説明

印刷装置、及び、印刷方法

【課題】時間や手間の低減を図りつつ、濃度むらを抑制する。
【解決手段】所定方向に複数のノズルが並ぶノズル列を有し、所定方向と交差する相対移動方向にノズル列と媒体を相対移動させつつノズル列からインクを吐出することによって、相対移動方向に複数のドットが並ぶドットラインを所定方向に複数形成するドット形成部と、ドット幅毎に作成された複数の補正テーブルであって、それぞれ、ドットラインに濃度補正値が対応付けられた複数の補正テーブルを記憶する記憶部と、ドット形成部によって媒体に形成されたドットのドット幅を検出する検出部と、を備え、或る媒体を用いたときの検出部の検出結果と、記憶部に記憶された複数の補正テーブルと、に基づいて、或る媒体に対する補正テーブルを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び、印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインクジェットプリンターのような印刷装置によって、媒体(例えば紙)に画像を形成すると、画像にスジ状の濃度むらが生じることがある。そこで、その印刷装置を用いてインク色毎に補正用パターンを印刷し、スキャナー等によって補正用パターンを読み取り、その結果得られた色情報に基づいて濃度補正値を算出して濃度の補正を行うことが行われている。このような補正として、例えば、ヘッドと媒体とが相対移動する方向に並ぶドットの列(後述するラスタライン)に濃度補正値を対応付けた補正テーブルを用いるものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−205691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷条件によって濃度むらの出方が異なることがある。例えば、媒体の種類が異なると、同じインク吐出量であっても形成されるドットの大きさ(ドット幅)が異なる可能性がある。この場合、濃度むらの出方が異なることになり、上述した補正テーブルを用いても、濃度むらを抑制することができないおそれがある。媒体毎に補正テーブルを用意することも考えられるが、媒体毎に補正テーブルを作成するのには時間や手間がかかる。
そこで、本発明は、時間や手間の低減を図りつつ、濃度むらを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、所定方向に複数のノズルが並ぶノズル列を有し、前記所定方向と交差する相対移動方向に前記ノズル列と媒体を相対移動させつつ前記ノズル列からインクを吐出することによって、前記相対移動方向に複数のドットが並ぶドットラインを前記所定方向に複数形成するドット形成部と、ドット幅毎に作成された複数の補正テーブルであって、それぞれ、ドットラインに濃度補正値が対応付けられた複数の補正テーブルを記憶する記憶部と、前記ドット形成部によって媒体に形成されたドットのドット幅を検出する検出部と、を備え、或る媒体を用いたときの前記検出部の検出結果と、前記記憶部に記憶された前記複数の補正テーブルとに基づいて、前記或る媒体に対する補正テーブルを作成することを特徴とする印刷装置である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】印刷システムの構成を示すブロック図である。
【図2】印刷領域周辺の概略構成図である。
【図3】ヘッドユニットの下面における複数のヘッドの配列の説明図である。
【図4】簡略説明用のヘッド配置とドット形成の様子の説明図である。
【図5】プリンタードライバーによる処理の説明図である。
【図6】図6Aは、理想的にラスタラインが形成されたときの様子の説明図である。図6Bは、濃度むらが発生したときの説明図である。図6Cは、濃度むらの発生が抑制された様子を示す図である。
【図7】補正値取得処理の流れを示す図である。
【図8】補正用パターンCPの説明図である。
【図9】サブパターンCSPについてラスタライン毎の算出濃度を示すグラフである。
【図10】図10Aは、第iラスタラインについて指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hbを算出する手順についての説明図である。図10Bは、第jラスタラインについて指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hbを算出する手順についての説明図である。
【図11】BRS補正テーブルを示す図である。
【図12】BRS補正の評価パターンの一例を示す図である。
【図13】色差式ΔE94の概念について説明するための図である。
【図14】評価パターンのサブパターン毎のΔE94の測定結果を示す図である。
【図15】複数のBRS補正テーブルを説明するための図である。
【図16】ドットサイズとBRS補正データの傾向を説明するための概略図である。
【図17】第1実施形態におけるBRS補正テーブル作成処理を示すフロー図である。
【図18】第1実施形態における保存BRS補正テーブルの説明図である。
【図19】各階調で作成されるBRS補正データの説明図である。
【図20】SMLテーブルにおけるドット発生率を示す図である。
【図21】第2実施形態における保存BRS補正テーブルの説明図である。
【図22】第2実施形態におけるBRS補正テーブル作成処理を示すフロー図である。
【図23】階調値毎の平均ドットサイズの算出結果を示す図である。
【図24】各階調で作成されるBRS補正データの説明図である。
【図25】SMLテーブルとBRS補正テーブル群の組み合わせを示す図である。
【図26】第3実施形態の全体処理を示すフロー図である。
【図27】SMLテーブル1で作成したBRS補正テーブルを示す図である。
【図28】第3実施形態における作成印刷対象媒体用のBRS補正テーブル作成処理を示すフロー図である。
【図29】各階調で作成されるBRS補正データの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
所定方向に複数のノズルが並ぶノズル列を有し、前記所定方向と交差する相対移動方向に前記ノズル列と媒体を相対移動させつつ前記ノズル列からインクを吐出することによって、前記相対移動方向に複数のドットが並ぶドットラインを前記所定方向に複数形成するドット形成部と、ドット幅毎に作成された複数の補正テーブルであって、それぞれ、ドットラインに濃度補正値が対応付けられた複数の補正テーブルを記憶する記憶部と、前記ドット形成部によって媒体に形成されたドットのドット幅を検出する検出部と、を備え、或る媒体を用いたときの前記検出部の検出結果と、前記記憶部に記憶された前記複数の補正テーブルとに基づいて、前記或る媒体に対する補正テーブルを作成することを特徴とする印刷装置が明らかになる。
このような印刷装置によれば、予め用意された複数の補正テーブルを用いて、各媒体の補正テーブルが自動的に作成されるので、媒体毎に補正テーブルを作成する必要がない。よって、時間や手間の低減を図りつつ、濃度むらを抑制することができる。
【0009】
かかる印刷装置であって、前記ドット形成部は、媒体に複数階調のパターンを形成し、前記検出部は、各階調毎に前記ドット幅を検出することが望ましい。
このような印刷装置によれば、各階調毎に適した補正を行うことができる。
【0010】
かかる印刷装置であって、各階調毎に前記ドット幅に応じた前記濃度補正値を算出することが望ましい。
このような印刷装置によれば、階調にかかわらずに濃度むらを抑制できるので、濃度むらをより抑制することができる。
【0011】
かかる印刷装置であって、前記ドット形成部は、単一サイズのドットを形成し、前記ドット幅は、前記単一サイズのドットのドット幅の平均値であってもよい。
このような印刷装置によれば、ドット幅の算出の精度を向上できる。
【0012】
かかる印刷装置であって、前記ドット形成部は、複数サイズのドットを形成し、前記ドット幅は、前記複数サイズの各ドットのドット幅の平均値を、前記複数サイズの各ドットの発生率で重み付けした加重平均値であってもよい。
このような印刷装置によれば、複数サイズのドットを用いる場合においてもドット幅と濃度補正値との整合性を高めることができる。
【0013】
かかる印刷装置であって、前記複数の補正テーブルは、前記複数サイズの各ドットの発生率を定めたドット発生テーブル毎に用意されていることが望ましい。
このような印刷装置によれば、媒体に応じてドット発生テーブルを選択することができるので、より確実に濃度むらを抑えることができる。
【0014】
かかる印刷装置であって、媒体に形成されたドットに光を照射する光源をさらに有し、前記インクは、光の照射によって硬化するインクであることが望ましい。
