印刷装置および印刷方法
【課題】各々異なる印刷媒体への印刷に適した複数種類の黒色インクを利用した印刷を行うにあたり、両インクを有効活用する。
【解決手段】媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷方法であって、第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、を用いて、前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する印刷方法。
【解決手段】媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷方法であって、第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、を用いて、前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷方法に関し、特に、媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタやレーザプリンタ等のカラープリンタでは、印刷用紙上にインクを付着させて、用紙上に画像形成する。用紙上に形成される画像の画質は、当然のことながらインクと用紙の組合せに依存し、インク色の組合せ(例えばCMYK、CMYKlclm等)、印刷用紙の種類(例えば光沢紙、フォトマット紙等)、各インクの組成、各インク粒子の物理的・化学的構造、等によって左右される。従って、所定の印刷用紙に付着した際に良好な発色が実現できるインクの開発や、所定のインクが付着した際に良好な発色が実現できる印刷用紙の開発等が行われている。
【0003】
より具体的には、複数種類の黒インクを搭載して印刷媒体に合わせて適宜切換えて使用可能な印刷技術(例えば特許文献1等)や、普通紙に高画質印刷可能なブラックインクについての提案(例えば特許文献2等)、光沢紙に高画質印刷可能なブラックインクについての提案(例えば特許文献3等)等が行われている。また印刷用紙に合わせて適切なインクでの印刷を可能とするために、黒色インクカートリッジと有彩色インクのカートリッジとをヘッド毎交換可能なカラープリンタについても提案されている(例えば特許文献4等)。
【特許文献1】特開2004−25545号公報
【特許文献2】特開2004−10632号公報
【特許文献3】特開2006−206701号公報
【特許文献4】特開平9−300666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その他、黒色の印刷において高画質印刷を実現するために、複数濃度の黒色インク(例えば、K,LK,LLK等)を用意し、所定階調の黒を印刷する際に、各濃度のインク組合せを適切に選択することにより、豊かなグラデーションを実現する技術も知られている。
【0005】
但し、1種類の黒インクは1種類の印刷媒体に対する印刷にしか適さず、複数種類の印刷媒体の各々に適切な高画質印刷を行うためには、前述の特許文献4のようにインクカートリッジを交換したり、前述の特許文献1のように複数種類のインクを搭載して印刷媒体に合わせて切換えて使用したりすることになる。いずれの方法であっても、1種類の印刷媒体への印刷は、該印刷媒体への印刷に適したインクを用いて実行されることになる。従って、一方の印刷媒体への印刷時には他方の印刷媒体への印刷に適したインクは有効利用されていなかった。
【0006】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、各々異なる印刷媒体への印刷に適した複数種類の墨色インクを利用した印刷を行うにあたり、両インクを有効活用可能な印刷装置および印刷方法の提供を目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の印刷装置では、媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷装置であって、第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、を用いて、前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する構成としてある。
【0008】
黒色インクとは、いわゆる無彩色インクである。前記所定の発色とは、入力されるデータが例えば256階調である場合は、黒色インクを用いて0階調〜255階調までの発色を意味し、白点〜黒点までのグラデーションを再現可能であることを意味する。無論、異なる黒色インクであるので、グラデーションの詳細までは完全に一致せずともよいが、第1黒色インクを様々な量で前記第1媒体に付着させることにより、グレースケールの最小階調〜最大階調までを表現可能であり、同様に第2黒色インクを様々な量で前記第2媒体に付着させることにより、グレースケールの最小階調〜最大階調までを表現可能である。逆に言えば、前記第1媒体に前記第2黒インクを様々な量で付着させた場合にはグレースケールの最小階調〜最大階調までを表現できないことになる。前記第1媒体や前記第2媒体のような媒体としては、紙、樹脂、金属、複合物、布、セラミック等、様々な媒体が考えられる。すなわち前記条件を満たしつつ、インクを付着可能な媒体であれば、いかなる媒体であってもよい。
【0009】
本発明の印刷装置によれば、各々異なる印刷媒体への印刷に適した黒色インクを併用した印刷を行うことにより、インクのランニングコストや粒状性の悪化を抑えられる。すなわち明るい階調を印刷する際には単位インク量あたりの発色が少ない黒インクを使用して粒状性の悪化を防止し、暗い階調を印刷する際には単位インク量あたりの発色が多い黒インクを使用してインクのランニングコストを抑える。
【0010】
前記のように同一の媒体に付着された際に発色が異なるインクの特徴として、たとえば、前記第2黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さに比べて、前記第1黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さが浅いこと、同じ量の前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを前記第1媒体に付着させると、前記第2黒色インクに比べて前記第1黒色インクの着色濃度の方が濃いこと、等が挙げられる。すなわち、インクが媒体に付着した際の、媒体に対する浸透深さ、着色濃度等に起因してインクの発色に差異が生じる。
【0011】
本発明の選択的な一側面として、前記第1媒体への着色に前記第2黒色インクを用いる前記黒色の階調値における階調範囲は、前記第1媒体への着色に前記第1黒色インクを用いる黒色の階調値における階調範囲よりも、黒色の階調値が高い階調値側に分布するように構成してもよい。すなわち、前記第1媒体に前記第2黒色インクを付着すると、前記第2媒体に前記第2黒色インクを付着した場合に比べて、発色が低下する場合は、前記第2黒色インクに前記第1黒色インクの淡色インクとしての役割を持たせる。よって粒状性を改善する効果も期待できる。
【0012】
前記第1黒色インクと前記第2黒色インクのより具体的な本発明の選択的な一側面として、前記第1黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%超含み、前記第2黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%以下含む構成としてもよい。すなわち、カーボンブラック濃度が異なるインクである。
【0013】
本発明の選択的な一側面として、前記第1媒体に前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを付着させて着色するにあたり、前記第1黒色インクを先に付着させるように構成してもよい。すなわち、本来、前記第1媒体への印刷に適した第1黒色インクを先に付着させることにより、第1黒色インクの発色を有効利用しつつ、第2黒色インクによる発色を前記第1黒色インクの補助的なものとする。このような着色順を採用することにより、他の着色順に比べて粒状性の悪化を防止できる。
【0014】
本発明の選択的な一側面として、印刷対象となる媒体を判断する媒体判断手段を更に備え、前記媒体判断手段において前記第1媒体と判断されると前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを使用して印刷を実行し、前記媒体判断手段において前記第2媒体と判断されると前記第1黒色インクを用いずに前記第2黒色インクを用いて印刷を実行するように構成してもよい。印刷対象となる媒体を判断して、自動的に使用するインクを選択する。よって、前記第1媒体と前記第2媒体とに適した印刷が自動的に実行可能となる。
【0015】
上述した印刷装置は、他の機器に組み込まれた状態で実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。また、本発明は前記印刷装置を備える印刷システム、上述した装置の構成に対応した工程を有する制御方法、上述した装置の構成に対応した機能をコンピュータに実現させるプログラム、該プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。これら印刷システム、印刷方法、印刷制御プログラム、該プログラムを記録した媒体、の発明も、前述した作用、効果を奏する。むろん、請求項2〜6に記載した構成も、前記システムや前記方法や前記プログラムや前記記録媒体に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)印刷装置の構成:
(2)印刷処理:
(3)ハーフトーン処理:
(4)LUT作成処理:
(5)粒状性の評価:
(6)変形例:
【0017】
(1)印刷装置の構成:
図1は、本発明の実施形態にかかる印刷装置の概略構成を示している。本印刷装置100は、コンピュータ10とプリンタ20を備えている。コンピュータ10は、各種の演算処理を実行するCPU11を備えており、該CPU11がシステムバス12を介してコンピュータ10全体の制御を行う。システムバス12には、データを一時的に記憶するRAM13、各種のプログラムを記憶しておくROM14,ハードディスクドライブ(HDD)15、各種インターフェース(I/F)16等が接続されている。なお、本発明の印刷装置100は、コンピュータ10の機能がプリンタ20に一体形成されたものであって構わない。
【0018】
HDD15にはオペレーティングシステム(OS)、画像情報等を作成可能なアプリケーションプログラム(APL)等が格納されており、これらのソフトウェアの実行が指示されるとCPU11の制御に従ってRAM14等で構成されるワークエリアに転送・実行される。またHDD15は、複数のLUTを複数の印刷用紙に対応付けて記憶している。なお、HDD15以外に、CD−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、不揮発性メモリ、等の記憶媒体を利用してもよい。また、なお、I/F16を経由して通信ネットワークに接続すれば、通信ネットワーク上にある記憶装置から必要なデータやプログラムを取得して実行することも可能である。
【0019】
