説明

原子炉格納容器のベント管内周面の塗装方法および塗装機

【課題】原子炉格納容器内の既設のベント管の内周面を再塗装する方法を提供する。
【解決手段】ドライウェル12内に巻上機32を配置する。サプレッションチャンバ14内に塗装機36を配置する。ダイヤフラムフロア16上のカバー板26の下方位置に滑車35を配置する。巻上機32のワイヤロープ38を、脚24相互間のすき間30およびカバー板26の下面とベント管20の上端開口部20aとの間の空間28を通して、滑車35に掛けて、ベント管20内を通して、塗装機32に連結する。ワイヤロープ38を巻き上げて、塗装機36をベント管20内に吊り上げる。塗装機36のノズル40から塗料42をベント管内周面20bに向けて噴射するとともに、巻上機32により塗装機36を上下方向に移動させて、ベント管内周面20bを塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子炉格納容器内の既設のベント管の内周面を塗装するための方法および塗装機に関し、塗装作業を自動化できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備のサプレッションチャンバは定期的に塗装し直す必要がある。サプレッションチャンバ内には複数本のベント管が配置されており、ベント管の内外周面も再塗装の対象である。ベント管は一般に直径が数10cmであり、その内周面を再塗装する場合、従来はサプレッションチャンバ内の床上からベント管内に足場を組んで、作業者が足場をたどってベント管内部に入って塗装作業を行っていた。
【0003】
なお、サプレッションチェンバの再塗装方法として、下記特許文献1に記載された技術がある。
【特許文献1】特開2000−314796
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来のベント管内の塗装方法によれば、作業者が作業環境が悪いベント管内に入って作業をしなければならず、過酷で危険な作業となっていた。
【0005】
この発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、塗装作業を自動化できるようにしたベント管内周面の塗装方法および塗装機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の塗装方法は、ドライウェルとサプレッションチャンバとを仕切るダイヤフラムフロアを貫通してベント管が鉛直配置され、ベント管の上端部は開放されてドライウェルに連通し、ベント管の下端部は開放されてサプレッションチャンバに連通し、ダイヤフラムフロアの上面には、ベント管の上端開口部の周囲を取り囲むように複数本の脚が固定配置され、該脚の上端部には、カバー板が、ベント管の上端開口部から上方に空間を隔てて、該ベント管の上端開口部の上方に被さるように固定配置され、ベント管の上端開口部は該カバー板下面との間の空間および該複数本の脚相互間のすき間を通してドライウェルに連通する構造を有する原子炉格納容器において、ベント管の内周面を塗装する方法であって、ドライウェル内に巻上機を配置し、サプレッションチャンバ内に塗装機を配置し、前記カバー板の下方位置に滑車等のロープ掛け具を配置し、前記巻上機のロープを、前記脚相互間のすき間および前記カバー板の下面とベント管の上端開口部との間の空間を通して、前記ロープ掛け具に掛けて、ベント管内を通して、前記塗装機に連結し、前記ロープを巻き上げて、前記塗装機をベント管内に吊り上げ、前記塗装機のノズルから塗料をベント管内周面に向けて噴射するとともに、前記巻上機により該塗装機の上下方向位置を移動させることによりベント管内周面を塗装するものである。
【0007】
この発明の塗装方法は、前記巻上機のロープを前記塗装機に連結した後、前記ロープを巻き上げて、前記塗装機をベント管内の上端部付近まで吊り上げ、前記塗装機のノズルから塗料をベント管内周面の全周方向に噴射しながら、該塗装機を徐々に下降させることによりベント管内周面を塗装するようにすることができる。また、この発明の塗装方法は、前記ロープ掛け具をロープ掛け具取付治具に装着し、該ロープ掛け具取付治具を前記脚相互間のすき間を通して前記カバー板の下面とベント管の上端開口部との間の空間に差し込み、該ロープ掛け具取付治具を該カバー板の周縁部に複数箇所で取付金具により着脱自在に固定するようにすることができる。また、この発明の塗装方法は、前記塗装機の、前記ノズルの噴射範囲よりも下方位置に、ベント管の内径をほぼ塞ぐ大きさのスプレーダスト受け部材を取付配置し、塗装中にスプレーダスト受け部材を該塗装機と共に下降させて、降下するスプレーダストを該スプレーダスト受け部材で受けるようにすることができる。
【0008】
この発明の塗装装置は、ドライウェルとサプレッションチャンバとを仕切るダイヤフラムフロアを貫通してベント管が鉛直配置された構造を有する原子炉格納容器において、ベント管内にロープで昇降自在に吊り下げられて該ベント管の内周面を塗装する塗装機であって、回転支持部と、該回転支持部の上側に回転可能に連結された回転部と、該回転部の上側に、該回転部の回転軸と同軸に、該回転部と相対回転可能に連結された吊下支持部とを具備し、前記回転支持部は、その周方向の複数箇所で押圧当接部材をベント管の内周面に押圧当接させて、該回転支持部自身の、ベント管軸回り方向への回転を抑制しながらベント管軸方向への移動を許容し、かつ、前記回転部を、その回転軸をベント管の軸の位置にほぼ一致させた状態で回転可能に支持して回転駆動機構で回転駆動し、前記回転部は、ベント管の内周面に向けて塗料を噴射するノズルを具備し、該回転部の回転に伴い、該ノズルから噴射される塗料をベント管内周面の全周方向に噴射し、前記吊下支持部は、前記ロープに連結されて、前記回転部をその回転軸を中心に相対回転可能に吊り下げ支持し、前記回転支持部および前記吊り下げ支持部を前記ノズルの噴射範囲の外に配置してなるものである。
【0009】
