説明

印刷装置

【課題】ローラ痕の発生による画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行う。
【解決手段】インクを用いて印刷を行う印刷装置10であって、媒体50の被印刷面へインクを吐出する印刷ヘッド12と、媒体50を搬送するローラであり、媒体50の搬送方向において印刷ヘッド12よりも上流側で、媒体50の被印刷面と接触する上流被印刷面側ローラであるローラ16bとを備え、ローラ16bにおいて少なくとも媒体50と接する部分は、フッ素系樹脂で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタ等の印刷装置において、ローラを用いて媒体を搬送する技術が広く用いられている。このようなローラは、例えば、媒体の被印刷面側及び裏面側のそれぞれに設けられ、媒体を挟んで回転することにより、媒体を搬送する。このローラとしては、例えば、表面がゴム系の材料で形成されたゴムローラが広く用いられている。また。従来、媒体における印刷後の部分と接触するローラに関して、ゴムからの滲みだし物質や再転写等によるローラ痕を防ぐ構成が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−85646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、近年、求められる印刷精度の高まりにより、例えば従来は問題とならなかった事項が、印刷の画質を劣化させる原因となる場合が生じつつある。本願の発明者は、このような観点から鋭意研究を行い、インクの吐出前におけるローラと媒体との接触が、印刷の画質を劣化させる原因となる場合があることを見出した。
【0004】
図2は、印刷の画質の劣化の課題について説明する図であり、ローラ20と媒体50との接触による画質の劣化の様子を示す。ローラ20は、インクジェットプリンタにおいて媒体50を搬送するゴムローラであり、媒体50の搬送方向におけるインクジェットヘッドよりも上流側で、媒体50の被印刷面と接触する。また、ローラ20は、媒体50の裏面側に設けられたローラ(図示省略)との間に媒体50を挟んで回転するピンチローラであり、媒体50の裏面側のローラの回転に従って、従動回転する。
【0005】
このような構成において、本願の発明者は、鋭意研究により、インクを塗布する前のローラ20と媒体50との接触が、印刷の画質の劣化の原因となる場合があることを見出した。例えば、インクの塗布前に生じたローラ20と媒体50との接触により、インクの塗布後に、媒体50において、ローラ20と接触した箇所だけの色が変色するローラ痕52が発生する場合があることを見出した。
【0006】
また、更なる鋭意研究により、このようなローラ痕が発生する原因として、ローラ20との接触による媒体50表面の化学的物性や表面粗さの変化が考えられることを見出した。このようなことが生じると、例えばインクの色に変化が生じ、ローラ痕が発生することとなる。また、他の原因として、媒体50において、ローラ20と接触した部分に静電気が発生し、その部分にインクのミストが集中することにより、画質の劣化が生じ得ることを見出した。
【0007】
そのため、印刷の画質の劣化を適切に抑えるためには、このような問題点を解決し、インクを塗布する前の媒体とローラとの接触による画質の劣化を抑えることが求められる。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)インクを用いて印刷を行う印刷装置であって、媒体の被印刷面へインクを吐出する印刷ヘッドと、媒体を搬送するローラであり、媒体の搬送方向において印刷ヘッドよりも上流側で、媒体の被印刷面と接触する上流被印刷面側ローラとを備え、上流被印刷面側ローラにおいて少なくとも媒体と接する部分は、フッ素系樹脂で形成される。
【0009】
フッ素系樹脂は、耐薬品性が極めて高いため、例えば他の化学物質に対して変質を起こしにくい。そのため、このように構成した場合、例えば、上流被印刷面側ローラが媒体と接触しても、媒体に化学的変化を生じさせにくく、媒体の表面の化学的物性に影響を与えにくい。また、フッ素系樹脂は、非粘着性や低摩擦性を有するため、媒体の表面粗さの変化等も生じさせにくい。更には、例えばゴムローラと媒体とが接触する場合等と比べ、媒体に静電気を発生させにくい。また、その結果、静電気の発生によるインクのミストの集中も起こりにくい。
【0010】
そのため、このように構成すれば、例えば、インクを塗布する前の媒体とローラとの接触によりローラ痕が発生することを適切に防ぐことができる。また、これにより、画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。
【0011】
また、このような上流被印刷面側ローラは、例えばゴムローラと比べ、汚れが付着しにくい。また、汚れが付着した場合も、清掃が簡易になる。そのため、このように構成すれば、媒体の送り機構のメンテナンスが容易になる。
【0012】
(構成2)媒体は、塩化ビニルシートである。塩化ビニルシートは、例えば光沢塩化ビニルシートであってよい。
【0013】
塩化ビニルシートの媒体を用いる場合、搬送方向の上流で媒体の被印刷面と接触するローラとして、例えばゴムローラを用いると、媒体表面の物性変化や、静電気の発生が特に大きくなり、画質の劣化が生じやすくなる。これに対し、このように構成すれば、塩化ビニルシートの媒体を用いる場合であっても、画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。
【0014】
