説明

印刷装置および印刷方法

【課題】種々のインクの不良ノズルの検出を精度良く実行する。
【解決手段】複数種類のインクをそれぞれ吐出する複数のノズル群を有する印刷ヘッドを用いて、透明な検査用印刷媒体に各インクの検査パターンを印刷する。センサーを用いて、検査用印刷媒体に印刷された検査パターンを順次読み取る。検査パターンを読み取る際に、背景色切替部を用いて、読み取られる検査パターンのインクの種類に応じた背景色に切り替える。センサーの読取結果に基づいて不良ノズルの発生について判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の印刷装置において、印刷ヘッドが備えるインク吐出用の複数のノズルのうち、一部のノズルについて何らかの原因によって、インクが吐出されなくなったり、インク吐出量やインクの打滴位置が不適切になったりするなど、インクの吐出状態が不良であるノズル(以下、不良ノズルとも呼ぶ)が発生する場合がある。従来から、不良ノズルを検出する技術として、例えば、以下の特許文献1〜特許文献4が知られている。
【0003】
特許文献1には、用紙の余白に印刷した検査パターンを、読取センサーで読み取ることにより不良ノズルを検出する技術が開示されている。また、特許文献2および特許文献3には、透明フィルムに印刷した検査パターンを、印刷面の裏側からイメージセンサー(撮像素子)で読み取ることにより不良ノズルを検出する技術が開示されている。また、特許文献4には、検査パターンとして、白インクのパターンの部分には、黒インクによる下地を印刷した上で、白インクのパターンを印刷したものを用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010―058361号公報
【特許文献2】特開2006―069027号公報
【特許文献3】特開2006―069028号公報
【特許文献4】特開2010―194839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1ないし特許文献3の技術では、吐出するインクと用紙との色差が小さいと、センサーによって検出される特徴量の変化が小さくなり、検出精度が低下することになる。たとえば、白色の用紙に、白インクや、透明インクを印刷した場合、不良ノズルの検出が不可となる可能性が高い。
【0006】
また、特許文献4の技術では、白インクの不良ノズルの検出精度は向上するが、検査パターンの印刷において黒インクによる下地の印刷工程が余分に必要であり、不良ノズルの検出のために要する時間の点で改善すべき課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、種々のインクの不良ノズルの検出を精度良く実行することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
印刷装置であって、複数種類のインクをそれぞれ吐出する複数のノズル群を有する印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドの動作を制御して、透明な検査用印刷媒体に各インクの検査パターンを印刷させる印刷制御部と、前記検査用印刷媒体に印刷された検査パターンを順次読み取るセンサーと、前記検査パターンの背景色を切り替える背景色切替部と、前記検査パターンの読み取りを行う際に、前記背景色切替部の動作を制御して、読み取られる検査パターンのインクの種類に応じた背景色に切り替えさせるとともに、前記センサーの動作を制御して、前記検査パターンを読み取らせる読取制御部と、前記センサーの読取結果に基づいて不良ノズルの発生について判定する不良判定部と、を備える印刷装置。
この印刷装置によると、インクの種類に応じて背景色を切り替えて、センサーで読み取るインクの部分と背景の部分との光の強度の差異を大きくすることができるので、種々のインクの不良ノズルの検出を精度良く実行することが可能である。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の印刷装置であって、前記複数種類のインクには、白色インクと透明インクの少なくとも一方が含まれており、前記読み取られる検査パターンのインクの種類が前記白色インクあるいは前記透明インクの場合には、前記背景色は黒色である、印刷装置。
