説明

双極性障害を処置するための医薬を得るためのアゴメラチンの使用

【課題】双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型を処置するための医薬組成物の提供。
【解決手段】アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、並びにその水和物、結晶形及び製薬上許容される酸又は塩基との付加塩を、気分安定薬又は感情調節薬と組合せる。気分安定薬又は感情調節薬は、リチウム並びにカルバマゼピン、バルプロエート及びラモトリジンなどの抗癲癇薬の使用が適切である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型を処置するための医薬を得るための、アゴメラチン、即ち、式(I):
【0002】
【化1】

【0003】
で表されるN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、並びにその水和物、結晶形及び製薬上許容される酸若しくは塩基との付加塩の、単独での使用又は組合せ(association)における使用に関する。
【0004】
アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドは、一方では、メラトニン作動性系の受容体のアゴニストでありながら、他方では、5−HT2c受容体のアンタゴニストであるという、二重の特性を有している。これらの特性を有していることにより、アゴメラチンは、中枢神経系において活性を有しており、とりわけ、大鬱病、季節性情緒障害、睡眠障害、心血管疾患、消化器系の疾患、時差ぼけに起因する不眠症及び疲労、食欲障害並びに肥満症の処置において活性を有している。
【0005】
アゴメラチン、その調製方法及び治療におけるその使用は、欧州特許明細書EP−0447285及びEP−1564202に記載されている。
【0006】
本発明者らは、アゴメラチン、即ち、N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド、並びにその水和物、結晶形及び製薬上許容される酸又は塩基との付加塩を、単独で使用するか又は組合せとして使用した場合、それが、双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型の処置に使用できるような価値ある特性を有しているということを見いだした。
【0007】
双極性障害は、社会及び家庭のレベル並びに職業的なレベルで、患者の人生に非常に重大な影響を及ぼす精神病理学的な状態である。それらは、概して繰り返し現れる抑鬱性の症状、躁病の症状、軽躁病の症状又は混合症状を特徴とし、これらは、重篤な心理的機能障害に先天的に影響されない期間により分けられている。換言すれば、双極性障害を患っている患者は、繰り返し起こる気分の大きな揺らぎに対して無防備であるという特徴を有している。そのような発作とその経時的な進行の特徴により、数種類の臨床型を区別することができる。双極性障害I型は、最も標準的なものであり、それは、大鬱病の症状の発現を通常ともなっている、躁病の症状又は混合症状の1回以上の発現を特徴とし、双極性障害II型は、大鬱病の症状の1回以上の発現と軽躁病(即ち、躁病の軽度の形態)の症状の発現の組合せを含んでいる。双極性障害の患者では自殺するリスクが極めて高く、双極性障害の患者の25〜50%は、少なくとの1回は自殺を試みたことがある。
【0008】
現在のところ、双極性障害について承認されている満足のいく治療は存在していない。第一線で行われている治療は、通常、気分安定薬又は感情調節薬であるが、これらの治療では、抑鬱性の症状を軽減することはできないことが多い(J.Clin. Psychiatry, 2004, 65(4), 569-579)。抗鬱剤との併用処方がしばしば用いられるが、そのような処方の実施には非常に議論の余地がある。なぜなら、抗鬱剤は、躁病状態及び混合状態を誘発するか又は悪化させる場合があり、躁病の症状が現れた場合、抗鬱剤の使用を中止しなければならないからである。
【0009】
抗鬱剤は、特に、高揚循環(hyperthymic cycle)の誘発と加速を促進するといわれており、また、躁病又は軽躁病の過程の出現を2倍〜3倍促進するといわれており、最後に、抗鬱剤を長期使用することにより、抑鬱性の症状と躁病の症状の回数が増加するように思われる。
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、アゴメラチンを単独で、又は組合せとして、双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型の処置において使用できるということを見いだした。
【0011】
アゴメラチンが鬱病において活性を有しているというまさにその事実により、双極性障害、特に、双極性障害I型でのアゴメラチンの使用において期待されるべき効果は、例えばパロキセチンなどのような文献に記載されている抗鬱剤の効果と同じであった。
【0012】
驚くべきことに、アゴメラチンは、双極性障害I型に罹患している患者で実施した臨床研究の過程で観察されたように、従来の抗鬱剤と同様の作用は示さない。これらの結果により、アゴメラチンは、双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型で使用することが可能であり、長期間使用することさえも可能である。
【0013】
従って、本発明は、双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型を処置するための医薬組成物を得るための、アゴメラチン、並びにその水和物、結晶形及び製薬上許容される酸若しくは塩基との付加塩の、単独での使用、又は組合せにおける使用に関する。
【0014】