このような印刷装置によれば、インクが定着しにくい媒体にも印刷を行うことができる。つまり、印刷対象となる媒体の種類が多い。よって、この場合に、媒体毎に補正テーブルを用意しなくても良い(手間や時間を省ける)という効果が顕著になる。
【0015】
また、所定方向に複数のノズルが並ぶノズル列を有し、前記所定方向と交差する相対移動方向に前記ノズル列と媒体を相対移動させつつ前記ノズル列からインクを吐出することによって、前記相対移動方向に複数のドットが並ぶドットラインを前記所定方向に複数形成する印刷装置の印刷方法であって、ドット幅毎に作成された複数の補正テーブルであって、それぞれ、ドットラインに濃度補正値が対応付けられた複数の補正テーブルを記憶部に記憶することと、或る媒体に形成されたドットのドット幅を検出することと、前記或る媒体で検出されたドット幅と、前記記憶部に記憶された前記複数の補正テーブルとに基づいて、前記或る媒体に対する補正テーブルを作成することと、作成された補正テーブルを用いて前記或る媒体に印刷を行うことと、を有することを特徴とする印刷方法が明らかになる。
【0016】
===印刷システムについて===
図1を参照しつつ、媒体に画像を形成するための印刷システム100について概説する。図1は、印刷システム100の構成を示すブロック図である。
本実施形態の印刷システム100は、図1に示すように、プリンター1と、コンピューター110と、スキャナー120とを有するシステムである。
【0017】
プリンター1は、液体を媒体に吐出して該媒体にドットを形成する装置であり、本実施形態ではカラーインクジェットプリンターである。本実施形態のプリンター1は、光の一種である紫外線(以下、UV)の照射によって硬化する紫外線硬化型インク(以下、UVインク)を吐出することにより、媒体に画像を印刷する装置である。UVインクは、紫外線硬化樹脂を含むインクであり、UVの照射を受けると紫外線硬化樹脂において光重合反応が起こることにより硬化する。このようなUVインクを用いるプリンター1では、紙、布、フィルムシート等の多種の媒体に画像を印刷することが可能である。
なおプリンター1の構成については後述する。
【0018】
コンピューター110は、インターフェイス111と、CPU112と、メモリー113を有する。インターフェイス111は、プリンター1及びスキャナー120との間でデータの受け渡しを行う。CPU112は、コンピューター110の全体的な制御を行うものであり、当該コンピューター110にインストールされた各種プログラムを実行する。メモリー113は、各種のプログラムや各種のデータを記憶する。コンピューター110にインストールされたプログラムの中には、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換するためのプリンタードライバーや、スキャナー120を制御するためのスキャナードライバーがある。そしてコンピューター110は、プリンタードライバーによって生成された印刷データをプリンター1に出力する。
【0019】
スキャナー120(検出部に相当する)は、スキャナーコントローラー125と、読取部121とを有する。スキャナーコントローラー125は、インターフェイス122、CPU123、及びメモリー124を有する。インターフェイス122は、コンピューター110との間で通信を行う。CPU123は、スキャナー120の全体的な制御を行う。例えば読取部121を制御する。メモリー124は、コンピュータープログラム等を記憶する。読取部121は、例えばR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)に対応する不図示の3つのセンサー(CCDなど)を有する。
【0020】
以上の構成により、スキャナー120は、プリンター1によって画像の形成された媒体に光を照射し、その反射光を読取部121の各センサーにより検出し、前記媒体の画像を読み取って、当該画像の色情報を取得する。そして、インターフェイス122を介してコンピューター110のスキャナードライバーに向けて画像の色情報を示すデータ(読取データ)を送信する。本実施形態のスキャナー120は、プリンター1における媒体の搬送経路上に設けられており、媒体が搬送される際に当該媒体に印刷された画像を読み取るようになっている。また、本実施形態のスキャナー120は、媒体に形成されたドットのドットサイズ(ドット幅)の検出も行う(後述する)。
【0021】
なお、「印刷装置」とは、狭義にはプリンター1を意味するが、広義にはプリンター1とコンピューター110とスキャナー120のシステムを意味する。
【0022】
<プリンター1の構成>
次に、図1乃至図2を参照しながら、プリンター1の構成について説明する。図2は、印刷領域周辺の概略構成図である。
【0023】
プリンター1は、図1に示すように、ヘッドユニット20、搬送ユニット30、検出器群40、コントローラー50、及び照射ユニット60を有する。プリンター1がコンピューター110から印刷データを受信すると、コントローラー50が印刷データに基づいて各ユニット(ヘッドユニット20、搬送ユニット30、照射ユニット60)を制御して印刷媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群40によって監視されており、検出器群40は検出結果に応じた信号をコントローラー50に向けて出力する。コントローラー50は、検出器群40から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。なお、ヘッドユニット20及び搬送ユニット30はドット形成部に相当する。
【0024】
ヘッドユニット20は、媒体(例えば紙Sなど)にインク(本実施形態ではUVインク)を吐出するためのものである。ヘッドユニット20は、搬送中の媒体に対してインクを吐出することによって、媒体にドットを形成して画像を印刷する。本実施形態のプリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット20は紙幅分のドットを一度に形成することができる。
なお、ヘッドユニット20の構成の詳細については後述する。
【0025】
搬送ユニット30は、媒体を搬送方向に搬送させるためのものである。この搬送ユニット30は、上流側ローラー32A及び下流側ローラー32Bと、ベルト34とを有する。不図示の搬送モータが回転すると、上流側ローラー32A及び下流側ローラー32Bが回転し、ベルト34が回転する。給紙ローラー(不図示)によって給紙された媒体は、ベルト34によって、印刷可能な領域(ヘッドと対向する領域)まで搬送される。ベルト34が媒体を搬送することによって、媒体がヘッドユニット20に対して搬送方向に移動する。なお、搬送中の媒体は、ベルト34に静電吸着又はバキューム吸着されている。
【0026】
検出器群40には、ロータリー式エンコーダー(不図示)、紙検出センサー(不図示)などが含まれる。ロータリー式エンコーダーは、上流側ローラー32Aや下流側ローラー32Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダーの検出結果に基づいて、媒体の搬送量を検出することができる。紙検出センサーは、給紙中の媒体の先端の位置を検出する。
【0027】
コントローラー50は、CPU52によりユニット制御回路54を介してプリンター1の各ユニットを制御する。また、プリンター1は、記憶素子を備えたメモリー53(記憶部に相当する)を有し、当該メモリー53には、各ラスタラインの濃度を補正するための補正テーブル等が記憶されている。なお、補正テーブルの詳細については後述する。
【0028】
照射ユニット60は、媒体に着弾したUVインク(ドット)にUVを照射するためのものである。本実施形態のプリンター1では、照射ユニット60として、例えばランプなどのUV照射の光源(不図示)を有している。照射ユニット60は、ヘッドユニット20よりも搬送方向下流に設けられている。このため、媒体上に形成されたドット(UVインクによって形成されたドット)は、媒体が搬送方向に搬送される際に、照射ユニット60からUVの照射を受けることによって硬化する。
【0029】
<印刷処理について>
