説明

印字記録物及び印字記録方法

【課題】インクの分散安定性や吐出安定性が良好で、耐擦過性が向上した画像劣化のない印字記録物、このような印字記録物の形成を可能とする印字記録方法の提供。
【解決手段】第1の水不溶性色材と、該第1の水不溶性色材のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の水不溶性色材とによって記録媒体上に形成されたインク層を有する印字記録物であって、該インク層は、その厚み方向に向かって第1の水不溶性色材と第2の水不溶性色材との存在比率が異なり、少なくとも記録媒体の近傍においては、前記第2の水不溶性色材の存在比率が前記第1の水不溶性色材の存在比率よりも高く、かつ、前記インク層の最表面においては、前記第1の水不溶性色材の存在比率が前記第2の水不溶性色材の存在比率よりも高いことを特徴とする印字記録物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦過性が良好な印字記録物及び該印字記録物を提供する印字記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクの微小液滴を飛翔させ、紙などの記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法であり、高速、低騒音、多色印刷が容易であるという利点を有している。このようなインクジェット記録方式では、インクとして、各種の水溶性染料を、水又は水と有機溶剤との混合液に溶解させてなるものが多く使用されている。
【0003】
しかしながら、インクの色材に、水溶性染料を用いた場合には、水溶性染料は本来耐光性に劣るため、記録画像の耐光性が問題になる場合が多い。また、この場合には、インクが水溶性であるために、記録画像の耐水性も問題となる場合が多い。すなわち、記録画像に、雨、汗、水、或いは飲食用の水性の液体がかかったりした場合、記録画像が滲んだり、消失したりすることがある。そこで、記録画像における耐光性、耐水性といった問題を改善する目的で、分散剤を用いて顔料を水性媒体に分散させてなる顔料インクを用いたインクジェット記録方式のプリンタが市場にでるようになってきている。
【0004】
しかし、顔料インクを用いることにより、記録画像の耐光性及び耐水性は、格段に向上するものの、印字物の耐擦過性が染料インクを用いて印字したときよりも劣るという新たな問題が生じる。特に、印字濃度を上げるために顔料濃度を高くしたり、顔料を浸透させないで紙の表面に残存させるように設計したりしたインクで印字を行った場合、印字物の耐擦過性の問題は深刻であった。具体的には、印字物を、消しゴムで擦ったり、手で強く擦ったりすることにより、印字物が汚染されたり、記録媒体の白地が露出してしまうことがあった。
【0005】
これに対し、記録画像の耐擦過性を改善させることを目的にして、従来より、顔料インクに用いる顔料についての提案が種々なされている。例えば、DBP吸油量の低い、つまりストラクチャーの低いカーボンブラックをインクに用いることで、おそらくカーボンブラックの記録媒体への密着性が向上するために、前記したような記録媒体の白地の露出が改善する、といった提案がある(特許文献1)。そして、この場合には、確かに、ストラクチャーの高いカーボンブラックを用いたインクを使用する場合と比べて、顔料の記録媒体への密着性は良好なものとなる。しかし一方で、インクの分散安定性、吐出安定性を得るには十分な量の分散ポリマーを用いる必要があるため、着弾されたインクドットの変形(インク層変形)が起こりやすく、記録画像が劣化しやすいといった別の課題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−348523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、インクの分散安定性や吐出安定性に問題を生じることなく、耐擦過性が向上した画像劣化のない印字記録物及びこのような印字記録物の形成を可能とする印字記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。
すなわち、本発明の第一は、下記の印字記録物に関する。第1の水不溶性色材と、該第1の水不溶性色材のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の水不溶性色材とによって記録媒体上に形成されたインク層を有する印字記録物であって、該インク層は、その厚み方向に向かって第1の水不溶性色材と第2の水不溶性色材との存在比率が異なり、少なくとも記録媒体の近傍においては、前記第2の水不溶性色材の存在比率が前記第1の水不溶性色材の存在比率よりも高く、かつ、前記インク層の最表面においては、前記第1の水不溶性色材の存在比率が前記第2の水不溶性色材の存在比率よりも高いことを特徴とする印字記録物である。
【0009】
本発明の第二は、下記の印字記録方法に関する。上記の印字記録物を形成するための印字記録方法であって、第1の水不溶性色材がポリマーによって溶媒に分散されてなる第1のインクと、前記第1の水不溶性色材のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の水不溶性色材が、ポリマーによって溶媒に分散されてなる第2のインクとが少なくとも組み合わされてなるインクセットを用い、マルチパス印字を行うインクジェット記録方法で、最初のパスでは少なくとも前記第2のインクを印字し、最後のパスでは少なくとも前記第1のインクを印字することを特徴とする印字記録方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水不溶性色材によって形成された画像でありながら耐擦過性が非常に良好な印字記録物を提供することができる。また、本発明によれば、インクの分散安定性や吐出特性に問題を生じることなく、画像の劣化がなく、耐擦過性に優れる印字記録物の形成が可能な印字記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の印字記録物を説明するための、印字記録物断面図の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
<印字記録物>
本発明の印字記録物は、第1の水不溶性色材と、該第1の水不溶性色材のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の水不溶性色材とによって記録媒体上に形成されたインク層を有する。そして、該インク層が、その厚み方向に向かって第1の水不溶性色材と第2の水不溶性色材との存在比率が異なり、少なくとも下記のように分布していることを特徴とする。すなわち、少なくとも記録媒体の表面或いは近傍では、第2の水不溶性色材の存在比率が第1の水不溶性色材の存在比率よりも高く、かつ、インク層の最表面においては、第1の水不溶性色材の存在比率が第2の水不溶性色材の存在比率よりも高くなっている。
【0013】
