説明

印刷装置および印刷方法

【課題】 電子写真方式プリンタ並みに簡易でありながら高速にオンデマンドで「版」を作製して、オフセット印刷並みの画質を持つ印刷装置および印刷方法を提供することである。
【解決手段】 書き換え可能な版を用いる印刷装置において、書き換え可能な版を形成する第一の版形成体と、前記第一の版形成体に対する潜像形成手段と、前記第一の版形成体の表面上の潜像が形成されている部分に選択的に撥インキ粒子を付着させる凸部形成手段と、前記第一の版形成体表面上に付着された前記撥インキ粒子を、表面に有するくぼみで受容保持する第二の版形成体と、前記撥インキ粒子を前記くぼみに押し込む圧着手段と、記録材料を前記第二の版形成体の表面に供給する記録材料供給手段と、を備え、前記撥インキ粒子の表面が前記記録材料をはじく性質であり、かつ前記版形成体の表面が前記記録材料をはじかない性質としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オンデマンドのオフセット印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザビームプリンタ、LED(発光ダイオード)プリンタなど、いわゆる電子写真方式のプリンタが数多く提案されているが、これらのプリンタはオンデマンド印刷用途として広く普及している。一方、平版オフセット印刷方式は、版を使用することにより同じ内容の印刷物をたとえば1000部以上という大量の印刷物の生産用途として古くから使用されている。
【0003】
近年の電子写真方式のプリンタの画質向上はめざましいものがあるが、紙面全面にベタ塗りした印刷においては色の均一性に乏しく(色差が大きい)、カールなどの発生もある。また新聞紙のような薄紙への印刷は実現していない。
【0004】
一方、平版オフセット印刷は新聞印刷の主流ともなり、薄紙に両面で高速にカラー印刷ができるようになってきた。また印刷物のインキ厚みは2μm程度と薄く、紙の風合いを損なわない印刷物に仕上げられるという大きな特徴を持っている。
【0005】
しかし製版に時間とコストを要するため出力枚数が少ない場合にはコスト高となり、大量部数の印刷用途以外には広がっていない。
【0006】
そこで、電子写真方式のプリンタの簡便さを持ちつつ、オンデマンドで平版オフセット印刷方式の画質が得られ、しかも少ない枚数の出力でもコストと時間があまりかからない新しい印刷装置が求められてきた。
【0007】
例えば、特許文献1では疎水性を示す酸化チタンを潜像形成ドラム表面に形成し、これに対して原稿の電子データに応じて紫外線を照射して親水部をつくる。そして、この部分に「湿し水」を保持させた後、インクを疎水部に付着させてオフセット印刷を行う方法が提案されている。その後、所定の温度に加熱すると先の親水部が元の疎水性に戻るという工程を利用してオンデマンド印刷が可能であるとしている。
【0008】
これに対して、特許文献2には、この「湿し水」を使用しないオンデマンドの凸版印刷方法が提案されている。まずインキ反発性の表面をもつ版胴表面上に、電子写真方式によって親インキ性のトナーで画像を形成してこれを熱で仮り定着する。その後、このトナー上に紫外線硬化型水なしオフセット用インキを着肉してからこのインキ像に紫外線を照射して硬化させることにより、トナー像のみの場合よりも強固な一時的「版」を形成する。この版に再度、水なし平版用インキを着肉し、そのインキを被印刷材(紙等)に転写する。このインキ供給、転写の操作を所定回数繰り返した後、インキ反発性の表面をもつ物体上に仮り定着しているトナー像をトナー像上に残ったインキ像もろとも除去することによりオンデマンド印刷が可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−250027号公報
【特許文献2】特開平11−291603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示されている方法では、段差があるオフセットの版とは違って、段差の無い面に形成された親水部分と疎水部分に湿し水とインキを付着供給する。そのために、液体であるインキのエッジ(文字や画像の輪郭)が液体である湿し水で拘束されているのみである。その結果、ブランケット胴にインキを転写する際にインキのエッジが動きやすく、結果として文字や画像の輪郭が本来形成したいものからくずれて、印刷品位を高品位に保つことが難しいという課題がある。
【0011】
また、特許文献2に開示されている方法では、仮り定着させたトナー像(層)とその上に着肉させたインキを紫外線硬化させた層とからなる凸部の上に印刷すべきインキを着肉させて、このインキを紙等に転写する。そのため紙に転写されるインキは凸部のうえに周りからは何の拘束も無くのせられているために、紙にインキを転写する際にインキのエッジが動きやすい。その結果、文字や画像の輪郭が本来形成したいものからくずれて、印刷品位を高品位に保つことが難しいという課題がある。
【0012】
また現像工程が、(1)トナーによる仮り定着工程と、(2)下地として硬化されるインキの塗布工程と、(3)最終的に紙に転写されるインキの塗布工程の3度も経るために印刷効率が悪く、印刷速度の高速化に対しても改善の余地がある。
【0013】
