説明

印刷用塗工紙の製造方法

【課題】環境保全に貢献し、印刷適性に優れた印刷用塗工紙の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも片面に顔料とカチオン性バインダーとを必須成分とする塗工層が形成された印刷用塗工紙の製造方法で、顔料中に、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経てえられ、焼成工程において凝集させた、塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において下記組成とする再生顔料凝集体を、塗工用顔料として少なくとも含有させ、該再生顔料凝集体を塗工することを特徴とし、該再生顔料凝集体の粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれている、印刷用塗工紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷等に用いられる印刷用塗工紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場廃棄物ゼロ(ゼロエミッション)を進める時流に伴い、脱墨フロス、排水・脱水スラッジ等の製紙スラッジあるいは焼却灰を有効に利用するための技術開発が進められている。このようななか、本出願人は、製紙スラッジを再生顔料に製造して用いる技術を提案している(例えば特許文献1参照)。ところが、かかる再生顔料は、ナチュラルな顔料と比べて、脆い、白色度が低いなどの欠点を依然として有しており、そのまま製紙用の添加剤として用いても優れた印刷適性を実現するのが難しい。
【特許文献1】特開2002−275785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、環境保全に貢献しつつ、印刷適性に優れた印刷用塗工紙を製造する方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
少なくとも片面に顔料とカチオン性バインダーとを必須成分とする塗工層が形成された印刷用塗工紙の製造方法において、
前記顔料中には、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、
該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経ることにより得られ、
塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において下記組成とする
再生顔料凝集体を、塗工用顔料として少なくとも含有させ、該再生顔料凝集体を塗工する、ことを特徴とし、
前記塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において、前記再生顔料凝集体の粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれている、印刷用塗工紙の製造方法
に関する。
【0005】
上記構成によれば、印刷適性に大きく影響する最表層塗工層に、元素としてアルミニウム(Al)とケイ素(Si)とカルシウム(Ca)とを有する再生顔料凝集体を用いているので、カチオン性バインダーとの親和性が高く塗工層表面強度を従来の顔料より高めることが可能になり、クッション性に優れた塗工層が形成され、しかも環境保全に寄与することができ、その結果として優れた印刷適性を実現する印刷用塗工紙を容易に製造することができる。
【0006】
本発明の印刷用塗工紙の製造方法において、前記再生顔料凝集体の粒子構成成分における、酸化物換算でのアルミニウムとケイ素とカルシウムとの合計包含割合は、90重量%以上であることが好ましい。酸化物換算でのアルミニウムとケイ素とカルシウムとの合計包含割合を90重量%以上とすることで、アルミニウム、ケイ素、カルシウムの各元素を保有する顔料凝集体としての有効性を如何なく発揮することができる。アルミニウムは強いカチオン性を、ケイ素は微細なシリカ粒子の2次凝集効果によるインク吸収性とインク乾燥性を、カルシウムは白色度向上をもたらす。
【0007】