本発明において、インク層とは、インクが記録媒体上に着弾されて、顔料等の水不溶性色材が幾重かに積み重なることにより形成された層のことを指す(図1参照)。また、インク層は、複数ドットによるものであっても、1ドットのみのものであってもよい。本発明の印字記録物は、インク層最表面において、DBP吸油量の高い、つまりストラクチャーの高い第1の水不溶性色材が多く存在しているため、インク層変形が起きにくい。さらに、本発明の印字記録物は、少なくとも記録媒体の近傍では、DBP吸油量の低い、つまりストラクチャーの低い第2の水不溶性色材の存在比率が高いため、水不溶性色材と記録媒体との密着性が良好となり、耐擦過性が非常に優れたものとなる。本発明の印字記録物は、記録媒体が、多孔質無機顔料及びバインダーを含有するインク受容層を有する場合に、より好ましくものとなる。
【0014】
本発明の印字記録物においては、水不溶性色材として、主に顔料を用いることができる。したがって、以下、水不溶性色材として顔料を用いた場合を例に、本発明を詳細に説明する。本発明の印字記録物においては、前記した通り、これを構成するインク層中に、DBP吸油量が異なる2種以上の顔料、すなわち、第1の顔料と、該第1の顔料のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の顔料とが少なくとも存在している。そして、インク層の最表面においては、DBP吸油量が相対的に高い第1の顔料が、DBP吸油量が相対的に低い第2の顔料よりも多く存在している(図1参照)。この結果、インク層変形が起きにくく、画像劣化が抑制される。一方、インク層の記録媒体の近傍においては、DBP吸油量が相対的に低い第2の水不溶性色材が、DBP吸油量が相対的に高い第1の水不溶性色材よりも多く存在している(図1参照)。インク層の最表面は、DBP吸油量が相対的に高い第1の顔料が特に多く存在した状態であり、さらに、インク層の厚み方向で記録媒体に向かってDBP吸油量が相対的に低い第2の顔料の存在比率が高くなるように構成されたインク層であることが好ましい。また、記録媒体表面に接している顔料は、DBP吸油量が相対的に低い第2の顔料が特に多く存在した状態、実質的に第2の顔料のみといえる状態であることが好ましい。これにより、顔料の記録媒体への密着性がより良好となり、より高い画像の耐擦過性を得ることができる。
【0015】
このように構成されたインク層を有する本発明の印字記録物は、後述するような、1種又は2種以上のインクを用いて、記録媒体上に印字し、インク層を形成させることで得られる。そして、2種以上のインクを組み合わせて用いて印字し、インク層を形成する場合には、少なくとも2種のインクのそれぞれに、DBP吸油量の異なる顔料を別々に含有させた構成とするとよい。また、1種のインク(1液)を印字して前記インク層を形成する場合には、該インク中に、少なくとも2種のDBP吸油量の異なる顔料を併有させた構成とすることが好ましい。以下、本発明の印字記録物を構成するインク層を形成させるためのインクの構成について詳細に説明する。
【0016】
<インク組成物>
(顔料)
本発明において、インク中に含有させる顔料のDBP吸油量は180ml/100g以下のものを用いることが好ましい。そして、DBP吸油量の異なる2種以上の顔料のうち、DBP吸油量が相対的に高い第1の顔料のDBP吸油量としては、100ml/100g以上、さらには140ml/100g以上であることが好ましい。本発明では、このような顔料をインク層最表面に多く存在させることで、インク層変形を起こしにくくし、これにより画像劣化が生じるのを抑制している。一方、DBP吸油量が相対的に低い第2の顔料のDBP吸油量は、100ml/100g未満、さらには80ml/100g以下であることが好ましい。本発明では、このような顔料を記録媒体の表面或いは近傍に多く存在させることで、顔料の記録媒体への密着性を良好なものとしている。第2の顔料のDBP吸油量の下限は、特に制限範囲はないが、50ml/100g以上であることが好ましい。
【0017】
本発明で使用する顔料としては、カーボンブラックを挙げることができるが、この場合に特に本発明の顕著な効果が得られる。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の印字記録物は、2種以上のDBP吸油量の異なる顔料を用いてインク層を形成し、インク層の最表面と記録媒体の表面及びその近傍とでDBP吸油量の異なる顔料が、先述したようにそれぞれが多く存在するようにできればいずれの態様であってもよい。通常、カーボンブラックの一次粒子同士は融着し、ブドウの房状のストラクチャーを形成して存在している。本発明で規定する色材のDBP吸油量とは、そのストラクチャーの大きさの程度の指数である。より詳細にはカーボンブラックのDBP吸油量とはJIS K6221 A法で測定した値を指す。また、本発明において、カーボンブラックなどの顔料は、市販されているものを用いてもよいし、本発明のために、新規に合成したものを用いてもよい。
【0018】
以下に、市販されているカーボンブラックを例示した。Raven1060、同1080、同1170、同1200、同1250、同1255、同1500、同2000、同3500、同5250、同5750、同7000。Raven5000 ULTRAII、Raven1190 ULTRAII(以上、コロンビアン・カーボン社製)。Black Pearls L、MOGUL−L、Regal400R、同660R、同330R、Monarch 800、同880、同900、同1000、同1300、同1400(以上、キャボット社製)。Color Black FW1、同FW2、同FW200、同18、同S160、同S170、Special Black 4、同4A、同6、Printex35、同U、同140U、同V、同140V(以上、デグッサ社製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、No.2600、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)などを挙げることができるが、これらに限定されない。本発明において、インク中における顔料の含有量は、記録濃度、インクの保存安定性、吐出安定性の点で0.5質量%以上6質量%以下であることが好ましく、1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
(ポリマー)
次に、本発明で使用する顔料分散用のポリマーについて説明する。本発明の印字記録物を実現させるためのインクに用いるポリマーとしては、どのようなものでも使用可能である。好ましくは、以下に挙げるようなものから選択された少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体、及びグラフト共重合体、並びに、これらの塩などである。単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体。
【0020】