そこで本発明は、上述の実情に鑑みて提案するものであって、電子写真方式プリンタ並みに簡易でありながら高速にオンデマンドで「版」を作製して、インキのエッジ(文字や画像の輪郭)が高品位な印刷装置および印刷方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するために本発明に係る印刷装置は、書き換え可能な版を用いる印刷装置において、書き換え可能な版を形成する第一の版形成体と、前記第一の版形成体の表面に対して潜像を形成する潜像形成手段と、前記第一の版形成体の表面上の潜像が形成されている部分に選択的に撥インキ粒子を付着させて凸部を形成する凸部形成手段と、前記第一の版形成体表面上に付着された前記撥インキ粒子を、表面に有するくぼみで受容保持する第二の版形成体と、前記第二の版形成体に保持された前記撥インキ粒子を前記くぼみに押し込む圧着手段と、記録材料を前記第二の版形成体の表面に供給する記録材料供給手段と、前記第二の版形成体の表面に供給された前記記録材料を転写する中間転写体と、前記中間転写体の表面の前記記録材料を被記録媒体に転写する際に押圧する押圧手段と、前記被記録媒体を搬送する搬送手段と、を備え、前記撥インキ粒子の表面が前記記録材料をはじく性質であり、かつ前記版形成体の表面が前記記録材料をはじかない性質としたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る印刷方法は、書き換え可能な版を用いる印刷方法において、書き換え可能な版を形成する第一の版形成体の表面に対して潜像を形成する第1の工程と、前記潜像をもとにして前記第一の版形成体の表面に撥インキ粒子を付着させて凸部を形成する第2の工程と、前記第一の版形成体表面上の前記撥インキ粒子を、第二の版形成体表面のくぼみに受容保持する第3の工程と、前記第二の版形成体に保持された前記撥インキ粒子を前記くぼみに押し込む第4の工程と、記録材料を前記版形成体の表面に供給して画像部を形成する第5の工程と、前記版形成体の表面の前記記録材料を中間転写体に転写させる第6の工程と、前記中間転写体の表面の記録材料を被記録媒体に転写する第7の工程と、を備え、前記撥インキ粒子の表面が前記記録材料をはじく性質であり、かつ前記版形成体の表面が前記記録材料をはじかない性質としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、第二の版形成体である版胴と粒子圧着ローラとの間隙位置にて、撥インキ粒子は粒子圧着ローラによって版胴表面のくぼみ内へ押し込まれ、嵌め合い力によって強固に保持される。同時に、第一の版形成体に書き込まれた潜像スポット内に不規則に現像付着された複数の撥インキ粒子が、規則性をもって配置された版胴表面のくぼみにより不規則性を矯正できる。その結果、高品位な印刷を実現できる。また、本発明では、撥インキ粒子を使用することにより湿し水が不要となり、環境に配慮した印刷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明における第1実施形態の構成を説明するための図である。
【図2】本発明における第1実施形態の露光・現像工程を説明するための図である。
【図3】(a)は本発明における第1実施形態の撥インキ粒子転移工程を説明するための図である。(b)は版胴表面のくぼみを説明するための図である。(c)は感光ドラム上に位置する撥インキ粒子を説明するための図である。(d)は版胴上に位置する撥インキ粒子を説明するための図である。
【図4】(a)は本発明における第1実施形態の撥インキ粒子圧着工程とインキ供給工程を説明するための図である。(b)は版胴表面の撥インキ粒子とインキを説明するための図である。(c)は版胴上のインキのブランケット胴への転移を説明するための図である。
【図5】本発明における第3実施形態の構成を説明するための図である。
【図6】本発明における第3実施形態の現像工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の第1実施形態について図1乃至図4をもとに説明する。本実施形態の印刷装置は、図1に示すように書き換え可能な版を形成する第一の版形成体であってアモルファスシリコン感光体(a−Si)からなる感光ドラム1を有する。該感光ドラム1の周辺には、帯電器2、露光器3、現像器4、版胴12、除電器6、第1クリーナ7が配置される。露光器3は第一の版形成体となる感光ドラム1の表面に対して潜像を書き込む潜像形成手段として構成される。現像器4は第一の版形成体となる感光ドラム1の表面上の潜像が形成されている部分に選択的に撥インキ粒子20を付着させて凸部を形成する凸部形成手段として構成される。さらに第二の版形成体となる版胴12は第一の版形成体となる感光ドラム1の表面上に付着している撥インキ粒子20をくぼみ22を有する版胴12表面に転移させるとともに、粒子圧着ローラ13により撥インキ粒子20をくぼみ22へ押し込んで保持力を強化させる。インキローラ5は記録材料となるインキ21を第二の版形成体となる版胴12の表面に供給する記録材料供給手段として構成される。第二の版形成体となる版胴12の表面に供給された記録材料となるインキ21を転写する中間転写体としてのブランケット胴8が設けられる。さらに該ブランケット胴8の周辺には第2クリーナ9と、該ブランケット胴8の表面の記録材料となるインキ21を被記録媒体となる紙11に転写する際に押圧する押圧手段となる圧胴10を配置して構成されている。ブランケット胴8及び圧胴10は被記録媒体となる紙11を搬送する搬送手段を兼ねる。
【0020】
図示しないホストコンピュータから送られてくるデジタル信号(画像部データは鏡像データである)に対応して、図示しないモータに駆動されて図1中の矢印の通りに感光ドラム1、版胴12、インキローラ5、ブランケット胴8および圧胴10が回転する。またこの動作に対応して被記録媒体となる紙11を図示しない搬送手段によって、ブランケット胴8と圧胴10との間に搬送する。
【0021】
本実施形態1では一般に市販されている油性インキ(サカタインクス株式会社製枚葉オフセットインキ ダイヤトーンエコピュアSOY−HPJ)を使用し、感光ドラム1としては溶剤を含むインキにも安定に対応できるアモルファスシリコン系のものを使用した。アモルファスシリコン感光ドラム1の表面(表面保護層)は、シリコン及び炭素の少なくともいずれかを母体とする非晶質材料で構成されるもので親インキ性(親油性)である。この表面保護層は、高周波プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition;化学的気相成長)法、PCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition;プラズマ気相化学堆積)法により成膜することができる。
