説明

原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法及び沸騰水型原子力発電プラント

【課題】N−16による線量率の上昇を抑制し、かつ、副生成物により生じる電気伝導率の増加を容易に抑制できる原子炉構造材料の応力腐食割れの緩和方法を提供すること。
【解決手段】沸騰水型原子力発電プラントの原子炉水中に、ヒドラジン又はヒドラジンと水素をアンモニアが生じるまで注入し、アンモニア濃度に基づいて、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物の原子炉水中への注入量を調製する。これにより応力腐食割れを促進させる因子の1つである電気伝導率を低減することができ、原子炉構造材料の応力腐食割れを抑制するとともに、原子力発電プラントの稼働率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子力プラント(BWR)の予防保全技術に係り、特に原子炉構造材料の応力腐食割れ(SCC)を緩和する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉定常運転時のBWRの炉内構造物等は、常に高温高圧水又は蒸気に曝される。炉内構造物や圧力境界を構成する材料としては、一般にステンレス鋼又はニッケル基合金の構造材料等が使用される。
【0003】
これらの構造材料は、材料,応力,環境の組合せが、所定条件、例えば、3因子が重畳するなどの条件を満たしたときに応力腐食割れを生じる可能性がある。したがって、これらのうち少なくとも一つの因子を緩和すれば、応力腐食割れを抑制することができ、プラントの稼働率が向上する。特に、環境緩和は大規模な工事を伴わず、経済的である。
【0004】
ところで、プラント運転中の原子炉水は、炉心の強いγ線及び中性子線を受けることにより放射線分解し、放射線分解生成物として酸素及び過酸化水素を生成する。このため、炉内構造物や圧力境界を構成する構造材料は、酸素及び過酸化水素が数百ppb程度存在する高温の原子炉水に曝される。
【0005】
ここで、原子炉水とは、原子炉圧力容器内を流れる水、及び原子炉圧力容器に連通する配管内を流れ、イオン交換樹脂やフィルタなどにより水中のイオンや浮遊物の処理が行われていない水を示すものとし、高温の原子炉水とは、100℃以上の炉水を示すものとする(定格出力運転時の炉心出口の水温は288℃)。
【0006】
図2は、高温水(288℃)中において、304型ステンレス鋼(SUS304)の腐食電位(以下、適宜ECPという。)と、き裂進展速度(以下、適宜CGRという。)との関係を水の電気伝導率(導電率)毎に表した図である。図2から電気伝導率に関係なく、ECPの低下とともにCGRが減少することがわかる。
【0007】
図3は、高温水(280℃)中において、酸素及び過酸化水素の濃度とSUS304のECPとの関係を示す図である。図3から酸素及び過酸化水素のいずれも濃度が増えるとECPが増加することがわかる。
【0008】
したがって、原子炉水中に曝される構造材料のSCCを緩和するためには、ECPを低減すること、つまり、原子炉水中に存在する酸素及び過酸化水素の濃度を低減する必要がある。
【0009】
原子炉水中の酸素及び過酸化水素を低減する方法として、給水系配管から水素を添加する技術(以下、水素注入という。)がある。水素注入は、水の放射線分解により生じた酸素及び過酸化水素をそれぞれ水素と反応させて水に戻すことにより、原子炉水中の酸素及び過酸化水素の濃度を低減する技術である。しかし、原子炉水中に水素を注入すると、水の放射化により生じた放射性窒素16(以下、N−16という。)が蒸気とともに移行し易くなるため、タービン建屋の線量率を上昇させるおそれがある。
【0010】
図4は、給水系配管を流れる原子炉水中の水素濃度と主蒸気配管表面の線量率との関係を示す図である。 図4からN−16による線量率が水素濃度に依存することがわかる。したがって、酸素や過酸化水素と反応する還元剤としては、水素以外の還元剤を適宜選択することが好ましい。
【0011】
これに対し、水素に代えて、原子炉水中にアルコールを注入する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、原子炉水中に水素とともにアルコールやアルデヒド、カルボン酸を注入する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、原子炉水中にヒドラジン、又はヒドラジン及び水素を注入する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
このように水素以外の還元剤を注入することにより、水素の使用量を低減できるため、N−16の移行を抑制するとともに、原子炉水中の酸素及び過酸化水素の濃度を低くして、SCCの発生を抑制することができる。
【0013】
【特許文献1】特表2005−504265号公報
【特許文献2】特公平8−33489号公報
【特許文献3】特開2005−43051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、水素に代わる還元剤としてアルコールやヒドラジンを原子炉水中に所定量添加すると、副生成物として、それぞれ二酸化炭素、アンモニアが生成する。これらは原子炉水の電気伝導率を増加させるため、プラント運転の管理基準を逸脱する可能性がある。図2に示すように、ECPが同じでも水の電気伝導率が大きい場合は、き裂進展速度が大きくなることから電気伝導率を小さくすることが望まれる。
【0015】
例えば、特許文献3においては、電気伝導率を抑制するため、原子炉水の酸素、過酸化水素と反応する化学量論量よりも少ない量のヒドラジンを注入し、原子炉水の酸素濃度などに基づいて、残りの酸素、過酸化水素と反応する量のアルコールを注入するようにしている。つまり、過剰のヒドラジンの注入はアンモニアを生じさせ、電気伝導率を増加させる要因となることから、アンモニアを生じさせない範囲でヒドラジンの添加量を調整している。
【0016】
しかし、特許文献3によれば、例えば、酸素濃度やアンモニア濃度を監視しながらヒドラジンやアルコールの注入量の最適値を模索しなければならず、調整時間や調整負荷が大きくなるという問題がある。
【0017】
本発明は、N−16による線量率の上昇を抑制し、かつ、副生成物により生じる電気伝導率の増加を容易に抑制することができる原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
先ず、本発明の原理について説明する。
【0019】
図5は、γ線照射下、高温高圧水中でメタノール(CHOH)と酸素(O)、ヒドラジン(N)と酸素の反応における、ヒドラジン、メタノールの注入濃度と副生成物の濃度との関係を表した図である。
【0020】
ヒドラジンの場合、酸素に対してヒドラジンが反応する反応当量(図中の1.0)以上存在するとアンモニア(NH)が生じることがわかる。一方、メタノールの場合は、注入量に依存して二酸化炭素(CO)が増加することがわかる。
【0021】
そのため、本発明では、ヒドラジンを酸素や過酸化水素に対し反応当量以上添加して酸素及び過酸化水素の濃度を十分に低減し、次いで副生成物となるアンモニアに起因する電気伝導率の増加を抑制することを基本としている。
【0022】
図6では、ヒドラジンの副生成物となるアンモニアが溶解した溶液を想定し、アンモニア濃度と電気伝導率との関係を表した図であり、イオン種毎の電気伝導率を同時に示している。
【0023】
アンモニアが水中で解離すると、式1に示すようにアンモニウムイオン(NH+)と水酸化物イオン(OH)が生じる。