さらに、本発明の印字記録物のインク層を、1種のインク(1液)で形成させる場合には、親水性の異なる2種類以上のポリマーを顔料分散剤としてインク中に含有させることが好ましい。より詳細には、DBP吸油量が相対的に低い第2の顔料を分散させる、親水性が相対的に高い第2のポリマーと、DBP吸油量が相対的に高い第1の顔料を分散させる、親水性が相対的に低い第1のポリマーとを少なくともインク中に含有させる。ここで、本発明における親水性とは、インク中に含まれる水との親和性のことを指す。そして、印字後における記録媒体上でのインクの浸透過程において、親水性の高いポリマーで分散されている、ストラクチャーの低い第2の顔料は、水との親和性ゆえに、記録媒体の表面或いは近傍に多く存在するようになる。その結果、記録媒体と顔料との密着性が良好となり、印字記録物の耐擦過性は、極めて良好なものとなる。
【0021】
上記した構成を有する1種のインク(1液)を得るためには、2種以上の分散体を用いることが好ましい。本発明のインクの一例としては、以下のものが挙げられる。すなわち、第1の顔料が第1のポリマーによって分散されてなる第1の分散体と、該第1の顔料よりもDBP吸油量が低い第2の顔料が第1のポリマーよりも親水性が高い第2のポリマーによって分散されてなる第2の分散体とを含有してなるインクである。勿論、上記において顔料以外の水不溶性色材を用いてもよい。上記構成を有する本発明のインクは、前記した本発明の印字記録物を1液で形成させるのに最良なものである。そして、このインクを用いた場合、印字後、水の浸透過程において、親水性が相対的に高いポリマーにより分散されている第2の顔料の方が、親水性が相対的に低いポリマーにより分散されている第1の顔料よりも、インク層厚み方向に向かって浸透しやすくなる。このため、前記した本発明の印字記録物を容易に得ることができる。
【0022】
本発明のインクを調製する場合には、少なくとも2種の顔料をそれぞれに分散させるためのポリマーの親水性をコントロールする必要がある。ここで、ポリマーの親水性を指し示すパラメータの一つとして、酸価が挙げられる。酸価とは、ポリマー1gを中和するのに、必要なKOHの重量(mg)を指し、JIS−K3504にしたがって測定する。酸価が高い程、親水性は高いと判定できる。本発明においては、第1のポリマーがイオン性ユニットを有したものであり、第2のポリマーが第1のポリマーよりも高い酸価を有することが好ましい。また、本発明においては、親水性が相対的に高い第2のポリマーとして、その酸価が、親水性が相対的に低い第1のポリマーの酸価の1.5倍以上であるものを使用することが好ましい。より好ましくは2倍以上の酸価を有するポリマーを使用する。
【0023】
親水性の異なる2種類以上のポリマーを用いる場合においても、該ポリマーとしては、どのようなものでも使用可能である。好ましくは、前記と同様であり、以下に挙げるようなものから選択された少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体、及びグラフト共重合体、並びに、これらの塩などである。単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体。また、本発明においては、以下に述べるトリブロックポリマーが顔料を分散させるポリマーとして好適に用いられる。
【0024】
本発明において、好ましく用いられるトリブロックポリマーは、疎水ユニット、非イオン性親水ユニット、イオン性親水ユニットを有する。さらに、親水性の異なる2種類以上のポリマーとして、トリブロックポリマーを用いる場合、そのうち少なくとも1種類は、インクの吐出安定性の観点から、以下の構造を有するブロック共重合体であることが好ましい。すなわち、疎水ユニット、非イオン性親水ユニット、イオン性親水ユニットが、順に並ぶ構造を有するブロック共重合体であることが好ましい。インクの吐出が安定になる要因としては、該ポリマーが、疎水ユニット及び親水ユニットを有することで、ミセルを形成し、インクの自由エネルギーが減少して、インクの粘度を下げるためであると考えられる。また、イオン性親水ユニットを有することで、熱インクジェット方式によるインクジェット記録方法において、熱に対する分解などの反応性に対して耐性が強くなるためであると考えられる。この構成のトリブロックポリマーを用いる場合においては、非イオン性親水セグメントとイオン性親水セグメントの重合度比は、非イオン性親水性セグメントの重合度を10としたとき、イオン性親水セグメントの重合度が10以下となるようにすることが好ましい。
【0025】
また、本発明において、ポリマーとして用いることができるブロック共重合体の具体的な例として、以下のものが挙げられる。すなわち、アクリル、メタクリル系ブロック共重合体、ポリスチレンと他の付加重合系又は縮合重合系のブロック共重合体、ポリオキシエチレン、ポリオキシアルキレンのブロックを有するブロック共重合体など、従来公知のブロック共重合体を用いることもできる。本発明において、ブロック共重合体は、AB、ABA、ABCなどのブロック形態であることがより好ましい。A、B、Cはそれぞれ異なるブロックセグメントを示す。また、本発明では、ブロック共重合体が、ある共重合体鎖にT字状に結合してグラフト共重合体となっていてもよい。本発明において、ブロック共重合体は、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有することが、ポリマー設計が安定に行えるという観点から好ましい。
【0026】
イオン性親水ユニットの繰り返し単位構造の具体例としては、下記の一般式(1)で表される繰り返し単位構造が挙げられる。
【0027】

(一般式(1)中、R0は−X−(COOH)r、−X−(COO−M)rを表す。Xは炭素数1乃至20までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基。又は−(CH(R1)−CH(R2)−O)p−(CH2m−CH3-r−若しくは−(CH2m−(O)n−(CH2q−CH3-r−又は、それらのメチレン基の少なくとも一つがカルボニル基又は芳香環構造で置換された構造を表す。rは1乃至2を表す。pは1乃至18までの整数を表す。mは0乃至35までの整数を表す。nは1又は0を表す。qは0乃至17の整数を表す。Mは一価又は多価のカチオンを表す。R1、R2はアルキル基を表す。R1、R2は同じでも又は異なっていてもよい。)
【0028】
さらに、疎水ユニット或いは非イオン性親水ユニットの繰り返し単位構造の具体例としては、下記の一般式(2)で表される繰り返し単位構造が挙げられる。
【0029】

