説明

原子炉の運転を監視するための方法及び装置

本発明は、原子力発電所の原子炉1の運転を監視する方法に関する。原子炉は、通常燃料運転サイクルの間は所定の総原子炉出力で運転される。燃料集合体3のうちのいずれかの燃料棒のうちのいずれかの被覆管10の欠陥13に起因する燃料漏れの結果として燃料棒9からの起こる可能性のある核分裂ガスの放出を検出するため、排出ガス流8中の放射能レベルが連続的に測定される。瞬間出力分布PDは炉心2内で定期的に作成され、瞬間出力分布に基づいて経時的な出力分布パターンPDが作成される。次に、核分裂ガスの放出と作成された出力分布パターンが組み合わされ、欠陥の位置を決定するため、核分裂ガスの放出の変化と出力分布パターンの変化との間の相関が観察される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所の原子炉の運転を監視する方法に関するものである。この原子炉は複数の燃料集合体を有する炉心を備え、各燃料集合体は複数の燃料棒を含み、各燃料棒は核燃料及び被覆管を含み、核燃料は被覆管に封入されている。また、発電所は、原子炉及び炉心に冷却液を流すように配置された強制手段と、冷却液からの排出ガス流を運搬するように配置された運搬手段とを備える。この方法は、燃料棒での核分裂ガスが生成される通常燃料運転サイクルの間は、所定の総原子炉出力で原子炉を運転するステップと、燃料集合体のうちのいずれかの燃料棒のうちのいずれかの被覆管の欠陥に起因する燃料漏れの結果として、燃料棒からの起こりうる核分裂ガスの放出を検出するため、通常燃料運転サイクルの間、排出ガス流中の放射能レベルを連続的に測定するステップと、通常燃料運転サイクルの間、炉心の瞬間出力分布を定期的に作成するステップと、通常燃料運転サイクルの間の経時的な瞬間出力分布に基づいて出力分布パターンを作成するステップとを含む。また、本発明は、原子力発電所の原子炉の運転を監視するための方法、および原子力発電所にも関する。
【背景技術】
【0002】
上述したように、原子力発電所の原子炉は複数の燃料集合体を備えた炉心を備える。燃料集合体は垂直に分配され、各燃料集合体は複数の燃料棒を含む。各燃料棒は、ペレットの形態の核燃料を封入する被覆管を備える。共通の核燃料物質はウラン及び/又はプルトニウムである。原子力発電所の通常運転の間、燃料棒内の核燃料が燃焼されて、放射性の不活性ガスを含む核分裂ガスが生成される。通常、これらの核分裂ガスは、燃料棒の内部に留まる。
【0003】
原子炉内部の環境のために、その中に位置付けられる構成要素に対する要求が厳しい。その環境は、例えば非常に酸化性であり、構成要素は強い放射線に暴露される。さらに、原子炉内部の生成出力は、炉心全体にわたって一様に分布せず、ある部分は他の部分よりも高い局部出力レベルに暴露される。局部出力レベルは、例えば、制御棒が移動されるか、水の流れ及び/又は水温が変化したときに変動することがある。原子力の生産者は常に、より多く出力すること、即ち、原子力発電所の有効性を増大させることを目指している。例えば、燃料補給のための機能停止時間を低減させるため、燃料集合体を可能な限り長期の運転サイクルで稼働させることが望ましい。しかし、原子力発電所の運転条件には、燃料の損傷を回避するために超えるべきではない特定の制限があり、したがって、これらの制限は注意深く監視されなければならない。
【0004】
場合によっては、原子力発電所の通常運転の間に燃料棒の被覆管に欠陥が現れる。そのような欠陥は、燃料棒の内部で発生した上述の核分裂ガスの放出に結び付くことがある。欠陥は、一次的又は二次的な性質であり得る。一次欠陥は被覆管に発現する第1の欠陥である。それは、例えば、機械的磨耗又は局部出力ホットスポット(local power hot spot)によって現れる場合があり、通常、被覆管の小さな穴又は亀裂である。一次欠陥は、時間の経過につれて、被覆管のより大きな穴又は亀裂である二次欠陥へ発展することがある。二次欠陥は、被覆管の深刻な損傷に、また最終的には燃料棒の破損に結び付くことがあり、それが次に、原子炉冷却水への核燃料物質の放出に結び付くことがある。燃料集合体中の一つの燃料棒の破損は、冷却液中の許容放射能レベルの超過に結び付いて、原子力発電所の停止を余儀なくさせる可能性がある。したがって、上述したように、原子力発電所を監視し、欠陥燃料棒を含む燃料集合体を除去するか、或いは発電所の運転を修正して二次欠陥を回避するため、そうした燃料集合体を有効に見つけることができることが重要である。原子炉全体の破損を防ぐため、欠陥燃料棒を含む燃料集合体は除去されなければならない。
【0005】
原子炉の運転を監視する1つの手法は、燃料集合体からの核分裂ガスの放出を検出するシステムを使用することである。この種類のシステムは、活性監視システムと呼ばれることがある。核分裂ガスの放出は燃料棒に欠陥が発生していることの指標である。しかし、原子力発電所は、例えば、欠陥燃料棒を含む燃料集合体が位置付けられている原子炉の部分の出力を低減させることによって、稼働し続けることができる。その後、運転サイクルが終わり、新しい核燃料を入れるために原子炉を停止したときに、問題の燃料集合体を除去することができる。
【0006】
したがって、原子力発電所を稼働し続けることができるためには、原子炉のどの部分に欠陥が現れているかを見つけ出すことが重要である。これを行う周知の手法は、米国特許第5,537,450号に記載されている中性子束傾斜法(flux−tilting)又は出力抑制試験(power suppression testing)と呼ばれる方法によるものである。中性子束傾斜法は、原子炉内で制御棒の上下動を伴う。制御棒は、それ自体は核分裂せずに中性子を吸収することができる材料により作られる。したがって、制御棒は、核燃料の核分裂を遅らせ、それによってその近傍で発生する出力を低減させることができる。制御棒は、原子炉の炉心全体にわたって分配され、独立に上下動させて、炉心の異なる位置における出力を制御させることができる。
【0007】
中性子束傾斜法では、制御棒は、原子炉の炉心内で上下動され、それと同時に、原子炉からの排出ガス流が核分裂ガスの検出のために分析される。制御棒が炉心にさらに挿入されると、出力が低減される。次に、その制御棒が炉心から引き抜かれると、出力は増加し、より多くの核分裂ガスが燃料棒中で生成されて、存在し得る欠陥を通してより多量の核分裂ガスが放出される。制御棒を異なる位置で独立に移動させることによって、このようにして、炉心のどの部分に欠陥が現れているかを見つけることが可能である。
【0008】
しかし、中性子束傾斜法は、その方法自体が局部出力変化による二次欠陥のリスクを高めることがあるので、リスクがないわけではない。したがって、中性子束傾斜法は原子炉出力を低減させて実施すべきである。低減された原子炉出力は、原子力発電所の有効性の減少を、ひいては生産損失をもたらす。
【0009】
原子力発電所の運転を監視する別の手法は、原子炉の炉心内の出力分布を連続的に計算するシステムから入手可能な情報を使用することであろう。計算は、炉心から得られる多数の測定プロセス・パラメータを使用する高度なコンピュータ・プログラムによって行うことができる。そのような計算によって、炉心の異なる位置についての出力ピーク及び出力低下を示す三次元の出力分布パターンを得ることができる。システムによって、出力の変化がどこで起こるかを観察するため、経時的な比較を行うことが可能になるであろう。これらの出力変化を観察することにより、燃料棒の欠陥の位置を推測することが可能であるが、機械的磨耗によって起こるものなど、燃料棒のある欠陥は、燃料集合体の出力電力におけるいかなる先行変化もなしに現れる。
【0010】
米国特許第6,408,041号及びCA1016275号は、原子炉の炉心内の出力分布を監視することについて言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,537,450号明細書
【特許文献2】米国特許第6,408,041号明細書
【特許文献3】カナダ国特許第1016275号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、燃料棒に何らかの欠陥が現れているかを見つけ出し、欠陥の位置を見つけるため、より正確には、欠陥を有する燃料棒を含む燃料集合体の位置を見つけ出すための、原子力発電所の原子炉の運転の改善された監視を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、冒頭で定義した方法を用いて得られる。その方法はさらに、核分裂ガスの放出と作成された出力分布パターンとを組み合わせるステップと、燃料棒のいずれかの被覆管の欠陥位置を決定するため、核分裂ガスの放出の変化と出力分布パターンの変化との間の相関を観察するステップとを含むことを特徴とする。
【0014】
したがって、本発明の方法は、核分裂ガスの放出を検出するシステムからのデータと、出力分布パターンを作成するシステムからのデータとを組み合わせて、原子炉内の燃料棒の起こりうる欠陥の位置を見つけることを含む。その方法は、原子力発電所の通常運転の間に、その通常の所定の総原子炉出力で使用することを目的としている。その結果、この方法を実行するために出力を低減させる必要がなく、したがって、通常運転及びこの方法の実行中に生産損失が起こらない。この方法から得られる情報を用いて、発見された一次欠陥が二次欠陥に発展するリスクを低減させるいくつかの予防措置を取ることができる。これらの措置は、中性子束傾斜試験を必要とせずに、欠陥が見つかった原子炉の部分における出力を低減させる場合でも出力を変えない場合もある。また、欠陥が見つかる可能性が最も高い原子炉の部分において、簡略化した中性子束傾斜試験を実行することが可能である。さらに、この情報は、通常の所定の総原子炉出力で、制御棒の移動を低減させて中性子束傾斜試験を実行するために使用できる。これにより、低減された出力で実行される中性子束傾斜試験に比べて生産損失が少なくなる。
【0015】
相関は、核分裂ガスの放出がその後に起こる、出力分布パターンの局部変化を含むことが好ましい。
【0016】
相関は、継続中の核分裂ガスの放出の増加がその後に起こる、出力分布パターンの局部変化を含むことが好ましい。例えば、核分裂ガスの放出がそのほぼ直後に起こる局部出力増加は、局部出力増加の領域における欠陥を示唆することがある相関である。
【0017】
発電所は、炉心内の異なる位置での局部出力レベルを計算する炉心シミュレータ(core simulator)を備え、計算された局部出力レベルは、瞬間出力分布及び出力分布パターンを作成するために使用されることが好ましい。
【0018】
計算された局部出力レベルはシミュレーション・モデルによって計算され、シミュレーション・モデルは、出力に作用する要因(power affecting factors)を含む炉心入力信号を使用することが好ましい。
【0019】
出力に作用する要因は、所定の総原子炉出力、冷却液の流れ、及び原子炉の少なくとも1つの位置における冷却液の温度を含むプロセス・パラメータを含むことが好ましい。
【0020】
局部出力レベルは炉心内の異なる位置にあるセンサによって感知されることが好ましい。
【0021】
感知された局部出力レベルは計算された局部出力レベルと比較され、それによって、感知された局部出力レベル及び計算された局部出力レベルが一致しない場合、出力分布パターンの再計算及び補正が実行されて、補正された出力分布パターンが作成されることが好ましい。
【0022】
各センサは局部出力領域モニタ又は同等のデバイスを備えることが好ましい。局部出力領域モニタは、横断方向の横移動炉内プローブ(traverse incore probe)又は同等のデバイスによって周期的に校正することができる。
【0023】
センサは、局部中性子束及び局部γ線束の少なくとも一方を定期的に測定することが好ましい。
【0024】
また、本発明の目的は、請求項11に定義される装置によって達成される。この装置は、原子力発電所の原子炉の運転を監視する、冒頭で定義した方法の実施に適している。この装置は、燃料棒のいずれかの被覆管の欠陥による燃料漏れの結果として起こりうる燃料棒からの核分裂ガスの放出を検出するため、通常燃料運転サイクルの間、排出ガス流中の放射能レベルを連続的に測定するように構成された少なくとも1つの第1の検出器と、通常燃料運転サイクルの間の炉心における瞬間出力分布を定期的に作成し、通常燃料運転サイクルの間の経時的な瞬間出力分布に基づいて出力分布パターンを作成するように構成された炉心シミュレータと、核分裂ガスの放出と作成された出力分布パターンとを組み合わせることによって、また核分裂ガスの放出の変化と出力分布パターンの変化との間の相関を観察することによって、燃料棒のいずれかの被覆管に欠陥を含む燃料集合体の位置を決定するように構成されたプロセッサとを備える、監視デバイスを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の一具体例によれば、炉心シミュレータは、炉心内の異なる位置における局部出力レベルを計算し、計算された局部出力レベルに基づいて出力分布パターンを作成するように構成される。
【0026】
別の具体例によれば、監視デバイスは、炉心内の異なる位置における局部出力レベルを感知するように構成された、炉心内の異なる位置に設けられたセンサを備える。
【0027】
さらに別の具体例によれば、監視デバイスは、感知された局部出力レベルを計算された局部出力レベルと比較するように構成された比較器を備え、それによって、炉心シミュレータは、感知された局部出力レベル及び計算された局部出力レベルが一致しない場合、出力分布パターンを再計算及び補正して、補正された出力分布パターンを作成する。
【0028】
さらに別の具体例によれば、各センサは局部出力領域モニタを備える。局部出力領域モニタは、横移動炉内プローブによって周期的に校正することができる。
【0029】
さらに別の具体例によれば、センサは局部中性子束及び局部γ線束の少なくとも一方を定期的に測定するように構成される。
【0030】
本発明の目的は、請求項18に定義される原子力発電所によっても得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】原子炉を備える原子力発電所を示す概略図。
【図2a】核燃料を封入する燃料棒を示す概略図。
【図2b】核燃料を封入する燃料棒を示す概略図
【図3】本発明による方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0032】
最初に、本発明による方法によって監視される原子炉の一実施例について、図1を参照して説明する。本発明は、沸騰水型原子炉(BWR)又は加圧水型原子炉(PWR)などの軽水炉に適用可能である。図1は、原子力発電所の一部を示す。原子力発電所は原子炉1を備える。原子炉1は複数の燃料集合体3を有する炉心2を備える。各燃料集合体3は複数の燃料棒(図示なし)を含む(図2a参照)。原子炉1は制御棒4をさらに備える。制御棒4は燃料集合体3の間に位置し、駆動部材5に接続される。駆動部材5は、制御棒4を鉛直方向Xで上下に移動させ、且つ燃料集合体3の間の個々の位置に出し入れすることができる。
【0033】
また、原子力発電所は、原子炉1及び炉心2に冷却液6を流すように配置された強制手段をも備える。さらに、原子力発電所は、冷却液6からの排出ガス流8を運搬するように配置された運搬手段7を備える。排出ガス流8中の放射能活性を測定するための第1の検出器Dが、運搬手段7内に位置する。さらに、第1の記録計Rは第1の検出器Dに接続される。第1の記録計Rは、第1の検出器Dによって測定された排出ガス流8中の放射能活性を記録し、または場合によっては格納する。
【0034】
原子炉1の炉心2は、炉心2内の異なる位置に全体にわたって均等に分配されたセンサSをさらに備える。炉内機器であるセンサSは炉心2内の局部出力レベルを感知する。さらに、原子炉1は、炉心2内の異なる位置に局在する様々な第2の検出器Dを備える。第2の検出器Dは、所定の総原子炉出力、冷却液の流れ、及び冷却液の温度などのプロセス・パラメータを測定する。プロセス・パラメータは、炉心2内の異なる位置における局部出力レベルを計算するために使用される。
【0035】
図2aは、本発明による原子力発電所用の燃料棒9を示す。燃料棒9は被覆管10及び核燃料ペレット11を含み、被覆管10は核燃料ペレット11を封入する。バネ12は核燃料ペレット11を適所で保持する。
【0036】
図2bは、図2aの燃料棒に類似した燃料棒9を示す。これらの相違は、被覆管10が欠陥13を、例えば一次欠陥を有することである。
【0037】
図3は、図3に開示された構成要素を備える監視デバイスを用いた、本発明の1つの実例による原子炉の運転を監視する方法を示すフローチャートである。本発明の一実施例による原子力発電所を説明するため、図1を参照する。原子力発電所の通常運転サイクルの間、燃料棒のいずれかの被覆管の欠陥による核分裂ガスを含有することのある排出ガス流が監視され、それにより、少なくとも1つの第1の検出器Dによって発生しうる可能性にある核分裂ガスが検出及び測定される。第1の検出器Dは、排出ガス流中の放射能レベルを連続的に測定するように構成される。測定値は第1の記録計Rによって記録される。同時に、原子炉1の炉心2全体にわたって均等に分配されたセンサSは、炉心2の異なる位置における局部出力レベルLPを感知する。さらに、多数の第2の検出器Dは、所定の総原子炉出力、冷却液の流れ、及び冷却液の温度などのプロセス・パラメータを測定する。プロセス・パラメータは、原子炉1の炉心2内の異なる位置における局部出力レベルLPを計算するため、炉心シミュレータ14によって使用される。炉心シミュレータ14は、各燃料集合体3を例えば約25の計算ノードに分割する。通常、本発明に関して記載されるタイプの原子力発電所の原子炉は、約400〜900の燃料集合体を備え、結果として計算ノードは数千になる。炉心シミュレータ14は、これらの計算ノードそれぞれについて局部出力レベルLPを計算する。
【0038】
比較器15は感知された局部出力レベルLPを計算された局部出力レベルLPと比較する。計算された局部出力レベルLPが感知された局部出力レベルLPと一致しない場合、計算された局部出力レベルLPと感知された局部出力レベルLPとの間の差が計算される。その後、計算された局部出力レベルLPの再計算及び補正が炉心シミュレータ14によって実行される。
【0039】
この方法及びこの監視デバイスにおいてはセンサSが提供されて、実際の局部出力レベルを感知するが、計算された局部出力レベルLPは、炉心シミュレータ14による実際の局部出力レベルの概算である。感知された局部出力レベルLPは、計算された局部出力レベルLPを補正するために使用されるが、炉心2内のセンサSは数個しかなく、そのいくつかは連続的に動作可能ではないことがある。炉心シミュレータ14は、これとは対照的に、局部出力レベルLPを連続的に、また炉心2の燃料集合体3のすべての計算ノード内で計算することができる。センサSは、局部出力領域モニタであることが有利である。
【0040】
局部出力レベルLPが計算され、任意に炉心シミュレータによって再計算されると、計算機Cは瞬間出力分布PDを作成する。瞬間出力分布PDは第2の記録計Rによって時間とともに記録される。最後に、計算機Cは、記録された瞬間出力分布PDに基づいて出力分布パターンPDを作成する。出力分布パターンPDは、三次元で例示されると有利であり、局部出力ピーク及び局部出力低下、並びにそれらが時間とともにどう変化するかを示す。
【0041】
瞬間出力分布PDは、上述のプロセス・パラメータのいずれかがその値を変化させるたびに作成される。プロセス・パラメータ値の変化は、例えば、制御棒4のうちの1つの移動によって起こり得る。プロセス・パラメータが予め定められた時間内で、通常は約15分間のうちにその値を変化させない場合、瞬間出力分布PDの自動的な作成が行われる。
【0042】
最後のステップでは、排出ガス流中の放射能レベルの測定による記録値、及び作成された出力分布パターンPDがプロセッサ16で組み合わされる。プロセッサ16は、核分裂ガスの放出と作成された出力分布パターンPDを組み合わせることによって、また核分裂ガスの放出の変化と出力分布パターンPDの変化との間の時間内の相関を観察することによって、燃料棒9のいずれかの被覆管10の欠陥13の位置を決定するように構成される。
【0043】
上記によれば、局部出力変化による核分裂ガスの放出が起こった場合、局部出力変化がどこでいつ起こったかに関する情報は、欠陥13の位置を決定する助けとなる。核分裂ガスが炉心2から第1の検出器Dまで移動するのに必要な時間が既知の場合、核分裂ガスの放出と同時に起こった局部出力変化を見つけるため、作成された出力分布パターンPDを探索することが可能である。核分裂ガスの放出の変化が記録されるたびに、出力分布パターンPDへの相関が行われる。通常は、核分裂ガスの放出の変化が起こると同時に多数の局部出力変化が起こるが、相関のたびに、欠陥13のより可能性が高い位置を決定することができる。
【0044】
他方では、核分裂ガスの放出による局部出力変化が起こった場合、局部出力変化がどこでいつ起こったかに関する情報は、核分裂ガスの放出が検出されたときにセンサSのどれが局部出力変化を感知したかを決定するのに有用であり得る。この例は図3にも概略的に示される。上述したように、比較器15は、感知された局部出力レベルLPを計算された局部出力レベルLPと比較する。計算された局部出力レベルLPと感知された局部出力レベルLPとの間の差LPは、第3の記録計Rによって記録される。排出ガス流中の放射能レベルの測定による記録値、及び記録された局部出力差LPがプロセッサ16で組み合わされる。プロセッサ16は、核分裂ガスの放出と記録された局部出力差LPを組み合わせることによって、また核分裂ガスの放出の変化と記録された局部出力差LPの変化との間での時間内の相関を観察することによって、燃料棒9のいずれかの被覆管10の欠陥13の位置を決定するように構成される。特に、原子炉環境のいかなる変化にも相当しない、記録された局部出力差LPの変化は、欠陥13の位置を決定するためにさらに調査される。
【0045】
この方法及びこの監視デバイスは、欠陥の位置を決定することを目的としている。上述したように、この決定は、少なくとも部分的には計算に基づいており、つまり、決定された位置は、作成された出力分布パターン及び核分裂ガスの放出によって達成可能な、欠陥の最も可能性が高い位置となる。位置は、欠陥13を含む燃料棒9を備える燃料集合体3の位置、欠陥13を含む燃料棒9の位置、又は欠陥13自体の位置であり得ることに留意されたい。
【0046】
本発明は、図示される実施例に限定されず、以下の請求項の範囲内で変更し修正することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所の原子炉(1)の運転を監視する方法であって、前記原子炉(1)が複数の燃料集合体(3)を有する炉心(2)を備え、各燃料集合体(3)が複数の燃料棒(9)を含み、各燃料棒(9)が核燃料(11)及び被覆管(10)を含み、前記核燃料(11)が前記被覆管(10)に封入されており、前記発電所が、前記原子炉(1)及び前記炉心(2)を通って冷却液(6)を流すように配置された強制手段と、前記冷却液(6)からの排ガス流(8)を運搬するように配置された運搬手段(7)とを備え、前記方法が、
前記燃料棒(9)にて核分裂ガスが生成される通常燃料運転サイクルの間、所定の総原子炉出力で前記原子炉(1)を運転するステップと、
前記燃料集合体(3)のうちのいずれかの前記燃料棒(9)のうちのいずれかの前記被覆管(10)の欠陥(13)に起因する燃料漏れの結果として、前記燃料棒(9)から発生する可能性のある核分裂ガスの放出を検出するため、前記通常燃料運転サイクルの間、前記排出ガス流(8)中の放射能レベルを連続的に測定するステップと、
前記通常燃料運転サイクルの間、前記炉心(2)における瞬間出力分布(PD)を定期的に作成するステップと、
前記通常燃料運転サイクルの間の経時的な前記瞬間出力分布(PD)に基づいて出力分布パターン(PD)を作成するステップと
を含む、前記原子炉(1)の運転を監視する方法において、前記方法が、
核分裂ガスの放出と作成された前記出力分布パターン(PD)とを組み合わせるステップと、
前記燃料棒(9)のいずれかの前記被覆管(10)の前記欠陥(13)の位置を決定するために、前記核分裂ガスの放出の変化と前記出力分布パターン(PD)の変化との間の相関を観察するステップとをさらに含むことを特徴とする、原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項2】
前記相関が、核分裂ガスの放出がその後に発生する、前記出力分布パターン(PD)の局部変化を含む、請求項1に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項3】
前記相関が、継続中の核分裂の放出の増加がその後に起こる、前記出力分布パターン(PD)の局部変化を含む、請求項1または請求項2に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項4】
前記発電所が、前記炉心(2)内の異なる位置における局部出力レベル(LP)を計算する炉心シミュレータ(14)を備え、
計算された局部出力レベル(LP)が、前記瞬間出力分布(PD)及び前記出力分布パターン(PD)を作成するために使用される、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項5】
前記計算された局部出力レベル(LP)がシミュレーション・モデルによって計算され、前記シミュレーション・モデルが出力に作用する要因を含む炉心入力信号を使用する、請求項4に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項6】
前記出力に作用する要因が、前記所定の総原子炉出力、前記冷却液(6)の流れ、及び前記原子炉(1)の少なくとも1つの位置における前記冷却液(6)の温度を含むプロセス・パラメータを含む、請求項5に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項7】
局部出力レベル(LP)が、前記炉心(2)内の異なる位置にあるセンサ(S)によって感知される、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項8】
感知された局部出力レベル(LP)が前記計算された局部出力レベル(LP)と比較される、請求項4及び請求項7に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項9】
前記感知された局部出力レベル(LP)と前記計算された局部出力レベル(LP)とが一致しない場合、前記出力分布パターン(PD)の再計算及び補正が実行されて、補正された出力分布パターン(PD)が作成される、請求項8に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項10】
前記感知された局部出力レベル(LP)と前記計算された局部出力レベル(LP)との間の局部出力差(LP)を記録するステップと、
前記核分裂ガスの放出と記録された局部出力差(LP)とを組み合わせるステップと、
前記燃料棒(9)のいずれかの前記被覆管(10)の前記欠陥(13)の位置を決定するため、前記核分裂ガスにおける変化と前記記録された局部出力差(LP)における変化との間の相関を観察するステップをさらに含む、請求項8に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項11】
前記センサ(S)が、局部中性子束及び局部γ線束の少なくとも一方を定期的に測定する、請求項7から請求項10までのいずれか一項に記載された原子炉(1)の運転を監視する方法。
【請求項12】
原子力発電所の原子炉(1)の運転を監視するための装置であって、前記原子炉(1)が複数の燃料集合体(3)を有する炉心(2)を備え、各燃料集合体(3)が複数の燃料棒(9)を含み、各燃料棒(9)が核燃料(11)及び被覆管(10)を含み、前記核燃料(11)が前記被覆管(10)に封入されており、前記発電所が、前記原子炉(1)及び前記炉心(2)に冷却液(6)を流すように配置された強制手段と、前記冷却液(6)からの排出ガス流(8)を運搬するように配置された運搬手段(7)とを備え、前記原子炉(1)が、前記燃料棒(9)で核分裂ガスが生成される通常燃料運転サイクルの間、所定の総原子炉出力で運転されるように構成されている、前記装置において、
前記装置が監視デバイスを備え、該監視デバイスが、
前記燃料棒(9)のうちのいずれかの前記被覆管(10)の欠陥(13)に起因する燃料漏れの結果として前記燃料棒(9)から発生する可能性のある核分裂ガスの放出を検出するため、前記通常燃料運転サイクルの間、前記排出ガス流(8)中の放射能レベルを連続的に測定するように構成された少なくとも1つの第1の検出器(D)と、
前記通常燃料運転サイクルの間、前記炉心(2)における瞬間出力分布(PD)を定期的に作成するとともに、前記通常燃料運転サイクルの間の経時的な前記瞬間出力分布(PD)に基づいて出力分布パターン(PD)を作成するように構成された炉心シミュレータ(14)と、
核分裂ガスの放出と作成された前記出力分布パターン(PD)を組み合わせることによって、また、前記核分裂ガスの放出における変化と前記出力分布パターン(PD)における変化との間の相関を観察することによって、前記燃料棒(9)のうちいずれかの前記被覆管(10)の前記欠陥(13)の位置を決定するように構成されたプロセッサ(16)とを備える、装置。
【請求項13】
前記炉心シミュレータ(14)が、前記炉心(2)内の異なる位置における局部出力レベル(LP)を計算し、計算された局部出力レベル(LP)に基づいて前記出力分布パターン(PD)を作成するように構成される、請求項12に記載された装置。
【請求項14】
前記監視デバイスが、前記炉心(2)内の異なる位置に設けられ、前記炉心(2)内の異なる位置における局部出力レベル(LP)を感知するように構成されたセンサ(S)を備える、請求項12または請求項13に記載された装置。
【請求項15】
前記監視デバイスが、感知された局部出力レベル(LP)を前記計算された局部出力レベル(LP)と比較するように構成された比較器(15)を備え、それによって、前記炉心シミュレータ(15)が、前記感知された局部出力レベル(LP)と前記計算された局部出力レベル(LP)とが一致しない場合、前記出力分布パターン(PD)を再計算及び補正して、補正された出力分布パターン(PD)を作成するように構成される、請求項13及び請求項14に記載された装置。
【請求項16】
各センサ(S)が局部出力領域モニタを備える、請求項14又は請求項15に記載の装置。
【請求項17】
請求項12から請求項16までのいずれか一項に記載された装置及び監視デバイスを備える原子力発電所。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−523054(P2011−523054A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512413(P2011−512413)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050611
【国際公開番号】WO2009/148391
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(504448335)ウエスチングハウス エレクトリック スウェーデン アクチボラグ (1)
【Fターム(参考)】