説明

原子炉内の金属組織調査方法及び装置

【課題】原子炉圧力容器及び原子炉内構造物の溶接部に万一ひびが発見された場合、そのひびの原因が粒界組織に沿った応力腐食割れによるものかを調査する必要があり、そのためには金属組織とひび面の状態を観察するためのレプリカの採取が要求される。本発明の第一の課題は、原子炉圧力容器下部のようなCRDが多数林立した、多様な3次元形状で曲率面を有する複雑形状物に対しても、液もれ防止と被検査空間への浸水を防止した金属組織調査方法を提供することにある。
【解決手段】第一の課題を解決するための手段は、レプリカ採取空間を形成するに際し、前記空間の周囲に充填硬化材を注入し、前記充填硬化剤により被検査面の形状に倣ったシールを形成することで、前記被検査面の形状に倣ったシール形状が得られることから達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの供用期間中に原子炉圧力容器及び原子炉内構造物の金属組織調査を実施する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉圧力容器及び原子炉内構造物の溶接部に万一ひびが発見された場合、そのひびの原因が粒界組織に沿った応力腐食割れによるものかを調査する必要があり、そのためには金属組織とひび面の状態を観察するためのレプリカの採取が要求される。金属組織を調査するためには調査面を鏡面仕上げ後に、観察面をエッチング液により電気腐食して組織を現出させた後に、レプリカに表面組織を転写し、これを観察する方法が一般的である。その際、特定の部位を対象とした装置として、ひとつは制御棒駆動装置(CRD)ハウジング外周溶接部の表面欠陥を検査する方法として、シールチャンバを使用した水中遠隔表面調査装置(特開2003−262695号公報)が提案されている。これは、被検査面に圧接シールされる開口部を有するシールチャンバにエッチング液を供給して検査面を電解エッチングする手段と、シールチャンバにレプリカ材を供給し、被検査面の表面状態を採取する手段を備えた装置に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−262695号公報
【特許文献2】特開平6−180275号公報
【特許文献3】特開平4−305195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開2003−262695号公報記載の従来技術は、制御棒駆動装置(CRD)ハウジングの外周溶接部を対象としてシールチャンバを利用して表面検査を実施する水中遠隔装置であるが、制御棒駆動装置(CRD)ハウジングは半割形状した原子炉圧力容器下鏡を貫通して多数林立しており、その外周溶接部は3次元形状した曲率面を有し、かつ対象とする制御棒駆動装置(CRD)ハウジングによってその形状及び寸法が各々異なる。
【0005】
電解エッチングにはシュウ酸等のエッチング液を使用するため、原子炉水への液もれ防止と、エッチング空間への原子炉水の浸水防止の2点からエッチング空間の周囲は高いシール性が要求される。その際、多様な3次元形状した曲率面に応じたシール面を確保することは難しく、予め溶接部表面の形状を把握し、その形状に合わせたシールチャンバの準備が必要となり、複数箇所の観察を実施する場合には、その都度シールチャンバ開口部の形状を変更する必要がある。
【0006】
電解エッチングを実施する場合、現出させる金属組織とひびは、明確に見分けがつくように腐食ムラの発生を防止する必要がある。特に溶接部に使用されるインコネル材は、ステンレス材に比較してエッチングされやすい傾向にあり、電解エッチングする溶接面と電極の間隔にばらつきが有ると、再接近した部分に局所的にエッチング電流が集中し、エッチングされる面とされない面でのばらつきが腐食ムラとして生じ、組織観察に支障が生じる。そのため溶接部の被検査面の形状に対して電極形状も等間隔になるように配置する必要がある。
【0007】
しかし、当該公報については、シール性の確保及び前記電解エッチングにおける腐食ムラに関して配慮されておらず、電解エッチングの施工性に課題を有している。また、万一電解エッチングに腐食ムラが生じた場合には、検査面の鏡面仕上げ研磨からやり直しとなり、時間的な損失が生じる。また供用期間中の運転プラントを対象とした予防保全工法では、施工後の信頼性および経済性の観点からの工事期間の短縮が求められている。
【0008】
そこで、本発明の第一の課題は、原子炉圧力容器下部のようなCRDが多数林立した、多様な3次元形状で曲率面を有する複雑形状物に対しても、液もれ防止と被検査空間への浸水を防止した金属組織調査方法を提供することにある。
【0009】
第二の課題は、電解エッチングにおいて、エッチングの濃淡による腐食ムラの発生を抑制する方法を提供することにある。
【0010】
第三の課題は、複雑形状物に対しても、エッチングの濃淡による腐食ムラの発生を抑制し、作業時間を削減した効率的な金属組織調査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の課題を解決するための手段は、レプリカ採取空間を形成するに際し、前記空間の周囲に充填硬化材を注入し、前記充填硬化剤により被検査面の形状に倣ったシールを形成することで、前記被検査面の形状に倣ったシール形状が得られることから達成できる。
【0012】
第二の課題を解決するための手段は、エッチングを行うに際し、電極シートを被検査面となる溶接部に押付け充填硬化材により型取り後、前記電極シートを溶接部から引き離し空間を設けることで、被検査面である溶接部に倣った形状の電極シートを形成することにより、溶接部の被検査面の形状に対して電極形状も等間隔になるように配置され、被検査面に倣った形状の空間が得られることで達成できる。
【0013】
第三の課題を解決するための手段は、第一の課題を解決するための手段と、第二の課題を解決するための手段で得られた空間を利用して、エッチング処理とレプリカ材を充填して金属組織の転写するレプリカ採取を行うことにより、エッチング処理とレプリカ採取をひとつの装置で連続して実施することで達成できる。
【発明の効果】
【0014】