【0022】
この感光ドラム1に対して、帯電器2により感光ドラム1の表面を−600Vに帯電させ(図2(a)中の電位V)、この後に露光器3により非画像部に当たる位置に静電潜像を書き込み形成した(図2(b)中の電位V)。本実施形態において電位Vは、−30V程度になった。
【0023】
つぎにこの静電潜像に対して、マイナスに摩擦帯電させた撥インキ粒子20を格納している現像器4を、−400V(電位V)に保持して、反転現像により非画像部(−30Vの部位)に付着させた(図2(c)参照)。この撥インキ粒子20の付着の原理は「電界ベクトルと力ベクトルとの関係」に基づくもので、−400Vの現像器4と−30Vの露光面との間には、露光面から現像器4に向かって電界ベクトルが形成される。したがって同時に、現像器4と非画像部(−30Vの部位)とのあいだに位置する撥インキ粒子20に対しては、力のベクトルは撥インキ粒子20を非画像部(−30Vの部位)に引き付ける方向に働く。他方、露光されていない−600Vの面と−400Vの現像器4との間には、現像器4から−600Vの面に向かって電界ベクトルが形成される。同時に力のベクトルは撥インキ粒子20を遠ざける方向に働く。これは電子写真方式の現像工程で一般的に用いられている考え方である。
【0024】
また、ここではいわゆる接触現像方法により撥インキ粒子20を付着させた。この撥インキ粒子20の付着力の強弱は、V,V,Vがいずれも負の電位の場合に電位の絶対値の大小関係において、以下の数式1を維持しながら、電位V,V,Vの3者の電位差を制御して所望の条件で調整すれば良い。
[数式1]
(電位Vの絶対値)>(電位Vの絶対値)>(電位Vの絶対値)
油性インキ21を用いる場合の撥インキ粒子20としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ナイロン、セルロースなどの親水性高分子からなる樹脂が適用できる。またはフッ素、シリコーンなどからなる疎水性、撥油性樹脂を撥インキ粒子20にして用いることができる。また、市販の粒子を撥インキ粒子20として用いることができる。例えば、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(テフロン(登録商標)7A)、ダイキン工業社製ポリテトラフルオロエチレン粒子(ルブロン(登録商標)L−5F)、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製PFA粒子(MP10)、デュポン社製FEP粒子(5328000)、DOW CORNIONG TORAY社製シリコーンのパウダー(トレフィル(登録商標)E−606)を用いることができる。また、以下のように製造しても良い。即ち、(1)所望の樹脂を溶融混練した後粉砕、液中への分散、気体中への噴霧などによって粒子化して製造する。(2)所望の樹脂に対応したモノマーを重合する際に同時に粒子化して製造する。撥インキ粒子20にはさらに、油脂成分、磁性体、荷電制御剤などを内添、外添しても良い。その他に撥インキ粒子20と混合される添加剤としては、無機微粉体、表面処理された無機微粉体及び有機微粉体が挙げられる。本実施形態では、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(テフロン(登録商標)7A)にシリカ微粒子を2wt%添加して撥インキ粒子20として用いた。
【0025】
オフセット印刷の場合、最終的に紙11へ転写されるインキ21の厚みは2μm〜3μmが画質として優れている。そして、第二の版形成体となる版胴12の表面に供給されるインキ21の厚は2μm〜3μmよりも厚いことが必要となるので、撥インキ粒子20の重量平均粒径は5μm以上が好ましい。
【0026】
上記露光器3としては、半導体レーザ発振器からのレーザをポリゴンミラーの回転により走査して感光ドラム1上に静電潜像を形成する方式のものを使用した。この露光器3としてはLED(発光ダイオード)を並べた光源のものを使用しても構わない。
【0027】
また、版胴12表面には縦および横方向に等間隔でくぼみ22が形成されている(図3(b))。本実施例1では、アルミニウム板にウェットエッチ加工により9μmピッチ(175線相当)でくぼみ22を作製した。くぼみ22の等価円直径は5μm程度であった。このように加工したアルミニウム板を鋼材製の胴体表面に巻きつけて版胴12とした。もちろん、アルミ製の胴体表面に直接くぼみ22を形成しても構わない。また、撥インキ粒子20の重量平均粒径は8〜9μmである。記載したアルミニウム板に作製したくぼみ22のピッチ、くぼみ22の等価円直径、撥インキ粒子20の重量平均粒径は一例である。各寸法は、撥インキ粒子20の重量平均粒径に適したくぼみ22のピッチ、くぼみ22の等価円直径を設定することで構成可能である。撥インキ粒子20の重量平均粒径は5μm以上170μm以下が好まく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。アルミニウム板に作製したくぼみ22のピッチは5μm以上170μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。くぼみ22の等価円直径は3μm以上165μm以下が好ましく、3μm以上18μm以下がさらに好ましい。
【0028】
