説明

原虫類オーシストの測定方法及び検出用試薬

【課題】環境試料中のクリプトスポリジウム等の原虫類のオーシストを、短時間で、高感度、低コストに測定する方法及びそれに用いる検出用試薬を提供する。
【解決手段】 原虫類のオーシストを含有する検体に、該オーシストを特異的に認識するための結合因子を固定した粒子径5〜500nmの磁性微粒子を加えて、オーシストに対する結合反応を利用してオーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体を形成し、該形成された複合体を磁気分離により回収し、複合体中の原虫類オーシストを測定する。前記方法を行うための、オーシストに対する抗体又は該抗体を認識する結合因子を固定化した、粒子径5〜500nmの磁性微粒子を含有する原虫類オーシストの検出用試薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道原水、排水、下水、天然水、土壌等の様々な環境中での原虫類のオーシストの存在を安価に且つ簡便に検出することができる、原虫類オーシストの測定方法及び検出用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水、地下水、河川水等は、飲料として摂取され、また無意識のうちに口より取り込まれる可能性があり、その衛生面での管理には注意が必要とされている。細菌や浮遊粒子に加え、昨今ではクリプトスポリジウム等の原虫類にも注意が払われるようになっている。
【0003】
クリプトスポリジウムは、ほ乳類や鳥類等の胃や腸管の粘膜等に寄生して、下痢を引き起こす消化管寄生性原虫である。クリプトスポリジウムは、寄生宿主の消化管内で無性生殖期と有性生殖期とを繰り返しながら増殖し、有性生殖の結果生じたオーシストは寄生宿主の糞便中に排出される。オーシストは安定で、長期間活性を保ったままであるから、何らかの原因で河川水や地下水に排出されたオーシストが飲料水に混入すれば、ヒトに感染する事態を招きかねない。平成8年埼玉県越生町で発生した感染例では、水道原水の河川の上流に下水処理場があり、その河川水を水源とする上水場を通じて、一次感染源のオーシストが水道水に入り込んだと考えられている。更に発症した患者が使用したトイレの排水が下水処理され再度河川に流れ込み、その河川水を水道水の水源として利用されたことで次々と感染が拡大し、最終的には市民の半数が感染するに至った。
【0004】
クリプトスポリジウムのオーシストは、塩素消毒やオゾン処理に対して著しく強い抵抗性を有し、通常の浄水処理では水中のオーシストを完全に死滅させることはできない。したがって、水を介したクリプトスポリジウムの感染を防止するためには、この病原性原虫を十分に除去するか、あるいは消毒すると共に、試料中における僅かなオーシストを高精度で分析検査することが必要とされる。
【0005】
厚生労働省はこれらの塩素耐性微生物に対する予防措置や応急措置などについての暫定対策指針を定めている(例えば、非特許文献1参照)。これによれば、クリプトスポリジウムの測定方法が種々列挙されており、採取した試料を、吸引濾過、加圧濾過、カートリッジフィルター法、遠心沈殿法等の方法により濃縮する「濃縮工程」、密度勾配遠沈法、免疫磁性体粒子法(免疫磁気ビーズ法)等の方法により、原虫類オーシストを他の浮遊物質と分離・精製する「分離・精製工程」、次いで、免疫蛍光抗体染色法(間接法と直接法がある)により原虫類のオーシストを免疫染色し、顕微鏡により測定する「染色・検鏡工程」の三工程、又は上記「濃縮工程」と「染色・検鏡工程」の二工程からなる操作方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、環境試料中から遠心分離の手段を用いてオーシストの分離を行なう場合、クリプトスポリジウムの比重が水やその他の夾雑物の比重に近いため、一般的な低速の遠心分離を行っただけでは環境試料中に存在するクリプトスポリジウムのオーシストを十分に回収することができなかった。
【0007】
また、厚生労働省の暫定対策指針では、クリプトスポリジウムのオーシストの検出測定における上記「分離・精製工程」法として免疫磁気ビーズ法を推奨している。この方法は、一般に、濃縮工程を経た試料に直径5〜6μmの免疫磁気ビーズを添加して免疫反応を行わせ、ビーズ上に結合したオーシストを該ビーズと共に磁気回収する方法である。回収されたオーシストを直接免疫蛍光染色して観察できればよいが、免疫磁気ビーズに自家蛍光がある上、大きさがオーシストと似かよっていて判別できない。そのためオーシストを結合した磁気ビーズとオーシストとを塩酸で解離する工程が必要である。解離した後、オーシストを含む酸解離液をスライドグラス上に分けとり、アルカリで中和する。プレパラートの溶液を風乾させた後、メタノールで洗浄してから、オーシストを蛍光抗体で染色する。染色には30分を要する。さらに未結合の蛍光抗体を除去するために洗浄を行うが、プレパラートからオーシストを流し去ってしまわないように、細心の注意を必要とする。また、中和によって高濃度の塩が析出するため、染色が均一にならず、蛍光染色されたオーシストとバックグラウンドの区別が付きにくい場合がある。また解離操作では、全てのオーシストが解離するわけではなく、磁気ビーズ上に残ってしまうオーシストもあり、回収率にも問題がある。このように従来のミクロンサイズの磁気ビーズによる方法では工程が煩雑で、蛍光染色に熟練を要し、しかもオーシストの回収率も不十分である、などの欠点がある。
【0008】
特に水道水の検査測定においては、大量の水の中から1個、2個のオーシストを見いだすことになるため、研修受講者であっても蛍光を発する物質がクリプトスポリジウムか否かの確定が難しく、誤検出報告による混乱事例すらある等、クリプトスポリジウムの検出方法には種々の課題が残っており、水質基準とするまでには至っていない。この検査方法で相当の熟練を要する理由として検体からのクリプトスポリジウムオーシストの濃縮に時間がかかることと、蛍光顕微鏡でのクリプトスポリジウムオーシストの判別に熟練を有することが挙げられる。