このようなプリンター1では、コントローラー50が印刷データを受信すると、コントローラー50は、まず、搬送ユニット30によって給紙ローラー(不図示)を回転させ、印刷すべき媒体(例えば、紙S)をベルト34上に送る。紙Sはベルト34上を一定速度で停まることなく搬送され、ヘッドユニット20の下を通る。ヘッドユニット20の下を媒体が通る間に、ヘッドの各ノズルからインクが断続的に吐出される。つまり、ドットの形成処理と媒体の搬送処理が同時に行われる。その結果、紙S上には搬送方向及び紙幅方向に沿った複数のドットからなる画像が印刷される。ドットの形成された紙Sは、次に照射ユニット60の下を通る。コントローラー50は、このとき照射ユニット60の光源からUVを照射させる。これにより紙Sに形成されたドットは硬化して媒体に定着する。
そして、最後にコントローラー50は、画像の印刷が終了した紙Sを排紙する。
【0030】
===ヘッドユニットについて===
図3は、ヘッドユニット20の下面における複数のヘッドの配列の説明図である。図に示すように、搬送方向と交差する方向(紙幅方向)に沿って、複数のヘッド23が千鳥列状に並んでいる。本実施形態では、ヘッドユニット20は、説明の簡略化のため、3個のヘッド(第1ヘッド23A、第2ヘッド23B、第3ヘッド23C)から構成されているものとする。各ヘッドには、ブラックインクノズル列、シアンインクノズル列、マゼンタインクノズル列及びイエローインクノズル列がそれぞれ形成されている。各ノズル列は、インクを吐出するノズルを複数個備えている。各ノズル列の複数のノズルは、紙幅方向に沿って、一定のノズルピッチで並んでいる。
【0031】
図4は、簡略説明用のヘッド配置とドット形成の様子の説明図である。説明の簡略化のため、各ヘッドのある色のノズル列(例えばイエローインクノズル列)についてのみ示している。更に説明を簡略化するため、各ヘッドのノズル列に備えられているノズルは12個であることとする。これらの各ノズルによって、ヘッドと媒体とが相対移動する方向に並ぶドットの列(ドットライン)が形成される。このドットの列のことを「ラスタライン」と呼ぶ。本実施形態のようなラインプリンターの場合、「ラスタライン」は、紙の搬送方向に並ぶドットの列を意味する。なお、キャリッジに搭載されたヘッドによって印刷するシリアルプリンターの場合、「ラスタライン」は、キャリッジの移動方向に並ぶドットの列を意味する。以下、図に示すように、n番目の位置にあるラスタラインのことを「第nラスタライン」と呼ぶ。
【0032】
図に示すように、各ヘッドのノズル列は、第1ノズル群231と第2ノズル群232とを備えている。各ノズル群は、例えば1/180インチ間隔で紙幅方向に並ぶ6個のノズルから構成されている。第1ノズル群411と第2ノズル群412は、紙幅方向に1/360インチだけずれて構成されている。これにより、各ヘッドのノズル列は、紙幅方向に関して1/360インチの間隔で並ぶ12個のノズルから構成されたノズル列となっている。各ヘッドのノズル列に対して、図中の上から順に、番号を付している。
【0033】
図4の各ノズルから断続的にインク滴が搬送中の媒体に吐出されることによって、媒体に36個のラスタラインが形成される。例えば、第1ヘッド23Aのノズル♯1Aは第1ラスタラインを媒体上に形成し、第2ヘッド23Bのノズル♯1Bは第13ラスタラインを媒体上に形成する。また、第3ヘッド23Cのノズル#1Cは第25ラスタラインを媒体上に形成する。各ラスタラインは、搬送方向に沿って形成される。このように、本実施形態において、各ラスタラインはそれぞれ各ヘッドの一つのノズルと対応している。
【0034】
なお、以下の説明において、第1ヘッド23Aによって印刷される領域(第1ラスタライン〜第12ラスタライン)のことをバンド1ともいう。また、第2ヘッド23Bによって印刷される領域(第13ラスタライン〜第24ラスタライン)のことをバンド2、及び、第3ヘッド23Cによって印刷される領域(第25ラスタライン〜第36ラスタライン)のことをバンド3ともいう。また、各バンド(バンド1、バンド2、バンド3)の境界部分(例えば、第12、第13ラスタライン付近)をつなぎ目ともいう。
【0035】
===プリンタードライバーによる処理の概要===
上記の印刷処理は、前述したように、プリンター1に接続されたコンピューター110から印刷データが送信されることにより開始する。当該印刷データは、プリンタードライバーによる処理により生成される。以下、プリンタードライバーによる処理について、図5を参照しながら説明する。図5は、プリンタードライバーによる処理の説明図である。
【0036】
印刷データは、図5に示すように、プリンタードライバーによって解像度変換処理(S011)、色変換処理(S012)、ハーフトーン処理(S013)、及び、ラスタライズ処理(S014)が実行されることにより生成される。
【0037】
先ず、解像度変換処理では、アプリケーションプログラムの実行により得られたRGB画像データの解像度が、指定された画質に対応する印刷解像度に変換される。次に、色変換処理では、解像度が変換されたRGB画像データがCMYK画像データに変換される。ここで、CMYK画像データとは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及び、ブラック(K)の色別の画像データを意味する。そして、CMYK画像データを構成する複数の画素データは、それぞれ256段階の階調値で表される。この階調値は、RGB画像データに基づいて定められるものであり、以下指令階調値ともいう。
【0038】
次に、ハーフトーン処理では、画像データを構成する画素データが示す多段階の階調値が、プリンター1で表現可能な少段階のドット階調値に変換される。すなわち、画素データが示す256段階の階調値が、4段階のドット階調値に変換される。具体的には、ドット階調値[00]に対応するドットなし、ドット階調値[01]に対応する小ドットの形成、ドット階調値[10]に対応する中ドットの形成、及び、ドット階調値[11]に対応する大ドットの形成の4段階に変換される。その後、各ドットのサイズについてドット生成率(ドット発生率)が決められた上で、ディザ法・γ補正・誤差拡散法等を利用して、プリンター1がドットを分散して形成するように画素データが作成される。
【0039】
次に、ラスタライズ処理では、ハーフトーン処理で得られた画像データに関し、各ドットのデータ(ドット階調値のデータ)が、プリンター1に転送すべきデータ順に変更される。そして、ラスタライズ処理されたデータは、印刷データの一部として送信される。
【0040】
===濃度むらの抑制===
次に、上記のプリンター1を用いて印刷する画像に生じる濃度むらと、当該濃度むらを抑制する方法について説明する。
以下の説明のため、「画素領域」と「列領域」を設定する。画素領域とは、媒体上に仮想的に定められた矩形状の領域を指し、印刷解像度に応じて大きさや形が定められる。そして、1つの画素領域には、画像データを構成する1つの「画素」が対応する。また、「列領域」とは、搬送方向に並ぶ複数の画素領域によって構成される媒体上の領域とする。1つの列領域には、データ上において搬送方向と対向する方向に画素が並んだ「画素列」が対応する。
【0041】
<濃度むらについて>
先ず、濃度むらについて図面を参照しながら説明する。図6Aは、理想的にドットが形成されたときの様子の説明図である。理想的にドットが形成されるとは、画素領域の中心位置にインク滴が着弾し、そのインク滴が媒体上に広がって、画素領域にドットが形成されることである。各ドットが各画素領域に正確に形成されると、ラスタライン(搬送方向にドットが並んだドット列)が列領域に正確に形成される。
【0042】
図6Bは、濃度むらが発生したときの説明図である。2番目の列領域に形成されたラスタラインは、ノズルから吐出されたインク滴の飛行方向のばらつきにより、3番目の列領域側に寄って形成されている。その結果、2番目の列領域は淡くなり、3列目の列領域は濃くなる。また、5番目の列領域に吐出されたインク滴のインク量は規定のインク量よりも少なく、5番目の列領域に形成されるドットが小さくなっている。その結果、5列目の列領域は淡くなる。
【0043】
このように濃淡の違うラスタラインからなる印刷画像を巨視的に見ると、搬送方向に沿う縞状の濃度むらが視認される。この濃度むらは、印刷画像の画質を低下させる原因となる。
【0044】
<濃度むらの抑制方法について>
以上のような濃度むらを抑制するための方策としては、画素データの階調値(指令階調値)を補正することが考えられる。つまり、濃く(淡く)視認され易い列領域に対しては、淡く(濃く)形成されるように、その列領域を構成する単位領域に対応する画素データの階調値を補正すればよい。このため、ラスタライン毎に画素データの階調値を補正する濃度補正値Hを算出することになる。この濃度補正値Hは、プリンター1の濃度むら特性を反映した値である。
【0045】
