説明

双方向スイッチ回路

【課題】双方向スイッチを並列接続して使用する場合に、交流スナバ回路の構成を兼ね備えることにより回路構成を簡略化し、小型化及び低コスト化を可能にした双方向スイッチ回路を提供する。
【解決手段】半導体スイッチSW1と半導体スイッチSW2とを直列接続して構成した第1のアーム対と、半導体スイッチSW3と半導体スイッチSW4を直列接続して構成した第2のアーム対とを並列接続すると共に、入出力端子A,Bを備えた双方向スイッチ回路において、入出力端子Aから流入した電流がスイッチング素子T2,T3を介して他方の入出力端子Bから流出し、この入出力端子Bから流入した電流がスイッチング素子T1,T4を介して入出力端子Aから流出するように、スイッチング素子T1〜T4を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電力用半導体スイッチング素子を備え、双方向に電流を通流可能な双方向スイッチ回路に関し、特に、交流スナバ回路の機能を兼ね備えた双方向スイッチ回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7は、周知の電力用半導体双方向スイッチの構成を示している。図7において、例えばMOSFET等の自己消弧形電力用半導体スイッチング素子(以下、単に自己消弧形素子とも言う)S101とダイオードD101とを逆並列接続して半導体スイッチSW101を構成すると共に、同様に自己消弧形素子S102とダイオードD102とを逆並列接続して半導体スイッチSW102を構成し、これらの半導体スイッチSW101,SW102を逆直列に接続し、図中のA,Bを入出力端子とすることで双方向スイッチを構成している。
また、図7に示した双方向スイッチを複数、並列接続して使用する場合もあり、例えば、図8に示すように半導体スイッチSW101,SW102,SW201,SW202からなる2並列接続の双方向スイッチもしばしば用いられている。
【0003】
一方、図9は、後述する特許文献1に記載されている交流スナバ回路の構成例であり、SWは図7,図8等の双方向スイッチ、DBは交流入力側が双方向スイッチSWに接続されたダイオードブリッジ、CはダイオードブリッジDBの直流出力側に接続されたコンデンサである。
このような構成により、双方向スイッチSWによる双方向の電流遮断時に生じる過大な飛躍電圧をコンデンサCが吸収し、双方向スイッチSWの構成素子を過電圧から保護することが可能となる。
【0004】
なお、図10は、前述した図8の双方向スイッチの2並列接続回路と図9の交流スナバ回路とを組み合わせた回路である。
【0005】
【特許文献1】特開平5−83928号公報([0002]〜[0008]、図6等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10の回路構成によれば、半導体スイッチSW101,SW102,SW201,SW202による双方向の電流遮断時に生じる過大な飛躍電圧を交流スナバ回路により吸収することが可能になるが、交流スナバ回路は4個のダイオードとコンデンサとからなっており、これらの多数の部品が装置全体のコストを上昇させる原因となっていた。
そこで本発明は、特に双方向スイッチを並列接続して使用する場合において、交流スナバ回路の構成を兼ね備えることにより回路構成を簡略化し、小型化及び低コスト化を可能にした双方向スイッチ回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、少なくとも1個以上の自己消弧形半導体スイッチング素子と少なくとも1個以上のダイオードとを逆並列に接続して第1〜第4の半導体スイッチをそれぞれ構成し、
第1の半導体スイッチと第2の半導体スイッチとを直列接続して構成した第1のアーム対と、第3の半導体スイッチと第4の半導体スイッチを直列接続して構成した第2のアーム対とを、各アーム対における半導体スイッチの相互接続点を除いて並列接続すると共に、一対の前記相互接続点を入出力端子としてなる双方向スイッチ回路において、
一方の入出力端子から流入した電流が第2の半導体スイッチ内のスイッチング素子と第3の半導体スイッチ内のスイッチング素子とを介して他方の入出力端子から流出し、他方の入出力端子から流入した電流が第1の半導体スイッチ内のスイッチング素子と第4の半導体スイッチ内のスイッチング素子とを介して一方の入出力端子から流出するように、第1〜第4の半導体スイッチ内のスイッチング素子を制御するものである。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1において、第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサを接続したものである。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1において、第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサと抵抗との直列回路を接続したものである。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1において、第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記ダイオードと並列に抵抗を接続した第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続したものである。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項1において、第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記コンデンサと並列に抵抗を接続したものである。
【0012】
請求項6に記載した発明は、請求項1において、第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記コンデンサの電圧を一定値に制御するための電圧調整手段を備えたものである。
【0013】
請求項7に記載した発明は、請求項1において、第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記コンデンサの電圧を一定値に制御するために、前記コンデンサに蓄積されたエネルギーを電源または負荷に回生する手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の双方向スイッチと交流スナバ回路とを組合せた回路に比べて、ダイオードの数を大幅に削減できるため、双方向スイッチ回路の小型化及び低コスト化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、図1は本発明の第1実施形態を示す回路図である。図1において、IGBT等の自己消弧形素子(図7,図8,図10のようにMOSFETを用いても良く、他種の自己消弧形素子でも良い)T1とダイオードD1とを逆並列接続して半導体スイッチSW1を構成すると共に、同様に自己消弧形素子T2とダイオードD2とを逆並列接続して半導体スイッチSW2を構成し、これらの半導体スイッチSW1,SW2を順方向に接続して第1のアーム対を構成する。
同様に、自己消弧形素子T3とダイオードD3とを逆並列接続してなる半導体スイッチSW3と、自己消弧形素子T4とダイオードD4とを逆並列接続してなる半導体スイッチSW4とを順方向に接続して第2のアーム対を構成する。
これらの第1,第2のアーム対とコンデンサC1とをすべて並列接続し、かつ、半導体スイッチSW1,SW2の相互接続点、半導体スイッチSW3,SW4の相互接続点をそれぞれ入出力端子A,Bとして2並列接続の双方向スイッチ回路を構成する。
【0016】
この実施形態では、図中の経路1の方向(入力端子Aから出力端子Bに向かう方向)に流れる電流を制御する自己消弧形素子をT2,T3とし、また、経路2の方向(入力端子Bから出力端子Aに向かう方向)に流れる電流を制御する自己消弧形素子をT1,T4として、これらの自己消弧形素子T2,T3、及びT1,T4を組単位としてスイッチングすることにより電流を制御する。
ここで、上述した「組単位として」とは、自己消弧形素子T2,T3を同時にオン、または、これらを同時にオフさせ、自己消弧形素子T1,T4を同時にオン、または、これらを同時にオフさせることを意味する。
【0017】
例えば、経路1に電流が流れる場合、電流は、ダイオードD1とオン状態の自己消弧形素子T3とを介して、また、オン状態の自己消弧形素子T2とダイオードD4とを介して流れる。すなわち、ダイオードD1,D4が2並列接続され、自己消弧形素子T3,T2が2並列接続されたことと等価となる。
一方、経路2に電流が流れる場合、電流は、ダイオードD3とオン状態の自己消弧形素子T1とを介して、また、オン状態の自己消弧形素子T4とダイオードD2とを介して流れる。すなわち、ダイオードD3,D2が並列接続され、自己消弧形素子T1,T4が並列接続されたことと等価となる。
【0018】
また、経路1で流れていた電流を遮断すると、配線インダクタンス等に蓄積されたエネルギーは、ダイオードD1,D4を介してコンデンサC1に蓄積される。一方、経路2で流れていた電流を遮断すると、配線インダクタンス等に蓄積されたエネルギーは、ダイオードD3,D2を介してコンデンサC1に蓄積される。
これにより、電流遮断時に配線インダクタンス等に蓄積された誘導性エネルギーがコンデンサC1により吸収されるので、自己消弧形素子に過大な飛躍電圧が印加されるのを抑制することができる。
【0019】
上記のように、この実施形態では、半導体スイッチT1〜T4を構成するダイオードをスナバダイオードと兼用することにより、図10の従来技術におけるダイオードブリッジDBの4個のダイオードを不要にすることができ、回路構成を大幅に簡略化してコストの低減を図ることができる。
【0020】
次に、図2は本発明の第2実施形態を示している。
この実施形態が第1実施形態と異なる点は、コンデンサC1と直列に抵抗R1を接続した点である。なお、自己消弧形素子T2,T3、及びT1,T4をそれぞれ組単位としてスイッチングすることにより経路1,2の電流を制御する点は、第1実施形態と同様である。
【0021】
第1実施形態の場合、自己消弧形素子T1〜T4またはダイオードD1〜D4の何れかがオフして電流が遮断されると、コンデンサC1には電荷が充電される。一方、コンデンサC1に蓄積された電荷は、自己消弧形素子T1〜T4またはダイオードD1〜D4の何れかがオンすると、オンした素子を介して放電される。つまり、自己消弧形素子またはダイオードのオフ時にコンデンサC1に蓄積されたエネルギーを、自己消弧形素子またはダイオードのオン時に消費することになり、半導体素子の責務が厳しくなることがある。
そこで、図2に示す第2実施形態では、コンデンサC1に抵抗R1を直列に接続することにより、コンデンサC1に蓄積された電荷を抵抗R1を介して放電させるようにして自己消弧形素子またはダイオードに流れる放電電流を減少させ、半導体素子の責務を軽減させたものである。
また、本実施形態によれば、図10の従来技術に比べて抵抗R1が新たに必要になるものの、ダイオードブリッジDBの4個のダイオードが不要になる。
【0022】
図3は、本発明の第3実施形態を示している。
この実施形態は、第2実施形態の抵抗R1に対して並列に、図示の極性でダイオードD5を接続したものである。
第2実施形態の場合、大容量の自己消弧形素子を備えた双方向スイッチ回路に適用するには、抵抗R1の抵抗値を低い値にしてコンデンサC1への充電電流を大きくしなければならず、この結果、自己消弧形素子T1〜T4がオンした際に流れるコンデンサの放電電流が増大し、半導体素子の責務が厳しくなる。
【0023】
このため、本実施形態では、ダイオードD5を図3に示す極性でコンデンサC1と直列に接続することにより、抵抗R1の抵抗値を大きくした場合にも大容量の自己消弧形素子からコンデンサC1への充電電流を大きくすることができると共に、コンデンサC1の放電電流を、抵抗R1の作用により小さく制限して半導体素子の責務を低減することができる。
【0024】
図4は、本発明の第4実施形態を示している。
この実施形態は、第3実施形態においてダイオードD5と並列に接続されていた抵抗R1を、コンデンサC1と並列に接続したものである。
本実施形態において、コンデンサC1に蓄積された電荷は、双方向スイッチ回路を構成する半導体素子を介して放電することはなく、コンデンサC1に並列に接続された抵抗R1によって消費されるため、双方向スイッチ回路を構成する半導体素子の責務を第1〜第3実施形態に比べて低減することが可能である。
なお、第3,第4実施形態によれば、図10の従来技術に比べて抵抗R1が新たに必要になるものの、ダイオードを3個削減することができる。
【0025】
図5は、本発明の第5実施形態を示している。
この実施形態は、第4実施形態における抵抗R1に代えて、コンデンサC1の両端に電圧調整回路10を接続したものである。この電圧調整回路10は、コンデンサC1の電圧が一定値になるように、コンデンサC1の電圧値を検出して充放電制御を行う機能を有している。
本実施形態によれば、例えば、コンデンサC1の電圧が予期せぬ値にまで上昇して半導体素子を破壊させるような事態を避けることが可能となる。
【0026】
図6は、本発明の第6実施形態を示している。
この実施形態は、第5実施形態における電圧調整回路10に代えてエネルギー回生回路20を接続したものである。このエネルギー回生回路20は、電源または負荷(何れも図示せず)に接続された一種の電力変換回路であり、コンデンサC1の電圧が一定値になるように、コンデンサC1の蓄積エネルギーを電源や負荷に回生する機能を有する。
【0027】
第1実施形態〜第5実施形態では、自己消弧形素子T1〜T4の遮断動作によりコンデンサC1に蓄積されたエネルギーを何らかの形で消費していることとなり、装置の損失を増加させると共に、抵抗R1の大型化や冷却能力の増大が装置の大型化を招くおそれがある。