(一般式(2)中、R1は炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−(CH(R2)−CH(R3)−O)p−R4及び−(CH2m−(O)n−R4から選ばれる基である。そして、芳香環中の水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基と、また、芳香環中の炭素原子は窒素原子と、それぞれ、置換していてもよい。pは1乃至18の整数、mは1乃至36の整数、nは0又は1である。R2、R3はそれぞれ独立に水素原子若しくは−CH3である。R4は水素原子、炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Np、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2、−CO−C(CH3)=CH2、−CH2−COOR5からなる。そして、R4が水素原子以外である場合、R4中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は−F、−Cl、−Brと、また、芳香環中の炭素原子は窒素原子と、それぞれ、置換することができる。R5は水素原子又は炭素数1乃至5のアルキル基である。なお、Phはフェニル基、Pyrはピリジル基、Npはナフチル基を表す。
【0030】
以下、疎水ユニットをAセグメント、非イオン性親水ユニットをBセグメント、イオン性親水ユニットをCセグメントと呼ぶ。
一般式(1)で表される、Cセグメント(イオン性親水ユニット)の繰り返し単位構造の具体例を以下に挙げる。
【0031】

【0032】

【0033】
一般式(2)で表される繰り返し単位構造のうち、Aセグメント(疎水ユニット)の繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0034】

【0035】
一般式(2)で表される繰り返し単位構造のうち、Bセグメント(非イオン性親水セグメント)の繰り返し単位構造の具体例としては以下に記載したものが挙げられる。
【0036】

【0037】
また、本発明に用いることができるブロック共重合体の各ブロックセグメントは、単一の繰り返し単位構造からなるものでもよく、複数の繰り返し単位構造からなるものでもよい。複数の繰り返し単位からなるブロックセグメントの例としては、ランダム共重合体や徐々に組成比が変化するグラデュエイション共重合体がある。また、本発明に用いることができるブロック共重合体は、ブロック共重合体構造が他のポリマーにグラフト結合したポリマーであってもよい。
【0038】
本発明において、ブロック共重合体中に含有される一般式(1)或いは一般式(2)で表される繰り返し単位構造の含有量は、ブロック共重合体全体に対して、0.01mol%以上99mol%以下、さらには1mol%以上90mol%以下の範囲が好ましい。0.01mol%未満ではイオン性官能基或いは疎水性官能基或いは非イオン性親水基の働くべき高分子相互作用が不充分な場合があり、99mol%を超えると逆に相互作用が働きすぎて機能が不充分な場合がある。
【0039】
ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、200以上10,000,000以下であり、好ましく用いられる範囲としては1,000以上1,000,000以下である。10,000,000を超えると高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくかったりする。200未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度は3以上10,000以下である。さらに好ましくは5以上5,000以下である。さらに好ましくは10以上4,000以下である。
【0040】
また、ブロック共重合体は、記録媒体上で被覆層を形成しやすい点でもフレキシブルであることが好ましい。このためには、その主鎖のガラス転移温度Tgは、好ましくは100℃以下である。
【0041】
本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル繰り返し単位構造を有するブロック共重合体の重合は主にカチオン重合で行われることが多い。開始剤としては、以下のものが例として挙げられる。塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸などのプロトン酸や、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、RAlCl2、R1.5AlCl1.5などのルイス酸とカチオン源の組み合わせ。なお、Rはアルキルを示す。また、カチオン源としてはプロトン酸や水、アルコール、ビニルエーテルとカルボン酸の付加体などが挙げられる。これらの開始剤を重合性化合物(モノマー)と共存させることにより重合反応が進行し、ブロック共重合体を合成することができる。本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル繰り返し単位構造を有するブロック共重合体は、より好ましくはポリビニルエーテル繰り返し単位構造が50mol%以上好ましくは70mol%以上さらに好ましくは90mol%以上含有されるものである。
【0042】
本発明において、好ましく用いられるポリマーの重合方法についてさらに説明する。ポリビニルエーテル構造を含むポリマーの合成法は多数報告されている(特開平11−080221号公報)。特に、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌 15巻、1986年 417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)が代表的である。カチオンリビング重合でポリマー合成を行うことで、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体、さらにはブロック共重合体、グラフトポリマー、グラジュエーションポリマーなどの様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成できる。また、他にHI/I2系、HCl/SnCl4系などでリビング重合を行うこともできる。
【0043】
(溶媒)
次に、本発明に用いられるインクに含有させる溶媒について説明する。
本発明においては、直鎖、分岐鎖、環状の各種脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、複素芳香族炭化水素やハロゲン含有溶媒などの有機溶媒、水性溶媒、水などが溶媒として含まれる。特に、本発明において、インクには、水及び水性溶媒をそれぞれ又は共存させて使用することが好ましい。水性溶媒の例としては、例えば、以下のものを挙げることができる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン、ジグリセリンなどの多価アルコール類。エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミンなどの含窒素溶媒など。また、紙でのインクの乾燥を速めることを目的として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの一価アルコール類を用いることもできる。
【0044】
本発明において、インク中における溶媒の含有量は、インク全質量を基準として、20質量%以上95質量%以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは30質量%以上90質量%以下の範囲である。
