説明

卵巣癌用のバイオマーカー

本発明は、患者における卵巣癌の症状を認定するのに有用な、タンパク質ベースのバイオマーカー及びバイオマーカーの組み合わせを提供する。特に、本発明のバイオマーカーは、対象のサンプルを卵巣癌、悪性度の低い見込みの卵巣癌、良性の卵巣疾患又は他の悪性の症状として分類するのに有用である。バイオマーカーは、SELDI質量分析により検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年6月24日出願の米国特許仮出願第60/693,755号及び2006年3月22日出願の同第60/785,031号に関連し、その全てを参照して本明細書に組み込まれている。
【0002】
(発明の分野)
発明は一般的に、臨床診断、特に卵巣癌の臨床診断に関連したものである。
【背景技術】
【0003】
卵巣癌は、先進国において最も死亡率の高い婦人科の悪性腫瘍の一つである。アメリカ合衆国だけでも年間に、約23,000名の女性が本疾病であると診断され、ほぼ14,000名が本疾病により死亡している(Jamal, A., et al., CA Cancer J. Clin., 52:23-47 (2002))。癌治療法の進歩に拘らず、卵巣癌の死亡率は、過去20年間実質的には変化がないままである(同上の文献)。疾病が診断された段階に応じた生存率の急勾配を考慮するならば、早期検出は、卵巣癌患者の長期生存率の改善に最も重要な要素であり続けている。
【0004】
後期段階に診断された卵巣癌の予後不良、確証的診断手段に関連した費用とリスク並びに一般の母集団における比較的少ない患者数が相俟って、一般母集団における卵巣癌患者のスクリ−ニングに適用する検査の感度及び特異性に極めて厳しい要件が求められている。
【0005】
癌の初期検出及び診断に適した腫瘍マーカーの識別により、患者の臨床成績の改善が大きく期待できる。曖昧な症状を示す患者、全く症状を示さない患者又は検診において比較的判断しにくい癌を有する患者にとって、腫瘍マーカーは特に重要である。初期段階における検出を目指して大きな努力が払われているにも拘らず、対費用効果の高い検査は開発されておらず(Paley, Curr. Opin. Oncol., 13(5):399-402 (2001))、女性は一般に、診断時に播腫性の疾患の症状を示す(「婦人科腫瘍の本質と実際(Hoskins WJ, Perez CA, Young RC, editors., 3rd ed. Philadeiphia: Lippincott, Williams and Wilkins; pages981-1057 (2000))」の「上皮性卵巣癌(Ozols RF, et al.)」)。
【0006】
最も良く特徴が知られている腫瘍マーカーであるCA125は、ステージIの卵巣癌のおよそ30%から40%では陰性であり、多くの良性の疾患ではその割合は上昇する(Meyer et al., Br. J. Cancer, 82(9):1535-8 (2000); Buamah, J. Surg. Oncol., 75(4):264-5 (2000); Tuxen, et al., Cancer Treat. Rev., 21(3):215-45 (1995))。卵巣癌の初期段階での検出の集団ベースのスクリ−ニングの手段として並びに診断としてのそれの使用は、感度及び特異性が低いため無理である(「MacDonald et al., Eur. J. Obstet. Gynecol. Reprod. Biol., 82(2):155-7 (1999)」;「Jacobs et al., Hum. Reprod., 4(1):1-12 (1989)」;「腫瘍マーカーの生理学的、病理生物学的、技術工学的並びに臨床的適用(Diamandis, Fritsche, Lilja, Chan, and Schwartz, editor, Philadelphia: AACC Press; in press)」における「卵巣癌における腫瘍マーカー(Shih et al.)」)。骨盤及び更に近年では膣の超音波検査が、リスクの高い患者をスクリ−ニングするために使用されているが、いずれも一般集団に適用するためには技術的に感度及び選択性が十分ではなかった。(MacDonald et al., supra)。癌モデルの長期リスク(Skates et al., Cancer, 76(10 Suppl);2004-10 (1995))において、別の腫瘍マーカーとCA125との併用(「Woolas et al., J. National Cancer Inst., 85(21):1748-51 (1993)」;「Woolas et al., Gynecol. Oncol., 59(1):111-6 (1995)」;「Zhang et al., Gynecol. Oncol., 73(1):56-61 (1999)」;「ステージIの上皮卵巣癌を検出するための複数マーカーの利用:ニューラル・ネットワーク解析による性能の向上(Zhang et al., American Society of Clinical Oncology 2001);年会の要旨」)、並びに2次検査として超音波検査と平行してのCA125の使用(「Jacobs et al., Br. Med. J., 306(6884):1030-34 (1993)」及び「Menson et al., British Journal of Obstetrics and Gynecology, 107(2):165-69 (2000)」)での近年の試みでは、比較的低い有病率を示す卵巣癌のような疾病にとって極めて重要な、検査全体の特異性の改善に繋がる有望な結果が得られている。
【0007】
後期卵巣癌の悲惨な予後のために、最小の陽性予測値が10%の検査でさえも臨床医は受け入れるであろうということは、一般的なコンセンサスである。(Bast et al., Cancer Treatment and Research, 107:61-97 (2002))。これを一般の集団に拡張するには、一般スクリ−ニング検査の感度は70%を超え、選択性は99.6%を超える必要がある。近年、CA125、CA72−4又はM−CSF等の現存の血清マーカーは、何れも一つ一つではそのような性能を有していない(Bast et al., Int. J. Biol. Markers, 13:179-87 (1998))。
【0008】
従って、それ自体で又は他のマーカー若しくは診断モダリティーとの併用で卵巣癌の初期検出において必要な感度及び特異性を示す、新しい血清マーカーが切実に求められている(「卵巣癌:卵巣癌の初期検出、展望と実現性」(Bast et al.,:ISIS Medical Media Ltd., Oxford, UK (2001), in press))。許容されるスクリーニング検査がない状態での初期検出は、卵巣癌患者の長期生存率を改善させる最も重要な要因を依然として残したままである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、患者の卵巣癌の症状を判定するための信頼できる且つ正確な方法の確保が、望まれており、その様な方法の結果を用いると対象の治療が管理可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
本発明は、卵巣癌を診断するのに有用な新規なバイオマーカー及びバイオマーカーの組み合わせ、更に卵巣癌の診断にバイオマーカーを使用する方法及びキットを提供することにより、これらの要望を満たすものである。
【0011】
より具体的には、一態様として、本発明は、(a)対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおける少なくとも一つのバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)を測定すること、そして、(b)その測定結果を卵巣癌の症状と関連付けること、を含んでなる、対象の卵巣癌の症状を認定する方法を提供するものである。一態様として、バイオマーカーの少なくとも一つは、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA、カルサイクリン、トランスサイレチン(二重荷電)及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる。別な態様では、前記方法は、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA、カルサイクリン、トランスサイレチン及びIgG重鎖の各々を測定することを含む。別な態様では、前記方法は、CA125のような幾つかの他の公知の卵巣癌のバイオマーカーを測定することも、更に包含する。
【0012】
別な態様では、前記方法は、CA125のような幾つかの他の公知の卵巣癌のバイオマーカーを測定することも、更に包含する。別な態様では、前記方法は、CA125、トランスフェリン、ハプトグロビン、ApoA1、トランスサイレチン、ITIH4内部フラグメント、β2ミクログロブリン、ヘプシジン、プロスタチン(prostatin)、オステオポンチン(osteopontin)、エソイノフィル(esoinophil)由来の神経毒、レプチン、プロラクチン、IGF−II、ヘモグロビン及びそれらの修飾型よりなる群から選ばれる少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、関連付けることを更に包含する。更なる別な態様では、前記方法は、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連のトリプシン抑制剤(TATI)、CEA、胎盤のアルカリホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシル・トランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の対象の細胞外領域の110kD成分(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタチン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/ne、尿ゴナドトロピン・ペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、SMRP、オステオポンチン、ハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様成長因子I及びインスリン様成長因子IIを更に包含する。これら追加のバイオマーカーもまた、本発明の他の方法、キット及びソフトウェアを用いて、測定し、関連付けることができる。
【0013】
上記方法の一態様において、少なくとも1つのバイオマーカーは、SELDIプローブの吸着体表面に当該バイオマーカーを捕捉すること、そしてレーザー脱離−イオン化質量分析計で捕捉のバイオマーカーを検出することにより測定される。別な態様では、少なくとも1つのバイオマーカーは、免疫学的測定で測定される。後者の方法は、バイオマーカーが識別されている場合、特に有用である。一態様では、サンプルは、卵巣嚢胞液である。関連する態様では、吸収体は、疎水性の吸着剤、陰イオン交換吸着剤、陽イオン交換吸着剤及び金属キレート吸着剤よりなる群から選ばれる部材である。更なる別な態様では、吸着体は、陽イオン交換吸着剤である。
【0014】
別な態様において、本発明のバイオマーカーは、質量分析又はバイオマーカーの質量測定に基づく方法、以外の方法で測定される。例えば、ある特定の態様では、本発明のバイオマーカーは、免疫学的測定で測定される。
【0015】
示唆されるように、上記方法は、卵巣癌の症状を認定することを指向している。一態様では、関連付けは、ソフトウェア分類アルゴリズムにより実施する。一般に、本発明の方法において、卵巣癌の症状は、良性の卵巣疾患、悪性レベルの低い見込みの卵巣癌、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状から選ばれる。一態様では、卵巣癌の症状は、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状に対して、良性の卵巣疾患及び悪性レベルの低い見込みの卵巣癌から選ばれる。別な態様では、卵巣癌の症状は、良性の卵巣疾患に対する悪性レベルの低い見込みの卵巣癌、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状から選ばれる。更なる別な態様では、卵巣癌の症状は、良性の卵巣疾患の可能性がないものである。更なる態様では、卵巣癌の症状は、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状の可能性がないものである。
【0016】
別な態様において、本明細書に記載のバイオマーカーを検出し、その測定値を卵巣癌の症状と関連付けることには、症状に基づく対象の治療を管理することを更に包含する。関連する態様では、測定値を卵巣癌と関連付ける場合、対象の治療の管理とは、対象に化学療法薬を投与することを包含する。別な態様では、前記方法は、対象の管理の後少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、その測定値を疾患の進行速度の測定を含む、疾患の進行と関連付けることを更に包含する。
【0017】
本発明はまた、対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおける少なくとも一つのバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)を測定することを包含する方法も提供する。
【0018】
本発明の別の態様では、(a)1回目に、対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおける少なくとも一つのバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)を測定すること、そして(b)2回目に、対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定し、(c)1回目の測定値と2回目の測定値を比較し、その測定値の比較から卵巣癌の経過を判定することからなる、卵巣癌の経過を判定するための方法が、提供される。
【0019】
更なる別な態様において、少なくとも1つのバイオマーカーは、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる。更なる態様では、方法は、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々を測定することを包含する。関連する態様では、前記方法は、CA125を測定することを更に包含する。
【0020】
更なる別な態様では、少なくとも1つのバイオマーカーは、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)よりなる群から選ばれる。別の態様では、前記方法は、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)の各々を測定することを含む。別な態様では、前記方法は、CA125のような卵巣癌の幾つかの他の公知のバイオマーカーを測定することを更に包含する。
【0021】
本明細書に記載の方法に加えて、本発明はまた、表1、3及び4に記載のバイオマーカーから選ばれる精製した生体分子を包含する組成物も提供する。別な態様では、本発明は、生体特異的な捕捉剤、例えば、表1、3及び4に記載のバイオマーカーから選ばれる生体分子と特異的に結合する抗体を包含する組成物を提供する。関連する態様では、生体特異的な捕捉剤は、固体担体に結合している。更なる別な態様では、本発明は、表1、3及び4に記載のバイオマーカーに結合する生体特異的な捕捉剤を包含する組成物を提供する。
【0022】
その他の態様では、本発明は、キットを提供する。例えば、一態様では、本発明は、(a)少なくとも1つの捕捉剤(ここにおける捕捉剤は、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる第一の群からの少なくとも1つのバイオマーカーと結合する)を付着している固体担体、及び(b)この固体担体を、表1、3及び4に記載のバイオマーカーを検出するために使用する説明書、からなるキットを提供する。関連する態様では、キットは、この固体担体を、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、バイオマーカーを検出するために使用する説明書を更に包含する。別な態様では、キットは、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々を検出するために使用する説明書を包含する。更なる別な態様では、キットは、固体担体をCA125を検出するために使用する説明書を更に包含する。
