説明

原位置触媒再生/活性化法および炭化水素合成方法

【課題】フィッシャー−トロプシュ反応において、追加の触媒活性容器を必要としない、触媒再生のための手段を提供する。
【解決手段】再生されてはいるが、再活性化はされていない触媒15は、標準的なプロセス条件下、触媒復活手段14により、炭化水素合成(HCS)反応器1内で活性化される。反応器1では、合成ガスを入口ライン3から供給し、生成した液体炭化水素はライン4から、またガス状生成物と未反応合成ガスはライン2をから抜き出される。触媒はライン5を通して反応器1から抜き出され、ろ過ユニット6内へ入る。ろ過された触媒は、再生ユニット9で再生され、触媒返還ライン11を通って反応器1へ戻り、そこで再活性化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素合成触媒(HCS)法において用いられる原位置(in situ)触媒再生方法に関する。具体的には、本発明は、「現場」での触媒活性容器を必要とせず、フィッシャー−トロプシュ反応器において触媒を活性化し得る原位置触媒再生のための手段および方法を提供する。より具体的には、本発明は、炭化水素連続スラリー法のフロースキームを中断せず、追加の触媒活性容器を必要としない、担持バイメタルコバルト触媒再生のための手段および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
触媒存在下、高温・高圧での水素と一酸化炭素の混合物からの炭化水素調製は、文献中フィッシャー−トロプシュ炭化水素合成(HCS)と称される。触媒と条件によって、炭化水素は、酸素化合物(メタノールおよびより高分子量のアルコールなど)から室温でワックス状固体である高分子量パラフィンの範囲であり得る。本法により、一般にはより少量であるが、アルケン、有機酸、ケトン、アルデヒドおよびエステルも作られる。この合成は、固定または流動触媒床反応器または三相スラリー合成器において行われる。
【0003】
炭化水素合成触媒は周知であり、典型的なフィッシャー−トロプシュ炭化水素合成触媒は、例えば、触媒有効量の、1種以上の第VIII族金属触媒成分(Fe、Ni、Co、Rh、Ruなど)を含んでなる。前記触媒は、1種以上の触媒担体成分が無機耐熱性金属酸化物を含んでなる担持触媒を含んでなることが好ましい。前記金属酸化物担体成分は、1種以上の第III族、IV族、V族、VI族およびVII族の金属酸化物などの、還元しにくいものであることが好ましい。
【0004】
典型的な担体成分としては、アルミナ、シリカ並びに非晶性および結晶性アルミノケイ酸塩(ゼオライトなど)のうちの1種以上が挙げられる。特に好ましい担体成分は、第IVB族金属の酸化物、特に表面積が100m/g以下のもの、更に70m/g以下のものである。これらの担体成分もまた、1種以上の支持物質上に支持され得る。チタニア、特にルチル型チタニアは、特に触媒がコバルト触媒成分を含有している場合に好ましい支持成分である。特に、高分子量の、主としてパラフィン性の液体炭化水素生成物が所望されるスラリー炭化水素合成法を用いる場合、チタニアは有用な成分である。
【0005】
触媒が触媒有効量のCoを含んでなる場合、それがプロモーターとして、周期律表(非特許文献1で定義されるもの)第VIIa族またはIII族の遷移金属から選択される金属の1種以上の成分または化合物もまた含んでなることがある。第VIII族の貴金属は特に好適である。また、レニウム、ルテニウム、白金およびパラジウムは特に好ましい。CoとRu、またはCoとReの組み合わせは好ましいことが多い。有用な触媒とそれらの調製は公知であり、その具体例(ただしそれらに限定されない)は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7に見出すことができ、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0006】