この印刷装置によると、読み取られる検査パターンのインクの種類が白色インクあるいは透明インクの場合に、背景色を黒色とすることにより、センサーで読み取る白色インクあるいは透明インクの部分と背景の部分との光の強度の差異を最も大きくすることができるので、白色インクあるいは透明インクの不良ノズルの検出を精度良く実行することが可能である。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の印刷装置であって、前記複数種類のインクには、複数の色のインクが含まれており、前記読み取られる検査パターンのインクの種類が前記複数の色のインクのうちの一つの色のインクの場合には、前記背景色は前記一つの色に対する色相環における補色の成分を少なくとも含む色である、印刷装置。
この印刷装置によると、読み取られる検査パターンのインクの種類が複数の色のインクのうちの一つの色の場合に、背景色を、その一つの色に対する色相環における補色の成分を少なくとも含む色とすることにより、センサーで読み取るインクの部分と背景の部分との補色の光の強度の差異を大きくすることができるので、その一つの色のインクの不良ノズルの検出を精度良く実行することができ、複数の色のインクのそれぞれの不良ノズルの検出を精度良く実行することができる。
【0012】
[適用例4]
適用例3に記載の印刷装置であって、前記読み取られる検査パターンのインクの種類が前記複数の色のインクのうちの一つの色のインクの場合には、前記背景色は前記一つの色に対する色相環における補色である、印刷装置。
この印刷装置によると、読み取られる検査パターンのインクの種類が複数の色のインクのうちの一つの色の場合に、背景色を、その一つの色に対する色相環における補色とすることにより、センサーで読み取るインクの部分と背景の部分との補色の光の強度の差異を最も大きくすることができるので、その一つの色のインクの不良ノズルの検出をより精度良く実行することができ、複数の色のインクのそれぞれの不良ノズルの検出をより精度良く実行することができる。
【0013】
[適用例5]
印刷方法であって、複数種類のインクをそれぞれ吐出する複数のノズル群を有する印刷ヘッドを用いて、透明な検査用印刷媒体に各インクの検査パターンを印刷する工程と、センサーを用いて、前記検査用印刷媒体に印刷された検査パターンを順次読み取る工程と、前記検査パターンを読み取る際に、背景色切替部を用いて、読み取られる検査パターンのインクの種類に応じた背景色に切り替える工程と、前記センサーの読取結果に基づいて不良ノズルの発生について判定する工程と、を備える印刷方法。
この印刷方法によると、インクの種類に応じて背景色を切り替えて、センサーで読み取るインクの部分と背景の部分との光の強度の差異を大きくすることができるので、種々のインクの不良ノズルの検出を精度良く実行することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願の第1実施例としてのプリンターの概略構成を示す説明図である。
【図2】プリンターヘッドの構成を例示する説明図である。
【図3】背景色切替機構を図1の横方向から示す説明図である。
【図4】プリンターが行う不良ノズルの検査の流れについて示したフローチャートである。
【図5】検査パターンを例示する説明図である。
【図6】インクの種類に応じて発生する読取結果の違いについて示す説明図である。
【図7】背景色によって発生するクリアーインクおよびホワイトインクのドットパターンの読取結果の違いについて示す説明図である。
【図8】インクの種類と背景色との関係を示す説明図である。
【図9】検査パターンの読取結果による不良判定について示す説明図である。
【図10】背景色切替機構の変形例を示す説明図である。
【図11】背景色切替機構の他の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
A.実施例:
A1.プリンターの構成:
図1は、本願の第1実施例としてのプリンターの概略構成を示す説明図である。プリンター(印刷装置)10はインクジェット式のラインプリンターである。プリンター10は、制御ユニット20、プリンターヘッド50、インクカートリッジ51〜56、搬送機構60、読取機構70、背景色切替機構80を備える。
【0016】
搬送機構60は、搬送ローラー62と搬送モーター64とプラテン66とを備えている。搬送モーター64は、搬送ローラー62を回転させることで、プリンターヘッド50と平板状のプラテン66との間を通過する印刷媒体Pを、搬送ローラー62の軸方向と垂直方向(以下、搬送方向と呼ぶ)に搬送する。
【0017】
インクカートリッジ51〜56には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ホワイト(W)、および、クリアー(CL)のインクを備えている。なお、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクをまとめて、通常インクとも呼び、ホワイト(W)、クリアー(CL)のインクをまとめて特殊インクとも呼ぶ。
