説明

卵巣癌のバイオマーカー

本発明は、患者における卵巣癌の状態を判定するために有用なタンパク質系のバイオマーカー及びバイオマーカーの組合わせを提供する。特に、表1に示されているバイオマーカーが卵巣癌のバイオマーカーであることを見出した。バイオマーカーはSELDI質量分析によって検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年3月27日出願の米国仮特許出願第60/920,274号及び2008年3月6日出願の米国仮特許出願第61/034,469号の優先権を主張する。上記各出願の全内容を参照として本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、概ね臨床診断に関する。
【背景技術】
【0003】
卵巣癌は、先進国において最も致死的な婦人科の悪性腫瘍である。米国だけで毎年、23,000人の女性がこの疾患であると診断され、そして14,000人近い女性がこれが原因で死亡している(Jamal, A., et al., CA Cancer J. Clin, 2002; 62:23-47)。癌治療の進展にもかかわらず、卵巣癌の死亡率は過去20年間にわたって殆ど変化していない(同上)。この疾患と診断された段階に比べて生存率が急激に下がる傾向を考慮すると、早期発見が、卵巣癌患者の長期生存率を向上させる最も重要な因子である。
【0004】
末期に診断された卵巣癌の予後不良、確認診断方法に付随するコスト及びリスク、及び一般集団における比較的低い有病率が一緒になって、一般集団における卵巣癌のスクリーニングに用いるための試験の精度及び特異性に対して非常に厳しい要求をもたらしている。
【0005】
癌の早期発見及び診断に適している腫瘍マーカーの同定が、患者の臨床転帰を改善するために大いに期待される。これは症状を殆ど又は全く示さないか、又は検診で比較的アクセスしづらい腫瘍がある患者にとって特に重要である。早期発見に向けた相当な努力にもかかわらず、コスト効率的なスクリーニング試験は開発されておらず(Paley PJ., Curr Opin Oncol, 2001;13(5):399-402)、そして女性は一般に診断時に播種性疾患を示す。(Ozols RF, et al., Epithelial ovarian cancer. In: Hoskins WJ, Perez CA, Young RC, editors. Principles and Practice of Gynecologic Oncology. 3rd ed. Philadelphia: Lippincott, Williams and Wilkins; 2000. p. 981-1057)。
【0006】
最も良く特徴付けされている腫瘍マーカーである、CA125はステージ1の卵巣癌の約30〜40%で陰性であり、そしてその濃度は各種良性疾患において上昇する。(Mayer T, et al., Br J Cancer, 2000;82(9):1535-8; Buamah P., J Surg Oncol, 2000;75(4):264-5; Tuxen MK, et al., Cancer Treat Rev, 1955;21(3):215-45)。卵巣癌の早期発見及び診断のための集団ベースのスクリーニング手段としてのその使用は、その低い精度及び特異性によって妨げられている。(MacDonald ND, et al., Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 1999;82(2):155-7; Jacobs I, et al., Hum Reprod, 1989;4(1):1-12; Shih I-M, et al., Tumor markers in ovarian cancer. In: Diamandis EP, Fritsche, H., Lilja, H., Chan, D.W., and Schwartz, M., editor. Tumor markers physiology, pathobiology, technology and clinical applications. Philadelphia: AACC)。骨盤の、そしてごく最近には、膣の超音波検査が、ハイリスクの患者をスクリーニングするために用いられているが、どの技術も一般集団に適用するために十分な精度及び特異性を有していない(MacDonald ND, et al., supra)。CA125を更なる腫瘍マーカーと組み合わせて(Woolas RP XF, et al., J Natl Cancer Inst, 1993;85(21):1748-51; Woolas RP et al., Gynecol Oncol, 1995;59(1):111-6; Zhang Z, et al., Gynecol Oncol, 1999;73(1):56-61; Zhang Z, et al., Use of Multiple Markers to Detect Stage
I Epithelial Ovarian Cancers: Neutral Network Analysis Improves Performance. American Society of Clinical Oncology 2001; Annual Meeting abstract)癌モデルの長期にわたるリスク(Skates SJ, et al., Cancer, 1995;76(10 Suppl):2004-10)で、及び第2次試験としての超音波試験と平行して(Jacobs IDA, et al., Br Med J, 1993;306(6884):1030-34; Menon U TA, et al., British Jounal of Obstetrics and Gynecology, 2000;107(2):165-69)用いる最近の取り組みが、比較的有病率が低い卵巣癌のような疾患に対して重要な、全般的な試験特異性の改善について期待できる結果を示している。Menon et al., J. Clin. Oncology(2005) 23(31):7919-26 も参照されたい。
【0007】
後期ステージ卵巣癌の悲惨な予後に起因して、10%の最小陽性予測値を有する試験を医師は受入れるだろうと言うことが全体的な合意である。(Bast, R.C., et al., Cancer Treatment and Research, 2002;107:61-97)。これを一般集団に拡張すると、一般スクリーニングは70%の精度及び99.6%以上の特異性を必要とするだろう。最近、CA125、CA72−4、又はM−CSFのような既存の血清学的マーカーは、個々にはそのような成績をもたらさない(Bast, R.C., et al., Int J Biol Markers, 1998;13:179-87)。
【0008】
従って、単独で又は他のマーカー若しくは診断方法と組み合わせて、卵巣癌の早期発見に対して所要の精度及び特異性をもたらす新規な血清学的マーカーが大いに望まれている。(Bast RC, et al., Early detection of ovarian cancer: promise and reality. Ovarian Cancer: ISIS Medical Media Ltd., Oxford, UK)。
【0009】
卵巣癌の低い罹患率を考慮すると、適切な陽性予測性症状がない女性を対象とするスクリーニング試験は依然として分かりにくい。しかしながら、一般的なスクリーニング試験が無い場合でも、卵巣癌の患者の長期生存率を改善する一つの因子が、婦人科腫瘍専門医にとって適切なトリアージ(重症度判定検査)であることが明らかにされている(Craig, CC et al, Effect of surgeon specialty on processes of care and outcomes of ovarian cancer patients, J Natl Canc Inst, 2006;98:172-80)。これは、骨盤内腫瘤を示唆する症状で医師のもとを訪れる女性に特にあてはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、患者における卵巣癌状態を測定し、その結果を患者の治療を管理するために用いることができる、信頼性があり正確な方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
表1で特定されているバイオマーカーが卵巣癌のバイオマーカーであることを明らかにした。言い換えれば、表1で特定されているバイオマーカーの増大した又は減少した濃度(表1を参照されたい)が卵巣癌と相関している。
【0012】
ある特定の態様では、識別する疾患の状態は、卵巣癌対良性の卵巣疾患、卵巣対その他の悪性腫瘍(例えば、乳癌又は結腸癌)、ステージ1の卵巣癌対非卵巣癌、卵巣癌の再発対非卵巣癌、及び早期対末期の卵巣癌である。確認された状態に基づいて、追加の診断試験又は治療手段又は計画を含む、更なる処置を示すことができる。
【0013】
また、表1で特定されている1つ又はそれ以上のバイマーカーを他のバイオマーカーの濃度と組み合わせて用いると、診断試験の予測力を改善することができる。更に具体的にいうと、本発明のバイオマーカーの増大した濃度及び別の公知の腫瘍マーカーの異常な濃度を本発明の診断試験に用いることができる。
【0014】
一態様では、本発明は、対象から得た生体試料中の1つ又はそれ以上のバイオマーカー(ここで少なくとも一つのバイオマーカーは表1に挙げたバイオマーカーから選択される)を測定して、測定値(複数を含む)を卵巣癌及び非卵巣癌から選ばれた卵巣癌状態との相互関係を比較することを含む、対象における卵巣癌状態を判定する方法を提供する。このような方法の一態様では、表1中の複数のバイオマーカーを測定する。このような方法の更なる態様では、生体試料中の複数のバイオマーカーを測定する。ここにおいて、測定されるバイオマーカーは表1に特定されている1つ又それ以上のバイオマーカーに加えて、少なくとも2つの公知のバイオマーカーを含有している。
【0015】
別の態様では、1つ又はそれ以上のバイオマーカーを質量分析で測定する。質量分析はSELDI−MSが適している。更なる態様では、1つ又はそれ以上のバイオマーカーを免疫学的測定法で測定する。
【0016】
多種の生体試料を本発明の方法に用いることができる。例えば、生体試料は血液又は血液誘導体を含み、又は生体試料は卵巣嚢胞液、腹水、又は尿を含む。好ましい態様では、生体試料が尿である。
【0017】
本発明の一態様では、非卵巣癌は良性卵巣疾患である。別の態様では、非卵巣癌は、良性卵巣嚢胞、子宮内膜症、子宮線維腫、乳癌及び子宮頸癌のような婦人科疾患である。更なる態様では、卵巣癌はステージI又はIIの卵巣癌である。ある特定の態様では、対象は卵巣癌を治療されており、その卵巣癌は癌の再発である。
【0018】
本発明の方法は更に、対象に状態を報告すること、状態を有形の媒体上に記録すること、及び/又は状態に基づいて患者の治療を管理することを含んでいてもよい。1つ又はそれ以上のバイオマーカーは、患者の管理及び疾患の進行に関連付けた測定の後のものであってよい。
【0019】
好ましい態様では、(a)最初に、対象の生体試料中の1つ又はそれ以上のバイオマーカー(少なくとも1つのバイオマーカーは表1に挙げられているバイマーカーセットから選ばれる)を測定すること;(b)第2回目に、対象の生体試料中の同じバイオマーカー(少なくとも一つは表1に挙げられているバイオマーカよりなる群から選ばれる)を測定すること;及び(c)第1回目の測定値と第2回目の測定値を比較して、この比較した測定値で卵巣癌の進行を確認することを含む、卵巣癌の進行を確認する方法を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、(a)少なくとも1つの捕捉試薬(ここで、この捕捉試薬は表1に挙げられているバイオマーカーよりなる群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカーに結合する)を含む固体支持体;及び(b)1つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出するための固体支持体の使用についての使用説明書を含んでいるキットを提供する。固体支持体は、例えばSELDIプローブを含んでいてもよい。キットは、表1に挙げられているバイオマーカーよりなる群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカーの標準的基準を随意に含んでいてもよい。