【0009】
クリプトスポリジウムの他の染色・検鏡工程として、抗酸染色も開発されているが、この方法ではオーシスト以外の物質で非特異反応が著しく、かなり熟練した専門家でなければオーシストの判定が困難であるという問題がある。
【0010】
クリプトスポリジウムを検出する別の方法として、PCR法を用いてクリプトスポリジウム特異的DNA配列を検出する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法は遠心分離により回収したクリプトスポリジウムを、プロテナーゼKを使用するタンパク質分解処理、フェノール・クロロホルム処理、エタノール沈殿などの従来の手順に従って処理してDNAを回収し、次いでクリプトスポリジウム特異的配列をPCR法により増幅することにより、クリプトスポリジウムの存在を検出する方法である。
しかしこの方法ではDNAを増幅させるためのサーマルサイクラーや特異的塩基配列を有するプライマーの使用等、決して安価で簡便な方法とはいえない。
【0011】
さらに、これらの特異的抗体を使用する方法及びPCR法により特異的DNA配列を認識する方法ではいずれも、クリプトスポリジウムを回収するときに遠心分離を用いているが、クリプトスポリジウムのオーシスト及びスポロゾイトの比重が1に近いため一般的な低速遠心分離によっては回収できない損失部分が大きく、試料中に存在するクリプトスポリジウムを十分に検出できないという問題がある。
【非特許文献1】水道のクリプトスポリジウム対策、厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課監修、株式会社ぎょうせい発行(1999年12月発刊)、第1〜2頁
【特許文献1】特開平11−243953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、環境試料中のクリプトスポリジウム等の原虫類のオーシストを、短時間で、高感度、低コストに測定する方法を提供することにある。本発明は、原虫類のオーシストの簡便且つ高感度な測定方法及びそれに用いる検出用試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、従来の免疫磁気ビーズ法に用いられるミクロンサイズの磁気ビーズとは異なる、粒子径5〜500nmの磁性微粒子(以下、「磁性ナノ粒子」とも称する。)を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、それに基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明の上記課題は、下記の構成により達成される。
【0014】
(1) 原虫類のオーシストを含有する検体に、該オーシストを特異的に認識するための結合因子を固定した粒子径5〜500nmの磁性微粒子を加えて、結合因子を介してオーシストと磁性微粒子との複合体を形成させ、該形成されたオーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体を磁気分離により回収し、オーシストの数を測定することを特徴とする原虫類オーシストの測定方法。
【0015】
(2) 結合因子が、オーシストに対する抗体(以下、「抗オーシスト抗体」とも称する。)であることを特徴とする上記(1)記載の原虫類オーシストの測定方法。
(3) オーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体が、抗オーシスト抗体を固定化した磁性微粒子を検体に加えることにより形成されるオーシスト−抗オーシスト抗体−磁性微粒子複合体であることを特徴とする上記(1)または上記(2)記載の原虫類オーシストの測定方法。
(4) 結合因子が、抗オーシスト抗体と、該抗体を特異的に認識する結合因子成分(以下、「抗オーシスト抗体結合因子成分」とも称する。)とからなることを特徴とする上記(1)記載の原虫類オーシストの測定方法。
(5) オーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体が、オーシストに対する抗体を検体に加えてオーシスト−抗オーシスト抗体複合体を形成し、次いで該抗体に対する抗オーシスト抗体結合因子成分を固定化した磁性微粒子を加えることにより形成される、オーシスト−抗オーシスト抗体−抗オーシスト抗体結合因子成分−磁性微粒子複合体であることを特徴とする上記(1)記載の原虫類オーシストの測定方法。
【0016】
(6)磁性微粒子が、予め標識されていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
(7) 形成されたオーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体が、更に標識されることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
(8) 標識が、蛍光標識であることを特徴とする上記(6)または上記(7)記載の原虫類オーシストの測定方法。
(9) 磁性微粒子が、刺激応答性ポリマーが固定化された磁性微粒子である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
【0017】
(10) 原虫類が、クリプトスポリジウム属の原虫類である上記(1)〜(9)のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
(11)検体が、水を溶媒として含有する上記(1)〜(10)のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
(12) 抗オーシスト抗体または抗オーシスト抗体結合因子成分を固定化した、粒子径5〜500nmの磁性微粒子を含有することを特徴とする検体中の原虫類オーシストの検出用試薬。
