説明

厚膜施工用水系樹脂組成物及びこれを用いた表面処理方法

【課題】コンクリート構造物等の被処理面への厚膜施工が可能で、尚且つ塗布後12時間以内に乾燥が可能であり、塗布した塗膜が優れた耐久性、例えば、耐水性、耐酸性ならびに耐アルカリ性を有する速乾性の厚膜施工用水系樹脂組成物、およびこれを用いた表面処理方法の提供。
【解決手段】水系合成樹脂エマルジョン(A)および有機フィラー(B)を含有し、不揮発分が65〜80質量%であり、最低成膜厚温度が0℃である膜施工用水系樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系合成樹脂エマルジョンに有機フィラーを複合することにより、優れた乾燥性を発現させ、耐水性および耐酸・耐アルカリ性に優れた皮膜を形成し土木・建築分野にて使用されるコンクリートおよびモルタルの表面処理を行うための速乾性の厚膜施工用水系樹脂組成物及びこれを用いた表面処理方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、各種環境条件における劣化が問題となり、耐久性向上の目的から、様々な表面処理用の材料が使用されている。その一例として防水・防食材料があるが、近年環境の問題から臭気および揮発成分の規制、使用原材料の規制等の様々な問題が取り出さされるようになっており、水系材料での防水材および防食材料の開発が求められている。
【0003】
近年、VOC規制強化の流れや社会の環境保護意識の急速な高まりの中で、溶剤系樹脂から水系樹脂への転換が進められている。しかし、水系樹脂を土木・建築分野のコンクリート構造物への防水・防食材料として用いる場合は、塗膜が完全に乾燥するまでに長時間を要し、工程として長期日程がかかってしまう。そのため、耐久性の観点から、優れた耐水性、耐酸性および耐アルカリ性を有する溶剤系樹脂であるビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレア、ウレタン樹脂等が使用されているのが現状であり、水系樹脂では、施工性を含め、土木・建築分野のコンクリート構造物への防水・防食材料としては、不十分とされてきた。
【0004】
上記のように水系材料における問題点は、乾燥性、施工後の養生期間が溶剤系樹脂に比して長くなる点、物性面においては、溶剤系のように多くの架橋点を存在させることができず、樹脂膜としての十分な強度が発現できない点が挙げられる。
【0005】
このような中、コンクリート構造物の下地調整材において、基材の上に施された後における研磨作業性が良好な、水性の下地調整材を提供する目的で、(A)高分子エマルジョンと、(B)アクリルエマルジョン又は合成ゴムエマルジョンと、(C)タルクとを含む下地調整材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この下地調整材は施工方法に制約があり、厚膜施工では耐酸性、耐アルカリ性が十分なものではなかった。
【0006】
ところで、合成樹脂エマルジョンに有機フィラーを添加させた水系樹脂組成物として、例えば、スチレン−ブタジエン共重合系樹脂ラテックスとクロロプレンゴムラテックスの少なくともいずれか、アクリル系樹脂粉末(有機フィラー)を含有する接着剤組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。これは接着剤で使用する目的のため、コンクリート構造物の防水・防食材料のように、厚膜を形成させるといった目的のものではない。その他、コアシェルエマルションを使用したベースエマルションに、有機フィラーを含有してなることを特徴とする制振性組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)が、乾燥条件によっては厚膜を形成する際にクラックが発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−149767号公報
【特許文献2】特開2009−102606号公報
【特許文献3】特開2005−126645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、コンクリート構造物等の被処理面への厚膜施工が可能で、尚且つ塗布後12時間以内に乾燥が可能であり、塗布した塗膜が優れた耐久性、例えば、耐水性、耐酸性ならびに耐アルカリ性を有する速乾性の厚膜施工用水系樹脂組成物、およびこれを用いた表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、本発明を完成させるに至った。本発明は、水系合成樹脂エマルジョン(A)および有機フィラー(B)を含有し、不揮発分65〜80質量%であることを特徴とする厚膜施工用水系樹脂組成物に関する。
【0010】
厚膜施工用水系樹脂組成物の最低成膜温度は0℃であることが好ましい。
【0011】
厚膜施工用水系樹脂組成物の粘度は、8,000mPa・s以上であることが好ましい。