【0021】
更なる態様では、本発明は、(a)少なくとも1つの捕捉試薬(ここで、この捕捉試薬(複数を含む)は表1に挙げられているバイオマーカーよりなる群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカー、及び少なくとも1つの公知のバイオマーカー、例えばApo A1、トランスフェリン、CTAPIII及びITIH4断片に結合する)をそこに付着している少なくとも1つの固体支持体;及び(b)表1に挙げられているバイオマーカーよりなる群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカー及び少なくとも1つの公知のバイオマーカーを検出するための固体支持体(複数を含む)の使用についての使用説明書を含む、キットを提供する。固体支持体は例えばSELDIプローブを含んでいてもよい。
【0022】
本発明は更に、(a)試料に起因するデータにアクセスするコード(データは試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの測定値を含み、少なくとも1つのバイオマーカーは表1に挙げられているバイオマーカーよりなる群から選ばれる);及び(b)サンプルの卵巣癌状態を測定値の機能として分類する分類アルゴリズムを実行するコードを含む、ソフトウェア製品を包含している。
【0023】
本発明は、対象のサンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(少なくとも1つのバイオマーカーは表1に挙げられているバイオマーカーよりなる群から選ばれる)の相互関係から確認された卵巣癌状態に関する診断を対象に伝達することを含む、方法も提供する。診断は、例えばコンピュータを利用した媒体を介して対象に適切に伝達できる。
【0024】
本発明は更に、表1に挙げられている1つ又はそれ以上のバイオマーカーと相互作用する化合物を同定する方法を提供し、当該方法は、a)表1に挙げられている1つ又はそれ以上のバイオマーカーを試験化合物と接触させること;及びb)試験化合物が表1に挙げられている選択した1つ又はそれ以上のバイオマーカーと相互作用するか否かを確認すること:を含んでいる。
【0025】
本発明のその他の態様を以下に検討する。
【0026】
(発明の詳細な説明)
1.序論
バイオマーカーは、ある表現型状態(例えば、疾患を有している)の対象から採取した試料中に、別の表現型状態(例えば、疾患を有していない)と比べると、特異的に存在している有機生体分子である。異なった群においてバイオマーカーの平均又は中間発現レベルが統計的に有意であると算出されたなら、異なった表現型状態の間でバイオマーカーが特異的に存在する。統計的な有意性の一般的なテストは、とりわけ、t−検定、ANOVA、Kruskal-Wallis、Wilcoxon、Mann-Whitney 及びオッズ比を包含する。バイオマーカーは、単独で又は組み合わせて、対象がある表現型状態又は別の状態に属しているという相対的なリスクの程度を提供する。このように、これらは疾患(診断)、薬剤(セラノスティック)及び薬物毒性の治療効果のためのマーカーとして有用である。
【0027】
本発明のバイマーカーはSELDIを用いて見出された。従って、これらは、その質量対電荷比、マススペクトルにおけるピークの形状、及びそれらの結合特性によって、ある程度、特性化される。これらの特性は生体分子の固有の特性を示して、生体分子を選別する方法において加工限界を示さない。
【0028】
本発明のバイオマーカーは質量対電荷比によってある程度特性化される。それぞれのバイオマーカーの質量対電荷比は本明細書に提供されている。例えば、「M2789」と指名されている特定の分子マーカーは、2789Dの測定された質量対電荷比を有している。質量対電荷比は、Chiphergen Biosystems, Inc. PBS II マススペクトルメータ又は Chiphergen PCS 4000 マススペクトルメータ上で生じたマススペクトルから測定した。 PBS II は約+/−0.15パーセントの質量精度を有する器械である。また、この器械は約400〜1000m/dmの質量分解能を有している(ここで、mは質量であり、そしてdmは0.5ピーク高におけるマススペクトルのピーク幅である)。PCS 4000 機器は0.1%の期待外部修正質量精度及び0.01%の内部修正質量精度で、生データの約+/−0.12パーセントの質量精度を有する。また、この器械は約1000〜2000m/dmの質量分解能を有している(ここで、mは質量であり、そしてdmは0.5ピーク高におけるマススペクトルのピーク幅である)。バイオマーカーの質量対電荷比は Biomarker Wizard (登録商標)ソフトウェア(Ciphergen Biosystems, Inc.)を用いて測定した。Biomarker Wizard は、PBS II 又は PCS 4000 で確認したような、分析した全てのスペクトルから同じピークの質量対電荷比を集めて、その集団中の最大及び最小質量対電荷比を取り出して、これを2で割ることによって、バイオマーカーに質量対電荷比を割り当てる。従って、提供される質量はこれらの仕様を反映したものである。
【0029】
本発明のバイオマーカーは更に、飛行時間型質量分析におけるそれらのスペクトルのピークの形状によって特性化される。
【0030】
2.卵巣癌のバイオマーカー
こうして見出された特異的なバイオマーカーを表1に示す。「Protein Chip assay」欄はバイオマーカーを見出したクロマトグラフィーの分画を示し、バイオマーカーが結合するバイオチップのタイプ及び洗浄の条件は、実施例の通りである。それぞれの場合に、それぞれのバイオマーカーを別の様々な ProteinChip assay を用いて見出すことができる。
【0031】
【表1−1】

【0032】
【表1−2】

【0033】
ヘプシジン(Hepcidin)
ヘプシジンは最初、ヒトの血清及び尿中で、抗微生物活性を示す25のアミノ酸ペプチド(ヘプシジン−25)として同定された。全長ヘプシジン前駆体は、シグナル配列及びプロ領域を含む84のアミノ酸タンパク質である(SwissProt Accession No. P81172)(Kulaksiz, H. et al. (2004) Gut 53:735-743 を参照されたい)。本発明のヘプシジンバイオマーカーは、全長ヘプシジンタンパク質のC−末端由来である。
ヘプシジン25 分子量2789.41 (配列番号:1)
DTHFPICIFCCGCCHRSKCGMCCKT
ヘプシジン22 分子量2436.07 (配列番号:2)
FPICIFCCGCCHRSKCGMCCKT
【0034】
ユビキチン(UBIQUITIN)
ユビキチンは76のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # P62988)。本発明のユビキチンバイオマーカーのユビキチンは、全長ユビキチン、更にユビキチンのC−末端切断型よりなっている。
(A)全長ユビキチン(配列番号:3)、分子量8564.84ダルトン
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIFAGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLHLVLRLRGG
(B)切断型ユビキチン1(配列番号:4)、分子量8294.55ダルトン
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIFAGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLHLVLRL
(C)切断型ユビキチン2(配列番号:5)、分子量8181.39ダルトン
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIFAGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLHLVLR
【0035】
ベータデフェンシン1(BETA DEFENSIN 1)
ベータデフェンシン1は、ヒトにおける抗菌性液性応答反応の一部として機能する、68のアミノ酸ポリペプチド分泌型タンパク質である(SwissProt # P60022)。本発明のベータデフェンシン1バイオマーカーは、3つのジスルフィド結合を含んでいる全長ポリペプチドのC−末端断片である。
分子量4750.50ダルトン(配列番号:6)
LTGLGHRSDHYNCVSSGGQCLYSACPIFTKIQGTCYRGKAKCCK
【0036】
ニュートロフィルデフェンシン(NEUTROPHIL DEFENSIN)
ニュートロフィルデフェンシンは、ヒトにおける走化性及び免疫応答に関連する94のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # P59665)。本発明のニュートロフィルデフェンシンバイオマーカーはそれぞれ3つのジスルフィド結合を含んでいる全長ポリペプチドのC−末端断片である。
ニュートロフィルデフェンシン2 分子量3371.01(配列番号:7)
CYCRIPACIAGERRYGTCIYQGRLWAFCC
ニュートロフィルデフェンシン1 分子量3442.09(配列番号:8)
ACYCRIPACIAGERRYGTCIYQGRLWAFCC
【0037】
sMAP
小MBL−関連タンパク質(small MBL-Associated protein: sMAP)は185のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # O00187-2)。本発明のsMAPバイオマーカーは全長ポリペプチドのC−末端断片であって、分子量が5499.04で、3つのジスルフィド結合を含み、Asn22は3−ヒドロキシアスパラギンである。
分子量5499.04ダルトン(配列番号:9)
EDIDECQVAPGEAPTCDHHCHNHLGGFYCSCRAGYVLHRNKRTCSEQSL
【0038】
PSTI
膵臓分泌型トリプシンインヒビター(pancreatic secretory trypsin inhibitor: PSTI)は79のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # P00995)。本発明のPSTIバイオマーカーは6241.04の分子量を有する全長ポリペプチドのC−末端断片であって、3つのジスルフィド結合を含んでいる。
分子量6241.04(配列番号:10)
DSLGREAKCYNELNGCTKIYDPVCGTDGNTYPNECVLCFENRKRQTSILIQKSGPC
【0039】
抗悪性腫瘍性尿タンパク質(ANTI-NEOPLASTIC URINARY PROTEIN)
抗悪性腫瘍性尿タンパク質は103のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # P55000)。本発明の抗悪性腫瘍性尿タンパク質バイオマーカーは8843.16の分子量を有する全長ポリペプチドのC−末端断片で、5つのジスルフィド結合を含んでいる。
分子量8843.16(配列番号:11)
LKCYTCKEPMTSASCRTITRCKPEDTACMTTLVTVEAEYPFNQSPVVTRSCSSSCVATDPDSIGAAHLIFCCFRDLCNSEL
【0040】
トレフォイル因子2(TREFOIL FACTOR 2)
トレフォイル因子2は129のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # Q03403)。本発明のトレフォイル因子2バイオマーカーは11975.48の分子量を有する全長ポリペプチドのC−末端断片で、7つのジスルフィド結合を含んでいる。
