説明

印刷用塗工原紙及び塗工紙の製造方法

【課題】本発明の課題は、ギャップフォーマ型抄紙機を用いて、紙料の脱水性が良好で、得られる塗工原紙の層間強度が十分に高く、かつ地合が良好である印刷用塗工原紙および印刷用塗工紙の製造方法を提供することである
【解決手段】本発明により、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いて、中性抄紙法により抄紙速度が1300m/分以上で印刷用塗工原紙を製造する方法であって、紙力向上剤として、対紙料パルプ当たり0.10〜2.0重量%の両イオン性澱粉を添加し、フィルムメタリングタイプのサイズプレス装置を用いて、接着剤を主成分とする固形分濃度が2〜14重量%の水溶液を塗工することを特徴とする、印刷用塗工原紙の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用塗工原紙及び塗工紙の製造方法に関する。特に本発明は、ギャップフォーマ型抄紙機を用いて中性抄紙法により高速で製造する塗工原紙、および、その塗工原紙から得られる塗工紙、ならびに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抄紙機の改良および開発が進んでおり、生産性の高さから抄紙機の高速化・広幅化の傾向が顕著である。また、製紙用塗工機については、近年、抄紙と塗工を一貫して行うことができるオンマシンコータが広く普及している。
【0003】
特に抄紙機のワイヤパートに関しては、その脱水能力の向上という観点から、長網型フォーマからオントップ型のツインワイヤフォーマ、更にギャップフォーマへと移行してきた。ギャップフォーマ型抄紙機(ワイヤパートがギャップフォーマである抄紙機)では、ヘッドボックスから噴出された原料ジェットをすぐに2枚のワイヤで挟み込むため、原料ジェット表面の乱れが少なく表面性が良好である。また、ギャップフォーマ型抄紙機では、紙層の両側から脱水し、かつその脱水量を調整しやすいことから、長網型やオントップ型といった従来のフォーマ型式に比べて表裏差が小さいという利点がある。
【0004】
一方、ギャップフォーマ型抄紙機では、紙料濃度がごく薄い段階で紙層の両側から急激に脱水するため、紙層中の微細繊維や填料が表層部へと局在し、紙の中層部の微細繊維量が減少し、それによって、層間強度が著しく低下したり、抄紙工程におけるワイヤ上の紙料及び灰分の歩留まりが著しく低下するという課題がある。
【0005】
そのため、ギャップフォーマ型抄紙機で製造された印刷用塗工紙においては、原紙の層間強度が小さいために、オフセット印刷後の加熱乾燥で蒸発した塗工原紙中の水分が塗工層を通気する際に紙層間で剥離が生じ、塗工層が膨れる現象(ブリスター現象)が発生し、そのため印刷面が荒れるなど、品質上の重大な問題が発生することがある。
【0006】
印刷用塗工紙のブリスターを改善するための方法として、例えば印刷用塗工紙の塗工原紙の層間強度を高くする方法がある。一般に、層間強度を向上させるために、ソフト面(原料処方)からは、抄紙工程においてポリアクリルアミドやカチオン化澱粉等の紙力向上剤を添加する方法が用いられる。しかしながら、ポリアクリルアミドを添加する方法の場合、十分な効果を得るまで添加すると、高価なポリアクリルアミドではコストアップとなり、また凝集性が強いことから地合を悪化させて印刷品質の低下を招くこととなる。一方、カチオン化澱粉を添加する方法の場合、ポリアクリルアミドに比べて多くの添加量を必要とすることから、抄紙原料中の繊維や填料などの表面電荷が、等電点付近からカチオン性になる傾向にあり、従来のカチオン性歩留り薬品の効果が得られなくことがある。すなわち、従来のカチオン性歩留り薬品は、アニオン性の表面電荷を持つ微細繊維や填料を同じくアニオン性の繊維に効率良く定着させるためものであるため、カチオン化澱粉を多く含む系に従来のカチオン性歩留り薬品を添加すると、電気的反発を生じ、かえって微細繊維や灰分の歩留りが低下し、結果として断紙などの操業性のトラブルが起き易くなる。
【0007】
また、内添の紙力向上剤の添加に加えて、外添の紙力向上剤を塗布することにより層間強度を向上させる方法も提案されている(特許文献1参照)。しかし、ギャップフォーマ型抄紙機で抄造した原紙では、紙表層に微細繊維が局在して緻密な層となっているため、紙力向上剤が原紙内部にまで浸透せず、十分な効果を得ることは難しい。
【特許文献1】特許第3744115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ギャップフォーマ型抄紙機を用いて印刷用塗工原紙を抄造する際、塗工原紙の層間強度の低下や、それに起因する塗工紙の耐ブリスターの低下という問題があった。特に、紙中填料率が高く、高速条件で抄造する場合、濾水性が低下するため、乾燥付加の増加ならびにプレスでの湿紙の圧縮性低下によって紙の層間強度が著しく低下する問題があった。そして、このような問題に対し、紙力向上剤を添加することが提案されてきたものの、単に紙力向上剤を添加しただけでは、紙力向上剤の凝集性によって紙の地合が悪化するという問題が生じる。