【0012】
有機フィラー(B)は、厚膜施工用水系樹脂組成物の不揮発分に対して15質量%以上であることが好ましい。
【0013】
水系合成樹脂エマルジョン(A)と有機フィラー(B)の固形分比は、7/3〜3/7であることが好ましい。
【0014】
有機フィラー(B)の平均粒度は、0.5mm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、厚膜施工用水系樹脂組成物を被処理表面に塗布し乾燥させることで、膜厚0.2〜2mmの塗膜を形成させることを特徴とする被処理表面処理方法に関する。
【0016】
さらには、本発明は、厚膜施工用水系樹脂組成物をコンクリート構造物に塗布し乾燥させることを特徴とするコンクリート構造物表面処理方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、耐水性、耐酸性および耐アルカリ性に優れる速乾性の厚膜施工用水系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に使用する水系合成樹脂エマルジョン(A)とは、水溶性高分子または界面活性剤等を用い、エチレン性不飽和単量体組成物等をラジカル重合することで得ることができるエマルジョン重合体やラテックス重合体である。エマルジョン重合体としては、スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン等があげられ、ラテックス重合体としては、スチレン−ブタジエン系樹脂ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂ラテックス、クロロプレン系樹脂ラテックス等があげられる。また、有機樹脂を水に乳化、分散させてなる懸濁液も併用可能である。中でも、水系合成樹脂エマルジョン(A)の不揮発分等の性状調整、樹脂のTg設計、混和性および物性の観点から、スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョンが好ましい。特に、耐酸性、耐アルカリ性に優れている点でスチレン−アクリル系樹脂エマルジョンが好ましい。
【0019】
スチレン−アクリル系樹脂エマルジョンの樹脂成分のうち、スチレン単量体由来の成分は10〜80質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがより好ましい。10質量%より少なくなると、皮膜物性として強靭性の低下が見られ、80質量%より多くなると、成膜性の問題から、成膜助剤量の増加が必要となり、皮膜物性への低下を引き起こす傾向にある。
【0020】
本発明に使用する有機フィラー(B)とは、水に難溶性の有機ポリマーの粉末を意味し、23℃、1atmにおける水100gに対する溶解度が0.1g以下であることが好ましい。有機フィラー(B)としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂成型物のクラック・ソリ防止等に使用される熱可塑性樹脂粉末(低収縮剤)等があげられ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルおよびその共重合体、酢酸ビニルおよびその共重合体、飽和ポリエステル(脂肪族エステル系・芳香族エステル系)、セルロースアセテートブチレート、ε−カプロラクトンポリマー、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。さらに、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロックポリマーといったエラストマー系のポリマー、また、澱粉粉末、セルロース粉末等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもかまわない。中でも、混和性および耐久性の観点からポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0021】
また、有機フィラー(B)は、厚膜施工用水系樹脂組成物の不揮発分に対して、15質量%以上使用することが好ましく、20質量%以上使用することがより好ましく、30質量%以上使用することがさらに好ましい。厚膜施工用水系樹脂組成物の不揮発分に対する有機フィラー(B)の割合が15質量%未満であると、止水性、耐酸性、耐アルカリ性が低下する傾向にある。
【0022】
本発明において使用する有機フィラー(B)の平均粒度は、分散性の観点から0.5mm以下が好ましく、数μm〜300μmがさらに好ましい。平均粒度が0.5mmより大きいと均一な樹脂内での分散が得られず、分離傾向が見られ、成膜時に均一な皮膜形成が困難となり、皮膜物性(強度、耐久性)の低下が見られる。ここで平均粒度とは、有機フィラー全体の粒度の平均を意味する。