第一の課題を解決するための手段によれば、複雑な形状においても液もれと被検査空間への浸水を抑制した金属組織調査が行える。
【0015】
第二の課題を解決するための手段によればエッチングの濃淡による腐食ムラの発生を抑制することが可能となる。
【0016】
第三の課題を解決するための手段によれば、複雑形状物に対しても、エッチングの濃淡による腐食ムラの発生を抑制し、作業時間を削減した効率的な金属組織調査方法が行える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例である、エッチングレプリカ採取作業フローを示す。
【図2】本発明の一実施例である、金属組織調査ヘッド概念を示す。
【図3】本発明の一実施例である、シール後の金属組織調査ヘッド概念を示す。
【図4】本発明の一実施例である、注入ラインを構成する金属組織調査ヘッド概念を示す。
【図5】本発明の一実施例である、エッチングを構成する金属組織調査ヘッド概念を示す。
【図6】本発明の一実施例である、充填材注入手順を示す。
【図7】本発明の一実施例である、空間形成手順を示す。
【図8】本発明の一実施例である、ピストン引き上げ手順を示す。
【図9】本発明の一実施例である、金属組織調査ヘッド概念を示す。
【図10】本発明の一実施例である、全体構成の概念図を示す。
【図11】本発明の一実施例である、ステップ5の充填硬化材を注入する手順を示す。(注入前)
【図12】本発明の一実施例である、ステップ5の充填硬化材を注入する手順を示す。(注入後)
【図13】本発明の一実施例である、ステップ6の内空間に充填硬化材を注入する手順を示す。(注入前)
【図14】本発明の一実施例である、ステップ6の内空間に充填硬化材を注入する手順を示す。(注入後)
【図15】本発明の一実施例である、ステップ6のエッチング空間の確保手順を示す。(空間確保前)
【図16】本発明の一実施例である、ステップ6のエッチング空間の確保手順を示す。(空間確保後)
【図17】本発明の一実施例である、ステップ7の電解エッチング手順を示す。(エッチング液注入)
【図18】本発明の一実施例である、ステップ7の電解エッチング手順を示す。(エッチング液注後)
【図19】本発明の一実施例である、ステップ8のレプリカ材注入,ステップ9の転写手順を示す。
【図20】本発明の一実施例である、ステップ10のヘッド引き上げ手順を示す。
【図21】本発明の一実施例である、制御手順フローを示す。
【図22】本発明の一実施例である、沸騰水型原子炉の断面を示す。
【図23】本発明の一実施例である、制御棒駆動装置(CRD)ハウジングのエッチングレプリカ採取の概念を示す。(溶接部谷側の場合)
【図24】本発明の一実施例である、制御棒駆動装置(CRD)ハウジングのエッチングレプリカ採取の概念を示す。(溶接部山側の場合)
【図25】本発明の一実施例である、制御棒駆動装置(CRD)ハウジング溶接部への金属組織調査ヘッドの設定図を示す。
【図26】本発明の一実施例である、加圧水型原子炉の断面を示す。
【図27】本発明の一実施例である、炉内計装筒溶接部への金属組織調査ヘッドの設定図を示す。
【図28】本発明の一実施例である、金属組織調査ヘッド概念を示す。
【図29】本発明の一実施例である、多孔質柔軟材を被検査面に押付ける手順を示す。
【図30】本発明の一実施例である、充填硬化材を注入する手順を示す。
【図31】本発明の一実施例である、空間の確保手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0019】
本実施例では、平坦でない被検査面2を対象に金属組織調査を行う一例を示す。調査対象面に万一ひびが発見された場合、そのひびの原因が粒界組織に沿った応力腐食割れによるものかを調査するため、ひびを含めた周辺のエッチングレプリカを採取することとなる。図1は、金属組織を調査するためのエッチングレプリカ採取作業フローの一例である。まず、ステップ1で超音波探傷検査(UT)及び渦流探傷検査(ECT)によりひびの位置,範囲の座標を測定する。これにより次ステップにおける研磨装置若しくは金属組織調査ヘッドの設定位置を事前に決定することができ、適切な検査対象面に調査を行うことができる。ステップ2で研磨装置をひび発生の検査面近傍に設定する。ステップ3で被検査面の鏡面仕上げ研磨をする。ステップ4で金属組織調査ヘッドを被検査面近傍に設定する。次にステップ5からステップ7で金属組織面のエッチングを実施し、ステップ8からステップ9でエッチングした金属組織面のレプリカ採取を実施する。ステップ10で金属組織調査ヘッドを引き上げ、ステップ11で採取したレプリカ転写面の観察を実施する。
【0020】
この一連の作業フローにおいて、ステップ8からステップ9の金属組織のエッチングでは、被検査面をエッチング液に浸漬することになるが、被検査面の周囲は原子炉水の環境にあるため、エッチング液が原子炉水に漏えいすることの防止、及び原子炉水がエッチング液に混入することの防止が必要となる。
【0021】
図2及び図3は、エッチング液の漏えい防止を考慮した金属組織調査ヘッド1の実施例である。これは、平坦でない被検査面2に対しては、金属組織調査ヘッド1を押付けても、エッチング液を溜める内筒5と被検査面2との間に隙間が生じるため、その隙間を塞いでシールする手段として充填硬化材を注入硬化させて被検査面2の形状に倣ったシールを得ることを特徴とする。金属組織調査ヘッド1は、外筒4と内筒5を同心円上に備えた2重管構造で、外筒4と内筒5の下端には流動性のある充填硬化材を外空間の外部に流出することを抑制するスポンジ等の多孔質柔軟材6aを取り付けているとともに、内筒5の内空間には電極を備える。外筒4と内筒5の間の外空間には、充填硬化材を注入するための外空間注入ライン8が、内筒5の内空間にはエッチング液を供給及び排出するためのエッチング液注入ライン10と、エッチング液排出ライン11が接続されている。充填硬化材の注入系統は、主剤14と硬化剤15の2液混合タイプで各々がミキサー16を介して外空間注入ライン8に接続される。エッチング液の系統は、圧縮空気による加圧系統を有する液供給タンク19と清水タンク20が弁23と弁24を介してエッチング液注入ライン10に接続し、真空ポンプ22による減圧系統を有する廃液タンク21が弁28を介してエッチング液排出ライン11に接続される。