これらの方法が示すように、触媒は初めに形成した後、高温酸化過程を受ける。HCS環境において触媒を正しく作動させる前には、酸化された触媒金属からそれらの金属状態に還元することにより、それらを「活性化」しなければならない。しかし、一旦活性化されると、触媒は通常、高度に発火性である。従って商業的には、たいていの触媒は、初期の高温酸化後且つ活性化前の段階で販売される。本明細書では、これらの新たに形成された、酸化されているが、まだ還元されていない触媒を「新鮮な」触媒と称する。
【0007】
とCOの混合物を含んでなる合成ガスから炭化水素を形成するために、HCS触媒を固定床、流動床またはスラリー炭化水素合成法のいずれかにおいて使用し得る。これらの方法は周知であり、文献に文書化されている。これらの方法全てにおいて、合成ガス中のHとCOが反応し、炭化水素を形成するのに効果的な反応条件において、合成ガスを好適なフィッシャー−トロプシュ型炭化水素合成触媒と接触させる。方法、触媒および合成反応の変数にもよるが、特にコバルト成分を有する触媒が用いられる場合、温度25℃、圧力1気圧という標準室温条件下で、これら炭化水素のいくらかは液体、いくらかは固体(例えばワックス)、いくらかは気体である。流動床炭化水素合成法においては、全ての生成物は反応条件下で蒸気または気体である。固定床法およびスラリー法において、反応生成物は、反応条件下で液体および蒸気、双方の炭化水素を含んでなる。
【0008】
高度に発熱性の合成反応に対する優れた熱伝達特性や、コバルト触媒を使用した場合、比較的高分子量のパラフィン性炭化水素を生成できることから、スラリー炭化水素合成法が好ましいことがある。スラリー炭化水素合成法においては、HとCOの混合物を含んでなる合成ガスが、反応器内のスラリー(反応条件で液体である合成反応の炭化水素生成物を含んでなるスラリー液体に分散・懸濁した微粒子状フィッシャー−トロプシュ型炭化水素合成触媒を含んでなる)を通して、第三相としてバブリングされる。合成ガス中の水素対一酸化炭素のモル比は、約0.5〜4の広い範囲に亘るが、より典型的には約0.7〜2.75、好ましくは約0.7〜2.5の範囲である。
【0009】
フィッシャー−トロプシュ炭化水素合成反応に関する化学量論的モル比は約2.0であるが、炭化水素合成反応以外に関する合成ガスから望まれる水素量を得るために、そのモル比を増加させることができる。担持コバルトで触媒されるスラリー炭化水素合成法において、H対COのモル比は、典型的には約2.1対1である。種々の炭化水素合成にとって効果的な反応条件は、ある程度、方法の種類、触媒組成および所望の生成物によって変化する。担持コバルト成分を含んでなる触媒を用いるスラリー法において、大部分がC5+パラフィン(例えばC5+〜C200)、好ましくはC10+パラフィンを含んでなる炭化水素を形成するのに効果的な典型的条件としては、例えば、温度約150〜320℃、圧力5.5〜42.0バールおよびガス空間速度(毎時)(1時間当たり、触媒1容量当たりの、標準状態(0℃、1気圧)におけるCOとHのガス状混合物の容量として表したもの)100〜40,000V/時間/Vの範囲が各々挙げられる。これらの条件は名目上、他の方法にも同様に当てはまる。
【0010】
典型的には、本発明の実施に従った炭化水素合成により生成した炭化水素は、C5+炭化水素の全部または一部を分留および/または転化に供することにより、より価値ある製品に品質向上される。転化とは、炭化水素の少なくとも一部の分子構造を変化させる1つ以上の操作を意味し、非触媒的プロセス(例えばスチームクラッキング)および留分を好適な触媒と接触させる触媒的プロセス(例えば接触分解)の双方を含む。反応物として水素が存在する場合、このようなプロセス工程は典型的には水素転化と称され、例えば水素異性化、水素化分解、水素化脱ろう、水素化精製および水素化処理と称されるより過酷な水素化精製を含み、いずれも、炭化水素原料(パラフィンの豊富な炭化水素原料など)の水素転化に関する文献において周知の条件で行われる。転化によって形成される、より価値ある製品の具体例(ただしそれらに限定されない)としては、合成原油、液体燃料、オレフィン、溶媒、潤滑油、工業用油および医薬用油、ワックス質炭化水素、窒素および酸素含有化合物などのうちの1種以上が挙げられる。液体燃料としては、自動車ガソリン、ディーゼル燃料、ジェット燃料および灯油のうちの1種以上が挙げられ、一方、潤滑油としては、例えば自動車用油、ジェット油、タービン油および金属加工油が挙げられる。工業油としては、削井流体、農業用油、伝熱流体などが挙げられる。
