説明

卵黄風味油

【課題】卵黄の風味を油脂に移行させた油脂とし、その油脂を添加して食品を加熱しても卵黄の加熱によるザラつきがなく食品の食感を低下させることがない上、卵黄の良質の風味(コク)を食品に付与することができ、加えて乳の香りも付与することができる卵黄風味油を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するため、卵黄と無脂乳固形成分を乳酸発酵させ、プロテアーゼを添加して酵素分解し、130〜180℃の油脂中で加熱し、不溶性成分を除去して得られることを特徴とする卵黄風味油の構成とした。また、卵黄と無脂乳固形成分をプロテアーゼ存在下で乳酸発酵させて、130〜180℃の油脂中で加熱し、不溶性成分を除去して得られることを特徴とする卵黄風味油の構成とした。そして、卵黄風味油を添加して、加熱してなることを特徴とする食品の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄風味を有する油脂に関し、食品に卵黄風味を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
卵黄は、プリン、カスタードなどの菓子、パン、茶碗蒸し、その他食品の原料として使用され、たまごの独特の風味・食感を食品に付与する。しかしながら、卵黄にとって最適な加熱温度でないと生臭さ、硫黄臭を発する。さらに高温で加熱する食品に添加すると卵黄は硬く固化してざらつき、食品の食感を損なうことになり、多量に卵黄を添加すると食感を低下させてしまい、添加量の制限があった。また、予めボイル等で卵黄を加熱固化した場合でもざらつきは発生し、十分量を食品に添加することはできなかった。
【0003】
他方、卵風味を模擬したフレーバーなども流通しているが、添加すると添加物表示が必要となり、昨今の無添加志向に逆行する。
【0004】
また、卵を主原料にする卵フレーバーも知られている。例えば、特許文献1に卵フレーバーがある。特許文献1の発明は、卵のプロテアーゼ及びホスホリパーゼによる酵素分解物に、糖を添加し加熱処理して得られる反応生成物を有効成分として含有することを特徴とし、従来の欠点である特有の生臭い卵感が強く、加熱したフレーバーはカステラ様の焦げ感が強い問題を克服し、飲食品の製造加工工程において、利用度の高い、卵特有の生臭みのない、卵を茹でたり焼いたりした本来の加熱感を有し卵の柔らかい香気と呈味を有する卵フレーバーであるというものである。
【0005】
その他に、卵黄風味を油脂に移行させた油脂が知られている。例えば、特許文献2に卵風味を有する調味油が提案されている。特許文献2に公開の発明は、卵黄固形分、無脂乳固形分、水を含有する組成物を油脂中で、90℃以上150℃以下で加熱した後、不溶解物を分離してなり、加熱安定性及び保存安定性にすぐれているというものである。
【0006】
また、特許文献3には、卵風味および焦げ風味を有する調味料が公開されている。特許文献3の発明は、卵黄を食用油と混合して乳化状態とし、180〜230℃で焦げ臭が発生するまで加熱処理を施したことを特徴とし、炒飯等の炒めものに簡便に卵風味および焦げ風味を付与し得る調味料というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−321113号公報
【特許文献2】特開2003−210108号公報
【特許文献3】特開2005−278530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えば、特許文献2では、カスタードなどの菓子類に使用した場合には、生臭く、風味の質が菓子に全く合わないものであった。
【0009】
そこで、本発明は、卵黄の風味を油脂に移行させた油脂とし、その油脂を添加して食品を加熱しても卵黄の加熱によるザラつきがなく食品の食感を低下させることがない上、卵黄の良質の風味(コク)を食品に付与することができ、加えて乳の香りも付与することができる卵黄風味油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、卵黄と無脂乳固形成分を乳酸発酵させ、プロテアーゼを添加して酵素分解し、130〜180℃の油脂中で加熱し、不溶性成分を除去して得られることを特徴とする卵黄風味油の構成とした。また、卵黄と無脂乳固形成分をプロテアーゼ存在下で乳酸発酵させて、130〜180℃の油脂中で加熱し、不溶性成分を除去して得られることを特徴とする卵黄風味油の構成とした。さらに、前記乳酸発酵に供するのは、前記卵黄の一部又は/及び前記無脂乳固形成分の一部であることを特徴とする前記いずれかに記載の卵黄風味油の構成とした。
【0011】
前記乳酸発酵を行う乳酸菌が、ヘテロ型の発酵を行う乳酸菌であることを特徴とする前記いずれかに記載の卵黄風味油の構成とした。また、前記プロテアーゼが、エキソ型のプロテアーゼを含む酵素製剤であることを特徴とする前記いずれかに記載の卵黄風味油の構成とした。
【0012】
また、前記卵黄風味油の添加量が、原料100重量部に対して、0.01〜3.0重量部であることを特徴とする前記記載の食品の構成、前記卵黄風味油の添加量が、原料100重量部に対して、0.01〜3.0重量部であることを特徴とする前記記載の食品の構成とした。
【0013】
卵黄としては、卵から卵白を概ね除去したもので、生の卵黄、凍結卵黄、粉末卵黄が使用でき、使用前の保存、流通状態は特に問わない。加糖されていてもよい。さらに、それらをプロテアーゼなどで構造分解、さらに酵素的な修飾をしたものも使用出来る。また、卵は、鶏卵に限らない。