NH+HO → NH++OH・・・(式1)

図6より水酸化物イオンが全イオンの電気伝導率の約70%を占めており、水酸化物イオンのモル導電率(198S・cm/mol)はアンモニウムイオンのモル導電率(74S・cm/mol)よりも大きいことからも、その寄与率が大きいことがわかる。したがって、原子炉水の電気伝導率を低減させるには水酸化物イオン濃度を低減することが効果的である。
【0024】
本発明では、水以外で、水に溶解すると陰イオンとオキソニウムイオン(H+)を放出する化合物を添加することにより、原子炉水の水酸化物イオンを低減するようにしている。すなわち、原子炉水中の水酸化物イオンはオキソニウムイオンと反応して水を生成するため、水酸化物イオン濃度は減少し、電気伝導率を低減できる。
【0025】
ところで、陰イオンとオキソニウムイオンは、例えば、給水系配管などから注入された場合、注入された直後に各イオンに解離すると水の電気導電率が増加し、給水系配管などの腐食が促進されるおそれがある。
【0026】
そのため、本発明では、原子炉圧力容器内の熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物を注入するようにしている。この方法によれば、ヒドラジンからアンモニアが生じる圧力容器内で、陰イオンとオキソニウムイオンが放出されるため、アンモニアの解離により生じた水酸化物イオンは直ちにオキソニウムイオンと反応し、注入部位と原子炉圧力容器内ともに電気伝導率の増加を抑制できる。
【0027】
この場合において、放出される陰イオンとしては、例えば、炭酸イオン(HCO、CO2−)が好ましい。陰イオンはSCC感受性を増加させることが知られているが、炭酸イオンはその作用が小さいからである(例えば、M.Sambongiら:″Effect of Reactor Water lmpurities on ECP and SCC″,1998 JAIF lnternational Conference on Water Chemistry in Nuclear Power Plants, Kashiwazaki,Japan,October 13−16,p.343(1998))。
【0028】
炭酸イオンとオキソニウムイオンを生じさせる化合物としては、二酸化炭素がある。二酸化炭素は、水中に溶解すると直ちにオキソニウムイオンと炭酸イオンを放出する。したがって、熱又は放射線分解により二酸化炭素を放出する化合物が好適となる。
【0029】
このような性質を持つ化合物としては、第1に、メタノールやエタノール(COH)、プロパノール(COH)などの水溶性アルコールがある。水溶性アルコールは、Ptなどの触媒が介在する場合を除き、給水系配管(圧力容器入口で約200℃)では、熱分解や溶存酸素との酸化反応を起こさない反面、放射線照射下で反応し、二酸化炭素を放出する。特に水溶性アルコールの中でも直鎖の短いメタノールは速やかに反応して二酸化炭素を放出するため好ましい。
【0030】
第2の化合物としては、カルボヒドラジド((NCO)がある。カルボヒドラジドは、125℃以上でヒドラジンと二酸化炭素に分解するが、分解速度は分オーダーであるため、少ない分解量で原子炉圧力容器内に注入される。
【0031】
図7は、二酸化炭素が水中に注入放出されて熱又は放射線の作用により水中で解離し、炭酸イオンとオキソニウムイオンになった場合を想定したときの、アンモニア水の電気伝導率の変化を示す図である。
【0032】
図に示すように、二酸化炭素の溶解量の増加に伴い電気伝導率(実線)は減少するが、極小値を経て、再び電気伝導率が増加する。これは放出されたオキソニウムイオンが水酸化物イオンよりも多くなり、オキソニウムイオンにより電気伝導率が増加するためである。なお、オキソニウムイオンは水酸化物イオンと同様モル導電率が大きいイオンである(350S・cm/mol)。
【0033】
したがって、熱又は放射線の作用によりオキソニウムイオンと陰イオンを放出する化合物を注入する場合は、注入量を適正化する必要がある。本発明では、適正化するための指標として、原子炉水中のアンモニア濃度を用いている。
【0034】
図7に示したように、アンモニア濃度が一定の水溶液中に、二酸化炭素を溶存させると、電気伝導率は濃度増加に伴い極小(以下、極小値点という。)となった後、再び増加して二酸化炭素を溶存させない場合と同じ電気伝導率(以下、等導電率点という。)を経て、二酸化炭素が添加されないときよりも電気伝導率が高くなる。
【0035】
図8は、電気伝導率が極小値点と等導電率点となるときの二酸化炭素の濃度をアンモニア濃度に対してプロットした図である。縦軸はアンモニア濃度に対する二酸化炭素濃度のモル比を表している。
【0036】
図8から、極小値点は二酸化炭素濃度/アンモニア濃度のモル比が約1で一定となっている。一方、等導電率点はアンモニア濃度に依存し、二酸化炭素濃度/アンモニア濃度のモル比が2〜4になっている。
【0037】
これらの関係から、電気伝導率が極小値となるように、二酸化炭素濃度/アンモニア濃度のモル比1を目指してメタノールあるいはカルボヒドラジドを注入するようにする。なお、メタノール1molからも(式2)、カルボビドラジド1molからも(式3)、それぞれ二酸化炭素1molが生成されるため、アンモニア濃度に対するこれらの濃度の比が1になるように、これらの化合物の注入量を制御すればよい。

