説明

印刷装置、その制御方法及びプログラム

【課題】解像度の異なるノズル列を有するものにおいて、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上する。
【解決手段】プリンター20は、複数のカラーのノズルが各1列づつ配列した複数のノズル列と、黒のノズルが配列した4列のノズル列とが形成されている印刷ヘッド34を備える。そして、印刷時に、1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、解像度の高いノズル列33K側から先にインクを吐出させる一方、1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには、ノズル列の順序にかかわらずにインクを吐出させる。即ち、1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、単方向印刷処理を実行する一方、1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには、双方向印刷処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、その制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置としては、無彩色インク(例えば黒インク)を吐出する無彩色用ノズル列と、有彩色インク(例えばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y))を吐出する有彩色用ノズル列とを用いて印刷画像における有彩色を含むカラー領域を形成すると共に、無彩色用ノズル列のみを用いて印刷画像における有彩色を含まないモノクロ領域を形成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−231930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に記載の装置では、印刷画質の向上と印刷処理に要する時間の増加の抑制との両立の点で改善の余地があった。ところで、印刷装置では、有彩色用ノズル列と無彩色用ノズル列との解像度が異なる印刷ヘッドを備えるものがある。このような場合、印刷方法によっては、印刷画質が低下してしまうということがあり、印刷画質の向上と印刷処理に要する時間の増加の抑制との両立の点で改善の余地があった。即ち、印刷処理時間の短縮や、印刷画質を向上することが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、解像度の異なるノズル列を有するものにおいて、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上することができる印刷装置、その制御方法及びプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の印刷装置は、
第1着色剤の吐出ノズルが配列し所定解像度を有する第1ノズル列と第2着色剤の吐出ノズルが配列し前記所定解像度よりも高解像度の第2ノズル列とが少なくとも形成された印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列に直交する方向に移動させる移動手段と、
前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列のうち少なくとも一方を用いて印刷する1パスの印刷データに含まれる前記着色剤の種別を判定する色判定手段と、
前記判定結果が前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには前記第2ノズル列側から先に前記第2着色剤を吐出するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御する印刷制御手段と、
を備えたものである。
【0008】
この印刷装置では、1パスの印刷データに含まれる着色剤の種別を判定し、判定結果が1パスにおいて第1及び第2着色剤を吐出するときには所定解像度よりも高解像度の第2ノズル列側から先に第2着色剤を吐出させる一方、判定結果が1パスにおいて第2着色剤のみを吐出するときにはノズル列の順序にかかわらずに第2着色剤を吐出させる。このように、解像度の異なるノズル列で1パスの印刷を行う際には、高解像度のノズル列から着色剤を吐出させるよう制御するのである。このため、例えば、着色剤の吐出順が入れ替わるなどして生じる印刷ムラを抑制することができる。また、1パスで第2着色剤のみを吐出する際には、ノズル列の順序に関わらず着色剤を吐出可能であるため、着色剤の吐出順を変える処理などを省略することが可能である。したがって、解像度の異なるノズル列を有するものにおいて、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上することができる。なお、前記印刷制御手段は、前記判定結果が前記1パスにおいて前記第2着色剤のみを吐出するときにはノズル列の順序にかかわらずに前記第2着色剤を吐出するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御するものとしてもよい。