【0018】
プリンターヘッド50は、ラインヘッドタイプのプリンターヘッドであり、印刷媒体Pと対向する面(下面)に、それぞれのインク色毎に概ね一列に配されたインク吐出用のノズルの列が、印刷媒体Pの搬送方向に沿って配列されている。個々のノズルはピエゾ素子を備え、ピエゾ素子に加える電圧を調整することでピエゾ素子の振動を制御してインク滴を吐出する。従って、搬送機構60により搬送方向に搬送される印刷媒体P上には、プリンターヘッド50に備えられた各ノズルから吐出されたインクによるドットが形成される。これにより、通常の印刷時には、印刷媒体Pとしての用紙等に、印刷対象として入力された画像データに対応する画像が印刷される。また、後述する不良ノズルの検査時には、印刷媒体Pとしての検査用透明フィルムに、既定の検査パターンが印刷される。
【0019】
図2は、プリンターヘッドの構成を例示する説明図である。図2(A)に示すように、プリンターヘッド50は複数のヘッド58を有し、複数のヘッド58は搬送方向に垂直な方向(以下、ライン方向とも呼ぶ)に千鳥状に並んで配置されている。各ヘッド58の下面には、図2(B)に示すように、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ホワイト(W)、クリアー(CL)の各インクをそれぞれ吐出するノズルの列(以下、ノズル列と呼ぶ)LK,LC,LY,LW,LCLが搬送方向に沿って配置されている。各ノズル列は複数のノズル581を備え、各ノズル581はライン方向に一定の間隔S、例えば、「720dpi」で並んでいる。また、各ヘッド58は、ライン方向に並ぶ2つのヘッドのうち、左側のヘッドの右端のノズルと、右側のヘッドの左端のノズルとのライン方向の間隔が各ノズルの一定の間隔Sと同じになるように配置されている。すなわち、プリンターヘッド50の下面では、複数のノズルがライン方向に印刷媒体Pの長さにわたって一定の間隔S(720dpi)で並んでいる。なお、本実施例では、各ノズルは、各色のインク毎に1列に配置されているとしたが、それぞれの色毎のノズルが2列以上に千鳥状に並べられて形成されているとしてもよい。また、プリンターヘッド50は、複数のヘッド58が千鳥状に並んで配置されているとしたが、ライン方向に印刷媒体Pの長さに渡って、色毎の複数のノズルがそれぞれ一列に並んで配置されている一つのヘッドで形成されているとしてもよい。
【0020】
図1の読取機構70は、読取センサー72と光源74とを備えている。光源74は、読取センサー72の読取位置に照射光を発する白色光源、例えば、蛍光灯、キセノンランプ、LED等である。本実施例では、光源74としてLEDを用いる。読取センサー72は、読取位置における反射光を受光するセンサーである。本実施例では、読取センサー72として、RGB各色の光をそれぞれ受光できるカラーの撮像素子(イメージセンサー)、例えば、カラーのCCD(Chargeーcoupled device)を用いる。
【0021】
背景色切替機構80は、読取機構70に対向配置されており、不良ノズルの検査時において、読取センサー72の読取位置に搬送されてくる印刷媒体Pとしての検査用透明フィルムの背景色を、検査用透明フィルムに印刷されている検査パターンのインクの種類に応じて切り替える。
【0022】
図3は、背景色切替機構80を図1の横方向から示す説明図である。図1および図3に示すように、背景色切替機構80は、背景板81とリニアアクチュエーター82とを備えており、読取機構70に対向するように配置されている。背景板81は、白領域81wと黒領域81kとが搬送方向に沿って配されている。リニアアクチュエーター82は、スライドベース82SBに載置された背景板81の位置を搬送方向に沿って移動させる。これにより、不良ノズルの検査時において、読取センサー72の読取位置に搬送されてくる印刷媒体Pとしての検査用透明フィルムの背景色を、背景板81の白領域81wによる白あるいは黒領域81kによる黒のいずれかに切り替えることができる。なお、検査パターンおよび背景色の切り替えの詳細については後で説明する。
【0023】
検査パターンとして各インクによるドットが順次形成された印刷媒体Pとしての検査用透明フィルムが、搬送機構60による搬送によって、光源74が発する照射光の光路上を通過すると、光源74が読取センサー72の読取位置に対応する検査用透明フィルムの部分に照射光を照射し、検査用透明フィルムおよび背景板81を介して返ってくる反射光を読取センサー72が受光する。これにより、読取センサー72は、検査用透明フィルムに印刷された検査パターンを、搬送により読取位置を通過するラインごとに読み取る。