つぎに転写チャージャの原理を用いて撥インキ粒子20を、感光ドラム1表面から版胴12表面に転移させる。すなわち、まず感光ドラム1表面に鏡像力で付着している、マイナスに摩擦帯電させた撥インキ粒子20は版胴12との間隙位置に移動する。版胴12表面は、−5Vに保持されており、感光ドラム1と版胴12との間隙位置にて撥インキ粒子20は版胴12表面に転写される(図3(a))。これも「電界ベクトルと力ベクトルとの関係」に基づくもので、−30Vの感光ドラム1表面(露光部)と−5Vの版胴12との間には、版胴12から感光ドラム1表面(露光部)に向かって電界ベクトルが形成される。したがって同時に、版胴12と感光ドラム1表面(露光部)とのあいだに位置する撥インキ粒子20に対しては、力のベクトルは撥インキ粒子20を版胴12表面に引き付ける方向に働く。感光ドラム1表面から版胴12表面へ転写された撥インキ粒子20は、この版胴12表面のくぼみ22に位置決めされる。
【0029】
その後、版胴12と粒子圧着ローラ13との間隙位置にて撥インキ粒子20は、粒子圧着ローラ13によってくぼみ22内へ押し込まれ、嵌め合い力によって強固に保持される。これによって、露光器3により感光ドラム1表面に書き込まれた潜像スポット内に不規則に現像付着された(図3(c))複数の撥インキ粒子20が、規則性をもって配置された版胴12表面のくぼみ22により不規則性を矯正できる(図3(d))。その結果、高品位な印刷を実現できる。
【0030】
つぎにインキローラ5により、インキ21が版胴12上に供給される。この際、インキローラ5と版胴12との接触位置での周方向の速度差はほぼゼロの状態で回転させることが望ましい。
【0031】
インキローラ5と版胴12が回転していくと、インキローラ5の周面に付着しているインキ21層が、撥インキ粒子20が付着している版胴12に向かって押し付けられる状態が形成される。こうして押し付けられるインキローラ5表面のインキ21層の表面と撥インキ粒子20との間には、撥インキ性(インキをはじく性質)によりお互いを排除しようとする力が働く。したがってインキローラ5と版胴12とがさらに回転して半径方向に間隙を広げていく過程において、インキ21層の表面と撥インキ粒子20とは、はじく性質(撥インキ性)によって分離する。
【0032】
これに対して親インキ性の版胴12表面(撥インキ粒子20が付着していない領域)はインキ21によって濡れて吸着する。したがって、インキローラ5と版胴12とがさらに回転して半径方向にギャップを広げていく過程においては、インキローラ5の周面に付着しているインキ21層の厚みの一部を引き剥がして版胴12表面にインキ21を保持する(図4(b)参照)。この過程はオフセット印刷と同様である。
【0033】
即ち、本実施形態では、凸部形成手段となる現像器4により第二の版形成体となる版胴12の表面上のくぼみ22に嵌め込まれた撥インキ粒子20の表面が、記録材料となるインキ21をはじく性質である。そして、版胴12の表面がインキ21をはじかない性質とされる。特に本実施形態では、記録材料は油性インキ21であって、撥インキ粒子20の表面は撥油性であり、版胴12の表面は親油性とされる。
【0034】
版胴12表面へのインキ21の保持厚みは、「インキローラ5と版胴12との間隙量」や「インキローラ5表面のインキ21層の厚み」の調整など、一般にオフセット印刷で実施されている調整方法によって制御される。
【0035】
その後、版胴12表面に濡れ性により保持されているインキ21と、版胴12表面のくぼみ22の嵌め合い力によって保持されている撥インキ粒子20は、ブランケット胴8との接触位置へ移動する。ブランケット胴8の表面は、一般のオフセット印刷用のものと同様に親インキ性のゴム材を巻き付けた。
【0036】
版胴12上に供給されたインキ21層の厚みの一部のみが、所望の間隙を設けて配置されているブランケット胴8に中間転写される(図4(c)参照)。この際の転写量(インキ21層の厚み)は、「版胴12とブランケット胴8との間隙量」の調整など、一般にオフセット印刷で実施されている調整方法によって制御される。もちろん版胴12表面へのインキ21の保持厚みを調整することも関連しているので、「インキローラ5と版胴12との間隙量」や「インキローラ5表面のインキ21層の厚み」の調整なども必要となることもある。
【0037】
さて版胴12への転写工程を終えた感光ドラム1上の領域は第1クリーナ7の位置に移動する。第1クリーナ7としては、ゴム製のブレードによる掻き取り動作により清掃するものとした。その後、感光ドラム1上の領域は除電器6の位置に移動し、電荷を除去する。
【0038】
またブランケット胴8への転写工程を終えた版胴12上の領域は第3クリーナ14の位置に移動する。第3クリーナ14としては、ゴム製のブレードによる掻き取り動作により撥インキ粒子20およびインキ21を一括して除去した後に洗浄するものとした。また、必要に応じて第3クリーナ14によるクリーニング工程の後に乾燥手段を配置しても構わない。
【0039】
ブランケット胴8に中間転写されたインキ21による画像は、最後の工程として、ブランケット胴8と圧胴10によって挟まれた被記録媒体である紙11に転写されて印刷が完了する。紙11への転写を終えたブランケット胴8上の領域は第2クリーナ9によって残インキを除去して初期状態に復帰させた。その後、再度、帯電器2による動作を経て、露光器3に進む工程を経れば、オンデマンドのデジタルオフセット印刷の実現となる。
【0040】
以上の説明は便宜上、例えば黒インキ1色による印刷をもとにしたものであるが、図1の構成のものをシアン、マゼンタ、イエローなどのインキ21に対しても配置して、フルカラー印刷ができた。
【0041】
本実施形態の印刷方法は、書き換え可能な版を用いる印刷方法である。そして、書き換え可能な版を形成する第一の版形成体となる感光ドラム1の表面に対して潜像を書き込む第1の工程と、前記潜像をもとにして感光ドラム1の表面に撥インキ粒子20を付着させて凸部を形成する第2の工程とを有する。更に感光ドラム1上の撥インキ粒子20を第二の版形成体となる版胴12のくぼみ22に受容保持する第3の工程と、版胴12に保持された撥インキ粒子20をくぼみ22に押し込む第4の工程とを有する。更に記録材料となるインキ21を感光ドラム1の表面に供給して画像部を形成する第5の工程と、感光ドラム1の表面のインキ21を中間転写体となるブランケット胴8に転写させる第6の工程とを有する。更に、該ブランケット胴8の表面のインキ21を被記録媒体となる紙11に転写する第7の工程を備える。そして、撥インキ粒子20の表面がインキ21をはじく性質であり、かつ感光ドラム1の表面がインキ21をはじかない性質としたものである。