(構成3)媒体を搬送するローラであり、媒体の搬送方向において印刷ヘッドよりも上流側で、媒体の被印刷面の裏面と接触する上流裏面側ローラを更に備え、上流被印刷面側ローラは、上流裏面側ローラとの間に媒体を挟んで回転するローラである。このように構成すれば、画質の劣化を適切に抑えつつ、媒体の搬送を適切に行うことができる。
【0015】
尚、上流被印刷面側ローラは、例えばピンチローラである。上流被印刷面側ローラは、上流裏面側ローラの回転に従って回転する従動ローラであってよい。また、上流裏面側ローラにおいて媒体と接触する部分は、フッ素系樹脂よりも弾性の大きい材料で形成されることが好ましい。上流裏面側ローラは、例えばゴムローラであってもよい。このように構成すれば、より適切に媒体を搬送できる。
【0016】
(構成4)インクを用いて印刷を行う印刷装置であって、媒体の被印刷面へインクを吐出する印刷ヘッドと、媒体を搬送するローラであり、媒体の搬送方向において印刷ヘッドよりも上流側で、媒体の被印刷面の裏面と接触する上流裏面側ローラと、上流裏面側ローラとの間に媒体を挟んで回転するローラであり、媒体の搬送方向において印刷ヘッドよりも上流側で、媒体の被印刷面と接触する上流被印刷面側ローラとを備え、上流被印刷面側ローラにおいて少なくとも媒体と接する部分は、上流裏面側ローラにおいて媒体と接する部分よりも、媒体に化学変化を生じさせにくく、かつ、媒体との接触による静電気を発生させにくい材料で形成される。
【0017】
このように構成すれば、例えば構成1と同様に、インクを塗布する前の媒体とローラとの接触によりローラ痕が発生することを適切に防ぐことができる。また、これにより、画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。更には、上流被印刷面側ローラに汚れが付着しにくくなるため、媒体の送り機構のメンテナンスが容易になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば、ローラ痕の発生による画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の構成の一例を示す。図1(a)は、印刷装置10の側面図である。図1(b)は、印刷装置10におけるローラ16bの近傍を示す上面図である。印刷装置10は、インクを用いて印刷を行うインクジェットプリンタであり、印刷ヘッド12、プラテン14、及び複数のローラ16a〜16dを備える。
【0020】
印刷ヘッド12は、媒体50の被印刷面へインクジェット方式でインクを吐出するインクジェットヘッドである。印刷ヘッド12は、媒体50の幅方向である主走査方向へ移動することにより、媒体50上の各位置へインクを吐出する。プラテン14は、印刷ヘッド12によりインクが吐出される媒体50を上面に保持する台である。
【0021】
複数のローラ16a〜16dは、主走査方向と直交する搬送方向へ媒体50を搬送するローラである。複数のローラ16a〜16dは、媒体50を搬送することにより、搬送方向と平行な副走査方向へ、媒体50に対して相対的に、印刷ヘッド12を移動させる。
【0022】
ここで、複数のローラ16a〜16dのうち、2個のローラ16a、16bは、媒体50の搬送方向において印刷ヘッド12よりも上流側に設けられる。ローラ16aは、上流裏面側ローラの一例であり、この上流側で、媒体50の被印刷面の裏面と接触する。本例において、ローラ16aは、プラテン14上に媒体50を供給する給紙ローラであり、例えばモータ等の動力を受けて回転することにより、媒体50をプラテン14上へ送る。ローラ16aは、例えばゴムローラであってよい。
【0023】
ローラ16bは、上流被印刷面側ローラの一例であり、この上流側で、媒体50の被印刷面と接触する。本例において、ローラ16bは、ピンチローラであり、ローラ16aとの間に媒体50を挟んで回転する。また、ローラ16bは、従動ローラであり、ローラ16aの回転に従って回転する。尚、本例において、印刷装置10は、図1(b)に示すように、媒体50の幅方向である主走査方向に並ぶ複数のローラ16bを備える。ローラ16bの構成については、後に更に詳しく説明する。
【0024】
2個のローラ16c、16dは、媒体50の搬送方向において印刷ヘッド12よりも下流側に設けられる。ローラ16cは、この下流側で、媒体50の被印刷面の裏面と接触する。また、本例において、ローラ16cは、排紙ローラであり、例えばモータ等の動力を受けて回転することにより、媒体50をプラテン14上から引き出す。ローラ16cは、例えばゴムローラであってよい。ローラ16dは、媒体50の被印刷面と接触するピンチローラであり、この下流側で、ローラ16cとの間に媒体50を挟んで回転する。また、ローラ16dは、従動ローラであり、ローラ16cの回転に従って回転する。ローラ16dは、例えばゴムローラであってよい。また、ローラ16dは、以下に説明するローラ16bと同一又は同様のローラであってもよい。
【0025】
以下、ローラ16bについて更に詳しく説明する。本例において、ローラ16bにおいて少なくとも媒体と接する部分は、フッ素系樹脂で形成される。フッ素系樹脂(フッ素樹脂)とは、例えば、分子中にF(フッ素)を含むポリマーである。フッ素系樹脂としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフロオロエチレン−ヘキサフロオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフロオロエチレン−パーフロオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(テトラフロオロエチレン−エチレン共重合体)、又はPCTFE(ポリクロロトリフロオロエチレン)等を用いることができる。