【0011】
HCS触媒は、プロセス条件において、時間が経つと不活化する。短期触媒不活化過程の多くは、コバルト表面の酸化、コーキング、何らかの阻害物質および被毒物質(HCN、NHなど)または酸素化物への暴露に起因すると考えられ、復活として知られる過程において解消し得る。復活は、不活化触媒を還元剤、好ましくは水素と接触させることによって遂行される。HCS触媒の活性は、反応性スラリーを水素、または水素含有ガスと接触させて、HCS反応器において原位置で、または外部の復活容器(例えば特許文献8、特許文献9、特許文献10および特許文献11に開示されているように)のいずれかにおいて、触媒復活スラリーを形成することにより、反応性スラリー中において、断続的にまたは継続的に復活する。
【0012】
触媒の長期不活化は、復活によっては修正されない。長期不活化は、再生として知られている遥かに苛酷な過程によって修正し得る。HCS触媒の再生は現在、HCSプロセスの外部で生じる。特許文献12は、慎重に制御された温度・圧力プログラムに従った少なくとも2つの外部再生容器を必要とする、原位置外(ex situ)再生スキームを教示している。
【0013】
特許文献13も同様に、少なくとも4つの別々の段階的工程(即ち、プロセス反応器からの触媒およびプロセス流体の除去、プロセス反応物と生成物を除去するためのろ過その他の必要な処理、水素雰囲気下での触媒の還元、触媒を第2の容器に移し、水熱再生過程または酸化的再生過程への暴露、そして、高温還元のために触媒を第3の容器である触媒活性化容器(CAV)に移し、再活性化した再生触媒をプロセス反応器に再導入し、最後にHCSプロセスを再開させること)を要する原位置外再生スキームを教示している。
【0014】
現在の全てのHCS触媒再生プロセスは、最低限、HCSプロセスを中止し、触媒を除去して別の再生容器へ移し、HCS過程へ再導入する前に第2の別の再活性化(還元)容器へ移すことを必要としている。これらの構成はまた、高度に発火性の再生還元触媒を、還元容器とHCS反応器の間で安全に運送する手段を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,086,262号明細書
【特許文献2】米国特許第4,492,774号明細書
【特許文献3】米国特許第4,568,663号明細書
【特許文献4】米国特許第4,663,305号明細書
【特許文献5】米国特許第4,542,122号明細書
【特許文献6】米国特許第4,621,072号明細書
【特許文献7】米国特許第5,545,674号明細書
【特許文献8】米国特許第5,260,239号明細書
【特許文献9】米国特許第5,268,344号明細書
【特許文献10】米国特許第5,288,673号明細書
【特許文献11】米国特許第5,283,216号明細書
【特許文献12】米国特許第4,670,414号明細書
【特許文献13】欧州特許第 0 533 288 B1号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】F.A.コットン(F.A.Cotton)、G.ウィルキンソン(G.Wilkinson)、高等無機化学(Advanced Inorganic Chemistry)、第4版、ワイリー(Wiley)、ニューヨーク、1980年
【非特許文献2】C.H.バーソロミュー(C.H.Bartholomew)、「担持された貴金属上でのH2吸着および金属分散の測定におけるその使用(H2 Adsorption on Supported Noble Metals and its Use in Determining Metal Dispersion)」、Catalysis、11巻、93〜126頁(1994)CODEN:CATADK ISSN:0140−0568、CAN 123:66509 AN 1995:536025 CAPLUS
【非特許文献3】W.D.デックワー(W.D.Deckwer)、「懸濁Fe/K触媒上でのフィッシャー−トロプシュ合成に関する動力学研究−CO2およびH2Oによる速度阻害(Kinetic Studies of Fischer−Tropsch Synthesis on Suspended Fe/K Catalyst−Rate Inhibition by CO2 and H2O)」、Ind.Eng.Chem.Process Dev.、25巻、643〜649頁(1986)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、再生HCS触媒を原位置のHCSプロセスにおいて活性化するための手段と方法を提供する。本発明の方法のHCS反応器は、触媒復活手段のいくつかの形態を適用しているが、かかる形態の一形態(ただしそれに限定されない)は特許文献9に記載されている。具体的には、本発明は、触媒を連続的または半連続的に除去して再生容器へ移すことを可能にし、そこで、酸化型である一旦再生された触媒を、作動中のHCSプロセスへ直接再導入することによって、再生触媒を再活性化し、その結果別の「現場」触媒活性化容器を必要としない、担持コバルトバイメタル触媒を用いる作動中のスラリーHCSプロセスに関するものである。
【0018】
本発明は、HCS触媒の連続的または半連続的原位置再生を提供する。本方法は、作動中のHCS反応器から定期的または連続的な触媒を除去し、再生容器へ移すことを含んでなる。次に、再生容器内で触媒を高温(300〜500℃)酸化処理などの再生環境に曝露する。最後に、触媒復活手段をも含有する作動中のHCS反応器に前記触媒を戻し、HCSプロセス温度で還元を生じさせて触媒再生を完了させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】使用済み触媒の再生、または活性化前/不動態化新鮮触媒の活性化のためのプロセス容器を示す略断面図である。
【図2】高温還元において活性化された「新鮮」触媒の、実験後期における相対活性を示す図である。
【図3】低温環境において還元された、実験後期における新鮮触媒の相対活性を示す図である。
【図4】「新鮮」触媒が一度高温還元を受けた後、引き続いて受けた低温還元の、触媒活性に及ぼす効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
炭化水素合成に関しては、HとCOの混合物を含んでなる合成ガスから炭化水素を形成するための固定床法、流動床法およびスラリー炭化水素合成(HCS)法がよく知られており、文献に文書化されている。これらの方法全てにおいて、好適なフィッシャー−トロプシュ炭化水素合成触媒の存在下、炭化水素を形成するのに効果的な反応条件で合成ガスを反応させる。特に触媒コバルト成分を有する触媒を使用する場合、室温の条件および圧力(25℃、1気圧)において、これらの炭化水素のうちいくらかは液体であり、いくらかは固体(例えばワックス)であり、いくらかは気体である。
【0021】
高度に発熱性の合成反応に対する優れた熱および質量移動特性のため、また、コバルト触媒を使用した場合、比較的高分子量のパラフィン性炭化水素を生成することができるために、スラリーHCS法が好ましいことが多い。スラリーHCS法においては、反応条件において液体である合成反応の炭化水素生成物を含んでなるスラリー液体に分散・懸濁させた、微粒子状フィッシャー−トロプシュ型炭化水素合成触媒を含んでなる反応器中のスラリーを通じて、HとCOの混合物を含んでなる合成ガスを第三相として上向きにバブリングさせる。
【0022】
コバルト触媒スラリーHCS法において、水素対一酸化炭素のモル比は、約0.5〜4の広い範囲であり得るが、より典型的には約0.7〜2.75、好ましくは約0.7〜2.5の範囲にある。フィッシャー−トロプシュHCS法に関する化学量論的モル比は、おおよそ2.1/1であるが、本発明の実施においては、HCS反応以外についての合成ガスからの所望の水素量を得るために増加させ得る。
【0023】
スラリーHCS法の条件は、触媒および所望の生成物によっていくらか変化する。担持コバルト成分を含んでなる触媒を使用するスラリーHCS法において、大部分がC5+パラフィン(例えば、C5+〜C200)、好ましくはC10+パラフィンを含んでなる炭化水素を形成するのに効果的な典型的条件としては、例えば、温度約150〜320℃、圧力5.5〜42.0バール、ガス空間速度(毎時)(1時間当たり、触媒1容量当たりの、COとHのガス状混合物の標準状態(0℃、1気圧)での容量として表したもの)100〜40,000V/時間/Vが各々挙げられる。
【0024】
図1は、再生触媒の原位置再活性化法の可能な一実施形態を詳しく示している。再生されてはいるが、まだ再活性化されていない触媒(15)を、作動中のHCS反応器(1)に導入し得る。新鮮な活性化触媒、活性化前/不動態化触媒または短期または長期不活化触媒の何らかの組み合わせが、既にHCS反応器(1)内に存在し得る。HCS反応器(1)は、入口ライン(3)を通して合成ガスを受け取り、出口ライン(4)を通して液体炭化水素を放出し、ガス放出ライン(2)を通してガス状炭化水素と未反応合成ガスを放出する。HCS反応器(1)は、触媒復活液(12)が供給される少なくとも1つの触媒復活ユニット(14)を使用するべきである。HCS反応器(1)内の触媒は、触媒復活ユニット(14)に自由に出入りできる。
【0025】
触媒は、スリップストリームライン(5)を通じてHCS反応器(1)から除去される。このラインにより、必要ならばストリッピング液(7)が供給されるろ過ユニット(6)に供給される。使用済みのストリッピング液と除去された副生成物は、ろ過ユニット出口ライン(8)を通じ、ろ過ユニット(6)から除去される。ろ過された触媒は、再生液(10)が供給される再生ユニット(9)へ進む。再生触媒は、触媒返還ライン(11)を通じてHCS反応器(1)に戻り、そこで再活性化される。
【0026】
本発明の多くの実施形態が可能である。本出願人は多数の実施形態を提供するが、そのどれもが本発明をいかなる意味においても限定することを意味していない。一実施形態において、ろ過ユニット(6)はHストリッピングユニットである。再生ユニット(9)は、300℃超で酸化処理を用いる。他の実施形態において、スリップストリームライン(5)と触媒返還ライン(11)は同一ラインである。
【0027】
他の実施形態において、本発明は、
1.触媒復活手段を含有し得る作動中のHCSプロセスから、炭化水素合成触媒の一部を除去する工程;
2.触媒から、プロセスの反応物と生成物を除去する工程;
3.触媒を再生環境に曝露する工程;および
4.触媒を触媒還元のためにHCSプロセスの環境に再導入する工程、
を含んでなる。
【0028】
標準的な触媒復活法はファウリング、コーキング、炭素形成などの短期不活化機構を首尾よく解消させることがよく知られている。触媒復活の標準的手段は、触媒を何らかの金属還元物質に曝露することにより達成されるが、本発明のHCS法においては、HCSプロセスの低活性領域において、触媒をH流の全体または一部に曝露することにより達成されることが好ましい。しかし、再復活は長期不活化機構を解消させることはない。再復活の1つの顕著な利点は、反応器の条件で原位置において使用し得るため、連続的プロセスの環境において触媒の使用期間を延長できることである。
【0029】
長期不活化を解消させる触媒再生には、標準的HCS触媒プロセスの環境では見られない条件が必要である。このため、触媒再生を、連続的または半連続的原位置HCS触媒プロセス環境に組み込むことには成功していなかった。本発明の発見である、触媒再生後の低温還元により、連続的または半連続的触媒プロセスが可能となる。
【0030】
過去においては、触媒をプロセス反応器から除去し、高温(300〜500℃)酸化のために第1の容器へ移動し、次いで高温(〜375℃)還元のために第2の容器である触媒活性化容器へ移動し、最後に炭化水素合成工程反応器へ返還することによって、触媒を再生していた。本発明の目的は、高温還元工程の除去によりこの方法を簡便化し、それによってHCS流体による直接的触媒再活性化(還元)を伴う連続的または半連続的触媒再生を可能にすることである。
【0031】
他の実施形態において、本発明はCo−Re/TiO触媒を用いるフィッシャー−トロプシュ法に関する。フィッシャー−トロプシュスラリーユニットの操作温度において、一旦活性化された使用済み触媒を酸化し、次いで本質的に完全に還元して、触媒再生を完了することができる。触媒を、酸化後に還元するための別個の触媒活性化容器を通して処理する必要がない。代わりに、復活手段を含有するスラリーユニット内において、触媒を再還元し、完全に活性化することができる。このことにより、作動中のHCSスラリー反応器から触媒の一部を定期的または連続的に除去し、再生環境において処理してから、作動中のスラリーユニットへ直接返還する連続的または半連続的プロセスフロースキームが可能となる。
【実施例】
【0032】
本発明の方法を以下の具体的な実施例によって更に詳述するが、これらはいかなる意味においても、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0033】
実施例1
TiO担体上の「新鮮」Co−Re触媒を活性化し、フィッシャー−トロプシュ反応器に入れた。反応器が作動してから2、3日後に取り出した実験早期試料、および実験サイクルのずっと後期に取り出した実験後期試料という、2つの試料を取り出した。各試料とも乾燥箱に取り出し、不活性条件下、高温トルエンでワックスを抽出した。
【0034】
各試料を2つの部分に分割した。各試料の第1の部分は、不活性条件下、化学吸着ユニットへ直接移動し、触媒活性の標準的測定法であるHの化学吸着を、二重等温線法により測定した。この方法は、非特許文献2に記載されている。各試料の第2の部分は、高温(350℃)酸化的(空気)環境において再生してから、Hの存在下、225℃で還元した。各試料の第2の部分を、不活性条件下、化学吸着ユニットへ移動し、Hの化学吸着を二重等温線法により測定した。表1に化学吸着の結果を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の第1欄は、非再生の実験後期触媒に比して、非再生の実験早期触媒のH化学吸着値が遥かに高いことを示している。このことは、225℃のH化学吸着において存在する還元条件下で、実験早期触媒が復活したことを示す。しかし予想通り、水素処理によっては解消しない長期不活化機構のために、実験後期触媒は復活しなかった。375℃でのH還元および150℃での空気酸化後に測定した新鮮触媒は、およそ3.7〜4.1のH化学吸着値を有している。
【0037】
表1の第2欄が示すように、実験後期触媒の活性は、高温酸化に次ぐ低温還元による再生後、著しく増大し、本発明の再生/原位置(HCS温度という低温での)再活性化法が、長期不活化結果の大部分を首尾よく解消させたことを証明している。酸化的再生およびそれに続く低温H処理は、新鮮触媒に存在するほとんど全て(10%以内)の触媒活性部位を回復させる。また予想通り、実験初期触媒は、活性損失の大部分が短期不活化効果によるものであるため、高温酸化的再生後、H化学吸着の増加を少ししか示さなかった。
【0038】
実施例2
水素雰囲気下、高温条件(1200kPa、400℃で8時間)で「新鮮」(非活性化)触媒を還元(活性化)した。次に、触媒をH/CO比2.1、200℃、20.25バールで作動するフィッシャー−トロプシュ合成反応器に入れた。非特許文献3に見られるものと同様の動力学モデルを用いて、反応条件の違いに関して調整した触媒生産性(転化されたCOのモル数/触媒容量)を測定することによって、触媒活性を決定した。図2に、この触媒の相対活性レベルを報告してある。予想通り、この「新鮮」高温還元触媒の活性レベルは、平均して12.0より僅かに低い。
【0039】
実施例3
「新鮮」触媒の初期水素還元を、低温復活条件(220℃、2000kPaで12時間)で行ったことを除いて、実施例2と同じ実験を行った。実施例2と同様に、触媒をフィッシャー−トロプシュ反応器(同じ作動条件)に入れ、相対活性を測定した。この触媒の相対活性は図3に報告してある。この触媒の相対活性は、5.0〜5.5の範囲にある。これらの結果は明らかに、「新鮮」触媒の低温還元は、許容し得るHCS活性レベルまで触媒を活性化しなかったことを証明している。
【0040】
実施例4
実施例2と同じ方法で調製された触媒試料を、フィッシャー−トロプシュ反応器の実験早期に、作動しているその反応器から不活性条件下に抽出した。この試料を、実施例2と同じフィッシャー−トロプシュ条件で作動している固定床反応器に入れた。およそ4日後、H気流下に触媒からワックスをストリッピングし、ガス混合物(窒素中1%O)中、20気圧で酸化した。この再生手順に続いて、フィッシャー−トロプシュ反応を続けたまま、20.25バールのH圧下、触媒を200℃で12時間還元した。およそ5.5日後、同様のワックス除去処理を実施し、同じ方法で触媒を再生した(ただし、再還元は12気圧のH圧下、400℃で8時間行った)。相対活性値を図4に示してある。
【0041】
図4は、活性が相対活性単位約9で始まり、予想通り時間の経過と共に徐々に低下することを示している。350℃での再生および220℃での還元後、活性は再び増加し、約10となる。低温再還元を用いた後期再生プロセスと高温再還元(400℃)で効果を比較すると、触媒が少なくとも一旦還元され酸化されれば、その活性は、還元温度に関連して変化することはないことが示される。
【0042】
このことは、最初の触媒高温還元に続く還元は低温還元でもよく、やはり触媒活性を完全に回復させ得ることを証明している。本発明は、触媒を再生後に活性化のために別個の還元容器へ移動する必要性を排除する。更に本発明は、連続的な原位置再生/再活性化法を可能にし、HCS法を中断させる、先の要件を排除する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒復活手段を含有する炭化水素合成(HCS)反応器を提供する工程;
前記HCS反応器に、新鮮不動態化触媒、新鮮活性化触媒、短期不活化触媒および長期不活化触媒よりなる群から選択される少なくとも1種の触媒を含有させるか、または導入する工程;
前記触媒を、0.5〜4.0の範囲のモル比、150〜320℃の温度範囲、5.5〜42.0バールの圧力範囲および標準容積で100〜40,000V/時間/Vの時間当たりのガス空間速度でHおよびCOに接触させる工程;
前記触媒を、定期的または連続的に再生容器に除去し、再生触媒を生成する工程;および
前記再生触媒を前記HCS反応器に返還し、それによって、前記再生触媒をHCS作動条件で再活性化する工程
を含んでなることを特徴とする炭化水素合成方法。
【請求項2】
前記触媒は、Fe、Ni、CoおよびRuよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を成分として有するか、またはその化合物であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素合成方法。
【請求項3】
前記触媒は、Fe、Ni、CoおよびRuよりなる群から選択される少なくとも1種の金属を成分として有するか、またはその化合物である第1の触媒金属、並びにRe、Ru、PtおよびPdよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を成分として有するか、またはその化合物である第2の触媒金属を有するバイメタル触媒であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素合成方法。
【請求項4】
請求項1に記載のHCS反応器で再生触媒は、請求項1に記載の反応条件下でCOとHとの間の反応を触媒化することにより炭化水素生成物を形成し、前記炭化水素生成物は、更に水素異性化に供されて潤滑剤を創製することを特徴とする潤滑剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のHCS反応器で再生触媒は、請求項1に記載の反応条件下でCOとHとの間の反応を触媒化することにより炭化水素生成物を形成し、前記炭化水素生成物は、更に品質向上されて燃料を創製することを特徴とする燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−174248(P2010−174248A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58620(P2010−58620)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【分割の表示】特願2003−543737(P2003−543737)の分割
【原出願日】平成14年10月15日(2002.10.15)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】