【0023】
更に別な関連の態様では、キットは、当該固体担体を、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)よりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを検出するために使用する説明書を包含する。別な態様では、キットは、当該固体担体を、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)の各々を検出するために使用する説明書を包含する。別な態様では、キットは、固体担体をCA125のような卵巣癌の幾つかの他の公知のバイオマーカーを検出するために使用する説明書を包含する。
【0024】
別な関連の態様では、捕捉剤(ここにおける捕捉剤は、疎水性の吸着剤、陰イオン交換吸着剤、陽イオン交換吸着剤及び金属キレート吸着剤である)を包含するキットの固体単体が、SELDIプローブである。更なる別な態様では、キットは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーの少なくとも1つを含む容器を更に包含する。更なる別な態様では、前記キットは、陽イオン交換クロマトグラフィー吸着剤を更に包含する。
【0025】
別な態様では、本発明は、(a)少なくとも1つの捕捉剤(ここにおける捕捉剤は、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる少なくとも1つのバイオマーカーと結合する)を包含する固体担体、及び(b)少なくとも1つのバイオマーカーを含む容器を包含するキットを提供する。関連の態様では、容器は、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを含む。更なる別な態様では、容器は、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々を含む。関連の態様では、前記容器は、CA125を更に含む。
【0026】
更なる別の関連の態様では、容器は、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)よりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを含む。別な態様では、容器は、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)の各々を含む。別な態様では、容器はCA125を更に含む。
【0027】
更なる別な態様では、捕捉剤(ここにおける捕捉剤は、疎水性の吸着剤、陰イオン交換吸着剤、陽イオン交換吸着剤及び金属キレート吸着剤である)を包含するキットの固体単体が、SELDIプローブである。更なる別な態様では、キットは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーの少なくとも1つを含む容器を更に包含する。
【0028】
本発明は、サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおけるバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)の測定値を包含する、サンプルに起因するデータにアクセスするコードを含んでなる、及びサンプルの卵巣癌の症状を、測定値の関数として分類する、分類アルゴリズムを実行するコードを更に含んでなるソフトウエア製品を更に提供する。関連の態様として、ソフトウェア製品は、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれるバイオマーカーの測定値の関数として分類する。更なる別な態様では、分類アルゴリズムは、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々の測定値の関数として分類する。更なる別な態様では、分類アルゴリズムは、サンプルの卵巣癌の症状を、CA125の測定値の関数として更に分類する。
【0029】
関連の態様として、ソフトウェア製品は、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)よりなる群から選ばれるバイオマーカーの測定値の関数として分類する。別な態様では、分類アルゴリズムは、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチン(二重荷電)のバイオマーカーの各々の測定値の関数として分類する。別な態様では、分類アルゴリズムは、サンプルの卵巣癌の症状を、CA125の測定値の関数として更に分類する。
【0030】
本発明は、表1、3及び4に記載のバイオマーカーを、質量分析又は免疫学的測定により検出することを包含する方法を更に提供する。
【0031】
別な態様では、本発明は、対象からのサンプル中の複数のバイオマーカー(ここにおけるバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)の相関関係から判定される卵巣癌の症状に関係する診断を、対象に伝達することを含んでなる方法を提供する。関連の態様では、診断は、コンピューター処理した媒体を介して対象に伝達される。
【0032】
別な態様では、本発明は、(a)表1、3及び4に記載のバイオマーカーにテスト化合物を接触させること、及び(b)テスト化合物が、表1、3及び4に記載のバイオマーカーと相互作用するかを判定することを含んでなる、表1、3及び4に記載のバイオマーカーと相互作用する化合物を同定する方法を提供する。
【0033】
別な態様では、本発明は、細胞中のカルグラヌリンCの濃度を調節する方法を提供する。この場合の方法は、当該細胞に、カルグラヌリンCの開裂を防止する抑制剤を接触させることを包含する。
【0034】
本発明は、対象の症状を治療する方法を更に提供する。この場合の方法は、対象に、カルグラヌリンCの開裂を防止する、カルグラヌリンCの抑制剤の治療有効量を投与することを包含する。関連の態様では、前記症状は、卵巣癌である。
【0035】
本発明のその他の特徴、目的及び利点、並びにその好ましい態様は、以下の詳細な記述、実施例、請求の範囲から認識されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(発明の詳細な説明)
1. 緒言
バイオマーカーは、別の表現型状態(例:疾病なし)と比較して、ある表現型状態(例:疾病あり)の対象から採取したサンプルに特異的に存在する有機生体分子である。異なったグループにおけるバイオマーカーの発現の平均又は中央値が、統計学的に有意であると算定された場合には、バイオマーカーは異なった表現型状態に対して特異的に存在している。統計学的有意に対する一般的な検定は多くあるが、特に、t検定、ANOVA、クラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis)、ウィルコクソン検定(Wilcoxon)、マン・ホイットニー検定(Mann-Whiteney)及びオッズ比(odds ratio)が挙げられる。バイオマーカーは、それ自体又は他との併用で、対象がある表現型又は別の表現型の状態に属していることを示す相対危険率の指標を提供する。従って、バイオマーカーは、疾患(診断)、医薬品の治療効果(治療的診断法)及び薬剤の毒性のためのマーカーとして有用である。
【0037】
本発明は、卵巣癌、特に卵巣癌(侵襲性上皮卵巣癌のような悪性癌)、悪性度の低い見込みの卵巣癌(LMP、不明確な疾患)、良性の卵巣疾患及び他の悪性症状(転移性癌(例えば、胃癌の卵巣への転移)、中皮腫、間質卵巣癌等を含む、侵襲性上皮卵巣癌以外の悪性腫瘍)を有する対象に異なって存在するポリペプチドベースのバイオマーカーを提供する。本発明のバイオマーカーは、質量分析により測定される質量対電荷の比、飛行時間型質量分析でのスペクトルピークの形、及び吸着体表面に結合する特性によって、特徴付けられる。これらの特徴は、特別に検出されるバイオマーカーが本発明のバイオマーカーであるかどうかを決定する方法を提供する。これらの特徴は、生体分子の特有の特徴を示し、バイオマーカーを識別する方法を限定するものではない。一態様では、本発明は、これらのバイオマーカーを単離された形態で提供する。
【0038】
本発明のバイオマーカーは、Ciphergen Biosystem社(Fremont, CA、「Ciphergen」)のプロテインチップアレイを採用するSELDI法を用いて見いだされた。卵巣嚢胞液は、卵巣癌(侵襲性上皮卵巣癌)、悪性度の低い見込みの卵巣癌(不明確な疾患)、他の悪性症状及び良性の卵巣疾患で、診断される対象から採取された。サンプルの一部は、分別しないで残し、他のサンプルは、陰イオン交換クロマトグラフィーによって分別した。分別しないサンプル及び分別したサンプルを、SELDIバイオチップに適用し、サンプルのポリペプチドのスペクトルを、Ciphergen PBSII質量分析計による飛行時間型質量分析によって得た。従って得られたスペクトルは、Ciphergen Biosystem社のバイオマーカーWizard付きのCiphergen Express(登録商標)Data Managerソフトウェア及びバイオマーカーパターン・ソフトウェアにより分析した。各々のグループの質量分析は、散布図分析にかけた。マン・ホイットニー検定分析は、散布図の各タンパク質クラスターの卵巣癌と対照グループを比較するために用い、タンパク質を2つのグループ間で有意に(p<0.0001)異なることで選択した。この方法は、実施例のところで詳細に記述する。
【0039】
このように見い出されたバイオマーカーを、表1に示す。「プロテインチップアレイ」欄は、実施例で記述のように、該当する場合バイオマーカーが見い出されたクロマトグラフィーの画分、バイオマーカーが結合するバイオチップの型及びバイオマーカーが卵巣癌を上方又は下方制御するのかどうかを示す。
【0040】
【表1】

1)ヘモグロビンα及びヘモグロビンβが、実施例でのSELDI検出アッセイで二重荷電されていることは注目されたい。
2)「悪性腫瘍での上方」は、バイオマーカーが、良性の卵巣疾患及び悪性度の低い見込みの卵巣癌(LMP、不明確な疾患)に対して、卵巣癌及び他の悪性症状(転移性癌(例えば、胃癌の卵巣への転移)、中皮腫、間質卵巣癌等を含む、侵襲性上皮卵巣癌以外の悪性腫瘍のような)を上方制御することを意味する。
3)「LMPでの下方」は、バイオマーカーが、その他の3つのグループ(つまり、良性の卵巣疾患、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状)に対して、悪性度の低い見込みの卵巣癌を下方制御することを意味する。
4)「r/o良性」は、バイオマーカーの存在が、良性の疾患の見込みであることを除くことを意味するが、単独でその他の3つのグループ(卵巣癌LMP、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状)間の診断をするには適当ではない。
5)「r/o悪性」は、バイオマーカーの存在が、悪性の疾患の見込みであることを除くことを意味するが、それだけで良性の卵巣疾患の診断をするには適当ではない。
6)「悪性腫瘍の下方」は、バイオマーカーが、良性の卵巣疾患及び悪性度の低い見込みの卵巣癌(LMP、不明確な疾患)に対して、卵巣癌及び他の悪性症状を上方制御することを意味する。
【0041】
本発明のバイオマーカーは、質量分析で測定されるようにそれらの質量対電荷の比によって特徴付けられる。各バイオマーカーの質量対電荷の比は、上記の表1、及び下記の表2&3の「M」のあとに示す。例えば、「M6420」は、6420の質量対電荷の比の測定値である。質量対電荷の比は、Ciphergen Biosystems社のPBSII質量分析計での質量スペクトルから決定した。本機器は、約±0.15%の質量精度を有する機器である。更に、本機器は、約400〜1000m/dm(ここで、mは質量を、dmは質量分析ピークの半値幅を示す)の質量分解能を有している。バイオマーカーの質量対電荷の比は、バイオマーカーWizard(登録商標)ソフトウェア(Ciphergen Biosystems, Inc.)を用いて決定した。バイオマーカーWizardでは、PBSIIで決定したように、すべての解析スペクトルにおける同一ピークの質量対電荷の比をクラスター化すること、クラスターにおける質量対電荷の比の最大値及び最小値を選ぶこと、そして2で割ること、により質量対電荷の比がバイオマーカーに割り付けられる。従って、質量は、これらの特徴を反映している。
【0042】
本発明のバイオマーカーは更に、飛行時間型質量分析におけるスペクトルのピークの形状によっても特徴付けられる。
【0043】
本発明のバイオマーカーはまた、それらのクロマトグラフィー表面への結合特性によっても特徴付けられる。本発明のバイオマーカーが結合するクロマトグラフィー表面の例として、これらに限定されないが、疎水性の吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)H50プロテインチップ(登録商標)アレイ)、陰イオン交換吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)Q10プロテインチップ(登録商標)アレイ)、陽イオン交換吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)CM10プロテインチップ(登録商標)アレイ)及び金属キレート吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)IMAC−30プロテインチップ(登録商標)アレイ)が挙げられる。数多くのバイオマーカーが、10%のアセトニトリルの結合及び洗浄緩衝液を用いて、疎水性吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)H50プロテインチップ(登録商標)アレイ)に結合する。幾つかのバイオマーカーは、50mMのトリス緩衝液(pH8.0)の結合及び洗浄緩衝液を用いて、陰イオン交換吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)Q10プロテインチップ(登録商標)アレイ)に結合する。数多くのバイオマーカーは、例えば、50mMのトリス緩衝液(pH8.0)/500mMのNaCl溶液の結合及び洗浄緩衝液を用いて、金属キレート吸着剤(例えば、銅と結合したCiphergen(登録商標)IMAC−30プロテインチップ(登録商標)アレイ)に結合する。殆どのバイオマーカーは、100mMの酢酸ナトリウム溶液(pH4)で洗浄後、陽イオン交換吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)CM10プロテインチップ(登録商標)アレイ)に結合する。
【0044】
本発明のある特定のバイオマーカーは、測定して同定され、表1に示す。測定に用いる方法は、実施例で記載する。同定されたバイオマーカーについては、バイオマーカーの存在を、当該技術分野で公知の他の方法(例えば、免疫学的測定)によって測定することができる。
【0045】
本発明のバイオマーカーは、質量対電荷の比、結合特性及びスペクトル形状によって特徴付けられるので、それらの明確な同定を知ることなく質量分析で検出することができる。しかしながら、望むならば、同定されていないバイオマーカーは、例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列を測定することにより決定することができる。例えば、バイオマーカーは、トリプシン又はV8プロテアーゼのような多くの酵素でペプチドをマッピングすることができ、そして種々の酵素で産生される分解フラグメントの分子量を用いて、一致するデータベースの配列を探すことができる。あるいは、タンパク質のバイオマーカーは、タンデム質量分析法を用いて配列を決定することができる。この方法では、タンパク質は、例えば、ゲル電気泳動法により単離されている。バイオマーカーを含むバンドは、切り取られ、タンパク質はプロテアーゼ消化に供される。個々のタンパク質フラグメントは、第一の質量分析計で分けられる。その後、フラグメントは、衝突誘導の冷却での処理をし、ペプチドを寸断して、ポリペプチド・ラダー(polypeptide ladder)を産生する。その後、ポリペプチド・ラダーは、タンデム質量分析の第二の質量分析計で分析される。ポリペプチド・ラダーの数の質量の違いにより配列のアミノ酸を同定する。タンパク質全体は、この方法で配列を決定することができるか、又は配列フラグメントは、候補を同定するのにデータベース発掘処理することができる。
【0046】
バイオマーカーを検出するための好ましい生体供給源は、卵巣嚢胞液である。しかしながら、他の態様では、バイオマーカーは、その他の体液、例えば、血清、血液又は尿から検出される。
【0047】