また、本発明の製造方法によって得られる印刷用塗工紙において、前記塗工層中の再生顔料凝集体の平均粒径が0.1〜10μmの範囲内に設定されており、かつ、該塗工層中の再生顔料凝集体の平均粒径が、該塗工層中の他の顔料の平均粒径よりも小さくなるように設定されていることが好ましい。この場合、平坦化処理において比較的柔軟な再生顔料凝集体が塗工層中の他の顔料の形状と平坦に組み合わされ、顔料に由来する塗工層表面の凹凸やうねりが小さくなる。よって、塗工層の表面をより一層平坦とすることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において、その粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれた再生顔料凝集体が含有されている塗工層が形成されるので、環境保全に貢献しつつ、印刷適性に優れた印刷用塗工紙を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る製造方法にて製造される印刷用塗工紙を、模式的に示す断面図である。本実施の形態に係る印刷用塗工紙Tは、紙基材1と、その両面にそれぞれ形成された下側塗工層2と、各下側塗工層2の上にそれぞれ形成された上側塗工層(最表層塗工層)3とを備えている。
【0010】
紙基材1としては、特に制限するものではなく公知の各種のものを用いることができる。詳細には、単層からなる原紙のみであってもよいし、異種又は同種の原紙を重ね合わせて2層以上の多層構造にしたものであってもよい。原紙の原料パルプとしては、例えば、機械パルプ、クラフトパルプ、再生パルプが主たる原料として好適に使用され、またケナフ、竹、麻、藁等の公知の非木材パルプを併用することもできる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いることもできる。また、原紙の坪量については特に制限するものではなく、例えば40〜130g/m2程度の坪量の原紙が好適に用いられる。原紙の抄紙方法として、ツインワイヤーフォーマーマシン、長網マシン、原紙から塗工層の形成及び塗工層の表面処理までを一連の工程で行うことができるオンラインマシンを用いた方法等を適宜に採用することができる。
【0011】
各下側塗工層2は、顔料及び接着剤を主成分とする下側塗工層2形成用の塗工液(以下「下側用塗工液」という)を用いてそれぞれ形成される。下側用塗工液に用いられる好適な顔料としては、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム)、デラミネーテッドクレー、焼成クレー、サチンホワイト、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト、シリカ、タルク、活性白土等の無機顔料や、ポリスチレン樹脂微粒子、尿素ホルマリン樹脂微粒子、微小中空粒子、多孔質粒子等の有機顔料を用いることができる。これらは、単独であるいは2種以上併せて用いることができる。なかでも、炭酸カルシウム、クレーを用いることが好ましい。そして、顔料は、塗工液の固形分濃度が50〜70%程度となる適宜の割合で使用される。
【0012】
また、下側用塗工液に用いられる接着剤としては、特に制限するものではないが、水溶性接着剤が好適に用いられる。具体的には、酸化澱粉、カチオン澱粉、エステル化澱粉、デキストリンなどの澱粉類、ポリビニルアルコール(PVA)などの合成樹脂接着剤、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白などの蛋白類等があげられる。また、スチレン−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルの重合体又は共重合体などのアクリル系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系重合体ラテックス、あるいはこれらの重合体ラテックスをカルボキシル基などの官能基含有単量体で変性したアルカリ溶解性、アルカリ膨潤性あるいはアルカリ非溶解性の重合体ラテックスなどを用いてもよい。これらの接着剤は、単独であるいは2種以上併せて用いられる。そして、接着剤の配合割合は、使用する接着剤の種類などによって適宜に設定されるが、通常、顔料100重量部に対して5〜30重量部の範囲内に設定されていることが好ましい。接着剤の配合量が少なすぎると所定の接着力が得られないおそれがあり、逆に多すぎると塗工性に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0013】
なお、下側用塗工液には、上記した各成分のほか、分散剤、増粘剤、潤滑剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤、pH調整剤などの従来公知の各種の助剤を使用目的やニーズに応じて適宜配合することができる。
【0014】