分子量11975.48(配列番号:12)
EKPSPCQCSRLSPHNRTNCGFPGITSDQCFDNGCCFDSSVTGGPWCFHPLPKQESDQCVMEVSDRRNCGYPGISPEECASRKCCFSNFIFEVPWCFFPKSVEDCHY
【0041】
サポシンB(SAPOSIN B)
サポシンBは、524のアミノ酸ポリペプチドサポシンの79のアミノ酸断片である(SwissProt # P07602)。サポシンBのポリペプチド配列は配列表:13に記載されている。本発明のサポシンBバイオマーカーは、3つのジスルフィド結合を有するペプチドのAsn21グリコシル化形態である。2つのバイオマーカーは9072.44の分子量を有するAsn21(HexNAc)及び9746.07の分子量を有するAsn21(HexHexNacデオキシヘキソース)である。
(配列番号:13)
GDVCQDCIQMVTDIQTAVRTNSTFVQALVEHVKEECDRLGPGMADICKNYISQYSEIAIQMMMHMQPKEICALVGFCDE
【0042】
LTBP−2
潜在型トランスフォーミング成長因子β−結合タンパク質2(latent-transforming growth factor beta-binding protein 2: LTBP-2)は1821のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # 14767)。本発明のLTBP−2バイオマーカーは全長LTBP−2のC−末端断片であり、配列番号:14及び15に記載されている。配列番号:14の分子量には6つのジスルフィド結合を含んでいる。
配列番号:14 分子量10028.11
FEGLQAEECGILNGCENGRCVRVREGYTCDCFEGFQLDAAHMACVDVNECDDLNGPAVLCVHGYCENTEGSYRCHCSPGYVAEAGPPHCTAKE
配列番号:15 分子量9872.8
LQAEECGILNGCENGGCVRVREGYTCDCFEGFQLDAAHMACVDVNECDDLNGPAVLCVHGYCENTEGSYRCHCSPGYVAEAGPPHCTAKE
【0043】
小MBL−関連タンパク質
小MBL−関連タンパク質は185のアミノ酸ポリペプチドである(SwissProt # O00187-2)。本発明のsMAPバイオマーカーは全長ポリペプチドのC−末端断片であって、分子量が5499.04で、3つのジスルフィド結合を含み、Asn22は3−ヒドロキシアスパラギンである。
配列番号:16 分子量5495.27
EDIDECQVAPGEAPTCDHHCHNHLGGFYCSCRAGYVLHRNKRTCSEQSL
【0044】
アルブミン
アルブミンは609の残基ポリペプチドである(SwissProt # P02768)。本発明のアルブミンマーカーはジスルフィド結合で連結している2つのアルブミン断片を含んでいる。このバイオマーカーは配列番号:18に記載されているペプチドとジスルフィド結合している配列番号:17に記載のペプチドを含んでいる。配列番号:18のペプチドは更に、分子内ジスルフィド結合を含んでいる。バイオマーカーの分子量は4355.82ダルトンである。
配列番号:17
DKLC
配列番号:18
ETYGEMADCCAKQEPERNECFLQHKDDNPNLPR
【0045】
フィブリノーゲンベータ(FIBRINOGEN BETA)
フィブリノーゲンベータ(SwissProt # P02675)のN−末端断片は、ピロリドンカルボン酸に改変されているN−末端Glnを有している。
QGVNDNEEGFFSARGHRPLDKKREEAPSLRPAPPPISGGGY
分子量4417.85
【0046】
ベータ−2−ミクログロブリン(Beta-2-microglobulin)
ベータ−2−ミクログロブリン(SwissProt # P61769)は、1つのジスルフィド結合を有する全長タンパク質である。
分子量11729.17ダルトン
IQRTPKIQVYSRHPAENGKSNFLNCYVSGFHPSDIEVDLLKNGERIEKVEHSDLSFSKDWSFYLLYYTEFTPTEKDEYACRVNHVTLSQPKIVKWDRDM
【0047】
表1中に同定されているバイオマーカーを検出するための好ましい生体起源は尿である。これらのバイオマーカーは、腹水及び嚢胞液、血清、組織及び肝臓のような臓器、並びにマクロファージのような特定の細胞において検出されてもよい。
【0048】
3.バイオマーカー及びタンパク質の異なった形態
タンパク質はしばしば、試料中に複数の異なった形態で存在する。これらの形態は、翻訳前修飾又は翻訳後修飾の何れか又は両方に由来している。翻訳前修飾形態は、対立遺伝子多型、スプライス変異及びRNA編集形態を包含する。翻訳後修飾形態は、タンパク質分解的切断(例えば、親タンパク質の断片)、グリコシル化、リン酸化、脂質化、酸化、メチル化、システイン化、スルホン化及びアセチル化に起因する形態を包含する。試料中のタンパク質を検出若しくは測定するときの、タンパク質の異なった形態を区別する能力は、差異の本質及び検出又は測定するために用いた方法による。例えば、モノクローナル抗体を用いる免疫測定は、抗原決定基を含む全ての形態を検出して、それらを区別しない。しかしながら、タンパク質上の異なった抗原決定基に対する2つの抗体を用いるサンドイッチ免疫測定は、両方の抗原決定基を含むタンパク質の全ての形態を検出するが、抗原決定基のうちの片方だけを含んでいるような形態は検出しない。診断試験においては、用いられる特定の方法によって検出される形態が、どの特定の形態も同様に優れたバイオマーカーであるときは、タンパク質の異なった形態を区別できないということは殆ど影響しない。しかしながら、タンパク質の特定の形態(又は特定形態のサブセット)が、特定な方法で一緒に検出される異なった形態群より優れたバイオマーカーである場合は、試験の能力が害を及ぼすことがある。この場合、タンパク質の形態を区別し、望ましいタンパク質の形態(複数を含む)を特異的に検出及び測定する試験方法を用いるのが好都合である。検体の異なった形態を区別すること、又は検体の特定の形態を検出することを、検体を「分割すること(resolving)」と言う。
【0049】
異なった形態は、質量分析で分割できる異なった質量を特異的に有しているので、質量分析はタンパク質の異なった形態を分割するためのとりわけ強力な方法である。従って、タンパク質のある形態が疾患に対してバイマーカーの他の形態より優れたバイオマーカーであるならば、従来の免疫測定法が形態を区別できずそして有用なバイオマーカーを特異的に検出できない場合に、質量分析は有用な形態を特異的に検出して測定することができる。
【0050】
1つの有用な方法は、質量分析を免疫測定法と組合わせることである。最初に、生体特異性捕捉試薬(例えば、バイマーカー及びその別の形態を認識する抗体、アプタマー、又はアフィボディ(Affibody))を目的のバイオマーカーを捕捉するために用いる。生体特異性捕捉試薬が、ビーズ、プレート、膜又はチップのような固相に結合していることが好ましい。結合しない物質を洗流した後、捕捉した検体を質量分析で検出及び/又は測定する。(この方法は、タンパク質に結合しているか、或いは抗体によって認識されて、それ自体がバイオマーカーであり得る、蛋白質相互作用剤の捕捉ももたらす。)質量分析方法の各種形態がタンパク質形態を検出するために有用であり、これは従来のMALDI又はSELDIのようなレーザー離脱方法、及びエレクトロスプレーイオン化を包含する。
【0051】
従って、特定のタンパク質を検出すること又は特定のタンパク質の量を測定することに関して本明細書で述べるときは、タンパク質の各種形態を分割して又は分割しないでタンパク質を検出及び測定することを意味している。例えば、「表1で同定された1つ又はそれ以上のバイオマーカーの濃度を測定すること」の工程は、タンパク質の多種の形態を区別しない方法(例えば、ある特定の免疫分析法)によって、更に他の形態からある形態を区別するか又はタンパク質の特定の形態(例えば、ヘプシジン−25及びヘプシジン−22を、個々に又は一緒に)を測定する方法によって1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定することを包含している。一方、タンパク質の特定の形態(複数を含む)、例えば、ヘプシジンの特定の形態を測定することが望ましい場合は、特定の形態(又は複数の形態)を明記する。例えば、「ヘプシジン−25を測定すること」はヘプシジン−25をヘプシジンの他の形態、例えばヘプシジン−22と区別する方法で測定することを意味している。
【0052】
4.卵巣癌のバイオマーカーの検出
本発明のバイオマーカーは何れかの適切な方法で検出できる。検出のパラダイムは、光学的方法、電気化学的方法(電圧測定及び電流測定技術)、原子間力顕微鏡法、高周波法、例えば、多重共鳴分光法(multipolar resonance spectroscopy)を包含する。共焦点及び非共焦点の両方の顕微鏡法に加えて、光学的方法の例は、蛍光、ルミネセンス、ケミルミネセンス、吸光度、反射率、透過率、及び複屈折又は屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー法、格子結合導波法又は干渉分光法)の検出である。
【0053】
一態様では、試料をバイオチップ法によって分析する。バイオチップは一般に、実質的に平面である表面を有する固体基質を含み、そこに捕捉試薬(吸着又は親和性試薬とも呼ぶ)が付着している。しばしば、バイオチップの表面は、それぞれが捕捉試薬をそこに結合して有している、複数のアドレス可能な場所を含んでいる
【0054】
タンパク質バイオチップは、ポリペプチドの捕捉に適合したバイオチップである。多数のタンパク質バイオチップが当該技術分野で記述されている。これらは、例えば、Ciphergen Biosystems, Inc. (Fremont, CA)、Zyomyx (Hayward, CA)、Invitrogen (Carlsbad, CA)、Biacore (Uppsala, Sweden)及びProcognia (Berkshire, UK)によって製造されているタンパク質バイオチップを包含する。このようなタンパク質バイオチップの例は以下の特許又は公開特許出願の中に記載されている。米国特許第6,225,047号(Hutchens & Yip)、米国特許第6,537,749号(Kuimelis and Wagner)、米国特許第6,329,209号(Wagner et al.)、PCT国際公開第WO00/56934号(Englert et al.)、PCT国際公開第WO03/048768号(Boutell et al.)及び米国特許第5,242,828号(Bergstrom et al.)。
【0055】
4.1.質量分析による検出
好ましい態様では、本発明のバイオマーカーは、気相イオンを検出する質量分析計を用いる方法である、質量分析で検出される。質量分析計の例は、飛行時間型、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン共鳴型、静電偏向型分析器及びこれらの複合型である。
【0056】
さらに好ましい方法では、質量分析計はレーザー脱離質量分析計である。レーザー脱離質量分析では、検体を、質量分析計のプローブ接合面に係合するようなっているデバイスであって、検体をイオン化するためのイオンエネルギーをもたらして質量分析計に導入する、質量分析プローブの表面上に載せる。レーザー脱離質量分析計は、表面から検体を脱着して、それらを揮発及びイオン化して、これらを質量分析計のイオンオプティクスとして利用できるように、レーザーエネルギー、特に紫外線レーザーからのエネルギーを用いるが、赤外線レーザーも用いる。LDIによるタンパク質の分析は、MALDI又はSELDIの形態を取ることができる。
【0057】
4.1.1.SELDI
本発明で用いる好ましい質量分析技術は、例えば、米国特許第5,719,060号及び同第6,225,047号(両者とも、Hutchens and Yip)に記載されているような、「表面増強レーザー脱離及びイオン化(Surface Enhanced Desorption and Inaization)」又は「SELDI」である。これを脱離/イオン化気相イオン分析(例えば、質量分析)と呼び、これは検体(ここでは、1つ又はそれ以上のバイマーカー)をSELDI質量分析プローブの表面上に捕捉する。