【0045】
(添加剤)
本発明に用いるインクを、インクジェット方式を用いて吐出させて記録させるためには、表面張力の制御のためにインク中に界面活性剤を含有させていることが好ましい。本発明において、インクに好ましく使用される界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類などのアニオン性界面活性剤。ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性界面活性剤。アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類などのカチオン性界面活性剤。特に、カルボン酸基やスルホン酸基で溶媒中に顔料が分散されているようなインクに対しては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0046】
本発明で使用されるインクには、この他に、防腐剤、防黴剤、消泡剤、保湿剤、粘度調整剤などを必要に応じて含有していてもよい。保湿剤を含有する場合は糖類が好ましく、糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられる。好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシシール、ソルビット、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどが挙げられる。
【0047】
本発明のインクは必要に応じてpH緩衝剤を含有していてもよい。pH緩衝剤は、例えば、インクジェット用の顔料インクに用いる場合では、pH8乃至pH10に調節することのできる緩衝剤であれば特に限定されない。具体例としては、以下のものなどを挙げることができる。フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及び/又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩。その含有量は、ヘッドの部材の耐久性と、インクの安定性の観点から、インクが概ねpH8乃至pH10になる量であるのが好ましい。
【0048】
(インクの特性)
本発明で使用するインクは、インクジェットヘッドから吐出可能である特性を有することが好ましいが、インクジェットヘッドからの安定な吐出性という観点からは、以下の特性であることが好ましい。例えば、その粘度が1mPa・s(cps)以上15mPa・s(cps)以下、表面張力が25mN/m(dyne/cm)以上であることが好ましい。特には、その粘度が1mPa・s(cps)以上5mPa・s(cps)以下、表面張力が25mN/m(dyne/cm)以上50mN/m(dyne/cm)以下であることが好ましい。また、本発明の効果をより一層発揮させるためには、特に、インクの表面張力が35mN/m(dyne/cm)以上50mN/m(dyne/cm)以下の範囲にあることが最も好適である。
【0049】
<記録媒体>
本発明において使用する記録媒体は、公知の形態のものであってもよい。例えば、普通紙、感熱紙、酸性紙などを挙げることができる。好ましくは、光沢紙である。該光沢紙とは、20°及び60°のグロス値が10以上である記録媒体のことである。本発明においては、前記グロス値を有するインク受容層が設けられた紙を好適に例示できる。さらに、インク受容層は、多孔質無機顔料及びバインダーを含有したものであることがより好ましい。本発明においては、このようなインク受容層に、前記した構成のインクを印字して印字記録物を得ることが好ましい。
【0050】
インク受容層を形成する際に用いるバインダーとしては、例えば、以下に挙げるものが好ましい。ポリビニルアルコール又はその変性体(カチオン変性、アニオン変性、シラノール変性)。澱粉又はその変性体(酸化、エーテル化)。ゼラチン又はその変性体。カゼイン又はその変性体。カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体。SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス。官能基変性重合体ラテックス。エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス。ポリビニルピロリドン。無水マレイン酸又はその共重合体。アクリル酸エステル共重合体など。これらのバインダーは、単独で或いは複数種混合して用いることができる。多孔質無機顔料としては、例えば、多孔質シリカ、多孔質炭酸カルシウム、多孔質炭酸マグネシウムなどの中から選択して用いることができる。
【0051】
<印字記録方法>
本発明の印字記録物を得る方法としては、一つには、前記したような、DBP吸油量の異なる2種類以上の顔料を有する本発明のインクを用いて印字記録する方法が挙げられる。例えば、前記したような、DBP吸油量が相対的に低い顔料が、親水性が相対的に高いポリマーで分散されており、DBP吸油量が相対的に高い顔料が、親水性が相対的に低いポリマーで分散されているインクを用いて、記録媒体上に印字記録する方法がある。
【0052】
また、一つには、2種のインクの組み合わせを用いて印字記録する方法が挙げられる。例えば、DBP吸油量が相対的に高い顔料をポリマーにより溶媒に分散させてなる第1のインクと、DBP吸油量が相対的に低い顔料をポリマーにより溶媒に分散させてなる第2のインクとを有するインクセットを用いて以下のように印字記録する方法が挙げられる。すなわち、マルチパス印字を行うインクジェット記録方法で、最初のパスでは少なくとも前記第2のインクを印字し、最後のパスでは少なくとも前記第1のインクを印字する印字記録方法が有効である。勿論、この方法においては、顔料以外の水不溶性色材を用いてもよい。この印字記録方法によれば、記録媒体と水不溶性色材との密着性の向上、及び、形成したインク層の変形抑制に特に効果があり、容易に本発明の印字記録物を得ることができる。この印字記録方法に用いる、第1及び第2のインクを構成する成分の詳細は、前記した通りである。なお、本発明の印字記録物を得る方法は、これらの方法に限定されることはない。また、マルチパス印字とは、プリントヘッドの幅の範囲を一度に印刷するのではなく、数回に分けて印刷する方法である。マルチパス印字では、印刷物の濃度を高めたり、プリンタの品質のばらつきやヘッド位置調整が不十分なことによる、プリントヘッドのつなぎ目で生じるヘッドの移動方向の印刷ムラを軽減したりすることができる。
【0053】
本発明に用いることができるインクジェット記録方法としては、圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーを作用させて発泡し記録を行う熱インクジェット方式のような周知の方法であってもよい。また、コンティニュアス型又はオンデマンド型のいずれの方法を用いてもよいがオンデマンド型インクジェット法が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例においては、酸価の異なる2種類のポリマーを用いた場合を例として挙げているが、本発明はこれらに限定はされない。また、インクの調製方法に関して、2種類の顔料分散体を混合する方法を例に挙げているが、本発明はこの調製方法に限定されるものではない。また、インクは、3種類以上の顔料分散体を混合したものであってもよい。