(13) 前記磁性微粒子が、刺激応答性ポリマーが固定化された磁性微粒子である、上記(12)記載の原虫類オーシストの検出用試薬。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熟練した専門家を必要とせずに、簡便迅速に、かつ精度よく原虫類オーシストを検出することができる原虫類オーシストの測定方法及び原虫類オーシストの検出用試薬を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、原虫類のオーシストを含有する検体に、該オーシストを特異的に認識するための結合因子を固定化した粒子径5〜500nmの磁性微粒子を加えて、オーシスト−結合因子−磁性ナノ粒子複合体を形成させることで、その微粒子性により、オーシストとの結合反応が格段と迅速に行われるとともに、磁性ナノ粒子に自家蛍光が認められないため、従来の必須工程であった磁性粒子をオーシストから塩酸で解離させる工程が不要になった。即ち、磁性ナノ粒子とオーシストとが結合因子を介して結合された「オーシスト−結合因子−磁性ナノ粒子複合体」の状態のままで、該複合体を回収し、次の検出工程に供することができ、迅速性及び回収率が格段に向上する。
【0020】
図1Aに、従来の磁気ビーズ法において、クリプトスポリジウム属の原虫類のオーシストに対する抗体(以下、「抗クリプトスポリジウムオーシスト抗体」と称する。)を結合した免疫磁気ビーズによる、クリプトスポリジウムオーシスト−抗クリプトスポリジウムオーシスト抗体−磁気ビーズ複合体を模式的に示した。
図1Bに、本発明に従う、抗クリプトスポリジウムオーシスト抗体結合因子成分と結合した刺激応答性ポリマーを固定化した磁性ナノ粒子と、抗クリプトスポリジウムオーシスト抗体−クリプトスポリジウムオーシストとの複合体を模式的に示した。
【0021】
従来のミクロンサイズの免疫磁気ビーズでは、前述したような欠点がある。それに対し、本発明に用いる磁性ナノ粒子では、粒子径が著しく小さいため十分な分散性が得られ、希少に存在するオーシストの回収率が向上する。分散性が向上すれば、結合反応が迅速になり工程の短縮化につながる。従来のミクロンサイズの磁気ビーズで必要な1時間の反応時間が、本発明に用いる磁性ナノ粒子では、数十秒間に短縮される。特に図1Bに記載の刺激応答性ポリマーを固定化した磁性ナノ粒子では、温度やpHの変化によって凝集体を生じるため、分散した磁性微粒子の回収が容易である。すなわち、分散させた磁性ナノ粒子を温度やpHを変化させて凝集させれば、磁石盤などをセットすることで容易に回収できる。そのため、遠心分離などは必要としない。加えて磁性ナノ粒子及び刺激応答性ポリマーには自家蛍光がないために、回収操作の後、磁気ビーズとオーシストとを分離しなくても次の検出(標識・検鏡)工程に進むことが可能である。分散・回収が容易であることは、染色工程を簡易にする。具体的には回収した磁性ナノ粒子に緩衝液と蛍光抗体を添加して、分散状態で数十秒間ピペッティングする。次いで凝集状態に移行させ、磁石盤で回収し、上清を捨てる。さらに緩衝液を加えて分散状態で数十秒間ピペッティングし、次いで凝集状態にして磁石盤で回収して上清を捨て、洗浄する。この操作をあと2回繰り返すことにより、高度に精製された観測用試料が得られる。
【0022】
また、本発明においては、磁性ナノ粒子とオーシストとの複合体を形成するにあたっての結合方法、その結合時期及び場所は任意である。例えば、予めオーシストに対する抗体を固定化した磁性ナノ粒子を調製し、これをオーシストを含有する検体に加えることにより、免疫複合体を形成させてもよいし、オーシストを含有する検体に、オーシストに対する抗体を加えることによりオーシスト−抗オーシスト抗体複合体を形成させ、その抗オーシスト抗体を認識する結合因子を固定化した磁性ナノ粒子を該試料中に加えることにより、オーシスト−抗オーシスト抗体−抗オーシスト抗体結合因子成分−磁性微粒子複合体を形成させてもよい。またビオチン、アビジン、ビオチン化抗体なども自由に利用できる。抗オーシスト抗体と磁性ナノ粒子の間で直接に複合体を形成させてもよいし、アビジン、ビオチン、ビオチン化抗体などを介し、間接的に複合体を形成させてもよい。
【0023】
また、本発明においては、磁性ナノ粒子として、予め標識された磁性ナノ粒子を用いてオーシストとの複合体を形成させることにより、一段階で標識された複合体を形成させることもできる。この場合も、工程短縮と精度向上が達成される。
【0024】
更に、磁性ナノ粒子として、結合因子を結合した刺激応答性ポリマーを固定化した磁性ナノ粒子を用いることにより、対応する刺激を加えることで、オーシスト−刺激応答性ポリマー固定化磁性ナノ粒子複合体が容易に凝集するため、複合体の回収が容易になり、好ましい。
【0025】
以下、本発明を更に詳述する。
まず、原虫類のオーシストに対する抗体、又は該抗体を特異的に認識する結合因子成分を固定化した磁性ナノ粒子について説明する。
本発明に使用する磁性ナノ粒子の素材は、常温で磁性を示す物質であれば有機物質であっても無機物質であってもよい。特に限定されるものではないが、磁性を示す物質として具体的には、酸化ニッケル粒子、フェライト粒子、マグネタイト粒子、マグヘマイト粒子、コバルト鉄酸化物、バリウムフェライト、炭素鋼、タングステン鋼、KS鋼、希土類コバルト磁石の微粒子及びヘマタイト粒子などを挙げることができる。
【0026】
磁性ナノ粒子の粒子径は、5〜500nmの範囲であり、好ましくは20〜150nmの範囲である。磁性ナノ粒子の粒径をこの範囲にすることにより、磁性ナノ粒子の単位体積当たりの表面積を大きくすることができるため、免疫磁気ビーズ法における抗原(オーシスト)に対する感度を格段に向上させることができる。また、結合反応時間の短縮化も達成できる。ここで、磁性ナノ粒子の粒子径が、5nm未満であると磁気分離の時間が必要であり、非常に時間を要し、500nmを超えると、オーシストの認識能が低下する恐れがある。
【0027】