上記各下側塗工層2の上にそれぞれ形成される上側塗工層(最表層塗工層)3は、顔料及びカチオン性バインダーを主成分とする上側塗工層3形成用の塗工液(以下、「上側用塗工液」という)を用いて形成される。上側用塗工液に配合される顔料には、塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において、その粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれた再生顔料凝集体が含有されている。
【0015】
ここで、再生顔料凝集体について詳細に説明する。
【0016】
再生顔料は廃棄物を焼成して得られ、廃棄物としては、例えば、製紙工場の排水処理工程で排出される填料や顔料を含有する排水スラッジ、古紙処理工程の古紙溶解工程や異物除去工程で排出される製紙スラッジ、古紙脱墨工程で排出される脱墨フロス等の製紙スラッジ、あるいは、原料調整工程で排出される製紙スラッジなどを例示することができるが、本発明で使用する再生顔料凝集体は、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経ることにより得られ、粉砕工程後に粒子を凝集させる工程を付加することなく製造されたものである。
【0017】
脱墨フロス以外の製紙スラッジなどは、構成成分が変動し易いため、製品の性状の変動要因になりやすい。これに対し、脱墨フロスは、構成成分がほとんど変動しないため、得られる再生顔料凝集体の白色度等の品質をコントロールすることが容易となり、製紙用とするに好適である。なお、脱墨フロスの構成成分がほぼ変動せずに安定しているのは、古紙パルプの性状の安定が再生紙の品質安定につながり、この品質安定を目的として古紙パルプの原料たる古紙をほぼ同質にするためである。
【0018】
構成成分の変動を抑制するには、前記脱墨フロスの利用以外に、性状が安定している、塗工工程スラッジや抄紙工程のスラッジなど出所が明確なスラッジを所定量混合すればよい。
【0019】
ここで脱墨フロスとは、古紙処理工程において、脱インクし、パルプを取り出した後の残渣である。主として、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン等の無機粒子、残留インク粒子、繊維、コーティング剤等の有機系化合物、及び、水を含む。脱墨フロスは、例えば、沈殿や加圧浮上等の方法で固液分離して固形分を回収し、所定の水分に乾燥した後、第1焼成工程で所定の未燃率となるように調整して焼成する。これにより、塊状に凝集した多孔質原料となる。
【0020】
以下に、脱墨フロスを使用した再生顔料凝集体の製造方法例を詳述する。
【0021】
1.フロック化・脱水
通常脱墨フロスは、水分率95〜98質量%程度であり、凝集剤を加えてフロックを形成させ、脱水処理を行う。脱水処理は、1段でも複数段でも実施可能ではあるが、フロックを固化させると、後工程の第2焼成工程において焼成ムラが生じる原因になるため、複数段で水分率を50〜60質量%程度まで脱水することが好ましい。
【0022】
2.乾燥・分級
脱水物は、予め乾燥させる。乾燥手段は、熱風乾燥等公知の乾燥手段を使用可能であるが、脱墨フロスを乾燥させながらほぐすことが可能であり、更に比重分級をも可能な熱風乾燥手段が最も好適に使用できる。
【0023】
好適に使用できる熱風乾燥手段を具体的に例示すると、脱水製紙フロスをインペラ等のほぐし設備にてほぐしながら、インペラ設備下方に設けた熱風吹きだし手段にて熱風を吹き込み熱風乾燥を行う。ほぐされ、乾燥された製紙フロスのうち、比重の軽い製紙フロスを熱風乾燥手段の上部に設けた取出し口から排出させることで、乾燥と分級とを行うことができる。
【0024】
乾燥させた脱墨フロスの分級には、好適な手段として、サイクロンによる分級を採用することもできる。
【0025】
3.焼成
乾燥・分級された脱墨フロスは、次に第1焼成工程に送られる。第1焼成工程においては、未燃率を10質量%以上、15質量%未満になるように調整することが肝要である。未燃率を10質量%以上とすることで、次の第2焼成工程の焼成において粒子に多孔性を付与することができる。さらに、未燃率を15質量%未満にすることで、次の第2焼成工程で自燃による過焼成で粒子が硬化することを防ぐことが可能になる。
【0026】
焼成は、650℃以下で行うことが好ましく、特に、残カーボンによる白色度の低下を避けるために、450〜650℃の範囲で段階をつけて行うことが好ましい。650℃超の高温で焼成を行うと、炭酸カルシウムが分解して酸化カルシウムとなり、また、無機物の溶融が生じて極めて硬度が高く多孔性が低い無機粒子となるおそれがある。なお、酸化カルシウムは水溶性であるため、抄紙工程において添加した際に溶け出してしまい、例えば、サイズ剤等の薬品効果を妨げるおそれがある。
【0027】