【0023】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、粘性を改良するために、少量の無機フィラーを添加しても良い。無機フィラーとしては、公知慣用のものを用いてよく、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、珪酸、珪酸塩、カオリンクレー、酸化マグネシウム、サテンホワイト、酸化アルミ、タルク、マイカ、焼成クレー、水酸化アルミ、シリカ等が挙げられる。また、セメントを添加することも可能であり、セメントの種類としては、ポルトランドセメント、混合セメント(高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなど)、特殊セメント(アルミナセメントなど)が挙げられる。
【0024】
また、本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物において、水系合成樹脂エマルジョン(A)と有機フィラー(B)の固形分比は7/3〜3/7であることが好ましく、6/4〜4/6であることがさらに好ましい。水系合成樹脂エマルジョン(A)と有機フィラー(B)の固形分比が7/3より大きい、すなわち水系合成樹脂エマルジョン(A)成分が多いと、期待される乾燥性が得られず、皮膜の物性(強度等)においても良好な結果が得られなくなる。また、水系合成樹脂エマルジョン(A)と有機フィラー(B)の固形分比が3/7より小さい、すなわち有機フィラー成分が多いと、安定性が保てず、また、均一な皮膜形成が困難となるため、耐水、耐酸、耐アルカリ性といった皮膜の耐久性において十分な効果が得られにくくなる。
【0025】
その他、使用目的に応じて、可塑剤、粘着付与樹脂、増粘剤、硬化剤、消泡剤、防腐剤等を適宜添加できる。
【0026】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物の最低成膜温度は、0〜5℃であることが好ましく、0℃であることが特に好ましい。5℃より高くなると、乾燥温度条件の影響を受けやすくなるため、成膜性の低下が懸念され、十分な皮膜耐久性が得られなくなる傾向にある。厚膜施工用水系樹脂組成物の最低成膜温度の調整は、成膜助剤を添加する、或いは、最低成膜温度の高い水系合成樹脂エマルジョン(A)に、最低成膜温度の低い水系合成樹脂エマルジョン(A)を添加する等の方法により行なうことができる。
【0027】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物は、不揮発分が65〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがさらに好ましい。不揮発分を65〜80質量%に調整することで優れた乾燥性を発現させることが可能となる。不揮発分が65質量%より低いと乾燥性が不十分となり、作業性確保のため多くの添加剤が必要となる。また、不揮発分が80質量%より高いと、安定性の問題が発生し、粘度の急激な上昇から作業性に問題も発生する。
【0028】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物は、粘度が8,000mPa・s以上であることが好ましく、10,000〜50,000mPa・sであることがさらに好ましい。粘度が8,000mPa・s以上とすることで、施工性において、厚付け1mm施工が可能となる。粘度が8,000mPa・sより低くなると、厚膜に塗布した際にクラックの発生が懸念される。また、作業性においては、タレ等の問題が発生する傾向にある。
【0029】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物は、被処理表面に塗布し乾燥させた後の膜厚が0.1〜2mmであることが好ましく、0.5〜2.0mmがさらに好ましい。膜厚が0.1mmより薄いと下地の影響もあるが、ピンホール等の発生により皮膜の連続性が十分でなくなり、2mmより厚いと乾燥遅延の要因となり、十分な性能が発揮できなくなる傾向にある。
【0030】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物は、溶剤等を含有しない、或いは溶剤等を少量しか含まないので、作業時に臭気を発生せず且つ環境に優しく、乾燥性に優れたものである。本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物をコンクリート構造物等の被処理表面に塗布し、常温で自然乾燥させることにより、耐水性・耐酸性・耐アルカリ性等の物性に優れた保護皮膜を形成し、被処理表面の耐久性向上につながると考えられる。ここで、コンクリート構造物とは、通常のコンクリート・モルタル等からなる構造物を含む概念である。