【0009】
本発明の印刷装置において、前記印刷制御手段は、前記判定結果が前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには前記印刷ヘッドを単方向移動させる際に該第1及び第2着色剤を吐出する単方向印刷処理を実行するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御する一方、前記判定結果が前記1パスにおいて前記第2着色剤のみを吐出するときには前記印刷ヘッドを往復移動させる際に該第2着色剤を吐出する双方向印刷処理を実行するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御するものとしてもよい。こうすれば、単方向印刷と双方向印刷とを利用するため、より容易に、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上することができる。このとき、前記第2ノズル列は、前記所定解像度のn倍(nは正数)の解像度を有し、前記印刷制御手段は、前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには、前記印刷ヘッドの1回の単方向移動で前記第2ノズル列から前記第2着色剤を吐出させると共に、前記印刷ヘッドの前記n倍に基づく回数の単方向移動で前記第1ノズル列から前記第1着色剤を吐出させるよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御するものとしてもよい。
【0010】
本発明の印刷装置において、前記印刷ヘッドは、複数の有彩色の吐出ノズルが複数配列した複数の前記第1ノズル列と、無彩色の吐出ノズルが配列した複数の前記第2ノズル列とが形成されているものとしてもよい。こうすれば、無彩色のノズル列の解像度が高いため、文字や罫線などの印刷画質を向上することができる。
【0011】
本発明の印刷装置において、前記印刷ヘッドは、前記所定解像度の4倍(n=4)の解像度を有する複数の前記第2ノズル列が隣並びに形成されているものとしてもよい。各ノズル列の解像度の違いが大きくなるほど、例えば印刷ムラなどが生じやすいため、本発明を適用する意義が高い。
【0012】
本発明の印刷装置は、データを記憶するデータ記憶手段と、前記印刷データを取得する印刷データ取得手段と、前記取得した前記1パスの印刷データを解析し、該1パスの印刷データに含まれる色に関する色情報を設定した該印刷データを前記データ記憶手段に記憶させる色情報設定手段と、を備え、前記色判定手段は、前記記憶された色情報に基づいて前記1パスの印刷データに含まれる前記着色剤の種別を判定するものとしてもよい。こうすれば、印刷データを取得した際に各パスの印刷データに含まれる色の情報を解析するため、印刷時に、比較的容易に色判定を行うことができる。また、色情報を様々な形で利用することができる。
【0013】
本発明の印刷装置の制御方法は、
第1着色剤の吐出ノズルが配列し所定解像度を有する第1ノズル列と第2着色剤の吐出ノズルが配列し前記所定解像度よりも高解像度の第2ノズル列とが少なくとも形成された印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドを前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列に直交する方向に移動させる移動手段と、を備えた印刷装置の制御方法であって、
(a)前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列のうち少なくとも一方を用いて印刷する1パスの印刷データに含まれる前記着色剤の種別を判定するステップと、
(b)前記判定結果が前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには前記第2ノズル列側から先に前記第2着色剤を吐出するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御するステップと、
を含むものである。
【0014】
この印刷装置の制御方法では、上述した印刷装置と同様に、解像度の異なるノズル列で1パスの印刷を行う際には、高解像度のノズル列から着色剤を吐出させるよう制御するため、例えば、着色剤の吐出順が入れ替わるなどして生じる印刷ムラを抑制することができる。また、1パスで第2着色剤のみを吐出する際には、ノズル列の順序に関わらず着色剤を吐出可能であるため、着色剤の吐出順を変える処理を省略することができる。したがって、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上することができる。なお、この印刷装置の制御方法において、上述した印刷装置の種々の態様を採用してもよいし、また、上述した印刷装置の各機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【0015】