【0014】
無脂乳固形成分としては、ほ乳類の乳から乳脂肪分を概ね除去した主にタンパク質であり、カゼイン、アルブミン、ホエータンパク質などからなり、本発明にはそれらの何れ或いは混合物を使用してもよい。ホエータンパク質は、酸変性しないため、チーズの製造時に、固形物と分離された液状副産物として、またヨーグルトを静置したときに上部に溜る上澄みとして知られる。ホエータンパク質は、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミンが主成分として、ラクトフェリン、血清アルブミン、免疫グロブリンなどから構成される。
【0015】
卵黄と無脂乳固形成分は、それら一方或いは両方の一部あるいは全部がプロテアーゼ処理される。それら全部をプロテアーゼ処理することで、工程が短縮できるメリットがある。
【0016】
プロテアーゼとしては、エキソ型のプロテアーゼを含む酵素製剤が好適で、例えば、スミチーム(登録商標)MP(新日本化学工業社製)、フレーバーザイム(ノボザイム社製)などが例示できる。プロテアーゼ処理は、乳酸発酵と同時、乳酸発酵の前、乳酸発酵の後のいずれであっても風味改良効果が発揮される。乳酸発酵と同時にプロテアーゼ処理すれば、処理時間が短くでき特に好ましい。ただし、酵素製剤の種類によって、最適なpHが異なるため、同時発酵の場合は、発酵時に変化するpHに対して、最適な酵素製剤を選択することが望ましい。
【0017】
乳酸発酵としては、ヘテロ型の発酵を行う乳酸菌による乳酸発酵であり、乳酸菌としては、Lactococcus casei.subsp. casei L-14((財)日本乳業技術協会)などが例示できる。酵条件としては、採用した乳酸菌にとって好適な発酵温度、時間を適宜採用すればよく、概ね、発酵温度25〜37℃、発酵時間10〜30時間とすればよい。Lactococcus casei.subsp. casei L-14((財)日本乳業技術協会)による乳酸発酵と同時にプロテアーゼ処理できるプロテアーゼとしては、先に例示のスミチーム(登録商標)MPがある。
【0018】
油脂としては、大豆油、ナタネ油、パーム油、コーン油、牛脂、豚脂などが例示でき、未精製油より精製油が好適である。
【0019】
油脂による加熱温度としては、130〜180℃で3分から20分が好ましく、より好ましくは140〜160℃であり、130℃より低いと生臭い上に卵黄独特の風味が発揮されず、180℃より高い温度であると焦げ臭が強く卵黄独特の風味でなくなる。加熱時間が短すぎると十分卵黄の風味を引き出すことができず、長すぎれば焦げ臭が強くなり好ましくない。
【0020】
本発明の卵黄風味油を添加して加熱してなる食品としては、和洋中華食品の全般に使用でき、特に洋菓子、和菓子、和食に好適で、さらに加熱食品に最適である。洋菓子としてはアイスクリーム、カスタード、パン、カステラ、和菓子、和食としてはどら焼き、だし巻き、茶碗蒸しなどが例示できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、上記構成であるので、本発明を食品に添加して加熱しても、ザラつきが発生しないので加熱食品の食感を低下させることなく、良質な卵黄風味を食品に付与することができる。卵黄のコク、さらに乳風味を付与でき、卵黄特有の生臭さもないので、卵黄を使用するどのような食品に添加しても上質の卵黄の風味を食品に付与することができる。特に、加熱するプリン、カスタードなどの洋菓子、茶碗蒸しなどに最適である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の卵黄風味油に用いる発酵乳の配合組成及び製造工程の一例である。
【図2】本発明の卵黄風味油の原料組成及び製造工程の一例である。
【図3】本発明である卵黄風味油を利用した食品の一例としてカスタードクリームの配合組成の一例を示した図である。
【図4】図3の組成で作成したカスタードクリームの風味官能評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発発明である卵黄風味油について、図面を参照しながらさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1に、本発明の卵黄風味油に用いる発酵乳の配合組成及び製造工程の一例を示した。ここでは、無脂乳固形成分としてホエータンパク質の粉末(ホエーパウダー)と、卵黄として凍結20%加糖卵黄を解凍したものを全乳脂肪固形成分の一部、及び全卵黄の一部を水に溶解、懸濁して、乳酸菌Lactococcus casei.subsp. casei L-14、プロテアーゼスミチームMPを添加して、乳酸発酵とプロテアーゼ処理を同時に行った。
【0025】
乳酸発酵及びプロテアーゼ処理の条件は、30℃、15時間とした。その後、乳酸発酵中止とプロテアーゼの失活ため、熱処理(80℃、5分)を行った。これにより得られた発酵乳は、ここでは発酵乳Aとして、次の卵黄風味油作成に用いた。
【0026】
図2に、本発明の卵黄風味の原料組成及び製造工程の一例を示した。発酵乳Aは、図1の発酵乳A全量であり、約等量の加糖卵黄と、8倍量(重量)の油脂を、150℃で、10分間加熱した。これにより加熱されたときの油溶性卵黄フレーバーが油脂に移行する。ここで使用した油脂は、コーン油である。
【0027】