このため、図6に示す如く、コンデンサC1の両端にエネルギー回生回路20を接続してコンデンサC1の蓄積エネルギーを電源または負荷に回生することにより、エネルギーの有効利用を図り、同時に、冷却の負荷を軽減して冷却装置の小容量化による装置全体の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態の構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態の構成図である。
【図3】本発明の第3実施形態の構成図である。
【図4】本発明の第4実施形態の構成図である。
【図5】本発明の第5実施形態の構成図である。
【図6】本発明の第6実施形態の構成図である。
【図7】従来の双方向スイッチの構成図である。
【図8】従来の双方向スイッチの2並列接続構成図である。
【図9】従来の双方向スイッチの交流スナバ回路の構成図である。
【図10】図8及び図9を組み合わせた場合の構成図である。
【符号の説明】
【0029】
T1〜T4:自己消弧形素子
D1〜D5:ダイオード
C1:コンデンサ
SW1〜SW4:半導体スイッチ
A,B:入出力端子
R1:抵抗
10:電圧調整回路
20:エネルギー回生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個以上の自己消弧形半導体スイッチング素子と少なくとも1個以上のダイオードとを逆並列に接続して第1〜第4の半導体スイッチをそれぞれ構成し、
第1の半導体スイッチと第2の半導体スイッチとを直列接続して構成した第1のアーム対と、第3の半導体スイッチと第4の半導体スイッチを直列接続して構成した第2のアーム対とを、各アーム対における半導体スイッチの相互接続点を除いて並列接続すると共に、一対の前記相互接続点を入出力端子としてなる双方向スイッチ回路において、
一方の入出力端子から流入した電流が第2の半導体スイッチ内のスイッチング素子と第3の半導体スイッチ内のスイッチング素子とを介して他方の入出力端子から流出し、他方の入出力端子から流入した電流が第1の半導体スイッチ内のスイッチング素子と第4の半導体スイッチ内のスイッチング素子とを介して一方の入出力端子から流出するように、第1〜第4の半導体スイッチ内のスイッチング素子を制御することを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項2】
請求項1に記載した双方向スイッチ回路において、
第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサを接続したことを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項3】
請求項1に記載した双方向スイッチ回路において、
第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサと抵抗との直列回路を接続したことを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項4】
請求項1に記載した双方向スイッチ回路において、
第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記ダイオードと並列に抵抗を接続したことを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項5】
請求項1に記載した双方向スイッチ回路において、
第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記コンデンサと並列に抵抗を接続したことを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項6】
請求項1に記載した双方向スイッチ回路において、
第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記コンデンサの電圧を一定値に制御するための電圧調整手段を備えたことを特徴とする双方向スイッチ回路。
【請求項7】
請求項1に記載した双方向スイッチ回路において、
第1及び第2のアーム対の並列接続点間に、コンデンサとダイオードとの直列回路を接続し、かつ、前記コンデンサの電圧を一定値に制御するために、前記コンデンサに蓄積されたエネルギーを電源または負荷に回生する手段を備えたことを特徴とする双方向スイッチ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−230042(P2006−230042A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37601(P2005−37601)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】