【0042】
また、同じ内容の印刷物を出力する際には、撥インキ粒子20を版胴12表面上に設置した後は、感光ドラム1およびその周辺に配置されているものから構成されているユニットと第3クリーナ14を、版胴12から切り離すステップを経て印刷させることにより高速に印刷できた。
【実施例2】
【0043】
前記第1実施形態では、第一の版形成体となる感光ドラム1表面上から第二の版形成体となる版胴12の表面に撥インキ粒子20を転移させる方法として、転写チャージャの原理を利用した。一方、本実施形態では、第一の版形成体となる感光ドラム1と第二の版形成体となる版胴12との間の間隙量と撥インキ粒子20の直径との調整により、版胴12表面のくぼみ22に嵌め込むことで撥インキ粒子20を転移させる場合の一例である。
【0044】
以下の説明では、図1乃至図4を用いて説明された実施例1とほぼ同じであり、同一の部分は省略する。
【0045】
この感光ドラム1に対して、帯電器2により感光ドラム1の表面を−600Vに帯電させ、この後に露光器3により非画像部に当たる位置に静電潜像を書き込み形成した。本実施形態において電位Vは、−30V程度になった。
【0046】
つぎにこの静電潜像に対して、マイナスに摩擦帯電させた撥インキ粒子20を格納している現像器4を、−400Vに保持して、反転現像により非画像部(−30Vの部位)に付着させた。
【0047】
また、ここではいわゆる接触現像方法により撥インキ粒子20を付着させた。
【0048】
本実施形態では、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(テフロン(登録商標)7A)にシリカ微粒子を2wt%添加して撥インキ粒子20として用いた。撥インキ粒子20の重量平均粒径は5μm以上が好ましい。
【0049】
上記露光器3としては、半導体レーザ発振器からのレーザをポリゴンミラーの回転により走査して感光ドラム1上に静電潜像を形成する方式のものを使用した。この露光器3としてはLED(発光ダイオード)を並べた光源のものを使用しても構わない。
【0050】
また、版胴12表面には縦および横方向に等間隔でくぼみ22が形成されている。本実施例2では、アルミニウム板にウェットエッチ加工により9μmピッチ(175線相当)でくぼみ22を作製した。くぼみ22の等価円直径は5μm程度であった。このように加工したアルミニウム板を鋼材製の胴体表面に巻きつけて版胴12とした。もちろん、アルミ製の胴体表面に直接くぼみ22を形成しても構わない。また、撥インキ粒子20の重量平均粒径は8〜9μmである。記載したアルミニウム板に作製したくぼみ22のピッチ、くぼみ22の等価円直径、撥インキ粒子20の重量平均粒径は一例である。各寸法は、撥インキ粒子20の重量平均粒径に適したくぼみ22のピッチ、くぼみ22の等価円直径を設定することで構成可能である。撥インキ粒子20の重量平均粒径は5μm以上170μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。アルミニウム板に作製したくぼみ22のピッチは5μm以上170μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。くぼみ22の等価円直径は3μm以上165μm以下が好ましく、3μm以上18μm以下がさらに好ましい。
【0051】
感光ドラム1表面から版胴12表面のくぼみ22内へ押し込まれた撥インキ粒子20は、鏡像力による付着力よりもくぼみ22との嵌め合い力の方が勝るようにしたことで、この版胴12表面のくぼみ22に転移・位置決めされる。また、本実施例2では、感光ドラム1と版胴12との間の間隙量は、実施例1と比較して小さく構成し感光ドラム1から版胴12表面のくぼみ22へ撥インキ粒子20を押し込める構成とした。
【0052】
その後、版胴12と粒子圧着ローラ13との間隙位置にて撥インキ粒子20は、粒子圧着ローラ13によってくぼみ22内へ押し込まれ、嵌め合い力によって強固に保持される。これによって、露光器3により感光ドラム1表面に書き込まれた潜像スポット内に不規則に現像付着された複数の撥インキ粒子20が、規則性をもって配置された版胴12表面のくぼみ22により不規則性を矯正できる。その結果、高品位な印刷を実現できる。
【0053】
つぎにインキローラ5により、インキ21が版胴12上に供給される。この際、インキローラ5と版胴12との接触位置での周方向の速度差はほぼゼロの状態で回転させることが望ましい。
【0054】
インキローラ5と版胴12が回転していくと、インキローラ5の周面に付着しているインキ21層が、撥インキ粒子20が付着している版胴12に向かって押し付けられる状態が形成される。こうして押し付けられるインキローラ5表面のインキ21層の表面と撥インキ粒子20との間には、撥インキ性(インキをはじく性質)によりお互いを排除しようとする力が働く。したがってインキローラ5と版胴12とがさらに回転して半径方向に間隙を広げていく過程において、インキ21層の表面と撥インキ粒子20とは、はじく性質(撥インキ性)によって分離する。
【0055】
これに対して親インキ性の版胴12表面(撥インキ粒子20が付着していない領域)はインキ21によって濡れて吸着する。したがって、インキローラ5と版胴12とがさらに回転して半径方向にギャップを広げていく過程においては、インキローラ5の周面に付着しているインキ21層の厚みの一部を引き剥がして版胴12表面にインキ21を保持する。この過程はオフセット印刷と同様である。
【0056】