【0009】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、ギャップフォーマ型抄紙機を用いて印刷用塗工原紙を製造する方法であって、紙料の脱水性が良好で、得られる塗工原紙の層間強度が十分に高く、かつ地合が良好である印刷用塗工原紙および印刷用塗工紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究した結果、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いて中性抄紙法により印刷用塗工原紙および印刷用塗工紙を抄造する方法において、紙力向上剤として特定量の両イオン性澱粉を紙料に添加し、さらにその原紙にフィルムメタリングタイプのサイズプレス装置により接着剤を主成分とする水溶液を塗工することによって、濾水性や地合を良好に維持しつつ高い層間強度を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、原紙の原料に添加する紙力向上剤として一定量の両イオン性の澱粉を使用し、得られた原紙にフィルムメタリングタイプのサイズプレス装置で接着剤を塗布して印刷用塗工原紙を抄造することにより上記課題を解決でき、この方法は、特にオンマシンコータを備えたギャップフォーマ型抄紙機を用いて印刷用塗工紙を製造する工程でより有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明を実施することにより、抄紙系内の電荷バランスを良好に維持し、高い紙料歩留りと灰分歩留りを維持しながら、比較的良好な濾水性と高い層間強度を得ることができる。特に抄紙速度が速く、紙中填料率が高い印刷用塗工原紙及び塗工紙の製造に本発明を適用すると発明の効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1つの態様において、本発明は、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いて、中性抄紙法により抄紙速度が1300m/分以上で印刷用塗工原紙または印刷用塗工紙を製造する方法であり、紙力向上剤として、対紙料パルプ当たり0.10〜2.0重量%の両イオン性澱粉を添加し、さらに、フィルムメタリングタイプのサイズプレス装置を用いて、接着剤を主成分とする固形分濃度が2〜14重量%の水溶液を塗工することを特徴とする。
【0014】
本発明は、高速のギャップフォーマ型抄紙機を用いる製造方法であり、特に、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いる。ロールアンドブレード形式のギャップフォーマでは、最初の脱水はバキュームを有したフォーミングロールのラップエリアで行われ、その直後に加圧ブレードモジュールによるブレード脱水が行われる。この機構より従来のフォーマよりも緩慢な脱水が可能となるため、より均一な紙層構造や地合を有した紙が得られる。この時に使用されるフォーミングロールはその径が小さいと十分な抱き角度を得ることができず脱水の調整が不十分となるため、フォーミングロール径は1500mm以上が望ましい。さらに、加圧式の脱水ブレードによるパルス力で湿紙層にマイクロタービュランスを与えて繊維の分散を促進することで、紙層中の微細繊維や填料の分布を均一化できるようになってきている。フォーミングロールやブレードによる脱水機構に加えて、その後段にサクションユニットやハイバキュームサクションボックスなどの脱水装置を適宜用いることでドライネスの調整を行うことができる。
【0015】
さらに、本発明は、オンマシンコータを備えたギャップフォーマ型抄紙機を用いて印刷用塗工紙を製造する工程で特に有効である。また、本発明は、紙中填料率が高い場合に好ましく適用することができる。紙中填料率が高いほど、層間強度は低くなり、抄速が高速であるほど、原料および薬品の歩留まりが低下し、薬品の効果が低下するが、本発明はこれらの課題に対し有効である。
【0016】
本発明でいう高速とは1300m/分以上であり、好ましくは1500m/分以上である。本発明を適用して得られる効果は1600m/分以上でより顕著となり、例えば、2500m/分程度での操業に適用することも可能である。
【0017】
塗工原紙
本発明で製造される印刷用塗工原紙のパルプ原料としては、特に限定されるものではなく、機械パルプ(MP)、脱墨パルプ(DIP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)など、印刷用紙の抄紙原料として一般的に使用されているものであればよく、適宜、これらの1種類または2種類以上を配合して使用される。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、アルカリ過酸化水素メカニカルパルプ(APMP)、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)などが挙げられる。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙を原料とする脱墨パルプであれば良く、特に限定はない。本発明においては、脱墨パルプを対パルプ20重量%以上、更には30重量以上配合しても、良好な地合を維持したままで、層間強度を向上する効果を発揮することができる。強度の点から脱墨パルプの配合量は、80重量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、公知の填料を使用することができる。