本発明のプログラムは、上述した印刷装置の制御方法の各ステップを1以上のコンピューターが実行するものである。このプログラムは、コンピューターが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピューターから別のコンピューターへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを一つのコンピューターに実行させるか又は複数のコンピューターに各ステップを分担して実行させれば、上述した印刷装置の制御方法の各ステップが実行されるため、この制御方法と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態であるプリンター20の構成の概略の一例を示す構成図。
【図2】印刷ヘッド34の構成の概略を示す構成図。
【図3】色情報解析処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図4】印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図5】各パスでの印刷ヘッドと印刷方式の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態であるプリンター20の構成の概略の一例を示す構成図であり、図2は、印刷ヘッド34の構成の概略を示す構成図である。本実施形態のプリンター20は、印刷処理を実行する印刷機構30と、メモリーカードMCとのデータのやりとりを行うメモリーカードコントローラー40と、装置全体をコントロールするメインコントローラー50とを備えている。
【0018】
印刷機構30は、ベルト37によりキャリッジ軸28に沿って左右(主走査方向)に往復動するキャリッジ31と、インクに圧力をかけノズル32からインク滴を吐出する印刷ヘッド34と、各色のインクを収容しこの収容したインクを印刷ヘッド34へ供給するカートリッジ35と、駆動モーター38により駆動され記録紙Sを搬送する搬送ローラー39とを備えている。キャリッジ31は、図1における筐体21の右側に取り付けられたキャリッジモーター36と筐体21の左側に取り付けられた従動ローラー36aとの間に架設されたベルト37がキャリッジモーター36によって駆動されるのに伴って移動する。印刷ヘッド34は、キャリッジ31の下部に設けられており、圧電素子に電圧をかけることによりこの圧電素子を変形させてインクを加圧する方式により、印刷ヘッド34の下面に設けられたノズル32から各色のインクを吐出するものである。なお、インクへ圧力をかける機構は、ヒーターの熱による気泡の発生によるものとしてもよい。カートリッジ35は、本体側に装着され、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)・ブラック(K)などの各色のインクを個別に収容しており、図示しないチューブを介して印刷ヘッド34へインクを供給する。
【0019】
メインコントローラー50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種処理プログラムを記憶しデータを書き換え可能なフラッシュメモリー53と、一時的にデータを記憶したりデータを保存したりするRAM54と、図示しないパソコン(PC)などの外部機器とのデータの入出力を行うインターフェイス(I/F)55と、印刷データの処理を行う印刷処理部60と、を備えている。フラッシュメモリー53には、後述する色情報解析処理プログラムや印刷処理プログラムなどの各処理プログラムが記憶されている。RAM54には、図示しない印刷バッファー領域が設けられており、PCからI/F55を介して印刷データを取得すると、一時的にこの印刷バッファー領域に格納する。このメインコントローラー50は、PCや、メモリーカードコントローラー40を介してメモリーカードMCなどから画像データを受信すると共に、印刷処理を実行するよう印刷機構30を制御する。
【0020】