【0058】
SELDIと呼ばれているものは、「親和性捕捉質量分析(affinty capture mass spectrometry)」又は「表面増強親和性捕捉(Surface-Enhanced Affinity Capture:”SEAC”」とも呼ばれる。この種は、物質と検体の間の非共有親和性相互作用(吸着)を介して検体を捕捉する物質をプローブの表面に有しているプローブの使用を含んでいる。この物質を、「吸着剤」、「捕捉試薬」、「親和性試薬」又は「結合部分」とさまざまに呼ばれている。このようなプローブを、「親和性捕捉プローブ」と及び「吸着表面」を有していると言うことができる。捕捉試薬は検体を結合することができる何れの物質であってもよい。捕捉試薬は物理吸着又は化学吸着によってプローブ表面に付着している。ある特定の態様では、プローブは既に表面に付着している捕獲試薬を有している。別の態様では、プローブは前活性化されていて、例えば共有結合又は配位共有結合を形成する反応を介して、捕捉試薬を結合できる反応性部分を含んでいる。エポキシド及びアシル−イミダゾールは、抗体又は細胞受容体のようなポリペプチド捕捉試薬に共有結合する有用な反応性部分である。ニトリロ三酢酸及びイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有ペプチドと非共有的に相互作用するメタルイオンと結合するキレート試薬として機能する有用な反応性部分である。吸着剤は一般に、クロマトグラフィー吸着剤及び生体特異性吸着剤として分類される。
【0059】
「クロマトグラフィー吸着剤」は、特にクロマトグラフィーで用いられる吸着物質と言える。クロマトグラフィー吸着剤は、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えば、ニトリロ三酢酸又はイミノ二酢酸)、固定化金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、染料、単純な生体分子(例えば、ヌクレチド、アミノ酸、単糖及び脂肪酸)及び混合状態の吸着剤(例えば、疎水性引力/静電反発力吸着剤)を包含する。
【0060】
「生体特異性吸着剤」は、生体分子、例えば、核酸分子(例えば、アプタマー)、ポリペプチド、ポリサッカライド、脂質、ステロイド又はこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えば、DNA−タンパク質複合体)を含む吸着剤を言う。ある特定の例では、生体特異性吸着剤は、多タンパク質複合体、生体膜又はウィルスのような巨大分子構造であってもよい。生体特異性吸着剤の例は、抗体、受容体タンパク質及び核酸である。生体特異性吸着剤は一般に、目標の検体に対してクロマトグラフィー吸着剤より高い親和性を有している。SELDIに用いるための吸着剤の更なる例は、米国特許第6,225,047号で見出すことができる。「生体選択的吸着剤」は、少なくとも10−8Mの親和性で検体と結合する吸着剤を言う。
【0061】
Ciphergen Biosystems, Inc. で製造されているタンパク質バイオチップはそのアドレス可能な場所に付着しているクロマトグラフィ又は生体特異性吸着剤を有する表面を含んでいる。Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイは、NP20(親水性);H4及びH50(疎水性);SAX−2及びQ−10(陰イオン交換);WCX−2及びCM−10(陽イオン交換);IMAC−3、IMAC−30及びIMAC−50(金属キレート);及びPS−10、PS−20(アシル−イミジゾール、エポキシドと反応性の表面)及びPG−20(アシル−イミジゾールを介してタンパク質Gに結合)を包含している。疎水性の ProteinChip アレイは、イソプロピル又はノニルフェノキシ−ポリ(エチレングリコル)メタクリル酸官能性を有している。陰イオン交換 ProteinChip アレイは、4級アンモニウム官能性を有している。陽イオン交換 ProteinChip アレイは、カルボン酸官能性を有している。固定化金属キレート ProteinChip アレイは、キレート化により、銅、ニッケル、亜鉛、及びガリウムのような、遷移金属を吸着する、ニトリロ三酢酸官能性(IMAC3及びIMAC30)又はメタクリロイル−N,N−ビス−カルボキシメチルチロシン官能性を有している。前活性化 ProteinChip アレイは、タンパク質上の基と共有結合するために反応できる、アシル−イミジゾール又はエポキシド官能基を有している。
【0062】
このようなバイオチップは更に、米国特許第6,579,719号(Hutchens and Yip, "Retentate Chromatography"、2003年6月17日)、米国特許第6,897,072号(Rich et al., "Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer"、2005年5月24日)、米国特許第6,555,813号(Beecher et al., "Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectometer"、2003年4月29日)、米国特許出願公開第2003−0032043A1(Pohl and Papanu, "Latex Based Adsorbent Chip"、2002年7月16日)及びPCT国際公開第WO03/040700号(Um et al., "Hydrophobic Surface Chip"、2003年5月15日)、米国特許出願公開第2003−0218130A1(Boschetti et al., "Biochips With Surfaces Coated With Polysaccharide-Based Hydrogels"、2003年4月14日)及び米国特許出願公開第2005−059086A1(Huang et al., "Photocrosslinked Hydrogel Blend Surface Coating"、2005年3月17日)に記載されている。
【0063】
一般に、吸着剤表面を有するプローブを、試料中に存在する可能性があるバイオマーカー(複数を含む)を吸着剤に十分に結合できる期間、試料と接触させる。培養期間の後、基質を洗浄して結合しなかった物質を除く。適切な洗浄溶液の何れもを用いることができ、特に水性溶液が用いられる。分子が結合して残存している程度を、洗浄の厳密性を調整することによってコントロールすることができる。洗浄溶液の溶出特性は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズム(Chaotropism)の程度、洗浄強度、及び温度にかかっている。プローブがSEAC及びSENDの両方の特性(本明細書に記載のような)を有していない限りは、エネルギー吸収分子を次いで、結合バイオマーカーを有する基質に適用する。
【0064】
更に別の方法では、バイマーカーを結合する抗体を有する免疫吸着剤を結合している固相を用いてバイマーカーを捕捉することができる。吸着剤を洗浄して結合していない物質を除去した後、バイオマーカーを固相から溶出して、バイオマーカーを結合するSELDIチップに適用して検出し、そしてSELDIによって分析する。
【0065】
基質に結合しているバイオマーカーを飛行時間型質量分析計のような気相イオン分光計中で検出する。バイオマーカーを、レーザーのようなイオン化源によってイオン化し、生成したイオンをイオン光学集合によって集め、次いで質量分析器で分散して通過するイオンを分析する。検出器は次いで、検出したイオン情報を質量対電荷比に変換する。バイオマーカの検出は通常、信号強度の検出も含んでいるだろう。従って、バイオマーカーの量及び質量の両方を測定することができる。
【0066】
4.1.2.SEND
レーザー脱離質量分析の別の方法を、表面増強純脱離(Surface-Enhanced Neat Desorption;「SEND」)と呼ぶ。SENDは、プローブ表面に化学的に結合してしているエネルギー吸収分子を包含しているプローブ(「SENDプローブ」)の使用を含んでいる。語句「エネルギー吸収分子」(EAM)は、レーザー脱離/イオン化源からエネルギーを吸収できて、その後検体分子と接触してその脱離及びイオン化に寄与することができる分子を意味する。EAMのカテゴリーに、しばしば「マトリックス(marix)」と呼ばれる、MALDIで用いられる分子が含まれ、経皮酸誘導体、シナピン酸(sinapinic acid)(SPA)、シアノ−ヒドロキシ−経皮酸(CHCA)及びジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、及びヒドロキシアセトフェノン誘導体がその例である。ある特定の態様では、このエネルギー吸収分子は、直鎖又は架橋重合体、例えば、ポリメタクリレート中に組み込まれている。例えば、組成物はα−シアノ−4−メタクリロイルオキシ経皮酸とアクリル酸の共重合体であってよい。別の態様では、組成物はα−シアノ−4−メタクリロイルオキシ経皮酸、アクリル酸及びメタクリル酸 3−(トリエトキシ)シリルプロピルの共重合体である。別の態様では、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシ経皮酸とメタクリル酸オクタデシルとの共重合体である(「C18SEND」)である。SENDは更に、米国特許第6,124,137号及びPCT国際公開第WO03/64594号(Kitagawa, "Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes"、2003年8月7日)に記載されている。
【0067】
SEAC/SENDは、捕捉試薬及びエネルギー吸収分子の両方が試料提示表面に付着しているレーザー脱離質量分析の一種である。従って、SEAC/SENDプローブは外部マトリックスの適用を必要とせずに親和性捕捉及びイオン化/脱離を介して検体を捕捉することができる。C18SENDバイオチップは、捕捉試薬として機能するC18部分とエネルギー吸収部分として機能するCHCA部分よりなる、SEAC/SENDの一種である。
【0068】
4.1.3.SEPAR
LDIの別の方法を、表面増強光解離性付着及び放出(Surface-Enhanced Photolabile attachment and Release; 「SEPAR」)と呼ぶ。SEPARは、検体を共有結合でき、次いで光、例えばレーザー光に曝した後に、その部分で光解離性結合を壊して検体を放出する、表面に付着した部分を有しているプローブの使用を含んでいる(米国特許第5,719,060号を参照されたい)。SEPAR及び別の形態のSELDIは、本発明に準じて、バイオマーカー(複数を含む)プロファイルの検出に容易に適用される。
【0069】
4.1.4.MALDI
MALDIは、タンパク質及び核酸のような生体分子を分析するために用いられるレーザー脱離/イオン化の従来方法である。あるMALDI方法では、試料をマトリックスと混合して、直接MALDIチップに蒸着する。しかしながら、血清若しくは尿のような生体試料の複雑性が、試料の前分画無しでは、この方法を最善なものとしない。従ってある特定の態様では、バイオマーカーが最初に生体特異的物質(例えば、抗体)又は樹脂のような固体支持体に結合しているクロマトグラフィー物質(例えば、スピンカラムにおいて)で捕捉されていることが好ましい。本発明のバイオマーカーに結合する特異親和性物質は上に記載されている。親和性物質上で精製した後、バイオマーカーを溶出し、次いでMALDIで検出する。
【0070】
4.1.5.質量分析におけるイオン化の別の形態
別の方法では、バイオマーカーをLC−MS又はLC−LC−MSで検出する。これは、試料中のタンパク質を液体クロマトグラフィーを1回又は2回通して分離し、次いで質量分析、特にエレクトロスプレイイオン化法によって分析することを包含する。
【0071】
4.1.6.データ分析