例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱産による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド複合体、木材由来の物質(微細セルロース、ミクロフィブリル繊維、紛体ケナフ)、変成不溶化澱粉、未糊化澱粉などの有機填料を単用又は併用できる。なお、炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、特開2003−212539号公報や特開2005−219945号に記載の複合物を例示できる。炭酸カルシウムおよび/または軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用しても良い。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料である炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウムーシリカ複合物が好ましく使用される。
【0019】
本発明で製造される印刷用塗工紙の原紙に含まれる填料の配合率は1〜40固形分重量%である。抄紙においては紙中填料率が高いほど層間強度や歩留りは低下する。従って、紙中填料率が高い印刷用塗工紙の製造に本発明を適用したほうが本発明の効果が大きい。この観点から、紙中填料率は10〜40固形分重量%が好ましく、12〜35固形分重量%が更に好ましい。
【0020】
本発明においては、対紙料パルプ当たり0.10〜2.0重量%の両イオン性澱粉を使用する。本発明の製造方法で紙力向上剤として使用する両イオン性の澱粉としては、リン酸基、スルホン基、およびカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアニオン基と、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、スルホニウム基、およびホスホニウム基から成る群から選ばれる少なくとも1種以上のカチオン基とを有する澱粉などが挙げられるが、両イオン性であればよい。ここにいう3級アミノ基の例として、澱粉に2−ジアルキルアミノエチルクロリドを反応させたものが挙げられ、4級アンモニウム基の例として、澱粉にトリメチルアミンやトリエチルアミンなどのトリアルキルアミンとエピクロルヒドリンとの反応物を反応させたものが挙げられる。
【0021】
本発明の両イオン性澱粉の原料となる澱粉としては、特に限定はないが、馬鈴薯澱粉や甘藷澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチまたはそれらの加水分解澱粉などが挙げられる。
【0022】
本発明の両イオン性澱粉の電荷密度は特に限定されないが、カチオン電荷密度の範囲として0.02meq/g以上14meq/g未満であることが好ましく、0.1meq/g以上5meq/g未満であることがより好ましく、0.15meq/g以上1meq/g未満であることが最も好ましい。0.02meq/g未満では、イオン性が少なく繊維への自己定着性が低くなる。一方、14meq/g以上では、カチオン性が強すぎて抄紙系内の電荷バランスを陽転させてしまい、かえって微細繊維や填料歩留りを悪化させるため好ましくない。
【0023】
一方、本発明の両イオン性澱粉のアニオン電荷密度としては、0.01meq/g以上7meq/g未満であることが好ましく、0.05meq/g以上1meq/g未満であることがより好ましい。0.01meq/g未満では、アニオン性が低く、アニオン基の効果が不十分となる。一方、7meq/g以上では、アニオン性が強すぎて抄紙系内に添加される他のカチオン薬品の効果を阻害するため好ましくない。
【0024】
本発明の両イオン性澱粉のカチオン電荷密度とアニオン電荷密度の比は、99:1〜1:2の範囲であることが好ましく、19:1〜1:1.2の範囲であることがより好ましい。電荷密度の比が99:1よりも大きい場合は、アニオン基がカチオン基によって封鎖されてしまい両イオン性としての効果を発揮できなくなる。電荷密度の比が1:2よりも小さい場合は、系内のアニオン性が強くなり過ぎて、他のカチオン薬品の効果を阻害してしまう。
【0025】
本発明において添加する両イオン性澱粉の添加量は、対紙料パルプ当たり0.10〜2.0重量%であり、0.12〜1.0重量%が好ましい。両イオン性澱粉の添加量が0.10%未満であると、印刷用塗工紙として十分な層間強度が得られない。2.0%を超えて添加すると、層間強度は高くなるが、ワイヤ上での濾水性やプレスでの搾水性が悪化し、脱水不良や乾燥負荷の増大といった新たな問題が発生する。
【0026】
好ましい態様において、本発明は、上記両イオン性澱粉に加えて、紙力向上剤として、対紙料パルプ当たり0.01〜1.0重量%の別の紙力向上剤をさらに添加する。本発明においては、上記両イオン性澱粉に加えて、別の紙力向上剤(例えば、カチオン化澱粉もしくは天然系紙力向上剤、合成系紙力向上剤)を併用することにより、これらの薬品を単独で添加した場合に比べて、抄紙系内の電荷バランスを乱さずに良好な歩留りを維持しながら、紙の紙力を向上することができる。
【0027】