本実施形態の再生顔料凝集体は、上記多孔質原料を90重量%以上含み、かつこの多孔質原料が、X線マイクロアナライザーによる塗工紙表面の元素分析において、その粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとを、8〜40:10〜40:20〜82の重量割合で、好ましくは、9〜30:10〜30:40〜82の重量割合で、より好ましくは、9〜20:9〜20:60〜82の重量割合で含む。
【0028】
第1焼成工程及び第2焼成工程において、本発明の割合に調整するための方法としては、脱墨フロスにおける原料構成を調整することが本筋ではあるが、乾燥・分級工程、第1焼成工程及び第2焼成工程において、出所が明確な塗工フロスや調整工程フロスをスプレー等で工程内に含有させる手段や、焼却炉スクラバー石灰を含有させる手段にて調整することも可能である。
【0029】
例えば、再生顔料凝集体中のカルシウムの調整には、中性抄紙系の排水スラッジや、塗工紙製造工程の排水スラッジを用い、ケイ素の調整には、不透明度向上剤として多量添加されている新聞用紙製造系の排水スラッジを、アルミニウムの調整には酸性抄紙系等の硫酸バンドの使用がある抄紙系の排水スラッジや、タルク使用の多い上質紙抄造工程における排水スラッジを適宜用いることができる。
【0030】
酸化物換算でのアルミニウム、ケイ素及びカルシウムの合計包含割合を、90重量%以上にする手段としては、排水スラッジの凝集処理に用いる凝集剤に鉄分を含まないものを使用する、製造設備工程を鉄以外素材で設計又はライニングし、摩滅等により鉄分が系内に混入することを防止する、更に、乾燥・分級設備内に磁石等の高い磁性体を設置し取り除くことで調整可能になる。特に鉄分が、酸化により白色度低下の起因物質になるため、選択的に取り除くことが好ましい。
【0031】
4.溶解・粉砕
第1焼成工程及び第2焼成工程にて焼成された無機物は、抄紙あるいは塗工工程で使用するには粒径が不揃いであるため、そのままでは顔料への利用は問題がある。
【0032】
顔料用途への使用においては、粒径の均一化や微細化が必要であるが、本発明に基づく再生顔料凝集体における顔料用途等への最適な粒径、顔料径について鋭意検討を重ねた結果、本形態の再生顔料凝集体としては、一次粒子が平均粒子径0.01〜0.1μmであり、この一次粒子が凝集した二次粒子が平均粒子径0.1〜10μmであることが好ましいことを知見した。
【0033】
本形態の再生顔料凝集体は、JIS K 5101に記載の方法に準拠して測定した吸油量が30〜100mL/100gであることが好ましく、抄紙工程で内添用として用いる場合は、平均粒径が0.1〜10μm、塗工工程で顔料として用いる場合には、平均粒径を0.3〜5μmに調整することが好ましい。
【0034】
本発明においては、再生顔料凝集体は前記の乾燥・分級・焼成方法により粉砕処理前に既に40μm以下の粒子が90%以上となるよう処理しておくことが好ましい。これにより、従来一般的に行われている乾式粉砕による大粒子の粉砕及び湿式粉砕による微粒子化といった複数段の粉砕処理を行うことなく、湿式による1段粉砕処理が可能となる。これによりコールターカウンター法による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さを30%以上とすることができ、さらには原料スラッジ中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の重量割合に調整することで、再生顔料凝集体の細孔容積を0.15〜0.60cc/g、細孔表面積を10〜25m2/g、細孔半径を300〜1000オングストロームとすることができる。
【0035】
他の顔料としてクレーを用いる場合、炭酸カルシウムとクレーとを重量基準で等量配合したものは、標準的な顔料として使用することができるが、重質炭酸カルシウムとクレーとの重量基準配合比が3:7〜7:3の範囲内に設定されている場合は、優れた印刷光沢度が得られるとともに、操業性に優れ、しかも印刷用塗工紙をより低コストで製造することができるので特に好ましい。
【0036】
そして、上側塗工層(最表層塗工層)3中の再生顔料凝集体の平均粒径が0.1〜10μmの範囲内に設定されており、かつ、上側塗工層3中の再生顔料凝集体の平均粒径が上側塗工層3中の全顔料の平均粒径よりも小さくなっている。このように顔料の平均粒径を設定したので、平坦化処理において比較的柔軟な再生顔料凝集体が上側塗工層3中の他の顔料の形状と平坦に組み合わされ、顔料に由来する上側塗工層3表面の凹凸やうねりが小さくなる。よって、上側塗工層3の表面をより一層平坦とすることが可能になる。
【0037】