CHOH+(3/2)O → CO+2HO・・・(式2)

(N)2CO+HO → CO+2N・・・(式3)

また、電気伝導率が等導電率点以下となるように、メタノールやカルボヒドラジドなどの化合物を注入する際は、アンモニア濃度に対するこれらの化合物の濃度比がアンモニア濃度に依存して2〜4となるように制御してもよい。
【0038】
一方、例えば、メタノールを注入する場合、原子炉水中に溶存するヒドラジンと酸素や過酸化水素との反応を阻害する可能性がある。このような反応阻害が生じるとアンモニア生成量が変化するため好ましくない。
【0039】
図9は、高温高圧水中、γ線照射下でのヒドラジンと酸素、メタノールと酸素の反応における、ヒドラジン及びメタノールの濃度と酸素濃度との関係を示す図である。図からヒドラジンはメタノールよりも反応速度が大きいことがわかる。
【0040】
図10は、図9と同じ環境下にてヒドラジン溶液にメタノールを添加した混合溶液と酸素との反応における、ヒドラジン,メタノールの濃度とアンモニア濃度との関係を示す図である。
【0041】
図からヒドラジン単独で注入した場合、ヒドラジンが反応等量以上になるとアンモニアが生成されるが、メタノールを添加してヒドラジンとメタノールとの混合溶液を反応等量以上にしてもアンモニアの濃度は増加しないことがわかる。これはヒドラジンと酸素との反応速度がアルコールと酸素との反応速度よりも大きく、ヒドラジンと酸素との反応が優先的に進行したためと推定される。よって、ヒドラジンとメタノールを同時に注入してもヒドラジンと酸素、過酸化水素との反応阻害は生じないことが判明した。
【0042】
以上の結果より、本発明は、沸騰水型原子力発電プラントの原子炉水中に、ヒドラジン又はヒドラジンと水素をアンモニアが生じるまで注入し、アンモニア濃度に基づいて、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物の原子炉水中への注入量を調製することを特徴とする。
【0043】
これによれば、水素の使用量を低減できるため、N−16による線量率の上昇を抑制することができる。また、アンモニア濃度を指標とすることにより化合物の注入量を容易に適正化できるため、電気伝導率を極小値あるいはそれに近い値まで容易に抑制することができる。
【0044】
また、本発明は、沸騰水型原子力発電プラントの原子炉水中に、ヒドラジンと熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物との混合液を注入するものとし、この混合液は、ヒドラジン又はヒドラジンと水素を原子炉水中に設定量注入したときの原子炉水のアンモニア濃度に基づいて、化合物の混合率が設定されることを特徴とする。
【0045】
例えば、予めヒドラジン、又は水素とヒドラジンを原子炉水中に設定量注入してアンモニア濃度を分析し、その結果に基づいて、熱又は放射線の作用によりオキソニウムイオンと陰イオンを放出する化合物の注入量を決定することにより、ヒドラジン溶液と化合物による適正な混合比率の混合液を作製することができる。
【0046】
この方法によれば、混合液を注入するだけでよいため、例えば、溶液の貯蔵タンクや注入ポンプ、注入配管の本数を減らすことが可能となり、設備を簡単化できるとともに、経済性に優れるという利点がある。
【0047】
次に、熱又は放射線の作用によりオキソニウムイオンと陰イオンを放出する化合物の注入量を適正化する他の方法について説明する。
【0048】
本方法は、数値解析モデルから予測されたアンモニア生成量に基づいて、化合物の注入量を決定するものである。
【0049】
図11は、数値解析モデルから求めた炉底部のアンモニア濃度、腐食電位をヒドラジンの原子炉水濃度に対してプロットしたものである。
【0050】
本解析では、原子炉水に水素が注入されない場合と、N−16による主蒸気線量率の上昇が生じない程度の水素を注入(給水系配管濃度0.4ppm)した場合について各々評価した。
【0051】
ここで、原子炉水濃度とは、式4で定義される値である。原子炉水濃度を使用する理由は、給水系配管を流れる水の流量(以下、給水系配管流量という。)と、炉心を流れる水の流量(以下、炉心流量という。)が異なるため、ヒドラジンの給水系配管での濃度(以下、給水系配管濃度という。)と原子炉水中でのヒドラジンの濃度が異なるためである。