【0022】
図28に金属組織調査ヘッドの他の例を記載する。検査空間を作成するための金属調査ヘッドは空間を形成するため多孔質柔軟材7cと充填硬化材を注入するための外空間注入ライン8と外筒4を備えている。図を用いて他の例を説明する。図28で示すように、非検査面に金属組織調査ヘッドを設定する。次に、図29に示すように多孔質柔軟材7cを被検査面に押付ける。次に、図30に示すように外空間注入ライン8より充填硬化材を注入する。その後、図31に示すように多孔質柔軟材7cを引き上げる。これによりエッチング処理やレプリカ採取のための空間が作成できる。被検査面の形状に倣ったシールを作成することが可能となるため複雑形状においても金属組織調査可能となる。
【0023】
金属組織調査ヘッドは外筒4と内筒5を同心円上に備えた2重管構造を持つものや金属調査ヘッドは空間を形成するため多孔質柔軟材7cと外筒4を持つもの等、検査空間を形成する装置として他の例も考えられる。
【0024】
エッチング手順は以下の通りである。ひび3がほぼ中心となる位置に金属組織調査ヘッド1を被検査面2に押付けて、金属組織調査ヘッド1の外筒4と内筒5との外空間に外空間注入ライン8から充填硬化材を注入する。このとき充填硬化材は、主剤14及び硬化剤15からミキサー16に供給されて、ミキサー16で混合されてから外空間注入ライン8から外空間に注入される。注入された充填硬化材は外空間を充填しながら下端の多孔質柔軟材6aに達して、被検査面2と多孔質柔軟材6aの間隙を埋める。充填終了後、一定の硬化時間を得ることで、被検査面2と多孔質柔軟材6aの間隙に充填硬化したシールが得られる。通常シール性を確保するためには、被検査面2の形状に合わせたシール材を密着させる方法をとるが、ひび3が生じる被検査面2は肉盛溶接部の不定形な形状であるため、予め正確に形状を把握することは難しく、場所によって形状が変わるため、その都度、専用ヘッドを準備することは非効率となる。そのため、シール材として充填硬化材を使用することで被検査面2の形状に倣って間隙を埋めることが可能となる。なお、充填硬化材としては、樹脂系の主剤と硬化剤を混合して初期は比較的粘性の少ない流動性のある状態から時間を置くことで硬化するものであり、2液混合タイプのレプリカ材やエポキシ樹脂ライニング等が考えられる。レプリカ材を兼用した場合、装置構成がより簡易となる他、作業時間の効率も向上する。
【0025】
次にシールした被検査面2のエッチングを行う。被検査面2と内筒5で形成された内空間にエッチング液注入ライン10から清水を注入し、初期に溜まっている炉水をエッチング液排出ライン11から排出する。これは、エッチング液に対して原子炉水に含まれる不純物の影響を除外するための洗浄処置である。その後、エッチング液注入ライン10からエッチング液を注入し、エッチング空間を清水からエッチング液に置換する。その後、被検査面2と電極7aの間にエッチング電源により電圧を加えて、電解エッチングを実施する。なお、電解エッチング終了後は、エッチング液注入ライン10から清水を注入し、エッチング空間をエッチング液から清水に置換することで、エッチング液を排出する。これにより、金属組織表面の粒界などを際立たせることができる。
【0026】
エッチングにはその他に化学エッチングがある。化学エッチングは、専用のエッチング液に被検査面2を浸漬するが電解エッチングと異なりエッチング電流を加えない方法である。この場合は、前述の手順からエッチング電源による電圧を加える手段を除くことで容易に対応できる。したがって、本方法は電解エッチングや化学エッチング等その他のエッチング手法を用いてもよい。
【0027】
前述したエッチング液もしくは清水の供給の原理は、液供給タンク19または清水タンク20を弁26または弁27で切替えて圧縮空気により加圧することにより液面を押し下げてエッチング液注入ライン10にエッチング液を送り込む方法となっている。また、エッチング液の排出の原理は、加圧によるエッチング液の押し込みと、真空ポンプ22を作動させて廃液タンク21内の圧力をエッチング液排出ライン11の系統圧よりも減圧することにより、廃液タンク21内に引き込む方法となっている。なお、化学薬品に使用可能な送給ポンプ及び吸引ポンプを使用する場合は、液供給タンク19及び清水タンク20と弁23と間に送給ポンプ,廃液タンク21と弁28との間に吸引ポンプを設けることでも達成可能である。
【0028】
本実施例のシールによれば、多様な3次元形状した曲率面を有する複雑な形状である検査対象面においても、漏えい及びエッチング空間への原子炉水の浸水を防止するためのシール方法を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0029】
次に平坦ではない被検査面2の形状に合わせて一定の距離を保った電極形状を用いる場合の実施例を述べる。これは、電解エッチングを実施する場合、現出させる金属組織とひびは、明確に見分けがつくように腐食ムラの発生を防止する必要があるが、電解エッチングする被検査面と電極の間隔にばらつきが有ると、再接近した部分に局所的にエッチング電流が集中し、エッチングされる面とされない面でのばらつきが腐食ムラとして生じ、組織観察に支障が生じる。そのため被検査面の形状に対して電極形状も等間隔になるようにするために、被検査面に電極シートを押付けて充填硬化材により型取りして、所定の電極形状を得ることを特徴とする。図4,図5,図6,図7及び図8に実施例を示す。金属組織調査ヘッド1は、外筒4と、外筒4の下端にシール6bを有する構造において、外筒4の内空間に充填硬化材を注入する内空間注入ライン9と、注入した充填硬化材により被検査面2の形状に応じて型取りする電極シート7bと、電極シート7bと被検査面2の間でエッチング液の供給と排出するエッチング液注入ライン10と、エッチング液排出ライン11が接続される。また、内空間にはピストン12が設定されており、内空間の上部に位置するシリンダ13に連結される。ここで、金属組織調査ヘッド1と被検査面2との間のシール6bは弾性材料を用いる方法で記載しているが、実施例1に前述した充填硬化材によるシール方法を用いてもよい。
【0030】