上側用塗工液に配合されるカチオン性バインダーとしては、従来公知の各種のものが用いられ、特にスチレン・ブタジエンラテックスが好適に用いられる。なお、カチオン性バインダーに加えて、酸化澱粉、カチオン澱粉、デキストリンなどの澱粉類、ポリビニルアルコール(PVA)などの合成樹脂接着剤、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白などの蛋白類等の他の接着剤を適宜配合してもよい。
【0038】
各種のスチレン・ブタジエンラテックスのなかでも、単量体成分としてのアクリロニトリルを含んでいないか、含んでいたとしても10重量%以下に設定されたラテックスであって、ガラス転移温度(Tg)が−30〜0℃で、平均粒子径が100〜170nmで、かつゲル含有量が80〜90%であるものが好ましい。なぜなら、アクリロニトリルを単量体成分として多く含むラテックスは、表面処理工程において黄変しやすく、また経時においても黄変しやすいことから、耐候性に難点があり、最終製品において色調ばらつきを発生させてしまう傾向があるからである。但し、単量体成分としてのアクリロニトリルを含んでいると、塗工液中のラテックス配合量を低減しつつ印刷用塗工紙に必要な表面硬度を付与でき、しかも印刷光沢度が高まるという利点があることから、これらの利点を得るべく、10重量%以下の少量含ませてもよい。これらを考慮すると、アクリロニトリル含有量が1〜10重量%、より好ましくは3〜8重量%に設定されているラテックスがより好適に用いられる。なお、このような所定のラテックスは、ブタジエン、アクリロニトリル、スチレン、アクリル酸、ブチルアクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリル酸、酢酸ビニル等の単量体成分を適宜用いて重合させることにより製造することができる。
【0039】
また、ラテックスのガラス転移温度(Tg)が−30〜0℃の範囲内のものが好適なのはつぎの理由による。すなわち、ガラス転移温度(Tg)が0℃を超えると、耐べたつき性が悪化して、操業性が悪化してしまう傾向があるからである。より詳しく説明すると、単量体成分としてのアクリロニトリル含有量が多い場合には、ガラス転移温度(Tg)が高くても耐べたつき性の悪化を抑制することが可能であるが、アクリロニトリル非含有あるいはアクリロニトリル少量含有のラテックスであることから、ガラス転移温度(Tg)を低くしないと耐べたつき性の悪化を抑制することが難しいからである。一方、ガラス転移温度(Tg)を−30℃より低くしても、−30℃の場合と比較して耐べたつき性の向上効果に殆ど差がみられない。このため、ガラス転移温度(Tg)は上記範囲内に設定されているのが好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、20℃、65%(相対湿度)でラテックスフィルムを作製し、その20mgを示差走査熱量測定装置(DSC)で昇温速度5℃/分、測定温度0〜100℃で得られる特性曲線から求めることができる。
【0040】
さらに、ラテックスの平均粒子径が100〜170nmの範囲内のものが好適なのはつぎの理由による。すなわち、平均粒子径が100nm未満であると、塗工性が低下して被覆性が悪化する傾向があり、逆に平均粒子径が170nmを超えると充分な接着強度や表面強度が得られず、耐べたつき性が悪化してしまう傾向があるからである。換言すれば、平均粒子径が上記範囲内であると、印刷用塗工紙として必要な接着強度及び表面強度が得られるとともに、良好な塗工性を確保することができるという利点がある。なお、平均粒子径は、濃度が0.05〜0.2%となるように希釈し、この希釈された各試料の波長525nmにおける吸光度を測定し、予め作成しておいた検量線を用いることで測定することができる。
【0041】
また、ラテックスのゲル含有量が80〜90%の範囲内のものが好適なのはつぎの理由による。すなわち、ゲル含有量が80%未満であると、表面強度不足で操業性の悪化を招来する傾向があるからである。一方、ゲル含有量を90%より高くしても、90%の場合と比較して耐べたつき性の向上効果に殆ど差がみられないからである。そして、ゲル含有量は接着強度の指標であり、80〜90%という高い範囲内に設定することによって、印刷用塗工紙に表面強度を付与するアクリロニトリルが非含有あるいは少量含有であっても、必要な表面強度を確保することが可能になる。なお、ゲル含有量は、下記の数式(1)により算出された値である。
ゲル含有量(%)=(乾燥フィルム重量−トルエン可溶分重量)×100
/乾燥フィルム重量 …(1)