本発明に使用する磁性ナノ粒子の調製方法について、マグネタイトを用いた場合を例にとって説明する。オレイン酸ナトリウムとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムとを用いてマグネタイトを二重のミセルとし、このミセルを水溶液中に分散させることにより、粒径が数十nmである磁性マグネタイト微粒子を得ることができる。この方法はバイオカタライシス(Biocatalysis)1991年、第5巻、61〜69頁に記載の方法である。
【0028】
磁性ナノ粒子へ固定する結合因子は、原虫類のオーシストに対して特異的結合能を有し、オーシストと磁性ナノ粒子とを結合して、複合体にする機能を有する分子であれば特に制限はなく、単成分から構成されていても、複数の結合因子成分から構成されていてもよい。また、結合因子として、抗体等を用いることができ、本発明では、抗オーシスト抗体等の抗体を含む磁性ナノ粒子の複合体を免疫磁性ナノ粒子という場合があり、オーシストと該免疫磁性ナノ粒子との複合体を免疫複合体という場合がある。
【0029】
また、その固定化法も特に限定的ではなく、従来公知の方法を用いることができる。磁性ナノ粒子上への結合因子の固定化法としては、例えば、抗体を用いた場合には、結合因子表面に存在するアミノ酸残基(例えばアミノ基、カルボキシル基等)を利用して、予めナノ粒子表面に固定化した官能基(例えばカルボキシル基、アミノ基、エポキシ基)との縮合反応、付加反応等によりナノ粒子表面に抗体を固定化する方法などが挙げられる。
また生化学的手法として、ナノ粒子表層にビオチンを予め固定化し、ビオチンと特異的結合能を有するアビジンを結合させておいて、さらに市販のビオチン化キットを用いてビオチン化抗体を作成後、水溶液中で形成するアビジン−ビオチン結合を利用してナノ粒子表層に抗体を固定化する方法等が挙げられる。
【0030】
具体的な磁性ナノ粒子とオーシストとの結合を媒介する形式としては、例えば、ビオチンとアビジン、抗原と抗体、ポリヌクレオチドと該ポリヌクレオチドに対して相補的塩基配列をもつポリヌクレオチド、酵素(活性部位)と基質、酵素(活性部位)と生産物、酵素(活性部位)と競争阻害剤、酵素(補酵素結合部位)と補酵素、酵素(補酵素結合部位)とトリアジン色素、Fc部位とプロテインA、Fc部位とプロテインG、レクチンと糖、ホルモンレセプターとホルモン、DNAとDNA結合タンパク質、ヘパリンとフィブロネクチン及びヘパリンとラミニン等が挙げられる。
【0031】
本発明では、磁性ナノ粒子として、刺激応答性ポリマーを固定化したものを用いることが好ましい。これにより、前記刺激応答性ポリマーが固定した磁性ナノ粒子に、対応する刺激を与えて析出、凝集させることができ、これにより、磁石による磁性ナノ粒子の回収をより効果的に行うことができる。
【0032】
ここで、刺激応答性ポリマーとは、ポリマーを含有する溶媒において、温度、pH、光、磁場、電気等の刺激に応答して、該ポリマーが溶媒中に析出、凝集する性質を有するポリマーのことを言う。前記刺激応答性ポリマーを磁性ナノ粒子に固定させることにより、オーシストと免疫磁性ナノ粒子とが免疫複合体を形成した後、該免疫複合体を含有する溶媒に刺激を与えることにより、該免疫複合体が凝集するため、容易に磁気分離(回収)することができる。従来公知の刺激応答性ポリマーをいずれでも用いることができる。
【0033】
本発明において好ましい刺激応答性ポリマーとしては、例えば、物理的な性質(溶媒に対する溶解性、形状等)がpHの変化で応答するpH応答性ポリマー、光の波長の変化で応答する光応答性ポリマー、温度変化で応答する熱応答性ポリマー等が挙げられる。特に好ましいのは、熱応答性ポリマーである。熱応答性ポリマーとは、水溶液中で温度変化により可逆的に凝集溶解を繰り返す高分子を言う。熱応答性ポリマーとしては、下限臨界溶液温度(LCST)を有するポリマー(LCSTポリマー)及び上限臨界温度(UCST)を有するポリマー(UCSTポリマー)が知られている。具体的には、水溶液中でLCSTを示すポリマーとしてはポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが知られており、その相転移温度は32℃である。水溶液中でUCSTを示すポリマーとしてはアクリルアミドとN−アセチルアクリルアミドの共重合体等が知られており、その相転移温度はそれぞれのモノマー成分の比率により様々に変化させることができる。
【0034】
熱応答性磁性ナノ粒子としては、国際公開WO02/16528号パンフレット、国際公開WO02/16571号パンフレット等に記載された磁性微粒子を挙げることができる。
【0035】
以下、本発明の測定方法を詳述する。
本発明において、「環境試料」とは、水道原水、土壌、廃水、下水、プールの水、糞便などである。環境試料は、必要に応じて濃縮工程を施し、本発明の精製・分離工程を施すための検体とすることができる。
【0036】
本発明において、「オーシスト」とは、ザイゴートが膜に包まれたものをいう。ザイゴートはオーシストの内部で分裂して、感染性を持つスポロゾイトを形成する。オーシストは、その殻の存在により、乾燥、化学薬品などの環境変化に極めて強いという特徴を有する。
【0037】
本発明では、従来の免疫磁気ビーズ法による原虫類のオーシストの回収において、従来のミクロンサイズの磁気ビーズの代わりに、磁性ナノ粒子を用いることで、より高感度に原虫類のオーシストを回収することが可能となる。
例えば、UCSTポリマーを結合した磁性ナノ粒子を用いる場合、室温下、検体中にオーシストに対する抗体が固定化された該磁性ナノ粒子を加え、数十秒間(好ましくは20〜60秒間)ピペッティング操作等で攪拌することにより、オーシストと磁性ナノ粒子が抗体を介して結合した「免疫複合体」を形成させることができる。従来のミクロンサイズの免疫磁気ビーズ法で要する反応時間1時間より、反応時間を格段に短縮できる。
その後、前記免疫複合体を磁気分離により回収する。磁気分離方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
【0038】
本発明による刺激応答性ポリマーを固定化した磁性ナノ粒子は、熱、冷熱、pHの変化などによって、凝集・解離を繰り返す。従って、反応液に添加した前記磁性ナノ粒子を熱、pHなどの変化によって予め凝集させておけば、磁石によって容易に分離できるようになる。粒径が小さいため認識結合の反応性が高く、しかも分離が容易で磁気カラムなどを必要としない。従って原虫類のオーシストに対する抗体を固定化した粒子径5〜500nmの刺激応答性ポリマー固定化磁性微粒子(刺激応答性磁性ナノ粒子)は、検出用試薬として有効である。
【0039】
本発明では、特に、水溶液中で僅かな温度変化で可逆的に溶解凝集を繰返す熱応答性磁性ナノ粒子を用いることにより、検体である環境試料中のクリプトスポリジウムオーシストを効率よく回収することができる。これは、前記磁性ナノ粒子が適当な温度範囲で優れた分散性を示すからである。同時に前記熱応答性磁性ナノ粒子は温度変化によって凝集することから、回収が容易である。
【0040】
例えば、LCSTポリマーを固定化して得られた熱応答性磁性ナノ粒子の場合は、加温操作で、その反対にUCSTポリマーを固定化して得られた熱応答性磁性ナノ粒子の場合は、冷却操作で熱応答性磁性ナノ粒子を凝集させることができる。凝集物に速やかに磁石を作用させることにより磁気分離し、上清を捨てることによって洗浄操作が容易になる。さらにLCSTポリマーを固定化して得られた熱応答性磁性ナノ粒子の場合は冷却によって、UCSTポリマーを固定化して得られた熱応答性磁性ナノ粒子の場合は加温によって、十分に分散できるため、新たに加えた緩衝液等により、非特異的結合物の除去や、蛍光染色用の非結合抗体の除去等が効率よく行える。分散・凝集の工程はそれぞれ数十秒を要するだけである。
【0041】
次いで、オーシストの検出工程を行うことにより、検体中のオーシストの数を測定する。本発明では、上記の磁性ナノ粒子が結合したままのオーシストをそのまま(磁性微粒子を溶出・解離させることなく)次の検出工程に供することができる。
本発明では、上記免疫複合体を従来公知の方法により標識することが好ましく、これにより、容易に検鏡によりオーシストを検出することができる。また、本発明では、上記の通り、磁性ナノ粒子を解離させる必要がないため、予め標識された磁性ナノ粒子を用いることにより、一段階で「標識された複合体」を得ることもできる。
【0042】
本発明で用いることのできる標識を用いた検出工程は、オーシストと磁性ナノ粒子とを反応させて形成される複合体を標識して測定する工程を含むものであれば、特に限定されず、当該分野で通常用いられる方法を適宜適用することができる。例えば、免疫測定法における直接法、間接法、ホモジニアス法、ヘテロジニアス法等のいずれを使用してもよく、また、複合体の検出に用いる標識として、RIを用いるラジオイムノアッセイ、アルカリホスファターゼやパーオキシダーゼ等の酵素を用いるエンザイムイムノアッセイ、蛍光物質を用いる蛍光イムノアッセイのいずれを採用してもよい。
【0043】
好ましくは、蛍光物質で標識する方法であり、免疫蛍光法に一般的に用いられる蛍光物質を適宜用いることができる。例えば、フルオレセイン、ローダミン、スルフォローダミン101、ルシファーイエロー、アクリジン、リボフラビン等が挙げられる。好ましくはフルオレセインである。
【0044】
環境試料中に存在するクリプトスポリジウムのオーシスト数は、数個の単位で検出することが望まれている。水道原水などの飲料水は、クリプトスポリジウムのオーシストで汚染されていてはならない。環境試料、特に水道水、飲料水にかかわる試料では、1〜数個のオーシストを検出することが求められる。上記観測方法では、環境試料中に存在しているクリプトスポリジウムのオーシストの数を正確かつ明瞭に観測することができる。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の実施例においてさらに説明するが、これらは本発明をさらに詳しく説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0046】
実施例1
UCST型熱応答性磁性ナノ粒子を用いたクリプトスポリジウムオーシストの検出
(i)クリプトスポリジウムオーシストの標準液の調製
市販のクリプトスポリジウムオーシスト(Cryptosporidium parvum Oocysts)標準試薬(WaterborneTM,Inc、1.25×106個/ml)500μlを1.5mlのチューブに取り、5分間室温で遠心分離(10000rpm)を行った。上清を吸引除去後、チューブに0.5mlのTBST緩衝溶液(20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 0.05質量% Tween20, pH7.5)を加えボルテックス攪拌を行い、さらに、液量の2000分の1の市販の免疫蛍光標識試薬FITC-Anti-Cryptosporidium IgM(mAb)(WaterborneTM,Inc、A400FLR-20X)を添加し、室温で10分間反応させた。その後、市販のビオチン化抗マウスAnti-IgM二次抗体(IgG)を2μl (KPL・0.5ug/μl)添加し、室温で10分反応させた。その後、5μl(10mg/ml)のアビジンを加え室温で10分間放置した後、5分間遠心分離(室温で10000rpm)を行い上清を除去した。0.5mlのTBST緩衝溶液を添加し、未反応のFITC及びAnti-Cryptosporidium一次抗体、Anti-IgM二次抗体、及びアビジンを除去した。FITCで蛍光標識され、蛍光抗体を介してビオチン化抗体、ビオチンを介してアビジンを結合させた、クリプトスポリジウムオーシスト−抗クリプトスポリジウムオーシスト蛍光抗体−抗蛍光抗体ビオチン化抗体−アビジンという複合体が得られた。
【0047】
(ii)クリプトスポリジウムオーシストの分離
上記の操作で調整したクリプトスポリジウムオーシスト−抗クリプトスポリジウムオーシスト蛍光抗体−抗蛍光抗体ビオチン化抗体−アビジンの水溶液500μlに、ビオチンを固定した1質量%のUCST型熱応答性磁性ナノ粒子50μlを添加した。42℃で2分放置した後、磁石盤に試験管をセットし0℃の氷浴中に5分間浸し冷却させ、クリプトスポリジウムオーシストの磁気回収を行った。