飛行時間型質量分析による検体の分析は飛行時間型のスペクトルをもたらす。最終的に分析された飛行時間型のスペクトルは通常、試料に対するイオン化エネルギーの単一パルスからのシグナルを示さないが、多数のパルスからのシグナルの合計を示す。これはノイズを減少して、ダイナミックレンジを増大する。この飛行時間型データを次いで、データ処理する。Ciphergen's ProteinChip(登録商標)ソフトウェアでは、データ処理は通常、マススペクトルを生じさせるための TOF-to-M/Z 変換、機器補正を消去するための基準サブストラクション、及び高周波ノイズを減少するための高周波ノイズ選別を含んでいる。
【0072】
バイオマーカーの吸着及び検出によって生じたデータは、プログラム可能なデジタルコンピュータを用いて分析することができる。コンピュータプログラムは、検出されたバイオマーカーの数を示すデータ、並びに随意にシグナルの強度及び検出されたそれぞれのバイオマーカーの測定された分子量を分析する。データ分析は、バイオマーカーのシグナル強度を測定する工程及び既定の統計的分布から逸脱しているデータを取り除く工程を含んでいてよい。例えば、幾つかの参考例と比較してそれぞれのピークの高さを算出することによって、観察したピークを正規化することができる。
【0073】
コンピュータは得られたデータを、表示するために各種のフォーマットに変換することができる。標準的なスペクトルを表示できるが、1つの有用なフォーマットは、ピークの高さ及び質量情報のみをスペクトルから取り出し、より鮮明な画像を示し、ほぼ等しい分子量を有するバイオマーカーをより容易に見ることができる。別の有用なフォーマットでは、試料間で上方又は下方調節される特有のバイオマーカー(複数を含む)を都合良く強調表示して、2つ又はそれ以上のスペクトルを比較する。これらのフォーマットの何れかを用いて、特定のバイオマーカーが試料中に存在していか否かを容易に確認することができる。
【0074】
分析は通常、検体からのシグナルを示すスペクトル中のピークの同定を含んでいる。ピークの選別は視覚的に行うことができるが、ピークの検出を自動化できる、Ciphergen's ProteinChip(登録商標)ソフトウェアパッケージの一部として、ソフトウェアを利用することができる。一般に、このソフトウェアは、選別した閾値上のシグナル対ノイズ比でシグナルを同定することによリ、及びピークシグナルの中心でそのピークの質量を標識化することにより機能する。1つの有用なアプリケーションでは、マススペクトルのある選択された割合で存在している同一のピークを同定するために多くのスペクトルを比較する。このソフトウェアの一種は、既定の質量範囲にある多種のスペクトルに現れている全てのピークを集めて一団にして、マス(M/Z)集団の中間点付近にある全てのピークにマス(M/Z)を割り当てる。
【0075】
データを分析するために用いられるソフトウェアは、シグナルが本発明のバイオマーカーに対応しているシグナルにあるピークを示しているかを確認するために、シグナルの分析にあるアルゴリズムを適用させるコードを含んでいてよい。ソフトウェアは、観察したバイオマーカーに関するピークを分類ツリー又はANN分析に付して、バイオマーカーピーク又はバイオマーカーピークの組合わせが、検査中の臨床的指標の状態を示しているか否かを確認することもできる。データの分析は、試料の質量分析から直接又は間接的の何れかで得られる各種パラメータの「手掛かり」となり得る。これらのパラメータは、これに限定されないが、1つ又はそれ以上のピークの有無、ピーク又はピーク群の形状、1つ又はそれ以上のピークの高さ、1つ又はそれ以上のピークの高さの対数、及びピーク高データの別の計算操作を包含する。
【0076】
4.1.7.卵巣癌のバイオマーカーのSELDI検出についての一般手順
本発明のバイオマーカーの検出のための好ましい手順は以下の通りである。試験する生体試料、例えば、尿を、好ましくはSELDI分析の前に、前分画する。これは試料を単純化して感度を改善する。前分画の好ましい方法は、試料を、Q HyperD(BioSepra, SA)のような、陽イオン交換クロマトグラフィー用物質と接触させる。次いで、結合した物質をpH9、pH7、pH5及びpH4の緩衝液を用いる、pH段階的溶出に付す。バイマーカーを含有している多種の分画を採取する。
【0077】
次いで、試験する試料(好ましくは、前分画した)を、陽イオン交換吸着剤(好ましくは、CM10 ProteinChip アレイ(Chiphergen Biosystems, Inc.))又はIMAC吸着剤(好ましくは、IMAC30 ProteinChip アレイ(Chiphergen Biosystems, Inc.))を含んでいる親和性捕捉プローブと、表1に示したように接触させる。プローブを、結合しなかった分子を洗い流す間、バイマーカーを保持できる緩衝液で洗浄する。それぞれのマーカーに適している洗浄液は、表1に示した緩衝液である。バイマーカーをレーザー脱離/イオン化質量分析によって検出する。
【0078】
また、試料を、変性して又は変性しないで、適切なアレイ結合緩衝液中で希釈して、結合させて、それぞれの検体を検出するために適している条件下で洗浄する。
【0079】
また、バイオマーカーを認識する抗体が、例えば Dako、U.S. Biological、Chemicon, Abcam、及び Genway から入手可能ならば、これらを、前活性化したPS10又はPS20 ProteinChip アレイ(Chiphergen Biosystems, Inc.)のような、プローブの表面に付着させることができる。これらの抗体は試料由来のバイオマーカーをプローブ表面で捕捉することができる。バイマーカーを、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析によって検出することができる。
【0080】
流体性の操作を行うロボットは何れもこれらの分析に用いることができ、例えば、Hewlett Packard and Hamilton から入手できるようなものである。
【0081】
4.2.免疫測定法による検出
本発明の別の態様では、本発明のバイオマーカーは、質量分析以外の、又はバイオマーカーの質量測定に依存する方法以外の方法によって測定される。質量に依存しないこのような態様では、本発明のバイオマーカーを免疫測定法で測定する。免疫測定法は、バイオマーカーを捕捉するために、抗体のような、生体特異的な捕捉試薬を必要とする。抗体は当該技術分野で公知の方法、例えば、バイオマーカーで動物を免役して製造することができる。バイオマーカーはその結合特性に基づいて試料から単離できる。また、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が知られているならば、ポリペプチドを合成して、当該技術分野で公知の方法によって抗体を作るために用いることができる。
【0082】
本発明は、例えば、ELISAを包含するサンドイッチ免疫測定法、又は蛍光ベースの免疫測定法、更にその他の酵素免疫測定法を包含する、従来の免疫測定法を意図している。比濁法は液相で行われる試験で、抗体が溶液中にある。抗原の抗体への結合が、吸光度の変化をもたらし、これを測定する。SELDIベースの免疫測定法では、バイオマーカーに対する生体特異的捕捉試薬が、前活性化されているProteinChip アレイのような、MSプローブの表面に付着している。次いでバイマーカーが、この試薬を介してバイオチップ上に捕捉されて、捕捉されたバイオマーカーが質量分析によって検出される。
【0083】
5.対象の卵巣癌状態の確認
本発明のバイオマーカーを、対象における卵巣癌状態を評価する、例えば、卵巣癌を診断するための診断検査に用いることができる。語句「卵巣癌状態」は、非疾患を含む、疾患の区別できる何れかの兆候を包含している。例えば、卵巣癌状態は、これに限定されないが、疾患の有無(例えば、卵巣癌対非卵巣癌)、疾患が進行する危険性、疾患の段階(ステージ)、疾患の経過(例えば、長期にわたる疾患の進展又は疾患の緩和)及び疾患の治療に対する効果又は応答を包含する。
【0084】
検査結果の卵巣癌状態との相関関係は、何らかの分類アルゴリズムを、その状態を生むその結果に適用することに関与している。この分類アルゴリズムは、表1で同定されている1つ又はそれ以上のバイオマーカーの測定された量が特定のカットオフ数より上か下かを確認するように単純である。複数のバイオマーカーを用いるときは、分類アルゴリズムは直線回帰式であってよい。また、分類アルゴリズムは本明細書に記載の多くの学習アリゴリズムの何れかの産物であってよい。
【0085】
複雑な分類アルゴリズムの場合は、アルゴリズムをデータ上で実施してから、コンピュータ、例えば、プログラム可能なデジタルコンピュータを用いて、分類を決定する必要があるだろう。何れの場合も、次ぎに、状態を有形的表現媒体、例えばメモリードライブ又はディスクのようなコンピュータで読み込み可能なフォーマットに記録するか、又は単純に紙にプリントすることができる。結果をコンピュータスクリーン上で報告することもできる。
【0086】
5.1.単一マーカー
状態を正確に予測する診断検査の能力は一般に、試験の感受性、試験の特異性又は受信者動作特性(「ROC」)曲線下の面積として測定される。感受性は、陽性であると検査によって予測された真の陽性の割合であり、一方、特異性は、陰性であると検査によって予測された真の陰性の割合である。ROC曲線は、1−特異性の機能としての検査の感受性を提供する。ROC曲線下の面積が大きければ、検査の予測値がより強力になる。陽性予測値は、実際に陽性である検査で陽性の人の割合である。陰性予測値は、実際に陰性である検査で陰性の人の割合である。
【0087】
本発明のバイオマーカーは異なった卵巣癌状態において、統計学的差異を示す。これらのバイオマーカーを単独で又は組み合わせて用いる診断検査は、少なくとも75%の、少なくとも80%の、少なくとも85%の、少なくとも90%の、少なくとも95%の、少なくとも98%の、そして約100%の感受性及び特異性を示す。
【0088】
表1に挙げられているそれぞれのバイオマーカーは卵巣癌に特異的に存在していて、それ故に、それぞれが卵巣癌状態の確認に役立って個々に有用である。この方法は、第一に、対象試料中の選択されたバイオマーカーを本明細書に記載されている方法、例えばSELDIバイチップ上に捕捉し、次いで質量分析で検出することによって測定すること、そして第二に、測定結果を、陽性卵巣癌状態を陰性卵巣癌状態から区別する診断量又はカットオフ値と比較することを含んでいる。診断量は、バイオマーカーの測定値が、対象が特定の卵巣癌状態を有していると分類される値よりも上か又は下かを示す。当該技術分野でよく理解されているように、試験で用いられた特定の診断カットオフ値を調節することによって、診断医の選択に応じて診断試験の感度又は特異性を増大させることができる。特定の診断カットオフ値は、例えば、異なった卵巣癌状態にある対象由来の統計学的に有意な数の試料中のバイオマーカーの量を、ここで行ったようにして測定し、そして診断医が望んでいる特異性及び感受性のレベルに適合しているカットオフ値を引き出すことによって、確定することができる。
【0089】
5.2.マーカーの組合わせ
個々のバイオマーカーは有用な診断バイオマーカーである一方、バイマーカーの組合わせが、単一のバイオマーカーだけよりも、特定の状態のより高い予測値をもたらすことが明らかになっている。特に、試料中の複数のバイオマーカーの検出は検査の感度及び/又は特異性を増大できる。少なくとも二つのバイマーカーの組合わせは時々「バイオマーカープロファイル」又は「バイオマーカー指紋」と呼ばれている。従って、診断検査の感度及び/又は特異性を改善するために表1のバイオマーカーを表1に同定されている他のバイオマーカー、又は卵巣癌の別の公知バイオマーカーと組み合わせることができる。
【0090】
卵巣癌の診断は通常、このマーカーの増大したレベルが卵巣癌と相関するので、CA125の測定値と関連している。従って、卵巣癌状態の確認において、CA125のレベルを、上記マーカーとの何れかの組合わせと相関させることができる。
【0091】
