を作製する装置基板21上に画素駆動回路の一部を形成する。この場合、図4(b)の平面図におけるA−A’断面に対応する図6(1)に示すように、装置基板21上に、走査線とこれに接続されたゲート電極23g、共通配線およびこれに接続された下部電極25cを形成する。これらの配線および電極の形成は、例えば印刷法によって行う。次に、これらの配線および電極を覆う状態でゲート絶縁膜31を成膜する。
【0061】
次に、図6(2)に示すように、装置基板21におけるゲート絶縁膜31の形成面側に、先に説明した手順で作製したインクパターン13aが形成されたブランケット11(印刷版)を対向配置する。この際、ゲート絶縁膜31とインクパターン13aとを対向させる。また、装置基板21上の下部電極25cに対して大面積パターン部分(ゲート電極形成部)を対向させ、ゲート電極23gに対して微細パターン部分(ソース/ドレインおよび信号線形成部)を対向配置させる。
【0062】
この状態で、図6(3)に示すように、装置基板21側のゲート絶縁膜31に対して、ブランケット11を押し圧する。
【0063】
次いで、図6(4)に示すように、装置基板21側からブランケット11を引き剥がす。これにより、ブランケット11側のインクパターン13aをゲート絶縁膜31上に転写形成し、インクパターン13aを転写してなる大面積の画素電極29、微細なドレイン29d、信号線24、およびソース24sを形成する。
【0064】
その後、図6(5)に示すように、ソース24sおよびドレイン29d間にわたる半導体層33を、ゲート電極23g上に積層されるようにパターン形成する。このような半導体層33の形成は、例えば印刷法によって行う。
【0065】
次に、図6(6)に示すように、画素電極29の周縁と半導体層33とを覆う形状の分離絶縁膜35を形成し、この分離絶縁膜35の開口窓35aの底部に画素電極29を広く露出させる。そして、分離絶縁膜35および画素電極29上を覆う状態で、装置基板21の上方に配向膜37を形成する。
【0066】
以上により、駆動基板(電子基板)20を完成させる。
【0067】
<表示装置の製造方法>
次に、以上のようにして作製した駆動基板(電子基板)20を用いた液晶表示装置の製造方法を説明する。
【0068】
先ず、図7に示すように、駆動基板20に対向配置させる対向基板41を用意し、この一主面側に共通電極43および配向膜45をこの順に形成する。尚、対向基板41側における共通電極43の下部には、ここでの図示を省略したカラーフィルタや位相差層等、必要に応じた部材が設けられることとする。
【0069】
次に、配向膜37−45同士を向かい合わせ、ここでの図示を省略したスペーサを挟持させた状態で駆動基板20と対向基板41とを対向配置し、基板20−41間に液晶相LCを充填して周囲を封止することで、液晶表示装置50を完成させる。
【0070】
以上のような電子基板20の製造方法、およびこれに続けて行われる表示装置の製造方法によれば、図5および図6を用いて説明したように、1回のリソグラフィー処理によって、パターン倒れを防止できかつ凹パターン底面へのブランケットの接触を防止できる印刷用凹版10を用いた反転印刷法によって、大面積の画素電極29や微細な電極および配線パターンを印刷形成することができる。この結果、より簡便な手順で、パターン精度良好に導電性パターンを形成でき、電子基板20や表示装置50を低コストで作製することが可能になる。
【0071】
尚、上述した実施形態においては、電子基板の製造方法および表示装置の製造方法を液晶表示装置の製造に適用した構成を説明した。しかしながら、本発明の表示装置の製造方法は、液晶表示装置の製造に限定されるものではなく、大面積の導電性パターン(例えば画素電極)と微細な導電性パターン(配線等)が同一層に混在して形成される表示装置の製造に好適である。このような例としてアクティブマトリックス型の表示装置を例示でき、具体的には有機電界発光素子を用いた表示装置の製造に好適である。さらに本発明の電子基板の製造方法は、表示装置の駆動基板に限定されることはなく、大面積の導電性パターンと微細な導電性パターンが同一層に混在して形成される電子基板の製造に好適であり、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0072】