周辺機器I/F16aには、デジタルカメラやカラースキャナ等が接続可能である。入力I/F16bには、キーボードやマウスなどの操作入力機器が接続されている。ディスプレイI/F16cには、ディスプレイ17が接続されている。プリンタI/F16dには、プリンタ20が接続されている。
【0020】
図2はプリンタ20の構成を示すブロック図である。プリンタ20は、制御部21、操作部22、コントロール回路25a、インクカートリッジ25b、印刷ヘッドユニット25c、ASIC26a、ヘッド駆動部26b、I/F27a、キャリッジ機構27b、紙送り機構27c、を備えている。制御部21はCPU21a、ROM21b、RAM21c、を備えており、ROM21bに記録されたプログラムに従ってCPU21aがRAM21cをワークエリアとしてプリンタ20全体を制御する。これら各部21,22,25a,26a,27aはシステムバスを介して相互に通信可能に接続されている。
【0021】
キャリッジ機構27bにて主走査方向に往復動するキャリッジには、各インクカートリッジ25bを装着したカートリッジホルダが設けられており、印刷ヘッドを備える印刷ヘッドユニット25cが搭載されている。キャリッジの下部にある印刷ヘッドユニット25cには、C・M・Y・PK・MKの各インクに対して、印刷ヘッド44・45・46・47・48がそれぞれ形成されている。キャリッジの底部には図示しない導入管がインク毎に立設されており、キャリッジにインクカートリッジを装着すると、カートリッジ内の各インクは導入管を通じて、それぞれの印刷ヘッド44〜48に供給される。
【0022】
ヘッド駆動部26bは、ASIC26aから印刷データに対応する印加電圧データを入力されてピエゾ素子への印加電圧パターンを生成し、該素子を内蔵する印刷ヘッドに各色のインク滴をドット単位で吐出させる。各印刷ヘッドに供給されたインクは、インク通路上に設けられたピエゾ素子PEに印可する電圧波形を制御することによって、吐出するインク滴の大きさを制御可能である。すなわち、本実施形態のプリンタ20はバリアブルドットプリンタであり、大きさの異なる大・中・小の3種類のドットを、色毎に形成可能である。形成するドットの大きさを変えれば、ドット毎に多階調表現可能となるので、豊かな階調表現の画像を印刷できる。なお、ドットの大きさは3種類に限られるものではなく、必要に応じて更に多種類のドットを形成するものであっても構わない。
【0023】
制御部21は、インターフェース(I/F)27aに接続されたキャリッジ機構27bや紙送り機構27cは、印刷ヘッドユニット25cを主走査させたり、適宜改ページ動作を行いながらシート状の印刷媒体を順次送り出して副走査を行ったりする。
【0024】
本実施形態のプリンタ20は、有彩色インクとして少なくともシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3種類を使用し、無彩色インクとしてフォトブラック(PK)、マットブラック(MK)の2種類を使用する。むろん、プリンタ20には、CやMやPKやMKの淡色、Yの濃色、レッド、バイオレット、無着色インク、等も使用する装置、CMYKのいずれかを使用しない装置であってもよい。また印刷装置100はインクジェットプリンタのみならず、各種インク昇華式プリンタ、トナーインクを使用するレーザプリンタ、等も採用可能である。なお、本実施形態においては、フォトブラック(PK)が第2黒色インクである場合に、マットブラック(MK)が第1黒色インクとなる
【0025】
図3は、印刷ヘッド44〜48におけるインクジェットノズル配列を示す説明図である。同図に示すように、各色の印刷ヘッド44〜48は主走査方向に並べて配置され、印刷ヘッドの底面には1組のノズルアレイあたり複数個のノズルが、一定のノズルピッチで配列されている。プリンタ20の制御回路21は、キャリッジを搬送しながら、これらノズル位置の違いを考慮し適切なタイミングでそれぞれのピエゾ素子PEを駆動してインク滴を吐出する。
【0026】
図4は、印刷ヘッド44〜48におけるインクジェットノズル配列の他の例を示す説明図である。同図においては、各色の印刷ヘッドが、副走査方向に並べられている。この場合、上流側から下流側に向けて有彩色インク、PKインク、MKインクの順で配置すると、印刷用紙に対し、MKインクが先に付着され、その上からPKインクや有彩色インクが付着される。その結果、例えば他の着色順に比べて粒状性が向上する。インクの上にインクを打つとドットの形がいびつになることはよく知られており、前記第1媒体に付着して発色性の良い第1黒色インクを先に打つことで第1黒色インクのドット形状をきれいな形(真円に近い形)にし、粒状性を向上させる。さらに、第1黒色インクが紙上にきれいに打たれることで第1黒色インクの発色効率が増し、ランニングコストを下げる効果も期待できる。なお、図3のように吐出ノズルが主走査方向に並んでいる場合は、インクノズルの並べ方は特に限定する必要は無い。
【0027】
ここで、本発明にかかる無彩色インクについて説明する。本発明においては、2種類の黒色インクを利用しており、特定の印刷媒体に対する浸透特性(インクを媒体に付着させたとき、インク中着色成分の横方向への広がり特性や媒体の厚み方向へ浸透特性等)が異なっている。また、本発明にかかる第1黒色インクと第2黒色インクは、互いにカーボンブラック濃度が異なるインクであり、且つ、第1媒体に様々な量の第1黒色インクを付着させることにより所定範囲の濃度階調を表現可能なインクであり、第2媒体に様々な量の第2黒色インクを付着させることにより所定範囲の濃度階調を表現可能なインクである。すなわち各黒色インクは、各々カーボンブラック濃度と浸透特性を考慮して最適な印刷媒体に印刷されると所定範囲の濃度階調を表現可能であるが、第1黒色インクと第2黒色インクを同一の印刷媒体に付着させた場合には表現可能な濃度階調が異なる。このような黒色インクとして、本実施形態ではPKインクとMKインクを例に取り説明している。
【0028】
本実施形態にかかるPKインクは、カーボンブラックを3.0重量%以下含み、好ましくは0.1〜3.0重量%、更に好ましくは1.0〜2.0重量%、特に好ましくは1.2〜1.8重量%である。また、本実施形態にかかるPKインクは、その1000倍希釈水溶液のL*a*b*色空間におけるL*値が、42〜67、特に48〜60の範囲内にあることが好ましく、同a*値が、−2.75〜−2.40の範囲内にあることが好ましく、同b*値が、9〜14の範囲内にあることが好ましい。PKインクは、印刷媒体として光沢紙のように塗工層を有するメディアに適用した際に、MKインクに比べて特に耐擦過性に優れ、光沢に特に優れる点で好ましい。
【0029】
一方、本実施形態にかかるMKインクは、カーボンブラックを3.0重量%超含み、好ましくは4.0〜9.0重量%、更に好ましくは5.0〜8.0重量%、特に好ましくは6.0〜7.0重量%である。また、本実施形態にかかるMKインクは、その1000倍希釈水溶液のL*a*b*色空間におけるL*値が、0.1〜16、特に2〜10の範囲内にあることが好ましく、同a*値が、1〜8の範囲内にあることが好ましく、同b*値が、1〜18の範囲内にあることが好ましい。MKインクは、記録媒体としてマット紙や普通紙に適用した際に、インクが付着しやすく、画像の発色性に特に優れる点で好ましい。
【0030】
図5はPKインクとMKインクをマット紙(もしくは普通紙)に付着させた状態の模式図である。本実施形態のPKインクは親水性であり、紙の繊維に比較的深く浸透してにじみやすく、インクが付着する層の空隙径が想定よりも大きい媒体に印刷するとにじみが激しくなり意図した発色が得られなくなる。これに対し、本実施形態のMKインクは、例えば紙の繊維に浸透しにくいインク(例えば、インク粒径が紙の繊維の空隙径よりも大きなインクや、サイズ剤に付着しにくい疎水性インク等)であり、表面に凹凸の残る印刷媒体であれば付着しやすく意図した発色を得やすい。ただしMKインクは、表面に凹凸の少ない例えば光沢層を有する印刷媒体に対しては付着力が弱く、光沢層を有する印刷媒体に印刷すると擦過等で剥離しやすい。このようなPKインクやMKインクの実施例としては、例えば特開2004−155826号公報に開示されているPKインクやMKインクを採用可能である。
【0031】
また、本実施形態のMKインクとしては、図6のように、例えばサイズ剤の添加によって疎水性が付与された印刷媒体に対して浸透しにくい特性を有することにより、印刷媒体に付着された場合に表面付近に止まるインクであってもよい。このようなMKインクは、顔料インク粒子のまわりを大きな疎水性ブロックで被い、該疎水性ブロックの外側先端に水溶液中に分散させるための小さめの親水性ブロックを設けることにより、インク液における自己分散性と印刷媒体付着時に印刷媒体表面付近でとどまる特性とが実現される。
【0032】
図5,6に示したMKインクやPKインク、並びにコンポジットカラーのインクをマット紙(もしくは普通紙)へ印刷すると、図7のような浸透特性を示すことになる。すなわちMKインクは用紙表面付近に止まり、PKインクや有彩色インクは、用紙に浸透してやや深いところに定着する。このとき、インクの付着順によっては、先に付着したMKインクが、後から付着するPKインクや有彩色インクの付着面積を狭めることになり、逆順で付着させた場合に比べて、MKインクとPKインクや有彩色インクとの付着位置が重複しにくく、PKインクや有彩色インクの発色効率が高まる。
【0033】
本実施形態においては、各インクでの印刷に適した印刷媒体として光沢紙とマット紙と普通紙とを採用して説明している。
ここで言う普通紙は、塗工層やインク吸収層を持たず、被記録面の繊維が露出している印刷用紙である。
また、ここで言うマット紙は、クレーや炭酸カルシウム等の顔料を主体に、合成ラテックス(スチレン−ブタジエン系、アクリル系等)等のバインダで印刷用紙の繊維空隙構造を埋めて形成した塗工層を、表面に有している。この塗工層は、印刷用紙のセルロースに対し、親水基がセルロース側、疎水基が外側に配向するため、疎水性となる。
また、ここで言う光沢紙は、インク吸収層として高分子系コート層や多孔性微粒子コート層等を有しており、優れたインク吸収性を示す。インク吸収はコート層が充分に厚ければコート層内で完結し、滲み発生しない。例えば、多孔性微粒子系コート層としての多孔質シリカの空隙径は、紙の繊維によって形成される空隙径よりも狭いため、毛細管力が大きく、優れたインク吸収性を示すからである。なお、光沢紙のインク吸収層の下に前記マット紙と同様の塗工層が形成されていても構わない。
【0034】
印刷しようとするカラー原稿は、コンピュータ10に接続されたカラースキャナを用いて取込まれた画像や、コンピュータ10上で各種のAPLにより作成した画像等が使用される。これらの画像データは、コンピュータ10内のCPU11により、プリンタ20が印刷可能な画像データに変換され、画像データ15aとしてプリンタ20に出力される。プリンタ20は、この画像データ15aに従って、印刷媒体上に各色のインクドットを形成し、その結果、印刷用紙上にカラー原稿に対応するカラー画像が印刷される。
【0035】
以上のハードウェア構成を有するプリンタ20は、キャリッジ機構27bを駆動することによって、各色の印刷ヘッド44ないし47を印刷用紙Pに対して主走査方向に移動させ、また紙送り機構27cを駆動することによって、印刷用紙Pを副走査方向に移動させる。制御回路21の制御の下、キャリッジの主走査および副走査を繰り返しながら、適切なタイミングでノズルを駆動してインク滴を吐出することによって、プリンタ20は印刷用紙上にカラー画像を印刷している。