ここで、乾燥フィルム重量とは、ラテックス約0.3gをスライドグラス上に薄く広げ、50℃の乾燥機でフィルムとなるまで乾燥させて得た乾燥フィルムの重量である。また、トルエン可溶分重量とは、得られた乾燥フィルムを約50mLのトルエン中に一昼夜浸漬し、ガラスフィルターでろ過し、ろ物とろ液とに分離した後、このろ液を105℃の乾燥機で乾燥して、トルエン可溶分の重量を測定した値である。
【0042】
そして、上記所定のラテックスの配合割合は、顔料100重量部に対して8〜15重量部の範囲内に設定されているのが好ましい。すなわち、配合量が少なすぎると印刷用塗工紙に必要とされる接着強度や表面強度が不充分となってユーザーが印刷する際にピッキングトラブル(塗工層の剥離)が起こりやすい傾向があるからである。逆に配合量が多すぎると、塗工液中のアクリロニトリルの絶対量が多くなって、耐候性が悪化したり、製造コストが高くついたりなどの問題が発生する傾向があるからである。換言すれば、上記所定のラテックスの配合割合を上記範囲内に設定することにより、必要最小限の接着強度及び表面強度を確保しつつ、耐候性などに優れた印刷用塗工紙とすることができる。但し、所定のラテックスの他に、他の接着剤を併用して接着強度や表面硬度を高めるようにしてもよいのは勿論である。特に、所定のラテックスとともに、尿素リン酸エステル化澱粉、カルバミン酸澱粉などのエステル化澱粉を用いることが好ましい。このエステル化澱粉の配合割合は、顔料100重量部に対し0.5〜10重量部の範囲内に設定するのが好適である。
【0043】
なお、塗工液には、上記した各成分のほか、アクリル酸・アクリルアミド共重合体、分散剤、増粘剤、潤滑剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤、pH調整剤などの従来公知の各種の助剤を使用目的やニーズに応じて適宜に配合することができる。特にアクリル酸・アクリルアミド共重合体を顔料100重量部に対して0.01〜0.1重量部の範囲内で配合することが好ましい。最表層塗工層中に添加されるアクリル酸・アクリルアミド共重合物の添加量は、塗被方式、塗被速度またはその化合物を添加する前の粘度等によって異なるが、固形分で顔料100重量部に対し0.01〜0.1重量%の範囲が好ましく、0.04〜0.08重量%の範囲であることが特に好ましい。化合物の添加量が0.01重量%未満になると、増粘効果が不足し均質な面状が得られない。添加量が0.1重量%を超えると、増粘効果が過大となり、塗被液が著しい曳糸性を示すため、操業性が悪化すると共に塗被における引き延ばしが不安定となるので、均質な面状が得られない。
【0044】
本実施の形態に係る印刷用塗工紙Tは、例えばつぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、紙基材1、下側用塗工液、上側用塗工液を準備したのち、紙基材1の両面に下側用塗工液を所定の塗工量で塗工する。ここで、塗工処理は、ブレードコーター、バーコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、リバースロールコーター、カーテンコーターなど各種の公知の塗工装置を用いて行うことができる。ついで、熱風加熱、蒸気加熱、赤外線ヒータ加熱、ガスヒータ加熱、電気ヒータ加熱などの公知の各種の加熱乾燥方式により乾燥を行う。なお、乾燥条件については、加熱乾燥方式や下側用塗工液の配合などに応じて適宜に調整される。また、乾燥処理の後に、熱ソフトカレンダー、スーパーカレンダーなどの各種の公知の平滑化処理装置を用いて、塗工時や乾燥時に生じた微細な凹凸を潰して表面を平滑化する平滑化処理を必要に応じて行ってもよい。こうして、厚み5〜25μm程度の下側用塗工層2を形成することができる。つづいて、紙基材1の両面に形成された下側用塗工層2の上に、同様にして、上側用塗工液を所定の塗工量で塗工したのち、乾燥を行い、さらに平滑化処理を行うことにより、厚み5〜25μm程度の上側塗工層(最表層塗工層)3を形成する。なお、塗工処理、乾燥処理、平滑化処理は、上側用塗工液の配合などに応じて適宜の方法が採用される。こうして本実施の形態に係る印刷用塗工紙Tを得ることができる。
【0045】
上記のように構成された、本実施の形態に係る製造方法にて製造される印刷用塗工紙Tは、塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において、その粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれている再生顔料凝集体が含有された塗工液を用いて、印刷適性に大きく影響する上側塗工層3が形成されているので、優れたクッション性を確保しつつ、塗工層の割れ等の発生を抑制したものとなり、印刷適性に優れたものとなる。また、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とした再生顔料凝集体を利用するので、環境保全に寄与することができる。