本発明のバイオマーカーは、生体分子である。従って、本発明は、単離された形態でこれらのバイオマーカーを提供する。バイオマーカーは、尿又は血清のような生体液から単離することができる。それらは、質量及び結合特性の両方に基づいて、当該技術分野で公知の何れかの方法で単離することができる。例えば、生体分子を含むサンプルは、本明細書に記載のクロマトグラフィーの分別処理をし、更に、例えば、アクリルアミド・ゲル電気泳動法により分離処理することができる。バイオマーカーが同定されていると、免疫親和性のクロマトグラフィーにより処理することもできる。
【0048】
3. バイオマーカー及びタンパク質の異なった形態
タンパク質は、しばしば検出可能な異なった質量を特徴とする複数の異なった形態でサンプル中に存在する。これらの形態は、転写前及び転写後修飾の何れか又は両方の結果によるものである。転写前の修飾形態には、対立遺伝子多型、スプライス変異体及びRNA編集形態等がある。転写後の修飾形態には、タンパク質分解的切断(例えば、親タンパク質のフラグメント)、グリコシル化、リン酸化、リピド化、酸化、メチル化、システイン化、スルフォン化及びアセチル化等がある。サンプル中のタンパク質を検出又は測定する場合に、タンパク質の異なる形態間を区別する能力は、形態の異なる性質及び検出又は測定に用いる方法に依存する。例えば、モノクローナル抗体を用いる免疫学的測定は、抗原決定基を含有するすべてのタンパク質形態を検出し、それらを識別しない。しかしながら、タンパク質上の異なる抗原決定基を指向した2種類の抗体を使用するサンドイッチ免疫学的測定では、両抗原決定基を含有するタンパク質のすべての形態を検出するが、抗原決定基の一方のみを含有する形態は検出しない。診断アッセイでは、特別な方法を用いて検出された形態が、特別な形態として同等の良好なバイオマーカーであるならば、タンパク質の形態の識別ができなくとも殆ど問題にはならない。しかしながら、タンパク質の特別な形態(又は特別な形態のサブセット)が、特別な方法で同時に検出される異なった形態の集合体よりもバイオマーカーとして良好である場合には、アッセイの検出力は劣る可能性がある。この場合には、タンパク質の形態を相互に識別し、且つタンパク質の形態(複数を含む)を特異的に検出し、測定するアッセイを採用することが有効である。分析対象物の異なった形態を識別すること、又は分析対象物の特殊な形態を特異的に検出することを、分析対象物を「分離すること(resolving)」と称する。
【0049】
質量分析は、異なった形態のタンパク質が、一般的には質量分析計で分離可能な異なる質量を有しているため、異なった形態を分離するためには特に強力な方法である。従って、タンパク質の一つの形態が、他の形態のバイオマーカーよりもある疾患に対して優れたバイオマーカーでありながら、従来の免疫学的測定がその形態を識別できず且つその有用なバイオマーカーを特異的に検出できない場合にも、質量分析では有用な形態を特異的に検出し測定できる可能性がある。
【0050】
有用な方法の一つは、質量分析と免疫学的測定を組み合わせたものである。先ず、生体特異的な捕捉剤(例えば、バイオマーカーとそのバイオマーカーの他の形態を認識する抗体、アプタマー又はAffibody)を、目標のバイオマーカーの捕捉のために使用する。好ましくは、生体特異的な捕捉剤は、ビーズ、プレート、膜又はチップのような固相に結合させる。非結合の物質を洗い去った後、捕捉された分析対象物を、質量分析にて検出及び/又は測定する。(この方法では、タンパク質と結合する又は場合によっては抗体により認識される、及びそれ自体がバイオマーカーとなり得る、タンパク質相互作用物が、捕捉されることになる。) 従来のMALDI又はSELDIのようなレーザー脱離法及びエレクトロスプレーイオン化法を含めた種々の形の質量分析が、タンパク質の形態を検出するために有用である。
【0051】
従って、特定のタンパク質の検出又は特定のタンパク質の定量について述べる時、それは種々の形態のタンパク質を分離して或いは分離せずに、そのタンパク質を検出及び測定することを意味する。例えば、「カルグラヌリンCを測定すること」という段階は、サンプル中の種々の形態のタンパク質を区別しない方法(例えば、免疫学的測定)、更にある形態を他の形態から区別する方法又はタンパク質の特定の形態を測定する方法(例えば、質量分析)、によるカルグラヌリンCの全ての形態及び/又はその何れかの形態を測定することを含む。対照的に、タンパク質の特定の形態(複数を含む)(例えば、切断、リン酸化、グリコシル化反応等により修飾された形態を含むカルグラヌリンCの特定の形態)を測定することが望まれる場合には、その特定の形態(又は複数の形態)が特定される。例えば、「M10430を測定すること」ということは、10430Daの見掛け分子量を有するポリペプチドを測定し、それでM10430形態を他の形態のカルグラヌリンCから区別することを意味する。
【0052】
4. 卵巣癌に関するバイオマーカーの検出
本発明のバイオマーカーは、すべての適切な方法により検出可能である。検出法の例として、光学的方法、電気化学的方法(ボルタンメトリー及び電流測定法)、原子間力顕微鏡及び例えば多極共鳴スペクトロスコピー等の高周波法がある。共焦点及び非共焦点の顕微鏡検査に加えて、光学的方法の実例としては、蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、及び複屈折又は屈折率(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共振ミラー法、グレーティングカプラ導波管法(grating coupler waveguide method)又は干渉分光法)による検出がある。
【0053】
一態様では、サンプルは、バイオチップを用いて分析される。バイオチップは一般に、捕捉剤(吸着剤又は親和性試薬とも称される)が付着する、一般に平らな表面を有する固定基質を包含する。しばしばバイオチップの表面は、それぞれが捕捉剤と結合する複数のアドレス可能な部位を包含する。
【0054】
プロテインバイオチップは、ポリペプチドの捕捉に適応したバイオチップである。多くのプロテインバイオチップが、当該技術分野で記載されている。これらには、例えば、Ciphergen Biosystems社(Fremont, CA)、Zyomyx(Hayward, CA)、Invitrogen(Carlsbad, CA)、Biacore(Uppsala, Sweden)及びProcognia(Berkshire, UK)により製造されているプロテインバイオチップがある。その様なプロテインバイオチップの例が、以下の特許又は公開特許出願に記載されている:US特許第6,225,047号(Hutchens et al.)、US特許第6,537,749号(Kuimelis et al.)、US特許第6,329,209号(Wagner et al.)、PCT国際公開第WO00/56934号公報(Englert et al.)、PCT国際公開第WO03/048768号公報(Boutell et al.)並びにUS特許第5,242,828号(Bergstrom et al.)。
【0055】
質量分析による検出
好ましい態様では、本発明のバイオマーカーは、気相イオンを検出するための質量分析計を用いる方法である、質量分析により検出される。質量分析計の例としては、飛行時間型、磁場型、四重極フィルター型、イオン・トラップ型、イオンサイクロトロン共鳴、静電場型(electrostatic sector)分析計及びこれらの複合型がある。
【0056】
更なる好ましい方法では、質量分析計は、レーザー脱離/イオン化質量分析計である。レーザー脱離/イオン化質量分析計では、分析対象物を、質量分析プローブの表面に置くが、このブローブは、質量分析計のプローブ・インターフェイス作動のために適合させ、且つイオン化及び質量分析計への導入のために分析対象物をイオン化エネルギーに曝露するものである。レーザー脱離質量分析計では、表面から分析対象物を離脱、揮発、イオン化させて、質量分析計のイオン光学系にそれらを曝露させるために、赤外線レーザーも用いられるが主として紫外線レーザー由来のレーザー・エネルギーが用いられる。LDIによるタンパク質の分析では、MALDI又はSELDIの形式を採用することができる。
【0057】
単一のTOF機器のレーザー脱離/イオン化は、一般に直列抽出様式で実施される。タンデム質量分析では、直交抽出様式を用いることができる。
【0058】
SELDI
本発明において使用される好ましい質量分析技術は、例えば、US特許第5,719,060号及び同第6,225,047号(共に「Hutchens et al.」)に記載されているように「表面増強レーザー脱離イオン化質量分析法」又は「SELDI」である。これは、分析対象物(ここでは、1つ又はそれ以上のバイオマーカー)がSELDI質量分析計プローブの表面に捕捉されている、脱離/イオン化気相イオン分析計(例えば、質量分析計)の方法を意味する。
【0059】
SELDIの一つのバージョンは、「親和性捕捉質量分析計」であり、「表面増強親和性捕捉」又は「SEAC」とも称される。当該バージョンには、物質と分析対象物間の非共有結合の親和性相互作用(吸着)を介して、分析対象物を捕捉する物質をプローブ表面に有しているプローブの使用が含まれる。この物質は、「吸着剤」、「捕捉剤」、「親和剤」又は「結合部」とさまざまに称されている。その様なプローブは、「親和性捕捉プローブ」として、及び「吸着表面」を有しているものを示すことができる。捕捉剤には、分析対象物と結合可能であれば何れの物質でもよい。捕捉剤は、物理吸着又は化学吸着によりプローブ表面に付着する。ある態様では、プローブは、表面に既に付着されている捕捉剤を有するものである。他の態様では、プローブは、予め活性化され、例えば、共有結合又は配位結合を形成する反応を介して、捕捉剤を結合できる反応部を有している。エポキシド及びアシル−イミダゾールが、抗体又は細胞受容体のようなポリペプチド捕捉剤と共有結合する有用な反応部である。ニトリロ三酢酸及びイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有のペプチドと非共有結合的に相互作用する金属イオンと結合する、キレート剤として機能する有用な反応部である。吸着剤は一般に、クロマトグラフィー用吸着剤と生体特異的な吸着剤に類別される。
【0060】
「クロマトグラフィー用吸着剤」は、クロマトグラフィーで一般的に使用される吸着剤を指す。クロマトグラフィー吸着剤としては、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えば、ニトリロ三酢酸及びイミノ二酢酸)、固定化金属キレート剤、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純生体分子(例えば、核酸、アミノ酸、単糖及び脂肪酸)及び混合モードの吸着剤(例えば、疎水性吸引/静電反発力吸着剤)がある。
【0061】
「生体特異的な吸着剤」とは、例えば核酸分子(例:アプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイド又はこれら物質の抱合体(例:糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えば、DNA)−タンパク質抱合体)を示す。ある例においては、生体特異的な吸着剤は、多タンパク質複合体、生体膜又はウイルスのような巨大分子構造である場合もある。生体特異的な吸着剤の例としては、抗体、受容体タンパク質及び核酸がある。一般に生体特異的な吸着剤は、クロマトグラフィー吸着剤より高い特異性を有している。SELDIに使用される吸着剤の更なる例は、US特許第6,225,047号に見い出すことができる。「生体選択的な吸着剤」とは、少なくとも10−8Mの親和性で分析対象物に結合する吸着剤を示す。
【0062】
Ciphergen Biosystems社が製造したプロテインバイオチップは、アドレス可能な部位に付着されるクロマトグラフィー吸着剤又は生体特異的な吸着剤を有する表面を包含する。Ciphergenプロテインチップ(登録商標)アレイには、NP20(親水性);H4及びH50(疎水性);SAX−2、Q−10及びLSAX−30(陰イオン交換);WCX−2、CM−10及びLWCX−30(陽イオン交換);IMAC−3、IMAC−30及びIMAC−50(金属キレート);並びにPS−10、PS−20(アシル−イミダゾール、エポキシドを有する反応性表面)及びPG−20(アシルイミダゾールを介して結合したプロテインG)が含まれる。疎水性プロテインチップアレイは、イソプロピル又はノニルフェノキシ-ポリ(エチレングリコール)メタクリル樹脂官能基を有している。陰イオン交換プロテインチップアレイは、四級アンモニウム官能基を有する。陽イオン交換プロテインチップアレイは、カルボン酸官能基を有する。固定化金属キレートプロテインチップアレイは、キレートを作ることにより銅、ニッケル、亜鉛及びガリウム等の遷移金属イオンを吸着するニトリロ三酢酸官能基(IMAC3及びIMAC30)又はO−メタクリロイル-N,N-ビス-カルボキシメチルチロシン官能基(IMAC50)を有する。予め活性化されたプロテインチップアレイは、タンパク質上の基と反応し共有結合できる、アシル−イミダゾール又はエポキシド官能基を有する。
【0063】
この様なバイオチップに関しては更に、US特許第6,579,719号(Hutchensらの「Retentate Chromatograpy」、2003年6月17日)、US特許第6,897,072号(Richらの「気相イオン分光計のプローブ」、2005年5月24日)、US特許第6,555,813号(Beecheretらの「気相質量分析計における疎水性被覆含有サンプルホルダー」、2003年4月29日)、US特許公開第US2003-0032043A1号公報(Pohlらの「ラテックスをベースとする吸着剤チップ」、2002年7月16日)、PCT国際特許公開第WO03/040700号公報(Umらの「疎水性表面チップ」、2003年5月15日)、US特許公開第US2003/0218130A1号公報(Boschettiらの「多糖をベースとするヒドロゲルで被覆された表面を有するバイオチップ」、2003年4月14日)及びUS特許第7,045,366号(Huangらの「光架橋ヒドロゲル表面被覆」、2006年5月16日)に記載されている。
【0064】
一般に、吸着剤表面を有するプローブは、サンプル中に存在しているバイオマーカー(複数を含む)が吸着剤に結合するに十分な時間でサンプルと接触させる。インキュベーション後、非結合の物質を除去するために基質を洗浄する。適切な洗浄溶液は、すべて使用可能であるが、水溶性溶液を用いることが好ましい。分子が結合して残存する割合は、洗浄の程度を調整することにより操作可能である。洗浄溶液の溶離特性は、例えばpH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの程度、洗浄の強度、及び温度に依存する。プローブが、SEAC及びSENDの特性の何れも有していない場合には(ここに記載されているように)、分子を吸収するエネルギーが、結合バイオマーカーを有する基質に適用される。
【0065】
別の方法においては、バイオマーカーに結合する抗体を有している固相結合の免疫吸着剤によりバイオマーカーが捕捉され得る。非結合物質を除去するために吸着剤を洗浄した後、バイオマーカーを固相から溶出し、バイオマーカーに結合するSELDIチップに添加し、SELDIにて分析する。
【0066】
基質に結合したバイオマーカーは、飛行時間型質量分析計のような気相イオン分光計にて検出される。バイオマーカーは、レーザーのようなイオン化源によりイオン化され、生成したイオンはイオン光学アセンブリにて集束させ、続いて質量分析計にて通過イオンを分散させて、通過イオンを分析する。続いて検出器により検出イオンの情報を質量対電荷の比に変換する。一般に、バイオマーカーの検出には、シグナル強度の検出が含まれる。従って、バイオマーカーの量及び質量を、共に測定することができる。
【0067】
SEND
レーザー脱離質量分析計を用いた別の方法は、表面増強Neat脱離法(SEND)と称される。SENDには、プローブの表面に化学的に結合するエネルギー吸収分子から成るプローブ(SENDプローブ)の使用が含まれる。「エネルギー吸収分子」(EAM)という語句は、レーザー脱離/イオン化源からエネルギーを吸収でき、続いてその後直ちに接触して分析対象物分子の脱離及びイオン化に寄与できる分子を意味する。EAMカテゴリーには、しばしば「マトリックス」と称されるMALDIに使用される分子が含まれ、実例として桂皮酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアノ水酸化桂皮酸(CHCA)及び二水酸化安息香酸、フェルラ酸及び水酸化アセトフェノン誘導体がある。ある態様においては、エネルギー吸収分子は、例えばポリメタクリレート等の直鎖又は架橋ポリマーに組み込まれている。例えば、その組成物が、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸及びアクリレートの共重合体である場合もある。別の態様では、その組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸、アクリレート及び3−(トリエトキシ)シリルプロピルメタクリレートの共重合体である。また、別の態様では、その組成物は、α-シアノ-4-メタクリロイルオキシ桂皮酸及びオクタデシルメタクリレート(C18SEND)の共重合体である。SENDは更に、US特許第6,124,137号及びPCT国際特許公開第WO03/64594号(キタガワらの「分析対象物の脱離/イオン化に使用するエネルギー吸収部位を有するモノマー及びポリマー」2003年8月7日)に記載されている。
【0068】
SEAC/SENDは、捕捉剤及びエネルギー吸収分子の両方が、サンプルの存在する表面に付着している、レーザー脱離質量分析計のバージョンである。従って、外部マトリックスを適用することを必要としないで、親和性捕捉及びイオン化/脱離を介してSEAC/SENDプローブに分析対象物を捕捉することが可能となる。C18のSENDバイオチップは、捕捉剤として機能するC18及びエネルギー吸収部位として機能するCHCA部分からなるSEAC/SENDのバージョンである。
【0069】
SEPAR
LDIの別のバージョンは、表面増強感光付加及び脱離(Surface-Enhanced Photolabile Attachment and Release)(SEPAR)と称される。SEPARには、分析対象物と共有結合でき、続いて光(例えば、レーザー光(US特許第5,719,060号を参照されたい))に曝露された後その部分の光に不安定な結合が開裂することにより分析対象物を脱離する、表面に付着する部分を有するプローブの使用が含まれる。SEPAR及びその他のSELDIの形態は、本発明に従ってバイオマーカー又はバイオマーカー・プロフィールを検出するのに容易に適応する。
【0070】
MALDI
MALDIは、タンパク質及び核酸のような生体分子を分析するために使用されるレーザー脱離/イオン化の従来からの方法である。MALDIの一方法において、サンプルをマトリックスと混合し、直接MALDIチップ上に置く。しかしながら、血清又は尿のような生体サンプルの複雑性により、サンプルを予め分別しない場合にはこの方法は最適とはならない。従って、ある態様では、生体特異的な物質(例えば抗体)又は樹脂のような固体担体に結合したクロマトグラフィー材料(例えば、スピン・カラムで)で、バイオマーカーを先ず捕捉させる。本発明のバイオマーカーに結合する特異的な親和性物質に関しては、上述の通りである。親和性物質上での精製後、バイオマーカーを溶出し、続いてMALDIにより検出する。
【0071】
別な質量分析法では、バイオマーカーは、先ずバイオマーカーと結合するクロマトグラフィー性質を有するクロマトグラフィー樹脂上で捕捉される。本発明の実施例では、これには、種々の方法が含まれる。例えば、一つの方法は、バイオマーカーをCMセラミックHyperD F樹脂のような陽イオン交換樹脂上に捕捉し、樹脂を洗浄し、バイオマーカーを溶出し、そしてMALDIにより検出することができる。あるいは、この方法に先行して、陽イオン交換樹脂の処理前に陰イオン交換樹脂でサンプルを分別する。別にまた、陰イオン交換樹脂で分別して、直接MALDIにより検出する方法もある。更なる別な方法では、バイオマーカーと結合する抗体を包含する免疫クロマトグラフィー樹脂上にバイオマーカーを捕捉し、非結合の物質を洗い流し、バイオマーカーを樹脂から溶出し、そして溶出したバイオマーカーをMALDI又はSELDIにより検出する。
【0072】
質量分析計におけるイオン化のその他の形態
別の方法では、バイオマーカーを、LC−MS又はLC−LC−MSにて検出する。この方法には、液体クロマトグラフィーを1回又は2回通過させてサンプル中のタンパク質を分離し、次いで一般的にはエレクトロスプレーイオン化にて質量分析する過程が含まれる。
【0073】
データ解析
飛行時間型質量分析法による分析対象物の分析では、飛行時間スペクトルが得られる。最終的に解析された飛行時間スペクトルは一般的に、サンプルに対するイオン化エネルギーの単一パルスからのシグナルを示すのではなく、複数のパルスからのシグナルの総計を示している。これによりノイズが減少し、ダイナミックレンジが高くなる。次にこの飛行時間型データを、データ処理にかける。Ciphergenのプロテインチップ(登録商標)ソフトウエアでは、データ処理にはマススペクトル作成のためのTOF-to-M/Z変換処理、機器オフセットを除外するためのベースラインの減算処理及び高周波数雑音を減少させるための高周波数雑音フィルター処理が含まれる。
【0074】
バイオマーカーの脱離及び検出により作成されるデータは、プログラムを組むことができるデジタル・コンピュータを使用して解析可能である。コンピュータプログラムを用いて、検出されたバイオマーカーの数を示すデータ、並びに場合に応じてシグナル強度及び検出された各バイオマーカーの分子の質量を決定する。データ解析には、バイオマーカーのシグナル強度を決定する段階、及び予め定めておいた統計的分布から外れたデータを除外する段階を組み込むことができる。例えば、幾つかの標準に対する各ピークの高さを計算することにより、観察されるピークを正規化することができる。
【0075】
コンピュータは、得られたデータを表示のために種々のフォーマットに変換することができる。標準的なスペクトルが表示可能であるが、一つの有用なフォーマットではピークの高さ及び質量の情報のみがスペクトル図に保持され、その結果見易い画像が得られ、ほぼ同等の分子量を有するバイオマーカーがより容易に認識できる。別の有用なフォーマットでは、2つ又はそれ以上のスペクトルを比較し、固有のバイオマーカー及びサンプル間で上方又は下方制御されるバイオマーカーを都合良く強調表示されている。これらのフォーマットの何れかを用いることにより、特定のバイオマーカーがサンプル中に存在しているか否かを、容易に判定できる。
【0076】
一般に分析には、分析対象物からのシグナルを示すスペクトルのピークの同定も含まれる。ピークの選択は目視で行うが、ピークの検出を自動で行えるCiphergenのプロテインチップ(登録商標)ソフトウエア・パッケージの一部としてソフトウエアを入手できる。一般に、このソフトウエアは、選択した閾値を越えるシグナル対ノイズの比を示すシグナルを同定し、そしてピークシグナルの質量中心にあるピークの質量を標識する機能がある。有用な適用の一つでは、多くのスペクトルを比較して、マススペクトルにおいて或る選択された割合で存在している同一ピークを同定する。このソフトウエアのバージョンの一つでは、種々のスペクトルに出現するすべてのピークを、規定された範囲内にクラスター化し、そして質量(M/Z)クラスターの中心点に近いすべてのピークの質量(M/Z)を決定する。
【0077】
データを解析するために用いられるソフトウエアには、シグナルが本発明によるバイオマーカーに対応するシグナル内にピークを示しているか否かを判定するために、シグナルの分析にアルゴリズムを適用するコードを含めることができる。またそのソフトウエアにより、検査中の特定の臨床パラメータの状態を示す、バイオマーカーピーク又はバイオマーカーピークの組み合わせが存在しているか否かを判定するために、観察されたバイオマーカーのピークに関するデータを分類ツリー解析又はANN解析することができる。データの解析には、直接的又は間接的の何れかでサンプルの質量分析から得られる種々のパラメータが「重要(keyed)」となる可能性がある。これらのパラメータには、1つ又はそれ以上のピークが存在するか否か、1つのピーク又は1群のピークの形状、1つ又はそれ以上のピークの高さ、1つ又はそれ以上のピークの高さの対数、及びその他のピークの高さに関するデータの算術乗算が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
卵巣癌に対するバイオマーカーのSELDI検出のための一般的なプロトコール
本発明のバイオマーカーの検出に関する好ましいプロトコールは、以下の通りである。別な態様では、例えば、卵巣嚢胞液等の検査される生体サンプルは、SELDI分析の前に予備分別することが好ましい。この予備分別工程が、サンプルを簡素化し、感度を向上させる。予備分別の好ましい方法には、Q HyperD(BioSepra, SA)のような陰イオン交換クロマトグラフィー材料にサンプルを接触させることが含まれる。続いて結合物質を、pH9、pH7、pH5及びpH4の緩衝液を用いて段階的なpHでの溶出を実施する。(バイオマーカーが溶出される画分も、表1に示した。) バイオマーカーを含有している種々の画分を採取する。別な態様では、例えば、卵巣嚢胞液サンプル等の検査される生体サンプルは、予備分別の工程を経ずに、分別しないままでチップ結合工程に使用される。
【0079】
検査されるサンプル(分別しない又は予備分別する)を、次いで親和性の捕捉プローブに接触させる。本発明のバイオマーカーが結合するクロマトグラフィー表面の親和性の捕捉プローブの例として、これらに限定されないが、疎水性の吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)H50プロテインチップ(登録商標)アレイ)、陰イオン交換吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)Q10プロテインチップ(登録商標)アレイ)、陽イオン交換吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)CM10プロテインチップ(登録商標)アレイ)及び金属キレート吸着剤(例えば、Ciphergen(登録商標)IMAC−30プロテインチップ(登録商標)アレイ)が挙げられる。プローブは、非結合分子は洗い流すがバイオマーカーを保持するように、緩衝液で洗浄する。各々のバイオマーカーに適した洗浄液は、実施例で同定されている緩衝液である。バイオマーカーは、レーザー脱離/イオン化質量分析計にて検出される。
【0080】
あるいは、変性させた又は変性させていないサンプルを、各分析対象物を検出するための最適条件下で、適切なアレイ結合緩衝液に希釈し、結合させ、そして洗浄する。
【0081】
あるいは、例えば、アポリポタンパク質C1(ApoC1)、ヘモグロビンα、ヘモグロビンβ、アポリポタンパク質AII(ApoAII)、アポリポタンパク質CII(ApoCII)、カルグラヌリンC(全長及び切断型の両方)、カルグラヌリンA、IgG重鎖、カルサイクリン及びトランスサイレチンのケースでバイオマーカーを認識する抗体が入手可能な場合には、これらを予め活性化したPS10又はPS20プロテインチップアレイ(Ciphergen Biosystems, Inc.)のようなプローブの表面に結合させることができる。これらの抗体は、サンプルからバイオマーカーをプローブ表面に捕捉することができる。続いてバイオマーカーは、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析等にて検出できる。
【0082】
流体工学的操作を行うすべてのロボットが、これらのアッセイには使用可能であり、それらは、例えば、Hewlett Packard及びHamilton等から入手可能である。
【0083】
免疫学的測定による検出
本発明の別な態様において、本発明のバイオマーカーは、質量分析又はバイオマーカーの質量測定に基づく方法以外によって、測定される。別な態様では、本発明のバイオマーカーは、免疫学的測定により測定される。免疫学的測定では、バイオマーカーを捕捉するために、抗体のような生体特異的な捕捉剤が必要である。抗体は、例えば動物をバイオマーカーで免疫化する等の、当該技術分野において広く知られた方法により作成可能である。バイオマーカーは、それらの結合特性に基づいてサンプルから単離可能である。あるいは、ポリペプチド・バイオマーカーのアミノ酸配列が既知の場合には、ポリペプチドは合成可能であり、当該技術分野で良く知られている方法により抗体の産生に利用できる。
【0084】
本発明では、例えば、ELISA又は蛍光ベースの免疫学的測定等を含むサンドイッチ免疫学的測定、更に他の酵素免疫学的測定を含めた従来の免疫学的測定も考慮に入れている。比濁分析は、液層で行われるアッセイであり、その場合には抗体は溶液に存在している。抗原が抗体に結合すると吸着能が変化するが、それを測定する。SELDIベースの免疫学的測定では、バイオマーカーに対する生体特異的な捕捉剤は、予め活性化されたプロテインチップアレイのようなMSプローブの表面に付着している。従って、バイオマーカーは、この試薬を介してバイオチップに特異的に捕捉され、捕捉されたバイオマーカーが質量分析計にて検出される。
【0085】
5. 対象の卵巣癌症状の判定
本発明のバイオマーカーは、例えば卵巣癌を診断するために対象における卵巣癌の症状を評価するための診断検査に使用できる。「卵巣癌の症状」という語句は、疾患のすべての識別可能な徴候が含まれる。例えば、卵巣癌の症状には、疾患の有無(例えば、卵巣癌(悪性)、悪性レベルの低い見込みの卵巣癌、良性の卵巣疾患、他の悪性症状のそれぞれの比較)、疾患の進行リスク、疾患の段階、疾患の経過(例えば、経時的な疾患の悪化又は緩解)及び疾患治療に対する有効性又は応答が含まれるが、これらに限定されるものではない。このような症状をベースにして、追加の診療検査又は治療手段を含む、更なる治療方法を示すことができる。
【0086】
検査結果と卵巣癌の症状との相関には、幾つかの分類アルゴリズムをその症状を惹起する結果に適用することが含まれる。分類アルゴリズムは、所定のバイオマーカーの測定量が、特定のカットオフ番号より大きいか又は小さいかを判定するだけという単純な場合もある。複数のバイオマーカーを利用する場合には、分類アルゴリズムは線形回帰式である場合もある。あるいは、分類アルゴリズムは本明細書に記載されている多くの学習アルゴリズムの何れかの産物であってもよい。
【0087】
複雑な分類アルゴリズムの場合には、データに関してアルゴリズムを実施することが必要となる場合もあり、これにより、コンピュータ、例えばプログラム可能なデジタル・コンピュータ等を用いて分類を決定する。何れの場合においても、メモリー・ドライブ、ディスク又は紙に印刷されている等のコンピュータの読み取り可能なフォーマットにおいて有形の表現媒体上にその症状を記録できる。結果はまた、コンピュータのスクリ−ン上に報告することも可能であろう。
【0088】
単一のマーカー
症状を正しく予測する診断検査の検出力は、アッセイの感度、アッセイの特異性又は受診者動作特性(ROC)分析曲線下面積として通常測定される。感度は、陽性であると検査で予測される真陽性の割合であるが、特異性は、陰性であると検査で予測される真陰性の割合である。ROC曲線は、(1−特異性)の関数として検査の感度を与える。ROC曲線下面積が大きければ大きいほど、検査の予測値はより正確となる。検査の効用に関する他の有用な尺度は、陽性予測値及び陰性予測値である。陽性予測値は検査で陽性であり、実際に陽性であった人の割合である。陰性予測値は検査で陰性であり、実際に陰性であった人の割合である。
【0089】
本発明のバイオマーカーは、異なった卵巣癌の症状において統計学的な差異を、少なくともP≦0.05、P≦10−2、P≦10−3、P≦10−4又はP≦10−5で示す。これらのバイオマーカーを単独又は組み合わせて使用する診断検査は、感度及び特異性が少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%及びおよそ100%であることを示す。
【0090】
表1、3及び4に示した各バイオマーカーは、卵巣癌(悪性)、卵巣癌LMP、良性の卵巣疾患又は他の悪性症状に、異なって存在し、従ってそれぞれが個々に卵巣癌の症状を判定する際の補助として有用である。その方法には、第一に例えば、SELDIバイオチップに捕捉し、次いで質量分析計にて検出する等の、本明細書に記載されている方法を用いて対象のサンプル中の選択されたバイオマーカーを測定すること、第二に陽性の卵巣癌の症状を陰性の卵巣癌の症状と識別する診断量又はカットオフ値と測定値を比較することが含まれる。診断量は、バイオマーカーの測定量がその診断量より大きい又は小さいかで、対象が特定の卵巣癌症状にあるとして識別される量を表す。例えば、バイオマーカーが、正常に比較して卵巣癌では上方に制御されることから、測定量が診断カットオフ値より大きい場合には卵巣癌と診断される。あるいは、バイオマーカーが、正常に比較して卵巣癌では下方に制御されることから、測定量が診断カットオフ値より小さい場合には卵巣癌と診断される。当該技術分野で良く理解されているように、アッセイにおいて用いられる特定の診断カットオフ値を調整することにより、診断者の選択に基づいて診断アッセイの感度及び特異性を良くすることは可能である。特定の診断カットオフ値は、例えば本明細書で実施したように、異なった卵巣癌の症状にある対象からの統計学的に有意な数のサンプルにおけるバイオマーカーの量を測定し、そして診断者の望むレベルの特異性及び感度に合ったカットオフ値を描くことにより決定できる。
【0091】
マーカーの組み合わせ
個々のバイオマーカーは有用な診断バイオマーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせは、単一のバイオマーカーを単独で使用するよりも特定の症状に対してより大きな予測値を与えることが見出されている。具体的には、サンプル中の多数のバイオマーカーの検出により、検査の感度及び/又は特異性を増加させることができる。少なくとも2つのバイオマーカーの組み合わせは、場合によっては「バイオマーカー・プロフィール」又は「バイオマーカー・フィンガープリント」と称される。表1、3及び4で説明のバイオマーカーの組み合わせが検出することができる。同様に、表1、3及び4で説明のバイオマーカーの1つ又はそれ以上が、CA125のような他の公知の卵巣癌のバイオマーカーと組み合わせて検出することができる。本発明のバイオマーカーと組み合わせて有用な公知の卵巣癌バイオマーカーの例では、これらに限定されないが、PCT国際特許公開第WO03/057014号公報及び同第WO2004/012588号公報に記載のものが挙げられ、これらの両方共を、全ての目標のために本明細書に参照して取り込む。
【0092】
以下の実施例に記載のプロトコールは、65名の患者のサンプルからのマススペクトルを作成するために使用した。その内30名が卵巣癌と診断され、35名には卵巣癌が存在しなかった。ピークの質量及び高さは、開示のデータセットに纏めた。このデータセットは、分類回帰ツリー解析(CART:classification and regression tree analysis)(Ciphergen Biomarker Patters Software(登録商標))を用いる学習アルゴリズムをならすのに使用した。特に、CARTは、ランダムに多くのピークのサブセットを選んだ。各々のサブセットに対して、CARTは、卵巣癌(悪性)、卵巣癌LMP、良性の卵巣疾患又は他の悪性症状としてサンプルを分類する、最良の又は最良に近い決定ツリーを作成した。CARTで作成した多くの決定ツリーでは、良性の卵巣疾患に対して悪性レベルの低い見込みの卵巣癌と卵巣癌(侵襲性の上皮卵巣癌のような悪性)を区別するのに、幾つかが極めて優秀な感度及び特異性を有していた。
【0093】
決定ツリーの詳細、特に分岐の決定に用いられるカットオフ値は、開示データセットを作成するのに使用するアッセイの詳細に依存することは、注目される。本分析に使用するアッセイのデータ取得パラメーターは、実施例で提供される。例えば、新しいサンプルセット又は異なるアッセイプロトコールからの分類アルゴリズムの開発では、操作者は、これらのバイオマーカーを検出するプロトコールを用い、それらを含むように学習アルゴリズムに入力する。
【0094】
本発明のバイオマーカーの何れかの測定値を含む卵巣癌の症状の診断検査は、表2に同定される以下の卵巣癌のバイオマーカー(それらの適切な修飾型を含む)の何れかと組み合わせる:
【0095】
【表2】


【0096】
本発明のバイオマーカーと組み合わせることのできる他のバイオマーカーには、これらに限定されないが、CTAP3、CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連のトリプシン抑制剤(TATI)、CEA、胎盤のアルカリフォスファターゼ(LAP)、シアリルTN、ガラクトシル・トランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、 リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の細胞外領域の110kD成分(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタシン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA,HER−2/neu,尿ゴナドトロピン・ペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、SMRP、オステオポンチン、ハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様成長因子I又はIIが含まれる。
【0097】
卵巣癌症状
卵巣癌症状を判定するには、診断検査結果に基づき2又はそれ以上のグループ(症状)の一つに個体を通常分類する。本明細書に記述した診断検査は、幾つかの異なった症状に分類するのに用いることができる。
【0098】
卵巣癌の存在
一態様では、本発明は、対象における卵巣癌の存在又は非存在(症状:卵巣癌対悪性レベルの低い見込みの卵巣癌又は良性の卵巣疾患)を判定する方法を提供する。卵巣癌の存在又は非存在は、関連のバイオマーカー(複数を含む)を測定し、次いで分類アルゴリズムを適用するか又は特定のリスクレベルと関連するバイオマーカーの参考量及び/又はパターンと比較することにより判定される。
【0099】
発症リスクの判定
一態様では、本発明は、対象に於ける疾患の発症リスクを判定する方法を提供する。バイオマーカー量又はパターンは、種々なリスク状態(例えば、高い、中程度又は低い)の特性である。発症のリスクは、関連のバイオマーカー(複数を含む)を測定し、次いで分類アルゴリズムを適用するか又は特定のリスクレベルと関連するバイオマーカーの参考量及び/又はパターンと比較することにより判定される。
【0100】
疾患の段階の判定
一態様では、本発明は、対象に於ける疾患の段階を判定する方法を提供する。疾患の各段階において、バイオマーカーの特徴的な量又はバイオマーカーのセット(パターン)の相対量が存在する。疾患の段階は、関連バイオマーカー(複数を含む)を測定し、次いで分類アルゴリズムを適用するか又は特定の段階と関連するバイオマーカーの参考量及び/又はパターンと比較することにより判定される。例えば、初期卵巣癌と、非卵巣癌又はステージIの卵巣癌、ステージIIの卵巣癌及びステージIIIの卵巣癌とを区別をすることができる。
【0101】
疾患の経過(進行/緩解)の判定
一態様では、本発明は、対象での疾患の経過を判定する方法を提供する。疾患の経過とは、疾患の進行(悪化)、緩解(改善)を含む経時的変化を言う。時間の経過と共に、バイオマーカーの量又は相対的な量(例えば、パターン)が変化する。そこで、これらのマーカーの傾向(例えば、疾患又は無疾患に関連して経時的に増加又は減少のどちらか)が、疾患の経過を示すことになる。従って、この方法では、対象での1つ又はそれ以上のバイオマーカーを少なくとも2つの異なる時点(例えば、1回目、2回目)で測定し、変化が存在すればそれを比較する。疾患の経過は、これら比較に基づいて判定される。
同様に、疾患の進行(又は、緩解)の変化の違いがバイオマーカー量(例えば、表1のペプチドのバイオマーカー)を、異なった時点で測定し、そしてバイオマーカー量の変化の速度を計算することによりモニターできる。疾患の症状又は疾患の進行の速度を測定できることは、治療を通して疾患の進行を緩める又は停止させることが目的の治療薬剤の検討に重要である。
【0102】
症状の報告
本発明の追加の態様は、アッセイ結果若しくは診断結果の何れか又はそれらの両方を、例えば技師、医者又は患者に伝えることに関する。ある態様では、アッセイ結果又は診断結果の何れか又はそれらの両方を、関心を有する者、例えば医者とその患者に伝えるのにコンピュータが用いられる。幾つかの態様では、結果又は診断が報告される国又は法域とは異なった国又は法域で、アッセイ又はアッセイ結果の分析が行われる。
【0103】
本発明の好ましい態様では、表1、3及び4に記載のペプチド・バイオマーカーの何れかの検査対象における差別的な存在に基づいた診断を、その診断後できるだけ早くその対象に伝える。診断は、その対象を治療している医者から伝えるか、あるいは検査の対象に電子メール又は電話で伝えてもよい。電子メール又は電話で診断を伝えるのにコンピュータを用いてもよい。ある態様では、診断検査の結果を含むメッセージを作成し、電気通信業界の当業者にはよく知られたコンピュータソフト及びハードの組み合わせを用い、対象に自動的に送られる。ヘルスケア指向のコミュニケーションシステムの一例が、米国特許第6,283,761号に記述されているが、本発明はこの特定のコミュニケーションシステムを用いる方法に限られるものではない。本発明の方法のある態様では、サンプルのアッセイ、疾患の診断及びアッセイ結果又は診断の伝達を含む方法の全てのステップ又は一部が、種々な法域(例えば、外国)で実施される。
【0104】
対象の管理
卵巣癌症状を認定する方法のある態様では、症状に応じて対象の治療を管理することが方法に含まれる。そのような管理には、卵巣癌症状の判定に続いて取られる医師又は臨床医の活動が含まれる。例えば、医者が卵巣癌の診断をすれば、例えば、処方又は抗化学療法薬剤の投与のようなある特定の治療が実施される。あるいは、卵巣癌LMP又は良性の卵巣疾患の診断では、患者が罹っている特定の疾患を判定するために更に検査が行われる。また、診断検査で卵巣癌であるとの結論が得られない際は、更なる検査が必要となる。
【0105】
本発明の追加の態様は、アッセイ結果若しくは診断結果の何れか又はそれらの両方を、例えば技師、医者又は患者に伝えることに関する。ある態様では、アッセイ結果又は診断結果の何れか又はそれらの両方を、関心を有する者、例えば医者とその患者に伝えるのにコンピュータが用いられる。幾つかの態様では、結果又は診断が報告される国又は法域とは異なった国又は法域で、アッセイ又はアッセイ結果の分析が行われる。
【0106】
本発明の好ましい態様では、表1に記載のバイオマーカーの何れかの検査対象における存在する又は存在しないことに基づいた診断を、その診断後できるだけ早くその対象に伝える。診断は、その対象を治療している医者から伝えるか、あるいは検査の対象に電子メール又は電話で伝えてもよい。電子メール又は電話で診断を伝えるのにコンピュータを用いてもよい。ある態様では、診断検査の結果を含むメッセージを作成し、電気通信業界の当業者にはよく知られたコンピュータソフト及びハードの組み合わせを用い、対象に自動的に送られる。ヘルスケア指向のコミュニケーションシステムの一例が、米国特許第6,283,761号に記述されているが、本発明はこの特定のコミュニケーションシステムを用いる方法に限られるものではない。本発明の方法のある態様では、サンプルのアッセイ、疾患の診断及びアッセイ結果又は診断の伝達を含む方法の全てのステップ又は一部が、種々な法域(例えば、外国)で実施される。
【0107】
6. 製剤の治療効果の判定
別な態様では、本発明は、製剤の治療効果を判定する方法を提供する。これらの方法は、薬剤の臨床治験の実施、更にその薬剤の投与を受けている患者の進行をモニターするのに有用である。治療又は臨床治験では、薬剤を特定の投薬計画に基づき投与する。投薬計画としては、薬剤の単回投与量、又はある期間にわたる反復投与量が含まれうる。医者又は臨床研究者が、投与期間中の患者又は対象に対する薬の効果をモニターする。薬剤が、症状に薬理効果を有するならば、本発明のバイオマーカーの量又は相対量(例えば、パターン、又はプロフィール)は、疾患ではないプロフィールへと変化する。例えば、ApoCI及びヘモグロビンのバイオマーカーは、疾患と共に増大し、M32600のバイオマーカーは疾患と共に減少する。そこで、治療期間中に対象でのこれらバイオマーカー量の経過をフォローできる。従って、この方法では、薬剤治療を受けている対象での1つ又はそれ以上のバイオマーカーを測定し、対象の病状とバイオマーカー量を関連付けることが含まれる。本方法の一態様では、薬剤治療期間中の少なくとも2つの異なる時点(例えば、1回目及び2回目)での複数のバイオマーカーのレベルを判定し、バイオマーカー量の変化(もしあるとすれば)を比較する。例えば、複数のバイオマーカーを、薬剤投与の前後で、又は薬剤投与の2つの異なる時点で測定する。治療の効果は、これら比較に基づき判定する。もし治療が効果をあげているならば、複数のバイオマーカーは正常に向かい、もし治療効果がなければ、複数のバイオマーカーは疾患を示す方向に変化する。もし治療が効果をあげているならば、複数のバイオマーカーは正常に向かい、もし治療効果がなければ、複数のバイオマーカーは疾患を示す方向に変化する。
【0108】
7. 卵巣癌症状の認定のための分類アルゴリズムの作成
ある態様では、「公知のサンプル」のようなサンプルを用いて得られたスペクトル(例えば、マススペクトル又は飛行時間型スペクトル)から得られたデータは、分類モデルを「トレーニングする(train)」ために利用できる。「公知のサンプル」とは、前もって分類されたサンプルである。スペクトルから得られ、そして分類モデルを作成するために用いられるデータは、「トレーニングデータセット」と称する。一旦トレーニングされると、分類モデルは、未知のサンプルから得られたスペクトルから導かれたデータのパターンを認識できる。そこで、分類モデルは、未知のサンプルをクラスに分類するのに用いられる。これは、例えば、ある特別な生体サンプルをある特定の生体の状態に関連しているか又はそうでないのか(疾患対疾患でない)を、予想するに有用である。
【0109】
分類モデルを作成するのに用いるトレーニングデータは、生のデータ又は前もって処理したデータで構成される。幾つかの態様では、生のデータは飛行時間型スペクトル又はマススペクトルから直接得られ、その後上記のように任意に「前もって処理される」であってもよい。
【0110】
分類モデルは、データ中に存在する客観的パラメータに基づくクラスに、データ集団を分離することを試みる適切な統計的分類(又は「学習(learning)」)法を用い作成できる。分類方法は、監督又は不監督(監督されていない)どちらでもよい。監督又は不監督分類過程の例は、Jainの「統計的パターン認識:概説」(IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 22, No.1, January 2000)に記述されており、その教えるところは、参照することにより取り込まれている。
【0111】
監督下分類では、公知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータが、学習機構に提供され、それが公知のクラスの各々を定義する1つ又はそれ以上のセットの関係を学ぶ。その後、新しいデータを学習機構に適用し、それは学んだ関係を用いて新しいデータを分類する。監督下分類過程の例としては、線形回帰過程(例えば、多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗(PLS)回帰及び主構成要素回帰(PCR))、二分岐決定ツリー(例えば、CART−分類、回帰ツリーのような再帰形分割過程)、バック・プロパゲーションネットワークのような人工ニューラルネットワーク、判別分析(例えば、ベイジアン分類子又はフィッシャー分析)、ロジスティク分類子、及びサポートベクター分類子(サポートベクターマシン)が挙げられる。
【0112】
より好ましい監督下分類法は、再帰形分割過程である。再帰形分割過程では、未知のサンプルから誘導されるスペクトルを分類するために再帰形分割ツリーを利用する。再帰形分割過程の更なる詳細は、米国特許出願第2002/0138208A1号公報(Paulseらの「マススペクトルの分析法」)に記されている。
【0113】
他の態様例では、作成される分類モデルは、不監督の学習法を用いて作成される。不監督の分類では、トレーニングデータセットを得たスペクトルを前もって分類すること無しに、トレーニングデータセットの類似性に基づき分類を学ぶことを試みるものである。不監督の学習法には、クラスター分析が含まれる。クラスター分析では、理想的には互いに非常に類似し、そして他のクラスターのメンバーとは相違した「クラスター」又はグループに、データを分割することが試みられる。類似性は、次にデータ項目間の距離を測定するある距離関数を用いて測定し、そして互いに近いデータ項目を一緒にしてクラスター化する。クラスター化技術としては、MacQueenのK平均アルゴリズム及びKohonenの自己組織化マップアルゴリズムがある。
【0114】
生体情報を分類することに用いるよう主張される学習アルゴリズムは、例えば、PCT国際公開第WO01/31580号公報(Barnhillらの「生体システムのパターン認定法及びその装置並びにその使用法」)、米国特許出願第2002/0193950A1号(Gavinらの「マススペクトル法及び分析」)、米国特許出願第2003/0004402A1号(Hittらの「生体データからの隠れたパターンに基づき生体の状態間を区別する工程」)、米国特許出願第20030055615A1号(Zhangらの「生体発現データの処理システム及び方法」)が挙げられる。
【0115】
分類モデルは、適切なディジタルコンピュータで作成、また使用できる。適切なディジタルコンピュータとしては、Unix、Windows(登録商標)又はLinux(登録商標)ベースのオペレーティングシステムのような、標準又は特殊オペレーティングシステムの何れかを利用するマイクロ、ミニ、又は大型コンピュータが含まれる。用いるディジタルコンピュータは、目的のスペクトルを得るために用いる質量分析計から、物理的に分離しているか、又は質量分析計と結合していてもよい。
【0116】
本発明の態様によるトレーニングデータセット及び分類モデルは、ディジタルコンピュータで実施又は使用できるコンピュータでコード化できる。コンピュータコードは、オプティカル、又は磁気ディスク、スティック、テープ、その他のコンピュータで読み取り可能な適切な媒体に保存することができ、またC、C++、ビジュアルベーシック等適切なコンピュータ言語で書くことができる。
【0117】
上記の学習アルゴリズムは、既に見いだされたバイオマーカーの分類アルゴリズムの開発、及び卵巣癌の新しいバイオマーカーの発見の両方に有用である。また分類アルゴリズムは、単独又は組み合わせで用いられたバイオマーカーの診断値(例えば、カットオフポイント)を提供し、診断検査の基礎を形成する。
【0118】
8. 画像のためのバイオマーカーの使用
陽電子放出型断層撮影(PET)又は単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)の画像のような非侵襲性の医療画像法は、癌、冠動脈疾患及び脳疾患の検出に有効である。PET及びSPECTの画像は、他の画像技術(X線、CT及びMRIのような)が構造を示すのに比べて、器官及び組織の化学的な機能を示す。PET及びSPECTの画像の利用は、アルツハイマー病のような脳疾患の発症を認定したり、モニターすることへの利用が増加している。幾つかの事例では、PET及びSPECTの画像の利用で、アルツハイマー病をその発症より数年早く検出することが可能となる。例えば、Vassaux及びGroot−wassinkの「遺伝子治療のためのインビボ非侵襲性画像」(J. Biomedicine and Biotechnology, 2: 92-101 (2003))を参照されたい。
【0119】
異なった方策では、ヒトの脳でのアミロイド沈着のインビボ画像に適した化合物の開発に使用される。A−β及びペプチドフラグメントに対するモノクロナール抗体は、ADの患者の検査では脳への取り込みが制限されている。アミロイド画像の小分子の進入は、以下に記載のように最も成功したものである。例えば、「Nordberg A, Lancet Neurol., 3(9): 519-27 (2004)」、「Kung MP et al, Brain Res., 1025(1-2): 98-105 (2004)」、「Herholz K et al., Mol Imaging Biol., 6(4): 239-69 (2004)」、「Neuropsychol Rev., Zakzanis KK et al., 13(1): 1-18 (2003)」及び「Herholz K, Ann Nucl Med., 17(2): 79-89 (2003)」を参照されたい。
【0120】
本明細書で開示のペプチドバイオマーカー又はそのフラグメントは、PET及びSPECTの画像への適用の状況で使用されている。PET及びSPECTの適用に適したトレーサー残留物で修飾した後、アミロイドプラークタンパク質と相互作用するペプチドバイオマーカーを、アルツハイマー病患者のアミロイドプラークの沈着を画像化するのに使用することができる。
【0121】
アンチセンス技術は、転写物の翻訳が、本明細書で同定されるバイオマーカーで関連付けられるその転写物の発現を検出するのに使用される。例えば、111Inのような適当な放射性核種で標識され、そして生体膜バリアを横切って輸送できる脳の薬剤標的システムに包合されたアンチセンスペプチド核酸(PNA)が、脳癌での内生の遺伝子発現の画像化の実証に使用される。鈴木らの「Jounal of Nuclear Medicine, 10: 1766-1775 (2004)」を参照されたい。鈴木らは、血液脳関門で移送受容体を標的とし、そしてPNAがバリアを横断するのを容易にする、モノクロナール抗体を包含するデリバリーシステムを利用した。
【0122】
9. 物質の組成
他の態様として、本発明は、本発明のバイオマーカーをベースにした物質の組成物を提供する。
【0123】
一態様では、本発明は精製した形態で本発明のバイオマーカーを提供する。精製のバイオマーカーは、抗体を増大させる抗原として有用である。精製のバイオマーカーは、アッセイ方法での標準としても有用である。本明細書で用いられる「精製のバイオマーカー」とは、バイオマーカーが見出される生体サンプルからの、他のタンパク質、ペプチド及び/又は他の物質から単離されたバイオマーカーである。バイオマーカーは、機械的分離(例えば、遠心分離)、硫酸アンモニウム沈殿、透析(サイズ排除の透析を含む)、サイズ排除のクロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、及び金属キレートクロマトグラフィーを含む、当該技術分野で公知の方法で精製されるが、これらに限定されるものではない。そのような方法は例えば、クロマトグラフィーカラム又はバイオチップ等の何れか適当なスケールで実施できる。
【0124】
別な態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに特異的に結合する生体特異的な捕捉剤を提供する。一態様では、生体特異的な捕捉剤は、抗体である。そのような組成物は、検出アッセイ、例えば、診断でバイオマーカーを検出するのに有効である。
【0125】
別な態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーを結合する生体特異的な捕捉剤(ここにおける捕捉剤は固体相に結合する)を提供する。例えば、本発明では、生体特異的な捕捉剤で被覆されるビーズ、チップ、膜、モノリス又はマイクロタイタープレートからなる装置が考えられる。そのような物体は、バイオマーカー検知アッセイで有用である。
【0126】
別の態様では、本発明は、本発明のバイオマーカーに結合する抗体のような生体特異的な捕捉剤からなる組成物(精製した形態であってもよい)を提供する。そのような組成物は、バイオマーカーの精製又はバイオマーカーを検出するアッセイで有用である。
【0127】
別な態様では、本発明は、吸着剤、例えば、クロマトグラフィー吸着剤又は生体特異的な捕捉剤に付着する固体基質(本発明のバイオマーカーに更に結合する)からなる物体を提供する。一態様では、その物体は、バイオチップ又は質量分析プローブ、例えば、SELDIプローブである。そのような物体は、バイオマーカーの精製又は検出に有用である。
【0128】
10. 卵巣癌のバイオマーカーの検出キット
別な態様として、本発明は、卵巣癌の症状を認定するためのキットを提供し、そのキットは本発明によるバイオマーカーの検出に用いられる。一態様では、キットは、捕捉剤が付着したチップ、マイクロタイタープレート、ビーズ又は樹脂のような固体担体からなり、ここにおいて、捕捉剤は本発明のバイオマーカーを結合する。従って、例えば、本発明のキットは、プロテインチップ(登録商標)アレイのようなSELDI用の質量分析プローブを包含できる。生体特異的な捕捉剤の場合、キットは、反応性表面を有する固体担体及び生体特異的な捕捉剤を包含する容器を含んでなる。
【0129】
前記キットは、洗浄液又は洗浄液を作るための説明書も包含し、捕捉剤と洗浄液の組み合わせは、例えば質量分析計でのその後の検出のための固体担体上にバイオマーカー(複数を含む)の捕捉を可能にする。このキットでは、異なった固体担体上に、それぞれ存在する、より多くのタイプの吸着剤を含むことができる。
【0130】
更なる態様では、このようなキットは、ラベル又は別個の挿入物の形態で、適切な操作パラメータの説明書を包含できる。例えば、その説明書で使用者にサンプルの採取法、プローブの洗浄法、又は検出すべき特定のバイオマーカーについての情報を提供することができる。
【0131】
更なる別な態様では、キットは、較正用の標準(複数を含む)として用いられるバイオマーカーのサンプルを有している1つ又はそれ以上の容器を包含できる。
【0132】
11. スクリーニングアッセイでの卵巣癌用バイオマーカーの使用及び卵巣癌の治療法
本発明の方法には、更に他の適用もある。例えば、バイオマーカーは、インビトロ又はインビボでのバイオマーカーの発現を調節する化合物のスクリーニングに用いられ、この化合物は、患者の卵巣癌の治療又は防止に有用である。別の例では、バイオマーカーは、卵巣癌に対する治療の応答をモニターするために使用できる。他の実施例では、バイオマーカーは、対象が卵巣癌を発症するリスクがあるかを判定する遺伝検討に用いることができる。
【0133】
従って、例えば、本発明のキットは、プロテインバイオチップ(例えば、CiphergenH50プロテインチップアレイ、例えば、プロテインチップアレイ)のような疎水性機能を有する固体基質、及び基質を洗浄するための酢酸ナトリウム緩衝液、更にチップ上の本発明のバイオマーカーを測定し、そしてこれらの測定値を卵巣癌の診断に用いるプロトコールを提供する説明書を含むことができる。
【0134】
治療治験に適した化合物は、表1、3及び4に記載の1つ又はそれ以上のバイオマーカーと反応する化合物を同定することで、まずスクリーニングされる。例示として、スクリーニングには、表1、3及び4に記載のバイオマーカーを組み換え発現させること、バイオマーカーを精製すること、バイオマーカーを基質に接着させることが含まれる。次に、テスト化合物を基質に接触させ(通常、水溶液条件下で)、テスト化合物とそのバイオマーカー間の相互作用を、例えば、塩濃度の関数として流出率を測定することで、測定する。ある特定のタンパク質は、表1、3及び4に記載のバイオマーカーの1つ又はそれ以上を認識し、開裂しうるが、そのような場合には、そのタンパク質は、標準アッセイ、例えばタンパク質のゲル電気泳動によって、1つ又はそれ以上のバイオマーカーの消化をモニターすることにより検出できる。
【0135】
関連した態様では、表1、3及び4に記載の1つ又はそれ以上のバイオマーカーの活性を抑制するテスト化合物の能力が測定される。当業者は、特定のバイオマーカーの活性を測定する技術がバイオマーカーの機能及び特性に依存して変動することを認めている。例えば、バイオマーカーの酵素活性は、適切な基質が利用でき、また基質の濃度又は反応生成物が容易に測定できるならば、アッセイできる。所与のバイオマーカーの活性を抑制する又は強化する潜在的に治療効果のあるテスト化合物の能力は、テスト化合物の存在下又は非存在下で触媒の率を測定し判定できる。表1、3及び4に記載の1つ又はそれ以上のバイオマーカーの、非酵素(例えば、構造的)機能又は活性に干渉するテスト化合物の能力が測定できる。例えば、表1、3及び4に記載のバイオマーカーを含む多タンパク質複合体の自己集合は、テスト化合物の存在下又は非存在下で分光法でモニターできる。あるいは、バイオマーカーが転写の非酵素的なエンハンサーであるなら、転写を強化するバイオマーカーの能力に干渉するテスト化合物を、テスト化合物の存在下又は非存在下でのインビボ又はインビトロでのバイオマーカー依存の転写レベルを測定することによって同定できる。
【0136】
表1、3及び4に記載のバイオマーカーの何れかの活性を調節できるテスト化合物は、卵巣癌又は他の癌を患っている又はそのリスクのある患者に投与できる。例えば、特定のバイオマーカーの活性を増大させるテスト化合物の投与は、もしその特定のバイオマーカーの活性が卵巣癌のタンパク質の蓄積をインビボで防止するならば、患者での卵巣癌のリスクを低減するであろう。また特定のバイオマーカーの活性を低減させるテスト化合物の投与は、そのバイオマーカーの活性の増大が、少なくとも一部、卵巣癌の発症の原因であれば、患者での卵巣癌のリスクを減少させることができる。
【0137】
更に追加の態様では、本発明は、カルグラヌリンCの修飾した形態のレベルの増大と関連する卵巣癌のような疾患の治療に有用な化合物を同定するための方法を提供する。例えば、一態様では、細胞抽出物又は発現ライブラリーが、全長のカルグラヌリンC(M10430)の開裂で先を切断した形のカルグラヌリンC(M10210)を形成する触媒となる化合物のスクリーニングに利用できる。そのようなスクリーニングアッセイの一態様として、カルグラヌリンCの開裂は、カルグラヌリンCが開裂されていないときは抑制された状態で、そのタンパク質が開裂したときは蛍光を発する蛍光プローブをカルグラヌリンCに結合して、検出できる。あるいは、アミノ酸xとyの間に開裂できないアミノ結合を提供するように修飾した全長カルグラヌリンCが、インビボでのサイトで全長カルグラヌリンCを開裂する細胞プロテアーゼを選択的に結合又は「トラップ」するのに用いられる。プロテアーゼ及びそれらのターゲットをスクリーニングし、同定する方法は、科学文献に詳しく記述されている。例えば、Lopez−Ottinらの「Nature Reviews, 3:509-519 (2002)」を参照されたい。
【0138】
更に、別な態様では、本発明は、疾患、例えば、卵巣癌(これは、先を切断したカルグラヌリンCのレベル増大と関連している)の進行若しくは可能性を治療又は低減する方法を提供する。例えば、全長のカルグラヌリンCを開裂する1つ又はそれ以上のタンパク質を同定した後、同定したタンパク質の開裂活性を抑制する化合物について組み合わせライブラリーをスクリーニングする。その様な化合物の化学ライブラリーをスクリーニングする方法は、当該技術分野で公知である。例えば、Lopez−Otin(2002)らの文献を参照されたい。あるいは、抑制化合物は、カルグラヌリンCの構造に基づいて理知的に設計できるであろう。
【0139】
臨床レベルでは、テスト化合物のスクリーニングは、テスト化合物に対象を曝露する前後に、検査対象からサンプルを得ることが含まれる。表1、3及び4に記載のバイオマーカーの1つ又はそれ以上のサンプルのレベルを測定し、テスト化合物に曝露後のバイオマーカーのレベルが変化するかどうかを判定するために、分析する。本明細書に記したように、質量分析でサンプルを分析してもよいし、又は当業者に公知の他の方法の何れかで分析しても良い。例えば、表1、3及び4に記載のバイオマーカーの1つ又はそれ以上のレベルは、それらバイオマーカーに特異的に結合する放射性標識又は蛍光標識の抗体を用いる、ウエスタンブロットで直接測定できる。あるいは、バイオマーカーの1つ又はそれ以上をコードするmRNAのレベルの変化を測定し、対象に投与した所定のテスト化合物と相関付けられる。更なる態様では、バイオマーカーの1つ又はそれ以上の発現レベルの変化を、インビトロでの方法及び材料を用いて測定する。例えば、表1、3及び4に記載のバイオマーカーの1つ又はそれ以上を発現する又は発現できるヒト組織培養の細胞に、テスト化合物を接触しても良い。テスト化合物で処置された対象は、その治療による生理的効果につき定期的に検査を受ける。特に、対象での疾患可能性を低減する能力について、テスト化合物を評価する。あるいは、卵巣癌と先に診断された対象にテスト化合物を投与する際は、その疾患の進行を遅延する又は停止する能力について、テスト化合物をスクリーニングする。
12. 実施例
【実施例1】
【0140】
卵巣癌に対するバイオマーカーの発見
サンプル
卵巣嚢胞液サンプルは、ケンタッキー大学より入手した。サンプルは、患者の手術中に採取され、−80℃に保存された。サンプルの分布は以下の通りである:侵襲性の卵巣癌(OvCa) 12症例;悪性度の低い見込み(不明確な)卵巣癌 13症例;他の悪性腫瘍 6症例;及び良性 39症例。
【0141】
サンプル:血清プロファイリング
卵巣嚢胞プロファイリングは、直接のチップ結合方法及び陰イオン交換分別後のチップ結合方法の両方を用いて実施した。プロファイリングするサンプルを含むランダム化テンプレートが、Ciphergen Expressソフトウェアプログラムを用い作成された。サンプルを氷上で解凍し、96個のウェルプレートに加えて(アレンジメント用テンプレートに従い)、4000rpmで20分間遠心分離した。嚢胞液のアリコートを、新しい96個のウェルプレートに入れ、使用まで−80Cで保存した。血清サンプルは、2004年10月6日にIMAC−Cu++、及び2004年10月14日にQ10(以下のプロトコールを参照されたい)よりトリプリケート(3組)のプロテインチップアレイでプロファイリングした。同一日に全ての複製を調製し、PCS4000で読み込んだ。アレイは、Biomek2000又はTecan Aquariusロボットを用い、サンプルで処理した。
【0142】
直接のチップ結合プロトコール:
1.5μlのサンプルを、7.5μlのU9緩衝液で変性する
2.4℃にて20分間振って混合する
3.50mMのトリス(pH9)緩衝液112.5μlを加えて、最終容量を125μlとする
4.5μlの変性サンプルを4つのチップタイプの全てに適用する
チップ結合:
IMAC30:IMAC30プロテインチップアレイは銅と結合させる。結合及び洗浄緩衝液は、50mMのトリス(pH8.0)/500mMのNaCl溶液である。
CM10:結合及び洗浄緩衝液は、100mMの酢酸ナトリウム(pH4.0)溶液である。
H50:結合及び洗浄緩衝液は、10%のアセトニトリル緩衝液である。
Q10:結合及び洗浄緩衝液は、50mMのトリス緩衝液(pH8.0)である。
結合処理時間:室温で60分間である。
マトリックスは、シナピニン酸である。
【0143】
1. 陰イオン交換分別プロトコール:
緩衝液リスト:
1.U9(9Mの尿素、2%のCHAPS、50mMのトリス−HCl、pH9)
2.U1(1Mの尿素、0.22%のCHAPS、50mMのトリス−HCL、pH9)
3.0.1%のOGPを有する50mMのトリス−HCl(pH9)(洗浄緩衝液1)
4.0.1%のOGPを有する50mMのHepes(pH7)(洗浄緩衝液2)
5.0.1%のOGPを有する100mMの酢酸ナトリウム溶液(pH5)(洗浄緩衝液3)
6.0.1%のOGPを有する100mMの酢酸ナトリウム溶液(pH4)(洗浄緩衝液4)
7.0.1%のOGPを有する50mMのクエン酸ナトリウム溶液(pH3)(洗浄緩衝液5)
8.33.3%のイソプロパノール/16.7%のアセトニトリル/0.1%のトリフルオロ酢酸(洗浄緩衝液6)
注意:洗浄緩衝液5が樹脂に適用されるまでは、洗浄緩衝液6を緩衝液トレイに等分しない。これにより、揮発性の有機溶媒の蒸発が問題にはならない。
【0144】
物質リスト:
フィルタープレート
F1〜F6に標識された6vのウェルの96個ウェル皿
【0145】
A.洗浄樹脂
HyperQ DF樹脂を50mMのトリス−HCl溶液(pH9)の5倍のベッド容量で3回洗浄して樹脂を準備する。その後50mMのトリス−HCL溶液(pH9)中に50%の懸濁状態で保存する。
【0146】
B.変性の血清タンパク質
冷凍血清を解凍し、4℃にて20000gで10分間遠心分離する
96個のウェルプレートのそれぞれのウェルに20μlの血清を等分する
30μlのU9をそれぞれのサンプルに加える
4℃にて20分間よく攪拌する
【0147】
C.樹脂の平衡化
180μl(ラット血清に対しては240μl)のHyperQ DFをフィルタープレート中のそれぞれのウェルに加える
緩衝液をろ過する
200μlのU1をそれぞれのウェルに加える
緩衝液をろ過する
200μlのU1をそれぞれのウェルに加える
緩衝液をろ過する
200μlのU1をそれぞれのウェルに加える
緩衝液をろ過する
【0148】
D.血清と樹脂の結合
各ウェルから50μlのサンプルをピペットでフィルタープレート中の対応するウェルに加える
50μlのU1をサンプルプレートのそれぞれのウェルに加える
5回混合する
サンプルプレートの各ウェルから50μlをピペットでフィルタープレート中の対応するウェルに加える
「この工程は、ロボットでピペット採取する場合デッド容量がある(ロボットが最初にサンプルを採取する時、全ての物質を採取しない)ために含まれる。50μlのU1を加えて混合することにより、残留物を得て最初の50μlに加えることができる。」
4℃にて30分間よく攪拌する
【0149】
E.画分の採取
フィルタープレートの下にプレートF1のv−ウェルの96個ウェルをおく
プレートF1に通過液を採取する
100μlの洗浄緩衝液1をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
プレートF1にpH9の流出液を採取する
画分1は通過液とpH9の流出液を含む
100μlの洗浄緩衝液2をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
フィルタープレートの下にプレートF2のv−ウェルの96個ウェルをおく
プレートF2に画分2を採取する
100μlの洗浄緩衝液2をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
プレートF2に画分2の残りを採取する
画分2はpH7の流出液を含む
100μlの洗浄緩衝液3をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
フィルタープレートの下にプレートF3のv−ウェルの96個ウェルをおく
プレートF3に画分3を採取する
100μlの洗浄緩衝液3をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
プレートF3に画分3の残りを採取する
画分3はpH5の流出液を含む
100μlの洗浄緩衝液4をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
フィルタープレートの下にプレートF4のv−ウェルの96個ウェルをおく
プレートF4に画分4を採取する
100μlの洗浄緩衝液4をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
プレートF4に画分4の残りを採取する
画分4はpH4の流出液を含む
100μlの洗浄緩衝液5をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
フィルタープレートの下にプレートF5のv−ウェルの96個ウェルをおく
プレートF5に通過液を採取する
100μlの洗浄緩衝液5をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
プレートF5に画分5の残りを採取する
画分5はpH3の流出液を含む
100μlの洗浄緩衝液6をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
フィルタープレートの下にプレートF6のv−ウェルの96個ウェルをおく
プレートF6に画分6を採取する
100μlの洗浄緩衝液6をフィルタープレートのそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で10分間よく攪拌する
プレートF6に画分6の残りを採取する
画分6は有機溶媒の流出液を含む
チップ結合のプロトコールを進めるまで冷凍する
【0150】
チップ結合のプロトコール
緩衝液リスト:
IMAC30チップ:
1.100mMのリン酸ナトリウム+0.5MのNaCl溶液(pH7.0)
2.100mMのCuSO
3.100mMの酢酸ナトリウム(pH4.0)
CM10チップ:
1.100mMの酢酸ナトリウム(pH4.0)
【0151】
物質リスト:
バイオ処理装置(bioprocessors)
IMAC30チップ
CM10チップ
バイオ処理装置にチップをおく
【0152】
A.IMACチップの銅負荷
50μlのCuSOをIMAC3チップ上の各々の部位に負荷する
バイオ処理装置を700rpmで1分間遠心分離する
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後CuSOを除く
水洗浄する
【0153】
B.IMACチップの中性化
50μlの酢酸ナトリウム(pH4.0)をIMAC3チップ上の各々の部位に負荷する
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後酢酸ナトリウムを除く
水洗浄する
【0154】
C.チップの平衡化
150μlの適当なチップ結合緩衝液をそれぞれのウェルに加える
CM10のためにバイオ処理装置を700rpmで1分間遠心分離する
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後緩衝液を除く
150μlの適当な緩衝液をそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後緩衝液を除く
【0155】
D.チップへの画分の結合
各ウェルに90μlの対応する緩衝液を加える
10μlのQカラム画分を加える
CM10のためにバイオ処理装置を700rpmで1分間遠心分離する
室温(RT)で60分間よく攪拌する
攪拌後サンプルと緩衝液を除く
【0156】
E.チップの洗浄
150μlの対応する緩衝液をそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後緩衝液を除く
150μlの対応するチップ結合緩衝液をそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後緩衝液を除く
150μlの対応する緩衝液をそれぞれのウェルに加える
室温(RT)で5分間よく攪拌する
攪拌後緩衝液を除く
2回水洗浄する
【0157】
F.マトリックスの追加
バイオ処理装置の上部とガスケットを除く
部位から水を真空下で除く
チップを10分間乾燥する
ペン(a pap pen)を用いて各スポットの周りに円を描く
SPAに対して
400μlの50%のACN、0.5%のTFAをSPAチューブに加える
室温(RT)で5分間よく攪拌する
1.0μlを各スポットに加える
10分間風乾する
1.0μlを各スポットに加える
風乾する
【0158】
データ分析
データは、CiphergenExpressを用いて得た。質量較正は、外部較正試薬を用いて実施し、強度の正規化は、外部の正規化要因を用いて、総イオン電流に基づき実施し、またベースラインを差し引くことを行った。ピーク検出は、ピークがシグナル/ノイズ比3:1を有し、スペクトルの20%に存在することを基準として用い、CiphergenExpressで実施した。統計解析は、マン・ホイットニー検定(2グループ、例えば、良性対卵巣癌に対して)又はクラスカル・ウォリス検定(多重グループ比較で、良性の卵巣疾患、卵巣癌、悪性度の低い見込みの卵巣癌(LMP)、他の悪性腫瘍(転移性癌(例えば、胃癌の卵巣への転移)、中皮腫、間質卵巣癌等を含む、侵襲性上皮卵巣癌以外の悪性腫瘍)のそれぞれの比較)を用い、CiphergenExpressで実施した。
【0159】
結果/結論
クラスカル・ウォリス検定を用いて、4通りの比較を実施した。4つのグループは、良性の卵巣疾患、侵襲性上皮卵巣癌、不明確な卵巣癌(悪性度の低い見込みの卵巣癌とも呼ばれる)、及び他の悪性腫瘍(間質卵巣腫瘍、転移性疾患及び子宮癌を含む)である。
【0160】
上記の方法で卵巣嚢胞液で同定される卵巣癌のバイオマーカーは、表1に示す。もっとも注目すべきは、ほとんどの顕著なピークが、同じように疾患の悪性腫瘍(又は非悪性腫瘍)の特徴に基づいて上方又は下方制御されている。良性疾患及び悪性度の低い見込みの卵巣癌(不明確な疾患と呼ばれる)は、ピーク強度の同じ分布を有する傾向があり、一方侵襲性の卵巣癌及び他の悪性の疾患はピーク強度の同じ分布を有する傾向にある。本発明のこれらのバイオマーカーは、単独で、又は卵巣癌の重要なバイオマーカーである以前に同定されている他のタンパク質と一緒に用いることができる。
【実施例2】
【0161】
マーカーの精製及び同定(ID)
バイオマーカーは、ある範囲のBiosepra吸着剤を用いるクロマトグラフィー技術、そして続いてSDS−PAGEで処理する組み合わせで精製される。精製のスキームは、目的のバイオマーカーを追跡するプロテインチップ読み込み器(Reader)を用いてモニターされる。30kDaより小さいタンパク質に対しては、目的の無傷のバンドをゲルから抽出し、プロテインチッップ読取り器で再分析して元のバイオマーカーと一致するそれらの正確な質量を確認する。ゲル抽出のタンパク質は、溶液中でトリプシンで消化し、30kDaより大きいタンパク質はゲル中で消化される。トリプシンの消化物は、プロテインチップ読取り器を用いてペプチドマッピングし、PCI−1000プロテインチップ接触面を合わせたQ−STAR(Applied Biosysrtems)装置を用いるタンデムMSによって分析する。4kDaより小さいバイオマーカーは、クロマトグラフィー技術の組み合わせにより濃縮して、SDS−PAGE精製及び/又はトリプシン消化なしにタンデムMSで直接同定される。幾つかの事例(例えば、リゾチームC)では、バイオマーカーは、抗体を用いて同定される。
【0162】
先の段落で記載の技術で、表1に記載のバイオマーカーの同定が可能となる。
【実施例3】
【0163】
バイオマーカーの発見
方法
タンパク質発現のプロファイリングは、卵巣腫瘍の74名の患者の卵巣嚢胞液(16症例の悪性、13症例の悪性度の低い見込み、45症例の良性)でプロテインチップバイオマーカーシステム(登録商標)(Ciphergen Biosystems)である表面増強レーザー脱離イオン化時間又は飛行型質量分析計を用いて実施した。卵巣嚢胞液は、無分別及び陰イオン交換分別後に分析した。各々の画分のアリコートは、NP20、IMAC30、CM10、H50及びQ10のプロテインチップアレイで2通り分析した。Ciphergen ExPress(登録商標)ソフトウェアは、m/zピークの同定及び診断のグループ間のピーク強度比較のために用いた。診断のグループ間のピーク強度の統計的に有意な違いは、クラスカル・ウォリス検定及びROC曲線分析により判定した。
【0164】
結果
卵巣嚢胞液からの100以上のタンパク質ピークは、良性、悪性及び悪性度の低い見込みの卵巣腫瘍の間でピーク強度が有意に異なった(下記の表2及び3を参照されたい)。これらの卵巣嚢胞液で、以下のものが、MS/MS又は免疫学的測定の評価を有するMS/MSにより同定される:アポリポタンパク質CI(m/z=6520、p=0.0003)、アポリポタンパク質AII(m/z=8690、p=0.00006)及びアポリポタンパク質CII(m/z=8918、p=0.0002);カルグラヌリンA(m/z=10840、P=0.00001)及びカルグラヌリンC(m/z=10430、P=0.00004);トランスサイレチン(二重荷電)(m/z=6880、P=0.00005);及びカルサイクリン(m/z=10210、P=0.00002)。
【0165】
表3
CM10プロテインチップアレイに吸収され、高いレーザー強度で読み込まれた個々の患者からの陰イオン交換分別した嚢胞液のSELDI−TOF MS分析値は、悪性の上皮卵巣腫瘍に対して良性及び悪性度の低い見込みの腫瘍を有する患者で違いのある、35個のバイオマーカーを同定した。クラスカル・ウォリスのP値(複数を含む)及びROC分析のAUC値を示した。
【表3】


【0166】
表4
CM10プロテインチップアレイに吸収され、低いレーザー強度で読み込まれた個々の患者からの陰イオン交換分別した嚢胞液のSELDI−TOF MS分析値は、悪性の上皮卵巣腫瘍に対して良性及び悪性度の低い見込みの腫瘍を有する患者で違いのある、28個のバイオマーカーを同定した。クラスカル・ウォリスのP値(複数を含む)及びROC分析のAUC値を示した。
【表4】


【0167】
結論
卵巣嚢胞液は、卵巣癌の診断のタンパク質バイオマーカーの豊富な供給源である。これらのバイオマーカーの幾つかが急性期反応物である。本明細書で実証したように、嚢胞液のタンパク質は、卵巣癌の診断検査に有用なバイオマーカーの優れた供給源である。
【0168】
本明細書に記した実施例及び態様は、例示のためのみであり、それらに基づく種々の修正及び変更は当業者には示唆されるものであり、それらは本出願及び添付の特許請求の範囲の精神及び範疇に含められるものであることを理解されたい。本明細書に参照した出版物、特許及び特許出願の全ては、全ての目的のためにそれらの全てを参照して本明細書に取り込む。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】図1は、良性(a、a’)、悪性の上皮卵巣癌(b、b’)及び悪性レベルの低い見込みの腫瘍を有する、個々の患者からの嚢胞液の代表的なスペクトル(A)及び対応するゲル模様(B)を示す。漸減したpH(pH9.0、7.0、5.0、4.0、3.0)の陰イオン交換で分別し、その後有機溶媒、CM10プロテインチップアレイに吸収させ、そして低いレーザー強度で読み込む。各々の患者のpH9.0流出画分を示した。代表的な散布及び四角のプロット(C)は、m/z:10,840の「ピーク強度」(カルグラヌリンA)で変動を示す。m/z:10,840ピークは、悪性の上皮卵巣癌を有する患者で極めて大きな「ピーク強度」を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおける少なくとも一つのバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)を測定すること;そして
(b)測定結果を卵巣癌の症状と関連付けること:
を含んでなる、対象における卵巣癌の症状を認定する方法。
【請求項2】
バイオマーカーの少なくとも一つが、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖の各々を測定することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