ラスタライン毎の濃度補正値Hが算出されていれば、ハーフトーン処理の実行に際してプリンタードライバーによって、その濃度補正値Hに基づいてラスタライン毎に画素データの階調値を補正する処理が行われる。この補正処理により補正された階調値で各ラスタラインが形成されると、当該ラスタラインの濃度が補正される結果、図6Cに示すように、印刷画像における濃度むらの発生が抑制されることになる。図6Cは、濃度むらの発生が抑制された様子を示す図である。
【0046】
例えば、図6C中では、淡く視認される2番目と5番目の列領域のドット生成率が高くなり、濃く視認される3番目の列領域のドット生成率が低くなるように、各列領域に対応する画素の画素データの階調値が補正される。このように、各列領域のラスタラインのドット生成率が変更され、列領域の画像片の濃度が補正されて、印刷画像全体の濃度むらが抑制される。
【0047】
<濃度補正値Hの算出について>
次に、ラスタライン毎の濃度補正値Hを算出する処理(以下、補正値取得処理ともいう)について概説する。補正値取得処理は、例えば、プリンター1の製造工場の検査ラインにおいて、補正値算出システム200の下で行われる。補正値算出システムとは、プリンター1の濃度むら特性に応じた濃度補正値Hを算出するためのシステムであり、上記の印刷システム100と略同様の構成である。つまり、補正値算出システムは、プリンター1、コンピューター110、及び、スキャナー120(便宜上、印刷システム100の場合と同一の符号にて表記する)を有する。
【0048】
プリンター1は、補正値取得処理の対象機器であり、該プリンター1を用いて濃度むらがない画像を印刷するためには、前記補正値取得処理において該プリンター1用の濃度補正値Hを算出することになる。なお、プリンター1の構成等については、既述のため省略する。検査ラインに置かれたコンピューター110には、該コンピューター110が補正値取得処理を実行するための補正値算出プログラムがインストールされている。
【0049】
以下、補正値取得処理の概略手順について図7を参照しながら説明する。図7は、補正値取得処理の流れを示す図である。なお、本実施形態のように多色印刷が可能なプリンター1を対象とする場合、各インク色についての補正値取得処理は同様の手順により実施される。以下の説明では、一のインク色(例えば、イエロー)についての補正値取得処理について説明する。
【0050】
先ず、コンピューター110が印刷データをプリンター1に送信し、既述の印刷動作と同様の手順により、プリンター1が補正用パターンCPを媒体に形成する(S021)。この補正用パターンCPは、図8に示すように、5種類の濃度のサブパターンCSPで形成される。なお、図8は補正用パターンCPの説明図である。
【0051】
各サブパターンCSPは、帯状パターンであり、搬送方向に沿うラスタラインが紙幅方向に複数並ぶことにより構成される。また、各サブパターンCSPは、それぞれ一定の階調値(指令階調値)の画像データから生成されたものであり、図8に示すように、左のサブパターンCSPから順に濃度が濃くなっている。この各サブパターンCSPに対する指令階調値を左から順にSa、Sb、Sc、Sd、Se(Sa<Sb<Sc<Sd<Se)と表記する。そして、例えば、指令階調値Saにて形成されたサブパターンCSPを、図8に示すように、CSP(1)と表記する。同様に、指令階調値Sb、Sc、Sd、Seにて形成されたサブパターンCSPを、それぞれCSP(2)、CSP(3)、CSP(4)、CSP(5)と表記する。
【0052】
次に、コンピューター110は、スキャナー120に補正用パターンCPを読み取らせ、その結果を取得する(S022)。スキャナー120は、前述したようにR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)に対応する3つのセンサーを有しており、補正用パターンCPに光を照射し、その反射光を各センサーによって検出する。なお、コンピューター110は、補正用パターンを読み取った画像データ上において、搬送方向に相当する方向に画素が並んだ画素列数と、補正用パターンを構成するラスタライン数(列領域数)が、同数になるように調整する。つまり、スキャナー120にて読み取った画素列と列領域を一対一で対応させる。そして、ある列領域と対応する画素列の各画素が示す読取階調値の平均値を、その列領域の読取階調値とする。
【0053】
次に、コンピューター110は、スキャナー120によって取得された読取階調値に基づいて、各サブパターンCSPのラスタライン(換言すると列領域)の濃度を算出する(S023)。以下、読取階調値に基づいて算出された濃度のことを算出濃度ともいう。
【0054】
図9は、指令階調値がSa、Sb、ScのサブパターンCSPについてラスタライン毎の算出濃度を示すグラフである。図9の横軸は、ラスタラインの位置を示し、縦軸は、算出濃度の大きさを示している。図9に示すように、各サブパターンCSPは、それぞれ同一の指令階調値で形成されたにも関わらずラスタラインに濃淡が生じている。このラスタラインの濃淡差が、印刷画像の濃度むらの原因である。
【0055】
次に、コンピューター110は、各ラスタラインの濃度補正値Hを算出する(S024)。なお、濃度補正値Hは、指令階調毎に算出される。以下、指令階調Sa、Sb、Sc、Sd、Seについて算出された濃度補正値HのことをそれぞれHa、Hb、Hc、Hd、Heとする。濃度補正値Hの算出手順を説明するために、指令階調値SbのサブパターンCSP(2)のラスタラインの算出濃度が一定になるように指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hbを算出する手順を例に挙げて説明する。当該手順では、例えば、指令階調値SbのサブパターンCSP(2)における全ラスタラインの算出濃度の平均値Dbtを、指令階調値Sbの目標濃度として定める。図9において、この目標濃度Dbtよりも算出濃度が淡い第iラスタラインでは、指令階調値Sbを濃くする方へ補正すれば良い。一方、目標濃度Dbtよりも算出濃度が濃い第jラスタラインでは、指令階調値Sbを淡くする方へ補正すれば良い。
【0056】
図10Aは第iラスタラインについて指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hbを算出する手順についての説明図である。また図10Bは、第jラスタラインについて指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hbを算出する手順についての説明図である。図10A及び図10Bの横軸は指令階調値の大きさを示し、縦軸は算出濃度を示している。
【0057】
第iラスタラインの指令階調値Sbに対する濃度補正値Hbは、図10Aに示す指令階調値SbのサブパターンCSP(2)における第iラスタラインの算出濃度Db、及び、指令階調値ScのサブパターンCSP(3)における第iラスタラインの算出濃度Dc、に基づいて算出される。より具体的には、指令階調値SbのサブパターンCSP(2)では、第iラスタラインの算出濃度Dbが目標濃度Dbtよりも小さくなっている。換言すると、第iラスタラインの濃度は平均濃度よりも淡くなっている。仮に、第iラスタラインの算出濃度Dbが目標濃度Dbtと等しくなるように該第iラスタラインを形成したいのであれば、該第iラスタラインに対応する画素データの階調値、すなわち、指令階調値Sbを、図10Aに示すように、第iラスタラインにおける指令階調値及び算出濃度の対応関係(Sb,Db)、(Sc,Dc)から直線近似を用いて、下記式(1)により算出される目標指令階調値Sbtまで補正すればよい。
Sbt=Sb+(Sc−Sb)×{(Dbt−Db)/(Dc−Db)}・・(1)
そして、指令階調値Sbと目標指令階調値Sbtから、下記式(2)により、第iラスタラインについて指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hが求められる。
Hb=ΔS/Sb=(Sbt−Sb)/Sb・・(2)
【0058】
一方、第jラスタラインの指令階調値Sbに対する濃度補正値Hbは、図10Bに示す指令階調値SbのサブパターンCSP(2)における第jラスタラインの算出濃度Db、及び、指令階調値SaのサブパターンCSP(1)における第jラスタラインの算出濃度Da、に基づいて算出される。具体的には、指令階調値SbのサブパターンCSP(2)では、第jラスタラインの算出濃度Dbが目標濃度Dbtよりも大きくなっている。仮に、第jラスタラインの算出濃度Dbが目標濃度Dbtと等しくなるように該第jラスタラインを形成したいのであれば、該第jラスタラインの指令階調値Sbを、図10Bに示すように、第jラスタラインにおける指令階調値及び算出濃度の対応関係(Sa,Da)、(Sb,Db)から直線近似を用いて、下記式(3)により算出される目標指令階調値Sbtまで補正すればよい。