そして、加熱により、熱変性したタンパク質など不溶性物質は濾紙を通して除去した。不溶性物質を濾過は濾紙に限らない。これにより約600重量部の卵黄風味油が得られる。このようにして得られた本発明である卵黄風味油は、種々の卵黄、油脂を使用する食品にそれらの一部として、或いは追加的に添加することができる。特に、加熱されて完成する食品に好適である。さらには、油脂、卵黄を使用していない食品にも添加することができる。そして、本発明の卵黄風味油を添加した食品は、卵黄の生臭さ、ざらつく食感、焦げ臭くもない卵黄独特の風味を付与されることとなる。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明である卵黄風味を使用した食品について説明する。ここでは、その食品の一例として、カスタードクリームを例示する。図3に、本発明である卵黄風味油を利用したカスタードの配合組成を示した。比較例として、本発明の卵黄風味油を添加しないこと以外、配合組成、調理工程を同じにするカスタードクリームを用意した。
【0029】
実施例2のカスタードクリームの調整は、図3の配合組成において、卵黄と砂糖を鍋に投入して予め煉っておき、そこに薄力粉を篩で振って投入してダマにならないように混合した。次に、予め50℃程度に温めておいた牛乳を混合した。この時に、本発明である卵黄風味油とバニラエッセンスを所定量投入して混合した。その後、焦げないように撹拌しながら加熱し、沸騰後3分程度、全体に艶がでるまで十分加熱した。
【0030】
本発明である卵黄風味油脂を使用したカスタードクリーム、フラワーペーストの組成は図3に限らす、種々の甘味料、油脂、乳成分、呈味成分(チョコレート、フルーツなど)、添加物(保存料、酸味料、着色料、増粘、ゲル化剤)など、周知、一般に使用されている食品原料が使用できるのは勿論である。
【0031】
なお、油脂を乳化するフラワーペーストにおいては、予め乳化物をホモジナイザー等により作成するときに油脂と共に添加してもよいし、乳化物を作成した後に乳化物に添加してもよい。乳化物を作成した後に添加した方が一層卵黄風味は引き立つ。
【0032】
実施例2のカスタードクリームには、卵黄風味油、香料(バニラエッセンス)を除く原料470重量部に対して、0.5重量部添加した。卵黄風味油の添加量は、原料に対して約0.1重量%である。カスタードクリームに、本発明である卵黄風味油を0.01重量%添加した程度から卵黄風味を感じ、0.1〜1.0%で好適な卵黄風味を呈し、3重量%程度添加しても風味に違和感はない。本発明である卵黄風味油は、食品の組成(特に、原料としての卵黄量)により異なるものの、概ね0.01〜3重量%の添加が最も好ましい。
【0033】
図3の組成により調製したカスタードクリームの風味官能評価の結果を図4に示す。パネラーは熟練した技術者10名で、ミルクフレーバー(ミルク感)、コク(特に、卵黄由来)、後味の広がりの3項目について官能評価した。いずれの項目も、パネラー10の内7名以上が良好と回答した場合を「○」、良好と回答したのが3〜6名の場合を「△」、良好と回答したのが2名以下の場合「×」とした。
【0034】
実施例2の上記3項目の官能評価結果は、いずれの項目も「○」であった。一方、比較例では、ミルクフレーバー、卵黄のコク、後味の広がりを十分感じるものではなかった。このことから、本発明である卵黄風味油をカスタードクリームに添加することで、卵黄特有のコク、優れた後味を呈すること、さらにミルクフレーバーも引き立つことが明らかになった。このように、卵黄風味油を添加することで、食品が優れた風味を呈するのは、卵黄と無脂乳固形成分をそれぞれ乳酸発酵及びプロテアーゼ処理すること、さらにそれらを油脂で加熱することによる効果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄と無脂乳固形成分を乳酸発酵させ、プロテアーゼを添加して酵素分解し、130〜180℃の油脂中で加熱し、不溶性成分を除去して得られることを特徴とする卵黄風味油。
【請求項2】
卵黄と無脂乳固形成分をプロテアーゼ存在下で乳酸発酵させて、130〜180℃の油脂中で加熱し、不溶性成分を除去して得られることを特徴とする卵黄風味油。
【請求項3】
前記乳酸発酵に供するのは、前記卵黄の一部又は/及び前記無脂乳固形成分の一部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の卵黄風味油。
【請求項4】
前記乳酸発酵を行う乳酸菌が、ヘテロ型の発酵を行う乳酸菌であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の卵黄風味油。
【請求項5】
前記プロテアーゼが、エキソ型のプロテアーゼを含む酵素製剤であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の卵黄風味油。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の卵黄風味油を添加して、加熱してなることを特徴とする食品。
【請求項7】
前記卵黄風味油の添加量が、原料100重量部に対して、0.01〜3.0重量部であることを特徴とする請求項6に記載の食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−130316(P2012−130316A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286842(P2010−286842)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】