本発明は、さらにまた、双極性障害、特に、双極性障害I型及びII型、特に、双極性障害I型を処置するための医薬組成物を得るための、アゴメラチンと気分安定薬又は感情調節薬との組合せにも関する。
【0015】
本発明によれば、気分安定薬又は感情調節薬は、リチウム並びにカルバマゼピン、バルプロエート及びラモトリジンなどの抗癲癇薬に関連する。
【0016】
とりわけ、本発明の組合せにおける気分安定薬又は感情調節薬は、リチウム又はバルプロエートである。
【0017】
アゴメラチンを気分安定薬と組合せる場合、2回の投与の時間間隔が、中枢神経系において期待される相乗効果が達成できるものであれば、アゴメラチンは、該気分安定薬より先に、同時に、又はあとで投与してもよい。本発明によれば、該組合せの2種類の成分を同時に投与する場合、製薬上許容される1種類以上の賦形剤と組み合わせてアゴメラチン及び気分安定薬を含んでいる医薬組成物が好ましい。
【0018】
該医薬組成物は、経口、非経口、経皮、鼻内、直腸内又は舌下経路による投与に適した剤形、特に、注射用製剤、錠剤、舌下錠、グロセット剤、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、坐剤、クリーム剤、軟膏剤、皮膚用ゲル剤(dermal gels)などの剤形で供される。
【0019】
アゴメラチン及びそれと場合により組合わせてもよい気分安定薬の他に、本発明の医薬組成物は、希釈剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、吸収剤、着色剤及び甘味剤などから選択される1種類以上の賦形剤又は担体を含有する。
【0020】
非限定的な例として、以下のものを挙げることができる:
・ 希釈剤: ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリセロール;
・ 滑沢剤: シリカ、タルク、ステアリン酸並びにそのマグネシウム及びカルシウム塩、ポリエチレングリコール;
・ 結合剤: ケイ酸アルミニウム及びマグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びポリビニルピロリドン;
・ 崩壊剤: 寒天、アルギン酸及びそのナトリウム塩、発泡性混合物。
【0021】
一般的な投与量は、患者の性別、年齢及び体重、投与経路、疾患の種類及び任意の関連する処置に応じて変わり、24時間当たり、1mg〜50mgの範囲のアゴメラチンである。
【0022】
アゴメラチンの1日用量は、好ましくは、1日当たり25mgである。
【0023】
医薬組成物
各錠剤が25mgの活性成分を含んでいる錠剤1000個を調製するための処方
N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド.....25g
ラクトース一水和物...............................................62g
ステアリン酸マグネシウム...........................................1.3g
ポビドン...........................................................9g
無水コロイドシリカ.................................................0.3g
グリコール酸ナトリウムセルロース.................................30g
ステアリン酸.......................................................2.6g
【0024】
臨床試験
この試験は、双極性障害I型に罹患している21人の患者で実施し、リチウム(n=14)又はバルプロエート(n=7)で、少なくとも6ヶ月間処置した。アゴメラチン(25mg/日)で6週間処置を行った。これらの患者のうち19人の患者には、6週間を超えて急性期処置を継続して行い、11人には、最長で1年間継続して処置を行った。得られた結果は、処置に対して患者の81%が良好に反応したことを示した。約50%は、ちょうど1週間の処置の最後までに良好に反応していた。6週間の処置を行った後、わずかに3例の躁病又は軽躁病の症状が観察された。これは、気分安定薬で見られる症状と完全に一致するレベルであった。このことは、双極性障害I型の患者におけるアゴメラチンの良好な作用は、長期間にわたる処置であっても、躁病及び/又は軽躁病の症状の発現の増大とは関係ないことを明瞭に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゴメラチン、又はその水和物、結晶形及び製薬上許容される酸若しくは塩基との付加塩の1種類と、感情調節剤を含んでいる組合せ。
【請求項2】
前記感情調節剤がリチウムである、請求項1に記載の組合せ。
【請求項3】
前記感情調節剤がバルプロエートである、請求項1に記載の組合せ。
【請求項4】
請求項1〜3の1項に記載の組合せを、単独で含んでいるか、又は製薬上許容される1種類以上の賦形剤と組み合わせて含んでいる、医薬組成物。
【請求項5】
双極性障害I型を処置するための、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
双極性障害I型を処置するための医薬組成物を得るための、請求項1〜3の1項に記載の組合せの使用。

【公開番号】特開2010−280699(P2010−280699A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177003(P2010−177003)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【分割の表示】特願2006−116294(P2006−116294)の分割
【原出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】