磁気分離後、上清をピペットで吸引除去し、TBST緩衝溶液を0.5ml再添加、室温でUCST型熱応答性磁性ナノ粒子を再分散した。2分間放置した後、分散させたUCST型熱応答性磁性ナノ粒子を再度氷浴中に浸すことより再凝集させ、磁石によるUCST型熱応答性磁性ナノ粒子の磁気回収を行った。この操作をあと2回繰り返し、最後に洗浄液を除いたUCST型熱応答性磁性ナノ粒子の凝集体に50μlのTBST緩衝溶液を加え、ピペットでUCST型熱応答性磁性ナノ粒子の凝集体の再懸濁を行い、検体用サンプルを調製した。
【0048】
(iii)クリプトスポリジウムオーシストの検出
調製した検体用サンプルは、UCST型熱応答性磁性ナノ粒子とクリプトスポリジウムオーシストとの溶離操作を行うことなく、そのまま2μl分取してスライドグラス上に滴下し、観測用プレパラートとした。
【0049】
上記プレパラートを観測した結果、図2に示したようにクリプトスポリジウムオーシストが効率よく検出された。
すなわち、図2AはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離したクリプトスポリジウムオーシストの分散状態での免疫蛍光顕微鏡写真であり、図2Cはその明視野顕微鏡写真である。図2Aでは、UCST型熱応答性磁性ナノ粒子の蛍光像は観測されておらず、該磁気ナノ粒子との解離をしなくても、効率のよい観察像が得られていることが分かる。また、図2BはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離したクリプトスポリジウムオーシストの凝集状態での免疫蛍光顕微鏡写真である。図2Bの矢印部分はUCST型熱応答性磁性ナノ粒子の凝集体部分であるが、蛍光像は観測されていない。このように凝集している状態でも蛍光が観察されないということは、前記熱応答性磁性ナノ粒子観察の妨げにはなり得ないことを、明確に示している。図2Dは図2Bの明視野顕微鏡写真であり、図2Dの矢印部分はUCST型熱応答性磁性ナノ粒子の凝集体である。
【0050】
このように、観測されたクリプトスポリジウムオーシストの蛍光画像には全くUCST型熱応答性磁性ナノ粒子が観測されていないため、磁気分離後にUCST型熱応答性磁性ナノ粒子とクリプトスポリジウムオーシストの分離を行う必要がないことが明らかとなった。
さらに磁気回収後の上清を遠心分離(室温、10000rpm、5min)し、未回収のクリプトスポリジウムオーシストを回収することを試みた。遠心後、上清を静かに吸引し捨て、チューブに50μlの新しいTBST緩衝溶液を加え、オーシストの蛍光検出を行ったところ、上清からは蛍光標識されたクリプトスポリジウムオーシストが観察されなかった。この結果から、検体中からほぼ100%に近い効率で、クリプトスポリジウムオーシストが回収されたことが確認された。
【0051】
比較例1
クリプトスポリジウムの従来のミクロンサイズの磁気ビーズによる分離検出試験を試みた。
【0052】
(i)ミクロンサイズの磁性粒子(以下、磁気ビーズとも称する)の蛍光顕微鏡による観測
クリプトスポリジウムオーシストの分離試験の前に、市販品であるミクロンサイズの磁気ビーズの蛍光顕微鏡による観測を行った。
図3Aは市販品磁気ビーズの明視野顕微鏡写真であり、図3Bは図3Aの蛍光顕微鏡写真である。蛍光の色調がFITCで蛍光染色したクリプトスポリジウムオーシストと識別できないことに加え、大きさも極めて類似している。この結果より、クリプトスポリジウムオーシストの回収後、磁気ビーズからクリプトスポリジウムオーシストを溶出させずに蛍光顕微鏡で観測することは困難であることが示された。
【0053】
(ii)従来のミクロンサイズの磁気ビーズを用いたクリプトスポリジウムオーシスト検出キットによるクリプトスポリジウムオーシストの検出
市販のクリプトスポリジウムオーシスト(Cryptosporidium parvum Oocysts)標準試薬(WaterborneTM,Inc、1.25×106個/ml)500μlを1.5mlのチューブに取り、5分間室温で遠心分離(10000rpm)を行った。上清を吸引除去後、チューブに0.5mlのTBST緩衝溶液(20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 0.05質量% Tween20, pH7.5)を加えボルテックス攪拌を行い、Dynabeads Anti-Cryptosporidium(ベリタス社)を5μl添加して、1時間ゆっくりと振とうした。振とう後、試験管を磁石盤にセットして、磁気ビーズを回収し、上清を捨てた。試験管を磁石盤からはずし、再度500μlのTBST緩衝溶液を加え30分間ゆっくり攪拌した後、試験管に磁石盤をセットして免疫磁気ビーズを回収し、上清を捨てた。この操作をあと2回繰り返した後、50μlのTBST緩衝溶液に懸濁して鏡検用プレパラートとした。
【0054】
図3Cは明視野顕微鏡写真であり、図3Dは図3Cの蛍光顕微鏡写真である。図3Cと図3Dの矢印に示したように明視野顕微鏡写真上では、クリプトスポリジウムオーシストと磁気ビーズが両方とも観察されたが、蛍光顕微鏡写真上には磁気ビーズだけが観察され、クリプトスポリジウムオーシストは観察されなかった。矢印に示したのは市販品磁気ビーズで分離してきたクリプトスポリジウムオーシストであるが、免疫蛍光標識されていないためクリプトスポリジウムオーシストは蛍光顕微鏡で観察されず、市販品磁気ビーズが観察されたものである。
また図3の明視野、暗視野(蛍光像)の顕微鏡写真からもわかるように大きさ、形状とも磁性粒子とクリプトスポリジウムオーシストは極めて酷似していることから、磁気ビーズからのクリプトスポリジウムオーシストの溶出操作なしで、蛍光顕微鏡によるクリプトスポリジウムオーシストの検出は極めて困難であることが確認された。
【0055】
実施例2
UCST型熱応答性磁性ナノ粒子と従来のミクロンサイズの磁気ビーズの分離効率の比較
(i)サンプルの調製
500μlのTBST緩衝溶液中にそれぞれ、1.68×10個、1.68×102個、1.68×103個及び1.68×104個の市販のクリプトスポリジウムオーシスト(Cryptosporidium parvum Oocysts)標準試薬(WaterborneTM,Inc、1.25×106個/ml)をチューブに添加した後、実施例1に従ってクリプトスポリジウムオーシスト−抗クリプトスポリジウムオーシスト蛍光抗体−抗蛍光抗体ビオチン化抗体−アビジン複合体を形成した。その後、実施例1に従って前記複合体とビオチン化したUCST型熱応答性磁性ナノ粒子とを反応させ、クリプトスポリジウムオーシストを分離した。最後の回収物を50μlのTBST緩衝溶液に懸濁し、それぞれのサンプルについて、回収されたクリプトスポリジウムオーシストの数を調べた。
【0056】
(ii)クリプトスポリジウムオーシストの検出
四つのサンプルとも500μlのTBST緩衝溶液中に添加したオーシストと同等数のクリプトスポリジウムオーシストが計測された。
また、磁気回収した後の上清を更に遠心分離(室温、10000rpm、5min)して、回収されなかったクリプトスポリジウムオーシストの分離を試みたが、確認されなかった。
【0057】
比較例2
市販のクリプトスポリジウムオーシスト検出キットを用いて実施例2と同様の実験を試みた。500μlのTBST緩衝溶液中にそれぞれ、1.68×10個、1.68×102個、1.68×103個及び1.68×104個の市販のクリプトスポリジウムオーシスト(Cryptosporidium parvum Oocysts)標準試薬(WaterborneTM,Inc、1.25×106個/ml)を試験管に添加した後、Dynabeads Anti-Cryptosporidium(ベリタス社)を5μl添加した。1時間ゆっくりと振とうした後、試験管を磁石盤にセットして、免疫磁気ビーズを回収し、上清を捨てた。磁石盤をはずしてから、もう一度500μlのTBST緩衝溶液を添加して磁気ビーズを分散させ、さらに磁石盤をセットして磁気ビーズを回収し、上清を捨てる操作を繰り返し、洗浄を行った。回収した磁気ビーズに50μlの0.1N塩酸を添加してクリプトスポリジウムオーシストを磁気ビーズからはずした。解離した液50μlをスライドグラスにとり、1Nの水酸化ナトリウムを5μl加えて中和した。中和液を風乾した後、メタノールを50μl添加して再度風乾させた。風乾させた試料に、2000分の1に希釈した市販の免疫蛍光標識試薬FITC-Anti-Cryptosporidium IgM(mAb)(WaterborneTM,Inc、A400FLR-20X)を50μl添加して、蛍光染色を行った。染色後、蛍光標識抗体溶液を除去し、さらにイオン交換水を50μl添加して除去して洗浄し、風乾して観察用のプレパラートとした。
クリプトスポリジウムオーシストの数を調べたところ、四つのサンプルとも理論量のクリプトスポリジウムオーシスト数より低い蛍光計数結果しか得られなかった。
また、磁気回収してクリプトスポリジウムを解離した磁気ビーズに、更にもう一度塩酸を加えて、同様の方法でクリプトスポリジウムオーシストの検出を試みたところ、四つのサンプルすべての磁気ビーズから蛍光染色されたクリプトスポリジウムオーシストが確認された。この結果は、1回の解離操作ではクリプトスポリジウムオーシストの回収が十分ではないことを示している。理論値より計測数が低かったのは、回収率の低さが原因と考えられた。
【0058】
実施例3
UCST型熱応答性磁性ナノ粒子による酵母菌の混合液からのクリプトスポリジウムオーシストの分離
酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)の過剰量存在下でのクリプトスポリジウムオーシストの蛍光染色を試みた。500μlのTBST緩衝溶液中に1×106個の酵母菌(図4A参照。免疫蛍光標識前の酵母菌の明視野顕微鏡写真である)と3×105個(図4B参照。免疫蛍光標識前のオーシストの明視野顕微鏡写真である)のクリプトスポリジウムオーシストを混合後、2000分の1に希釈した市販の免疫蛍光標識試薬FITC-Anti-Cryptosporidium IgM(mAb)(WaterborneTM,Inc、A400FLR-20X)を50μl添加して蛍光染色した。室温で1000rpm、5分間の遠心を行って沈殿を回収して上清を捨て、さらにTBST緩衝溶液を加えて攪拌した後、再度室温で1000rpm、5分間の遠心を行った。この操作をあと2回繰り返した後、沈殿を50μlのTBST緩衝溶液に分散させ、観察用の試料とした。
その結果、図4C〜Fの矢印に示されたように酵母菌だけの免疫蛍光像(図4C及びD参照。Cは免疫標識後の酵母菌の明視野顕微鏡写真、Dはその蛍光顕微鏡写真である)及びクリプトスポリジウムオーシストと混合した場合(図4E及びF参照。過剰量酵母菌とクリプトスポリジウムオーシストを混合後、免疫標識した像である。Eは明視野顕微鏡写真、Fはその蛍光顕微鏡写真である)のいずれにおいても、矢印の酵母菌は蛍光顕微鏡では確認されず、クリプトスポリジウムオーシストの蛍光検出のみが観察された(図4F参照)。
【0059】
また、上記の濃度で酵母菌とクリプトスポリジウムオーシストを含む検体(液)から、UCST型熱応答性磁性ナノ粒子によるクリプトスポリジウムオーシストの分離を実施例1に従って行った。
その結果、UCST型熱応答性磁性ナノ粒子の磁性凝集体からクリプトスポリジウムオーシストだけが検出され、酵母菌は検出されなかった(図5A及びB参照。図5AはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離した磁性ナノ粒子凝集体の明視野顕微鏡写真であり、図5Bはその蛍光顕微鏡写真である)。