Sbt=Sb+(Sb−Sa)×{(Dbt−Db)/(Db−Da)}・・(3)
そして、上記式(2)により、第jラスタラインについて指令階調値Sbを補正するための濃度補正値Hbが求められる。
【0059】
以上のようにして、コンピューター110は、ラスタライン毎に、指令階調値Sbに対する濃度補正値Hbを算出する。同様に、指令階調値Sa、Sc、Sd、Seに対する濃度補正値Ha、Hc、Hd、Heを、それぞれラスタライン毎に算出する。また、他のインク色についても、ラスタライン毎に、指令階調値Sa〜Seの各々に対する濃度補正値Ha〜Heを算出する。
【0060】
その後、コンピューター110は、濃度補正値Hのデータをプリンター1に送信し、プリンター1のメモリー53に記憶させる(S025)。この結果、プリンター1のメモリー53には、ラスタライン毎に5つの指令階調値Sa〜Seの各々に対する濃度補正値Ha〜Heをまとめた補正テーブル(以下、BRS補正テーブルともいう)が作成される。
【0061】
図11は、メモリー53に記憶されたBRS補正テーブルを示す図である。前述した補正値取得処理をインク色毎に行うことによって、図11に示すように、BRS補正テーブルはインク色別に作成される。この結果、CMYK4色分のBRS補正テーブルが形成される。このBRS補正テーブルは、プリンター1を用いて画像を印刷する際に、当該画像の画像データを構成する各ラスタラインの階調値を補正するためにプリンタードライバーによって参照される。
【0062】
補正値取得処理が完了した後、プリンター1は、他の検査工程を経た後に梱包されて出荷される。そして、当該プリンター1の購入者(ユーザー)の下で画像を印刷する際には、濃度補正値Hによって補正された濃度の画像が印刷されることになる。
【0063】
例えば、ユーザーのコンピューター110のプリンタードライバーは、各画素データの階調値(以下、補正前の階調値をSinとする)を、その画素データが対応するラスタラインの濃度補正値Hに基づいて補正する(以下、補正後の階調値をSoutとする)。
【0064】
具体的には、あるラスタラインの階調値Sinが指令階調値Sa、Sb、Sc、Sd、Seの何れかと同じであれば、コンピューター110のメモリーに記憶されている濃度補正値Hをそのまま用いることができる。例えば画素データの階調値Sin=Sbであれば、補正後の階調値Soutは次式によって求められる。
Sout=Sb×(1+Hb)・・・・(4)
【0065】
一方、画素データの階調値が指令階調値Sa、Sb、Sc、Sd、Seと異なる場合、その周囲の指令階調値の濃度補正値を用いた補間に基づいて補正値を算出する。例えば指令階調値Sinが指令階調値Sbと指令階調値Scとの間の場合、指令階調値Sbの濃度補正値Hb、及び指令階調値Scの濃度補正値Hcを用いた線形補間により求めた補正値をH´とすると、指令階調値Sinの補正後の階調値Soutは次式によって求められる。
Sout=Sin×(1+H´)・・・・(4)´
こうして、ラスタラインごとに濃度補正処理が行なわれる。
【0066】
===BRS補正による効果の評価例===
<評価パターンについて>
図12は、BRS補正の評価パターンの一例を示す図である。
この評価パターンは、プリンター1によって媒体上に印刷されるものであり、補正用パターンCPと同様に複数の帯状のサブパターンによって形成される。
各サブパターンは、搬送方向に沿うラスタラインが紙幅方向に複数並ぶことにより構成される。また、各サブパターンは所定の階調値の画像データから生成されている。図に示すように左から順にシアン、マゼンタ、イエロー、グレー、ブルー、グリーン、レッドのサブパターンが形成されている。
【0067】
<評価指標について>
コンピューター110は、前述した評価パターンを例えばスキャナー120などで読み取らせることにより、サブパターン毎について濃度むらの評価を行う。
【0068】
本実施形態では、濃度むらの評価指標として、色差式ΔE94を用いる。ΔE94は以下の式にて表される。

ΔE94=√{(ΔH*/Sh)+(ΔL*/SL)+(ΔC*/Sc)}・・・(5)

なお、L*、C*、H*は、それぞれ、L***表示系の明度、彩度、色相である。また、SL=1、Sc=1+0.045C*、Sh=1+0.015C*である。
【0069】
図13は、色差式ΔE94の概念について説明するための図である。
各ヘッドのノズルを用いて媒体に印刷を行うと、前述したように媒体の列領域にそれぞれノズルに対応したラスタラインが形成される。これをスキャナー120で読み取ることにより各ラスタラインに対応する画素列の濃度を示すRGB値が画素列毎に得られる。本実施形態では、RGB値は、L***表示系の成分(以下、Lab値)に変換される。全ラスタラインのLab値の平均を(L*,a*,b*)、第nラスタラインのLab値を(L*,a*,b*)とすると、Lab値の平均と第nラスタラインのLab値との色差はL***空間の2点間の距離で表される。例えば、第1ラスタラインのLab値を(L*,a*,b*)とすると、平均値(L*,a*,b*)との色差ΔEは、

ΔE=√{(L*−L*)+(a*−a*)+(b*−b*)}・・・(6)

となる。同様にして、平均値(L*,a*,b*)と第nラスタラインのLab値との色差ΔEをそれぞれ求める。これらの色差(本実施形態の場合ΔE〜ΔE36)をさらに平均した値がΔE94に相当する。
【0070】
従って、上記の関係からわかるように、濃度むらが大きいほど(各ラスタラインのLab値のばらつきが大きいほど)ΔE94の値は大きくなる。逆に、濃度むらが小さいほど(各ラスタラインのLab値のばらつきが小さいほど)ΔE94の値は小さくなる。
【0071】
なお、評価指標は上述したものには限定されない。例えば、各ラスタラインの平均値ではなく、絶対値(目標値)を定めておき、その絶対値と各ラスタラインの値との色差を求めるようにしてもよい。
【0072】
<評価結果について>
図14は、評価パターンのサブパターン毎のΔE94の測定結果を示す図である。
図14の横軸は、各色のサブパターンを示している。また、図14の縦軸は、ΔE94の大きさを示している。また、各サブパターンのグラフおいて斜線(右側)は補正していない場合を示し、白色(左側)は補正テーブルで補正を行った場合を示している。
【0073】
前述したように、各ラスタラインの濃度むらが大きいほどΔE94の値が大きく、濃度むらが小さいほどΔE94の値が小さい。例えば図より、グレーのサブパターンでは濃度むらが大きく、イエローのサブパターンでは濃度むらが小さいことがわかる。
また、各サブパターンにおいて、補正していない場合よりも補正を行なった方がΔE94の値が小さい。つまり、各サブパターンで、濃度むらが改善されていることがわかる。
ただし、本実施形態のように印刷対象の媒体が多種類(例えば数百種類)もあるプリンターでは、媒体毎にBRS補正テーブルを作成するのはコスト的及び時間的観点から困難である。一方、媒体に対応したBRS補正テーブルを使用しないと、濃度むらが発生し、画質が劣化するおそれがある。
そこで、本実施形態では、予め複数のBRS補正テーブルを作成しておき、そのBRS補正テーブルを用いて、未知の媒体に対するBRS補正テーブルを新たに作成するようにしている。
【0074】
===用語の定義について===
本実施形態について説明する前に、以下の実施形態で使用する用語の定義について説明する。
ある階調値における各ラスタラインの補正値(例えば、図11においてラスタラインに対応付けられた濃度補正値Haの各データ)のことをBRS補正データという。
また、複数の階調値におけるBRS補正データをまとめたテーブル(例えば、図11のシアンインクについてのテーブル)をBRS補正テーブルという。(本実施形態では、5つの階調値についてのBRS補正テーブルを作成している)。
また、前述した補正値算出システム200によって予め作成されて、プリンター1のメモリー53に保存(記憶)されたBRS補正テーブルのことを保存BRS補正テーブルともいう(本実施形態では、後述するように、ドットサイズを変えたもの、SMLテーブルを変えたものなどがある)。
【0075】
また、ドットの種類(例えば、小ドット、中ドット、大ドット)毎の各ドットサイズとその割合から求めたドットサイズのことを平均ドットサイズという。平均ドットサイズdaveは、以下の式(7)で求められる。
dave=ds×Ps+dm×Pm+dl×Pl・・・・(7)
なお、式(7)において、dsは小ドットサイズ、dmは中ドットサイズ、dlは大ドットサイズ(いずれも平均値)である。また、Psは小ドットの割合(%)、Pmは中ドットの割合(%)、Plは大ドットの割合(%)である(Ps+Pm+Pl=100%)。