この発明の塗装装置は、前記回転支持部が、前記ノズルの噴射範囲よりも下方位置に、ベント管の内径をほぼ塞ぐ大きさのスプレーダスト受け部材を取付配置することができる。また、この発明の塗装装置は、前記押圧当接部材が、水平方向の軸回り方向に回転するキャスタにて、ベント管の内周面に押圧当接するものとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ベント管内の塗装作業を自動化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を説明する。はじめに、この発明が適用できるな原子炉格納容器の構造例を図2に示す。これは、沸騰水型MarkIIタイプ原子炉を示したものである。原子炉建屋10内において、原子炉格納容器11内にはドライウェル12とサプレッションチャンバ14が、ダイヤフラムフロア16で仕切られて形成されている。ドライウェル12内には、原子炉圧力容器18が配置されている。サプレッションチャンバ14内には、複数本(例えば108本)の円筒状で直管状のベント管20が、ダイヤフラムフロア16を貫通して鉛直に配置されている。ベント管20の上端部は開放されてドライウェル12に連通し、ベント管20の下端部は開放されてサプレッションチャンバ14に連通している。原子炉の運転時には、サプレッションチャンバ14内に水が張られ、サプレッションチャンバプール22を構成している。ベント管20の下部は、サプレッションチャンバプール22内に差し込まれている。このような構造により、原子炉の運転時に、ドライウェル12内で蒸気配管が壊れ、蒸気が漏れ出して、ドライウェル12内の圧力が高くなったときに、漏れ出した蒸気がベント管20を通してサプレッションチャンバプール22に逃がされ、ドライウェル12内の圧力が下げられる。
【0012】
ダイヤフラムフロア16の上面のベント管20が貫通している箇所の構造を図3に示す。ベント管20の上端部はダイヤフラムフロア16を貫通して、ダイヤフラムフロア16の床面よりもやや上の位置でドライウェル12に開放されている。ベント管20の上部外周面には、ダイヤフラムフロア16を貫通する途中の位置に、リング状に外側に張り出したフランジ23が形成されている。フランジ23がダイヤフラムフロア16中に埋設固定されることにより、ベント管20はダイヤフラムフロア16に固定支持される。ベント管20どうしは、サプレッションチャンバ14内で、相互に連結支持されている。ベント管20がダイヤフラムフロア16を貫通する位置で、ベント管20の外周面とダイヤフラムフロア16の貫通孔の内周面との間は気密にされている。ダイヤフラムフロア16上には、ベント管20上に被さるように、ジェットデフレクタ21が固定配置されている。ジェットデフレクタ21は、脚24とカバー板26で構成されている。すなわち、ダイヤフラムフロア16の上面には、ベント管20の上端開口部20aの周囲を取り囲むように複数本の脚24が円形に配置されている。脚24の下端部はダイヤフラムフロア16中に埋設され、フランジ23の上面に固定されている。脚24の上端部には、ベント管20の上端開口部20aの上方に被さるように円形のカバー板26が固定配置されている。ベント管20の上端開口部20aとカバー板26の下面との間には空間28が形成されている。これにより、ベント管20の上端開口部20aはカバー板26の下面との間の空間28および脚24相互間のすき間30を介してドライウェル12に連通している。
【0013】
図2および図3に示す構造のベント管20の内周面20bを再塗装する手順を図1を参照して説明する。なお、再塗装する前に、ベント管内周面20bの古い塗装をサンドブラスト等の手法を用いて除去する。ここでは、古い塗装は既に除去されているものとする。
(1)脚24相互間のすき間30およびベント管20の上端開口部20aとカバー板26の下面との間の空間28は狭いので、塗装機36をベント管上端開口部20a側からベント管20内に入れることはできない。そこで、まず、サプレッションチャンバ14内で、ベント管20の鉛直下方位置の床34上に塗装機36を配置する。また、ドライウェル12内で、ダイヤフラムフロア16の床上に巻上機32を配置する。また、カバー板26の下面側のほぼ中心位置に滑車35を配置する。巻上機32から繰り出したワイヤロープ38を、脚24相互間のすき間30を通し、滑車35に掛けて、ベント管20内の中心軸L上に垂らし、塗装機36の上部に連結する。
(2)巻上機32を巻上げ方向に駆動し、ワイヤロープ38を巻き上げて、塗装機36をベント管20内の最高地点(ベント管20の内周面の上端位置を塗装できる高さ位置)まで吊り上げる。
(3)次いで、塗装機36のスプレイノズル40から塗料42をベント管内周面20bの各方向に向けて噴射して塗装を行う。ベント管内周面20bの全周を塗装する方法としては、複数のスプレイノズル40をベント管内周面20bの各方向に向けて噴射範囲がオーバーラップし合うように固定配置し、各スプレイノズル40から塗料42を噴射する方法、1個または複数のスプレイノズル40を回転可能に配置し、スプレイノズル40をベント管内周面20bの全周方向に回転させながらスプレイノズル40から塗料42を噴射する方法等が考えられる。スプレイノズル40から塗料42を噴射しながら、巻上機32を巻下げ方向に駆動してワイヤロープ38を一定速度で徐々に巻下げることにより、ベント管20の上から下まですき間なく塗装することができる。ベント管20の下端部まで塗装を終了したら、スプレイノズル40からの塗料42の噴射を停止し、ワイヤロープ38をさらに巻下げて、塗装機36を床34上に着地させる。これで、1本のベント管20の内周面20bの塗装が完了するので、ワイヤロープ38を塗装機36から外し、巻上機32を駆動してワイヤロープ38を巻上げて回収する。このようにして、ベント管内周面20bを自動で塗装することができる。1本のベント管20について内周面20bの塗装が終了したら、次のベント管20に移動して、上記と同様にして内周面20bの塗装を行う。なお、1個のスプレイノズル40をベント管内周面20bの全周方向に回転させて塗装を行う場合は、例えば、スプレイノズル40の回転軸をベント管20の中心軸Lにほぼ一致させた状態で、一定速度で連続的に回転駆動し、該スプレイノズル40から塗料42を水平方向に一定の噴射量で噴射して、ベント管内周面20bを全周にわたり塗装する。この時、スプレイノズル40からの塗料42の噴射を連続的に行いながら、巻上機32を巻下げ方向に駆動してワイヤロープ38を一定速度(周回ごとに上下方向の噴射範囲が相互にオーバーラップする速度)で徐々に巻下げることにより、ベント管20の上から下まですき間なく螺旋状に連続的に塗装を行うことができる。
【0014】