(原子炉水濃度)=(給水系配管濃度)×(給水系配管流量)÷(炉心流量)・・・(式4)

ヒドラジンは、給水系配管から圧力容器内に導入されると放射線照射により酸素、過酸化水素との反応や自己分解反応が促進されるため、原子炉底部の原子炉水をサンプリングしても検出されない。ここで定義する、原子炉水濃度とは、給水系配管から圧力容器内に導入され、熱又は放射線などの作用により各成分が反応する前の原子炉水の濃度であり、原子炉底部の原子炉水の分析から得られる濃度と異なる。
【0052】
原子炉底部の構造材料の腐食電位は、CGR抑制と原子炉水Co−60濃度低減の観点から、例えば、−0.1V(SHE)(水素やヒドラジンなどを注入しない場合のCGRの1/10になる時の腐食電位)から−0.3V(SHE)(放射能を含む鉄酸化物の溶解度が、原子炉水Co−60濃度が増加することが知られている腐食電位(−0.5V(SHE))の1/10になる時の腐食電位)に制御することが望ましい。
【0053】
この場合、ヒドラジンは原子炉水濃度120〜220ppbとなるように注入され、原子炉底部の原子炉水中のアンモニア濃度は15−30ppbになることが、図11からわかる。このアンモニア濃度より、メタノールの必要最小濃度は、アンモニア15ppbで電気伝導率が極小値点となる濃度となり、必要最大濃度は、アンモニア30ppbで電気伝導率が等導電率点となる濃度となる。
【0054】
メタノール1molから二酸化炭素1molが生成されることを考慮すると、図8より必要なメタノールの原子炉水濃度は1〜5μmol/kgとなる。また、カルボヒドラジドを注入する場合も、メタノールと同様、カルボヒドラジド1molから二酸化炭素1molが生成されるため、原子炉水濃度は1〜5μmol/kgとなる。ただし、カルボヒドラジドを注入する場合は、カルボヒドラジド1molからヒドラジンが2mol生成されるため、カルボヒドラジドの注入量の2倍モルのヒドラジンをカルボヒドラジド注入前のヒドラジンの注入濃度から減じる必要がある。
【0055】
このことから、熱又は放射線の作用によりオキソニウムイオンと陰イオンを放出する化合物は、原子炉水中の化合物の濃度が1乃至5μmol/kgとなるように、注入量を調整すればよい。なお、本方法においても、熱又は放射線の作用によりオキソニウムイオンと陰イオンを放出する化合物はヒドラジンと混合して注入することができる。
【0056】
一方、図11の数値解析モデルによると、必要なヒドラジンの原子炉水濃度は120〜220ppbであり、このとき生じるアンモニアは15〜30ppbであることから、電気伝導率が極小値点になるように、ヒドラジンのモル濃度に対する熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物のモル濃度の比は0.1〜0.5とすることが好ましい。
【0057】
また、電気伝導率が等導電率点以下となるように、ヒドラジンのモル濃度に対する熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物のモル濃度の比を0.1〜1.3としてもよい。
【0058】
また、本発明は、ヒドラジン、又はヒドラジンと水素を原子炉水中に注入する第1の注入手段と、原子炉水をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリング手段によりサンプリングした原子炉水のアンモニア濃度を検出するアンモニア濃度検出手段と、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物を原子炉水中に注入する第2の注入手段と、アンモニア濃度検出手段により検出されたアンモニア濃度に基づいて化合物の注入量を制御する制御手段とを備える沸騰水型原子力発電プラントによって実現できる。
【0059】
また、本発明は、原子炉水をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリング手段によりサンプリングした原子炉水のアンモニア濃度を検出するアンモニア濃度検出手段と、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物とヒドラジンとをアンモニア濃度に基づいて定められる比率で調製した混合液を原子炉水中に注入する注入手段とを備える沸騰水型原子力発電プラントによって実現できる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、N−16による線量率の上昇を抑制するとともに、副生成物により生じる電気伝導率の増加を抑制し、炉内構造物の応力腐食割れを容易に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。
【0062】
図1は、沸騰水型原子力プラントに本発明を適用した1次冷却系の系統構成を示す図である。
【0063】
沸騰水型原子力プラント(BWR)は、復水冷却器13、復水ろ過脱塩器3、給水ポンプ4、給水加熱器5、核燃料の装荷された原子炉圧力容器1を給水系配管6で接続し、原子炉圧力容器1とタービン2を主蒸気配管14で接続することにより閉ループを構成する。
【0064】