【0036】
(2)印刷処理:
図8は、前記構成における印刷処理を示すフローチャートである。PRTDRV21は、図示しないアプリケーションプログラムから印刷指示が行われた画像について所定の処理を行って印刷を実行する。画像データ15aがPRTDRV21に受け渡されると印刷処理が開始され、ステップS100においてRAM12に格納された画像Aの画像データ15aを取得する。本実施形態における画像データ15aは、RGBデータであり、各画素の色成分を256階調で表現したドットマトリクスデータである。なお、画像データ15aは、YCbCr表色系やCMYK表色系等で表現されたデータでもよいし、JPEG画像データのように所定のアルゴリズムで圧縮符号化された画像データであってもよい。
【0037】
次に、ステップS105では、色変換の際に参照するLUT(Look Up Table)を選択する。本実施形態においては、印刷用紙の種類に基づいてLUTを選択する。印刷用紙の種類は、ユーザもしくはアプリケーションプログラムによって指定され、アプリケーションプログラムが印刷指示を実行する際に画像データ15aと一緒にPRTDRV21に受け渡される。判断の結果、マット紙であればLUT15bを選択し、光沢紙であればLUT15cを選択する。無論、他の種類の印刷用紙に対して専用のLUTを別途用意し、本ステップで判断分岐しても構わない。
【0038】
ここで、LUT15bについて説明する。LUT15bは後述の粒状性評価処理を行って作成されたものである。従って、LUT15bは、無彩色データを表現する場合や有彩色の高濃度データを表現する場合に、CMY等量で表現する黒(以下、コンポジットグレーと呼ぶ。)とMKとPKとの3種類の黒を使い分けるように対応関係が作成されている。使い分けは、各色の使用割合や各インクを使用する階調範囲を設定することにより行われており、ランニングコストの低減、粒状性の低下、色ムラの低減等の観点に基づいてチューニングされている。このチューニングの仕方については後述する。一方、LUT15cは、無彩色を表現する場合や有彩色の高濃度色を表現する場合に、コンポジットグレーとPKとを使い分けるように対応関係が作成されている。すなわちPKインクを利用して光沢紙に好適な印刷が可能に構成されている。
【0039】
ステップS110に進むと、色変換モジュール21bが起動され、選択されたLUT15をHDD15から読み出して参照し、RGBで表現された画像データ15aをCMYPKMKデータに変換する。LUTは、RGB値とCMYPKMKの各インク量データとの対応関係を規定したテーブルである。なお、LUTを参照して実行される色変換においてテーブルに規定されていない色については、補間演算により算出される。補間演算の手法としては公知の種々の技術が適用可能である。
【0040】
色変換処理が終了すると、ステップS120において当該色変換後のドットマトリクスデータに対してハーフトーン処理を施し、ステップS130においてラスタライズ処理を行い印刷データを生成する。そして、ステップS140においてプリンタI/F16dを介して当該生成した印刷データを出力し、本フローを終了する。
【0041】
(3)ハーフトーン処理:
図9は、前記ステップS120のハーフトーン処理において、前記LUT15bに基づいて発生されたPKインク量やMKインク量について、前記大・中・小ドットのいずれを発生させるか示す表である。すなわちPKインクやMKインクの階調データが入力されると、図9の対応関係に従って、階調値に応じた割合で大・中・小ドットにインク量を割り当てる。
【0042】
図9の第1のバリエーションにおいては、PKインクを全て小さいインク滴サイズに割り当て、MKインクはインク使用量に応じた割合で小中大のインク滴サイズに割り当てる。この第1のバリエーションであれば、主に低階調(明るい階調)〜中階調で発生するPKインクの粒状性の悪化を防止可能である。
また、図9の第2のバリエーションでは、PKインクは、インク使用量に応じた割合で、小中大のインク滴サイズに割り当てられ、MKインクは、全て大きいインク滴サイズに割り当てられる。このバリエーションであればPKインクやMKインクによる印刷ムラを防止可能となる。ここで言う印刷ムラとは、印刷媒体に歪みが発生して変形してインク的の着弾位置ずれた場合に、印刷媒体に付着するドット間隔が変動して発生するムラのことである。このような印刷媒体のゆがみの一例としては、インク濡れによる印刷用紙の変形等が挙げられる。すなわち、大き目のインク滴で印刷するため、ドット間隔の変動に強い印刷が可能になる。
また、図9の第3のバリエーションでは、PKインクもMKインクも小中大ドットを順に発生させて印刷を行う。このバリエーションであれば、第1のバリエーションほどではないが粒状性の悪化を防止しつつ、第2のバリエーションほどではないが印刷ムラの発生も防止できる。
なお、前記各バリエーションにおいて、大中小全てのサイズにインク量を割り当てる場合は、公知のハーフトーン処理における割り当て方を適宜採用可能である。
【0043】
(4)LUT作成処理:
図10はLUT15bの作成処理の流れを示している。この処理においては、多くの演算を必要とするので、コンピュータを使用して実行するのが望ましい。本実施形態のLUTは、各色256階調のRGB値と、各色256階調のCMYPKMK値とを対応させた情報テーブルであり、補間演算を前提として、例えば173個の格子点に対応したデータを備えているものとする。無論、階調数や格子点数は任意である。なお、格子点はRGB色空間において全空間を網羅するようにRGBデータを規定している。前記LUT15bは、グレー軸上の色や、所定濃度以上の有彩色のうちコンポジットグレーに相当する成分を、コンポジットグレーとPKとMKとに分版するように作成されている。
【0044】
図11は、図12の破線に沿ってCMYPKMK色データのインク発生量をプロットしたグラフである。なお、図12の破線は、Lab色空間におけるCMYPKMKのガマットをYピュアカラーを通る所定色相で切断し、ガマット外殻に沿って白点から黒点に至る線である。図11において、白点からYピュアカラーまでは、略一定の変化量でYインクの使用量が増加し、YピュアカラーにおいてYインクの使用量が100%に到達する。
【0045】
続いて、ピュアカラーから濃度が上昇するにつれて、コンポジットカラーのY以外の色であるCMのインク量を増加していく。さらに濃度が上昇して濃度がG1に達すると、CMの量が最大になって減少し始め、PKインクの使用量を増加し始める。そして、濃度G2においてCMインクの使用量が0%になり、PKインクの使用量がほぼ最大になる。さらに濃度が上昇すると今度はPKインクの使用量が減少し始め、MKインクの使用量が増加し始める。その後、濃度の上昇とともにPKインクは減少していき、濃度G3に達するとPKインクの使用量が0%になる。なお、黒点においては、MKインクの使用量が100%になる。
【0046】
なお、図11は、破線に沿ったイエローの濃度上昇について示してあるが、イエローに限らず他の色相についても同様のことが言えるし、グレー軸上の階調値についても同様のことが言える。グレー軸上の階調値の場合は、図11のYピュアカラーが白点に相当し、図11においてCMの増加で表現された濃度上昇は、コンポジットカラーを構成するCMY各色インクの上昇に相当する。
【0047】
以上の指針に基づいて作成されたLUTを使用して画像データを色変換し、色変換した画像データに基づく画像をプリンタに印刷させると、黒色を利用したマット紙に対する印刷のうち、低濃度領域においては有彩色インクで表現する黒色が利用され、中濃度領域においてはPKインクで表現する黒色が利用され、高濃度領域においてはMKインクで表現する黒色が利用されることになる。すなわち、従来のように有彩色インクと1種類の無彩色インクを利用して表現していた印刷結果と比べて、中濃度領域における粒状性が改善することになる。
【0048】
さらに、本実施形態にかかるPKインクとMKインクのように光源依存性の異なる黒インクを併用すること、黒インクよりもコンポジットカラーインクを少なくしたこと、の2点によって、光源依存性(カラーインコンスタンシー)も改善される。後者の改善の理由について言えば、インク色材の特性上、カラーインクよりも黒インクの方が光源依存性が少ないためである。図13は前記LUT15bに基づいて、L*=50のグレー付近の色をマット紙に印刷し、該印刷結果を測定した分光反射率を示すグラフである。同図には比較の為に、同じ色をCMYMKに分版してマット紙に印刷し、該印刷結果の分光反射率を測定した結果を示してある。後者ではn=500〜550付近で大きく分光反射率が上下しているのに対し、LUT15bに基づく印刷結果では、全波長域に亘ってほぼ一定の分光反射率を示しており、光源依存性が大きく改善していることがわかる。
【0049】
まず、ステップS200においては、規定されたRGBデータを機器独立色空間であるLab空間の座標値に変換する。本実施形態においては画像データ15aにおいてRGB各色が256階調で表現されており、各色256階調で全ての組合せを考慮すればディスプレイ色域が確定する。例えば、sRGB規格に準拠した画像データは公知の変換式や所定のプロファイルを参照することによりLab空間の座標値に変換することができる。むろん、測色機等を用いた測色結果からLab座標を取得してもよい。
【0050】
続いてステップS210では、プリンタ20のCMYPKMK階調データの各色の各階調で全ての組合せをLab値に変換する。この変換は、CMYPKMK各色の各階調の組合せに基づいて印刷した色パッチを測色機で測色したり、あるいはプリンタ20のプロファイルを参照することによってLab値を確定したりすることができる。
【0051】
ステップS220においては、RGBの代表色に該当する色のLab座標値を、CMYインクのLab座標値と対応付ける。よって、RGB値とCMYPKMK各インクの出力階調との対応関係を得ることができる。以上の変換によりsRGBデータとCMYKデータとの対応関係が規定されたことになるので、ステップS230において前記色変換時の補間演算に必要な代表点を抽出してLUT15bやLUT15cを作成する。
【0052】
以上のようにして作成されたLUT15bを用いて印刷したときの各インクの使用量を図14に模式的に示した。なお、図14との比較のために図15を示し、図15にはCMYMKに分版するLUTを用いて印刷する際のインク使用量を模式的に示してある。図14と図15とを比較すると、コンポジットカラーで印刷する階調値範囲を狭めたことにより、トータルインク量が低下していることが分かる。すなわち、LUT15bを用いて印刷すると、ランニングコストが低下する。
【0053】
(5)粒状性の評価
前記図14と図15には、印刷結果の粒状性の評価結果について模式的なグラフも記載してある。なお、図14に示した例は、前記ハーフトーン処理についてはバリエーションCで行ったものである。図15では図14に比べて低い階調値からMKインクで印刷されており、MKインクの発生とともに粒状度が大きく悪化しているのが分かる。これに対し、図14のように中間的な階調値をPKインクで印刷し、その後コンポジットカラーのインク量と入れ替わりにMKインクで印刷するようにすると、PKインクの発生するタイミングで粒状度がやや悪化するが、図15ほどではない。そしてMKインクが発生しても、粒状度はほとんど悪化せずに済んでいる。