【0024】
なお、読取センサー72は、光源74との相対的な位置関係として、読取位置における印刷媒体Pや背景板81からの反射光を十分に受光できるように配置されている。読取センサー72はCCDラインセンサーで構成され、ライン方向の解像度はノズルの間隔S(720dpi)と同じである。ただし、CCDラインセンサーの解像度は、プリンターヘッド50のライン方向の解像度以上であれば可能な範囲でいくらでもよい。
【0025】
図1の制御ユニット20は、図示しないCPUとRAMとROMとによって構成されており、上述したプリンターヘッド50や搬送機構60、背景色切替機構80の動作を制御する。CPUはROMに記憶された制御プログラムをRAMに展開して実行することで、画像処理部21、印刷制御部22、読取制御部23、不良判定部24として動作する。また、制御ユニット20には、印刷に関する種々の操作を行うための操作パネル30や、UI(ユーザインタフェース)を表示するための液晶ディスプレイ40等種々のインタフェースや周辺機器が接続されている。
【0026】
画像処理部21は、インタフェース(不図示)を介してコンピュータ等から入力された印刷対象の画像データ(入力画像データとも呼ぶ)や、予めROMに記憶されている検査パターンデータを印刷データに変換する画像処理を行う。また、画像処理部21は、読取制御部23を介して読取機構70から出力される信号から画像データ(以下、読取画像データとも呼ぶ)を生成する。
【0027】
印刷制御部22は、画像処理後の印刷データに基づいて、各ノズルからのインクの吐出を制御する制御信号をプリンターヘッド50に出力する。その他、印刷制御部22は、搬送機構60の動作を制御する。
【0028】
読取制御部23は、不良ノズルの検査時において、読取機構70および背景色切替機構80の動作を制御して、印刷媒体Pとしての検査用透明フィルムに印刷された検査パターンの読み取りを実行し、画像処理部21の動作を制御して、読取画像データの生成を実行する。
【0029】
不良判定部24は、読取機構70によって読み取った結果である読取画像データと、検査パターンデータとに基づいて、不良ノズルの発生の有無の判定および不良ノズルの特定を行う。
【0030】
以上説明したように、プリンター10は、インタフェースを介して、印刷用の画像データおよび印刷枚数や印刷サイズ等の印刷に関する情報が入力されると、入力された画像データに基づく印刷処理を開始する。また、プリンター10は、インタフェースを介して、あるいは、操作パネル30を介して、不良ノズルの検査の開始指示が入力されると、検査パターンデータに基づく印刷処理、検査用透明フィルムに印刷された検査パターンの読み取り、および、不良判定を実行する。本実施例は、この不良ノズルの検査に特徴を有しており、以下では不良ノズルの検査について説明する。
【0031】
A2.不良ノズル検査:
不良ノズルの検査は、プリンターヘッド50が備える各ノズル581からのインクの吐出状態の異常(以下、ノズル不良とも呼ぶ)を検出する処理である。ノズル不良としては、例えば、ノズル内で固化したインクによってノズルが詰まり、インクが規定量出ない状態、または全く出ない状態、逆に規定量より多く出る状態等が挙げられる。その他、ノズルが何らかの原因で変形し、規定の吐出方向にインクを吐出していない状態が挙げられる。このような、インクの吐出状態に異常を生じたノズルを不良ノズルと呼ぶ。
【0032】
本実施例の不良ノズルの検査では、以下で説明するように、印刷媒体Pとして無色の検査用透明フィルムを用いて検査パターンデータに基づく印刷を行うとともに、印刷された検査パターンを読み取り、得られた読取画像データおよび検査パターンデータに基づいて、ノズル不良が生じていないかを検出する。
【0033】
図4は、プリンター10が行う不良ノズルの検査の流れについて示したフローチャートである。上述したように、不良ノズルの検査の指示が入力されると、印刷媒体Pとしてセットされた検査用透明フィルムに、検査パターンの印刷を実行する(ステップS10)。
【0034】
図5は、検査パターンを例示する説明図である。図はブラックのノズル列LKによって形成される検査パターンを示している。本実施例のプリンターヘッド50では図2に示すように、ヘッド58が千鳥状に配されているが、以下では説明を容易にするため、図5に示すように、ライン方向にノズルを一列に並べて示している。また、ノズルの数を16本に減らし、ライン方向の右側のノズルから順に#1〜#16の番号を付している。