本発明で使用する天然系紙力向上剤としては、グアーガムなどが挙げられ、合成系紙力向上剤としては、澱粉とアクリルアミドのグラフト共重合物、各種イオン性のポリアクリルアミド、アクリルアミドおよび/又はメタクリルアミドおよびカチオン及び/又はアニオンモノマーからなる共重合体、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの紙力向上剤の特徴として、イオン性の官能基として第1級から3級のアミノ基のおよび第4級アンモニウム塩のいずれか、またはこれら複数のカチオン官能基を有するものであり、更にはカルボン酸、スルホン酸などのアニオン官能基を有するものであっても良い。本発明の両イオン性澱粉と併用する紙力向上剤としては、本発明の効果、取り扱い等の観点から、ポリアクリルアミド(PAM)系紙力向上剤が好ましく、特に、両性イオン性のポリアクリルアミド系紙力向上剤が好ましい。両イオン性澱粉と併用する紙力向上剤の添加量としては、地合を良好にするために、対紙料パルプあたり0.01〜1.0重量%であり、好ましくは0.05〜0.60重量%であり、0.40重量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
他の内添薬品として、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウムなどの無機薬品や、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、染料、中性サイズ剤、歩留まり向上剤などの薬品を必要に応じて使用しても良い。湿潤紙力向上剤としてはポリアミドアミンエピクロロヒドリンなどが挙げられる。中性サイズ剤としてはアルキルケテンダイマーやアルケニル無水コハク酸、中性ロジンサイズ剤などが挙げられる。これらの内添薬品も操業性に影響の無い範囲で添加される。歩留まり向上剤としては、カチオン性、アニオン性、もしくはノニオン性のポリアクリルアミドや、これらとベントナイトやコロイダルシリカといったアニオン性微粒子との併用などを、必要に応じて使用できる。
【0029】
また、本発明においては、凝結剤と呼ばれるポリマーを抄紙系内に添加することで、澱粉や紙力剤の紙力向上効果を阻害する系内のアニオン妨害物質を中和することができ、本発明の効果を増幅することができる。用いられる凝結剤としては、ポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などが挙げられる。本発明における凝結剤は、アニオン妨害物質に対して凝結作用を有するものであれば上記物質に限らない。アニオン妨害物質に対して凝結作用を有する凝結剤として、カチオン性凝結剤が好ましく、より効果を発揮するものとしてジアルキルジカリウム第4級アンモニウムモノマーを含むポリマーが特に好ましい。また、凝結剤の配合量としては、紙料固形分に対して50〜1000ppmが好ましい。
【0030】
本発明で用いる抄紙機のフォーミングパートはロールアンドブレード形式のギャップフォーマであり、ブレード圧等の脱水条件としては特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。
【0031】
本発明で用いる抄紙機のプレスパートは、シュープレスを用いることが好ましく、抄紙速度が高速の場合、より好ましくは2段以上で処理することによりプレス後のドライネスを向上できることから、層間強度や裂断長などの強度が向上する。本発明においてシュープレスは、回転駆動するプレスロールと油圧で押し上げる加圧シューの間を通紙させるもので、フェルトと加圧シューの間にスリーブを走行させるタイプである。プレスのニップ幅は、適宜調節することができ、150〜250mmが好適に用いられる。、プレス圧はプレス出口水分や表裏差を加味して適宜調整でき、処理条件は100kN/m〜1100kN/mが好ましく、より好ましくは500kN/m〜1100kN/mである。
【0032】
また、本発明においては、抄紙機プレドライヤー、アフタードライヤーも公用の装置を用いることができ、乾燥条件も特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。
本発明においては、フィルムメタリングタイプのサイズプレス装置を用いて、接着剤を主体とする固形分濃度が2〜14重量%のクリアー塗工液を塗工することを特徴とする。本発明のようにクリアー塗工を施すことにより、塗工原紙の表面性改善に加えて、接着剤の浸透による層間強度を向上することができる。クリアー塗工層の接着剤量は、固形分重量で80重量%以上が好ましく、また、クリアー塗工層の塗工量は、固形分重量で0.5〜3.0g/mが好ましい。クリアー塗工液の主成分として使用する接着剤としては、生澱粉や、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、エーテル化澱粉(湿式低分子化ヒドロキシエチル化澱粉、乾式低分子化ヒドロキシエチル化澱粉等)などの変性澱粉や、イオン性のポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどが使用され、その固形分濃度は2〜14重量%、好ましくは3〜12重量%である。固形分濃度が2重量%以下であると、クリアー塗工液の原紙への浸透性は良好となるものの、浸透量が多くなるために塗工後の乾燥負荷が大きくなり、本発明のような高速抄紙には適さない。一方、14重量%以上となると、塗工液の粘度も高くなることから浸透性が低下し、十分な強度を得ることができない。また、クリアー塗工液には、接着剤以外にサイズ剤、界面活性剤、保湿剤、消泡剤などを併用することもできる。