表1に同定されているバイオマーカーと組み合わせることができるその他のバイオマーカーは、これに限定されないが、CA125、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連トリプシンインヒビター(TATI)、CEA、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN(Sialyl TN)、ガラクトシルトランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の細胞外ドメインの110kD構成要素(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタシン(prostasin)、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピンペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、オステオポンチン、ハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様生育因子I又はIIを包含する。婦人は、主として通常の精密検査の一部として試験されているCA125を有している卵巣癌の検査を受けているので、CA125は特に有用である。
【0092】
5.3.卵巣癌の状態
卵巣癌状態の確認は一般に、個人を診断検査の結果に基づいて、2つ又はそれ以上の群(状態)の1つに分類することを含んでいる。本明細書に記載されている診断検査を多数の異なった状態を分類するために用いることができる。
【0093】
5.3.1.疾患の存在
一態様では、本発明は対象における卵巣癌の有無(状態:卵巣癌対非卵巣癌)を確認する方法を提供する。卵巣癌の有無は、関連するバイオマーカー(複数を含む)を測定すること、及び次いでこれらを分類アリゴリズムに付すこと、又はこれらを特定の危険レベルに関連しているバイオマーカーの基準量及び/又はパターンと比較することによって、確認される。
【0094】
5.3.2.疾患進展の危険性の確認
一態様では、本発明は対象における卵巣癌が進展する危険性(状態:低い危険性対高い危険性)を確認する方法を提供する。バイマーカーの量又はパターンは多種の危険性状態(例えば、高いこと、中位であること又は低いこと)の特性を示している。疾患が進展する危険性は、関連するバイオマーカー(複数を含む)を測定すること、及び次いでこれらを分類アリゴリズムに付すこと、又はこれらを特定の危険レベルに関連しているバイオマーカーの基準量及び/又はパターンと比較するこよによって、確認される。
【0095】
5.3.3.疾患の段階の確認
一態様では、本発明は対象における疾患の段階を確認する方法を提供する。疾患のそれぞれの段階は、特徴的な1つのバイオマーカーの量又はバイオマーカーの組合わせの相対量(パターン)を有している。疾患の段階は、関連するバイオマーカー(複数を含む)を測定すること、及び次いでこれらを分類アリゴリズムに付すこと、又はこれらを特定の段階に関連しているバイオマーカーの基準量及び/又はパターンと比較するこよによって、確認される。例えば、初期段階の卵巣癌及び非卵巣癌を、又はステージIの単層癌、ステージIIの卵巣癌及びステージIIIの卵巣癌を分類することができる。
【0096】
5.3.4.疾患の経過(進行/緩和)の確認
一態様では、本発明は対象における疾患の経過を確認する方法を提供する。病気の経過は、疾患の進行(悪化)及び疾患の退行(改善)を含む、長期にわたる疾患の状態の変化を言う。長期にわたり、バイオマーカーの量又は相対量(例えば、パターン)は変化する。従って、疾患又は非疾患に向かっての増加又は減少の何れかである、これらのバイオマーカーの動向は疾患の経過を示唆する。従ってこの方法は、対象における1つ又はそれ以上のバイオマーカーを少なくとも2つの異なった時点、例えば初回及び第2回目に測定して、もしあれば、量の変化を比較することを含んでいる。疾患の経過はこれらの比較に基づいて確認される。
【0097】
5.4.状態の報告
本発明の更なる態様は、試験結果若しくは診断又はその両方の、例えば、技術者、医師、又は患者への伝達に関連する。ある特定の態様では、試験結果若しくは診断又はその両方を当事者、例えば医師及びその患者に伝達するためにコンピューターを用いることができる。ある態様では、その結果又は診断が伝達される国又は管轄区域とは異なる国又は管轄区域で、試験を実施するか若しくは試験結果を分析することができる。
【0098】
本発明の好ましい態様では、検査対象における、表1のバイオマーカーの何れかの有無に基づく診断は、診断が得られた後できるだけ早く対象に伝達される。診断は、対象を治療している医師によって対象に伝達できる。また、診断は検査対象にe−メールで送達するか、又は電話で対象に伝達できる。ある特定の態様では、診断検査の結果を含むメッセージを、電気通信分野の当業者によく知られたコンピュータのハードウェア及びソフトウェアの組合わせを用いて、作成して、そして自動的に対象に送達できる。健康管理指向の通信システムは、米国特許第6,283,761号に記載されている;しかしながら、本発明はこの特定の通信システムを用いる方法に限定されない。本発明の方法のある特定の態様では、試料の試験、疾患の診断、及び試験結果又は診断の伝達を含む方法段階の全て又は幾つかを異なった管轄区域(例えば、外国)で実施できる。
【0099】
5.5.対象の管理
卵巣癌状態を認定する方法のある特定の態様では、方法は更に、状態に基づいて対象の治療を管理することを含んでいる。このような管理は、卵巣癌状態を確認した後の医師又は臨床医の行動を含んでいる。例えば、医師が卵巣癌と診断したら、次いで化学療法剤の処方又は投与のような、治療計画を追随させてもよい。また、非卵巣癌の診断又は非卵巣癌には、患者が罹っているかもしれない特定の疾患を確認する更なる試験を追随させてもよい。また、診断検査が、卵巣癌について不確実な結果をもたらしたならば、更なる試験を指示してもよい。
【0100】
6.卵巣癌状態を認定するための分類アルゴリズムの作成
ある態様では、「公知試料」のような試料を用いて作られたスペクトル(例えば、マススペクトル又は時間飛行型スペクトル)由来のデータを、次いで分類モデルを「トレーニングする」ために用いることができる。「公知試料」は、先に分類されている試料である。スペクトル由来であって、分類モデルを形成するために用いられるデータを「トレーニングデータセット」と呼ぶことができる。トレーニングすると、分類モデルは公知試料を用いて作成されたスペクトル由来のデータ中にパターンを認識できる。次いで、分類モデルを未知試料を等級に分類するために用いることができる。これは、例えば、特定の生体試料が、ある特定の生体条件(例えば、病的対非病的)に関連しているか否かを予測するのに有用である。
【0101】
分類モデルを形成するために用いられるトレーニングデータセットは、生データ又はプレ処理したデータを含んでいてもよい。ある態様では、生データは時間飛行型スペクトル又はマススペクトルから直接得られ、そして随意に、上記のように「プレ処理」することができる。
【0102】
分類モデルは、多数のデータをデータ中に存在する目的パラメータに基づいて等級に分けようとする適切な統計学的分類方法(ラーニング)の何れかを用いて形成することができる。分類方法は、教師付きでも又は教師無しでもどちらでもよい。教師付き及び教師無し分類工程は、Jian, "Statistical Pattern Recognition: A Review", IEEE Transactions on Pattern analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, No. 1, January 2000, に記載されていて、その教示は参照して取り込まれている。
【0103】
教師付き分類では、公知カテゴリーの例を含有しているトレーニングデータが、公知等級のそれぞれを定義する一組又はそれ以上の関連性を学習する、学習メカニズムに提示される。次いで新しいデータが学習メカニズムに適用されて、学習した関連性を用いて新しいデータを分類する。教師付き分類処理の例は、直線回帰処理(例えば、多重線回帰(MLR)、部分最小二乗(PLS)回帰、及び主成分回帰(PCR))、二分決定ツリー(例えば、CART(分類及び回帰ツリー)のような再帰分割処理)、誤差逆伝搬ネットワークのような人工神経ネットワーク、判別分析(例えば、ベイズ分類器又はフィッシャー分析)、ロジスティック分類器、及びサポートベクター分類器(サポートベクターマシーン)を包含する。
【0104】
好ましい教師付き分類方法は再帰分割処理である。再帰分割処理は再帰分割は再帰分割ツリーを用いて未知試料由来のスペクトルを分類する。再帰分割処理についての更なる詳細は、米国特許第6,675,104号(Paulse et al., "Method for analyzing mass spectra")に提供されている。
【0105】
別の態様では、作成される分類モデルを教師無し学習方法を用いて形成できる。教師無し分類は、トレーニングデータセットが由来しているスペクトルをプレ分類せずに、トレーニングデータセット中の類似性に基づく分類を学習しようとするものである。教師無し学習方法はクラスター分析を含んでいる。クラスター分析はデータを、互いに類似していて、別のクラスターの構成要素とは非常に異なっている、構成要素を理想的には有しているべきである「クラスター」又は群に分けようとするものである。次いで類似性を、幾つかの距離メトリックを用いて測定する。距離メトリックはデータ項目間、及び互いに近いデータ項目と共にクラスター間の距離を測定する。クラスタ化技術は、MacQueen's K-means アルゴリズム及び Kohonen's Self-Organizing Map アルゴリズムを包含する。
【0106】
生体情報の分類に用いるためにアサートされている学習アルゴリズムは、例えば、PCT国際公開第WO01/31580号(Barnhill et al., "Methods and devices for identifying patterns in bilogical systems and method of use thereof")、米国特許出願第2002 0193950A1号(Gavin et al., "Method or analyzing mass spectra")、米国特許出願第2003 0004402A1号(Hitt et al., "Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data")、及び米国特許出願第2003 0055615A1号(Zhang and Zhang, "Systems and methods for processing biological expression data")に記載されている。
【0107】
分類モデルを適切なデジタルコンピュータ上に形成して使用することができる。適切なデジタルコンピュータは、Unix(登録商標)、Windows(登録商標)又は Linux(登録商標)に基づくオペレーティングシステムのような、標準又は専門オペレーティングシステムを用いる、マイクロ、ミニ、又は大型コンピュータを包含する。用いられるデジタルコンピュータは、関心スペクトルを作成するために用いられる質量分析器から物理的に別れていてよく、或いは質量分析器と連結していてもよい。
【0108】
本発明の態様によるトレーニングデータセット及び分類モデルを、コンピュータで実行又は利用できるコンピュータコードによって体現することができる。コンピュータコードは、光又は磁気ディスク、スティック、テープなどを含む何れかの適切なコンピュータ可読の媒体に保存することができ、そしてC、C++、ビジュアルベーシックなどを含む何れかの適切なコンピュータプログラミング言語に書き込むことができる。
【0109】
上記の学習アルゴリズムは、既に発見されているバイオマーカー用の分類アルゴリズムの開発のために、又は卵巣癌の新規なバイオマーカーを発見するための両方に有用である。そして、分類アルゴリズムは、単独で又は組み合わせて用いられるバイオマーカーの診断値(例えば、カットオフポイント)を提供することによって診断検査の根拠を形成する。
【0110】
7.物質の組成物