【0035】
プリンターヘッド50の下を搬送される印刷媒体Pに対して、奇数番号のノズル列からインクを吐出させ、その後、偶数番号のノズルからインクを吐出させることによって、一つのノズル列に対応する検査パターンを形成する。この検査パターンは搬送方向に沿うドット列で構成される。本例では、一つのドット列は100個のドットから構成される。また、ライン方向に並ぶ一つおきのノズルでドット列を形成させるため、ライン方向にノズル間隔Sの2倍の間隔(本例では360dpi)で並んだドット列群(破線で囲まれた領域)が、搬送方向に2つ並んで形成される。1つのドット列群を「検査パターン」とも呼ぶ。また、本例では、ライン方向に並ぶ一つおきのノズルで検査パターンを形成し、一つのノズル列に対して2つの検査パターンが形成される。これらの2つの検査パターンを特に区別する場合には、例えば、「奇数ノズル検査パターン」「偶数ノズル検査パターン」のように呼ぶ。なお、他のインクの検査パターンも、図5に示したブラックの検査パターンと同様である。
【0036】
そして、図4のステップS20では、読取センサー72は、印刷媒体Pに印刷された検査パターンを、読取位置まで搬送されてくる順に読み取る。ただし、検査パターンを読み取る際の背景色は、背景色切替機構80によって、検査パターンのインクの種類に応じた背景色に切り替えられる。背景色については、以下で説明するように設定される。
【0037】
図6は、インクの種類に応じて発生する読取結果の違いについて示す説明図である。図は、図の上段に示すように、白色(ホワイト)の印刷媒体に8つのノズルで8ドットのパターンをインクの種類ごとに印刷したものを、読取センサーで読み取った結果を示している。なお、黒、ホワイト、クリアーの各インクの場合には、読取センサーを構成するレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の各色光を検知する部分によって検出された階調値の平均値を検出値としている。また、シアン、マゼンダ、イエローの各インクの場合には、それぞれの補色であるレッド、グリーン、ブルーの色光を検知する部分によって検出された階調値を検出値としている。
【0038】
図からわかるように、黒、シアン、マゼンダ、イエローの各インク(通常インク)の場合には、それぞれ、白色の印刷媒体に印刷されたドットパターンの位置で、検出対象となる光が吸収されて反射光が減少するので、その変化を検出することができる。一方、ホワイトインクの場合には、背景の白とほぼ同じであるため、インクの界面での反射光の増加の影響で、背景の白による反射光に比べて、検出される階調値が若干増加する傾向にあるが、図に示すようにほとんど差が無く、ドットの有無を検出結果から判別することが難しい。同様に、クリアーインクの場合にも、図に示すように、ドットの有無により検出される階調値の差がほとんど無く、ドットの有無を検出結果から判別することが難しい。
【0039】
図7は、背景色によって発生するクリアーインクおよびホワイトインクのドットパターンの読取結果の違いについて示す説明図である。図7(A)は、上段に示した、黒(K)、ブルー(B)、グレー(Gr)、ホワイト(W)の4種類の色の印刷媒体に、8つのノズルで8ドットのパターンをクリアー(CL)のインクで印刷した結果を、読取センサーで読み取った結果を示している。また、図7(B)は、同様に、上段に示した、黒(K)、白(W)の2種類の色の印刷媒体に、8つのノズルで8ドットのパターンをホワイト(W)のインクで印刷した結果を、読取センサーで読み取った結果を示している。
【0040】
クリアーインクの場合、図7(A)からわかるように、クリアーインクのドットの位置での反射光に対して、ドットの無い位置、すなわち、背景色における反射光を低減して、ドットの有無で検出する反射光の強度の差を大きくすれば、クリアーインクのドットの有る位置と無い位置での検出する階調値の差を大きくすることができ、クリアーインクのドットの有無を検出しやすくなる。なお、反射光を低減する効果が最も大きいのは、図からもわかるように、黒(K)である。なぜならば、黒は、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の全ての光を吸収するからである。
【0041】
ホワイトインクの場合も、クリアーインクの場合と同様であり、図7(B)に示すように、ホワイトインクのドットの位置での反射光に対して、ドットの無い位置、すなわち、背景色における反射光を低減して、ドットの有無で検出する反射光の強度の差を大きくすれば、ホワイトインクのドットの有る位置と無い位置での検出する階調値の差を大きくすることができ、ホワイトインクのドットの有無を検出しやすくなすることができる。なお、反射光を低減する効果が最も大きいのは、同様に、黒(K)である。