最初に外筒4の内空間に充填硬化材を注入する手順を述べる。
【0031】
被検査面2に押付けた金属組織調査ヘッド1の外筒4の内空間に内空間注入ライン9から充填硬化材を注入し、内空間の下端に有する電極シート7bを充填硬化材により被検査面2に押付けて、電極シート7bを被検査面2に倣った形状にする。このとき、電極シート7bと被検査面2との間に溜まっている廃液は、真空ポンプ22を作動させておくことで、エッチング液排出ライン11を介して、廃液タンク21に回収される。その後、一定の硬化時間を経過した後に、被検査面2の形状に倣った電極シート7bの形状が形成される。
【0032】
次に内空間に充填硬化材を注入後に、エッチング空間を作成する手順を述べる。
【0033】
被検査面2に押付けた後に充填硬化材が硬化後、シリンダ13によりピストン12を引き上げて、充填硬化材を電極シート7bとともに引き上げ、電極シート7bと被検査面2との間にエッチング空間を確保する。このとき、電極シート7bの形状は、被検査面2と同形状になるため、間隙の距離は電極シート7b面のどの位置も同一となり、電解エッチングするときに通電電流が局部的に集中することを抑制することができる。これにより、局部的に通電電流が集中し、電流が集中した部分のみ濃くエッチングされて、金属組織の現出にムラが生じ、適切な組織観察ができなくなるという現象を抑制できる。なお、電極シート7bとしては、プラスチック系等の樹脂シート表面に導電性粒子を蒸着もしくは印刷した導電性フィルムや導電性シート等や、導電性の金属繊維織物等がある。
【0034】
次に電解エッチングを行う。電解エッチング方法は、前項実施例1と基本的には同じである。被検査面2と電極シート7bとのエッチング空間にエッチング液注入ライン10から清水を注入し、初期に溜まっている炉水をエッチング液排出ライン11から排出する。その後、エッチング液注入ライン10からエッチング液を注入し、エッチング空間を清水からエッチング液に置換する。その後、被検査面2と電極シート7の間にエッチング電源により電圧を加えて、電解エッチングを実施する。なお、電解エッチング終了後は、エッチング液注入ライン10から清水を注入し、エッチング空間をエッチング液から清水に置換することで、エッチング液を排出する。これにより、金属組織表面の粒界などを際立たせることができる。なお、エッチング液の供給,排出の原理は、実施例1と同じである。
【0035】
本実施例に拠れば、原子炉圧力容器及び原子炉内構造物の溶接部に生じたひびの原因調査として実施する電解エッチングにおいて、電極シートの形状は、被検査面と同形状になるため、間隙の距離は電極シート面のどの位置も同一となり、電解エッチングするときに通電電流が局部的に集中することを抑制することができるため、エッチングの濃淡による腐食ムラの発生を抑制するため被検査面の形状に倣った電極形状の容易に得る方法を提供することが可能となる。
【実施例3】
【0036】
次に実施例1と実施例2を組み合わせた場合の実施例について述べる。
【0037】
図1の作業フローに記載のステップにあわせて、実施例1と実施例2を組み合わせた場合について説明する。
【0038】
ステップ1のUT及びECTによりひびの位置,範囲の座標を測定する。測定エッチングレプリカ採取作業の前処理段階として、当該採取位置を把握するため、最初に超音波探傷検査(UT)及び渦流探傷検査(ECT)によりひびの位置,範囲の座標を測定する。これによりひびの位置,範囲の座標が把握でき、適切な検査対象面に調査を行うことができる。
【0039】
ステップ2の研磨装置をひび発生の検査面近傍に設定では、当該採取位置に研磨装置を設定する。これにより採取したい対象面を確実に研磨することができる。
【0040】
ステップ3被検査面の鏡面仕上げ研磨ステップでは、ひびの位置及びその周囲を含めて鏡面仕上げ研磨を実施する。これにより、研磨面に対し金属組成調査が可能となる。
【0041】
ステップ4の金属組織調査ヘッドを被検査面近傍に設定では、図9,図10に示す金属組織調査ヘッドを研磨面の近傍に設定する。このとき、金属組織調査ヘッド1は、ひび3の位置が電極シート7bの位置になるように調整し、被検査面2に設定する。これによりひびの場所での金属組織調査を確実に行える。
【0042】
ここで実施例1と実施例2を組み合わせた金属組織調査ヘッド1の一例を図9,図10を用いて説明する。金属組織調査ヘッド1は下端にスポンジ等の多孔質柔軟材6aを有する外筒4と内筒5の2重管構造で、内筒5の下端には導電性の電極シート7bを有する。なお、多孔質柔軟材6aは金属組織調査ヘッドと被検査面に形成され空間をシールさせるようにできる。ただし、原子炉炉底部などの複雑な構造対象では多孔質柔軟材6aだけでは、シール性が不足する場合もある。そのため金属外筒4と内筒5の間に形成された外空間を用い、この空間に充填硬化材を注入するための外空間注入ライン8と、外空間注入ライン8と角度を変えた位置にエッチング液注入ライン10と、その反対面にエッチング液排出ライン11を備える。また、内筒5の内側に形成された内空間には、充填硬化材を注入するための内空間注入ライン9と、上下動するピストン12と、ピストン12を駆動するシリンダ13を備えた構造となっている。シリンダ13は弁49及び弁50の切替えでピストン12の上下動を切替える。
【0043】
充填硬化材は2液混合により硬化するもので主剤14と硬化剤15がミキサー16に接続されて、弁17及び弁18により外空間注入ライン8と内空間注入ライン9との切替えを行っている。これより、主剤14と硬化剤15は、弁48の切替えで圧縮空気の圧力により液剤を押出し、ミキサー16に注入されて混合し、その混合材が各々の注入ラインを介して外空間若しくは内空間に注入される。なお、充填硬化材は、弁25によりエッチング液注入ライン10とも接続される。エッチング液の系統は、圧縮空気による加圧系統を有する液供給タンク19と清水タンク20が弁23と弁24を介してエッチング液注入ライン10に接続し、真空ポンプ22による減圧系統を有する廃液タンク21が弁28を介してエッチング液排出ライン11に接続される。エッチング液もしくは清水の供給は、液供給タンク19または清水タンク20を弁26または弁27で切替えて圧縮空気により加圧することで液面を押し下げてエッチング液注入ライン10に注入される。また、エッチング液の排出は、真空ポンプ22を作動させて廃液タンク21内の圧力をエッチング液排出ライン11の系統圧よりも減圧することにより、廃液タンク21内に送り込まれる。なお、化学薬品に使用可能な送給ポンプ及び吸引ポンプを使用する場合は、液供給タンク19及び清水タンク20と弁23と間に送給ポンプ、廃液タンク21と弁28との間に吸引ポンプを設けることでも達成可能である。