【0026】
フッ素系樹脂は、耐薬品性が極めて高く、かつ非粘着性や低摩擦性を有する。そのため、例えば、ローラ16bが媒体50と接触しても、媒体50の表面の化学的物性に影響を与えにくく、かつ、媒体50の表面粗さの変化等も生じさせにくい。また、例えば本例のローラ16bに代えてゴムローラを用いる場合等と比べ、媒体50に静電気を発生させにくいため、静電気の発生によるインクのミストの集中も起こりにくい。
【0027】
そのため、本例によれば、例えば、インクを塗布する前の媒体50とローラ16bとの接触によるローラ痕の発生を、適切に防ぐことができる。また、これにより、画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。また、本例のローラ16bは、例えばゴムローラと比べ、汚れが付着しにくい。また、汚れが付着した場合も、清掃が簡易になる。そのため、本例によれば、媒体の送り機構のメンテナンスが容易になる。
【0028】
ここで、本例において、媒体50には、例えば塩化ビニルシート等が用いられる。この塩化ビニルシートは、例えば光沢塩化ビニルシートであってよい。そして、塩化ビニルシートの媒体50を用いる場合、搬送方向の上流で媒体50の被印刷面と接触するローラとして、ゴムローラを用いると、例えば媒体表面の物性変化や、静電気の発生が特に大きくなり、画質の劣化が生じやすくなる。これに対し、本例によれば、画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。
【0029】
また、ローラ16bにおいて少なくとも媒体と接する部分は、例えばフッ素系樹脂以外の材料で形成することも考えられる。この場合、ローラ16bにおいて少なくとも媒体50と接する部分は、例えばローラ16aにおいて媒体50と接する部分よりも、媒体50に化学変化を生じさせにくく、かつ、媒体50との接触による静電気を発生させにくい材料で形成されることが好ましい。
【0030】
このように構成した場合も、インクを塗布する前の媒体50とローラ16bとの接触によるローラ痕の発生を、適切に防ぐことができる。また、これにより、画質の劣化を抑え、高い品質の印刷を適切に行うことができる。更には、ローラ16bに汚れが付着しにくくなるため、媒体の送り機構のメンテナンスが容易になる。
【0031】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、例えば印刷装置に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置10の構成の一例を示す図である。図1(a)は、印刷装置10の側面図である。図1(b)は、印刷装置10におけるローラ16bの近傍を示す上面図である。
【図2】印刷の画質の劣化の課題について説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
10・・・印刷装置、12・・・印刷ヘッド、14・・・プラテン、16a、16b、16c、16d・・・ローラ、50・・・媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを用いて印刷を行う印刷装置であって、
媒体の被印刷面へインクを吐出する印刷ヘッドと、
前記媒体を搬送するローラであり、前記媒体の搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流側で、前記媒体の前記被印刷面と接触する上流被印刷面側ローラと
を備え、
前記上流被印刷面側ローラにおいて少なくとも前記媒体と接する部分は、フッ素系樹脂で形成されることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記媒体は、塩化ビニルシートであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記媒体を搬送するローラであり、前記媒体の搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流側で、前記媒体の前記被印刷面の裏面と接触する上流裏面側ローラを更に備え、
前記上流被印刷面側ローラは、前記上流裏面側ローラとの間に前記媒体を挟んで回転するローラであることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
インクを用いて印刷を行う印刷装置であって、
媒体の被印刷面へインクを吐出する印刷ヘッドと、
前記媒体を搬送するローラであり、前記媒体の搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流側で、前記媒体の前記被印刷面の裏面と接触する上流裏面側ローラと、
前記上流裏面側ローラとの間に前記媒体を挟んで回転するローラであり、前記媒体の搬送方向において前記印刷ヘッドよりも上流側で、前記媒体の前記被印刷面と接触する上流被印刷面側ローラと
を備え、
前記上流被印刷面側ローラにおいて少なくとも前記媒体と接する部分は、前記上流裏面側ローラにおいて前記媒体と接する部分よりも、前記媒体に化学変化を生じさせにくく、かつ、前記媒体との接触による静電気を発生させにくい材料で形成されることを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−202394(P2009−202394A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45793(P2008−45793)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】