【0042】
以上の点を考慮すると、検査パターンを読み取る場合の背景色は、以下のように設定すればよいことがわかる。
【0043】
図8は、インクの種類と背景色との関係を示す説明図である。図に示すように、黒(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色の場合には、背景色をホワイト(W)とする。そして、クリアー(CL)およびホワイト(W)の場合には、背景色を黒(K)とする。
【0044】
なお、検査パターンは、予め、設定されており、印刷の位置も既知であるので、この情報に基づいて、読取位置に搬送されてくる印刷媒体Pの位置に応じて背景色を切り替えれば、検査パターンのインクの種類に応じて背景色を切り替えることができる。
【0045】
そして、図4のステップS30では、検査パターンの読取結果を基にノズル不良が生じているか否かおよび発生している不良ノズルの特定を実行する。
【0046】
図9は、検査パターンの読取結果による不良判定について示す説明図である。図9(A)は、通常インクについて、図9(B)は、ホワイト(W)インクについて、図9(C)は、クリアー(CL)インクについて示している。
【0047】
シアン(C)インクの場合には、読取センサー72のうちの補色であるレッド(R)光のセンサー部分で検出される光が、印刷されたドット列のある部分とない部分で大きく変化する。具体的には、図9(A)に示すように、ドット列の無い部分では、背景色の白の部分では、R光の多くが反射され、階調値Rwが検出される。一方、ドット列の有る部分では、R光の多くが吸収され、階調値Rk(<Rw)が検出される。従って、ノズル不良の生じていないノズルに対応する位置では、階調値Rkが検出され、ノズル不良の生じているノズルに対応する位置では、不良の度合いに応じて、階調値Rkよりも大きな階調値が検出される。図の例は、ノズルが詰まっていてドット列が全く印刷されない場合を示しており、この場合には、背景色と同じ階調値Rwが検出される。従って、不良判定の閾値をあらかじめ設定しておき、この閾値よりも小さい階調値が、ノズルに対応する位置で検出されるか否か調べることにより、シアン(C)のノズルにノズル不良が生じているか否かおよび不良ノズルを特定することができる。具体的には、閾値よりも小さい階調値が検出されていれば、ノズル不良は生じておらず、閾値以上の階調値が検出されていれば、ノズル不良が生じていると判断できる。
【0048】
なお、その他の通常インク、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の各インクも同様である。ただし、マゼンダ(M)の場合にはG光のセンサー部分で検出される光により判断され、イエロー(Y)の場合にはB光のセンサー部分で検出される光により判断される。黒(K)の場合には、R光,G光,B(光)のセンサー部分で検出される光の平均値により判断される。また、平均値ではなく、R,G,Bそれぞれの階調値をあらかじめ定められた重み付けで加算した値を用いるようにしてもよい。
【0049】
ホワイト(W)インクの場合には、読取センサー72のうちのR光、G光、B光の各センサー部分で検出される光が、印刷されたドット列のある部分とない部分で大きく変化する。具体的には、図9(B)に示すように、ドット列の無い部分、すなわち、背景色の黒の部分では、R光、G光、B光の多くが吸収され、各色光の平均値として階調値Lkが検出される。一方、ドット列の有る部分では、R光、G光、B光の多くが反射され、階調値Lw(>Lk)が検出される。従って、ノズル不良の生じていないノズルに対応する位置では、階調値Lwが検出され、ノズル不良の生じているノズルに対応する位置では、不良の度合いに応じて、階調値Lwよりも小さな階調値が検出される。図の例では、ノズルが詰まっていてドット列が全く印刷されない場合を示しており、この場合には、背景色と同じ階調値Lkが検出される。従って、不良判定の閾値をあらかじめ設定しておき、この閾値よりも大きい階調値が、ノズルに対応する位置で検出されるか否か調べることにより、ホワイト(W)のノズルにノズル不良が生じているか否かおよび不良ノズルを特定することができる。具体的には、閾値よりも大きい階調値が検出されていれば、ノズル不良は生じておらず、閾値以下の階調値が検出されていれば、ノズル不良が生じていると判断できる。
【0050】