【0044】
ステップ5の調査ヘッドを被検査面に設定し、被検査面外周空間に充填硬化剤によるシール作成では、金属組織調査ヘッド1を被検査面2に設定し、被検査面2外周空間を充填硬化材によりシール作成を行う。このとき、金属組織調査ヘッド1は、ひび3の位置が電極シート7bの位置になるように調整し、被検査面2に押付けている。
【0045】
図11,図12は、外空間に充填硬化材を注入する手順を示す。被検査面2に押付けた金属組織調査ヘッド1の外筒4と内筒5との外空間に外空間注入ライン8から充填硬化材を注入し図11、被検査面2と多孔質柔軟材6aの間隙を埋めてシール性を確保し、その後に周囲の炉水が内空間への侵入を防止する図12。通常シール性を確保するためシール材を密着させる方法をとるが、ひび3が生じる被検査面2は肉盛溶接部の不定形な形状であるため、予め正確に形状を把握することは難しく、場所によって形状が変わるため、その都度、専用ヘッドを準備することは非効率となる。そのため、シール材として充填硬化材を使用することで被検査面2の形状に倣って間隙を埋めることが可能となる。なお、充填硬化材としては、樹脂系の主剤と硬化剤を混合して初期は比較的粘性の少ない流動性のある状態から時間を置くことで硬化するものであり、2液混合タイプのレプリカ材やエポキシ樹脂ライニング等が考えられる。
【0046】
ステップ6では被検査面形状に倣った電極形状を型取りする。被検査面形状に倣った電極形状の型取りする。
【0047】
図13,図14は外空間の硬化が完了後、内空間に充填硬化材を注入する手順である。被検査面2に押付けた金属組織調査ヘッド1の内筒5の内空間に内空間注入ライン9から充填硬化材を注入し図13、内空間の下端に有する電極シート7bを充填硬化材により被検査面2に押付けて、電極シート7bを被検査面2に倣った形状にする図14。このとき、電極シート7bと被検査面2との間に溜まっている廃液は、真空ポンプ22を作動させておくことで、エッチング液排出ライン11を介して、廃液タンク21に回収される。これにより、検査面の形状に倣った電極シート形状が形成される。
【0048】
なお、ここで、先に(ステップ6)内空間に充填硬化材を注入し、電極形状を型取り後に、(ステップ5)外空間に充填硬化材を注入し、炉水空間からシールする手順に変更しても成立する。このときは、電極シート7bと被検査面2との間に溜まっている廃液は、内空間に充填硬化材を注入することで当該空間から押出されて、その後、外空間をシールすることができる。
【0049】
ステップ7ではエッチング空間を形成する。
【0050】
図15,図16は、内空間に充填硬化材を注入後に、エッチング空間を作成する手順である。被検査面2に押付けた後に充填硬化材が硬化後、シリンダ13によりピストン12を引き上げて、充填硬化材を電極シート7とともに引き上げ、電極シート7と被検査面2との間にエッチング空間を確保する図15。このとき、電極シート7bの形状は、被検査面2と同形状になるため、間隙の距離は電極シート7b面のどの位置も同一となり、電解エッチングするときに通電電流が局部的に集中することを抑制することができる。これにより、局部的に通電電流が集中し、電流が集中した部分のみ濃くエッチングされて、金属組織の現出にムラが生じ、適切な組織観察ができなくなるという現象を抑制できる。なお、電極シート7bとしては、プラスチック系等の樹脂シート表面に導電性粒子を蒸着もしくは印刷した導電性フィルムや導電性シート等や、導電性の金属繊維織物等がある。
【0051】
ステップ8で電解エッチングを行う。
【0052】
図17,図18に電解エッチングの手順を示す。被検査面2と電極シート7のエッチング空間にエッチング液注入ライン10から清水を注入し、初期に溜まっている炉水をエッチング液排出ライン11から排出する図17。その後、エッチング液注入ライン10からエッチング液を注入し、エッチング空間を清水からエッチング液に置換する。その後、被検査面2と電極シート7の間にエッチング電源により電圧を加えて、電解エッチングを実施する図18。なお、電解エッチング終了後は、エッチング液注入ライン10から清水を注入し、エッチング空間をエッチング液から清水に置換することで、エッチング液を排出する。これにより、金属組織表面の粒界などを際立たせることができる。
【0053】
ステップ9で調査ヘッド内の空間にレプリカ材を注入する。
【0054】
図19,図20にレプリカ材注入の手順を示す。エッチング空間を清水に置換後、エッチング液注入ライン10からレプリカ材を注入し、エッチング空間にレプリカ材を充填する図19。その際、エッチング液排出ライン11は開放状態として、エッチング空間内の清水を排出しながらレプリカ材を充填する。
【0055】
ステップ10でレプリカ転写を行う。エッチング空間に充填したレプリカ材を硬化し、ひび3及びその周辺のエッチングした組織をレプリカ材に転写する。これにより、金属表面の金属組織を観察することができる。
【0056】
ステップ11で金属組織調査ヘッドを引き上げる。レプリカ材が硬化後、金属組織調査ヘッド1を作業フロア上まで引き上げる図20。これにより、原子炉圧力容器の炉底部のような複雑で人が入れない場所でも、金属表面の組織の観察を行える。
【0057】
ステップ12でレプリカ転写面の観察を行う。レプリカ材を調査ヘッドより取り外し、転写面を顕微鏡で観察し、ひび3の原因調査を実施する。
【0058】
次に前述のステップにおける制御装置について述べる。
【0059】
制御装置51は、図10に示す各弁の開閉,切替えを一部作業員が介在して、シーケンス制御により実行できる。図21に制御装置51による弁開閉の制御手順を示す。
【0060】
(ステップ5)は、弁17,弁48の開閉により外空間に充填硬化材を注入し、シールを実施する。