次に、1個のスプレイノズル40をベント管内周面20bの全周方向に回転させて塗装を行う場合の塗装機の具体例について説明する。図4は塗装機36の全体構造を示す(ワイヤロープ38に吊り下げられて、ベント管20内に収容された状態で示す。)。また、図4のA−A矢視図を図5に示す。塗装機36は、略円筒状に構成された回転支持部44と、該回転支持部44の中心軸上でその上側に回転自在に連結支持された回転部46と、該回転部46の上側に、該回転部46の回転軸と同軸に回転自在に連結され、回転部46を相対回転自在に吊り下げ支持する吊下支持部48を具備している。回転支持部44は、ともにベント管20の内径をほぼ塞ぐ大きさの円形に形成された天板50および底板52と、これら天板50と底板52とを相互に連結する連結棒54で全体の枠組みが構成されている。天板50は、塗装時に、スプレイノズル40から噴射された塗料42のうち、ベント管内周面20bに付着せずに降下するスプレーダスト42aを受けるスプレーダスト受け部材を構成する。連結棒54は角パイプ等で構成されている。連結棒54は、天板50および底板52の周縁部の、周方向に均等間隔の複数箇所(3箇所以上。図示の例では4箇所)に、1箇所につき2本ずつ所定幅のギャップ56を介して平行に配置されている。天板50と底板52は水平に配置され、連結棒54は垂直に配置されている。
【0015】
周方向各位置の2本の連結棒54,54の間のギャップ56の下部には、ゴムキャスタ58が、その両側を連結棒54,54で回転自在に支持されて、外周面を連結棒54,54の外側の面よりも外側に突出させた状態で、それぞれ収容配置されている。ゴムキャスタ58の回転軸58aは水平方向(ゴムキャスタ58の外周面が対面する位置におけるベント管内周面20bの接線に平行な方向)に形成されている。全ゴムキャスタ58の外周面が接する円の直径は、ベント管20の内径と同程度に設定されている。
【0016】
周方向各位置の2本の連結棒54,54の間のギャップ56の上部には、アーム60がそれぞれ収容配置されている。アーム60は、連結棒54,54間に支持された水平方向(その下方に位置するゴムキャスタ58の回転軸58aと平行な方向)の回転軸60aによって回動自在に支持されている。アーム60の、回転軸60aよりも上側の部分の、外側に向いた面には、ゴムキャスタ64が装着されている。ゴムキャスタ64の回転軸64aは水平方向(アーム60の回転軸60aと平行な方向)に形成されている。アーム60の、回転軸60aよりも下側の部分の、内側に向いた面には、引っ張りバネ66の一端部が連結されている。各引っ張りバネ66の他端部は、スプリング抑えリング68を介して相互に引っ張り状態に連結されている。これにより、各アーム60は、引っ張りバネ66の引っ張り力により、回転軸60aを軸として回動して、上部のゴムキャスタ64が外方に突出する。したがって、塗装機36がベント管20内に収容された状態では、各ゴムキャスタ64の外周面はベント管内周面20bに適度の押圧力で当接する。ゴムキャスタ64のこのような配置により、回転支持部44は、ベント管20の軸Lの回り方向への回転が抑制された状態で、ベント管20の軸方向へは移動自在とされている。この時、下側のゴムキャスタ58は、ベント管内周面20bに当接して、回転支持部44が傾くのを抑制する。
【0017】
回転支持部44内には、空気圧により塗料の供給/停止を制御する空気操作弁70、ストレーナ72、回転部46の回転駆動機構74等が装着されている。回転駆動機構74は、天板50の中央部下面に装着され、回転部46の回転軸を、天板50の中心軸(したがって、ベント管20の中心軸L)に一致させて形成している。塗料ホース41からは、後述するエアーレスポンプ173(図13)から塗料が圧送され、空気操作弁70に供給される。エアーホース43には弁操作用エアーが圧送され、空気操作弁70に供給される。後述するコントロールボックス175(図13)でこの弁操作用エアーの供給を操作することにより、空気操作弁70の開/閉が切り換えられ、塗料の吐出/停止が制御される。空気操作弁70から吐出される塗料は、塗料ホース37を介してストレーナ72(100メッシュ)で濾過され、3方弁47、塗料ホース49を介して回転駆動機構74内に導かれ、さらに回転部46のスプレイノズル管39を通ってスプレイノズル40から噴射される。3方弁47は、ストレーナ72内を洗浄するときに流路を切り換えて、ホース51を介して排液を排出する。エアーホース45からは回転駆動機構74の駆動用エアーが圧送され、エアーモータ133に供給される。
【0018】
回転支持部44の天板50の上面には、リードスイッチ等の磁気感応スイッチ53が配置されている。回転部46の側面には、磁気感応スイッチ53に対向して、磁石55が配置されている。これら磁気感応スイッチ53と磁石55で磁気スイッチ57を構成する。この磁気スイッチ57は、回転センサとして、回転部46の回転を検知し、1回転につき1発のパルス信号を出力する。磁気スイッチ57の出力信号は、信号線59を介して後述するコントロールボックス175(図13)に送られる。なお、回転支持部44の底板52の中央部には穴61が形成され、各ホース41,43,45,51および信号線59はこの穴61を通して回転支持部44の下方に引き出されている。
【0019】
次に、回転駆動機構74の詳細構成を図6、図7を参照して説明する。天板50の下面には回転駆動機構取付治具76が複数本のネジ78で固定されている。取付治具76には回転駆動機構74の上部ケーシング80が複数本のネジ(図示せず)によって取り付けられている。図7に分解して示すように、回転駆動機構74は、上部ケーシング80と下部ケーシング82を具備し、これらは複数本のネジ63で相互に着脱自在に連結されている。下部ケーシング82には平面形状が円形の凹所84が形成され、その中心軸L上にはネジ溝付貫通孔86が形成されている。下部ケーシング82の下面には、貫通孔86にホース取付ニップル88の上側部分88aがねじ込み固定される。ホース取付ニップル88の下側部分88bには、塗料ホース49の端部のナット49aがねじ込み固定される。ホース取付ニップル88内には貫通孔88cが形成されている。
【0020】
図7において、下部ケーシング82の凹所84には、グランドパッキン92、スプリング押さえワッシャ94、スプリング96、スプリング押さえワッシャ100、ベアリング102が順に収容される。ベアリング102は外輪102aが凹所84に嵌め込み固定される。ベアリング102の内輪102bには、軸ギヤ104の下面に突出する軸部104aが嵌め込み固定される。これにより、軸ギヤ104は、下部ケーシング82に対し、軸Lを中心に回転自在に保持される。軸ギヤ104の上面に突出する軸部104bには上方に開口する凹所104cが形成されている。凹所104cの内周面にはネジ溝が形成されている。軸ギア104の中心軸L上には、凹所104cに連通する貫通孔104eが形成されている。軸部104bには、ベアリング106の内輪106bが嵌め込み固定される。軸部104bの外周面には、ベアリング106よりも上の位置にネジ溝が形成されている。ベアリング106の外輪106aは、上部ケーシング80の下面に形成された凹所108に嵌め込み固定される。軸部104bは、上部ケーシング80に形成された貫通孔111を通してその上方に突出する。軸部104bには、ベアリング106の上側の位置で、平ワッシャ113を間に挟んでベアリング固定ナット117がねじ込まれ、これによりベアリング106の内輪106bが軸ギヤ104に固定される。
【0021】
図6に示すように、回転駆動機構74を回転駆動機構取付治具76を介して天板50の下面に取り付けた状態では、軸部104bは天板50に形成された穴50aに回転自在に挿入され、軸部104bの上端面104dは天板50の上面50bよりも上方に突出している。この状態で、軸部104bの上端面104dには、回転部46の底板115が載置される。図7に示すように、底板115の平面中央部には丸穴115aが形成されている。丸穴115aにはノズル取付ニップル121の下側部分121bが差し込まれる。ノズル取付ニップル121の下側部分121bおよび上側部分121aの外周面にはネジ溝がそれぞれ形成されている。ノズル取付ニップル121にはその中心軸上を貫通する孔121cが形成されている。ノズル取付ニップル121の下側部分121bの下端部付近にはOリング123が装着される。ノズル取付ニップル121の下側部分121bの外周面には回り止めナット119がねじ込まれる。ノズル取付ニップル121の下側部分121bは、軸部104bの凹所104cにねじ込み固定される。この状態で回り止めナット119を下方に移動させて締め付けることにより、回転部46の底板115は軸部104bの上端面104dと回り止めナット119の下面との間で強く締め付けられ、その結果回転部46は軸部104bに連結固定される。
【0022】
下部ケーシング82の下面には凹所131が形成され、そこにエアーモータ133が差し込まれ、モータ止めナット135で固定される。エアーモータ133の回転軸にはギヤ139が装着されている。ギヤ139は下部ケーシング82の上方に突出して、軸ギヤ104のギヤ歯141と噛み合う。エアーモータ133はエアーホース45から供給されるエアーにより回転駆動される。エアーモータ133を駆動すると、ギヤ139に噛み合っている軸ギヤ104が回転し、軸ギヤ104に連結固定されている回転部46が軸Lの回り方向へ回転する。
【0023】
次に、回転部46の構成について説明する。図6に示すように、回転部46は、金属製の枠体65とその内部に配置された噴射部67で構成されている。図9に示すように、枠体65は平面四角形状(図8)の底板115と、底板115の各角位置に立設固定された支柱69,71,73,75と、支柱69,71,73,75の上端部に固定された平面四角形状の上板116とで構成されている。噴射部67は、ノズルアタッチメント125と、ノズルアタッチメント125に立設固定されたスプレイノズル管39と、スプレイノズル管39の上端部に噴射方向の中心軸を水平方向に向けて取り付けられたスプレイノズル40で構成されている。ノズルアタッチメント125は、ノズル取付ニップル121の上側部分121aに、間にパッキン122を入れて、外側から被せてねじ込んで固定される。スプレイノズル管39は、下端部のナット部39aを、ノズルアタッチメント125の出口部125aに、間にパッキン124を入れて、外側から被せてねじ込んで垂直に立設固定される。
【0024】
以上の構成により、エアーモータ133を駆動すると、軸ギヤ104が軸Lを中心に回転し、これに伴い、軸ギヤ104に同軸に連結されている回転部46全体が軸Lを中心に回転する。また、塗料ホース49(図7)を介して圧送される塗料は、軸ギヤ104の中心軸L上に形成された孔104e、ノズル取付ニップル121の中心軸上に形成された孔121c、ノズルアタッチメント125内の孔、スプレイノズル管39を介してスプレイノズル40に供給され、スプレイノズル40から噴射方向の中心軸C(図6)を水平方向に向けて上下方向に所定の噴射範囲Z(噴射角α)で噴射される。回転部46を回転しながらスプレイノズル40から塗料を噴射することにより、ベント管内周面20bの全周を塗装することができる。このとき、軸ギヤ104の下側の軸部104aと下部ケーシング82との間の相対回転部分はグランドパッキン92によってシールされているので、この部分から塗料が外部に漏れるのは阻止される。
【0025】
次に、吊下支持部48の詳細構成を図9を参照して説明する。吊下支持部48は、回転部46を吊り下げ支持するとともに、ワイヤロープ38に対する回転部46の相対回転を逃がして、ワイヤロープ38の縒れを抑制するものである。回転部46の上板116の中央には丸孔116aが形成されている。上板116の上面および下面には、スラスト軸受147,148が、丸孔116aと同軸状に配置される。スラスト軸受147,148は、ここでは単式スラスト玉軸受で構成されている。単式スラスト玉軸受147は、上下2枚の軌道盤147a,147bの間にボール147cを挟み込んだ構造を有している。また、単式スラスト玉軸受148は、同様に、上下2枚の軌道盤148a,148bの間にボール148cを挟み込んだ構造を有している。単式スラスト玉軸受147の上面には、平ワッシャー149とナット151,153が配置される。単式スラスト玉軸受148の下面には、平ワッシャー155とナット156,157が配置される。リング付き吊金具159は、ワイヤロープ38から吊り下げられたフック付き滑車126のフック126b(図4)を引っ掛けるためのものである。リング付き吊金具159はリング159aと、リング159aの下に繋がったネジ部159bで構成される。リング付き吊金具159は、ネジ部159bにナット153,151をねじ込んだ後、ネジ部159bを、平ワッシャ149、単式スラスト玉軸受147、上板116の丸孔116a、単式スラスト玉軸受148、平ワッシャ155に順次通し、さらにネジ部159bにナット156,157をねじ込んで締め付けることにより、回転部46に連結される。この状態では、単式スラスト玉軸受147の下側の軌道盤147bと、単式スラスト玉軸受148の上側の軌道盤148aが回転部46側に固定されて一体化される(したがって、軌道盤147b,148aは回転部46側の構成要素をなす)。また、単式スラスト玉軸受147の上側の軌道盤147aと、単式スラスト玉軸受148の下側の軌道盤148bがリング付き吊り金具159側に固定されて一体化される。単式スラスト玉軸受147の上下の軌道盤147a,147bは相対回転自在であり、単式スラスト玉軸受148の上下の軌道盤148a,148bは相対回転自在であるので、回転部46はリング付き吊金具159に対し、軸Lを中心に相対回転することができる。
【0026】
以上の構成によれば、図4に示すように、回転支持部44はスプレイノズル40の噴射範囲Zよりも下にあり、吊下支持部48はスプレイノズル40の噴射範囲Zよりも上にあるので、回転支持部44および吊下支持部48はスプレイノズル40による塗料42の噴射の邪魔とならない。しかも、塗装機36は下降しながら塗装を行うので、塗装した箇所をゴムキャスタ64が走行することがない。また、仮に、塗装中にスプレーダスト42aがベント管20の下の方まで降下し、内周面20bの未塗装箇所に付着し硬化した後に、その上に塗装が行われた場合には塗装欠陥となる。これに対し、この塗装機36では回転支持部44の天板50はスプレーダスト受け部材を構成し、塗装中に降下するスプレーダスト42aを噴射範囲Zのすぐ下で受けるので、スプレーダスト42aがベント管内周面20bの未塗装箇所に付着するのを防止することができる。なお、ベント管内周面20bの、スプレイノズル40の噴射範囲Zの下端位置と天板50との間の上下方向の短い領域d(図4)にはスプレーダスト42aが付着するが、この領域dは、塗装機36の下降に伴いすぐに正規の塗装がされるので、スプレーダスト42aが付着してもそれが硬化しないうちに正規の塗装が上塗りされる。その結果、領域dに付着したスプレーダスト42aは正規の塗装と一体化されるので、塗装欠陥とはならない。このような理由により、この塗装機36によれば、塗装欠陥が生じるのを防止することができる。
【0027】
巻上装置の詳細構成を図10に示す。巻上機32はダイヤフラムフロア16上に配置されている。巻上機32としては、例えばエアー駆動式可変速度巻上機を用いることができる。この場合、巻上げ巻下げ速度を安定させるために、エアーレギュレータ付きコントロールボックス160を使用する。巻上機32からはワイヤロープ38が繰り出される。ダイヤフラムフロア16上に固定された脚24の上端部に固定配置されたカバー板26には、滑車取付治具を構成する桁状部材161が着脱自在に装着される。図11(a)は、カバー板26に桁状部材161を装着した状態を平面図で示す。桁状部材161は、脚24相互間のすき間30を通してカバー板26の下面とベント管20の上端開口部20aとの間の空間28に差し込まれる。そして、桁状部材161は、カバー板26の相対向する周縁部位置に取付金具163,164で着脱自在に固定される。すなわち、桁状部材161の一端部側の位置で、取付金具163は、桁状部材161の上面との間にカバー板26の周縁部を挟み込み、ネジ166で固定する。また、桁状部材161の他端部側の位置で、取付部材164は、桁状部材161の上面との間にカバー板26の対向する位置の周縁部を挟み込み、ネジ168で固定する。桁状部材161における取付金具163の取付位置は固定であるが、取付金具164の取付位置は、ネジ168を差し込む穴164aが桁状部材161の長手方向に延在する長穴で構成されているため、桁状部材161の長手方向に所定量移動することができる。
【0028】
桁状部材161の構造を説明する。図11(a)は、桁状部材161の平面構造を、カバー板26に装着した状態で示す。また、図11(a)のC−C矢視断面図を図11(b)に示す。桁状部材161は金属製角パイプで構成され、その中央部位置の上下面に、開口部161a,161bがそれぞれ形成されている。桁状部材161内には、開口部161a,161bが形成された位置に、2輪の滑車35a,35bが収容されている。2輪の滑車35a,35bは、桁状部材161の両側面間に貫通して取り付けられた軸部132に回転自在に支持されている。巻上機32(図10)から繰り出されたワイヤロープ38は、ガイドローラ165(図10)および桁状部材161のガイドローラ167を介して桁状部材161内に通され、滑車35aに掛けられてベント管20内に吊り下げられ、さらにフック付き滑車126の滑車126aに掛けられた後、上方に折り返し、滑車35bに掛けられて、ワイヤロープ38の端部は桁状部材161の適宜の位置に配置された留め具136に留められる。これにより、フック付き滑車126は、ベント管20のほぼ中心軸Lの位置に吊り下げられる。フック付き滑車126のフック126bは吊下支持部48(図9)のリング付き吊金具159のリング159aに掛けられる。以上の構成によれば、巻上機32を可逆駆動することにより、塗装機36を、ベント管20内で上下方向に移動させることができる。
【0029】
桁状部材161内には、滑車35a,35bの間の位置に、金属板134が配置されている。金属板134は、軸部132に回転自在に支持されている。金属板134の下部は桁状部材161の下面の開口部161bから下方に突出している。金属板134の下端部には、当接部134aが形成されている。金属板134は、通常時は自重により、当接部134aが下側に配置された状態(図10に示す状態)に保たれている。巻上機32を駆動して、ワイヤロープ38を桁状部材161の位置まで巻き上げると、フック付き滑車126の上端部が当接部134aに当接し、さらに巻上機32を駆動すると、フック付き滑車126の上端部が当接部134aに当接したまま、金属板134が軸162を中心に回転し、フック付き滑車126は、桁状部材161の下面の開口部161bを通して桁状部材161内の空間161dに収納される。フック付き滑車126が桁状部材161内に収納された状態を図12に示す。このようにフック付き滑車126が桁状部材161内に収納された状態で、桁状部材161が脚24相互間のすき間30を通してカバー板26の下面とベント管20の上端開口部20aとの間の空間28に差し込まれ、あるいは、空間28およびすき間30を通して引き抜かれる。
【0030】
金属板134の片面には、磁石128aが配置されている。一方、桁状部材161の内側面には、適宜の台座129上にリードスイッチ等の磁気感応スイッチ128bが配置されている。これら磁石128aと磁気感応スイッチ128bとで磁気スイッチ128を構成する。この磁気スイッチ128は、巻上機32の巻き上げ動作を自動停止させるのに用いられる。すなわち、フック付き滑車126の上端部が金属板134の当接部134aに当接していない状態では、前述のように、金属板134は、自重により、当接部134aが下側に配置された状態(図10に示す状態)に保たれている。このとき、磁石128aと磁気感応スイッチ128bは対向し、磁気スイッチ128がオンした状態となり、巻上機32の駆動が可能な状態となる。フック付き滑車126の上端部が金属板134の当接部134aに当接して金属板134が軸162を中心に回転すると、磁石128aと磁気感応スイッチ128bとは対向しなくなり(図12の状態)、磁気スイッチ128がオフし、巻上機32の駆動が強制停止される(例えば、巻上機32がエアー駆動式巻上機であれば、エアーホースの途中に配設された電磁弁を遮断することにより巻上機32を停止させることができる。)。これにより、巻上機32が駆動され続けることによる巻上機32の故障を防止することができる。なお、ワイヤロープ38の所定位置にテープ等で予め目印を付けておくことにより、巻上機32の操作者は目印を視認することで、ベント管20内での塗装機36の高さ位置を知ることができる。例えば、スプレイノズル40がベント管20の上端部の塗装開始位置にあるとき、および、スプレイノズル40がベント管20の下端部の塗装終了位置にあるときに、所定の観測位置(例えば、ワイヤロープ38が桁状部材161の端部から排出される位置)に位置しているワイヤロープ38上の位置にそれぞれ目印を付けておき、塗装時に、巻上機32の操作者がワイヤロープ38に付けた目印が観測位置に達したことを視認して、巻上機32を停止させることにより、スプレイノズル40を塗装開始位置および塗装終了位置でそれぞれ停止させることができる。
【0031】
塗装機36を運転するための塗装装置全体のシステム構成を図13を参照して説明する。ここでは、エアーレス塗装法を使用する場合について説明する。エアーレス塗装法は、塗料をエアーレスポンプで加圧し、塗料ホースを介してスプレイノズル(エアーレスノズル)から噴射させ、霧にして塗装する方法である。図2の原子炉建屋10内において、サプレッションチャンバ14に通じる出入口169の外側の室170内の床172上には図13に示す台車171が配置されている。塗装機36につながる各ホース41,43,45および信号線59は、室170から出入口169を介してサプレッションチャンバ14内に導かれる。台車171には、ベローズ型エアーレスポンプ173、一体式コントロールボックス175等が配置されている。塗料タンク177内には塗料42が収容されている。塗料42中には塗料ホース181の一端部が差し込まれている。塗料ホース181の先端部には40メッシュストレーナ183が装着されている。塗料ホース181の他端部はエアーレスポンプ173の流入口185に接続されている。エアーレスポンプ173の吐出口187には塗料ホース41が接続されている。エアーレスポンプ173はエア駆動式エアーレスポンプで構成され、コンプレッサ(図示せず)からエアホース180を介して供給されるエアーで駆動され、流入口185から流入する塗料を高圧で吐出口187から吐出し、塗料ホース41に供給する。
【0032】
塗料ホース41に供給された塗料は、80メッシュストレーナ191および100メッシュストレーナ193で順次濾過される。80メッシュストレーナ191の入口側には入口圧力計195が配置され、100メッシュストレーナ193の出口側には出口圧力計197が配置されている。作業者は、塗装時に、両圧力計195,197の指示値を見て、圧力差が所定値よりも大となったときに、ストレーナ191,193の少なくともいずれか一方が目詰まりを生じたものと判断し、エアーレスポンプ173の運転を停止させる。そして、弁190,192を開いて、ストレーナ191,193内を洗浄して、排液をホース194,196を介して排液タンク198,200に排出させる。洗浄によりストレーナ191,193内の目詰まりが解消したら、弁190,192を閉じ、エアーレスポンプ173を再起動して塗装を再開させる。ストレーナ193の下流側には、塗料の流量を測定する流量計199が配置されている。なお、塗料の流量は、エアーレスポンプ173の駆動エアーの圧力が一定であれば、スプレイノズル40(エアーレスノズル)の型式で決まる。流量計199から流出する塗料は、前述したように、塗装機36の空気操作弁70、100メッシュストレーナ72、回転駆動機構74内、回転部46内を通ってスプレイノズル40から噴射される。
【0033】
コントロールボックス175には、回転部46の回転/停止を切換操作する回転スイッチ202、回転部46の回転速度を調整操作する回転調整レギュレータ204、回転センサ(磁気スイッチ)57による回転部46の回転検出に基づき、回転部46の回転数を数値表示する回転計206、回転センサ(磁気スイッチ)57による回転部46の回転検出をランプ表示(1回転につき1回点滅)する回転確認ランプ208、空気操作弁70を開閉操作して、スプレイノズル40からの塗料42の噴射/停止を切り換えるスプレイスイッチ209、エアーホース211から供給されるエアーの圧力を表示するエアー圧力計213等が備えられている。エアーホース211にはコンプレッサから空気操作弁70の切換操作用およびエアーモータ133の回転駆動用のエアーが供給される。
【0034】
コントロールボックス175において、作業者が回転スイッチ202で「回転」を指令すると、エアーホース45にエアーが供給され、エアーモータ133が駆動して、回転部46が回転する。回転部46の回転は回転センサ57で検出され、該検出に基づき回転確認ランプ208は1回転につき1回の割合で点滅表示する。また、該検出に基づき、コントロールボックス175内の演算器で回転数が演算され、演算結果が回転計206に数値表示される。作業者は回転確認ランプ208の点滅を見て、回転部46が回転していることを確認することができる。また、作業者は、回転計206の表示を見ながら、回転調整レギュレータ204を操作してエアーの流量を調整することにより、回転部46の回転数を予め定められた目標値に調整することができる。作業者が回転スイッチ202で「停止」を指令すると、エアーホース45へのエアーの供給が停止され、エアーモータ133が停止して、回転部46の回転が停止する。
【0035】
コントロールボックス175において、作業者がスプレイスイッチ209で「噴射」を指令すると、エアーホース43にエアーが供給され、空気操作弁70が開状態となり、スプレイノズル40から塗料42の噴射が行われる。作業者がスプレイスイッチ209で「停止」を指令すると、エアーホース43へのエアーの供給が停止され、空気操作弁70が閉状態となり、スプレイノズル40からの塗料42の噴射が停止される。
【0036】
以上説明した、図10の巻上装置および図13の塗装装置によるベント管内周面20bの塗装作業の一例を説明する。塗装作業は、巻上機32の操作を行うドライウェル12内の作業者と、塗装機36に対するワイヤロープ38の着脱操作および塗装機36のベント管20内への案内操作を行うサプレッションチャンバ14内の作業者と、コントロールボックス175の操作を行う室170内の作業者が連携して行う。始めに、サプレッションチャンバ14内の作業者はベント管20の下方の床34上に塗装機36を配置する。また、ドライウェル12内の作業者は巻上機32のコントロールボックス160を操作して、ワイヤロープ38を巻き下げる。フック付き滑車126がサプレッションチャンバ14内の床34付近まで降りたら、サプレッションチャンバ14内の作業者は、フック付き滑車126のフック126bを塗装機36の吊下支持部48のリング159aに引っ掛ける。この状態で、巻上機32を巻き上げて、塗装機36をベント管20内に吊り上げていく。ドライウェル12内の作業者は、ワイヤロープ38に付けられた目印により、スプレイノズル40が塗装開始位置に到達したことを確認したら、巻上機32を停止させる。
【0037】
次いで、室170内の作業者が、コントロールボックス175の回転スイッチ202で「回転」を指令すると、エアーモータ133が起動し、回転部46が回転し始める。このとき、回転支持部44の上側のゴムキャスタ64がベント管内周面20bに押圧当接しているので、回転支持部44の回転は抑制される。また、回転支持部44の下側のゴムキャスタ58がベント管内周面20bに当接して、回転支持部44の傾きが抑制される。また、回転部46の回転は吊下支持部48で逃がされるので、ワイヤロープ38の縒りが抑制される。
【0038】
この状態で、室170内の作業者は、回転計206を見ながら、回転調整レギュレータ204を操作して、回転部46の回転数を予め定められた目標値に調整する。この調整が終了したら、スプレイスイッチ209で「噴射」を指令する。これにより、空気操作弁70が開状態となり、回転しているスプレイノズル40から塗料42が噴射されてベント管内周面20bの全周の塗装が開始される。塗装の開始と同時に、ドライウェル12内の作業者は、巻上機32をスプレイノズル40の回転数に応じた適正な速度で巻下げ方向に駆動する。これにより、塗装機36がゆっくりと下降し、ベント管内周面20bは螺旋状にかつ周回ごとに塗装範囲を上下方向にオーバーラップさせてすき間なく、上から順に塗装されていく。
【0039】
ベント管20の下端部まで塗装を終了したら、スプレイスイッチ209で「停止」を指令する。これにより、空気操作弁70が閉状態となり、スプレイノズル40からの塗料42の噴射が停止される。そして、ワイヤロープ38をさらに巻下げて、塗装機36を床34上に着地させる。これにより、ベント管内周面20bの塗装が完了する。なお、塗膜厚は、回転部46の回転速度、塗料の吐出量、巻上機32の巻下げ速度により調整することができる。塗装が完了したら、フック付き滑車126を塗装機36から外し、ワイヤロープ38を巻き上げて回収し、さらにカバー板26から桁状部材161を外す。これで1本のベント管20について塗装作業が完了し、他のベント管20について同様にして塗装作業を繰り返す。
【0040】
なお、前記実施の形態では、回転部46の回転逃がし機構をスラスト軸受147,148で構成したが、これに代えて、またはこれと併用して、フック付き滑車126に回転逃がし機構を構成することもできる。この場合は、フック付き滑車126が吊下支持部の一部を構成することになる。回転逃がし機構を設けたフック付き滑車126の具体例を図14、図15に示す。図14のフック付き滑車126は、2輪の滑車126a,126aを備えたものである。滑車126a,126aを支持する枠部材126cには、ベアリング126dを介してフック126bが回転自在に吊り下げられている。図15のフック付き滑車126は、1つの滑車126aを備えたものである。滑車126aを支持する枠部材126cには、ベアリング126dを介してフック126bが回転自在に吊り下げられている。また、フック付き滑車126に代えて、滑車無し吊下具を使用することもできる。図16は滑車無し吊下具の一例を示す。フック無し吊下具126’は、枠部材126eの上下に、フック126f,126gが、それぞれベアリング126h,126iを介して取り付けられている。上側のフック126fにはワイヤロープ38が掛けられ、下側のフック126gはリング付き吊金具159(図9)のリング159aに掛けられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の塗装方法の実施の形態を示す模式縦断面図で、図2および図3に示す構造のベント管20の内周面20bを塗装する手順を示す図である。
【図2】この発明が適用可能な原子炉格納容器の構造例を示す縦断面図である。
【図3】図2のダイヤフラムフロア16の上面のベント管20が貫通している箇所の構造を示す斜視図および縦断面図である。
【図4】この発明の塗装機の実施の形態を示す正面図である。
【図5】図4のA−A矢視図である。
【図6】回転駆動機構74の詳細構成を示す正面図(透視図)である。
