説明

原子吸光分析装置

【課題】注入口からの液の噴出を防ぐ。
【解決手段】一端を霧化室に接続されたU字状のドレインチューブ20の他端にドレインポット25を設け、内部にフロートを浮かべる。さらに、ドレインポットには、穴21aを有するふた21を設ける。穴21aの大きさは、フロート22よりも小さい。フロート22は、ドレインチューブ内の液の移動に合わせて、ドレインポット25内を上下する。液の急激に移動した場合、フロート22が穴21aに当接し、穴21aを塞ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子吸光分析装置に関し、さらに詳細には、フレーム式原子吸光分析装置の霧化室に関する。
【背景技術】
【0002】
原子吸光分析装置には、原子化の手段によりフレームレス原子吸光分析装置とフレーム原子吸光分析装置がある。前者は、試料をグラファイト製のチューブに注入し、チューブに大電流を流すことにより試料中の元素を原子化するものである。後者は、液体試料を霧化器(ネブライザ)で吸い上げた後、燃料ガスと助燃ガスにより形成されるフレーム(炎)により高温に加熱して試料を原子化するものである。
【0003】
従来のフレーム式原子吸光分析装置について、図3に概略図を示す。
中空体の容器である霧化室1の側面には貫通孔が設けられ霧化器2が挿入されている。霧化器2は、外管2Aと内管2Bからなる二重管構造になっており、その管の一方の先端部が円錐状となり噴霧口5を形成している。外管2Aには燃料ガス(アセチレン等)を導入するための燃料ガス導入管8が接続され、内管2Bには助燃ガス(空気や笑気ガス等)を導入するための助燃ガス導入管7が接続されている。さらに二重管の内管2B内には、噴霧口5に達するまで、吸引管4が挿入されており、噴霧口5から気体が噴出することにともなう負圧により、試料容器9内の試料溶液が吸引管4に試料溶液が引き出され、燃料ガス及び助燃ガスの噴出流に混入されて噴霧される。
【0004】
霧化室1の上面には、バーナーヘッド3が接続されており、バーナーヘッド3にはスリット状の火口が形成され、火口からフレームが形成される。このフレームに対して光を照射し、透過光を測定する。これにより、フレーム中で原子化された試料中の特定の元素についての定量分析が行われる。
【0005】
霧化室1の底面には、霧化しきれなかった試料溶液を排出する排出口が設けられており、排出口にはU字状のドレインチューブ10の一端が接続されている。吸引された試料の大部分(約90%)が、霧化しきれずにガス流に乗らず落下するもの、あるいはフレームに到達するまでに霧化室1の内壁に付着して再度液滴化するものとして排出される。
【0006】
霧化室1内の空間は、ドレインチューブ10を経て外部と空間的に繋がっている。燃料ガスの成分を含む気体が霧化室1内から外部に漏出して着火することも考えられ危険である。そこで、ドレインチューブ10のU字の他端には、ドレインポット15が設けられている。ドレインポット15は、ドレインチューブ10に液を注入し、ドレインチューブ10内を液で満たすことで霧化室1と蓋部とを空間的に遮断する。ドレインポット15から注入された液の余剰分は、チューブ14を経て廃液溜(図示せず)に導かれる。
【0007】
ドレインチューブ10に溜められた液は、霧化室1と外部との空間的な繋がりを遮断する役割を果たしているが、ドレインチューブ10中の液が減少・枯渇すると空間的な繋がりを遮断できなくなる。そのため、ドレインチューブ内の液量に関しては、原子吸光分析装置に注意喚起の表示を付したり、ドレインチューブ(ポット)にフロートセンサが設けられたりして、安全な状態での使用を促している。
【0008】
しかしながら、ドレインチューブ10中の液が減少・枯渇した状態で、使用されることもあり得る。そこで、霧化室1の排出口近くのドレインチューブの管壁にくびれと、くびれを通らないフロート12を設けて、ドレインチューブ中の液が減少したときにも、フロートと管壁のくびれとによって流路を遮断するようにした原子吸光分析装置が提案されている(特許文献1)。図4は、特許文献1のドレインチューブ10内の液面位置とフロートの位置の関係を示したもので、図1中の破線で示した円内の拡大図である。ドレインチューブ10内に液が十分にあるときはフロート12は液面に浮き(図4(a))、液が減少し液面が下降したときは、フロート12がドレインチューブ10の管壁に設けられたくびれ11に当接し(図4(b))、ドレインチューブ10内の液が減少・枯渇したときは、フロート12とくびれ11でドレインチューブ10を封止して、霧化室1内部の空間を外部の空間から遮断するのである。
【特許文献1】特開2002−62256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
正常な条件の下で霧化室1からバーナーヘッド3へ混合ガス(燃料ガス及び助燃ガス)が流れ、フレームが形成されているときは、ドレインチューブ10内の液面位置に大きな変動はない。しかし、フレームの燃焼条件を変更するために、混合ガスの混合比、すなわち、燃料ガス及び/或いは助燃ガスの流量を変える場合、誤操作や配管系の不具合によって、フレームが霧化室1入り込む現象(逆火)が起こる。この逆火により、霧化室1内のガスは体積が著しく膨張し、ドレインチューブ10内の液に対しても大きな圧力が生じる。それに伴い、U字のドレインチューブ10の霧化室1側の液面が激しく下降し、反対側の液面は激しく上昇する。このとき、ドレインチューブ10に液を注入する注入口から、ドレインチューブ10内の液が噴出してしまう。上述のように、その液は霧化せずに排出された試料であり、様々な成分が含まれる。噴出した液が人体に懸かると有害であり、また、原子吸光分析装置を設置した場所を汚染するおそれがある。特許文献1に記載されたようなくびれとフロートを設けた構成であっても、急激な加圧による液の移動を抑制することは不十分となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、鋭意研究の末なされた本発明は、霧化室内で試料溶液を霧化する霧化器と、霧化された試料溶液を原子化する原子化部と、前記原子化部に燃料ガス及び助燃ガスを供給する供給管と、霧化された試料溶液のうち原子化されなかった試料溶液を排出するU字状のドレインチューブとを備えた原子吸光分析装置において、前記U字状のドレインチューブの一端を霧化室側に接続し、他端に液を注入するための注入口を備えたドレインポットを接続し、前記ドレインポット内にフロートを設け、前記ドレインポットに前記フロートより小さい穴を設けたふたを備えたことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記ドレインポットに、前記フロートの位置を検出するフロートセンサを備えたことを特徴とする。
【0012】
U字のドレインチューブに注入口を設けた側の液面に、注入口よりも大きい径のフロートを浮かせている。この構成により、注入口が設けられた側のドレインチューブの液面が上昇した際にはフロートも上昇し、フロートが注入口に当接して注入口を塞ぐ。
【0013】
ドレインポット内に設けたフロートの位置を検出するフロートセンサを設けることで、ドレインポット及びドレインチューブ内の液量を確認することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、逆火等で霧化室内の圧力の急激な高まりによりドレインチューブ内の液が急激に移動した場合でも、液の移動に伴い移動したフロートが注入口を塞ぎ、ドレインチューブ或いはドレインポットの注入口からの液の噴出を防ぐ。これにより、有害な液が人体にかかったり、原子吸光分析装置の設置場所を汚染したりすることを防ぐことができ、安全である。また、安全を保ちながらも、ドレインチューブに繋がる注入口は露出されているので、液の注入に際して蓋や栓を外すなどの煩わしい作業の必要がなくなる。ドレインポットに設けたフロートセンサにより、液が適量存在するか否かの確認が可能になり、減少していれば、液を注入することを促す注意喚起に利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図1〜2に沿って説明する。図1は、本発明に係る原子吸光分析計の一部概略図である。図1中で、従来技術にかかる原子吸光分析装置と同じ構成要素については、同じ符号を用いて表している。
中空体の容器である霧化室1の側面には貫通孔が設けられ霧化器2が挿入されている。霧化器2は、外管2Aと内管2Bからなる二重管構造になっており、その管の一方の先端部が円錐状の噴霧口5を形成している。さらに二重管の内管2B内には、噴霧口5に達するまで、吸引管4が挿入されており、噴霧口5から気体が噴出することにともなう負圧により、試料容器9内の試料溶液が吸引管4に試料溶液が引き出され、燃料ガス及び助燃ガスの噴出流に混入されて噴霧される。
【0016】
霧化器2には、助燃ガス(空気)を内管6に導入するための助燃ガス導入管7が接続され、内管6の外壁の隙間には、燃料ガス(アセチレン)を導入するための燃料ガス導入管8が接続される。
【0017】
霧化室1の上面には、バーナーヘッド3が接続されている。バーナーヘッド3にはスリット状の火口が形成され、火口からフレームが形成される。火口の形状は炎により異なり、例えば、空気−アセチレンフレームでは100mm×0.5mm程度のスリット状開口を持つバーナヘッドが一般に用いられている。
【0018】
霧化室1の底面には、霧化しきれなかった試料溶液を排出する排出口が設けられており、排出口にはU字状のドレインチューブ20(内径:5〜10mm)の一端が接続されている。ドレインチューブ20の他端には、ドレインポット25が設けられる。ドレインポット25内には、フロート22が配置される。ドレインポット25、ドレインチューブ20の霧化室1に対する位置関係で、液面の位置は変化するが、ドレインチューブ20の霧化室1側の液面が、霧化室1内に入らないようにすることが好ましい。
【0019】
その他、霧化室1には、霧化器2による燃料ガス及び助燃ガスの供給では十分なガス流量を得られないため、ガス導入部(図示せず)が設けられている。また、安全栓(図示せず)が設けられ、異常な加圧時に霧化室1の破裂を防ぐ構造になっている。図示しなかった構成について、ガス導入部については特開2001−13066号公報(第1図、第2図)が、安全栓については特開2003−185575号(第図1)等が参考になろう。
【0020】
図2は、図1の破線で示した円内の拡大図である。ドレインチューブ20に接続されるドレインポット25の側壁には、廃液を排出するためのチューブ24が設けられている。ドレインポット25から過剰に液が注入された場合には、過剰分がチューブ24を経て廃液溜(図示せず)に排出され、液面は通常、図2(a)に示すように、チューブ24が接続される穴の位置より高くはならない。その液面には、フロート22が浮かべられている。フロート22の材料としては、ドレインチューブに満たされる液よりも比重が小さく、耐薬品性が高い必要がある。このような材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが好適である。
【0021】
ドレインポット25の上側には、ドレインポット25の開口部を塞ぐためのふた21が配設され、ふた21はドレインポット25に固定される。ふた21の側(がわ)の内側部分とドレインポット25の側(がわ)の上端の外側部分に螺子溝を刻設し、これらを螺合させて固定するのが簡便である。ドレインポット25とチューブ20は、圧力変化に耐える程度に固定されていればよいので、ドレインポット25がドレインチューブ20に一体になったものでもよく、ふた21がドレインポット25の内側に固定されてもよい。このふた21はドレインポット25の開口部を空間的に完全に塞ぐものではなく、ドレインポット25の開口部と接する面の一部に穴21aが穿設されている。穴21aは液の注入口である。逆火等で霧化室1内が急激に加圧され、ドレインポット25内の液面が急上昇した際に、ふた21に設けられた穴21aを塞ぐようにするために、穴21aの大きさは、フロート22の直径よりも小さいものとなっている。
【0022】
図2(b)は、フロート22がドレインポット25に設けられたふた21に圧接した状態を示す図である。穴21a及びフロート22の形状・大きさは、この状態でフロート22が穴21aを塞ぐものであり、ドレインポット25内でフロート22を円滑に上下する必要がある。すなわち、ドレインポット25の形状は円筒状であり、フロート22の形状は、円柱状もしくは球形であることが好ましい。フロート22の形状が円柱状である場合は、円柱の上面とふたの内面が当接して穴21aを塞ぐので、穴の形状は特に限定されない。穴21aの役割として、ドレインチューブ20に液を注入することができればよく、穴は複数存在してもよい。また、フロート22の形状が球形である場合は、ふた21に設ける穴21aの形状は円形で、円の中心をドレインチューブ20の中心と一致させ、大きさ(直径)はフロート22の直径より小さくし、球体の一部が穴に内接する大きさとすればよい。
【0023】
ふた21の穴21aがフロート22により塞がれるので、霧化室1内からドレインチューブ20を経て伝わった圧力は、大気圧に開放されているチューブ24へ逃げる。すなわち、ドレインポット25内で液面が急激に上昇しても、廃液が穴21aから噴出することなく、チューブ24から廃液溜へ導かれる。チューブ24に関しては、ドレインポット25の側壁に設けるかわりに、ドレインチューブ20から分岐したものでもよい。この場合は、通常、液面はドレインポット25に達しないので、ドレインポット25内にはフロート22を浮かせるだけの液は存在しない。ドレインポット25の底に複数の突起物を設けるなどして、ドレインポット25内に液が存在しないときはフロート22を支えるようにし、フロート22がドレインチューブ20に連通する穴を完全に塞がないようにすればよい。
【0024】
上記のような構成により、霧化室内の圧力の急激な高まりによりドレインチューブ内の液が急激に移動した場合でも、注入口から液が噴出しない安全な原子吸光分析装置が提供される。特許文献1に記載された構成を併用すること、すなわち、霧化室1に接続される側の管部の管壁にくびれを設け、球体のフロートを霧化室1の排出口とくびれとの間に設置することも可能である。
【0025】
上記実施例は本発明の単に一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正することも可能である。これら変更や修正したものも本発明に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る原子吸光分析装置の該略図である。
【図2】本発明に係る原子吸光分析装置のドレインポットの拡大図である。
【図3】従来の原子吸光分析装置の概略図である。
【図4】従来の原子吸光分析装置のドレインチューブの拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1・・・霧化室
2・・・霧化器
3・・・バーナーヘッド
4・・・吸引管
5・・・噴霧口
7・・・助燃ガス導入管
8・・・燃料ガス導入管
10・・・ドレインチューブ
11・・・くぼみ
12・・・フロート
14・・・チューブ
21・・・ふた
22・・・フロート
24・・・チューブ
25・・・ドレインポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
霧化室内で試料溶液を霧化する霧化器と、
霧化された試料溶液を原子化する原子化部と、
前記原子化部に燃料ガス及び助燃ガスを供給する供給管と、
霧化された試料溶液のうち原子化されなかった試料溶液を排出するU字状のドレインチューブとを備えた原子吸光分析装置において、
前記U字状のドレインチューブの一端を霧化室側に接続し、
他端に液を注入するための注入口を備えたドレインポットを接続し、
前記ドレインポット内にフロートを設け、前記ドレインポットに前記フロートより小さい穴を設けたふたを備えた
ことを特徴とする原子吸光分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の原子吸光分析装置において、
前記ドレインポット内の液面位置を検出するフロートセンサを備えた
ことを特徴とする原子吸光分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−107265(P2008−107265A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292066(P2006−292066)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】