原子炉冷却剤としては水を用い、この水を原子炉圧力容器1に導いて蒸気とし、その蒸気を用いてタービンを回転させ、発電機(図示せず)を回転させて発電を行う。蒸気は復水冷却器13にて水に戻された後、復水ろ過脱塩器3により不純物が除去され、給水ポンプ4により給水加熱器5を通して原子炉圧力容器1に戻される。
【0065】
また、原子炉圧力容器1の下部、再循環ポンプ7、ジェットポンプ15の入り口を原子炉冷却水再循環系配管16により接続し、再循環ポンプ7から炉心へ流れる冷却水流量を増加させ、熱出力を増加させる。
【0066】
改良型沸騰水型原子力プラント(ABWR)の場合、原子炉冷却水再循環系配管16はなく、再循環ポンプ7は圧力容器内1内に設置されたインターナルポンプの構造となっている。本実施形態では、原子炉冷却水再循環系配管16を有する沸騰水型原子力プラント(BWR)を用いている。
【0067】
この原子力プラントでは、原子炉冷却水浄化系ポンプ9、原子炉冷却水浄化系熱交換器11、原子炉冷却水ろ過脱塩器12が原子炉冷却水浄化系配管10により接続される。原子炉冷却水浄化系配管10は、上流側の分岐した一端は原子炉冷却水再循環系配管16と接続される一方、下流側は給水系配管6と接続される。原子炉冷却水浄化系ポンプ9により原子炉圧力容器1内から抜出された原子炉水は、原子炉冷却水ろ過脱塩器12に通水されて不純物が浄化された後、給水系配管6を流れる炉水と合流し、再び原子炉圧力容器1内に戻される。
【0068】
原子炉圧力容器1の底部と原子炉冷却水浄化系配管10はボトムドレン配管8により接続される。原子炉圧力容器1の炉心上部には、非常時に炉心を冷却するために原子炉炉心に冷却水を注入する非常用炉心冷却系、原子炉の核燃料の核反応を制御する制御棒を駆動させるために冷却水を注入する制御棒駆動水圧系が設置される(図示せず)。各系統配管には水質をモニターする水質モニター21〜25が設定される。主蒸気配管線量率測定器26は主蒸気配管14の線量率をモニターする。
【0069】
なお、改良型沸騰水型原子力プラントにおいては、原子炉圧力容器1の上部から原子炉水の一部を抜出して原子炉冷却水浄化系熱交換器11を通して冷却し、原子炉冷却水ろ過脱塩器12で原子炉水中の不純物を除去した後、給水系配管6に戻すための原子炉冷却水浄化系配管10が設置されている。
【0070】
水素注入をする設備(水素ガス発生装置31、水素ガス注入量調整バルブ32)は給水系配管6に接続され、ヒドラジンを注入する設備(ヒドラジン溶液タンク41、ヒドラジン注入ポンプ42)は原子炉冷却水浄化系配管10の原子炉冷却水浄化系熱交換器11の下流側に接続される。ヒドラジンを注入する設備は原子炉冷却水浄化系配管10に限定されず、例えば、給水系配管6の給水加熱器5の下流側や原子炉冷却水再循環系配管16に接続されていてもよい。
【0071】
また、本発明の熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物(以下、適宜化合物と略す。)を注入する設備(化合物を放出する化合物溶液タンク43、化合物を放出する化合物溶液注入ポンプ44)は給水系配管6に接続される。化合物を注入する設備は、給水系配管6に限定されず、例えば、原子炉冷却水浄化系配管10における原子炉冷却水ろ過脱塩器12の下流側に設置されていてもよいし、原子炉冷却水再循環系配管16に設置されていてもよい。
【0072】
このような設備を備えた沸騰水型原子力プラントにおいて、水素は給水系配管6から注入されて原子炉圧力容器1内に導入され、ヒドラジンは原子炉冷却水浄化系配管10から注入されて原子炉圧力容器1内に導入される。
【0073】
水素注入量は主蒸気線量率の上昇を抑えるため、0〜0.4ppmの範囲に制御されるが、例えば、主蒸気配管線量率測定器26の測定結果に基づいて注入量を決定するようにしてもよい。ヒドラジン注入量は水質モニター22又は水質モニター23により測定される原子炉水中の溶存酸素濃度が所定の濃度(好ましくは10ppb)以下となるように制御されるが、水質モニター22又は水質モニター23に腐食電位測定器を並設し、腐食電位が−0.1〜−0.3V(SHE)となるようにヒドラジン注入量を決定するようにしてもよい。
【0074】
次に、原子炉水のアンモニア濃度に基づいて、熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物の注入方法について説明する。
【0075】
水素及びヒドラジンを原子炉水中に所定量注入した後、例えば、水質モニター23を用いてサンプリング手段(図示せず)によりサンプリングした原子炉水のアンモニア濃度を測定する。アンモニア濃度はJIS K0102に記載の方法(例えば、インドフェノール青吸光光度法,イオン電極法,イオンクロマトグラフ法など)により測定できる。
【0076】
熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物として、例えば、メタノールを用いる場合は、原子炉水の電気伝導率を図8の極小値点にするため、原子炉水濃度でアンモニアと等モルになるようにメタノールを注入する。また、これに代えて、図8の等導電率点となる二酸化炭素濃度に対して原子炉水濃度で等モル以下となるようにメタノールを注入してもよい。
【0077】
具体的には、式5を用いて原子炉水濃度より給水系配管濃度を求め、この給水系配管濃度となるように、所定量のメタノールを給水系配管6に注入する。