なお、以下の記載の中で「%」とある記載は特に断りがない限り質量基準である。また、実施例において、顔料とポリマーの濃度比が1:1であるインクを例として用いているが本発明はこれに限定されることはない。また、2種類の顔料分散体を、質量比1:1で混合させたインクを例として用いているが、本発明はこれに限定されることはない。
【0055】
(1)顔料分散体の調製
(顔料分散体A)
ポリマーa:スチレンアクリル酸共重合体(酸価:200mgKOH/g、重量平均分子量:10,000)10gをテトラヒドロフラン100mlに溶解させた。得られた溶液と、テトラヒドロフラン100mlで十分表面を濡らされたカーボンブラック(三菱化学社製 #2600、DBP吸油量77ml/100g)10gとを混合して、十分に撹拌した。その後、ポリマーaのカルボン酸基に対して1当量の水酸化カリウム水溶液を10℃の条件下で完全に溶解させた。次に、湿式微粒化装置ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)を用いて、全量を100回超高圧ポンプで押し出し、分散処理した。得られた分散液からロータリエバポレータを用いて、テトラヒドロフランを除去し、濃度調整を行って顔料濃度6%、ポリマー濃度6%の顔料分散体Aを得た。
【0056】
(顔料分散体B)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーb:スチレンアクリル酸共重合体(酸価:100mgKOH/g、重量平均分子量:10,000)を用いること。さらに、カーボンブラック(三菱化学社製 #2600)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製 S160、Color Black、DBP吸油量150ml/100g)を用いること以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Bを調製した。
【0057】
(顔料分散体C)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーc:スチレンアクリル酸共重合体(酸価:300mgKOH/g、重量平均分子量:10,000)を用いること。さらに、カーボンブラック(三菱化学社製 #2600)の代わりに、カーボンブラック(三菱化学社製 #2300、DBP吸油量64ml/100g)を用いること以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Cを調製した。
【0058】
(顔料分散体D)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーd:スチレンアクリル酸共重合体(酸価:70mgKOH/g、重量平均分子量:10,000)を用いること。さらに、カーボンブラック(三菱化学社製 #2600)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製 FW 18、Color Black、DBP吸油量160ml/100g)を用いること以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Dを調製した。
【0059】
(2)インクの調製
(実施例1)
次に、前記で得た顔料分散体A及び顔料分散体Bを用い、以下に示す組成でインクジェット用の顔料インクを調製した。具体的には、下記の各配合成分を混合した後、ガラスフィルター(ミリポア社製;AP20)に通し、実施例1の顔料インクを得た。アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物には、アセチレノールEH(商品名、川研ファインケミカル社製)を用いた。他の例も同様である。
・顔料分散体A 25%
・顔料分散体B 25%
・グリセリン 7%
・ジエチレングリコール 5%
・トリメチロールプロパン 7%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物 0.7%
・ノニオン性界面活性剤 0.5%
・水 29.8%
【0060】
(実施例2)
実施例1と比較して、顔料分散体A及びBの代わりに、顔料分散体C及びDを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の顔料インクを調製した。
【0061】
(実施例3)
実施例1と比較して、顔料分散体Bの代わりに、顔料分散体Dを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の顔料インクを調製した。
【0062】
(実施例4)
実施例1と比較して、顔料分散体Aの代わりに、顔料分散体Cを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の顔料インクを調製した。
【0063】
(比較例1)
前記で得た顔料分散体Aを用い、以下に示す組成でインクジェット用の顔料インクを調製した。具体的には、前記の各配合成分を混合した後、ガラスフィルター(ミリポア社製;AP20)に通し、比較例1の顔料インクを得た。
・顔料分散体A 50%
・グリセリン 7%
・ジエチレングリコール 5%
・トリメチロールプロパン 7%
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物 0.7%
・ノニオン性界面活性剤 0.5%
・水 29.8%
【0064】
(比較例2〜4)
比較例1と比較して、顔料分散体Aの代わりに、顔料分散体B〜Dをそれぞれ用いること以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2〜4の顔料インクをそれぞれ調製した。
【0065】
(3)評価
上記で得たインクを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJ−F930(キヤノン社製)により、画像を形成してベタ印字物を得た。このベタ印字物は、1200dpi×2400dpiで印字したときを100%とするのに対し、150%及び25%の印字を行って得られたものである。また、記録媒体としては、無機微粒子(多孔質無機顔料)として、シリカがバインダーなどとともに表層に塗布された、A4サイズの光沢紙(キヤノン社製)を使用した。評価は、以下に記述する、耐擦過性〔1〕、耐擦過性〔2〕、吐出安定性について行った。
【0066】
〈耐擦過性〔1〕〉
表面性試験機 HEIDON 14−AW(新東科学社製)を用いて、4mm直径のアクリル球で速度を4cm/sec、ベタ印字物に対する垂直荷重を1,000gになるように制御して、印字後2日後の150%のベタ印字物を擦過した。擦過した部分を目視で確認し、耐擦過性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に示した。