図面を参照して実施例を説明する。
【0073】
<実施例>
先ず図1(1)に示すように、ガラス基板1上にネガ型レジスト(SU8:マイクロケム社製商品名)を塗布し3.3μmの厚さTの感光性樹脂膜3を成膜した。次に、図1(2)に示すように、フォトマスク5を用いたパターン露光を行った。次いで、図1(3)に示すように、各開口幅W1,W2でそれぞれの深さd1,d2となるように現像液で現像を行った。その後、図1(4)に示すように、乾燥処理を行い、再び全面露光を行い、さらにベイク処理を施して感光性樹脂膜を密着硬化させ、印刷用凹版10を作製した。
【0074】
印刷用凹版10の作製条件は次のようである。
凹パターンの最大開口幅W1=200μm、
凹パターンの最大深さd1=3.3μm
印加圧力(最大)ρ=20kPaE
ブランケットのヤング率=3MPa、
ブランケットの厚さt=200μm、
ブランケットの定数A=100Pa×m-4
【0075】
以上から、最大開口幅W1の深さd1=3.3μm>設定値D=[A×ρ×W14]+[t×ρ/E]≒1.3であって、実施形態で示した範囲となった。
【0076】
次に、図5(1)に示すように、膜厚t=200nmのPDMSブランケット(Eブランケット=3Mpa)を用い、この剥離性表面上にAgコロイドインクのインク層13を成膜した。これを図5(2)に示すように、印刷用凹版10に対して印加圧力ρ=20kPaで押し圧した。次に、図5(3)に示すように、印刷用凹版10からブランケット11を引き剥がしてインクパターン13aを形成した。このブランケット11を、基板上に押し圧して(圧力条件=20kPa)反転印刷を行い、基板上にAgペーストの導電性パターンを形成した。その後、Agペーストを焼結させ最大開口幅W1=200μmの大面積パターンと、開口幅W2=1μmの微細パターンを得た。
【0077】
図8には、以上の実施例における各部の顕微鏡写真を示す。図8(a)−1は、大面積パターンに対応する印刷用凹版部分である。図8(a)−2は、形成された大面積パターンである。図8(b)−1は、微細パターンに対応する印刷用凹版部分である。図8(b)−2は、形成された微細パターンである。
【0078】
ここに示されるように、大面積パターンにはパターン抜けがなく、また微細パターンにもパターン倒れによる影響がなく、形状精度良好に反転印刷法によるパターン形成が行われることが確認された。
【0079】
<比較例>
ガラス基板1上の感光性樹脂膜3を膜厚T=1.2μmで成膜下こと以外は、実施例と同様の手順で印刷を行った。この場合、最大開口幅W1の深さd1=1.2μm<設定値D=[A×ρ×W14]+[t×ρ/E]≒1.3となり、実施形態で示した範囲を外れた。
【0080】
図9には、以上の比較例で印刷形成された印刷パターンの顕微鏡写真を示す。ここで示されるように、大面積パターン部分は、中央部で広くパターン抜けが発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の印刷用凹版の作製方法の第1例を示す断面工程図である。
【図2】ブランケットの変位量の算出を説明する図である。
【図3】本発明の印刷用凹版の作製方法の第2例を示す断面工程図である。
【図4】電子基板として作製する液晶表示装置の駆動基板の構成を説明する図である。
【図5】作製した印刷用凹版を用いた電子基板の製造方法を説明する断面工程図(その1)である。
【図6】作製した印刷用凹版を用いた電子基板の製造方法を説明する断面工程図(その2)である。
【図7】作製した電子基板を用いた表示装置の製造方法を説明する断面図である。
【図8】実施例での製造過程による各部の顕微鏡写真である。
【図9】比較例で作製した印刷パターンの顕微鏡写真である。
【図10】従来技術と課題を説明する断面工程図である。
【符号の説明】
【0082】