(給水系配管濃度)=(原子炉水濃度)×(炉心流量)÷(給水系配管流量)・・・(式5)

また、メタノール(化合物)を注入する設備を原子炉冷却水浄化系配管10に設置して原子炉冷却水浄化系配管10を流れる水に注入する場合は式6を用い、原子炉冷却水再循環系配管16に設置して原子炉冷却水再循環系配管16に流れる水に注入する場合は式7を用いることによりそれぞれメタノールの注入量を決定する。
【0078】

(原子炉冷却水浄化系配管濃度)=(原子炉水濃度)×(炉心流量)÷(原子炉冷却水浄化系配管流量)・・・(式6)

(原子炉冷却水再循環系配管濃度)=(原子炉水濃度)×(炉心流量)÷(原子炉冷却水再循環系配管流量)・・・(式7)

式6において、原子炉冷却水浄化系配管濃度は、原子炉冷却水浄化系配管10を流れる水中の濃度を示し、原子炉冷却水浄化系配管流量は、原子炉冷却水浄化系配管10を流れる水の流量を示す。また、式7において、原子炉冷却水再循環系配管濃度は、原子炉冷却水再循環系配管16を流れる水中の濃度を示し、原子炉冷却水再循環系配管流量は、原子炉冷却水再循環系配管16を流れる水の流量を示す。
【0079】
このようにしてメタノールを所定の配管系から設定量注入することにより、ヒドラジン注入による副生成物のアンモニアの増加に伴う原子炉水の電気伝導率の増加を効果的に低減することができる。
【0080】
一方、メタノールに代えてカルボヒドラジドを注入する場合は、メタノールと同様、原子炉水の電気伝導率が図8の極小値点となるように、カルボヒドラジドを原子炉水濃度でアンモニアと等モルになるように注入する。また、これに代えて、図8の等導電率点となる二酸化炭素濃度に対して原子炉水濃度で、等モル以下となるようにカルボヒドラジドを注入してもよい。具体的には、式5を用いて原子炉水濃度より給水系配管濃度を求め、この給水系配管濃度となるように所定量のカルボヒドラジドを給水系配管6に注入する。
【0081】
なお、メタノール注入の場合と同様、カルボヒドラジド(化合物)を注入する設備を原子炉冷却水浄化系配管10に接続する場合は式6を用い、原子炉冷却水再循環系配管16に設置する場合は式7を用いることによりそれぞれカルボヒドラジドの注入量を決定する。
【0082】
ここで、カルボヒドラジドを用いる場合は、カルボヒドラジド1molからヒドラジン2molが生成されるため、カルボヒドラジドを注入する前のヒドラジンの原子炉水濃度からカルボヒドラジドの原子炉水濃度の2倍を減じてヒドラジンを注入するようにする。具体的にはカルボヒドラジド注入と同時あるいは注入してからヒドラジン注入濃度を所定の濃度に減らす。これによりアンモニア濃度がカルボヒドラジド注入前と同じになるように制御することができ、ヒドラジン注入により生じる原子炉水の電気伝導率増加を抑制できる。
【0083】
以上述べたように、第1実施形態においては、ヒドラジンを注入することにより副生成物としてアンモニアを生じさせ、検出されたアンモニア濃度を指標にして適正量の化合物、つまりアルコール、カルボヒドラジドを注入することにより電気伝導率を効率的に低減できる。これにより、原子炉構造材料の応力腐食割れを抑制することができ、原子力発電プラントの稼働率を向上させることができる。
【0084】
次に、第2実施形態について図12を用いて説明する。なお、以下の実施形態では、図1と同一の構成部分は同一符号を付して説明を省略する。
【0085】
第2実施形態は、アンモニア濃度に基づいてヒドラジンの注入量を自動制御している点で、第1実施形態と相違する。水質モニター23には、アンモニア濃度自動分析装置61、ポンプ注入量自動制御装置62、ヒドラジン注入ポンプ42が電気的に順次接続される。
【0086】
水質モニター23の検出結果に基づいてアンモニア濃度自動分析装置61はアンモニア濃度を検出し、そのアンモニア濃度検出結果に基づいて、ポンプ注入量自動制御装置62は適正なヒドラジンの注入量を演算により求める。ポンプ注入量自動制御装置62から出力されたポンプ流量制御信号はヒドラジン注入ポンプ42に入力され、ヒドラジン注入量が制御される。なお、例えば、水質モニター23とともに、又はこれに代えて、水質モニター22の検出結果を用いるようにしてもよい。
【0087】
以上述べたように、第2実施形態においては、アンモニア濃度の測定結果に基づいて、ヒドラジンの注入量を適正化できるため、例えば、原子炉水中の酸素や過酸化水素の濃度、炉心流量などの変化にかかわらず、ヒドラジンの注入量を安定化させることができ、副生成物となるアンモニアの濃度を安定化できる。そのためアンモニア濃度に基づいて化合物を適量注入することにより、電気伝導率を安定的に低下させ、原子炉構造材料の応力腐食割れを抑制することができる。
【0088】
なお、第1実施形態における原子炉水の酸素濃度の検出結果とともにアンモニア濃度の検出結果を指標とし、これらに基づいてヒドラジンの注入量を決定するようにしてもよい。
【0089】
次に、第3実施形態について図13を用いて説明する。
【0090】
第3実施形態は、ポンプ注入量自動制御装置62と化合物溶液注入ポンプ44を電気的に接続し、アンモニア濃度に基づいて化合物の注入量を自動制御している点で、第2実施形態と相違する。
【0091】
サンプリングした原子炉水を自動分析し、その分析結果に基づいて、上記実施形態と同様の方法により化合物溶液注入ポンプ44による化合物の注入量を自動制御する。
【0092】
化合物溶液注入ポンプ44としては、例えば、連続的に流量を変更できるプランジャーポンプやダイヤフラムポンプが用いられる。式8で求められるポンプ注入流量をアンモニア濃度に対して把握しておけば自動制御が可能となる。

(ポンプ注入流量)=(原子炉水濃度)×(炉心流量)÷(化合物溶液タンク43内に貯留される化合物溶液の濃度)・・・(式8)