【0061】
(ステップ6)は、弁18,弁48の開閉により内空間に充填硬化材を注入する。硬化時間が経過後、弁49,弁50の開閉によりピストン12を引き上げ、型取りした電極シート7bを引き上げる。
【0062】
(ステップ7)は、弁28,弁29開としてエッチング液の排出系統を減圧し、その後、弁24,弁27の開閉による清水への置換後、弁23,弁26開によりエッチング液に置換する。エッチング液は流したままの状態でエッチング電源を入れて、電解エッチングを実施する。その後、エッチング電源の切りと、弁23,弁26を閉止してエッチング液の供給を停止する。引き続き、弁24,弁27を開閉してエッチング液から清水に置換する。
【0063】
(ステップ8)は、弁25,弁48の開閉によりエッチング空間にレプリカ材を注入し、レプリカ材により押出された残清水は、エッチング液の排出系統より排出され、エッチング空間にレプリカ材が充填されたのちに弁28,弁29を閉止してエッチング液の排出系統を閉止する。
【0064】
(ステップ9)は、レプリカ材が硬化するまで待機する。
【0065】
レプリカ材は、充填硬化材と同様に主剤と硬化剤からなる2液混合タイプであり、これは、(ステップ5),(ステップ6)で使用する充填硬化材と共用とすることで、弁の切替えのみで充填作業を実施することができる。
【0066】
本実施例の効果によれば、複雑な形状部分においても金属組織調査が行える。特に被検査面2の形状が複雑で、かつ予め正確に形状が分かっていない場合、形状に倣ってシール性が確保でき、形状に倣って電極形状が得られる本方法は、どちらの効果も同時に得ることができて、相乗効果が得られる。これは、形状が複雑であると被検査面との隙間が多くなりシールが難しくなること、また、被検査面の形状は不正確であれば、予め形状に応じた電極形状を得ることができないためである。これより、電解エッチングによる組織現出時のムラを防止し施工の信頼性の向上が図れる。また一度対象部位に電解エッチングを実施するヘッドを設定した後は、同一ヘッドでレプリカ採取を実施可能とし、ヘッドの交換に要する作業時間を削減し作業効率が向上する。同一ヘッドでエッチングからレプリカ採取までの一連の作業を連続して行える。
【実施例4】
【0067】
次に沸騰水型原子炉における被検査面2への対応の一例を示す。
【0068】
原子炉炉底部の原子炉圧力容器及び原子炉内構造物の溶接部に万一ひびが発見された場合、そのひびの原因が粒界組織に沿った応力腐食割れによるものかを調査するため、ひびを含めた周辺のエッチングレプリカを採取することとなる。
【0069】
図22は、沸騰水型原子炉の断面図を示す。本実施例に示す金属組織の調査は、図示しない上蓋,蒸気乾燥器,気水分離器等の上部機構を搬出された状態で、かつ、燃料棒,制御棒,制御棒駆動装置(CRD),インコアモニタ(ICM)ハウジング等を取外した状態を前提とし実施するものであり、図22に示すとおり原子炉圧力容器30内は、円筒状の炉心シュラウド31と、この炉心シュラウド31内側上部に上部格子板32、その下方の中間高さ位置に炉心支持板33が設置されている。また、原子炉圧力容器30の底部には、半割りの球面形状をした下鏡34と、この下鏡34を貫通するように林立した制御棒駆動装置(CRD)ハウジング35と制御棒駆動装置(CRD)ハウジングの間に図示しないインコアモニタ(ICM)ハウジングが、各々下鏡34と溶接で接合されている。その中で制御棒駆動装置(CRD)ハウジング35及びインコアモニタ(ICM)ハウジングと下鏡との溶接部に万一ひびが発見された場合、エッチングレプリカ採取のため当該金属組織調査ヘッドを使用する場合の一例を図23,図24に示す。図23は、谷側の溶接部を被検査面とする場合を示したもので、図24は、山側の溶接部を被検査面とする場合を示したものである。
【0070】
制御棒駆動装置(CRD)ハウジング35は複数林立しており、溶接部の形状は下鏡34の貫通位置によって異なり、かつ下鏡34の外周部では傾き角度も大きくなるため山側と谷側でも形状が異なる。そのため、被検査面がどの部位になるかで金属組織調査ヘッド1の形状が変わり、すべてを対象にすると多数の金属組織調査ヘッド1の準備が必要となる。また、溶接部の形状も曲率面を有する3次元形状となっており、金属組織調査ヘッド1と溶接部の空隙を埋めてエッチング液を封入するためのシール形状は複雑になる。そのため、図10に示す金属組織調査ヘッド1は有効となる。制御棒駆動装置(CRD)ハウジング35溶接部に金属組織調査ヘッド1を設定するためには、作業フロア上から装置を挿入し、前述した上部格子板32及び炉心支持板33の狭あい部を回避して対象位置に接近させるための誘導装置36を使用する。誘導装置36は、2種類の折りたたみアーム38と折りたたみアーム39を対面に有し、各々折りたたみアームの先端には金属組織調査ヘッド1と拡大観察ユニット37を有する。拡大観察ユニット37は電解エッチングを実施した被検査面2の金属組織を直接観察するものである。折りたたみアーム38は、リンク機構による前後軸40と上下軸42を有し、更にアーム先端の金属組織調査ヘッド1を垂直方向に角度を変える首振り軸43を有する。なお、折りたたみアーム39も同様の動作軸を有する。
【0071】
図23における谷側の溶接部を被検査面とした場合を例に取ると、作業フロア上から原子炉内の構造物を回避して、炉底部に侵入した誘導装置36は、制御棒駆動装置(CRD)ハウジング35の上部に着座する。その後、旋回軸41によりアームを旋回して先端に有する金属組織調査ヘッド1をCRDハウジング35溶接部の円周上谷側にある被検査面を目標として設定する。その後、折りたたみアーム38で前後軸40を駆動し径方向の位置を設定し、上下軸42と首振り軸43を使用して金属組織調査ヘッド1を被検査面に押付ける。その後、前記に述べた図1の(ステップ5)から(ステップ10)までの手順を実施し、エッチングレプリカを採取する。このとき、被検査面に対して金属組織調査ヘッド1は傾いた状態で押付けられる。図25に被検査面2への設定状態を示す。金属組織調査ヘッド1はひび3の位置に電極シート7が設定される位置に微調整して押付けられて、その後内空間及び外空間各々に充填硬化材を注入し、硬化させることにより、被検査面2の形状にあった電極シート7の形状が得られて適切な電解エッチング及びレプリカの採取ができる。