【0054】
粒状性の評価は、人が視認して行ってもよいが、物理特性に基づいて定量的に評価する方が好ましい。定量的な粒状性の評価は、画像の明度分布や濃度分布における周波数成分を取得し、特定の周波数成分の量を利用して評価できる。ここでいう特定の周波数成分とは、粒状ノイズに対応するノイズ成分であり、画像の物理特性をフーリエ変換して空間周波数で現されるスペクトルに変換する取得できる。このような定量的な粒状性の評価法としては、例えば、ウィナースペクトルを用いる方法が知られている。
【0055】
ウィナースペクトルを用いて粒状性を評価するには、まず、複数の階調値を選択して、選択された階調値についてパッチ印刷を行う。印刷された各パッチはスキャナ等によって電子データとして取込まれる。この取込まれた電子データは、RGBの各階調値で表現された画像データであってもよいし、グレースケールに変換されていても構わない。なおRGBで表現されている場合は、公知の変換式で明度データに変換することになる。
【0056】
次に、前記明度データに対して2次元フーリエ変換を行い、前記明度データについての空間周波数とそのスペクトル強度を算出する。そして、算出したスペクトル強度を二乗することによりパッチの明度についてのウィナースペクトルWS(fx,fy)を算出する。なお、fxはx方向の空間周波数を示し、fyはy方向の空間周波数を示している。そしてウィナースペクトルWS(fx,fy)に対して視覚感度関数VTF(fx,fy)を二乗したもの乗算することにより、ウィナースペクトルWS(fx,fy)のスペクトル強度に視覚感度特性に応じた重み付けを行う。視覚感度関数VTF(fx,fy)として、例えば下記式(1)のような関数を適用することができる。なお、下記式(1)においてl(mm)はテスト画像と観測者との距離を示している。
【数1】
下記式(2)は、VTF重み付け部11a3が視覚感度関数VTF(fx,fy)をウィナースペクトルWS(fx,fy)に乗算するときの計算式である。
【数2】
【0057】
以上の計算により、低周波領域のスペクトルを重視した重み付けを行うことができ、人間の視覚感度特性に適合した補正スペクトルAS(fx,fy)を得ることができる。なお、視覚感度関数VTF(fx,fy)はHDD12等に記憶されており、適宜読み出して使用する。このように算出された粒状性を示すAS(fx,fy)について下記(3)式のように、全空間周波数について積分することにより各カラーパッチにおける粒状性を定量的に評価する粒状性評価指数GIが算出される。この粒状性評価指数GIが小さいものほど粒状性が低いことになる。
【数3】
【0058】
前述したLUT15bは、複数の階調値において、CMYPKMK各色インクの組合せに対する粒状性評価指数が最小化するように作成してある。すなわち各階調において、CMYPKMKインク量セットを複数用意し、各インク量セットに対して前記粒状性評価指数を算出する。その結果最も粒状性の良好な評価指数を得たインク量セットを、該当する階調値におけるインク量セットに採用するのである。このように粒状性を評価する階調は、所定階調置きに実行すればよく、評価対象となる階調間については補間演算で算出する。
【0059】
(6)変形例:
ところで前記LUT15b作成時の分版の仕方は、分光プリンティングモデルを利用して決定しても構わない。分光プリンティングモデルを用いたLUT作成方法については、例えば、特願2006−165043(以下、先行文献Aと記載する。)、に記載されているプロファイルを作成するシステムが利用できる。なお、本発明に前記分光プリンティングモデルを利用するには、先行文献Aに記載の分光プリンティングモデルに対して以下の変更を加えることになる。
【0060】
まず、先行文献Aにおいては、CMYやCMYKlclmを例にとって説明を行っているが、これをCMYPKMKに変更する必要がある。例えば、先行文献Aの段落0067〜0081に記載の分光反射率Rsmp(λ)を算出する際にCMYPKMKでRsmp(λ)を算出することになる。無論、その際、CMYPKMK各色の一次色のカラーパッチをマット紙上に印刷し、各カラーパッチとマット紙の下地色との分光反射率分布を取得しておく必要がある。また、粒状性の評価を行う場合は、先行文献Aの段落0082〜0121に記載の粒状性プロファイルについても、CMYPKMK空間において粒状性評価用インク量データを準備することになる。
【0061】
以上のように変更されたシステムにおいて、各指数(CII、MI、GI、Tink等)の重要度に応じて重み付けしつつ評価指数を作成し、該評価指数を最小化するインク量組合せを探索する。そして良好な評価指数を有するサンプルインク量データを選択し、該サンプルインク量データと、該サンプルインク量データを用いて印刷されるカラーパッチの測色値(L*a*b*値)とを用いてプロファイルを作成し、前記ステップS210の処理を行う。
【0062】
なお、前述の指数として、PKインクとMKインクのいずれで印刷されても構わない場合に、MKインクの量が多いほど評価が良好になるような指数を組合せてもよい。MKインクの方が濃度が高く、発色がよいためである。このような指数としては、PKのインク量をInkPKとし、MKのインク量をInkMKとすると、例えば、InkPK/InkMK、なる指数に重み付けして前記評価指数に組み込む。すると、他の指数との兼ね合いではあるが、MKインクの使用量を高いサンプルインク量データが選択される傾向になり、トータルインク量を低下させ、ランニングコスト向上に寄与する。
【0063】
また、前記ハーフトーン処理でMKインクを小中大ドットに割り当てるのであれば、MKインクドットが粒状性の悪化に影響しにくいと考えられることから、前記分版においてMKインクを発生開始させるとPKインクへの分版を停止しても構わない。無論、前記評価指数におけるInkPK/InkMK、なる指数への重み付けを大きくすれば、同様の分版が実現される。
【0064】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態にかかる印刷装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】インクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
【図3】印刷ヘッドにおけるインクジェットノズル配列を示す説明図である
【図4】インクジェットノズル配列の他の例を示す説明図である。
【図5】PKインクとMKインクをマット紙(もしくは普通紙)に付着させた状態の模式図である。
【図6】MKインクの一例である。
【図7】インク付着順の一例である。
【図8】印刷処理を示すフローチャートである。
【図9】ハーフトーン処理において各色に発生させるドットサイズを示す表である。
【図10】LUT15bの作成処理の流れを示している。
【図11】各色データのインク発生量を説明するグラフである。
【図12】図10の横軸を説明する図である。
【図13】L*=50のグレー付近の色をマット紙に印刷した分光反射率を示すグラフである。
【図14】LUT15bを用いて印刷した印刷結果の粒状性を示すグラフである。
【図15】CMYMKに分版するLUTを用いて印刷した印刷結果の粒状性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
10…コンピュータ、11…CPU、12…システムバス、13…RAM、14…ROM、15…ハードディスクドライブ、15a…画像データ、16…I/F、16a…周辺機器I/F、16b…入力I/F、16c…ディスプレイI/F、16d…プリンタI/F、17…ディスプレイ、20…プリンタ、21…制御部、21a…CPU、21b…ROM、21c…RAM、22…操作部、25a…コントロール回路、25b…インクカートリッジ、25c…印刷ヘッドユニット、26a…ASIC、26b…ヘッド駆動部、27a…I/F、27b…キャリッジ機構、27c…紙送り機構、44〜48…印刷ヘッド、100…印刷装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷方法に関し、特に、媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタやレーザプリンタ等のカラープリンタでは、印刷用紙上にインクを付着させて、用紙上に画像形成する。用紙上に形成される画像の画質は、当然のことながらインクと用紙の組合せに依存し、インク色の組合せ(例えばCMYK、CMYKlclm等)、印刷用紙の種類(例えば光沢紙、フォトマット紙等)、各インクの組成、各インク粒子の物理的・化学的構造、等によって左右される。従って、所定の印刷用紙に付着した際に良好な発色が実現できるインクの開発や、所定のインクが付着した際に良好な発色が実現できる印刷用紙の開発等が行われている。
【0003】
より具体的には、複数種類の黒インクを搭載して印刷媒体に合わせて適宜切換えて使用可能な印刷技術(例えば特許文献1等)や、普通紙に高画質印刷可能なブラックインクについての提案(例えば特許文献2等)、光沢紙に高画質印刷可能なブラックインクについての提案(例えば特許文献3等)等が行われている。また印刷用紙に合わせて適切なインクでの印刷を可能とするために、黒色インクカートリッジと有彩色インクのカートリッジとをヘッド毎交換可能なカラープリンタについても提案されている(例えば特許文献4等)。
【特許文献1】特開2004−25545号公報
【特許文献2】特開2004−10632号公報
【特許文献3】特開2006−206701号公報
【特許文献4】特開平9−300666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その他、黒色の印刷において高画質印刷を実現するために、複数濃度の黒色インク(例えば、K,LK,LLK等)を用意し、所定階調の黒を印刷する際に、各濃度のインク組合せを適切に選択することにより、豊かなグラデーションを実現する技術も知られている。
【0005】
但し、1種類の黒インクは1種類の印刷媒体に対する印刷にしか適さず、複数種類の印刷媒体の各々に適切な高画質印刷を行うためには、前述の特許文献4のようにインクカートリッジを交換したり、前述の特許文献1のように複数種類のインクを搭載して印刷媒体に合わせて切換えて使用したりすることになる。いずれの方法であっても、1種類の印刷媒体への印刷は、該印刷媒体への印刷に適したインクを用いて実行されることになる。従って、一方の印刷媒体への印刷時には他方の印刷媒体への印刷に適したインクは有効利用されていなかった。
【0006】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、各々異なる印刷媒体への印刷に適した複数種類の墨色インクを利用した印刷を行うにあたり、両インクを有効活用可能な印刷装置および印刷方法の提供を目的とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の印刷装置では、媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷装置であって、第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、を用いて、前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する構成としてある。