【0031】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、スプレー塗布、ローラー塗布、コテ塗り等を挙げることができる。塗布量(固形分)としては、保護の目的に応じて適宜決定すればよいが、好ましくは0.1kg/m〜3.0kg/m、より好ましくは0.5kg/m〜2.0kg/mである。塗布量が0.1kg/mより少ないと十分な皮膜連続層が形成できず、ポンホール等の発生が懸念される、また、3.0kg/mより多いと乾燥遅延の要因となり、十分な性能が発揮できなくなる傾向にある。
【0032】
本発明の厚膜施工用水系樹脂組成物をコンクリート構造物等の被処理表面に塗布する際には、下塗り塗料を用いることも可能である。下塗り塗料としては、例えば、アクリルエマルジョン系下塗り塗料(プライマー、シーラー)、エポキシ系下塗り塗料、ウレタン系
下塗り塗料等があげられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例ならびに比較例の樹脂エマルジョンの性状、および水系樹脂組成物の性状、乾燥性ならびにクラックは下記の方法にて評価した。
【0034】
(不揮発分)
直径5cmのアルミ皿に樹脂エマルジョン約1gを秤量し、105℃で1時間乾燥させ、残分を秤量することで算出した。
【0035】
(粘度)
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数10rpm、No.5ローターにて測定した。
【0036】
(最低成膜温度(MFT))
JIS K 6828に準じて、水系樹脂組成物のMFTを測定した。
【0037】
(乾燥性の評価)
ガラス板上に枠を作成し、その中に、乾燥後の膜厚が2mmとなるように水系樹脂組成物を流しこみ、20℃×50%RH環境下で表面が乾燥し、手触にて跡がいかなくなるまでの時間を測定した。
【0038】
(クラック)
上記、乾燥性の評価において、乾燥時のクラックの発生の有無を目視にて評価した。
○:クラックの発生なし
○−:皮膜表面にしわ等が発生(乾燥工程にて外観変化が見られる)
×:クラックが発生
【0039】
(実施例1)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(1)(スチレン−アクリル酸エステル共重合体、不揮発分50質量%、樹脂成分中のスチレン由来の成分50質量%、アクリル酸エステル由来の成分50質量%、粘度4500mPa・s、最低成膜温度0℃)を使用し、有機フィラーとして、ポリスチレン系粉末樹脂SGP−70C(綜研化学株式会社製:平均粒度19μm)を使用した。エマルジョン(1)100質量部に対し、50質量部のSGP−70Cを添加し、ディスパーにて3000rpmで20分攪拌を行った。その他、消泡のために消泡剤(ノプコ8034L:株式会社サンノプコ製)を0.05質量部添加し、水系樹脂組成物の調整を行った。得られた水系樹脂組成物を180目の濾布にて濾過を行い、粗粒、凝集物の発生の無いことを確かめた。このような製造方法により実施例1の水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は、不揮発分66.7質量%、粘度15,000mPa・sであった。
【0040】
(実施例2)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(2)(ポリエステル−アクリル酸エステルグラフト共重合体、不揮発分51質量%、樹脂成分中のポリエステル由来の成分15質量%、アクリル酸エステル由来の成分85質量%、粘度500mPa・s、最低成膜温度40℃)、およびエマルジョン(3)(スチレン−アクリル酸エステル共重合体、不揮発分58質量%、樹脂成分中のスチレン由来の成分20質量%、アクリル酸エステル由来の成分80質量%、粘度2000mPa・s、最低成膜温度0℃)を使用し、有機フィラーとして、ポリスチレン系粉末樹脂SGP−70C(綜研化学株式会社製:平均粒度19μm)を使用した。エマルジョン(2)50質量部、エマルジョン(3)50質量部に対し、50質量部のSGP−70Cを添加した以外は実施例1と同様の方法で水系樹脂組成物を得た。MFTの調整はエマルジョン(2)とエマルジョン(3)を混合することで行った。得られた水系樹脂組成物の性状は不揮発分69.3質量%、粘度14,000mPa・sであった。
【0041】
(実施例3)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(1)(不揮発分50質量%、粘度4500mPa・s、最低成膜温度0℃)100質量部を使用し、有機フィラーとして、ポリエチレン粉末樹脂タケトロン(竹原化学工業株式会社製:平均粒度400μm)50質量部を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は不揮発分66.7質量%、粘度20,000mPa・sであった。
【0042】