クリアー(CL)インクの場合にも、ホワイトインクの場合と同様に、読取センサー72のうちのR光、G光、B光の各センサー部分で検出される光が、印刷されたドット列のある部分とない部分で大きく変化する。具体的には、図9(C)に示すように、ドット列の無い部分、すなわち、背景色の黒の部分では、R光、G光、B光の多くが吸収され、各色光の平均値として階調値Lkが検出される。一方、ドット列の有る部分では、R光、G光、B光のうち一部が、インク界面で反射されて、階調値Lcl(>Lk)が検出される。従って、ノズル不良の生じていないノズルに対応する位置では、階調値Lclが検出され、ノズル不良の生じているノズルに対応する位置では、不良の度合いに応じて、階調値Lclよりも小さな階調値が検出される。図の例では、ノズルが詰まっていてドット列が全く印刷されない場合を示しており、この場合には、背景色と同じ階調値Lkが検出される。従って、不良判定の閾値をあらかじめ設定しておき、この閾値よりも大きい階調値が、ノズルに対応する位置で検出されるか否か調べることにより、クリアー(CL)のノズルにノズル不良が生じているか否かおよび不良ノズルを特定することができる。具体的には、閾値よりも大きい階調値が検出されていれば、ノズル不良は生じておらず、閾値以下の階調値が検出されていれば、ノズル不良が生じていると判断できる。
【0051】
A3.効果:
本実施例では、不良ノズルを検査する際に、無色の透明フィルムを印刷媒体として用い、これに検査パターンを印刷し、印刷した検査パターンを読取センサーで読み取る際に、読み取る検査パターンのインクの種類が、黒(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の通常インクの場合には、背景色を白とし、ホワイト(W)、クリアー(CL)の特殊インクの場合には、背景色を黒として、検査パターンの読み取りを実行している。これにより、従来例で説明したような、ホワイト(W)やクリアー(CL)インクの不良ノズルの検出ができないという問題点を解決し、かつ、不良ノズルの検出のために要する時間を改善することができる。
【0052】
A4. 背景色切替機構の変形例:
図10は、背景色切替機構の変形例を示す説明図である。この背景色切替機構80bは、2つの回転ローラー82bに架設されたベルト状のフィルム81bを、図示しない駆動モーターにより矢印の方向に駆動させることにより、読取センサー72の読取位置の背景色を白領域81wbによる白または黒領域81kによる黒に切り替える構造である。
【0053】
図11は、背景色切替機構の他の変形例を示す説明図である。この背景色切替機構80cは、液晶パネルにより構成されている。液晶パネルの画面の色を白または黒とすることにより、背景色を白または黒に切り替える構造である。
【0054】
以上説明したように、上記実施例の背景色切替機構80に限定されるものではなく、図10および図11に示した変形例のように、種々の構造により実現してもよい。すなわち、背景色切替機構は、読取位置で読み取られる検査パターンのインクの種類に応じて、読取位置の背景色を白または黒に切り替えることが可能な構造であればよい。
【0055】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
B1.変形例1:
上記実施例では、通常インクとして、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、黒(K)を用いたが、それに限らず、可視光領域の波長成分の光を吸収するインクであれば、通常インクとして用いることができる。通常インクとしては、例えば、色の再現領域を広げるために用いる、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)、オレンジ(Or)などの特色インクや、淡シアン(LC)、淡マゼンダ(LM)、グレー(LK)、淡グレー(LLK)などの淡インクなどを用いることができる。
【0057】
B2.変形例2:
上記実施例では、通常インクの背景色を白、特殊インクであるホワイト(W)およびクリアー(CL)の背景色を黒に切り替える場合を例に説明した。しかしながら、通常インクの背景色を白に限定する必要は無く、インクの種類に応じて、背景色を切り替えるようにしてもよい。例えば、シアン(C)はレッド(R)、マゼンダ(M)はグリーン(G)、イエロー(Y)はブルー(B)のそれぞれ補色を背景色として切り替えるようにしてもよい。このようにしても同様の効果を得ることができる。また、必ずしも、補色である必要はなく、色相環において、少なくとも、対象となるインクの色に対して補色側に位置し、補色の色の光を反射する色(少なくとも補色を含む色)を背景色として切り替えるようにすればよい。ただし、対象となるインクの色の補色を基準として±60度、より好ましくは±30度以下の範囲の色が好ましい。また、対象となるインクの色の補色が最も好ましい。このようにしたほうが、ドットにおける反射光と背景色における反射光の光の強度の差を大きくすることができるからである。