【0008】
黒色インクとは、いわゆる無彩色インクである。前記所定の発色とは、入力されるデータが例えば256階調である場合は、黒色インクを用いて0階調〜255階調までの発色を意味し、白点〜黒点までのグラデーションを再現可能であることを意味する。無論、異なる黒色インクであるので、グラデーションの詳細までは完全に一致せずともよいが、第1黒色インクを様々な量で前記第1媒体に付着させることにより、グレースケールの最小階調〜最大階調までを表現可能であり、同様に第2黒色インクを様々な量で前記第2媒体に付着させることにより、グレースケールの最小階調〜最大階調までを表現可能である。逆に言えば、前記第1媒体に前記第2黒インクを様々な量で付着させた場合にはグレースケールの最小階調〜最大階調までを表現できないことになる。前記第1媒体や前記第2媒体のような媒体としては、紙、樹脂、金属、複合物、布、セラミック等、様々な媒体が考えられる。すなわち前記条件を満たしつつ、インクを付着可能な媒体であれば、いかなる媒体であってもよい。
【0009】
本発明の印刷装置によれば、各々異なる印刷媒体への印刷に適した黒色インクを併用した印刷を行うことにより、インクのランニングコストや粒状性の悪化を抑えられる。すなわち明るい階調を印刷する際には単位インク量あたりの発色が少ない黒インクを使用して粒状性の悪化を防止し、暗い階調を印刷する際には単位インク量あたりの発色が多い黒インクを使用してインクのランニングコストを抑える。
【0010】
前記のように同一の媒体に付着された際に発色が異なるインクの特徴として、たとえば、前記第2黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さに比べて、前記第1黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さが浅いこと、同じ量の前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを前記第1媒体に付着させると、前記第2黒色インクに比べて前記第1黒色インクの着色濃度の方が濃いこと、等が挙げられる。すなわち、インクが媒体に付着した際の、媒体に対する浸透深さ、着色濃度等に起因してインクの発色に差異が生じる。
【0011】
本発明の選択的な一側面として、前記第1媒体への着色に前記第2黒色インクを用いる前記黒色の階調値における階調範囲は、前記第1媒体への着色に前記第1黒色インクを用いる黒色の階調値における階調範囲よりも、黒色の階調値が高い階調値側に分布するように構成してもよい。すなわち、前記第1媒体に前記第2黒色インクを付着すると、前記第2媒体に前記第2黒色インクを付着した場合に比べて、発色が低下する場合は、前記第2黒色インクに前記第1黒色インクの淡色インクとしての役割を持たせる。よって粒状性を改善する効果も期待できる。
【0012】
前記第1黒色インクと前記第2黒色インクのより具体的な本発明の選択的な一側面として、前記第1黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%超含み、前記第2黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%以下含む構成としてもよい。すなわち、カーボンブラック濃度が異なるインクである。
【0013】
本発明の選択的な一側面として、前記第1媒体に前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを付着させて着色するにあたり、前記第1黒色インクを先に付着させるように構成してもよい。すなわち、本来、前記第1媒体への印刷に適した第1黒色インクを先に付着させることにより、第1黒色インクの発色を有効利用しつつ、第2黒色インクによる発色を前記第1黒色インクの補助的なものとする。このような着色順を採用することにより、他の着色順に比べて粒状性の悪化を防止できる。
【0014】
本発明の選択的な一側面として、印刷対象となる媒体を判断する媒体判断手段を更に備え、前記媒体判断手段において前記第1媒体と判断されると前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを使用して印刷を実行し、前記媒体判断手段において前記第2媒体と判断されると前記第1黒色インクを用いずに前記第2黒色インクを用いて印刷を実行するように構成してもよい。印刷対象となる媒体を判断して、自動的に使用するインクを選択する。よって、前記第1媒体と前記第2媒体とに適した印刷が自動的に実行可能となる。
【0015】
上述した印刷装置は、他の機器に組み込まれた状態で実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。また、本発明は前記印刷装置を備える印刷システム、上述した装置の構成に対応した工程を有する制御方法、上述した装置の構成に対応した機能をコンピュータに実現させるプログラム、該プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体、等としても実現可能である。これら印刷システム、印刷方法、印刷制御プログラム、該プログラムを記録した媒体、の発明も、前述した作用、効果を奏する。むろん、請求項2〜6に記載した構成も、前記システムや前記方法や前記プログラムや前記記録媒体に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)印刷装置の構成:
(2)印刷処理:
(3)ハーフトーン処理:
(4)LUT作成処理:
(5)粒状性の評価:
(6)変形例:
【0017】
(1)印刷装置の構成:
図1は、本発明の実施形態にかかる印刷装置の概略構成を示している。本印刷装置100は、コンピュータ10とプリンタ20を備えている。コンピュータ10は、各種の演算処理を実行するCPU11を備えており、該CPU11がシステムバス12を介してコンピュータ10全体の制御を行う。システムバス12には、データを一時的に記憶するRAM13、各種のプログラムを記憶しておくROM14,ハードディスクドライブ(HDD)15、各種インターフェース(I/F)16等が接続されている。なお、本発明の印刷装置100は、コンピュータ10の機能がプリンタ20に一体形成されたものであって構わない。
【0018】
HDD15にはオペレーティングシステム(OS)、画像情報等を作成可能なアプリケーションプログラム(APL)等が格納されており、これらのソフトウェアの実行が指示されるとCPU11の制御に従ってRAM14等で構成されるワークエリアに転送・実行される。またHDD15は、複数のLUTを複数の印刷用紙に対応付けて記憶している。なお、HDD15以外に、CD−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、不揮発性メモリ、等の記憶媒体を利用してもよい。また、なお、I/F16を経由して通信ネットワークに接続すれば、通信ネットワーク上にある記憶装置から必要なデータやプログラムを取得して実行することも可能である。
【0019】
周辺機器I/F16aには、デジタルカメラやカラースキャナ等が接続可能である。入力I/F16bには、キーボードやマウスなどの操作入力機器が接続されている。ディスプレイI/F16cには、ディスプレイ17が接続されている。プリンタI/F16dには、プリンタ20が接続されている。
【0020】
図2はプリンタ20の構成を示すブロック図である。プリンタ20は、制御部21、操作部22、コントロール回路25a、インクカートリッジ25b、印刷ヘッドユニット25c、ASIC26a、ヘッド駆動部26b、I/F27a、キャリッジ機構27b、紙送り機構27c、を備えている。制御部21はCPU21a、ROM21b、RAM21c、を備えており、ROM21bに記録されたプログラムに従ってCPU21aがRAM21cをワークエリアとしてプリンタ20全体を制御する。これら各部21,22,25a,26a,27aはシステムバスを介して相互に通信可能に接続されている。
【0021】
キャリッジ機構27bにて主走査方向に往復動するキャリッジには、各インクカートリッジ25bを装着したカートリッジホルダが設けられており、印刷ヘッドを備える印刷ヘッドユニット25cが搭載されている。キャリッジの下部にある印刷ヘッドユニット25cには、C・M・Y・PK・MKの各インクに対して、印刷ヘッド44・45・46・47・48がそれぞれ形成されている。キャリッジの底部には図示しない導入管がインク毎に立設されており、キャリッジにインクカートリッジを装着すると、カートリッジ内の各インクは導入管を通じて、それぞれの印刷ヘッド44〜48に供給される。
【0022】
ヘッド駆動部26bは、ASIC26aから印刷データに対応する印加電圧データを入力されてピエゾ素子への印加電圧パターンを生成し、該素子を内蔵する印刷ヘッドに各色のインク滴をドット単位で吐出させる。各印刷ヘッドに供給されたインクは、インク通路上に設けられたピエゾ素子PEに印可する電圧波形を制御することによって、吐出するインク滴の大きさを制御可能である。すなわち、本実施形態のプリンタ20はバリアブルドットプリンタであり、大きさの異なる大・中・小の3種類のドットを、色毎に形成可能である。形成するドットの大きさを変えれば、ドット毎に多階調表現可能となるので、豊かな階調表現の画像を印刷できる。なお、ドットの大きさは3種類に限られるものではなく、必要に応じて更に多種類のドットを形成するものであっても構わない。
【0023】
制御部21は、インターフェース(I/F)27aに接続されたキャリッジ機構27bや紙送り機構27cは、印刷ヘッドユニット25cを主走査させたり、適宜改ページ動作を行いながらシート状の印刷媒体を順次送り出して副走査を行ったりする。
【0024】
本実施形態のプリンタ20は、有彩色インクとして少なくともシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3種類を使用し、無彩色インクとしてフォトブラック(PK)、マットブラック(MK)の2種類を使用する。むろん、プリンタ20には、CやMやPKやMKの淡色、Yの濃色、レッド、バイオレット、無着色インク、等も使用する装置、CMYKのいずれかを使用しない装置であってもよい。また印刷装置100はインクジェットプリンタのみならず、各種インク昇華式プリンタ、トナーインクを使用するレーザプリンタ、等も採用可能である。なお、本実施形態においては、フォトブラック(PK)が第2黒色インクである場合に、マットブラック(MK)が第1黒色インクとなる
【0025】
図3は、印刷ヘッド44〜48におけるインクジェットノズル配列を示す説明図である。同図に示すように、各色の印刷ヘッド44〜48は主走査方向に並べて配置され、印刷ヘッドの底面には1組のノズルアレイあたり複数個のノズルが、一定のノズルピッチで配列されている。プリンタ20の制御回路21は、キャリッジを搬送しながら、これらノズル位置の違いを考慮し適切なタイミングでそれぞれのピエゾ素子PEを駆動してインク滴を吐出する。
【0026】