(実施例4)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(4)(アクリル酸エステル共重合体、不揮発分50質量%、粘度2500mPa・s、最低成膜温度2℃)100質量部を使用し、有機フィラーとして、ポリスチレン系粉末樹脂SGP−70C(綜研化学株式会社製:平均粒度19μm)50質量部を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は不揮発分66.7質量%、粘度12,000mPa・sであった。
【0043】
(実施例5)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(5)(エチレン−酢酸ビニル−ビニルエステル三元共重合体、不揮発分50質量%、樹脂成分中のエチレン由来の成分10質量%、酢酸ビニル由来の成分80質量%、ビニルエステル由来の成分10質量%、粘度1500mPa・s、最低成膜温度35℃)100質量部を使用し、有機フィラーとして、ポリエチレン粉末樹脂タケトロン(竹原化学工業株式会社製:平均粒度400μm)50質量部を使用し、さらに、成膜助剤としてテキサノールCS−12を2質量部を添加した以外は、実施例1と同様の方法にて水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は不揮発分66.7質量%、粘度11,000mPa・sであった。
【0044】
(実施例6)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(1)(不揮発分50質量%、粘度4500mPa・s、最低成膜温度0℃)を使用し、有機フィラーとして、ポリスチレンパウダーポリスチロールMS−200(積水化成品工業株式会社製:平均粒度0.5mm以下)を使用した。エマルジョン(1)100質量部に対し、50質量部のポリスチレンパウダーMS−200を添加し、ディスパーにて3000rpmで20分攪拌を行った。その他、消泡のために消泡剤(ノプコ8034L:株式会社サンノプコ製)を0.05質量部添加し、水系樹脂組成物の調整を行った。このような製造方法により実施例6の水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は、不揮発分66.7質量%、粘度7,500mPa・sであった。
【0045】
(比較例1)
有機フィラーを添加することなく、エマルジョン(1)(不揮発分50質量%、粘度4500mPa・s、最低成膜温度0℃)を比較例1の水系樹脂組成物として用いた。
【0046】
(比較例2)
有機フィラーを添加することなく、エマルジョン(4)(不揮発分50質量%、粘度2500mPa・s、最低成膜温度2℃)を比較例2の水系樹脂組成物として用いた。
【0047】
(比較例3)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(1)(不揮発分50質量%、粘度4500mPa・s、最低成膜温度0℃)を使用し、有機フィラーとして、ポリスチレン系粉末樹脂SGP−70C(綜研化学株式会社製:平均粒度19μm)を使用した。エマルジョン(1)100質量部に対し、12.5質量部のSGP−70Cを添加し、ディスパーにて3000rpmで20分攪拌を行った。その他、消泡のために消泡剤(ノプコ8034L:株式会社サンノプコ製)を0.05質量部添加し、水系樹脂組成物の調整を行った。得られた水系樹脂組成物を180目の濾布にて濾過を行い、粗粒、凝集物の発生の無いことを確かめた。このような製造方法により比較例3の水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は、不揮発分55.6質量%、粘度8,000mPa・sであった。
【0048】
(比較例4)
水系合成樹脂エマルジョンとして、エマルジョン(1)(不揮発分50質量%、粘度4500mPa・s、最低成膜温度0℃)を使用し、無機フィラーとして、シリカミズカシルP−709(水澤化学工業株式会社製:粒子径100〜200μm)を使用した。エマルジョン(1)100質量部に対し、12.5質量部のシリカミズカシルP−709を添加し、ディスパーにて3000rpmで20分攪拌を行った。その他、消泡のために消泡剤(ノプコ8034L:株式会社サンノプコ製)を0.05質量部添加し、水系樹脂組成物の調整を行った。このような製造方法により比較例4の水系樹脂組成物を得た。得られた水系樹脂組成物の性状は、不揮発分55.6質量%、粘度80,000mPa・sであった。水系樹脂組成物の粘度が高くなりすぎるため、これ以上の無機フィラーの添加は不可能であった。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(耐酸性・耐アルカリ性の評価)
耐酸性・耐アルカリ性の評価は、以下の方法にて作成した皮膜を用いて実施した。各実施例および各比較例で得られた水系樹脂組成物は調整後、そのままの不揮発分で使用した。次に、離型フィルムを貼ったガラス板上に、調整した水系樹脂組成物を100cmあたり10g(固形分)となるよう流し込んだ。ガラス板上に流し込んだ水系樹脂組成物を、常温で2日間乾燥させ、真空乾燥を1日間行ない、さらに、40℃で12時間乾燥させることで、皮膜を作成した。