第3実施形態において、化合物溶液注入ポンプ44により化合物を注入する場合、サンプリングした原子炉水を自動分析し、その分析結果に基づいて、化合物溶液注入ポンプ44のポンプ流量を自動制御することができるため、炉心流量などの変化によるアンモニア生成量の変化に対しても自動的に追従して適正量の化合物を注入することができる。これにより、電気伝導率をより安定的に低減できるため、原子炉構造材料の応力腐食割れを抑制し、原子力発電プラントの稼働率を向上させることができる。
【0093】
以上、原子炉水のアンモニア濃度を指標にして、熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物の注入量を決定する方法について説明したが、この方法に限定されず、例えば、アンモニア濃度を測定することなく、上記化合物が原子炉水濃度で1〜5μmol/kgとなるように所定量を注入するようにしてもよい。なお、各配管からの注入方法は上記の方法と同じでよい。
【0094】
また、上記の実施形態では、熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物とヒドラジンとを別々に注入する方法について説明したが、この方法に限定されず、例えば、化合物とヒドラジンの混合溶液を注入するようにしてもよい。
【0095】
この場合において、原子炉水のアンモニア濃度を指標にして混合溶液としての化合物の注入量を制御する方法としては、化合物を混合する前に、所定量のヒドラジン又はヒドラジンと水素を注入して原子炉水のアンモニア濃度を測定しておき、その結果に基づいて混合溶液の混合濃度を決定する。この場合の混合濃度は式9に従って決定する。

(タンクに貯留する混合溶液の濃度)=(各種配管での濃度)×(各種配管での流量)÷(化合物注入ポンプ注入流量)・・・(式9)