【0058】
すなわち、本発明は、読み取られる検査パターンのインクの種類に応じて、読取位置の背景色を切り替えさせて、読取位置における検査パターンの読み取りを行うようにすればよい。
【0059】
B3.変形例3:
上記実施例では、無色の検査用透明フィルムを例に説明したが、背景色とドットの反射光の強度差が検出できる程度であれば、無色でなくてもよい。
【0060】
B4.変形例4:
上記実施例では、ラインヘッドを例に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、複数種類のインクをそれぞれ吐出する複数のノズルを有する印刷ヘッドであれば、どのような印刷ヘッドを用いたプリンタ(印刷装置)にも適用可能である。
【0061】
B5.変形例5:
上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…プリンター(印刷装置)
20…制御ユニット
21…画像処理部
22…印刷制御部
23…読取制御部
24…不良判定部
30…操作パネル
40…液晶ディスプレイ
50…プリンターヘッド
51…インクカートリッジ
58…ヘッド
581…ノズル
60…搬送機構
62…搬送ローラー
64…搬送モーター
66…プラテン
70…読取機構
72…読取センサー
74…光源
80…背景色切替機構
80b…背景色切替機構
80c…背景色切替機構
81…背景板
81b…フィルム
81k…黒領域
81kb…黒領域
81w…白領域
81wb…白領域
82…リニアアクチュエーター
82SB…スライドベース
82b…回転ローラー
P…印刷媒体
LK…ノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷装置であって、
複数種類のインクをそれぞれ吐出する複数のノズル群を有する印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドの動作を制御して、透明な検査用印刷媒体に各インクの検査パターンを印刷させる印刷制御部と、
前記検査用印刷媒体に印刷された検査パターンを順次読み取るセンサーと、
前記検査パターンの背景色を切り替える背景色切替部と、
前記検査パターンの読み取りを行う際に、前記背景色切替部の動作を制御して、読み取られる検査パターンのインクの種類に応じた背景色に切り替えさせるとともに、前記センサーの動作を制御して、前記検査パターンを読み取らせる読取制御部と、
前記センサーの読取結果に基づいて不良ノズルの発生について判定する不良判定部と、
を備える印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記複数種類のインクには、白色インクと透明インクの少なくとも一方が含まれており、
前記読み取られる検査パターンのインクの種類が前記白色インクあるいは前記透明インクの場合には、前記背景色は黒色である、印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記複数種類のインクには、複数の色のインクが含まれており、
前記読み取られる検査パターンのインクの種類が前記複数の色のインクのうちの一つの色のインクの場合には、前記背景色は前記一つの色に対する色相環における補色の成分を少なくとも含む色である、印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷装置であって、
前記読み取られる検査パターンのインクの種類が前記複数の色のインクのうちの一つの色のインクの場合には、前記背景色は前記一つの色に対する色相環における補色である、印刷装置。
【請求項5】
印刷方法であって、
複数種類のインクをそれぞれ吐出する複数のノズル群を有する印刷ヘッドを用いて、透明な検査用印刷媒体に各インクの検査パターンを印刷する工程と、
センサーを用いて、前記検査用印刷媒体に印刷された検査パターンを順次読み取る工程と、
前記検査パターンを読み取る際に、背景色切替部を用いて、読み取られる検査パターンのインクの種類に応じた背景色に切り替える工程と、
前記センサーの読取結果に基づいて不良ノズルの発生について判定する工程と、
を備える印刷方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate