説明

卵黄を素材とした食品およびその製造方法

【課題】
従来の燻製卵は、ゆでた卵を殻付きの状態のまま燻製して製造している。燻製前に茹でていること、また殻付きの状態で燻製を行っていることより、卵黄部分は通常のゆで卵と同様でボソボソとした飲み込み辛い食感である。また生卵黄は液状で単独では扱いづらい。食感を改善することおよび加工し易く改善することが課題である。
【解決手段】
冷凍することにより卵黄をゲル化させ、卵黄単独でも扱いやすいように粘度を持たせた。これにより、好みの形状に成形することが可能となり、また燻製の香りにより卵臭をなくし、卵が苦手な人も食すことが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍した卵黄を燻製することを特徴とした食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燻製卵について、鶏卵あるいはうずらの卵を燻製した食品は知られている。その1つは加熱してゆで卵を作り、殻付きの状態で調味液に漬け込んだ後に燻製をしたものである。
【特許文献1】特開昭61−285946 公報
【特許文献2】特開平7−147891号 公報
【特許文献3】特開平11−113536号 公報
【特許文献4】特開2000−236807号 公報
【特許文献5】特開2003−265145号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の卵黄は単独で食すメニューや機会がほとんどなく、また、液状のため卵黄のみでの成形は難しく、扱いづらかった。
【0004】
従来の卵の燻製について、上記特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5のように短時間で味を染み込ませたり、表面をきれいに仕上げたりすることは可能となったが、燻製による変化が現れるのは卵殻および卵白部分で、卵黄部分まで燻製による変化を得ることは出来なかった。また、燻製を行う前に加熱し、ゆで卵に加工しているため、卵黄はゆで卵の卵黄と同じ食感であった。ゆで卵の卵黄の食感はボソボソとした食感で、飲み込みづらく、また卵独特の臭いがあるため、味付けなしあるいは卵黄単独では食べづらいという問題点がある。
【0005】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたもので、食感の改善と加工し易い卵黄を素材とした食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を解決するために、冷凍した卵黄を燻製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述したように本発明は、冷凍することにより卵黄をゲル化させ、食感の改善と卵黄単独でも扱いやすい卵黄を素材とした食品を提供することが可能になった。
【0008】
請求項1について、通常は液体である卵黄を冷凍することによりゲル化させ、扱いやすく、かつ好みの形状へ成形することが可能となった。通常のゆで卵、燻製卵ではボソボソと飲み込みづらかった卵黄の食感を、冷凍することにより食べやすく、飲み込みやすいよう弾力のある食感へと改善した。卵黄へ添加物を加えることなく弾力のある食感へと改善することが出来た。また、燻製に使用したチップの香りを卵黄に直接付けることが出来、直接香りがつくことにより卵特有の臭いを調節することが可能となり、卵黄へ好みの変化をつけることが可能となった。
【0009】
請求項2について、通常は液体である卵黄を冷凍し、解凍することにより粘度が上昇し、扱いやすく、かつ好みの形状へ成形することが可能となった。
【0010】
請求項3について、冷凍した卵黄を燻製することにより、従来知られている卵黄の食感とは異なる堅さのある、弾力のある食感を得ることが出来た。
【0011】
請求項4について、卵黄に直接味付けをしたり具材を混ぜたりすることにより、卵黄を中心とした食品として食すことができ、また直接味付けをしなかった場合についても他の具材と一緒に調理し、食材のひとつとして食すことができるようになった。
【0012】
請求項5について、冷凍した卵黄を15〜30度という低温で長時間燻製することにより卵黄の水分を取り除くため、長期保存が可能な卵黄を素材とした食品を得ることが出来た。
【0013】
請求項6について、冷凍した卵黄を30〜80度という低温と高温の中間の温度帯で燻製することにより、両温度帯の良い部分を持った卵黄を素材とした食品を得ることが出来た。
【0014】
請求項7について、80〜140度の高温で燻製することにより短時間で色調や香りの優れた卵黄を素材とした食品を得ることが出来た。
【実施例】
【0015】
本発明は冷凍した卵黄を燻製することを特徴とする。成形の仕方について、鶏卵を殻付きのまま冷凍・解凍して卵黄のみ取り出す、鶏卵を割って卵黄膜を破らないように卵黄を取り出して冷凍する、液状にした卵黄を作りたい形状の容器に充填して冷凍する、大きい容器に充填・冷凍した後に型で抜き取る、のいずれの方法でもよい。また味付けは冷凍前および/または冷凍後のいずれで行ってもよい。燻製は冷凍したまま燻製を行う、あるいは燻製前に加熱して表面を凝固させてから燻製を行う、そのいずれの方法でもよい。燻製方法には、低温(15〜30度)で1〜3週間燻製して仕上げる冷燻法、やや高い温度(30〜80度)で短時間(1〜6時間)燻製して仕上げる温燻法、高温(80〜140度)で短時間(30分〜4時間)燻製して仕上げる熱燻法がある。低温かつ長時間燻製して水分を少なくすることにより、長期保存が可能となる。また保存期間を延ばすためには、燻製後に殺菌処理(加熱処理もしくはレトルト処理など)を行ってもよい。
本発明は、以上の方法で燻製卵黄を得ることが出来る。
【0016】
実施例1
10gの立方体に冷凍した卵黄を燻製前に塩を振り、2〜3時間燻製した。
【0017】
実施例2
液卵黄に醤油を2%添加し、均一に溶解後、冷凍した後、2〜3時間燻製した。
【0018】
実施例3
角切りにしたチーズを液卵黄とともに冷凍した後、2〜3時間燻製した。
【0019】
冷凍工程、燻製工程を経ることにより、通常の燻製卵では得られなかった卵黄部分の食感に弾力が得られ、ゆでる、焼く、煮る等の通常の調理方法では得られなかった食感が得られることが確認出来た。
【0020】
実施例1について試食した結果、ハムやスモークチーズ、ソーセージに似た食感であるとの感想が得られた。
【0021】
実施例2について試食した結果、冷凍前に味付けを行うことにより、どこを食べても均一な味を得ることが出来た。
【0022】
実施例3について試食した結果、具材と卵黄がバラバラになることなく、ひとかたまりとなった卵黄を素材とした食品を得ることが出来た。
【0023】
燻製工程を経て卵黄にチップの香りがつくことにより、卵特有の臭いがなくなり、卵が苦手な人にも卵黄と感じることなく食してもらうことが出来た。
【0024】
試験例1
冷凍工程により粘度がどのように変化するか確認した。
容器に100g分注した液卵黄を−20度にて冷凍し、音叉型振動式粘度計((株)エー・アンド・デイ SV−10型)を用いて冷凍1、3、5、7日後の粘度を測定した。(測定温度:25度)
【0025】
試験結果
表1に示す。

冷凍工程を経ることにより、増粘することが確認出来た。
【0026】
試験例2
作り方の違いによる堅さを比較するため、次に示すようなサンプルを用意した。冷凍工程を経ていない卵は(生)、冷凍工程を経ている卵は(冷凍)と記載する。
【0027】
比較品1:殻付き卵(生)を割り、取り出した卵黄
【0028】
比較品2:液状の卵黄(生)を−20度で冷凍した、冷凍1日後の卵黄
【0029】
比較品3:液状の卵黄(生)を−20度で冷凍した、冷凍4ヵ月後の卵黄
【0030】
比較品4:殻付き卵(生)をゆでた、ゆで卵の卵黄
【0031】
比較品5:殻付き卵(冷凍)をゆでた、ゆで卵の卵黄
【0032】
比較品6:殻付き卵(生)をゆで、殻が付いた状態のまま燻製した卵黄
【0033】
比較品7:殻付き卵(生)をゆで、卵黄のみ燻製した卵黄
【0034】
比較品8:殻付き卵(冷凍)をゆで、卵黄のみを燻製した卵黄
【0035】
市販品:現在販売されている燻製卵の卵黄
【0036】
本発明品、比較品および市販品について、テンシプレッサー((株)サン科学 CR−500DX)にて堅さ測定を行った。2mm/secにて押し込んだ際の堅さ(荷重)を測定した。荷重の単位(kgw/cm・cm)は1cmあたり1cm押し込む(噛む)ために必要な荷重(堅さ)を示している。
【0037】
試験結果
グラフ1に示す。
荷重の値が大きいほど弾力があり、食感が堅いと判断できる。
【0038】
比較品1、比較品2、比較品3について、冷凍工程を経ることより、また長期間の冷凍工程を経ることより、堅さが上昇することが確認出来た。
【0039】
比較品4、比較品5について、比較品5のほうが高い数値を示していることより、ゆで卵に調理した場合でも卵黄の堅さに冷凍工程の影響が出ることが確認出来た。
【0040】
比較品6について、比較品4とほぼ同じ値を示していることより、ゆで卵の状態では燻煙に触れていないため、卵黄部分に変化が現れず、ゆで卵の卵黄と同じ状態、食感であることが確認出来た。
【0041】
比較品7について、比較品4よりも堅さは増したが本発明のような堅さは得られなかったことより、ゆでた状態の卵黄からでは本発明品のような堅さを得ることが出来ないことが確認出来た。
【0042】
比較品8について、比較品7よりも高い数値を示していることより、冷凍工程を経ると堅さがより得られることが確認出来た。
【0043】
市販品について、比較品4および比較品6と近い数値を示していることより、市販品はゆで卵のような食感、かつ本発明品とは異なる食感であることが確認出来た。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例を示す冷凍した卵黄の燻製工程を示す図。
【図2】本発明品と他の例との比較図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍した卵黄を燻製して得られる卵黄を素材とした食品。
【請求項2】
冷凍、解凍後の粘度が2Pa・s以上の卵黄を燻製して得られた卵黄を素材とした食品。
【請求項3】
冷凍した卵黄を燻製して得られた荷重100kgw/cm・cm以上の堅さを有する卵黄を素材とした食品。
【請求項4】
冷凍前および/または冷凍後に味付けした卵黄あるいは具材を混合して冷凍した卵黄を冷凍したまま、あるいは加熱処理で表面を凝固させた後に燻製することを特徴とした卵黄を素材とした食品の製造方法。
【請求項5】
冷凍した卵黄を15〜30度の温度帯で1〜3週間燻製することを特徴とした卵黄を素材とした食品の製造方法。
【請求項6】
冷凍した卵黄を30〜80度の温度帯で1〜6時間燻製することを特徴とした卵黄を素材とした食品の製造方法。
【請求項7】
冷凍した卵黄を80〜140度の温度帯で30分〜4時間燻製することを特徴とした卵黄を素材とした食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−228700(P2008−228700A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76878(P2007−76878)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(595118582)イフジ産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】