【0072】
本実施例の効果によれば、供用期間中の原子力発電プラントにおける複雑な形状で狭隘な部分においても金属組織調査が行える。すなわち、ひびの調査対象となる任意の溶接部形状に応じてシール性を確保することができ、また、電解エッチングによる組織現出時のムラを防止し施工の信頼性の向上が図れる。また一度対象部位に電解エッチングを実施するヘッドを設定した後は、同一ヘッドでレプリカ採取を実施可能とし、ヘッドの交換に要する作業時間を削減することが可能となる。遠隔にて操作が可能なため、作業員の被爆低減効果も見込める。なお、本実施例によれば、作業員の入り込めない狭隘な部分においても作業が可能となる。
【0073】
なお、ここでレプリカ採取をせずに直接電解エッチングしたひび面の金属組織を直接観察して原因調査する場合、もしくはレプリカ採取前に、エッチングの濃さを直接観察にて確認することも有り得る。この場合は、折りたたみアーム39の先端に有する拡大観察ユニット37を使用する方法で対応できる。金属組織調査ヘッド1を被検査面に押付けた後、図1の(ステップ5)から(ステップ8)までの手順を実施し、その後金属組織調査ヘッド1を被検査面から引き離し、旋回軸41により被検査面の角度に折りたたみアーム39を移動し、被検査面に拡大観察ユニット37を設定し観察することにより対応できる。また、更に金属組織調査ヘッド1の電極シート7に透明導電性フィルムを使用し、その後段に拡大観察ユニット37を組み込むことで、金属組織調査ヘッド1を被検査面から引き離さずに対応する方法も有り得る。これらの方法を用いれば、さらに作業時間の短縮が図れる。
【実施例5】
【0074】
加圧水型原子炉についても同様に適用可能である。原子炉炉底部の原子炉圧力容器及び原子炉内構造物の溶接部に万一ひびが発見された場合、そのひびの原因が粒界組織に沿った応力腐食割れによるものかを調査するため、ひびを含めた周辺のエッチングレプリカを採取することとなる。
【0075】
図26に加圧水型原子炉の断面を示す。加圧水型原子炉の場合は、原子炉容器44の下鏡45には多数の炉内計装筒46が貫通し溶接で接合している。この溶接部に万一ひびが発生し、その原因調査を実施する場合、当該方法の適用が可能である。原子炉容器44の内部は、当該調査時には炉内構造物を取外してキャビテイに移動するため、沸騰水型原子炉とは異なり、炉内計装筒46に接近する上での干渉物はなく、アクセス性は高い。炉内計装筒46の溶接部のエッチングレプリカ採取は一つに図25に示す金属組織調査ヘッド1の設定と同様の実施例がある。
【0076】
本実施例の効果によれば、供用期間中の原子力発電プラントにおける複雑な形状で狭隘な部分においても金属組織調査が行える。すなわち、ひびの調査対象となる任意の溶接部形状に応じてシール性を確保することができ、また、電解エッチングによる組織現出時のムラを防止し施工の信頼性の向上が図れる。さらに同一ヘッドでエッチングからレプリカ採取までの一連の作業を連続して行えるため、効率のよい作業が行える。遠隔にて操作が可能なため、作業員の被爆低減効果も見込める。
【0077】
これ以外にも図27に示すような方法にて調査可能である。炉内計装筒46は、数10cm程度の高さしかないため、上部から炉内計装筒46に対して上部から被せて設定するタイプに金属組織調査ヘッド1をアレンジしたものでの対応も可能となる。図15にアレンジした金属組織調査ヘッド1を示す。調査箇所は炉内計装筒46の谷側溶接部に生じたひび3を想定したもので、金属組織調査ヘッド1は、炉内計装筒46の上部から被せて設定する。そのとき、シリンダ13の上下動を伝達するピストンを中空ピストン47に変更することで、中心に位置する炉内計装筒46をピストンの中空部で回避し、かつ電極シート7bの上下動を可能とする。溶接部の形状及び下鏡45の傾きは対象とする炉心計装筒46の位置によって異なるが、本方法によれば充填硬化材によりエッチング空間をシールするため溶接部の形状及び傾きの影響は受けないため、同一の金属組織調査ヘッド1で全て対応可能となる。
【符号の説明】
【0078】
1 金属組織調査ヘッド
2 被検査面
3 ひび
4 外筒
5 内筒
6a,7c 多孔質柔軟材
6b シール
7a 電極
7b 電極シート
8 外空間注入ライン
9 内空間注入ライン
10 エッチング液注入ライン
11 エッチング液排出ライン
12 ピストン
13 シリンダ
14 主剤
15 硬化剤
16 ミキサー
19 液供給タンク
20 清水タンク
21 廃液タンク
22 真空ポンプ
23,24,26,28,49,50 弁
30 原子炉圧力容器
31 炉心シュラウド
32 上部格子板
33 炉心支持板
34,45 下鏡
35 制御棒駆動装置(CRD)ハウジング
36 誘導装置
37 拡大観察ユニット
38,39 アーム
40 前後軸
41 旋回軸
42 上下軸
43 首振り軸
44 原子炉容器
46 炉内計装筒
47 中空ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属組織調査ヘッドを用いて、
前記金属組織調査ヘッドを被検査面に押付ける段階と、
前記金属組織調査ヘッドと前記被検査面との接触面の隙間に充填硬化材を注入する段階と、
前記充填硬化材を硬化させ前記被検査面の形状に倣ったシールを形成する段階と、
前記金属組織調査ヘッドと前記シールと前記被検査面により形成された空間を用いてレプリカ採取する段階とを有することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属組織調査方法において、
前記レプリカ採取は、前記空間に被検査面の金属組織を転写するためのレプリカ材を注入する段階と、
前記充填したレプリカ材を硬化させる段階と、
前記硬化させたレプリカ材と前記金属組織調査ヘッドを引き上げる段階とを有することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の金属組織調査方法において、
前記レプリカ採取する段階の前に、前記空間にエッチング液を注入する段階と、