【図7】図6の回転駆動機構74の分解正面断面図である。
【図8】図6のB−B矢視断面図である。
【図9】回転部46および吊下支持部48の詳細構成を示す分解図である。
【図10】巻上装置の詳細構成を示す図である。
【図11】図10のカバー板26に桁状部材161が装着された状態を示す平面図である。
【図12】フック付き滑車126が桁状部材161内に収納された状態を示す側面図(透視図)である
【図13】塗装機36を運転するための塗装装置全体のシステム構成を示す図である。
【図14】回転逃がし機構を構成したフック付き滑車126の一例を示す正面図および側面図である。
【図15】回転逃がし機構を構成したフック付き滑車126の別の例を示す正面図および側面図である。
【図16】フック付き滑車126に代わるフック無し吊下具の一例を示す正面図および側面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…原子炉格納容器、12…ドライウェル、14…サプレッションチャンバ、16…ダイヤフラムフロア、20…ベント管、20a…ベント管上端開口部、20b…ベント管内周面、24…脚、26…カバー板、28…ベント管の上端開口部とカバー板下面との間の空間、30…脚相互間のすき間、32…巻上機、35,35a,35b…滑車(ロープ掛け具)、36…塗装機、38…ワイヤロープ(ロープ)、40…スプレイノズル(ノズル)、42…塗料、42a…スプレーダスト、44…回転支持部、46…回転部、48…吊下支持部、50…天板(スプレーダスト受け部材)、64…ゴムキャスタ(押圧当接部材)、74…回転駆動機構、161…桁状部材(ロープ掛け具取付治具)、163,164…取付金具、L…ベント管の中心軸、回転部の回転軸、Z…噴射範囲。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライウェルとサプレッションチャンバとを仕切るダイヤフラムフロアを貫通してベント管が鉛直配置され、ベント管の上端部は開放されてドライウェルに連通し、ベント管の下端部は開放されてサプレッションチャンバに連通し、ダイヤフラムフロアの上面には、ベント管の上端開口部の周囲を取り囲むように複数本の脚が固定配置され、該脚の上端部には、カバー板が、ベント管の上端開口部から上方に空間を隔てて、該ベント管の上端開口部の上方に被さるように固定配置され、ベント管の上端開口部は該カバー板下面との間の空間および該複数本の脚相互間のすき間を通してドライウェルに連通する構造を有する原子炉格納容器において、ベント管の内周面を塗装する方法であって、
ドライウェル内に巻上機を配置し、サプレッションチャンバ内に塗装機を配置し、前記カバー板の下方位置にロープ掛け具を配置し、
前記巻上機のロープを、前記脚相互間のすき間および前記カバー板の下面とベント管の上端開口部との間の空間を通して、前記ロープ掛け具に掛けて、ベント管内を通して、前記塗装機に連結し、
前記ロープを巻き上げて、前記塗装機をベント管内に吊り上げ、
前記塗装機のノズルから塗料をベント管内周面に向けて噴射するとともに、前記巻上機により該塗装機の上下方向位置を移動させることによりベント管内周面を塗装する方法。
【請求項2】
前記巻上機のロープを前記塗装機に連結した後、
前記ロープを巻き上げて、前記塗装機をベント管内の上端部付近まで吊り上げ、
前記塗装機のノズルから塗料をベント管内周面の全周方向に噴射しながら、該塗装機を徐々に下降させることによりベント管内周面を塗装する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ロープ掛け具がロープ掛け具取付治具に装着され、該ロープ掛け具取付治具は前記脚相互間のすき間を通して前記カバー板の下面とベント管の上端開口部との間の空間に差し込まれ、該ロープ掛け具取付治具は該カバー板の周縁部に複数箇所で取付金具により着脱自在に固定される請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記塗装機の、前記ノズルの噴射範囲よりも下方位置に、ベント管の内径をほぼ塞ぐ大きさのスプレーダスト受け部材を取付配置し、塗装中にスプレーダスト受け部材を該塗装機と共に下降させて、降下するスプレーダストを該スプレーダスト受け部材で受けるようにしてなる請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ドライウェルとサプレッションチャンバとを仕切るダイヤフラムフロアを貫通してベント管が鉛直配置された構造を有する原子炉格納容器において、ベント管内にロープで昇降自在に吊り下げられて該ベント管の内周面を塗装する塗装機であって、
回転支持部と、該回転支持部の上側に回転可能に連結された回転部と、該回転部の上側に、該回転部の回転軸と同軸に、該回転部と相対回転可能に連結された吊下支持部とを具備し、
前記回転支持部は、その周方向の複数箇所で押圧当接部材をベント管の内周面に押圧当接させて、該回転支持部自身の、ベント管軸回り方向への回転を抑制しながらベント管軸方向への移動を許容し、かつ、前記回転部を、その回転軸をベント管の軸の位置にほぼ一致させた状態で回転可能に支持して回転駆動機構で回転駆動し、
前記回転部は、ベント管の内周面に向けて塗料を噴射するノズルを具備し、該回転部の回転に伴い、該ノズルから噴射される塗料をベント管内周面の全周方向に噴射し、
前記吊下支持部は、前記ロープに連結されて、前記回転部をその回転軸を中心に相対回転可能に吊り下げ支持し、
前記回転支持部および前記吊り下げ支持部を前記ノズルの噴射範囲の外に配置してなる
原子炉格納容器のベント管内周面の塗装機。
【請求項6】
前記回転支持部が、前記ノズルの噴射範囲よりも下方位置に、ベント管の内径をほぼ塞ぐ大きさのスプレーダスト受け部材を取付配置してなる請求項5記載の塗装機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−64493(P2006−64493A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246256(P2004−246256)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(504325520)株式会社 渡辺塗装工業 (1)
【Fターム(参考)】