別の態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに基づく物質の組成物を提供する。
【0111】
一態様では、本発明は、本発明のバイマーカーを精製された形態で提供する。精製されたバイオマーカーは、抗体を作る抗原としての有用性を有している。精製されたバイオマーカーは、試験手順における標準品としての有用性も有している。本明細書で用いられる「精製されたバイオマーカー」は、別のタンパク質及びペプチドから、及び/又はバイマーカが見出された生体試料由来の別の物質から単離されたバイオマーカーである。バイオマーカーは、尿又は血清のような、体液から単離することができる。バイオマーカーは当該技術分野で公知の何れかの方法を用いて精製することができ、この方法は、これに限定されないが、機械的な分離(例えば、遠心分離)、硫酸アンモニウム沈殿、透析(サイズ排除透析を含む)、電気泳動(例えば、アクリルアミドゲル電気泳動)、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及び金属キレートクロマトグラフィーを包含している。このような方法は、適切なスケールで、例えば、クロマトグラフィーカラム中で、又はバイオチップ上で行われる。
【0112】
別の態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーを特異的に結合する生体特異的捕捉試薬を、随意的に精製された形態で提供する。一態様では、生体特異的捕捉試薬は抗体である。このような組成物は、検出試験、例えば診断においてバイオマーカーを検出するために有用である。
【0113】
別の態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーを結合する生体特異的捕捉試薬を含有していて、その試薬が固相に結合している、製品を提供する。例えば、本発明は、生体特異的捕捉試薬で誘導化されているビーズ、チップ、膜、モノリス又はマイクロタイタープレートよりなるデバイスを意図している。このような製品は、バイオマーカーを検出する試験に有用である。
【0114】
別の態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに結合する、抗体のような、生体特異的な捕捉試薬を含有している組成物を提供し、組成物は精製された形態であってよい。このような組成物は、バイオマーカーを精製するために、又はバイオマーカーを検出するための試験において有用である。
【0115】
別の態様では、本発明は、それに吸着剤、例えばクロマトグラフィー用の吸着剤又は生体特異的捕捉試薬が結合していて、そこに更に本発明のバイオマーカーが結合する、固体基質を含有している製品を提供する。一態様では、この製品はバイチップ、又は質量分析のプローブ、例えばSELDIプローブである。このような製品はバイオマーカーの精製又はバイオマーカーの検出に有用である。
【0116】
8.卵巣癌に対するバイオマーカーの検出用のキット
別の態様では、本発明は卵巣癌状態を認定するキットを提供し、このキットは本発明のバイマーカーを検出するために用いられる。一態様では、キットは、そこに捕捉試薬を付着して有している、チップ、マイクロタイタープレート又はビーズ又は樹脂のような、固体の支持体を含んでいて、捕捉試薬は本発明のバイオマーカーを結合する。従って、例えば、本発明のキットは、ProteinChip(登録商標)アレイのような、SELDI用の質量分析プローブを含有することができる。生体特異的捕捉試薬の場合は、キットは反応性の表面を有する固体の支持体、及び生体特異的捕捉試薬を含んでいる容器を含有することができる。
【0117】
キットは、洗浄溶液又は洗浄溶液を作るための説明書を含有していてもよく、そこでは捕捉試薬と洗浄溶液の組合わせが、バイオマーカー(複数を含む)を固体支持体上に捕捉して、例えば質量分析による、続く検出を可能にする。キットは、それぞれが異なった固体支持体上に存在している、それ以上のタイプの吸着剤を包含していてもよい。
【0118】
更なる態様では、キットは適切な操作パラメーターについての使用説明書をラベル又は添付文書の形態で含有していてもよい。例えば、この使用説明書は試料を採取する方法、プローブ又は検出する特定のバイオマーカーを洗浄する方法について、消費者に情報を与える。
【0119】
更に別の態様では、キットは検定用の標準品(複数を含む)として用いるために、バイオマーカーサンプル入りの1つ又はそれ以上の容器を含有していてもよい。
【0120】
9.医薬品の治療効果の確認
別の態様では、本発明は医薬品の治療効果を確認する方法を提供する。この方法は、薬剤の臨床試験の実施、更に、薬剤に対する患者の進行具合の観察において有用である。治療又は臨床試験は、ある特定の投与計画に基づいて薬剤を投与することを含んでいる。投薬計画は、薬剤の単回投与又は長期に渡る薬剤の複数回投与を含むことができる。医師又は臨床医は、投与期間に渡って患者又は対象に対する薬剤の効果を監視する。薬剤が疾患に対して薬理学的な効果を有している場合は、表1に同定されているバイオマーカーの量又は相対量(例えば、パターン又はプロファイル)が非疾患プロファイルに向かって変化する。従って、治療が進行している間の対象におけるこれらのバイオマーカーの量の経過を追跡することができる。従って、この方法は、治療を受けている対象における一つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定すること、及びバイオマーカーの量を対象の疾患状態と相互に関連付けることを含んでいる。この方法の一態様は、薬物治療過程の間の少なくとも2つの異なった時点、例えば第一回目及び第二回目にバイオマーカーの量を測定して、もしあるなら、バイオマーカーの量の変化を比較することを含んでいる。例えば、バイオマーカーを薬剤投与の前及び後、又は薬剤投与の間の二回の異なった時点で、測定することができる。薬剤の効果をこれらの比較によって確認することができる。治療が有効であるなら、バイオマーカーは正常の傾向を示し、一方治療が無効であるなら、バイオマーカーは疾患示唆の傾向を示すだろう。
【0121】
10.スクリーニング試験における卵巣癌のバイオマーカーの使用、及び卵巣癌を治療する方法
本発明の方法には、更に別の応用がある。例えば、バイオマーカーは、インビトロ又はインビボでバイオマーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために用いることができ、この化合物は次いで、患者における卵巣癌を治療若しくは予防するために有用となるだろう。別の例では、バイオマーカーを卵巣癌の治療に対する応答を監視するために用いることができる。更に別の例では、バイオマーカーを、対象が卵巣癌を進展させる危険性があるかを確認する遺伝学的研究に用いることができる。
【0122】
治療試験に適している化合物を、本明細書に挙げる1つ又はそれ以上のバイオマーカーと相互作用する化合物を同定することによって、最初にスクリーニングすることができる。例をあげると、スクリーニングは、バイオマーカーを組み換え技術で発現させること、バイオマーカーを精製すること、及びバイオマーカーを基質に取り付けることを含んでいてよい。次いで試験化合物を、一般には水性条件で、基質と接触させて、試験化合物とバイオマーカの間の相互作用を、例えば塩濃度の機能として溶出速度を測定することによって、測定する。ある特定のタンパク質が認識されて、表1の1つ又はそれ以上のバイオマーカーに固着する。この場合、例えば、タンパク質のゲル電気泳動によって、標準試験における1つ又はそれ以上のバイオマーカーの消化を観察することによって、タンパク質を検出することができる。
【0123】
関連する態様では、1つ又はそれ以上のバイオマーカーの活性を阻害する試験化合物の能力を測定することができる。特定のバイオマーカーの活性を測定するために用いられる技術は、そのバイオマーカーの機能及び特性によって異なるということを、当業者は認識できるであろう。例えば、適切な基質が入手可能であるならば、そして基質の濃度又は反応生成物の発現を容易に測定できるならば、バイオマーカーの酵素活性を試験することができる。潜在的に治療能力がある試験化合物の既定バイオマーカーの活性を阻害若しくは増強する能力を、試験化合物の存在下又は非存在下における触媒反応の速度を測定して確認することができる。本明細書の1つ又はそれ以上のバイオマーカーの非酵素的(例えば、構造的)機能又は活性を妨げる試験化合物の能力も測定することができる。
【0124】
表1のバイオマーカーの何れかの活性を調節することができる化合物を、卵巣癌又は別の癌に罹っているか又はその進展の危険性がある患者に投与することができる。例えば、特定のバイオマーカーの活性を増大する試験化合物の投与は、特定バイオマーカーの活性がインビボにおいて卵巣癌タンパク質の蓄積を阻害するならば、患者の卵巣癌の危険性を減少させる。反対に、特定のバイオマーカーの活性を減少する試験化合物の投与は、このバイオマーカーの増大した活性が、少なくとも部分的に卵巣癌発病に関与するならば、患者の卵巣癌の危険性を減少する。
【0125】
更なる態様では、本発明は、表1に同定されているバイオマーカーの改変形態の増大したレベルに関連している、卵巣癌のような疾患の治療に有用な化合物を同定する方法を提供する。例えば、一態様では、細胞抽出物又は発現ライブラリーを、切断型を産生するための全長バイオマーカーの切断に触媒作用を示す化合物についてスクリーニングすることができる。このようなスクリーニング試験の一態様では、フルオロフォアを、バイオマーカーが切断されないときはクエンチされて残るが、タンパク質が切断されると蛍光発色するヘプシジンに付着させることによって切断を検出することができる。また、アミノ酸xとアミノ酸yの間のアミド結合を切断不能にするために改変されたある種の全長バイオマーカーを、インビボで全長バイオマーカーをその位置で切断する細胞プロテアーゼと選択的に結合又は「トラップ」するために用いることができる。プロテアーゼ及びその標的をスクリーニング及び同定する方法は、科学文献に、例えば、Lopez-Ottin et al.,(Nature Reviws, 3:509-519 (2002))に良く解説されている。
【0126】
更に別の態様では、本発明は、病気の治療、又は進行又は可能性を減少する方法を提供する。例えば、全長バイオマーカーを切断する1つ又はそれ以上のタンパク質が同定された後に、同定されたタンパク質の切断活性を阻害する化合物について、コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることができる。そのような化合物について化学ライブラリーをスクリーニングする方法は当該技術分野において周知である。例えば、Lopez-Otin et al.(2002) を参照されたい。また、阻害性の化合物を、バイオマーカーの構造に基づいて、インテリジェントに設計することができる。
【0127】
臨床レベルでの、試験化合物のスクリーニングは、対象が試験化合物に曝される前と後に、試験対象から試料を得ることを含んでいる。表1に挙げられる1つ又はそれ以上のバイオマーカーの試料中のレベルを測定して、試験化合物に曝された後にバイマーカーのレベルが変化したか否かを確認するために分析することができる。試料を、本明細書に記載のように、質量分析で分析するか、又は試料を当業者に公知の適切な手段によって分析することができる。例えば、表1に挙げる1つ又はそれ以上のバイオマーカーのレベルを、バイオマーカーに特異的に結合する放射性−又は蛍光−標識された抗体を用いるウェスタンブロットによって直接測定できる。また、1つ又はそれ以上のバイオマーカーをコードするmRNAのレベルの変化を測定して、所定の試験化合物の対象への投与と関連付けてもよい。更なる態様では、1つ又はそれ以上のバイオマーカーの発現レベルの変化はインビトロの方法及び物質を用いて測定することができる。例えば、表1の1つ又はそれ以上のバイオマーカーを発現する、或いは発現できるヒト組織培養細胞を試験化合物と接触させることができる。試験化合物で治療されている対象は定期的に、治療の結果である生理効果について検査される。特に、試験化合物は対象における病気の可能性を減少させる能力について評価される。また、試験化合物を、既に卵巣癌であると診断されている対象に投与する場合は、試験化合物を病気の進展を遅らすか止める能力についてスクリーニングするだろう。