【0052】
耐酸性評価における膨潤率及び溶出率は、作成した皮膜を40mm×40mmに切り出し、質量を測定した後、10%硫酸水溶液に40℃で7日間浸漬した。浸漬した皮膜を取り出して質量を測定し、浸漬前の質量からの増加分を浸漬前の質量で除算することにより膨潤率を算出した。また、溶出率は、浸漬した皮膜を40℃で12時間乾燥した後に質量を測定し、浸漬前の質量からの減少分を浸漬前の質量で除算して算出した。
【0053】
耐酸性評価における皮膜強度保持率と皮膜伸度保持率は、以下の方法により行なった。作成した皮膜を10mm×30mmに切り出し、引張速度100mm/minにて引張試験を行ない、最大強度および標線10mmの伸びより、10%硫酸水溶液に浸漬する前の皮膜の強度および伸度を測定した。つぎに、別途、作成した皮膜を10mm×30mmに切り出し、10%硫酸水溶液に40℃×7日間浸漬し、40℃で12時間乾燥した。そして、浸漬した皮膜の強度および伸度を測定した。皮膜強度保持率は、浸漬後の皮膜の強度を浸漬前の皮膜の強度で除算することで算出し、皮膜伸度保持率は、浸漬後の皮膜の伸度を浸漬前の皮膜の伸度で除算することで算出した。
【0054】
耐アルカリ性評価においては、10%硫酸水溶液の代わりに飽和水酸化カルシウム水溶液を用いたほかは、耐酸性評価と同様の方法により実施した。
【0055】
(外観変化)
また、外観変化を評価するため、JISモルタル板上の前面を水系樹脂組成物で2mm厚にて覆った試験片を作成し、10%硫酸水溶液および飽和水酸化カルシウム水溶液にそれぞれ30日間浸漬した後、膨れ・割れ等の外観変化の有無を目視にて評価した。
○:外観異常なし(膨れ、割れ等)
○−:試験体端部に小さい膨れあり
△:試験体表面および端部に小さい膨れ・割れの発生あり
×:試験体に1mm以上の膨れ、割れの発生あり
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表1および表2の結果から分かるように、実施例1、2、3、4および5の厚膜施工用水系樹脂組成物は、比較例1、2および3のものと比較して、乾燥性が良く、厚膜のクラックが発生しないという良好な結果が見られた。表3および表4の結果から分かるように、耐酸性は、実施例において、比較例と皮膜して溶出および膨潤率より顕著に優れていることが認められた。耐アルカリ性においても、十分に抵抗性の向上が見られる結果であった。また、10%硫酸溶液および飽和水酸化カルシウム水溶液にそれぞれ30日間浸漬しても膨れ・割れ等の外観変化がないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系合成樹脂エマルジョン(A)および有機フィラー(B)を含有し、不揮発分65〜80質量%である厚膜施工用水系樹脂組成物。
【請求項2】
最低成膜温度が0℃である請求項1記載の厚膜施工用水系樹脂組成物。
【請求項3】
粘度が8,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1または2記載の厚膜施工用水系樹脂組成物。
【請求項4】
有機フィラー(B)が厚膜施工用水系樹脂組成物の不揮発分に対して、15質量%以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載の厚膜施工用水系樹脂組成物。
【請求項5】
水系合成樹脂エマルジョン(A)と有機フィラー(B)の固形分比が7/3〜3/7であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の厚膜施工用水系樹脂組成物。
【請求項6】
有機フィラー(B)の平均粒度が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1,2、3、4または5記載の厚膜施工用水系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載の厚膜施工用水系樹脂組成物を被処理表面に塗布し乾燥させることで、膜厚0.1〜2mmの塗膜を形成させることを特徴とする被処理表面処理方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5または6記載の厚膜施工用水系樹脂組成物をコンクリート構造物に塗布し乾燥させることを特徴とするコンクリート構造物表面処理方法。

【公開番号】特開2011−57802(P2011−57802A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207555(P2009−207555)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】