【0033】
本発明においては、クリアー塗工を行う塗工装置としてフィルムメタリングタイプのサイズプレス装置を用いる。ロッドメタリングサイズプレスコータ、ブレードメタリングサイズプレスコータ、ゲートロールコータ、2ロールサイズプレスが使用できるが、特に高速時における層間強度向上の点からロッドメタリングサイズプレスコータを使用することが好ましい。
【0034】
本発明においては、上記のクリアー塗工された塗工原紙に、あるいはクリアー塗工されない塗工原紙に、顔料塗工液を塗工する前にソフトカレンダー等によるプレカレンダ処理を施しても良い。原紙にクリアー塗工の代わりに顔料と接着剤を含有する顔料塗工液を塗工して塗工紙を得ることもできる。
【0035】
顔料と接着剤を主成分とする顔料塗工液に使用する顔料については、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、プラスチックピグメント、二酸化チタン等を併用する。また、顔料塗被液に使用する接着剤としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系等の各種共重合体エマルジョン及びポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体等の合成系接着剤、酸化デンプン、エステル化デンプン、酵素変性デンプン、エーテル化デンプンやそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性デンプン等を用いる。本発明の顔料塗工液には分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤等通常の塗被紙用顔料に配合される各種助剤を使用しても良い。顔料塗工液を下塗り塗工として使用する場合は、重質炭酸カルシウムが主に使用され、顔料100重量部当たり70重量部以上である。
【0036】
顔料塗工液の塗工量は、好ましくは、原紙片面当たり固形分で0.7〜10g/mの範囲で両面塗工することが好ましく、より好ましくは1〜10g/m、さらに好ましくは2〜8g/m、最も好ましくは2〜5g/mである。0.7g/mより少ない量は塗工しにくく、塗工液濃度を下げた場合には、塗工液の原紙内部への浸透が大きくなり表面性が低下しやすい。10g/mより多い量を塗工する場合は、塗被工液濃度を高くする必要があり、装置上塗被量のコントロールがしにくい。塗工後乾燥された塗工紙は、上塗り顔料塗工液の塗工前にチルドカレンダ、ソフトカレンダー等によるプレカレンダ処理を施しても良い。
【0037】
本発明においては、上記のクリアー塗工した塗工原紙、あるいは、クリアー塗工の代わりに顔料と接着剤を含有する顔料塗工液をさらに下塗り塗工した下塗り塗工紙の上に、更に顔料と接着剤を含有する顔料塗工液を上塗り塗工して塗工紙を製造してもよい。
【0038】
上塗り顔料塗工液の顔料、接着剤組成、配合量、塗被量等は特に限定されず、一般に使用される顔料、接着剤で良い。顔料については、重質炭酸カルシウムが主に使用されるが、要求品質に応じて軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、プラスチックピグメント、二酸化チタン等を併用する。また、顔料塗工液に使用する接着剤としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系等の各種共重合体エマルジョン及びポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体等の合成系接着剤、酸化デンプン、エステル化デンプン、酵素変性デンプン、エーテル化デンプンやそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性デンプン等を用いる。本発明の顔料塗工液には分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤等通常の塗工紙用顔料に配合される各種助剤を使用しても良い。塗工液濃度は55〜70%が好ましく、塗工量は通常片面当たり固形分で6〜14g/mが好ましい。上塗り塗工装置は、特に限定されないが、通常ファウンテンブレードコータ、あるいはロールアプリケーションブレードコータが用いられる。上塗り顔料塗工液を塗工後乾燥された塗工紙は、必要に応じて、通常のごとくスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の仕上げ工程により光沢付けがなされる。
【0039】
カレンダー装置の種類と処理条件は特に限定はなく、金属ロールから成る通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公用の装置を適宜選定し、印刷用紙の品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すれば良い。本発明の製造方法により抄造される印刷用塗工紙の坪量についても限定はないが、通常30〜120g/mであり、好ましくは35〜80g/mであり、より好ましくは40〜60g/mで、より効果を発揮するものである。