印刷ヘッド34は、図2に示すように、CMYの各色のインクを個別に吐出可能なノズル32C,32M,32Yが記録紙Sの搬送方向(副走査方向)に沿って配置されたノズル列33C,33M,33Yと、ブラック(K)のインクを吐出可能なノズル32Kが副走査方向に沿って配置されたノズル列33K1,33K2とが形成されている。ここで、ノズル列33Cは、1つのノズル列C1からなり、ノズル列C1はそれぞれピッチが所定長さLとなるようにノズル32Cが配置されている。マゼンタ(M)のノズル列33Mおよびイエロー(Y)のノズル列33Yも同様に構成されている。本実施形態では、所定長さLはドットが150dpiの解像度となるように設定されており、カラーのノズル列33C,33M,33Yによって形成されるドットの解像度は150dpiとなる。なお、ノズル列C1のノズル32Cとノズル列M1のノズル32Mとは副走査方向に沿って千鳥(ジグザグ)になるよう配置され、そのピッチが所定長さLの半分の長さL/2となっている。また、ブラック(K)のノズル列33K1,33K2は、それぞれ2つのノズル列K11,K12および2つのノズル列K21,K22が隣並びに形成されている。さらに、ノズル列33K1のノズル32Kとノズル列33K2のノズル32Kとの副走査方向のピッチが長さL/2の半分の長さL/4となるよう配置されている。このため、ノズル列33K1によって形成されるドットとノズル列33K2によって形成されるドットとが副走査方向に交互に一列に並ぶように印刷を行なうことにより、ブラック(K)のドットの解像度は600dpiとなる。このように、印刷ヘッド34は、合計7列のノズル列を備え、CMYのドットの解像度が150dpi、Kのドットの解像度が600dpiとなるよう構成されている。即ち、CMYのノズル密度に比してKのノズル密度が4倍(n=4)高密度となっている。このように、印刷ヘッド34は、所定解像度(150dpi)を有するCMYのノズル32C,32M,32Yと、所定解像度のn倍(n=4)の解像度を有するKのノズル32Kとが形成されている。印刷ヘッド34では、図1の筐体21の左側にあるホームポジション側からキャリッジモーター36によって、ノズル列33に直交する方向(主走査方向)に移動を開始すると、解像度の高いノズル列33Kから先に、ノズル列33C,33M,33Yの順に記録紙Sに対してインクを吐出するよう構成されている。この印刷ヘッド34は、各ノズルに個々に設けられた圧電素子に電圧を印加して変形させ、これにより加圧されたインクが吐出されることで記録紙Sにドットを形成する。この印刷ヘッド34は、圧電素子の変形に応じて大ドット、中ドット及び小ドットを形成可能に構成されているが、本発明の主要部ではないことから、詳細な説明は割愛する。
【0021】
印刷処理部60は、図1に示すように、印刷データ取得部61やフラグ設定部62、記憶処理部63、色判定部64、印刷制御部65などを備えている。印刷データ取得部61は、印刷指令され、例えばI/F55から入力した印刷データを、印刷ヘッド34の移動により印刷を実行する1パス分の印刷データごとに取得する機能を有している。フラグ設定部62は、取得した1パスの印刷データを解析し、この1パスの印刷データに含まれる色が、黒単独であるか、カラーであるか、黒とカラーが混在しているか(以下混合色とも称する)を判定し、判定結果からフラグF(色情報)を設定する機能を有している。記憶処理部63は、各パスごとにフラグFを対応付けた印刷データをRAM54の印刷バッファー領域に格納する機能を有している。色判定部64は、印刷する1パスの印刷データに含まれるインク色の種別をフラグFにより判定する機能を有している。印刷制御部65は、印刷機構30を制御し、印刷処理を実行する機能を有している。この印刷制御部65は、色判定部64による判定結果が1パスにおいて混合色であるときにはノズル列33K側から先に黒インクを吐出させる一方、判定結果が1パスにおいて黒インクのみを吐出するとき、又は、カラーインクのみを吐出するときには、ノズル列33の順序にかかわらずに黒又はカラーインクを吐出するよう印刷ヘッド34及びキャリッジモーター36を制御するよう設定されている。即ち、この印刷制御部65は、1パスにおいて混合色を吐出するときには印刷ヘッド34を単方向移動させる際にインクを吐出する単方向印刷処理を実行する一方、1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには印刷ヘッド34を往復移動させる際にインクを吐出する双方向印刷処理を実行するよう印刷ヘッド34及びキャリッジモーター36を制御するよう設定されている。
【0022】
次に、こうして構成された本実施形態のプリンター20の動作、特に、PCから出力された印刷データを、プリンター20が印刷する処理について説明する。このプリンター20では、画像全体を単一の解像度(例えば300dpi)で印刷処理する定解像度モード印刷(通常モード)と、C,M,Y(カラー)の解像度(例えば300dpi)に比してK(黒)が2倍の解像度(600dpi)となる一部倍解像度モード印刷とを選択することができる。また、プリンター20では、印刷設定として、「はやい」、「きれい」などを設定可能であり、「はやい」を設定すると、ノズル列33の往復移動で共にインクを吐出する双方向印刷処理が選択され、「きれい」を設定すると、ノズル列33の単方向移動でインクを吐出する単方向印刷処理が選択される。ここでは、「一部倍解像度モード印刷」で「はやい」が選択された場合について説明する。図3は、プリンター20のCPU52が印刷処理部60を利用して実行する、色情報解析処理ルーチンの一例を示すフローチャートであり、図4は、CPU52が印刷処理部60を利用して実行する印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。この色情報解析処理ルーチンは、図示しないPCの印刷設定画面で、印刷条件を設定したあと、ユーザーにより印刷実行ボタンが押下されたのちに実行される。このルーチンは、CPU52が印刷データ取得部61、フラグ設定部62及び記憶処理部63の機能を利用して実行するものとする。