ここで、各種配管とは、給水系配管6や原子炉冷却水浄化系配管10、原子炉冷却水再循環系配管16のことである。
【0096】
アンモニア濃度を測定することなく、熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物が原子炉水濃度で1〜5μmol/kgとなるように注入する場合についても、混合溶液の混合濃度は、式9を用いて決定すればよい。
【0097】
また、図11に示した数値解析モデルによれば、必要なヒドラジンは原子炉水濃度で120ppb(3.8μmol/kg)〜220ppb(6.9μmol/kg)となる。このヒドラジン濃度において、原子炉水の電気伝導率を極小値点とするには、化合物を原子炉水濃度で0.9〜1.8μmol/kg(二酸化炭素濃度では15〜30ppb)注入する必要があることから、ヒドラジンと化合物の混合溶液は、ヒドラジンのモル濃度に対する化合物のモル濃度の比が0.1〜0.5となるように調製すればよい。また、原子炉水の電気伝導率を等導電率点にするには化合物が原子炉水濃度で1〜5μmol/kgを注入する必要があることから、混合溶液は、ヒドラジンのモル濃度に対する化合物のモル濃度の比が0.1〜1.3となるように調製すればよい。
【0098】
図14は、本発明を適用してなる沸騰水型原子力プラントの化合物注入装置の一例を示す構成図である。なお、図14の化合物注入装置は、例えば、図13の化合物注入ポンプ44,化合物溶液タンク43に対応するものである。
【0099】
図に示すように、化合物注入装置は、熱又は放射線の作用により陰イオンとオキソニウムイオンを放出する化合物溶液を貯蔵する化合物溶液貯蔵タンク51の底部に供給配管を接続して構成される。供給配管には、タンク側から順に、積算流量計57、化合物溶液の誤注入や冷却水の逆流を防止するためのバルブ53、化合物溶液を放出する化合物注入ポンプ54、流量計55、逆止弁56が設けられている。化合物溶液貯蔵タンク51には化合物溶液を定量的に把握するための水位計52が設けられている。
【0100】
化合物溶液貯蔵タンク51や供給配管は鉄鋼材料により形成されるが、化合物溶液と接する面は、鉄鋼材料と化合物溶液が直接接しないように、例えば、四弗化エチレン樹脂などの樹脂材でコーティングされていることが望ましい。これは、鉄鋼材料と化合物溶液が接触すると化合物溶液が分解する可能性があるためである。さらに原子炉水中に酸素を持ち込まないように、化合物溶液をアルゴンでバブリングしたり、液面上部をアルゴンなどにより保護することが望ましい。
【0101】
本装置では、ヒドラジンと化合物溶液の混合溶液を化合物溶液貯蔵タンク51に貯蔵して、混合溶液の注入装置としても用いることができる。具体的に、例えば、化合物溶液貯蔵タンク51にヒドラジンのみを入れて所定量のヒドラジンを単独で原子炉水中に注入し、その後原子炉水のアンモニア濃度を分析し、アンモニア濃度の検出結果に基づいて、混合溶液における化合物の混合率を決定する。続いて、このようにして調製された混合溶液を化合物溶液貯蔵タンク51内のヒドラジンと入れ替えて注入する。
【0102】
この方法によれば、例えば、溶液の貯蔵タンクや注入ポンプ、注入配管の本数を減らすことができるため、設備を簡単化することができ、経済的である。また、例えば、高濃度のメタノールは発火する恐れがあるが、ヒドラジン溶液と混合することで、メタノール濃度を低下できるため、発火のリスクを小さくできる。さらに、作業負荷を低減できるという利点がある。
【0103】
なお、上述した実施形態では、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物として、アルコールやカルボヒドラジドをそれぞれ単独で用いる例を説明したが、これに限定されず、例えば、これらを適宜混合して用いるようにしてもよい。また、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物であれば、アルコールやカルボヒドラジドに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明を適用してなる沸騰水型原子力プラントの1次冷却系の系統構成の第1実施形態を示す図である。
【図2】高温水(288℃)中におけるSUS304の腐食電位とき裂進展速度との関係を水の電気伝導率毎に表した図である。
【図3】高温水(280℃)中における酸素及び過酸化水素の濃度とSUS304のECPとの関係を示す図である。
【図4】給水系配管を流れる原子炉水中の水素濃度と主蒸気配管表面の線量率との関係を示す図である。
【図5】γ線照射下、高温高圧水中でメタノールと酸素、ヒドラジンと酸素の反応における、ヒドラジン、メタノールの注入濃度と副生成物の濃度との関係を示す図である。
【図6】アンモニア溶液のアンモニア濃度と電気伝導率との関係を示す図である。
【図7】アンモニア溶液のアンモニア濃度と電気伝導率の関係を示す図である。
【図8】電気伝導率が極小値点と等導電率点となるときの二酸化炭素の濃度をアンモニア濃度に対してプロットした図である。
【図9】高温高圧水中、γ線照射下でのヒドラジンと酸素、メタノールと酸素の反応における、ヒドラジン及びメタノールの濃度と酸素濃度との関係を示す図である。
【図10】図9と同じ環境下にてヒドラジン溶液にメタノールを添加した混合溶液と酸素との反応における、ヒドラジン,メタノールの注入濃度とアンモニア濃度との関係を示す図である。
【図11】ヒドラジン又は水素とヒドラジンを注入した場合の炉底部のアンモニア濃度、腐食電位をヒドラジンの原子炉水濃度に対してプロットしたものである。
【図12】本発明を適用してなる沸騰水型原子力プラントの1次冷却系の系統構成の第2実施形態を示す図である。
【図13】本発明を適用してなる沸騰水型原子力プラントの1次冷却系の系統構成の第3実施形態を示す図である。
【図14】本発明を適用してなる沸騰水型原子力プラントの化合物注入装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0105】
1 原子炉圧力容器
2 タービン
3 復水ろ過脱塩器
4 給水ポンプ
5 給水加熱器
6 給水系配管
7 原子炉冷却水再循環ポンプ
8 ボトムドレン配管
9 原子炉冷却水浄化系ポンプ
10 原子炉冷却水浄化系配管
11 原子炉冷却水浄化系熱交換器
12 原子炉冷却水ろ過脱塩器
13 復水冷却器
14 主蒸気配管
15 ジェットポンプ
16 原子炉冷却水再循環系配管
21〜25 水質モニター
26 主蒸気配管線量率測定器
31 水素ガス発生装置
32 水素ガス注入量調整バルブ
41 ヒドラジン溶液タンク
42 ヒドラジン注入ポンプ
43 化合物溶液タンク
44 化合物溶液注入ポンプ
51 化合物溶液貯蔵タンク
52 水位計
53 バルブ
54 化合物注入ポンプ
55 流量計
56 逆止弁
61 アンモニア濃度自動分析装置
62 ポンプ注入量自動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子力発電プラントの原子炉水中に、ヒドラジン又はヒドラジンと水素をアンモニアが生じるまで注入し、該アンモニア濃度に基づいて、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物の前記原子炉水中への注入量を調製することを特徴とする原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法。
【請求項2】
前記化合物は、前記原子炉水中の該化合物の濃度が1乃至5μmol/kgとなるように、前記注入量を調整することを特徴とする請求項1に記載の原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法。
【請求項3】
沸騰水型原子力発電プラントの原子炉水中に、ヒドラジンと熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物との混合液を注入し、
前記混合液は、前記ヒドラジン又は前記ヒドラジンと水素を前記原子炉水中に設定量注入したときの前記原子炉水のアンモニア濃度に基づいて前記化合物の混合率が設定されることを特徴とする原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法。
【請求項4】
前記混合液は、前記ヒドラジンのモル濃度に対する前記化合物のモル濃度の比が0.1乃至0.5であることを特徴とする請求項3に記載の原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法。
【請求項5】
前記混合液は、前記ヒドラジンのモル濃度に対する前記化合物のモル濃度の比が0.1乃至1.3であることを特徴とする請求項3に記載の原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法。
【請求項6】
前記化合物は、メタノールとカルボヒドラジドのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の原子炉構造材料の応力腐食割れ緩和方法。
【請求項7】
ヒドラジン、又はヒドラジンと水素を原子炉水中に注入する第1の注入手段と、前記原子炉水をサンプリングするサンプリング手段と、該サンプリング手段によりサンプリングした前記原子炉水のアンモニア濃度を検出するアンモニア濃度検出手段と、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物を原子炉水中に注入する第2の注入手段と、前記アンモニア濃度検出手段により検出されたアンモニア濃度に基づいて前記化合物の注入量を制御する制御手段とを備えてなる沸騰水型原子力発電プラント。
【請求項8】
原子炉水をサンプリングするサンプリング手段と、該サンプリング手段によりサンプリングした前記原子炉水のアンモニア濃度を検出するアンモニア濃度検出手段と、熱又は放射線の作用により陰イオン及びオキソニウムイオンを放出する化合物とヒドラジンとを前記アンモニア濃度に基づいて定められる比率で調製した混合液を前記原子炉水中に注入する注入手段とを備えてなる沸騰水型原子力発電プラント。
【請求項9】
前記化合物は、メタノールとカルボヒドラジドのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8のいずれかに記載の沸騰水型原子力発電プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−70207(P2008−70207A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248505(P2006−248505)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)