図4は、印刷ヘッド44〜48におけるインクジェットノズル配列の他の例を示す説明図である。同図においては、各色の印刷ヘッドが、副走査方向に並べられている。この場合、上流側から下流側に向けて有彩色インク、PKインク、MKインクの順で配置すると、印刷用紙に対し、MKインクが先に付着され、その上からPKインクや有彩色インクが付着される。その結果、例えば他の着色順に比べて粒状性が向上する。インクの上にインクを打つとドットの形がいびつになることはよく知られており、前記第1媒体に付着して発色性の良い第1黒色インクを先に打つことで第1黒色インクのドット形状をきれいな形(真円に近い形)にし、粒状性を向上させる。さらに、第1黒色インクが紙上にきれいに打たれることで第1黒色インクの発色効率が増し、ランニングコストを下げる効果も期待できる。なお、図3のように吐出ノズルが主走査方向に並んでいる場合は、インクノズルの並べ方は特に限定する必要は無い。
【0027】
ここで、本発明にかかる無彩色インクについて説明する。本発明においては、2種類の黒色インクを利用しており、特定の印刷媒体に対する浸透特性(インクを媒体に付着させたとき、インク中着色成分の横方向への広がり特性や媒体の厚み方向へ浸透特性等)が異なっている。また、本発明にかかる第1黒色インクと第2黒色インクは、互いにカーボンブラック濃度が異なるインクであり、且つ、第1媒体に様々な量の第1黒色インクを付着させることにより所定範囲の濃度階調を表現可能なインクであり、第2媒体に様々な量の第2黒色インクを付着させることにより所定範囲の濃度階調を表現可能なインクである。すなわち各黒色インクは、各々カーボンブラック濃度と浸透特性を考慮して最適な印刷媒体に印刷されると所定範囲の濃度階調を表現可能であるが、第1黒色インクと第2黒色インクを同一の印刷媒体に付着させた場合には表現可能な濃度階調が異なる。このような黒色インクとして、本実施形態ではPKインクとMKインクを例に取り説明している。
【0028】
本実施形態にかかるPKインクは、カーボンブラックを3.0重量%以下含み、好ましくは0.1〜3.0重量%、更に好ましくは1.0〜2.0重量%、特に好ましくは1.2〜1.8重量%である。また、本実施形態にかかるPKインクは、その1000倍希釈水溶液のL*a*b*色空間におけるL*値が、42〜67、特に48〜60の範囲内にあることが好ましく、同a*値が、−2.75〜−2.40の範囲内にあることが好ましく、同b*値が、9〜14の範囲内にあることが好ましい。PKインクは、印刷媒体として光沢紙のように塗工層を有するメディアに適用した際に、MKインクに比べて特に耐擦過性に優れ、光沢に特に優れる点で好ましい。
【0029】
一方、本実施形態にかかるMKインクは、カーボンブラックを3.0重量%超含み、好ましくは4.0〜9.0重量%、更に好ましくは5.0〜8.0重量%、特に好ましくは6.0〜7.0重量%である。また、本実施形態にかかるMKインクは、その1000倍希釈水溶液のL*a*b*色空間におけるL*値が、0.1〜16、特に2〜10の範囲内にあることが好ましく、同a*値が、1〜8の範囲内にあることが好ましく、同b*値が、1〜18の範囲内にあることが好ましい。MKインクは、記録媒体としてマット紙や普通紙に適用した際に、インクが付着しやすく、画像の発色性に特に優れる点で好ましい。
【0030】
図5はPKインクとMKインクをマット紙(もしくは普通紙)に付着させた状態の模式図である。本実施形態のPKインクは親水性であり、紙の繊維に比較的深く浸透してにじみやすく、インクが付着する層の空隙径が想定よりも大きい媒体に印刷するとにじみが激しくなり意図した発色が得られなくなる。これに対し、本実施形態のMKインクは、例えば紙の繊維に浸透しにくいインク(例えば、インク粒径が紙の繊維の空隙径よりも大きなインクや、サイズ剤に付着しにくい疎水性インク等)であり、表面に凹凸の残る印刷媒体であれば付着しやすく意図した発色を得やすい。ただしMKインクは、表面に凹凸の少ない例えば光沢層を有する印刷媒体に対しては付着力が弱く、光沢層を有する印刷媒体に印刷すると擦過等で剥離しやすい。このようなPKインクやMKインクの実施例としては、例えば特開2004−155826号公報に開示されているPKインクやMKインクを採用可能である。
【0031】
また、本実施形態のMKインクとしては、図6のように、例えばサイズ剤の添加によって疎水性が付与された印刷媒体に対して浸透しにくい特性を有することにより、印刷媒体に付着された場合に表面付近に止まるインクであってもよい。このようなMKインクは、顔料インク粒子のまわりを大きな疎水性ブロックで被い、該疎水性ブロックの外側先端に水溶液中に分散させるための小さめの親水性ブロックを設けることにより、インク液における自己分散性と印刷媒体付着時に印刷媒体表面付近でとどまる特性とが実現される。
【0032】
図5,6に示したMKインクやPKインク、並びにコンポジットカラーのインクをマット紙(もしくは普通紙)へ印刷すると、図7のような浸透特性を示すことになる。すなわちMKインクは用紙表面付近に止まり、PKインクや有彩色インクは、用紙に浸透してやや深いところに定着する。このとき、インクの付着順によっては、先に付着したMKインクが、後から付着するPKインクや有彩色インクの付着面積を狭めることになり、逆順で付着させた場合に比べて、MKインクとPKインクや有彩色インクとの付着位置が重複しにくく、PKインクや有彩色インクの発色効率が高まる。
【0033】
本実施形態においては、各インクでの印刷に適した印刷媒体として光沢紙とマット紙と普通紙とを採用して説明している。
ここで言う普通紙は、塗工層やインク吸収層を持たず、被記録面の繊維が露出している印刷用紙である。
また、ここで言うマット紙は、クレーや炭酸カルシウム等の顔料を主体に、合成ラテックス(スチレン−ブタジエン系、アクリル系等)等のバインダで印刷用紙の繊維空隙構造を埋めて形成した塗工層を、表面に有している。この塗工層は、印刷用紙のセルロースに対し、親水基がセルロース側、疎水基が外側に配向するため、疎水性となる。
また、ここで言う光沢紙は、インク吸収層として高分子系コート層や多孔性微粒子コート層等を有しており、優れたインク吸収性を示す。インク吸収はコート層が充分に厚ければコート層内で完結し、滲み発生しない。例えば、多孔性微粒子系コート層としての多孔質シリカの空隙径は、紙の繊維によって形成される空隙径よりも狭いため、毛細管力が大きく、優れたインク吸収性を示すからである。なお、光沢紙のインク吸収層の下に前記マット紙と同様の塗工層が形成されていても構わない。
【0034】
印刷しようとするカラー原稿は、コンピュータ10に接続されたカラースキャナを用いて取込まれた画像や、コンピュータ10上で各種のAPLにより作成した画像等が使用される。これらの画像データは、コンピュータ10内のCPU11により、プリンタ20が印刷可能な画像データに変換され、画像データ15aとしてプリンタ20に出力される。プリンタ20は、この画像データ15aに従って、印刷媒体上に各色のインクドットを形成し、その結果、印刷用紙上にカラー原稿に対応するカラー画像が印刷される。
【0035】
以上のハードウェア構成を有するプリンタ20は、キャリッジ機構27bを駆動することによって、各色の印刷ヘッド44ないし47を印刷用紙Pに対して主走査方向に移動させ、また紙送り機構27cを駆動することによって、印刷用紙Pを副走査方向に移動させる。制御回路21の制御の下、キャリッジの主走査および副走査を繰り返しながら、適切なタイミングでノズルを駆動してインク滴を吐出することによって、プリンタ20は印刷用紙上にカラー画像を印刷している。
【0036】
(2)印刷処理:
図8は、前記構成における印刷処理を示すフローチャートである。PRTDRV21は、図示しないアプリケーションプログラムから印刷指示が行われた画像について所定の処理を行って印刷を実行する。画像データ15aがPRTDRV21に受け渡されると印刷処理が開始され、ステップS100においてRAM12に格納された画像Aの画像データ15aを取得する。本実施形態における画像データ15aは、RGBデータであり、各画素の色成分を256階調で表現したドットマトリクスデータである。なお、画像データ15aは、YCbCr表色系やCMYK表色系等で表現されたデータでもよいし、JPEG画像データのように所定のアルゴリズムで圧縮符号化された画像データであってもよい。
【0037】
次に、ステップS105では、色変換の際に参照するLUT(Look Up Table)を選択する。本実施形態においては、印刷用紙の種類に基づいてLUTを選択する。印刷用紙の種類は、ユーザもしくはアプリケーションプログラムによって指定され、アプリケーションプログラムが印刷指示を実行する際に画像データ15aと一緒にPRTDRV21に受け渡される。判断の結果、マット紙であればLUT15bを選択し、光沢紙であればLUT15cを選択する。無論、他の種類の印刷用紙に対して専用のLUTを別途用意し、本ステップで判断分岐しても構わない。
【0038】
ここで、LUT15bについて説明する。LUT15bは後述の粒状性評価処理を行って作成されたものである。従って、LUT15bは、無彩色データを表現する場合や有彩色の高濃度データを表現する場合に、CMY等量で表現する黒(以下、コンポジットグレーと呼ぶ。)とMKとPKとの3種類の黒を使い分けるように対応関係が作成されている。使い分けは、各色の使用割合や各インクを使用する階調範囲を設定することにより行われており、ランニングコストの低減、粒状性の低下、色ムラの低減等の観点に基づいてチューニングされている。このチューニングの仕方については後述する。一方、LUT15cは、無彩色を表現する場合や有彩色の高濃度色を表現する場合に、コンポジットグレーとPKとを使い分けるように対応関係が作成されている。すなわちPKインクを利用して光沢紙に好適な印刷が可能に構成されている。
【0039】
ステップS110に進むと、色変換モジュール21bが起動され、選択されたLUT15をHDD15から読み出して参照し、RGBで表現された画像データ15aをCMYPKMKデータに変換する。LUTは、RGB値とCMYPKMKの各インク量データとの対応関係を規定したテーブルである。なお、LUTを参照して実行される色変換においてテーブルに規定されていない色については、補間演算により算出される。補間演算の手法としては公知の種々の技術が適用可能である。
【0040】
色変換処理が終了すると、ステップS120において当該色変換後のドットマトリクスデータに対してハーフトーン処理を施し、ステップS130においてラスタライズ処理を行い印刷データを生成する。そして、ステップS140においてプリンタI/F16dを介して当該生成した印刷データを出力し、本フローを終了する。
【0041】
(3)ハーフトーン処理:
図9は、前記ステップS120のハーフトーン処理において、前記LUT15bに基づいて発生されたPKインク量やMKインク量について、前記大・中・小ドットのいずれを発生させるか示す表である。すなわちPKインクやMKインクの階調データが入力されると、図9の対応関係に従って、階調値に応じた割合で大・中・小ドットにインク量を割り当てる。
【0042】
図9の第1のバリエーションにおいては、PKインクを全て小さいインク滴サイズに割り当て、MKインクはインク使用量に応じた割合で小中大のインク滴サイズに割り当てる。この第1のバリエーションであれば、主に低階調(明るい階調)〜中階調で発生するPKインクの粒状性の悪化を防止可能である。