【0023】
このルーチンが実行されると、まず、CPU52は、受信した印刷データから1パス分の印刷データを取得し(ステップS100)、色解析処理を実行し(ステップS110)、入力したパスの解析結果を判定する(ステップS120)。色解析処理では、1パスの印刷データに、黒のみ含まれるか、カラーのみ含まれるか、黒とカラーとが混合しているか、あるいはデータなしか、を解析する。ここで、「1パス」とは、本明細書では、副走査方向のノズル列の1列分に相当する範囲をいうものとする。この印刷ヘッド34では、一部倍解像度モード印刷において、ノズル列33Kでは単方向に1回移動すれば600dpiの画像が形成可能であるが、カラーのノズル列33C,33M,33Yでは、1回の移動で150dpiの画像までしか形成されないことから、記録紙Sの搬送と更に1回の移動で300dpiの画像を形成する。このノズル列33Kでの単方向に1回移動と、ノズル列33C,33M,33Yでの2回の移動とにより画像形成される範囲、即ち副走査方向のノズル列33Kの1列分に相当する範囲を、本実施形態では「1パス」と称する。
【0024】
次に、CPU52は、ステップS120でデータなしと判定されたときは、色情報としてのフラグFに値「00h」を設定する(ステップS130)。また、ステップS120で、パスの印刷データには黒のみ含まれると判定されたときは、フラグFに値「01h」を設定する(ステップS140)。また、ステップS120で、パスの印刷データにはカラーのみ含まれると判定されたときは、フラグFに値「10h」を設定する(ステップS150)。また、ステップS120で、パスの印刷データには黒及びカラーが混合して含まれると判定されたときは、フラグFに値「11h」を設定する(ステップS160)。
【0025】
フラグFを設定すると、CPU52は、設定したフラグFを該当するパスの印刷データに対応付けてRAM54の印刷バッファー領域に記憶させる(ステップS170)。続いて、次のパスがあるか否かを判定し(ステップS180)、次のパスがあるときには、ステップS100以降の処理を繰り返して実行し、次のパスがないときには、そのままこのルーチンを終了する。このように、各パスには、そのパスに関する色情報としてのフラグFが設定される。
【0026】
次に、RAM54に格納した印刷データを印刷する処理について説明する。上述のように色情報解析処理ルーチンが実行されたあと、図4に示す、印刷処理ルーチンがCPU52により実行される。このルーチンは、CPU52が、印刷データ取得部61や色判定部64、印刷制御部65の機能を利用して実行するものとした。このルーチンが開始されると、CPU52は、RAM54の印刷バッファー領域から1パス分の印刷データを取得し(ステップS200)、このパスに対応付けられたフラグF値を調べる(ステップS210)。フラグFが「00h」,「01h」及び「10h」であるとき、即ち、混合以外の、データなし、黒のみ及びカラーのみであるときには、CPU52は、双方向印刷処理を実行するよう、1パス分の印刷データを印刷機構30へ出力すると共に、印刷ヘッド34やキャリッジモーター36、駆動モーター38などを制御する(ステップS220)。
【0027】
一方、フラグFが「11h」であるとき、即ち、混合であるときには、CPU52は、高解像度ノズル列(ノズル列33K)側から先にインクが吐出されるよう、1パス分の印刷データを印刷機構30へ出力すると共に、印刷ヘッド34やキャリッジモーター36、駆動モーター38などを制御する(ステップS230)。即ち、CPU52は、ホームポジション側から単方向印刷処理を実行するよう印刷機構30を制御する。この理由を以下に説明する。解像度の異なるノズル列を用いて印刷する場合、特に、4倍異なる解像度のノズル列を用いて、2倍異なる解像度の印刷処理を行うと、ノズル列33Kでは、1回の単方向移動で画像が形成されるのに対し、ノズル列33C,33M,33Yでは2回の移動で画像を形成する。その結果、印刷結果に色ムラが生じることがある。この理由は定かではないが、例えば、双方向印刷では、黒、カラー、カラーの順となったり、カラー、黒、カラーの順でインクが記録紙S上に形成されたりすることや、双方向印刷では折り返し部分でのインクの乾き度合いも異なることがあり、これらのいずれかにより色ムラが生じるものと推察される。ここでは、1パスで解像度の異なるインクを吐出する際には、解像度の高い黒インクから先に吐出させるようにすることで、色ムラの発生を抑制するのである。また、解像度が同じインクを吐出する際には、双方向印刷を行い、印刷時間を短縮させるのである。