【0076】
===第1実施形態===
第1実施形態では、単一ドット(例えば中ドット)のみを用いる。なお、本実施形態では、例えば、媒体の種類を変えて前述した補正値取得処理を行うことによって、予めBRS補正テーブルをドットサイズ毎に複数用意している。
【0077】
図15は、複数のBRS補正テーブルを説明するための図である。本実施形態では、図に示すように、5種類のBRS補正テーブル(T1〜T5)が作成されている。各補正テーブルは、インク色毎に作成されており、指令階調値Sa〜Seの各々に対する濃度補正値Ha〜Heがラスタライン毎に定められている。これらのBRS補正テーブルT1〜T5はプリンター1のメモリー53に保存(記憶)されている。
【0078】
なお、前述したように、これらのBRS補正テーブルT1〜T5では、テーブル作成時のドットサイズが異なる。例えば、BRS補正テーブルT1〜T5の作成時のドットサイズは、それぞれd1、d2、d3、d4、d5である(d1<d2<d3<d4<d5)。
【0079】
図16は、ドットサイズとBRS補正データの傾向を説明するための概略図である。図の横軸はラスタ番号であり、縦軸はインク補正量である。また、図では、BRS補正テーブルT1〜T5の各テーブルにおいて、或るインク色についての或る階調値における各ラスタラインのBRS補正データがグラフ化されている。
【0080】
図からわかるように、ドットサイズによって補正量が異なる。特に、バンドのつなぎ目部分でドットサイズによる補正量の違いが顕著になっている。例えばドットサイズが大きくなるにつれて、補正量が小さくなっているのがわかる。このように、ドットサイズと補正量には相関があるので、この5つのドットサイズ以外のドットサイズについての補正量を算出することが可能である。例えば、ドットサイズdがd1<d<d2の場合の補正データは、ドットサイズd1、d2における各ラスタラインの補正値からスプライン補間、線形補間などを用いて予測することができる。
【0081】
そこで、本実施形態では、上記の関係を利用することにより、未知の媒体に対する新しいBRS補正テーブルを自動的に作成するようにしている。なお、以下の実施形態では4つのインク色のうちの一色分について説明するが、他のインク色の場合についても同様の処理が行われる。
【0082】
図17は第1実施形態におけるBRS補正テーブル作成処理を示すフロー図である。図17の処理は、例えば、1つのプログラムによりコンピューター110のスキャナードライバーやプリンタードライバーを介して、コンピューター110がスキャナー120やプリンター1を制御するようにして行われる。
【0083】
また、図18は、第1実施形態における保存BRS補正テーブルの説明図である。図18に示すように5つのドットサイズ(30μm、50μm、60μm、70μm、90μm)にそれぞれ対応したBRS補正テーブルT1〜T5が予め用意されている。この各BRS補正テーブルには階調値毎にBRS補正データ(ラスタラインと濃度補正値とが対応付けられたデータ)が作成されている。
【0084】
まず、未知の媒体(以下、印刷対象媒体とする)がプリンター1にセットされ、コンピューター110は、プリンター1により印刷対象媒体に印刷を行なわせる。その後、スキャナー120によって印刷対象媒体に形成されたドットのドットサイズ(具体的には紙幅方向のドット幅)を計測させる(図17、S101)。
【0085】
次に、コンピューター110は、スキャナー120の計測結果から保存BRS補正テーブル(図18参照)に同一のドットサイズで作成されたものがあるか否かを判断する(S102)。保存BRS補正テーブルに同一のドットサイズのものがある場合(S102でYES)、そのドットサイズに対応する保存BRS補正テーブルを印刷対象媒体のBRS補正テーブルとして設定する(S103)。例えば、スキャナー120によるドットサイズの計測結果が30μmであった場合、ドットサイズ30μmに対応するBRS補正テーブルT1をその媒体の補正テーブルとして設定する。
【0086】
一方、保存BRS補正テーブルに同一のドットサイズで作成されたものがない場合(S102でNO)、印刷対象媒体に形成されたドットサイズよりも大きいドットサイズで形成された保存BRS補正テーブルの中で、ドットサイズが最小のものを選択する(S104)。ここで選択された補正テーブルのことを保存BRSテーブル1とする。さらに、印刷対象媒体に形成されたドット幅よりも小さいドットサイズで形成された保存BRS補正テーブルのなかで、ドットサイズが最大のものを選択する(S104)。ここで選択された補正テーブルのことを保存BRSテーブル2とする。
例えば、スキャナー120によるドットサイズの計測結果が55μmであった場合、BRS補正テーブルT3(ドットサイズ60μmに対応)が保存BRSテーブル1に設定され、BRS補正テーブルT2(ドットサイズ50μmに対応)が保存BRSテーブル2に設定される。
【0087】
そして、保存BRSテーブル1と保存BRSテーブル2から、印刷対象媒体の各階調のBRS補正データを作成して新しいBRS補正テーブルとして設定する(S106)
図19は、各階調で作成されるBRS補正データの一例の説明図である。前述したように、図18の保存BRS補正テーブルに対して、スキャナー120によるドットサイズの計測結果が55μmであった場合、保存BRSテーブル1としてBRS補正テーブルT3が選択され、保存BRSテーブル2としてBRS補正テーブルT2が選択される。そして、コンピューター110は、この保存BRSテーブル1(BRS補正テーブルT3)と保存BRSテーブル2(BRS補正テーブルT2)を用いることによって、階調値毎に新しいBRS補正データを作成する。具体的には、図19に示すように、階調値12%では、補正データHa2と補正データHa3との補間処理によって新しい補正データを作成する。また、階調値25%では、補正データHb2と補正データHb3との補間処理によって新しい補正データを作成する。同様に他の階調値においても新しい補正データを作成する。そして、各階調で作成された補正データを合わせて、新しいBRS補正テーブルを作成する。
【0088】
以上説明したように、本実施形態では、メモリー53に予め5つのBRS補正テーブルが記憶されており、印刷対象媒体を用いて印刷したときのスキャナー120によるドットサイズの計測結果と、メモリー53に記憶された5つのBRS補正テーブルと、に基づいて、その印刷対象媒体に対する新しいBRS補正テーブルを作成している。
【0089】
このように予め用意された複数のBRS補正テーブルを用いて、別の媒体についての補正テーブルを自動的に作成することができる。よって、媒体毎にBRS補正テーブルを用意しなくても良いので、時間や手間の低減を図りつつ、濃度むらを抑制することができる。
また、本実施形態では、各階調毎にドット幅を求め、各階調毎にドット幅に応じた濃度補正値を求めている。これにより、各階調毎に適した補正を行うことが可能になり、濃度むらをより抑制することができる。
また、本実施形態ではドットサイズの平均値を用いているので、ドットサイズの算出の精度を向上することができる。
【0090】
なお、本実施形態では、媒体の種類を変えることによって、ドットサイズ毎にBRS補正テーブルを用意していたが、これには限られない。例えば、同じ種類の媒体で、UVの照射条件を変えることによってドットサイズを変えてもよい。こうして、ドットサイズ毎にBRS補正テーブルを複数作成してもよい。また、本実施形態では、予め用意されているBRS補正テーブルの数は5つであったが、これには限られず複数であればよい。なお、これらは、以下の実施形態でも同様である。
【0091】
===第2実施形態===
第1実施形態では、ドットのサイズが1種類(例えば中ドット)であった。第2実施形態では複数種類のサイズのドットを使用する。具体的には、小ドット(S)、中ドット(M)、大ドット(L)の3種類のドットを用いる。また、第2実施形態では、これらの小、中、大ドットのそれぞれの発生率を階調値毎に定めたSMLテーブルを用いる。
【0092】
図20は、SMLテーブルにおけるドット発生率の一例を示す図である。図のように階調値毎に小ドット、中ドット、大ドットの発生率がそれぞれ定められている。なお、発生率とは、全ての画素にインクを吐出する場合を100%としたときの、インクを吐出する画素の割合である。例えば、階調値12%では、全体の30%に相当する画素に対して小ドットが形成され、中ドット及び大ドットは形成されない。また、階調値70%では、小ドット、中ドット、及び大ドットは、それぞれ全体の10%、20%、10%に相当する画素に形成される。