また、図9の第2のバリエーションでは、PKインクは、インク使用量に応じた割合で、小中大のインク滴サイズに割り当てられ、MKインクは、全て大きいインク滴サイズに割り当てられる。このバリエーションであればPKインクやMKインクによる印刷ムラを防止可能となる。ここで言う印刷ムラとは、印刷媒体に歪みが発生して変形してインク的の着弾位置ずれた場合に、印刷媒体に付着するドット間隔が変動して発生するムラのことである。このような印刷媒体のゆがみの一例としては、インク濡れによる印刷用紙の変形等が挙げられる。すなわち、大き目のインク滴で印刷するため、ドット間隔の変動に強い印刷が可能になる。
また、図9の第3のバリエーションでは、PKインクもMKインクも小中大ドットを順に発生させて印刷を行う。このバリエーションであれば、第1のバリエーションほどではないが粒状性の悪化を防止しつつ、第2のバリエーションほどではないが印刷ムラの発生も防止できる。
なお、前記各バリエーションにおいて、大中小全てのサイズにインク量を割り当てる場合は、公知のハーフトーン処理における割り当て方を適宜採用可能である。
【0043】
(4)LUT作成処理:
図10はLUT15bの作成処理の流れを示している。この処理においては、多くの演算を必要とするので、コンピュータを使用して実行するのが望ましい。本実施形態のLUTは、各色256階調のRGB値と、各色256階調のCMYPKMK値とを対応させた情報テーブルであり、補間演算を前提として、例えば173個の格子点に対応したデータを備えているものとする。無論、階調数や格子点数は任意である。なお、格子点はRGB色空間において全空間を網羅するようにRGBデータを規定している。前記LUT15bは、グレー軸上の色や、所定濃度以上の有彩色のうちコンポジットグレーに相当する成分を、コンポジットグレーとPKとMKとに分版するように作成されている。
【0044】
図11は、図12の破線に沿ってCMYPKMK色データのインク発生量をプロットしたグラフである。なお、図12の破線は、Lab色空間におけるCMYPKMKのガマットをYピュアカラーを通る所定色相で切断し、ガマット外殻に沿って白点から黒点に至る線である。図11において、白点からYピュアカラーまでは、略一定の変化量でYインクの使用量が増加し、YピュアカラーにおいてYインクの使用量が100%に到達する。
【0045】
続いて、ピュアカラーから濃度が上昇するにつれて、コンポジットカラーのY以外の色であるCMのインク量を増加していく。さらに濃度が上昇して濃度がG1に達すると、CMの量が最大になって減少し始め、PKインクの使用量を増加し始める。そして、濃度G2においてCMインクの使用量が0%になり、PKインクの使用量がほぼ最大になる。さらに濃度が上昇すると今度はPKインクの使用量が減少し始め、MKインクの使用量が増加し始める。その後、濃度の上昇とともにPKインクは減少していき、濃度G3に達するとPKインクの使用量が0%になる。なお、黒点においては、MKインクの使用量が100%になる。
【0046】
なお、図11は、破線に沿ったイエローの濃度上昇について示してあるが、イエローに限らず他の色相についても同様のことが言えるし、グレー軸上の階調値についても同様のことが言える。グレー軸上の階調値の場合は、図11のYピュアカラーが白点に相当し、図11においてCMの増加で表現された濃度上昇は、コンポジットカラーを構成するCMY各色インクの上昇に相当する。
【0047】
以上の指針に基づいて作成されたLUTを使用して画像データを色変換し、色変換した画像データに基づく画像をプリンタに印刷させると、黒色を利用したマット紙に対する印刷のうち、低濃度領域においては有彩色インクで表現する黒色が利用され、中濃度領域においてはPKインクで表現する黒色が利用され、高濃度領域においてはMKインクで表現する黒色が利用されることになる。すなわち、従来のように有彩色インクと1種類の無彩色インクを利用して表現していた印刷結果と比べて、中濃度領域における粒状性が改善することになる。
【0048】
さらに、本実施形態にかかるPKインクとMKインクのように光源依存性の異なる黒インクを併用すること、黒インクよりもコンポジットカラーインクを少なくしたこと、の2点によって、光源依存性(カラーインコンスタンシー)も改善される。後者の改善の理由について言えば、インク色材の特性上、カラーインクよりも黒インクの方が光源依存性が少ないためである。図13は前記LUT15bに基づいて、L*=50のグレー付近の色をマット紙に印刷し、該印刷結果を測定した分光反射率を示すグラフである。同図には比較の為に、同じ色をCMYMKに分版してマット紙に印刷し、該印刷結果の分光反射率を測定した結果を示してある。後者ではn=500〜550付近で大きく分光反射率が上下しているのに対し、LUT15bに基づく印刷結果では、全波長域に亘ってほぼ一定の分光反射率を示しており、光源依存性が大きく改善していることがわかる。
【0049】
まず、ステップS200においては、規定されたRGBデータを機器独立色空間であるLab空間の座標値に変換する。本実施形態においては画像データ15aにおいてRGB各色が256階調で表現されており、各色256階調で全ての組合せを考慮すればディスプレイ色域が確定する。例えば、sRGB規格に準拠した画像データは公知の変換式や所定のプロファイルを参照することによりLab空間の座標値に変換することができる。むろん、測色機等を用いた測色結果からLab座標を取得してもよい。
【0050】
続いてステップS210では、プリンタ20のCMYPKMK階調データの各色の各階調で全ての組合せをLab値に変換する。この変換は、CMYPKMK各色の各階調の組合せに基づいて印刷した色パッチを測色機で測色したり、あるいはプリンタ20のプロファイルを参照することによってLab値を確定したりすることができる。
【0051】
ステップS220においては、RGBの代表色に該当する色のLab座標値を、CMYインクのLab座標値と対応付ける。よって、RGB値とCMYPKMK各インクの出力階調との対応関係を得ることができる。以上の変換によりsRGBデータとCMYKデータとの対応関係が規定されたことになるので、ステップS230において前記色変換時の補間演算に必要な代表点を抽出してLUT15bやLUT15cを作成する。
【0052】
以上のようにして作成されたLUT15bを用いて印刷したときの各インクの使用量を図14に模式的に示した。なお、図14との比較のために図15を示し、図15にはCMYMKに分版するLUTを用いて印刷する際のインク使用量を模式的に示してある。図14と図15とを比較すると、コンポジットカラーで印刷する階調値範囲を狭めたことにより、トータルインク量が低下していることが分かる。すなわち、LUT15bを用いて印刷すると、ランニングコストが低下する。
【0053】
(5)粒状性の評価
前記図14と図15には、印刷結果の粒状性の評価結果について模式的なグラフも記載してある。なお、図14に示した例は、前記ハーフトーン処理についてはバリエーションCで行ったものである。図15では図14に比べて低い階調値からMKインクで印刷されており、MKインクの発生とともに粒状度が大きく悪化しているのが分かる。これに対し、図14のように中間的な階調値をPKインクで印刷し、その後コンポジットカラーのインク量と入れ替わりにMKインクで印刷するようにすると、PKインクの発生するタイミングで粒状度がやや悪化するが、図15ほどではない。そしてMKインクが発生しても、粒状度はほとんど悪化せずに済んでいる。
【0054】
粒状性の評価は、人が視認して行ってもよいが、物理特性に基づいて定量的に評価する方が好ましい。定量的な粒状性の評価は、画像の明度分布や濃度分布における周波数成分を取得し、特定の周波数成分の量を利用して評価できる。ここでいう特定の周波数成分とは、粒状ノイズに対応するノイズ成分であり、画像の物理特性をフーリエ変換して空間周波数で現されるスペクトルに変換する取得できる。このような定量的な粒状性の評価法としては、例えば、ウィナースペクトルを用いる方法が知られている。
【0055】
ウィナースペクトルを用いて粒状性を評価するには、まず、複数の階調値を選択して、選択された階調値についてパッチ印刷を行う。印刷された各パッチはスキャナ等によって電子データとして取込まれる。この取込まれた電子データは、RGBの各階調値で表現された画像データであってもよいし、グレースケールに変換されていても構わない。なおRGBで表現されている場合は、公知の変換式で明度データに変換することになる。
【0056】
次に、前記明度データに対して2次元フーリエ変換を行い、前記明度データについての空間周波数とそのスペクトル強度を算出する。そして、算出したスペクトル強度を二乗することによりパッチの明度についてのウィナースペクトルWS(fx,fy)を算出する。なお、fxはx方向の空間周波数を示し、fyはy方向の空間周波数を示している。そしてウィナースペクトルWS(fx,fy)に対して視覚感度関数VTF(fx,fy)を二乗したもの乗算することにより、ウィナースペクトルWS(fx,fy)のスペクトル強度に視覚感度特性に応じた重み付けを行う。視覚感度関数VTF(fx,fy)として、例えば下記式(1)のような関数を適用することができる。なお、下記式(1)においてl(mm)はテスト画像と観測者との距離を示している。
【数1】
下記式(2)は、VTF重み付け部11a3が視覚感度関数VTF(fx,fy)をウィナースペクトルWS(fx,fy)に乗算するときの計算式である。
【数2】
【0057】
以上の計算により、低周波領域のスペクトルを重視した重み付けを行うことができ、人間の視覚感度特性に適合した補正スペクトルAS(fx,fy)を得ることができる。なお、視覚感度関数VTF(fx,fy)はHDD12等に記憶されており、適宜読み出して使用する。このように算出された粒状性を示すAS(fx,fy)について下記(3)式のように、全空間周波数について積分することにより各カラーパッチにおける粒状性を定量的に評価する粒状性評価指数GIが算出される。この粒状性評価指数GIが小さいものほど粒状性が低いことになる。
【数3】
【0058】
前述したLUT15bは、複数の階調値において、CMYPKMK各色インクの組合せに対する粒状性評価指数が最小化するように作成してある。すなわち各階調において、CMYPKMKインク量セットを複数用意し、各インク量セットに対して前記粒状性評価指数を算出する。その結果最も粒状性の良好な評価指数を得たインク量セットを、該当する階調値におけるインク量セットに採用するのである。このように粒状性を評価する階調は、所定階調置きに実行すればよく、評価対象となる階調間については補間演算で算出する。
【0059】
(6)変形例:
ところで前記LUT15b作成時の分版の仕方は、分光プリンティングモデルを利用して決定しても構わない。分光プリンティングモデルを用いたLUT作成方法については、例えば、特願2006−165043(以下、先行文献Aと記載する。)、に記載されているプロファイルを作成するシステムが利用できる。なお、本発明に前記分光プリンティングモデルを利用するには、先行文献Aに記載の分光プリンティングモデルに対して以下の変更を加えることになる。
【0060】