即ち、本実施形態では、凸部形成手段となる現像器4により第二の版形成体となる版胴12の表面上のくぼみ22に嵌め込まれた撥インキ粒子20の表面が、記録材料となるインキ21をはじく性質である。そして、版胴12の表面がインキ21をはじかない性質とされる。特に本実施形態では、記録材料は油性インキ21であって、撥インキ粒子20の表面は撥油性であり、版胴12の表面は親油性とされる。
【0057】
版胴12表面へのインキ21の保持厚みは、「インキローラ5と版胴12との間隙量」や「インキローラ5表面のインキ21層の厚み」の調整など、一般にオフセット印刷で実施されている調整方法によって制御される。
【0058】
その後、版胴12表面に濡れ性により保持されているインキ21と、版胴12表面のくぼみ22の嵌め合い力によって保持されている撥インキ粒子20は、ブランケット胴8との接触位置へ移動する。ブランケット胴8の表面は、一般のオフセット印刷用のものと同様に親インキ性のゴム材を巻き付けた。
【0059】
版胴12上に供給されたインキ21層の厚みの一部のみが、所望の間隙を設けて配置されているブランケット胴8に中間転写される。この際の転写量(インキ21層の厚み)は、「版胴12とブランケット胴8との間隙量」の調整など、一般にオフセット印刷で実施されている調整方法によって制御される。もちろん版胴12表面へのインキ21の保持厚みを調整することも関連しているので、「インキローラ5と版胴12との間隙量」や「インキローラ5表面のインキ21層の厚み」の調整なども必要となることもある。
【0060】
さて版胴12への転写工程を終えた感光ドラム1上の領域は第1クリーナ7の位置に移動する。第1クリーナ7としては、ゴム製のブレードによる掻き取り動作により清掃するものとした。その後、感光ドラム1上の領域は除電器6の位置に移動し、電荷を除去する。
【0061】
またブランケット胴8への転写工程を終えた版胴12上の領域は第3クリーナ14の位置に移動する。第3クリーナ14としては、ゴム製のブレードによる掻き取り動作により撥インキ粒子20およびインキ21を一括して除去した後に洗浄するものとした。また、必要に応じて第3クリーナ14によるクリーニング工程の後に乾燥手段を配置しても構わない。
【0062】
ブランケット胴8に中間転写されたインキ21による画像は、最後の工程として、ブランケット胴8と圧胴10によって挟まれた被記録媒体である紙11に転写されて印刷が完了する。紙11への転写を終えたブランケット胴8上の領域は第2クリーナ9によって残インキを除去して初期状態に復帰させた。その後、再度、帯電器2による動作を経て、露光器3に進む工程を経れば、オンデマンドのデジタルオフセット印刷の実現となる。
【0063】
以上の説明は便宜上、例えば黒インキ1色による印刷をもとにしたものであるが、図1の構成のものをシアン、マゼンタ、イエローなどのインキ21に対しても配置して、フルカラー印刷ができた。
【0064】
また、同じ内容の印刷物を出力する際には、撥インキ粒子20を版胴12表面上に設置した後は、感光ドラム1およびその周辺に配置されているものから構成されているユニットと第3クリーナ14を、版胴12から切り離すステップを経て印刷させることにより高速に印刷できた。
【実施例3】
【0065】
前記第1および第2の実施形態では、第一の版形成体として感光ドラム1を利用する例であった。一方、本実施形態では、第一の版形成体としての接着ドラム41を利用する。ディスペンサ42を潜像形成手段として用いて接着剤で第一の版形成体としての接着ドラム41表面に潜像を書き込む場合の一例である。
【0066】
本実施形態について図5及び図6をもとに説明する。本実施形態の印刷装置は図5に示すように第一の版形成体として接着ドラム41を有し、この周辺に潜像形成手段となるディスペンサ42、凸部形成手段となる現像器44、乾燥ノズル46、第1クリーナ47を配置する。さらに第二の版形成体としての版胴62を有し、この周辺には撥インキ粒子20を押し込んで嵌め込み力を強化する粒子圧着ローラ63、記録材料供給手段となるインキローラ45、第3クリーナ64を配置する。中間転写体としてのブランケット胴48の周辺には第2クリーナ49と、押圧手段となる圧胴60を配置して構成されている。
【0067】
図示しないホストコンピュータから送られてくるデジタル信号に対応して、図示しないモータに駆動されて図5中の矢印の通りに接着ドラム41、インキローラ45、ブランケット胴48および圧胴40が回転する。またこの動作に対応して被記録媒体となる紙11を搬送する図示しない搬送手段によって、紙11等の被記録媒体が搬送される。
【0068】
本実施形態でも一般に市販されている水性インキ(富士インキ製造株式会社製NSG−Tタイプ)21を使用し、接着ドラム41の表面は親水性のポリビニルアルコールでコートした。ポリビニルアルコール以外にもポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース、ナイロンなどの親水性高分子からなる材料でコートしても良い。コート表面を多孔あるいは微小な凹凸面を形成して親水性を向上させても良い。
【0069】
この接着ドラム41に対して、図6(a)から図6(b)に示すように、ディスペンサ(岩下エンジニアリング株式会社のACCURA9)42により接着ドラム41の非画像部に当たる表面にシリコーン系接着剤をドット供給して潜像を形成した。供給する接着剤43はこの他にエポキシ系、ゴム系、ウレタン系の樹脂系接着剤も利用できる。つぎにこの接着剤潜像に対して、図6(c)に示すように、現像器44に格納されている撥インキ粒子20を接着力によって付着させた。接着剤潜像がない部分には、撥インキ粒子20は付着しない。その後、乾燥ノズル46により接着剤43の乾燥・硬化を促進させて撥インキ粒子20の保持力を向上させる。また、接着ドラム41表面上に供給された撥インキ粒子20が二重、三重になっている場合などでは、エアブロアを設けることは撥インキ粒子20の単層化に有効である。