【0040】
本発明においては、特に、抄紙、塗工及びカレンダー処理を連続的に行い、オンラインで通紙して塗工原紙やそれを用いた塗工紙を得る場合に、濾水性や地合を良好に維持しつつ高い層間強度を付与できる良好な印刷用塗工原紙ができ、その塗工原紙を用いた塗工紙が耐ブリスター性、印刷品質の良好なものが得られるという本発明の効果をより発揮するものである。
【0041】
また、本発明で製造された印刷用塗工原紙及びそれを用いた塗工紙は、オフセット印刷用、グラビア印刷用などの各種印刷用途に使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、当然のことながら、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示す。
【0043】
<評価方法>
以下の実施例及び比較例に用いた測定項目の評価方法を次に示す。
(1)カチオン要求量
紙料の200メッシュワイヤーのろ液について、流動電位法に基づく粒子荷電測定装置(Muteck PCD-02)を用いて、電荷を中和するまでに必要とした1/1000規定のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液の量に基づいて、カチオン要求量を測定した。本発明の系において、カチオン要求量の好ましい範囲は、5〜100μeq./Lであり、5〜30μeq./L程度が特に好ましい。
(2)紙料および灰分の歩留り
ストックインレット原料とワイヤを抜け落ちた白水(ワイヤ下白水と記述する)について、それぞれ固形分濃度と灰分濃度を測定した。灰分は、ストックインレット原料とワイヤ白水について、その固形分を525℃で灰化して測定した。固形分濃度と灰分濃度を基に、下記式(1)により紙料歩留まりを、下記式(2)により灰分歩留まりを測定した。
【0044】
紙料歩留まり=100×(A−B)/A 式(1)
A:ストックインレット原料の固形分濃度(g/l)
B:ワイヤ白水の固形分濃度(g/l)
灰分歩留まり=100×(C−D)/C 式(2)
C:ストックインレット原料の灰分濃度(g/l)
D:ワイヤ白水の灰分濃度(g/l)
(3)マシンでの脱水性
抄紙機での脱水性について、通常状態を基準として以下の3段階で目視評価を行った。
◎:通常より脱水性良好、○:通常程度(比較的脱水性良好)、△:通常より脱水性悪化、×:通常に比べ脱水性悪く操業性低下
(4)紙の層間強度
L&W ZD Tensile Tester SE 155(Lorentzen&Wettre社製)を用い、層間強度を測定した。
【0045】
(5)印刷評価
オフセット輪転印刷機(4色、東芝製 B2T600)にて、オフ輪印刷用インキ(東洋インキ製造社製 レオエコー SOY M)を用いて、印刷速度500rpm、乾燥時の紙面温度120℃にて印刷した。得られた印刷物の墨単色50%網点部について、印刷再現性を以下の基準で目視評価した(◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る)。更に、4色ベタ部について、ブリスターの発生の有無を確認した(○:全く発生しない、△:ほとんど発生しない、×:発生する)。
【0046】
<印刷用塗工原紙の抄造>
(1)抄紙機
ロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を使用した。
【0047】
(2)パルプ原料
以下の配合のパルプ原料を紙料として用いた。
・LBKP(広葉樹クラフトパルプ、濾水度CSF=350ml):50重量%
・NBKP(針葉樹クラフトパルプ、濾水度CSF=600ml):30重量%
・DIP(脱墨パルプ、濾水度CSF=240ml):20重量%
(3)紙中填料率(紙中灰分)
ロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(平均粒子径3.5μm)を使用し、目標の紙中灰分となるように添加量を適宜調整した。
【0048】
[実施例1]
上記パルプ原料に、紙中灰分が12%となるように填料を混合した。混合した紙料に、硫酸アルミニウムを紙料固形分重量当たり0.8%添加した後、内添用紙力向上剤の両イオン性澱粉(日本エヌエスシー社製、Cato315、窒素含有量0.17%)を対紙料パルプ当たり0.5%添加し、歩留まり向上剤としてカチオン性ポリアクリルアミド系歩留まり剤(ソマール社製、R-300)を対紙料パルプ当たり300ppm添加して、紙料を調成した。
【0049】
調成した紙料を用いて、原紙坪量37g/m、原紙の紙中灰分12%の塗工原紙を製造した。抄紙は、フォーミングロール径が1600mmであるロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用い、抄紙速度1400m/分にて行った。
【0050】
抄紙に連続して、ロッドメタリングサイズプレスコータを用いて、クリアー塗工液として固形分濃度4%の酸化澱粉(日本コーンスターチ社製、SK-20)水溶液を片面あたり2g/mにて両面塗工して印刷用塗工原紙を得た。
【0051】
[実施例2]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を0.2%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0052】