【0093】
図21は、第2実施形態における保存BRS補正テーブルの説明図である。この保存BRS補正テーブルは図20のSMLテーブルを用いて印刷することによって作成されたものである。第1実施形態(図18)では、各BRS補正テーブルが単一ドットの平均ドットサイズと対応していたのに対し、第2実施形態(図21)では、各BRS補正テーブルが上記3種類のドットの平均ドットサイズと対応している点が異なっている。なお、これ以外は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。図21に示す各BRS補正テーブルは、プリンター1のメモリー53に保存(記憶)されている。
【0094】
図22は、第2実施形態におけるBRS補正テーブル作成処理を示すフロー図である。
第2実施形態では、コンピューター110は、プリンター1にSMLテーブルに基づいて小、中、大ドットを用いて印刷対象媒体に印刷を行わせる。そして、コンピューター110は、スキャナー120によって印刷対象媒体に形成された小、中、大ドットの各ドットサイズ(具体的には紙幅方向のドット幅)をそれぞれ計測させる(S201)。
そして、コンピューター110は、スキャナー120による小、中、大ドットの各ドットサイズの検出結果と、SMLテーブルの各階調値におけるドット発生率(図20)とから、式(7)に示した加重平均を用いて階調値毎に平均ドットサイズを算出する(S202)。
【0095】
図23は、階調値毎の平均ドットサイズの算出結果の一例を示す図である。なお、ステップS201における小ドット、中ドット、大ドットのドットサイズの計測結果が、それぞれ30μm、50μm、70μmであるとしている。例えば、階調値12%では図20より小ドットのみが用いられるので、式(7)において小ドットの割合Psは100%であり、中ドットの割合Pm及び大ドットの割合Plは0%である。よって、式(7)より平均ドットサイズdaveは、小ドットのドットサイズ(30μm)と等しくなる。また、例えば、階調値70%では、図20より小、中、大ドットの発生率が10%、20%、10%なので、形成されるドットのうち小、中、大の各ドットの割合は、それぞれ、1/4、1/2、1/4である。よって平均ドットサイズdaveは、30×1/4+50×1/2+70×1/4=50となる。同様に各階調値の平均ドットサイズが図23のように求められる。
【0096】
その後、コンピューター110は、印刷対象媒体のBRS補正テーブルにおけるBRS補正データの作成処理が終了したか否かを判断する(図22、S203)。BRS補正データの作成処理が終了していない場合(S203でNO)、BRS補正データ作成対象階調値を未作成の階調値の中から選択する(S204)。例えば、まず階調値の最も低い12%を選択する。そして、選択した階調値において、保存BRS補正データに対応する平均ドットサイズと同一のものがあるか否かを判断する(S205)。
【0097】
例えば、図23の階調値12%では平均ドットサイズが30μmなので、保存BRS補正データ(図21)に同一の平均ドットサイズが存在する。このように、保存BRS補正データに同一のドットサイズがある場合(S205)、その同一の平均ドットサイズに対応する保存BRS補正データを印刷対象媒体のBRS補正データとして設定する(S206)。具体的には、階調値12%で平均ドットサイズが30μmの場合には、補正データHa1が選択される。そして、ステップS203に戻り、全ての階調値で処理が終わっているか否かを判断する。全ての階調値で処理が終わっていない場合(S203でNO)、ステップS204で別の階調値(例えば、階調値25%)を選択し、その階調値の平均ドットサイズについて、保存BRS補正データの平均ドットサイズと同一のものがあるか否かを判断するステップS205を再度実行する。
【0098】
ステップS205において、保存BRS補正データと同一の平均ドットサイズのものがないと判断した場合(S205でNO)、コンピューター110は、平均ドットサイズよりも大きいサイズで作成された保存BRS補正データの中で、平均ドットサイズが最小のものを選択する(S207)。ここで選択された保存BRS補正データを保存BRSデータ1とする。次に、コンピューター110は、平均ドットサイズよりも小さいサイズで作成された保存BRS補正データの中で、平均ドットサイズが最大のものを選択する(S208)。ここで選択された保存BRS補正データを保存BRSデータ2とする。
【0099】
そして、保存BRSデータ1と保存BRSデータ2から補間処理によって対象階調値における印刷対象媒体のBRS補正データを作成する(S209)。具体的には、階調値25%では、図23より平均ドットサイズが34μmであり、図21の保存BRS補正データに対応する平均ドットサイズには同一のものがない。この場合、34μmよりも大きいドットサイズのうち最小のドットサイズ(50μm)に対応するBRS補正データHb2が階調値25%の保存BRSデータ1として選択される。また、34μmよりも小さいドットサイズのうち最大のドットサイズ(30μm)に対応するBRS補正データHb1が階調値25%の保存BRSデータ2として選択される。そして、この保存BRSデータ1(BRS補正データHb2)と保存BRSデータ2(BRS補正データHb1)との補間処理によって、印刷対象媒体における階調値25%のBRS補正データが作成される。そして、ステップS203に戻る。このステップS203〜ステップS209の処理を繰り返し行う。
【0100】
図24は、各階調で作成されるBRS補正データの説明図である。このように、平均ドットサイズによって、階調値毎に用いられるBRS補正データが異なる。
そして、ステップS203で印刷対象媒体のBRS補正データ作成処理が完了したと判断すると(図22、S203でYES)、BRS補正テーブル作成処理を終了する。
【0101】
この第2実施形態では、小ドット、中ドット、大ドットを混在して印刷する場合においても、予め用意しておいた複数の補正値テーブル(保存BRS補正値テーブル)を用いて、未知の印刷対象媒体に対するBRS補正テーブルを作成することができる。よって、時間や手間の低減を図りつつ、濃度むらを抑制することができる。
【0102】
なお、第2実施形態では3種類のサイズのドットを用いていたがこれには限られない。例えば、小ドットと中ドットの2種類を用いてもよいし、4種類以上のサイズのドットを用いてもよい。これらの場合も、式(7)に示すような加重平均によって平均ドットサイズを求めるようにすればよい。こうすることで、ドットサイズと濃度補正値との整合性を高めることができ、サイズの異なるドットを形成する場合でも濃度むらを抑制することができる。
【0103】
===第3実施形態===
第2実施形態では、SMLテーブルが1種類であったが、第3実施形態ではSMLテーブルが複数種類用意されている。また、SMLテーブル毎に対応するBRS補正テーブルの組み合わせ(BRS補正テーブル群とする)が設定されている。
【0104】
図25は、SMLテーブルとBRS補正テーブル群の組み合わせの一例を示す図である。各BRS補正テーブル群には、前述したようにドットサイズ毎に複数のBRS補正テーブル(保存BRS補正テーブル)が定められている。なお、この場合、BRS補正テーブル群1は、SMLテーブル1を用いて作成されたものであることを示している。
この各SMLテーブル及び対応するBRS補正テーブル群は、プリンター1のメモリー53に記憶されている。
【0105】
図26は、第3実施形態の全体処理を示すフロー図である。
まず、印刷対象媒体に対して用いるSMLテーブルを、保存BRS補正テーブルを作成する際に用いたSMLテーブル(図25参照)の何れかに決定する。本実施形態では、印刷対象媒体へ印刷した際の粒状性、色むら、滲みなどの観点からSMLテーブル1を選択することとする(S301)。なお、本実施形態では、粒状性、色むらからSMLテーブルを選択していたがこれには限られない。例えば、或るドット(大ドットなど)を形成したときのドットサイズからSMLテーブルを選択するようにしてもよい。
次に、コンピューター110は、SMLテーブル1で作成したBRS補正テーブルを用いて、印刷対象媒体用のBRS補正テーブル作成処理を行う(S302)。
【0106】
図27は、SMLテーブル1で作成したBRS補正テーブルを示す図である。図に示すように、第2実施形態(図20)と同じである。
【0107】