前記被検査面を前記エッチング液により金属組織表面を際立たせるエッチング段階と、
前記エッチング液を排出する段階とを有することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項4】
請求項3に記載の金属組織調査方法において、
前記エッチング段階は、前記エッチング液に電圧を印加して、金属組織表面を際立たせることを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属組織調査方法において、
第一の溶液と第二の溶液を混合した前記レプリカ材を、前記充填硬化材として使用することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項6】
金属組織調査ヘッドを用いて、
前記金属組織調査ヘッドを被検査面に押付ける段階と、
前記金属組織調査ヘッドの開口部を覆う電極シートを前記被検査面に押付ける段階と、
前記電極シートを前記被検査面に倣った形状に形成する段階と、
前記被検査面に倣った形状の電極シートを引き上げる段階と
前記電極シートと前記金属組織調査ヘッドと前記被検査面により形成された空間を用いてエッチングする段階とを有することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金属組織調査方法において、
前記電極シートを被検査面に押付ける段階は充填硬化材を注入し前記電極シートを前記被検査面に押付けることを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項8】
請求項7に記載の金属組織調査方法において、
前記被検査面に倣った形状に形成する段階は前記充填硬化材を硬化させ形成することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項9】
請求項1に記載の金属組織調査方法において、
前記シールを形成する段階の前又は前記シールを形成する段階の後のいずれか一方において、前記金属組織調査ヘッドの開口部を覆う電極シートを前記被検査面に押付ける段階と、
前記電極シートを前記被検査面に倣った形状にする段階と、
前記被検査面に倣った形状の電極シートを引き上げる段階と、
前記金属組織調査ヘッドと前記電極シートと前記シールと前記被検査面により形成された空間を用いてレプリカ採取する段階とを有することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項10】
請求項9に記載の金属組織調査方法において、
前記レプリカ採取する段階の前に、前記空間にエッチングする段階を有することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項11】
請求項10に記載の金属組織調査方法において、
前記エッチングは、前記エッチング液に電圧を印加して金属組織表面を際立たせることを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の金属組織調査方法において、
原子炉圧力容器内に炉水を満たした状態で遠隔にて施工することを特徴とする金属組織調査方法。
【請求項13】
外筒と内筒を同心円上に備えた2重管構造の金属組織調査ヘッドと、
前記外筒と前記内筒の開口部に設けられた多孔質柔軟材と、
前記外筒と前記内筒の間の空間に、液体の漏えいを抑制するためシール材を注入するための外空間注入ラインとを有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項14】
請求項13に記載の金属組織調査装置において、
前記ヘッドに被検査面の組織を転写するためのレプリカ材を注入するラインを有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項15】
請求項13又は請求項14のいずれか1項に記載の金属組織調査装置において、
前記ヘッドにエッチング液を注入するための注入ラインと、
前記エッチング液を注入する装置を有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項16】
筒を備えた金属組織調査ヘッドと、
前記筒の開口部に設けられた多孔質柔軟材と、
前記金属組織調査ヘッドの開口部を覆う電極シートと、
前記電極シートを被検査面に押付けて形取りするための充填硬化材を注入するための内空間注入ラインと、
前記充填硬化材を注入するための装置と
前記電極シートと充填硬化材を被検査面より引き離す装置を有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項17】
請求項13乃至請求項15のいずれか1項に記載の金属組織調査装置において、
前記ヘッドの開口部を覆う電極シートと、
前記電極シートを被検査面に押付けて形取りするための充填硬化材を注入するための内空間注入ラインと、
前記充填硬化材を注入するための装置と
前記電極シートと充填硬化材を被検査面より引き離す装置を有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項18】
請求項13乃至請求項17のいずれか1項に記載の金属組織調査装置において、
前記ヘッドを原子炉内の前記検査対象に導くための誘導装置を有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項19】
請求項18に記載の金属組織調査装置において、
前記誘導装置は前記ヘッドを有した第一アームと、金属組織を観察するための拡大観察ユニットを有した第二アームとを有することを特徴とする金属組織調査装置。
【請求項20】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の金属組織調査方法において、
前記被検査面は複雑形状を有しており、前記各段階を原子炉内において連続して行うことを特徴とした金属組織調査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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