【0070】
水性インキ21を用いる場合の撥インキ粒子20表面は撥水性とし、フッ素、シリコーンなどで疎水化処理した。
【0071】
オフセット印刷の場合、最終的に紙11へ転写されるインキ21の厚みは2μm〜3μmが画質として優れている。そして、第一の版形成体となる接着ドラム41の表面に供給されるインキ21厚は2μm〜3μmよりも厚いことが必要となるので、撥インキ粒子20の重量平均粒径は5μm以上が好ましい。
【0072】
つぎに接着ドラム41表面に接着力で付着している撥インキ粒子20は版胴12との間隙位置に移動する。
【0073】
また、版胴62表面には縦および横方向に等間隔でくぼみ22が形成されている。本実施例2では、アルミニウム板にウェットエッチ加工により9μmピッチ(175線相当)でくぼみ22を作製した。くぼみ22の等価円直径は5μm程度であった。このように加工したアルミニウム板を、鋼材製の胴体表面に巻きつけて版胴62とした。もちろん、アルミ製の胴体表面に直接くぼみ22を形成しても構わない。アルミ板は親水性能も示すので水性のインキを用いても構わない。また、撥インキ粒子20の重量平均粒径は8〜9μmである。記載したアルミニウム板に作製したくぼみ22のピッチ、くぼみ22の等価円直径、撥インキ粒子20の重量平均粒径は一例である。各寸法は、撥インキ粒子20の重量平均粒径に適したくぼみ22のピッチ、くぼみ22の等価円直径を設定することで構成可能である。撥インキ粒子20の重量平均粒径は5μm以上170μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。アルミニウム板に作製したくぼみ22のピッチは5μm以上170μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がさらに好ましい。くぼみ22の等価円直径は3μm以上165μm以下が好ましく、3μm以上18μm以下がさらに好ましい。
【0074】
接着ドラム41表面から版胴12表面のくぼみ22内へ押し込まれた撥インキ粒子20は、接着剤43による付着力よりもくぼみ22との嵌め合い力の方が勝るようにしたことで、この版胴12表面のくぼみ22に転移・位置決めされる。その後、版胴12と粒子圧着ローラ13との間隙位置にて撥インキ粒子20は、粒子圧着ローラ13によってくぼみ22内へ押し込まれ、さらに強い嵌め合い力によって強固に保持される。これによって、ディスペンサ42により接着ドラム41表面に書き込まれた潜像スポット内に不規則に現像付着された複数の撥インキ粒子20が、規則性をもって配置された版胴12表面のくぼみ22により不規則性を矯正できる。
【0075】
つぎにインキローラ45により、インキ21が版胴62上に供給される。この際、インキローラ45と版胴62との接触位置での周方向の速度差はほぼゼロの状態で回転させることが望ましい。
【0076】
インキローラ45と版胴62が回転していくと、インキローラ45の周面に付着しているインキ21層が、撥インキ粒子20が付着している版胴62に向かって押し付けられる状態が形成される。こうして押し付けられるインキローラ45表面のインキ21層の表面と撥インキ粒子20との間には、撥インキ性(インキをはじく性質)によりお互いを排除しようとする力が働く。したがってインキローラ45と版胴62とがさらに回転して半径方向に間隙を広げていく過程において、インキ21層の表面と撥インキ粒子20とは、はじく性質(撥インキ性)によって分離する。
【0077】
これに対して親インキ性の版胴62表面(撥インキ粒子20が付着していない領域)はインキ21によって濡れて吸着する。したがって、インキローラ45と版胴62とがさらに回転して半径方向にギャップを広げていく過程においては、インキローラ45の周面に付着しているインキ21層の厚みの一部を引き剥がして版胴62表面にインキ21を保持する。この過程はオフセット印刷と同様である。
【0078】
即ち、本実施形態では、凸部形成手段となる現像器44により第二の版形成体となる版胴62の表面上のくぼみ22に嵌め込まれた撥インキ粒子20の表面が、記録材料となるインキ21をはじく性質である。そして、版胴62の表面がインキ21をはじかない性質とされる。特に本実施形態では、記録材料は水性インキ21であって、撥インキ粒子20の表面は撥水性であり、版胴62の表面は親水性とされる。
【0079】
版胴62表面へのインキ21の保持厚みは、「インキローラ45と版胴62との間隙量」や「インキローラ45表面のインキ21層の厚み」の調整など、一般にオフセット印刷で実施されている調整方法によって制御される。
【0080】
その後、版胴62表面に濡れ性により保持されているインキ21と、版胴62表面のくぼみ22の嵌め合い力によって保持されている撥インキ粒子20は、ブランケット胴48との接触位置へ移動する。ブランケット胴48の表面は、一般のオフセット印刷用のものと同様に親インキ性のゴム材を巻き付けた。
【0081】
版胴62上に供給されたインキ21層の厚みの一部のみが、所望の間隙を設けて配置されているブランケット胴48に中間転写される。この際の転写量(インキ21層の厚み)は、「版胴62とブランケット胴48との間隙量」の調整など、一般にオフセット印刷で実施されている調整方法によって制御される。もちろん版胴62表面へのインキ21の保持厚みを調整することも関連しているので、「インキローラ45と版胴62との間隙量」や「インキローラ45表面のインキ21層の厚み」の調整なども必要となることもある。
【0082】
さて版胴62への転写工程を終えた接着ドラム41上の領域は第1クリーナ47の位置に移動する。第1クリーナ47としては、ゴム製のブレードによる掻き取り動作により接着剤43を除去するものとした。
【0083】