【実施例】
【0128】
実施例1.卵巣癌のバイオマーカーの発見
本明細書に記載の実施例及び態様は例証のみを目的としていること、それを考慮した多くの修正及び変更が当業者に示唆されていて、これが本願及び添付の特許請求の範囲の精神及び範囲内に含まれているということは理解されるだろう。
【0129】
試料
尿試料を、M.D. Anderson Cancer Center Ovarian cancer sample bank から入手した。試料は、2000〜2006年に、手術前の癌患者から集めて−80℃で保管されていた。試料の分布は次の通りである:卵巣癌(OvCa)、237;正常、143;良性、100。
【0130】
尿のプロファイリング
プロファイルする試料を含有するランダム化したテンプレートを、Ciphergen Express ソフトウェアプログラムを用いて作成した。cancer bank由来の試料を氷の上で解凍し、96ウェルのプレートに添加して(配列のための上記テンプレートの後に)、そして4000rpmで20分間遠心分離した(試料バンクでの最初の凍結及び保管の前には、尿は遠心分離されていなかった)。次いで、尿のアリコートを新鮮な96ウェルプレートに入れて使用するまで−80℃で保管した。試料を、2007年3月14日〜3月15日にCM10で、そして2007年3月20日〜3月21日にIMAC−Cu++上にプロファイリングした。全ての複製を同じ日に作成してPCS4000上で読んだ(朝に始めて、次いで作成)。Biomek 2000ロボットを用いて、試料でアレイを加工した。
【0131】
CM10尿プロファイリング手順
15μLの尿試料を23μLの変性緩衝液(9M尿素/2%CHAPS)に加える。4℃で30分間培養する。263μLの結合緩衝液(BB)、100mMの酢酸ナトリウム(pH4)を、それぞれの変性試料に加える。十分に混合する。BBで5分間2回洗浄して、アレイの表面を作成する。緩衝液を除去して、希釈した尿試料(150μL)をそれぞれのウェルに加える。室温で振盪して30分間培養する。試料を除いて、新鮮な同じ希釈試料(125μL)に適切なスポット上で置き換える。室温で振盪して30分間培養する。試料を除いて、BBで5分間3回洗浄する。緩衝液を除いてH20で、急いで2回(培養しないで)洗浄する。バイオ処理装置の容器を取り除いて風乾する。50%アセトニトリル/0.5%TFA水中のSPAマトリックス(12.5mg/ml)をスポット当たり1μL加える。10分間風乾する。処理を繰り返す。1晩風乾する。
【0132】
IMAC−Cu++尿プロファイリング手順
15μLの尿試料を23μLの変性緩衝液(9M尿素/2%CHAPS)に加える。4℃で30分間培養する。263μLの結合緩衝液(BB)、100mMのリン酸ナトリウム+0.5MのNaCl(pH7)を、それぞれの変性試料に加える。十分に混合する。1ウェル50μlの50mMCuSOを加えて、銅でIMACアレイを作成して、室温で10分間培養する。スポット当たり150μlの水で1回2分間洗浄する。1スポット当たり50μlの50mM NaAc(pH4)と5分間培養する。スポット当たり150μlの水で1回2分間水洗する。水を除く。IMAC30チップを結合緩衝液BBで2回5分間平衡化する。緩衝液を除いて150μlの希釈した尿試料を加える。室温で振盪して30分間培養する。試料を除いて、新鮮な同じ希釈試料(125μL)に適切なスポット上で置き換える。室温で振盪して30分間培養する。試料を除いて、BBで5分間3回洗浄する。緩衝液を除いてH20で、急いで2回(培養しないで)洗浄する。バイオ処理装置の容器を取り除いて風乾する。50%アセトニトリル/0.5%TFA水中のSPAマトリックス(12.5mg/ml)をスポット当たり1μL加える。処理を繰り返す。1晩風乾する。
【0133】
データ分析
CiphergenExpress ソフトウェアを用いてデータを得た。外部補正を用いて質量補正し、強度正規化は、外部正規化因子を用いて、総イオン電流に基づいて行って、基準線減算を行った。ピークは3:1のシグナル/ノイズ比を有していてスペクトルの20%以内に存在していなければならないという基準を用いて、CiphergenExpress においてピーク検出を実施した。マン・ホイットニー検定(2群、例えば、良性対卵巣癌について)又はクラスカル・ワリス検定(複数群の比較、例えば、良性対卵巣癌対正常の癌について)を用いて、CiphergenExpress において統計学的分析を実施した。
【0134】
同定したマーカーを表1に示す。
【0135】
本明細書に記載の実施例及び態様は例証のみを目的としていること、それを考慮した多くの修正及び変更が当業者に示唆されていて、これが本願及び添付の特許請求の範囲の精神及び範囲内に含まれているということは理解されるだろう。本明細書で引用されている全ての刊行物、特許、及び特許出願は、全ての目的に応じて、その全てが参照して本明細書に組み込まれている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象由来の生体試料中の1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定すること(ここにおいて、少なくとも1つのバイオマーカーは表1に示されているバイオマーカーから選ばれる);及び
(b)測定値(複数を含む)を、卵巣癌及び非卵巣癌から選ばれた卵巣癌状態と関連付けること:
を含有してなる、対象における卵巣癌状態を判定する方法。
【請求項2】
生体試料中の複数のバイオマーカーを測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数のバイオマーカーが更に少なくとも3つのバイオマーカーを含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1つ又はそれ以上のバイオマーカーを質量分析で測定する、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
質量分析がSELDI−MSである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのバイオマーカーを免疫測定法で測定する、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
試料が尿である、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
関連付けをソフトウェア分類アリゴリズムを実行することにより実施する、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
(c)状態を対象に報告すること:
を更に含有してなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
状態を有形的表現媒体上に記録すること:
を更に含有してなる、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
(c)状態に基づいて対象の治療を管理すること:
を更に含有してなる、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
(d)対象の管理後に、少なくとも1つのバイオマーカーを測定して、測定値を疾患の進行と関連付けること:
を更に含有してなる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
(a)第1回目に、対象由来の生体試料中の1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定すること(ここにおいて、少なくとも1つのバイオマーカーは表1に示されているバイオマーカーの群から選ばれる);
(b)第2回目に、対象由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること;及び
(c)第1回目の測定値と第2回目の測定値を比較して、ここで比較測定値で卵巣癌の経過を確認すること:
を含有してなる卵巣癌の経過を確認する方法。
【請求項14】
(a)少なくとも1つの捕捉試薬がそこに付着している固体支持体(ここにおいて、捕捉試薬は表1に示されている群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカーを結合する);及び
(b)1つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出するために固体支持体を使用するための説明書:
を含有してなる、キット。
【請求項15】
捕捉試薬を含有している固体支持体がSELDIプローブである、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
1つ又はそれ以上のバイオマーカーの標準品を更に含有してなる、請求項14に記載のキット。
【請求項17】
(a)少なくとも1つの捕捉試薬がそこに付着している少なくとも1つの固体支持体(ここにおいて、捕捉試薬(複数を含む)は表1に示されている群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカーを結合する);
(b)表1に示されている群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカーを検出するために固体支持体(複数を含む)を使用するための説明書:
を含有してなる、キット。
【請求項18】
捕捉試薬を含有している固体支持体がSELDIプローブである、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
表1に示されている群から選ばれる1つ又はそれ以上のバイオマーカーの標準品を更に含有してなる、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
a.試料に起因するデータにアクセスするコード(ここで、データは試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの測定値を含有しており、少なくとも1つのバイオマーカーは表1に示されているバイオマーカーの群から選ばれる);及び
b.測定値の関数として試料の卵巣癌状態を分類する分類アルゴリズムを実行するコード:
を含有してなる、ソフトウェア製品(産物)。
【請求項21】
対象由来の試料中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおいて、少なくとも1つのバイオマーカーは表1に示されているバイオマーカーの群から選ばれる)の関連付けから確認された卵巣癌の状態に関する診断を対象に伝達することを含有してなる、方法。
【請求項22】
診断が、コンピュータで処理した媒体を介してを対象に伝達される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
方法が:
a)バイオマーカーを試験化合物と接触させること;及び
b)試験化合物がバイオマーカーと相互作用するか否かを確認すること:
を含有してなる、表1に示されているバイオマーカーの群から選ばれるバイオマーカーと相互作用する化合物を同定する方法。

【公表番号】特表2010−522882(P2010−522882A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501010(P2010−501010)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/004088
【国際公開番号】WO2008/123948
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(501497253)ヴァーミリオン インコーポレイテッド (21)
【出願人】(509269838)ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム (1)
【Fターム(参考)】