バイオマーカーの少なくとも一つが、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンよりなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、マルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンの各々を測定することを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
CA125を測定することを更に含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
CA125、トランスフェリン、ハプトグロビン、ApoA1、トランスサイレチン、ITIH4内部フラグメント、β2ミクログロブリン、ヘプシジン、プロスタチン(prostatin)、オステオポンチン、エソイノフィル(esoinophil)由来の神経毒、レプチン、プロラクチン、IGF−II、ヘモグロビン及びそれらの修飾型よりなる群から選ばれる、バイオマーカーの少なくとも一つを測定すること、そして関連付けることを更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
CA125II、CA15−3、CA19−9、CA72−4、CA195、腫瘍関連のトリプシン抑制剤(TATI)、CEA、胎盤のアルカリホスファターゼ(PLAP)、シアリルTN、ガラクトシル・トランスフェラーゼ、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF、CSF−1)、リゾホスファチジン酸(LPA)、上皮成長因子受容体の対象の細胞外領域の110kD成分(p110EGFR)、組織カリクレイン(例えば、カリクレイン6及びカリクレイン10(NES−1))、プロスタチン、HE4、クレアチンキナーゼB(CKB)、LASA、HER−2/neu、尿ゴナドトロピン・ペプチド、Dianon NB70/K、組織ペプチド抗原(TPA)、SMRP、オステオポンチン、ハプトグロビン、レプチン、プロラクチン、インスリン様成長因子I及びインスリン様成長因子IIよりなる群から選ばれる、バイオマーカーの少なくとも一つを測定すること、そして関連付けることを更に含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのバイオマーカーが、SELDIプローブの吸着体表面に当該バイオマーカーを捕捉して、レーザー脱離−イオン化質量分析計で捕捉のバイオマーカーを検出することにより測定される、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのバイオマーカーを、免疫学的測定で測定する、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルが、卵巣嚢胞液である、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記関連付けが、ソフトウェアの分類アルゴリズムによって実施される、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
卵巣癌の症状が、良性の卵巣疾患、悪性レベルの低い見込みの卵巣癌、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状から選ばれる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
卵巣癌の症状が、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状に対して良性の卵巣疾患及び悪性レベルの低い見込みの卵巣癌から選ばれる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
卵巣癌の症状が、良性の卵巣疾患に対する悪性レベルの低い見込みの卵巣癌、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状から選ばれる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
卵巣癌の症状が、良性の卵巣疾患の可能性がない、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
卵巣癌の症状が、卵巣癌(悪性)及び他の悪性症状の可能性がない、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
(c)症状に基づく対象の治療を管理すること、
を更に含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
(c)対象に症状を報告すること、
を更に含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
(c)具体的な媒体に症状を記録すること、
を更に含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記吸着体が、疎水性の吸着剤、陰イオン交換吸着剤、陽イオン交換吸着剤及び金属キレート吸着剤から選ばれる部材である、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
前記吸着体が、陽イオン交換吸着剤である、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
測定が卵巣癌と関連付けられる場合、前記の対象の治療を管理することが、化学療法薬を対象に投与することを含んでなる、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
(d)対象の管理の後、少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること、そして測定値を疾患の進行に関連付けること、を更に含んでなる、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つのバイオマーカーが表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる、対象からのサンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含んでなる方法。
【請求項26】
(a)1回目に、少なくとも1つのバイオマーカーが表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる、対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること、
(b)2回目に、対象からの生体サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定すること、
(c)1回目の測定値と2回目の測定値を比較すること、
(ここにおいて、比較された測定値が卵巣癌の経過を判定する)
を含んでなる、卵巣癌の経過を判定する方法。
【請求項27】
少なくとも1つのバイオマーカーが、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖(a)のバイオマーカーの各々を測定することを更に含んでなる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つのバイオマーカーが、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンよりなる群から選ばれる、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンのバイオマーカーの各々を測定することを更に含んでなる、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
CA125を測定することを更に含んでなる、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
表1、3及び4に記載のバイオマーカーから選ばれる、精製した生体分子を含んでなる組成物。
【請求項33】
表1、3及び4に記載のバイオマーカーから選ばれる生体分子と特異的に結合する、生体特異的な捕捉剤を含んでなる組成物。
【請求項34】
前記生体特異的な捕捉剤が、抗体である、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記生体特異的な捕捉剤が、固体担体に結合している、請求項33に記載の組成物。
【請求項36】
表1、3及び4に記載のバイオマーカーに結合する生体特異的な捕捉剤を、含んでなる組成物。
【請求項37】
(a)当該担体に付着している少なくとも1つの捕捉剤(ここにおける捕捉剤が、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる第一の群からの少なくとも1つのバイオマーカーと結合している)を含んでなる固体担体、及び
(b)前記固体担体を、表1、3及び4に記載のバイオマーカーを検出するために使用する説明書、
を含んでなる、キット。
【請求項38】
ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、バイオマーカーを検出するために前記固体担体を使用する説明書を含んでなる、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々を検出するために前記固体担体を使用する説明書を含んでなる、請求項37に記載のキット。
【請求項40】
ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンよりなる群から選ばれる、バイオマーカーを検出するために前記固体担体を使用する説明書を含んでなる、請求項37に記載のキット。
【請求項41】
ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンのバイオマーカーの各々を検出するために前記固体担体を使用する説明書を含んでなる、請求項37に記載のキット。
【請求項42】
CA125を検出するために前記固体担体を使用する説明書を含んでなる、請求項39に記載のキット。
【請求項43】
捕捉剤を包含する前記固体担体が、SELDIプローブである、請求項37、38又は39の何れかに記載のキット。
【請求項44】
前記捕捉剤が、疎水性の吸着剤、陰イオン交換吸着剤、陽イオン交換吸着剤及び金属キレート吸着剤である、請求項37、38又は39の何れかに記載のキット。
【請求項45】
(c)表1、3及び4に記載のバイオマーカーの少なくとも1つを含む容器、
を追加して含んでなる、請求項37、38又は39の何れかに記載のキット。
【請求項46】
(c)陽イオン交換クロマトグラフィー吸着剤、
を追加して含んでなる、請求項37、38又は39の何れかに記載のキット。
【請求項47】
(a)当該担体に付着している少なくとも1つの捕捉剤(ここにおける捕捉剤が、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる第一の群からの少なくとも1つのバイオマーカーと結合している)を含んでなる固体担体、及び
(b)バイオマーカーの少なくとも1つを含む容器、
を含んでなる、キット。
【請求項48】
前記容器が、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを含む、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
前記容器が、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々を含む、請求項47に記載のキット。
【請求項50】
前記容器が、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンよりなる群から選ばれる、少なくとも1つのバイオマーカーを含む、請求項47に記載のキット。
【請求項51】
前記容器が、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンのバイオマーカーの各々を含む、請求項47に記載のキット。
【請求項52】
前記容器が、CA125を更に含む、請求項49に記載のキット。
【請求項53】
捕捉剤を包含する前記固体担体が、SELDIプローブである、請求項47、48又は49の何れかに記載のキット。
【請求項54】
(c)陽イオン交換クロマトグラフィー吸着剤、
を追加して含んでなる、請求項47、48又は49の何れかに記載のキット。
【請求項55】
前記捕捉剤が、疎水性の吸着剤、陰イオン交換吸着剤、陽イオン交換吸着剤及び金属キレート吸着剤よりなる群から選ばれる部材である、請求項47、48又は49の何れかに記載のキット。
【請求項56】
a.サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカー(ここにおけるバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)の測定値を包含する、サンプルに起因するデータにアクセスするコード、及び
b.サンプルの卵巣癌の症状を、測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、
を含んでなる、ソフトウェア製品。
【請求項57】
前記分類アルゴリズムが、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖よりなる群から選ばれる、バイオマーカーの測定値の関数として分類する、請求項56に記載のソフトウェア製品。
【請求項58】
前記分類アルゴリズムが、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ヘモグロビンα/β、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンC、カルグラヌリンC(切断型)、カルグラヌリンA及びIgG重鎖のバイオマーカーの各々の測定値の関数として分類する、請求項56に記載のソフトウェア製品。
【請求項59】
前記分類アルゴリズムが、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンよりなる群から選ばれる、バイオマーカーの測定値の関数として分類する、請求項56に記載のソフトウェア製品。
【請求項60】
前記分類アルゴリズムが、サンプルの卵巣癌の症状を、ApoC1、ApoAII、ApoCII、カルグラヌリンA、カルグラヌリンC、カルサイクリン及びトランスサイレチンのバイオマーカーの各々の測定値の関数として分類する、請求項56に記載のソフトウェア製品。
【請求項61】
前記分類アルゴリズムが、サンプルの卵巣癌の症状を、更にCA125の測定値の関数として分類する、請求項58に記載のソフトウェア製品。
【請求項62】
表1、3及び4に記載のバイオマーカーを、質量分析又は免疫学的測定によって検出することを含んでなる方法。
【請求項63】
対象からのサンプル中の複数のバイオマーカー(ここにおけるバイオマーカーは、表1、3及び4に記載のバイオマーカーよりなる群から選ばれる)の相関関係から判定される、卵巣癌の症状に関する診断を、対象に伝達することを含んでなる方法。
【請求項64】
前記診断が、コンピューター処理した媒体を介して対象に伝達される、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
a)表1、3及び4に記載のバイオマーカーにテスト化合物を接触させること、及び
b)テスト化合物が表1、3及び4に記載のバイオマーカーと相互作用するかを判定すること、
を含んでなる、表1、3及び4に記載のバイオマーカーと相互作用する化合物を同定する方法。
【請求項66】
a)当該細胞に、カルグラヌリンCの開裂を防止する抑制剤を接触させること、
を含んでなる、細胞中のカルグラヌリンCの濃度を調節する方法。
【請求項67】
前記方法が、対象にカルグラヌリンCの開裂を防止する抑制剤の治療有効量を投与すること、
を含んでなる、対象の症状を治療する方法。
【請求項68】
前記症状が、卵巣癌である、請求項67に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−547028(P2008−547028A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518478(P2008−518478)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/024693
【国際公開番号】WO2007/002535
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(507316479)サイファージェン バイオシステムズ, インコーポレイテッド (2)
【出願人】(507421005)ザ ユニバーシティ オブ ケンタッキー リサーチ ファンデーション (1)
【Fターム(参考)】