○:傷がほとんど見られない。
△:記録媒体の白地が多少目立つ。
×:記録媒体の白地がかなり目立つ。
【0067】
〈耐擦過性〔2〕〉
上記と同様の表面性試験機を用いて、4mm直径のアクリル球で速度を4cm/sec、ベタ印字物に対する垂直荷重を100gになるように制御して、印字後2日後の25%のベタ印字物を擦過した。擦過した部分を目視で確認し、耐擦過性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に示した。
○:ほとんど傷が見られない。
△:印字汚れが多少発生する。
×:印字汚れがかなり目立つ。
【0068】
〈吐出安定性〉
上記で得たインクについて、上記インクジェット記録装置を用いて、インク吐出周波数を5kHzとして5時間の連続吐出を行い、吐出量変化を測定した。測定した吐出量変化により吐出安定性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に示した。評価した結果は以下の基準に基づき判定した。
○:連続吐出前と、連続吐出後の吐出量変化の割合が10%未満。
×:連続吐出前と、連続吐出後の吐出量変化の割合が10%以上。
【0069】

【0070】
(1)ポリマーの合成
(ポリマーe)
ブロックセグメントA、B及びCからなる3元ブロックポリマーであるポリマーe(酸価:43mgKOH/g)を、アルミニウム触媒を用いてリビングカチオン重合により合成した。合成したポリマーeの構造は、−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph)]90−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−OCH3)]40−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOH)]20−である。
【0071】
具体的には、以下の方法でポリマーeを合成した。先ず、三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、Aブロックモノマーを5mmol(ミリモル)、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.05mmol、及びトルエン11mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え重合を開始した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合の完了を確認した。
【0072】
次いで、Bブロックのモノマーを2.2mmol添加し、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Bブロックの重合の完了を確認した後、5mmolのCブロック成分のトルエン溶液を添加して、重合を続行した。20時間後、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させたものを、セルロースの半透膜を用いてメタノール溶媒中透析を繰り返し行い、モノマー性化合物を除去し、目的物であるトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0073】
さらに、ここで得られたトリブロックポリマーをジメチルフォルムアミドと水酸化ナトリウム水混合溶液中で加水分解し、Cブロック成分が加水分解され、ナトリウム塩化されたトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。さらに水分散液中で0.1Nの塩酸で中和してC成分がフリーのカルボン酸になったトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0074】
(ポリマーf)
ブロックセグメントA、B及びCからなる3元ブロックポリマーであるポリマーf(酸価:23mgKOH/g)を、ポリマーeと同様にして、アルミニウム触媒を用いてリビングカチオン重合により合成した。合成したポリマーfの構造は、−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph)]90−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−OCH3)]40−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOH)]10−である。
【0075】
(ポリマーg)
ブロックセグメントA、B及びCからなる3元ブロックポリマーであるポリマーg(酸価:56mgKOH/g)を、ポリマーeと同様にして、アルミニウム触媒を用いてリビングカチオン重合により合成した。合成したポリマーgの構造は、以下の通りである。−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Np)]48−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−OCH3)]10−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOH)]15−である。
【0076】
(ポリマーh)
ブロックセグメントA、B及びCからなる3元ブロックポリマーであるポリマーh(酸価:21mgKOH/g)を、ポリマーeと同様にして、アルミニウム触媒を用いてリビングカチオン重合により合成した。合成したポリマーhの構造は、−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Np)]48−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−OCH3)]10−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOH)]5−である。
【0077】
(2)顔料分散体の調製
(顔料分散体E)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーeを用いること以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Eを得た。
【0078】
(顔料分散体F)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーfを用いること。さらに、カーボンブラック(三菱化学社製 #2600)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製 S160、Color Black、DBP吸油量150ml/100g)を用いる以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Fを得た。
【0079】