[実施例3]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を1.5%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0053】
[実施例4]
実施例1のクリアー塗工液として使用する酸化澱粉の濃度を10%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0054】
[実施例5]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を0.3%とし、カチオン化澱粉(日本エヌエスシー社製、Cato304)を0.2%添加した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0055】
[実施例6]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を0.3%とし、カチオン基/アニオン基の電荷比率が1以上である両イオン性PAM系紙力向上剤(ハリマ化成製、EX288)を0.1%添加した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0056】
[実施例7]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を0.7%とし、該澱粉を添加する前に、凝結剤(片山ナルコ社製N7527)を400ppm添加した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0057】
[比較例1]
両イオン性澱粉でなくカチオン化澱粉(日本エヌエスシー社製、Cato304)を使用した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0058】
[比較例2]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を0.08%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0059】
[比較例3]
実施例1の両イオン性澱粉の添加量を2.5%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0060】
[比較例4]
実施例1のクリアー塗工液として使用する酸化澱粉の濃度を1%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0061】
[比較例5]
実施例1のクリアー塗工液として使用する酸化澱粉の濃度を15%とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0062】
[比較例6]
実施例1の抄紙速度を1000m/分とした以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0063】
[比較例7]
実施例1の抄紙速度を1000m/分とし、両イオン性澱粉でなくカチオン化澱粉(日本エヌエスシー社製、Cato304)を使用した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0064】
[比較例8]
両イオン性澱粉でなくカチオン化澱粉(日本エヌエスシー株式会社製、Cato304)を0.3%添加し、カチオン基/アニオン基の電荷比率が1以上である両イオン性PAM系紙力向上剤(ハリマ化成製、EX288)をさらに0.1%添加した以外は、実施例1と同様にして印刷用塗工原紙を得た。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に実験結果を示す。カチオン化澱粉を0.5%添加した場合(比較例1)、カチオン要求量がマイナス、すなわち抄紙系内が陽転しており、結果として紙料および填料の歩留りが低下し、層間強度が低下した。一方、両イオン性澱粉を添加した実施例1では、比較例1と同レベルの添加率であるにも関わらず、カチオン要求量は15.0μeq./Lという低いレベルとなっており、紙料歩留り、填料歩留り、および、脱水性が良好であり、紙の層間強度が高くなった。
【0067】
実施例1〜3および比較例2,3から、両性澱粉の添加量については、最適な範囲があることがわかる。実施例1〜3から分かるように、両性澱粉の添加量が増加するにつれて、カチオン要求量が低下し、紙料歩留り、填料歩留り、および、層間強度が上昇するものの、抄紙機での脱水性が若干悪化する傾向にあった。比較例2にあるように、添加率が0.08%と低い場合には、カチオン要求量が高く、歩留りが低く、層間強度が低いという結果となっている。一方、比較例3にあるように、添加率が2.5%と高い場合には、比較例1と同様にカチオン要求量の陽転を招き、歩留りや層間強度が低下するとともに抄紙機での脱水性の低下が認められた。
【0068】
また、実施例1,4および比較例4,5から、クリア塗工の濃度についても最適な範囲があることがわかる。具体的には、クリアー塗工液濃度が低すぎても、高すぎても、層間強度が低下した。特に、比較例5では印刷後にブリスターの発生が確認されており、印刷品質という面で、実施例に比べて劣っていた。