図28は、第3実施形態における作成印刷対象媒体用のBRS補正テーブル作成処理を示すフロー図である。なお、図28に示すステップS3021〜ステップS3029は、それぞれ、第2実施形態(図22)のステップS201〜ステップS209に対応しているので、説明を省略する。また、図29は、各階調で作成されるBRS補正データの説明図である。これも第2実施形態(図24)と同様であるので説明を省略する。
【0108】
以上説明したように、第3実施形態では、複数のSMLテーブルが用意されており、各SMLテーブルに対応して保存BRS補正テーブルが定められている。そして、例えば粒状性や色むらなどから選択されたSMLテーブルに対応するBRS補正テーブルを用いて、印刷対象媒体に対する新しいBRS補正テーブルを作成するようにしている。
こうすることにより、より確実に濃度むらを抑えることができる。
【0109】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0110】
<プリンターについて>
前述の実施形態では、媒体の搬送方向と交差する紙幅方向にノズルが並んだラインヘッドプリンターを例に挙げているがこれに限らない。例えば、ヘッドユニットをノズル列方向と交差する移動方向に移動しながら、移動方向に沿ったドット列を形成するドット形成動作と、ノズル列方向である搬送方向に用紙を搬送する搬送動作(移動動作)とを交互に繰り返すプリンター(シリアルプリンター)であってもよい。
【0111】
また、前述の実施形態では、インクジェットプリンターについて説明したが、これには限られず、インク以外の他の液体を吐出する液体吐出装置に適用することも可能である。例えば、布地に模様をつけるための捺染装置、カラーフィルター製造装置や有機ELディスプレイ等のディスプレイ製造装置、チップへDNAを溶かした溶液を塗布してDNAチップを製造するDNAチップ製造装置、回路基板製造装置等であってもよい。また、プリンター1が有するノズルからインクを吐出させるためのインク吐出方式としては、ピエゾ素子の駆動によりインク室を膨張・収縮させるピエゾ方式であってもよいし、発熱素子を用いてノズル内に気泡を発生させ該気泡によってインクを吐出させるサーマル方式であってもよい。
【0112】
また、前述の実施形態ではプリンター1とコンピューター110とスキャナー120とによるシステムで構成されていたが、これらが一体の装置として構成されていてもよい。
【0113】
<スキャナーについて>
上記実施形態では、スキャナー120は、R、G、Bの各センサー(例えばCCD)を有し、原稿に照射された光の反射光を各センサーで読取ることによりR、G、Bの色情報を取得するセンサー方式のものを用いていたがこれには限定されない。例えば、R、G、Bの各色の蛍光ランプを順次点滅し、モノクロイメージセンサーで反射光を読み取り、R、G、Bの色情報を取得する光源切り替え方式や、あるいは、光源とセンサーの間にR、G、Bのカラーフィルターを設け、このカラーフィルターを順次切り替えることによりR、G、Bの色情報を取得するフィルタ切り替え方式のものを用いてもよい。
【0114】
<インクについて>
前述の実施形態ではインクとしてUVの照射によって硬化するUVインクを用いていたがこれには限られず、UVインク以外のインクを用いても良い。ただし、印刷対象の媒体の種類が多いほどBRS補正テーブルを媒体毎に作成しなくてもよい(手間や時間を省ける)という効果が顕著になる。よって、本実施形態はUVインクを用いる場合により効果的である。
【0115】
<ヘッド及びノズルについて>
前述の実施形態では、複数のヘッドが千鳥状に並んで設けられていた。但し、ヘッドの構成はこれには限られず、例えば紙幅方向に亘って1つのヘッドが設けられていてもよい。また、この場合、紙幅方向の一直線上に複数のノズルが配置されることによって、ノズル列が構成されていても良い。
【0116】
<補正値について>
前述の実施形態では、各ラスタラインの補正値を階調値毎に設定していたが、これには限られない。例えば、各ラスタラインに、濃度(階調値)を所定の割合で増減させる補正値を対応付けるようにしてもよい。この場合も、補正値を設けていない場合と比べて濃度むらを抑制することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 プリンター、20 ヘッドユニット、23 ヘッド、
23A 第1ヘッド、23B 第2ヘッド、23C 第3ヘッド、
30 搬送ユニット、32A 上流側ローラー、32B 下流側ローラー、
34 ベルト、40 検出器群、50 コントローラー、
51 インターフェイス、52 CPU、53 メモリー、
54 ユニット制御回路、60 照射ユニット
100 印刷システム、110 コンピューター、
111 インターフェイス、112 CPU、113 メモリー、
120 スキャナー、121 読取部、122 インターフェイス、
123 CPU、124 メモリー、125 スキャナーコントローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に複数のノズルが並ぶノズル列を有し、前記所定方向と交差する相対移動方向に前記ノズル列と媒体を相対移動させつつ前記ノズル列からインクを吐出することによって、前記相対移動方向に複数のドットが並ぶドットラインを前記所定方向に複数形成するドット形成部と、
ドット幅毎に作成された複数の補正テーブルであって、それぞれ、ドットラインに濃度補正値が対応付けられた複数の補正テーブルを記憶する記憶部と、
前記ドット形成部によって媒体に形成されたドットのドット幅を検出する検出部と、
を備え、
或る媒体を用いたときの前記検出部の検出結果と、前記記憶部に記憶された前記複数の補正テーブルと、に基づいて、前記或る媒体に対する補正テーブルを作成する、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記ドット形成部は、媒体に複数階調のパターンを形成し、
前記検出部は、各階調毎に前記ドット幅を検出する、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
各階調毎に前記ドット幅に応じた前記濃度補正値を算出する
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の印刷装置であって、
前記ドット形成部は、単一サイズのドットを形成し、
前記ドット幅は、前記単一サイズのドットのドット幅の平均値である、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の印刷装置であって、
前記ドット形成部は、複数サイズのドットを形成し、
前記ドット幅は、前記複数サイズの各ドットのドット幅の平均値を、前記複数サイズの各ドットの発生率で重み付けした加重平均値である、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷装置であって、
前記複数の補正テーブルは、前記複数サイズの各ドットの発生率を定めたドット発生テーブル毎に用意されている
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の印刷装置であって、
媒体に形成されたドットに光を照射する光源をさらに有し、
前記インクは、光の照射によって硬化するインクである、
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
所定方向に複数のノズルが並ぶノズル列を有し、前記所定方向と交差する相対移動方向に前記ノズル列と媒体を相対移動させつつ前記ノズル列からインクを吐出することによって、前記相対移動方向に複数のドットが並ぶドットラインを前記所定方向に複数形成する印刷装置の印刷方法であって、
ドット幅毎に作成された複数の補正テーブルであって、それぞれ、ドットラインに濃度補正値が対応付けられた複数の補正テーブルを記憶部に記憶することと、
或る媒体に形成されたドットのドット幅を検出することと、
前記或る媒体で検出されたドット幅と、前記記憶部に記憶された前記複数の補正テーブルとに基づいて、前記或る媒体に対する補正テーブルを作成することと、
作成された補正テーブルを用いて前記或る媒体に印刷を行うことと、
を有することを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図8】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−144024(P2012−144024A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6105(P2011−6105)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】