【0046】
なお、本発明は上記実施の形態に限定するものではない。例えば、下側塗工層2及び上側塗工層3は紙基材1の両面でなく片面のみに形成されてあってもよい。また、塗工層としては、下側塗工層2及び上側塗工層3の二層に限らず、それ以上の多層構造であってもよい。また、下側塗工層2が存在しない上側塗工層3のみの一層であってもよい。その場合、最表層を、塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において、その粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれている再生顔料凝集体が含有された塗工液で形成する。また、本発明の製造方法による印刷用塗工紙は、オフセット印刷などの各種の印刷用紙として用いることができる。
【0047】
以下に塗工層を2層設けた事例を基に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
まず、特開2002−275785号公報に記載の実施例1に準じて再生顔料凝集体を製造した。すなわち、まず原料(DIPフロス及び初沈汚泥)を準備したのち、脱水し、脱水物を得た。ついで、450℃で2時間、低酸素条件下で焼成処理し、さらに焼成温度650℃で2時間焼成した。その後、得られた焼成灰を粉砕機で粉砕して分級し、平均粒径5μmの再生顔料凝集体を得た。
【0049】
つぎに、顔料として再生顔料凝集体を全顔料(最表層塗工層形成用塗工液中の全顔料)100重量部に対して20重量部と、重質炭酸カルシウム(平均粒径1.4μm)を全顔料100重量部に対して50重量部と、クレー(平均粒径0.8μm)を全顔料100重量部に対して30重量部とを配合し、カチオン性バインダーとしてスチレン・ブタジエンラテックス(アクリロニトリル含有量:5重量%、Tg:−10℃、平均粒子径:130nm、ゲル含有量:85%)を全顔料100重量部に対して5重量部配合し、尿素リン酸澱粉を全顔料100重量部に対して5重量部配合し、アクリル酸・アクリルアミド共重合物を全顔料100重量部に対して0.08重量部配合して分散し、固形分濃度50%の上側用塗工液(最表層塗工層形成用塗工液)を調製した。
【0050】
一方、顔料として平均粒子径11μmの炭酸カルシウムを100重量部配合するとともに、ポリアクリル酸系分散剤として東亜合成化学社製のアロンT−40を0.1部と、スチレン−ブタジエン系ラテックスとして旭化成(株)製のL1301を9部と、リン酸エステル化澱粉として日本食品化工(株)製のMS4600を1.0部と、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.4部とを配合して固形分濃度60%の下側用塗工液を調製した。
【0051】
つづいて、下側用塗工液を、坪量62g/m2の原紙(紙基材)の両面に8g/m2の塗工量で塗工して乾燥し、原紙の両面に下側塗工層(下層)を形成した。続いて、上側用塗工液を、各下側塗工層の上に8g/m2の塗工量で塗工して乾燥し、上側層(最表層塗工層)を形成した。こうして目的とする印刷用塗工紙を製造した。実施例1の仕様を表1及び表2に示す。
【0052】
(実施例2〜10)
各例の仕様を表1及び表2に示す。これらの表に示した点以外は実施例1と同様にして実施例2〜10の印刷用塗工紙を製造した。
【0053】
(比較例1〜4)
各例の仕様を表1及び表2に示す。これらの表に示した点以外は実施例1と同様にして比較例1〜4の印刷用塗工紙を製造した。
【0054】
【表1】

【表2】

【0055】
なお、表1及び表2における各項目の意味は以下の通りである。
【0056】
部数(C)とは、全顔料(最表層塗工層中の全顔料)100重量部に対する再生顔料凝集体の重量部であり、部数(A)とは、全顔料(最表層塗工層中の全顔料)100重量部に対する重質炭酸カルシウムの重量部であり、部数(B)とは、全顔料(最表層塗工層中の全顔料)100重量部に対するクレーの重量部である。また、カチオン性バインダーの品種SBRとはスチレン・ブタジエンラテックスを意味し、アクリロニトリル含有量とは、スチレン・ブタジエンラテックス中におけるアクリロニトリルの含有量(重量%)であり、ゲル含有量とは、上述した数式(1)で求められる値(%)である。なお、表中には記載がないが、カチオン性バインダーであるスチレン・ブタジエンラテックスの配合量は実施例1〜10及び比較例1〜4のすべてにおいて5重量部(全顔料100重量部に対して5重量部)とした。また表中におけるエステル化澱粉の部数とは、最表層塗工層中の全顔料100重量部に対する重量部である。更に、アクリル酸・アクリルアミド共重合物の部数も、最表層塗工層中の全顔料100重量部に対する重量部である。