【0069】
さらに、実施例5に示されるように、両性澱粉とカチオン性澱粉とを併用することで、カチオン要求量を最適な10meq./L前後に調整することが可能であり、高い歩留りを得ることができた。
【0070】
さらにまた、実施例6に示されるように、両性澱粉とPAM系紙力剤とを併用することで、高い層間強度を得ることができた。
抄紙速度に関しては、比較例6,7において、抄紙速度を1000m/分まで落として、印刷用塗工原紙を作製した。本発明である実施例1においては、1400m/分という高速抄紙条件にもかかわらず、抄紙速度が1000m/分の場合(比較例6,7)と同様の歩留りと層間強度が得られている。ここで、1400m/分という高速条件においては、両性澱粉を使用した場合(実施例1)とカチオン化澱粉を使用した場合(比較例1)とで顕著な差が生じるのに対し、1000m/分という抄紙速度においては、両性澱粉とカチオン性澱粉の違いが層間強度などにほとんど反映されていない(比較例6,7)。これは、抄紙速度が高速の場合と低速の場合とでは系の挙動が大きく異なり、抄紙速度が低速の場合の挙動に基づいて、高速抄紙用の原料配合などを設計することができないことを如実に示すものである。このように、本発明は高速抄紙技術という観点で、従来の中・低速抄紙機における印刷用塗工紙の製造技術とは異なっており、また、抄紙速度の差400m/分は生産効率という面で著しい差である。
【0071】
<印刷用塗工紙の製造>
(1)顔料塗工液の作成
重質炭酸カルシウム70部、カオリン30部に対して、ポリアクリル酸ソーダ系分散剤0.3部を添加し、カウレス分散機を用いて水に分散し、接着剤としてリン酸エステル化デンプン5部とスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを10部配合し、固形分濃度65%の上塗り用顔料塗工液を調製した。
【0072】
[実施例8]実施例1の原紙を用いた印刷用塗工紙
実施例1の印刷用塗工原紙を得た後、引き続き連続してブレードコータにて上塗り用塗工液を原紙片面当たり塗工量10g/mを目標に両面塗工・乾燥し、更に連続してオンラインで表面処理として、ロール表面温度120℃、線圧200kN/m、カレンダーニップ数6ニップの条件で高温ソフトニップカレンダー処理を行い、印刷用塗工紙を製造した。
【0073】
[比較例9]比較例1の原紙を用いた印刷用塗工紙
原紙として比較例1の原紙を用いた以外は、実施例8と同様に印刷用塗工紙を製造した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に印刷用塗工紙の評価結果を示す。表2から明らかなように、本発明による塗工紙は、印刷再現性および耐ブリスター性に優れていた。
以上より、本発明を実施することにより、ギャップフォーマ型抄紙機を用いて高速、高灰分条件において中性抄紙法により印刷用塗工紙の製造を行う場合に、高い層間強度を有した印刷用塗工紙の製造が可能となる。従って、本発明の効果は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いて、中性抄紙法により抄紙速度が1300m/分以上で印刷用塗工原紙を製造する方法であって、
紙力向上剤として、対紙料パルプ当たり0.10〜2.0重量%の両イオン性澱粉を添加し、
フィルムメタリングタイプのサイズプレス装置を用いて、接着剤を主成分とする固形分濃度が2〜14重量%の水溶液を塗工することを特徴とする、印刷用塗工紙の製造方法。
【請求項2】
紙力向上剤として、対紙料パルプ当たり0.01〜1.0重量%にてさらに別の紙力向上剤を併用して添加する、請求項1に記載の印刷用塗工紙の製造方法。
【請求項3】
前記併用する紙力向上剤が、カチオン化澱粉またはポリアクリルアミドである、請求項2に記載の印刷用塗工紙の製造方法。
【請求項4】
塗工原紙の紙中填料率が10重量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷用塗工原紙の製造方法。
【請求項5】
原料パルプに20重量%以上の脱墨パルプ(DIP)が含まれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷用塗工原紙の製造方法。
【請求項6】
プレスパートにシュープレスを有するギャップフォーマ型抄紙機を用いて、シュープレスによって脱水することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷用塗工原紙の製造方法。
【請求項7】
カチオン性凝結剤をさらに添加することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の印刷用塗工原紙の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載された塗工原紙に、顔料と接着剤を含有する塗工液を塗工する、印刷用塗工紙の製造方法。

【公開番号】特開2009−243018(P2009−243018A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94194(P2008−94194)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】