(顔料分散体G)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーgを用いること以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Gを調製した。
【0080】
(顔料分散体H)
前記顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーhを用いること。カーボンブラック(三菱化学社製 #2600)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製 S160、Color Black、DBP吸油量150ml/100g)を用いること以外は、顔料分散体Aと同様の方法で顔料分散体Hを調製した。
【0081】
(3)インクの調製
(実施例5)
実施例1と比較して、顔料分散体A及びBの代わりに、顔料分散体E及びFを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の顔料インクを調製した。
【0082】
(実施例6)
実施例1と比較して、顔料分散体A及びBの代わりに、顔料分散体G及びHを用いること以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の顔料インクを調製した。
【0083】
(比較例5)
比較例1と比較して、顔料分散体Aの代わりに、顔料分散液Eを用いること以外は、比較例1と同様の方法で、比較例5の顔料インクを得た。
【0084】
(比較例6〜8)
比較例1と比較して、顔料分散体Aの代わりに、顔料分散体F〜Hをそれぞれ用いること以外は、比較例1と同様の方法で、比較例6〜8の顔料インクをそれぞれ調製した。
【0085】
(3)評価
上記で得られたインクについて、前記した方法と同様の方法で、耐擦過性及び吐出安定性の評価を行った。得られ評価結果を表2に示した。
【0086】

【0087】
(1)インクの調製
(インクα)
顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーhを用いること以外は、顔料分散体Aの調製と同様の方法で顔料分散体を調製した。次に、この顔料分散体を、顔料分散体Aの代わりに用いること以外は、比較例1と同様の方法で、インクαを調製した。
【0088】
(インクβ)
顔料分散体Aの調製と比較して、ポリマーaの代わりに、ポリマーhを用いること。さらに、カーボンブラック(三菱化学社製 ♯2600)の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製 S160 Color Black)を用いること以外は、顔料分散体Aの調製と同様の方法で顔料分散体を調製した。次に、この顔料分散体を用いること以外は、比較例1と同様の方法で、インクβを調製した。
【0089】
(2)評価
(実施例7)
上記で得たインクα、βを用いて、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJ−F930(キヤノン社製)により、画像を形成してベタ印字物を得た。ベタ印字物は、1200dpi×2400dpiで印字したときを100%とするのに対し、150%の印字を8passで行ったものである。このうち、最初の4passではインクαを用いて印字を行い、残りの4passではインクβを用いて印字を行った。また、記録媒体としては、無機微粒子(多孔質無機顔料)としてシリカがバインダーとともに表層に塗布された、A4サイズの光沢紙(キヤノン社製)を使用した。評価は、以下に記述する、耐擦過性について行った。
【0090】
〈耐擦過性〉
表面性試験機 HEIDON 14−AW(新東科学社製)を用いて、4mm直径のアクリル球で速度を4cm/sec、ベタ印字物に対する垂直荷重を1000gになるように制御して、印字後2日後の150%のベタ印字物を擦過した。擦過した部分を目視で確認し、耐擦過性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。
○:傷がほとんど見られない。
△:記録媒体の白地が多少目立つ。
×:記録媒体の白地がかなり目立つ。
【0091】
[比較例9]
実施例7と比較して、最初の4passでインクαを印字して、残り4passでもインクαを印字する以外は、実施例7と同様の方法で、ベタ印字物の作製、及び評価を行った。
【0092】
[比較例10]
実施例7と比較して、最初の4passでインクβを印字して、残り4passでインクαを印字する以外は、実施例7と同様の方法で、ベタ印字物の作製、及び評価を行った。
【0093】
[比較例11]
実施例7と比較して、最初の4passでインクβを印字して、残り4passでインクβを印字する以外は、実施例7と同様の方法で、ベタ印字物の作製、及び評価を行った。
【0094】
実施例7、比較例9〜11の結果を表3に示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の水不溶性色材と、該第1の水不溶性色材のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の水不溶性色材とによって記録媒体上に形成されたインク層を有する印字記録物であって、該インク層は、その厚み方向に向かって第1の水不溶性色材と第2の水不溶性色材との存在比率が異なり、少なくとも記録媒体の近傍においては、前記第2の水不溶性色材の存在比率が前記第1の水不溶性色材の存在比率よりも高く、かつ、前記インク層の最表面においては、前記第1の水不溶性色材の存在比率が前記第2の水不溶性色材の存在比率よりも高いことを特徴とする印字記録物。
【請求項2】
前記記録媒体表面に接している水不溶性色材は、前記第1の水不溶性色材の量よりも前記第2の水不溶性色材の量の方が多い請求項1に記載の印字記録物。
【請求項3】
前記記録媒体が、多孔質無機顔料及びバインダーを含有するインク受容層を有する請求項1又は2に記載の印字記録物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印字記録物を形成するための印字記録方法であって、第1の水不溶性色材がポリマーによって溶媒に分散されてなる第1のインクと、前記第1の水不溶性色材のDBP吸油量よりもDBP吸油量が低い第2の水不溶性色材が、ポリマーによって溶媒に分散されてなる第2のインクとが少なくとも組み合わされてなるインクセットを用いて、マルチパス印字を行うインクジェット記録方法で、最初のパスでは少なくとも前記第2のインクを印字し、最後のパスでは少なくとも前記第1のインクを印字することを特徴とする印字記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−173303(P2010−173303A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21649(P2009−21649)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】