1…基板、3…感光性樹脂膜(ネガ型)、3’…感光性樹脂膜(ポジ型)、7…凹パターン、7-1…最大開口幅の凹パターン、10…印刷用凹版、11…ブランケット、13…導電性インク層(インク層)、13a…インクパターン、20…電子基板(駆動基板)、24…信号線(導電性パターン)、24s…ソース(導電性パターン)、29…画素電極(導電性パターン)、29d…ドレイン(導電性パターン)、50…表示装置、A…定数(ブランケット)、d1,d2…深さ、E…ヤング率(ブランケット)、t…厚さ(ブランケット)、W1,W2…開口幅、W1…最大開口幅、ρ…印加圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンを有して前記基板上に設けられた感光性樹脂膜と
を備えた印刷用凹版。
【請求項2】
前記凹パターンのうち最大開口幅W1の凹パターンの深さd1は、当該凹パターンが形成された面に押し圧されるインク層付きブランケットに対する印加圧力ρ、当該ブランケットのヤング率E、当該ブランケットの厚さt、当該ブランケットが有する定数Aから、下記式(1)に基づいて設定されている
請求項1記載の印刷用凹版。
【数1】

【請求項3】
前記定数Aは、予備実験に基づいて算出される
請求項2記載の印刷用凹版。
【請求項4】
開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンを有し、当該凹パターンのうち最大開口幅W1の凹パターンの深さd1は、当該凹パターンが形成された面に押し圧されるインク層付きブランケットに対する印加圧力ρ、当該ブランケットのヤング率E、当該ブランケットの厚さt、当該ブランケットが有する定数Aから、下記式(1)に基づいて設定されている
印刷用凹版。
【数2】

【請求項5】
前記定数Aは、予備実験に基づいて算出される
請求項4記載の印刷用凹版。
【請求項6】
基板上に感光性樹脂膜を塗布成膜する工程と、
前記感光性樹脂膜に対して複数の凹パターンを形成するためのパターン露光を行う工程と、
前記各凹パターンの開口幅に対応して順次大きくなる深さに当該凹パターンが形成される条件で前記感光性樹脂膜を現像処理する工程と、
を行う印刷用凹版の製造方法。
【請求項7】
前記凹パターンのうち最大開口幅W1の凹パターンの深さd1を、当該凹パターンが形成された面に押し圧されるインク層付きブランケットに対する印加圧力ρ、当該ブランケットのヤング率E、当該ブランケットの厚さt、当該ブランケットが有する定数Aから、下記式(1)に基づいて設定する
請求項6記載の印刷用凹版の製造方法。
【数3】

【請求項8】
前記感光性樹脂膜を塗布成膜する工程の前に、
前記定数Aを、予備実験に基づいて算出する工程を行う
請求項7記載の印刷用凹版の製造方法。
【請求項9】
開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンを有する感光性樹脂膜を基板上に設けてなる印刷用凹版を作製する工程と、
前記印刷用凹版における凹パターンの形成面に、導電性インク層を対向配置した状態で当該インク層を有するブランケットを押し圧して引き剥がすことにより、前記ブランケット側にインク層を残してインクパターンを形成する工程と、
前記ブランケット側のインクパターンを装置基板上に転写して導電性パターンを形成する工程と、
を行う電子基板の製造方法。
【請求項10】
開口幅に対応して順次大きくなる深さに形成された複数の凹パターンを有する感光性樹脂膜を基板上に設けてなる印刷用凹版を作製する工程と、
前記印刷用凹版における凹パターンの形成面に、導電性インク層を対向配置した状態で当該インク層を有するブランケットを押し圧して引き剥がすことにより、前記ブランケット側にインク層を残してインクパターンを形成する工程と、
前記ブランケット側のインクパターンを装置基板上に転写して画素電極を含む導電性パターンを形成する工程と、
を行う表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−274299(P2009−274299A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126823(P2008−126823)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】