【0028】
さて、ステップS220のあと、又はステップS230のあと、CPU52は、すべてのパスが終了したか否かを判定し(ステップS240)、すべてのパスが終了していないときには、ステップS200以降の処理を実行し、すべてのパスが終了したときには、そのままこのルーチンを終了する。このように、一部倍解像度モード印刷では、一部に単方向印刷処理を含めて双方向印刷を実行し、印刷画像を形成するのである。
【0029】
最後に、上述した印刷処理ルーチンの具体例を説明する。図5は、各パスでの印刷ヘッドと印刷方式の切替に関する説明図である。図5は、下方に記録紙Sが搬送され、記録紙Sの右側にホームポジションがある場合の模式図である。また、印刷ヘッド34では、1パスあたり最大2回のインク吐出に伴う印刷ヘッド34の移動があるが、図中右側に、印刷ヘッド34を示し、そのパスの1,2回目の移動で使用するノズル列を太線で示した。図5に示すように、黒インクのみを吐出するパスでは、1回のノズル列33Kの移動で画像形成が終了する。黒のみのパスが連続するときは、双方向印刷処理を行う(1,2パス目)。なお、印刷制御部65は、フラグFの値を用いて予め黒のみのパスが連続するか否かを判定し、黒のみのパスが連続する際には、印刷データを双方向用の並びにして印刷機構30へ出力するものとする。続いて、カラーインクのみを吐出するパスでは、1パス内で双方向にインク吐出を行う以外は、黒と同様に、双方向印刷処理を行う(3,4パス目)。このときも、印刷制御部65は、フラグFの値を用いて予めカラーのみのパスであるか否かを判定し、カラーのみのパスである際には、印刷データを双方向用の並びにして印刷機構30へ出力するものとする。一方、黒インク及びカラーインクを吐出する混合パスでは、1パスのインク吐出を単方向で2回行う処理を行う(5〜7パス目)。このときも、黒は1回の移動で1パスすべての画像を形成する。このように、1回の単方向でそのパスすべてを形成すると、縦線が途切れたり横線が消えたりすることなどを防止することができ、印刷画質が向上する。また、単方向印刷に統一するため、インクの重ね順が統一されるので、印刷ムラなどをより抑制することができる。
【0030】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の印刷ヘッド34が本発明の印刷ヘッドに相当し、キャリッジモーター36が移動手段に相当し、印刷データ取得部61が印刷データ取得手段に相当し、フラグ設定部62及び記憶処理部63が色情報設定手段に相当し、色判定部64が色判定手段に相当し、印刷制御部65が印刷制御手段に相当し、RAM54がデータ記憶手段に相当する。また、シアンインク(C),マゼンタインク(M)及びイエローインク(Y)が本発明の第1着色剤に相当し、ノズル32が吐出ノズルに相当し、ノズル列33C,33M,33Yが第1ノズル列に相当する。また、黒インク(K)が第2着色剤に相当し、ノズル列33Kが第2ノズル列に相当する。なお、本実施形態では、プリンター20の動作を説明することにより本発明の印刷装置の制御方法の一例も明らかにしている。
【0031】
以上詳述した本実施形態のプリンター20によれば、1パスの印刷データに含まれるインク色の種別を判定し、判定結果が1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、解像度の高いノズル列33K側から先にインクを吐出させる一方、判定結果が1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには、ノズル列の順序にかかわらずにインクを吐出させる。このように、解像度の異なるノズル列で1パスの印刷を行う際には、高解像度のノズル列から着色剤を吐出させるよう統一して制御するのである。このため、例えば、インクの吐出順が入れ替わるなどして生じる印刷ムラを抑制することができる。また、1パスで、黒インクのみ又はカラーインクを吐出する際には、ノズル列の順序に関わらずインクを吐出可能であり、インクの吐出順を変える処理を省略することが可能である。したがって、解像度の異なるノズル列を有するものにおいて、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上することができる。
【0032】