まず、先行文献Aにおいては、CMYやCMYKlclmを例にとって説明を行っているが、これをCMYPKMKに変更する必要がある。例えば、先行文献Aの段落0067〜0081に記載の分光反射率Rsmp(λ)を算出する際にCMYPKMKでRsmp(λ)を算出することになる。無論、その際、CMYPKMK各色の一次色のカラーパッチをマット紙上に印刷し、各カラーパッチとマット紙の下地色との分光反射率分布を取得しておく必要がある。また、粒状性の評価を行う場合は、先行文献Aの段落0082〜0121に記載の粒状性プロファイルについても、CMYPKMK空間において粒状性評価用インク量データを準備することになる。
【0061】
以上のように変更されたシステムにおいて、各指数(CII、MI、GI、Tink等)の重要度に応じて重み付けしつつ評価指数を作成し、該評価指数を最小化するインク量組合せを探索する。そして良好な評価指数を有するサンプルインク量データを選択し、該サンプルインク量データと、該サンプルインク量データを用いて印刷されるカラーパッチの測色値(L*a*b*値)とを用いてプロファイルを作成し、前記ステップS210の処理を行う。
【0062】
なお、前述の指数として、PKインクとMKインクのいずれで印刷されても構わない場合に、MKインクの量が多いほど評価が良好になるような指数を組合せてもよい。MKインクの方が濃度が高く、発色がよいためである。このような指数としては、PKのインク量をInkPKとし、MKのインク量をInkMKとすると、例えば、InkPK/InkMK、なる指数に重み付けして前記評価指数に組み込む。すると、他の指数との兼ね合いではあるが、MKインクの使用量を高いサンプルインク量データが選択される傾向になり、トータルインク量を低下させ、ランニングコスト向上に寄与する。
【0063】
また、前記ハーフトーン処理でMKインクを小中大ドットに割り当てるのであれば、MKインクドットが粒状性の悪化に影響しにくいと考えられることから、前記分版においてMKインクを発生開始させるとPKインクへの分版を停止しても構わない。無論、前記評価指数におけるInkPK/InkMK、なる指数への重み付けを大きくすれば、同様の分版が実現される。
【0064】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態にかかる印刷装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】インクジェットプリンタの構成を示すブロック図である。
【図3】印刷ヘッドにおけるインクジェットノズル配列を示す説明図である
【図4】インクジェットノズル配列の他の例を示す説明図である。
【図5】PKインクとMKインクをマット紙(もしくは普通紙)に付着させた状態の模式図である。
【図6】MKインクの一例である。
【図7】インク付着順の一例である。
【図8】印刷処理を示すフローチャートである。
【図9】ハーフトーン処理において各色に発生させるドットサイズを示す表である。
【図10】LUT15bの作成処理の流れを示している。
【図11】各色データのインク発生量を説明するグラフである。
【図12】図10の横軸を説明する図である。
【図13】L*=50のグレー付近の色をマット紙に印刷した分光反射率を示すグラフである。
【図14】LUT15bを用いて印刷した印刷結果の粒状性を示すグラフである。
【図15】CMYMKに分版するLUTを用いて印刷した印刷結果の粒状性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
10…コンピュータ、11…CPU、12…システムバス、13…RAM、14…ROM、15…ハードディスクドライブ、15a…画像データ、16…I/F、16a…周辺機器I/F、16b…入力I/F、16c…ディスプレイI/F、16d…プリンタI/F、17…ディスプレイ、20…プリンタ、21…制御部、21a…CPU、21b…ROM、21c…RAM、22…操作部、25a…コントロール回路、25b…インクカートリッジ、25c…印刷ヘッドユニット、26a…ASIC、26b…ヘッド駆動部、27a…I/F、27b…キャリッジ機構、27c…紙送り機構、44〜48…印刷ヘッド、100…印刷装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷装置であって、
第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、
前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、
を用いて、
前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する印刷装置。
【請求項2】
前記第2黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さに比べて、前記第1黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さが浅い請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
同じ量の前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを前記第1媒体に付着させると、前記第2黒色インクに比べて前記第1黒色インクの着色濃度の方が濃い請求項1または請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記第1媒体への着色に前記第2黒色インクを用いる前記黒色の階調値における階調範囲は、前記第1媒体への着色に前記第1黒色インクを用いる黒色の階調値における階調範囲よりも、黒色の階調値における低い階調値側に分布する請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記第1黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%超含み、
前記第2黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%以下含む請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記第1媒体に前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを付着させて着色するにあたり、前記第1黒色インクを先に付着させる請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
印刷対象となる媒体を判断する媒体判断手段を更に備え、
前記媒体判断手段によって前記第1媒体と判断されると前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを使用して印刷を実行し、
前記媒体判断手段によって前記第2媒体と判断されると前記第1黒色インクを用いずに前記第2黒色インクを用いて印刷を実行する請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項8】
媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷方法であって、
第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、
前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、
を用いて、
前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する印刷方法。
【請求項1】
媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷装置であって、
第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、
前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、
を用いて、
前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する印刷装置。
【請求項2】
前記第2黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さに比べて、前記第1黒色インクが前記第1媒体に付着された場合の前記第1媒体に対する浸透深さが浅い請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
同じ量の前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを前記第1媒体に付着させると、前記第2黒色インクに比べて前記第1黒色インクの着色濃度の方が濃い請求項1または請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記第1媒体への着色に前記第2黒色インクを用いる前記黒色の階調値における階調範囲は、前記第1媒体への着色に前記第1黒色インクを用いる黒色の階調値における階調範囲よりも、黒色の階調値における低い階調値側に分布する請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記第1黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%超含み、
前記第2黒色インクは、カーボンブラックを3.0重量%以下含む請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記第1媒体に前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを付着させて着色するにあたり、前記第1黒色インクを先に付着させる請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
印刷対象となる媒体を判断する媒体判断手段を更に備え、
前記媒体判断手段によって前記第1媒体と判断されると前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを使用して印刷を実行し、
前記媒体判断手段によって前記第2媒体と判断されると前記第1黒色インクを用いずに前記第2黒色インクを用いて印刷を実行する請求項1〜請求項6の何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項8】
媒体にインクを付着して該媒体に着色する印刷方法であって、
第1媒体に付着して所定の発色をする第1黒色インクと、
前記第1媒体とは異なる第2媒体に付着して所定の発色をする第2黒色インクと、
を用いて、
前記第1媒体に着色する際に、黒色の階調値における所定範囲で前記第1黒色インクと前記第2黒色インクとを利用して印刷する印刷方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−36479(P2010−36479A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202738(P2008−202738)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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