一方、磁気回収した後の上清には酵母菌だけが検出され、クリプトスポリジウムオーシストは検出されなかった(図5CとD参照。図5CはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離した後、残った上清の明視野顕微鏡写真であり、図5Dはその蛍光顕微鏡写真である)。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、免疫複合体の模式図である。図1Aは、従来の磁気ビーズ法を用いた免疫複合体(クリプトスポリジウムオーシスト−抗クリプトスポリジウムオーシスト抗体−磁気ビーズ複合体)の模式図である。図1Bは、本発明に係る磁性ナノ粒子を用いた、クリプトスポリジウムオーシスト−抗クリプトスポリジウムオーシスト抗体−抗クリプストポリジウムオーシスト抗体結合因子成分−刺激応答性ポリマー−磁性ナノ粒子複合体の模式図である。
【図2】図2AはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離したクリプトスポリジウムオーシストの免疫蛍光顕微鏡写真であり、図2BはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離したクリプトスポリジウムオーシストの凝集状態での免疫蛍光顕微鏡写真である。図2C及び図2Dは、それぞれ図2A及び図2Bの明視野顕微鏡写真である。
【図3】図3A及びCは市販品磁気ビーズの明視野顕微鏡写真であり、図3B及びDはそれぞれ図3A及びCの蛍光顕微鏡写真である。
【図4】図4A及びBは免疫蛍光標識前の酵母菌とオーシストの明視野顕微鏡写真である。図4C及びDはそれぞれ免疫標識後の酵母菌の明視野顕微鏡写真と蛍光顕微鏡写真である。図4E及びFはそれぞれ過剰量酵母菌とクリプトスポリジウムオーシストを混合後、免疫標識した、明視野顕微鏡写真、蛍光顕微鏡写真である。
【図5】図5AはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離した磁性ナノ粒子凝集体の明視野顕微鏡写真であり、図5Bはその蛍光顕微鏡写真である。図5CはUCST型熱応答性磁性ナノ粒子で分離した後、残った上清の明視野顕微鏡写真であり、図5Dはその蛍光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原虫類のオーシストを含有する検体に、該オーシストを特異的に認識するための結合因子を固定した粒子径5〜500nmの磁性微粒子を加えて、結合因子を介してオーシストと磁性微粒子との複合体を形成させ、該形成されたオーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体を磁気分離により回収し、オーシストの数を測定することを特徴とする原虫類オーシストの測定方法。
【請求項2】
結合因子が、オーシストに対する抗体(以下、「抗オーシスト抗体」と称する。)であることを特徴とする請求項1記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項3】
オーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体が、抗オーシスト抗体を固定化した磁性微粒子を検体に加えることにより形成されるオーシスト−抗オーシスト抗体−磁性微粒子複合体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項4】
結合因子が、抗オーシスト抗体と、該抗体を特異的に認識する結合因子成分(以下、「抗オーシスト抗体結合因子成分」と称する。)とからなることを特徴とする請求項1記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項5】
オーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体が、オーシストに対する抗体を検体に加えてオーシスト−抗オーシスト抗体複合体を形成し、次いで該抗体に対する抗オーシスト抗体結合因子成分を固定化した磁性微粒子を加えることにより形成される、オーシスト−抗オーシスト抗体−抗オーシスト抗体結合因子成分−磁性微粒子複合体であることを特徴とする請求項1記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項6】
磁性微粒子が、予め標識されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項7】
形成されたオーシスト−結合因子−磁性微粒子複合体が、更に標識されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項8】
標識が、蛍光標識であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項9】
磁性微粒子が、刺激応答性ポリマーが固定化された磁性微粒子である、請求項1〜8のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項10】
原虫類が、クリプトスポリジウム属の原虫類である請求項1〜9のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項11】
検体が、水を溶媒として含有する請求項1〜10のいずれかに記載の原虫類オーシストの測定方法。
【請求項12】
抗オーシスト抗体または抗オーシスト抗体結合因子成分を固定化した、粒子径5〜500nmの磁性微粒子を含有することを特徴とする検体中の原虫類オーシストの検出用試薬。
【請求項13】
前記磁性微粒子が、刺激応答性ポリマーが固定化された磁性微粒子である、請求項12記載の原虫類オーシストの検出用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−194635(P2006−194635A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4426(P2005−4426)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】