また、1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、単方向印刷処理を実行する一方、1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには、双方向印刷処理を実行するため、単方向印刷と双方向印刷とを利用することによって、より容易に、印刷処理時間の短縮をできるだけ図ると共に、印刷画質をより向上することができる。更に、印刷ヘッド34は、複数の有彩色(カラー)のノズルが各1列づつ配列した複数のノズル列33C,33M,33Yと、無彩色(黒)のノズルが配列した4列のノズル列33Kとが形成されているため、無彩色のノズル列の解像度が高く、文字や罫線などの印刷画質を向上することができる。更にまた、印刷ヘッド23は、ノズル列33C,33M,33Yに対して4倍(n=4)の解像度を有する複数のノズル列33Kが隣並びに形成されており、各ノズル列の解像度の違いが大きくなるほど、例えば印刷ムラなどが生じやすいため、本発明を適用する意義が高い。そして、印刷データを取得した際に各パスの印刷データに含まれる色の情報を解析するため、印刷時に、比較的容易に色判定を行うことができる。また、フラグFの値を様々な形で利用することができる。例えば、使用していないノズル列のみ、微振動を印加し、使用しないノズルでのインクの高粘度化を防止し、使用しないノズルを良好に保つことができる。または、使用していないノズル列のみ定期フラッシングを行うことで、従来よりもフラッシング時間を短縮することができる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、単方向印刷処理を実行する一方、1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには、双方向印刷処理を実行するものとしたが、特にこれに限定されない。例えば、1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、解像度の高いノズル列33K側から先にインクを吐出させる一方、1パスにおいて黒インクのみ又はカラーインクのみを吐出するときには、ノズル列の順序にかかわらずにインクを吐出させるものとすればよい。
【0035】
上述した実施形態では、1パスにおいてカラーインク及び黒インクを吐出するときには、印刷ヘッドの1回の単方向移動で黒インクを吐出させると共に、印刷ヘッド34の2回の単方向移動(n倍に基づく回数)でノズル列33C,33M,33Yからインクを吐出させるものとしたが、特にこれに限定されない。
【0036】
上述した実施形態では、複数の有彩色(カラー)のノズルが各1列づつ配列した複数のノズル列33C,33M,33Yと、無彩色(黒)のノズルが配列した複数のノズル列33Kとが形成されているものとしたが、解像度がn倍のノズル列を備えるものとすれば、特にこれに限定されない。なお、ドキュメントの印刷画質向上の際には、ノズル列33Kの解像度がn倍であることが好ましく、カラー写真の印刷画質向上の際には、ノズル列33C,33M,33Yの解像度がn倍であることが好ましい。なお、解像度のn倍は、4倍に限られず、2倍であっても、3倍であってもよい。
【0037】
上述した実施形態では、プリンター20が備えるフラグ設定部62などにより、印刷データのパスごとにフラグFを対応付けるものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、PCの印刷ドライバーで各パスにフラグFを対応付けた印刷データをプリンター20へ送信するものとしてもよい。この場合も、プリンター20では、色判定部64がフラグ値を判定し、双方向印刷か単方向印刷かを切り替えることができる。
【0038】
上述した実施形態では、無彩色の着色剤を黒インク、有彩色の着色剤をシアン、マゼンタ及びイエローインクとしたが、特にこれに限定されない。例えば、着色剤としては、インクに限られず、ゲルなどとしてもよい。また、無彩色は、灰色としてもよいし、有彩色は、赤、青、紫、橙などとしてもよい。また、印刷ヘッド34では7列のノズル列を備えるものとしたが、種々の色に対応する列数のノズル列を適宜設けるものとしてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、プリンター20を本発明の印刷装置として説明したが、原稿を読み取り可能なスキャナユニットを備えたマルチファンクションプリンターや、FAX機能を有するFAX装置としてもよい。更にまた、プリンター20の態様で説明したが、印刷装置の制御方法の態様としてもよいし、印刷装置の制御方法のプログラムの態様としてもよい。
【符号の説明】
【0040】
20 プリンター、21 筐体、28 キャリッジ軸、30 印刷機構、31 キャリッジ、32,32C,32M,32Y,32K ノズル、33,33C,33M,33Y,33K1,33K2,33K ノズル列、34 印刷ヘッド、35 カートリッジ、36 キャリッジモーター、36a 従動ローラー、37 ベルト、38 駆動モーター、39 搬送ローラー、40 メモリーカードコントローラー、50 メインコントローラー、52 CPU、53 フラッシュメモリー、54 RAM、55 インターフェイス(I/F)、60 印刷処理部、61 印刷データ取得部、62 フラグ設定部、63 記憶処理部、64 色判定部、65 印刷制御部、MC メモリーカード、S 記録紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1着色剤の吐出ノズルが配列し所定解像度を有する第1ノズル列と第2着色剤の吐出ノズルが配列し前記所定解像度よりも高解像度の第2ノズル列とが少なくとも形成された印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列に直交する方向に移動させる移動手段と、