【0057】
また、表中における平均粒径あるいは平均粒子径は、リーズアンドノースロップ製マイクロトラック7995−30SPA型で測定した体積荷重平均粒子径を意味する。
【0058】
また、品質の評価方法は以下の通りである。
〔白紙光沢度〕:JIS P 8142に準拠し、角度75度で測定した。
【0059】
〔重さね印刷における光沢度〕:サンプルをローランドオフセット印刷機にて印刷し、一昼夜室温にて放置し、サンプルのブラック、マゼンタ、シアン、イエローの4色重ね刷りベタ印刷部について、60度の角度で光沢を測定した。(単位:%)。
【0060】
〔インク着肉性〕:RI印刷機(明製作所)を用いて市販酸化重合型印刷インキにより印刷し、印刷面の均一性と濃度を以下の基準により4段階評価で目視判定した。◎:非常に優れる、○:優れる、△:やや問題有り、×:問題有り。許容限度は△以上である。なお「○〜△」は、○評価と△評価とが混在していることを意味する。
【0061】
〔コーター操業性〕:上塗り塗液を紙基材上にブレードコーターを用いて塗抹し、コーターヘッド部のストリークの発生状況を観察し、4段階評価で目視判定した。許容限度は△以上である。ブレード塗工時のストリーク、スクラッチおよび塗工液の流動性を指標として、以下の基準で評価した。◎:極めて良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る。なお「○〜△」は、○評価と△評価とが混在していることを意味する。
【0062】
表に示すように、各実施例及び比較例の印刷用塗工紙に対し実際にオフセット印刷等を行い評価した結果、各評価項目を総合的に判断すると実施例は比較例よりも高い評価となった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施の形態に係る製造方法にて製造される印刷用塗工紙を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 紙基材
2 下側塗工層
3 上側塗工層(最表層塗工層)
T 印刷用塗工紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に顔料とカチオン性バインダーとを必須成分とする塗工層が形成された印刷用塗工紙の製造方法において、
前記顔料中には、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、
該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程を経ることにより得られ、
塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において下記組成とする
再生顔料凝集体を、塗工用顔料として少なくとも含有させ、該再生顔料凝集体を塗工する、ことを特徴とする、印刷用塗工紙の製造方法:
(組成)
前記塗工紙表面のX線マイクロアナライザーによる元素分析において、前記再生顔料凝集体の粒子構成成分に、酸化物換算で、アルミニウムとケイ素とカルシウムとが、8〜40:10〜40:20〜82の包含割合で含まれている。
【請求項2】
前記再生顔料凝集体において、酸化物換算の前記アルミニウムと前記ケイ素と前記カルシウムとの合計包含割合が、粒子構成成分の90重量%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塗工層中の前記再生顔料凝集体の平均粒径が、0.1〜10μmの範囲内に設定されており、
かつ、該塗工層中の該再生顔料凝集体の平均粒径が、該塗工層中の他の顔料の平均粒径よりも小さくなるように設定されている、請求項1又は2に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−119990(P2007−119990A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239565(P2006−239565)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【分割の表示】特願2005−310072(P2005−310072)の分割
【原出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【特許番号】特許第3905550号(P3905550)
【特許公報発行日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】