またブランケット胴48への転写工程を終えた版胴62上の領域は第3クリーナ64の位置に移動する。第3クリーナ64としては、ゴム製のブレードによる掻き取り動作により撥インキ粒子20およびインキ21を一括して除去した後に洗浄するものとした。また、必要に応じて第3クリーナ64によるクリーニング工程の後に乾燥手段を配置しても構わない。
【0084】
ブランケット胴48に中間転写されたインキ21による画像は、最後の工程として、ブランケット胴48と圧胴60によって挟まれた被記録媒体61である紙に転写されて印刷が完了する。被記録媒体61への転写を終えたブランケット胴48上の領域は第2クリーナ49によって残インキを除去して初期状態に復帰させた。その後、再度、ディスペンサ42による接着剤43による潜像形成工程に進めば、オンデマンドのデジタルオフセット印刷の実現となる。
【0085】
以上の説明は便宜上、例えば黒インキ1色による印刷をもとにしたものであるが、図1の構成のものをシアン、マゼンタ、イエローなどのインキ21に対しても配置して、フルカラー印刷ができた。
【0086】
また、同じ内容の印刷物を出力する際には、一度、撥インキ粒子20を版胴62表面上に設置した後は、接着ドラム41およびその周辺に配置されているものから構成されているユニットと第3クリーナ64を、版胴62から切り離すステップを経て印刷させることにより高速に印刷できた。
【0087】
また、場合によっては一部の技術分野において、「油性」とも「水性」とも分類されないインキがあったとしても、前記撥インキ粒子20がそのインキをはじく性質であるとする。そして、版胴12,62などの第二の版形成体表面がそのインキをはじかない性質であるとする。その性質を利用する形態であれば、本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の活用例として、オンデマンドのオフセット印刷装置および印刷方法に適用できる。
【符号の説明】
【0089】
1 感光ドラム(第一の版形成体;アモルファスシリコン感光体)
3 露光器(潜像形成手段)
4 現像器(凸部形成手段)
5 インキローラ(記録材料供給手段)
8 ブランケット胴(中間転写体)
10 圧胴(押圧手段)
11 紙(被記録媒体)
12 版胴(第二の版形成体)
13 粒子圧着ローラ
20 撥インキ粒子
21 インキ(記録材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
書き換え可能な版を用いる印刷装置において、
書き換え可能な版を形成する第一の版形成体と、
前記第一の版形成体の表面に対して潜像を形成する潜像形成手段と、
前記第一の版形成体の表面上の潜像が形成されている部分に選択的に撥インキ粒子を付着させて
凸部を形成する凸部形成手段と、
前記第一の版形成体表面上に付着された前記撥インキ粒子を、表面に有するくぼみで受容保持する第二の版形成体と、
前記第二の版形成体に保持された前記撥インキ粒子を前記くぼみに押し込む圧着手段と、
記録材料を前記第二の版形成体の表面に供給する記録材料供給手段と、
前記第二の版形成体の表面に供給された前記記録材料を転写する中間転写体と、
前記中間転写体の表面の前記記録材料を被記録媒体に転写する際に押圧する押圧手段と、
前記被記録媒体を搬送する搬送手段と、
を備え、
前記撥インキ粒子の表面が前記記録材料をはじく性質であり、かつ前記版形成体の表面が前記記録材料をはじかない性質としたことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記記録材料は油性インキであって、前記撥インキ粒子の表面は撥油性であり、かつ前記版形成体の表面は親油性としたことを特徴とする請求項1に記載された印刷装置。
【請求項3】
前記記録材料は水性インキであって、前記撥インキ粒子の表面は撥水性であり、かつ前記版形成体の表面は親水性としたことを特徴とする請求項1に記載された印刷装置。
【請求項4】
前記版形成体は感光体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された印刷装置。
【請求項5】
書き換え可能な版を用いる印刷方法において、
書き換え可能な版を形成する第一の版形成体の表面に対して潜像を形成する第1の工程
と、
前記潜像をもとにして前記第一の版形成体の表面に撥インキ粒子を付着させて凸部を形成する第2の工程と、
前記第一の版形成体表面上の前記撥インキ粒子を、第二の版形成体表面のくぼみに受容保持する第3の工程と、
前記第二の版形成体に保持された前記撥インキ粒子を前記くぼみに押し込む第4の工程と、
記録材料を前記版形成体の表面に供給して画像部を形成する第5の工程と、
前記版形成体の表面の前記記録材料を中間転写体に転写させる第6の工程と、
前記中間転写体の表面の記録材料を被記録媒体に転写する第7の工程と、
を備え、
前記撥インキ粒子の表面が前記記録材料をはじく性質であり、かつ前記版形成体の表面が前記記録材料をはじかない性質としたことを特徴とする印刷方法。
【請求項6】
前記記録材料が油性インキであって、前記撥インキ粒子の表面が撥油性であり、かつ前記版形成体の表面が親油性としたことを特徴とする請求項5に記載された印刷方法。
【請求項7】
前記記録材料が水性インキであって、前記撥インキ粒子の表面が撥水性であり、かつ前記版形成体の表面が親水性としたことを特徴とする請求項5に記載された印刷方法。
【請求項8】
前記版形成体は感光体であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載された印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121286(P2011−121286A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280996(P2009−280996)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】