前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列のうち少なくとも一方を用いて印刷する1パスの印刷データに含まれる前記着色剤の種別を判定する色判定手段と、
前記判定結果が前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには前記第2ノズル列側から先に前記第2着色剤を吐出するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御する印刷制御手段と、
を備えた印刷装置。
【請求項2】
前記印刷制御手段は、前記判定結果が前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには前記印刷ヘッドを単方向移動させる際に該第1及び第2着色剤を吐出する単方向印刷処理を実行するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御する一方、前記判定結果が前記1パスにおいて前記第2着色剤のみを吐出するときには前記印刷ヘッドを往復移動させる際に該第2着色剤を吐出する双方向印刷処理を実行するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御する、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記第2ノズル列は、前記所定解像度のn倍(nは正数)の解像度を有し、
前記印刷制御手段は、前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには、前記印刷ヘッドの1回の単方向移動で前記第2ノズル列から前記第2着色剤を吐出させると共に、前記印刷ヘッドの前記n倍に基づく回数の単方向移動で前記第1ノズル列から前記第1着色剤を吐出させるよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御する、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記印刷ヘッドは、複数の有彩色の吐出ノズルが複数配列した複数の前記第1ノズル列と、無彩色の吐出ノズルが配列した複数の前記第2ノズル列とが形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記印刷ヘッドは、前記所定解像度の4倍の解像度を有する複数の前記第2ノズル列が隣並びに形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷装置であって、
データを記憶するデータ記憶手段と、
前記印刷データを取得する印刷データ取得手段と、
前記取得した前記1パスの印刷データを解析し、該1パスの印刷データに含まれる色に関する色情報を設定した該印刷データを前記データ記憶手段に記憶させる色情報設定手段と、を備え、
前記色判定手段は、前記記憶された色情報に基づいて前記1パスの印刷データに含まれる前記着色剤の種別を判定する、印刷装置。
【請求項7】
第1着色剤の吐出ノズルが配列し所定解像度を有する第1ノズル列と第2着色剤の吐出ノズルが配列し前記所定解像度よりも高解像度の第2ノズル列とが少なくとも形成された印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドを前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列に直交する方向に移動させる移動手段と、を備えた印刷装置の制御方法であって、
(a)前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列のうち少なくとも一方を用いて印刷する1パスの印刷データに含まれる前記着色剤の種別を判定するステップと、
(b)前記判定結果が前記1パスにおいて前記第1及び第2着色剤を吐出するときには前記第2ノズル列側から先に前記第2着色剤を吐出するよう前記印刷ヘッド及び前記移動手段を制御するステップと、
を含む印刷装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載された印刷装置の制御方法の各ステップを1以上のコンピューターに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−223937(P2012−223937A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91805(P2011−91805)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】